説明

ディスクブレーキ用ピストン

【課題】優れた冷却性能の確保とコスト増大の防止との両立を図れる構造を実現する。
【解決手段】インナ、アウタ各ピストン8a、9aをそれぞれ、ピストン本体45とピストンキャップ32とを備えたものとする。そして、キャリパ5aに支持した第一、第二のダクト34、40を通じて送られた冷却気体が、前記インナ、アウタ各ピストン8a、9a内に設けた通気路46、46を通じて、このインナ、アウタ各ピストン8a、9a内を流通する様にする。即ち、前記冷却気体が、前記ピストン本体45の開口周縁部側から、このピストン本体45内のうちで、前記ピストンキャップ32により区画されるピストン本体側内部空間47を経由して、前記ピストン本体45の開口縁部側に流通する様にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るディスクブレーキ用ピストンは、自動車の制動を行う為のディスクブレーキに組み込んで、パッドをロータに向け押し付ける為に使用する。特に、本発明は、優れた冷却性能の確保とコスト増大の防止との両立を図れる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行なう為に、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータを挟む状態で設けた一対のパッドを、ピストンにより、このロータの両側面に押し付ける。この様なディスクブレーキとして従来から一般的に、例えば特許文献1〜2等に記載されている様な、懸架装置に対し固定されたサポートに前記一対のパッドを変位自在に支持した、キャリパ浮動式(フローティングキャリパ型)のディスクブレーキが使用されている。この様なキャリパ浮動式のディスクブレーキの場合には、前記ピストンは前記ロータの片側(自動車への組み付け状態で車体の幅方向中央側となるインナ側)にのみ設ける。これに対して、ロータの両側にピストンを設け、制動時にこれら各ピストンにより一対のパッドをこのロータの両側面に押し付ける、対向ピストン型のディスクブレーキも、優れた制動力を得られる事から、高性能車を中心に、近年普及している。
【0003】
図25〜26は、この様な対向ピストン型ディスクブレーキのうち、特許文献3に記載されたものを示している。この対向ピストン型のディスクブレーキ1は、ロータ2を挟む位置にインナ側ボディ3及びアウタ側ボディ4から成るキャリパ5を設け、これら各ボディ3、4内にインナシリンダ6及びアウタシリンダ7を、それぞれの開口部を前記ロータ2を挟んで互いに対向させた状態で設けている。そして、これらインナシリンダ6及びアウタシリンダ7内にインナピストン8、8及びアウタピストン9、9を、液密に、且つ前記ロータ2の軸方向に関する変位自在に嵌装している。又、前記インナ側ボディ3にはインナパッド10を、前記アウタ側ボディ4にはアウタパッド11を、それぞれ前記ロータ2の軸方向に変位自在に支持している。制動時には、前記インナシリンダ6及びアウタシリンダ7内に圧油を送り込み、前記インナピストン8及びアウタピストン9により、前記インナパッド10及びアウタパッド11を、前記ロータ2の内外両側面に押し付ける。
【0004】
又、図示の構造の場合は、制動時にインナ、アウタ各パッド10、11で発生した熱を、インナ、アウタ各シリンダ6、7内の油圧室12a、12b、延いては、ブレーキオイルに伝達しにくくすべく、前記インナ、アウタ各ピストン8、9のうちでインナ、アウタ各パッド10、11の背面を押圧する押圧部13a、13bに、冷却気体(例えば空気、冷却風等)を送り込み可能としている。この為に、車体に設けた空気取入口から流入する冷却気体を、パイプ14を通じてダクト(導管)15に導入し、このダクト15を通じて、前記インナ、アウタ各ピストン8、9の押圧部13a、13bに送り込んでいる。又、これらインナ、アウタ各ピストン8、9は、前記インナ、アウタ各シリンダ6、7内に嵌装される有底円筒状のピストン本体16a、16bと、前記押圧部13a、13bを有し、このピストン本体16a、16bに対し結合固定されるピストンキャップ17a、17bとを備えたものとしている。
【0005】
