説明

ディーゼルシリンダ用潤滑油組成物

【課題】腐食摩耗に対する防護の向上を示す2ストロークディーゼルシリンダ用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】下記の成分の混合物を含むディーゼルシリンダ用潤滑油組成物:(a)主要量の潤滑粘度の油、(b)一種以上の金属含有清浄剤、(c)一種以上の消泡剤、および(d)腐食摩耗防止量の一種以上の油溶性界面活性物質、ただし、潤滑油組成物のTBNは約5乃至約100である。そして好ましくは、油溶性界面活性物質のうちの一種類が、低TBNスルホネート界面活性剤、非過塩基性スルホネート界面活性剤または非過塩基性線状アルキルフェノール界面活性剤のいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2ストロークディーゼルエンジンに使用するのに適した潤滑油組成物に関するものである。特には、本発明は、ディーゼルシリンダ用潤滑油組成物に関する。更に特には、本発明の潤滑油組成物は、従来の硫黄レベルにある燃料またはそれより低い硫黄レベルにある燃料を燃焼させる、ディーゼルエンジンの作動シリンダを潤滑に作動させるのに使用することができる。本発明のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物の各々は特に、作動シリンダの腐食摩耗を抑制する能力の改善をもたらす一種以上の界面活性物質を含有している。また、本発明の腐食摩耗抑制界面活性物質は、全塩基価(「TBN」)が70又はそれ以上の従来のディーゼルシリンダ用潤滑油(「高TBN油」)と混合性がある。これらの界面活性物質はTBNの低いディーゼルシリンダ用潤滑油とも混合性があり、そして該潤滑油は、硫黄を従来より低レベルで含む燃料で駆動するエンジンを潤滑にするのに好ましく使用できるものである。さらに、本発明は、腐食摩耗に対する防護を向上させながら、同時に余分な堆積物の堆積を防いで2ストロークディーゼルエンジンのシリンダを潤滑にする方法に関する。また、本発明は、そのようなディーゼルシリンダ用潤滑油組成物の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
それほど遠くない過去において、急速に高騰するエネルギー費、特に原油や鉱油の蒸留の際に負うエネルギー費が、船舶の所有者や運転者のような輸送燃料の使用者にとって負担になった。それに応じて、それら使用者は、蒸気タービン推進装置から離れて、より燃料効率の良い船用大型ディーゼルエンジンを選んで運転をするようになってきた。ディーゼルエンジンは一般に、低速、中速又は高速エンジンに分類することができ、低速種は、最大の深軸艦船や他の一定の工業用途に使用されている。低速ディーゼルエンジンは大きさと運転方法とが独特である。エンジン自体が大きくて重く、大きなものでは重さが200トン近くあり、長さが10フィートを越え、そして高さが45フィートを越える。これらエンジンの出力は50000ブレーキ馬力位高くまで達することができ、エンジン回転数は毎分100回転より多い。それらは一般に、クロスヘッド設計であって2サイクルで作動する。一方、中速ディーゼルエンジンは一般に、約250乃至約1100rpmの範囲で作動し、4サイクルまたは2サイクルのいずれかで作動できる。これらエンジンはトランクピストン設計であっても、場合によってはクロスヘッド設計であってもよい。それらは一般に、丁度低速ディーゼルエンジンと同じように残さ油で作動するが、一部は、残さを含まないか、あるいは含んでも僅かである留出燃料油でも作動できる。これらエンジンは、深海船の推進用途、補助用途またはその両方に使用することができる。低速及び中速ディーゼルエンジンは、動力装置の運転にも広く使用されている。本発明の潤滑油組成物および方法はそれらの運転にも適用できる。
【0003】
2サイクルで作動する低速又は中速ディーゼルエンジンは一般に、クロスヘッド構造の直結自己逆転エンジンであり、ダイアフラムと、燃焼生成物がクランクケースに入ってクランクケース油と混ざるのを防ぐための、作動シリンダをクランクケースから隔てる一個以上のパッキンケースとを備えている。クランクケースと燃焼域との注目に値する完全な隔離によって、当該分野の熟練者は燃焼室とクランクケースとを別々の潤滑油で潤滑にするようになった。本発明の腐食摩耗抑制界面活性物質および潤滑油組成物は、これらディーゼルエンジンの作動シリンダを潤滑にするのに有利に適用できるが、粘度などの低温特性を若干変更すれば、これら添加剤または組成物がクランクケースも同様に潤滑にするのに適さないと考える理由は無い。
【0004】
従来より、ディーゼルエンジンに使用される燃料は硫黄分が多く、少なくとも3.5%、通常は少なくとも4.5%である。ディーゼル燃料の高い硫黄レベルが、大量の硫黄酸化物(SOx)の発生および排ガスへの放出を招いている。大気を汚染することとは別に、硫黄酸化物は排ガス中に同時に存在する湿分と反応して硫酸となり、そしてエンジンを腐食する。酸性腐食を無くそうとして、当該分野の熟練者は、硫酸を中和できる種々の過塩基性金属清浄剤を含むようにディーゼルシリンダ用潤滑油組成物を配合している。例えば、従来の船用ディーゼルシリンダ用潤滑油組成物は一般に、全塩基価(「TBN」)が(ASTM D2896を使用して測定して)少なくとも70である。それら従来のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物を、本明細書では「高TBN油」と呼ぶことにする。
【0005】
近年になって、世界の様々な国や地域では法令に、船用燃料中の硫黄の量を低減する処置を包含させることによって、船および他の工業用途のディーゼルエンジンによる汚染を低減しようとした。例えば、国際海事機関のMARPOL(海洋汚染防止条約)付属書VIの「船舶の大気汚染防止規制」は、硫黄酸化物に対する制限を含むより厳格な汚染規制を課している。一部の地理学上の地域では、「SOx排出規制地域」又は「SECAs」ともしばしば称されているが、燃料の硫黄の制限がとりわけ厳重である。それらの地域としては例えばバルト海および北海が挙げられる。一部の規制は既に実施されているが、一方その他は公表されてはいるものの実施を待っている状態である。例えば、2005年5月には地球全体でディーゼル燃料の硫黄を最高4.5%までとしている。2006年5月にはバルト海で硫黄最高1.5%までとした。2007年8月には北海で硫黄最高1.5%までとすることになる。
【0006】
これらの規制の段階的な実施の結果、ディーゼル燃料の硫黄レベルは今のところ、国および/または地域によって異なっている。従って、航洋船は世界のある領域では、硫黄レベルが1.5%より低いディーゼル燃料を使用するように要求されることがあるが、別の地域を航海するときは、硫黄レベルが4.5%位高いディーゼル燃料を使用するように要求されることもある。ある種のディーゼルシリンダ用潤滑油は、ディーゼル燃料の硫黄レベルが1.5%より低いSECAs用に特別に配合されている。これらの潤滑油は一般にTBNが40又はそれ以下であることから、「低TBN油」と呼ばれている。SECAsにおける据え付けディーゼルエンジンの運転者も、またそのような地域でのみ又は主として運転する船舶所有者も、従来の高TBN油(すなわち、TBNが70又はそれ以上の潤滑油)を使用し続けたいとの考えを持っているが、未反応の中和添加剤に高い熱的負荷が掛かることによりシリンダに過剰な硬い堆積物が生成するのを避けるためには、そのような油は緩やかな供給速度で利用しなければならない。この方法は理論的には実行可能であるが、実際にはしばしば途方もなくやっかいな方法である。なぜならば、ディーゼルエンジンの運転者はシリンダを絶えず監視して、見つけた堆積物や摩耗のレベルに応じて供給速度を調整することが要求されるからである。高TBN油を低硫黄環境で使用する場合に、過剰な硬い堆積物だけでなく管理腐食の減少も防ぐためには、この供給速度の低減及び連続調整が必要である。さもないと、過剰な硬い堆積物が主としてクラウンランドに形成され、油膜に影響を及ぼしてかじり(スカッフィング)を招き、最終的にリングやリング溝の背後に堆積物をもたらすことになる。高TBN油を低硫黄環境でその通常の供給速度で利用すると、ライナ表面があまりに滑らかで潤滑油を保持できなくなるほど大いに腐食が減少する。この腐食の過度の減少は「管理下にある腐食の不足」としても知られていて、そしてライナ表面の摩耗や継続的な鏡面摩耗を招くことになる。長期にわたって管理下にある腐食が発生しないと、金属同士の直接接触の結果としてかじりが避けられない。よって、SECAsでのみ又は主として運転する慎重なディーゼルエンジン使用者は一般に、潤滑の必要から、変化するエンジン状態に応じて高TBN油の供給速度を絶えず調整するという扱い難い仕事に着手するよりもむしろ、低TBN油に完全に切り換えている。
【0007】
だが、世界中の大多数の深海船隊に相当するものは、SECAsでは時折でしか運転されない船である。これらの船は一般に、一度に数ケ月でないとしても数週間海で運行及び/又は運転され、よって使用済み油を補充または交換するために潤滑剤を搭載していなければならず、それにより船のエンジンを有効に潤滑にして苛酷な運転条件の危険から保護している。そのような船の所有者または運転者にとって、高TBN油のみを搭載して、それを非SECAsでは全供給速度で使用し、SECAsでは低減供給速度で使用することは可能であるが、一方では、作動シリンダを監視して硬い堆積物レベルに応じて供給速度を調整するという苛酷な要求が、この方法を好ましくないものにしている。この方法はまた、危険な方法でもある。硫黄の非常に少ないディーゼル燃料を使用しなければならない一定の環境では、供給速度を実質的なエンジン摩耗が起こるくらい低くする必要が生じることがある。従って、船舶の所有者または運転者にとって高TBN油と低TBN油との両方を搭載することが好ましい方法になってきていて、それにより、利用できるディーゼル燃料の硫黄レベルによってそれら二種類の油から選択することができる。
【0008】
長期的にはおそらく、世界の全ての地域又は地方で低硫黄ディーゼル燃料が要求されるようになるだろう。だが、近い将来、船舶の所有者または運転者は低TBNと高TBNのシリンダ用潤滑油との両方を船に搭載し続けることになる。別の、おそらくはより好ましい方法は、ディーゼル燃料の種類とシリンダの状態(例えば、摩耗および堆積物のレベル)との両者に応じて、潤滑剤をその場でブレンドできるように、種々の添加剤を油濃縮物として船に搭載することである。本発明は、油濃縮物にすることができ、かつこの目的の役割を充分に果たすことができるある一定の腐食摩耗抑制性界面活性物質に関する。それら添加剤は、高TBN油と低TBN油両方とに混合性があり、よってSECAsと非SECAs両方の用途で潤滑油にブレンドすることができる。
