説明

ディスクブレーキ

【課題】非制動時、制動時を問わず、キャリパ5aに対するインナ側、アウタ側両パッド11aの姿勢を安定させる。そして、何れの状態でも、これら両パッド11a部分で異音や振動が発生するのを防止する。
【解決手段】両パッド11aのプレッシャプレート13bとキャリパ5aとを、ロータの回転方向一端側では径方向外側でのみ、制動トルクの伝達を可能に係合させる。これに対して、回転方向他端側では、径方向内側でのみ、制動トルクの伝達を可能に係合させる。この構成により、前進時、後退時共、制動トルクに伴って前記両パッド11aに加わるモーメントの方向を同じとする。又、パッドスプリング14a、28によりこれら両パッド11aを押圧して、非制動時に於けるこれら両パッド11aのがたつきを防止する。前記両パッドスプリング14a、28により前記両パッドに加えるモーメントの方向を、制動時に加わるモーメントの方向と同じにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るディスクブレーキは、自動車の制動に使用するものである。特に、本発明は、キャリパと一対のパッドとの係合状態、並びに、非制動時にこれら両パッドががたつく事を防止する為の構造を改良し、制動時に於けるこれら両パッドの姿勢を安定させて、非制動時だけでなく制動時にも、これら両パッド部分で異音や振動が発生するのを防止するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行う為に、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータの軸方向(軸方向とは、特に断らない限り、ロータの軸方向を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)両側に配置された一対のパッドを、ピストンにより前記ロータの両側面に押し付ける。この様なディスクブレーキとして従来から各種構造のものが知られている。例えば、軸方向両側にピストンを、互いに対向する状態で設けた、対向ピストン型ディスクブレーキは、安定した制動力を得られる事から、近年使用例が増えている。特許文献1には、この様な対向ピストン型ディスクブレーキに関する発明が記載されている。
【0003】
図14〜15は、前記特許文献1に記載された構造を示している。ディスクブレーキ1は、ロータ2を挟む位置にアウタボディ部3及びインナボディ部4から成るキャリパ5を設け、これら両ボディ部3、4内に、1乃至複数個ずつのアウタシリンダ6及びインナシリンダ7を、それぞれの開口部を前記ロータ2を介して互いに対向させた状態で設けている。そして、これらアウタシリンダ6及びインナシリンダ7内に、アウタピストン8及びインナピストン9を、液密に且つ軸方向(図14の上下方向、図15の左右方向)に関する変位を可能に嵌装している。又、アウタパッド10及びインナパッド11は、前記ロータ2の外周縁よりも径方向(径方向とは、特に断らない限り、ロータの径方向を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)外寄り部分で、前記アウタボディ部3とインナボディ部4との間に掛け渡された2本のパッドピン12、12にそれぞれ吊り下げられた状態で、軸方向に変位可能としている。この為に、前記両パッド10、11のプレッシャプレート13、13の外周縁部にそれぞれガイド孔を形成し、これら両ガイド孔に前記両パッドピン12、12を緩く挿通している。
【0004】
又、これら両パッドピン12、12と前記アウタパッド10及びインナパッド11との間に、パッドスプリング14を配置している。このパッドスプリング14は、それぞれが弾性を有する2枚の金属板15a、15bを交差させた状態で結合して成る。このうちの一方の金属板15aは、前記両パッド10、11同士の間に、回転方向(回転方向とは、特に断らない限り、前記ロータの回転方向を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)に配置される。これに対して他方の金属板15bは、回転方向に関して前記両パッド10、11のほぼ中央部に、軸方向に配置される。
【0005】
又、前記一方の金属板15aは、回転方向両端部を、径方向内方にそれぞれクランク状に折り曲げた折り曲げ部16、16とし、これら両折り曲げ部16、16を、前記両パッドピン12、12の径方向内側の外周面に係合させている。又、前記他方の金属板15bは、軸方向両端部を、それぞれ内側に折り返して弾性係合部17、17としている。そして、これら両弾性係合部17、17の径方向内側面を、前記両パッド10、11のプレッシャプレート13、13の外周縁部で、回転方向に関してほぼ中央部に、弾性的に当接させている。
【0006】
上述の様に構成されるディスクブレーキ1は、制動時には、前記アウタシリンダ6及びインナシリンダ7内に圧油を送り込み、前記アウタピストン8及びインナピストン9により、前記アウタパッド10及びインナパッド11のライニング18、18を、前記ロータ2の内外両側面に押し付ける。又、制動解除に伴って、前記パッドスプリング14を構成する前記両弾性係合部17、17から付与される弾力により、前記両パッド10、11を前記ロータ2の側面から引き離す。一方、非制動時には、前記両弾性係合部17、17により、前記両パッド10、11に対し径方向内方に向く力を付与して、これら両パッド10、11のプレッシャプレート13、13の外周縁部にそれぞれ形成したガイド孔の一部を、これら各ガイド孔を挿通した前記両パッドピン12、12の外周面に押し付ける事により、前記両パッド10、11が、前記キャリパ5に対しがたつくのを防止する。
【0007】
上述の特許文献1に記載された構造の場合、前記両パッド10、11を、前記パッドスプリング14を構成する前記両弾性係合部17、17により径方向内方に向けて押圧する事により、非制動時の前記両パッド10、11のがたつきを防止する事を意図している。但し、この様な構造を採用した場合には、制動時に前記ロータ2の側面と前記両ライニング18、18との摩擦に伴って前記両パッド10、11に加わるモーメントの方向(偶力回転方向)と、前記パッドスプリング14による押圧方向とが、前記両パッド10、11の回入側(前進時にロータ2が進入する側)部分と回出側(前進時にロータ2が抜け出る側)部分との何れか一方で逆になる。この為、制動時に前記両パッド10、11の姿勢が不安定になり、制動に伴ってこれら両パッド10、11を構成する各プレッシャプレート13、13の側縁部と、前記キャリパ5側に形成したトルク受面とが勢い良く当接し、異音(クロンク音)が発生し易くなる。更に、前記特許文献1に記載された構造の場合には、前記両パッド10、11の回転方向に関するがたつきを十分に防止できない。この為、非制動時に異音が生じる事を十分に防止できない可能性がある。又、制動開始時に、クロンク音も発生し易くなる。
