ディスクブレーキ用ディスクロータ
【課題】良好な放熱性を有し実用に耐え得る軽量なディスクブレーキ用ディスクロータを提供する。
【解決手段】内側面2a,3aが向かい合うように間隔をあけて配置された2つの円形板部材2,3と、円形板部材2,3の内側面2a,3a上にそれぞれ設けられたアルミニウムめっき層2d,3dと、アルミニウムめっき層2d,3dを介して円形板部材2,3を鋳ぐるんでなるアルミ鋳物部4と、を備え、円形板部材2,3の外側面2b,3bは、摩擦パッドによって挟み付けられた際に摩擦パッドに対して摩擦摺動する摩擦摺動面をそれぞれ有していることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータ1とした。
【解決手段】内側面2a,3aが向かい合うように間隔をあけて配置された2つの円形板部材2,3と、円形板部材2,3の内側面2a,3a上にそれぞれ設けられたアルミニウムめっき層2d,3dと、アルミニウムめっき層2d,3dを介して円形板部材2,3を鋳ぐるんでなるアルミ鋳物部4と、を備え、円形板部材2,3の外側面2b,3bは、摩擦パッドによって挟み付けられた際に摩擦パッドに対して摩擦摺動する摩擦摺動面をそれぞれ有していることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータ1とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中央部が制動対象たる回転体に取り付けられるとともに、周辺部が一対の摩擦パッドによって挟み付けられるディスクブレーキ用ディスクロータに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されるブレーキ装置として、車輪と共に回転するディスクロータを一対の摩擦パッドで挟み付けることにより、当該車輪に制動力を付与するようにしたディスクブレーキが知られている。
【0003】
このディスクブレーキに用いられるディスクロータは、摩擦性能上の理由から、鋳鉄製とされることが多い。しかし、鋳鉄製のディスクロータは、比重が大きいうえに、熱伝導率が小さいため容積を大きくして過度の温度上昇を防ぐ必要があり、不可避的に重くなっていた。
【0004】
これに対し、近年、車両の燃費向上を目的としてディスクロータの軽量化が図られている。そして、鋳鉄に比べて比重が小さく熱伝導率が高いアルミニウム合金に、鋳鉄片を鋳込んでなるディスクロータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭58−152945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のディスクロータでは、軽量化は図れるものの、アルミニウム合金と鋳鉄片との接着強度が弱いため、実用に耐えられるものではなかった。また、接着強度の弱さにより、アルミニウム合金と鋳鉄片との間に隙間が生じ、鋳鉄片からアルミニウム合金への熱伝導が阻害されていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、良好な放熱性を有し実用に耐え得る軽量なディスクブレーキ用ディスクロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、(1)中央部が制動対象に取り付けられるとともに、周辺部が一対の摩擦パッドによって挟み付けられるディスクブレーキ用ディスクロータであって、各一方の内側面が向かい合うように間隔をあけて配置された2つの円形板部材と、前記両円形板部材の向かい合う内側面上にそれぞれ設けられたアルミニウムめっき層と、前記両アルミニウムめっき層を介して前記両円形板部材を鋳ぐるんでなるアルミ鋳物部と、を備え、前記両円形板部材の向かい合わない両外側面は、前記摩擦パッドによって挟み付けられた際に前記摩擦パッドに対して摩擦摺動する摩擦摺動面をそれぞれ有していることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0008】
また本発明は、上記構成(1)において、(2)前記円形板部材がそれぞれ板厚方向に貫通する複数の孔を備えており、かつ前記アルミ鋳物部が前記孔の途中まで入り込んでいることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記構成(1)において、(3)前記円形板部材がそれぞれ前記内側面に複数の凹部を備えており、かつ前記アルミ鋳物部が前記凹部に入り込んでいることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記構成(2)または(3)において、(4)前記孔または前記凹部が、内側に向かって先細るテーパ状に形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0011】
また本発明は、上記構成(1)〜(4)のいずれかにおいて、(5)前記円形板部材が環状鉄板からなり、前記アルミ鋳物部の中央部が軸方向の一方側に突出して前記取付け部になっているとともに、その円錐台の側壁が複数のフィンを有するように形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0012】
また本発明は、上記構成(5)において、(6)前記取付け部は、補強のための鋼板が鋳ぐるまれていることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0013】
また本発明は、上記構成(1)〜(6)のいずれかにおいて、(7)複数の溝部が設けられた前記アルミ鋳物部を前記2つの円形板部材のそれぞれに設け、前記各溝部が一致するように、前記各円形板部材を板厚方向に機械的連結手段で連結して、前記アルミ鋳物部に周方向に複数の放熱孔を備えてなることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0014】
また本発明は、上記構成(1)〜(6)のいずれかにおいて、(8)前記アルミ鋳物部に、径方向に延設された複数の放熱パイプを周方向に配置し、前記放熱パイプは、その周囲を前記アルミ鋳物部で鋳ぐるまれてなることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のディスクロータは、摩擦パッドに対して摩擦摺動する部分を除き、比重の小さいアルミ鋳物部によって構成されている。さらに、アルミ鋳物部は放熱性が高く過度の温度上昇を抑制するため、熱容量をかせぐために容積を大きくする必要がない。それゆえ、本発明のディスクロータによれば、大幅な軽量化を実現することができる。
