説明

ディスク原盤製造制御方法及びディスク原盤製造制御装置

【課題】 任意のターンテーブル回転速度において設計通りのパターンを高精度に描画してフォーマット情報領域を形成するディスク原盤製造制御方法の提供。
【解決手段】 任意の回転速度で回転されるターンテーブル上の基盤にフォーマット情報領域を形成する場合に、固定クロック信号に基づいて電子ビームの照射オン/オフ制御を行い電子ビーム照射によるパターン描画を行う。このときに、パターン情報とターンテーブルの回転速度とに基づき、電子ビームの照射オンと照射オフとの切り替え制御を行うタイミングを算出し、該算出したタイミングだけ固定クロック信号に基づく計時が行われるまで基盤に対する電子ビームの照射を行う。こうすると、可変周波数クロックを採用しておらずまたエンコーダパルス信号の発生精度にパターンの描画精度が依存しないので、ターンテーブルが任意の回転速度で回転されても設計通りのパターンを基盤上に高精度に描画することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスクや光ディスクなどのパターンドメディアの原盤を製造するために、ディスク形状の基盤への電子(露光)ビームの照射制御や基盤の移動及び回転制御等を行うディスク原盤製造制御方法及びディスク原盤製造制御装置に関する。特に、電子ビームの照射による基盤へのパターン描画に伴うフォーマット情報領域の形成に関し、基盤の任意の回転速度に応じて任意のパターン長のパターンを描画する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばハードディスクや光ディスクなどのパターンドメディアの原盤(ディスク原盤)を製造するために、電子ビーム描画装置における電子(露光)ビームの照射オン・オフや、ステージ移動及び任意の回転速度(回転数)でのステージ回転等を行うよう前記電子ビーム描画装置を制御するディスク原盤製造制御装置(所謂フォーマッタ)が知られている。従来のディスク原盤製造制御装置では、少なくとも水平方向に移動でき且つ任意の回転速度で回転し得るステージ(詳しくはターンテーブル)上に載置された原盤の元となるディスク形状の基盤に、ハードディスクのサーボセクタ領域やデータ領域などに相当するフォーマット情報領域を形成するため、例えば電子ビーム照射点の露光線速が一定となるようにターンテーブルの回転速度を適宜に変えて駆動することの可能なCLV(Constant Linear Velocity;線速度一定)駆動方式に従って、基盤の中心から近い内周側へのパターン描画時においてはターンテーブル回転速度を速める一方で、基盤の中心から遠い(離れた)外周側へのパターン描画時においてはターンテーブル回転速度を遅くしたうえで電子ビームを照射させることにより、基盤中心から同心円状に微小な凹凸パターンを描画させるようにしている。このようなディスク原盤製造制御装置の一例を挙げるとすれば、例えば下記に示す特許文献1〜3に記載のものなどがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-303450号公報
【特許文献2】特開2007-134045号公報
【特許文献3】特開2008-203555号公報
【0004】
ところで、ディスク原盤を用いて作成される最終製品である例えばHDDメディアにおいては、その実用時に等速回転されることによってデータ記録/再生が行われる。そのため、これらのディスク原盤の製造時には、基盤の内周側において外周側に比較して短いパターン長のパターンを描画させる一方で、基盤の外周側において内周側に比較して長いパターン長のパターンを描画させる必要がある。
【0005】
そこで、上述したようなCLV駆動方式を採用している従来のディスク原盤製造制御装置においては、電子ビーム描画装置からターンテーブルの回転速度に応じて周期的に出力されるエンコーダパルス信号に基づき、パターン描画対象とされた基盤の半径方向の位置に従って電子ビーム照射のオン/オフを決めるフォーマッタ基本クロック(動作クロック)の周波数つまりは周期を適宜に変えることによってパターン長の調整、具体的には基盤の内周側において短いパターン長のパターンを、外周側において長いパターン長のパターンを設計通りにそれぞれ描画させるようにしている。
【0006】
ここで、図4に従来のディスク原盤製造制御装置によるパターン描画手順を説明するための図を示す。図4(a)は基盤の内周側におけるパターン描画手順を示すタイミングチャートであり、図4(b)は基盤の外周側におけるパターン描画手順を示すタイミングチャートである。
【0007】