又、図示の例の構造の場合は、これら各ピストンキャップ17a、17bを、それぞれ大径円筒部18と小径円筒部19とを備えた段付き円筒状のものとし、このうちの大径円筒部18を前記押圧部13a(13b)とすると共に、前記各ピストンキャップ17a、17bの内周面の中間部で、前記大径円筒部18と小径円筒部19との連続部に対応する部分に、仕切板部20を設けている。そして、この様なピストンキャップ17a、17bのうちの小径円筒部19、19を前記ピストン本体16a、16bの開口周縁部に内嵌し、これらピストン本体16a、16bとピストンキャップ17a、17bとを結合固定する事により、前記インナ、アウタ各ピストン8、9を構成している。更に、この様なインナ、アウタ各ピストン8、9をインナ、アウタ各シリンダ6、7に嵌装した状態で、前記押圧部13a、13bの外周面に、前記ダクト15を通じて送られる冷却気体が吹き付けられる様にしている。尚、前記押圧部13a、13bである前記大径円筒部18、18には、内外両周面を貫通する状態で複数の通孔21、21を設け、これら各押圧部13a、13bの表面積の増大による、冷却効率の向上を図っている。
【0006】
ところが、上述の様な図25〜26に示した特許文献3に記載された構造の場合は、ピストンキャップ17a、17bに仕切り板部20を設けている為、冷却気体がシリンダ本体内16a、16bの内部空間22、22に送り込まれない。この為、前記ピストンキャップ17a、17bから前記ピストン本体16a、16bに伝わった熱が、そのまま(冷却されずに)このピストン本体16aの底部を介してブレーキオイルに伝わる可能性がある。一方、前記特許文献1には、図27〜28に示す様に、キャリパ浮動式のディスクブレーキ1aで、有底円筒状のピストン23の開口周縁部に、内外両周面を貫通する状態で複数の通孔25a、25bを設け、この通孔25a、25bを通じて、ピストン23の外部と内部との間で空気(冷却気体)の流通を可能にした構造が記載されている。この様な構造の場合は、前記ピストン23内に、前述の図25〜26に示した構造の様な仕切板部24(図25〜26参照)が存在しない分、この図25〜26に示した構造に比べれば、前記ピストン23内に空気を流通し易くできる。
【0007】
但し、この様な図27〜28に示した特許文献1に記載された構造の場合は、図28に示す様に、前記各通孔25a、25aを通じて前記ピストン23内に流入した空気が、この空気の流入方向に対向する位置に開口した別の通孔25b、25bを通じて、そのままピストン23外に流出する可能性がある。この為、このピストン23の内部空間26のうちで、前記通孔25a、25bを設けた部分よりもこのピストン23の底部側(図27の左側)に空気が送り込まれにくく(底部側の空気が滞留したままとなり)、このピストン23内の空気の流通を効率良く行えない可能性がある。この為、この様な図27〜28に示した特許文献1に記載された構造の場合にも、前述の図25〜26に示した特許文献3に記載された構造と同様に、ブレーキオイルに伝わる熱の低減を十分に図れない可能性がある。
【0008】
又、特許文献2には、図29に示す様に、ピストン23aの底部に設けた通気管27を、シリンダ24の底部に設けた貫通孔28に挿通し、この通気管27を通じて、ピストン23aの内部から外部に空気を流通可能にした構造が記載されている。又、特許文献4には、図30に示す様に、ピストン23bの底部に設けた通気管27aをシリンダ24aの底部に設けた貫通孔28aに挿通し、この通気管27aを通じて、ピストン23bの外部から内部に空気を流通可能にした構造が記載されている。但し、この様な特許文献2、4に記載された構造の場合には、ピストン23a、23bの外周面とシリンダ24、24aの内周面との間のシール部材29、29に加えて、前記通気管27、27aの外周面と前記貫通孔28、28aの内周面との間にもシール部材29a、29aを設ける必要があり、その分、ピストン23a、23bの摺動抵抗が増大する可能性がある。
【0009】
この様な摺動抵抗の増大は、パッド30とロータ2との引き摺りトルクの増大に繋がる他、この引き摺りに伴う温度上昇を招く可能性があり、好ましくない。又、通気管27、27aを設ける分、ピストン23a、23bの構造が複雑になり、その分、油圧室31からエアを抜く際のエア溜りができ易くなる可能性もある。又、前記通気管27、27aや貫通孔28、28aを設ける為の加工が増える他、シール部材29、29aを係止する為の係止溝の加工も増え、その分、コストの増大を招く可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−84842号公報
【特許文献2】特開2004−332875号公報
【特許文献3】特開2000−213576号公報