【0016】
また、円形板部材とアルミ鋳物部との界面には、アルミニウムめっき層が設けられている。それゆえ、本発明のディスクロータによれば、円形板部材とアルミ鋳物部との密着性が向上し、円形板部材の剥落を防止することができる。また、円形板部材とアルミ鋳物部との密着性の向上により、円形板部材からアルミ鋳物部への熱伝導性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかるディスクブレーキ用ディスクロータの一例を示す斜視図である。
【図2】図1のディスクロータの正面図、X−X線断面図および背面図である。
【図3】図1のディスクロータを製造する工程を示す図である。
【図4】図3に続く図である。
【図5】図4に続く図である。
【図6】図1のディスクロータの使用態様を説明するための図である。
【図7】変形例を示す図である。
【図8】補強用の鋼板を備えたディスクロータの例を示す図である。
【図9】放熱孔を備えたディスクロータの例を示す図である。
【図10】放熱パイプを備えたディスクロータの例を示す図である。
【図11】放熱パイプを説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態につき説明する。
【0019】
[構成]
図1および図2に示すように、本実施形態にかかるディスクブレーキ用ディスクロータ1は、一方の内側面2a,3aが向かい合うように間隔をあけて配置された2つの円形板部材2,3と、円形板部材2,3の間を鋳ぐるんでなるアルミ鋳物部4と、を備えている。
【0020】
本実施形態では、それぞれの円形板部材2,3は、略同じ形状からなる環状の鉄板で構成されている。円形板部材2,3は、例えば熱間圧延鋼板からなり、外径φ334mm、内径φ220mm、厚さ5.5mmに形成されている。円形板部材2,3は、9mmの間隔をあけて同軸に配置されている。
【0021】
また、円形板部材2,3には、軸方向(板厚方向)に貫通する貫通孔2c,3cが複数設けられている。貫通孔2c,3cは、直径φ9.5mmであり、第1ピッチ円C1〜第5ピッチ円C5上にそれぞれ10個ずつ設けられている。ピッチ円C1〜C5の直径は、第1ピッチ円C1:φ304mm、第2ピッチ円C2:φ296mm、第3ピッチ円C3:φ280mm、第4ピッチ円C4:φ258mm、第5ピッチ円C5:φ250mmとなっている。
【0022】
貫通孔2c,3cは、第1ピッチ円C1上に配置された貫通孔2c,3cのいずれか1個を基準にしてみたとき、第3ピッチ円C3、第4ピッチ円C4、第2ピッチ円C2、第5ピッチ円C5の順に、7.2°ずつ時計方向(円形板部材2,3の外側面2b,3b側からそれぞれ見たときの時計方向)にずれて配置されている。また、円形板部材2および円形板部材3は、第1ピッチ円C1上の貫通孔2c,3cが同軸になるように配置されている。
【0023】
図2Bに示すように、円形板部材2,3はさらに、内側面2a,3aおよび貫通孔2c,3cの周壁上にアルミニウムめっき層2d,3dが設けられている。アルミニウムめっき層2d,3dは、溶融アルミニウムめっき処理によって形成されている。
【0024】
アルミ鋳物部4は、アルミダイキャストによって形成される。アルミ鋳物部4は、間隔をあけて配置された円形板部材2,3の間に介在しつつ、これらを鋳ぐるんで(鋳込んで)いる。このとき、アルミ鋳物部4は、円形板部材2,3の外側面2b,3bおよび内外周面がそれぞれ露出するように、円形板部材2,3を鋳ぐるんでいる。
【0025】
アルミ鋳物部4の中央部41は、円形板部材2から突き出ており、略円錐台状になっている。中央部(取付け部)41の頂部には、制動対象たる回転体に取り付けるための複数の取付け孔43が設けられている。また、中央部41の側壁部には、複数のフィン44が形成されている。このように、制動対象を取付ける取付け部を、アルミ鋳物部4で構成することで、軽量化・放熱性の向上を図ることができる。
【0026】
図2Bに示すように、アルミ鋳物部4は、円形板部材2,3の貫通孔2c,3cの内部まで入り込んでいる。本実施形態では、アルミ鋳物部4は、円形板部材2,3の内側面2a,3aから3.5mmの位置まで貫通孔2c,3cに入り込んでいる。
【0027】
[製造方法]
上記のディスクロータ1は、例えば次のように製造される。
まず、円形板部材2,3が準備される。円形板部材2,3は、プレス加工によって上述したように形成されたのち、全体が溶融アルミニウムに浸漬されて、溶融アルミニウムめっき処理が施される。
【0028】
次に、円形板部材2,3が固定型11,可動型12に対してそれぞれ取り付けられる(図3参照)。固定型11および可動型12の円形板部材2,3が取り付けられる部分には、円形板部材2,3の貫通孔2c,3cに対応する位置に、突起13,14が設けられている。円形板部材2,3は、突起13,14が貫通孔2c,3c内に挿入されて、固定型11,可動型12に取り付けられる。このとき、突起13,14は、貫通孔2c,3cの内側面2a,3aから3.5mmの位置まで挿入されている。
【0029】
次に、図3に示すように、可動型12が固定型11に向かって移動して、型が締められる。そして、鋳造用アルミニウム合金の溶湯ADが、スリーブ15内に注入される。
【0030】
次に、図4に示すように、スリーブ15内に挿入されたプランジャー16が可動型12に向かう方向に移動する。これによって、溶湯ADが加圧されて型内に注入される。
【0031】
溶湯ADが固まると、図5に示すように、可動型12が固定型11から離れる方向に移動して、型が開かれる。そして、ピン17が固定型11に向かって突き出すように移動して、ディスクロータ1が取り出される。そして、ディスクロータ1は、バリ取りが行なわれるとともに、摩擦摺動面となる外側面2b,3bに対する仕上げ加工が行なわれて、完成となる。なお、この仕上げ加工によって、外側面2b,3b上に形成されていたアルミニウムめっき層は全て除去される。
【0032】
[使用態様]
このように製造されたディスクロータ1は、図6に示すように、ディスクブレーキ5のディスクロータとして使用される。ディスクロータ1は、図6に示すように、アルミ鋳物部4の中央部41が回転体(制動対象)Rに取り付けられる。そして、円形板部材2,3が摩擦パッド6,6によって挟み付けられる。このとき、円形板部材2,3の外側面2b,3bが摩擦パッド6,6に対して摩擦摺動することにより、ディスクロータ1つまり回転体Rに制動力が付加される。
【0033】
[効果]
