説明

ディスクブレーキ

【課題】ブレーキ液の液漏れに対する信頼性を向上させることができるディスクブレーキの提供。
【解決手段】アウタ側シリンダ部20には、ディスク半径方向に沿って形成される二カ所の取付ボルト穴37が設けられ、取付ボルト穴37のディスク回転方向におけるボア側端部が奥リセス部60のディスク軸方向範囲とずれて配置され、インナ側シリンダ部21およびアウタ側シリンダ部20のボア31の奥リセス部60には、奥リセス部60からディスク回転方向に延出する凹部63がそれぞれ形成され、該各凹部63を接続路80で連通することによりインナ側シリンダ部21およびアウタ側シリンダ部20の対向するボア31同士が連通される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のディスクブレーキは、一対のパッドをディスクの両側に配置しパッドのディスクとは反対側に配置されたピストンでパッドをディスクに押圧することで制動力を発生させるものである。このようなディスクブレーキには、各パッドのディスクとは反対側にそれぞれ配置されたピストンで一対のパッドをディスクに押圧する対向ピストン型と呼ばれるものがある。この対向ピストン型のディスクブレーキにおいて、ピストンを保持するキャリパボディのインナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部を一体成形したものがある。これは、キャリパボディのインナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部を一体成形し、キャリパボディの一の外側からインナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部のそれぞれのボアを加工し、これらボアの加工のために形成された穴部に別体の底部を螺合させることで閉塞させる構造となっている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−27267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように穴部に別体の底部を螺合させる構造であると、例えシール部材を設けたとしても、経年的なシール部材の劣化により、穴部と底部との接合部からブレーキ液が漏れ出る可能性があり、ブレーキ液の液漏れに対する信頼性の点で問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、ブレーキ液の液漏れに対する信頼性を向上させることができるディスクブレーキの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ボアが、前記ボアの開口側にあって小径の内径部と前記ボアの底部側にあって前記ボアの内径部よりも大径の奥リセス部とが前記ボアの底部が鋳造時の閉塞状態を維持して形成され、アウタ側シリンダ部には、ディスク半径方向に沿って形成される二カ所の取付ボルト穴が設けられ、該取付ボルト穴のディスク回転方向におけるボア側端部が前記奥リセス部のディスク軸方向範囲とずれて配置され、インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部の前記ボアの奥リセス部には、該奥リセス部からディスク回転方向に延出する凹部がそれぞれ形成され、該各凹部を接続路で連通することにより前記インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部の対向するボア同士が連通されることを特徴としている。
【0007】
請求項2に係る発明は、ボアが、前記ボアの開口側にあって小径の内径部と前記ボアの底部側にあって前記ボアの内径部よりも大径の奥リセス部とが前記ボアの底部が鋳造時の閉塞状態を維持して形成され、アウタ側シリンダ部には、ディスク半径方向に沿って形成される二カ所の取付ボルト穴が設けられ、インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部の前記ボアの奥リセス部には、該奥リセス部からディスク回転方向に延出する凹部が、該取付ボルト穴のディスク回転方向におけるボア側端部とディスク軸方向範囲からずれてそれぞれ形成され、該各凹部を接続路で連通することにより前記インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部の対向するボア同士が連通されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ブレーキ液の液漏れに対する信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態のディスクブレーキを示す正面図である。
【図2】本発明の一実施形態のディスクブレーキを示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態のディスクブレーキを示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを製造するための中子を示す正面図である。
【図5】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを製造するための中子を示す平面図である。
【図6】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを製造するための中子を示す左側面図である。
