説明

デオドラント剤、デオドラント製剤、および繊維デオドラント処理方法

【課題】本発明は、体臭の有力な原因物質のひとつである揮発性ステロイド、詳しくはアンドロステノンの生成を持続的に抑制できる、植物または植物由来物の抽出物を含有するデオドラント剤、および前記植物または植物由来物の抽出物を含有する化粧料、医薬品、医薬部外品、繊維防臭剤から選ばれるデオドラント製剤を提供する。
【解決手段】デオドラント剤、およびデオドラント製剤に、ゲンノショウコ、キョウニン、キウイ、カワラヨモギ、ゼニアオイ、プルーン、グレープフルーツ、トウキ、ゲンチアナ、センキュウ、トルメンチラ、セイヨウハッカ、ニンニク、オランダカラシ、ベニバナ、シナノキ、タイソウ、コメヌカ、テンチャ、シタン、セイヨウキズタ、ビワ、イザヨイバラ、セイヨウオトギリソウ、トウヒ、エイジツ、ニンジン、ノバラ、クインスシード、納豆から選ばれる少なくとも1種の植物または植物由来物の抽出物を有効成分として配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性ステロイドの生成を抑制する、植物または植物由来物の抽出物を有効成分として含有するデオドラント剤、前記植物または植物由来物の抽出物を含有する化粧料、医薬品、医薬部外品、繊維防臭剤から選ばれるデオドラント製剤、および前記植物または植物由来物の抽出物を用いた繊維デオドラント処理方法に関する。より詳しくは、常在菌を殺菌することなく揮発性ステロイド生成抑制効果を持続的に有する、植物または植物由来物の抽出物を含有するデオドラント剤、前記植物または植物由来物の抽出物を含有する化粧料、医薬品、医薬部外品、繊維防臭剤から選ばれるデオドラント製剤、および前記植物または植物由来物の抽出物を用いた繊維デオドラント処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、汗臭などの体臭を防止する方法としては、消臭技術やマスキング技術が主流である。また、近年では、体臭の原因物質を作り出す原因菌を殺菌する殺菌技術により、体臭の発生を抑制する方法が実用化されてきている。しかしながら、前記消臭技術やマスキング技術は効果の程度や持続性の点において満足のいくレベルではない。また、前記殺菌技術は、臭い発生菌以外の皮膚常在菌をも殺菌するため、皮膚バリア機能を低下させる懸念があった(例えば、下記非特許文献1参照)。
【0003】
そこで、最近、皮膚常在菌を殺菌せずに体臭の発生を抑制する技術が提案されている(下記特許文献1参照)。すなわち、皮膚常在菌の代謝において、例えば、揮発性ステロイドであるアンドロステ−16−エン類などの体臭の原因物質が生成されるため、前記技術は、皮膚常在菌の代謝酵素を阻害することにより、体臭の原因物質の生成を抑制し、体臭の発生を抑制するものである。
【0004】
前記特許文献1においては、ヒトの体臭、主に腺臭の原因臭といわれるアンドロステ−16−エン類の生成を抑制するβ−グルクロニダーゼ阻害剤として、例えば、オウゴン、ゴバイシ、クチナシ、シコン、シャクヤク、エンメイソウ、カミツレ、ツボクサなどの植物抽出物が検討され、皮膚常在菌を殺菌せずに不快な体臭の発生を抑制できることが開示されている。
【0005】
一方、揮発性ステロイドについては、皮膚上に分泌された不揮発性のステロイド硫酸塩が、皮膚常在菌により代謝されて生成されることが知られている(下記非特許文献2参照)。
【0006】
前記皮膚常在菌による揮発性ステロイドの生成を抑制する4−エンレダクターゼ及び5α−レダクターゼ阻害剤として、例えば、(Z)−3,4,5,6,6−ペンタメチルヘプト−3−エン−2−オン、ジエチル−シクロヘキス−2−エン−1−オンとジメチル−シクロヘキス−2−エン−1−オンの混合物、シトロネロールなどの香料成分が検討され、皮膚常在菌(臭気生成菌)を殺菌せずに揮発性ステロイドの生成を抑制できることが開示されている(下記特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−255776号公報
【特許文献2】特表2002−519369号公報