本発明のディスクロータ1は、円形板部材2,3がアルミ鋳物部4によって鋳ぐるまれている。そして、円形板部材2,3の外側面2b,3bが、摩擦パッド6,6に対して摩擦摺動する。つまり、ディスクロータ1によれば、摩擦摺動は円形板部材2,3によって行なわれるので、良好な摩擦性能を得ることができる。
【0034】
また、ディスクロータ1は、摩擦パッド6,6に対して摩擦摺動する部分以外、比重の小さいアルミ鋳物部4によって構成されている。さらに、アルミ鋳物部4は熱伝導性が高く放熱性が良好なため、熱容量をかせぐために容積を大きくする必要がない。それゆえ、ディスクロータ1によれば、大幅な軽量化を実現することができる。
【0035】
また、円形板部材2,3の内側面2a,3aには、アルミニウムめっき層2d,3dが設けられている。アルミニウムめっき層2d,3dは、緻密な合金層(Fe−Al)を形成しており、アルミダイキャストによってアルミ鋳物部4が形成される際、その熱によってアルミ鋳物部4と溶着する。それゆえ、ディスクロータ1によれば、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4とが強力に密着して一体化するため、円形板部材2,3の剥落を防止することができる。また、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4との間に分子的結合が得られるため、円形板部材2,3からアルミ鋳物部4への熱伝導性が向上する。
【0036】
また、アルミ鋳物部4の中央部41の側壁部には、複数のフィン44が設けられている。それゆえ、ディスクロータ1によれば、摩擦摺動時に生じた熱を良好に放熱することができる。
【0037】
また、円形板部材2,3には貫通孔2c,3cが設けられているとともに、貫通孔2c,3c内にアルミ鋳物部4が入り込んでいる。それゆえ、ディスクロータ1によれば、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4との接触面積が増加し、放熱性および接着強度を向上させることができる。さらに、ディスクロータ1によれば、この入り込んだ部分が摩擦摺動時にアルミ鋳物部4と円形板部材2,3との間で生じるせん断力に対抗するため、当該せん断力によって円形板部材2,3が剥落することを防止することができる。
【0038】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は次のように変形して実施することができる。
【0039】
例えば、ディスクロータ1においては、円形板部材2,3に貫通孔2c,3cを設けるとともに、アルミ鋳物部4がそれらの途中まで入り込むように構成したが、これに限定されない。貫通孔2c,3cのかわりに、図7Aに示すように、円形板部材2,3の内側面2a,3a側に凹部2e,3e(外側面2b,3bまでは到達しない)を設けて、アルミ鋳物部4がその凹部内に入り込むように構成してもよい。
【0040】
また、貫通孔2c,3cおよび凹部2e,3eを、図7Bおよび図7Cに示すように、内側に向かって先細るテーパ状に形成することもできる。この場合、アルミ鋳物部4における貫通孔2c,3cまたは凹部2e,3eに入り込んだ部分がくさびの役割を果たし、円形板部材2,3の剥落を防止することができる。
【0041】
なお、摩擦摺動時に生じるせん断力が比較的低い場合は、貫通孔2c,3cや凹部2e,3eを設けなくてもよい。
【0042】
また、ディスクロータ1においては、アルミ鋳物部4の中央部41の側壁部に複数のフィン44を形成したが、これに限定されない。摩擦摺動時に生じる熱量が比較的小さい場合は、フィン44を設けなくてもよい。
【0043】
また、図8に示すように、ディスクロータ1の中央部41における制動対象に取り付けられる部分がアルミ鋳物部4で構成される場合、中央部41に補強用の鋼板7を鋳ぐるんでもよい。この場合、鋼板7とアルミ鋳物部4との界面にも、円形板部材2,3と同様にアルミニウムめっき層を設けておくのが好ましい。
【0044】
次に、放熱孔を備えたディスクロータの変形例について説明する。図9Aは、ディスクロータを示す正面図、図9Bは、図9AのY−Y線断面図、図9Cは、図9Bの上側円部分の拡大断面図である。図9に示すように、ディスクロータ1は、周方向に放射状に複数の放熱孔47を備える。放熱孔47は、アルミ鋳物部4に設けられ、ブレーキの際などに生じた熱を効率よく放熱する。図9Aの通り、放熱孔47は、ディスクロータ1が回転する際に、熱が流動し易くて放熱性が良いように、平面視において円弧状に構成されている。
【0045】
図9Bの通り、本実施形態では、一方の円形板部材2は、中央に制動対象を取付けるために突き出た取付け部20を備える。取付け部20は、略円筒状になっており、その頂面部に制動対象たる回転体を取付けるための複数の取付け孔23を備える。上記した実施形態と異なり、取付け部20がアルミ鋳物部4でないため、熱伝導率が若干劣るので、冷却効果を向上させるために複数の放熱孔47を設ける。そして、他方の円形板部材3は、上記実施形態と同様に環状部材からなる。円形板部材2,3は、鋳鉄製やステンレス製等からなる。
【0046】
次に、製造方法について説明する。なお、上記実施例の製造方法と異なる部分についてのみ詳細に説明する。本実施形態では、先ず、それぞれの円形板部材2,3の内側面に別々にアルミ鋳物部4’,4’’が鋳ぐるまれる(図9C)。それぞれのアルミ鋳物部4’,4’’は摩擦摺動面に対応する位置に環状に鋳ぐるまれる。このとき、それぞれのアルミ鋳物部4’,4’’に複数の溝部47a,47bを設ける。なお、型11,12に線状の凸部を設けることで、凹状の溝部47a,47bを形成する。そして、各溝部47a,47bを一致させて、アルミ鋳物部4’,4’’を備えた各円形板部材2,3を連結することで、アルミ鋳物部4に複数の放熱孔47を形成する。なお、連結する際に、それぞれのアルミ鋳物部4’,4’’における接続面に研磨加工が施される。
【0047】
アルミ鋳物部4’,4’’を備えた各円形板部材2,3は、複数のリベット(機械的連結手段)45で連結される。この場合、図9Cに示すように、円形板部材2,3は、リベット45で連結される部分2f,3fが予め断面コ字状にプレス加工されている。なお、機械的連結手段45は、ボルト部材などでもよい。円形板部材2,3は、連結部分2f,3fを互いに当接して、その状態で、連結部分2f,3fをリベット45で板厚方向(軸方向)に連結する(図9B)。
【0048】
