説明

デオキシノジリマイシンおよびD−アラビニトールのアナログおよび使用方法

種々の方法により作製される新規なイミノ糖化合物が提供される。ある場合においては、新規なイミノ糖はデオキシノジリマイシンアナログである。例示の作製方法は、アルデヒドとピペリジニル化合物もしくはピロリジニル化合物との縮合反応を含む。このイミノ糖化合物を使用して、グルコシダーゼを阻害し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、N−アルキル化イミノ糖アナログ、これらの作製、およびこれらの使用に関する。特に、デオキシノジリマイシンおよびD−アラビニトールのアナログ、新規作製方法、このようなアナログを含有する組成物、およびこれらの使用が具体化される。
【背景技術】
【0002】
デオキシノジリマイシン(DNJ)と、この化合物の特定のN−アルキル化修飾物は、強力な小胞体(ER)α−グルコシダーゼIおよびII阻害剤である(T. D. Butters, et al. Molecular Requirements of Imino Sugars for the Selective Control of N-Linked Glycosylation and Glycosphingolipid Biosynthesis,11 Tetrahedron:Asymmetry 113-124(2000))。イミノ糖は、細胞質ゾル中のイミノ糖濃度が細胞外濃度と平衡になるように、原形質膜を急速かつ効率的に横断する(H. R. Mellor, et al., Cellular Effects of Deoxynojirimycin Analogues: Uptake, Retention and Inhibition of Glycosphingolipid Biosynthesis, 381 Biochem. J. 861-866(2004))。
【0003】
細胞質ゾルにおいては、イミノ糖は、シス−ゴルジの細胞質ゾル側でセラミド特異的グルコシルトランスフェラーゼと直接に相互作用して、糖脂質生合成を阻害する。しかしながら、グルコシダーゼ阻害によるN−結合型プロセシングを調節するためには、イミノ糖はER内腔に侵入しなければならない。ERへの侵入の速度は未知であるが、イミノ糖の濃度は、ER内腔中では細胞に外因的に供給される濃度よりもずっと低いと仮定される。このことに対する証拠は、ERグルコシダーゼIの阻害に必要とされる濃度が測定され、精製酵素をインビトロで阻害する濃度の1,000〜10,000倍をしばしば必要とするという実験から得られる(L. A. van den Broek, et al., Synthesis of Oxygen-Substituted N-Alkyl 1-Deoxynojirimycin Derivatives:Aza Sugar α-Glusosidase Inhibitors Showing Antiviral(HIV-I) and Immunosuppressive Activity, 113 Recueil des Travaux Chimiques des Pays-Bas 507-516.(1994))。
【0004】
ERの内腔に接近した後、DNJアナログは、α−グルコシダーゼIおよびIIにより仲介されるグルコース残基の除去を阻害し、ハイパーグルコシル化N−結合型オリゴサッカライドを含有するタンパク質を形成する。このタンパク質は、タンパク質折り畳みの品質管理に関与するシャペロンのカルネキシンおよびカルレティキュリンと相互作用することができなくてもよい(R. G. Spiro, et al., Definition of the Lectin-like Properties of the Molecular Chaperone, Calreticulin, and Demonstration of Its Copurification with Endomannosidase from Rat Liver Golgi, 271 J. Biol. Chem. 11588-11594(1996))。ハイパーグルコシル化グリカンを含むあるタンパク質は、ゴルジ中でエンド−α(l,2)マンノシダーゼによりさらにプロセシングでき、これによってグルコシダーゼ阻害により引き起こされるオリゴサッカライドプロセシングにおける阻止を回避する(K. Fujimoto, K., et al., α-Glucosidase II-deficient Cells Use Endo α-Mannosidase as a Bypass Route for N-linked Oligosaccharide Processing, 266 J. Biol. Chem. 3571-3578(1991); S. E. Moore, et al., Demonstration That Golgi Endo-α-D-mannosidase Provides a Glucosidase-independent Pathway for the Formation of Complex N-Linked Oligosaccharides of Glycoproteins, 265 J. Biol. Chem. 13104-13112(1990))。
【0005】
誤って折り畳まれたタンパク質のERからの除去と、遊離オリゴサッカライド(FOS)の生成は、正常な細胞過程である。カルネキシン依存性もしくはカルレティキュリン依存性の異常に折り畳まれたタンパク質と、ハイパーグルコキシル化された異常に折り畳まれたタンパク質は、Sec6lpチャンネル経由でERから細胞質ゾルの中に最終的に移動され(E.J. Wiertz, et al., Sec6l-mediated Transfer of a Membrane Protein from the Endoplasmic Reticulum to the Proteasome for Destruction, 384 Nature 432-438(1996))、ここでN−結合型オリゴサッカライドが細胞質ゾルペプチドのN−グリカナーゼ(PNGase)(Sec6lpチャンネルと直接的に相互作用していてもしていなくてもよい)により解放されて、FOSを生成する(G. Li, et al., Multiple Modes of Interaction of the Deglycosylation Enzyme, Mouse Peptide N-glycanase, with the Proteasome, 102 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 15809-15814(2005); Spiro, R. G., Role of N-linked Polymannose Oligosaccharides in Targeting Glycoproteins for Endoplasmic Reticulum-associated Degradation,61 Cell Mol. Life Sci.1025-1041(2004))。この、ERから細胞質ゾルへの選択的タンパク質輸送、それに続くプロテアゾーム分解の過程は、ER関連分解(ERAD)として知られている。細胞質中で生成されるFOSは、タンパク質ゾル酵素、例えばエンド−R−Nアセチルグルコサミニダーゼ(EnGNase)(T. Suzuki, et al., Endo-β-N-acetylglucosaminidase, an Enzyme Involved in Processing of Free Oligosaccharides in the Cytosol,99 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 9691-9696(2002))および細胞質ゾルα-マンノシダーゼ(V. A. Shoup, et al. Purification and Characterization of the α-D-Mannosidase of Rat Liver Cytosol,251 J. Biol. Chem. 3845-3852(1976))により作用され、ManGlcNAc(M5N)種を形成し、これは最終的にリソソームに輸送される。しかしながら、伝えられるところによるとグルコシル化されたFOSは分解のためにリソソームに侵入することができず(A. Saint-Pol, et al., Cytosol-to-lysosome Transport of Free Polymannose-type Oligosaccharides, 274 J. Biol. Chem. 13547-13555(1999))、これらグルコシル化FOSの最後はまだ決定されない状態に留まる。GlcManGlcNAcを含む、少ないけれども、検出可能な量の他のFOSがM5Nに加えて細胞中に存在し、ERADに対する正常なデフォルトの経路を説明する(H. R. Mellor et al., Cellular Effects of Deoxynojirimycin Analogues: Inhibition of N-linked Oligosaccharide Processing and Generation of Free Glucosylated Oligosaccharides, 381 Biochem. J. 867-875(2004))。
【0006】
N−結合型オリゴサッカライドのα−グルコシダーゼ仲介の加水分解の速度を決める細胞ベースのERα−グルコシダーゼアッセイの発展は、タンパク質が阻害剤の存在においてER中で折り畳まれる時、生合成経路におけるオリゴサッカライド中間体の重要な原理を明らかにし、タンパク質の誤った折り畳みに対する効果の予測、すなわちウイルス感染性を阻害するための強力な治療法として提案されてきた戦略に使用可能である(R. A. Dwek, et al., Targeting Glycosylation as a Therapeutic Approach,1 Nat. Rev. Drug Discov.65-75(2002))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T. D. Butters, et al.11 Tetrahedron:Asymmetry 113-124(2000)
【非特許文献2】H. R. Mellor, et al., 381 Biochem. J. 861-866(2004)
【非特許文献3】L. A. van den Broek, et al.,113 Recueil des Travaux Chimiques des Pays-Bas 507-516.(1994)
【非特許文献4】R. G. Spiro, et al., 271 J. Biol. Chem. 11588-11594(1996)
【非特許文献5】K. Fujimoto, K., et al., 266 J. Biol. Chem. 3571-3578(1991)
【非特許文献6】S. E. Moore, et al., 265 J. Biol. Chem. 13104-13112(1990)
【非特許文献7】E.J. Wiertz, et al., 384 Nature 432-438(1996)
【非特許文献8】Spiro, R. G., 61 Cell Mol. Life Sci.1025-1041(2004)
【非特許文献9】G. Li, et al., 102 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 15809-15814(2005)
【非特許文献10】T. Suzuki, et al., 99 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 9691-9696(2002)
【非特許文献11】V. A. Shoup, et al., 251 J. Biol. Chem. 3845-3852(1976)
【非特許文献12】A. Saint-Pol, et al., 274 J. Biol. Chem. 13547-13555(1999)
【非特許文献13】H. R. Mellor et al., 381 Biochem. J. 867-875(2004)
【非特許文献14】R. A. Dwek, et al., 1 Nat. Rev. Drug Discov.65-75(2002)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの態様においては、式Iおよび式II
【化1】