【非特許文献1】武田 克之,「皮膚防御機能の温故知新−アクネス菌,エピデルミディス菌の常在細菌としての役割−」,日本香粧品科学会誌,2003年,第27巻,第1号,p.29−32
【非特許文献2】Gower D.B.,J.Steroid Biochem.Molec. Biol.,vol.63,No.1−3,p.81−89,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の特許文献1で開示された前記β−グルクロニダーゼ阻害剤は、不揮発性ステロイド硫酸塩からの揮発性ステロイドの生成を抑制することができず、アンドロステ−16−エン類の生成抑制効果は不十分である。そのため、前記β−グルクロニダーゼ阻害剤では、満足のいく体臭抑制効果が得られていない。
【0009】
また、前述の特許文献2で開示された、皮膚常在菌の揮発性ステロイドの生成経路に関与している前記4−エンレダクターゼ及び5α−レダクターゼの阻害剤においては、揮発性ステロイドの生成抑制が不十分であるため、体臭の抑制の点で満足できる効果が得られていない。これは、揮発性ステロイドの生成には複数の経路が関与しており、4−エンレダクターゼ及び5α−レダクターゼ阻害剤は、その一部の経路のみを遮断するに過ぎないことなどによるものと考えられる。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、体臭の有力な原因物質のひとつである揮発性ステロイドの生成を持続的に抑制できる、植物または植物由来物の抽出物を含有するデオドラント剤、前記植物または植物由来物の抽出物を含有する化粧料、医薬品、医薬部外品、繊維防臭剤から選ばれるデオドラント製剤、前記植物または植物由来物の抽出物を用いた繊維デオドラント処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために、様々な植物などの抽出物の揮発性ステロイド生成抑制作用について鋭意研究を進めた結果、特定の植物などの抽出物に、β−グルクロニダーゼ、4−エンレダクターゼ、及び5α−レダクターゼの阻害作用の有無にかかわらず、主な体臭の原因物質のひとつである揮発性ステロイド、詳しくはアンドロステノンの生成自体を高度に、また持続的に抑制する効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のデオドラント剤および繊維防臭剤を始めとしたデオドラント製剤は、揮発性ステロイドの生成抑制効果を有する、植物または植物由来物の抽出物を有効成分として含むことを特徴とする。前記植物または植物由来物の抽出物の揮発性ステロイド生成抑制率は、皮膚常在菌の1種であるコリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を用いた揮発性ステロイド生成系において90%〜100%であることが好ましい。また、本発明のデオドラント剤およびデオドラント製剤は、皮膚常在菌に対して殺菌作用を示さないことが好ましい。
【0013】
なお、本発明でいう「デオドラント剤」とは、腋臭、足臭などをはじめとする体臭を防ぐために用いられる薬剤をいう。また、本発明でいう「デオドラント製剤」とは、揮発性ステロイド生成抑制効果を有する、植物または植物由来物の抽出物を有効成分として含む、化粧料、医薬品、医薬部外品、繊維防臭剤などの製剤をいう。
【0014】
前記植物または植物由来物の抽出物としては、ゲンノショウコ、キョウニン、キウイ、カワラヨモギ、ゼニアオイ、プルーン、グレープフルーツ、トウキ、ゲンチアナ、センキュウ、トルメンチラ、セイヨウハッカ、ニンニク、オランダカラシ、ベニバナ、シナノキ、タイソウ、コメヌカ、テンチャ、シタン、セイヨウキズタ、ビワ、イザヨイバラ、セイヨウオトギリソウ、トウヒ、エイジツ、ニンジン、ノバラ、クインスシード、納豆から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、以上のような植物または植物由来物の抽出物を用いた繊維デオドラント処理方法にも関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、皮膚常在菌を殺すことなく、体臭の有力な原因物質の一つである揮発性ステロイド、詳しくはアンドロステノンの生成を持続的に抑制できる、植物または植物由来物の抽出物を含有する、安全性の高いデオドラント剤を提供することができる。