ディスクロータ
【課題】プレス成形部とディスク部の一体化、小型化に貢献でき、更にプレス成形部の剛性を高めるのに貢献でき、加えて水抜き性を向上させることができるディスクロータを提供する。
【解決手段】ディスクロータは、プレス成形で成形され相手部材に取り付けられる金属製のプレス成形部2と、プレス成形部2の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物45で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部4とを備える。プレス成形部2は、プレス成形部2のうち黒鉛含有鋳物45から露出している部分2wにおいて、プレス成形部2の中心域に対して放射方向に沿って延設されプレス成形部2の剛性を高める複数個の第1リブ6を有する。
【解決手段】ディスクロータは、プレス成形で成形され相手部材に取り付けられる金属製のプレス成形部2と、プレス成形部2の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物45で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部4とを備える。プレス成形部2は、プレス成形部2のうち黒鉛含有鋳物45から露出している部分2wにおいて、プレス成形部2の中心域に対して放射方向に沿って延設されプレス成形部2の剛性を高める複数個の第1リブ6を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両等のブレーキ装置に使用されるディスクロータに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクロータとして、2ピース構造のものが知られている。このものによれば、ディスク状の支持部と、摩擦摺動面をもつ摩擦リングとが設けられており、支持部の外周部に突設されたピン状の連結要素により支持部の外周部と摩擦リングの内周部とを連結させることにしている(特許文献1)。支持部は、鋳造、鍛造、押し出し、深い絞り等で形成されている。摩擦リングはねずみ鋳鉄で形成されている。
【0003】
また、2ピース構造のディスクロータとして、板材を絞り加工して形成された取付部材と、鋳物で形成されたロータ本体とが設けられており、取付部材に形成された複数個の爪状突起を曲げ加工してロータ本体の複数個の切欠にそれぞれ係合させることにより、取付部材およびロータ本体を一体化させたものが知られている。
【特許文献1】特表平8−505924号公報
【特許文献2】特開2004−116600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、ピン状の連結要素を埋設するために摩擦リングに放射状に穴加工する必要がある。更に、ピン状の連結要素が必要とされるため、ディスクロータが径方向に大型化するおそれがある。
【0005】
特許文献2によれば、取付部材に形成された複数個の爪状突起を曲げ加工してロータ本体の複数個の切欠にそれぞれ係合させることにより、取付部材およびロータ本体を一体化させている。しかしながらこのものによれば、各爪状突起と各切欠の壁面との間にクリアランスが形成される傾向にある。クリアランスが存在すると、がたの要因となり、取付部材およびロータ本体の一体性を向上させるには限界がある。
【0006】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、プレス成形部とディスク部の一体化、小型化に貢献でき、更にプレス成形部の剛性を高めるのに貢献でき、加えて水抜き性を向上させることができるディスクロータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)様相1に係るディスクロータは、金属板部材のプレス成形を経て成形され相手部材に取り付けられるプレス成形部と、前記プレス成形部の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部とを具備しており、前記プレス成形部は、前記プレス成形部のうち前記黒鉛含有鋳物から露出している部分において、前記プレス成形部の中心域に対して放射方向に沿って延設されプレス成形部の剛性を高める複数個の第1リブを有することを特徴とする。
【0008】
プレス成形部は、金属板部材のプレス成形を経て成形されており、相手部材に取り付けられる。プレス成形部は、プレス成形部のうち黒鉛含有鋳物(以下、鋳物ともいう)から露出している部分において、複数個の第1リブを有する。第1リブは、プレス成形部の中心域に対して放射方向に沿って延設されており、プレス成形部の剛性を高めることができる。このためプレス成形部の厚みを抑えつつプレス成形部の剛性を高めることができる。
【0009】
ディスクロータは車両の脚回り部品であるため、雨水等の水がディスクロータ周辺にかかるおそれがある。このような場合、ディスクロータが相手部材に取り付けられている状態において、ディスクロータと相手部材との境界域に水が残留し、発錆を誘発させるおそれがある。ここで第1リブは、プレス成形部の中央域に対して放射方向に延設されている。このため、ディスクロータと相手部材との境界域に水が存在するとしても、水は、周方向において隣設する第1リブ間の空間から抜けることができ、境界域に存在する水の排出性が確保されている。従って、水等に起因するディスクロータにおける発錆の不具合が抑制され、ディスクロータの耐久性の向上を図り得る。
【0010】
(2)様相2に係るディスクロータによれば、上記様相において、第1リブは、黒鉛含有鋳物から露出すると共に放熱性を高める露出部分に加えて、黒鉛含有鋳物に鋳包まれて黒鉛含有鋳物に埋設され黒鉛含有鋳物との接合強度を高める埋設部分を有することを特徴とする。第1リブのうち埋設部分は鋳物に埋設されており、プレス成形部と鋳物との接合強度を高めることができる。第1リブのうち露出部分は鋳物から露出しており、プレス成形部の剛性を高め得ると共に、放熱面積を増加させ、放熱性を高め得る。放熱面積の増加は、摩擦熱を発生させるディスク部の過熱抑制に貢献でき、ディスク部の長寿命化に貢献できる。
【0011】
(3)様相3に係るディスクロータによれば、上記様相において、相手部材は第1相手部材と第2相手部材とを備えており、プレス成形部は、第1相手部材と第2相手部材とで挟持された状態において、第1相手部材、プレス成形部、第2相手部材に挿通された締結具で相手部材に取り付けられており、第1リブの突出面が第1相手部材および第2相手部材のうちのいずれか一方の取付面に着座してスペーサとして働くように、第1リブの突出面の突出高さは設定されていることを特徴とする。
【0012】
ディスクロータの全体が鋳物で形成されている従来例において、ディスクロータは第1相手部材と第2相手部材とで挟持された状態で第1相手部材および第2相手部材に締結される。この場合、この従来例のディスクロータは、第1相手部材および第2相手部材のうちのいずれか一方の取付面に接触して着座する。この点について本発明によれば、ディスクロータが相手部材に締結されているとき、第1リブの突き出している側の突出面が第1相手部材および第2相手部材のうちのいずれか一方の取付面に接触して着座するため、位置決め機能を発揮できる。このように第1リブの突出面は、位置決め機能を発揮するスペーサとして働くことができる。このため従来から使用されている第1相手部材および第2相手部材をそのまま利用することができる。
【0013】
(4)様相4に係るディスクロータによれば、上記様相において、プレス成形部はこれの厚み方向に貫通する貫通孔を有しており、プレス成形部の軸芯と平行な方向に沿ってディスクロータを投影するとき、貫通孔の平均内径をDとすると、第1リブと貫通孔の縁との最短距離がD以内に設定されているように、第1リブは貫通孔に接近し、プレス成形部のうち貫通孔の周辺を補強していることを特徴とする。この場合、貫通孔はプレス成形部の軽量化を図り得るが、プレス成形部の剛性を高めるためには好ましくない。ここで、本様相によれば、第1リブは貫通孔に接近し、プレス成形部のうち貫通孔の周辺を補強するため、プレス成形部の軽量化が図られつつ、剛性が確保される。貫通孔としては、ディスクロータを相手部材に取り付けるための取付孔でも良いし、あるいは、軽量化用の開口でも良い。
【0014】
(5)様相5に係るディスクロータによれば、上記様相において、プレス成形部は、プレス成形部の外周部に周方向において並設された複数個の第2リブからなる第2リブ群を有しており、第2リブの少なくとも一部は黒鉛含有鋳物の鋳包み部に鋳包まれていることを特徴とする。第2リブによりプレス成形部と鋳物との一体接合性を高めることができる。少なくとも一部とは、第2リブ全体の表面積を100%とするとき、面積比で10%以上とすることができる。20%以上、30%以上、40%以上とすることもできる。
【0015】
(6)様相6に係るディスクロータによれば、上記様相において、第2リブ群は、プレス成形部の外周部の周方向において間隔を隔てて配置されており、周方向において互いに隣設された第2リブ群間に開口窓が形成されていることを特徴とする。開口窓によりプレス成形部の軽量化が図られる。開口窓はプレス成形部の外周部の周方向において第2リブ群間に配置されているため、軽量化を図りつつ、第2リブによりプレス成形部と鋳物との一体接合性を高めることができる。
【0016】
(7)様相7に係るディスクロータによれば、上記様相において、プレス成形部の周方向において隣設する第1リブ同士間の空間は、ディスクロータのプレス成形部と相手部材との間の境界域に存在する水を排出させる水抜き用空間として機能し、プレス成形部の径方向において内側から外側に向かうにつれて空間の幅が増加するように設定されていることを特徴とする。この場合、ディスクロータのプレス成形部と相手部材との間の境界域に水が存在するときであっても、その水を良好に排出させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プレス成形部の外周部を鋳物で鋳包むため、プレス成形部とディスク部とを連結させるピンなどが廃止でき、ディスクロータの径方向の小型化に貢献できる。更に、プレス成形部の外周部を鋳物で鋳包むため、プレス成形部とディスク部の一体化に貢献できる。また、プレス成形部は、プレス成形部のうち鋳物から露出している部分において、複数個の第1リブを有する。第1リブは、プレス成形部の中心域に対して放射方向に沿って延設されており、プレス成形部の剛性を高めることができる。
【0018】
更にまた、第1リブはプレス成形部の中心域に対して放射方向に配置されているため、ディスクロータが相手部材に取り付けられている状態において、第1リブ付近に存在する水は、放射状に配置された互いに隣設する第1リブ同士の間から重力、遠心力等により抜けることができ、ディスクロータや相手部材において発錆の不具合が抑制されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態1)
図1〜図5は実施形態1を示す。ディスクロータ1は、乗用車や貨物車等の車両に搭載されているものであり、図1に示すように、プレス成形で成形された金属製のプレス成形部2と、プレス成形部2の外周側に鋳包みにより接合された鋳物45で形成されたディスク部4とを有する。図1には、ディスクロータ1の正面図が示されていると共に、これのA−A線に沿った断面が並べて示されている。便宜上、中心線を記載した方が理解し易い場合には、中心線を記載している。
【0020】
プレス成形部2はディスクロータ1の中央域を占めており、ハット部とも呼称されるものであり、厚みが薄い金属板部材のプレス成形を経て形成されている。従って、ディスクロータの全体を鋳物で形成していた従来技術に比較して、ディスクロータ1の軽量化が図られている。金属板部材は、炭素鋼でも良いし、ステンレス鋼等の合金鋼でも良いし、場合によってはアルミニウム合金、チタン合金でも良い。ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス等が挙げられる。金属板部材の厚みとしては、ディスクロータ1のサイズ、種類、用途、第1リブ6等に応じて適宜選択できるが、例えば0.3〜7ミリメートルの範囲内、0.6〜5ミリメートルの範囲内、0.6〜4ミリメートルの範囲内にできる。場合によっては金属板部材が高強度材料である場合には、3ミリメートル以下、2ミリメートル以下でも良い。
