説明

ディスクブレーキ装置

【課題】運動変換機構にパッドが着脱可能な構成でありながら、パッドが運動変換機構に装着されて一体的に移動されるディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】
ディスクブレーキ装置は、ベースプレートと、インナーパッド43を保持するウェッジプレート37と、ウェッジプレート37を制動面に平行且つローターの回転方向にスライド移動させながら制動面に垂直な方向に移動させる電動モータユニットおよびローラ36とを備え、インナーパッド43は、制動面の径方向への移動が規制されてウェッジプレート37に装着されるとともに、径方向への移動規制が解除されてウェッジプレート37から取り外すことが可能に構成されており、ウェッジプレート37にインナーパッド43が装着された状態において、ウェッジプレート37に対するインナーパッド43のローターの回転方向および制動面に垂直な方向への移動を規制するパッド移動規制機構を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に用いられ、摩擦により制動力を発生させるディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置は車両等に広く用いられており、ブレーキペダルに対する踏込み操作に応じて、ホイールとともに回転するローターにパッドを押し付けて摩擦力を発生させることで、ローターの回転を制動するように構成される。従来、油圧力を用いてピストンを作動させることで、ローターに対してパッドを押し付けるタイプのディスクブレーキ装置や、油圧力の代わりに圧縮空気を用いてレバーを作動させるタイプのディスクブレーキ装置が良く知られている。
【0003】
例えば油圧力を用いてピストンを作動させるディスクブレーキ装置においては、ブレーキペダルに対する操作力を増幅させる倍力装置や、倍力装置によって増幅された操作力を液圧に変換するマスタシリンダー等の装置が必要となり、装置構成が複雑になりがちであった。そこで最近、ブレーキペダルに対する操作に応じて電動モータを回転駆動させ、この回転駆動力を用いてローターにパッドを押し付けて制動力を発生させるタイプのディスクブレーキ装置が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。この特許文献1のような構成とすることで、倍力装置やマスタシリンダー等を省いてシンプルなディスクブレーキ装置を構成できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−516169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のような構成のディスクブレーキ装置においては、電動モータの回転駆動力をローターにパッドを押し付ける押圧力に変換するための運動変換機構を備えた上で、この運動変換機構(電動モータの回転駆動力に応じて駆動される部分)にパッドが一体的に結合されて装着される必要がある。一方で、繰り返してローターにパッドを押し付けることでパッドは摩耗するため、必要に応じて運動変換機構からパッドを取り外すことができる構成も求められる。このように、パッドを運動変換機構に一体的に結合させて装着する構成でありながら、運動変換機構に対してパッドを着脱できるように構成することが難しいという課題があった。
【0006】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、パッドを運動変換機構に一体的に結合させて装着する構成でありながら、運動変換機構に対してパッドを着脱できるディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るディスクブレーキ装置は、制動対象となる回転体に連結されて回転する円盤状の制動面を有したローターと、前記ローターに対して回転方向に固定されて配置されたキャリパ(例えば、実施形態におけるキャリパアセンブリ10)と、前記ローターの制動面に対向して配置される摩擦パッド(例えば、実施形態におけるアウターパッド41、インナーパッド43)と、前記キャリパに取り付けられて前記摩擦パッドを前記制動面に押し付ける作動を行わせる制動作動機構とを有して構成されるディスクブレーキ装置であって、前記制動作動機構が、前記キャリパに取り付けられたベース部材(例えば、実施形態におけるベースプレート35)と、前記ベース部材に対向配置されて前記摩擦パッドを保持するスライド部材(例えば、実施形態におけるウェッジプレート37)と、前記ベース部材および前記スライド部材の間に設けられ、前記ベース部材に対して前記スライド部材を前記制動面に平行且つ前記ローターの回転方向にスライド移動させながら前記制動面に垂直な方向に移動させるスライド部材移動機構(例えば、実施形態における電動モータユニット24、ローラ36)とを備え、前記スライド部材およびこれに保持された前記摩擦パッドを前記スライド部材移動機構により前記ローターの回転方向および前記制動面に垂直な方向に移動させて、前記摩擦パッドを前記制動面に押し付けて前記ローターの回転を制動するように構成され、前記摩擦パッドは、前記制動面の径方向に挿入されて前記スライド部材に平行な状態で前記径方向への移動が規制されて前記スライド部材に装着されるとともに、前記スライド部材に装着された状態において前記径方向への移動規制が解除されて前記径方向に移動されることで前記スライド部材から取り外すことが可能に構成されており、前記スライド部材に前記摩擦パッドが装着された状態において、前記スライド部材に対する前記摩擦パッドの前記ローターの回転方向および前記制動面に垂直な方向への移動を規制するパッド移動規制機構を備えたことを特徴とする。
【0008】
上述のディスクブレーキ装置において、前記パッド移動規制機構が、前記スライド部材と前記摩擦パッドとを前記ローターの回転方向に係合させることで、前記摩擦パッドの前記ローターの回転方向への移動を規制する回転方向規制部と、前記スライド部材と前記摩擦パッドとを前記制動面に垂直な方向に係合させることで、前記摩擦パッドの前記制動面に垂直な方向への移動を規制する垂直方向規制部とを備えたことが好ましい。
