説明

ディスプレイ装置用基板ガラス

【課題】特にディスプレイ分野において使用されるガラス基板に、高歪点ガラス基板と無アルカリガラス基板があるが、それぞれ問題点があり、広い分野に使用できるガラス基板がない。
【解決手段】実質的に重量%表示で、SiOが52〜59、Alが3〜12、NaOが2.0〜3.5、KOが0.3〜1.5、RO(ただし、RはLi、Na、K)が2.5〜4、NaO/ROが0.55〜0.88、MgOが3〜5.5、CaOが4〜8、SrOが5〜11、BaOが9〜17、R’O(ただし、R’はMg、Ca、Sr、Ba)が25〜32、ZrOが1〜4.5であるディスプレイ装置用基板ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性・耐久性に優れるガラス組成物に関する。例えばPDP(プラズマディスプレイパネル)、FED(フィールドエミッションディスプレイ)やLCD(液晶ディスプレイ)等のフラットパネルディスプレイ装置用基板ガラスとして好適なディスプレイ装置用基板ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PDP製造分野においては高歪点ガラス、LCD製造分野においては無アルカリガラスが使用されてきた。
【0003】
例えば、PDP製造分野においては、ソーダライムシリカガラスと同様なアルカリ・アルカリ土類・シリカ系ガラスが使用され、そのガラスは熱膨張係数がソーダライムシリカガラスと近似し、歪点が550℃を越え、あるいは600℃を超えるような高歪点ガラスである(特許文献1〜3参照)。これらのガラスを用いた基板は、ディスプレイパネルの製造工程において、熱膨張係数がソーダライムシリカガラスに近いため、熱収縮が大きく、パネル製造工程において熱変形が多いという問題点がある。
【0004】
一方、LCD製造分野においては、アルカリ金属酸化物を含まない無アルカリガラスが使用されている。これはLCD製造工程中の各種熱処理中にガラスから電極側へアルカリイオンが移動するのを嫌うためである。このようなガラスを用いた基板は、ディスプレイパネルの製造工程において、30〜300℃における平均線膨張係数が40×10−7/℃以下と小さく、歪点も640℃以上と高いため、熱収縮が小さい(特許文献4,5参照)。
【特許文献1】特開平10−045423号公報
【特許文献2】特開平11−240735号公報
【特許文献3】特開2000−103638号公報
【特許文献4】特開2002−029776号公報
【特許文献5】特開2002−308643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した例えば特開平10−045423号公報、特開平11−240735号公報、特開2000−103638号公報等に記載の高歪点ガラスは、ディスプレイパネルの製造工程において、熱膨張係数がソーダライムシリカガラスに近いため、熱収縮が大きく、パネル製造工程において熱変形が多いという問題点がある。
【0006】
また、特開2002−029776号公報、特開2002−308643号公報等に記載されている、所謂無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物を含まないため溶融温度が1590℃あるいはそれ以上にもなることから主にフュージョン法で生産されており、生産性が悪いという問題点がある。
【0007】
本発明のガラスは上記不具合を解消するために、熱膨張係数が高歪点ガラスよりも低く、無アルカリガラスよりも高いガラスである。PDP製造工程においてこのガラスを用いた基板は、熱膨張係数が低いために熱変形が少なく、またパネルを構成する他の部材との熱膨張の整合性も低い分には大きな問題とはならない。さらに、歪点が従来の高歪点ガラスの580℃よりも高い615℃以上を示すため、ディスプレイパネル製造工程において各種熱処理を行う際、従来のガラスよりも基板の反りや収縮が起こりにくい。
【0008】
一方、LCD製造工程においてこのガラスを用いた場合も、上と同様の理由で基板の反りや収縮が起こりにくい上、アルカリイオンが溶出しにくい特性を有するために熱処理中のアルカリイオンの移動が抑制される。また、LCD業界はコスト面からいかに大きなガラス基板を扱えるかが最も重要な課題であるが、本発明のガラスは溶融温度が従来の高歪点ガラス程度でFL法での製造に適しているため、生産性が高く、大面積化も容易である。
【0009】