【0021】
図1におけるA−A断面に示すように、プレス成形部2は、プレス成形部2の軸芯P1に沿った壁を備える円筒部20と、円筒部20の軸長方向の一端20aから径内方向に延設された第1フランジ部21と、円筒部20の軸長方向の他端20cから径外方向に延設された第2フランジ部22とを有する。第1フランジ部21は軸芯P1に対して半径方向に延設されており、厚み方向に貫通する円形状をなす中央孔23を有する。プレス成形部2は全体としてフランジ付き円筒形状をなしており、中央孔23の外側において、周方向に均等間隔で配置された貫通状態の複数個の取付孔24と、中央孔23の内縁に相当する内周部25と、第2フランジ部22の外縁に相当する外周部26とを有する。
【0022】
図1に示すように、ディスク部4は、摩擦材料が摺動する第1摩擦摺動面41fを有するアウタ部41と、摩擦材料が摺動する第2摩擦摺動面42fを有するインナ部42と、インナ部42とアウタ部41との間に配置され冷却用の空気が通過する冷却通路をもつベント部43とを有する。図5に示すように、アウタ部41は車外側に対向するものであり、走行車輪のベースを構成するホィール51に対面するようにホィール51側に位置する。インナ部42は車内側に対向するものであり、車体側のハブ53に位置する。
【0023】
ディスク部4を構成する鋳物45は、多数の黒鉛を分散させた鋳鉄で形成されている。黒鉛は片状黒鉛が好ましい。但し場合によっては、球状黒鉛でも、芋虫状黒鉛、共晶状黒鉛でも良い。黒鉛サイズおよび黒鉛粒数はディスクロータ1の用途などに応じて適宜設定できる。鋳鉄は、フェライトを主体とする鋳鉄でも良いし、パーライトを主体とする鋳鉄でも良い。主体とは、マトリックス(黒鉛を除く)の面積を100%とするとき、面積比で50%以上を占めることをいう。場合によっては、オーステナイトを主体とする鋳鉄でも良い。鋳物45は生砂鋳型、シェル鋳型等の砂鋳型で形成しても良いし、金属鋳型で形成しても良い。
【0024】
図1に示すように、プレス成形部2には、複数個の第1リブ6がプレス成形部2の周方向において均等間隔で形成されている。プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wにおいて、複数個の第1リブ6は、プレス成形部2の軸芯P1に対して放射方向に沿って延設されており、当該部分2wにおいて剛性を高めることができる。1本の第1リブ6の長さ方向の内端は、中央孔23の内周部25に接近するように延設されている。第1リブ6の長さ方向の外端はプレス成形部2の外周部26まで延設されている。このような第1リブ6は、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wを強化し、当該部分の剛性(曲げ剛性、回転剛性)を高めることができる。各第1リブ6は、互いに背向する突出面60および凹み面61を有する。突出面60は、断面でアール状をなすアール面60mを有する。凹み面61は、断面でアール状をなすアール面61mを有する。図5に示すように、突出面60は後述するホィール51に背向しており、従って、ハブ53の取付面55に向けて突出している。各第1リブ6において、突出面60の突出量Hは、第1リブ6の全長にわたり同一とされており、特に、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wにおいて、同一とされている。
【0025】
図1に示すように、突出面60および凹み面61は、第1リブ6の延設方向に沿って長く線状に延設されている。凹み面61は凹部62を形成する。プレス成形部2およびディスク部4は同軸的配置とされている。なお、プレス成形部2の厚みt1はディスク部4の鋳物45の厚みよりも薄くされており、具体的にはアウタ部41の厚み、インナ部42の厚みよりもそれぞれ薄くされており、軽量化に貢献している。プレス成形部2の金属組織としては、パーライトを主体とする組織、パーライト−フェライトを主体とする組織、オーステナイトを主体とする組織、フェライトを主体とする組織、ベイナイトを主体とする組織が挙げられる。
【0026】
本実施形態によれば、プレス成形部2の外周部26は鋳物45に一体的に鋳包まれており、鋳物45で形成されたディスク部4の内周側に形成されている鋳包み部45cに一体的に接合されている。従って、鋳物45で形成されたディスク部4とプレス成形部2の外周部26とを連結させるピン等の連結要素を廃止させたり、あるいは、連結要素を用いるとしても、連結要素を簡素化できる。この場合、多数の連結要素が用いられている場合に比較して、ディスクロータ1の径方向の小型化に貢献できる。
【0027】
この場合、前述したようにプレス成形部2の外周部26は鋳物45に鋳包まれているため、鋳物45で形成されたディスク部4とプレス成形部2の外周部26との間においてクリアランスが発生することが抑えられる。よって、ディスクロータ1の制動時においてクリアランスに起因する異音の発生が抑制される。なお、プレス成形部2の外周部26はディスク部4のアウタ部41に埋設されているが、場合によってはインナ部42に埋設されていても良い。
【0028】
図2に示すように、第1リブ6は、鋳物45の鋳包み部45cから露出する露出部分65と、鋳物45の鋳包み部45cに鋳包まれて埋設されている埋設部分66とを有する。埋設部分66は第1リブ6の長さ方向の外端に相当するものであり、鋳物45との一体接合性を高めると共に接合面積を増加させるのに貢献できる。このように補強効果を有する第1リブ6のうち埋設部分66は、鋳物45に埋設されており、プレス成形部2と鋳物45との一体接合性を高めることができる。第1リブ6のうち露出部分65は、鋳物45から露出しており、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wの剛性を高めることができる。特に、第1リブ6はプレス成形部2の第1フランジ部21および円筒部20の剛性を高める。更に、第1リブ6の露出部分65は、プレス成形部2の第1フランジ部21の放熱面積を増加させて放熱性を高めることができるため、摩擦熱が発生するディスク部4の過熱の抑制に貢献できる。
【0029】
図5はディスクロータ1を車体に取り付けた状態を示す。ディスクロータ1を取り付ける相手となる相手部材は、第1相手部材としての車輪のホィール51と、第2相手部材としてのハブ53とを備えている。図5に示すように、プレス成形部2の第1フランジ部21は、ハブ53の平坦な取付面55に当接されて着座された状態において、厚み方向においてホィール51とハブ53とで挟持されている。具体的には、ホィール51の取付孔51x、プレス成形部2の取付孔24、ハブ53の取付孔53xに締結具としての締結ボルト58を挿通し、締結ボルト58にナット部材59を着脱可能に締結している。これによりディスクロータ1の第1フランジ部21は厚み方向においてホィール51およびハブ53に挟持されて取り付けられており、ホィール51およびハブ53と共に一体回転する。このように第1フランジ部21は鋳物45に比較して薄肉化されているものの、ホィール51およびハブ53に挟持されるため、取付性には支障を来さない。
【0030】
この場合、図5に示すように、第1リブ6の突出面60がハブ53の取付面55に向けて突出して、ハブ53の取付面55に接触して着座するように、第1リブ6の突出面60の突出量Hは設定されている。このように第1リブ6の突出面60は、ハブ53の取付面55に着座する位置決め機能を発揮するスペーサとして働くことができる。この場合、図5に示すように、プレス成形部2の第1フランジ部21とハブ53の取付面55との間の境界域200には、隙間200cが生成されている。
【0031】
第1リブ6の突出面60は、その裏面に凹部62を背向させているため、厚み方向において弾性による変形許容性を発揮することができる。このため、締結ボルト58およびナット部材59を螺合させる締結時において、放射状をなす全部の第1リブ6の突出面60の全体をハブ53の取付面55に接触させてそれぞれ着座させることができ、プレス成形部2の着座性を高めることができ、プレス成形部2の姿勢の安定化を図り得る。
【0032】
ところで、仮に、ディスクロータ1の全体が鋳物で形成されている従来例によれば、ディスクロータは、ホィール51とハブ53とで挟持された状態でホィール51およびハブ53に締結ボルト58を利用して締結される。このような従来例のディスクロータの表面はハブ53の平坦な取付面55に接触する。この点について本実施形態によれば、図5に示すように、ディスクロータ1のプレス成形部2がホィール51およびハブ53に締結されるとき、第1リブ6の突出面60がハブ53の取付面55に向けて突出しており、当該取付面55に着座して位置決めするスペーサ機能を果たすことができる。このため、隙間200cを形成するようにディスクロータ1のプレス成形部2の第1フランジ部21の厚みの薄肉化を図りつつ、従来から使用されているホィール51およびハブ53で第1フランジ部21を挟持できる利点が得られる。この場合、従来のホィール51およびハブ53をそのまま、あるいは、ほとんどそのまま利用できる。
【0033】
なお、ディスクロータ1をハブ53およびホィール51に締結するにあたり、第1リブ6の突出面60をハブ53ではなく、ホィール51に向けて突出させてホィール51の表面51fに当接させる方式を採用することも考えられる。しかしこの場合には次の不具合が発生することがある。すなわち、車両に装備できる走行車輪の種類が複数個存在するとき、車体側に装備されているハブ53は複数個の走行車輪に共通化されているが、各走行車輪に取り付けられているホィール51の形状または構造は走行車輪毎に相違する場合が多い。このため、仮に第1リブ6の突出面60をホィール51の表面51fに当接させる構造が採用されている場合、走行車輪の種類が変更されたりすると、第1リブ6の突出面60がホィール51の表面51fに接触したり接触しなかったりするおそれがある。この場合、ディスクロータ1の取付性に影響を与えるおそれがある。
【0034】
そこで本実施形態によれば、図5に示すように、共通化されているハブ53の取付面55に向けてプレス成形部2の第1リブ6の突出面60を突出させ、突出面60をハブ53の取付面55に接触させて着座させる方式が採用されている。この場合、ハブ53の取付面55にプレス成形部2の第1リブ6の突出面60を接触させて良好に着座させ得るため、走行車輪の種類が変更されるときであっても、ディスクロータ1の取付性に影響を与えることが抑制される。
【0035】
ところで、仮に、第1リブがプレス成形部2において周方向に連続するリング形状をなす方式も考えられる。しかしこの場合には、ハブ53とディスクロータ1との間の境界域200の隙間200c(図5参照)に水等が進入するとき、リング形状の第1リブに水が包囲されるため、水が境界域200の隙間200cから抜けにくくなり、発錆上好ましくない。そこで本実施形態によれば、第1リブ6は放射状に沿って延設されており、周方向(矢印S方向)において隣設する第1リブ6同士の空間6w(図1参照)が存在している。この結果、境界域200の隙間200cに存在する水は、周方向に隣設する第1リブ6同士の空間6wから矢印F方向(図1参照)に抜けることができる。殊に、図1に示すように、周方向(矢印S方向)において空間6wの空間幅は、プレス成形部2の径方向において内側から外側に向かうにつれて次第に増加するように設定されているプレス成形部2の軸芯P1に対して周方向に沿って延設された。このため境界域200の隙間200cに存在する水は、周方向(矢印S方向)に隣設する第1リブ6同士の空間6wから矢印F方向(図1参照)に抜けることができる。よって境界域200における水が抜けにくくなる不具合が解消され、発錆等が抑えられる。
【0036】