【特許文献4】特表2005−514570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明のディスクブレーキ用ピストンは、上述の様な事情に鑑み、優れた冷却性能の確保とコスト増大の防止との両立を図れる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のディスクブレーキ用ピストンは、従来から知られているディスクブレーキ用ピストンと同様に、車輪と共に回転するロータの両側に配置された一対のパッドのうちの少なくとも一方のパッドの背面側に設けられて、シリンダ内からの押し出しに伴いこの一方のパッドを前記ロータの側面に押し付けて制動するものである。
特に、本発明のディスクブレーキ用ピストンに於いては、前記シリンダ内に嵌装される有底円筒状のピストン本体と、前記一方のパッドの背面を押圧する押圧部を有し、このピストン本体に対し結合固定されるピストンキャップとを備える。そして、冷却気体(例えば空気)を、このピストン本体の開口周縁部の円周方向一部から、このピストン本体内のうちで、前記ピストンキャップにより区画されるピストン本体側内部空間を経由し、前記ピストン本体の開口周縁部の円周方向残部に流通させる為の通気路を設けている。
【0013】
この様な本発明のディスクブレーキ用ピストンを実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記ピストンキャップに、前記ピストン本体の底部とこのピストン本体の周囲空間との間で冷却気体を流通させる為の通気孔を設ける。より具体的には、前記ピストンキャップに、このピストンキャップの外周面側から径方向内方に流通する冷却気体を軸方向(ピストン本体の底部に向かう方向)に導く為の通気孔(流入側通気孔)と、前記ピストン本体側内部空間の冷却気体を、このピストン本体側内部空間側から前記ピストンキャップの外周面側に向けて径方向外方に導く為の通気孔(流出側通気孔)とを設ける。
又、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記ピストンキャップを有底筒状のものとすると共に、このピストンキャップの開口周縁部を押圧部とし、更に、このピストンキャップの内面により構成されるピストンキャップ側内部空間に冷却気体を導く為の第二の通気孔を設ける。
又、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記ピストンキャップを前記ピストン本体内に、締り嵌めにより内嵌固定(圧入固定)する。
又、好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、前記冷却気体は、前記シリンダを設けたキャリパに支持したダクトを通じて、前記ピストン本体の開口周縁部近傍に送られるものとする。
更に、例えば請求項6に記載した発明の様に、前記一方のパッドの背面と前記押圧部との間に間隔調整部材を設け、この間隔調整部材を介して、この一方のパッドの背面を押圧する。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ用ピストンによれば、優れた冷却性能の確保とコスト増大の防止との両立を図れる。
即ち、通気路を通じて冷却気体(例えば空気)をピストン本体側内部空間に導入する為、この冷却気体の流路表面積(ピストンのうちで冷却気体に触れる部分の表面積)の増大を図れると共に、この冷却気体によりピストン本体を直接冷却する事ができる。しかも、ディスクブレーキ用ピストンを、ピストン本体とピストンキャップとを組み合わせる事により構成している為、冷却性能の確保を図れる構造を、安価に構成できる。
【0015】
又、請求項2に記載した発明の様に、前記ピストンキャップに、前記ピストン本体の底部側に向けて冷却気体を導く為の通気孔を開口させた場合には、この冷却気体を、前記ピストン本体側内部空間の底部側に確実に導く事ができ、冷却性能の確保をより確実に図れる。又、この様に冷却気体を、前記ピストン本体側内部空間の底部側に確実に導ける構造を、簡素、且つ、安価に構成できる。
又、請求項3に記載した発明の様に、前記ピストンキャップに、ピストンキャップ側内部空間に冷却気体を導く為の第二の通気孔を設けた場合には、このピストンキャップ、延いては、このピストンキャップの押圧部を介して押圧されるパッドの背面の冷却も図れる。この為、更なる冷却性能の確保を図れる。
【0016】
又、請求項4に記載した発明の様に、前記ピストンキャップを前記ピストン本体内に、締り嵌めにより内嵌固定(圧入固定)させた場合には、これらピストンキャップとピストン本体とを、面倒な工程を必要とする事なく確実に結合する事ができ、製造コストの低減を図れる。
又、請求項5に記載した発明の様に、前記冷却気体を、前記シリンダを設けたキャリパに支持したダクトを通じて、前記ピストン本体の開口周縁部近傍に送れば、この冷却気体によりディスクブレーキ用ピストンの冷却を効率良く行える。
