説明

ディスプレイ用フィルタ及びこれを用いたディスプレイ

【課題】長時間の使用でも色素劣化に帰属される分光特性変化が起こらないディスプレイ用フィルタ、及び該フィルタを貼付したディスプレイを提供する。
【解決手段】少なくとも支持基材と、バインダー樹脂中に色素を含有する色素層とが積層された積層構造を有するディスプレイ用フィルタであって、前記色素層を形成するバインダー樹脂成分の少なくとも一種は、色素骨格を持つポリマーである。色素骨格を持つポリマーを含むことで、該ポリマーはバインダー樹脂に対して相溶化剤として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
色素含有層に色素骨格を持つバインダー樹脂を使用することにより、長時間の使用下でも色素劣化が抑制されたディスプレイ用フィルタ及びこれを用いたディスプレイを提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の電子機器の表示パネルとして、CRT(ブラウン管)、LCD(液晶ディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレイ)、有機・無機ELディスプレイ、FED(フィールドエミッションディスプレイ)等の電子ディスプレイが使用されている。このような電子ディスプレイの前面には、不要な発光成分を除去して、表示色を鮮明にするために、フィルターが設置されている。例えば、プラズマディスプレイでは、放電によりキセノンとネオンの混合ガスが励起され真空紫外線を放射し、その真空紫外線励起による赤、青、緑のそれぞれの蛍光体の発光を利用して3原色発光を得ている。その際、ネオン原子が励起された後、基底状態に戻る際に590nm付近を中心とするネオンオレンジ光を発光するため、プラズマディスプレイでは、赤色にオレンジ色が混ざり鮮やかな赤色が得られない欠点がある。また一方でキセノン原子が励起された後、基底状態に戻る際には紫外線以外に800−1100nm付近の近赤外線が発生し、発生した近赤外線は周辺機器の誤作動を引き起こす。この為、プラズマディスプレイではネオンオレンジ光や近赤外線を吸収除去する機能を有するフィルタ、例えば、ネオンオレンジ光および近赤外線の波長の透過率を局所的に低下させているフィルタを、ディスプレイの前面に設置している。更に上記フィルタには赤、緑、青の3原色透過率の調節により、画像の色バランスを補正したり色純度を改善する機能を付与することもある。
【0003】
これらのディスプレイ用フィルタにおいては、上記機能を発現する成分として一般的に機能性色素が用いられている。しかしながら、色素を用いたディスプレイ用フィルタには、長時間の使用により色素劣化に帰属される分光特性変化が起こるとの問題があった。
【0004】
この問題を解決する為に、種々の検討がなされている。例えば、色素層のバインダー樹脂に反応性基を有さないものを用いる方法(特許文献1:特開平10−180922号公報)や、紫外線及び水蒸気バリア層を別途設ける方法(特許文献2:特開2001−83889号公報)、色素層の残留溶剤量を低減する方法(特許文献3:特許第3341741号公報)、バインダー樹脂のガラス転移温度を110℃以上にする方法(特許文献4:特開2003−167119号公報)などが知られているが、実用に耐えうる十分な耐久性のものは未だ得られていない。即ち、長時間の使用でも色素劣化に帰属される分光特性変化が起こらないディスプレイ用フィルタは発明者の知る限りこれまで見出されていない。
【0005】
また、色素は一般的にバインダー中に分散させると凝集、会合が起こりやすく、そのため偏って存在することになると、ディスプレイ用フィルタの光学特性を悪化させてしまう。
【特許文献1】特開平10−180922号公報
【特許文献2】特開2001−83889号公報
【特許文献2】特許第3341741号公報
【特許文献2】特開2003−167119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、長時間の使用でも色素劣化に帰属される分光特性変化が起こらず、しかもバインダー樹脂中に色素が均一に分散された状態にすることができるディスプレイ用フィルタを提供することにある。さらに本発明は、上記の課題が解消された上で、ディスプレイ用フィルタが適用されたディスプレイを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討した結果、色素骨格を持つポリマーをバインダー樹脂成分の少なくとも1つとしたバインダー樹脂を用いてディスプレイ用フィルタを形成することにより、長時間の使用でも色素劣化が抑制されたディスプレイ用フィルタ及びこれを用いたディスプレイを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、色素骨格を持つバインダー樹脂は色素骨格に(メタ)アクリレート基を導入したモノマーと(メタ)アクリルモノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0008】