本実施形態によれば、図1に示すように、プレス成形部2の外周部26には、これの周方向において並設された凹凸7wを形成する複数個の第2リブ7からなる第2リブ群70が形成されている。第2リブ群70の外端側は、鋳物45の鋳包み部45cに鋳包まれて一体化されている。しかも、第2リブ群70は、凹凸7wを形成しつつ、プレス成形部2の外周部26を1周するようにプレス成形部2の外周部26の全周に形成されている。このような第2リブ7によりプレス成形部2の外周部26と鋳物45との一体接合性を更に強固にすることができる。ここで、制動時において摩擦材料がアウタ部41の第1摩擦摺動面41f,インナ部42の第2摩擦摺動面42fに摩擦するタイミングは、厳密には必ずしも同時刻ではない。タイミングがずれると、プレス成形部2の外周部26と鋳物45との連結部分に負荷がかかるおそれがある。この場合であっても、プレス成形部2の外周部26の全周は第2リブ群70のリブ効果により強化されているため、上記した負荷に対処し易い。
【0037】
更に、プレス成形部2の外周部26に形成された第2リブ群70により形成されている凹凸7wは、鋳物45の鋳包み部45cに鋳包まれるため、プレス成形部2と鋳物45の鋳包み部45cとの接触面積および係合面積を増加させる。これによりプレス成形部2と鋳物45の鋳包み部45cとの間における伝熱面積を増加させることができる。よってディスクロータ1の使用時において、摩擦材料がディスク部4の摩擦摺動面41f,42fに摩擦して摩擦熱がディスク部4に発生するとき、摩擦熱をプレス成形部2側に放出させ、ディスク部4の温度を低下させるのに貢献できる。殊に、プレス成形部2を構成する金属板材には、鋳物45とは異なり、振動減衰性を有するものの熱伝導性を低下させる黒鉛が分散されていないため、プレス成形部2の伝熱性および放熱性が確保されている。
【0038】
ここで、図4に示すように、第2リブ7からなる第2リブ群70は、プレス成形部2の円筒部20において円筒部20の回りを1周するように凹凸7wを形成しつつ形成されており、円筒部20自体の剛性を高めているばかりか、凹凸7w面積を増加させている。第2リブ7は、円筒部20の円筒高さ方向(図4に矢印M1方向)に沿って延設されている。この場合、ディスク部4よりも薄肉化されたプレス成形部2の円筒部20を第2リブ群70により補強して円筒部20の剛性を高めることができる。
【0039】
本実施形態によれば、第1リブ6および第2リブ7は、冷間加工、温間加工、熱間加工のいずれの加工で成形しても良い。冷間加工であれば、第1リブ6および第2リブ7の加工硬化による更なる強化を期待できる。但し、第1リブ6および第2リブ7のうち鋳物45で鋳包まれる部分においては、鋳物45を形成する溶湯の熱により加熱されて加工硬化性が低減するおそれがある。しかし放射状に延設されている第1リブ6の大部分は鋳物45の鋳包み部45cから離間しているので、第1リブ6は第2リブ7に比較して溶湯の熱影響を受けにくく、第1リブ6の加工硬化性は維持され易い利点が得られる。
【0040】
ディスクロータ1を製造する場合には、先ず、深絞り等のプレス成形でプレス成形部2を成形する。その後、プレス成形部2を鋳型(砂鋳型、金属鋳型等)のキャビティに配置し、その状態でキャビティに鋳鉄の高温の溶湯を注入して凝固させて鋳物45を形成する。その後、摩擦摺動面を切削する等といった適宜の機械加工を施す。ディスク部4を構成する鋳物45は、プレス成形部2の外周部26を鋳包む鋳包み部45cをもつ。プレス成形部2の厚みt1は薄いものの、プレス成形部2は第1リブ6により補強されているばかりか、第2リブ7によっても補強されて強化されているため、鋳造時におけるプレス成形部2の熱変形は抑制される。
【0041】
(実施形態2)
本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有するため、図1〜図5を準用できる。本実施形態によれば、プレス成形部2は、焼き入れ強化可能となる炭素含有量を有する炭素鋼または合金鋼で形成されており、厚みが薄い鉄系の金属板部材(厚み:例えば0.5〜5ミリメートル)を高温(一般的には、A1変態点以上の温度領域で融点未満)に加熱(例えば誘導加熱、炉加熱または通電加熱)した状態で、金型のプレス型面で冷却しつつプレス成形するダイクエンチ法により成形されており、プレス成形と焼き入れ処理とが同時に行われている。従ってプレス成形部2は、マルテンサイトが増加した焼き入れ強化組織を有する。
【0042】
鋳物45を鋳造するときにおける溶湯の熱の影響により、焼き入れ部分の焼き戻し効果を期待することもできる。この結果、万一、焼き入れ条件の変動等によりプレス成形部2の外周部26が過剰焼き入れしているときであっても、プレス成形部2の外周部26と鋳物45とが連結している連結部分における過剰硬化が焼き戻しにより低減され、当該連結部分における強度および靱性が確保される。
【0043】
更に、第1リブ6が焼き入れ強化されて第1リブ6の硬度が高くなっているため、第1リブ6の露出部分65において、ハブ53の取付面55に着座する第1リブ6の突出面60の硬度が確保され、突出面60の耐摩耗性が確保され、突出面60のスペーサ機能を長期にわたり良好に確保できる。
【0044】
なお、場合によっては、他の実施形態として、補強効果を高める放射状をなす第1リブ6付近のみを焼き入れ処理により局部的に強化しても良い。場合によっては、第1リブ6および第2リブ群70付近のみを局部的に焼き入れしても良い。
【0045】
(実施形態3)
図6は実施形態3を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図6に示すように、第1リブ6の突出面60は、平坦化が進行した平坦面60fを有する。第1リブ6の凹み面61は、平坦化が進行した平坦面61fを有する。この場合、第1リブ6の平坦化された突出面60がハブ53の取付面55に接触する接触面積が増加し、ハブ53の取付面55に対するプレス成形部2の薄肉の第1フランジ部21の着座性を高めることができ、プレス成形部2の姿勢の安定化に貢献できる。図示はしないが、第2リブ7についても、平坦化が進行した平坦面を有することにしても良い。
【0046】
(実施形態4)
図7は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図7に示すように、プレス成形部2の第1フランジ部21には、これを厚み方向に貫通させる複数個の取付孔24(貫通孔)が形成されている。取付孔24は円形状とされている。図7は、プレス成形部2の軸芯P1と平行な方向に沿ってディスクロータ1を投影している。このような図7において、取付孔24の平均内径をDとすると、第1リブ6と取付孔24の縁との最短距離がD以内に設定されているように、第1リブ6は取付孔24に接近している。具体的には、取付孔24の縁と第1リブ6の長さ方向の端とは隣設している。この結果、第1リブ6は、プレス成形部2のうち取付孔24の周辺を補強している。この場合、取付孔24はプレス成形部2の軽量化を図り得るが、プレス成形部2の剛性を高めるには好ましくない。
【0047】
そこで、前述したように第1リブ6は取付孔24に接近または隣設し、プレス成形部2のうち貫通状態の取付孔24の周辺を補強する。具体的には、図7に示すように、第1フランジ部21における1本の第1リブ6xの長さ方向の中間に取付孔24が形成されている。このためプレス成形部2の軽量化が図られつつ、プレス成形部2の剛性が確保される。具体的には、図7に示すように、第1リブ6の数は取付孔の数よりも増加している。従って、複数個の第1リブ6(6x,6y)のうち第1リブ6xは、取付孔24に隣設されて取付孔24を補強しているが、第1リブ6yは取付孔24に隣設されておらず、取付孔24を直接的に補強していない。
なお、全部の取付孔24にリブ6を設けても良い。
【0048】
(実施形態5)
図8は実施形態5を示す。図8にはディスクロータ1の正面図と共に、これのB−B線、C−C線に沿った断面が示されている。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図8に示すように、第2リブ7が並設された第2リブ群70は、プレス成形部2の外周部26の周方向(矢印S方向)において間隔を隔てて複数個群配置されている。図8に示すように、周方向において互いに隣設された第2リブ群70間に、軽量化用の開口窓29が形成されている。開口窓29は、径方向において鋳物45とプレス成形部2との間に位置している。
【0049】
鋳包み部45cは、周方向(矢印S方向)に間隔を隔てて複数個形成されており、第2リブ群70を鋳包んでいる。開口窓29によりプレス成形部2の軽量化が図られている。なお、周方向に隣設する鋳包み部45c間には、開口窓29が形成されている。
【0050】
開口窓29は、プレス成形部2の外周部26の周方向において第2リブ群70間に配置されているため、軽量化を図りつつ、第2リブ群70によりプレス成形部2と鋳物45の鋳包み部45cとの一体接合性を高めることができる。
【0051】
図8に示すように、周方向(矢印S方向)において、第2リブ群70の位相と第1リブ6の位相とは重なっている。このため第1リブ6で強化されている位相部分において、鋳包み部45cと接合される第2リブ群70が配置されている。この結果、開口窓29により軽量化を図りつつも、第2リブ群70と鋳物45の鋳包み部45cとの一体接合性を強化させることができる。なお、プレス成形部2の外周部26に形成されている第2リブ群70は、ディスク部4のアウタ部41の内部に埋設されている。
【0052】
(実施形態6)
図9は実施形態6を示す。図9にはディスクロータ1の正面図と共に、これのE−E線、D−D線に沿った断面が示されている。本実施形態は実施形態4と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図9に示すように、プレス成形部2の外周部26に形成されている第2リブ群70は、ディスク部4のインナ部42の内部に埋設されている。
【0053】
(実施形態7)
図10は実施形態7を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。プレス成形部2には、複数個の第1リブ6がプレス成形部2の周方向において均等間隔で形成されている。第1リブ6は、プレス成形部2の中心域の軸芯P1に対して放射方向に沿って延設されており、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wにおいて、剛性(曲げ剛性、回転剛性)を高めることができる。1本の第1リブ6の長さ方向の一端は中央孔の内周部に接近するように延設されている。第1リブ6の長さ方向の他端はプレス成形部2の外周部26付近まで延設されている。プレス成形部2の外周部26は、ディスク部4となる鋳物45の内周側の鋳包み部45cに鋳包まれており、鋳物45で形成されたディスク部4の内周側に形成されている鋳包み部45cに一体的に接合されている。図10に示すように、プレス成形部2には第2リブが設けられていない。
【0054】
(実施形態8)
図11は実施形態8を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図11に示すように、プレス成形部2の第1フランジ部21には、これを厚み方向に貫通させる複数個の取付孔24が形成されている。取付孔24はディスクロータ1をハブおよびホィールに取り付けるためのものである。図11は、プレス成形部2の軸芯P1と平行な方向に沿ってディスクロータ1を投影している。図11において、取付孔24の平均内径をDとすると、第1リブ6と取付孔24の縁との最短距離がD以内に設定されているように、第1リブ6は取付孔24に接近している。具体的には、取付孔24の縁と第1リブ6の端とは直接的に隣設している。この結果、第1リブ6は、プレス成形部2のうち取付孔24の周辺を補強している。この場合、取付孔24は、ブレーキディスク1をハブ53およびホィール51に取り付ける機能と、プレス成形部2の軽量化機能とを実現させる。ここで、取付孔24は開口であるため、プレス成形部2の剛性を高めるためには限界がある。そこで、前述したように第1リブ6の長さ方向の端は取付孔24に隣設されており、第1リブ6はプレス成形部2のうち取付孔24の周辺を補強する。このためプレス成形部2の軽量化が図られつつ、プレス成形部2の剛性が確保されている。