の新規イミノ糖化合物が提供され、
式中、Rは
【化2】

であり;
R’は
【化3】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;
Yは存在しないか、またはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;ならびに
Zは結合またはNHから選択され;但し
Zが結合である場合には、Yは存在せず、ならびに
ZがNHである場合には、Yはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;
Z’は結合またはNHである。
【0009】
別の態様においては、式III
【化4】

の化合物を作製するための方法が提供され、この方法は、式IV
【化5】

の化合物を式V
【化6】

の化合物と縮合することを含み、
式中、
R’は
【化7】

であり;
Qは存在しないか、もしくはCHであり、
但しQが存在しない場合には、OWも存在せず;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;ならびに
Z’は結合またはNHから選択される。
【0010】
別の態様においては、α−グルコシダーゼを式I、式II、式IIIの化合物、これらの塩、またはこれらの任意の2つ又はそれ以上の混合物により阻害する方法が提供される。
【0011】
なお別の態様においては、α−グルコシダーゼを式I、式II、式IIIの化合物、これらの塩、またはこれらの塩またはこれらの任意の2つ又はそれ以上の混合物と接触させることにより、オリゴサッカライドからグルコース残基を除去することを阻害する方法が提供される。
【0012】
別の態様においては、ウイルスに感染した哺乳類細胞を式Iの化合物、式IIの化合物、式IIIの化合物、医薬的に許容し得るこれらの塩またはこれらの任意の2つ又はそれ以上の混合物と、ウイルスの阻害に有効な量で接触させることを含む、哺乳類に感染するウイルスを阻害する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、コントロール細胞(a);NAP−DNJ(50μM)で処理された細胞(b);DNP−DNJ(50μM)で処理された細胞(c)、およびNB−DNJ(1mM)で処理された細胞(d)から単離されたFOSに対するNP−HPLCの結果を示す。
【図2】HL60細胞を種々の濃度のNAP−DNJにより24時間処理した後、遊離オリゴサッカライドを単離し、NP−HPLCにより分離したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「AA」はアントラニル酸に対する略号である。
【0015】
「DNJ」はデオキシノジリマイシンに対する略号である。
【0016】
「ER」は小胞体に対する略号である。
【0017】
「ERAD」は小胞体関連分解に対する略号である。
【0018】
「FOS」は遊離オリゴサッカライドを指す略号である。
【0019】
「NAP−DNJ」はN−(N’−{4’アジド−2’−ニトロフェニル)−6−アミノヘキシル)−デオキシノジリマイシンに対する略号である。
【0020】
「NDP−DNJ」はN−(N’− {2,4−ジニトロフェニル)−6−アミノヘキシル)−デオキシノジリマイシンに対する略号である。
【0021】
「NP−HPLC」は順相高性能液体クロマトグラフィに対する略号である。
【0022】
「Tris」はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンに対する略号である。
【0023】
本明細書中で使用される時、「光親和性標識化」は、生体分子と特異的に結合する光化学的に反応性の種が光励起されて、通常中間体経由で生体分子に標識を共有結合的に結合させる手法を指す。
【0024】
一般に、「置換された」は、含有される水素原子に対する1つ又はそれ以上の結合が非水素もしくは非炭素原子に対する結合により置き換えられる、下記に定義するような官能基を指す。置換基は、炭素もしくは水素原子に対する1つ又はそれ以上の結合が二重結合または三重結合を含むヘテロ原子に対する1つ又はそれ以上の結合により置き換えられる基も含む。ある実施形態においては、置換基は、1、2、3、4、5もしくは6個の置換基を有する。置換基の例は、限定ではないが、ハロゲン(すなわち、F、Cl、Br、およびI);ヒドロキシル;アルコキシ基、アルケノキシ基、アルキンオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヘテロ環状オキシおよびヘテロ環状アルコキシ基;カルボニル(オキソ);カルボキシル;エステル;エーテル;ウレタン;オキシム;ヒドロキシルアミン;アルコキシアミン;チオール;スルフィド、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状基およびヘテロ環状アルキルスルフィド基;スルホキシド;スルホン;スルホニル;スルホンアミド;アミン;N−オキシド;ヒドラジン;ヒドラジド;ヒドラゾン;アジド;アミド;ウレア;アミジン;グアニジン;エナミン;イミド;イソシアネート;イソチオシアネート;シアネート;チオシアネート;イミン;およびニトリルを含む。
【0025】
置換環基、例えば置換シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環状基およびヘテロアリール基は、水素原子に対する結合が炭素原子に対する結合により置き換えられる環および縮合環系も含む。それゆえ、置換シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環状基およびヘテロアリール基は、下記に定義するようにアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基によっても置換され得る。
【0026】
アルキル基は、ある実施形態においては1から約20個の炭素原子、他の実施形態においては1から12個の炭素原子、さらに他の実施形態においては1から8個の炭素原子を有する直鎖および分岐のアルキル基とシクロアルキル基とを含む。直鎖アルキル基の例は、限定ではないが、1から8個の炭素原子を含む基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基およびn−オクチル基を含む。分岐アルキル基の例は、限定ではないが、イソプロピル基、イソ−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基および2,2−ジメチルプロピル基を含む。アルキル基は置換もしくは非置換のものであり得る。代表的な置換アルキル基は、上に列挙した基、例えばアミノ基、オキソ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、チオ基、アルコキシ基、およびF基、Cl基、Br基、I基のいずれかにより1回又はそれ以上置換され得る。
【0027】
シクロアルキル基は、環状アルキル基、例えば限定ではないが、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基およびシクロオクチル基である。ある実施形態においては、このシクロアルキル基は3から8個の環員を有し、他の実施形態においては、環炭素原子数は3から5、6または7の範囲である。シクロアルキル基は、単環式、二環式、および多環式環系、例えば下記で述べるような架橋シクロアルキル基、および縮合環、例えば、限定ではないが、デカリニルなどを更に含む。シクロアルキル基は置換もしくは非置換のものであり得る。置換シクロアルキル基は、上記に定義したような非水素および非炭素基により1度又はそれ以上置換され得る。しかしながら、置換シクロアルキル基は、上記に定義したような直鎖もしくは分岐鎖アルキル基により置換されている環も含む。代表的な置換シクロアルキル基は、一置換、もしくは二度以上置換されたもの、例えば限定ではないが、上に列挙した基のいずれか、例えば、メチル基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、チオ基、アルコキシ基、およびF基、Cl基、Br基、I基により置換され得る、2,2−、2,3−、2,4−、2,5−もしくは2,6−二置換シクロヘキシル基であり得る。
【0028】
アルケニル基は、少なくとも1つの二重結合が2個の炭素原子の間に存在するということを除いて、上記に定義したような直鎖および分岐鎖のアルキル基およびシクロアルキル基を含む。このように、アルケニル基は、2から約20個の炭素原子、通常、2から12個の炭素、もしくはある実施形態においては2から8個の炭素原子を有する。例えば、限定ではないが、とりわけビニル、CH=CH(CH)、CH=C(CH、C(CH)=CH、C(CH)=CH(CH)、C(CHCH)=CH、シクロヘキセニル、シクロペンテニル、シクロヘキサジエニル、ブタジエニル、ペンタジエニルおよびヘキサジエニルが含まれる。アルケニル基は置換もしくは非置換のものであり得る。
【0029】
アルキニル基は、少なくとも1つの三重結合が2個の炭素原子の間で存在するということを異にした直鎖および分岐鎖アルキル基を含む。このように、アルキニル基は、2から約20個の炭素原子、通常、2から12個の炭素、もしくはある実施形態においては2から8個の炭素原子を有する。例えば、限定ではないが、とりわけ−C≡CH、−C≡C(CH)、−C≡C(CHCH)、−CHC≡CH、−CHC≡(CH)および−CHC≡C(CHCH)を含む。アルキニル基は置換もしくは非置換のものであり得る。
【0030】
アリール基は、ヘテロ原子を含有しない環状芳香族炭化水素である。アリール基は単環、二環、および多環状の環系を含む。このように、アリール基は、限定ではないが、フェニル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、インダセニル基、フルオレニル基、フェナントレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、ナフタセニル基、クリセニル基、ビフェニル基、アントラセニル基、インデニル基、インダニル基、ペンタレニル基およびナフチル基を含む。ある実施形態においては、アリール基は、6〜14個の炭素、他の実施形態においては、6〜12個の、もしくは更には6〜10個の炭素原子を基の環部分中に含有する。語句「アリール基」は、縮合環、例えば縮合芳香族−脂肪族環系(例えば、インダニル、テトラヒドロナフチルなど)を含有する基を含むが、他の基、例えばアルキル基もしくはハロ基を有する環員の1つに結合したアリール基を含まない。むしろ、基、例えばトリルは置換アリール基と呼ばれる。アリール基は置換もしくは非置換のものであり得る。代表的な置換アリール基は、一置換、もしくは二度以上置換されたものであり得る。例えば、一置換アリール基は、限定ではないが、基、例えば上に列挙した基などにより置換され得る、2−、3−、4−、5−もしくは6−置換のフェニル基もしくはナフチル基を含む。
【0031】