本実施形態では、アルミ鋳物部4,4’’がそれぞれの円形板部材2,3に鋳ぐるまれるので、型11,12から取り外した際に、それぞれのアルミ鋳物部4’,4’’はそれぞれの円形板部材2,3に密着する方向に収縮する。従って、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4とが剥離することなく熱伝効率に優れ、さらに機械的連結手段(リベット)45で強固な連結を維持できる。
【0049】
次に、放熱パイプを備えたディスクロータの変形例について説明する。図10Aは、ディスクロータを示す正面図、図10Bは、側面図である。図10に示すように、ディスクロータ1は、アルミ鋳物部4に複数の放熱パイプ46を備える。放熱パイプ46は、ブレーキの際などにディスクロータ1に生じた熱を効率よく放熱するためのものである。
【0050】
図10Aの通り、放熱パイプ46は、ディスクロータ1の径方向に延設されており、複数の放熱パイプ46が周方向に等間隔に(放射状に)配置されている。図10Bの通り、放熱パイプ46は、アルミ鋳物部4に設けられている。従って、ブレーキの際、摩擦パッド6(図6)に挟まれた円形板部材2,3に生じた熱は、アルミ鋳物部4を通じて、ディスクロータ1の回転によって、放熱パイプ46の中空部分を通じて効果的に放熱される。
【0051】
図11Aは、複数の放熱パイプを放射状に配列した状態を示す斜視図、図11Bは、放熱パイプを示す斜視図、図11Cは、放熱パイプをディスクロータに設置した状態を示す側面図である。図11に示すように、放熱パイプ46は、溝状(コ字状)にプレス加工した第1部材460と第2部材461とを、その開口部分を互いに向き合わせて溶着することで、パイプ状に形成されている。
【0052】
図11Bに示すように、放熱パイプ46は、軸方向に所定間隔を置いて突設された複数の凸部46aを備える。本例では、凸部46aは、放熱パイプ46の両側面に2箇所ずつ設けられている。さらに、凸部46aは、その頂部に位置決め爪46bを備える。そして、図11Cに示すように、円形板部材2,3は、互いに向き合う内側面2a,3aに、位置決め爪46bを嵌め込むための位置決め穴2g,3gを備える。
【0053】
次に、製造方法について説明する。なお、上記実施例の製造方法と異なる部分についてのみ詳細に説明する。先ず、円形板部材2,3に対して、放射状に複数の放熱パイプ46を配置する。円形板部材2,3には、複数の位置決め穴2g,3gが設けられており、この位置決め穴2g,3gに放熱パイプ46の位置決め爪46bを嵌め込み、2つの円形板部材2,3で放熱パイプ4を挟むことで、複数の放熱パイプ46を円形板部材2,3に放射状に仮止め(位置決め)する。
【0054】
そして、放熱パイプ46が仮止めされた円形板部材2,3を型11,12に取付けて、鋳造用アルミニウム合金の溶湯ADを型11,12内に注入する(図3)。このとき、放熱パイプ46の両端開口部を溶湯ADで塞がないよう、放熱パイプ46の両端開口部にキャップ(図示略)を嵌める。
【0055】
放熱パイプ46は、凸部46aによって、円形板部材2,3との間にスペースS(図11C)が形成されるので、溶湯ADは、スペースSを通じて、放熱パイプ46の周囲に流れ込む。これにより、放熱パイプ46の周囲をアルミ鋳物部4で鋳ぐるむことができる。放熱パイプ46をアルミ鋳物部4で鋳ぐるむことにより、熱伝導面が増加して放熱効果が向上すると共に、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4との密着性が強固になり剥離をより防止できる。更に密着性を向上させるために、放熱パイプ46の周囲を溶融アルミニウムめっき処理し、アルミめっき層(図示略)を介して鋳ぐるんでもよい。
【符号の説明】
【0056】
AD 溶湯
C1〜C5 ピッチ円
R 回転体
1 ディスクロータ
2,3 円形板部材
2a,3a 内側面
2c,3c 貫通孔
2d,3d アルミニウムめっき層
2e,3e 凹部
4 アルミ鋳物部
5 ディスクブレーキ
6 摩擦パッド
11 可動型
12 固定型
13,14 突起
15 スリーブ
16 プランジャー
17 ピン
41 中央部
43 取付け孔
44 フィン
45 リベット
46 放熱パイプ
47 放熱孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、中央部が制動対象たる回転体に取り付けられるとともに、周辺部が一対の摩擦パッドによって挟み付けられるディスクブレーキ用ディスクロータに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されるブレーキ装置として、車輪と共に回転するディスクロータを一対の摩擦パッドで挟み付けることにより、当該車輪に制動力を付与するようにしたディスクブレーキが知られている。
【0003】
このディスクブレーキに用いられるディスクロータは、摩擦性能上の理由から、鋳鉄製とされることが多い。しかし、鋳鉄製のディスクロータは、比重が大きいうえに、熱伝導率が小さいため容積を大きくして過度の温度上昇を防ぐ必要があり、不可避的に重くなっていた。
【0004】
これに対し、近年、車両の燃費向上を目的としてディスクロータの軽量化が図られている。そして、鋳鉄に比べて比重が小さく熱伝導率が高いアルミニウム合金に、鋳鉄片を鋳込んでなるディスクロータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭58−152945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のディスクロータでは、軽量化は図れるものの、アルミニウム合金と鋳鉄片との接着強度が弱いため、実用に耐えられるものではなかった。また、接着強度の弱さにより、アルミニウム合金と鋳鉄片との間に隙間が生じ、鋳鉄片からアルミニウム合金への熱伝導が阻害されていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、良好な放熱性を有し実用に耐え得る軽量なディスクブレーキ用ディスクロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、(1)中央部が制動対象に取り付けられるとともに、周辺部が一対の摩擦パッドによって挟み付けられるディスクブレーキ用ディスクロータであって、各一方の内側面が向かい合うように間隔をあけて配置された2つの円形板部材と、前記両円形板部材の向かい合う内側面上にそれぞれ設けられたアルミニウムめっき層と、前記両アルミニウムめっき層を介して前記両円形板部材を鋳ぐるんでなるアルミ鋳物部と、を備え、前記両円形板部材の向かい合わない両外側面は、前記摩擦パッドによって挟み付けられた際に前記摩擦パッドに対して摩擦摺動する摩擦摺動面をそれぞれ有していることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0008】