また、本発明により、前記植物または植物由来物の抽出物を含有する化粧品、医薬品、医薬部外品、および繊維防臭剤などのデオドラント製剤を提供することもできる。さらに、本発明により、前記植物または植物由来物の抽出物を用いた繊維デオドラント処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明のデオドラント剤および繊維防臭剤を始めとするデオドラント製剤は、揮発性ステロイドの生成抑制効果を有する、植物または植物由来物の抽出物を有効成分として含むことを特徴とする。
【0018】
揮発性ステロイドは、腋臭の主たる臭気物質であるとともに体臭の主たる原因物質である。この揮発性ステロイドは、皮膚常在菌の代謝により生成することが知られている。したがって、皮膚常在菌の代謝による揮発性ステロイドの生成を抑制できる、植物または植物由来物の抽出物を有効成分として含有する本発明のデオドラント剤は、不快な体臭を効果的に抑制することができる。なお、「揮発性ステロイド」としては、例えば、3α−アンドロステノール、3β−アンドロステノール、アンドロスタジェノール、アンドロスタジェノン、アンドロステロン、アンドロステノン等が挙げられる。
【0019】
皮膚常在菌における揮発性ステロイド生成の代謝に関わる酵素としては、β−グルクロニダーゼ、4−エンレダクターゼ及び5α−レダクターゼの存在が知られているが、その他の関連酵素や代謝経路については未知である。従って、不快な体臭を効果的に抑制できるデオドラント剤としては、β−グルクロニダーゼ、4−エンレダクターゼ及び5α−レダクターゼの阻害作用の有無に拘わらず、体臭の主たる原因物質である揮発性ステロイド生成を抑制する効果を有することが重要である。
【0020】
本発明のデオドラント剤およびデオドラント製剤に含有される前記植物または植物由来物の抽出物の揮発性ステロイド生成抑制率は、皮膚常在菌の1種であるコリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を用いた揮発性ステロイド生成系において90%〜100%であることが好ましい。本発明のデオドラント剤およびデオドラント製剤に含有される植物または植物由来物の抽出物が、揮発性ステロイド生成におけるいかなる代謝経路を遮断するのか、あるいは、いかなる作用機序により遮断するのかは明確ではないが、体臭の主たる原因物質である揮発性ステロイド自体の高度な生成抑制効果を有する。
【0021】
前記コリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を用いた揮発性ステロイド生成系とは、後述の実施例1〜30において示すように、前記不揮発性のステロイド硫酸塩に、コリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を1×108個/mL接種し、37℃で6時間培養して揮発性ステロイドを生成させる反応系のことをいう。前記植物または植物由来物の抽出物は、この系で90%以上という高度の揮発性ステロイド生成抑制効果を示す。
【0022】
また、本発明のデオドラント剤およびデオドラント製剤は、皮膚常在菌に対して殺菌作用を示さないことが好ましい。本発明のデオドラント剤およびデオドラント製剤は、前記抽出物の配合率を適切に調整することにより、皮膚常在菌に対して殺菌作用を示さずに、揮発性ステロイド自体の高度な生成抑制効果を有し、体臭の抑制効果を示すようにすることができる。本発明のデオドラント剤における前記抽出物の配合量は、一般的に固形物換算で0.1質量%以下配合することが好ましく、0.05質量%以下配合することがさらに好ましい。
【0023】
本発明のデオドラント剤およびデオドラント製剤は、ゲンノショウコ、キョウニン、キウイ、カワラヨモギ、ゼニアオイ、プルーン、グレープフルーツ、トウキ、ゲンチアナ、センキュウ、トルメンチラ、セイヨウハッカ、ニンニク、オランダカラシ、ベニバナ、シナノキ、タイソウ、コメヌカ、テンチャ、シタン、セイヨウキズタ、ビワ、イザヨイバラ、セイヨウオトギリソウ、トウヒ、エイジツ、ニンジン、ノバラ、クインスシード、納豆から選ばれる少なくとも1種の植物または植物由来物の抽出物を含むことが好ましい。