【0009】
腐食摩耗は、ディーゼルエンジンではよく知られた問題である。この種の摩耗は、可動金属面の直接接触により引き起こされる物理的摩耗又はかじりとは別である。かじり又は物理的摩耗を無くそうとして、当該分野の熟練者は一般に摩擦緩和剤を使用していて、摩擦緩和剤は、作動中相互に接触するようになる表面間の摩擦を単に減らして、それによりこれら表面への摩耗を低減することが知られている。つまり、表面が一緒に接近して動くにつれて潤滑剤はそれらの間からしぼり出される。この過程で、潤滑剤中の摩擦緩和剤分子は表面に吸着されるようになり、それにより表面間に留り、表面に垂直な分子配向を示して接触のレベルを下げ、そして摩擦を減らす。
【0010】
以上において説明したように、たとえ理論的には燃焼中に生成する硫酸全部を中和することが可能であるとしても、硬い堆積物と管理下にある浸食の減少にも配慮する必要があるので、ある潤滑剤のTBNをどの位高くしてもよいかについては限度がある。そのため、当該分野の熟練者は、腐食摩耗抑制を補うために別の一定の添加剤を使用している。そのような添加剤の例としては種々の亜鉛含有化合物が挙げられる。例えば、特許文献1には、塩基価が少なくとも60の船用ディーゼルシリンダ潤滑剤が開示されている。その組成物は、ホウ酸化無灰分散剤、一種以上の過塩基性金属化合物、および亜鉛0.02乃至0.23質量%(200乃至230ppm)を与えるジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有する。注目すべきことは、亜鉛の量を約230ppmより多くすると、予期しないリング及びライナ摩耗の点で性能の低下を招いたとされている。特許文献2には、ホウ酸化分散剤およびポリブテン、任意にジアルキルジチオリン酸亜鉛および/または過塩基性金属清浄剤を含む船用ディーゼルシリンダ潤滑剤が開示されている。それら潤滑剤は、リング摩耗及びライナ摩耗性能を改善し、腐食に対して優れた防護を示すと記述されている。特許文献3には、ディーゼルエンジンにおいて耐腐食性および耐摩耗性を示すコハク酸イミド化合物が開示されている。ジチオリン酸亜鉛やモリブデンジチオカルバメートのような従来の耐摩耗性添加剤が、耐腐食摩耗性を高める補助添加剤として使用できることも開示されている。
【0011】
低TBN潤滑油の開発とともに、腐食摩耗の抑制の必要性がより重大になっている。燃料の硫黄レベルが低くても、ディーゼルエンジンの一部は相変わらず排ガス中の硫酸にさらされる。そのような低TBNレベルでは、燃焼中に生成した硫酸は一般に有効に中和されない。ある種の添加剤が低TBN環境での腐食摩耗の抑制を向上させることが分かっている。例えば特許文献4には、全塩基価が少なくとも30、好ましくは少なくとも35又はそれ以上の船用ディーゼルシリンダ用潤滑油組成物であって、(a)40質量%の潤滑粘度の油、(b)少なくとも二種類の界面活性剤、好ましくはフェネート及びスルホネート界面活性剤から製造された少なくとも一種の清浄剤、(c)ホウ素を少なくとも100ppm与える少なくとも一種のホウ素含有分散剤、および(d)亜鉛を230ppmより多く、好ましくは少なくとも250ppm与える少なくとも一種の亜鉛含有耐摩耗性添加剤、好ましくは二炭化水素ジチオリン酸亜鉛を含む潤滑油組成物が開示されている。その潤滑油組成物は、亜鉛230ppmの存在下で腐食摩耗に対する防護の改善をもたらすと言われ、また全塩基価が低くても、例えば高硫黄環境で使用しても優れた摩耗防護をもたらすと言われている。特許文献5には、特に腐食摩耗を起こしやすいシリンダ領域で、有効なシリンダライナ保護を意図的に与える潤滑油組成物が開示されている。その組成物は、(a)主要量の潤滑粘度の油、および(b)少量の油溶性又は油分散性モリブデン化合物を含み、かつTBNが20乃至100で100℃粘度が9乃至30mm2-1の範囲にある。
【0012】
我々は、驚くべきことに、ある種の界面活性物質が、2ストロークディーゼルエンジンシリンダ用の潤滑油組成物に含まれると、油がそれらシリンダの腐食摩耗を防ぐ能力を実質的に向上させることを見い出した。また、それらの腐食摩耗を抑制する能力は潤滑油のTBNによる影響を受けることはない。さらに、これらの界面活性物質は、潤滑油の過塩基化の程度を増大させることなく腐食摩耗の抑制の向上をもたらし、低TBN油に添加剤として使用するのに特に適したものとなる。これらの添加剤は作用メカニズムの点で異なるが、全て構造的には界面活性剤又は界面活性関連物質に分類することができる。
【0013】
上記の発見は、2ストロークディーゼルエンジン、特には低硫黄と高硫黄の両燃料の地域で運転される航洋船を駆動するエンジンにおいて、腐食摩耗を抑制する新たな可能性を提供するものである。本発明の界面活性物質は、船の所有者または運転者が種々の潤滑油添加剤を油濃縮物として搭載して、それらをリアルタイムの潤滑要求に合うように潤滑油にブレンドすると決めたならば、とりわけ利点を供する。これら物質の発見は、低TBN油、高TBN油、および低TBN油と高TBN油を様々な割合で混合した結果として中間のTBNを持つ油に、ブレンドすることができる単一種の腐食摩耗防止剤を、所有者/運転者が搭載することを可能にする。さらに、これら添加剤のうちの少なくとも一部は分散性をもたらすことが同様に分かっているから、それらの油濃縮物は複数の目的にかない、航洋船に搭載しなければならない添加剤の数を更に減らすことができる。
【0014】
【特許文献1】米国特許第4842755号明細書
【特許文献2】米国特許第4948522号明細書
【特許文献3】米国特許第6140280号明細書
【特許文献4】米国特許出願第10/947093号(公開第US2005/0153847A1号、2005年7月14日)明細書
【特許文献5】米国特許出願第11/265838号(公開第US2006/0116298A1号、2006年6月1日)明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明は、腐食摩耗に対する防護の向上を示す種々の油溶性界面活性物質を含む2ストロークディーゼルシリンダ用潤滑油組成物を提供する。「油溶性」とは、本明細書で使用するとき、標準のブレンド条件で基材油または添加剤パッケージに溶解する化合物を意味する。また、本発明は、これらディーゼルシリンダ用潤滑油組成物の製造方法、およびそれらを使用して2ストロークディーゼルエンジンの作動シリンダの腐食摩耗を防止する方法も提供する。さらに、本発明は、これら界面活性剤の油濃縮物をその場で他の一種以上の好適な成分と共にディーゼルシリンダ用潤滑油組成物にブレンドする方法、およびそのようなブレンドした組成物を使用して2ストロークディーゼルエンジンを潤滑にして、腐食摩耗から防護する方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一種以上の界面活性物質をある一定の2ストロークディーゼルシリンダ用潤滑油組成物に含有させると、潤滑油組成物が作動シリンダを腐食摩耗から防護する能力が改善されることが分かった。問題となるディーゼルエンジンにおいて、高硫黄重質ディーゼル燃料油(すなわち、硫黄レベルが約1.5%乃至約4.5%のもの)を燃焼させるか、あるいは低硫黄重質ディーゼル燃料油(すなわち、硫黄レベルが約1.5%又はそれ以下のもの)を燃焼させるかに関係なく、この防護が観察された。本発明の一種以上の界面活性物質は、組成物が航洋船に搭載される前にディーゼルシリンダ用潤滑油組成物にブレンドすることができるが、リアルタイムの潤滑要求および燃料の種類に応じてその場でブレンドするために、油濃縮物として搭載することも可能である。
【0017】
本発明の第一の態様は、ディーゼルシリンダ用潤滑油組成物に添加剤として適した、腐食摩耗の低減及び/又は防止できる油溶性界面活性物質に関する。添加剤の腐食摩耗を抑制する能力は高いTBNの結果ではない。防止剤がその一部を成す潤滑油組成物のTBNによって影響を受けることも無い。この態様のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物は、硫黄を約1.5%未満位少なく及び/又は約4.5%位多く含有する重質ディーゼル燃料を燃焼させる、2ストロークディーゼルエンジンのシリンダを潤滑にするために使用することができる。また、この態様の添加剤は油濃縮物としてあってもよい。
【0018】
本発明の第二の態様は、第一の態様の腐食摩耗防止剤を含む、腐食摩耗抑制特性が改善されたディーゼルシリンダ用潤滑油組成物に関する。この態様のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物は、今日利用できる任意のディーゼル燃料を燃焼させる2ストロークディーゼルエンジンのシリンダを潤滑にするために使用することができる。
【0019】
本発明は、第三の態様では、第二の態様のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物を製造する方法を提供する。この態様で本発明は、航洋船上で第一の態様の腐食摩耗防止剤の油濃縮物を使用して、第二の態様のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物をブレンドする方法も提供する、ただし、その量はリアルタイムの潤滑要求および/または潤滑対象の特定のシリンダの摩耗程度に依存する。
【0020】
第四の態様では、本発明は、第二の態様の潤滑油組成物を適用することにより、2ストロークディーゼルエンジンのシリンダの腐食摩耗に対する防護を最適レベルで与えて維持する方法に関する。
【0021】
当該分野の熟練者であれば、以下の記述を参照することにより本発明のその他の更なる目的、利点および特徴を理解されよう。
【発明の効果】
【0022】
我々は、驚くべきことには、ある種の界面活性物質が、2ストロークディーゼルエンジンシリンダ用の潤滑油組成物に含まれると、油がそれらシリンダの腐食摩耗を防ぐ能力を実質的に向上させることを見い出した。それらの腐食摩耗を抑制する能力は潤滑油のTBNによる影響を受けない。さらに、これら界面活性物質は、潤滑油の過塩基化の程度を増大させることなく腐食摩耗の抑制の向上をもたらし、低TBN油に添加剤として使用するのに特に適したものとなる。それら添加剤は作用メカニズムの点で異なるが、全て構造的には界面活性剤又は界面活性関連物質に分類することができる。
【0023】