また本発明は、上記構成(1)において、(2)前記円形板部材がそれぞれ板厚方向に貫通する複数の孔を備えており、かつ前記アルミ鋳物部が前記孔の途中まで入り込んでいることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記構成(1)において、(3)前記円形板部材がそれぞれ前記内側面に複数の凹部を備えており、かつ前記アルミ鋳物部が前記凹部に入り込んでいることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記構成(2)または(3)において、(4)前記孔または前記凹部が、内側に向かって先細るテーパ状に形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0011】
また本発明は、上記構成(1)〜(4)のいずれかにおいて、(5)前記円形板部材が環状鉄板からなり、前記アルミ鋳物部の中央部が軸方向の一方側に突出して前記取付け部になっているとともに、その円錐台の側壁が複数のフィンを有するように形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0012】
また本発明は、上記構成(5)において、(6)前記取付け部は、補強のための鋼板が鋳ぐるまれていることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0013】
また本発明は、上記構成(1)〜(6)のいずれかにおいて、(7)複数の溝部が設けられた前記アルミ鋳物部を前記2つの円形板部材のそれぞれに設け、前記各溝部が一致するように、前記各円形板部材を板厚方向に機械的連結手段で連結して、前記アルミ鋳物部に周方向に複数の放熱孔を備えてなることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【0014】
また本発明は、上記構成(1)〜(6)のいずれかにおいて、(8)前記アルミ鋳物部に、径方向に延設された複数の放熱パイプを周方向に配置し、前記放熱パイプは、その周囲を前記アルミ鋳物部で鋳ぐるまれてなることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータを提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のディスクロータは、摩擦パッドに対して摩擦摺動する部分を除き、比重の小さいアルミ鋳物部によって構成されている。さらに、アルミ鋳物部は放熱性が高く過度の温度上昇を抑制するため、熱容量をかせぐために容積を大きくする必要がない。それゆえ、本発明のディスクロータによれば、大幅な軽量化を実現することができる。
【0016】
また、円形板部材とアルミ鋳物部との界面には、アルミニウムめっき層が設けられている。それゆえ、本発明のディスクロータによれば、円形板部材とアルミ鋳物部との密着性が向上し、円形板部材の剥落を防止することができる。また、円形板部材とアルミ鋳物部との密着性の向上により、円形板部材からアルミ鋳物部への熱伝導性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかるディスクブレーキ用ディスクロータの一例を示す斜視図である。
【図2】図1のディスクロータの正面図、X−X線断面図および背面図である。
【図3】図1のディスクロータを製造する工程を示す図である。
【図4】図3に続く図である。
【図5】図4に続く図である。
【図6】図1のディスクロータの使用態様を説明するための図である。
【図7】変形例を示す図である。
【図8】補強用の鋼板を備えたディスクロータの例を示す図である。
【図9】放熱孔を備えたディスクロータの例を示す図である。
【図10】放熱パイプを備えたディスクロータの例を示す図である。
【図11】放熱パイプを説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態につき説明する。
【0019】
[構成]
図1および図2に示すように、本実施形態にかかるディスクブレーキ用ディスクロータ1は、一方の内側面2a,3aが向かい合うように間隔をあけて配置された2つの円形板部材2,3と、円形板部材2,3の間を鋳ぐるんでなるアルミ鋳物部4と、を備えている。
【0020】
本実施形態では、それぞれの円形板部材2,3は、略同じ形状からなる環状の鉄板で構成されている。円形板部材2,3は、例えば熱間圧延鋼板からなり、外径φ334mm、内径φ220mm、厚さ5.5mmに形成されている。円形板部材2,3は、9mmの間隔をあけて同軸に配置されている。
【0021】
また、円形板部材2,3には、軸方向(板厚方向)に貫通する貫通孔2c,3cが複数設けられている。貫通孔2c,3cは、直径φ9.5mmであり、第1ピッチ円C1〜第5ピッチ円C5上にそれぞれ10個ずつ設けられている。ピッチ円C1〜C5の直径は、第1ピッチ円C1:φ304mm、第2ピッチ円C2:φ296mm、第3ピッチ円C3:φ280mm、第4ピッチ円C4:φ258mm、第5ピッチ円C5:φ250mmとなっている。
【0022】
貫通孔2c,3cは、第1ピッチ円C1上に配置された貫通孔2c,3cのいずれか1個を基準にしてみたとき、第3ピッチ円C3、第4ピッチ円C4、第2ピッチ円C2、第5ピッチ円C5の順に、7.2°ずつ時計方向(円形板部材2,3の外側面2b,3b側からそれぞれ見たときの時計方向)にずれて配置されている。また、円形板部材2および円形板部材3は、第1ピッチ円C1上の貫通孔2c,3cが同軸になるように配置されている。
【0023】
図2Bに示すように、円形板部材2,3はさらに、内側面2a,3aおよび貫通孔2c,3cの周壁上にアルミニウムめっき層2d,3dが設けられている。アルミニウムめっき層2d,3dは、溶融アルミニウムめっき処理によって形成されている。
【0024】
アルミ鋳物部4は、アルミダイキャストによって形成される。アルミ鋳物部4は、間隔をあけて配置された円形板部材2,3の間に介在しつつ、これらを鋳ぐるんで(鋳込んで)いる。このとき、アルミ鋳物部4は、円形板部材2,3の外側面2b,3bおよび内外周面がそれぞれ露出するように、円形板部材2,3を鋳ぐるんでいる。
【0025】