【0024】
前記植物抽出物の抽出に用いられる植物については、その用部に特に限定はないが、有効性を発揮させる点から、ゲンノショウコは地上部、キョウニンは種子、キウイは果実、カワラヨモギは頭花、ゼニアオイは花及び葉、プルーンは果実、グレープフルーツは果実、トウキは根、ゲンチアナは根及び根茎、センキュウは根茎、トルメンチラは根、セイヨウハッカは葉、ニンニクは鱗茎、オランダカラシは葉茎又は全草、ベニバナは花、シナノキは花又は葉、タイソウは果実、コメヌカは果皮、種皮、胚及び澱粉層粉砕物、テンチャは葉、シタンは材、セイヨウキズタは葉及び茎、ビワは葉、イザヨイバラは果実、セイヨウオトギリソウは地上部、トウヒは果皮、エイジツは果実、ニンジンは根、ノバラは果実、クインスシードは種子を用いることが好適である。
【0025】
前記植物抽出物としては、例えば、前記用部を生のままあるいは乾燥した後に適当な大きさに切断したり、粉砕加工したりしたものを抽出して得た抽出エキス、あるいはさらに分離精製した成分等を用いることができる。前記抽出エキスは、常法により、溶媒抽出することによって得ることができる。抽出溶媒が使用上無害なものであれば抽出液をそのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、あるいは濃縮エキスとしたり、凍結乾燥などにより乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したりしたものなども前記植物抽出物として利用できる。
【0026】
前記植物または植物由来物の抽出物に用いる抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、酢酸エチル、アセトン、モノテルペン類などの一般に用いられる有機溶媒、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類及び水などを挙げることができ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。これらの溶媒の中では、抽出効率の点から、特にエタノール、水、1,3−ブチレングリコール、モノテルペン類及びこれらの混合溶剤が望ましい。
【0027】
なお、前記抽出処理としては、例えば、冷浸、温浸、加熱環流、パーコレーション法などが挙げられ、常法によって行うことができる。溶媒抽出の他に、水蒸気蒸留、炭酸ガスを超臨界状態にして行う超臨界抽出によって得たエキスも同様に利用できる。超臨界抽出では、抽出助剤としてヘキサン、エタノールなどを用いることもできる。
【0028】
また、前記抽出物の分離精製としては、例えば、抽出物を活性炭処理、液液分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどを挙げることができる。
その他の抽出条件としては、抽出温度、抽出pHなど、特に制限はない。
【0029】
本発明のデオドラント剤およびデオドラント製剤に含有されるゲンノショウコ、キョウニン、キウイ、カワラヨモギ、ゼニアオイ、プルーン、グレープフルーツ、トウキ、ゲンチアナ、センキュウ、トルメンチラ、セイヨウハッカ、ニンニク、オランダカラシ、ベニバナ、シナノキ、タイソウ、コメヌカ、テンチャ、シタン、セイヨウキズタ、ビワ、イザヨイバラ、セイヨウオトギリソウ、トウヒ、エイジツ、ニンジン、ノバラ、クインスシード、納豆から選ばれる少なくとも1種の植物または植物由来物の抽出物の配合量を調整することにより、皮膚常在菌を殺さずに揮発性ステロイドの発生を抑制することができる。すなわち、皮膚バリア機能を低下させることなく体臭の発生を効果的に防止できる。これらの抽出物の中でもゲンチアナとキョウニンの抽出物は体臭発生抑制効果に優れるため特に好ましい。
【0030】
