説明

ディップ成形用組成物およびディップ成形品

【課題】機械的安定性が高いディップ成形用組成物、かつ、風合い、引張り強度、伸びに優れるディップ成形品の提供。
【解決手段】1,3−ブタジエン50〜80重量%、アクリロニトリル15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0〜10重量%およびこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体0〜35重量%からなる単量体を乳化重合し、pH調整剤として水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとアンモニアを併用して得られる共重合体ラテックスと、該共重合体ラテックス100重量部(固形分換算)に対して0.7〜5重量部の酸化亜鉛を含み、含硫黄加硫剤および加硫促進剤を実質的に含まないディップ成形用組成物、該ディップ成形用組成物をディップしてなるディップ成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディップ成形用組成物およびディップ成形品に関するものである。更に詳しくは、機械的安定性が高いディップ成形用組成物および風合い、引張り強度、伸び等の物性に優れる低アレルギー性ディップ成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム手袋は、安全衛生に対する関心の高まりから医療(院内感染、SARS感染予防など)、食品加工分野(O−157問題)および電子部品製造分野など各方面において広く使用されている。これらゴム手袋の製造方法の1つとしてディップ成形法が挙げられる。ディップ成形法としては、木材、ガラス、陶磁、金属又はプラスチックなどから作られた型を予め凝固剤液に浸漬した後、天然ゴムラテックス組成物や合成ゴムラテックス組成物に浸漬するアノード凝着浸漬法や、型をラテックス組成物に浸漬した後、凝固液に浸漬するティーグ凝着浸漬法などが知られており、これらのディップ成形法により得られる成形物がディップ成形品である。
ディップ成形用ラテックスの代表的なものとして天然ゴムラテックスあるいはアクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBRゴム)などの合成ゴムラテックスが知られている。最近、前者の天然ゴムラテックスは、含有する微量蛋白質が原因で使用者によってはアレルギー反応を引き起こす場合があり、後者の蛋白質を含まない合成ゴムラテックス(NBRゴム−共重合体ラテックス)が注目され、使用量も多くなってきている。このようなディップ成形品には強度特性を向上させるために、硫黄や加硫促進剤を用いるのが一般的である。しかし近年では、手袋などのディップ成形品に含まれる加硫促進剤に対する遅延型アレルギーに基づく接触皮膚炎の発症も増加傾向にあり、加硫促進剤を使用しないディップ成形品の開発が求められている。
また、使用量の増加に伴いディップ成形用共重合体ラテックスには高生産性、高品質化が推し進められている。高生産性に関しては、ディップ成形用組成物の使用時に、凝集物を作らない良好な機械的安定性が要求されている。また高品質化については、このディップ成形用組成物より得られたディップ成形品の風合い、引張り強度、伸び等の高いレベルでの物性が求められている。
このため、例えば共重合体ラテックスの分子量とゲル含有量を規定する方法(特開平5−247266号:特許文献1、特開平6−182788号:特許文献2)、また特開2003−165814号(特許文献3)には、共重合体の組成を調整することによりガラス転移温度の異なる2種の共重合体からなるラテックスを使用することが提案されている。しかし、風合いと他の特性は互いに相反する傾向にあり、すべての特性バランスを同時に満足することは非常に困難であった。例えば、風合いを向上させる目的でガラス転移温度の低いブタジエン等の共役ジエン化合物の使用量を多くした場合は、風合いの向上は見られるが耐油性、耐薬品性に乏しいものとなる。
また特開2003−165814号(特許文献3)には、含硫黄加硫剤、加硫促進剤さらには酸化亜鉛の何れも実質的に含まないこと特徴とするディップ成形用組成物が提案されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、強度の点で十分満足する物性が得られないという問題がある。
【特許文献1】特開平5−247266号
【特許文献2】特開平6−182788号
【特許文献3】特開2003−165814号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、機械的安定性が高いディップ成形用組成物、かつ風合い、引張り強度、伸び等の物性に優れる低アレルギー性ディップ成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前述の諸事情に鑑み鋭意検討した結果、特定範囲の組成、pH調整剤として水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとアンモニアを併用した共重合体ラテックスと特定量の酸化亜鉛をディップ成形用組成物に用いることによって、含硫黄加硫剤および加硫促進剤を使用せずとも、機械的安定性が高いディップ成形用組成物、かつ、風合い、引張り強度、伸び等の物性に優れる低アレルギー性ディップ成形品、が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、1,3−ブタジエン50〜80重量%、アクリロニトリル15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0〜10重量%およびこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体0〜35重量%からなる単量体を乳化重合し、pH調整剤として水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとアンモニアを併用して得られる共重合体ラテックスと、該共重合体ラテックス100重量部(固形分換算)に対して0.7〜5重量部の酸化亜鉛を含み、含硫黄加