アルミ鋳物部4の中央部41は、円形板部材2から突き出ており、略円錐台状になっている。中央部(取付け部)41の頂部には、制動対象たる回転体に取り付けるための複数の取付け孔43が設けられている。また、中央部41の側壁部には、複数のフィン44が形成されている。このように、制動対象を取付ける取付け部を、アルミ鋳物部4で構成することで、軽量化・放熱性の向上を図ることができる。
【0026】
図2Bに示すように、アルミ鋳物部4は、円形板部材2,3の貫通孔2c,3cの内部まで入り込んでいる。本実施形態では、アルミ鋳物部4は、円形板部材2,3の内側面2a,3aから3.5mmの位置まで貫通孔2c,3cに入り込んでいる。
【0027】
[製造方法]
上記のディスクロータ1は、例えば次のように製造される。
まず、円形板部材2,3が準備される。円形板部材2,3は、プレス加工によって上述したように形成されたのち、全体が溶融アルミニウムに浸漬されて、溶融アルミニウムめっき処理が施される。
【0028】
次に、円形板部材2,3が固定型11,可動型12に対してそれぞれ取り付けられる(図3参照)。固定型11および可動型12の円形板部材2,3が取り付けられる部分には、円形板部材2,3の貫通孔2c,3cに対応する位置に、突起13,14が設けられている。円形板部材2,3は、突起13,14が貫通孔2c,3c内に挿入されて、固定型11,可動型12に取り付けられる。このとき、突起13,14は、貫通孔2c,3cの内側面2a,3aから3.5mmの位置まで挿入されている。
【0029】
次に、図3に示すように、可動型12が固定型11に向かって移動して、型が締められる。そして、鋳造用アルミニウム合金の溶湯ADが、スリーブ15内に注入される。
【0030】
次に、図4に示すように、スリーブ15内に挿入されたプランジャー16が可動型12に向かう方向に移動する。これによって、溶湯ADが加圧されて型内に注入される。
【0031】
溶湯ADが固まると、図5に示すように、可動型12が固定型11から離れる方向に移動して、型が開かれる。そして、ピン17が固定型11に向かって突き出すように移動して、ディスクロータ1が取り出される。そして、ディスクロータ1は、バリ取りが行なわれるとともに、摩擦摺動面となる外側面2b,3bに対する仕上げ加工が行なわれて、完成となる。なお、この仕上げ加工によって、外側面2b,3b上に形成されていたアルミニウムめっき層は全て除去される。
【0032】
[使用態様]
このように製造されたディスクロータ1は、図6に示すように、ディスクブレーキ5のディスクロータとして使用される。ディスクロータ1は、図6に示すように、アルミ鋳物部4の中央部41が回転体(制動対象)Rに取り付けられる。そして、円形板部材2,3が摩擦パッド6,6によって挟み付けられる。このとき、円形板部材2,3の外側面2b,3bが摩擦パッド6,6に対して摩擦摺動することにより、ディスクロータ1つまり回転体Rに制動力が付加される。
【0033】
[効果]
本発明のディスクロータ1は、円形板部材2,3がアルミ鋳物部4によって鋳ぐるまれている。そして、円形板部材2,3の外側面2b,3bが、摩擦パッド6,6に対して摩擦摺動する。つまり、ディスクロータ1によれば、摩擦摺動は円形板部材2,3によって行なわれるので、良好な摩擦性能を得ることができる。
【0034】
また、ディスクロータ1は、摩擦パッド6,6に対して摩擦摺動する部分以外、比重の小さいアルミ鋳物部4によって構成されている。さらに、アルミ鋳物部4は熱伝導性が高く放熱性が良好なため、熱容量をかせぐために容積を大きくする必要がない。それゆえ、ディスクロータ1によれば、大幅な軽量化を実現することができる。
【0035】
また、円形板部材2,3の内側面2a,3aには、アルミニウムめっき層2d,3dが設けられている。アルミニウムめっき層2d,3dは、緻密な合金層(Fe−Al)を形成しており、アルミダイキャストによってアルミ鋳物部4が形成される際、その熱によってアルミ鋳物部4と溶着する。それゆえ、ディスクロータ1によれば、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4とが強力に密着して一体化するため、円形板部材2,3の剥落を防止することができる。また、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4との間に分子的結合が得られるため、円形板部材2,3からアルミ鋳物部4への熱伝導性が向上する。
【0036】
また、アルミ鋳物部4の中央部41の側壁部には、複数のフィン44が設けられている。それゆえ、ディスクロータ1によれば、摩擦摺動時に生じた熱を良好に放熱することができる。
【0037】
また、円形板部材2,3には貫通孔2c,3cが設けられているとともに、貫通孔2c,3c内にアルミ鋳物部4が入り込んでいる。それゆえ、ディスクロータ1によれば、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4との接触面積が増加し、放熱性および接着強度を向上させることができる。さらに、ディスクロータ1によれば、この入り込んだ部分が摩擦摺動時にアルミ鋳物部4と円形板部材2,3との間で生じるせん断力に対抗するため、当該せん断力によって円形板部材2,3が剥落することを防止することができる。
【0038】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は次のように変形して実施することができる。
【0039】
例えば、ディスクロータ1においては、円形板部材2,3に貫通孔2c,3cを設けるとともに、アルミ鋳物部4がそれらの途中まで入り込むように構成したが、これに限定されない。貫通孔2c,3cのかわりに、図7Aに示すように、円形板部材2,3の内側面2a,3a側に凹部2e,3e(外側面2b,3bまでは到達しない)を設けて、アルミ鋳物部4がその凹部内に入り込むように構成してもよい。
【0040】
また、貫通孔2c,3cおよび凹部2e,3eを、図7Bおよび図7Cに示すように、内側に向かって先細るテーパ状に形成することもできる。この場合、アルミ鋳物部4における貫通孔2c,3cまたは凹部2e,3eに入り込んだ部分がくさびの役割を果たし、円形板部材2,3の剥落を防止することができる。
【0041】
なお、摩擦摺動時に生じるせん断力が比較的低い場合は、貫通孔2c,3cや凹部2e,3eを設けなくてもよい。
【0042】
また、ディスクロータ1においては、アルミ鋳物部4の中央部41の側壁部に複数のフィン44を形成したが、これに限定されない。摩擦摺動時に生じる熱量が比較的小さい場合は、フィン44を設けなくてもよい。
【0043】