上記の発見は、2ストロークディーゼルエンジン、特には低硫黄と高硫黄との両燃料を用いる地域で運転される航洋船を駆動するエンジンにおいて、腐食摩耗を抑制する新たな可能性を提供するものである。本発明の界面活性物質は、船の所有者または運転者が種々の潤滑油添加剤を油濃縮物として搭載して、それらをリアルタイムの潤滑要求に合うように潤滑油にブレンドすると決めたなら、とりわけ利点を供する。これら物質の発見は、低TBN油、高TBN油、および低TBN油と高TBN油を様々な割合で混合した結果として中間のTBNを持つ油に、ブレンドすることができる単一種の腐食摩耗防止剤を、所有者/運転者が搭載することを可能にする。さらに、これら添加剤のうちの少なくとも一部は分散性をもたらすことが同様に分かっているから、それらの油濃縮物は複数の目的にかない、航洋船に搭載しなければならない添加剤の数を更に減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、様々な好ましい特徴および態様について限定しない説明として記載する。
【0025】
1)界面活性物質
本発明は、2ストロークディーゼルエンジンの作動シリンダにおける腐食摩耗を低減及び/又は防止するのに適した潤滑油組成物であって、一種以上の一定の油溶性界面活性物質を含む潤滑油組成物に関する。本発明の油溶性界面活性剤は、従来より堆積物抑制や分散性に関係した分子であるが、腐食摩耗を抑制することは知られていない。また、本発明の界面活性物質は、船用シリンダ潤滑剤の不可欠な(すなわち、ブレンドされた)一部として、あるいはディーゼル燃料の同時に存在する硫黄レベルや、2ストロークディーゼルエンジンの特定の潤滑要求、シリンダの摩耗程度によって、後でその場でブレンドされる油濃縮物として、航洋船に搭載することができる。さらに、本発明の界面活性物質は、充分な量で高TBN油または低TBN油のいずれかに混合されると、2ストロークディーゼルエンジンを駆動する燃料の硫黄レベルに関係なく、それらエンジンのシリンダの腐食摩耗を有効に低減することができる。腐食摩耗を低減又は防止することとは別に、これら油溶性界面活性物質の一部は、分散性を付与するその従来の能力を保持していて、よって多機能添加剤として使用することが可能である。
【0026】
「界面活性物質」は本明細書で使用するとき、界面活性を有して界面活性剤として分類できる分子を意味する。また、そのような界面活性剤から誘導され、界面活性な特徴を失うほど界面活性剤前駆体から実質的に変化していない分子も意味する。当該分野の熟練者であれば理解できるように、界面活性剤は少量で使用しても、水の界面張力を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、または少なくとも40%減らすことができる物質である。
【0027】
界面活性剤分子は一般に疎水性末端と親水性末端を含んでいる。界面活性剤分子の疎水性末端は一般に、炭素原子約8〜約20個の長さである。この末端は脂肪族でも芳香族でも、または両者の混合物であってもよい。分子の疎水性末端を誘導することができる原料としては、例えば天然の脂肪および/または油、石油留分、比較的短い合成重合体、または比較的高分子量の合成アルコールが挙げられる。
【0028】
界面活性剤の疎水性末端は重要であるが、一方、当該分野の熟練者は一般に各界面活性剤をその親水性末端に基づいて分類している。界面活性剤には次の四つの部類がある:(1)陰イオン界面活性剤、(2)陽イオン界面活性剤、(3)非イオン界面活性剤、および(4)両性イオン界面活性剤。陰イオン界面活性剤では、親水性末端は陰イオン基を含んでいる。陰イオン親水基は例えば、カルボキシレート、硫酸、スルホネートおよびリン酸であってもよい。従って、陰イオン界面活性剤は例えば、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)、硫酸ラウリルアンモニウム、および他のアルキル硫酸塩;硫酸ラウレスナトリウム、硫酸ラウリルエーテルナトリウム(SLES)としても知られている;アルキルベンゼンスルホネート;および脂肪酸塩であってよい。陽イオン界面活性剤では、親水性末端は陽イオン基を含んでいる。陽イオン親水基は通常、NR4+構造(ただし、Rはアルキル基である)を持つ第四級アンモニウムカチオンから誘導される。陽イオン界面活性剤の例としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムとしても知られている)がある;他のアルキルトリメチルアンモニウム塩;塩化セチルピリジニウム(CPC);ポリエトキシル化牛脂油(POEA);塩化ベンズアルコニウム(BAC);および塩化ベンゼトニウム(BZT)を挙げることができる。非イオン界面活性剤では、非イオン親水基は一般にポリエチレングリコール鎖のエーテル酸素で水と会合する。非イオン界面活性剤は例えば、アルキルポリ(エチレンオキシド);オクチルグルコシドおよびデシルマルトシドなどのアルキルポリグルコシド;セチルアルコールおよびオレイルアルコールなど種々の脂肪アルコール;ココアミドMEA、ココアミドDEAおよびココアミドTEAなど、ヤシ油の脂肪酸から製造できる種々のココアミド誘導体であってよい。また、界面活性剤は1個以上の親水性末端に2個の正反対に荷電した基を含んでいてもよい。その場合に、界面活性剤は両性イオン界面活性剤である。両性イオン界面活性剤分子は、等電点にあるときは電気的に中性である。両性イオン界面活性剤は例えば、ドデシルベタイン;ドデシルジメチルアミンオキシド;ココアミドプロピルベタイン;およびココ両性グリシネートであってよい。種類に関係なく界面活性剤分子は、水中に一定の域値より高い濃度で存在するときクラスターを形成する。それらクラスターでは、分子の親水性末端がクラスターの外側に並んで水に面し、一方、分子の親水性末端は内側を向いている。界面活性剤分子が油中に存在するならば、逆のクラスターを形成して分子の疎水性末端が外側の油の方を向き、親水性末端が内側を向く。これらクラスターはミセルと呼ばれ、一般に界面活性剤の濃度が一定の域値に達すると形成される。そして、そのような域値は「臨界ミセル濃度」と呼ばれる。
【0029】
本発明の界面活性物質のうちの幾つかは清浄剤の特徴を持ちうる。だが、ディーゼルシリンダ用潤滑油に添加剤として通常使用される清浄剤とは違って、本発明の界面活性物質は一般に過塩基性ではないか、もしくは極僅かにしか過塩基性でない。好適な界面活性剤分子のTBNは、一般には約50又はそれ以下、例えば約20未満、好ましくは約0乃至約17である。従来より定義されているように、過塩基化の程度は酸基質当量当りの金属塩基の当量数である。ある分子の全塩基価又はTBNは、酸を中和する能力を反映している。一般に分子はTBNが約0であるとき、非過塩基性であると言われる。低過塩基性分子のTBNは0より高いが約60未満である。高過塩基性分子のTBNは約60から約500位まで高くなる。
【0030】
本発明の典型的な態様では、腐食摩耗の抑制を向上させるために、清浄剤とも見ることができるスルホネート界面活性物質がディーゼルシリンダ用潤滑油組成物に添加されるが、潤滑油のTBNは主として一組の他の高過塩基性清浄剤によって与えられる。この態様ではその後、清浄剤の過塩基性が潤滑油組成物に酸中和能を付与し、一方で本発明の界面活性剤は腐食摩耗の抑制の向上をもたらす。本発明の界面活性物質は潤滑油組成物の一部を成すが、その組成物に対するTBNの寄与は、一般に約10%未満であり、より好ましくは約5%未満、または約2%未満である。
【0031】
本発明の他の幾つかの好適な界面活性物質は分散剤の特徴を持ちうる。従って、その界面活性物質は、ディーゼルシリンダ用潤滑油組成物の一部を成すがその組成物中で、分散剤および腐食摩耗防止剤として二つの作用で働くことができる。その場合に、本発明の界面活性物質は一般に金属を含まないから、灰生成を招くことがない。作動シリンダの腐食摩耗を防止又は低減することに加えて、その界面活性物質は油中で堆積物又は堆積物前駆体を懸濁させるようにも働く。その界面活性物質は、例えば望ましくない極性種をミセル内に包みこむことにより、コロイド粒子と会合し、それによりコロイド粒子が凝集して溶液から沈殿するのを防ぐことにより、凝集物がバルク潤滑剤中に形成された後もそれらを懸濁させることにより、スス粒子を変性させて凝集を防ぐことにより、あるいは極性種の表面/界面エネルギーを低下させてそれらの金属面への付着を防ぐことにより、堆積物又は堆積物前駆体を懸濁させることができる。
【0032】
本発明のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物は、上述したように一種以上の界面活性物質を含有している。一種以上の界面活性物質は、腐食摩耗を防止又は低減する能力の実質的改善をもたらすのに充分な量で、潤滑油組成物中に適切に存在する。「防止又は低減」とは本明細書で使用するとき、2ストロークディーゼルエンジンが通常作動する条件に似せて適正に設計されたベンチ又はエンジン試験で、測定できる腐食摩耗の低減を意味する。そのようなエンジン試験の例としては、例えば米国特許出願第10/481486号(公開第US2004/0235684A1号、2004年11月25日)、及び米国特許出願第10/947093号(公開第US2005/0153847A1号、2005年7月14日)の各明細書を含む最近の種々の米国特許出願明細書に記載されているように、ボルネス・エンジン試験(Bolnes Engine Test)がある。これら特許出願の開示内容もボルネス・エンジン試験に関する範囲で、また本開示内容及び特許請求の範囲と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。当該分野で認められたベンチ試験の例としては、例えば燃料及び潤滑剤辞典:技術、性状、性能及び試験(FUELS AND LUBRICANTS HANDBOOK: TECHNOLOGY, PROPERTIES, PERFORMANCE, AND TESTING)(トッテン(Totten)編集、ASTMインターナショナル(ASTM International)、ペンシルヴェニア州ウェスト・コンショホッケン(West Conshohocken)、2003年)の393頁に記載されているように、ファレックス(Falex、商標)ピン及びV形ブロック法(Pin and Vee-Block Method)がある。「実質的な改善」とは本明細書で使用するとき、そのような界面活性物質を含まない試料で生じた結果に比べて少なくとも2%、少なくとも5%、または少なくとも10%もの改善を意味する。
【0033】