即ち、第1発明は、少なくとも支持基材と、バインダー樹脂中に色素を含有する色素層とが積層された積層構造を有するディスプレイ用フィルタであって、前記色素層を形成するためのバインダー樹脂成分の少なくとも一種は、色素骨格を持つポリマーであることを特徴とするディスプレイ用フィルタである。
【0009】
第2発明は、前記第1発明において、前記色素骨格を持つポリマーが、色素骨格に(メタ)アクリレート基を導入したモノマーと、前記色素層以外の他の層のバインダー樹脂成分に含まれる(メタ)アクリルモノマーとの共重合体であることを特徴とするディスプレイ用フィルタである。
【0010】
第3発明は、前記第1発明又は前記第2発明において、前記色素層に含有される色素が、少なくともカチオン部とアニオン部とからなるイオン性色素を含むことを特徴とするディスプレイ用フィルタである。
【0011】
第4発明は、前記第1発明乃至前記第3発明のいずれかの前記色素骨格を持つポリマーが、バインダー樹脂成分中の1モル%以上50モル%以下の含有量であることを特徴とするディスプレイ用フィルタである。
【0012】
第5発明は、前記第1発明1乃至前記第4発明のいずれかのディスプレイ用フィルタであって、電磁波遮蔽機能、反射防止機能、防眩機能、防汚染機能、紫外線吸収機能のいずれか一種もしくは二種以上の機能を有する一層もしくは二層以上の層を有するディスプレイ用フィルタである。
【0013】
第6発明は、前記第1発明乃至前記第5発明のいずれかのディスプレイ用フィルタが、ディスプレイの観察側に配置されていることを特徴とするディスプレイである。
【発明の効果】
【0014】
第1発明によれば、色素、及び他のバインダー樹脂成分との親和性を併せ持つ色素骨格を持つバインダー樹脂成分を含むことで、該バインダー樹脂成分が相溶化剤として機能し、しかも、色素骨格以外に単にバインダー中に、単に添加されている別の種類或いは同一の色素であって、色素骨格の色素と相性がよい色素は、該色素が前記色素骨格を持つバインダー樹脂と共に層中で均一に分散するため、長時間の使用下でも単に添加する色素の凝集、会合等が起こらず、色素劣化に帰属される分光特性変化が抑制されたディスプレイ用フィルタを提供できる。
【0015】
第2発明によれば、前記第1発明の効果に加えて、前記色素層に含有される色素骨格を持つバインダー樹脂成分が他のバインダー樹脂成分と同じモノマー成分を含むことで、更に耐久性に優れたディスプレイ用フィルタを提供できる。
【0016】
第3発明によれば、前記第1発明、前記第2発明の何れかの発明の効果に加えて、前記色素層に含有される色素として少なくともカチオン部とアニオン部とからなるイオン性色素を含むことから、イオン性色素の劣化抑制に対し顕著な効果が得られるディスプレイ用フィルタを提供できる。このようなイオン性色素には、ジインモニウム系色素が挙げられる。
【0017】
第4発明によれば、前記第1発明乃至前記第3発明の何れかの発明の効果に加えて、バインダー樹脂成分中における色素骨格を持つポリマーの含有量を規定しているので、色素層における色素としての分散性が良好で、且つ色素層の耐久性が優れたディスプレイ用フィルタを提供できる。
【0018】
第5発明によれば、前記第1発明乃至前記第4発明の何れかの発明の効果に加えて、電磁波遮蔽機能、反射防止機能、防眩機能、防汚染機能、紫外線吸収機能のいずれか一種もしくは二種以上の機能を有する層を一層もしくは二層以上備えたディスプレイ用フィルタを提供することができる。
【0019】
第6発明によれば、前記第1発明乃至前記第5発明のいずれかの発明の効果を発揮し得るディスプレイ用フィルタがディスプレイの観察側に配置されたディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
色素骨格を持つポリマー:
色素骨格を持つポリマーは、例えば、バインダー樹脂成分において、色素と結合性のよい官能基を導入することにより、製造することができる。
【0021】
色素骨格を有するポリマーには、例えば、重合性官能基を導入する際の足場を有する、下記一般式で表される。
【0022】
A(B)x 式(1)