また、本発明のデオドラント剤およびデオドラント製剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、既知の薬効成分や通常外用剤に用いられる原料を必要に応じて適宜配合することができる。例えば、抗菌剤、抗炎症剤、保湿剤、界面活性剤、油分、アルコール類、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、ビタミン類、水、定着剤などを配合することができる。
【0031】
本発明のデオドラント製剤(繊維防臭剤を除く)における前記抽出物の具体的な配合量は、組成物の用途、剤型などに応じて適宜選定されるが、一般的に固形物換算で0.0001〜0.1質量%(以下、単に「%」という。)配合するのがよく、好ましくは0.0001〜0.05%配合するのがよい。配合量が0.0001%未満であると本発明の効果を発揮できず、0.1%を超えると皮膚常在菌を殺菌する作用が生じてしまうためである。
【0032】
尚、ここでいう殺菌作用とは、Tween80を0.1%含むSCD培地に被験物質を添加し、その培地に皮膚常在菌(Corynebacterium xerosis)を接種し、37℃で6時間培養後に、コントロールに対し生菌数が1/100以下に減少する作用をいう。
【0033】
繊維防臭剤における前記抽出物の具体的な配合量は、皮膚常在菌への作用が間接的になることから、固形分換算で0.0001〜5%、好ましくは0.0001〜0.5%である。0.0001%未満であると本発明の効果を発揮できず、5%を超えると繊維への着色などの不具合が生じるおそれがあるためである。
【0034】
本発明のデオドラント製剤は、前記繊維防臭剤以外に化粧料、医薬品、医薬部外品、繊維防臭剤などのデオドラント製剤、例えば、クリーム、乳液、ローション、パウダー、スプレー、スティック、ボディーソープ、シャンプー、リンス、トニックなどとして調製することができる。
【0035】
この場合、本発明のデオドラント製剤は、前記デオドラント製剤の種類、剤形などに応じた公知の配合成分を用いて常法により調製できる。公知の配合成分としては、例えば、界面活性剤、油分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、ビタミン類、水等が挙げられ、必要に応じて適宜配合することができる。また、本発明のデオドラント製剤には、前記植物または植物由来物の抽出物に加えて、一般に用いられている消臭剤、保存剤、酸化防止剤などをあわせて配合することができる。
【0036】
本発明の繊維デオドラント処理方法は、上述した揮発性ステロイド生成抑制効果を有する、植物または植物由来物の抽出物を用いる。具体的には、繊維に前記植物または植物由来物の抽出物を含浸させ、その後乾燥させるなどして行なうことができる。本発明の繊維デオドラント処理方法に用いられる繊維としては、例えば、絹、綿レーヨン、ナイロン等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
[調製例]
植物または植物由来物の抽出物の調製:ゲンノショウコは地上部、キョウニンは種子、キウイは果実、カワラヨモギは頭花、ゼニアオイは花及び葉、プルーンは果実、グレープフルーツは果実、トウキは根、ゲンチアナは根及び根茎、センキュウは根茎、トルメンチラは根、セイヨウハッカは葉、ニンニクは鱗茎、オランダカラシは葉茎又は全草、ベニバナは花、シナノキは花又は葉、タイソウは果実、コメヌカは果皮、種皮、胚及び澱粉層粉砕物、テンチャは葉、シタンは材、セイヨウキズタは葉及び茎、ビワは葉、イザヨイバラは果実、セイヨウオトギリソウは地上部、トウヒは果皮、エイジツは果実、ニンジンは根、ノバラは果実、クインスシードは種子をそれぞれ乾燥、粉砕して粗粉末とし、各10gをとり、100%エタノール100mLに浸漬し室温で5日間抽出した。その後、前記粗粉末をろ別して得られた抽出液を減圧濃縮し抽出物を得た。納豆は10gをとり、100%エタノール100mLに浸漬し室温で5日間抽出した。析出する塊状粘物質を濃縮し抽出物を得た。
【0039】
[実施例1〜35、比較例1〜4:揮発性ステロイド生成抑制試験]
