説明

デニム生地及びその色落ち防止加工方法

【課題】
本発明は、洗濯での色の脱落(変化)の少ないデニム生地(建染染色布帛)を作ることを目的とする。
【解決手段】
デニム生地において、セルロース繊維を含む糸又は布帛を染色し、前記染色された糸又は布帛に液体アンモニア処理をし、次に、樹脂加工により前記セルロース繊維間に架橋結合させ、その後前記糸又は布帛を湯洗する。また、デニム生地は、摩擦堅牢度が、乾燥(タテ)が4.0級以上、湿潤(タテ)で1−2級以上、洗濯堅牢度が、変退色が4級以上、汚染が3−4級以上、表面色のL*値が30以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デニム生地の建染め(インジゴ染め)特有の色落ちの防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デニム生地において、インジゴ染めは代表的な染色方法である。
インジゴ染料は還元により水溶性となるので、この状態の染色液にセルロース繊維を浸漬すれば、水と共に染料は水中と繊維内の染料の濃度差が同一となるようにセルロース繊維内に移動する。その後そのセルロース繊維を空気に曝せば、インジゴ染料は空気中の酸素により酸化され、セルロース繊維中に水に溶け難い色素を再生する。これらを繰り返すことにより、デニム生地特有の深みのある色合いが得られる。
セルロース繊維と染料の結合力は分子間力、水素結合力といわれており、セルロース繊維の非結晶領域にこれらの力で固定されていると考えられる。また、一部はセルロース繊維表面に付着している形もある。これらの染着機構は直接染料の場合と良く似ている。しかし直接染料の分子量はインジゴに比べて大きくまた、高温度にて染着されている点が異なっている。
【0003】
インジゴ染料は、セルロース繊維と化学結合をしていない、また染料分子が小さいため、水またはお湯、特に高温のお湯で洗われた場合は、セルロース繊維の分子運動が活発となり、染料は再び水中に溶出する。この現象は、洗剤の使用で顕著になる。
【0004】
このようなインジゴ染色の特長を利用し、ストーンウォッシュ加工や漂白剤を用いて、デニム生地を個性的に加工したものが、受け入れられた。
しかしながら、染料が溶出するということは、染色堅牢度を低下させる原因となり、実際に生地表面のL*値が30を超える濃色のデニム生地では、洗濯による汚染や変退色、摩擦による汚染等が大きな問題となっている。
【0005】
特許文献1(特開平11−335935号公開公報)には、予め染色された合成繊維と木綿繊維を混紡した糸を用いたデニム生地にインジゴ染色し、インジゴ染め特有の色落ちを利用したデニム用織編物が記載されている。
【0006】
また、特許文献2(特開2005−42267号公開公報)には、ドライでソフトな自然な風合いと軽量感とを有し、しわになりにくくフラットな外観を呈するデニム生地の加工方法が記載されている。この特許文献2のなかに、従来技術として、
「(1)樹脂加工:デニムに形態安定樹脂加工を施すことによって生地が収縮するのを抑制し、それによって洗い後のしわ防止や綾線の消失防止を行う。」、
(2)シルケット加工(アルカリ処理、マーセル化):生地を苛性ソーダ溶液に浸漬し綿繊維が膨潤して収縮しようとするところをタテ、ヨコに双方に緊張を与え、生地の繊維配列度および繊維密度を高める。
(3)液体アンモニア処理(液体アンモニアマーセル化):生地を液体アンモニアに浸漬して綿繊維を膨潤させた後、タテ方向に引っ張ってタテ糸綿繊維の配列を高めるものである。」、
等が記載されている。
【0007】
特許文献1及び2においても、インジゴ染めをいかに色落ちさせるかについては記載されているが、色落ちを無くす又は少なくするかについては記載されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平11−335935号公開公報
【特許文献2】特開2005−42267号公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、洗濯での色の脱落(変化)の少ないデニム生地(建染染色布帛)を作ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
<1>表面色のL*値が30以下であり、かつ摩擦堅牢度が、乾燥(タテ)が4.0級以上、湿潤(タテ)で1−2級以上であることを特徴とするデニム生地、