[式中、xは1乃至4の数であり、Aはキナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、ジオキサジン、シアニン、フタロシアニン、ジケトピロロリロールまたはアゾ系列の色素の残基であり、これら残基はAの一部である窒素原子を介してx個の基Bに結合されている。BはAに結合されている基であり、下記の式(2)によって表わされる。
【0023】
【化1】

【0024】
(式(2)において、m、nは互いに独立的に0または1であり、XはC1〜C4アルキレンまたはC2〜C8アルケニレンであり、Yは基−V−(CH2 )q −であり、ここにおいてVはC3−C6シクロアルキレンである。Qは水素、ビニル、アクリル、メタクリルである。)]
【0025】
本発明によれば、色素骨格を持つポリマーを、色素層形成用樹脂組成物に含まれることにより、色素層の耐熱性、耐湿熱性に対して色素劣化が抑制されるが、その理由は次のように考えられる。色素骨格を持つポリマーは、色素層におけるバインダー樹脂と親和性があることから、色素とバインダー樹脂との親和性が向上し、バインダー樹脂中に色素の凝集体が形成されないため、高温下において、色素間の相互作用等により、色素劣化が起こるのを抑制し、耐熱性や耐湿熱性が向上すると考えられる。ところで、一般的なイオン性色素の劣化は、大気中の水分やバインダー樹脂との相互作用によりカチオン部が還元されて中性となることで、アニオン部が外れることが最大の理由であるが、これに対して本発明で使用される色素骨格を持つポリマーは、バインダー樹脂が色素を保護し、疎水性の環境に色素が分散された結果、高い極性を有するイオン性色素を安定化させることが可能と考えられる。
【0026】
本発明において、色素層とは、例えば、近赤外線吸収層や、色調整機能層等の色素を含有する機能層を意味する。
【0027】
色素層形成用樹脂組成物:
色素層形成用樹脂組成物は、色素層を形成するための組成物であり、必須の構成要件として、色素骨格を持つポリマー、バインダー樹脂を含む。必要に応じて、溶剤を含有してもよい。バインダー樹脂中の色素骨格を持つポリマーの含有量は1〜50モル%の範囲が好ましい。1モル%以下の場合は色素の均一分散性に効果が無く、50モル%以上の場合は色素層の耐久性が低下する。
【0028】
色素層形成用樹脂組成物中における、色素骨格を持つポリマー以外のバインダー樹脂の種類は、光学フィルタとして使用される樹脂であれば特に限定されない。例えば、アクリル樹脂やポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0029】
ディスプレイ用フィルタの層構成は、前記した第1発明〜第5発明のいずれかの要件を満足するものであれば、種々の層構成があり得る。透明基材の少なくとも片側或いは、両側に、1層又は複数層からなる機能層が形成される。複数の機能層は、同一種類であっても異なっていてもよい。
【0030】
機能層としては、例えば、電磁波遮蔽層、近赤外線吸収層、色調整機能層、反射防止層、防眩層、防汚染層、紫外線吸収層等が挙げられ、いずれか1種又は2種以上の機能を有する1層もしくは2層の層を挙げることができる。前記近赤外線吸収層、或いは色調整機能層は、何れかの層又は両方の層が本発明の色素骨格を持つポリマーを含有することが必須である。
【0031】
透明基材:
透明基材は、種々の機能層の積層対象となるか、もしくはディスプレイ用フィルタの支持体となるものである。従って、透明基材は、可視光に対して透明性を有し、種々の機能層が積層可能であれば、その種類は特に限定されるものではないが、複屈折の小さいものであれば尚好ましい。
【0032】
例えば、透明基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルホン、もしくはポリエーテルケトン等の樹脂からなるフィルムを挙げることができ、単独で、または同種もしくは異種のものを積層して用いることができる。
【0033】
透明基材の透明性としては、透明基材が単層の場合、可視領域の光線透過率が80%以上であることが好ましい。また、透明性を有するとは、無色透明であることが好ましいが、必ずしも無色透明であることに限ることはなく、本発明の目的を妨げない程度であれば着色された着色透明であってもよい。可視領域の光線透過率は出来る限り高いことが好ましいが、最終製品としては50%以上の光線透過率が必要なことから最低2枚を積層する場合でも、それぞれの透明基材としては光線透過率が80%であれば、目的に適う。もちろん、光線透過率が高ければ高いほど、透明基材を複数枚積層出来るため、透明基材の単層の光線透過率は、より好ましくは85%以上であり、最も好ましくは90%以上である。光線透過率を向上させるには厚みを薄くするのも有効な手段である。
【0034】