【0055】
具体的には、複数個の第1リブ6(6x,6y)のうち第1リブ6xは取付孔24に隣設されて取付孔24を補強しているが、第1リブ6yは、取付孔24に隣設されておらず、取付孔24を直接的に補強していない。
【0056】
(実施形態9)
図12は実施形態9を示す。図12にはディスクロータ1の正面図と共に、これのG−G線、I−I線に沿った断面が示されている。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図12に示すように、第1リブ6は、プレス成形部2の外周部26の周方向(矢印S方向)において間隔を隔てて配置されている。周方向において互いに隣設された第1リブ6間に、開口窓29が形成されている。つまり、隣設する鋳包み部45c間に開口窓29が形成されている。複数個の開口窓29によりプレス成形部2の軽量化が図られている。複数個の開口窓29において、開口窓29と軸芯P1との距離は均等化されている。更に開口窓29は周方向において均等化されている。このため、ディスクロータ1の回転バランスが確保される。なお、プレス成形部2の外周部26はディスク部4のアウタ部41の内部に埋設されている。
【0057】
(実施形態10)
図13は実施形態10を示す。図13にはディスクロータ1の正面図と共に、これのK−K線、L−L線に沿った断面が示されている。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図13に示すように、プレス成形部2の外周部26はディスク部4のインナ部42の内部に埋設されている。このためプレス成形部2の外周部26がディスク部4のアウタ部41の内部に埋設されている場合に比較して、円筒部20の軸芯P1に沿った方向の軸長を長くでき、ひいては補強効果を高める第1リブ6の長さをそのぶん長くでき、補強性の確保に貢献できる。
【0058】
(実施形態11)
図14は実施形態11を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図14に示すように、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wには、プレス成形部2の軸芯P1に対して周方向に沿って円弧状に延設された第3リブ9が周方向リブとして複数個形成されている。プレス成形部2の厚み方向において、第3リブ9は第1リブ6と同じ方向に突出しており、隣設する第1リブ6間に円弧状に配置されている。第3リブ9は、取付孔24の外周側に配置されており、径方向において第2リブ群7に接近している。第3リブ9は周方向に沿って延設されているため、プレス成形部2の回転方向における剛性を高めるのに貢献できる。図14に示すように、第3リブ9の長さ方向の端と第1リブ6との間には、空間9rが形成されている。すなわち、第3リブ9は周方向には連続していない。従ってハブ53とディスクロータ1との境界域200に水が進入するときであっても、その水は空間9rから抜けることができる。この場合、プレス成形部2が発錆する不具合、発錆に起因してプレス成形部2とハブ53とが固着する不具合が抑制される。
【0059】
(実施形態12)
図15は実施形態12を示す。図15に示すように、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wには、第1リブ6および第2リブ7が形成されているほかに、第3リブ9が複数個形成されている。第3リブ9は、プレス成形部2の軸芯P1に対して周方向に沿って延設されており、周方向(矢印S方向)において隣設する第1リブ6間に円弧状に配置されている。第3リブ9は周方向リブとしてプレス成形部2の周方向に沿って1周するように連続しており、プレス成形部2の回転方向における剛性や曲げ剛性を高めるのに貢献できる。図15に示すように、第3リブ9の端は第1リブ6に延設されている。このため第3リブ9による剛性増加に有利である。
【0060】
この場合には、リング状の第3リブ9で包囲される部分に進入した水が抜けにくくなるおそれがある。そこでリング形状をなす第3リブ9の突出面90の突出量HBは、第1リブ6の突出面60の突出量Hよりも小さく設定されている。この場合、第1リブ6の突出面60はハブ53の取付面55に接触して着座するものの、第3リブ9の突出面90はバブ53の取付面55に接触しない。この場合、突出面90と取付面55との間において境界域200の隙間200cが形成される。隙間200cにより水の抜き性が確保される。但し、ハブ53およびプレス成形部2が発錆しないような高い耐食性を有する場合には、第3リブ9の全長にわたり、第3リブ9の突出量と第1リブ6の突出量とを同一としても良い。
【0061】
(他の実施形態)
上記した各実施形態によれば、鋳物45は片状黒鉛鋳鉄とされているが、球状黒鉛鋳鉄としても良い。第1リブ6はプレス成形部2の軸芯P1に対して放射方向に沿って延設されているが、これに限らず、軸芯P1付近の中心域に対して概略的に放射方向に沿って延設されていれば良い。第1リブ6は一直線状に連続して延設されているが、これに限らず、第1リブ6の長さ方向において断続的に延設されていても良い。第1リブ6および第2リブ7とが併有されているが、これに限らず、場合によっては、第2リブ7は廃止されていても良い。この場合、プレス成形部2において粗面化処理を施し、プレス成形部2と鋳物45との一体接合性を粗面により高めることにしても良い。全実施形態において、プレス成形部2はダイクエンチ等により焼き入れ強化されていても良い。上記した実施形態1によれば、ディスクロータ1をハブ53およびホィール51に締結するにあたり、第1リブ6の突出面60をハブ53に当接させているが、場合によっては、ホィール51に当接させる方式を採用することできる。その他、本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施可能である。ある実施形態に特有の構造および機能は、他の実施形態についても適用できる。本明細書から次の技術的思想を把握することもできる。
【0062】
[付記項1]金属板部材のプレス成形を経て成形され相手部材に取り付けられるプレス成形部と、前記プレス成形部の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部とを具備しており、前記プレス成形部は、前記プレス成形部のうち前記黒鉛含有鋳物から露出している部分において、前記プレス成形部の中心域に対して周方向に沿って延設され前記プレス成形部の剛性を高める周方向リブを有することを特徴とするディスクロータ。プレス成形部とディスク部の一体化、小型化に貢献でき、更にプレス成形部の剛性を高めるのに貢献できる。
[付記項2]金属板部材のプレス成形を経て成形され相手部材に取り付けられるプレス成形部と、前記プレス成形部の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部とを具備しており、前記プレス成形部は、前記プレス成形部のうち前記黒鉛含有鋳物から露出している部分において、前記プレス成形部の剛性を高めるリブを有することを特徴とするディスクロータ。プレス成形部とディスク部の一体化、小型化に貢献でき、更にプレス成形部の剛性を高めるのに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施形態1に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図2】ディスクロータのディスク部とプレス成形部の第1リブ付近を示す断面図である。
【図3】ディスクロータのディスク部とプレス成形部の第2リブ付近を示す断面図である。
【図4】ディスクロータの側面図である。
【図5】ディスクロータをハブおよびホィールに取り付けている状態の部分断面図である。
【図6】実施形態3に係り、プレス成形部に形成されている第1リブの断面図である。
【図7】実施形態4に係り、ディスクロータの正面図である。
【図8】実施形態5に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図9】実施形態6に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図10】実施形態7に係り、ディスクロータの正面を示す図である。
【図11】実施形態8に係り、ディスクロータの正面を示す図である。
【図12】実施形態9に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図13】実施形態10に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図14】実施形態11に係り、ディスクロータの正面を示す図である。
【図15】実施形態12に係り、ディスクロータの正面を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1はディスクロータ、2はプレス成形部、20は円筒部、21は第1フランジ部、22は第2フランジ部、23は中央孔、24は取付孔、26は外周部、29は開口窓、4はディスク部、41はアウタ部、42はインナ部、45は鋳物、45cは鋳包み部、51はホィール(第1相手部材)、53はハブ(第2相手部材)、55は取付面、58は締結ボルト、59はナット部材、6は第1リブ、60は突出面、61は凹み面、65は露出部分、66は埋設部分、7は第2リブ、70は第2リブ群を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は車両等のブレーキ装置に使用されるディスクロータに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクロータとして、2ピース構造のものが知られている。このものによれば、ディスク状の支持部と、摩擦摺動面をもつ摩擦リングとが設けられており、支持部の外周部に突設されたピン状の連結要素により支持部の外周部と摩擦リングの内周部とを連結させることにしている(特許文献1)。支持部は、鋳造、鍛造、押し出し、深い絞り等で形成されている。摩擦リングはねずみ鋳鉄で形成されている。
【0003】
また、2ピース構造のディスクロータとして、板材を絞り加工して形成された取付部材と、鋳物で形成されたロータ本体とが設けられており、取付部材に形成された複数個の爪状突起を曲げ加工してロータ本体の複数個の切欠にそれぞれ係合させることにより、取付部材およびロータ本体を一体化させたものが知られている。
【特許文献1】特表平8−505924号公報
【特許文献2】特開2004−116600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、ピン状の連結要素を埋設するために摩擦リングに放射状に穴加工する必要がある。更に、ピン状の連結要素が必要とされるため、ディスクロータが径方向に大型化するおそれがある。
【0005】
特許文献2によれば、取付部材に形成された複数個の爪状突起を曲げ加工してロータ本体の複数個の切欠にそれぞれ係合させることにより、取付部材およびロータ本体を一体化させている。しかしながらこのものによれば、各爪状突起と各切欠の壁面との間にクリアランスが形成される傾向にある。クリアランスが存在すると、がたの要因となり、取付部材およびロータ本体の一体性を向上させるには限界がある。
【0006】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、プレス成形部とディスク部の一体化、小型化に貢献でき、更にプレス成形部の剛性を高めるのに貢献でき、加えて水抜き性を向上させることができるディスクロータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)様相1に係るディスクロータは、金属板部材のプレス成形を経て成形され相手部材に取り付けられるプレス成形部と、前記プレス成形部の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部とを具備しており、前記プレス成形部は、前記プレス成形部のうち前記黒鉛含有鋳物から露出している部分において、前記プレス成形部の中心域に対して放射方向に沿って延設されプレス成形部の剛性を高める複数個の第1リブを有することを特徴とする。