ヘテロ環状基は、1つ又はそれ以上がヘテロ原子、例えば限定ではないが、N、OおよびSである、3個又はそれ以上の環員を含有する芳香族(ヘテロアリールとも呼ばれる)および非芳香族の環化合物を含む。ある実施形態においては、このヘテロ環状基は、1、2、3もしくは4個のヘテロ原子を含有する。ある実施形態においては、ヘテロ環状基は、3から20個の環員を含み、他のこのような基は3から6、10、12または15個の環員を有する。ヘテロ環状基は、不飽和、部分飽和、および飽和の環系、例えばイミダゾリル基、イミダゾリニル基およびイミダゾリジニル基を包含する。語句「ヘテロ環状基」は、縮合した芳香族基および非芳香族基、例えば、ベンゾトリアゾリル、2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]−ジオキシニルおよびベンゾ[1,3]ジオキソリルを含む環を含む、縮合環種を含む。この語句はまた、ヘテロ原子を含有する架橋多環状環系、例えば、限定ではないが、キヌクリジルも含む。しかしながら、この語句は、環員の一つに結合した他の基、例えばアルキル、オキソもしくはハロ基を有するヘテロ環状基を含まない。むしろ、これらは「置換ヘテロ環状基」と呼ばれる。ヘテロ環状基は置換もしくは非置換のものであり得る。ヘテロ環状基は、限定ではないが、ピロリジニル、ピロリニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、ピロリル、ピラゾリル、ピラゾリジニル、テトラヒドロピラニル、チオモルホリニル、ピラニル、トリアゾリル、テトラゾリル、フラニル、テトラヒドロフラニル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾフラニル、ジヒドロベンゾフラニル、インドリル、ジヒドロインドリル、アザインドリル、インダゾリル、ベンズイミダゾリル、アザベンズイミダゾリル、ベンゾキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、イミダゾピリジニル、イソキサゾロピリジニル、チアナフタレニル、プリニル、キサンチニル、アデニニル、グアニニル、キノリニル、イソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、キノキサリニル、キナゾリニル、ベンゾトリアゾリル、2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシニルおよびベンゾ[1,3]ジオキソリル基を含む。代表的な置換ヘテロ環状基は、一置換、もしくは二度以上置換されたもの、例えば限定ではないが、アルキル、オキソ、カルボニル、アミノ、アルコキシ、シアノ、および/またはハロを含む上記に定義した種々の基により2−、3−、4−、5−もしくは6−置換または二置換されているピリジニル基またはモルホリニル基であり得る。
【0032】
アルコキシ基は、水素原子に対する結合が上記に定義したようなアルキル基の炭素原子に対する結合により置き換えられているヒドロキシル基(−OH)である。線状アルコキシ基の例は、限定ではないがメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシなどを含む。分岐アルコキシの例は、限定ではないがイソプロポキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、イソペントキシ、イソヘキソキシなどを含む。環状アルコキシの例は、限定ではないがシクロプロピルオキシ、シクロブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシなどを含む。代表的な置換アルコキシ基は、限定ではないが、アミノ基、オキソ基、アルコキシ基、アルキル基、シアノ基および/またはハロゲン基を含む上記に定義した種々の基により1度又はそれ以上置換され得る。
【0033】
用語「アリールオキシ」および「アリールアルコキシ」は、それぞれ、酸素原子に結合したアリール基と、アルキルにおいて酸素原子に結合したアラルキル基を指す。例えば、限定ではないがフェノキシ、ナフチルオキシ、およびベンジルオキシが含まれる。代表的な置換アリールオキシ基およびアリールアルコキシ基は、限定ではないが、アミノ基、オキソ基、アルコキシ基、アルキル基、シアノ基および/またはハロゲン基を含む、上記に定義した種々の基により1度以上置換され得る。
【0034】
用語「カルボキシレート」は、本明細書中で使用される場合に−COOH基を指す。
【0035】
用語「カルボン酸エステル」は、本明細書中で使用される場合に−COOR30基を指す。R30は、本明細書中で定義するように、置換もしくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状アルキル基もしくはヘテロ環状基である。
【0036】
用語「アミド」は、C−およびN−アミド基、すなわち、それぞれ−C(O)NR3132基、および−NR31C(O)R32基を含む。R31およびR32は、独立に、本明細書中で定義するように、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状アルキル基もしくはヘテロ環状基である。それゆえ、アミド基は、限定ではないが、カルバモイル基(−C(O)NH)およびホルムアミド基(−NHC(O)H)を含む。
【0037】
ウレタン基は、N−およびO−ウレタン基、すなわち、それぞれ−NR33C(O)OR34基および−OC(O)NR3334基を含む。R33およびR34は、独立に、この明細書中で定義するように、水素、または置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状アルキル基もしくはヘテロ環状基である。
【0038】
用語「アミン」は、この明細書中で使用される場合、−NHR35基および−NR3637基を指し、式中、R35、R36およびR37は、この明細書中で定義するように、独立して水素、または置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状アルキル基もしくはヘテロ環状基である。非置換アミンはアミノ基と呼ばれ、式−NHを有する。
【0039】
用語「スルホンアミド」は、S−およびN−スルホンアミド基、すなわち、それぞれ−SONR3839基および−NR38SO39基を含む。R38およびR39は、本明細書中で定義するように、独立に水素、または置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状アルキル基もしくはヘテロ環状基である。それゆえ、スルホンアミド基は、限定ではないがスルファモイル基(−SONH)を含む。
【0040】
用語「チオール」は−SH基を指し、一方、スルフィドは−SR40基を含み、スルホキシドは−S(O)R41を含み、スルホンは−SO42基を含み、ならびにスルホニルは−SOOR43を含む。R40、R41、R42およびR43は、この明細書中で定義するように、各々独立に置換もしくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状基もしくはヘテロ環状アルキル基である。
【0041】
用語「ウレア」は−NR44−C(O)−NR4546基を指す。R44基、R45基およびR46基は、この明細書中で定義するように、独立に水素、または置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状基もしくはヘテロ環状アルキル基である。
【0042】
用語「アミジン」は−C(NR47)NR4849基および−NR47C(NR48)R49基を指し、式中、R47、R48およびR49はこの明細書中で定義するように、各々独立に水素、または置換もしくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状基もしくはヘテロ環状アルキル基である。
【0043】
用語「グアニジン」は−NR50C(NR51)NR5253基を指し、式中、R50、R51、R52およびR53はこの明細書中で定義するように、各々独立に水素、または置換もしくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状基もしくはヘテロ環状アルキル基である。
【0044】
用語「エナミン」は−C(R54)=C(R55)NR5657基および−NR54C(R55)=C(R56)R57基を指し、式中、R54、R55、R56およびR57はこの明細書中で定義するように、各々独立に水素、置換もしくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状基もしくはヘテロ環状アルキル基である。
【0045】
用語「イミド」は−C(O)NR58C(O)R59基を指し、式中、R58およびR59がこの明細書中で定義するように、各々独立に水素、または置換もしくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状基もしくはヘテロ環状アルキル基である。
【0046】
用語「イミン」は−CR60(NR61)基および−N(CR6061)基を指し、式中、R60とR61の両方が同時に水素でないという前提で、R60およびR61がこの明細書中で定義するように、各々独立に水素、または置換もしくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環状基もしくはヘテロ環状アルキル基である。
【0047】
他の用語は、上記の定義により包含される具体的な基の組み合わせを指し得る。次の用語は、限定的であるように意図されていないが、基のある組み合わせの記述に使用され得る。アルカノイルは直鎖もしくは分岐鎖のアルキルカルボニル基を指す。アロイルはアリールカルボニル基を指す。ハロアルキルは、ハロゲンがフッ素、塩素、臭素またはヨウ素から選択される、1つ又はそれ以上のハロゲン置換基を有するアルキルを指す。ハロアルカノイルは、1つ又はそれ以上のハロゲンにより置換されているアルカノイル基を指す。ヒドロキシアルキルは、1つ又はそれ以上のヒドロキシル(OH)基により置換されているアルキル基を指す。ヒドロキシアルケニルは、1つ又はそれ以上のヒドロキシル基により置換されているアルケニル基を指す。チオアルキルは、1つ又はそれ以上のチオール基により置換されているアルキルを指す。アルコキシアルケニルは、1つ又はそれ以上のアルキルエーテル基により置換されているアルケニル基を指す。アルコキシアルキルは、少なくとも1つのエーテル基を有するアルキルを指す。アルコキシアルコキシアルキルは、アルコキシ基により置換され、したがって2つ又はそれ以上のエーテル基を有するアルコキシアルキル基を指し、オキサアルキルは、一般に、例えばアルコキシアルキル、アルコキシアルコキシアルキル、アルコキシアルコキシアルキルなどの基を指す。ヒドロキシアルキルアルコキシアルキルは、少なくとも1つのヒドロキシアルキル基により置換されているアルコキシアルキル基を指す。ヘテロ環状アルキルは、1つ又はそれ以上の水素原子が置換もしくは非置換のヘテロ環状基により置き換えられているアルキル基を指す。シクロアルキルアルキルは、シクロアルキル基により置換されているアルキル基を指す。個別の基の他の組み合わせは当業者には容易に明白となる。
【0048】
互変異性体も含まれる。互変異性体の非限定的な例は、ケト/エノール互変異性体、イミノ/アミノ互変異性体、N−置換イミノ/N−置換アミノ互変異性体、チオール/チオカルボニル互変異性体、および環−鎖互変異性体、例えばヘテロ原子に対してアルファ位の置換基も含有する5員環および6員環の酸素、窒素、硫黄、または酸素および硫黄含有ヘテロ環である。また、この明細書中で述べられている化合物のエナンチオマーおよびジアステレオマー、ならびにラセミ体および異性体混合物も特に含まれる。
【0049】
一つの態様においては、DNJの新規な化合物が提供される。一つの実施形態においては、式I
【化8】