有利なことには、本発明の一種以上の界面活性物質は、約2質量%乃至約25質量%の量でディーゼルシリンダ用潤滑油組成物に存在することができる。だが好ましくは、一種以上の界面活性物質は約4質量%乃至約20質量%、または約5質量%乃至約15質量%の量でディーゼルシリンダ用潤滑油に存在することができる。本発明の典型的な態様では、腐食摩耗を防止又は低減するためにディーゼルシリンダ用潤滑油に用いられる界面活性物質は、C18−C28線状アルキルフェノール異性体の混合物であり、潤滑油組成物の全質量に基づき約7質量%の量で存在する。本発明の別の典型的な態様では、用いられる界面活性物質は低過塩基性(TBN約17の)カルシウムスルホネートであり、潤滑油組成物の全質量に基づき約8質量%の量で存在する。
【0034】
2)潤滑粘度の油
潤滑粘度の油は、例えばクロスヘッド・エンジンやトランクピストン・エンジンを含む大型ディーゼルエンジンを潤滑にするのに適した任意の油であってよい。潤滑油は好適には動物油、植物油または鉱油であってよい。また、潤滑油は石油誘導潤滑油、例えばナフテン基、パラフィン基又は混合基油であってもよい。あるいは、潤滑油は合成潤滑油であってもよい。好適な合成潤滑油としては例えば、合成エステル潤滑油、それらの油としてジオクチルアジペート、ジオクチルセバケートおよびトリデシルアジペートなどのジエステル類が挙げられる;もしくは高分子量炭化水素潤滑油、例えば液体ポリイソブチレンおよびポリアルファオレフィンを挙げることができる。この用途にはしばしば鉱油が用いられる。
【0035】
本発明の目的に適した潤滑油の別の部類は、精製工程が中間及び重質蒸留留分を水素の存在下、高温および中位の圧力で更に分解したときの、水素化分解油である。水素化分解油は一般に、100℃動粘度が2乃至40、例えば3乃至15mm2-1で、粘度指数が100乃至110、例えば105乃至108の範囲にある。
【0036】
「ブライトストック」の用語は、当該分野の熟練者により使用されていて、減圧残留物から溶剤抽出した脱アスファルト生成物である基油を意味する。それら基油は、一般に100℃動粘度が28乃至36mm2-1であり、一般に潤滑油組成物の全質量に基づき50質量%未満、例えば40質量%未満、より好ましくは35質量%未満の割合で使用される。本発明の典型的なディーゼルシリンダ用潤滑油組成物は、ブライトストックであるエッソ(ESSO、商標)コア2500基油(Core 2500 Base Oil)を、別の非ブライトストック基油との混合物の一部として約35質量%の量で含有している。
【0037】
本発明のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物は、潤滑粘度の油を主要量で含有している。「主要量」とは、ディーゼルシリンダ用潤滑油組成物が、好適には上述した潤滑粘度の油を、ディーゼルシリンダ用潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約40質量%、好ましくは少なくとも約50質量%、より好ましくは少なくとも約60質量%、そして特に好ましくは少なくとも約70質量%含有することを意味する。
【0038】
3)過塩基性金属清浄剤
本発明のディーゼルエンジンシリンダ潤滑剤は、更に一種以上の過塩基性金属清浄剤を含有していてもよい。過塩基性金属清浄剤分子は一般に、界面活性部分と金属部分とからなる。過塩基性金属化合物の界面活性部分は、少なくとも1個の炭化水素基を例えば芳香環の置換基として含んでいることが好ましい。置換芳香環の例としてはフェノール基がある。「炭化水素基」は本明細書で使用するとき、当該基が、主に水素原子と炭素原子とから構成されて、残りの分子に炭素原子を介して結合しているが、該基の実質的な炭化水素の特徴を低下させるには不充分な割合であれば、他の原子または基の存在を否定するものではないことを意味する。本発明の金属清浄剤の界面活性部分の一種以上の炭化水素基は、脂肪族基であることが有利であり、好ましくはアルキル又はアルキレン基、特にはアルキル基であり、そして線状であっても分枝していてもよい。好適な過塩基性金属清浄剤の界面活性部分の炭化水素基の総炭素原子数は、少なくとも清浄剤に望ましい油溶性を付与するのに充分な数である。
【0039】
本発明の典型的な過塩基性金属清浄剤を誘導することができるフェノール類及び/又はそれらのフェネート塩は、未硫化であっても硫化されていてもよいが、硫化されていることが好ましい。また、「フェノール」には、本明細書で使用するとき、ヒドロキシル基を1個より多く含むフェノール(例えば、アルキルカテコール)、または縮合芳香環を含むフェノール(例えば、アルキルナフトール)、または化学反応により変性したフェノールが含まれる。そのような化学変性したフェノールとしては例えば、アルキレン架橋フェノール、マンニッヒ塩基縮合フェノール、および塩基性条件下でフェノールとアルデヒドの反応により生成したサリゲニン型フェノールを挙げることができる。好ましいフェノール類は下記式から誘導することができる。
【0040】
【化1】

【0041】
式中、Rは炭化水素基を表し、そしてyは1〜4を表す。yが1より大きい場合に、上記の炭化水素基は同じであっても異なっていてもよい。
【0042】
しばしば使用されるその硫化されたものでは、硫化炭化水素フェノールは下記式で表すことができる。
【0043】
【化2】

【0044】
式中、xは一般に1〜4である。場合によっては、2個より多いフェノール分子がSxブリッジで連結されてもよい。上記の両式において、Rで表された炭化水素基は有利にはアルキル基であり、炭素原子5〜100個、好ましくは5〜40個、特には9〜12個を含むことができ、そして充分な油溶性を確保するためには全てのR基で平均炭素原子数は少なくとも9個である。好ましいアルキル基はノニル(トリプロピレン)基である。炭化水素置換フェノールはしばしば、「アルキルフェノール」とも呼ばれる。
【0045】
フェノール又はフェネートの硫化方法は当該分野の熟練者に知られている。つまり、−(Sx)−架橋基(ただし、xは一般に1〜約4である)を導入する硫化剤を使用すべきである。従って、反応は硫黄元素またはそのハロゲン化物を用いて行うことができる。硫黄元素を使用するのであれば、アルキルフェノール化合物を50乃至250℃、好ましくは100℃より高温で加熱した後に硫化反応が発生する。ハロゲン化硫黄を使用するなら、アルキルフェノールを−10乃至120℃、好ましくは60℃より高温で処理した後に硫化反応が発生する。これらの反応は一般に、好適な希釈剤の存在下で行われ、希釈剤は鉱油またはアルカンのような実質的に不活性の有機希釈剤からなることが有利である。また、硫黄元素を硫化剤として使用する場合には、塩基性触媒、例えば水酸化ナトリウムまたは有機アミン、好ましくはモルホリンなどの複素環アミンを使用することが望ましい。
【0046】
上に示したように、「フェノール」には本明細書で使用するとき、例えばアルデヒドとの化学反応により変性したフェノール、およびマンニッヒ塩基縮合フェノールが含まれる。フェノールを変性させることができるアルデヒドとしては、例えばホルムアルデヒド、プロピオンアルデヒドおよびブチルアルデヒドが挙げられる。好ましいアルデヒドはホルムアルデヒドである。各種のアルデヒド変性フェノールは、例えば米国特許第5259967号明細書に記載されていて、その開示内容もフェノールのアルデヒド変性に関する範囲で、また本開示内容および特許請求の範囲と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。マンニッヒ塩基縮合フェノールは、フェノールとアルデヒドとアミンの反応により製造される。好適なマンニッヒ塩基縮合フェノールの例は、例えばGB−A−2121432号明細書に記載されていて その開示内容もマンニッヒ塩基縮合フェノールに関する範囲で、また本開示内容および特許請求の範囲と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。一般的にフェノールは、上記のもの以外の置換基がフェノールの界面活性を大きく減じない限り、更にそのような置換基を含んでいてもよい。そのような置換基の例としてはメトキシ基およびハロゲン原子が挙げられる。
【0047】
また、好適な清浄剤はサリチル酸に由来するものであってもよい。本発明に従って使用されるサリチル酸は、未硫化であっても硫化されていてもよく、また化学変性されていてもよいし、および/または追加の置換基、例えばフェノールについて上述した置換基を含んでいてもよい。アルキル置換サリチル酸では、アルキル基は炭素原子5〜100個、好ましくは9〜30個、特には14〜20個を含んでいることが有利である。炭化水素置換サリチル酸を硫化するのに上記と同様の方法も使用することができる。サリチル酸は通常はフェノキシドのカルボキシル化により、コルベ・シュミット法で製造され、その場合には一般に非カルボキシル化フェノールとの混合物として得られる。
【0048】
別の好適な清浄剤は、スルホン酸に由来するものであってもよく、一般に炭化水素置換、特にはアルキル置換芳香族炭化水素、例えば石油の蒸留および/または抽出による分別から、または芳香族炭化水素のアルキル化により得られたものをスルホン化して得られる。好適なスルホン酸としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ビフェニル、またはそれらのハロゲン誘導体、例えばクロロベンゼン、クロロトルエンまたはクロロナフタレンをアルキル化して得られたものが挙げられる。芳香族炭化水素のアルキル化は、炭素原子数が3〜100以上のアルキル化剤、例えばハロパラフィン;パラフィンの脱水素により得られたオレフィン;およびエチレン、プロピレン及びブテン等の重合体などのポリオレフィンを用いて、触媒の存在下で行うことができる。これらのアルキルアリールスルホン酸は、一般に炭素原子7〜100個又はそれ以上を含んでいる。好ましくは、それらを得る原料によってアルキル置換芳香族部当り炭素原子16〜80個、または12〜40個を含んでいる。これらの好適なスルホン酸を中和してスルホネートにするが、その方法は任意に、炭化水素溶媒及び/又は希釈油並びに促進剤と粘度調整剤を存在させて実施される。
【0049】
本発明の金属清浄剤を誘導できるスルホン酸としては更に、アルキルスルホン酸およびアルケニルスルホン酸が挙げられる。そのような化合物ではアルキル基および/またはアルケニル基は、炭素原子9〜100個を含んでいることが適していて、有利には12〜80個、特には16〜60個を含んでいる。
【0050】