図4(a)と図4(b)を比較すると、エンコーダパルス信号の周期が内周側に比べて外周側の方が長くなっており、これは上述したようにCLV駆動方式によって基盤の中心から近い内周側へのパターン描画においてはターンテーブル回転速度が速められ、基盤の中心から遠い外周側へのパターン描画においてはターンテーブル回転速度が遅くされることによる。そして、電子ビームの照射オン/オフを決めるフォーマッタ基本クロック(図中の動作クロック)の周期は、エンコーダパルス信号の半周期となっている。すなわち、エンコーダパルス信号の周期つまりはターンテーブルの回転速度が変われば、フォーマッタ基本クロックの周期も変わる。
【0008】
電子ビームの照射オン/オフは、フォーマッタ基本クロックの1周期(1クロック)毎に繰り返し制御されるようになっている(図中のオン/オフ表示参照)。そのために、図4(a)に示すように、ターンテーブル回転速度が速く制御される内周側においては、外周側に比べてエンコーダパルス信号ひいてはフォーマッタ基本クロックの周期が短くなることから(周波数は高くなる)、CLV駆動方式に従ってターンテーブル回転速度が速く制御されるにも関わらず短いパターン長のパターンを描画させることができる。一方、図4(b)に示すように、ターンテーブル回転速度が遅く制御される外周側においては、内周側に比べてエンコーダパルス信号ひいてはフォーマッタ基本クロックの周期が長くなることから(周波数は低くなる)、CLV駆動方式に従ってターンテーブル回転速度が遅く制御されるにも関わらず長いパターン長のパターンを描画させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のディスク原盤製造制御装置ではフォーマッタ基本クロックを発生させるために、動作周波数を任意に可変することが可能な可変周波数クロックを採用している。この可変周波数クロックの周波数(つまりはフォーマッタ基本クロックの周期)をターンテーブル回転速度(つまりはエンコーダパルス信号)に基づき変更し、変更後のフォーマッタ基本クロックに応じて電子ビームの照射オン/オフ制御を行うことにより、任意のターンテーブル回転速度において設計通りのパターンを描画することができるようにしている。
【0010】
しかし、可変周波数クロックは周波数可変であるがためにクロックジッタ(特には周期ジッタ)が大きく、パターンの描画精度を悪くする要因となる。また、可変周波数クロックの周波数はエンコーダパルス信号に基づき変更されることから、パターンの描画精度がエンコーダパルス信号の発生精度に大きく依存するという問題もある。したがって、可変周波数クロックはパターン長を決定付ける電子ビーム照射のオン/オフ制御の動作クロックとして用いるには向いていない。しかし、可変周波数クロックを用いることなしに、任意のターンテーブル回転速度において設計通りのパターンを高精度に描画することのできる方法は未だ提案されていない。
【0011】
なお、上記した問題はハードディスクの原盤における同心円状にパターンを描画する場合に限らず、例えば光ディスクの原盤における螺旋状にパターン(スパイラル情報トラック;フォーマット情報領域に相当する)を描画する場合にも同様に起こり得る。
【0012】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、ディスク原盤を製造する際の電子ビームの照射による基盤へのパターン描画に伴うフォーマット情報領域の形成に関し、可変周波数クロックを採用することなくまたエンコーダパルス信号の発生精度に依存することなしに、任意のターンテーブル回転速度において設計通りのパターンを高精度に描画することのできるようにしたディスク原盤製造制御方法及びディスク原盤製造制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るディスク原盤製造制御方法は、電子ビーム描画装置によるターンテーブル上に載置された基盤への電子ビームの照射を制御することによって、任意のパターンからなるフォーマット情報領域を有したディスク原盤を生成するディスク原盤製造制御方法において、固定クロック信号の取得を開始するステップと、前記基盤上に描画する描画対象のパターン情報を取得するステップと、任意の回転速度に前記ターンテーブルを回転制御するステップと、前記取得したパターン情報と前記ターンテーブルの回転速度とに基づき、電子ビームの照射オンと照射オフとの切り替え制御を行うタイミングを算出するステップと、前記取得開始した固定クロック信号に従って前記算出したタイミングの計時を行い、前記タイミングに応じた時間間隔に従って電子ビームの照射オンと照射オフとを切り替えるよう前記電子ビーム描画装置を制御するステップとを備える。