【0009】
また、前記回転方向規制部が、前記スライド部材および前記摩擦パッドのうちの一方に、前記制動面に垂直な方向に凹んで前記径方向に延びて形成された嵌合溝部(例えば、実施形態における結合溝44a)と、前記スライド部材および前記摩擦パッドのうちの他方に、前記制動面に垂直な方向に突出して前記径方向に延びるとともに、前記嵌合溝部に嵌合可能に形成された嵌合突起部(例えば、実施形態における結合突起53)とを備えたことが好ましい。
【0010】
また、前記垂直方向規制部が、前記スライド部材および前記摩擦パッドのうちの一方に、前記径方向に延びて形成された係合溝部(例えば、実施形態におけるピン受容溝52)と、前記スライド部材および前記摩擦パッドのうちの他方に、前記制動面に垂直な方向に突出して前記係合溝部に係合可能に形成された係合突起部(例えば、実施形態における結合ピン70)と、前記係合突起部に前記径方向に取り付けられて、前記制動面に垂直な方向において前記摩擦パッドに前記スライド部材側への押圧力を作用させる押圧部材(例えば、実施形態における押圧クリップ60)とを備えたことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るディスクブレーキ装置は、摩擦パッドが径方向への移動が規制されてスライド部材に装着されるとともに、径方向への移動規制が解除されてスライド部材から取り外すことが可能に構成され、スライド部材に対する摩擦パッドのローターの回転方向および制動面に垂直な方向への移動を規制するパッド移動規制機構を備えて構成される。この構成により、摩擦パッドをスライド部材に一体的に結合させて摩擦パッドを制動面に押し付けることができる構成としつつ、スライド部材にパッドを着脱させることが可能となる。
【0012】
上述のディスクブレーキ装置において、パッド移動規制機構が、摩擦パッドのローターの回転方向への移動を規制する回転方向規制部と、摩擦パッドの制動面に垂直な方向への移動を規制する垂直方向規制部とを備えたことが好ましい。このように、規制する方向に応じてパッド移動規制機構を分割して構成することにより、例えばパッド移動規制機構を1つの規制部により構成する場合と比較して、各規制部を構成しやすいためにローターの回転方向の移動および制動面に垂直な方向への移動のそれぞれを精度良く規制することが可能になる。
【0013】
また、回転方向規制部が、制動面に垂直な方向に凹んで形成された嵌合溝部と、制動面に垂直な方向に突出して嵌合溝部に嵌合可能に形成された嵌合突起部とを備えたことが好ましい。この構成の場合には、単に溝と突起とを嵌合させるという簡素な構成でありながら、摩擦パッドのローターの回転方向への移動を確実に規制可能となる。
【0014】
また、垂直方向規制部が、径方向に延びて形成された係合溝部と、制動面に垂直な方向に突出して係合溝部に係合可能に形成された係合突起部と、径方向に取り付けられて制動面に垂直な方向において摩擦パッドにスライド部材側への押圧力を作用させる押圧部材とを備えたことが好ましい。このように構成した場合には、例えば締結ねじを用いてスライド部材に摩擦パッドを結合させる構成と比較して、特に制動面に垂直な方向に工具等を挿入するスペースが確保しづらい構成であっても、摩擦パッドの着脱を容易に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用したディスクブレーキ装置の斜視図である。
【図2】図1におけるII−II部分の断面図である。
【図3】パッドおよびウェッジプレート部分(ケージおよび付勢ユニットを省略)を示した斜視図である。
【図4】パッドおよびウェッジプレート部分(ケージおよび付勢ユニットを含む)を示した斜視図である。
【図5】パッドおよびウェッジプレート部分(ベースプレートを含む)を示した斜視図である。
【図6】ウェッジプレート部分を示した平面図である。
【図7】インナーパッドを示す図であって、(a)は平面図を、(b)は正面図をそれぞれ示す。
【図8】ウェッジプレートを示す図であって、(a)は背面図を、(b)は平面図を、(c)正面図(2点鎖線でシュープレートを追記)をそれぞれ示す。
【図9】(a)は押圧クリップの正面図を、(b)押圧クリップの側面図を、(c)は係合ピンの正面図を、(d)係合ピンの側面図をそれぞれ示す。
【図10】(a)〜(c)は、パッドをウェッジプレートに取り付ける過程を示した断面図あって、(a)は移動規制溝に移動規制突起が嵌合される途中の状態を、(b)は押圧クリップが装着される前の状態を、(c)は押圧クリップが装着された状態をそれぞれ示す。
【図11】インナーユニット部分を拡大した図に、制御構成を追記した説明図である。
【図12】ウェッジプレートの作動を説明するための説明図である。
【図13】電動モータの制御に関するフローチャートである。
【図14】(a)は変形例としてのパッドを示す正面図で、(b)は変形例としてのウェッジプレートを示す背面図である。
【図15】(a)および(b)は、変形例としての移動規制溝および移動規制突起を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。本発明を適用した一例としてのディスクブレーキ装置1の斜視図を図1に示しており、まず、図1〜図11を参照しながらディスクブレーキ装置1の全体構成について説明する。なお、以下においては便宜上、車両の左右外側をアウター側、これとは反対に車両の左右内側をインナー側と称して説明を行う。
【0017】
ディスクブレーキ装置1は、図1および図2に示すように、インナー側のインナー空間11a内にインナーユニット20を収容するとともに、アウター側の開口部12aにインナーパッド43およびアウターパッド41を収容して構成されるキャリパアッセンブリ10が、円盤状に形成されたローター4の端部を両側から挟むように配置される。キャリパアッセンブリ10は、複数のスライドピン9によってローター4の軸方向にスライド移動可能にキャリア6に取り付けられており、このキャリア6は、アクスル2に固定されたサポートプレート5に取り付けられて固定されている。