更に、請求項6に記載した発明の様に、間隔調整部材を介してパッドの背面を押圧する場合には、この間隔調整部材の厚さ(ロータの軸方向に関する厚さ)に応じて、パッドの側面(ロータの側面に押し付けられる面)の(ロータの軸方向に関する)位置調節を行える。この為、例えば前記パッドの摩耗が進んだ状態で、前記間隔調整部材を設ける事により、このパッドを新品のものに交換しなくても、このパッドの側面の位置を新品の場合と同じにできる。この為、パッドが新品でなくても、制動時のブレーキペダルの踏み込み量を、この新品のものと同じにする事ができ、制動時の応答性の確保(踏み込み量の低減)と、パッドの有効利用とを図れる。又、前記間隔調整部材を設ける事で、前記パッドの厚さ(ロータの軸方向に関する厚さ)を小さくする事もでき、このパッドの厚さの低減に基づく軽量化を図る事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、ディスクブレーキを外径側且つインナ側から見た斜視図。
【図2】同じく、外径側且つアウタ側から見た斜視図。
【図3】同じく外径側から見た正投影図。
【図4】同じくインナ側から見た正投影図。
【図5】同じくアウタ側から見た正投影図。
【図6】図4の右方から見た正投影図。
【図7】同じく左方から見た正投影図。
【図8】同じく内径側から見た正投影図。
【図9】図4のA−A断面図。
【図10】ピストンを取り出して示す斜視図。
【図11】同じく分解斜視図。
【図12】同じくピストン本体を切断して示す部分切断斜視図。
【図13】ピストンを示す図で、(イ)は、ピストン本体をロータ側から見た正投影図、(ロ)は、(イ)の左方から見た正投影図、(ハ)は、ピストンキャップを(ロ)と同方向から見た図、(ニ)は、ピストンキャップを(イ)と同方向から見た図、(ホ)は、ピストン本体とピストンキャップとを組み合わせて成るピストンを(ロ)(ハ)と同方向から見た図。
【図14】図13の(ニ)のB−0−B断面図。
【図15】インナ側に組み込まれるインナピストンと第二のダクトとを取り出して、外径側且つアウタ側から見た斜視図。
【図16】同じくインナ側から見た斜視図。
【図17】同じく外径側から見た正投影図。
【図18】同じくインナ側から見た正投影図。
【図19】図18のC−C断面図。
【図20】本発明の効果を確認する為に行った実験の結果を示す線図。
【図21】本発明の実施の形態の第2例を示す、図10と同様の斜視図。
【図22】同じく、図21と逆側から見た状態で示す切断斜視図。
【図23】間隔調整部材を図21と同方向から見た斜視図。
【図24】図23と逆側から見た斜視図。
【図25】ディスクブレーキの従来構造の第1例を示す断面図。
【図26】一部を省略して、外径側且つインナ側から見た斜視図。
【図27】従来構造の第2例を示す断面図。
【図28】ピストンのみを取り出して示す、図27のD−D断面図。
【図29】従来構造の第3例を示す断面図。
【図30】同第4例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の第1例]
図1〜19は、請求項1〜5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。それぞれが本例のディスクブレーキ用ピストンである、一対のインナピストン8a、8a及び1対のアウタピストン9a、9a(図8〜9)は、図1〜9に示す様な対向ピストン型のディスクブレーキ1bに組み込んで使用する。このディスクブレーキ1bは、インナ側ボディ3aとアウタ側ボディ4aとを結合して成るキャリパ5aと、これらインナ側ボディ3aとアウタ側ボディ4aとに、ロータ2(例えば図25等参照)を介して対向する状態で設けたインナシリンダ6a及びアウタシリンダ7a(図9)と、これら各シリンダ6a、7aに液密に嵌装したインナピストン8a、8a及びアウタピストン9a、9aと、前記インナ側ボディ3aとアウタ側ボディ4aとの内側に、前記ロータ2を挟んで互いに対向させた状態で配置したインナパッド10a及びアウタパッド11a(図8〜9)とを備える。
【0019】