【0008】
プレス成形部は、金属板部材のプレス成形を経て成形されており、相手部材に取り付けられる。プレス成形部は、プレス成形部のうち黒鉛含有鋳物(以下、鋳物ともいう)から露出している部分において、複数個の第1リブを有する。第1リブは、プレス成形部の中心域に対して放射方向に沿って延設されており、プレス成形部の剛性を高めることができる。このためプレス成形部の厚みを抑えつつプレス成形部の剛性を高めることができる。
【0009】
ディスクロータは車両の脚回り部品であるため、雨水等の水がディスクロータ周辺にかかるおそれがある。このような場合、ディスクロータが相手部材に取り付けられている状態において、ディスクロータと相手部材との境界域に水が残留し、発錆を誘発させるおそれがある。ここで第1リブは、プレス成形部の中央域に対して放射方向に延設されている。このため、ディスクロータと相手部材との境界域に水が存在するとしても、水は、周方向において隣設する第1リブ間の空間から抜けることができ、境界域に存在する水の排出性が確保されている。従って、水等に起因するディスクロータにおける発錆の不具合が抑制され、ディスクロータの耐久性の向上を図り得る。
【0010】
(2)様相2に係るディスクロータによれば、上記様相において、第1リブは、黒鉛含有鋳物から露出すると共に放熱性を高める露出部分に加えて、黒鉛含有鋳物に鋳包まれて黒鉛含有鋳物に埋設され黒鉛含有鋳物との接合強度を高める埋設部分を有することを特徴とする。第1リブのうち埋設部分は鋳物に埋設されており、プレス成形部と鋳物との接合強度を高めることができる。第1リブのうち露出部分は鋳物から露出しており、プレス成形部の剛性を高め得ると共に、放熱面積を増加させ、放熱性を高め得る。放熱面積の増加は、摩擦熱を発生させるディスク部の過熱抑制に貢献でき、ディスク部の長寿命化に貢献できる。
【0011】
(3)様相3に係るディスクロータによれば、上記様相において、相手部材は第1相手部材と第2相手部材とを備えており、プレス成形部は、第1相手部材と第2相手部材とで挟持された状態において、第1相手部材、プレス成形部、第2相手部材に挿通された締結具で相手部材に取り付けられており、第1リブの突出面が第1相手部材および第2相手部材のうちのいずれか一方の取付面に着座してスペーサとして働くように、第1リブの突出面の突出高さは設定されていることを特徴とする。
【0012】
ディスクロータの全体が鋳物で形成されている従来例において、ディスクロータは第1相手部材と第2相手部材とで挟持された状態で第1相手部材および第2相手部材に締結される。この場合、この従来例のディスクロータは、第1相手部材および第2相手部材のうちのいずれか一方の取付面に接触して着座する。この点について本発明によれば、ディスクロータが相手部材に締結されているとき、第1リブの突き出している側の突出面が第1相手部材および第2相手部材のうちのいずれか一方の取付面に接触して着座するため、位置決め機能を発揮できる。このように第1リブの突出面は、位置決め機能を発揮するスペーサとして働くことができる。このため従来から使用されている第1相手部材および第2相手部材をそのまま利用することができる。
【0013】
(4)様相4に係るディスクロータによれば、上記様相において、プレス成形部はこれの厚み方向に貫通する貫通孔を有しており、プレス成形部の軸芯と平行な方向に沿ってディスクロータを投影するとき、貫通孔の平均内径をDとすると、第1リブと貫通孔の縁との最短距離がD以内に設定されているように、第1リブは貫通孔に接近し、プレス成形部のうち貫通孔の周辺を補強していることを特徴とする。この場合、貫通孔はプレス成形部の軽量化を図り得るが、プレス成形部の剛性を高めるためには好ましくない。ここで、本様相によれば、第1リブは貫通孔に接近し、プレス成形部のうち貫通孔の周辺を補強するため、プレス成形部の軽量化が図られつつ、剛性が確保される。貫通孔としては、ディスクロータを相手部材に取り付けるための取付孔でも良いし、あるいは、軽量化用の開口でも良い。
【0014】
(5)様相5に係るディスクロータによれば、上記様相において、プレス成形部は、プレス成形部の外周部に周方向において並設された複数個の第2リブからなる第2リブ群を有しており、第2リブの少なくとも一部は黒鉛含有鋳物の鋳包み部に鋳包まれていることを特徴とする。第2リブによりプレス成形部と鋳物との一体接合性を高めることができる。少なくとも一部とは、第2リブ全体の表面積を100%とするとき、面積比で10%以上とすることができる。20%以上、30%以上、40%以上とすることもできる。
【0015】
(6)様相6に係るディスクロータによれば、上記様相において、第2リブ群は、プレス成形部の外周部の周方向において間隔を隔てて配置されており、周方向において互いに隣設された第2リブ群間に開口窓が形成されていることを特徴とする。開口窓によりプレス成形部の軽量化が図られる。開口窓はプレス成形部の外周部の周方向において第2リブ群間に配置されているため、軽量化を図りつつ、第2リブによりプレス成形部と鋳物との一体接合性を高めることができる。
【0016】
(7)様相7に係るディスクロータによれば、上記様相において、プレス成形部の周方向において隣設する第1リブ同士間の空間は、ディスクロータのプレス成形部と相手部材との間の境界域に存在する水を排出させる水抜き用空間として機能し、プレス成形部の径方向において内側から外側に向かうにつれて空間の幅が増加するように設定されていることを特徴とする。この場合、ディスクロータのプレス成形部と相手部材との間の境界域に水が存在するときであっても、その水を良好に排出させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プレス成形部の外周部を鋳物で鋳包むため、プレス成形部とディスク部とを連結させるピンなどが廃止でき、ディスクロータの径方向の小型化に貢献できる。更に、プレス成形部の外周部を鋳物で鋳包むため、プレス成形部とディスク部の一体化に貢献できる。また、プレス成形部は、プレス成形部のうち鋳物から露出している部分において、複数個の第1リブを有する。第1リブは、プレス成形部の中心域に対して放射方向に沿って延設されており、プレス成形部の剛性を高めることができる。
【0018】
更にまた、第1リブはプレス成形部の中心域に対して放射方向に配置されているため、ディスクロータが相手部材に取り付けられている状態において、第1リブ付近に存在する水は、放射状に配置された互いに隣設する第1リブ同士の間から重力、遠心力等により抜けることができ、ディスクロータや相手部材において発錆の不具合が抑制されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態1)
図1〜図5は実施形態1を示す。ディスクロータ1は、乗用車や貨物車等の車両に搭載されているものであり、図1に示すように、プレス成形で成形された金属製のプレス成形部2と、プレス成形部2の外周側に鋳包みにより接合された鋳物45で形成されたディスク部4とを有する。図1には、ディスクロータ1の正面図が示されていると共に、これのA−A線に沿った断面が並べて示されている。便宜上、中心線を記載した方が理解し易い場合には、中心線を記載している。
【0020】
プレス成形部2はディスクロータ1の中央域を占めており、ハット部とも呼称されるものであり、厚みが薄い金属板部材のプレス成形を経て形成されている。従って、ディスクロータの全体を鋳物で形成していた従来技術に比較して、ディスクロータ1の軽量化が図られている。金属板部材は、炭素鋼でも良いし、ステンレス鋼等の合金鋼でも良いし、場合によってはアルミニウム合金、チタン合金でも良い。ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス等が挙げられる。金属板部材の厚みとしては、ディスクロータ1のサイズ、種類、用途、第1リブ6等に応じて適宜選択できるが、例えば0.3〜7ミリメートルの範囲内、0.6〜5ミリメートルの範囲内、0.6〜4ミリメートルの範囲内にできる。場合によっては金属板部材が高強度材料である場合には、3ミリメートル以下、2ミリメートル以下でも良い。
【0021】
図1におけるA−A断面に示すように、プレス成形部2は、プレス成形部2の軸芯P1に沿った壁を備える円筒部20と、円筒部20の軸長方向の一端20aから径内方向に延設された第1フランジ部21と、円筒部20の軸長方向の他端20cから径外方向に延設された第2フランジ部22とを有する。第1フランジ部21は軸芯P1に対して半径方向に延設されており、厚み方向に貫通する円形状をなす中央孔23を有する。プレス成形部2は全体としてフランジ付き円筒形状をなしており、中央孔23の外側において、周方向に均等間隔で配置された貫通状態の複数個の取付孔24と、中央孔23の内縁に相当する内周部25と、第2フランジ部22の外縁に相当する外周部26とを有する。
【0022】
図1に示すように、ディスク部4は、摩擦材料が摺動する第1摩擦摺動面41fを有するアウタ部41と、摩擦材料が摺動する第2摩擦摺動面42fを有するインナ部42と、インナ部42とアウタ部41との間に配置され冷却用の空気が通過する冷却通路をもつベント部43とを有する。図5に示すように、アウタ部41は車外側に対向するものであり、走行車輪のベースを構成するホィール51に対面するようにホィール51側に位置する。インナ部42は車内側に対向するものであり、車体側のハブ53に位置する。
【0023】
ディスク部4を構成する鋳物45は、多数の黒鉛を分散させた鋳鉄で形成されている。黒鉛は片状黒鉛が好ましい。但し場合によっては、球状黒鉛でも、芋虫状黒鉛、共晶状黒鉛でも良い。黒鉛サイズおよび黒鉛粒数はディスクロータ1の用途などに応じて適宜設定できる。鋳鉄は、フェライトを主体とする鋳鉄でも良いし、パーライトを主体とする鋳鉄でも良い。主体とは、マトリックス(黒鉛を除く)の面積を100%とするとき、面積比で50%以上を占めることをいう。場合によっては、オーステナイトを主体とする鋳鉄でも良い。鋳物45は生砂鋳型、シェル鋳型等の砂鋳型で形成しても良いし、金属鋳型で形成しても良い。
【0024】
図1に示すように、プレス成形部2には、複数個の第1リブ6がプレス成形部2の周方向において均等間隔で形成されている。プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wにおいて、複数個の第1リブ6は、プレス成形部2の軸芯P1に対して放射方向に沿って延設されており、当該部分2wにおいて剛性を高めることができる。1本の第1リブ6の長さ方向の内端は、中央孔23の内周部25に接近するように延設されている。第1リブ6の長さ方向の外端はプレス成形部2の外周部26まで延設されている。このような第1リブ6は、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wを強化し、当該部分の剛性(曲げ剛性、回転剛性)を高めることができる。各第1リブ6は、互いに背向する突出面60および凹み面61を有する。突出面60は、断面でアール状をなすアール面60mを有する。凹み面61は、断面でアール状をなすアール面61mを有する。図5に示すように、突出面60は後述するホィール51に背向しており、従って、ハブ53の取付面55に向けて突出している。各第1リブ6において、突出面60の突出量Hは、第1リブ6の全長にわたり同一とされており、特に、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wにおいて、同一とされている。
【0025】