【0018】
インナーユニット20は、図2に示すように、電動モータユニット24、電動モータユニット24の両側に設けられた2つのアジャストユニット30、電動モータユニット24のアウター側に設けられたベースプレート35、ベースプレート35に対向して配設されたウェッジプレート37、ベースプレート35とウェッジプレート37との間に挟持された円柱状のローラ36、ローラ36を保持するケージ45、およびウェッジプレート37をベースプレート35側に付勢する付勢ユニット39(図4〜図6を参照)から構成される。
【0019】
電動モータユニット24は、電力供給を受けて回転駆動力を出力する電動モータ25、電動モータ25の出力軸に取り付けられたカム部材27、および電動モータ25の回転角を検出するための回転角センサー28から構成される。カム部材27は、図3に示すように、電動モータ25の出力軸に取り付けられる本体部27aと、この本体部27aに繋がって形成されるとともに、両側面に例えばインボリュート形状のカム側当接面27bが形成された噛合歯27cとを備えて構成される。なお、電動モータユニット24は、電動モータ25の駆動軸が制動面4aに直交する向きで、ベースプレート35に取り付けられている。
【0020】
アジャストユニット30は、図2および図11に示すように、センサー31、アジャタ本体部32、アジャスタ筒状体33およびアジャスト用駆動歯車38から構成される。センサー31は、図7に示すように、制動面4aに対してインナーパッド43が押し付けられるときの押圧力を検出可能となっている。アジャスタ筒状体33は、筒状に形成されて内周面に螺旋状の筒側ねじ(図示せず)が形成された筒部33aと、この筒部33aのインナー側端部に形成された調整用従動歯車33bとから構成される。アジャタ本体部32の外周面には、筒部33aに形成された筒側ねじと噛合する螺旋状の本体側ねじ(図示せず)が形成されており、筒側ねじと本体側ねじとが噛合してアジャタ本体部32にアジャスタ筒状体33が取り付けられている。アジャスト用駆動歯車38は、両アジャストユニット30の調整用従動歯車33bと噛合している。このように構成されるアジャストユニット30により、ブレーキ操作が行われる毎にローター4の制動面4aとインナーパッド43との隙間が、所定間隔になるように調整される。
【0021】
ベースプレート35は、図6に示すように、ウェッジプレート37に対向する面に、ローラ36を嵌め込んで保持するための断面視V字状のウェッジ溝35aが2つ形成されている。ウェッジプレート37は、図4および図6に示すように、略平板状に形成されており、ベースプレート35に対向する面には、ベースプレート35のウェッジ溝35aに対応する位置に、ローラ36を嵌め込んで保持するための断面視V字状のウェッジ溝37aが2つ形成されている。
【0022】
ウェッジプレート37の中央部分には、図3に示すように、制動面4aに直交する方向に貫通してカム部材27が挿入される挿入空間37bが形成されている。この挿入空間37bの上部における本体部27aの側方に位置する部分に、ウェッジプレート37が側方にスライド移動されたときに本体部27aとの干渉を防止するための逃がし部37cが形成されており、一方、挿入空間37bの下部には、カム部材27のカム側当接面27bと当接するラック側当接面37dが形成されている。このため、電動モータ25が回転駆動されてカム部材27が回転されると、ウェッジプレート37がカム部材27の回転方向に押圧されて、ベースプレート35に対向した状態のままでカム部材27の回転方向にスライド移動される。なお、ラック側当接面37dの側方には、一対のねじ穴37eが形成されている。
【0023】
ケージ45は、図4に示すように、略平板状に形成されたベース部45aに対して、ローラ36を収容させて保持するための一対のローラ保持部45bと、中央部分に位置決め用開口部45cとが形成されて構成されている。ローラ36は、このローラ保持部45bに収容されることにより、上下、ローター4の回転方向、および制動面4aに直交する方向への移動が規制された状態で、回転可能に支持される。位置決め用開口部45cは、後述するベース部材39aに対応させて開口形成されており、ベース部材39aはこの位置決め用開口部45cに嵌合されて、ガイドされた状態で前後にスライドされるようになっている。
【0024】
付勢ユニット39は、図4〜図6に示すように、ウェッジプレート37に取り付けられたベース部材39aと、このベース部材39aに取り付けられた支持軸39cと、スプリング39dと、スプリング押さえ39eとから構成される。ベース部材39aには、一対のねじ挿入孔39bが形成されており、このねじ挿入孔39bに挿入した締結ねじをウェッジプレート37のねじ穴37eに締結することで、ベース部材39aがウェッジプレート37に取り付けられる。スプリング39dは、支持軸39cに挿入されて収縮された状態でスプリング押さえ39eにより固定されており、スプリング39dによるインナー側への付勢力が常時ウェッジプレート37に作用する構成となっている。この付勢ユニット39により、ローラ36は、インナー側に付勢されたウェッジプレート37(ウェッジ溝37a)とベースプレート35(ウェッジ溝35a)とによって挟持された状態で保持されている。
【0025】
アウターパッド41(摩擦材とも称される)には、アウター側にシュープレート42が固定されており、インナーパッド43(摩擦材とも称される)には、インナー側にシュープレート44が固定されている。なお、アウターパッド41にシュープレート42(インナーパッド43にシュープレート44)を固定したものが、単にパッドと称される場合もある。
【0026】
アウターパッド41およびインナーパッド43は、制動面4aに押し付けられることで押圧力に応じた摩擦力を発生させ、ローター4(制動面4a)に対してローター4の回転を阻止する制動力を作用させる。アウターパッド41は、シュープレート42と一体となって、キャリパアッセンブリ10のアウター部分に形成されたブリッジ部12cとローター4との間に挿入されている。一方、インナーパッド43は、シュープレート44と一体となって、ウェッジプレート37とローター4との間に挿入されている。