【図7】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディの鋳物を示す平面図である。
【図8】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディの鋳物を示す正面図である。
【図9】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディの鋳物を示す底面図である。
【図10】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディの鋳物を示す図8のB1−B1線に沿う断面図である。
【図11】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディの鋳物を示す図7のA1−A1線に沿う断面図である。
【図12】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディの鋳物を示す図7のA2−A2線に沿う断面図である。
【図13】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディの鋳物を示す図8のC1−C1線に沿う断面図である。
【図14】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディの鋳物を示す左側面図である。
【図15】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディの鋳物を示す右側面図である。
【図16】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す平面図である。
【図17】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す正面図である。
【図18】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す底面図である。
【図19】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す図17のB2−B2線に沿う断面図である。
【図20】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す図17のB3−B3線に沿う断面図である。
【図21】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す図16のA3−A3線に沿う断面図である。
【図22】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す図16のA4−A4線に沿う断面図である。
【図23】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す図17のC2−C2線に沿う断面図である。
【図24】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す左側面図である。
【図25】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す右側面図である。
【図26】本発明の一実施形態のディスクブレーキにおけるキャリパボディを示す図17のB2−B2線に沿う要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
図1および図2において符号1は対向ピストン型のディスクブレーキを示しており、このディスクブレーキ1のキャリパ11は、図1に示すようにディスク12を跨いだ状態で図2に示すように車両の非回転部であるフロントフォーク13の取付部14に取り付けられるキャリパボディ16と、ディスク12を介して互いに対向するようにキャリパボディ16に摺動可能に設けられる複数対、具体的には二対のピストン17とを有する対向ピストン型のキャリパ11である。なお、以下においては、車両への取付状態をもって説明し、この取付状態におけるディスク12の半径方向をディスク半径方向と称し、ディスク12の軸線方向をディスク軸線方向と称し、ディスク12の回転方向をディスク回転方向と称す。なお、図1および図2において矢印Rは車両前進時におけるディスク12の回転方向を示している。
【0011】
キャリパボディ16は、図1〜図3に示すように、ディスク12を挟んでアウタ側(車輪に対し反対側)に配置されるアウタ側シリンダ部20およびインナ側(車輪側)に配置されるインナ側シリンダ部21と、アウタ側シリンダ部20のディスク回転方向において離間する複数、具体的には三カ所の位置からインナ側に向け突出するアウタ側トルク受部23と、インナ側シリンダ部21のディスク回転方向において離間する複数具体的には三カ所の位置からアウタ側に向け突出するインナ側トルク受部24と、アウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24のディスク回転方向における位置の合うもの同士をそれぞれ結ぶ複数具体的には三カ所のディスクパス部26とを有する一体成形品である。つまり、キャリパボディ16は、アウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21の間にアウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24が設けられ、これらアウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24の間にこれらを連結させるディスクパス部26が設けられている。
