説明

ディスクブレーキ用ピストン及びその変形量の調整方法

【課題】 剛性の高いパッドを組み込む場合でも、液圧剛性を調整し、ブレーキペダルの操作に対する制動の応答性を通常使用するパッドの場合と同程度にする事を、容易に行なえる様にする。
【解決手段】 各ピストン6、7は、シリンダ内に嵌装されたピストン本体16と、このピストン本体16の内側にこのピストン本体16に対し挿入可能なピストンカバー17とを備える。このピストンカバー17の一部で各パッドの背面へ荷重を伝達する押圧部24の側面で、内径寄り部分に内径側環状凹部29を、外径寄り部分に外径側環状凸部30を、それぞれ設ける。このうちの外径側環状凸部30の先端面を、各パッドを構成するプレッシャプレートの反ロータ側の面に突き当て自在とする。上記ピストンカバー17を、上記内径側環状凹部29の外径と押圧部24の厚さx1 とのうちの少なくとも一方の寸法が異なるものと交換する事で、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るディスクブレーキ用ピストンは、自動車の制動を行なう為のディスクブレーキに組み込んで、パッドをロータに向け押し付ける為に使用する。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行なう為に、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータを挟む状態で設けた1対のパッドを、ピストンにより、このロータの両側面に押し付ける。この様なディスクブレーキとして従来一般的には、懸架装置に対し固定されたサポートに上記1対のパッドを変位自在に支持した、キャリパ浮動式のディスクブレーキが使用されている。この様なキャリパ浮動式のディスクブレーキの場合には、上記ピストンは上記ロータの片側(自動車への組み付け状態で車体の幅方向中央側となるインナ側)にのみ設けている。
【0003】
これに対して、ロータの両側にピストンを設け、制動時にはこれらピストンにより1対のパッドをこのロータの両側面に押し付ける、対向ピストン型と呼ばれるディスクブレーキも、優れた制動力を得られる事から、高性能車を中心に、近年普及している。図12は、この様な対向ピストン型ディスクブレーキのうち、特許文献1に記載されたものを示している。この対向ピストン型のディスクブレーキ1は、ロータ2を挟む位置にインナ側ボディ3及びアウタ側ボディ4から成るキャリパ5を設け、これら各ボディ3、4内にインナシリンダ及びアウタシリンダを、それぞれの開口部を上記ロータ2を介して互いに対向させた状態で設けている。そして、これらインナシリンダ及びアウタシリンダ内にインナピストン及びアウタピストンを、液密に、且つ上記ロータ2の軸方向に関する変位自在に嵌装している。又、上記インナ側ボディ3にはインナパッドを、上記アウタ側ボディ4にはアウタパッドを、それぞれ上記ロータ2の軸方向に変位自在に支持している。制動時には、上記インナシリンダ及びアウタシリンダ内に圧油を送り込み、上記インナピストン及びアウタピストンにより、上記インナパッド及びアウタパッドを、上記ロータ2の内外両側面に押し付ける。
【0004】
上述の様な特許文献1に記載された構造の場合、インナシリンダ及びアウタシリンダ内に嵌装するインナピストン及びアウタピストンは、一般的に、鉄、アルミニウム合金等の金属を加工する等により、有底円筒状に形成し、これら各ピストンの先端面(開口端面)を、直接又はシム板を介して、パッドを構成するプレッシャプレートの背面(反ロータ側の面)に突き当て自在としている。一方、高い制動力を得るべく大きな摩擦係数を有するスポーツ走行用のパッドを使用する等の場合に、パッドの種類によってはこのパッドの剛性(圧縮変形量)が高くなる場合がある。剛性の高いパッドを使用すると、「液圧剛性」と呼ばれる、ブレーキペダルを踏み込んで所定の制動力が得られるまでのペダルストロークの延びの小ささ、即ち、ブレーキペダルの踏み込みに対するロータへのパッドの押し付けの応答性が高くなってしまう。この液圧剛性が変化すると、運転者のブレーキペダルの操作に対する制動の応答性(剛性感)が変化する。この為、ブレーキペダルの踏み込みの量、踏み込み速さ等、運転者の制動操作を、この応答性の変化に応じて変える必要がある。又、この制動操作に慣れる為に、或る程度の時間を要する。
【0005】
上記液圧剛性は、シリンダに嵌合するピストンの外径を変えて変化させる事もできる。この為、剛性が異なるパッドを使用する場合に、ピストンの外径をこれに応じて変える事により、全体として液圧剛性を同程度にする事も考えられなくはない。但し、ピストンの外径を変える場合には、キャリパに設けたシリンダの内径を変える等、このキャリパを大きく設計変更しなければならず、又、ブレーキ力配分が変化する事もあり、容易には行なえない。
【0006】
又、従来構造の場合には、制動時に各パッドに発生した熱が、各ピストンに直接伝達され易く、キャリパの温度や、各シリンダ内に送り込んだ圧油の温度が上昇し易いと言った問題もある。この為、ピストンの外周面とシリンダの内周面との間に設けるシール部材等、ディスクブレーキの構成部材の熱劣化や、ベーパーロック等の熱による不具合に繋る可能性がある。
【0007】
【特許文献1】実開平5−27364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明のディスクブレーキ用ピストン及びその変形量の調整方法は、上述の様な不都合を解消すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のディスクブレーキ用ピストン及びその変形量の調整方法のうち、請求項1に記載したディスクブレーキ用ピストンは、前述した従来から知られているディスクブレーキ用ピストンと同様に、車輪と共に回転するロータの両側に配置された1対のパッドのうちの少なくとも一方のパッドの背面側に設けられて、シリンダ内からの押し出しに伴いこの一方のパッドを上記ロータの側面に押し付けて制動を行なう為に使用する。
【0010】