また、図8に示すように、ディスクロータ1の中央部41における制動対象に取り付けられる部分がアルミ鋳物部4で構成される場合、中央部41に補強用の鋼板7を鋳ぐるんでもよい。この場合、鋼板7とアルミ鋳物部4との界面にも、円形板部材2,3と同様にアルミニウムめっき層を設けておくのが好ましい。
【0044】
次に、放熱孔を備えたディスクロータの変形例について説明する。図9Aは、ディスクロータを示す正面図、図9Bは、図9AのY−Y線断面図、図9Cは、図9Bの上側円部分の拡大断面図である。図9に示すように、ディスクロータ1は、周方向に放射状に複数の放熱孔47を備える。放熱孔47は、アルミ鋳物部4に設けられ、ブレーキの際などに生じた熱を効率よく放熱する。図9Aの通り、放熱孔47は、ディスクロータ1が回転する際に、熱が流動し易くて放熱性が良いように、平面視において円弧状に構成されている。
【0045】
図9Bの通り、本実施形態では、一方の円形板部材2は、中央に制動対象を取付けるために突き出た取付け部20を備える。取付け部20は、略円筒状になっており、その頂面部に制動対象たる回転体を取付けるための複数の取付け孔23を備える。上記した実施形態と異なり、取付け部20がアルミ鋳物部4でないため、熱伝導率が若干劣るので、冷却効果を向上させるために複数の放熱孔47を設ける。そして、他方の円形板部材3は、上記実施形態と同様に環状部材からなる。円形板部材2,3は、鋳鉄製やステンレス製等からなる。
【0046】
次に、製造方法について説明する。なお、上記実施例の製造方法と異なる部分についてのみ詳細に説明する。本実施形態では、先ず、それぞれの円形板部材2,3の内側面に別々にアルミ鋳物部4’,4’’が鋳ぐるまれる(図9C)。それぞれのアルミ鋳物部4’,4’’は摩擦摺動面に対応する位置に環状に鋳ぐるまれる。このとき、それぞれのアルミ鋳物部4’,4’’に複数の溝部47a,47bを設ける。なお、型11,12に線状の凸部を設けることで、凹状の溝部47a,47bを形成する。そして、各溝部47a,47bを一致させて、アルミ鋳物部4’,4’’を備えた各円形板部材2,3を連結することで、アルミ鋳物部4に複数の放熱孔47を形成する。なお、連結する際に、それぞれのアルミ鋳物部4’,4’’における接続面に研磨加工が施される。
【0047】
アルミ鋳物部4’,4’’を備えた各円形板部材2,3は、複数のリベット(機械的連結手段)45で連結される。この場合、図9Cに示すように、円形板部材2,3は、リベット45で連結される部分2f,3fが予め断面コ字状にプレス加工されている。なお、機械的連結手段45は、ボルト部材などでもよい。円形板部材2,3は、連結部分2f,3fを互いに当接して、その状態で、連結部分2f,3fをリベット45で板厚方向(軸方向)に連結する(図9B)。
【0048】
本実施形態では、アルミ鋳物部4,4’’がそれぞれの円形板部材2,3に鋳ぐるまれるので、型11,12から取り外した際に、それぞれのアルミ鋳物部4’,4’’はそれぞれの円形板部材2,3に密着する方向に収縮する。従って、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4とが剥離することなく熱伝効率に優れ、さらに機械的連結手段(リベット)45で強固な連結を維持できる。
【0049】
次に、放熱パイプを備えたディスクロータの変形例について説明する。図10Aは、ディスクロータを示す正面図、図10Bは、側面図である。図10に示すように、ディスクロータ1は、アルミ鋳物部4に複数の放熱パイプ46を備える。放熱パイプ46は、ブレーキの際などにディスクロータ1に生じた熱を効率よく放熱するためのものである。
【0050】
図10Aの通り、放熱パイプ46は、ディスクロータ1の径方向に延設されており、複数の放熱パイプ46が周方向に等間隔に(放射状に)配置されている。図10Bの通り、放熱パイプ46は、アルミ鋳物部4に設けられている。従って、ブレーキの際、摩擦パッド6(図6)に挟まれた円形板部材2,3に生じた熱は、アルミ鋳物部4を通じて、ディスクロータ1の回転によって、放熱パイプ46の中空部分を通じて効果的に放熱される。
【0051】
図11Aは、複数の放熱パイプを放射状に配列した状態を示す斜視図、図11Bは、放熱パイプを示す斜視図、図11Cは、放熱パイプをディスクロータに設置した状態を示す側面図である。図11に示すように、放熱パイプ46は、溝状(コ字状)にプレス加工した第1部材460と第2部材461とを、その開口部分を互いに向き合わせて溶着することで、パイプ状に形成されている。
【0052】
図11Bに示すように、放熱パイプ46は、軸方向に所定間隔を置いて突設された複数の凸部46aを備える。本例では、凸部46aは、放熱パイプ46の両側面に2箇所ずつ設けられている。さらに、凸部46aは、その頂部に位置決め爪46bを備える。そして、図11Cに示すように、円形板部材2,3は、互いに向き合う内側面2a,3aに、位置決め爪46bを嵌め込むための位置決め穴2g,3gを備える。
【0053】
次に、製造方法について説明する。なお、上記実施例の製造方法と異なる部分についてのみ詳細に説明する。先ず、円形板部材2,3に対して、放射状に複数の放熱パイプ46を配置する。円形板部材2,3には、複数の位置決め穴2g,3gが設けられており、この位置決め穴2g,3gに放熱パイプ46の位置決め爪46bを嵌め込み、2つの円形板部材2,3で放熱パイプ4を挟むことで、複数の放熱パイプ46を円形板部材2,3に放射状に仮止め(位置決め)する。
【0054】
そして、放熱パイプ46が仮止めされた円形板部材2,3を型11,12に取付けて、鋳造用アルミニウム合金の溶湯ADを型11,12内に注入する(図3)。このとき、放熱パイプ46の両端開口部を溶湯ADで塞がないよう、放熱パイプ46の両端開口部にキャップ(図示略)を嵌める。
【0055】
放熱パイプ46は、凸部46aによって、円形板部材2,3との間にスペースS(図11C)が形成されるので、溶湯ADは、スペースSを通じて、放熱パイプ46の周囲に流れ込む。これにより、放熱パイプ46の周囲をアルミ鋳物部4で鋳ぐるむことができる。放熱パイプ46をアルミ鋳物部4で鋳ぐるむことにより、熱伝導面が増加して放熱効果が向上すると共に、円形板部材2,3とアルミ鋳物部4との密着性が強固になり剥離をより防止できる。更に密着性を向上させるために、放熱パイプ46の周囲を溶融アルミニウムめっき処理し、アルミめっき層(図示略)を介して鋳ぐるんでもよい。
【符号の説明】
【0056】
AD 溶湯
C1〜C5 ピッチ円
R 回転体
1 ディスクロータ
2,3 円形板部材
2a,3a 内側面