【0012】
このような形状のキャリパボディ16は、ディスク軸線方向に繋がるアウタ側トルク受部23、ディスクパス部26およびインナ側トルク受部24からなる部分が、ディスク回転方向に離間して複数具体的には三カ所に設けられることになり、これらのディスク回転方向において隣り合うもの同士の間にディスク半径方向に開口するパッド組付用空間(空間)28がディスク回転方向に複数、具体的には二カ所設けられている。
【0013】
キャリパボディ16には、アウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21の各パッド組付用空間28を介して互いに対向する対向面20a,21a間に、それぞれパッドピン30がディスク軸線方向に沿ってパッド組付用空間28を跨ぐように設けられている。
【0014】
アウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21の各パッド組付用空間28を介して対向する各対向面20a,21aの位置には、ディスク軸線方向に平行な中心軸線を有するボア31がそれぞれ形成され、これらボア31のそれぞれの内径部32に上記したピストン17が嵌挿されている。これにより、ディスク軸線方向に対向する一対のボア31がディスク回転方向に複数対、具体的には二対形成され、ディスク軸線方向に対向する一対のピストン17がディスク回転方向に複数具体的には二対配置されている。
【0015】
そして、キャリパボディ16の各パッドピン30には、それぞれ一対合計二対のパッド33がディスク軸線方向に移動可能に支持されている。これらパッド33は、ディスク12の軸線方向における両側にそれぞれ配置されることになり、これらパッド33のディスク12に対し反対側に位置するようにキャリパボディ16に設けられたピストン17でそれぞれディスク12に押し付けられ、これにより、車両に制動力を発生させるようになっている。
【0016】
前進制動時の制動トルクは、各パッド33をディスク回転方向入口側からディスク回転方向出口側へ移動させる力として作用し、その力は、ディスク回転方向出口側の一対のパッド33からキャリパボディ16のこれらパッド33が当接する最もディスク回転方向出口側のアウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24においてキャリパボディ16に伝わるとともに、ディスク回転方向入口側の一対のパッド33からキャリパボディ16のこれらパッド33が当接するディスク回転方向中央のアウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24においてキャリパボディ16に伝わることになる。後進制動時の制動トルクは、各パッド33から上記前進時とは逆側で当接するアウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24においてキャリパボディ16に伝わることになる。
【0017】
ここで、キャリパボディ16のディスクパス部26のディスク半径方向内側には、ディスク12を配置するための図2に示す通過リセス34が形成されることになり、アウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24はディスク半径方向においてディスク12と重なり合う位置に配置されたパッド33からのトルクをディスク回転方向において受けるため、ディスクパス部26よりもディスク半径方向内側まで延出する。つまり、ディスクパス部26のディスク半径方向の肉厚は、アウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24のディスク半径方向の肉厚より薄くなっている。
【0018】
なお、上記したパッド組付用空間28には、パッド33をディスク半径方向内方へ付勢するパッドスプリング35が組み付けられている。
【0019】
以上のディスクブレーキ1は、ディスク12の両側に配置される一対のパッド33と、ディスク12を跨いで配置されるキャリパボディ16と、このキャリパボディ16における一対のパッド33のディスク12に対し反対側にそれぞれ摺動可能に保持されるピストン17とを有するものとなる。また、ボア31がディスク回転方向に離間して複数設けられるとともに、ディスク回転方向において隣り合うボア31同士の間に、インナ側トルク受部24とディスクパス部26とアウタ側トルク受部23とが設けられることになる。
【0020】
なお、キャリパボディ16のアウタ側シリンダ部20には、キャリパ11をフロントフォーク13の取付部14に取り付けるための複数具体的には二カ所の取付ボルト穴37が、ディスク半径方向に沿って互いに平行に形成されている。また、キャリパボディ16のアウタ側シリンダ部20には、フロントフォーク13への取付状態で上部となる位置であって前進制動時のディスク回転方向出口側に、ブレーキ配管が取り付けられる配管取付穴部38がディスク軸線方向に沿って形成されており、それより上の上端部位置にエア抜き用のブリーダプラグ39を取り付けるためのブリーダ取付穴部40が上下方向に沿って形成されている。加えて、キャリパボディ16のアウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21には、パッドピン30を取り付けるためのパッドピン穴41がディスク軸線方向に沿って形成されている。
【0021】