硫剤および加硫促進剤を実質的に含まないことを特徴とするディップ成形用組成物およびこのディップ成形用組成物をディップしてなるディップ成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、機械的安定性が高いディップ成形用組成物、かつ、風合い、引張り強度、伸び等の物性に優れる低アレルギー性ディップ成形品を得ることができるものであり、医療、食品加工分野および電子部品製造分野など各方面において広く使用されるゴム手袋等を得ることができ、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明における共重合体ラテックスの単量体組成は、1,3−ブタジエン50〜80重量%、アクリロニトリル15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0〜10重量%およびこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体0〜35重量%により構成される。
【0008】
1,3−ブタジエンは全単量体中、50〜80重量%の範囲で使用されることが必要である。1,3−ブタジエンが50重量%未満では乾燥後のラテックスポリマーがNBRゴムとしての性質を呈さず、好ましくない。1,3−ブタジエンが80重量%を越えると耐油性が低下する。好ましくは55〜75重量%である。
【0009】
アクリロニトリルは全単量体中、15〜50重量%の範囲で使用されることが必要である。アクリロニトリルが15重量%未満では耐油性が低下し、50重量%を越えると乾燥後のラテックスポリマーがNBRゴムとしての性質を呈さず、好ましくない。好ましくは20〜45重量%である。
【0010】
本発明にて使用されるエチレン性不飽和カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマール酸、イタコン酸、マレイン酸などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にメタクリル酸が好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸系単量体は全単量体中、0〜10重量%の範囲で使用されることが必要である。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が10重量%を越えると共重合体ラテックスの粘度が高くなりすぎ、全ての用途で取り扱い上の問題を発生する可能性が高い。
【0011】
本発明に使用される共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などの脂肪族共役ジエン化合物、例えば、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどシアン化ビニル化合物、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジルなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物、例えば、アクリルアミド、メタクリロアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのエチレン系不飽和カルボン酸アミド化合物、例えば、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、例えば、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジン、などのエチレン系不飽和アミン化合物などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
【0012】
本発明においては、上記共重合体ラテックスのpH調整剤として、水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとアンモニアを併用することが必要である。本発明においては、水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムの使用により、共重合体ラテックスおよびディップ成形用組成物に機械的安定性が付与され、またアンモニアの使用により、風合い、引張り強度、伸び等の物性に優れるディップ成形品を得ることができるものと考えられる。これらのpH調整剤の添加方法、添加順序については特に制限はなく、共重合体ラテックスの重合後、水蒸気蒸留後、さらにはディップ成形用組成物の調整時等、何れにおいて添加してもよいが、添加時の凝集物発生を避けるため、0.1〜40重量%の濃度の水溶液として添加することが好ましい。
【0013】
また、本発明では、pH調整剤として水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとアンモニアを併用することを規定しているが、本発明の目的を阻害しない範囲内にて、これらに併せてさらに異なる種類の塩基性物質を使用することも可能である。
【0014】
本発明における共重合体ラテックスのゲル含有量については特に制限はないが、風合い、引張り強度、伸びの物性バランスといった観点から、好ましいゲル含有量は80重量%以下である。さらに好ましくは20〜80重量%である。
【0015】
また、共重合体ラテックスの粒子径については特に制限はないが、好ましい共重合体ラテックスの粒子径は0.2μm以下である。さらに好ましくは、0.18μm以下であり、最も好ましい共重合体ラテックスの粒子径は、0.05〜0.15μmである。
【0016】
本発明の共重合体ラテックスを乳化重合するに際しては、常用の乳化剤、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤、酸化還元触媒、炭化水素系溶剤、電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
【0017】