2c,3c 貫通孔
2d,3d アルミニウムめっき層
2e,3e 凹部
4 アルミ鋳物部
5 ディスクブレーキ
6 摩擦パッド
11 可動型
12 固定型
13,14 突起
15 スリーブ
16 プランジャー
17 ピン
41 中央部
43 取付け孔
44 フィン
45 リベット
46 放熱パイプ
47 放熱孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部が制動対象に取り付けられるとともに、周辺部が一対の摩擦パッドによって挟み付けられるディスクブレーキ用ディスクロータであって、
各一方の内側面が向かい合うように間隔をあけて配置された2つの円形板部材と、前記両円形板部材の向かい合う内側面上にそれぞれ設けられたアルミニウムめっき層と、前記両アルミニウムめっき層を介して前記両円形板部材を鋳ぐるんでなるアルミ鋳物部と、を備え、
前記両円形板部材の向かい合わない外側面は、前記摩擦パッドによって挟み付けられた際に前記摩擦パッドに対して摩擦摺動する摩擦摺動面をそれぞれ有していることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項2】
前記円形板部材がそれぞれ板厚方向に貫通する複数の孔を備えており、かつ前記アルミ鋳物部が前記孔の途中まで入り込んでいることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項3】
前記円形板部材がそれぞれ前記内側面に複数の凹部を備えており、かつ前記アルミ鋳物部が前記凹部に入り込んでいることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項4】
前記孔または前記凹部が、内側に向かって先細るテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項5】
前記円形板部材が環状鉄板からなり、前記アルミ鋳物部の中央部が軸方向の一方側に突出して前記取付け部になっているとともに、その円錐台の側壁が複数のフィンを有するように形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項6】
前記取付け部は、補強のための鋼板が鋳ぐるまれていることを特徴とする請求項5に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項7】
複数の溝部が設けられた前記アルミ鋳物部を前記2つの円形板部材のそれぞれに設け、前記各溝部が一致するように、前記各円形板部材を板厚方向に機械的連結手段で連結して、前記アルミ鋳物部に周方向に複数の放熱孔を備えてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項8】
前記アルミ鋳物部に、径方向に延設された複数の放熱パイプを周方向に配置し、前記放熱パイプは、その周囲を前記アルミ鋳物部で鋳ぐるまれてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項1】
中央部が制動対象に取り付けられるとともに、周辺部が一対の摩擦パッドによって挟み付けられるディスクブレーキ用ディスクロータであって、
各一方の内側面が向かい合うように間隔をあけて配置された2つの円形板部材と、前記両円形板部材の向かい合う内側面上にそれぞれ設けられたアルミニウムめっき層と、前記両アルミニウムめっき層を介して前記両円形板部材を鋳ぐるんでなるアルミ鋳物部と、を備え、
前記両円形板部材の向かい合わない外側面は、前記摩擦パッドによって挟み付けられた際に前記摩擦パッドに対して摩擦摺動する摩擦摺動面をそれぞれ有していることを特徴とするディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項2】
前記円形板部材がそれぞれ板厚方向に貫通する複数の孔を備えており、かつ前記アルミ鋳物部が前記孔の途中まで入り込んでいることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項3】
前記円形板部材がそれぞれ前記内側面に複数の凹部を備えており、かつ前記アルミ鋳物部が前記凹部に入り込んでいることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項4】
前記孔または前記凹部が、内側に向かって先細るテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項5】
前記円形板部材が環状鉄板からなり、前記アルミ鋳物部の中央部が軸方向の一方側に突出して前記取付け部になっているとともに、その円錐台の側壁が複数のフィンを有するように形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項6】
前記取付け部は、補強のための鋼板が鋳ぐるまれていることを特徴とする請求項5に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項7】
複数の溝部が設けられた前記アルミ鋳物部を前記2つの円形板部材のそれぞれに設け、前記各溝部が一致するように、前記各円形板部材を板厚方向に機械的連結手段で連結して、前記アルミ鋳物部に周方向に複数の放熱孔を備えてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【請求項8】
前記アルミ鋳物部に、径方向に延設された複数の放熱パイプを周方向に配置し、前記放熱パイプは、その周囲を前記アルミ鋳物部で鋳ぐるまれてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のディスクブレーキ用ディスクロータ。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【公開番号】特開2010−101487(P2010−101487A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157550(P2009−157550)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(596021665)株式会社平安製作所 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(596021665)株式会社平安製作所 (10)
【Fターム(参考)】
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