そして、本実施形態において、キャリパボディ16は、上記したアウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21とすべてのアウタ側トルク受部23とすべてのインナ側トルク受部24とすべてのディスクパス部26とが鋳造により一体成形される。
【0022】
この鋳造時には、図4〜図6に示す中子44が用いられる。この中子44は、樹脂を被覆した珪砂を熱で固めたシェル中子である。中子44は、ベース部45とベース部45から互いに間隔をあけて同方向に延出する複数具体的には二カ所のパッド組付用空間形成部46と、各パッド組付用空間形成部46のそれぞれからパッド組付用空間形成部46の配列方向に対し直交して相反方向に突出する複数具体的には四カ所のボア下穴形成部47とを有している。各ボア下穴形成部47は、円柱状の内径下穴形成部49と、内径下穴形成部49のパッド組付用空間形成部46に対し反対側に同軸をなすように設けられた円板状の奥リセス形成部50とを有している。この奥リセス形成部50は内径下穴形成部49より大径かつボア31の内径加工後の内径部32よりも大径となっている。
【0023】
また、中子44は、同側に並ぶ奥リセス形成部50の近接対向位置同士を連結させる連通路形成部51と、一方のパッド組付用空間形成部46に設けられた両側の奥リセス形成部50のそれぞれの連通路形成部51とは反対側から半径方向外方向に突出する凹部形成部52とを有している。各凹部形成部52は、ボア下穴形成部47の半径方向に対し傾斜しつつ突出する略先細三角形状をなしている。なお、各奥リセス形成部50の内径下穴形成部49に対し反対側の面には凹む形状の凸部形成部53が中央に形成されている。
【0024】
上記中子44が図4に二点鎖線で概略を示す金型55にセットされる。そして、金型55と中子44とで画成されるキャビティ56に例えばアルミニウム合金の溶湯が注入される。なお、キャビティ56内において両パッド組付用空間形成部46同士は完全に離間している。そして、注湯後、型ばらしを行い、中子44を除去することで、図7〜図15に示すキャリパボディ16の鋳物16Aが得られる。
【0025】
このキャリパボディ16の鋳物16Aは、金型55と中子44の二カ所のパッド組付用空間形成部46とによって、図7,図9および図10等に示すように、アウタ側シリンダ部20と、これに対向するインナ側シリンダ部21とが形成される。また、アウタ側シリンダ部20のディスク回転方向に離間する三カ所の位置からインナ側に向けそれぞれ突出するアウタ側トルク受部23と、インナ側シリンダ部21のディスク回転方向に離間する三カ所の位置からアウタ側に向け突出する三カ所のインナ側トルク受部24とが形成される。そして、鋳物16Aは、アウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24のディスク軸線方向に並ぶもの同士をディスク半径方向外側で結ぶ三カ所のディスクパス部26と、アウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24のディスク軸線方向に並ぶもの同士をディスクパス部26のディスク半径方向内側で結ぶ三カ所の介在部58とを有し、アウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21の間に二カ所のパッド組付用空間28が形成された形状に形成される。ここで、図11に示すように、ディスク回転方向の位置が合うディスクパス部26および介在部58はディスク半径方向に一体化されている。また、図13〜図15に示すように、各介在部58のディスク半径方向内側の面58Aはアウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24のそれぞれのディスク半径方向内側の面23A,24Aと段差なく繋がっている。
【0026】
また、上記した二カ所のパッド組付用空間28は、中子44の二カ所のパッド組付用空間形成部46によって形状されるものであるが、キャリパボディ16の鋳物16Aのアウタ側シリンダ部20には、中子44のパッド組付用空間形成部46から突出するボア下穴形成部47によって、図10および図11に示すように、ボア下穴(下穴)31Aが形成されている。このボア下穴31Aは、アウタ側シリンダ部20におけるアウタ側トルク受部23の隣り合うもの同士の間となる二カ所の位置に、インナ側シリンダ部21側の対向面20Aから所定深さまで形成されている。
【0027】
つまり、アウタ側シリンダ部20において、中子44の内径下穴形成部49によってボア下穴31Aの円筒面状の内径下穴部32Aが形成される。また、中子44の奥リセス形成部50によって、これら内径下穴部32Aの奥側つまり底部61側に、内径下穴部32Aより大径かつ加工後のボア31の内径部32よりも大径のボア下穴31Aの奥リセス部60が内径下穴部32Aと同軸をなすように形成されている。
【0028】
また、アウタ側シリンダ部20において、各ボア下穴31Aの奥リセス部60を構成する底面59には、鋳造時に中子44の凸部形成部53によって軸線方向に若干突出する凸部64が形成されている。
【0029】
さらに、アウタ側シリンダ部20において、鋳造時に中子44の連通路形成部51によって形成される連通路62でディスク回転方向に隣り合う奥リセス部60同士が近接対向側において連通され、中子44の凹部形成部52によって、図12に示すように、前進制動時のディスク回転方向出口側となる一方の奥リセス部60(つまりボア下穴31Aの底部61側)に、その連通路62とは反対側から半径方向に対し傾斜しつつ半径方向外方に延出する略先細三角形状の凹部63が形成されている。この凹部63は、先端側ほどディスク半径方向外側に位置している。