本発明の共重合体ラテックスの製造に使用できる乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤あるいはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。特に、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩が好ましい。
【0018】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムの水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイドの油溶性重合開始剤の使用が好ましい。
【0019】
本発明において好ましく用いられる還元剤の具体例としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類、更にはデキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。特にL−アスコルビン酸が好ましい。
【0020】
本発明の共重合体ラテックスの製造に使用できる連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、ターピノレンや、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に、n−オクチルメルカプタンやt−ドデシルメルカプタンが好ましい。これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、単量体100重量部に対して0〜5重量部にて使用される。
【0021】
また、本発明においては連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマーも使用することが可能である。α−メチルスチレンダイマーには、異性体として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテンおよび1,1,3−トリメチル−3−フェニルインダンがあるが、本発明に使用されるα−メチルスチレンダイマーとしては、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの含有量が60重量%以上、特に80重量%以上であることが好ましい。なお、α−メチルスチレンダイマーは沸点が高く、共重合体ラテックスの製造後もラテックス粒子中に残留するため、本発明の目的とは別の環境問題から、その使用量は単量体100重量部に対して2重量部未満とすることが好ましい。
【0022】
また、重合に際してペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素を使用しても良い。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンが、本発明の目的とは異なるものの、環境問題の観点から好適である。
【0023】
さらに、共重合体ラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤などを適宜添加することができる。
【0024】
本発明における重合方法は、一段重合、二段重合、多段階重合、シード重合、パワーフィード重合法等何れを採用してもよい。また、本発明の重合方法における各種成分の添加方法についても特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法の何れも採用することができる。
【0025】
本発明における共重合体ラテックスは、ディップ成形用共重合体ラテックスとして使用される。ディップ成形品を得るためには、例えば直接浸漬法、アノード凝着浸漬法、ティーグ浸漬法など従来公知のディップ成形法がいずれも適応される。
【0026】
以下、アノード凝着浸漬法について簡単に説明する。まず、型を凝固液に浸漬し、引き上げて乾燥することにより型表面に凝固剤が付着した状態にする。凝固液は、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどのカルシウム塩を水、またはアルコール、ケトンなどの親水性有機溶媒に溶解させたものである。凝固液中のカルシウム濃度は、通常5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%である。凝固液には必要に応じてノニオン、アニオン界面活性剤などの界面活性剤、炭酸カルシウム、タルク、シリカゲルなどの充填剤を配合してもよい。ついで凝固剤が付着した型をディップ成形用共重合体ラテックス組成物中に浸漬し、引き上げる。この時、凝固剤と共重合ラテックスが反応して型上にゴム状皮膜が形成される。得られた皮膜を水洗、乾燥した後、型から剥離すればディップ成形品となる。
【0027】
本発明のディップ成形用組成物には、該共重合体ラテックス100重量部(固形分換算)に対して0.7〜5重量部の酸化亜鉛を含み、含硫黄加硫剤および加硫促進剤を実質的に含まないことが必要である。
【0028】
該酸化亜鉛については0.7〜5重量部の範囲で使用することが必要である。酸化亜鉛の添加量が0.7重量部未満では十分なディップ成形品のフィルム強度が得られず、5重量部を超えるとディップ成形品の風合いが硬くなりすぎてしまう。好ましくは0.7〜3重量部である。
【0029】
なお、含硫黄加硫剤および加硫促進剤については実質的に含まないことが必要である。これらの物質については、ディップ成形用組成物中に全く含まれないことが特に好ましいが、具体的には、いずれの物質についても、共重合体ラテックス100重量部(固形分換算)に対して0.2重量部以下の使用が好ましい。
【0030】
また、本発明のディップ成形用組成物には、必要に応じて、天然ゴムラテックス、イソプレンゴムラテックスなどのゴムラテックス、上記した水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水などのpH調整剤に加えて、二酸化チタン、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、炭酸マグネシウムなどの充填剤、スチレン化フェノール、イミダゾール類、パラフェニレンジアミンなどの老化防止剤、ファーストイエロー、フタロシアンブルー、群青などの着色剤など適宜配合してもよい。
【0031】