透明基材の厚みは、透明性さえ満足すれば特に制限されないが、加工性の面からは、12μm程度〜300μm程度の範囲であることが好ましい。厚みが12μm未満の場合は透明基材が柔軟過ぎて加工する際の張力により伸張やシワが発生しやすい。また、厚みが300μmを超えるとフィルムの可撓性が減少し、各工程での連続巻き取りが困難になる上、透明基材どうしを複数枚、積層する際の加工性が大幅に劣るといった問題もある。
【0035】
電磁波遮蔽層:
電磁波遮蔽層は、ディスプレイ用フィルタが適用されるディスプレイから発生した電磁波を遮蔽するものである。電磁波遮蔽層には金属メッシュ層と透明導電性薄膜層が利用されるが、電磁波遮蔽性の高い金属メッシュが好ましい。金属メッシュ層は、透明基材上に金属箔を積層し、エッチングによってメッシュ状とするので、透明基材と金属メッシュとの間には、接着剤層が介在することが普通である。接着剤層は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール単独もしくはその部分ケン化品、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタンエステル樹脂等の接着剤で構成する。金属メッシュ層は、電磁波遮蔽能を有するものであれば、その金属の種類は特に限定されるものではなく、例えば、銅、鉄、ニッケル、クロム、アルミニウム、金、銀、ステンレス、タングステン、クロム、チタン等を用いることができ、中でも銅が好ましく、銅箔の種類としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられるが、特に電解銅箔であることが好ましい。電解銅箔を選択することにより、厚さが10μm以下の均一性のよいものとすることができ、また黒化処理された際に、酸化クロム等との密着性を良好なものとすることができるからである。
【0036】
ここで、本発明においては、上記金属メッシュは、その一方の面または両面が黒化処理されていることが好ましい。黒化処理とは、酸化クロム等により金属メッシュの表面を黒化する処理であり、ディスプレイ用フィルタにおいて、この酸化処理面は、観察者側の面となるように配置される。この黒化処理により金属メッシュ層表面に形成された酸化クロム等により、ディスプレイ用フィルタ表面の外光が吸収されることから、ディスプレイ用フィルタ表面で光が散乱することを防止することができ、良好な透過性を得ることが可能なディスプレイ用フィルタとすることができるのである。
【0037】
金属メッシュ層の開口率は、電磁波遮蔽能の観点からは、低いほどよいが、開口率が低くなると光線透過率が低下するので、開口率としては50%以上であることが好ましい。
【0038】
金属メッシュ層が積層されている場合、金属メッシュ層は開口部と非開口部とが凹凸をなしているので、金属メッシュ層上に、透明樹脂が金属メッシュ層の厚み以上の厚みに形成された平坦化層が積層されていてもよい。
【0039】
近赤外線吸収層:
近赤外線吸収層は、基本的には、透明バインダ樹脂中に、近赤外線を吸収する近赤外線吸収色素を含有するものである。近赤外線吸収層は、前記に詳述した本発明における色素骨格を有するポリマーを含有することが望ましい。
【0040】
近赤外線吸収色素としては、ディスプレイ用フィルタが代表的な用途であるプラズマディスプレイの前面に適用される場合、プラズマディスプレイはキセノンガス放電を利用して発光する際に生じる近赤外線領域、即ち、800nm〜1100nmの波長域を吸収するものであることが好ましく、この波長域内での光線透過率が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0041】
同時に近赤外線吸収層は、可視光領域、即ち、380nm〜780nmの波長域では、十分な光線透過率を有する必要がある。
【0042】
上記の両方の波長域における光線透過率は、分光光度計((株)島津製作所製、品番;「UV−3100PC」)を使用し求めたものである。
【0043】
近赤外線吸収色素としては、具体的には、酸化スズ、酸化インジウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アンモン、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ランタン等の無機系近赤外線吸収色素、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、アミニウム系化合物、ピリリウム系化合物、セリリウム系化合物、スクワリリウム系化合物、ジインモニウム系化合物、銅錯体類、ニッケル錯体類、ジチオール系金属錯体類等の有機系近赤外線吸収色素を1種、または2種以上を併用することができる。これらのうち、無機系近赤外線吸収色素は、平均粒径が0.005μm〜1μmの微粒子であることが好ましく、平均粒径はより好ましくは0.01μm〜0.5μmの範囲内である。