使用時には、前記インナ、アウタ各ピストン8a、9aを、前記インナ、アウタ各シリンダ6a、7a内に液密に嵌装すると共に、これら各ピストン8a、9aの先端部である、後述するピストンキャップ32、32の押圧部33、33を、前記インナ、アウタ各パッド10a、11aの背面に突き当てる。そして、前記インナ、アウタ各シリンダ6a、7a内への圧油の供給による前記インナ、アウタ各ピストン8a、9aの押し出しに伴い、前記インナ、アウタ各パッド10a、11aを前記ロータ2の側面に押し付けて制動を行う。尚、この様な対向ピストン型ディスクブレーキの基本構成に関しては、従来から広く知られており、本発明の要旨でもない為、詳しい説明は省略し、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0020】
本例の場合は、インナ側ボディ3aとアウタ側ボディ4aとの間に掛け渡す状態で、冷却気体(例えば空気)の流通路となる第一のダクト34を設けている。この第一のダクト34は、上流側開口部を、車体側に設けた図示しない車体側ダクトの下流側開口部に対向させると共に、この車両側ダクトから導入された冷却気体を、第一のダクト34を通じて、前記アウタパッド11aの背面と、このアウタパッド11aの背面に対応する前記アウタ側ボディ4aの側面との間に導入する。この為に、本例の場合は、前記第一のダクト34を、開口筒部35と、覆い部36と、折れ曲がり部37とを備えたものとしている。このうちの開口筒部35は、断面略三角形状で、インナ側ボディ3aのインナ側側面に対向する状態で開口するものである。
【0021】
又、前記覆い部36は前記キャリパ5aの外径側開口部の円周方向中間部を覆うもので、前記インナ側ボディ3aとアウタ側ボディ4aとを掛け渡す状態で設けられている。又、前記折れ曲がり部37は、前記覆い部36とパッドスプリング38との間を通じてアウタ側ボディ4a側に送られた冷却気体を、前記アウタパッド11aの背面とアウタ側ボディ4aの側面との間を介して、前記各アウタピストン9a、9aのインナ側周縁部近傍に導く為のもので、前記覆い部36のアウタ側端部に連続する状態で設けられている。そして、これら開口筒部35と覆い部36と折れ曲がり部37とを一体に形成すると共に、このうちの開口筒部35と折れ曲がり部37とにそれぞれ設けた取り付け片39、39により、前記第一のダクト34を前記キャリパ5aに支持している。尚、この様な第一のダクト34は、例えば炭素繊維を含有する合成樹脂(CFRP:炭素繊維強化プラスチック)等を射出成形する事により、或いは、ステンレス鋼板等の金属板を曲げ形成する事により造れる。
【0022】
又、上述の様な第一のダクト34の上流側開口部である前記開口筒部35の内側に、第二のダクト40の上流側開口部を設けている。この第二のダクト40は、第二の開口筒部41と、分岐流路部42とを備える。このうちの第二の開口筒部41は、前記第一のダクト34の開口筒部35内に送り込まれた冷却気体の一部を取り込む為のもので、円管状である。又、前記分岐流路部42は、前記第二の開口筒部41に取り込まれた冷却気体を、前記各インナピストン8a、8aのアウタ側周縁部近傍に導くもので、前記第二の開口筒部41の下流側開口部にその上流側開口部を結合している。そして、これら第二の開口筒部41と分岐流路部42とを一体に組み合わせると共に、この第二の開口筒部41をインナ側ボディ3aに設けた支持孔43に内嵌した状態で、前記第二のダクト40を前記キャリパ5aに支持している。又、この状態で、前記分岐流路部42は、前記インナパッド10aの背面とインナ側ボディ3aの側面との間に配置されると共に、一対の下流側開口部44、44が、それぞれインナピストン8a、8aのアウタ側周縁部に近接対向する。尚、この様な第二のダクト40は、例えばステンレス鋼製等の金属製の管状素材から成る第二の開口筒部41と、プレス加工品である分岐流路部42とを溶接する事により造れる。
【0023】
又、本例の場合は、インナ、アウタ各ピストン8a、9aをそれぞれ、ピストン本体45とピストンキャップ32とを組み合わせたものとしている。このうちのピストン本体45は、有底円筒状に形成され、前記インナ、アウタ各シリンダ6a、7a内に油密に嵌装されるものである。又、前記ピストンキャップ32は、前記インナ、アウタ各パッド10a、11aの背面を押圧する押圧部33を有し、前記ピストン本体45の開口周縁部に結合固定されるものである。そして、上述した様な第一、第二のダクト34、40を通じて送り込まれた冷却気体を、前記インナ、アウタ各ピストン8a、9a内に設けた通気路46、46を通じて、このインナ、アウタ各ピストン8a、9a内に流通させる様にしている。具体的には、前記冷却気体が、前記ピストン本体45の開口周縁部の円周方向一部から、このピストン本体45内のうちで、前記ピストンキャップ32により区画されるピストン本体側内部空間47を経由して、前記ピストン本体45の開口周縁部の円周方向残部に流通する様にしている。
【0024】