また別の種類の好適な金属清浄剤はカルボン酸から誘導されてもよく、一般にはモノ及び/又はジカルボン酸が挙げられる。好ましいモノカルボン酸は炭素原子1〜30個、特には8〜24個を含むものである。モノカルボン酸の例としては、イソオクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸およびベヘン酸がある。好適なイソオクタン酸の例としては、セカノイック(CEKANOIC、商標)の商品名でエクソン・ケミカルズ(Exxon Chemicals)社から販売されているC8酸異性体の混合物がある。他の好適なカルボン酸は、α炭素原子に第四級置換があるカルボン酸、および2個より多い炭素原子がカルボン酸基を隔てているジカルボン酸である。また、炭素原子を35個より多く、例えば36〜100個持つジカルボン酸も適している。不飽和カルボン酸は任意に硫化することができる。芳香環にヒドロキシル基が存在してもサリチル酸が本明細書のフェノール清浄剤に分類されないように、サリチル酸はカルボン酸基を含むがカルボン酸清浄剤とはみなされない。
【0051】
本発明に従って使用することができる他の清浄剤の例としては、次の化合物及びそれらの誘導体を挙げることができる:ナフテン酸、特にはアルキル基を1個以上含むナフテン酸;ジアルキルホスホン酸;ジアルキルチオホスホン酸;およびジアルキルジチオリン酸;高分子量、好ましくはエトキシル化アルコール;ジチオカルバミン酸;およびチオホスフィン。また例としては、例えばEP−A−271262号明細書に記載されている、ステアリン酸などのカルボン酸で変性した任意に硫化したアルカリ土類金属炭化水素フェネート;およびEP−A−750659号明細書に記載されているフェノラートも挙げられる。これら特許の開示内容も、変性及び任意に硫化した炭化水素フェネートに関する範囲で、また本開示内容および特許請求の範囲と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。
【0052】
上述した清浄剤は過塩基性であることが適していて、それが、硫黄をそのレベルに関係なく含むディーゼル燃料を使用してこれらエンジンを駆動したときに、燃焼排気中に必然的に生成するスルホン酸を中和するのを助ける。好適な過塩基性金属化合物としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属添加剤、例えば、フェノール、スルホン酸、カルボン酸、サリチル酸およびナフテン酸から選ばれた界面活性剤の油溶性又は油分散性過塩基性カルシウム、マグネシウム、ナトリウム又はバリウム塩が挙げられる。過塩基性は一般に、金属の油溶性塩、例えば炭酸塩、塩基性炭酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、水酸化物またはシュウ酸塩により付与され、そして界面活性剤の油溶性塩により安定化される。金属の油溶性塩であろうと油分散性塩であろうと、金属はカルシウムであることが好ましい。
【0053】
また、本発明に使用するのに適しているのは、フェノール、スルホン酸、カルボン酸、サリチル酸およびナフテン酸などの界面活性基を少なくとも2個含む過塩基性金属清浄剤、好ましくは過塩基性カルシウム清浄剤であり、過塩基化工程で2個以上の異なる界面活性基が取り込まれる混成物質の製造により得ることができる。単に種類の異なる二種以上の過塩基性清浄剤を物理的に混合することによっても、混成物質を得ることができる。混成物質の例としては、フェノール及びスルホン酸界面活性剤の過塩基性カルシウム塩;フェノール及びカルボン酸界面活性剤の過塩基性カルシウム塩;フェノール、スルホン酸及びサリチル酸界面活性剤の過塩基性カルシウム塩;およびフェノール及びサリチル酸界面活性剤の過塩基性カルシウム塩を挙げることができる。
【0054】
少なくとも二種類の過塩基性金属化合物が存在する場合には、如何なる好適な質量比で用いてもよく、好ましくは任意の一過塩基性金属化合物と任意の別の過塩基性金属化合物との質量対質量比は、5:95乃至95:5、例えば90:10乃至10:90の範囲にあり、より好ましくは20:80乃至80:20、有利には70:30乃至30:70の範囲にある。当該分野の熟練者は混成過塩基性清浄剤を含む潤滑油組成物について知っているし、また例えばWO−A−97/46643号、WO−A−97/46644号、WO−A−97/46645号、WO−A−97/46646号及びWO−A−97/46647号の各明細書に記載してもいる。
【0055】
「界面活性剤の過塩基性カルシウム塩」は、油溶性金属塩の金属カチオンが基本的にカルシウムカチオンである過塩基性清浄剤を意味する。他のカチオンが少量存在していてもよいが、一般には油溶性金属塩のカチオンのうちの少なくとも80%、通常は少なくとも90%、例えば少なくとも95%はカルシウムイオンである。
【0056】
本発明の金属清浄剤の過塩基性レベルは広い範囲で変えることができるが、好ましくは過塩基性金属清浄剤の各々のTBNは少なくとも100、少なくとも150、または少なくとも200で、例えば最大500である。本発明の典型的なディーゼルシリンダ用潤滑剤は、TBNが約430の高過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤を含有している。
【0057】
潤滑剤中の一種以上の過塩基性金属清浄剤の量は、一般には潤滑油の全質量に基づき少なくとも0.5質量%であり、特には0.5乃至30質量%の範囲にあり、例えば3乃至25質量%、2乃至20質量%、または5乃至22質量%の範囲にある。本発明の典型的なディーゼルシリンダ用潤滑剤は、高過塩基性スルホネート清浄剤を約16質量%含有している。本発明の潤滑油組成物のTBNのうちの少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも98%は、一種以上の過塩基性金属含有清浄剤により付与される。
【0058】
また、本発明の過塩基性金属化合物はホウ酸化されていてもよい。その場合に、金属ホウ酸塩などのホウ素付与化合物は過塩基性物の一部を成すとみなされる。
【0059】
4)消泡剤
大量の気体が液体に入ると気泡が生じる。発泡は浮遊や洗浄、清掃のような一定の用途では望ましいが、それ以外では望ましくない。潤滑剤関連の用途では発泡は、潤滑の無効力化を招くから妨害物になる。また、時間が立つと潤滑剤の酸化分解を引き起こすこともある。潤滑剤の粘度と表面張力が気泡の安定性を決定する。低粘度の油は気泡の大きな泡を生じるが、急速に壊れて最小の問題にしかならない傾向にある。しかし、本発明のディーゼルシリンダ用潤滑剤に使用される油のような高粘度の油は、微小の気泡を含んで壊れ難い安定した泡を発生する。界面活性な物質、例えば本発明の界面活性物質、清浄剤および/または分散剤の存在が、潤滑剤の発泡傾向を更に増加させる。
【0060】
消泡剤は、油の表面張力を変えることにより、また気泡の油相からの分離を促すことにより気泡の生成を抑制する。一般的に、これらの添加剤は油への溶解度が制限され、よって通常は微細分散物として添加される。シリコーン(例えば、ポリシロキサン)、ポリアルキルアクリレートおよびポリアルキルメタクリレートは、本発明のディーゼルシリンダ用潤滑剤に好適に使用することができる消泡剤であるが、シリコーンがより好ましい。本発明の典型的なディーゼルシリンダ用潤滑剤は、シリコーン系消泡剤を約0.06質量%含有している。
【0061】
5)その他の添加剤
本発明のディーゼルシリンダ用潤滑剤は、補助添加剤として一種以上の別の摩耗防止剤並びに他の種々の物質を含有していてもよい。そのような他の物質としては例えば、酸化防止剤、消泡剤および/またはさび止め添加剤が挙げられる。以下に、典型的な補助添加剤の詳細について記載する。
【0062】
A)亜鉛含有摩耗防止剤
利用される用途の種類に応じて、ディーゼルシリンダ用潤滑油組成物は更に、少なくとも一種のジチオリン酸亜鉛摩耗防止添加剤を約0.1質量%乃至約2質量%含有することができる。そのジチオリン酸亜鉛摩耗防止添加剤は、船舶、作業船および補助又は連続発電で特に有用であり、添加剤は第一級アルコールから誘導されたジアルキルジチオリン酸亜鉛であってよい。
【0063】
船舶用途には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の特定の物理的混合物が好ましい、というのは、水質汚染を起こしやすいディーゼルエンジンの耐水性を増加させるからである。その物理的混合物は、第一級アルキルアルコールのみから誘導されたジアルキルジチオリン酸亜鉛約20質量%乃至約90質量%、好ましくは約40質量%乃至約80質量%と、第二級アルキルアルコールのみから誘導されたジアルキルジチオリン酸亜鉛約10質量%乃至約80質量%、好ましくは約20質量%乃至約60質量%とを有していてもよい。このジアルキルジチオリン酸亜鉛の物理的混合物は、異なる種類のアルコールの混合物から誘導されたジアルキルジチオリン酸亜鉛の化学的混合物とは異なる。
【0064】
個々のジアルキルジチオリン酸亜鉛は、下記式のジアルキルジチオリン酸から生成させることができる。
【0065】
【化3】

【0066】
ジアルキルジチオリン酸が誘導されるヒドロキシアルキル化合物は、一般に式:ROH又はR’OH(ただし、RまたはR’はアルキル基または置換アルキル基である)で表すことができる。RまたはR’は、好ましくは炭素原子約3〜約20個、より好ましくは約3〜約8個を含む分枝又は非分枝アルキルである。
【0067】
また、個々のジアルキルジチオリン酸はヒドロキシアルキル化合物から生成させることもできる。当該分野で認識されているように、これらヒドロキシアルキル化合物はモノヒドロキシアルキル化合物である必要はない。すなわち、モノ、ジ、トリ、テトラ及び他のポリヒドロキシアルキル化合物またはこれらの二種以上の混合物から、ジアルキルジチオリン酸を製造してもよい。この目的には最も市販されているアルコールを使用することができる。その理由は、ヒドロキシアルキル化合物は一般に純粋な化合物ではなくて、むしろ主要量の所望のアルコールと少量の様々な異性体及び/又は長鎖又は短鎖アルコールとを含む混合物であるからである。
【0068】
第一級アルキルアルコールのみから誘導されたジアルキルジチオリン酸亜鉛は、単一の第一級アルコールから誘導されたものであることが好ましい。その単一第一級アルコールは2−エチルヘキサノールであることが好ましい。第二級アルキルアルコールのみから誘導されたジアルキルジチオリン酸亜鉛は、第二級アルコールの混合物から誘導されたものであることが好ましい。その第二級アルコールの混合物は、2−ブタノールと4−メチル−2−ペンタノールの混合物であることが好ましい。また、本発明のジアルキルジチオリン酸生成工程に使用される五硫化リン反応体も、P23、P43、P47またはP49のうちのいずれか一種又はそれ以上を少量で含んでいてもよい。そのような硫化リン組成物は遊離硫黄を少量含んでいてもよい。五硫化リンの構造は一般にはP25で表されるが、実際の構造は4個のリン原子と10個の硫黄原子を含んでいる、P410であると考えられていることに留意すべきである。本発明の目的では、硫化リン反応体はP25構造を持つ化合物とみなされても、実際の構造はおそらくP410であると理解されたい。
