説明

デッキクロスメンバ取付構造

【課題】 デッキクロスメンバとフロントピラー下部の結合剛性の強化を図ることができるデッキクロスメンバ取付構造を提供する。
【解決手段】 車幅方向に延びフロントピラー下部4の車室内側に配置されたデッキクロスメンバ1の端部と、フロントピラー下部4の車室内側との間に、車両後部側が開口部となっていて、2部材で構成した断面略コ字状ブラケット10を配置し、デッキクロスメンバ1の端部が断面略コ字状ブラケット10と貫通して結合し、断面略コ字状ブラケット10をデッキクロスメンバ1の前方車両前後方向上下2点及びデッキクロスメンバ1の後方車幅方向1点でフロントピラー下部4に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デッキクロスメンバ取付構造、特に、デッキクロスメンバの端部をフロントピラー下部に結合するようにしたデッキクロスメンバ取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転席前方には車両の走行方向を所望の方向に切り換えるためのステアリングハンドルが配置されている。このステアリングハンドルを支持するステアリングコラムは前部をエンジンルーム側の操舵機構で支持し、後部をデッキクロスメンバで支持する。また、車室前部には車体骨格部材に支持されたインストルメントパネルが配置され、デッキクロスメンバはインストルメントパネルの下部にあって、このインストルメントパネルも支持する。このデッキクロスメンバはその両端を車室前部にある、車体骨格部材である左右のフロントピラー下部に結合する。更に、デッキクロスメンバの前方にはカウルトップが車幅方向に延設されており、これらカウルトップやデッキクロスメンバからなるデッキ構成部材により車室前部の剛性を確保している。
【0003】
ステアリングコラムはその長手方向での中間部をデッキクロスメンバに取付け、その先端に比較的大きな質量を有するステアリングハンドルを取付ける。このため、ステアリングコラムがエンジンの振動を受けた場合、ステアリングハンドル側が振動しやすく、特にアイドル運転時等にはパイプ状のデッキクロスメンバに支持されたステアリングコラムの先端のステアリングハンドルが共振する場合がある。
【0004】
そこで、ステアリングコラムを支持するデッキクロスメンバ自体の剛性を高めるべく、例えば、ステアリングコラム取付部近傍をカウルトップ側にコラムブラケット等を用いて結合し、これにより、デッキクロスメンバを他の車体骨格部材側に対して3点で支持するようにして振動を抑制している。また、デッキクロスメンバと他の車体骨格部材とが結合する部位の結合剛性を高めるべく、例えば、デッキクロスメンバの両端にブラケットを設け、そのブラケットの複数箇所を左右フロントピラーの車幅方向にボルト締め(以下、横締め)、または、複数箇所を車両前後方向にボルト締め(以下、前後締め)して結合している。なお、下記特許文献1にその一例が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−316025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジン振動を受けたステアリングハンドル側の共振、特に、アイドル運転時におけるステアリングハンドルの共振により乗員が不快感を受ける可能性がある。このことから、エンジン振動を受けたステアリングハンドル及びデッキクロスメンバが共振することを防止する上で、デッキクロスメンバ自体の剛性を高めると共にデッキクロスメンバとフロントピラー下部との結合剛性を高める必要がある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示のデッキクロスメンバ取付構造には結合剛性向上の余地が残されており、更なる結合剛性の強化を図ることができるデッキクロスメンバ取付構造が求められている。
【0008】
また、従来のデッキクロスメンバの横締めブラケット構造は、結合剛性の強化には有効ではあるが、ドアレス状態での艤装が前提となるため、ドアを取付けた後で艤装することが出来ないという制約がある。このため、ドア取付後にデッキクロスメンバの取付を行う艤装ラインでは、ドアを取付けた状態での艤装には対応できず、艤装ラインの大幅な変更が必要となる。
【0009】