特に、請求項1に記載したディスクブレーキ用ピストンは、上記シリンダ内に嵌装されたピストン本体と、上記一方のパッドの背面に連接する押圧部を有するピストンカバーとを備える。
又、上記ピストン本体の端面から上記ピストンカバーに加わる荷重の作用点と、上記一方のパッドの背面に荷重を伝達する、このピストンカバーの押圧部の作用点とが、上記ロータの半径方向にずれている。
【0011】
又、請求項2に記載したディスクブレーキ用ピストンは、上述の請求項1に記載したディスクブレーキ用ピストンに於いて、上記ピストン本体が、ロータ側に開口する開口部を有し、この開口部に上記ピストンカバーが挿入されている。
【0012】
又、請求項3に記載したディスクブレーキ用ピストンは、上述の請求項1又は請求項2に記載したディスクブレーキ用ピストンに於いて、一方のパッドと対向する、押圧部の側面に、この一方のパッドの背面との間に隙間を形成する為の非接触部を設けている。
【0013】
又、請求項4に記載したディスクブレーキ用ピストンは、上述の請求項3に記載したディスクブレーキ用ピストンに於いて、上記非接触部が、一方のパッドと対向する、押圧部の側面の内周寄り部分に設けられた、その内周縁がこの押圧部の内周面に達する内径側環状凹部である。そして、この内径側環状凹部の外径D1 を、ピストン本体のうちでこの押圧部に当接する部分の外径D2 よりも大きくしている。
【0014】
又、請求項5に記載したディスクブレーキ用ピストンは、上述の請求項3に記載したディスクブレーキ用ピストンに於いて、上記非接触部が、一方のパッドと対向する、押圧部の側面の外周寄り部分に設けられた、その外周縁がこの押圧部の外周面に達する外径側環状凹部である。そして、この外径側環状凹部の内径d1 をピストン本体のうちでこの押圧部に当接する部分の内径d2 よりも小さくしている。
【0015】
又、請求項6に記載したディスクブレーキ用ピストンは、上述の請求項3に記載したディスクブレーキ用ピストンに於いて、上記非接触部が、一方のパッドと対向する、押圧部の側面の径方向中間部に設けられた、その内、外両周縁がこの押圧部の内、外両周面に達しない、中間環状凹部である。そして、この中間環状凹部の外径D1 をピストン本体のうちでこの押圧部に当接する部分の外径D2 よりも大きくすると共に、この中間環状凹部の内径d1 をこのピストン本体のうちでこの押圧部に当接する部分の内径d2 よりも小さくしている。
【0016】
又、請求項11に記載したディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法は、上述の請求項4に記載したディスクブレーキ用ピストンの変形量の調節方法であって、一方のパッドと対向する、押圧部の側面に設けた内径側環状凹部の外径D1 と、この押圧部の一部でこの内径側環状凹部を形成した部分の最小の厚さx1 とのうちの少なくとも一方を異ならせた複数種類のピストンカバーとピストン本体とを用意し、これらピストンカバーとピストン本体との組み合わせを変える事により制動時の上記押圧部の変形量を変える。
【0017】
又、請求項12に記載したディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法は、上述の請求項5に記載したディスクブレーキ用ピストンの変形量の調節方法であって、一方のパッドと対向する、押圧部の側面に設けた外径側環状凹部の内径d1 と、この押圧部の一部でこの外径側環状凹部を形成した部分の最小の厚さx2 とのうちの少なくとも一方を異ならせた複数種類のピストンカバーとピストン本体とを用意し、これらピストンカバーとピストン本体との組み合わせを変える事により制動時の上記押圧部の変形量を変える。
【0018】
又、請求項13に記載したディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法は、上述の請求項6に記載したディスクブレーキ用ピストンの変形量の調節方法であって、一方のパッドに対向する、押圧部の側面に設けた中間環状凹部の外径D1 と、同じく内径d1 と、この押圧部の一部でこの中間環状凹部を形成した部分の最小の厚さx3 とのうちの少なくとも何れかを異ならせた複数種類のピストンカバーとピストン本体とを用意し、これらピストンカバーとピストン本体との組み合わせを変える事により制動時の上記押圧部の変形量を変える。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ用ピストン及びディスクブレーキ用ピストンの調整方法の場合、請求項2に記載した様に、ピストンを、ピストン本体と、このピストン本体の開口部に挿入されたピストンカバーとにより構成した場合に、このピストンカバー及びピストン本体で、寸法の異なる組み合わせに変える事により、所定の制動力を得るべくブレーキペダルを踏み込んだ場合のこのピストンカバーの押圧部の変形量を、容易に調整でき、液圧剛性を低くする等、所定の大きさに容易に調整できる。従って、制動力を大きくする等の為に剛性(圧縮変形量)の高いパッドを組み込む場合でも、液圧剛性が通常使用するパッドの場合と同程度になる様に調整する事により、ブレーキペダルの操作に対する制動の応答性を通常使用するパッドの場合と同程度にする事を容易に行なえる。又、同じパッドに於いても、液圧剛性を変える事により、ブレーキペダルの操作に対する制動の応答性を、運転者の好みに応じて容易に変える事ができる。
【0020】
又、上記ピストンカバーを構成する材料の熱伝導性を上記ピストン本体を構成する材料の熱伝導性よりも低くする事により、パッドの熱をこのピストン本体に伝達しにくくでき、キャリパの温度上昇及びシリンダ内に送り込んだ圧油の温度上昇を抑える事ができる。この為、ピストンの端部外周面に装着するダストブーツ、このピストンの外周面とシリンダの内周面との間に設けるシール部材等の、ディスクブレーキの構成各部材の熱劣化を抑える事ができると共に、ベーパーロック等の熱害の発生を有効に防止できる。
【0021】