の化合物が提供され、
式中、Rは
【化9】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;
Yは存在しないか、もしくはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;ならびに
Zは結合またはNHから選択され;但し
Zが結合である場合には、Yは存在せず、および
ZがNHである場合には、Yはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基である。
【0050】
ある実施形態においては、Rは1から8個の炭素原子を有する非置換もしくは置換のアルキル基である。他の実施形態においては、ZはNHである。なお他の実施形態においては、XおよびXはNOであり、X、X、およびXはHである。なお更なる実施形態においては、XはNOであり、XはNであり、X、X、およびXはHである。なお他の実施形態においては、W1−4はすべて水素であり、更なる実施形態においては、YはCHである。
【0051】
ある実施形態においては、式Iの化合物は、式IA
【化10】

の化合物の構造を有する。
他のこのような実施形態においては、式IAの化合物はN−(N’−(4’−アジド−2’−ニトロフェニル)−6−アミノヘキシル)−デオキシノジリマイシンである。他のこのような実施形態においては、式IAの化合物はN−(N’−(2’,4’−ジニトロフェニル)−6−アミノヘキシル)−デオキシノジリマイシンである。
【0052】
別の態様においては、式Iの化合物の組成物も提供される。このような組成物は医薬的に許容し得るキャリアを含む。
【0053】
別の態様においては、D−アラビニトールの新規な化合物が提供される。一つの実施形態においては、式II
【化11】

の化合物が提供され、
式中、R’は
【化12】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−3は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;ならびに
Z’は結合またはNHから選択される。
【0054】
ある実施形態においては、Rは1から8個の炭素原子を有する置換もしくは非置換のアルキル基である。他の実施形態においては、Z’はNHである。なお他の実施形態においては、XおよびXはNOであり、X、X、およびXはHである。なお更なる実施形態においては、XはNOであり、XはNであり、X、X、およびXはHである。なお更なる実施形態においては、W1−3はすべて水素である。
【0055】
ある実施形態においては、式IIの化合物は、式IIA
【化13】

の化合物の構造を有する。
例えば、式IIAの化合物は、Rが−(CH−であり;W1−3がHであり;XがNOであり;XがNであり;X、X、およびXがHであり;ならびにZ’がNHである化合物と、Rが−(CH−であり;W1−3がHであり;XおよびXがNOであり;X、X、およびXがHであり;ならびにZ’がNHである化合物を含む。
【0056】
別の態様においては、式IIの化合物の組成物も提供される。このような組成物は医薬的に許容し得るキャリアを含む。
【0057】
別の態様においては、DNJのアナログ及びD−アラビニトールのアナログを作製するための方法が提供される。このように、ある実施形態においては、式III
【化14】

の化合物を作製することを含む方法が提供され、この方法は、式IV
【化15】

の化合物を、式V
【化16】

の化合物と縮合することにより、
式中、R’は
【化17】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;
Z’は結合またはNHから選択され;ならびに
Qは存在しないか、もしくはCHであり、
但し、Qが存在しない場合には、OWも存在しない。
この方法のある実施形態においては、この縮合は、式VIの化合物を式Vの化合物により還元的にアミノ化することによるものである。
【0058】
他の実施形態においては、式IVの化合物は、式VI
【化18】