【0069】
B)酸化防止剤
酸化防止剤または抗酸化剤は、鉱油が使用中に劣化する傾向を低減するものであり、そのような劣化の証拠は例えば、金属面のワニス状堆積物やスラッジの生成および粘度増加にある。好適な酸化防止剤としては例えば、硫化アルキルフェノールおよびそれらのアルカリまたはアルカリ土類金属塩;ジフェニルアミン;フェニル−ナフチルアミン;およびリン硫化または硫化炭化水素を挙げることができる。他の酸化防止剤または抗酸化剤としては種々の油溶性銅化合物が挙げられる。銅は例えば、二炭化水素チオ又はジチオリン酸銅の形であってもよい。あるいは、合成または天然カルボン酸、例えばC8−C18脂肪酸、不飽和酸または分枝カルボン酸の銅塩として添加されてもよい。また、油溶性の銅ジチオカルバメート、スルホネート、フェネート及びアセチルアセテートも有用である。特に有用な銅化合物の例としては、アルケニルコハク酸もしくはその無水物から誘導された塩基性、中性もしくは酸性の銅Cu(I)及び/又はCu(II)塩が挙げられる。
【0070】
C)無灰分散剤
分散剤は、油不溶性の樹脂状酸化生成物や粒子状不純物を油全体に懸濁させる添加剤である。当該分野の熟練者はしばしば、スラッジの生成や粒子関連の研磨摩耗、粘度増加、酸化関連の堆積物の形成を最小にするために、種々の分散剤を添加する。
【0071】
分散剤がこれらの機能を、下記から選ばれる一つ以上の手段により実行することは知られている:(1)極性不純物をそれらのミセルとして可溶化すること、(2)コロイド分散物の粒子凝集および油からの分離を防ぐために、該分散物を安定化させること、(3)そのような生成物が生成したなら、潤滑剤全体に懸濁させること、(4)ススを変性させてその凝集および油増粘を最小にすること、および(5)望ましくない物質の表面/界面エネルギーを下げて、それらが金属面に付着する傾向を減少させること。望ましくない物質は一般に、潤滑剤の酸化崩壊、カルボン酸などの化学反応種とエンジン内の金属面との反応、あるいは例えば極圧剤など熱的に不安定な潤滑油添加剤の分解の結果として生成する。
【0072】
本発明の2ストロークディーゼルエンジンのようなディーゼル燃料エンジンでは、燃焼室からのススが、ピストンに生じる炭素及びラッカー堆積物やスラッジの重大な成分となる。ススが樹脂と結び付くと結果として、これらの堆積物が生じる。一般的に、ラッカーは樹脂に多く、炭素はススに多い。ススが含酸素種や油、水と結び付くと結果としてスラッジが生じる。局所的なピストン温度および潤滑剤の灰生成傾向も、炭素堆積物の組成に深い影響を及ぼす。分散剤は、率先して樹脂およびスス粒子と会合することにより、また同時にそれらをバルク潤滑剤に懸濁させておくことにより、それらの間の相互作用を抑える。樹脂もスス粒子もまさにそれらの性質から、もしくは吸着した極性不純物により特徴が極性にあるので、分散剤はその極性末端でこれら粒子と会合する。
【0073】
代表的な分散剤分子は、次の三つの明確な構造的特徴を含む:(1)炭化水素基、(2)極性基、および(3)連結基又は結合。炭化水素基は一般に性質が高分子であり、分子量が約2000ダルトン又はそれ以上であり、好ましくは約3000ダルトン又はそれ以上、より好ましくは約5000ダルトン又はそれ以上、そして更に好ましくは約8000ダルトン又はそれ以上である。ポリイソブチレン、ポリプロピレン、ポリアルファオレフィンおよびそれらの混合物など各種のオレフィンを使用して、好適な高分子量分散剤を製造することができる。好適な高分子量分散剤のうちでも、ポリイソブチレン誘導分散剤が最も一般的である。それら分散剤中のポリイソブチレンの数平均分子量は、一般には約500から約3000ダルトンの範囲にあり、態様によっては約800から約2000ダルトン、または別の態様では約1000から約2000ダルトンの範囲にある。ポリイソブチレンの分子量分布および分枝の長さと程度も、数平均分子量と同様に分散剤としての有効性において重要である。ある分散剤では極性基は通常、窒素又は酸素誘導のものである。窒素系分散剤は一般にアミン類から誘導される。窒素系分散剤が誘導されるアミン類はしばしば、例えばジエチレントリアミンおよびトリエチレンテトラアミンのようなポリアルキレンポリアミンである。アミン誘導分散剤は窒素系もしくはアミン系分散剤とも呼ばれるが、一方アルコールから誘導されたものは酸素系もしくはエステル系分散剤とも呼ばれる。酸素系分散剤は一般に中性であり、一方アミン系分散剤は一般に塩基性である。分散剤として使用するの適した化合物の部類としては、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル、高分子量アミン、マンニッヒ塩基、およびホスホン酸誘導体を挙げることができる。コハク酸イミドおよびコハク酸エステルなどのポリイソブテニルコハク酸誘導体は、市販のものでは最も普通に使用されている分散剤の種類である。
【0074】
本発明の潤滑油組成物は、シリンダのスス堆積物および/またはスラッジの生成の量を測定できるほど低減するのに充分な量で、無灰分散剤を含有していてもよい。「測定できるほど低減する」とは、例えばASTMシーケンスVE/VG試験やキャタピラーIK、1M−PC、IN、IP及びIR試験のような標準試験法により、低減を測定することができることを意味する。一般には低減レベルが、分散剤による処理前のレベルの少なくとも2%、少なくとも5%、またはより好ましくは少なくとも10%であることを意味する。本発明の好適なディーゼルシリンダ用潤滑油組成物は、一種以上の無灰分散剤を約0.1乃至約5質量%、例えば約0.2乃至約2質量%、または約0.5乃至約1質量%含有している。
【0075】
D)さび止め添加剤
船用ディーゼルエンジンは、その名称が示唆するように、海水が遍在する所又は遍在に近い所で作動する。海水は一般に様々な塩類を大量に含んでいる。動力装置の据え付け大型ディーゼルエンジンも水の存在する所で作動する。例えば水や酸、アルカリ、塩のような電解質の存在下で、電気化学的腐食反応が起こるとさびが生じる。電気化学腐食又はさび生成工程には、導電性溶液または電解質の存在下での金属の反応が含まれ、次の二段階で起こる:(1)陰極工程および陽極工程。陰極工程では、金属がイオンとして溶液中に侵入して余分な電子が残される。その工程はしばしば酸化工程ともみなされる。陽極工程には、このようにして発生した電子と水や酸素との反応が含まれ、水酸化物イオンが生成する。この工程は、しばしば還元工程ともみなされる。次に溶液中では、金属イオンが水酸化物イオンと結合して、金属水酸化物または金属水和酸化物が生成する。電気化学腐食の速度は、金属酸化物膜の性質、水など極性溶媒の有無、電解質(塩、酸または塩基)の有無、および温度に依存する。
【0076】
さびに対する防護は、船用ディーゼルエンジンが作動する環境がさびを招きうる要素で満ちているという明らかな理由から、そのようなエンジン用潤滑剤を配合する上で重要な考慮事項である。そのような防護は、2ストロークエンジンの据え付け運転でも同様に重要である。防護無しでは、さびは最終的に金属の損失を引き起こし、それにより装置の保全性を低下させ、結果としてエンジンの故障をもたらす。さらに、腐食によって加速的な速度で摩耗しうる新鮮な金属が露出するが、これは液体中に放出されて今や酸化促進剤として作用しつつある金属イオンにより永続する。
【0077】
防護のためにさび止め添加剤が使用される。さび止め添加剤はそれ自体が金属面に付着して、非浸透性の保護膜を形成し、保護膜は金属面に物理的もしくは化学的に吸着している。つまり、摩擦緩和剤と同様に、添加剤がその極性末端で金属面と相互作用し、その非極性末端で潤滑剤と会合すると、膜形成が起こる。好適なさび止め添加剤としては例えば、各種の非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエートを挙げることができる。好適なさび止め添加剤としては更に、その他の化合物、例えばステアリン酸および他の脂肪酸、ジカルボン酸、金属石鹸、脂肪酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、およびリン酸エステルを挙げることができる。
【0078】
E)抗乳化剤
水の存在下では潤滑油組成物は、エマルションを生成させる傾向の増大を示す。本発明のディーゼルシリンダ用潤滑剤は、水混入が往々にして避けられない問題であるような環境で作動する、船用ディーゼルエンジンまたは据え付けディーゼルエンジンを潤滑に運転するために使用される。過剰なエマルションの生成に関連した作動上の障害を除去しようとして、そのような配合物に抗乳化剤を添加して水分離を増大させ、気泡の生成を抑えている。一般に大抵の抗乳化剤は、分子量が最大約100000ダルトンのオリゴマー又は重合体であり、ポリエチレンオキシドを結合した形で約5乃至約50%含んでいる。普通使用される抗乳化剤としては、プロピレンオキシドまたはエチレンオキシドと、例えばグリセロール、フェノール、ホルムアルデヒド樹脂、シロキサン、ポリアミンおよびポリオールのような開始剤とのブロック共重合体が挙げられる。一般的な油中水エマルションを防ぐためには、エチレンオキシドを約20乃至約50%含む重合体が適している。これらの物質は水−油界面に集中して低粘度域を作り、それにより小滴の凝集そして重力で後押しされた相分離を促す。低分子量物質、例えばジアルキルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩も一定の用途で有用である。
【0079】
F)耐摩耗及び/又は極圧剤
接触する可動部分を有する全ての装置で摩耗は起こる。つまり、普通は次の三つの状態がディーゼルエンジンに摩耗を招いている:(1)表面同士の接触、(2)表面と異質物との接触、および(3)腐食物質による浸食。表面同士の接触から生じる摩耗は摩擦もしくは凝着摩耗であり、異質物との接触から生じる摩耗は研磨摩耗であり、そして腐食物質との接触から生じる摩耗は腐食摩耗である。疲労摩耗は、表面が接触するだけでなく長期間繰返し応力を受けるような装置では一般的である追加的種類の摩耗である。研磨摩耗は、効率の良いろ過機構を取り付けて、傷つける破片を取り除くことにより防ぐことができる。腐食摩耗は、上述したもののような、中和しないと金属面を攻撃する反応種を中和する添加剤を使用することにより処理することができる。凝着摩耗の抑制には、耐摩耗及び極圧(EP)剤と呼ばれる添加剤を使用することが必要である。