更に、請求項3〜6に記載したディスクブレーキ用ピストンの場合には、ピストンカバーの押圧部の、一方のパッドと対向する側面に非接触部を設けている。この為、これら押圧部の側面と一方のパッドの背面との接触面積を小さくでき、制動時に発生するパッドの熱をピストン本体に、より伝達しにくくできる。この為、ディスクブレーキの構成各部材の熱劣化をより抑える事ができると共に、ベーパーロック等の熱害の発生をより有効に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施する場合に好ましくは、請求項7に記載した様に、上述したディスクブレーキ用ピストンに於いて、ピストン本体の内周面とピストンカバーの外周面との間に弾性部材を設ける。
この好ましい構成によれば、使用時に加わる振動等によりピストンカバーがピストン本体内から不用意に抜け出る事を防止できると共に、このピストンカバーがこのピストン本体内でがたついたり、振動する事を抑える事ができる。又、弾性部材を伝熱性の低い材料により造れば、パッドの熱をピストン本体に、より伝達しにくくできる。
【0023】
又、より好ましくは、請求項8に記載した様に、上述の請求項7に記載したディスクブレーキ用ピストンに於いて、弾性部材を、ばね鋼(ピアノ線、硬鋼線、ステンレス鋼線等を含む広義のばね鋼)製の線材により円環状又は欠円環状に造られたものとし、ピストンカバーの外周面に形成した係止溝にこの弾性部材を係止すると共に、この弾性部材をピストン本体の内周面に弾性的に押し付ける。
このより好ましい構成によれば、弾性部材を安価に得る事ができ、ディスクブレーキ全体のコストを低減し易くできる。又、特殊な工具を用いる事なく、手作業で、ピストン本体に対しピストンカバーを容易に脱着できる。この為、ピストン本体をシリンダに組み付けたままの状態で、このピストン本体に対しこのピストンカバーを容易に脱着でき、押圧部の変形量の調整作業時に、面倒なブレーキフルードの交換作業やエアー抜き作業を行なう必要がない。従って、液圧剛性の調整を、より容易に行なえる。
【0024】
又、より好ましくは、請求項9に記載した様に、弾性部材の自由状態で、この弾性部材を径方向に見た形状を、円周方向に関して一端から他端に向かうのに従って波形又はU字形に変化させる。
このより好ましい構成によれば、ピストンカバーの外周面に形成した係止溝を構成する側壁面の内面と弾性部材との間に存在する軸方向の隙間に基づき、このピストンカバーがピストン本体に対し軸方向にがたつく事を防止できる。
【0025】
又、好ましくは、請求項10に記載した様に、押圧部の反ロータ側の側面と、ピストン本体の先端部で段付の外周面とにより構成される円環状の係止溝に、ピストンの端部外周面とキャリパとの間に掛け渡す為のダストブーツの内周縁部を係止する。
この好ましい構成によれば、ピストン本体の外周面のみでダストブーツを係止する為の係止溝を構成せずに済み、加工コストの低減によりコストの低減を図り易くなる。又、係止溝を構成する1対の側壁面のうち、パッド側の側壁面の外径を大きくする事を容易に行なえる。この為、この係止溝にその内周縁部を係止したダストブーツのうち、上記パッドに対し露出する部分の面積を小さくするか又はなくす事ができ、制動時にパッドからダストブーツに伝達される輻射熱を抑え易くできる。この為、このダストブーツの熱劣化を抑え易くなる。
【実施例1】
【0026】
図1〜7は、請求項1〜4、7〜11に対応する、本発明の実施例1を示している。それぞれが本実施例のディスクブレーキ用ピストンである、インナピストン6及びアウタピストン7は、図1に示す様な対向ピストン型のディスクブレーキ1aに組み込んで使用する。このディスクブレーキ1aは、インナ側ボディ3とアウタ側ボディ4とを結合して成るキャリパ5と、これらインナ側ボディ3とアウタ側ボディ4とに、ロータ2(図12参照)を介して対向する状態で設けたインナシリンダ11及びアウタシリンダ12と、これら各シリンダ11、12に液密に嵌装したインナピストン6及びアウタピストン7と、上記インナ側ボディ3とアウタ側ボディ4との内側に互いに上記ロータ2を介して対向する状態で配置したインナパッド13及びアウタパッド14とを備える。使用時には、上記各ピストン6、7を、上記各シリンダ11、12内に液密に嵌装すると共に、これら各ピストン6、7の先端面41を、上記各パッド13、14のプレッシャープレート15、15の背面に突き当てる。そして、上記各シリンダ11、12内への圧油の供給による上記各ピストン6、7の押し出しに伴い、上記両パッド13、14を上記ロータ2の側面に押し付けて制動を行なう。尚、これら各ピストン6、7以外の、対向ピストン型ディスクブレーキの構造は、従来から広く知られており、本発明の要旨でもない為、これ以上の詳しい説明は省略若しくは簡略にする。
【0027】
特に、本実施例の場合には、上記各ピストン6、7が、図2、3、7に詳示する様に、一端(図2、7の左端)が開口し、他端(図2、7の右端)が塞がれた有底円筒状のピストン本体16と、このピストン本体16の一端開口部の内径側にこのピストン本体16に対し着脱自在に挿入する状態で結合された、断面L字形で全体を円筒状としたピストンカバー17とを備える。このうちのピストン本体16は、鉄系合金、アルミニウム合金等の金属により造られたもので、先端部に外周面の直径が小さくなった小径筒部18を設けている。又、このピストン本体16の内周面は、開口端側に設けた大径円筒部19と、奥端側に設けた直径が小さくなった小径円筒部20とを、段差面21により連続させている。又、この大径円筒部19の開口端部内周面と、上記小径筒部18の先端面41との連続部に、断面直線状(部分円すい面状)の面取り22を設けている。
【0028】
これに対して、上記ピストンカバー17は、ステンレス鋼等、上記ピストン本体16を構成する材料の熱伝導性よりも熱伝導性の低い材料により造っており、円筒状の本体部23と、この本体部23の軸方向一端(図2、7の左端)にこの本体部23と同心に一体に連結した、この本体部23よりも外径が大きい円板状の押圧部24とを備える。この本体部23の外径は、上記ピストン本体16の内周面を構成する大径円筒部19の内径d19よりも僅かに小さくしている。そして、上記本体部23をこの大径円筒部19の内側に挿入した状態で、上記ピストン本体16に設けた小径筒部18の先端面41を、上記押圧部24の反ロータ2側(図2、7の左側)の面の内径寄り部分に突き当てている。尚、上記本体部23の基端面(図2、7の右端面)は、上記大径円筒部19と小径円筒部20との連続部である段差面21には突き当てない。勿論、この大径円筒部19が各シリンダ11、12の奥端まで達し、段差面21がない状態としても、問題はない。