の化合物をHO−R−NHにより芳香族フッ素置換して、式VII
【化19】

の化合物を形成し、式VIIの化合物を酸化して、式IVの化合物を得ることにより作製される。
【0059】
他の実施形態においては、式IVの化合物は、式VIII
【化20】

の化合物(式中、X’はClまたはBrから選択される)を還元することにより作製される。式VIIIの化合物は、当業者に公知の方法により市販の前駆体化合物から作製され得る。非限定的な例として、4−フェニル酪酸は、2,4−ジニトロフェニル酪酸に変換され、続いて4−ニトロ基をアミンに還元し、2−ニトロ−4−アジドフェニル酪酸に変換され得る。次に、対応するアルデヒド、すなわち式IVの化合物は、2−ニトロ−4−アジドフェニル酪酸を対応する酸クロリドに変換し、続いて当分野で周知の方法にしたがってアルデヒドに還元することにより作製される。
【0060】
ある実施形態においては、式IIIの化合物は、式IIIA
【化21】

の化合物の構造を有する。
【0061】
上述のように、DNJ、D−アラビニトール、およびこれらのN−アルキル化修飾物は強力なα−グルコシダーゼ阻害剤である。このように、他の本発明の別の態様においては、α−グルコシダーゼを式IおよびIIの化合物により阻害するための方法が提供される。ある実施形態においては、この方法は、α−グルコシダーゼを式Iもしくは式II
【化22】

の化合物またはそれらの塩、またはこれらの任意の2つ又はそれ以上の混合物により阻害することを含み、
式中、Rは
【化23】

であり;
R’は
【化24】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;
Yは存在しないか、またはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;
Zは結合またはNHから選択され;但し
Zが結合である場合には、Yは存在せず、および
ZがNHである場合には、Yはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;ならびに
Z’は結合またはNHである。
この方法のある実施形態においては、RまたはRは1から8個の炭素原子を有する。他の実施形態においては、XおよびXはNOであり、X、X、およびXはHである。なお他の実施形態においては、XはNOであり、XはNであり、X、X、およびXはHである。なお更なる実施形態においては、YはCHである。
【0062】
この方法のある実施形態においては、α−グルコシダーゼはα−グルコシダーゼIまたはα−グルコシダーゼIIから選択される。
【0063】
他のこのような実施形態においては、この化合物の塩は医薬的に許容し得る塩である。ある実施形態においては、この塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはこれらの任意の2つ又はそれ以上の混合物である。他の実施形態においては、この塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、有機塩基塩または塩基性四級アンモニウム塩などまたはこれらの任意の2つ又はそれ以上の混合物から選択される。
【0064】
他の実施形態においては、式Iの化合物は式IA
【化25−1】

の化合物の構造を有し、式IIの化合物は式IIA
【化25−2】

の化合物の構造を有する。
【0065】
ある実施形態においては、α−グルコシダーゼを阻害する方法は、この化合物をα−グルコシダーゼの存在において光分解することを更に含む。ある実施形態においては、α−グルコシダーゼは、標識化された基質の存在下で阻害され得る。例えば、この明細書中で述べられている化合物と、放射性標識、例えば14C標識を有するこれらのアナログ(H. R. Mellor et al., Preparation, Biochemical Characterisation and Biological Properties of Radiolabelled N-alkylated Deoxynojirimycins,336 Biochem. J. 225-233(2002))は、細胞中のα−グルコシダーゼに選択的に結合でき、次に照射により活性化されて、α−グルコシダーゼの活性部位においてアミノ酸残基の中に共有結合的に挿入し得る、高反応性種を形成し得る。これは、スキームIで例示するようにアジド化合物の例において達成でき、この場合、アジド化合物を光活性化してナイトレンを生成し、このナイトレンが次いでアミノ酸と反応してヒドラジド化合物を形成する。電子吸引性基が芳香族環(Ar)上に存在する場合には、アリールナイトレンは、別のアリールナイトレンに対するよりも、求核性物質に対してより反応性である。このように、求核性基(例えばリジン中のε−アミノ基)を有するアミノ酸(RAA)を含有するタンパク質を標識化する場合には、競合する分子内反応よりも分子間反応が優先される。
【化26】

スキームI:生体分子中でのアジドからのナイトレンの形成およびアミノ基の共有結合性標識化
【0066】
本発明の別の態様においては、α−グルコシダーゼを、式Iもしくは式II
【化27】

の化合物またはこれらの塩、またはこれらの任意の2つ又はそれ以上の混合物と接触させることにより、グルコース残基をオリゴサッカライドから除去することを阻害することを含む方法が提供され、
式中、Rは
【化28】

であり;
R’は
【化29】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;
Yは存在しないか、またはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;
Zは結合またはNHから選択され;但し
Zが結合である場合には、Yは存在せず、および
ZがNHである場合には、Yはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;ならびに
Z’は結合またはNHである。
【0067】
DNJおよびD−アラビニトールのN−アルキル化修飾物、例えばN−ブチル−DNJは抗ウイルス性剤として使用され得る。このように、本発明の別の態様においては、ウイルスにより感染された哺乳類細胞を式Iもしくは式II
【化30】

の化合物または医薬的に許容し得るこれらの塩、またはこれらの任意の2つ以上の混合物と、ウイルスの阻害に有効な量で接触させることを含む、哺乳類に感染するウイルスを阻害するための方法が提供され、
式中、Rは
【化31】

であり;
R’は
【化32】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;
Yは存在しないか、またはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;
Zは結合またはNHから選択され;但し
Zが結合である場合には、Yは存在せず、
ZがNHである場合には、Yはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;ならびに
Z’は結合またはNHである。
【0068】
ある実施形態においては、このウイルスは、ウイルスのフラビ・ウイルス科に属するウイルスである。このウイルスは、限定ではないが、肝炎ウイルス、例えば肝炎Bウイルスもしくは肝炎Cウイルス、またはウシウイルス性下痢ウイルスから選択され得る。このような実施形態においては、ウイルスの阻害に有効な量は、肝炎ウイルス、肝炎Bウイルス、肝炎Cウイルスまたはウシ下痢症ウイルスの阻害に有効な量である。別の実施形態においては、式IおよびIIの化合物は、単独、または当業者に公知のヌクレオチド抗ウイルス性化合物、ヌクレオシド抗ウイルス性化合物、免疫賦活化化合物、免疫調節性化合物もしくはこれらの任意の2つ以上の混合物との組み合わせで接触され得る。ある実施形態においては、この接触は、式IもしくはIIの化合物を哺乳類に投与することをさらに含む。ある実施形態においては、哺乳類細胞はヒト細胞である。なお他の実施形態においては、この接触は、式IもしくはIIの化合物をヒトに投与することを含む。
【0069】
この開示の目的で、ならびに特記しない限り、「単数(”a”または”an”)」は「1つ以上」を意味する。
【0070】
当業者ならば述べられているすべての範囲がすべての目的ですべての下位範囲を記述することができ、必然的に記述しているということ、ならびにすべてのこのような下位範囲もまた本発明の一部を形成するということを容易に認識する。列挙されているいずれの範囲も、少なくとも同等の2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに細分化される同一の範囲を十分に記述し、有効とせしめるものとして容易に認識可能である。非限定的な例として、この明細書中で述べられる各範囲は、低位の3分の1、中位の3分の1、および高位の3分の1に容易に細分化可能である。
【0071】
本明細書中の全ての刊行物、特許出願、登録特許および他の文書は、それら各個別の刊行物、特許出願、登録特許および他の文書が個々に全体で参照として組み込まれることを特定かつ個別に示されているように、この明細書中に参照として組み込まれる。参照により組み込まれている文章中に含まれる定義は、この開示中の定義に矛盾する範囲まで除外される。
【0072】
本発明は、このように一般的に述べられたが、例示として提供されならびに本発明の限定とは意図されていない、次の実施例を参照することにより更に容易に理解されるであろう。
【実施例】
【0073】
実施例1
N−(N’−(4’アジド−2’−ニトロフェニル)−6−アミノヘキシル)−DNJ(NAP−DNJ)の合成
4−フルオロ−3−ニトロフェニルアジド(FNAP)中の芳香族フッ素を6−アミノヘキサノールにより直接置換することによって、所望のアルコールを作製し、これをアルデヒドに酸化する。スキームIIに示すように、得られたアルデヒドをDNJによる還元的アミノ化にかけて、最終生成物を得る。
【化33】