【0044】
色調整層:
色調整層は、パネルからの発光の色純度や色再現範囲、電源OFF時のディスプレイ色などの改善のためにディスプレイ用フィルタの色を調整するためのものである。色調整層は、可視領域である380〜780nmに最大吸収波長を有する公知の色素から、目的に応じて任意に色素を組み合わせ、バインダ樹脂と共に塗工液とし、前述した近赤外線吸収層と同様に形成することができる。
【0045】
色調整層は、本発明において前記に詳述した色調整層形成用樹脂組成物を含むことが望ましい。色調整層に用いることのできる公知の色素としては、特開2000−275432号公報、特開2001−188121号公報、特開2001−350013号公報、特開2002−131530号公報等に記載の色素が好適に使用できる。更にこのほかにも、黄色光、赤色光、青色光等の可視光を吸収するアントラキノン系、ナフタレン系、アゾ系、フタロシアニン系、ピロメデン系、テトラアザポロフィリン系、スクアリリウム系、シアニン系等の色素を使用することができる。
【0046】
反射防止機能層:
本発明のディスプレイ用フィルタは、反射防止機能層を有していてもよい。反射防止機能層の層構成の形態は、光透過性の低屈折率層を構成層の少なくとも一つとして有する2層以上の屈折率の異なる層を形成してなる反射防止積層体であるが、具体例として、光透過性の高屈折率層、光透過性の中屈折率層、光透過性の低屈折率層を有し、該高屈折率層、該中屈折率層及び該低屈折率層は、屈折率の高低が交互に入れ替わり且つ該低屈折率層が最も鑑賞面側に位置するように積層されたものを挙げることができる。前記いずれかの層に隣接してハードコート層を設けることができる。或いは、該高屈折率層及び該中屈折率層のうち少なくとも一つがハードコート層を兼ねてもよい。
【0047】
防眩層:
防眩層は、例えば、透明樹脂中に直径数μm程度のポリスチレン樹脂やアクリル樹脂等のビーズを分散させたものであり、層が持つ光拡散性により、ディスプレイ前面に配置した際に、ディスプレイの特定の位置、方向に生じるシンチレーションの防止を行なうためのものである。
【0048】
防汚染層:
防汚染層は、ディスプレイ用フィルタを使用する際に、その表面に、不用意な接触や環境からの汚染が原因で、ごみや汚染物質が付着するのを防止し、あるいは付着しても除去しやすくするために形成される層である。例えば、フッ素系コート剤、シリコン系コート剤、シリコン・フッ素系コート剤等が使用され、なかでもシリコン・フッ素系コート剤が好ましく適用される。これらの防汚染層の厚さは好ましくは100nm以下で、より好ましくは10nm以下であり、さらに好ましくは5nm以下である。これらの防汚染層の厚さが100nmを超えると防汚染性の初期値は優れているが、耐久性において劣るものとなる。防汚染性とその耐久性のバランスから5nm以下が最も好ましい。
【0049】
紫外線吸収層:
紫外線吸収剤は、前記透明基材中に含有させてもよいが、紫外線吸収剤を含有させた独立の層、即ち、紫外線吸収層として設けられているのが好ましい。紫外線吸収層は、バインダー樹脂として、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレンービニルアルコール系共重合樹脂、エチレンー酢酸ビニル系共重合樹脂、AS樹脂、ポリエステル系樹脂、塩酢ビ樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、PVPA、ポリスチレン系樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリスルフォン、ナイロン、セルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂等に、紫外線吸収剤を含有させたものを、塗布法により、通常、0.1〜30μm、好ましくは0.5〜10μmの膜厚の層として形成する。尚、紫外線吸収層は、フィルタとしての使用時に近赤外線吸収層よりも外界側に位置させるか、外界側に位置する層に含有させるのが、近赤外線吸収層中の近赤外線吸収剤の劣化を保護するために好ましい。