【0029】
又、上記押圧部24の反ロータ2側の面の外径寄り部分と、上記小径筒部20の外周面、及び、この小径筒部20と上記ピストン本体16の本体部の外周面との連続部である段差面25とにより、円環状の係止溝26を構成している。そして、この係止溝26に、ゴム等の弾性材製のダストブーツ27の内周縁部を係止自在としている。使用時には、このダストブーツ27の外周縁部を、前記キャリパ5の一部で各シリンダ11、12の開口端周縁部に形成した係止段部28、28に係止し、これら各係止段部28、28と上記各係止溝26、26との間に上記ダストブーツ27を掛け渡す。そして、この構成により、各ピストン6、7の先端部外周面と上記各シリンダ11、12の開口端部内周面との間を塞ぐ。
【0030】
又、上記押圧部24のロータ2側(図2、7の左側)の面の内径寄り部分に、非接触部である内径側環状凹部29を、前記ピストンカバー17と同心に設けている。この内径側環状凹部29の内周縁は、このピストンカバー17の内周面に達している。そして、この内径側環状凹部29の外径D1 を、上記小径筒部18の先端面41の外径D2 よりも少し大きくしている(D1 >D2 )。従って、この小径筒部18の先端面41を上記押圧部24の反ロータ2側の面に突き当てた状態で、上記押圧部24の側面で、上記内径側環状凹部29から外径側に外れた部分に形成される外径側環状凸部30は、上記小径筒部18の外周面よりも外径側に外れた位置に存在する。使用時には、この外径側環状凸部30の先端面が、各パッド13(又は14)のプレッシャプレート15の反ロータ2側の面に突き当てられる。又、上記内径側環状凹部29の底面とこのプレッシャプレート15の反ロータ2側の面との間に、円環状の隙間が形成される。そして、上記ピストン本体16の先端面41から上記ピストンカバー17に加わる荷重F1 の作用点A(図7)と、当該ピストン6(又は7)と対向するパッド13(又は14)からこのピストンカバー17に加わる荷重F2 の作用点B(図7)との、ピストンカバー17の径方向のずれδ(図7)に基づく、制動時の上記押圧部24の変形量を、上記ピストン本体16とピストンカバー17とのうちの少なくとも一方の部材の寸法を変える事により調節自在としている。又、上記作用点A、Bは、上記ロータ2の半径方向にずれている。
【0031】
上記変形量を調節する為に、例えば、上記内径側環状凹部29の外径D1 と、上記押圧部24の一部でこの内径側環状凹部29を形成した部分の最小の厚さx1 とのうちの少なくとも一方を異ならせた複数種類のピストンカバー17と1個のピストン本体16とを用意する。そして、これらピストンカバー17とピストン本体16との組み合わせを変える事により、上記内径側環状凹部29の外径D1 及び小径筒部18の先端面41の外径D2 の差y1 (=D1 −D2 =2y1 ´)と、上記最小の厚さx1 とのうちの少なくとも一方の寸法を変える。このうちの差y1 は、上記内径側環状凹部29の外径D1 を変化させる事により変えられる。この構成により、上記押圧部24の変形量を調節する。
【0032】
又、この押圧部24の変形量は、例えば次の様に定める。即ち、固定の平面部分に上記押圧部24の外径側環状凸部30の先端面を突き当てると共に、上記ピストン本体16の小径筒部18の先端面41をこの押圧部24の反ロータ2側の面の内径寄り部分に突き当て、このピストン本体16に上記平面部分に向いた所定の大きさの力を加えた状態での、この押圧部24とこの平面部分との接近量を求める。そして、この接近量を上記変形量とする。又、本実施例では、この押圧部24のうち、上記外径側環状凸部30が位置する外径寄り部分の厚さT30を一定としており、この押圧部24の一部で、上記内径側環状凹部29を形成した部分の最小の厚さx1 を変える事に伴って、この内径側環状凹部29の高さ(深さ)が変化する。
【0033】
本実施例のディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法は、上述の様に、上記内径側環状凹部29の外径D1 と、上押圧部24の一部でこの内径側環状凹部29を形成した部分の最小の厚さx1 とのうちの少なくとも一方を異ならせた複数種類のピストンカバー17と、ピストン本体16とを用意し、これらピストンカバー17とピストン本体16との組み合わせを変える事により制動時の上記押圧部24の変形量を変える。
【0034】
更に、本実施例のディスクブレーキ用ピストンの場合には、上記ピストンカバー17の本体部23の軸方向中間部外周面に第二の係止溝31を、全周に亙り形成している。そして、この第二の係止溝31に、ばね鋼製の線材により欠円環状(C字形)に造った弾性部材である、弾性リング32を係止している。この弾性リング32は、自由状態での径方向に見た形状が、円周方向に関して一端から他端に向かうのに従って波形に変化している。そして、上記弾性リング32を一方向から見た形状が、図5又は図6に示す様に皿形になっている。この様な弾性リング32は、上記第二の係止溝31に係止している。この弾性リング32の自由状態での外径d32は、上記ピストン本体16の内周面を構成する大径円筒部19の内径d19よりも少し大きくしている(d32>d19)。この様な弾性リング32は、上記第二の係止溝31に係止した状態で、その直径を弾力に抗して縮めつつ上記大径円筒部19の内側に、上記ピストンカバー17の本体部23と共に挿入している。そして、上記弾性リング32の外周縁を、この大径円筒部19の内周面に弾性的に押し付けている。
【0035】