以上のことから、本発明のガラスは高歪点ガラス基板と無アルカリガラス基板の問題点をそれぞれ改善でき、かつ中間的な特性を持つため、両方に使用することが出来るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、実質的に重量%表示で、SiOが52〜59、Alが3〜12、NaOが2.0〜3.5、KOが0.3〜1.5、RO(ただし、RはLi、Na、K)が2.5〜4、NaO/ROが0.55〜0.88、MgOが3〜5.5、CaOが4〜8、SrOが5〜11、BaOが9〜17、R’O(ただし、R’はMg、Ca、Sr、Ba)が25〜32、ZrOが1〜4.5であるディスプレイ装置用基板ガラスである。
【0011】
また、30〜300℃における平均線膨張係数が(60〜65)×10−7/℃であることを特徴とする上記のディスプレイ装置用基板ガラスである。
【0012】
また、歪点が615℃以上であることを特徴とする上記のディスプレイ装置用基板ガラスである。
【0013】
また、ヤング率が78〜88GPaであることを特徴とする、上記のディスプレイ装置用基板ガラスである。
【0014】
また、破壊靱性KICが0.6MPa・m1/2以上であることを特徴とする上記のディスプレイ装置用基板ガラスである。
【0015】
また、密度が3.0g/cm以下であることを特徴とする、上記のディスプレイ装置用基板ガラスである。
【0016】
また、溶融温度(粘性がlogη=2.0の時の温度(℃))が1535℃以下であることを特徴とする上記のディスプレイ装置用基板ガラスである。
【0017】
さらに、JIS R 3502規格のアルカリ溶出試験において、NaO換算したアルカリ溶出量が0.01(mg/50mL)以下であることを特徴とする、上記のディスプレイ装置用基板ガラスである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高歪点ガラス基板と無アルカリガラス基板の中間的な性質のガラス基板を得ることが出来るため、両者の問題点をそれぞれ改善でき、両方に使用することが出来るガラス基板を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明において、熱膨張係数および歪点はガラスの耐熱性を示す特性であり、熱膨張係数は65×10−7/℃を越えると、ディスプレイパネルの製造工程において熱変形が大きくなりすぎるため不適である。したがって、65×10−7/℃以下が適当である。また、歪点も低いとディスプレイパネル製造工程において熱変形が大きくなりすぎるため、615℃以上が適当である。
【0020】
また、本発明において破壊靭性KICが0.6MPa・m1/2以上であることおよび、ヤング率が78〜88GPaであることが望ましい。これらの特性はガラスの割れやすさに関係し、これらの範囲外では、ディスプレイ装置の製造工程中で割れやすい問題が出てくる。
【0021】
また、本発明において密度は3.0g/cm以下であることが望ましい。密度が3.0g・cmを越えるとディスプレイ装置の軽量化ができなくなる。
【0022】
また、本発明において溶融温度(粘性がlogη=2.0の時の温度(℃))が1535℃以下であることが望ましい。溶融温度はガラス基板の成形のしやすさに関係し、1535℃を越えると、成形しにくいか、もしくはフュージョン法等の生産性の悪い成形手段が必要となってくるからである。
【0023】
さらに、本発明において、アルカリ溶出量はガラスの耐久性を示す特性であり、多くなると製造工程内で基板の劣化が起こる。従って、0.01mg/50mL以下とする。
【0024】
また本発明の成分系において、SiOはガラスの主成分であり、重量%において52%未満ではガラスの耐熱性または化学的耐久性を悪化させる。他方、59%を超えるとガラス融液の高温粘度が高くなり、ガラス成形が困難となる。また、ガラスの線膨張係数が小さくなり過ぎて、ディスプレイパネルを構成する他の部材との整合性が悪くなる。従って52〜59%、好ましくは52〜56%の範囲とする。
【0025】
Alは、歪点を高くし、密度を低くする成分である。重量%において3%未満ではガラスの耐熱性または化学的耐久性を悪化させる。他方、12%を超えるとガラスの失透傾向が大きくなり、溶融ガラスの成形が困難になる。従って3〜12%の範囲である。
【0026】
NaOは、KOとともにガラス溶解時の融剤として作用する。重量%において2.0%未満ではガラス融液の高温粘度が高くなり、ガラス成形が困難となる。他方、3.5%を超えると熱膨張係数が大きくなる。従って2.0〜3.5%の範囲とする。
【0027】
Oは、NaOと同様の作用効果を示す。重量%において0.3%未満ではガラス融液の高温粘度が高くなり、ガラス成形が困難となる。他方、1.5%を超えると熱膨張係数が増加する。従って、0.3〜1.5%の範囲とする。