TSB培地(DIFCO社製)4mLに0.1%になるようにアンドロステロン硫酸ナトリウム(Steraloids社製)を加えた。次いで、前記調製例に従って得た各種抽出物を500μg/mLの濃度になるように加えた。その後、Corynebacterium xerosis(財団法人 発酵研究所製)を約1×108個/mL接種し、37℃で6時間培養した。生菌数を測定した後、培養液に酢酸エチル4mLを加え、酢酸エチル層に抽出されたアンドロステノン量をガスクロマトグラフィーにより測定した。各被験物質を含まないコントロール(下記比較例3)に対してアンドロステノンの生成抑制率(%)を算出した結果および生菌数を表1〜5に示す(実施例1〜30)。
【0040】
また、比較例として、セイヨウサンザシ抽出物、トリクロサン(和光純薬工業株式会社製)(比較例1および2)、および各被験物質を含まないコントロール(比較例3)を同様に試験し、その結果を表5に示した。
【0041】
さらに、キョウニン、ゲンチアナ、トウヒ、ユズ、キウイに関しては各抽出物を前記実施例の1/4濃度の125μg/mLにして濃度による効果の違いを確認した。その結果を表6に示す(実施例31〜35)。各被験物質を含まないコントロールを比較例4(表6)とした。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
前記表1〜5に示した結果のように、ゲンノショウコ、キョウニン、キウイ、カワラヨモギ、ゼニアオイ、プルーン、グレープフルーツ、トウキ、ゲンチアナ、センキュウ、トルメンチラ、セイヨウハッカ、ニンニク、オランダカラシ、ベニバナ、シナノキ、タイソウ、コメヌカ、テンチャ、シタン、セイヨウキズタ、ビワ、イザヨイバラ、セイヨウオトギリソウ、トウヒ、エイジツ、ニンジン、ノバラ、クインスシード、納豆の抽出物には、皮膚常在菌を殺菌することなくアンドロステノンの発生を抑制する効果が認められた。また、表6に示した結果より、特にキョウニン、ゲンチアナには強いアンドロステノン発生抑制効果が見られた。以上のように本発明のデオドラント剤の有効成分である植物または植物由来物の抽出物は、皮膚常在菌(Corynebacterium xerosis)を殺菌することなく揮発性ステロイド生成抑制効果を有することが確認できた。
【0049】
[配合例]
以下に、本発明のデオドラント製剤である、ゲンノショウコ、キョウニン、キウイ、カワラヨモギ、ゼニアオイ、プルーン、グレープフルーツ、トウキ、ゲンチアナ、センキュウ、トルメンチラ、セイヨウハッカ、ニンニク、オランダカラシ、ベニバナ、シナノキ、タイソウ、コメヌカ、テンチャ、シタン、セイヨウキズタ、ビワ、イザヨイバラ、セイヨウオトギリソウ、トウヒ、エイジツ、ニンジン、ノバラ、クインスシード、納豆の抽出物を配合したパウダースプレータイプ制汗剤(表7〜11、配合例1〜30)、ロールオンタイプ制汗剤(表12〜16、配合例31〜60)、デオドラントスティック(表17〜21、配合例61〜90)、ボディーソープ(表22〜26、配合例91〜120)、シャンプー(表27〜31、配合例121〜150)、リンス(表32〜36、配合例151〜180)、およびヘアウォーター(表37〜41、配合例181〜210)の配合例1〜210を示す。尚、以下に記載の各抽出物は[調製例]に示した抽出法により抽出したものを用いた。なお組成物中に記した香料は、特開2003−300811に記した香料に、ジブチルヒドロキシトルエンを0.001%添加したものである。
【0050】
なお、表27〜31の表の欄外に記載してある「*1 E03モル、ラウリル」の「E03モル」とは、POEアルキルエーテル硫酸ナトリウムのPOE(ポリオキシエチレン)の付加モル数が3であることを意味し、「ラウリル」とは、POEアルキルエーテル硫酸ナトリウムのアルキル部分がラウリルであることを意味する。また、「*2 ラウリル、トリエタノールアミン塩」とは、アシルメチル−β−アラニン塩のアシル基がラウリルであり、塩がトリエタノールアミン塩であることを意味する。また、「*3 ヤシ、トリエタノールアミン塩」とは、アシルグルタミン酸塩のアシル基が様々な脂肪酸鎖長の混合物であるヤシ油脂肪由来のアシル基であることを意味する。
【0051】
前記植物または植物由来物の抽出物を含む、本発明のデオドラント製剤としての下記の配合例1〜210は、いずれも揮発性ステロイド発生抑制効果に優れており、安全性も良好なものであった。
【0052】
【表7】