上述の様に構成する本実施例のディスクブレーキ用ピストン及びディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法の場合、各ピストン6、7を、ピストン本体16と、このピストン本体16の一端開口部の内径側にこのピストン本体16に対し着脱自在に挿入する状態で結合したピストンカバー17とにより構成している。この為、このピストンカバー17及びピストン本体16で、寸法の異なる組み合わせに変える事により、所定の制動力を得るべくブレーキペダルを踏み込んだ場合の上記ピストンカバー17の押圧部24の変形量を容易に調整でき、液圧剛性を低くする等、所定の大きさに容易に調整できる。例えば、上記押圧部24の変形量を大きくした場合には、上記液圧剛性が低くなり、ブレーキペダルを踏み込んで所定の制動力が得られる場合のペダルストロークの延びを大きくできる。逆に、上記押圧部24の変形量を小さくした場合には、上記液圧剛性が高くなり、ブレーキペダルを踏み込んで所定の制動力が得られる場合のペダルストロークの延びを小さくできる。従って、制動力を大きくする等の為に剛性(圧縮変形量)の高いパッド13、14を組み込む場合でも、液圧剛性が通常使用するパッドの場合と同程度になる様に調整する事により、ブレーキペダルの操作に対する制動の応答性を通常使用するパッドの場合と同程度にする事を容易に行なえる。又、同じパッド13、14に於いても、液圧剛性を変える事により、ブレーキペダルの操作に対する制動の応答性を、運転者の好みに応じて容易に変える事ができる。
【0036】
又、本実施例の様に、上記ピストンカバー17を構成する材料の熱伝導性を、上記ピストン本体16を構成する材料の熱伝導性よりも低くする事により、アウタ、インナ各パッド13、14の熱をピストン本体16に伝達しにくくできる。この為、キャリパ5の温度上昇及び各シリンダ11、12内に送り込んだ圧油の温度上昇を抑える事ができる。従って、各ピストン6、7の端部外周面に装着するダストブーツ27、これら各ピストン6、7の外周面と各シリンダ11、12の内周面との間に設けるシール部材33、33(図1)等の、ディスクブレーキ1aの構成各部材の熱劣化を抑える事ができると共に、ベーパーロック等の熱害の発生を有効に防止できる。
【0037】
又、本実施例の場合には、ピストンカバー17の押圧部24の一部で、各パッド13、14に対向する側面に内径側環状凹部29を設けている。この為、上記押圧部24の側面とこれら各パッド13、14の背面との接触面積を小さくでき、制動時に発生する各パッド13、14の熱をピストン本体16に、より伝達しにくくできる。この為、ディスクブレーキ1aの構成各部材の熱劣化をより抑える事ができると共に、ベーパーロック等の熱害の発生をより有効に防止できる。
【0038】
更に、ピストン本体16の内周面とピストンカバー17の外周面との間に弾性リング32を設けている為、使用時に加わる振動等によりピストンカバー17がピストン本体16内から不用意に抜け出る事を防止できる。又、このピストンカバー17がこのピストン本体16内でがたついたり、振動する事を抑える事ができる。又、弾性リング32を伝熱性の低い材料により造れば、各パッド13、14の熱をピストン本体16に、より伝達しにくくできる。
【0039】
又、本実施例の場合には、弾性リング32を、ばね鋼製の線材により欠円環状に造られたものとし、上記ピストンカバー17の外周面に形成した第二の係止溝31にこの弾性リング32を係止すると共に、この弾性リング32をピストン本体16の内周面に弾性的に押し付けている。この為、この弾性リング32を安価に得る事ができ、ディスクブレーキ1a全体のコストを低減し易くできる。又、特殊な工具を用いる事なく、手作業で、ピストン本体16に対しピストンカバー17を容易に脱着できる。この為、ピストン本体16をシリンダ11、12に組み付けたままの状態で、このピストン本体16に対しこのピストンカバー17を容易に脱着でき、押圧部24の変形量の調整作業時に、面倒なブレーキフルードの交換作業やエアー抜き作業を行なう必要がなくなる。従って、液圧剛性の調整を、より容易に行なえる。
【0040】
更に、本実施例の場合には、上記弾性リング32の自由状態で、この弾性リング32を径方向に見た形状を、円周方向に関して一端から他端に向かうのに従って波形に変化させている。この為、この弾性リング32を上記ピストンカバー17の第二の係止溝31に係止した状態で、この弾性リング32がこの第二の係止溝31を構成する1対の側壁面に弾性的に押し付けられ易くなる。従って、これら1対の側壁面の内面と上記弾性リング32との間に存在する軸方向の隙間に基づき、上記ピストンカバー17が上記ピストン本体16に対し軸方向にがたつく事を防止できる。更に、本実施例の場合には、このピストンカバー17の押圧部の反ロータ2側の側面と、ピストン本体16の先端部で段付の外周面とにより構成される円環状の係止溝26に、ピストン6、7の端部外周面とキャリパ5との間に掛け渡す為のダストブーツ27の内周縁部を係止している。この為、上記ピストン本体16の外周面のみで、このダストブーツ27を係止する為の係止溝を構成せずに済み、加工コストの低減によりコストの低減を図り易くなる。更に、上記係止溝26を構成する1対の側壁面のうち、各パッド13、14側の側壁面の外径を大きくする事を容易に行なえる。この為、この係止溝26にその内周縁部を係止したダストブーツ27のうち、上記各パッド13、14に対し露出する部分の面積を小さくするか又はなくす事ができ、制動時に各パッド13、14からダストブーツ27に伝達される輻射熱を抑え易くできる。この為、このダストブーツ27の熱劣化を抑え易くなる。
【0041】
尚、本実施例の場合には、上記弾性リング32を自由状態で径方向に見た形状を、円周方向に関して一端から他端に向かうのに従って波形に変化させており、この弾性リング32を一方向から見た形状を皿形としているが、請求項7〜9に係る発明は、弾性部材の形状を、この様な形状に限定するものではない。例えば、弾性部材である弾性リングの波形のピッチ(隣り合う頂部間の長さ)を小さくして、図5と同方向に見た形状を波形とする事もできる。又、弾性リング32aを自由状態で径方向に見た形状を、円周方向に関して一端から他端に向かうのに従ってU字形(皿形)に変化させ、この弾性リング32aを、図5と同方向に見た形状を、図8に示す様なJを裏から見た形状とする事もできる。この様な弾性リング32aを使用した場合でも、上記第二の係止溝31を構成する側壁面の内面と弾性リング32aとの間に存在する軸方向の隙間に基づき、ピストンカバー17がピストン本体16に対し軸方向にがたつく事を防止できる。