スキームII:(i)トリエチルアミン(2.2当量)、1,4−ジオキサン、室温、2時間、55%;(ii)Dess−Martin(1.2当量)、DCM、室温、2時間、95%;および(iii)DNJ、NaCNBH3(1.5当量)、AcOH、MeOH、室温、14時間、定量的収率。
【0074】
Hおよび13C NMRと質量分析法を用いて、NAP−DNJのキャラクタリゼーションを行った。ID(Hおよび13C)NMRからの結果を表1に示し、COSYおよびNOESYの結果を下記に示す。H NMRは任意であり、13C NMRはメタノール(49.0ppm)を参照としたものである。
【表1】

【0075】
H−HCOSY実験:C1H/H’−C2H−C3H−C4H−C5H−C6H/H’;C7H/H’−C8H−C9H−C10H−C11H−C12H;C15H−C17H−C18H。これにより、この芳香族環は1,2,4−置換であり、C7は結合しているか、もしくは剛直な環の一部である。
【0076】
NOESY実験(400msec):C7H→C1H(138)、C6H/H’(343);C7H’→C6H/H’(325);C12H→C18H。環の周りの大きな結合定数は、C1H’、C2H、C3H、C4H、およびC5Hがすべてトランスジ−アキシャルであるということを示唆する。これは、この環がグルコースの立体構造を有すること、すなわち、DNJであることを示す。C7H/H’からC1H/H’およびC6H/H’までのNOESは、C12が芳香族環に結合し、おそらくC18にオルト位の環位置にあるということを示す。
【0077】
分光法:[α]22−7.7(c0.026,MeOH);νmax(Ge)3356(NH+OH)、2926、2856(CH)、2119(N)、1633、1556(C=C)、1521、1347(NO)cm−1
質量分析法:m/z(ES+):425.33([M+H],100%);HRMS(ES+):実測値425.2152([M+H])、計算値426.2149。
【0078】
実施例2
N−(N’−(2,4−ジニトロフェニル)−6−アミノヘキシル)−DNJ(NDP−DNJ)の合成
2,4−ジニトロフルオロベンゼン(サンガー試剤)中の芳香族フッ素を6−アミノヘキサノールにより直接置換することによって、所望のアルコールを作製し、これをアルデヒドに酸化する。得られたアルデヒドをDNJによる還元的アミノ化にかけて、最終生成物を得る(スキームIII)。
【化34】

スキームIII:(i)トリエチルアミン(1.1当量)、1,4−ジオキサン、室温、1時間、97%;(ii)Dess−Martin(1.2当量)、DCM、室温、2時間、76%;(iii)DNJ、NaCNBH3(1.2当量)、AcOH、MeOH、室温、16時間、52%。
【0079】
NDP−DNJのキャラクタリゼーションを行い、結果を下記に示す。
【0080】
δ(500.3MHz、MeOD):1.33−1.58(6H,m,H−3’ab,H−4’ab,H−2’ab)、1.77(2H,a−quin,J7.4Hz,H−5’ab)、2.11(1H,a−dt,J5,49.5Hz,J2.8Hz,H−5)、2.16(1H,a−t,J10.8Hz,H−1a)、2.54−2.61(1H,m,H−l’a)、2.79−2.85(1H,m,H−l’b)、2.98(1H,dd,J1b,1a11.2Hz,J1b,24.9Hz,H−1b)、3.12(1H,a−t,J9.1Hz,H−3)、3.33(1H,a−t,J9.3Hz,H−4)、3.46(1H,ddd,J2,la10.4Hz,J2,39.2Hz,J2,lb4.9Hz,H−2)、3.50(2H,a−t,J7.2Hz,H−6’)、3.82(1H,dd,J6a,6b11.9Hz,J6a,52.9Hz,H−6a)、3.86(1H,dd,J6b,6a11.9Hz,J6b,52.7Hz,H−6b)、7.16(1H,d,J6”,5”9.6Hz,H−6”)、8.28(1H,dd,J5”,6”9.6Hz,J5”,3”2.7Hz,H−5”)、9.03(1H,d,J3”,5”2.7Hz,H−3”)。
【0081】
δ(125.8MHz,MeOD):25.2(C−2’)、27.9(C−4’)、28.3(C−3’)、29.7(C−5’)、44.2(C−6’)、53.7(C−1’)、57.7(C−1)、59.6(C−6)、67.5(C−5)、70.8(C−2)、72.1(C−4)、80.6(C−3)、115.8(C−6”)、124.8(C−3”)、131.1(C−5”)、131.5(C−1”)、136.9(C−2”)、149.8(C−4”)。
【0082】
分光法:[α]22−7.9(c0.14,MeOH);νmax(Ge)3356(OH+NH)、1572、1339(NO)cm−1。質量分析法:m/zHRMS(ESI):実測値429.1973、C1829[M+H]計算値429.1985。
【0083】
実施例3
N−(アルキルフェニル)−DNJ誘導体の合成
下記でスキームIVに示すように、N−アルキルフェニル−DNJ化合物をフェニルカルボン酸から作製することができる。スキームIVにおいては、4−フェニル酪酸を2,4−ジニトロフェニル酪酸に変換し、続いて4−ニトロ基をアミンに還元し、2−ニトロ−4−アジドフェニル酪酸に変換する。次に、2−ニトロ−4−アジドフェニル酪酸を対応する酸クロリドに変換し、続いてアルデヒドに還元することにより、このアルデヒドを作製することができる。得られたアルデヒドをDNJによる還元的アミノ化にかけて、最終生成物を得る。別法としては、D−アラビニトールをDNJの代わりに使用して、対応するD−アラビニトール化合物を生成させ得る。
【化35】