【0053】
【表8】

【0054】
【表9】

【0055】
【表10】

【0056】
【表11】

【0057】
【表12】

【0058】
【表13】

【0059】
【表14】

【0060】
【表15】

【0061】
【表16】

【0062】
【表17】

【0063】
【表18】

【0064】
【表19】

【0065】
【表20】

【0066】
【表21】

【0067】
【表22】

【0068】
【表23】

【0069】
【表24】

【0070】
【表25】

【0071】
【表26】

【0072】
【表27】

【0073】
【表28】

【0074】
【表29】

【0075】
【表30】

【0076】
【表31】

【0077】
【表32】

【0078】
【表33】

【0079】
【表34】

【0080】
【表35】

【0081】
【表36】

【0082】
【表37】

【0083】
【表38】

【0084】
【表39】

【0085】
【表40】

【0086】
【表41】

【0087】
[実施例36、37:肌シャツデオドラント試験]
以下の方法にて繊維防臭剤を調製した。すなわち、水563gにアルミノケイ酸塩として「ライオナイトSF」(商品名、ライオン株式会社製)140gとカチオン界面活性剤(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド)7gを添加し、室温で1時間攪拌した。その後、実施例36としてゲンチアナ抽出物を10g、実施例37としてキョウニン抽出物を10g加え、さらに1時間攪拌して分散液を得た。前記ゲンチアナ抽出物およびキョウニン抽出物は、前記調整例により調整したものを用いた。
【0088】
次に、このようにして得られた分散液6%と「ボンコートAB885」(商品名、大日本インキ化学工業(株)製)1.5%と、水92.5%とを混合し、繊維防臭剤を調製した。このようにして得られた繊維防臭剤に市販の肌シャツ(綿繊維)を浸漬し、ローラーで脱水した後、乾燥して評価用の肌シャツを作製した。
【0089】
次に、成人男子20名を5名ずつ4群に分け、それぞれの群に実施例36、37で作製した肌シャツを午前9時に着用させた。被験者は午前と午後にそれぞれエルゴメーターにて30分間の運動負荷を与えた。同日の午後5時に各肌シャツを回収し、37℃にて1時間保温した後、肌シャツの臭気を専門判定者によって評価した。臭気の判定基準は、下記のスコア分けに従い、評価点は各群5名の平均値で表した。肌シャツデオドラント試験の結果は、表42に示した。
【0090】
<臭気強度スコア分け>
0:無臭
1:やっと感知できるにおい
2:何のにおいかわかる弱いにおい
3:楽に感知できるにおい
4:強いにおい
5:強烈なにおい
【0091】
【表42】