【0028】
前記アルカリ成分(NaO、KO)の量に関して、その合量を重量%において2.5〜4%にすることにより、線熱膨張係数、高温粘度および失透温度を適切な範囲に維持することができる。アルカリ成分の合量が2.5%未満ではガラス融液の高温粘度が高くなり、ガラス成形が困難となる。またガラスの失透傾向が増大する。4%を超えると熱膨張係数が増加し過ぎる。従って、2.5〜4%の範囲とするものである。
【0029】
MgOは、ガラス溶解時の溶融ガラスの粘度を下げる作用を有する。重量%において3%未満ではガラス融液の高温粘度が高くなり、ガラス成形が困難となる。他方、5.5%を超えるとガラスの失透傾向が増大し溶融ガラスの成形が困難になる。従って3〜5.5%の範囲とする。
【0030】
CaOは、ガラス溶解時の溶融ガラスの粘度を下げる作用を有すると共に、ガラスの熱膨張係数を上昇させる作用を有する。重量%において4%未満ではガラスの熱膨張係数が低くなりすぎる。他方、8%を超えると失透傾向が大きくなり、溶融ガラスの成形が困難になる。従って4〜8%の範囲とする。
【0031】
SrOは、必須成分ではないが、CaOとの共存下でガラス融液の高温粘度を下げて失透の発生を抑制する作用を有する。重量%において5%未満ではガラス融液の高温粘度が高くなり、ガラス成形が困難となる。他方、11%を超えると密度が高くなり過ぎるので、5〜11%以下の範囲が望ましい。
【0032】
BaOは、必須成分ではないが、ガラス融液の失透傾向を抑制する作用を有すると共にヤング率を下げる効果がある。重量%において9%未満ではガラスの失透傾向が大きくなり、溶融ガラスの成形が困難になる。17%を超えると密度が上昇するので、9〜17%以下の範囲が望ましい。
【0033】
さらに、上記組成範囲内において、二価の金属酸化物RO(Rは、Mg、Ca、Sr、Ba)の合計量を重量%において25〜32%の範囲とすることによって、ガラスの溶融性を良好な範囲に維持しつつ、粘度―温度勾配を適度としてガラスの成形性を良好とし、耐熱性、化学的耐久性等に優れ、適切な範囲の熱膨張係数を有するガラスを得ることができる。ROの合計が25%未満では、高温粘度が上昇してガラスの溶融と成形が困難となる。また、歪点が下がり過ぎる上に、熱膨張係数が低下する。一方、32%を超えると、特に密度が上昇するとともに失透傾向が増大し、化学的耐久性が低下する。より好ましい範囲は、27〜31%である。
【0034】
ZrOは、ガラスの歪点を上昇させ、またガラスの化学的耐久性を向上させる効果を有する。重量%において1%未満ではガラスの歪点が所望の範囲を維持できなくなる。4.5%を超えると密度が上昇し、いずれも所望の値が維持できなくなる。従って1〜4.5%、好ましくは1〜4.5%の範囲とする。
【0035】
本発明の好ましい態様のガラスは実質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を合量で重量%において1%まで含有してもよい。たとえば、ガラスの溶解、清澄、成形性の改善のためにSO、Cl、F、As等を合量で1%まで含有してもよい。また、ガラスを着色するためにFe、CoO、NiO等を合量で1%まで含有してもよい。さらに、PDPにおける電子線ブラウニング防止等のためにTiOおよびCeOをそれぞれ1%まで、合量で1%まで含有してもよい。
【実施例1】
【0036】
以下、実施例により説明する。
【0037】
珪砂、酸化アルミニウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムおよび珪酸ジルコニウムよりなる調合原料を白金ルツボに充填し、電気炉内で1500〜1600℃、約6時間加熱溶融した。加熱溶融の途中で白金棒によりガラス融液を攪拌してガラスを均質化させた。
【0038】
次に、溶融ガラスを鋳型に流し込み、ガラスブロックとし、550〜650℃に保持した電気炉に移入して該炉内で徐冷した。得られたガラス試料は泡や脈理の無い均質なものであった。
【0039】
原料調合に基づくガラスの組成(酸化物換算)を表1に示す。これらのガラスについて、30〜300℃の平均線膨張係数(10−7/℃)、溶融温度・作業温度(℃)、歪点(℃)、密度(g/cm)、ヤング率(GPa)、破壊靱性KIC(MPa・m1/2)およびアルカリ溶出量(mg)を以下の方法により測定した。
【0040】