スキームIV:C−フェニル−DNJ誘導体の合成
【0084】
実施例4
公知の方法(H. R. Mellor et al., Cellular Effects of Deoxynojirimycin Analogues: Inhibition of N-linked Oligosaccharide Processing and Generation of Free Glucosylated Oligosaccharides,381 Biochem. J. 867-875(2004))を改変することによるアッセイ方法を用いて、細胞に及ぼすER−グルコシダーゼ阻害剤の効果を評価した。細胞質ゾル中で分解される誤って折り畳まれたタンパク質を生成するイミノ糖処理の後の遊離オリゴサッカライドの検出は、細胞内ER侵入およびイミノ糖によるα−グルコシダーゼIおよびIIの糖タンパク質プロセシングの阻害の正確な尺度である。
【0085】
NB−DNJを種々の濃度で含有する新鮮な培地中での生長の前に細胞を高密度(1×10細胞/ml)まで培養した。インキュベーション期間の終わりに高密度を得るように、この細胞を低密度で播種した。細胞培養に続いて、培地を除去し、細胞を遠心分離によりPBSで3回洗浄した。洗浄された細胞を−20℃で短時間貯蔵し、その後で解凍し、水中でガラスホモジナイズした。FOSを抽出するための条件を求めて、FOSの回収を最大とした。本質的に、0.4mlのAG3−X4(OH-、100〜200メッシュ)上の混合床イオン交換カラム(0.2ml AG5OW−XI2(H、100〜200メッシュ)に通すことにより、このホモジネートを脱塩、脱タンパク質化し、水(5×1ml)により予備平衡化した。このホモジネートをカラムに添加し、4×1mlの水により洗浄し、溶離液を捕集する。次に、抽出された精製FOSを真空下で、もしくは凍結乾燥により乾燥する。
【0086】
当分野で公知の方法(D. C. Neville, et al, Analysis of Fluorescently Labeled Glycosphingolipid-Derived Oligosaccharides Following Ceramide Glycanase Digestion and Anthranilic Acid Labeling,331, Anal. Biochem. 275-282(2004))によりFOSをアントラニル酸で標識した。手短に述べると、アントラニル酸(30mg/ml)をメタノール中の酢酸ナトリウム三水和物(4%、w/v)およびホウ酸(2%、w/v)の溶液に溶解した。この溶液を固体ナトリウムシアノボロヒドリドに添加して、45mg/mlの最終濃度を得た。生成溶液を混合して、最終標識化混合物を得た。乾燥したFOSを30μl水に溶解し、80μlの標識化混合物を添加し、その後で80℃で45〜60分間インキュベートした。この反応物を室温まで冷却し、1mlのアセトニトリル/水(97:3、v/v)を添加し、混合物をボルテックスした。標識化されたオリゴサッカライドをDiscovery DPA−6Sカラムのクロマトグラフィにより精製した。このカラムを2×1mlのアセトニトリルにより予備平衡化した。重力流を用いてこの試料をロードし、カラムを通して滴下した。このカラムを4×1mlのアセトニトリル/水(99:1、v/v)により、続いて0.5mlのアセトニトリル/水(97:3、v/v)により洗浄した。標識化されたオリゴサッカライドを2×0.6mlの水により溶離した。
【0087】
Concanavalin A(Con A)−Sepharose 4Bカラム(100μl充填樹脂)を用いて、pH7.2の50mMのTris/HCl緩衝液中の標識化されたオリゴサッカライドを精製した。2×1mlの水、続いて水中の1mlの1mM MgCl、1mM CaCl、および1mM MnCl、および最終的にpH7.2の2×1mlの50mM Tris/HCl緩衝液によりこのカラムを予備平衡化した。試料を添加し、カラムと30分間相互作用させ、その後2×1mlのpH7.2の50mM Tris/HCl緩衝液により洗浄した。次に、Con Aと結合したFOSをpH7.2の50mM Tris/HCl緩衝液中の2×1mlの熱(70℃)0.5Mメチル−α−D−マンノピラノシドにより溶離した。
【0088】
公知の方法(D. C. Neville, et al)に若干の改変を加えた4.6×250mm TSKgel Amide−80カラム(Anachem、Luton、UK)を用いるNP−HPLCにより、ConA−Sepharoseで精製した2−AA−標識化されたオリゴサッカライドを分離した。このクロマトグラフィ系は、Waters Alliance 2695分離モジュールと、360nmの励起波長と425nmの発光波長に設定されたインラインWaters 474蛍光検出器からなるものであった。すべてのクロマトグラフィを30℃で行った。第1の溶媒の溶媒Aはアセトニトリルであり、第2の溶媒の溶媒BはMilli−Q水であった。溶媒Cは酢酸によりpH3.85まで滴定されたMilli−Q水中の100mM水酸化アンモニウムから構成され、標準の5N水酸化アンモニウム溶液(Sigma)を用いて作製されたものであった。勾配条件は次の通りであった。時間=0分(t=0)、71.6% A、8.4% B、20% C(0.8ml/分);t=6、71.6% A、8.4% B、20% C(0.8ml/分);t=40、52% A、28% B、20% C(0.8ml/分);t=41、23% A、57% B、20% C(1ml/分);t=43、23% A、57% B、20% C(1ml/分);t=44、71.6% A、8.4% B、20% C(1.2ml/分);t=59、71.6% A、8.4% B、20% C(1.2ml/分);t=60、71.6% A、8.4% B、20% C(0.8ml/分)。試料(<50μl)をMilli−Q水/アセトニトリル(3/7、v/v)に注入した。Waters Empowerソフトウエアを用いて、データ収集および処理を含めてすべてのクロマトグラフィを制御した。Peak Timeソフトウエア(インハウスでの開発品)を用いて、2−AA−標識化されたグルコースオリゴマーラダー(デキストランの部分加水分解物から抽出された)外部標準との比較にしたがってグルコース単位を定量した。
【0089】
精製α−グルコシダーゼIおよびIIを公知の方法によりラット肝臓から精製した(G. B. Karlsson, et al., Effects of the Imino Sugar N-Butyldeoxynojirimycin on the N-Glycosylation of Recombinant gp120,268 J. Biol. Chem., 570-576(1993))。グルコシダーゼ阻害剤としてNB−DNJにより処理された細胞から生じるFOSの単離から基質を作製し、HPLCにより精製した。2−AA−標識化されたFOSを単離し、α−グルコシダーゼIもしくはII用の基質として精製した。蛍光標識化された基質GlcManGlcNAc(G1M5N)、GlcManGlcNAc(G2M5N)、GlcManGlcNAc(G3M5N)、およびGlcManGlcNAc(G3M9N2)を添加して、種々の濃度のイミノ糖の1.5ml遠心分離管を分離し、真空下で乾燥した。十分なα−グルコシダーゼIを添加して、30分の反応時間でG3M5Nの25%加水分解を生じさせた。同様に、α−グルコシダーゼIIをG2M5Nと共に2時間、G1M5Nと共に20分インキュベートした。すべての場合、インキュベーションの時間にわたって基質の線形分解が起こった。30μlのアセトニトリルを添加することにより、反応を停止した。酵素処理に続いて、HPLC分析の前にすべての消化液を10,000分子量のカットオフフィルタ(150μlの水により事前に洗浄されたもの)から7,000rpmで45分間上述のように遠心分離して、タンパク質を除去し、上記のようにHPLCにより分析した。
【0090】
実施例1〜3の結果
α−グルコシダーゼIおよびIIのインビトロ阻害
下記に示すように2−AAにより標識化されたα−グルコシダーゼIおよびα−グルコシダーゼII基質に対する阻害剤濃度の範囲を用いて、IC50値を生成した。N−ブチル−DNJ(NB−DNJ)による阻害を比較で示す。
【化36】

【0091】
これらのデータによって、NAP−DNJによる阻害がα−グルコシダーゼII(a)もしくは(b)活性それぞれよりもα−グルコシダーゼIに対して20および50倍良好であったということが明白となる。α−グルコシダーゼIの阻害はNB−DNJと比較して40倍改善した。しかしながら、これらの構造は、細胞によってはFOSとして見られるのみであり、更に生理学的に関連するERに局所化された基質を分析した。
【化37】

【0092】
これらのデータによって、生理学的に見出されるものに類似したマンノース構造を持つ基質がグルコシダーゼ阻害に対する明白な区別を示すということが明白となる。NAP−DNJは、グルコシダーゼIの阻害においてグルコシダーゼII(a)よりも300倍以上、グルコシダーゼII(b)よりも500倍以上強力である。NDP−DNJについて類似の改善も観察された。ER中のグルコシダーゼにより通常変成されるオリゴサッカライド基質と共に最終のインビトロ実験を行った。
【化38】