【0092】
[比較例5、6:肌シャツデオドラント試験]
実施例36、37で使用した抽出物の代わりに塩化ベンザルコニウムを10g加え、さらに1時間攪拌して分散液を得た(比較例5)。また、実施例36、37で使用した抽出物の代わりに水のみを10g加え、さらに1時間攪拌して分散液を得た(比較例6)。これらの分散液を用い、実施例36、37と同様にして評価用の肌シャツ(綿繊維)を作製し、デオドラント試験を行なった。
【0093】
表42より、実施例36および37においては比較例5および6に比べてスコアが小さくなっており、揮発性ステロイドの発生が抑制されていることが認められた。
【0094】
[実施例38]
以下、実施例36、37で用いた肌シャツ(綿繊維)以外の繊維に対して本発明の繊維処理した例を示す。
【0095】
(繊維処理例1)
実施例36、37におけるゲンチアナ抽出物、キョウニン抽出物の代わりにトウヒ抽出物10gを添加した繊維防臭剤を調製した。本繊維防臭剤にレーヨン不織布を浸漬した後、脱水乾燥してデオドラント繊維を調製した。
【0096】
(繊維処理例2)
同じく実施例36、37におけるゲンチアナ抽出物、キョウニン抽出物の代わりにゲンノショウコ抽出物とプルーン抽出物の両方を各5gずつ添加して繊維防臭剤を調製した。本繊維防臭剤にナイロン繊維布を浸漬した後、脱水乾燥してデオドラント繊維を調製した。
【0097】
(繊維処理例3)
同じく実施例36、37におけるゲンチアナ抽出物、キョウニン抽出物の代わりにキウイ抽出物、ゼニアオイ抽出物、カワラヨモギ抽出物の3種を各3.3gずつ添加して繊維防臭剤を調製した。本繊維防臭剤にナイロン繊維布を浸漬した後、脱水乾燥してデオドラント繊維を調製した。
【0098】
(繊維処理例4)
同じく実施例36、37における、ゲンチアナ抽出物、キョウニン抽出物の代わりにセンキュウ抽出物、セイヨウオトギリ抽出物、トルメンチラ抽出物の3種を各3.3gずつ添加して繊維防臭剤を調製した。本繊維防臭剤にナイロン繊維布を浸漬した後、脱水乾燥してデオドラント繊維を調製した。
【0099】
前記繊維処理例1〜4のようにして得られた防臭繊維を用いて、実施例36、37と同様にしてデオドラント試験を行なったところ、揮発性ステロイドの発生が抑制されていることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のように、本発明のデオドラント剤およびデオドラント製剤は、ヒトの不快な体臭の有力成分である揮発性ステロイド、詳しくはアンドロステノンの発生を抑制する、植物または植物由来物の抽出物を有効成分として含有する。従って、ヒトの不快な体臭を持続的に抑制する、安全性の高いデオドラント剤、および化粧料、医薬品、医薬部外品、繊維防臭剤から選ばれるデオドラント製剤を提供することができる。また、本発明の前記繊維防臭剤は、前記植物または植物由来物の抽出物を有効成分として含有するため、ヒトの不快な体臭を持続的に抑制する繊維の製造に適している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性ステロイド生成抑制効果を有する、植物または植物由来物の抽出物を有効成分として含むデオドラント剤。
【請求項2】
前記植物または植物由来物の抽出物の揮発性ステロイド生成抑制率が、コリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を用いた揮発性ステロイド生成系において90%〜100%であることを特徴とする請求項1に記載のデオドラント剤。
【請求項3】
皮膚常在菌に対して殺菌作用を示さないことを特徴とする請求項1または2に記載のデオドラント剤。
【請求項4】
前記植物または植物由来物の抽出物の供給源が、ゲンノショウコ、キョウニン、キウイ、カワラヨモギ、ゼニアオイ、プルーン、グレープフルーツ、トウキ、ゲンチアナ、センキュウ、トルメンチラ、セイヨウハッカ、ニンニク、オランダカラシ、ベニバナ、シナノキ、タイソウ、コメヌカ、テンチャ、シタン、セイヨウキズタ、ビワ、イザヨイバラ、セイヨウオトギリソウ、トウヒ、エイジツ、ニンジン、ノバラ、クインスシード、納豆から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のデオドラント剤。
【請求項5】
揮発性ステロイド生成抑制効果を有する、植物または植物由来物の抽出物を有効成分として含むデオドラント製剤。
【請求項6】
化粧料、医薬品、医薬部外品、繊維防臭剤のいずれかである請求項5に記載のデオドラント製剤。
【請求項7】
揮発性ステロイド生成抑制効果を有する、植物または植物由来物の抽出物を用いた繊維デオドラント処理方法。
【請求項8】
前記植物または植物由来物の抽出物を繊維に含浸させることによって、繊維に揮発性ステロイド生成抑制効果を付与することを特徴とする請求項7に記載の繊維デオドラント処理方法。


【公開番号】特開2006−52198(P2006−52198A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29420(P2005−29420)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】