本発明は、デッキクロスメンバとフロントピラー下部との結合剛性を強化することでステアリングハンドルの振動による不快感を排除し、かつ、艤装ラインの大幅な変更を必要としない、デッキクロスメンバ取付構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する第1の発明(請求項1に対応)に係るデッキクロスメンバ取付構造は、車幅方向に延びフロントピラー下部の車室内側に配置したデッキクロスメンバの端部をフロントピラー下部の車室内側に配置したブラケットに結合し、前記ブラケットを車両前後方向及び車幅方向の2方向で前記フロントピラー下部に結合することを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決する第2の発明(請求項2に対応)に係るデッキクロスメンバ取付構造は、第1の発明に係るデッキクロスメンバ取付構造において、前記ブラケットを、車両後部側が開口部となっている断面略コ字状とし、前記デッキクロスメンバの端部が前記ブラケットを車幅方向に貫通して前記ブラケットに結合することを特徴とする。
【0012】
上記の課題を解決する第3の発明(請求項3に対応)に係るデッキクロスメンバ取付構造は、第2の発明に係るデッキクロスメンバ取付構造において、前記ブラケットの前記開口部より通した締結部材で前記ブラケットを前記フロントピラー下部に結合することを特徴とする。
【0013】
上記の課題を解決する第4の発明(請求項4に対応)に係るデッキクロスメンバ取付構造は、第2の発明または第3の発明に係るデッキクロスメンバ取付構造において、前記ブラケットを2部材で構成することを特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決する第5の発明(請求項5に対応)に係るデッキクロスメンバ取付構造は、第1の発明ないし第4の発明のいずれかに係るデッキクロスメンバ取付構造において、前記ブラケットを前記デッキクロスメンバ前方における車両前後方向上下2点及び前記デッキクロスメンバ後方における車幅方向1点で前記フロントピラー下部に結合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明に係るデッキクロスメンバ取付構造によれば、車両前後方向及び車幅方向の2方向でフロントピラー下部に結合することができ、デッキクロスメンバの振動及びデッキクロスメンバのねじれ方向に発生するモーメントを抑制することができる。これによりデッキクロスメンバとフロントピラー下部との結合剛性を強化することができ、デッキクロスメンバの振動により発生する、ステアリングハンドルの振動による不快感を排除することができる。
【0016】
第2の発明に係るデッキクロスメンバ取付構造によれば、従来技術では1箇所であったデッキクロスメンバの端部とブラケットの結合箇所を2箇所にすることができる。これによりデッキクロスメンバとフロントピラー下部との結合剛性を強化することができ、デッキクロスメンバの振動により発生する、ステアリングハンドルの振動による不快感を排除することができる。
【0017】
第3の発明に係るデッキクロスメンバ取付構造によれば、断面略コ字状ブラケットの社室内側後方に開口部が設けられているため、締結部材を容易に取付けることができるので、デッキクロスメンバをフロントピラー下部に容易に取り付けることができる。これにより生産性を向上することができる。
【0018】
第4の発明に係るデッキクロスメンバ取付構造によれば、各部材の板厚や材質を目的に応じて適切に変更することができる。例えば、フロントピラー下部側の部材の板厚を厚くし、車室内側の部材の板厚を薄くするといった場合や、あるいは、フロントピラー下部側の部材を高剛性素材とし、車室内側の部材を軽量素材とするといった場合が考えられる。これにより、剛性の強化と軽量化を同時に図ることができる。
【0019】
第5の発明に係るデッキクロスメンバ取付構造によれば、締結部材がドアにより妨げられることがないので、ドアを取付けた後でも施工することができる。
これによりドアを先に取付ける艤装ラインでも大幅な変更を必要としないため、生産コストの増加を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るデッキクロスメンバ取付構造の一実施形態を図1から図5を用いて説明する。図1は本発明の実施形態に係るデッキクロスメンバ取付構造を示す概念図、図2は本発明の実施形態に係る断面略コ字状ブラケットを示す斜視図、図3は本発明の実施形態に係る断面略コ字状ブラケット構成部材Aを示す斜視図、図4は本発明の実施形態に係る断面略コ字状ブラケット構成部材Bを示す斜視図、図5は本発明の実施形態に係るピラー側ブラケットを示す斜視図である。なお、図中Frは車両前部方向を、Inは車幅方向車室内側を、Upは車両上方を示す。
【0021】