図1に示すように、突出面60および凹み面61は、第1リブ6の延設方向に沿って長く線状に延設されている。凹み面61は凹部62を形成する。プレス成形部2およびディスク部4は同軸的配置とされている。なお、プレス成形部2の厚みt1はディスク部4の鋳物45の厚みよりも薄くされており、具体的にはアウタ部41の厚み、インナ部42の厚みよりもそれぞれ薄くされており、軽量化に貢献している。プレス成形部2の金属組織としては、パーライトを主体とする組織、パーライト−フェライトを主体とする組織、オーステナイトを主体とする組織、フェライトを主体とする組織、ベイナイトを主体とする組織が挙げられる。
【0026】
本実施形態によれば、プレス成形部2の外周部26は鋳物45に一体的に鋳包まれており、鋳物45で形成されたディスク部4の内周側に形成されている鋳包み部45cに一体的に接合されている。従って、鋳物45で形成されたディスク部4とプレス成形部2の外周部26とを連結させるピン等の連結要素を廃止させたり、あるいは、連結要素を用いるとしても、連結要素を簡素化できる。この場合、多数の連結要素が用いられている場合に比較して、ディスクロータ1の径方向の小型化に貢献できる。
【0027】
この場合、前述したようにプレス成形部2の外周部26は鋳物45に鋳包まれているため、鋳物45で形成されたディスク部4とプレス成形部2の外周部26との間においてクリアランスが発生することが抑えられる。よって、ディスクロータ1の制動時においてクリアランスに起因する異音の発生が抑制される。なお、プレス成形部2の外周部26はディスク部4のアウタ部41に埋設されているが、場合によってはインナ部42に埋設されていても良い。
【0028】
図2に示すように、第1リブ6は、鋳物45の鋳包み部45cから露出する露出部分65と、鋳物45の鋳包み部45cに鋳包まれて埋設されている埋設部分66とを有する。埋設部分66は第1リブ6の長さ方向の外端に相当するものであり、鋳物45との一体接合性を高めると共に接合面積を増加させるのに貢献できる。このように補強効果を有する第1リブ6のうち埋設部分66は、鋳物45に埋設されており、プレス成形部2と鋳物45との一体接合性を高めることができる。第1リブ6のうち露出部分65は、鋳物45から露出しており、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wの剛性を高めることができる。特に、第1リブ6はプレス成形部2の第1フランジ部21および円筒部20の剛性を高める。更に、第1リブ6の露出部分65は、プレス成形部2の第1フランジ部21の放熱面積を増加させて放熱性を高めることができるため、摩擦熱が発生するディスク部4の過熱の抑制に貢献できる。
【0029】
図5はディスクロータ1を車体に取り付けた状態を示す。ディスクロータ1を取り付ける相手となる相手部材は、第1相手部材としての車輪のホィール51と、第2相手部材としてのハブ53とを備えている。図5に示すように、プレス成形部2の第1フランジ部21は、ハブ53の平坦な取付面55に当接されて着座された状態において、厚み方向においてホィール51とハブ53とで挟持されている。具体的には、ホィール51の取付孔51x、プレス成形部2の取付孔24、ハブ53の取付孔53xに締結具としての締結ボルト58を挿通し、締結ボルト58にナット部材59を着脱可能に締結している。これによりディスクロータ1の第1フランジ部21は厚み方向においてホィール51およびハブ53に挟持されて取り付けられており、ホィール51およびハブ53と共に一体回転する。このように第1フランジ部21は鋳物45に比較して薄肉化されているものの、ホィール51およびハブ53に挟持されるため、取付性には支障を来さない。
【0030】
この場合、図5に示すように、第1リブ6の突出面60がハブ53の取付面55に向けて突出して、ハブ53の取付面55に接触して着座するように、第1リブ6の突出面60の突出量Hは設定されている。このように第1リブ6の突出面60は、ハブ53の取付面55に着座する位置決め機能を発揮するスペーサとして働くことができる。この場合、図5に示すように、プレス成形部2の第1フランジ部21とハブ53の取付面55との間の境界域200には、隙間200cが生成されている。
【0031】
第1リブ6の突出面60は、その裏面に凹部62を背向させているため、厚み方向において弾性による変形許容性を発揮することができる。このため、締結ボルト58およびナット部材59を螺合させる締結時において、放射状をなす全部の第1リブ6の突出面60の全体をハブ53の取付面55に接触させてそれぞれ着座させることができ、プレス成形部2の着座性を高めることができ、プレス成形部2の姿勢の安定化を図り得る。
【0032】
ところで、仮に、ディスクロータ1の全体が鋳物で形成されている従来例によれば、ディスクロータは、ホィール51とハブ53とで挟持された状態でホィール51およびハブ53に締結ボルト58を利用して締結される。このような従来例のディスクロータの表面はハブ53の平坦な取付面55に接触する。この点について本実施形態によれば、図5に示すように、ディスクロータ1のプレス成形部2がホィール51およびハブ53に締結されるとき、第1リブ6の突出面60がハブ53の取付面55に向けて突出しており、当該取付面55に着座して位置決めするスペーサ機能を果たすことができる。このため、隙間200cを形成するようにディスクロータ1のプレス成形部2の第1フランジ部21の厚みの薄肉化を図りつつ、従来から使用されているホィール51およびハブ53で第1フランジ部21を挟持できる利点が得られる。この場合、従来のホィール51およびハブ53をそのまま、あるいは、ほとんどそのまま利用できる。
【0033】
なお、ディスクロータ1をハブ53およびホィール51に締結するにあたり、第1リブ6の突出面60をハブ53ではなく、ホィール51に向けて突出させてホィール51の表面51fに当接させる方式を採用することも考えられる。しかしこの場合には次の不具合が発生することがある。すなわち、車両に装備できる走行車輪の種類が複数個存在するとき、車体側に装備されているハブ53は複数個の走行車輪に共通化されているが、各走行車輪に取り付けられているホィール51の形状または構造は走行車輪毎に相違する場合が多い。このため、仮に第1リブ6の突出面60をホィール51の表面51fに当接させる構造が採用されている場合、走行車輪の種類が変更されたりすると、第1リブ6の突出面60がホィール51の表面51fに接触したり接触しなかったりするおそれがある。この場合、ディスクロータ1の取付性に影響を与えるおそれがある。
【0034】
そこで本実施形態によれば、図5に示すように、共通化されているハブ53の取付面55に向けてプレス成形部2の第1リブ6の突出面60を突出させ、突出面60をハブ53の取付面55に接触させて着座させる方式が採用されている。この場合、ハブ53の取付面55にプレス成形部2の第1リブ6の突出面60を接触させて良好に着座させ得るため、走行車輪の種類が変更されるときであっても、ディスクロータ1の取付性に影響を与えることが抑制される。
【0035】
ところで、仮に、第1リブがプレス成形部2において周方向に連続するリング形状をなす方式も考えられる。しかしこの場合には、ハブ53とディスクロータ1との間の境界域200の隙間200c(図5参照)に水等が進入するとき、リング形状の第1リブに水が包囲されるため、水が境界域200の隙間200cから抜けにくくなり、発錆上好ましくない。そこで本実施形態によれば、第1リブ6は放射状に沿って延設されており、周方向(矢印S方向)において隣設する第1リブ6同士の空間6w(図1参照)が存在している。この結果、境界域200の隙間200cに存在する水は、周方向に隣設する第1リブ6同士の空間6wから矢印F方向(図1参照)に抜けることができる。殊に、図1に示すように、周方向(矢印S方向)において空間6wの空間幅は、プレス成形部2の径方向において内側から外側に向かうにつれて次第に増加するように設定されているプレス成形部2の軸芯P1に対して周方向に沿って延設された。このため境界域200の隙間200cに存在する水は、周方向(矢印S方向)に隣設する第1リブ6同士の空間6wから矢印F方向(図1参照)に抜けることができる。よって境界域200における水が抜けにくくなる不具合が解消され、発錆等が抑えられる。
【0036】
本実施形態によれば、図1に示すように、プレス成形部2の外周部26には、これの周方向において並設された凹凸7wを形成する複数個の第2リブ7からなる第2リブ群70が形成されている。第2リブ群70の外端側は、鋳物45の鋳包み部45cに鋳包まれて一体化されている。しかも、第2リブ群70は、凹凸7wを形成しつつ、プレス成形部2の外周部26を1周するようにプレス成形部2の外周部26の全周に形成されている。このような第2リブ7によりプレス成形部2の外周部26と鋳物45との一体接合性を更に強固にすることができる。ここで、制動時において摩擦材料がアウタ部41の第1摩擦摺動面41f,インナ部42の第2摩擦摺動面42fに摩擦するタイミングは、厳密には必ずしも同時刻ではない。タイミングがずれると、プレス成形部2の外周部26と鋳物45との連結部分に負荷がかかるおそれがある。この場合であっても、プレス成形部2の外周部26の全周は第2リブ群70のリブ効果により強化されているため、上記した負荷に対処し易い。
【0037】
更に、プレス成形部2の外周部26に形成された第2リブ群70により形成されている凹凸7wは、鋳物45の鋳包み部45cに鋳包まれるため、プレス成形部2と鋳物45の鋳包み部45cとの接触面積および係合面積を増加させる。これによりプレス成形部2と鋳物45の鋳包み部45cとの間における伝熱面積を増加させることができる。よってディスクロータ1の使用時において、摩擦材料がディスク部4の摩擦摺動面41f,42fに摩擦して摩擦熱がディスク部4に発生するとき、摩擦熱をプレス成形部2側に放出させ、ディスク部4の温度を低下させるのに貢献できる。殊に、プレス成形部2を構成する金属板材には、鋳物45とは異なり、振動減衰性を有するものの熱伝導性を低下させる黒鉛が分散されていないため、プレス成形部2の伝熱性および放熱性が確保されている。
【0038】
ここで、図4に示すように、第2リブ7からなる第2リブ群70は、プレス成形部2の円筒部20において円筒部20の回りを1周するように凹凸7wを形成しつつ形成されており、円筒部20自体の剛性を高めているばかりか、凹凸7w面積を増加させている。第2リブ7は、円筒部20の円筒高さ方向(図4に矢印M1方向)に沿って延設されている。この場合、ディスク部4よりも薄肉化されたプレス成形部2の円筒部20を第2リブ群70により補強して円筒部20の剛性を高めることができる。
【0039】
本実施形態によれば、第1リブ6および第2リブ7は、冷間加工、温間加工、熱間加工のいずれの加工で成形しても良い。冷間加工であれば、第1リブ6および第2リブ7の加工硬化による更なる強化を期待できる。但し、第1リブ6および第2リブ7のうち鋳物45で鋳包まれる部分においては、鋳物45を形成する溶湯の熱により加熱されて加工硬化性が低減するおそれがある。しかし放射状に延設されている第1リブ6の大部分は鋳物45の鋳包み部45cから離間しているので、第1リブ6は第2リブ7に比較して溶湯の熱影響を受けにくく、第1リブ6の加工硬化性は維持され易い利点が得られる。
【0040】
ディスクロータ1を製造する場合には、先ず、深絞り等のプレス成形でプレス成形部2を成形する。その後、プレス成形部2を鋳型(砂鋳型、金属鋳型等)のキャビティに配置し、その状態でキャビティに鋳鉄の高温の溶湯を注入して凝固させて鋳物45を形成する。その後、摩擦摺動面を切削する等といった適宜の機械加工を施す。ディスク部4を構成する鋳物45は、プレス成形部2の外周部26を鋳包む鋳包み部45cをもつ。プレス成形部2の厚みt1は薄いものの、プレス成形部2は第1リブ6により補強されているばかりか、第2リブ7によっても補強されて強化されているため、鋳造時におけるプレス成形部2の熱変形は抑制される。
【0041】
(実施形態2)