【0027】
図11に示すように、車両には電動モータ25の作動を制御するコントローラ91が設けられており、このコントローラ91には、センサー31で検出された制動面4aに対してインナーパッド43が押し付けられるときの押圧力、および回転角センサー28で検出された電動モータ25の回転角が入力される。また、車両には、運転者がブレーキ操作をするためのブレーキペダル92が設けられており、このブレーキペダル92には、ブレーキペダル92に対する踏込み力(ブレーキ操作力)を信号に変換して検出する踏込み力検出センサー92aが設けられている。この踏込み力検出センサー92aで検出された電気信号は、コントローラ91へ出力される。なお、コントローラ91には、踏込み力検出センサー92aで検出されるブレーキ操作力と、そのブレーキ操作力に対応するインナーパッド43の押圧力とが、予め対応付けられて記憶されている。
【0028】
さらに、車両には、ローター4の回転方向(前進方向fまたは後進方向r)を検出するための回転方向検出センサー93が設けられており、回転方向検出センサー93で得られた検出結果はコントローラ91に出力される。
【0029】
ところで、後述するようにして、アウターパッド41およびインナーパッド43が繰り返してローター4の制動面4aに押し付けられて摩耗すると、アウターパッド41およびインナーパッド43と制動面4aとの隙間がその摩耗分だけ大きくなる。そうすると、ブレーキペダル92が踏込まれてから実際にアウターパッド41およびインナーパッド43が制動面4aに押し付けられるまでのタイムラグが大きくなり、ブレーキ操作の応答性が低下することとなる。そこで、アウターパッド41およびインナーパッド43の摩耗によって隙間が大きくなった場合には、アジャスト用駆動歯車38が自動的に回転駆動され、アウターパッド41およびインナーパッド43と制動面4aとの隙間が所定間隔になるように狭められる調整が行われ、ブレーキ操作の応答性を確保できるように構成されている。
【0030】
以上ここまでは、ディスクブレーキ装置1の全体構成について説明した。このように構成されるディスクブレーキ装置1においては、ブレーキ操作が繰り返して行われてアウターパッド41およびインナーパッド43が繰り返して制動面4aに押し付けられると、それに応じてアウターパッド41およびインナーパッド43が摩耗することとなる。そして、所定の厚み(例えば2mm程度)以下にまで摩耗した場合には新しいアウターパッド41およびインナーパッド43に交換する必要がある。
【0031】
後述するように、アウターパッド41はブリッジ部12cによりインナー側に押圧されて制動面4aに押し付けられる構成となっているが、一方でインナーパッド43はローター4の回転方向にスライド移動されながら制動面4aに垂直な方向に押し出されるウェッジプレート37と一体となって移動されることで、制動面4aに押し付けられる構成となっている。そのため、インナーパッド43は、ウェッジプレート37に対して一体的に結合されて装着されるとともに、必要に応じてウェッジプレート37から取り外して開口部12aの外に取り出し、交換可能に構成されることが要求される。
【0032】
そこで、本発明を適用したディスクブレーキ装置1においては、図7〜図9に示すように、インナーパッド43およびウェッジプレート37を構成することで、インナーパッド43は開口部12a内に挿入されることでウェッジプレート37に一体的に装着されるとともに、必要に応じて開口部12aから取り出すことができるようになっている。それでは、ウェッジプレート37に対するインナーパッド43の取付構成について、以下に詳細に説明する。
【0033】
インナーパッド43は、図7に示すように、平板状のシュープレート44の正面側に上下に延びる断面視略矩形の結合溝44aが一対となって形成されており、この一対の結合溝44aの側方には、ピン取付孔44bが形成されている。このピン取付孔44bには、図9(c)および図9(d)に示す結合ピン70が取り付けられる(図3参照)。結合ピン70は、全体として略円柱状に形成され、円盤状のばね荷重受け部71、ばね荷重受け部71に繋がる連結軸部72、軸部72に繋がって軸部72よりも大きな径の挿入軸部73およびねじ部74から構成され、ねじ部74がピン取付孔44bに締結されてインナーパッド43に取り付けられる。
【0034】
ウェッジプレート37は、図8(a)および図8(b)に示すように、背面側に断面視略矩形となって突出する一対の結合突起53を備え、この結合突起53の側部には側方に突出する押圧力付与部51が形成されている。押圧力付与部51には、結合ピン70(挿入軸部73)を上方から受容可能な十分な大きさを有したピン受容溝52が、上下に延びて形成されている。
【0035】
開口部12a内にインナーパッド43を挿入してウェッジプレート37にインナーパッド43を装着する際には、図10(a)に示すように、まずインナーパッド43の結合溝44aをウェッジプレート37の結合突起53に嵌合させた状態でインナーパッド43を下方にスライド移動させる。そうすることで、インナーパッド43に取り付けられた結合ピン70(挿入軸部73)が、ウェッジプレート37の押圧力付与部51(ピン受容溝52)に受容され、インナーパッド43の底部がキャリア6に当接してウェッジプレート37に対するインナーパッド43の下方への移動が規制された仮止め状態になる(図8(c)参照)。この仮止め状態においては、図8(c)および図10(b)に示すように、挿入軸部73は若干のクリアランスを有した状態でピン受容溝52内に収容されている。また、仮止め状態においては、インナーパッド43は、結合溝44aに結合突起53が嵌合することでローター4の回転方向への移動が規制されており、一方で、制動面4aに垂直な方向へは若干のクリアランス(例えば1mm程度の大きさで、軸部72の軸方向長さに相当)を有している。