【0008】
これに対して、前記特許文献2には、図16に示す様に、パッド19をパッドスプリング14aにより、回転方向であるFx方向、及び、径方向であるFy方向にそれぞれ押圧する構造が記載されている。但し、この様な特許文献2に記載された構造の場合にも、この押圧方向と制動時に前記パッド19に加わるモーメントの方向とは、必ずしも一致しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−89018号公報
【特許文献2】特許第3487030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、非制動時、制動時を問わず、キャリパに対するインナ側、アウタ側両パッドの姿勢を安定させて、非制動時だけでなく制動時にも、これら両パッド部分で異音や振動が発生するのを防止すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のディスクブレーキは、従来から知られているディスクブレーキと同様に、一対のパッドと、キャリパと、複数のトルク受面と、一対のパッドピンと、弾性付与手段とを備える。
このうちの両パッドは、車輪と共に回転するロータを挟んで設けられる。
又、前記キャリパは、前記両パッドを軸方向に移動可能に支持すると共に、前記ロータの両側面に押し付けるピストンを備える。
又、前記各トルク受面は、回転方向に関して、前記キャリパの両端寄り部分に設けられている。そして、制動時に前記両パッドに作用するトルクを支承する。
又、前記両パッドピンは、前記キャリパのうち、回転方向に離隔した2箇所位置で、且つ、前記ロータの外周縁よりも径方向外側部分に、このロータの軸方向に掛け渡す状態で配置されている。そして、前記両パッドを構成するプレッシャプレートに設けたガイド孔にそれぞれ挿通している。
又、前記弾性付与手段は、前記両パッドと前記キャリパとの間に設けられている。そして、非制動時にこれら両パッドのがたつきを防止する。
【0012】
特に、本発明のディスクブレーキに於いては、前記各トルク受面と、前記両パッドを構成するプレッシャプレートの回転方向に関する両端面との間に、それぞれトルク受板を配置している。
これら各トルク受板のうち、前記両プレッシャプレートの一端側に配置した第一のトルク受板は、径方向に関して外側部分でのみ、前記両プレッシャプレートの一端面と一端寄り部分のトルク受面との間で挟持されている。そして、内側部分では、これら両プレッシャプレートの一端面と当該トルク受面との間に隙間を介在させている。
同じく他端側に配置した第二のトルク受板は、径方向に関して内側部分でのみ、前記両プレッシャプレートの他端面と他端寄り部分のトルク受面との間で挟持されている。そして、外側部分では、これら両プレッシャプレートの他端面とトルク受面との間に隙間を介在させている。
更に、前記弾性付与手段を、前記両パッドの一端寄り部分を径方向外方に、同じく他端寄り部分を径方向内方に、それぞれ押圧するものとしている。
【0013】
上述の様な本発明のディスクブレーキを実施する場合に、具体的には、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記弾性付与手段を、第一、第二のパッドクリップを組み合わせて成るものとする。この場合に、このうちの第一のパッドクリップは、一端側に配置した前記トルク受板と一体に設けられた弾性金属板製とする。そして、この弾性金属板の一部に設けられた押圧片により前記両パッドを構成する前記両プレッシャプレートを、前記ロータの径方向に関して外方に押圧する。
これに対して、前記第二のパッドクリップは、弾性を有する線材を曲げ形成して成るものとする。そして、中間部に設けた折り返し部及び押圧部のうちの折り返し部を、前記両パッドピンのうちで回転方向に関して他端寄りのパッドピンに係止する。又、両端部に設けた一対の係止部を、同じく一端寄り部分のパッドピンのうちで、径方向に関して内側に係止する。更に、前記押圧部を、前記両プレッシャプレートの径方向外端縁部のうちの他端寄り部分に当接させる。
【0014】
この様な請求項2に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記第二のパッドクリップを、前記一対の係止部同士の距離を互いに離隔させる方向の弾力を有するものとする。そして、非制動時にこれら両係止部により、前記両パッドを前記ロータの側面から離隔させる方向に変位させる。
【0015】
又、前述の様な本発明のディスクブレーキを実施する場合に、具体的には、例えば請求項4に記載した発明の様に、前記弾性付与手段を、第一、第二のパッドクリップを組み合わせて成るものとする。そして、請求項4に記載した発明の場合も、このうちの第一のパッドクリップは、一端側に配置した前記トルク受板と一体に設けられた弾性金属板製とする。そして、この弾性金属板の一部に設けられた押圧片により前記両パッドを構成する前記両プレッシャプレートを、径方向外方に押圧する。
これに対して、前記第二のパッドクリップは、弾性を有する金属板を曲げ形成して成るものとする。そして、一端側に向けて延出した弾性腕部の先端部外径側縁を、前記両パッドピンのうちの一端寄りのパッドピンに内径側から当接させる。又、中間部に設けた押圧部を、前記両パッドのプレッシャプレートの径方向外端縁のうちの他端寄り部分に当接させる。これと共に、他端部に設けた係合部を、前記キャリパの他端側の軸方向中間部内周面に係合させる。
【0016】
この様な請求項4に記載した発明を実施する場合に、より具体的には、請求項5に記載した発明の様に、一対の弾性腕部を、前記両パッドのプレッシャプレートの背面と、前記キャリパを構成するアウタ、インナ両ボディ部との間に配置する。そして、前記両弾性腕部の先端寄り部分を前記一端寄りのパッドピンに、内径側から当接させると共に、これら両弾性腕部の先端部に設けた係止部を、前記両パッドのプレッシャプレートの外径側周縁部に係合させる。そして、前記両弾性腕部によりこれら両パッドの一端側に、互いに離れる方向の弾力を付与する。
【0017】