【0030】
同様に、キャリパボディ16の鋳物16Aのインナ側シリンダ部21には、中子44のパッド組付用空間形成部46から突出するボア下穴形成部47によって、ボア下穴31Aが形成されている。このボア下穴31Aは、インナ側シリンダ部21におけるインナ側トルク受部24の隣り合うもの同士の間となる二カ所の位置に、アウタ側シリンダ部20側の対向面21Aから所定深さまで形成されている。
【0031】
つまり、インナ側シリンダ部21において、中子44の内径下穴形成部49によってボア下穴31Aの円筒面状の内径下穴部32Aが形成される。また、中子44の奥リセス形成部50によって、これら内径下穴部32Aの奥側つまり底部61側に、内径下穴部32Aより大径かつ加工後のボア31の内径部32よりも大径の奥リセス部60が各内径下穴部32Aと同軸をなすようにそれぞれ形成されている。
【0032】
また、インナ側シリンダ部21において、各ボア下穴31Aの奥リセス部60を構成する底面59には、鋳造時に中子44の凸部形成部53によって軸線方向に若干突出する凸部64が形成されている。
【0033】
さらに、インナ側シリンダ部21において、鋳造時に中子44の連通路形成部51によって形成される連通路62でディスク回転方向に隣り合う奥リセス部60同士が近接対向側において連通されている。また、中子44の凹部形成部52によって前進制動時のディスク回転方向出口側となる一方の奥リセス部60に、その連通路62とは反対側から先端側ほどディスク半径方向外側に位置するように延出する略先細三角形状の凹部63が形成されている。つまり、アウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21とで凹部63はディスク回転方向およびディスク半径方向の位置を合わせている。
【0034】
以上のキャリパボディ16の鋳物16Aは、後にボア31となるボア下穴31Aがディスク12の回転方向に離間して複数、具体的には二カ所設けられるとともに、ディスク回転方向において隣り合うボア下穴31A同士の間に、インナ側トルク受部24とアウタ側トルク受部23とディスクパス部26と介在部58とが鋳造により一体成形されている。
【0035】
また、以上のキャリパボディ16の鋳物16Aは、後にボア31となるボア下穴31Aのうち車体取付時に最も上側となる前進制動時のディスク回転方向出口側のボア下穴31Aの車体取付時の上側に凹部63が形成されている。
【0036】
なお、ボア31をディスク回転方向に離間して三つ以上形成する場合は、パッド組付用空間28およびこれに臨むボア下穴31Aがボア31の数に応じてさらに追加され、ディスク回転方向に隣り合うボア下穴31A同士のすべての間位置が連通路62で連通させられることになる。また、この場合、隣り合うボア下穴31A同士の間となるすべての位置にインナ側トルク受部24とアウタ側トルク受部23とディスクパス部26と介在部58とを鋳造により一体成形することになる。さらに、この場合、前進制動時のディスク回転方向の最も出口側となり車体取付時に最も上側となる奥リセス部60に、その連通路62とは反対側に凹部63が形成されることになる。
【0037】
以上のような形状の鋳物16Aに以下の加工を行うことにより、図16〜図26に示すキャリパボディ16が得られる。
【0038】
加工機械で例えばアウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21のそれぞれのディスク12に対し反対側となる両外面20B,21Bをクランプする。このとき、ディスクパス部26のディスク半径方向内側に形成された介在部58によってアウタ側トルク受部23とインナ側トルク受部24との間部分は、これらアウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24とディスク半径方向の肉厚が同等とされており、しかも、アウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21のディスク回転方向における両端だけではなくディスク回転方向に隣り合うボア下穴31A同士の間にも、アウタ側トルク受部23、インナ側トルク受部24、ディスクパス部26および介在部58が設けられていることから、クランプ力によるキャリパボディ16の鋳物16Aの変形が防止される。
【0039】
そして、このようにクランプされた状態のキャリパボディ16の鋳物16Aに対して、アウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21との間の各パッド組付用空間28から工具を挿入して、図19,図21等に示すように、アウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21の各パッド組付用空間28に臨むボア下穴31Aの内径下穴部32Aについてのみリーマによる切削加工を行って内径部32を形成する(図26に示す加工前の内径下穴部32Aおよび加工後の内径部32参照)。それとともに、フライスによる切削加工を行って内径部32にそれぞれ二カ所のシール溝66,67を形成する。つまり、形成されたすべてのボア31は、加工された内径部32およびシール溝66,67と加工されず鋳造時の状態のままの奥リセス部60とからなる。そして、後の組立時にシール溝66,67に図示略のシールリングが嵌合された状態で内径部32にピストン17が嵌合される。このように、すべてのボア31がインナ側シリンダ部21とアウタ側シリンダ部20との間のパッド組付用空間28側から加工されることで、すべてのボア31の底部61が鋳造時の閉塞状態を維持している。なお、奥リセス部60の凸部64はこれにピストン17が突き当たってもピストン17と底面59とを常に離間させた状態に維持するものである。