【0036】
図10(b)に示す仮止め状態において、ばね荷重受け部71と押圧力付与部51との隙間に上方から押圧クリップ60を挿入して取り付ける。ここで、押圧クリップ60は、図9(a)および図9(b)に示すように、弾性変形可能な平板金属材料に打ち抜き加工および折り曲げ加工を施すことで形成され、若干インナー側に凸となるように湾曲されて形成された平板状のベース部61、ベース部61の上端部をほぼ直角に折り曲げて形成された上側係止部63、ベース部61の下端部を円弧状に折り曲げて形成された下側係止部64とを備える。ベース部61には、下端部から上方に向けてスリット部62が形成されている。
【0037】
押圧クリップ60を挿入する際には、結合ピン70の軸部72と押圧クリップ60のスリット部62との位置を合わせた状態で挿入する。そうすると、図10(c)に示すように、押圧力付与部51の下端部に下側係止部64が係止されるとともに、押圧力付与部51の上端部と上側係止部63とが上下に対向された状態となって押圧クリップ60が押圧力付与部51に取り付けられる。このときに、ベース部61の湾曲部分のばね力により、インナーパッド43はウェッジプレート37に弾性的にしっかりと押圧されるようになっている。このように押圧力付与部51は、押圧クリップ60による押圧力をインナーパッド43に作用させるための座面領域確保という機能をも有している。
【0038】
押圧クリップ60が挿入された後、図1に示すように、シュープレート44の上部に上下に弾性変形可能に形成されたリーフスプリング12dを取り付け、さらにこのリーフスプリング12dを上側から押えるようにリテーナプレート12eを取り付ける。そうすることで、リーフスプリング12dのばね力によってインナーパッド43が開口部12aから上方へ抜け出ないように保持されて、インナーパッド43の装着が完了する。このようにして、ウェッジプレート37にインナーパッド43が取り付けられることで、結合溝44aと結合突起53とが嵌合してインナーパッド43がローター4の回転方向へ移動されることが規制されるとともに、ばね荷重受け部71が押圧力付与部51(ベース部61)に当接してインナーパッド43の制動面4aに垂直な方向への移動が規制され、インナーパッド43がウェッジプレート37に一体的に結合されて装着される。
【0039】
一方、インナーパッド43を交換するため、ウェッジプレート37に一体的に結合されて装着されたインナーパッド43を取り外すときには、まず、リテーナプレート12eおよびリーフスプリング12dを取り外した後、押圧クリップ60を上方に引いて押圧力付与部51から取り外す。こうすることで、インナーパッド43を上方に引き出して開口部12aから取り出すことができる。このように、押圧クリップ60を上下方向に挿入することで、インナーパッド43にばね力を作用させてウェッジプレート37に押し付け、一方、押圧クリップ60を上下方向に抜き去ることで、上記ばね力を解除してウェッジプレート37からインナーパッド43を離間させることができる。そのため、例えば締結ねじを用いてウェッジプレート37にインナーパッド43を結合させる場合と比較して、特に制動面4aに垂直な方向に工具等を挿入するスペースが確保しづらい構成であっても、インナーパッド43の着脱を容易に行うことが可能になる。
【0040】
以上ここまでは、ウェッジプレート37に対するインナーパッド43の取付構成について説明した。以下においては、このように構成されるディスクブレーキ装置1の作動について、図11および図12を参照しながら図13に示すフローチャートに沿って説明する。なお、以下においては、車両が前進走行または後進走行しつつブレーキペダル92に対して踏込み操作がされていない状態において、運転者によってブレーキペダル92が踏込み操作された場合のディスクブレーキ装置1の作動を例示して説明する。
【0041】
まず、図13に示すステップS110において、回転方向検出センサー93で検出されたローター4の回転方向(前進方向fまたは後進方向r)が、コントローラ91に入力される。次にステップS120に進み、踏込み力検出センサー92aで検出されたブレーキペダル92に対するブレーキ操作力を示す信号が、コントローラ91に入力される。続いてステップS130に進み、センサー31で検出された制動面4aに対するインナーパッド43の押圧力を示す信号が、コントローラ91に入力される。
【0042】
続くステップS140において、コントローラ91は、ステップS110で入力されたローター4の回転方向が前進方向fであるか否かを判定し、判定の結果ローター4の回転方向が前進方向fである場合には、前進方向fに向かってウェッジプレート37をスライド移動させるように、電動モータ25に対して駆動信号を出力する(ステップS151)。
【0043】
この駆動信号が入力されて電動モータ25が回転駆動されることにより、電動モータ25の回転駆動力が減速されてカム部材27に伝達され、カム部材27が回転駆動される。そうすると、カム部材27のカム側当接面27bがウェッジプレート37のラック側当接面37dを押圧し、カム部材27の回転方向(この場合は前進方向f)にウェッジプレート37がスライド移動される。なお、電動モータ25の回転角は、電動モータ25に隣接して設けられた回転角センサー28によって検出されて、コントローラ91に入力されている。
【0044】
このように、インボリュート形状に形成されたカム側当接面27bをラック側当接面37dに当接させて、ウェッジプレート37スライド移動させる構成とすることで、カム部材27が回転駆動されたときに、カム側当接面27bとラック側当接面37dとの間に生じるすべりを抑えて、カム部材27の回転駆動力を効率良くウェッジプレート37スライド移動に変換することができる。
【0045】
図11には、このようにして、ウェッジプレート37が前進方向fにスライド移動されて、シュープレート44およびインナーパッド43が一体となって前進方向fにスライド移動された状態を、2点鎖線でウェッジプレート37f、シュープレート44fおよびインナーパッド43fとして示している。