<2>洗濯堅牢度が、変退色が4級以上、汚染が3−4級以上であることを特徴とするデニム生地
<3>セルロース繊維を含む糸又は布帛を、生地表面色のL*値が30以下になる様に染色し、前記染色された糸又は布帛に液体アンモニア処理をし、次に、樹脂加工剤により前記セルロース繊維間に架橋結合させ、その後前記糸又は布帛を湯洗することを特徴とするデニム生地の色落ち防止加工方法、
<4>前記樹脂加工剤は、セルロースと反応し架橋を生成するもので、ジヒドロキシエチレン尿素誘導体、メラミン誘導体、エチレン尿素誘導体、エポキシ誘導体、カルボン酸誘導体等のセルロースと結合する基を2個以上有する化合物から選ばれることを特徴とする<2>記載のデニム生地の色落ち防止加工方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の加工方法により、従来得ることが出来なかった、染色堅牢度の向上が得られるとともに、デニム生地の寸法安定性、柔らかい風合い、フラットな生地面、しわになりにくいデニム生地が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を、以下詳細に説明する。
(1)染色
糸又は生地を染色するために、常法に従ってインジゴ染料等の染料の染色液の入った染色液槽に浸漬し、染色液槽から引き出し、空気酸化させることを数回繰り返して染色して乾燥させる。染色液は、生地での表面色のL*値が30以下になるようであれば、所望の色により硫化染料(例えば、ASATHIO Brilliiant Blue BOや、ASATHIO Brown GRN(共に旭化学工業(株)製)等)なども使用できる。
染料濃度、浸漬時間、空気酸化の時間についても、生地での表面色のL*値が30以下になるようであれば、所望の色により設定するため、特に制限はされないが、インジゴ染料を例にすると、染料濃度は0.8g/L以上が好ましく、特に1.0g/L以上が好ましい。浸漬時間は15〜120秒間、特に20〜90秒間が好ましく、空気酸化は60〜300秒間、特に90〜270秒間行うことが好ましい。更に、浸漬と空気酸化の繰り返し回数も同様であり、3〜8回が好ましい。上記条件を超えると、薄い色にしか染まらず、デニム生地特有の深みのある濃色が得られなかったり、工程が長くなる等の問題がある。
【0013】
(2)液体アンモニア処理
まず、建染染料で染色したセルロース繊維の糸又は布帛を、液体アンモニア処理すると、セルロース繊維は一度膨潤するが、その後セルロースの非結晶領域の空孔の平均サイズは小さくなる。したがってセルロース繊維の非結晶領域に一旦染着した染料は、洗濯により脱落し難くなる。この液体アンモニア処理は、染めた後であればどの位置で行っても良い。しかし、樹脂加工の後にこの処理を行うと樹脂加工の効果はなくなる。
【0014】
液体アンモニア処理は、例えば、セルロース繊維含有構造物を常圧で−33℃以下の温度に保持された液体アンモニアに含浸することによって行うことができる。含浸方法としては、液体アンモニアをスプレー又はコーティングする方法等も使用できる。この場合、液体アンモニアの含浸時間は適宜選択されるが、通常5〜40秒程度が好適である。
なお、液体アンモニア処理には、液体アンモニアを用いるのが最も一般的であるが、場合によっては、メチルアミン、エチルアミン等の低級アルキルアミンを使用することもできる。
液体アンモニア処理されたセルロース繊維含有構造物は、付着しているアンモニアを加熱により除去する。
【0015】
(3)樹脂加工
次に、液体アンモニア処理された前記セルロース繊維の糸又は布帛を、セルロースのヒドロシキ基と反応し、繊維間に架橋結合を発生させる樹脂加工を行う。
樹脂加工剤としては、セルロースのヒドロシキ基と反応し架橋を生成するものであればいずれのものでもよい。このような化合物としては、ジヒドロキシエチレン尿素誘導体、メラミン誘導体、エチレン尿素誘導体、エポキシ誘導体、カルボン酸誘導体もしくはこれらの反応基を2つ以上持つ化合物もしくはこれらの混合物が用いられ、例えば、グリオキザール、グルタルアルデヒド等のアルデヒド類、ジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物、テトラブタンカルボン酸等のポリカルボン酸類、ジメチロール尿素、トリメチロールメラミン、ジメチロールエチレン尿素、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素等の繊維素反応型N−メチロール化合物等が挙げられ、これらの中でも特に、繊維素反応型N−メチロール化合物、グリオキザール系樹脂等が好ましい。