或は、上述の様な請求項4に記載した発明を実施する場合に、請求項6に記載した発明の様に、(単一の)弾性腕部を、前記両パッドの間部分に配置する。そして、この弾性腕部の先端寄り部分を、前記一端寄りのパッドピンの中間部に、内径側から当接させる。又、一対の第二の弾性腕部を、前記両パッドのプレッシャプレートの背面と、前記キャリパを構成するアウタ、インナ両ボディ部との間に配置する。前記両第二の弾性腕部を、前記一端寄りのパッドピンから離隔させる。更に、これら両第二の弾性腕部の先端部に設けた係止部を、前記両パッドのプレッシャプレートの外径側周縁部に係合させる。そして、前記両第二の弾性腕部によりこれら両パッドの一端側に、互いに離れる方向の弾力を付与する。
【発明の効果】
【0018】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキによれば、非制動時、制動時を問わず、キャリパに対するインナ側、アウタ側両パッドの姿勢を安定させられる。この為、非制動時だけでなく制動時(制動開始時)にも、これら両パッド部分で異音や振動が発生する事を防止できる。
この為に本発明の場合には、制動時にロータの側面と前記両パッドを構成するライニングとの摩擦に伴ってこれら両パッドに加わるモーメントの方向(偶力回転方向)と、弾性付与手段から前記両パッドに付与される押圧力(弾力)により、これら両パッドにそれぞれ作用するモーメントの方向とを同じとしている。
【0019】
即ち、前記弾性付与手段により前記両パッドに、回転方向一端側が径方向外方に、同じく他端側が径方向内方に、それぞれ向かう方向のモーメントが加えられる。前記弾性付与手段に基づく、この方向のモーメントは、非制動時であるか制動時であるかに拘らず、前記両パッドに加え続けられる。そして、このモーメントにより、ブレーキトルクに基づくモーメントが加わらない非制動時にも前記両パッドが、キャリパに対してがたつく事が防止される。
【0020】
これに対して、前記ロータの回転方向が、キャリパの一端側が回入側に、同じく他端側が回出側になる状態で制動を行うと、前記両パッドのプレッシャプレートの回転方向他端面のうち、径方向内側部分でのみ、ブレーキトルクが支承される。この結果、前記両パッドに、回転方向他端側で且つ径方向内側部分を中心とするモーメントが加わる。このモーメントの方向は、回転方向一端側が径方向外方に、同じく他端側が径方向内方に、それぞれ向かう方向となる。この方向は、前記弾性付与手段により前記両パッドに加えられるモーメントの方向と同じである。ブレーキトルクに基づくモーメントは、前記弾性付与手段から加えられるモーメントよりも大きくなるが、これら両モーメントの方向は互いに同じであるから、制動開始に伴って前記両パッドの姿勢が変化する事はない。
【0021】
又、前記ロータの回転方向が、キャリパの他端側が回入側に、同じく一端側が回出側になる状態で制動を行うと、前記両パッドのプレッシャプレートの回転方向一端面のうち、径方向外側部分でのみ、ブレーキトルクが支承される。この結果、前記両パッドに、回転方向一端側で且つ径方向外側部分を中心とするモーメントが加わる。このモーメントの方向に就いても、回転方向一端側が径方向外方に、同じく他端側が径方向内方に、それぞれ向かう方向となる。この方向も、前記弾性付与手段により前記両パッドに加えられるモーメントの方向と同じである。この為、前記回転方向が逆の場合であっても、制動開始に伴って前記両パッドの姿勢が変化する事はない。
この結果、前記ロータの回転方向に拘らず(前進時の制動であるか後退時の制動であるかに拘らず)、前記両パッド部分で異音や振動が発生する事を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、アウタ側且つ径方向外側から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じく径方向外側から見た状態で示す正投影図。
【図3】同じくキャリパを除いて図1と同方向から見た状態で示す斜視図。
【図4】同じく図2のA−A断面図(a)及び(a)のイ部拡大図(b)及び同ロ部拡大図(c)。
【図5】同じく図2のB−B断面図。
【図6】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図7】図6のC−C断面図(a)及び(a)のイ部拡大図(b)及び同ロ部拡大図(c)。
【図8】第一のパッドクリップの斜視図。
【図9】第二のパッドクリップの斜視図。
【図10】アンカプレートの斜視図。
【図11】本発明の実施の形態の第3例を示す、図1と同様の図。
【図12】図11のD−D断面図。
【図13】第二のパッドクリップの斜視図。
【図14】従来構造の第1例を、径方向外側から見た状態で示す正投影図。
【図15】図14のE−E断面図。
【図16】従来構造の第2例を示す、図5と同様の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
図1〜5は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のディスクブレーキは、前述した従来から知られているディスクブレーキと同様に、一対のパッドであるアウタパッド10a及びインナパッド11aと、キャリパ5aと、複数のトルク受面20a、20bと、一対のパッドピン12a、12bと、弾性付与手段を構成する第二のパッドクリップである、パッドスプリング14aとを備える。
【0024】
前記アウタパッド10a及びインナパッド11aは、それぞれがプレッシャプレート13a、13bの片面にライニング18a、18bを添着固定して成る。本例の場合には、前記アウタ、インナ両パッド10a、11aとして同形状のものを使用している。そして、これら両パッド10a、11aを、それぞれのライニング18a、18bを互いに対向させた状態で(軸方向に関して対称にして)、前記キャリパ5aにより、車輪と共に回転するロータ2(図14〜15参照)の軸方向両側に、軸方向の移動を可能に配置している。
【0025】
本例の場合、前記キャリパ5aは、アルミニウム合金を鋳造する等により一体に造られたもので、アウタボディ部3aと、インナボディ部4aと、回転方向両端部に設けられた一対の連結部21a、21bとを備える。前記アウタボディ部3aには複数のアウタシリンダ6(図15参照)を、前記インナボディ部4aには複数のインナシリンダ7(図15参照)を、それぞれ対向する側が開口する状態で形成している。そして、これら各シリンダ6、7に、それぞれアウタ、インナ各ピストン8、9(図15参照)を油密に嵌装し、これら各シリンダ6、7内への油圧の導入により、前記両パッド10a、11aのライニング18a、18bを前記ロータ2の両側面に押し付け可能としている。
【0026】