【0046】
また、図12には、前進方向fにスライド移動されたウェッジプレート37f、シュープレート44fおよびインナーパッド43fの拡大図を示している。この図12から分かるように、ウェッジプレート37が前進方向fにスライド移動されると、V字状のウェッジ溝37aうちで後進方向側の斜面に対してローラ36が押し付けられ、ローラ36に対してウェッジプレート37(ウェッジプレート37と一体となったシュープレート44およびインナーパッド43)が、この斜面の傾斜に沿うように相対的にアウター側(制動面4a側)に押し出される。
【0047】
一方、ステップS140において、判定の結果ローター4の回転方向が後進方向rである場合には、後進方向rに向かってウェッジプレート37をスライド移動させるように、コントローラ91から電動モータ25へ駆動信号が出力される(ステップS152)。そうすることで、カム部材27のカム側当接面27bがウェッジプレート37のラック側当接面37dを押圧し、カム部材27の回転方向(この場合は後進方向r)にウェッジプレート37がスライド移動される。図11には、このようにして、ウェッジプレート37が後進方向rにスライド移動されたときのウェッジプレート37、シュープレート44およびインナーパッド43の位置を、それぞれ点線でウェッジプレート37r、シュープレート44rおよびインナーパッド43rとして示している。
【0048】
上述のようにして、カム部材27の回転角度に応じてウェッジプレート37が前進方向fまたは後進方向rにスライド移動されると同時に、制動面4aに近づく方向に移動されると、ある時点においてインナーパッド43が制動面4aに押し付けられる。そうすると、制動面4aからインナーパッド43に作用する反力が、シュープレート44、ウェッジプレート37、ローラ36、ベースプレート35およびアジャストユニット30を介してキャリパアッセンブリ10に作用して、キャリパアッセンブリ10がインナー側に押圧される。
【0049】
キャリパアッセンブリ10がインナー側に押圧されると、スライドピン9により、キャリア6に対してキャリパアッセンブリ10がインナー側にスライド移動される。そうすると、アウター側に形成されたブリッジ部12cにより、シュープレート42およびアウターパッド41が一体的にインナー側に押圧されて、アウターパッド41が制動面4aに押し付けられる。このようにして、アウターパッド41およびインナーパッド43のそれぞれを制動面4aに押し付けてローター4を挟持することで、ローター4の回転を阻止する制動力を作用させることができるように構成されている。
【0050】
このとき、ディスクブレーキ装置1は、ベースプレート35、ローラ36ウェッジプレート37により、制動面4aにインナーパッド43を押し付ける押圧力が自動的に増幅される(自己倍力を発生させる)構成となっており、この構成について図12を参照しながら説明する。なお、以下においては、制動面4aとインナーパッド43との間の摩擦係数をμとして説明を行う。
【0051】
図12に示すように、制動面4aに対してインナーパッド43が押圧力Fで押し付けられる場合には、インナーパッド43には前進方向fにF×μの摩擦力が作用する。このとき、インナーパッド43と一体になったウェッジプレート37にもこの摩擦力F×μが作用するとともに、ウェッジプレート37に形成されたウェッジ溝37aとローラ36との当接部分に摩擦力F×μが作用する。この当接部分においては、摩擦力F×μにおける制動面4aに直交する方向への分力の反力が、制動面4aに近づく方向に作用する反力F’として、ウェッジプレート37に作用することとなる。そのため、インナーパッド43は、元の押圧力Fにこの反力F’を加えた押圧力で制動面4aに押し付けられ、これらを合計した押圧力(F+F’)に対応した摩擦力(F+F’)×μがインナーパッド43に作用することとなる。
【0052】
インナーパッド43に対して前進方向fに作用する摩擦力が、F×μから(F+F’)×μへと増幅されると、それに伴ってインナーパッド43、シュープレート44およびウェッジプレート37が前進方向fにスライド移動される。そうすると、ウェッジプレート37は、ローラ36からさらに大きな反力を受けることとなり、これによりインナーパッド43は、さらに大きな押圧力で制動面4aに押し付けられる。このようにして、摩擦力によりインナーパッド43が前進方向fにスライド移動される作動と、より大きな押圧力でインナーパッド43が制動面4aに押し付けられる作動とが繰り返されることで、制動面4aに対するインナーパッド43の押圧力が自動的に増幅されるように構成されている。
【0053】
上述したように、インナーパッド43は、ウェッジプレート37に着脱可能な構成でありながら、ウェッジプレート37に対して一体的に結合されて装着されるので、インナーパッド43に作用する摩擦力がウェッジプレート37に確実に伝達される。そのため、ディスクブレーキ装置1においては、摩擦力に応じた自己倍力を発生させることができ、自己倍力により増幅させた押圧力でアウターパッド41およびインナーパッド43を制動面4aに押し付けることが可能になっている。このとき、ローター4とインナーパッド43との間で発生した制動力のうちローター4の回転方向成分は、結合溝44aおよび結合突起53を介してインナーパッド43からウェッジプレート37に伝達される。ウェッジプレート37に伝達された制動力は、ローラ36を介してベースプレート35に伝達され、さらにベースプレート35がキャリア6に当接されることで受け止められる構成となっている(図2参照)。一方、発生した制動力のうちローター4の径方向成分(径方向に沿って中心に向かう方向の成分)は、インナーパッド43がキャリア6に当接されることで(図8(c)参照)、インナーパッド43からキャリア6に直接伝達されて受け止められる構成となっている。なお、上述のようにして制動力が作用している場合においても、図8(a)に示すように、挿入軸部73はクリアランスを有してピン受容溝52内に収容された状態のままであり、結合ピン70を介してウェッジプレート37に制動力が伝達されない構成となっている。