【0050】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;フェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等のサリシレート系;ヘキサデシル−2,5−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系等の有機系紫外線吸収剤や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄、硫酸バリウム等の無機系紫外線吸収剤が挙げられる。紫外線吸収層の吸収性能としては波長380nm以下における紫外線の透過率を30%以下とすることが必要であり、勿論、波長380nm以下の紫外線を100%カットしていれば尚良い。これにより紫外線による色素の劣化を抑制することが可能となり、近赤外線遮蔽能や初期色味が長時間安定なディスプレイ用フィルタを得ることができる。
【0051】
尚、前記の如き独立した紫外線吸収層は、前記紫外線吸収剤を含有させた層を設ける代わりに、市販の紫外線カットフィルタ、例えば、富士写真フィルム社製の「シャープカットフィルターSC−38」(商品名)、「同SC−39」、「同SC−40」、三菱レーヨン社製の「アクリプレン」(商品名)等を用いて積層することによって形成することもできる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。
【0053】
以下に示す実施例、比較例において、光線透過率の測定は、分光光度計((株)島津製作所製、「UV−3100PC」:商品名)を用いて行った。本実施例において、光の波長が800−1100nmの範囲で、初期の状態における最大光線透過率が10%以下、かつ耐久性試験前後の透過率の変化の差の最大値が5%以下を良好なものとした。
【0054】
〔実施例1〕
i)ニトロ置換フタロシアニン化合物の合成:
4−t−ブチルフタロニトリル10g(0.054モル)と4−ニトロフタロニトリル4.7g (0.027モル)とをエタノール100mlに溶解し、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノン−5−エン(DBN)触媒10.1gの存在下に窒素中で24時間加熱還流して沈澱生成物を得た。このときの加熱温度は100℃であった。この沈澱生成物をクロロホルム(CHCl3 )に溶解し、シリカゲルを用いて精製しニトロ置換フタロシアニン化合物(化合物A)を得た。収量は4.5g(収率30%)であった。
【0055】
得られた化合物Aの純度は99%であった。下記表1に示す元素分析の計算値と実測値はよく一致していた。また、IR(KBr錠剤法)は以下のとおりである。
IR:
1520cm-1 (νNO2
1340cm-1 (δNO2
【0056】
【表1】

【0057】
化合物Aを下記の式(3)で表されるニトロ置換フタロシアニン化合物であると決定した。
【0058】
【化2】

(式中、R12=R13=R14=t−ブチル基を表す。)
【0059】
ii) フタロシアニン化合物モノマーの合成:
前記工程i)で得た化合物A 1.0g(1.43×10-3モル)を氷浴中でTHF50mlに溶解し、トリエチルアミン存在下でアクリロイルクロライド0.3g(3.33×10-3モル)と反応させ、2時間後THFを留去し反応生成物を得た。得られた反応生成物をジクロロメタンに溶解し、活性アルミナを用いて精製した。得られた精製物をCHCl3 に溶解し、メタノールを滴下して再結晶することにより、フタロシアニン化合物モノマー(化合物M−1)を得た。収量0.8g(収率70%)。純度はほぼ100%であった。化合物MのIR(KBr錠剤法)とマススペクトルは以下のとおりである。
【0060】
IR:
1650cm-1 (νC=O)
1625cm-1 (νC=C)
800cm-1 (δC=C−H)
マススペクトル:
m/e 751(M+1)
【0061】
以上の結果から、本工程において得られた化合物M−1は、フタロシアニンのモノマーであり、次の一般式(4)で表される化合物であると決定した。
【0062】
【化3】

(式中、R12=R13=R14=t−ブチル基を表す。R5 はHを表す。)
【0063】
iii) 色素骨格含有共重合物の合成:
前記工程ii) で得られた化合物M−1の0.05Mとメタクリル酸メチルのベンゼン溶液とに2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN:略語)を2wt%となるように加え、24時間加熱還流を行った。加熱温度は60℃とした。このように重合反応を行った後、再沈殿法により精製して目的物の色素骨格含有共重合物を得た。収量0.18g (収率24%)であり、純度はほぼ100%であった。また、数平均分子量は20000〜30000であった。
【0064】
iv) ディスプレイ用フィルタの製造