【0040】
また、アウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21との間の各パッド組付用空間28から工具を挿入して、アウタ側トルク受部23およびインナ側トルク受部24の各パッド組付用空間28に臨む面についてフライスによる切削加工を行うことで、パッド33のディスク回転方向における両端面を当接させてパッド33からのトルクを受ける図16,図18,図19,図21に示すアウタ側トルク受面70およびインナ側トルク受面71が形成されることになる。
【0041】
さらに、アウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21との間の各パッド組付用空間28から工具を挿入して、アウタ側トルク受部23の対向面20Aおよびインナ側トルク受部24の対向面21Aについてフライスによる切削加工を行うことで、互いに対向する対向面20a,21aが形成されることになる。
【0042】
加えて、アウタ側シリンダ部20のディスク回転方向に離間する二カ所にディスク軸方向に対して直交し、かつ互いに平行をなして貫通するように、フロントフォーク13の取付部14への取付ボルト挿入用の図16,図18〜図20に示す取付ボルト穴37を、ボーリングによる切削加工で穿設する。また、ディスク軸線方向に沿うパッドピン穴41をボーリングによる切削加工で穿設する。
【0043】
さらに、図20および図22に示すように、ブリーダプラグ39を取り付けるためのブリーダ取付穴部40を開口側に有する直線状の通路穴75をキャリパボディ16のアウタ側シリンダ部20のディスク回転方向における外面からアウタ側シリンダ部20の凹部63の頂部に向けてボーリングによる切削加工で穿設し、ブリーダ取付穴部40にはさらにネジ加工を行う。ここで、ブリーダ取付穴部40は車体取付時の上側に配置されることから上記通路穴75は凹部63に連通するように車体取付時の上側となる外側から穿設されていることになる。
【0044】
加えて、マスタシリンダ側からのブレーキ配管を取り付けるための配管取付穴部38を開口側に有する直線状の連通穴76をキャリパボディ16のアウタ側シリンダ部20のディスク軸線方向における外面から、上記したブリーダ取付穴部40を有する通路穴75に途中で交差させながらボーリングによる切削加工でキャリパボディ16の中間位置まで穿設し、配管取付穴部38にはさらにネジ加工を行う。さらに、キャリパボディ16のインナ側シリンダ部21のディスク軸線方向における外面からインナ側シリンダ部21の凹部63を通りさらに連通穴76に交差させるようにボーリングによる切削加工でキャリパボディ16の中間位置まで接続穴(通路穴)77を穿設する。この接続穴77の外面側は後の組立時にボール等が打ち込まれることで封止される。
【0045】
以上により、アウタ側シリンダ部20のディスク回転方向に隣り合う奥リセス部60同士つまりボア31同士が連通路62で連通し、インナ側シリンダ部21の隣り合う奥リセス部60同士つまりボア31同士も連通路62で連通し、アウタ側シリンダ部20の凹部63が形成された側の奥リセス部60つまりボア31が、この凹部63と通路穴75と連通穴76と接続穴77とでインナ側シリンダ部21の凹部63が形成された側の奥リセス部60つまりボア31に連通する。これによりディスク回転方向に並べられたボア31とこれらボア31に対しそれぞれディスク軸線方向において対向配置されたボア31のすべてが連通して一つのブレーキ液流路上に配置されることになる。ここで、配管取付穴部38を有する連通穴76およびこれに交差する通路穴75および接続穴77は、ディスク12の軸線方向における両側のボア31同士を連通させる接続路80を構成し、よって連通穴76はこの接続路80の一部を構成する。
【0046】
このようにして、これらすべてのボア31が連通穴76の開口側の配管取付穴部38に連通することで、後の組立時にこの連通穴76に連結されることになるブレーキ配管を介してブレーキ液が導入されることになる。また、これらすべてのボア31が通路穴75の開口側のブリーダ取付穴部40に連通することで、後の組立時にブリーダ取付穴部40に取り付けられることになるブリーダプラグ39からエア抜きが行われることになる。
【0047】
そして、さらに必要な加工を行い、最後にすべてのアウタ側トルク受部23とインナ側トルク受部24との間であってディスクパス部26のディスク半径方向内側に鋳造時に形成されたすべての介在部58を、フライス加工により除去して、図18,図19,図21,図23〜25に示すように、インナ側トルク受部24とアウタ側トルク受部23との間であってディスクパス部26のディスク半径方向内側にディスク12の通過リセス34を形成する。これにより、アウタ側トルク受部23とインナ側トルク受部24との間には、これらのディスク半径方向における外側同士を連結させるこれらよりもディスク半径方向における肉厚の薄いディスクパス部26が形成されることになる。
【0048】
なお、加工の順番は上記に限定されることなく、適宜順番を入れ替えることも可能である。
【0049】