【0014】
本発明によれば、任意の回転速度で回転される基盤に対してフォーマット情報領域を形成する場合に、固定クロック信号に基づいて電子ビームの照射オン/オフ制御を行い電子ビーム照射による前記基盤上へのパターン描画を行うようにしている。このとき、前記取得したパターン情報と前記ターンテーブルの回転速度とに基づき、電子ビームの照射オンと照射オフとの切り替え制御を行うタイミングを算出し、該算出したタイミングだけ固定クロック信号に基づく計時が行われるまで基盤に対する電子ビームの照射を行うようにしている。こうすることで、基盤を載置したターンテーブルが任意の回転速度で回転されるにも関わらず、設計通りに任意のパターン長のパターンを高精度に描画することができるようになる。すなわち、このような本発明に係るディスク原盤製造方法においては、従来のように可変周波数クロックを採用しておらずまたエンコーダパルス信号の発生精度にパターンの描画精度が依存しないので、基盤を載せたターンテーブルが任意の回転速度で回転されたとしても設計通りのパターンを基盤上に高精度に描画してフォーマット情報領域を形成することができるようになる。
【0015】
また、本発明に係るディスク原盤製造制御装置は、電子ビーム描画装置によるターンテーブル上に載置された基盤への電子ビームの照射を制御することによって、任意のパターンからなるフォーマット情報領域を有したディスク原盤を生成するディスク原盤製造制御装置において、固定クロック信号を取得する取得手段と、前記基盤上に描画する描画対象のパターン情報を取得するデータ取得手段と、任意の回転速度に前記ターンテーブルを回転制御する回転制御手段と、前記取得したパターン情報と前記ターンテーブルの回転速度とに基づき、電子ビームの照射オンと照射オフとの切り替え制御を行うタイミングを算出する算出手段と、前記取得する固定クロック信号に従って前記算出したタイミングの計時を行い、前記タイミングに応じた時間間隔に従って電子ビームの照射オンと照射オフとを切り替えるよう前記電子ビーム描画装置を制御するビーム制御手段とを備える。これによれば、任意のターンテーブル回転速度において設計通りのパターンを基盤上に高精度に描画することができるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、固定クロック信号に基づいて電子ビームの照射オン/オフのタイミング制御を行うことから、従来のような可変周波数クロックを採用することなくまたエンコーダパルス信号の発生精度にパターンの描画精度が依存することがないので、任意のターンテーブル回転速度において設計通りのパターンを基盤上に高精度に描画することができるようになる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るディスク原盤製造制御方法を適用したディスク原盤製造制御装置の全体構成の一実施例を示す概念図である。
【図2】図1に示したビーム制御信号生成部で実行する電子ビーム制御信号の生成処理の一実施例を示すフローチャートである。
【図3】本実施形態に係るディスク原盤製造制御装置によるパターン描画手順を説明するための図であり、図3(a)は内周側及び外周側それぞれにおけるパターン描画手順を示すタイミングチャート、図3(b)は基盤上に描画されるパターン配置の一例を示す概念図である。
【図4】従来のディスク原盤製造制御装置によるパターン描画手順を説明するための図であり、図4(a)は基盤の内周側におけるパターン描画手順を示すタイミングチャート、図4(b)は基盤の外周側におけるパターン描画手順を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係るディスク原盤製造制御方法を適用したディスク原盤製造制御装置の全体構成の一実施例を示す概念図である。ここに示されるディスク原盤製造制御装置1(フォーマッタ)は、電子ビーム描画装置10及びステージ20に接続されており、これらの装置との間で後述するような各種情報・データ等を送受信することに応じてそれぞれの装置の動作を制御することのできるようになっている。なお、電子ビーム描画装置10は図1に示したものに限られるものではなく、公知のどのようなものであってもよい。
【0020】
図1に示す電子ビーム描画装置10は、制御回路部11と電子ビーム射出部12とにより構成される。電子ビーム描画装置10ではディスク原盤製造制御装置1から電子ビーム制御信号を受信することに応じて、該電子ビーム制御信号に従う制御回路部11による制御の元に電子ビーム射出部12による電子ビームの照射開始(オン)/終了(オフ)などの各種制御が行われる。前記電子ビーム射出部12は、例えば電子銃13、ブランキング用偏向器14及びブランキング板15等を含んで構成されてなる。勿論、これら以外の構成要素を含んでいてよいことは言うまでもない。