【0093】
これらのデータによって、阻害剤に対するIC50値がトリグルコシル化基質のグルコシダーゼI仲介の加水分解に対してマンノース構造に依存的ではなく、グルコシダーゼIIが依存的であり得るということが明白となる。これは、生理学的に関連する基質を用いて、NAP−DNJがすべてのトリグルコシル化構造の阻害においてNB−DNJよりも25〜50倍良好であり、グルコシダーゼIの阻害においてグルコシダーゼII(a)および(b)活性よりも300〜500倍良好であるということを示し得る。
【0094】
細胞中でのグルコシダーゼ活性の阻害
HL60細胞を種々の濃度のNAP−DNJ、DNP−DNJ、およびNB−DNJ(阻害剤リフェレンスとして)と共に24時間インキュベートし、遊離オリゴサッカライドを単離し、標識付けし、ならびにNP−HPLC(図1)によりキャラクタリゼーションした。図1は、コントロール細胞(a);NAP−DNJ(50μM)処理細胞(b);DNP−DNJ(50μM)処理細胞(c)、およびNB−DNJ(1mM)処理細胞(d)から単離されたFOSに対するNP−HPLC結果を示す。質量分析法と、精製グルコシダーゼおよびマンノシダーゼを用いて消化することにより構造を特定化した公知の、精製された標準に参照することにより、ピークを割り当てた。
【0095】
これらのデータによって、細胞中でNAP−DNJがグルコシダーゼIの阻害(グルコシダーゼI阻害の生成物、G3M5Nの評価)においてNB−DNJよりもかなり強力(20〜50倍)であるということが明白となる。グルコシダーゼIおよびIIの相対的な阻害に及ぼすNAP−DNJ濃度の影響を図2に示す。図2は、HL60細胞を種々の濃度のNAP−DNJにより24時間処理した後、遊離オリゴサッカライドを単離し、NP−HPLCにより分離したグラフである。グルコシダーゼI(G3M5N)とグルコシダーゼII(b)(G1M5N)の阻害に対応するピーク面積を測定し、グルコシダーゼ阻害により影響を受けず、内部マーカーとして使用されるM4、遊離オリゴサッカライドの量に対して正規化した。タンパク質の量に対する正規化は同一の結果を与えた。
【0096】
これらのデータは、グルコシダーゼに対するNAP−DNJの相対的な効力を示す。NAP−DNJは、インビトロアッセイを用いるグルコシダーゼIIに対する見かけ上の効力が弱いにも拘わらず、細胞中で極めて低濃度(1〜10μM)で酵素を阻害する。グルコシダーゼIは、NAP−DNJ量の増加により50〜100μMでの最大量まで阻害され、グルコシダーゼIIに対する使用可能な基質を低下させ、これは観察される量で減少する(図2)。
【0097】
一部の実施形態を例示し、説明したが、当分野の通常の技術にしたがえば変更および改変が、特許請求の範囲で定義するような更に幅広い態様において、本発明から逸脱することなく実施可能であるということを理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化39】

の化合物であって、
式中、Rは
【化40】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;
Yは存在しないか、またはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;ならびに
Zは結合またはNHから選択され;但し
Zが結合である場合には、Yは存在せず、および
ZがNHである場合には、Yはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基である、
化合物。
【請求項2】
が1から8個の炭素原子を有する非置換もしくは置換のアルキル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
ZがNHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
およびXがNOであり;ならびに
、XおよびXがHである、
請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
がNOであり;
がNであり;ならびに
、XおよびXがHである、
請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
1−4がHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
YがCHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
式Iの化合物が式IA
【化41】

の化合物の構造を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
が−(CH−であり;
1−4がHであり;
がNOであり;
がNであり;
、XおよびXがHであり;
Yが−(CH)−であり;ならびに
ZがNHである、
請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
が−(CH−であり;
1−4がHであり;
およびXがNOであり;
、XおよびXがHであり;
Yが−(CH)−であり;ならびに
ZがNHである、
請求項8に記載の化合物。
【請求項11】
請求項1に記載の化合物および医薬的に許容し得るキャリアを含む組成物。
【請求項12】
式II
【化42】

の化合物であって、
式中、R’は
【化43】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−3は独立に水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基であり;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;ならびに
Z’は結合またはNHから選択される、
化合物。
【請求項13】
が1から8個の炭素原子を有する非置換もしくは置換のアルキル基である、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
Z’がNHである、請求項12に記載の化合物。
【請求項15】
およびXがNOであり;ならびに
、X、およびXがHである、
請求項12に記載の化合物。
【請求項16】
がNOであり;
がNであり;ならびに
、X、およびXがHである、
請求項12に記載の化合物。
【請求項17】
1−3がすべてHである、請求項12に記載の化合物。
【請求項18】
式IIの化合物が式IIA
【化44】

の化合物の構造を有する、請求項12に記載の化合物。
【請求項19】
が−(CH−であり;
1−3がHであり;
がNOであり;
がNであり;
、X、およびXがHであり;ならびに
Z’がNHである、
請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
が−(CH−であり;
1−3がHであり;
およびXがNOであり;
、XおよびXがHであり;ならびに
Z’がNHである、
請求項18に記載の化合物。
【請求項21】
請求項13に記載の化合物および医薬的に許容し得るキャリアを含む組成物。
【請求項22】
式III
【化45】

の化合物を作製することを含む方法であって、式IV
【化46】

の化合物を式V
【化47】

の化合物と縮合することにより、
式中、
R’は
【化48】

であり;
Qは存在しないか、もしくはCHであり、
但しQが存在しない場合には、OWも存在せず;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は独立に水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基であり;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;ならびに
Z’は結合またはNHから選択される、
方法。
【請求項23】
縮合が式VIの化合物を式Vの化合物により還元的にアミノ化することによる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
式IVの化合物が式VI
【化49】

の化合物をHO−R−NHにより芳香族フッ素置換して、式VII
【化50】

の化合物を形成し、式VIIの化合物を酸化して、式IVの化合物を得ることにより作製される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
式IIIの化合物が式IIIA
【化51】

の化合物の立体構造を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
α−グルコシダーゼを、式Iもしくは式II
【化52】

の化合物またはこれらの塩、またはこれらの任意の2つ又はそれ以上の混合物により阻害することを含む方法であって、
式中、Rは
【化53】

であり;
R’は
【化54】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;
Yは存在しないか、またはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;
Zは結合またはNHから選択され;但し
Zが結合である場合には、Yは存在せず、
ZがNHである場合には、Yはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;ならびに
Z’は結合またはNHである、
方法。
【請求項27】
またはRが1から8個の炭素原子を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
およびXがNOであり;ならびに
、XおよびXがHである、
請求項26に記載の方法。
【請求項29】
がNOであり;
がNであり;ならびに
、XおよびXがHである、
請求項26に記載の方法。
【請求項30】
α−グルコシダーゼがα−グルコシダーゼIまたはα−グルコシダーゼIIである、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
化合物の塩が医薬的に許容し得る塩である、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
式Iの化合物が式のIA
【化55−1】

の化合物の立体構造を有し、式IIの化合物が式IIA
【化55−2】

の化合物の立体構造を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
化合物をα−グルコシダーゼの存在下において光分解することを更に含む、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
α−グルコシダーゼが標識化された基質の存在下において阻害される、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
α−グルコシダーゼを式の式Iもしくは式II
【化56】

の化合物またはこれらの塩、またはこれらの任意の2つ又はそれ以上の混合物と接触させることにより、オリゴサッカライドからグルコース残基を除去することを阻害することを含む方法であって、
式中、Rは
【化57】

であり;
R’は
【化58】

であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
は置換もしくは非置換のアルキル基であり;
1−4は水素、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のハロアルキル基、置換もしくは非置換のアルカノイル基、置換もしくは非置換のアロイル基、または置換もしくは非置換のハロアルカノイル基から独立に選択され;
1−5はH、NO、NまたはNHから独立に選択され;
Yは存在しないか、またはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;
Zは結合またはNHから選択され;但し
Zが結合である場合には、Yは存在せず、
ZがNHである場合には、Yはカルボニル以外の置換もしくは非置換のC−アルキル基であり;ならびに
Z’は結合またはNHである、
方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−538336(P2009−538336A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512260(P2009−512260)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/069448
【国際公開番号】WO2007/140184
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(502278769)ユナイテッド セラピューティクス コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】