【0080】
最適な速度及び荷重条件下で、装置の金属面を潤滑膜により有効に隔離すべきである。荷重の増加、速度の減少、あるいはそのような最適な状態からの逸脱によって、金属同士の接触が促される。この接触は一般に摩擦熱のために接触域の温度増加を引き起こし、そしてそのことが潤滑剤粘度の減少、ひいてはその膜形成能の減少を招く。耐摩耗性添加剤とEP剤は同じようなメカニズムで保護を与えるが、EP添加剤は一般に耐摩耗性添加剤よりも高い活性化温度と荷重を必要とする。
【0081】
耐摩耗及び/又はEP添加剤は、熱分解により、また金属面と反応する生成物を生成させて固体保護層を形成することにより機能する。この固体金属膜は粗面を埋めて有効な膜形成を容易にし、それにより摩擦を低減して融着や表面摩耗を防ぐ。
【0082】
大半の耐摩耗及び極圧剤は、硫黄、塩素、リン、ホウ素またはそれらを組み合わせて含んでいる。凝着摩耗を防ぐ化合物の部類としては例えば、二硫化及び他硫化アルキル及びアリール;ジチオカルバメート;塩素化炭化水素;および亜リン酸アルキル、リン酸エステル、ジチオリン酸エステルおよびアルケニルホスホン酸エステルなどのリン化合物を挙げることができる。
【0083】
各種の一般に使用されている耐摩耗性添加剤を、本発明のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物に含有させることができる。例えば、ジチオリン酸の亜鉛塩は、耐摩耗性防護を与えること以外に、酸化及び腐食防止剤として追加の利益を与える。これらの塩としては例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジアリールジチオリン酸亜鉛が挙げられる。この目的に適した亜鉛塩の製造方法は当該分野では知られている。さらに、二硫化もしくは多硫化のアルキル及びアリール、ジチオカルバメート、塩素化炭化水素、亜リン酸水素ジアルキル、およびアルキルリン酸の塩も好適なEP剤となりうる。これらEP剤の製造方法も当該分野では知られている。例えば多硫化物は、オレフィンから硫黄またはハロゲン化硫黄と反応させたのち脱ハロゲン化水素により合成される。ジアルキルジチオカルバメートは、ジチオカルバミン酸(ジアルキルアミンと二硫化炭素を低温で反応させて製造することができる)を、酸化亜鉛または酸化アンチモンなどの塩基で中和することにより、あるいはアルキルアクリレートなどの活性化オレフィンにジチオカルバミン酸を添加することにより製造される。
【0084】
一種以上のEP剤を本発明の目的に使用してもよい。つまり、EP剤を一種より多く使用して相乗作用を導くことができる。例えば、硫黄含有EPと塩素含有EP剤との間で相乗作用が認められる。本発明の典型的なディーゼルシリンダ用潤滑剤は、EP剤として次のものから選ばれた一種以上の物質を含有していてもよい:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(第一級アルキル型及び第二級アルキル型)、硫化油、硫化ジフェニル、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、フルオロアルキルポリシロキサン、およびナフテン酸鉛。
【0085】
G)摩擦緩和剤
摩擦緩和剤は、潤滑剤の摩擦特性を改良する薬剤である。摩擦緩和剤は一般に、極性末端基と非極性の線状炭化水素鎖を持つ長鎖分子である。極性末端基は金属面に物理的に吸着するか、あるいは金属面と化学的に反応し、一方、炭化水素鎖は潤滑剤中に延びている。鎖は相互にまた潤滑剤と会合して強い潤滑膜を形成する。
【0086】
好適な摩擦緩和剤としては例えば、脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪族アミド、およびモリブデン化合物が挙げられる。脂肪族アルコール及び脂肪酸の化合物群では、摩擦緩和性は炭化水素鎖の長さと構造および官能基の性質に依存して変化する。長い線状鎖物質は、短い分枝鎖物質よりも摩擦を有効に低減する。また、脂肪酸は一般に脂肪族アミドよりも優れた摩擦緩和剤であり、そして脂肪族アミドは脂肪族アルコールよりも優れた摩擦緩和剤である。炭素原子13〜18個を含む飽和酸が一般に好ましい。低分子量脂肪酸はその腐食性のために避けられている。脂肪酸誘導体も最も普通に使用される摩擦緩和剤に入る。本発明の典型的なディーゼルシリンダ用潤滑剤は、摩擦緩和剤として次のものから選ばれた一種以上の物質を含有していてもよい:脂肪族アルコール、脂肪酸、アミン、およびホウ酸化又は他のエステル。
【0087】
H)多機能添加剤
本明細書で挙げたものであっても挙げないものであっても種々の添加剤が、本発明のディーゼルシリンダ用潤滑油組成物に複数の効果をもたらすことができる。従って、例えば単一の添加剤が分散剤としても酸化防止剤としても作用することがある。事実、本発明の腐食摩耗防止及び/又は低減性の界面活性物質は、多機能添加剤として働いて、潤滑油組成物に作動シリンダの腐食摩耗を低減及び/又は防止する能力、並びに分散性を付与する。多機能添加剤は当該分野ではよく知られている。他の好適な多機能添加剤としては例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンオルガノリンジチオエート、オキシモリブデンモノグリセリド、アミン・モリブデン錯化合物、および硫黄含有モリブデン錯化合物を挙げることができる。
【0088】
I)流動点降下剤
流動点は、規定条件で冷却したときに油が流れ出す最低温度である。一般的に流動点は油中の直鎖パラフィン類の量を示す。低温では、直鎖パラフィン類は格子形構造を持つ結晶として分離しがちである。これら結晶は、会合によりかなりの量の油を捕捉することができ、油の流動を妨げて最終的には装置の適正な潤滑作用を妨害する。基油供給者は直鎖パラフィンを殆ど除去しようと努力してはいるが、作業限界や経済性のためにそれら分子の完全な除去はしばしば実施できない。これら分子は有益な粘度特性を与えることもある。このため、低温作動では当該分野の熟練者は一般に、流動点降下剤を潤滑油に使用することを併用することで、直鎖パラフィン分子の除去が不完全であることに賛成している。
【0089】
流動点降下剤には一般に、次のものから選ばれる一つ以上の構造的特徴を含む:(1)高分子構造、(2)ろう質及び非ろう質成分、(3)長い側基を持つ短い骨格からなる櫛形構造、および(4)広い分子量分布。多数の高分子量流動点降下剤が当該分野で知られていて、その一部は市販されている。市販の大半の流動点降下剤は有機重合体であるが、一部の非高分子物質も有効であることが明らかになっていて、その例としてはテトラ(長鎖)アルキルシリケート、フェニルトリステアリルオキシシラン、およびペンタエリトリトールテトラステアレートが挙げられる。好適な流動点降下剤の例としては、アルキル化ナフタレン、ポリ(アルキルメタクリレート)、ポリ(アルキルフマレート)、スチレンエステル、オリゴマー化アルキルフェノール、フタル酸エステル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、および他の混合炭化水素重合体を挙げることができる。流動点降下剤は一般に、約1質量%又はそれ以下の処理レベルで使用される。
【0090】
6)2サイクルディーゼルエンジンシリンダ用潤滑油組成物
本発明は、2サイクルで作動する低速もしくは中速ディーゼルエンジンに使用するのに適した潤滑油組成物に関する。この潤滑油組成物は下記の成分を含有している:
(a)主要量の潤滑粘度の基油、
(b)一種以上の上述した油溶性界面活性物質を、2ストロークディーゼルエンジンの作動シリンダの腐食摩耗を実質的に低減するのに充分な総量で、
(c)一種以上の過塩基性金属清浄剤を、潤滑油組成物に全TBNで約5乃至100、好ましくは約30乃至約50、または約60乃至80を与えるのに充分な総量で、および
(d)少量の一種以上の消泡剤。
【0091】
「実質的に低減する」とは、本発明の界面活性物質を含まない比較のための組成物で作動シリンダを潤滑にしたときに、測定できた作動シリンダの腐食摩耗の量と比較して、少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約15%の低減を意味する。
【0092】
そのディーゼルシリンダ用潤滑油組成物は更に、本明細書に例示及び記載した他の添加剤も含有することができる。
【0093】
別の態様では、上記成分の混合物をブレンドすることによりディーゼルシリンダ用潤滑油組成物が製造される。その方法で製造された潤滑油組成物は、成分が互いに相互作用することがあるから、当初の混合物とは若干異なる組成を有することがある。成分を任意の順序でブレンドすることもできるし、また成分の組合せとしてブレンドすることもできる。
【0094】
2ストロークディーゼルエンジンの作動シリンダを本発明の潤滑油組成物を用いて潤滑運転にすることによって、これらシリンダの腐食摩耗からの防護を増大させることができる。また、本発明の潤滑油組成物は、例えば腐食摩耗に対する防護を一定の基準レベルでもたらす高TBN金属清浄剤のような他の添加剤を、一種以上含有していてもよい。その場合でも、本発明の界面活性物質の防護効果は、追加の高TBNの腐食摩耗抑制添加剤がもたらす防護効果以上である。
【0095】
7)添加剤濃縮物
添加剤濃縮物も本発明の範囲内にある。本発明の濃縮物は、好ましくは上記において開示したような少なくとも一種の過塩基性金属清浄剤、少なくとも一種の消泡剤および少なくとも一種の他の添加剤と共に、上述した界面活性物質を含有している。濃縮物は、長期の航行の間中航洋船に搭載されて運搬されたりブレンドされる場合には特に、輸送や貯蔵中の取扱いを容易にするのに充分な量の有機希釈剤を含有している。
【0096】
好適には、各濃縮物のうちの約20質量%乃至約80質量%が有機希釈剤である。使用することができる有機希釈剤としては例えば、「潤滑粘度の油」の項でまさに記載したもののような鉱油または合成油を挙げることができる。
【0097】
以下の実施例を参照することにより本発明を更に理解できる、ただし、実施例は本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【実施例】
【0098】
本発明を限定することなく本発明を説明するために、以下の実施例を記す。特定の態様に関して本発明を記載するが、本出願は、当該分野の熟練者であれば、添付した特許請求の範囲の真意および範囲から逸脱することなく成しうるような様々な変更や置換を包含することを意図するものである。