この為に、本例の場合は、前記ピストンキャップ32の外周面の円周方向等間隔複数個所(本例の場合は6箇所位置)に、前記冷却気体を前記ピストン本体側内部空間47に導く為の通気孔48、48を、前記ピストン本体45の底部に向けて開口する状態で形成している。この様な各通気孔48、48は、前記ピストンキャップ32の外周面側から径方向に流通する冷却気体を軸方向(ピストン本体45の底部に向かう方向)に導く機能、乃至は、前記ピストン本体側内部空間47の冷却気体を、このピストン本体側内部空間47側から前記ピストンキャップ32の外周面側に向けて導く機能を有する。又、本例の場合には、前記ピストンキャップ32を、凹部53を設けた有底円筒状のものとし、このピストンキャップ32の開口周縁部を、前記インナ、アウタ各パッド10a、11aの背面を押圧する為の前記押圧部33としている。
【0025】
又、これと共に、このピストンキャップ32の凹部53の内面により構成されるピストンキャップ側内部空間49に冷却気体を導く為の第二の通気孔50、50を、前記ピストンキャップ32の外径寄り部分のうちで、円周方向に関して前記各通気孔48、48の間部分に、それぞれ設けている。本例の場合は、前記第二の通気孔50、50の数を、前記通気孔48、48と同数の6個としている。そして、この様な通気孔48、48並びに第二の通気孔50、50を設けたピストンキャップ32の基端側半部を、前記ピストン本体45の開口周縁部に締り嵌めにより内嵌固定(圧入固定)する事により、これらピストンキャップ32とピストン本体45とを不離に結合している。又、この様に不離に結合した状態で、前記ピストンキャップ32の押圧部33と前記ピストン本体45の開口周縁部との間に、前記通気孔48、48並びに第二の通気孔50、50の各開口部が露出する様にしている。
【0026】
この様な本例の場合には、上述の様なインナ、アウタ各ピストン8a、9aの冷却を、次の様に行う。即ち、前記車体側ダクトを介して第一のダクト34に送られた冷却気体は、この第一のダクト34を通じて、前記各アウタピストン9a、9aのインナ側周縁部近傍、即ち、これら各アウタピストン9a、9aを構成するピストンキャップ32の押圧部33とピストン本体45の開口周縁部との間部分の円周方向一部に送られる。又、前記第一のダクト34内に送られた冷却気体の一部は、この第一のダクト34内に設けた第二のダクト40を通じて、前記各インナピストン8a、8aのアウタ側周縁部近傍、即ち、これら各インナピストン8a、9aを構成するピストンキャップ32の押圧部33とピストン本体45の開口周縁部との間部分の円周方向一部に送られる。
【0027】
そして、この様に第一、第二のダクト34、40を通じて送られた冷却気体が、前記インナ、アウタ各ピストン8a、9aの各通気路46、46を流通する事により、これらインナ、アウタ各ピストン8a、9aの冷却が行われる。即ち、前記冷却気体は、前記第一、第二のダクト34、40の下流側流出口に対向する、流入側通気孔となる前記通気孔48、48の一部並びに前記第二の通気孔50、50の一部を通じて、前記ピストン本体側内部空間47並びに前記ピストンキャップ側内部空間49に流入する。そして、この様な冷却気体の流入に基づき、前記ピストンキャップ32並びにピストン本体45が冷却されると共に、前記ピストン本体側内部空間47並びに前記ピストンキャップ側内部空間49から冷却気体が、前記第一、第二のダクト31、40の下流側流出口と対向していない、流出側通気孔となる別の(前記ピストンキャップ32並びにピストン本体45の径方向に関して、凡そ反対側に存在する残りの)通気孔48、48並びに別の第二の通気孔50、50を通じて流出する(排出する)。
【0028】
上述の様に構成する本例の場合には、優れた冷却性能の確保とコスト増大の防止との両立を図れる。
即ち、前記各通気路46を通じて冷却気体を、前記ピストン本体側内部空間47並びに前記ピストンキャップ側内部空間49に導入する為、この冷却気体の流路表面積(インナ、アウタ各ピストン8a、9aのうちで冷却気体に触れる部分の表面積)の増大を図れる。又、これと共に、この冷却気体によりピストン本体45並びにピストンキャップ32を直接冷却する事ができる。この為、このピストン本体45の外周面や底部を介してブレーキオイルやシール部材51、51に伝わる熱の低減を図れ、優れた冷却性能の確保、並びに、これら各シール部材51、51の熱劣化の低減を図れる。図20は、本例の構造(本ピストン:通気路46を設けた構造)と、参考例の構造(ノーマルピストン:本例の様な通気路46を設けていない構造、即ち、ピストン本体側内部空間47を冷却気体が流通しない構造)との、制動時に於ける、パッド並びにブレーキオイルの温度変化の1例を示している。この様な制動時の温度変化を表す線図から明らかな様に、本例と参考例とでは、パッドの温度変化が同じにも拘らず、本例の構造の場合の方が、ブレーキオイルの温度上昇の程度を抑えられる。