【0021】
制御回路部11は、ディスク原盤製造制御装置1から受信した電子ビーム制御信号(より具体的には電子ビーム照射オン/オフ信号)に応じてブランキング用偏向器14により電子銃13から照射される電子ビームをオン/オフする。ブランキング板15を通過した電子ビームは、ターンテーブル21上に載置された基盤A上に照射されることにより基盤A上において同心円状(あるいは螺旋状)にパターンが描画される。
【0022】
ステージ20は、基盤Aを載置可能なターンテーブル21(図示を省略したスピンドルを含む)と、基盤Aを載置した状態で前記ターンテーブル21を水平方向に移動制御したり任意の回転速度(回転数)で回転制御したりするステージ駆動制御部22と、ターンテーブル21の回転に応じた位相変化を検知する回転位相検出部23とから構成される。前記ステージ駆動制御部22は、ディスク原盤製造制御装置1からステージ駆動制御信号を受信することに応じてターンテーブル21そのものを水平面に沿って基盤Aの半径方向に直線移動させる移動制御を行う。これにより、基盤Aの半径方向への描画位置の移動が実現される。また、前記ステージ駆動制御部22は、ディスク原盤製造制御装置1からステージ駆動制御信号を受信することに応じてターンテーブル21を任意の回転速度で回転させるよう回転制御する。
【0023】
回転位相検出部23は、ターンテーブル21の回転に応じた位相変化をエンコーダパルス信号としてディスク原盤製造制御装置1に送信する。ただし、後述するように従来の装置と異なり、エンコーダパルス信号はフォーマッタ基本クロック(動作クロック)の発生に寄与しない(用いない)。エンコーダパルス信号は、例えばターンテーブル21がディスク原盤製造制御装置1から指示された回転速度(回転数)で正常に回転しているか否かを判断するなどのために用いられる。
【0024】
ディスク原盤製造制御装置1(フォーマッタ)は例えばCPU、ROM、RAM等を含んでなるコンピュータであって、ビーム制御信号生成部2と固定クロック信号生成部3とに大きく分けることができる。ビーム制御信号生成部2は、上記した電子ビーム制御信号(電子ビーム照射オン/オフ信号など)、ステージ駆動制御信号などを生成する。電子ビーム制御信号のうち特に描画パターンの長さを決める要因の1つである電子ビーム照射オン/オフ信号については、固定クロック発振器からなる固定クロック信号生成部3により常時発信されている固定クロック信号を取得し、該取得した固定クロック信号に基づく所定のタイミング(後述するパターンクロック数T及びパターン間クロック数R)に従ってオン信号又はオフ信号のいずれかの信号が送信されるようになっている。詳細については後述する(図2及び図3参照)。
【0025】
固定クロック信号生成部3は上記のように固定周波数に応じた固定クロック信号を常時発信するものであり、当該固定クロック信号生成部3から発信される固定クロック信号は電子ビームの照射オン/オフの時間間隔を決める際に参照されるフォーマッタ基本クロックとして用いられる。この実施形態においては、従来のような基盤Aの描画位置(半径方向)に応じてフォーマッタ基本クロック周波数を変化させて異なる時間間隔(周期)のクロック信号を生成させることなく(図4参照)、基盤Aの描画位置(特には半径方向)に関わらず常に同一のフォーマッタ基本クロック周波数に従う時間間隔(周期)が一定の固定クロック信号を生成させるようになっている(後述する図3参照)。
【0026】
上述したように、本実施形態に係るディスク原盤製造制御装置1(フォーマッタ)では、固定クロック信号生成部3から送られてくる固定クロック信号に基づき電子ビーム照射オン/オフ信号を生成する。そして、生成した電子ビーム照射オン/オフ信号を電子ビーム描画装置10に送信することにより、電子ビーム描画装置10の電子ビームの照射オン/オフを制御して、基盤Aの半径位置に応じて指示した回転速度(回転数)で回転しているターンテーブル21上に載置された基盤A上に同心円状にパターンを描画させる。
【0027】
次に、こうしたディスク原盤製造制御装置1における電子ビーム制御信号の生成処理について、図2及び図3を用いて説明する。図2は、図1に示したビーム制御信号生成部2で実行する電子ビーム制御信号の生成処理の一実施例を示すフローチャートである。図3は、本実施形態に係るディスク原盤製造制御装置1(フォーマッタ)によるパターン描画手順を説明するための図である。図3(a)は内周側及び外周側それぞれにおけるパターン描画手順を示すタイミングチャート、図3(b)は基盤上に描画されるパターン配置の一例を示す概念図である。