又、前記各トルク受面20a、20bは、回転方向に関して、前記キャリパ5aの両端寄り部分に設けられている。本例の場合には、前記アウタボディ部3a及び前記インナボディ部4aの互いに対向する面のうち、前記両連結部21a、21bの間部分を凹ませて、それぞれ保持凹部22a、22bとしている。回転方向に関して、これら両保持凹部22a、22bの幅は、前記両パッド10a、11aの幅よりも少しだけ大きくしている。そして、これら両保持凹部22a、22b内にこれら両パッド10a、11aのプレッシャプレート13a、13bを、軸方向の変位を可能に保持している。又、前記両保持凹部22a、22bの回転方向両端部内面を、それぞれ前記各トルク受面20a、20bとしている。前記各シリンダ6、7は、前記両保持凹部22a、22bの底部に開口している。
【0027】
又、前記両パッドピン12a、12bは、前記キャリパ5aのうち、前記ロータ2の回転方向に離隔した2箇所位置で、且つ、このロータ2の外周縁よりも径方向外側部分に、軸方向に掛け渡す状態で配置されている。即ち、前記両パッドピン12a、12bは、前記インナボディ部4aの径方向外端部で、回転方向に関して前記保持凹部22bの両端部に軸方向に形成した通孔を、インナ側からアウタ側に挿通している。そして、それぞれの先端部に形成した雄ねじ部を、前記アウタボディ部3aの径方向外端部で、回転方向に関して前記保持凹部22aの両端部に軸方向に形成したねじ孔に螺合し、更に締め付けている。この状態で、前記両パッドピン12a、12bの中間部を、前記両パッド10a、11aを構成するプレッシャプレート13a、13bに設けたガイド孔23a、23bに、それぞれ挿通している。この状態で前記両パッド10a、11aが、前記ロータ2の軸方向両側面と、前記両保持凹部22a、22bの底面との間に、軸方向の移動のみを可能に保持される。
【0028】
但し、前記両パッドピン12a、12bの外周面と前記各ガイド孔23a、23bの内周面との間には、前記両パッド10a、11aの軸方向移動を可能にする必要上、或る程度の隙間が存在する。そこで、前記パッドスプリング14a及び後述するパッドスプリング28により、前記隙間に拘らず、走行時の振動等に基づいて、前記両パッド10a、11aが前記キャリパ5aの内側でがたつかない様にしている。前記パッドスプリング14aは、ステンレスのばね鋼等、弾性及び耐食性を有する線材を曲げ成形して成るもので、中央部に設けた略コ字形の押圧部24の両端部を同方向に折り返して、それぞれが略U字形である、一対の折り返し部25、25を形成している。又、これら両折り返し部25、25から回転方向に関して一端側に延出した一対の弾性腕部26、26の先端部を径方向内方及び回転方向に、略L字形に折り曲げて、それぞれ係止部27、27としている。前記両弾性腕部26、26には、これら両係止部27、27同士の間隔を拡げる方向の弾力を付与している。
【0029】
上述の様なパッドスプリング14aは、図示の様に、前記両パッドピン12a、12bと前記両プレッシャプレート13a、13bとの間に組み付けて、前記隙間に基づくがたつきを防止している。即ち、前記両折り返し部25、25を一方(本例の場合には前進時に於ける回出側)のパッドピン12aの両端寄り部分で、前記両プレッシャプレート13a、13bの裏面(前記各ピストン8、9により押圧される面)と前記両保持凹部22a、22bの底面との間部分に係止している。又、前記押圧部24の両端寄り部分を、前記両プレッシャプレート13a、13bの径方向外端縁のうち、前進時に於ける回出側端部寄り部分に当接させている。この状態で前記両プレッシャプレート13a、13bのうち、前進時の回出側に、径方向内向の弾力が、前記押圧部24により付与される。
【0030】
更に、前記両係止部27、27を、他方(本例の場合には前進時に於ける回入側)のパッドピン12bの両端寄り部分で、前記両プレッシャプレート13a、13bの表面(前記ライニング18a、18bが添着されている面)に対向する部分に、径方向内側から係止している。この状態で、前記両係止部27、27を、前記両プレッシャプレート13a、13bのうちで、前進時に回入側(回入側、回出側は、原則として前進時の状態で言う)となる部分の径方向外端部の表面に弾性的に当接させて、この部分に、互いに離隔する方向の弾力を付与している。
【0031】
一方、前記パッドスプリング14aと共に前記弾性付与手段を構成する第一のパッドクリップである、別のパッドスプリング28は、前進時に於ける回入側の連結部21aと、前記両プレッシャプレート13a、13bの回入側端縁部との間に設けている。これら両プレッシャプレート13a、13bの両端縁部で、径方向に関して中間部に、それぞれ凹部29a、29bを形成している。前記パッドスプリング28は、このうちの回入側の凹部29aの径方向外端部と、前記連結部21aとの間に設けている。
【0032】
前記パッドスプリング28は、ステンレスのばね鋼等、弾性及び耐食性を有する板材を曲げ成形して成るもので、基板部30と、外径側係止部31、31と、一対の弾性押圧部32と、一対の保持板部33、33とを備える。このうち、第一のトルク受板である基板部30は、平坦で略コ字形である。又、前記外径側係止部31、31は、この基板部30の径方向外端縁部から、前記連結部21a側に折れ曲がっている。又、前記両弾性押圧部32は、軸方向に関して前記基板部30の両端部で径方向に関して内端部に設けられたもので、前記板材を、前記両プレッシャプレート13a、13b側で、径方向外方に折り返す事により構成している。更に、前記両保持板部33、33は、軸方向に関して、前記基板部30の両端部から前記両プレッシャプレート13a、13b側に向け、直角に折れ曲がった状態で設けられている。又、前記両保持板部33、33に、それぞれ前記他方のパッドピン12bを挿通自在な円孔34、34を、互いに同心に形成している。
【0033】
上述の様なパッドスプリング28は、前記外径側係止部31、31を前記連結部21aの外周面に突き当てると共に、前記両弾性押圧部32を前記両プレッシャプレート13a、13bの回入側端縁部に形成した凹部29aの径方向外端部(に存在する段差部)に弾性的に当接させている。この状態で前記両プレッシャプレート13a、13bの回入側端部に、径方向に関して外側に、回転方向に関して、前進時に於ける回出側に向かう弾力を付与している。又、前記他方のパッドピン12bを前記円孔34、34に挿通する事により、前記パッドスプリング28が不用意に脱落する事を防止する。更に、この状態では、前記基板部30の両端部が、前記両プレッシャプレート13a、13bの回入側端縁部のうちで、径方向に関して前記凹部29aよりも外側部分と、前進時に於ける回入側に存在する前記トルク受面20aとの間に挟持される。このトルク受面20aと、径方向に関して前記凹部29aよりも内側部分との間には前記基板部30は存在せず、これらトルク受面20aと内側部分とは、隙間を介して対向している。従って、この内側部分からこのトルク受面20aに、制動トルクが伝達される事はない。