〔実施例〕
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0032】
共重合体ラテックスの粒子径測定
数平均粒子径を動的光散乱法により測定した。測定に際しては、大塚電子製LPA−3000/3100を使用した。
【0033】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
室温雰囲気下にて24時間乾燥させ、共重合体ラテックスのフィルムを作成する。そのフィルムを約1g秤量し、これを400ccのメチルエチルケトンに入れ48時間膨張溶解させる。その後、これを300メッシュの金網で濾過し、金網に捕捉されたメチルエチルケトン不溶部を乾燥後秤量し、この重量のはじめのフィルム重量に占める割合をゲル含有量として重量%で算出した。
【0034】
ディップ成形用組成物の機械的安定性の測定
共重合体ラテックス中の機械的安定性の評価を以下の方法で行った。熊谷理機工業株式会社製マロン式機械的安定性試験機を用いて、予め300メッシュで濾過したディップ成形用組成物50g(固形分濃度33%)にローター回転数1000rpm、ローター荷重30kg、回転時間15分間の条件で機械的せん断を与えた後、試料を300メッシュで濾過した。捕捉された凝固物を乾燥した後、元の固形分量に対する凝固物の割合を重量%で求めた。結果を表2に示した。
○:発生凝固物の割合が0.01重量%以下
△:発生凝固物の割合が0.01重量%を超えて、0.05%以下
×:発生凝固物の割合が0.05重量%を超える
【0035】
ディップ成形品の各物性については、下記のとおり評価を行い、結果を表2に示した。
ディップ成形品の風合い評価
風合いの評価は、手袋形状のディップ成形品を引張り速度500mm/minにて引張り300%伸びに到達した時の引張応力を測定した。この数値が小さいほど風合いは良好であることを示す。
ディップ成形品の引張り強度評価
引張り強度評価は、手袋形状のディップ成形品を引張り速度500mm/minにて引張り、破断直前の引張り強度を測定した。
ディップ成形品の伸び評価
伸び評価は、手袋形状のディップ成形品を引張り速度500mm/minにて引張り、破断直前の伸びを測定した。
【0036】
共重合体ラテックスAの作製
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で純水155部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.7部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.7部、表1に示す各単量体、およびt−ドデシルメルカプタン0.65部、L−アスコルビン酸1.1部を加えて十分攪拌した後、クメンハイドロパーオキサイド0.6部を仕込み、30℃で重合を開始した。重合開始から18時間後に、重合停止剤としてジエチルヒドロキシルアミン0.05部を添加して重合を終了した。次いで、共重合体ラテックスを水酸化カリウム水溶液でpHを7.5に調整した後、90℃にて水蒸気蒸留を9時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去した。さらに、濃度10%のアンモニア水(以下、単にアンモニア水と記す)でpHを8.3に調整して、表1に示す粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックスAを得た。
【0037】
共重合体ラテックスBの作製
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で純水140部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.3部、表1に示す各単量体、およびt−ドデシルメルカプタン0.4部、シクロヘキセン2.0部、L−アスコルビン酸1.0部を加えて十分攪拌した後、過硫酸カリウム0.5部、クメンハイドロパーオキサイド0.4部を仕込み、35℃で重合を開始した。重合開始から18時間後に、重合停止剤としてジエチルヒドロキシルアミン0.05部を添加して重合を終了した。次いで、共重合体ラテックスをアンモニア水でpHを8.5に調整した後、90℃にて水蒸気蒸留を11時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去した。さらに、水酸化カリウム水溶液でpHを8.5に調整して、表1に示す粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックスBを得た。
【0038】
共重合体ラテックスCの作製
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で純水150部、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1.0部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.2部、表1に示す各単量体、およびα−メチルスチレンダイマー0.2部、t−ドデシルメルカプタン0.75部、L−アスコルビン酸0.7部を加えて十分攪拌した後、過硫酸カリウム0.3部、クメンハイドロパーオキサイド0.7部を仕込み、50℃で重合を開始した。重合開始から13時間後に、重合停止剤としてジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合を終了した。次いで、共重合体ラテックスを水酸化カリウム水溶液でpHを8.3に調整した後、85℃にて水蒸気蒸留を8時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去した。さらに、水酸化カリウム水溶液でpHを8.5に、さらにアンモニア水でpHを8.8に調整して、表1に示す粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックスCを得た。
【0039】
共重合体ラテックスDの作製