【0016】
樹脂加工剤への添加量は、樹脂加工を施すセルロース繊維含有構造物の重量に対して、3.0〜9.0質量%、好ましくは3.6〜7.8質量%である。添加量が3.0質量%未満では樹脂加工としての効果が十分に発揮できない場合があり、9.0質量%を超えると樹脂加工に伴う強力低下が著しくなる。
【0017】
本発明の樹脂加工には、上記樹脂加工剤とセルロースの反応性を高め、樹脂加工を迅速に行うために触媒を添加することができる。この触媒としては、通常樹脂加工に用いられる触媒であれば特に限定されず、例えば、ホウ弗化アンモニウム、ホウ弗化ナトリウム、ホウ弗化カリウム、ホウ弗化亜鉛等のホウ弗化化合物、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等の中性金属塩触媒、燐酸、塩酸、硫酸、亜硫酸、次亜硫酸、ホウ酸等の無機酸などが挙げられる。これらの触媒には、必要に応じて助触媒としてクエン酸、酒石酸、林檎酸、マレイン酸等の有機酸などを併用することもできる。
【0018】
また、樹脂加工剤には、必要に応じて、セルロースと樹脂との反応を円滑に進めるための助剤を添加することができる。助剤は樹脂加工剤とセルロースの反応を促進させたり、架橋生成反応においても反応を均一に進めるといった反応溶媒としての作用、更にはセルロースを膨潤させる作用等を有するものである。
上記助剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール類、ジメチルホルムアミド、モルホリン、2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の含窒素溶媒類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、γ−ブチロラクトン等のエステル類などが挙げられる。
【0019】
なお、本発明の樹脂加工剤には、上述の薬剤の他に、必要に応じて、風合い調整用の柔軟剤や遊離ホルマリン濃度低減のためのホルマリンキャッチャー等を添加することもできる。
【0020】
(4)湯洗
本発明は、樹脂加工後に湯洗により、セルロース繊維の表面側に付着した染料を洗い落とす。セルロースの非結晶領域の空孔に染着した染料は、落ちにくくなっているが、セルロース表面側に付着した染料は、容易に脱落するために、予め、湯洗により落とす。湯洗は、60〜65℃で0.5〜2分間行うのがもっとも効果的である。65℃以上では染料の脱落という問題があり、また、時間は2分を超えると効率が悪くなる。
【0021】
本発明は、建染染料(インジゴ染料)で染色された、セルロース繊維を含む糸又は布帛を、液体アンモニア処理によりセルロース繊維の非結晶領域の空孔を小さくし、更に、樹脂加工により、セルロース繊維間に架橋結合を形成し、建染染料の溶出を困難にする。セルロース繊維の表面側に付いた落ち易い染料は、樹脂加工後の湯洗により落としてしまう。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
(1)染色
糸を、インジゴ染料1.6g/Lの染色液に30秒間浸漬し空気酸化させることを、8回繰り返し、染色した。
(2)製織
上記染色された糸を、経糸を綿番手7の単糸、緯糸を綿番手10の単糸を用いて、経糸67本/吋、緯糸52本/吋の密度で、3/1綾織で製織した。
(3)湯洗
上記織物の表面を、2回毛焼後、温度40℃の湯に40m/分の速度で水槽に通した。
(4)液体アンモニア加工
上記織物を、常圧で−33℃以下の温度に保持された液体アンモニアに、5〜40秒間含浸させた。
【0024】
(5)樹脂加工
上記織物に下記加工剤を浸漬させ、乾燥、熱処理を行った。
下記配合割合(%)は、加工剤(水溶液)100質量%内の質量%
【表1】

【0025】
(6)湯洗
温度60〜65℃の湯に、送り速度45m/分で上記織物を通した。
上記(1)〜(6)の加工工程を経たデニム生地を作製した。
(7)測定、評価
摩擦堅牢度試験・・・JIS L 0849(II型試験機)
洗濯堅牢度試験・・・JIS L 0844 A−2号