本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有するため、図1〜図5を準用できる。本実施形態によれば、プレス成形部2は、焼き入れ強化可能となる炭素含有量を有する炭素鋼または合金鋼で形成されており、厚みが薄い鉄系の金属板部材(厚み:例えば0.5〜5ミリメートル)を高温(一般的には、A1変態点以上の温度領域で融点未満)に加熱(例えば誘導加熱、炉加熱または通電加熱)した状態で、金型のプレス型面で冷却しつつプレス成形するダイクエンチ法により成形されており、プレス成形と焼き入れ処理とが同時に行われている。従ってプレス成形部2は、マルテンサイトが増加した焼き入れ強化組織を有する。
【0042】
鋳物45を鋳造するときにおける溶湯の熱の影響により、焼き入れ部分の焼き戻し効果を期待することもできる。この結果、万一、焼き入れ条件の変動等によりプレス成形部2の外周部26が過剰焼き入れしているときであっても、プレス成形部2の外周部26と鋳物45とが連結している連結部分における過剰硬化が焼き戻しにより低減され、当該連結部分における強度および靱性が確保される。
【0043】
更に、第1リブ6が焼き入れ強化されて第1リブ6の硬度が高くなっているため、第1リブ6の露出部分65において、ハブ53の取付面55に着座する第1リブ6の突出面60の硬度が確保され、突出面60の耐摩耗性が確保され、突出面60のスペーサ機能を長期にわたり良好に確保できる。
【0044】
なお、場合によっては、他の実施形態として、補強効果を高める放射状をなす第1リブ6付近のみを焼き入れ処理により局部的に強化しても良い。場合によっては、第1リブ6および第2リブ群70付近のみを局部的に焼き入れしても良い。
【0045】
(実施形態3)
図6は実施形態3を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図6に示すように、第1リブ6の突出面60は、平坦化が進行した平坦面60fを有する。第1リブ6の凹み面61は、平坦化が進行した平坦面61fを有する。この場合、第1リブ6の平坦化された突出面60がハブ53の取付面55に接触する接触面積が増加し、ハブ53の取付面55に対するプレス成形部2の薄肉の第1フランジ部21の着座性を高めることができ、プレス成形部2の姿勢の安定化に貢献できる。図示はしないが、第2リブ7についても、平坦化が進行した平坦面を有することにしても良い。
【0046】
(実施形態4)
図7は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図7に示すように、プレス成形部2の第1フランジ部21には、これを厚み方向に貫通させる複数個の取付孔24(貫通孔)が形成されている。取付孔24は円形状とされている。図7は、プレス成形部2の軸芯P1と平行な方向に沿ってディスクロータ1を投影している。このような図7において、取付孔24の平均内径をDとすると、第1リブ6と取付孔24の縁との最短距離がD以内に設定されているように、第1リブ6は取付孔24に接近している。具体的には、取付孔24の縁と第1リブ6の長さ方向の端とは隣設している。この結果、第1リブ6は、プレス成形部2のうち取付孔24の周辺を補強している。この場合、取付孔24はプレス成形部2の軽量化を図り得るが、プレス成形部2の剛性を高めるには好ましくない。
【0047】
そこで、前述したように第1リブ6は取付孔24に接近または隣設し、プレス成形部2のうち貫通状態の取付孔24の周辺を補強する。具体的には、図7に示すように、第1フランジ部21における1本の第1リブ6xの長さ方向の中間に取付孔24が形成されている。このためプレス成形部2の軽量化が図られつつ、プレス成形部2の剛性が確保される。具体的には、図7に示すように、第1リブ6の数は取付孔の数よりも増加している。従って、複数個の第1リブ6(6x,6y)のうち第1リブ6xは、取付孔24に隣設されて取付孔24を補強しているが、第1リブ6yは取付孔24に隣設されておらず、取付孔24を直接的に補強していない。
なお、全部の取付孔24にリブ6を設けても良い。
【0048】
(実施形態5)
図8は実施形態5を示す。図8にはディスクロータ1の正面図と共に、これのB−B線、C−C線に沿った断面が示されている。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図8に示すように、第2リブ7が並設された第2リブ群70は、プレス成形部2の外周部26の周方向(矢印S方向)において間隔を隔てて複数個群配置されている。図8に示すように、周方向において互いに隣設された第2リブ群70間に、軽量化用の開口窓29が形成されている。開口窓29は、径方向において鋳物45とプレス成形部2との間に位置している。
【0049】
鋳包み部45cは、周方向(矢印S方向)に間隔を隔てて複数個形成されており、第2リブ群70を鋳包んでいる。開口窓29によりプレス成形部2の軽量化が図られている。なお、周方向に隣設する鋳包み部45c間には、開口窓29が形成されている。
【0050】
開口窓29は、プレス成形部2の外周部26の周方向において第2リブ群70間に配置されているため、軽量化を図りつつ、第2リブ群70によりプレス成形部2と鋳物45の鋳包み部45cとの一体接合性を高めることができる。
【0051】
図8に示すように、周方向(矢印S方向)において、第2リブ群70の位相と第1リブ6の位相とは重なっている。このため第1リブ6で強化されている位相部分において、鋳包み部45cと接合される第2リブ群70が配置されている。この結果、開口窓29により軽量化を図りつつも、第2リブ群70と鋳物45の鋳包み部45cとの一体接合性を強化させることができる。なお、プレス成形部2の外周部26に形成されている第2リブ群70は、ディスク部4のアウタ部41の内部に埋設されている。
【0052】
(実施形態6)
図9は実施形態6を示す。図9にはディスクロータ1の正面図と共に、これのE−E線、D−D線に沿った断面が示されている。本実施形態は実施形態4と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図9に示すように、プレス成形部2の外周部26に形成されている第2リブ群70は、ディスク部4のインナ部42の内部に埋設されている。
【0053】
(実施形態7)
図10は実施形態7を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。プレス成形部2には、複数個の第1リブ6がプレス成形部2の周方向において均等間隔で形成されている。第1リブ6は、プレス成形部2の中心域の軸芯P1に対して放射方向に沿って延設されており、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wにおいて、剛性(曲げ剛性、回転剛性)を高めることができる。1本の第1リブ6の長さ方向の一端は中央孔の内周部に接近するように延設されている。第1リブ6の長さ方向の他端はプレス成形部2の外周部26付近まで延設されている。プレス成形部2の外周部26は、ディスク部4となる鋳物45の内周側の鋳包み部45cに鋳包まれており、鋳物45で形成されたディスク部4の内周側に形成されている鋳包み部45cに一体的に接合されている。図10に示すように、プレス成形部2には第2リブが設けられていない。
【0054】
(実施形態8)
図11は実施形態8を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図11に示すように、プレス成形部2の第1フランジ部21には、これを厚み方向に貫通させる複数個の取付孔24が形成されている。取付孔24はディスクロータ1をハブおよびホィールに取り付けるためのものである。図11は、プレス成形部2の軸芯P1と平行な方向に沿ってディスクロータ1を投影している。図11において、取付孔24の平均内径をDとすると、第1リブ6と取付孔24の縁との最短距離がD以内に設定されているように、第1リブ6は取付孔24に接近している。具体的には、取付孔24の縁と第1リブ6の端とは直接的に隣設している。この結果、第1リブ6は、プレス成形部2のうち取付孔24の周辺を補強している。この場合、取付孔24は、ブレーキディスク1をハブ53およびホィール51に取り付ける機能と、プレス成形部2の軽量化機能とを実現させる。ここで、取付孔24は開口であるため、プレス成形部2の剛性を高めるためには限界がある。そこで、前述したように第1リブ6の長さ方向の端は取付孔24に隣設されており、第1リブ6はプレス成形部2のうち取付孔24の周辺を補強する。このためプレス成形部2の軽量化が図られつつ、プレス成形部2の剛性が確保されている。
【0055】
具体的には、複数個の第1リブ6(6x,6y)のうち第1リブ6xは取付孔24に隣設されて取付孔24を補強しているが、第1リブ6yは、取付孔24に隣設されておらず、取付孔24を直接的に補強していない。
【0056】
(実施形態9)
図12は実施形態9を示す。図12にはディスクロータ1の正面図と共に、これのG−G線、I−I線に沿った断面が示されている。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図12に示すように、第1リブ6は、プレス成形部2の外周部26の周方向(矢印S方向)において間隔を隔てて配置されている。周方向において互いに隣設された第1リブ6間に、開口窓29が形成されている。つまり、隣設する鋳包み部45c間に開口窓29が形成されている。複数個の開口窓29によりプレス成形部2の軽量化が図られている。複数個の開口窓29において、開口窓29と軸芯P1との距離は均等化されている。更に開口窓29は周方向において均等化されている。このため、ディスクロータ1の回転バランスが確保される。なお、プレス成形部2の外周部26はディスク部4のアウタ部41の内部に埋設されている。
【0057】
(実施形態10)
図13は実施形態10を示す。図13にはディスクロータ1の正面図と共に、これのK−K線、L−L線に沿った断面が示されている。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図13に示すように、プレス成形部2の外周部26はディスク部4のインナ部42の内部に埋設されている。このためプレス成形部2の外周部26がディスク部4のアウタ部41の内部に埋設されている場合に比較して、円筒部20の軸芯P1に沿った方向の軸長を長くでき、ひいては補強効果を高める第1リブ6の長さをそのぶん長くでき、補強性の確保に貢献できる。
【0058】
(実施形態11)
図14は実施形態11を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。図14に示すように、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wには、プレス成形部2の軸芯P1に対して周方向に沿って円弧状に延設された第3リブ9が周方向リブとして複数個形成されている。プレス成形部2の厚み方向において、第3リブ9は第1リブ6と同じ方向に突出しており、隣設する第1リブ6間に円弧状に配置されている。第3リブ9は、取付孔24の外周側に配置されており、径方向において第2リブ群7に接近している。第3リブ9は周方向に沿って延設されているため、プレス成形部2の回転方向における剛性を高めるのに貢献できる。図14に示すように、第3リブ9の長さ方向の端と第1リブ6との間には、空間9rが形成されている。すなわち、第3リブ9は周方向には連続していない。従ってハブ53とディスクロータ1との境界域200に水が進入するときであっても、その水は空間9rから抜けることができる。この場合、プレス成形部2が発錆する不具合、発錆に起因してプレス成形部2とハブ53とが固着する不具合が抑制される。
【0059】
(実施形態12)
図15は実施形態12を示す。図15に示すように、プレス成形部2のうち鋳物45から露出している部分2wには、第1リブ6および第2リブ7が形成されているほかに、第3リブ9が複数個形成されている。第3リブ9は、プレス成形部2の軸芯P1に対して周方向に沿って延設されており、周方向(矢印S方向)において隣設する第1リブ6間に円弧状に配置されている。第3リブ9は周方向リブとしてプレス成形部2の周方向に沿って1周するように連続しており、プレス成形部2の回転方向における剛性や曲げ剛性を高めるのに貢献できる。図15に示すように、第3リブ9の端は第1リブ6に延設されている。このため第3リブ9による剛性増加に有利である。