【実施例2】
【0042】
次に、図9は、やはり請求項1〜4、7〜11に対応する、本発明の実施例2を示している。本実施例の場合には、各ピストン6(又は7)を構成するピストン本体16に設けた、ピストンカバー17の本体部23を挿入する為の凹孔34の内側に、第二の弾性部材である圧縮コイルばね35を組み込んでいる。そして、上記本体部23の基端面とこの凹孔34の底面との間で、この圧縮コイルばね35を挟持している。非制動時には、この圧縮コイルばね35の弾力により、上記ピストンカバー17が上記ピストン本体16の先端面41から離れる方向に変位して、このピストンカバー17の押圧部24の反ロータ側の側面と、このピストン本体16の小径筒部18の先端面41との間に隙間が形成される。
【0043】
この様な本実施例のディスクブレーキ用ピストンの場合には、制動初期時に、シリンダ11(又は12)内に送り込まれる圧油に基づいてピストン本体16に加わる力が、圧縮コイルばね36を介して、ピストンカバー17に加わる。そして、この力が大きくなる事に伴って、このピストン本体16がこの圧縮コイルばね36を弾力に抗して圧縮しつつピストンカバー17側に変位し、小径筒部18の先端面41がこのピストンカバー17の押圧部24の反ロータ2(図12参照)側の側面に突き当てられる。そして、上記ピストン本体16が当該突き当て部でこのピストンカバー17を押圧する。この為、制動初期時には、ブレーキペダルの踏み込みによる力が、上記圧縮コイルばね35を圧縮する事により消費され、ブレーキペダルのロスストローク(遊び)を大きくできる。
その他の構成及び作用に就いては、上述の図1〜7に示した実施例1の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
尚、本実施例の様に圧縮コイルばね35を設ける構造は、後述する実施例3、4の構造に適用する事もできる。
【実施例3】
【0044】
次に、図10は、請求項1〜3、5、7〜10、12に対応する、本発明の実施例3を示している。本実施例の場合には、ピストンカバー17を構成する押圧部24のうち、ロータ2側(図10の左側)の側面の外径寄り部分に外径側環状凹部36を、このピストンカバー17と同心に設けている。この外径側環状凹部36の外周縁は、上記押圧部24の外周面に達している。そして、この外径側環状凹部36の内径d1 を、ピストン本体16を構成する小径筒部18の先端面41で、上記押圧部24の反ロータ2側(図10の右側)の面に当接する部分の内径d2 よりも少し小さくしている(d1 <d2 )。従って、この小径筒部18の先端面41を上記押圧部24の反ロータ2側の面に突き当てた状態で、この押圧部24のうちのロータ2側の面で、上記外径側環状凹部36よりも内径側に外れた部分に形成された内径側環状凸部37は、上記小径筒部18の先端面41よりも内径側に外れた部分に存在する。本実施例の場合には、この内径側環状凸部37の先端面が、使用時に、各パッド13(又は14)のプレッシャプレート15(図1等参照)の反ロータ2側の面に突き当てられる。そして、上記ピストン本体16の先端面41から上記ピストンカバー17に加わる荷重の作用点と、当該ピストン6(又は7)と対向するパッド13(又は14)からこのピストンカバー17に加わる荷重の作用点との、ピストンカバー17の径方向のずれに基づく、制動時の上記押圧部24の変形量を、上記ピストン本体16とピストンカバー17とのうちの少なくとも一方の部材の寸法を変える事により調節自在としている。又、上記両作用点は、上記ロータ2の半径方向にずれている。
【0045】
上記変形量を調節する為に、例えば、上記外径側環状凹部36の内径d1 と、上押圧部24の一部でこの外径側環状凹部36を形成した部分の最小の厚さx2 とのうちの少なくとも一方を異ならせた複数種類のピストンカバー17と1個のピストン本体16を用意する。そして、これらピストンカバー17とピストン本体16との組み合わせを変える事により、上記外径側環状凹部36の内径d1 及び小径筒部18の先端面41の内径d2 の差y2 (=d2 −d1 =2y2 ´)と、上記最小の厚さx2 とのうちの少なくとも一方の寸法を変える。このうちの差y2 は、上記外径側環状凹部36の内径d1 を変化させる事により変えられる。この構成により、上記押圧部24の変形量を調節する。
【0046】
本実施例のディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法は、この様に、上記外径側環状凹部36の内径d1 と、上記押圧部24の一部でこの外径側環状凹部36を形成した部分の最小の厚さx2 とのうちの少なくとも一方を異ならせた複数種類のピストンカバー17とピストン本体16とを用意し、これらピストンカバー17とピストン本体16との組み合わせを変える事により制動時の上記押圧部24の変形量を変える。
【0047】
上述の様に構成する本実施例の場合も、ピストンカバー17及びピストン本体16で、寸法の異なる組み合わせに変える事により、所定の制動力を得るべくブレーキペダルを踏み込んだ場合の上記ピストンカバー17の押圧部24の変形量を、容易に調整できる。この為、液圧剛性を低くする等、所定の大きさに容易に調整できる。
その他の構成及び作用に就いては、前述の図1〜7に示した実施例1の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【実施例4】
【0048】