【0034】
一方、前進時に於ける回出側の連結部21bと、前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁部との間に、第二のトルク受板であるアンカプレート35を設けている。このアンカプレート35は、径方向に関して内側部分でのみ、前記両プレッシャプレート13a、13bの前進時に於ける回出側端面と、前記キャリパ5aの同じく回出側のトルク受面20bとの間で挟持している。この為に前記アンカプレート35は、前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁部の径方向中間部に形成した凹部29b、29bの径方向外端部よりも径方向内側部分にのみ、前記アンカプレート35の基板部36を設けている。この基板部36は、回転方向に見た形状が門型で、径方向外端縁の軸方向中央部から径方向外方に延出した延出板部37の先端部を回出側に曲げ形成して、外径側係止部38としている。更に、径方向に関して前記基板部36の外端部に、一対の保持板部39、39を設けている。これら両保持板部39、39はそれぞれ、前記基板部36から、前進時に於ける回入側に向け直角に折れ曲がったもので、それぞれの先端部はこの基板部36よりも、径方向に関して外方にまで達している。そして、それぞれの先端部に前記一方のパッドピン12aを挿通自在な円孔40を、互いに同心に形成している。
【0035】
上述の様なアンカプレート35は、前記外径側係止部38を前記連結部21bの外周面に突き当てた状態で、この連結部21b部分に組み付ける。又、前記一方のパッドピン12aを前記両円孔40に挿通する事により、前記アンカプレート35が不用意に脱落する事を防止する。この状態では、前記基板部36の両端部が、前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁部のうちで、径方向に関して前記凹部29bよりも内側部分と、前進時に於ける回出側に存在する前記トルク受面20bとの間に挟持される。このトルク受面20bと、径方向に関して前記凹部29bよりも外側部分との間には前記基板部36は存在せず、これらトルク受面20bと外側部分とは、隙間を介して対向している。従って、この外側部分からこのトルク受面20bに、制動トルクが伝達される事はない。
【0036】
上述の様に構成する本例のディスクブレーキによれば、非制動時、制動時を問わず、更には、前進時の制動であるか後退時の制動であるかに拘らず、前記キャリパ5aに対するインナ側、アウタ側両パッド11a、10aの姿勢を安定させられる。この為、非制動時だけでなく制動時(制動開始時)にも、これら両パッド11a、10a部分で異音や振動が発生する事を防止できる。この為に本例の場合には、制動時にロータ2の側面と前記両パッド11a、10aを構成するライニング18a、18bとの摩擦に伴ってこれら両パッド11a、10aに加わるモーメントの方向(偶力回転方向)と、前記パッドスプリング14a、28から前記両パッド11a、10aに付与される押圧力(弾力)により、これら両パッド11a、10aにそれぞれ作用するモーメントの方向とを同じとしている。
【0037】
即ち、前記線材製のパッドスプリング14aの押圧部24により前記両パッド11a、10aの他端(図1〜4の右端、前進時の回出側端)寄り部分を径方向内方に、同じく前記板ばね製のパッドスプリング28の弾性押圧部32により前記両パッド11a、10aの一端(図1〜4の左端、前進時の回入側)寄り部分を径方向外方に、それぞれ押圧している。この結果、前記両パッド11a、10aに、図4の時計方向のモーメントが加えられる。そして、このモーメントにより、前記各ガイド孔23a、23bの内周面と前記両パッドピン12a、12bの外周面とが、径方向に関して所定側(前記モーメントの作用方向前側)で当接し、非制動時に前記両パッド11a、10aが、前記キャリパ5aに対してがたつく事が防止される。尚、非制動時には、前記両係止部27、27が前記両パッド11a、10aの(前進状態での)回入側端部同士の間隔を拡げる。この為、前記両ライニング18a、18bの回入側端部が、前記ロータ2の側面から確実に離隔して、これら両ライニング18a、18bの回入側端部とロータ2の側面とが擦れ合う事を防止する。この為、非制動時に於ける車輪の回転抵抗が徒に大きくなる事を防止できる。
【0038】
次に、前進状態で制動を行う場合に於ける、前記両パッド11a、10aの挙動に就いて説明する。この場合には、前記ロータ2が、図4で時計方向に回転し、前記キャリパ5aの一端側(図1〜4の左側)が回入側になり、同じく他端側(図1〜4の右側)が回出側になる。この状態で制動を行うと、前記両パッド11a、10aを構成する前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁のうち、前記アンカプレート35の基板部36が存在する、径方向内側部分でのみ、ブレーキトルクが支承される。この状態では前記両パッド11a、10aに、前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁のうちの径方向内側部分と前記トルク受面20bとの突き合わせ部を支点とし、前記両ライニング18a、18bの摩擦中心Oを入力点とするモーメントが加わる。この摩擦中心Oは前記支点よりも径方向外方に存在するので、前記両パッド11a、10aには、図4で時計方向のモーメントが加わる。この方向は、前記パッドスプリング14a、28から前記両パッド11a、10aに加えられるモーメントの方向と同じである。制動時に、ブレーキトルクに基づいてこれら両パッド11a、10aに加わるモーメントは、前記パッドスプリング14a、28から加えられるモーメントよりも大きくなるが、これら両モーメントの方向は互いに同じであるから、前進状態での制動開始に伴って前記両パッド11a、10aの姿勢が変化する事はない。
【0039】