【0028】
ステップS1は、固定クロック信号生成部3から発信されている固定クロック信号の取得を開始する。ステップS2は、パターンを描画する基盤A上の中心Oからの描画半径位置(r)を特定する。この描画半径位置(r)の特定は、ディスク原盤製造制御装置1が制御回路部11に対して送った電子ビーム照射オン/オフ信号のクロック累算値から求められるターンテーブル周回数と、ターンテーブル1周毎の径方向ピッチとに基づき行われる。ステップS3は、前記特定した描画半径位置(r)が描画対象とされた基盤Aの半径方向におけるパターン形成範囲(描画対象範囲)内であるか否かを判定する。前記特定した描画半径位置(r)が描画対象範囲外であると判定された場合には(ステップS3のNO)、当該処理を終了する。なお、電子ビーム露光用のフォーマット情報(描画データ)内に定義されているパターン情報が全て処理された場合にも当該処理を終了してよい。
【0029】
前記特定した描画半径位置(r)が描画対象範囲内であると判定された場合には(ステップS3のYES)、予め用意されている描画データから前記特定した描画半径位置(r)に描画する対象のパターン情報を1つ取得する(ステップS4)。前記描画データは基盤に描画する個々のパターン毎にパターン情報を規定した電子ビーム露光用のフォーマット情報であり、図示を省略したCADシステム等を用いて使用者によって任意の設計通りに生成される。前記パターン情報は、少なくとも基盤A上の中心Oからの半径位置と各パターンの描画開始位置及び描画終了位置とを含む。また、この実施形態において各パターンの描画開始位置及び描画終了位置は、それぞれが基盤Aの中心Oを基点とした角度で定義されている(図3(b)に示されるθ1とθ2参照)。
【0030】
ステップS5は、前記描画データに基づき前記特定した描画半径位置(r)に描画する対象のパターンがあるか否かを判定する。該当するパターンがないと判定した場合、すなわち前記特定した半径位置(r)に半径位置が一致するパターン情報がない場合には(ステップS5のNO)、上記ステップS2の処理へ戻る。一方、該当するパターンがあると判定した場合、すなわち前記特定した描画半径位置(r)に半径位置が一致するパターン情報がある場合には(ステップS5のYES)、ターンテーブル21を前記特定した半径位置(r)にあわせて所定の回転速度(回転数)で回転駆動させる制御を行う(ステップS6)。すなわち、ステージ20に対しステージ駆動制御信号を送信する。なお、この回転制御については前記描画半径位置(r)が変わったときのみ行えばよい。
【0031】
ステップS7は、以下に示される数1に従って前記特定した描画半径位置(r)上におけるパターン描画位置(パターン角度θ)を、前記描画半径位置(r)におけるパターン長さ(L)に変換する。
【数1】

Lは変換後のパターン長さ(m)、rはパターンを描画する基盤Aの中心Oからの描画半径位置(m)、θは前記描画半径位置における円周方向へのパターン描画位置を表す基盤Aの中心Oを基準としたパターン角度(rad.)である。ここで、前記パターン描画位置(パターン角度θ)は、図3(b)に示すように、前記描画半径位置(r)上におけるパターンの描画開始位置から描画終了位置までの基盤Aの中心Oを基点とした角度であって、前記取得したパターン情報に含まれる描画開始位置を示す角度θ1と描画終了位置を示す角度θ2とにより求まる。上記した数1からは、パターン角度θが同じである場合において、基盤Aの中心Oからの描画半径位置rに比例してパターン長さLは長くなることが導出される。これは、ディスク原盤の製造時に基盤の内周側において外周側に比較して短いパターン長のパターンを描画させる一方で、基盤の外周側において内周側に比較して長いパターン長のパターンを描画させる必要があることに鑑み、パターン情報に基づく元のパターン長を前記描画半径位置(r)に応じて調整することに相当する。
【0032】
ステップS8は、当該描画半径位置(r)における描画線速度(V)を特定する。この描画線速度(V)は、ターンテーブル21の回転速度と描画半径位置(r)とに従って求められる。ステップS9は、数2に従ってパターン描画クロック数(T)を算出する。
【数2】