膨張係数は、熱機械分析装置TMA8310(理学電機(株)製)を用いて30〜300℃における平均線膨張係数を測定した。溶融温度・作業温度は球引き上げ粘度計(オプト企業製)を用いて球引き上げ法によりlogη=2.0、4.0の温度をそれぞれ溶融温度・作業温度として測定した。歪点は、JIS R3103−2の規定に基づくビーム曲げ法により測定した。密度は、泡の無いガラス(約50g)を用いてアルキメデス法により測定した。ヤング率は、シングアラウンド式音波測定装置UVM―2(超音波工業(株)製)を用いて測定した。破壊靱性は、微小硬さ試験機HM((株)アカシ製)を用いて、JIS R 1607に記載のファインセラミックスの破壊靱性試験方法(圧子圧入法)により算出した。アルカリ溶出量はJIS R 3502に記載のアルカリ溶出試験法により測定した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
(結果)
表1中の実施例1〜6、表2中の実施例7〜11は本発明におけるガラスであり、表3中の比較例1はソーダライムシリカガラスである。比較例2、3は従来の高歪点ガラスであり、比較例4は従来の無アルカリガラスである。
【0045】
比較例1のソーダライムシリカガラスおよび比較例2、3の高歪点ガラスにおいては、密度、ヤング率および破壊靭性が適切の値であるものの、熱膨張係数がいずれも65×10−7/℃以上であり、アルカリ溶出量が0.01mgよりも多い。また、比較例4の無アルカリガラスにおいては、密度、歪点が適切の値であるものの、熱膨張係数が60×10−7/℃以下であり、溶融温度が1590℃以上である。
【0046】
これらに対して実施例1〜11のガラスは、熱膨張係数が60〜65×10−7/℃の範囲内である上に、密度、歪点、溶融温度、破壊靭性値、ヤング率とアルカリ溶出量が所望の値である。従って、本願発明のガラスは、従来の高歪点ガラスと同等の密度、歪点、破壊靭性値およびヤング率を有する上に、熱膨張係数が高歪点ガラスよりも低いことから、従来の高歪点ガラスに較べて、ディスプレイパネル製造工程における熱処理工程でのガラス基板の熱変形が少なく、また熱応力の発生が小さいことは明白である。
【0047】
また、従来の無アルカリガラスに比べて、ディスプレイパネル製造工程における熱処理工程でのガラス基板の熱変形は同等程度である上、アルカリイオンが溶出しにくく、FL法で製造できるため、生産性が向上し、かつ大面積化が容易であることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、PDPやLCD等の従来のディスプレイパネル用途だけでなく、熱処理工程の必要な電子材料分野全体に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に重量%表示で、SiOが52〜59、Alが3〜12、NaOが2.0〜3.5、KOが0.3〜1.5、RO(ただし、RはLi、Na、K)が2.5〜4、NaO/ROが0.55〜0.88、MgOが3〜5.5、CaOが4〜8、SrOが5〜11、BaOが9〜17、R’O(ただし、R’はMg、Ca、Sr、Ba)が25〜32、ZrOが1〜4.5であるディスプレイ装置用基板ガラス。
【請求項2】
30〜300℃における平均線膨張係数が(60〜65)×10−7/℃であることを特徴とする請求項1に記載のディスプレイ装置用基板ガラス。
【請求項3】
歪点が615℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のディスプレイ装置用基板ガラス。
【請求項4】
ヤング率が78〜88GPaであることを特徴とする請求項1乃至3に記載のディスプレイ装置用基板ガラス。
【請求項5】
破壊靱性KICが0.6MPa・m1/2以上であることを特徴とする請求項1乃至4に記載のディスプレイ装置用基板ガラス。
【請求項6】
密度が3.0g/cm以下であることを特徴とする請求項1乃至5に記載のディスプレイ装置用基板ガラス。
【請求項7】
溶融温度(粘性がlogη=2.0の時の温度(℃))が1535℃以下であることを特徴とする請求項1乃至6に記載のディスプレイ装置用基板ガラス。
【請求項8】
JIS R 3502規格のアルカリ溶出試験において、NaO換算したアルカリ溶出量が0.01(mg/50mL)以下であることを特徴とする請求項1乃至7に記載のディスプレイ装置用基板ガラス。


【公開番号】特開2007−210839(P2007−210839A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32810(P2006−32810)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】