バインダー樹脂として前記工程iii) で得た色素骨格含有共重合体と、アクリル系であるダイヤナールBR−80(三菱レイヨン(株)製)を重量比で1:3でメチルエチルケトン/トルエン中(溶媒配合比=1:1)に固形分比が20%(質量基準)となるよう溶解した樹脂溶液19.6g中に近赤外線吸収色素(日本化薬社製、商品名:IRG−022、アニオン部:PF6−)を0.2g添加して十分分散させて得た塗布用溶液を用い、市販のPETフィルム上に、マイヤーバーにて乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、風速5m/secのドライエアーが当たるオーブンにて130℃で1分間乾燥して近赤外線吸収層を形成し、ディスプレイ用フィルタを得た。
【0065】
得られたディスプレイ用フィルタの1080nmにおける光線透過率は4.1%であり、これを温度60℃湿度95%RHの雰囲気下に1000hr放置した結果、1080nmにおける光線透過率は5.4%と、殆ど変化はなかった。
【0066】
〔実施例2〕
近赤外線吸収色素をIRG−022からIRG−068(商品名、ジインモニウム系色素、日本化薬社製、アニオン部:(CF3 SO2 2 - )へ変更した以外は、前記実施例1と同様に実施してディスプレイ用フィルタを得た。
【0067】
得られたディスプレイ用フィルタの1080nmにおける光線透過率は4.3%であり、これを温度60℃湿度95%RHの雰囲気下に1000hr放置した結果、1080nmにおける光線透過率は4.6%と、殆ど変化はなかった。
【0068】
〔比較例1〕
色素骨格含有共重合体を用いなかった以外は、前記実施例1と同様に実施してディスプレイ用フィルタを得た。
【0069】
得られたディスプレイ用フィルタの1080nmにおける光線透過率は4.3%であり、これを温度60℃の雰囲気下に1000hr放置した結果、1080nmにおける光線透過率は10.5%と、近赤外線吸収能の低下が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のディスプレイ用フィルターにおける色素層は、色素骨格を持つバインダー樹脂成分を含むので、該色素骨格の色素とは別の種類又は同一の色素をバインダー樹脂中に添加しても、バインダー樹脂成分と層中で均一に分散し、長時間の使用下でも色素の凝集、会合等が起こらず、耐熱性、耐湿熱性で安定なものとなり、色素劣化に帰属される分光特性変化が抑制されたディスプレイ用フィルタとなる。該ディスプレイフィルタは電子ディスプレイの前面に適用するフィルタとして実用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持基材と、バインダー樹脂中に色素を含有する色素層とが積層された積層構造を有するディスプレイ用フィルタであって、前記色素層を形成するバインダー樹脂成分の少なくとも一種は、色素骨格を持つポリマーであることを特徴とするディスプレイ用フィルタ。
【請求項2】
前記色素骨格を持つポリマーが、色素骨格に(メタ)アクリレート基を導入したモノマーと、前記色素層以外の層のバインダー樹脂成分に含まれる(メタ)アクリルモノマーとの共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のディスプレイ用フィルタ。
【請求項3】
前記色素層に含有される色素が、少なくともカチオン部とアニオン部とからなるイオン性色素を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のディスプレイ用フィルタ。
【請求項4】
前記色素骨格を持つポリマーは、バインダー樹脂成分中の1モル%以上50モル%以下の含有量であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のディスプレイ用フィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のディスプレイ用フィルタであって、電磁波遮蔽機能、反射防止機能、防眩機能、防汚染機能、紫外線吸収機能のいずれか一種もしくは二種以上の機能を有する一層もしくは二層以上の層を有することを特徴とするディスプレイ用フィルタ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のディスプレイ用フィルタが、ディスプレイの観察側に配置されていることを特徴とするディスプレイ。

【公開番号】特開2007−94072(P2007−94072A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284114(P2005−284114)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】