Tはパターン描画クロック数(clock)、Vは前記描画半径位置におけるターンテーブル21の回転速度に比例して決まる描画線速度(m/clock)であり、また「round」は整数への丸めを表す記号である。後述するように、このパターン描画クロック数(T)は、電子ビームの照射オンと照射オフとの切り替え制御を行うタイミングに相当する。図3(a)に示した例において、上記パターン描画クロック数は内周側においてパターンP1及びP2が3クロック(T1)であり、パターンP3及びP4が5クロック(T2)である一方、外周側においてパターンP5及びP6が5クロック(T3)であり、パターンP7が8クロック(T4)となっている。
【0033】
ステップS10は、電子ビームを照射オンに切り替える制御を行う。すなわち、電子ビーム描画装置10に対して電子ビーム照射オン信号を送信することによって、電子描画装置10による基盤Aへの電子ビームの照射を開始させる(図3(a)におけるオン表示参照)。ステップS11は、クロック数のカウンタ値を初期化(クリア)する。ステップS12は、固定クロック信号生成部3から発信される固定クロック信号に基づくクロック数のカウントを開始する。こうすることにより、電子ビームの照射を開始してからの経過時間(つまり電子ビームの照射時間)を、固定クロック信号生成部3から発信される固定クロック信号に基づき管理することができる。
【0034】
ステップS13は、クロック数のカウンタ値が前記算出したパターン描画クロック数(T)以上になるまで処理を待機する。その間、クロック数のカウントが継続されると共に、電子ビームは照射オン状態なので基盤A上にパターンPが基盤Aの周方向に描画されることになる(図3(b)参照)。クロック数のカウンタ値がパターン描画クロック数(T)以上になったと判定されると(ステップS13のYES)、照射オン状態であった電子ビームを照射オフに切り替える制御を行う(ステップS14)。すなわち、電子ビーム描画装置10に対して電子ビーム照射オフ信号を送信することによって、電子描画装置10による基盤Aへの電子ビームの照射を終了させる(図3(a)におけるオフ表示参照)。
【0035】
このようにして、内周側と外周側とで異なる任意の回転速度でターンテーブル21が回転駆動されるような場合に、前記算出したパターン描画クロック数(T)だけ基盤Aに対して電子ビームを照射させることによって、描画データに含まれるパターン情報における元のパターン長を前記回転速度にあわせて自動的に調整しながらパターンの描画を行う。
【0036】
ステップS15は、クロック数のカウンタ値を初期化(クリア)した上で再カウントを開始する。ステップS16は、クロック数のカウンタ値がパターン間クロック数以上になるまで処理を待機する。その間、クロック数のカウンタが継続されると共に、電子ビームは照射オフ状態なので基盤A上にパターンPが描画されることなく、図3の各図に示されるようなパターンPの描かれていない部分が形成されることになる。前記パターン間クロック数は前記算出したパターン描画クロック数(T)と同じとしてもよいし、あるいは既に描画された1つ前のパターンの描画終了位置から後続する今回の描画対象とされたパターンの描画開始位置までの、パターンPが描画されない箇所の長さに応じて決まるクロック数としてもよい。図3では、前記パターン間クロック数としてパターンが描画されない箇所の長さに応じて決まるクロック数を採用した場合を例に示しており、ここでは内周側が3クロック、外周側が5クロックとなっている。勿論、前記パターン間クロック数は同一のクロック数でなくてよい。
【0037】
クロック数のカウンタ値がパターン描画クロック数(T)以上になったと判定されると(ステップS16のYES)、同一描画半径位置(r)に次のパターンPを描画すべくステップS4の処理に戻って上記したステップS4〜ステップS16までの処理を繰り返し続ける。
【0038】
以上のように、本実施形態においては内周側と外周側とで異なる任意の回転速度で回転される基盤Aに対してフォーマット情報領域を形成する場合に、固定クロック信号に基づいて電子ビームの照射オン/オフ制御を行い電子ビーム照射による前記基盤A上へのパターン描画を行うようにしている。このときに、基盤上に描画する元のパターン長を演算によって半径方向の描画位置に対応させて算出し、該算出した描画位置に対応した元のパターン長さを当該描画位置における描画線速度(基盤Aの回転速度に比例)に応じたパターン描画クロック数(T)に変換する。そして、該変換したパターン描画クロック数(T)だけ前記固定クロック信号に基づくカウントが行われるまで、基盤Aに対して電子ビームの照射が行われるようにしている。
【0039】