以上に述べた本実施形態によれば、キャリパボディ16のピストン17を摺動可能に嵌合させるボア31がそれぞれ形成されるアウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21が鋳造により一体成形されるとともに、すべてのボア31がアウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21との間のパッド組付用空間28側から加工されることにより、すべてのボア31の底部61が鋳造時の閉塞状態を維持しているため、ボア31の底部61からブレーキ液が漏れ出ることはない。したがって、ブレーキ液の液漏れに対する信頼性を向上させることができる。
【0050】
また、キャリパボディ16は、ボア31の内径下穴部32Aと、ボア31の底部61側の、ボア31の内径部32よりも大径の奥リセス部60とが鋳造時に中子44によって形成されており、内径下穴部32Aがアウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21との間のパッド組付用空間28側から加工されて内径部32が形成されることから、ボア31の内径部32を形成するための軸線方向における加工長さを奥リセス部60の分だけ短くすることができる。よって、アウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21とのパッド組付用空間28からボアの加工ができるので、パッド組付用空間28のボア31軸方向の長さが小さくてすみ、キャリパボディ16の小型化を図ることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ディスクブレーキ
12 ディスク
16 キャリパボディ
17 ピストン
20 アウタ側シリンダ部
21 インナ側シリンダ部
28 パッド組付用空間(空間)
31 ボア
32 内径部
32A 内径下穴部
33 パッド
60 奥リセス部
61 底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクの両側に配置される一対のパッドと、前記ディスクを跨いで配置されるキャリパボディと、該キャリパボディに摺動可能に保持され前記一対のパッドをそれぞれ押圧するピストンとを有し、
前記キャリパボディは、前記ピストンが摺動可能に嵌合するボアを有するインナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部と、該インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部を連結するディスク回転方向に離間した複数のディスクパス部とが鋳造により一体成形され、
前記ボアは、前記ボアの開口側にあって小径の内径部と前記ボアの底部側にあって前記ボアの内径部よりも大径の奥リセス部とが前記ボアの底部が鋳造時の閉塞状態を維持して形成され、
前記アウタ側シリンダ部には、ディスク半径方向に沿って形成される二カ所の取付ボルト穴が設けられ、該取付ボルト穴の前記ディスク回転方向におけるボア側端部が前記奥リセス部のディスク軸方向範囲とずれて配置され、
前記インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部の前記ボアの奥リセス部には、該奥リセス部から前記ディスク回転方向に延出する凹部がそれぞれ形成され、該各凹部を接続路で連通することにより前記インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部の対向するボア同士が連通されることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
ディスクの両側に配置される一対のパッドと、前記ディスクを跨いで配置されるキャリパボディと、該キャリパボディに摺動可能に保持され前記一対のパッドをそれぞれ押圧するピストンとを有し、
前記キャリパボディは、前記ピストンが摺動可能に嵌合するボアを有するインナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部と、該インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部を連結するディスク回転方向に離間した複数のディスクパス部とが鋳造により一体成形され、
前記ボアは、前記ボアの開口側にあって小径の内径部と前記ボアの底部側にあって前記ボアの内径部よりも大径の奥リセス部とが前記ボアの底部が鋳造時の閉塞状態を維持して形成され、
前記アウタ側シリンダ部には、ディスク半径方向に沿って形成される二カ所の取付ボルト穴が設けられ、
前記インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部の前記ボアの奥リセス部には、該奥リセス部から前記ディスク回転方向に延出する凹部が、該取付ボルト穴の前記ディスク回転方向におけるボア側端部とディスク軸方向範囲からずれてそれぞれ形成され、該各凹部を接続路で連通することにより前記インナ側シリンダ部およびアウタ側シリンダ部の対向するボア同士が連通されることを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−43747(P2010−43747A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267922(P2009−267922)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【分割の表示】特願2003−399554(P2003−399554)の分割
【原出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】