【0029】
又、本例の場合には、インナ、アウタ各ピストン8a、9aを、ピストン本体45とピストンキャップ32とを組み合わせる事により構成している為、このピストンキャップ32に、前述した様な通気孔48、48並びに第二の通気孔50、50を形成する事で、上述の様な冷却性能の確保を図れる構造を、安価に構成できる。この理由は、これら通気孔48、48並びに第二の通気孔50、50を、前記ピストン本体45と分離させた状態の前記ピストンキャップ32に、例えば(必要に応じてプレス加工、鍛造加工、切削加工等を施してから)穿孔加工を施す事により容易に形成できる為である。又、この様にピストン本体45と分離させた状態のピストンキャップ32に加工を施す事で、冷却気体を流通させる為の通気路46を設けられる為、形状が多少複雑な通気路46の形成も可能になり、この冷却気体の流通経路の自由度の確保も図れる。又、前述の図29、30に示した様な通気管27、27aを設けた従来構造に比べ、引き摺りトルクの低減、エア溜りの低減を図れると共に、コストの低減も図れる。
【0030】
又、本例の場合には、前記通気路46を構成する通気孔48、48の、ピストン本体側内部空間47側の開口部を、前記ピストン本体45の底部に向けている(底部に対向する状態で開口させている)。この為、このピストン本体側内部空間47に流入する冷却気体をこのピストン本体45の底部側に効果的に導く事ができ、冷却性能の確保をより効果的に図れる。又、前記ピストンキャップ32に、ピストンキャップ側内部空間49に冷却気体を導く為の第二の通気孔50、50も設けている為、このピストンキャップ32、延いては、このピストンキャップ32の押圧部33を介して押圧されるインナ、アウタ各パッド10a、11aの背面の冷却も図れる。この為、この面からも冷却性能の確保を図れる。又、本例の場合には、前記ピストンキャップ32を前記ピストン本体45内に締り嵌めにより内嵌固定(圧入固定)させる事で、これらピストンキャップ32とピストン本体45とを不離に結合している。この為、面倒な工程を必要とする事なく、この結合を確実に行う事ができ、製造コストの低減も図れる。又、前記冷却気体を、前記キャリパ5aに支持した第一、第二のダクト34、40を通じて前記インナ、アウタ各ピストン10a、11aに送り込む為、これら各ピストン10a、11aの冷却を効率良く行える。
【0031】
[実施の形態の第2例]
図21〜24は、請求項1〜6に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、インナパッド10a又はアウタパッド11a(例えば図9等参照)の背面とピストンキャップ32の押圧部33との間に、間隔調整部材52を設け、この間隔調整部材52を介して前記パッド10a、11aの背面を押圧する様にしている。この間隔調整部材52は、前記ピストンキャップ32の凹部53に内嵌固定される嵌合筒部54と、このピストンキャップ32の押圧部33にその背面が当接する調整押圧部55とを備える。又、前記嵌合筒部54には、この嵌合筒部54が前記凹部53から容易に抜け出る事を防止する為の、円環状の弾性部材56を設けている。この様な間隔調整部材52を介してパッド10a、11aの背面を押圧する本例の場合には、この間隔調整部材52の調整押圧部55の厚さ{ロータ2(例えば図25参照)の軸方向に関する厚さ}に応じて、前記パッド10a、11aの側面(ロータ2の側面に押し付けられる面)の(ロータ2の軸方向に関する)位置調節を行なえる。
【0032】
この為、例えばこのパッド10a、11aの摩耗が進んだ状態で、前記間隔調整部材52を設ける事により、このパッド10a、11aを新品のものに交換しなくても、このパッド10a、11aの側面の位置を新品の場合とほぼ同じにできる。この為、このパッド10a、11aが新品でなくても、制動時のブレーキペダルの踏み込み量を、この新品のものと同じにする事ができ、制動時の応答性の確保(踏み込み量の低減)と、パッド10a、11aの有効利用とを図れる。又、前記間隔調整部材52を設ける事で、前記パッド10a、11aの厚さ(ロータ2の軸方向に関する厚さ)を小さくする事もでき、このパッド10a、11aの厚さの低減に基づく軽量化を図る事もできる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