更に、後退状態で制動を行う場合に於ける、前記両パッド11a、10aの挙動に就いて説明する。この場合には、前記ロータ2が、前記キャリパ5aの他端側(図1〜4の右側)が回入側になり、同じく一端側(図1〜4の左側)が回出側になる方向に回転する。この状態で制動を行うと、前記両パッド11a、10aを構成する前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁のうち、前記パッドスプリング28の基板部30が存在する、径方向外側部分でのみ、ブレーキトルクが支承される。この状態では前記両パッド11a、10aに、前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁のうちの径方向外側部分と前記トルク受面20aとの突き合わせ部を支点とし、前記両ライニング18a、18bの摩擦中心Oを入力点とするモーメントが加わる。この摩擦中心Oは前記支点よりも径方向内方に存在するので、前記両パッド11a、10aには、図4で時計方向のモーメントが加わる。この方向も、前記パッドスプリング14a、28から前記両パッド11a、10aに加えられるモーメントの方向と同じである。この為、後退状態での制動時にも、制動開始に伴って前記両パッド11a、10aの姿勢が変化する事はない。
この結果、前記ロータ2の回転方向に拘らず(前進時の制動であるか後退時の制動であるかに拘らず)、前記両パッド11a、10a部分で異音や振動が発生する事を防止できる。
【0040】
[実施の形態の第2例]
図6〜10は、請求項1、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合、弾性付与手段を、第一のパッドクリップであるパッドスプリング28aと、第二のパッドクリップである、別のパッドスプリング41とにより構成している。このうちのパッドスプリング28aは、上述した実施の形態の第1例に組み込んだパッドスプリング28とほぼ同様のもので、ステンレスのばね鋼等、弾性及び耐食性を有する板材を曲げ成形する事により、図8に示す様に構成している。即ち、前記パッドスプリング28aは、第一のトルク受板である基板部30aと、外径側係止部31aと、一対の弾性押圧部32a、32aと、一対の保持板部33a、33aとを備える。又、これら両保持板部33a、33aに、それぞれパッドピン12dを挿通自在な円孔34a、34aを、互いに同心に形成している。
【0041】
上述の様なパッドスプリング28aは、上述した実施の形態の第1例に於けるパッドスプリング28と同様に、アウタ、インナ両パッド10a、11aを構成するプレッシャプレート13a、13bの一端部(前進時に於ける回入側端部)とキャリパ5aの一端側の連結部21aとの間に組み付ける。そして、組み付けた状態で、前記両プレッシャプレート13a、13bの回入側端部に、径方向に関して外側に、回転方向に関して回出側に向かう弾力を付与すると共に、前記両プレッシャプレート13a、13bの回入側端縁部のうちで、径方向外側部分でのみ、(後退状態での制動時に於ける)制動トルクを一端側のトルク受面20aに伝達可能とする。
【0042】
これに対して、前記別のパッドスプリング41は、図9に示す様に、T字形の基板部42から一端側に向けて、一対の弾性腕部43、43を延出している。即ち、軸方向に関して、前記基板部42の両側縁部に、径方向に関して内側が開口した、それぞれが断面J字形である一対の撓み部44、44を形成し、これら両撓み部44、44の先端から前記両弾性腕部43、43を、一端側に向けて延出させている。これら両弾性腕部43、43の先端部(一端部)には、径方向に関して内側が開口した、断面コ字形の係止部45、45を設けている。前記両弾性腕部43、43には、これら両係止部45、45同士の間隔を拡げる方向の弾力を付与している。又、軸方向に関して前記基板部42の両側部分から径方向に関して内方に、一対の押圧部46、46を曲げ形成している。更に、前記基板部42の他端部(前進時に於ける回出側部分)に係合部47を設けて、この基板部42の他端部と前記キャリパ5aの他端側とを係合可能としている。前記係合部47は、この基板部42の他端縁から、径方向に関して内方に折れ曲がった折れ曲がり板部48と、この折れ曲がり板部48の先端縁(径方向内端縁)から他端側に折れ曲がった係合板部49とから成る。
【0043】
上述の様な別のパッドスプリング41は、図6〜7に示す様に、前記キャリパ5aと前記両パッドピン12c、12dと前記両パッド10a、11aとの間に組み付ける。前記パッドスプリング41の組み付けに先立って、一対のパッドピン12c、12dのうちの他端寄りのパッドピン12cを前記キャリパ5aに組み付けておく。一端寄りのパッドピン12dは、未装着としておく。この状態から、前記係合板部49を他端側の連結部21bの径方向内側に潜り込ませ、この係合板部49が径方向外方に変位する事を抑えた状態で、前記両弾性腕部43、43を径方向内方に変位させる。そして、前記基板部42の中間部で前記他端寄りのパッドピン12cを、前記両押圧部46、46により前記両プレッシャプレート13a、13bの径方向外端縁の他端寄り部分を、それぞれ径方向内方に抑え付ける。更に、前記両係止部45、45を、前記両パッド10a、11aを構成するプレッシャプレート13a、13bの一端側外周縁部に係合させる。この状態で、前記キャリパ5aに前記一端寄りのパッドピン12dを装着する。このパッドピン12dは、径方向に関して、前記両弾性腕部43、43の外側に設置される。そして、これら両弾性腕部43、43を抑え付けている力を解除すると、前記両撓み部44、44の弾性により、前記両弾性腕部43、43が径方向外方に変位し、前記一端寄りのパッドピン12dの外周面と、内径側で係合する。
【0044】
更に、前記両プレッシャプレート13a、13bの他端側端縁と前記キャリパ5aとの間に、前述した実施の形態の第1例と同様のアンカプレート35aを装着している。このアンカプレート35aは、径方向に関して内側部分でのみ、前記両プレッシャプレート13a、13bの他端側端縁とトルク受面20bとの間でトルクを伝達可能とする為のもので、前述した実施の形態の第1例のアンカプレート35と同様、図10に示す様に、門型の基板部36aと、延出板部37aと、外径側係止部38aと、一対の保持板部39a、39aと、円孔40a、40aとを備える。この様なアンカプレート35aは、前述した実施の形態の第1例のアンカプレート35と同様にして、前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁部と回出側に存在するトルク受面20bとの間に設置する。そして、制動トルクを、径方向内側部分でのみ伝達可能とする(外側部分からこのトルク受面20bに、制動トルクが伝達されない様にする)。