次に、図11は、請求項1〜3、6〜10、13に対応する、本発明の実施例4を示している。本実施例の場合には、前述の図1〜7に示した実施例1と、上述の図10に示した実施例3とを組み合わせた如き構成を有する。即ち、本実施例の場合には、ピストンカバー17を構成する押圧部24のうち、ロータ2側(図11の左側)の面の径方向中間部に中間環状凹部38を、このピストンカバー17と同心に設けている。この中間環状凹部38の内周縁は、ピストンカバー17の内周面に達しておらず、この中間環状凹部38の外周縁は、押圧部24の外周面に達していない。そして、この中間環状凹部38の内径d1 を、上記小径筒部18の先端面41で、上記押圧部24の反ロータ2側(図11の右側)の面に当接する部分の内径d2 よりも少し小さくしている(d1 <d2 )。又、上記中間環状凹部38の外径D1 を、上記小径筒部18の先端面41で、上記押圧部24の反ロータ2側の面に当接する部分の外径D2 よりも少し大きくしている(D1 >D2 )。本実施例の場合には、この押圧部24のロータ2側の面で、上記中間環状凹部38よりも内径側と外径側とにそれぞれ外れた部分に形成された内径側、外径側両環状凸部39、40の先端面が、使用時に、各パッド13(又は14)のプレッシャプレート15(図1等参照)の反ロータ2側の面に突き当てられる。そして、上記ピストン本体16の先端面41から上記ピストンカバー17に加わる荷重の作用点と、当該ピストン6(又は7)と対向するパッド13(又は14)からこのピストンカバー17に加わる荷重の作用点との、ピストンカバー17の径方向のずれに基づく、制動時の上記押圧部24の変形量を、上記ピストン本体16とピストンカバー17とのうちの少なくとも一方の部材の寸法を変える事により調節自在としている。又、上記両作用点は、上記ロータ2の半径方向にずれている。
【0049】
上記変形量を調節する為に、例えば、上記中間環状凹部38の外径D1 と、同じく内径d1 と、上記押圧部24の一部でこの中間環状凹部38を形成した部分の最小の厚さx3 とのうちの少なくとも何れかを異ならせた複数種類のピストンカバー17と、1個のピストン本体16とを用意する。そして、これらピストンカバー17とピストン本体16との組み合わせを変える事により、上記中間環状凹部38の外径D1 及び小径筒部18の先端面41の外径D2 の差y3 (=D1 −D2 =2y3 ´)と、この中間環状凹部29の内径d1 及び小径筒部18の先端面41の内径d2 の差y4 (=d2 −d1 =2y4 ´)と、上記最小の厚さx3 とのうちの少なくとも何れかの寸法を変える。又、上記差y3 は、上記中間環状凹部38の外径D1 を変化させる事により変えられる。又、上記差y4 は、上記中間環状凹部38の内径d1 を変化させる事により変えられる。この構成により、上記押圧部24の変形量を調節する。
【0050】
本実施例のディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法は、この様に、上記中間環状凹部38の外径D1 と、同じく内径d1 と、上押圧部24の一部でこの中間環状凹部38を形成した部分の最小の厚さx3 とのうちの少なくとも何れかを異ならせた複数種類のピストンカバー17と、ピストン本体16とを用意し、これらピストンカバー17とピストン本体16との組み合わせを変える事により制動時の上記押圧部24の変形量を変える。
【0051】
上述の様に構成する本実施例の場合も、ピストンカバー17及びピストン本体16で、寸法の異なる組み合わせに変える事により、所定の制動力を得るべくブレーキペダルを踏み込んだ場合の上記ピストンカバー17の押圧部24の変形量を、容易に調整でき、圧油の液圧剛性を低くする等、所定の大きさに容易に調整できる。
その他の構成及び作用に就いては、前述の図1〜7に示した実施例1の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0052】
尚、上述した各実施例では、本発明のディスクブレーキ用ピストンを、対向ピストン型ディスクブレーキに組み込んで使用するものとした場合に就いて説明した。但し、本発明は、この様な構造に限定するものではない。例えば、ロータの片側のみにピストン及びこのピストンを嵌装するシリンダを設ける、キャリパ浮動式のディスクブレーキに組み込んで使用する構造に、本発明を適用する事もできる。又、上述した各実施例では、ピストンカバー17の押圧部24がパッド13、14の背面に直接接触する場合に就いて説明したが、パッド13、14の背面側にシム板を装着し、この背面を、ピストンカバーの押圧部によりシム板を介して押圧する事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例1のディスクブレーキ用ピストンを、ディスクブレーキに組み込んだ状態で示す断面図。
【図2】一部を省略して示す、図1のA部拡大断面図。
【図3】図2の左方から見た図。
【図4】実施例1に組み込む弾性リングを取り出して示す図。
【図5】図4を矢印Bで示す方向に見た図。
【図6】同じく矢印Cで示す方向に見た図。
【図7】実施例1のディスクブレーキ用ピストンをパッドに突き当てた状態を示す、図2と同様の図。
【図8】弾性リングの別例を示す、図5と同様の図。
【図9】本発明の実施例2を示す、図2と同様の図。
【図10】同実施例3を示す、図2と同様の図。
【図11】同実施例4を示す、図2と同様の図。
【図12】従来から知られている対向ピストン型ディスクブレーキの1例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0054】
1、1a ディスクブレーキ
2 ロータ
3 インナ側ボディ
4 アウタ側ボディ
5 キャリパ
6 インナピストン
7 アウタピストン
11 インナシリンダ
12 アウタシリンダ
13 インナパッド
14 アウタパッド
15 プレッシャプレート
16 ピストン本体
17 ピストンカバー
18 小径筒部
19 大径円筒部
20 小径円筒部
21 段差面
22 面取り
23 本体部
24 押圧部
25 段差面
26 係止溝
27 ダストブーツ
28 係止段部
29 内径側環状凹部
30 外径側環状凸部
31 第二の係止溝
32、32a 弾性リング
33 シール部材
34 凹孔
35 圧縮コイルばね
36 外径側環状凹部
37 内径側環状凸部
38 中間環状凹部
39 内径側環状凸部
40 外径側環状凸部