図1に示すように、車室前部は、カウルトップ3の端部にフロントピラー下部4が結合し、そのフロントピラー下部4の上部にはフロントピラー2が伸び、さらにフロントピラー下部4の下方には車両後部方向にサイドシル5が延びている。また、カウルトップ3下部にはダッシュパネル6がある。
この車室前部において、断面略コ字状ブラケット10は、カウルトップ3後方で車幅方向に配置されたデッキクロスメンバ1の端部と、フロントピラー下部4との間に配置する。
【0022】
図2に示す断面略コ字状ブラケット10はデッキクロスメンバ1の右端と右フロントピラー下部4を結合するためのものである。ここで断面略コ字状とは車両前後方向をx軸とし、車幅方向をy軸とした場合のx-y平面による断面の形状を示している。開口部18を設けたのは前後締めボルト12を締付固定する際の施工を考慮したためである。断面略コ字状ブラケット10は図3に示す断面略コ字状ブラケット構成部材Aと図4に示す断面略コ字状ブラケット構成部材Bの2部材で構成する。
【0023】
断面略コ字状ブラケット10の車両前部方向を向いてピラー側ブラケット11と接合する面には位置決めピン20が配置され、その上下2箇所に前後締めボルト穴14があけられている。フロントピラー下部4に接する面には、ほぼ中央にデッキクロスメンバ貫通孔21があけられている。また、さらにフロントピラー下部4に接する面25には斜線により示したフロントピラー下部4との接合面24があり、その裏面には横締めナット23が溶接してある。車幅方向車室内側を向いた面26には、ほぼ中央にデッキクロスメンバ貫通孔22があけられている。また、車幅方向車室内側を向いた面の下方には、他の図示しない部材と結合するための部位があるが説明は省略する。
【0024】
図3に示す断面略コ字状ブラケット構成部材Aの車両前部方向を向いて、ピラー側ブラケット11と接合する面34には、位置決めピン取り付け穴33と前後締めボルト穴14があけられている。車幅方向を向いてフロントピラー下部4に接する面35には、ほぼ中央にデッキクロスメンバ貫通孔21が開けられており、その円周部はデッキクロスメンバ1との接合面16となっている。
【0025】
斜線で示した部分は、断面略コ字状ブラケット構成部材Aと断面略コ字状ブラケット構成部材B(図4参照)またはフロントピラー下部4との接合面を示している。フロントピラー下部4に接する面35には斜線により示したフロントピラー下部4との接合面24があり、車両上方方向を向いて接合面30があり、車両下方方向を向いて接合面c31があり、車幅方向車室内側を向いて接合面d32がある。
【0026】
図4に示す断面略コ字状ブラケット構成部材Bの車幅方向車室内側を向いた面43には、ほぼ中央にデッキクロスメンバ貫通孔22が開けられており、その円周部はデッキクロスメンバ1との接合面17となっている。また、さらに車幅方向車室内側を向いた面43の下方には他の図示しない部材と結合するための部位があるが説明は省略する。
【0027】
斜線で示した部分は、断面略コ字状ブラケット構成部材Bは断面略コ字状ブラケット構成部材Aとの接合面を示している。車両上方方向を向いて接合面40があり、車両下方方向を向いて接合面41があり、車幅方向車室内側を向いて接合面42がある。
【0028】
図5に示すピラー側ブラケットの車両後部方向を向いて断面略コ字状ブラケット10と接合する面には、ほぼ中央に位置決めピン穴50が開けられている。さらに、その上下にピラー側ブラケット前後締めボルト穴52が開けられており、その裏側には前後締めナット51が溶接してある。
【0029】
次に断面略コ字状ブラケット10の取り付け手順について説明する。
断面略コ字状ブラケット10はデッキクロスメンバ1に貫かれてデッキクロスメンバ1の端部と結合する。断面略コ字状ブラケット10はデッキクロスメンバ1の端部とデッキクロスメンバ接合面16及びデッキクロスメンバ接合面17の2箇所で溶接して結合する。
【0030】
この断面略コ字状ブラケット10は、位置決めピン20をピラー側ブラケット11に開けてある位置決めピン穴50に挿入することで配置位置を定める。配置位置を定めた後、断面略コ字状ブラケット10は車両前後方向においては、前後締めボルト12をデッキクロスメンバ1の前方にある前後締めボルト穴14に通し、前後締めボルト12とピラー側ブラケット11に溶接してある前後締めナット51でピラー側ブラケット11に締付固定する。また、車幅方向においては、横締めボルト13をデッキクロスメンバ1の後方下部にある横締めボルト穴15に通し、横締めボルト13と断面略コ字状ブラケット構成部材Aに溶接してある横締めナット23でフロントピラー下部4に締付固定する。
【0031】