【0099】
[実施例1]<低TBNスルホネート界面活性剤は腐食摩耗抑制を改善する>
各種のディーゼルシリンダ用潤滑油試料を製造した。それら試料の腐食摩耗を抑制する能力について、ファレックス(商標)ピン及びV形ブロック試験にて測定した。つまり、標準ファレックス(商標)ピン及びV形ブロック潤滑剤試験機(ファレックス・コーポレーション製、イリノイ州オーロラ)で試験を行った。試験は次の二段階で行った:(1)慣らし運転段階、および(2)試験段階。慣らし運転段階の間、試験対象の油試料に浸漬した2個のV形鋼ブロックの間で鋼ピンを回転させた。V形ブロックを、予め決めた445ニュートンの荷重で約900秒間ピンに押し付けた。慣らし運転段階に続いて試験段階を行って、油温度を80℃に保持した。だが、試験段階の間は、V形ブロックを1335ニュートンの荷重でピンに押し付けた。内径0.5mmの管を有するぜん動ポンプを使用して、管の開口部から約1mm離れて位置した試験ピンに、硫酸(濃度3Nの水溶液)を約7.5mL/時の流速で噴霧することにより酸をピンに送り出した。試験段階を約7200秒間続けた。使用したV形ブロックは、AISI C−1137鋼(硬度:HRC20−24、rms)でできた、角度96±1度の標準鋳造V形ブロック(ファレックス・コーポレーション製)であった。使用した試験ピンは、AISI3135鋼(硬度:HRB87−91、rms)製の、外径が6.35mm、長さが31.75mmの標準試験ピンであった(同じくファレックス・コーポレーション製)。試験前と試験段階終了後にピンの質量を測定した。質量損失を用いて摩耗の程度又はレベルを表示した。
【0100】
試料A及びBは各々、潤滑粘度の油、油溶性界面活性物質、高過塩基性スルホネート清浄剤および消泡剤を含有させた。比較試料Cは、TBN17のスルホネート界面活性剤も非過塩基性線状アルキルフェノール界面活性剤も含まなかったこと以外は、試料A又はBと同じ組合せの成分を含有させた。下記第1表に、これら試料の成分を列挙する。
【0101】
ファレックス・ピン及びV形ブロック試験の結果も、第1表に列挙する。このように、低TBNスルホネート界面活性剤を含有した結果として、ディーゼルシリンダ用潤滑油の腐食摩耗に抵抗する能力が実質的に改善された。また、ディーゼルシリンダ用潤滑油が非過塩基性長鎖アルキルフェノール界面活性剤を含有したときも、そのような改善が明らかであった。
【0102】
【表1】

【0103】
[実施例2]<机上での実施例>
試料D及びEの各々を、主要量の潤滑粘度の油および少量の消泡剤を含有するように製造する。試料D及びEに更に、TBN430のカルシウムスルホネート清浄剤をそれぞれ約9.00質量%、約9.30質量%含有させて、各潤滑油組成物のTBNを約40にする。試料Dに、TBN17のスルホネート界面活性剤を約7.71質量%含有させる。試料Eに、非過塩基性線状アルキルフェノール界面活性剤を約6.90質量%含有させる。
【0104】
比較試料Fを、TBN17のスルホネート界面活性剤も非過塩基性線状アルキルフェノール界面活性剤も含まないこと以外は、試料D又はEと同じ成分を含有するように製造する。
【0105】
ファレックス・ピン及びV形ブロック試験にてピンの質量損失を測定する。試料油C及びDの存在下で試験したピンは、比較試料Fの存在下で試験したピンよりも実質的に少ない質量を損失すると予測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分の混合物を含むディーゼルシリンダ用潤滑油組成物:
(a)主要量の潤滑粘度の油、
(b)一種以上の金属含有清浄剤、
(c)一種以上の消泡剤、および
(d)腐食摩耗防止量の一種以上の油溶性界面活性物質、
ただし、潤滑油組成物のTBNは約5乃至約100である。
【請求項2】
TBNが約30乃至約50である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
TBNが約60乃至約80である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
一種以上の油溶性界面活性物質のうちの一種類が、低TBNスルホネート界面活性剤または非過塩基性スルホネート界面活性剤のいずれかである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
低TBNスルホネート界面活性剤が、TBNが約2乃至約20のカルシウムスルホネート界面活性剤である請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
一種以上の油溶性界面活性物質のうちの一種類が、非過塩基性線状アルキルフェノール界面活性剤である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
一種以上の界面活性物質が約2質量%乃至約25質量%の量で存在する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
一種以上の界面活性物質が約4質量%乃至約20質量%の量で存在する請求項7に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
一種以上の界面活性物質が約5質量%乃至約15質量%の量で存在する請求項8に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
潤滑油組成物のTBNの少なくとも90%が、一種以上の金属含有清浄剤により付与される請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
潤滑油組成物のTBNの少なくとも95%が、一種以上の金属含有清浄剤により付与される請求項10に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
一種以上の金属含有清浄剤のうちの一種類が、高過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
一種以上の金属含有清浄剤の量が少なくとも約0.5質量%である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
一種以上の金属含有清浄剤の量が約0.5質量%乃至約30質量%である請求項13に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
一種以上の金属含有清浄剤の量が約3質量%乃至約25質量%である請求項14に記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
一種以上の金属含有清浄剤の量が約5質量%乃至約22質量%である請求項15に記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
一種以上の金属含有清浄剤が、少なくとも二種類の過塩基性金属含有清浄剤の混合物である混成過塩基性金属含有清浄剤である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
さらに、次の成分から選ばれた一種以上の添加剤を含んでいる請求項1に記載の潤滑油組成物:(1)亜鉛含有摩耗防止剤、(2)酸化防止剤、(3)さび止め添加剤、(4)流動点降下剤、(5)抗乳化剤、(6)無灰分散剤、(7)摩擦緩和剤、(8)極圧剤、および(9)多機能添加剤。
【請求項19】
2ストロークディーゼルエンジンのシリンダにおいて腐食摩耗抑制を向上させる方法であって、下記のことを含む方法:
(a)シリンダの表面の少なくとも一部に、請求項1に記載の潤滑油組成物を接触させること、そして
(b)2ストロークディーゼルエンジンを上記潤滑油組成物の存在下で作動させること。
【請求項20】
2ストロークディーゼルエンジンが、低速の舶用ディーゼルエンジンまたは中速の舶用ディーゼルエンジンである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
潤滑油組成物が更に、次の成分から選ばれた一種以上の添加剤を含んでいる請求項19に記載の方法:(1)亜鉛含有摩耗防止剤、(2)酸化防止剤、(3)さび止め添加剤、(4)流動点降下剤、(5)抗乳化剤、(6)無灰分散剤、(7)摩擦緩和剤、(8)極圧剤、および(9)多機能添加剤。
【請求項22】
潤滑油組成物を製造する方法であって、潤滑油組成物のTBNが約5乃至約100となるように、下記の成分をブレンドすることを含む方法:
(a)潤滑粘度の油、
(b)一種以上の金属含有清浄剤、
(c)一種以上の消泡剤、および
(d)一種以上の油溶性界面活性物質。
【請求項23】
潤滑油組成物のTBNが、約30乃至約50または約60乃至約80のいずれかである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
次の成分から選ばれる一種以上の添加剤:(1)亜鉛含有摩耗防止剤、(2)酸化防止剤、(3)さび止め添加剤、(4)流動点降下剤、(5)抗乳化剤、(6)無灰分散剤、(7)摩擦緩和剤、(8)極圧剤、および(9)多機能添加剤を、更に潤滑油組成物にブレンドする請求項22に記載の方法。
【請求項25】
下記の成分を含む油濃縮物:
(a)約20質量%乃至約80質量%の希釈剤、
(b)一種以上の油溶性界面活性物質、
(c)一種以上の金属含有清浄剤、および
(d)一種以上の消泡剤。
【請求項26】
一種以上の界面活性物質のうちの一種類が、低TBNスルホネート界面活性剤である請求項25に記載の油濃縮物。
【請求項27】
一種以上の界面活性物質のうちの一種類が、非過塩基性線状アルキルフェノール界面活性剤である請求項26に記載の油濃縮物。
【請求項28】
2ストロークディーゼルエンジンのシリンダを潤滑にする方法であって、下記のことを含む方法:
(a)請求項25に記載の油濃縮物を、ディーゼルエンジンに用いるディーゼル燃料の硫黄レベルに応じて、適正なTBNの潤滑油組成物にブレンドすること、そして
(b)ディーゼルエンジンを(a)の潤滑油組成物の存在下で作動させること。

【公開番号】特開2008−208336(P2008−208336A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−327851(P2007−327851)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(501381217)シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】