【0045】
上述の様に構成する本例のディスクブレーキによっても、非制動時、制動時を問わず、前記キャリパ5aに対するインナ側、アウタ側両パッド11a、10aの姿勢を安定させて、非制動時だけでなく、前進時、後退時を問わず制動時にも、これら両パッド11a、10a部分で異音や振動が発生する事を防止できる。この為に本例の場合も、制動時に制動トルクに基づいて前記両パッド11a、10aに加わるモーメントの方向と、前記パッドスプリング28a、41の弾力に基づいてこれら両パッド11a、10aに作用するモーメントの方向とを同じとしている。
【0046】
即ち、前記パッドスプリング41の押圧部46、46により、前記両パッド11a、10bの他端(図6〜7の右端、前進時の回出側端)寄り部分を径方向内方に、前記パッドスプリング28aの弾性押圧部32a、32aにより、前記両パッド11a、10aの一端(図6〜7の左端、前進時の回入側)寄り部分を径方向外方に、それぞれ押圧している。この様にして前記両パッド11a、10aに、図7の時計方向のモーメントを加えて、非制動時にこれら両パッド11a、10aが、前記キャリパ5aに対してがたつく事を防止する。尚、非制動時には、前記両係止部45、45が前記両パッド11a、10aの回入側端部同士の間隔を拡げて、非制動時に於ける車輪の回転抵抗が徒に大きくなる事を防止する。
【0047】
前進状態で制動を行う場合には、前述した実施の形態の第1例の場合と同様に、前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁のうち、径方向内側部分でのみ、ブレーキトルクを支承する。この状態では、前記両パッド11a、10aに、図7で時計方向のモーメントが加わる為、前進状態での制動開始に伴って、これら両パッド11a、10aの姿勢が変化する事はない。
【0048】
又、後退状態で制動を行う場合も、前述した実施の形態の第1例の場合と同様に、前記両プレッシャプレート13a、13bの回出側端縁のうち、径方向外側部分でのみ、ブレーキトルクを支承する。この状態でも、前記両パッド11a、10aに、図7で時計方向のモーメントが加わる為、後退状態での制動開始に伴って、これら両パッド11a、10aの姿勢が変化する事はない。
この結果、前記ロータ2の回転方向に拘らず、前記両パッド11a、10a部分で異音や振動が発生する事を防止できる。
【0049】
更に本例の場合には、前記パッドスプリング41により前記両パッドピン12c、12dを、径方向に関して押圧している。この為、前記キャリパ5aに対するこれら両パッドピン12c、12dの支持部に隙間が存在しても、これら両パッドピン12c、12dががたつく事を防止できる。即ち、前述した実施の形態の第1例の様に、両パッドピン12a、12bの先端部に設けた雄ねじ部を、キャリパ5aに設けたねじ孔に螺合し更に締め付ければ、このキャリパ5aに対して前記両パッドピン12a、12bががたつく事はない。これに対して本例の場合には、前記キャリパ5aに形成した通孔に前記両パッドピン12c、12dを挿通した状態で、例えばCリングと呼ばれる止め輪、或いはβピンと呼ばれる止めピンにより、前記両パッドピン12c、12dの抜け止めを図る事を意図している。この様な構造の場合、これら両パッドピン12c、12dの外周面と前記各通孔の内周面との間に隙間が存在し、走行時の振動等でこれら両パッドピン12c、12dががたつき、不快な異音が発生したり、これら両パッドピン12c、12dと前記各通孔との係合部が摩耗する可能性がある。これに対して本例の場合には、前記パッドスプリング41により前記がたつきを防止しているので、前記異音の発生や前記摩耗の抑えられる。
【0050】
[実施の形態の第3例]
次に、図11〜13は、請求項1、4、6に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、単一の弾性腕部43aを、軸方向に関して、アウタ、インナ両パッド10a、11aの間部分に配置している。そして、前記弾性腕部43aの先端寄り部分を、一端寄り(前進状態での回入側)のパッドピン12dの中間部に、内径側から当接させている。又、一対の第二の弾性腕部50、50を、前記両パッド10a、11aのプレッシャプレート13a、13bの背面と、キャリパ5aを構成するアウタ、インナ両ボディ部3a、4aとの間に配置している。径方向に関して、前記両第二の弾性腕部50、50の外端縁と、前記一端寄りのパッドピン12dとは互いに離隔しており、制動に伴って前記両パッド10a、11aが軸方向に変位した場合にも、擦れ合う事はない。更に、前記両第二の弾性腕部50、50の先端部に設けた係止部45、45を、前記両パッド10a、11aのプレッシャプレート13a、13bの外径側周縁部に係合させている。そして、前記両第二の弾性腕部50、50により、前記両パッド10a、11aの一端側である、前進時に於ける回入側端部に、互いに離れる方向の弾力を付与している。
【0051】
上述の様に本例の場合には、前記パッドピン12dのがたつきを抑える為の弾性腕部43aと、非制動時に、前記両パッド10a、11aの回入側端部を互いに離隔させる為の一対の第二の弾性腕部50、50とを、互いに独立させている。この様な構成を採用した理由は、次の通りである。即ち、前述した実施の形態の第2例の場合には、前記両係止部45、45同士の間隔を拡げる場合には、前記両弾性腕部43、43の外径側端縁と前記パッドピン12d(図7参照)とが擦れ合う。この為、この擦れ合いに基づく摩擦力の分だけ、前記両係止部45、45同士の間隔を拡げる力が弱くなり、非制動時に於ける両ライニング18a、18bとロータ2との擦れ合い防止効果が損なわれる。特に、前記パッドピン12dのがたつき防止効果を確保すべく、前記両弾性腕部43、43の径方向外方に向いた弾力を大きくすると、これら両弾性腕部43、43の外径側端縁と前記パッドピン12dとの擦れ合いに基づく抵抗が大きくなり、前記擦れ合い防止効果の劣化が顕著になり易い。これに対して本例の場合には、前記がたつきを防止する為の構造と、前記回入側端部を互いに離隔させる為の構造とを互いに独立させている為、前記パッドピン12dのがたつき防止効果と、前記擦れ合い防止効果とを、高次元で両立させ易い。
その他の部分の構造及び作用は、前述した実施の形態の第1例及び第2例の場合と同様であるから、同等部分に関する説明は省略する。
【符号の説明】
【0052】
1 ディスクブレーキ
2 ロータ
3、3a アウタボディ部
4、4a インナボディ部
5、5a キャリパ
6 アウタシリンダ
7 インナシリンダ
8 アウタピストン