このように、横締め位置をデッキクロスメンバ1の後方下部とすることでデッキクロスメンバ1のねじれ方向に発生するモーメントを抑制することができ、デッキクロスメンバ1とフロントピラー下部4との結合剛性をより強化できる。
【0032】
また、従来の横締めタイプのブラケットでは複数箇所をボルト締めしなければならず、ドア取付け後ではドアが妨げになり施工することができなかったが、横締め箇所をデッキクロスメンバ1の後方下部1箇所としたことでドア取付け後でも施工することができる。
【0033】
断面略コ字状ブラケット10は、断面略コ字状ブラケット構成部材Aと断面略コ字状ブラケット構成部材Bの2部材から構成されている。接合面24はフロントピラー下部4に接合する。断面略コ字状ブラケット構成部材Aと断面略コ字状ブラケット構成部材Bは接合面30と接合面40、接合面31と接合面41及び接合面32と接合面42でそれぞれ溶接して結合する。
【0034】
以上において、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において他の種々の実施形態があることは当業者にとって明らかである。
【0035】
例えば、本実施形態では断面略コ字状のブラケットについて説明したが、フロントピラー下部に接合する面と、ピラー側に接合する面で構成する断面略L字状のブラケットを本発明に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係るデッキクロスメンバ取付構造を示す概念図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る断面略コ字状ブラケットを示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る断面略コ字状ブラケット構成部材Aを示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る断面略コ字状ブラケット構成部材Bを示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るピラー側ブラケットを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 デッキクロスメンバ
2 フロントピラー
4 フロントピラー下部
10 断面略コ字状ブラケット
11 ピラー側ブラケット
12 前後締めボルト
13 横締めボルト
14 前後締めボルト穴
15 横締めボルト穴
18 開口部
23 横締めナット
51 前後締めナット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びフロントピラー下部の車室内側に配置したデッキクロスメンバの端部をフロントピラー下部の車室内側に配置したブラケットに結合し、
前記ブラケットを車両前後方向及び車幅方向の2方向で前記フロントピラー下部に結合する
ことを特徴とするデッキクロスメンバ取付構造。
【請求項2】
請求項1に記載するデッキクロスメンバ取付構造において、
前記ブラケットを、車両後部側が開口部となっている断面略コ字状とし、
前記デッキクロスメンバの端部が前記ブラケットを車幅方向に貫通して前記ブラケットに結合する
ことを特徴とするデッキクロスメンバ取付構造。
【請求項3】
請求項2に記載するデッキクロスメンバ取付構造において、
前記ブラケットの前記開口部より通した締結部材で前記ブラケットを前記フロントピラー下部に結合する
ことを特徴とするデッキクロスメンバ取付構造。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載するデッキクロスメンバ取付構造において、
前記ブラケットを2部材で構成する
ことを特徴とするデッキクロスメンバ取付構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載するデッキクロスメンバ取付構造において、
前記ブラケットを前記デッキクロスメンバ前方における車両前後方向上下2点及び前記デッキクロスメンバ後方における車幅方向1点で前記フロントピラー下部に結合する
ことを特徴とするデッキクロスメンバ取付構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−82746(P2006−82746A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270994(P2004−270994)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】