共重合体ラテックスAと同様の重合を行い、次いで、共重合体ラテックスを水酸化ナトリウム水溶液でpHを8.1に調整した後、90℃にて水蒸気蒸留を9時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去した。さらにアンモニア水でpHを8.5に調整して、表1に示す粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックスDを得た。
【0040】
共重合体ラテックスEの作製
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で純水160部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.8部、表1に示す各単量体、およびt−ドデシルメルカプタン0.25部、L−アスコルビン酸1.5部を加えて十分攪拌した後、クメンハイドロパーオキサイド0.8部を仕込み、35℃で重合を開始した。重合開始から16時間後に、重合停止剤としてジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合を終了した。次いで、共重合体ラテックスを水酸化カリウム水溶液でpHを7.8に調整した後、85℃にて水蒸気蒸留を11時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去した。さらに、アンモニア水でpHを8.6に調整して、表1に示す粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックスEを得た。
【0041】
共重合体ラテックスFの作製
共重合体ラテックスAと同様の重合を行い、次いで、共重合体ラテックスを水酸化カリウム水溶液でpHを8.5に調整した後、90℃にて水蒸気蒸留を9時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去した。pH8.5、表1に示す粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックスFを得た。
【0042】
共重合体ラテックスGの作製
共重合体ラテックスAと同様の重合を行い、次いで、共重合体ラテックスをアンモニア水でpHを9.1に調整した後、90℃にて水蒸気蒸留を9時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去した。さらに、アンモニア水でpHを8.2に調整して、表1に示す粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックスGを得た。
【0043】
実施例1
ディップ成形用組成物の作成
100重量部(固形分換算)の共重合体ラテックスAに3%水酸化カリウム水溶液0.7部、それぞれボールミルで分散液とした酸化亜鉛1.5部、二酸化チタン1.2部を添加した後、脱イオン水を加えて、固形分濃度33%のディップ成形用組成物とした。ディップ成形用組成物の機械的安定性の測定結果を表2に記した。
ディップ成形品の製造
別に凝固液として濃度15%の硝酸カルシウム水溶液を調製し、80℃で予備乾燥しておいた手袋用モールドを2秒間浸漬し、引き上げた後、水平にして回転下に乾燥(80℃×2分)させた。引き続き、上記ディップ成形用組成物に手袋用モールドを2秒間浸漬し、引き上げた後、水平にして回転下で乾燥(80℃×2分)させた。次にその手袋用モールドを40℃の温水に3分間浸漬して、洗浄した後、120℃で20分間加熱処理して手袋用モールドの表面に固形皮膜物を得た。最後にこの固形皮膜物を手袋用モールドから剥がし、手袋形状のディップ成形品を得た。ディップ成形品の風合い、引張り強度および伸びの測定結果を表2に記した。
【0044】
実施例2〜5、比較例1〜5
共重合体ラテックスの種類、および水酸化カリウム(実施例5、および比較例3のみ水酸化カリウムの代わりに濃度10%のアンモニア水を用いた)、酸化亜鉛の添加量をそれぞれ表2に記載したものへ変更したこと以外は実施例1と同様の手法でディップ成形用組成物を調整し、同様にディップ成形品を得た。ディップ成形用組成物の機械的安定性の測定結果ならびにディップ成形品の風合い、引張り強度および伸びの測定結果を表2に記した。
【0045】
なお、各共重合体ラテックスの組成、粒子径およびゲル含有量を表1に、また各ディップ成形用組成物の配合処方、物性、および各ディップ成形品の物性について表2にまとめて記した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0048】
上記の通り、本発明のディップ成形用組成物を用いることにより機械的安定性が高く、凝集物の少ないディップ成形用組成物が得られ、また本発明のディップ成形用組成物を用いることにより、風合い、引張り強度、伸びに優れるディップ成形品を得ることができる。医療、食品加工分野および電子部品製造分野など各方面において広く使用されるゴム手袋等を得ることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ブタジエン50〜80重量%、アクリロニトリル15〜50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0〜10重量%およびこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体0〜35重量%からなる単量体を乳化重合し、pH調整剤として水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとアンモニアを併用して得られる共重合体ラテックスと、該共重合体ラテックス100重量部(固形分換算)に対して0.7〜5重量部の酸化亜鉛を含み、含硫黄加硫剤および加硫促進剤を実質的に含まないことを特徴とするディップ成形用組成物。
【請求項2】
請求項1のディップ成形用組成物をディップ成形してなるディップ成形品。

【公開番号】特開2007−153948(P2007−153948A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347725(P2005−347725)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】