従来では図4に示すように、内周側においても外周側においてもフォーマッタ基本クロックの1乃至複数周期(クロック)毎に電子ビームの照射オン/オフを制御しており、このフォーマッタ基本クロックの周期をターンテーブル回転速度に応じて変化させて電子ビームの照射オン/オフを制御することにより描画するパターンのパターン長を調整するようにしている。他方、本発明においては図3(a)に示すように、内周側においても外周側においてもフォーマッタ基本クロックの周期をターンテーブル回転速度に応じて変化させることなく、内周側と外周側とで異なるフォーマッタ基本クロックのクロック数(1乃至複数の周期)に従って電子ビームの照射オン/オフを制御することにより描画するパターンのパターン長を調整するようにしている。こうすることで、基盤を載置したターンテーブルが任意に決定される回転速度(回転数)で回転されるにも関わらず基盤上に設計通りにパターンを高精度に描画することができるようになる。こうした方法は、従来のように可変周波数クロックを採用していないのでクロックジッタによる影響が生じ得ず、また電子ビームの照射オン/オフ制御のタイミングがエンコーダパルス信号の発生精度に依存しないので、任意のパターン長のパターンを高精度に描画することができるようになる。
【0040】
以上、図面に基づいて実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な実施形態が可能であることは言うまでもない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。例えば、ディスク原盤製造制御装置1は任意の回転速度で回転するターンテーブル21上に載置された基盤A上に同心円状にパターンを描画させるよう電子ビーム描画装置10を制御するものに限らず、任意の回転速度で回転するターンテーブル21上に載置された基盤A上に螺旋状にパターンを描画させるよう電子ビーム描画装置10を制御するものであってよい。
【符号の説明】
【0041】
1…ディスク原盤製造制御装置(フォーマッタ)
2…ビーム制御信号生成部
3…固定クロック信号生成部
10…電子ビーム描画装置
11…制御回路部
12…電子ビーム射出部
13…電子銃
14…ブランキング用偏向器
15…ブランキング板
20…ステージ
21…ターンテーブル
22…ステージ駆動制御部
23…回転位相検出部
A…基盤
O…基盤中心
P…パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム描画装置によるターンテーブル上に載置された基盤への電子ビームの照射を制御することによって、任意のパターンからなるフォーマット情報領域を有したディスク原盤を生成するディスク原盤製造制御方法において、
固定クロック信号の取得を開始するステップと、
前記基盤上に描画する描画対象のパターン情報を取得するステップと、
任意の回転速度に前記ターンテーブルを回転制御するステップと、
前記取得したパターン情報と前記ターンテーブルの回転速度とに基づき、電子ビームの照射オンと照射オフとの切り替え制御を行うタイミングを算出するステップと、
前記取得開始した固定クロック信号に従って前記算出したタイミングの計時を行い、前記タイミングに応じた時間間隔に従って電子ビームの照射オンと照射オフとを切り替えるよう前記電子ビーム描画装置を制御するステップと
を備えるディスク原盤製造制御方法。
【請求項2】
電子ビーム描画装置によるターンテーブル上に載置された基盤への電子ビームの照射を制御することによって、任意のパターンからなるフォーマット情報領域を有したディスク原盤を生成するディスク原盤製造制御装置において、
固定クロック信号を取得する取得手段と、
前記基盤上に描画する描画対象のパターン情報を取得するデータ取得手段と、
任意の回転速度に前記ターンテーブルを回転制御する回転制御手段と、
前記取得したパターン情報と前記ターンテーブルの回転速度とに基づき、電子ビームの照射オンと照射オフとの切り替え制御を行うタイミングを算出する算出手段と、
前記取得する固定クロック信号に従って前記算出したタイミングの計時を行い、前記タイミングに応じた時間間隔に従って電子ビームの照射オンと照射オフとを切り替えるよう前記電子ビーム描画装置を制御するビーム制御手段と
を備えるディスク原盤製造制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−119044(P2012−119044A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270092(P2010−270092)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(594150176)日本コントロールシステム株式会社 (4)
【Fターム(参考)】