測色・・・分光測色計(CE−7000A、グレタグマクベス社製)で生地表面のL*、a*、b*表面系を測定した。
上記の試験を行い、結果を表2に示した。
【0026】
[比較例1]
実施例1と同様に(1)染色、(2)製織、(3)湯洗されたデニム生地を作製し、(7)測定を行った。その結果を表2に示した。
【0027】
[比較例2]
実施例1と同様に(1)染色、(2)製織、(3)湯洗、(5)樹脂加工、(6)湯洗されたデニム生地を作製し、(7)測定を行った。その結果を表2に示した。
【0028】
[比較例3]
実施例1と同様に(1)染色、(2)製織、(3)湯洗、(4)液体アンモニア加工、(6)湯洗されたデニム生地を作製し、(7)測定を行った。その結果を表2に示した。
【0029】
[比較例4]
実施例1のインジゴ染料を0.6g/Lの染色液に30秒間浸漬し空気酸化させることを、2回繰り返し、染色した以外は実施例1と同様に(1)染色、(2)製織、(3)湯洗されたデニム生地を作製し、(7)測定を行った。その結果を表2に示した。
【0030】
【表2】

原布・・・・それぞれの加工揚り織物
WA洗い・・それぞれの原布を常温で10分洗い、タンブル乾燥機で乾燥した織物
比較例4は、インジゴ濃度及び浸漬、空気酸化の繰り返し回数を少なくすることで、摩擦堅牢度、洗濯堅牢度とも、良好な結果であったが、デニム特有の深みのある濃紺の色合いが得られず、薄い水色の生地であった。(L*値が30を超えている。)
【0031】
次に、上記で得られた生地の風合い(生地の柔らかさ)、WA洗い後及び家庭洗濯10回後の色落ち程度を、下記の方法で評価した。結果を表3に示した。
風合い評価 原布及びWA洗い後の比較例1の生地をそれぞれの基準(3点)として、1点(硬い)〜5点(柔らかい)の5段階評価を実施。
色落ち評価 比較例1のWA洗い後及び洗濯10回後の生地色をそれぞれの基準(3点)として、1点(淡色)〜5点(濃色)の5段階評価を実施
洗濯方法 タテ70cm×ヨコ70cmの原布のタテ方向裁断面同士をロックミシンで縫製して筒状にした試料を、生地の表面が筒の外側になるようにして、家庭用全自動洗濯機に同浴(一緒に)で各1本入れ、標準コースで洗濯、すすぎ、脱水を10回繰り返したのち乾燥した。なお、洗濯1回毎に家庭用洗剤トップ(LION(株)製)20gを投入した。
【0032】
【表3】

比較例2は樹脂加工を行っているので、生地の風合いが硬くなっているが、実施例1は、液体アンモニア加工後に樹脂加工しているので、比較例2に比べて柔らかく、比較例1の後加工なしの生地と同等の風合いの生地が得られた。
また、実施例1は液体アンモニア加工を実施しているので、皺になりにくく、フラットな表面が得られ、さらに、樹脂加工も施しているので、洗いによる色落ちが抑制され、WA洗い後で最も濃色の生地が得られた。更に、洗濯を繰り返しても色落ちが遅く、最も濃色の生地が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面色のL*値が30以下であり、かつ摩擦堅牢度が、乾燥(タテ)が4級以上、湿潤(タテ)が1−2級以上であることを特徴とするデニム生地。
【請求項2】
洗濯堅牢度が、変退色が4級以上、汚染が3−4級以上であることを特徴とするデニム生地。
【請求項3】
セルロース繊維を含む糸又は布帛を、生地表面色のL*値が30以下になる様に染色し、前記染色された糸又は布帛に液体アンモニア処理をし、次に、樹脂加工剤により前記セルロース繊維間に架橋結合させ、その後前記糸又は布帛を湯洗することを特徴とするデニム生地の色落ち防止加工方法。
【請求項4】
前記樹脂加工剤は、セルロースと反応し架橋を生成するもので、ジヒドロキシエチレン尿素誘導体、メラミン誘導体、エチレン尿素誘導体、エポキシ誘導体、カルボン酸誘導体等のセルロースと結合する基を2個以上有する化合物から選ばれることを特徴とする請求項3記載のデニム生地の色落ち防止加工方法。

【公開番号】特開2009−7680(P2009−7680A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167104(P2007−167104)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【出願人】(593014130)日新デニム株式会社 (7)
【Fターム(参考)】