上述した各例は、本発明のディスクブレーキ用ピストンを、対向ピストン型ディスクブレーキに組み込んで使用する場合を示している。但し、本発明の実施の形態は、この様な構造に限定するものではない。例えば、前述の図27に示した様な、ロータ2の片側のみにピストン23及びこのピストン23を嵌装する(インナ)シリンダ6を設けた、キャリパ浮動式ディスクブレーキに組み込むピストンに、本発明を適用する(本発明のディスクブレーキ用ピストンを組み込んで使用する)事もできる。
【符号の説明】
【0034】
1、1a、1b ディスクブレーキ
2 ロータ
3、3a インナ側ボディ
4、4a アウタ側ボディ
5、5a キャリパ
6、6a インナシリンダ
7、7a アウタシリンダ
8、8a インナピストン
9、9a アウタピストン
10、10a インナパッド
11、11a アウタパッド
12a、12b 油圧室
13a、13b 押圧部
14 パイプ
15 ダクト
16a、16b ピストン本体
17a、17b ピストンキャップ
18 大径円筒部
19 小径円筒部
20 仕切板部
21 通孔
22 内部空間
23、23a、23b ピストン
24、24a シリンダ
25a、25b 通孔
26 内部空間
27、27a 通気管
28、28a 貫通孔
29、29a シール部材
30 パッド
31 油圧室
32 ピストンキャップ
33 押圧部
34 第一のダクト
35 開口筒部
36 覆い部
37 折れ曲がり部
38 パッドスプリング
39 取り付け片
40 第二のダクト
41 第二の開口筒部
42 分岐流路部
43 支持孔
44 下流側開口部
45 ピストン本体
46 通気路
47 ピストン本体側内部空間
48 通気孔
49 ピストンキャップ側内部空間
50 第二の通気孔
51 シール部材
52 間隔調整部材
53 凹部
54 嵌合筒部
55 調整押圧部
56 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータの両側に配置された一対のパッドのうちの少なくとも一方のパッドの背面側に設けられて、シリンダ内からの押し出しに伴いこの一方のパッドを前記ロータの側面に押し付けて制動するディスクブレーキ用ピストンに於いて、
前記シリンダ内に嵌装される有底円筒状のピストン本体と、前記一方のパッドの背面を押圧する押圧部を有し、このピストン本体に対し結合固定されるピストンキャップとを備え、冷却気体を、このピストン本体の開口周縁部の円周方向一部から、このピストン本体内のうちで、前記ピストンキャップにより区画されるピストン本体側内部空間を経由し、前記ピストン本体の開口周縁部の円周方向残部に流通させる為の通気路を設けた事を特徴とするディスクブレーキ用ピストン。
【請求項2】
前記ピストンキャップに、前記ピストン本体の底部とこのピストン本体の周囲空間との間で冷却気体を流通させる為の通気孔を設けた、請求項1に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項3】
前記ピストンキャップを有底筒状のものとすると共に、このピストンキャップの開口周縁部を押圧部とし、更に、このピストンキャップの内面により構成されるピストンキャップ側内部空間に冷却気体を導く為の第二の通気孔を設けた、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項4】
前記ピストンキャップを前記ピストン本体内に、締り嵌めにより内嵌固定した、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項5】
前記冷却気体は、前記シリンダを設けたキャリパに支持したダクトを通じて、前記ピストン本体の開口周縁部の円周方向一部の近傍に送られるものである、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項6】
前記一方のパッドの背面と前記押圧部との間に間隔調整部材を設け、この間隔調整部材を介してこの一方のパッドの背面を押圧する、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用ピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2010−190405(P2010−190405A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38191(P2009−38191)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】