41 先端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータの両側に配置された1対のパッドのうちの少なくとも一方のパッドの背面側に設けられて、シリンダ内からの押し出しに伴いこの一方のパッドを上記ロータの側面に押し付けて制動するディスクブレーキ用ピストンに於いて、
上記シリンダ内に嵌装されたピストン本体と、上記一方のパッドの背面に連接する押圧部を有するピストンカバーとを備え、
上記ピストン本体の端面から上記ピストンカバーに加わる荷重の作用点と、上記一方のパッドの背面に荷重を伝達する、このピストンカバーの押圧部の作用点とが、上記ロータの半径方向にずれている事を特徴とするディスクブレーキ用ピストン。
【請求項2】
上記ピストン本体はロータ側に開口する開口部を有し、この開口部に上記ピストンカバーが挿入された、請求項1に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項3】
一方のパッドと対向する、押圧部の側面に、この一方のパッドの背面との間に隙間を形成する為の非接触部を設けた請求項1又は請求項2に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項4】
上記非接触部が、一方のパッドと対向する、押圧部の側面の内周寄り部分に設けられた、その内周縁がこの押圧部の内周面に達する内径側環状凹部であり、この内径側環状凹部の外径D1 を、ピストン本体のうちでこの押圧部に当接する部分の外径D2 よりも大きくした、請求項3に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項5】
上記非接触部が、一方のパッドと対向する、押圧部の側面の外周寄り部分に設けられた、その外周縁がこの押圧部の外周面に達する外径側環状凹部であり、この外径側環状凹部の内径d1 を、ピストン本体のうちでこの押圧部に当接する部分の内径d2 よりも小さくした、請求項3に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項6】
上記非接触部が、一方のパッドと対向する、押圧部の側面の径方向中間部に設けられた、その内、外両周縁がこの押圧部の内、外両周面に達しない中間環状凹部であり、この中間環状凹部の外径D1 をピストン本体のうちでこの押圧部に当接する部分の外径D2 よりも大きくすると共に、この中間環状凹部の内径d1 をこのピストン本体のうちでこの押圧部に当接する部分の内径d2 よりも小さくした、請求項3に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項7】
ピストン本体の内周面とピストンカバーの外周面との間に弾性部材を設けた、請求項1〜6の何れかに記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項8】
弾性部材が、ばね鋼製の線材により円環状又は欠円環状に造られたものであり、ピストンカバーの外周面に形成した係止溝にこの弾性部材を係止すると共に、この弾性部材をピストン本体の内周面に弾性的に押し付けた、請求項7に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項9】
弾性部材の自由状態で、この弾性部材を径方向に見た形状を、円周方向に関して一端から他端に向かうのに従って波形又はU字形に変化させた、請求項8に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項10】
押圧部の反ロータ側の側面と、ピストン本体の先端部で段付の外周面とにより構成される円環状の係止溝に、ピストンの端部外周面とキャリパとの間に掛け渡す為のダストブーツの内周縁部を係止した、請求項1〜9の何れかに記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項11】
請求項4に記載したディスクブレーキ用ピストンの変形量の調節方法であって、一方のパッドと対向する、押圧部の側面に設けた外径側環状凹部の内径d1 と、この押圧部の一部でこの外径側環状凹部を形成した部分の最小の厚さx2 とのうちの少なくとも一方を異ならせた複数種類のピストンカバーとピストン本体とを用意し、これらピストンカバーとピストン本体との組み合わせを変える事により制動時の上記押圧部の変形量を変える、ディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法。
【請求項12】
請求項5に記載したディスクブレーキ用ピストンの変形量の調節方法であって、一方のパッドと対向する、押圧部の側面に設けた中間環状凹部の外径D1 と、同じく内径d1 と、この押圧部の一部でこの中間環状凹部を形成した部分の最小の厚さx3 とのうちの少なくとも何れかを異ならせた複数種類のピストンカバーとピストン本体とを用意し、これらピストンカバーとピストン本体との組み合わせを変える事により制動時の上記押圧部の変形量を変える、ディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法。
【請求項13】
請求項6に記載したディスクブレーキ用ピストンの変形量の調節方法であって、一方のパッドと対向する、押圧部の側面に設けた中間環状凹部の外径D1 と、同じく内径d1 と、この押圧部の一部でこの中間環状凹部を形成した部分の最小の厚さx3 とのうちの少なくとも何れかを異ならせた複数種類のピストンカバーとピストン本体とを用意し、これらピストンカバーとピストン本体との組み合わせを変える事により制動時の上記押圧部の変形量を変える、ディスクブレーキ用ピストンの変形量の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−29442(P2006−29442A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208858(P2004−208858)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】