【0054】
このように、ベースプレート35、ローラ36およびウェッジプレート37を用いて自己倍力を作用させる構成(ウェッジ機構)とすることで、比較的小型の電動モータ25を用いた場合であっても、十分に大きな押圧力でアウターパッド41およびインナーパッド43を制動面4aに押し付けて、ローター4に十分な制動力を作用させることが可能となる。このため、比較的小型の電動モータ25を用いてディスクブレーキ装置1を構成できるようになり、ディスクブレーキ装置1をコンパクトに構成できて、ホイール周辺に配設される他の構成部品の配設スペースを十分に確保できる。
【0055】
また、自己倍力を発生させるためにディスクブレーキ装置1では、ステップS151またはステップS152において、ローター4の回転方向に向けてウェッジプレート37をスライド移動させるように、電動モータ25の回転駆動が行われる。
【0056】
続いてステップS160に進み、このようにしてローター4に制動力が作用するときに、コントローラ91において、センサー31で検出されたインナーパッド43の押圧力が、踏込み力検出センサー92aで検出されたブレーキ操作力に対応する押圧力よりも大きいか否かの判定が行われる。
【0057】
ステップS160において、検出された押圧力が、検出されたブレーキ操作力に対応する押圧力よりも大きいと判定された場合には、ステップS171に進み、押圧力を弱める方向にウェッジプレート37を移動(インナー側にウェッジプレート37を移動)させるように、コントローラ91から電動モータ25へ駆動信号が出力される。
【0058】
一方、検出された押圧力が、検出されたブレーキ操作力に対応付けられた押圧力よりも小さいと判定された場合には、ステップS172に進み、押圧力を強める方向にウェッジプレート37を移動(アウター側にウェッジプレート37を移動)させるように、コントローラ91から電動モータ25へ駆動信号が出力される。
【0059】
上述したように、インナーパッド43は、ウェッジプレート37に着脱可能な構成でありながら、ウェッジプレート37に対して一体的に結合された状態で装着される。そのため、ウェッジプレート37がインナー側に移動される場合や、インナーパッド43が制動面4aに押し付けられて振動する場合であっても、ウェッジプレート37からインナーパッド43が離間することがない。よって、制動面4aに垂直な方向におけるインナーパッド43の位置精度を十分に確保でき、制御通りの制動力を作用させることが可能となる。また、インナーパッド43は、押圧クリップ60のばね力によってウェッジプレート37に押し付けられて一体的に結合されているので、例えばウェッジプレート37がインナー側に移動される場合には、ウェッジプレート37と一体となってインナー側に移動されるので、インナーパッド43に移動遅れ等が発生しない。また、インナーパッド43による引き摺りトルク等の発生も抑えられる。
【0060】
このようにして、押圧力をフィードバックさせてステップS160、S171およびS172を繰り返して行うことで、ブレーキペダル92に対するブレーキ操作力に対応した押圧力で制動面4aにインナーパッド43を押し付けるように、電動モータ25の回転駆動制御が行われる。そうすることで、運転者が意図する制動力をローター4に作用させて、車両を減速させることができる。
【0061】
上述の実施形態においては、インナーパッド43(シュープレート44)に結合溝44aを設けるとともに、ウェッジプレート37に結合突起53を設けた構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定されるものではない。これとは逆に、インナーパッド43に結合突起を設けるとともに、ウェッジプレート37に結合溝を設ける構成も可能である。
【0062】
上述した実施形態においては、インナーパッド43(シュープレート44)に上下に真っ直ぐ延びる結合溝44aを設けるとともに、ウェッジプレート37にこの結合溝44aに嵌合可能な上下に真っ直ぐ延びる結合突起53を設けた構成を例示して説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば図14(a)に示すように、下方に向かってテーパ状に溝幅が広がる結合溝244aを設けたインナーパッド243と、図14(b)に示すように、結合溝244aに嵌合可能なテーパ状の結合突起253を設けたウェッジプレート237とを組み合わせて構成することも可能である。このように構成することで、ウェッジプレート237にインナーパッド243を装着したときのローター4の回転方向へのガタを抑えることができる。
【0063】
上述の実施形態では、断面視略矩形の結合溝44aおよび結合突起53を設けた構成について説明したが、結合溝および結合突起の断面形状はこれに限定されない。例えば図15(a)に示すように、突起側テーパ面354が形成された結合突起353を設けたウェッジプレート337と、溝側テーパ面345が形成された結合溝344aを設けたインナーパッド343とを組み合わせて用いる構成も可能である。また、図15(b)に示すように、鋭角の結合突起453を設けたウェッジプレート437と、鋭角の結合溝444aを設けたインナーパッド443とを組み合わせて用いる構成も可能である。
【0064】
上述した実施形態においては、2対のウェッジ溝35a,37cに2つのローラ36を挟持させた構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定して適用されるものではない。ベースプレート35に対向した状態でウェッジプレート37がスライド移動される構成であれば良く、例えばウェッジプレート37の大きさ等に応じてウェッジ溝35a,37cの対数を設定可能である。
【0065】