9 インナピストン
10、10a アウタパッド
11、11a インナパッド
12、12a、12b、12c、12d パッドピン
13、13a、13b プレッシャプレート
14、14a パッドスプリング
15a、15b 金属板
16 折り曲げ部
17 弾性係合部
18、18a、18b ライニング
19 パッド
20a、20b トルク受面
21a、21b 連結部
22a、22b 保持凹部
23a、23b ガイド孔
24 押圧部
25 折り返し部
26 弾性腕部
27 係止部
28、28a パッドスプリング
29a、29b 凹部
30、30a 基板部
31、31a 外径側係止部
32、32a 弾性押圧部
33、33a 保持板部
34、34a 円孔
35、35a アンカプレート
36、36a 基板部
37、37a 延出板部
38、38a 外径側係止部
39、39a 保持板部
40、40a 円孔
41 パッドスプリング
42 基板部
43、43a 弾性腕部
44 撓み部
45 係止部
46 押圧部
47 係合部
48 折れ曲がり板部
49 係合板部
50 第二の弾性腕部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータを両側から挟んで設けられた一対のパッドと、これら両パッドを軸方向に移動可能に支持すると共に、前記ロータの両側面に押し付けるピストンを備えたキャリパと、回転方向に関してこのキャリパの両端寄り部分に設けられ、制動時に前記両パッドに作用するトルクを支承する複数のトルク受面と、前記キャリパのうちの回転方向に離隔した2箇所位置で、且つ、前記ロータの外周縁よりも径方向外側部分に、軸方向に掛け渡す状態で配置され、前記両パッドを構成するプレッシャプレートに設けたガイド孔にそれぞれ挿通した一対のパッドピンと、前記両パッドと前記キャリパとの間に設けられ、非制動時にこれら両パッドのがたつきを防止する弾性付与手段とを備えたディスクブレーキに於いて、
前記各トルク受面と、前記両パッドを構成するプレッシャプレートのうちで回転方向に関して両端面との間に、それぞれトルク受板を配置しており、
これら各トルク受板のうち、前記両プレッシャプレートの一端側に配置した第一のトルク受板は、径方向に関して外側部分でのみ、前記両プレッシャプレートの一端面と一端寄り部分のトルク受面との間で挟持されていて、径方向に関して内側部分では、これら両プレッシャプレートの一端面と当該トルク受面との間に隙間を介在させており、
同じく他端側に配置した第二のトルク受板は、径方向に関して内側部分でのみ、前記両プレッシャプレートの他端面と他端寄り部分のトルク受面との間で挟持されていて、径方向に関して外側部分では、これら両プレッシャプレートの他端面とトルク受面との間に隙間を介在させており、
前記弾性付与手段は、前記両パッドの一端寄り部分を径方向外方に、同じく他端寄り部分を径方向内方に、それぞれ押圧するものである事を特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記弾性付与手段が、第一、第二のパッドクリップを組み合わせて成るものであって、このうちの第一のパッドクリップは、一端側に配置した前記トルク受板と一体に設けられた弾性金属板製で、この弾性金属板の一部に設けられた押圧片により前記両パッドを構成する前記両プレッシャプレートを、径方向外方に押圧しており、
前記第二のパッドクリップは、弾性を有する線材を曲げ形成して成るものであって、中間部に設けた折り返し部及び押圧部のうちの折り返し部を、前記両パッドピンのうちで回転方向に関して他端寄りのパッドピンに係止し、両端部に設けた一対の係止部を同じく一端寄り部分のパッドピンのうちで、径方向に関して内側に係止すると共に、前記押圧部を、前記両プレッシャプレートの径方向外端縁部のうちの他端寄り部分に当接させている、
請求項1に記載したディスクブレーキ。
【請求項3】
前記第二のパッドクリップが、前記一対の係止部同士の距離を互いに離隔させる方向の弾力を有するものであり、非制動時にこれら両係止部が、前記両パッドを前記ロータの側面から離隔させる方向に変位させる、請求項2に記載したディスクブレーキ。
【請求項4】
前記弾性付与手段が、第一、第二のパッドクリップを組み合わせて成るものであって、このうちの第一のパッドクリップは、一端側に配置した前記トルク受板と一体に設けられた弾性金属板製で、この弾性金属板の一部に設けられた押圧片により前記両パッドを構成する前記両プレッシャプレートを、径方向外方に押圧しており、
前記第二のパッドクリップは、弾性を有する金属板を曲げ形成して成るものであって、一端側に向けて延出した弾性腕部の先端部外径側縁を、前記両パッドピンのうちの一端寄りのパッドピンに内径側から当接させ、中間部に設けた押圧部を、前記両パッドのプレッシャプレートの径方向外端縁のうちの他端寄り部分に当接させると共に、他端部に設けた係合部を、前記キャリパの他端側の軸方向中間部内周面に係合させている、
請求項1に記載したディスクブレーキ。
【請求項5】
一対の弾性腕部が、前記両パッドのプレッシャプレートの背面と、前記キャリパを構成するアウタ、インナ両ボディ部との間に配置されており、前記両弾性腕部の先端寄り部分が前記一端寄りのパッドピンに内径側から当接すると共に、これら両弾性腕部の先端部に設けた係止部が前記両パッドのプレッシャプレートの外径側周縁部に係合していて、前記両弾性腕部によりこれら両パッドの一端側に、互いに離れる方向の弾力を付与している、請求項4に記載したディスクブレーキ。
【請求項6】
弾性腕部が、前記両パッドの間部分に配置されており、この弾性腕部の先端寄り部分が前記一端寄りのパッドピンの中間部に内径側から当接しており、一対の第二の弾性腕部が、前記両パッドのプレッシャプレートの背面と、前記キャリパを構成するアウタ、インナ両ボディ部との間に配置されていて、前記両第二の弾性腕部が前記一端寄りのパッドピンから離隔しており、これら両第二の弾性腕部の先端部に設けた係止部が前記両パッドのプレッシャプレートの外径側周縁部に係合していて、前記両第二の弾性腕部によりこれら両パッドの一端側に、互いに離れる方向の弾力を付与している、請求項4に記載したディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−33130(P2011−33130A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180381(P2009−180381)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】