【0060】
この場合には、リング状の第3リブ9で包囲される部分に進入した水が抜けにくくなるおそれがある。そこでリング形状をなす第3リブ9の突出面90の突出量HBは、第1リブ6の突出面60の突出量Hよりも小さく設定されている。この場合、第1リブ6の突出面60はハブ53の取付面55に接触して着座するものの、第3リブ9の突出面90はバブ53の取付面55に接触しない。この場合、突出面90と取付面55との間において境界域200の隙間200cが形成される。隙間200cにより水の抜き性が確保される。但し、ハブ53およびプレス成形部2が発錆しないような高い耐食性を有する場合には、第3リブ9の全長にわたり、第3リブ9の突出量と第1リブ6の突出量とを同一としても良い。
【0061】
(他の実施形態)
上記した各実施形態によれば、鋳物45は片状黒鉛鋳鉄とされているが、球状黒鉛鋳鉄としても良い。第1リブ6はプレス成形部2の軸芯P1に対して放射方向に沿って延設されているが、これに限らず、軸芯P1付近の中心域に対して概略的に放射方向に沿って延設されていれば良い。第1リブ6は一直線状に連続して延設されているが、これに限らず、第1リブ6の長さ方向において断続的に延設されていても良い。第1リブ6および第2リブ7とが併有されているが、これに限らず、場合によっては、第2リブ7は廃止されていても良い。この場合、プレス成形部2において粗面化処理を施し、プレス成形部2と鋳物45との一体接合性を粗面により高めることにしても良い。全実施形態において、プレス成形部2はダイクエンチ等により焼き入れ強化されていても良い。上記した実施形態1によれば、ディスクロータ1をハブ53およびホィール51に締結するにあたり、第1リブ6の突出面60をハブ53に当接させているが、場合によっては、ホィール51に当接させる方式を採用することできる。その他、本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施可能である。ある実施形態に特有の構造および機能は、他の実施形態についても適用できる。本明細書から次の技術的思想を把握することもできる。
【0062】
[付記項1]金属板部材のプレス成形を経て成形され相手部材に取り付けられるプレス成形部と、前記プレス成形部の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部とを具備しており、前記プレス成形部は、前記プレス成形部のうち前記黒鉛含有鋳物から露出している部分において、前記プレス成形部の中心域に対して周方向に沿って延設され前記プレス成形部の剛性を高める周方向リブを有することを特徴とするディスクロータ。プレス成形部とディスク部の一体化、小型化に貢献でき、更にプレス成形部の剛性を高めるのに貢献できる。
[付記項2]金属板部材のプレス成形を経て成形され相手部材に取り付けられるプレス成形部と、前記プレス成形部の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部とを具備しており、前記プレス成形部は、前記プレス成形部のうち前記黒鉛含有鋳物から露出している部分において、前記プレス成形部の剛性を高めるリブを有することを特徴とするディスクロータ。プレス成形部とディスク部の一体化、小型化に貢献でき、更にプレス成形部の剛性を高めるのに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施形態1に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図2】ディスクロータのディスク部とプレス成形部の第1リブ付近を示す断面図である。
【図3】ディスクロータのディスク部とプレス成形部の第2リブ付近を示す断面図である。
【図4】ディスクロータの側面図である。
【図5】ディスクロータをハブおよびホィールに取り付けている状態の部分断面図である。
【図6】実施形態3に係り、プレス成形部に形成されている第1リブの断面図である。
【図7】実施形態4に係り、ディスクロータの正面図である。
【図8】実施形態5に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図9】実施形態6に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図10】実施形態7に係り、ディスクロータの正面を示す図である。
【図11】実施形態8に係り、ディスクロータの正面を示す図である。
【図12】実施形態9に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図13】実施形態10に係り、ディスクロータの正面をその断面と共に示す図である。
【図14】実施形態11に係り、ディスクロータの正面を示す図である。
【図15】実施形態12に係り、ディスクロータの正面を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1はディスクロータ、2はプレス成形部、20は円筒部、21は第1フランジ部、22は第2フランジ部、23は中央孔、24は取付孔、26は外周部、29は開口窓、4はディスク部、41はアウタ部、42はインナ部、45は鋳物、45cは鋳包み部、51はホィール(第1相手部材)、53はハブ(第2相手部材)、55は取付面、58は締結ボルト、59はナット部材、6は第1リブ、60は突出面、61は凹み面、65は露出部分、66は埋設部分、7は第2リブ、70は第2リブ群を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板部材のプレス成形を経て成形され相手部材に取り付けられるプレス成形部と、
前記プレス成形部の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部とを具備しており、
前記プレス成形部は、前記プレス成形部のうち前記黒鉛含有鋳物から露出している部分において、前記プレス成形部の中心域に対して放射方向に沿って延設され前記プレス成形部の剛性を高める複数個の第1リブを有することを特徴とするディスクロータ。
【請求項2】
請求項1において、前記第1リブは、前記黒鉛含有鋳物から露出すると共に放熱性を高める露出部分に加えて、前記黒鉛含有鋳物に鋳包まれて前記黒鉛含有鋳物に埋設され前記黒鉛含有鋳物との接合強度を高める埋設部分を有することを特徴とするディスクロータ。
【請求項3】
請求項1または2において、前記相手部材は第1相手部材と第2相手部材とを備えており、前記プレス成形部は、前記第1相手部材と前記第2相手部材とで挟持された状態において、前記第1相手部材、前記プレス成形部、前記第2相手部材に挿通された締結具で前記相手部材に取り付けられており、
前記第1リブの突出面が前記第1相手部材および前記第2相手部材のうちのいずれか一方の取付面に着座してスペーサとして働くように、前記第1リブの前記突出面の突出高さは設定されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記プレス成形部はこれの厚み方向に貫通する貫通孔を有しており、前記プレス成形部の軸芯と平行な方向に沿って前記ディスクロータを投影するとき、前記貫通孔の平均内径をDとすると、前記第1リブと前記貫通孔の縁との最短距離がD以内に設定されるように前記第1リブは前記貫通孔に接近し、前記プレス成形部のうち前記貫通孔の周辺を補強していることを特徴とするディスクロータ。
【請求項5】
請求項1〜4のうちの一項において、前記プレス成形部は、前記プレス成形部の外周部に周方向において並設された複数個の第2リブからなる第2リブ群を有しており、前記第2リブの少なくとも一部は前記黒鉛含有鋳物の前記鋳包み部に鋳包まれていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項6】
請求項5において、前記第2リブ群は、前記プレス成形部の外周部の周方向において間隔を隔てて配置されており、前記周方向において互いに隣設された前記第2リブ群間に開口窓が形成されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項7】
請求項1〜6のうちの一項において、前記プレス成形部の周方向において隣設する前記第1リブ同士間の空間は、前記ディスクロータの前記プレス成形部と前記相手部材との間の境界域に存在する水を排出させる水抜き用空間として機能し、前記プレス成形部の径方向において内側から外側に向かうにつれて前記空間の幅が増加するように設定されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項1】
金属板部材のプレス成形を経て成形され相手部材に取り付けられるプレス成形部と、
前記プレス成形部の外周側に鋳包みにより接合された黒鉛含有鋳物で形成され摩擦材料が摺動する摩擦摺動面を有するディスク部とを具備しており、
前記プレス成形部は、前記プレス成形部のうち前記黒鉛含有鋳物から露出している部分において、前記プレス成形部の中心域に対して放射方向に沿って延設され前記プレス成形部の剛性を高める複数個の第1リブを有することを特徴とするディスクロータ。
【請求項2】
請求項1において、前記第1リブは、前記黒鉛含有鋳物から露出すると共に放熱性を高める露出部分に加えて、前記黒鉛含有鋳物に鋳包まれて前記黒鉛含有鋳物に埋設され前記黒鉛含有鋳物との接合強度を高める埋設部分を有することを特徴とするディスクロータ。
【請求項3】
請求項1または2において、前記相手部材は第1相手部材と第2相手部材とを備えており、前記プレス成形部は、前記第1相手部材と前記第2相手部材とで挟持された状態において、前記第1相手部材、前記プレス成形部、前記第2相手部材に挿通された締結具で前記相手部材に取り付けられており、
前記第1リブの突出面が前記第1相手部材および前記第2相手部材のうちのいずれか一方の取付面に着座してスペーサとして働くように、前記第1リブの前記突出面の突出高さは設定されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記プレス成形部はこれの厚み方向に貫通する貫通孔を有しており、前記プレス成形部の軸芯と平行な方向に沿って前記ディスクロータを投影するとき、前記貫通孔の平均内径をDとすると、前記第1リブと前記貫通孔の縁との最短距離がD以内に設定されるように前記第1リブは前記貫通孔に接近し、前記プレス成形部のうち前記貫通孔の周辺を補強していることを特徴とするディスクロータ。
【請求項5】
請求項1〜4のうちの一項において、前記プレス成形部は、前記プレス成形部の外周部に周方向において並設された複数個の第2リブからなる第2リブ群を有しており、前記第2リブの少なくとも一部は前記黒鉛含有鋳物の前記鋳包み部に鋳包まれていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項6】
請求項5において、前記第2リブ群は、前記プレス成形部の外周部の周方向において間隔を隔てて配置されており、前記周方向において互いに隣設された前記第2リブ群間に開口窓が形成されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項7】
請求項1〜6のうちの一項において、前記プレス成形部の周方向において隣設する前記第1リブ同士間の空間は、前記ディスクロータの前記プレス成形部と前記相手部材との間の境界域に存在する水を排出させる水抜き用空間として機能し、前記プレス成形部の径方向において内側から外側に向かうにつれて前記空間の幅が増加するように設定されていることを特徴とするディスクロータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−78019(P2010−78019A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245381(P2008−245381)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]