上述の実施形態では、センサー31を用いてインナーパッド43の押圧力を検出し、この押圧力をフィードバックさせて電動モータ25の回転駆動制御を行う構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定して適用されるものではない。例えば、インナーパッド43の押圧力を検出する代わりに、制動面4aにインナーパッド43を押し付けることにより生じるブレーキトルクを検出してフィードバックしたり、または、車両の減速度を検出してフィードバックすることで電動モータ25の回転駆動制御を行う構成でも良い。
【0066】
上述の実施形態では、単一の噛合歯27cを有したカム部材27、およびこの単一の噛合歯27cと噛合する単一のラックを備えた挿入空間37bが形成されたウェッジプレート37を例示して説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、複数の噛合歯を有したカム部材、およびこの複数の噛合歯と同時に噛合する複数のラックを備えたカム挿入空間が形成されたウェッジプレートを用いた構成でも良い。また、本体部27aと噛合歯27cとから構成されるカム部材27を例に挙げて説明したが、この構成のカム部材27に代えて、電動モータ25の回転駆動力を伝達するピニオン歯を備えて形成されるピニオン歯部材を用いても良い。
【0067】
上述の実施形態では、アウターパッド41およびインナーパッド43と制動面4aとの隙間に応じて、アジャスト用駆動歯車38が自動的に回転駆動されて、この隙間が調整される構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定されるものではない。この構成に代えて、例えばアジャスト用駆動歯車を回転駆動させるアジャスト用の電動モータを別途設け、このアジャスト用の電動モータの回転駆動制御を行うことにより、パッドと制動面との隙間を自動で調整する構成としても良い。
【符号の説明】
【0068】
1 ディスクブレーキ装置
4 ローター
4a 制動面
10 キャリパアッセンブリ(キャリパ)
24 電動モータユニット(スライド部材移動機構)
35 ベースプレート(ベース部材)
36 ローラ(スライド部材移動機構)
37 ウェッジプレート(スライド部材)
41 アウターパッド(摩擦パッド)
43 インナーパッド(摩擦パッド)
44a 結合溝(嵌合溝部)
52 ピン受容溝(係合溝部)
53 結合突起(嵌合突起部)
60 押圧クリップ(押圧部材)
70 結合ピン(係合突起部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動対象となる回転体に連結されて回転する円盤状の制動面を有したローターと、前記ローターに対して回転方向に固定されて配置されたキャリパと、前記ローターの制動面に対向して配置される摩擦パッドと、前記キャリパに取り付けられて前記摩擦パッドを前記制動面に押し付ける作動を行わせる制動作動機構とを有して構成されるディスクブレーキ装置であって、
前記制動作動機構が、前記キャリパに取り付けられたベース部材と、前記ベース部材に対向配置されて前記摩擦パッドを保持するスライド部材と、前記ベース部材および前記スライド部材の間に設けられ、前記ベース部材に対して前記スライド部材を前記制動面に平行且つ前記ローターの回転方向にスライド移動させながら前記制動面に垂直な方向に移動させるスライド部材移動機構とを備え、
前記スライド部材およびこれに保持された前記摩擦パッドを前記スライド部材移動機構により前記ローターの回転方向および前記制動面に垂直な方向に移動させて、前記摩擦パッドを前記制動面に押し付けて前記ローターの回転を制動するように構成され、
前記摩擦パッドは、前記制動面の径方向に挿入されて前記スライド部材に平行な状態で前記径方向への移動が規制されて前記スライド部材に装着されるとともに、前記スライド部材に装着された状態において前記径方向への移動規制が解除されて前記径方向に移動されることで前記スライド部材から取り外すことが可能に構成されており、
前記スライド部材に前記摩擦パッドが装着された状態において、前記スライド部材に対する前記摩擦パッドの前記ローターの回転方向および前記制動面に垂直な方向への移動を規制するパッド移動規制機構を備えたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記パッド移動規制機構が、
前記スライド部材と前記摩擦パッドとを前記ローターの回転方向に係合させることで、前記摩擦パッドの前記ローターの回転方向への移動を規制する回転方向規制部と、
前記スライド部材と前記摩擦パッドとを前記制動面に垂直な方向に係合させることで、前記摩擦パッドの前記制動面に垂直な方向への移動を規制する垂直方向規制部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記回転方向規制部が、
前記スライド部材および前記摩擦パッドのうちの一方に、前記制動面に垂直な方向に凹んで前記径方向に延びて形成された嵌合溝部と、
前記スライド部材および前記摩擦パッドのうちの他方に、前記制動面に垂直な方向に突出して前記径方向に延びるとともに、前記嵌合溝部に嵌合可能に形成された嵌合突起部とを備えたことを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記垂直方向規制部が、
前記スライド部材および前記摩擦パッドのうちの一方に、前記径方向に延びて形成された係合溝部と、
前記スライド部材および前記摩擦パッドのうちの他方に、前記制動面に垂直な方向に突出して前記係合溝部に係合可能に形成された係合突起部と、
前記係合突起部に前記径方向に取り付けられて、前記制動面に垂直な方向において前記摩擦パッドに前記スライド部材側への押圧力を作用させる押圧部材とを備えたことを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−29114(P2013−29114A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163454(P2011−163454)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000220712)株式会社TBK (13)
【Fターム(参考)】