説明

デファレンシャルケース、デファレンシャル組立体、デファレンシャルケースの製造方法、及び、デファレンシャル組立体の製造方法

【課題】加工性を向上することができるデファレンシャルケースを提供する。
【解決手段】ピニオン4の荷重を受ける座面を球面凹状とする構成のデフケース2において、その球面凹状のピニオン用座面8bと該座面8bの背面側に平面状の装着面8cとを有した球面スペーサ8を設け、該球面スペーサ8をその装着面8cを以て、ケース内壁面2aに設けた収容凹部17の平面状の底面17aに対して直接若しくは平シム9を介在させて装着する構成とした。これにより、デフケース2においては、サイドギヤ用座面14と収容凹部17の底面17aとを平面切削加工のみを行えばよくなり、球面加工より格段に加工が容易となって、該ケース2の加工性は向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の左右駆動輪間で生じる回転差を吸収するためのデファレンシャルギヤ(サイドギヤ及びピニオン)を収容するデファレンシャルケース、そのケースを有するデファレンシャル組立体、及び、これらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、旋回時に左右駆動輪間で回転差が生じるため、その回転差を吸収するためのデファレンシャル装置(差動装置)が備えられている。デファレンシャル装置は、例えば特許文献1にて開示されているようなデファレンシャルケース(以下、デフケースという)を有し、そのデフケースには、それぞれ対をなすサイドギヤ及びピニオンを収容する収容室が形成されている。また、デフケースの内壁面には、サイドギヤの荷重を受けるサイドギヤ用座面とピニオンの荷重を受けるピニオン用座面とがそれぞれ形成されている。サイドギヤ用座面は平面状をなしている一方、ピニオン用座面は球面凹状をなしている。これは、デフケースへのサイドギヤ及びピニオンの装着手順によりそのような形状としている。
【0003】
具体的には、デフケースにはサイドギヤ及びピニオンを挿入するための一対の開口窓が形成されており、先ずその開口窓から収容室内に各サイドギヤが挿入され各サイドギヤ用座面に配置される。次に、各開口窓からそれぞれピニオンが挿入され、各サイドギヤに噛合される。次に、この噛合状態のまま各ピニオンがサイドギヤの回転中心で周回(この場合、サイドギヤはピニオンの周回に伴って回転)されて、各ピニオンがそれぞれ各ピニオン用座面に配置される。そして、ピニオン用座面に配置された各ピニオンにはピニオンシャフトが挿通され、該シャフトがデフケースに固定される。つまり、ピニオンをサイドギヤの回転中心で周回させるので、ピニオン用座面はそのピニオンの移動軌跡に応じた球面凹状に形成され、またこのピニオン用座面に対応するピニオンの径方向外側面(当接面)が球面凸状に形成される。
【0004】
ところで、デフケースは鋳造にて形成されており、ピニオン用座面やサイドギヤ用座面はその鋳造後のデフケースの内壁面を加工(切削・研削加工)することにより形成される。また、このピニオン用座面やサイドギヤ用座面はピニオンやサイドギヤから大きな荷重を受けながら当接(摺接)する部位であるので、各座面には高い精度が要求される。
【0005】
しかしながら、サイドギヤ用座面のように平面加工を行う場合、比較的短い加工時間で高い精度を確保できるが、ピニオン用座面のように球面加工を行う場合、高い精度を確保するためには加工時間が長く必要であった。そのため、このピニオン用座面の球面加工がデフケースの生産性を低下させる要因となっていた。また、球面加工を行う加工具は平面加工を行う加工具よりも高価で寿命が短いため、加工コストが高くなる要因でもあった。
【0006】
また、デフケースに組み込まれたサイドギヤ及びピニオンは、そのバックラッシュを許容範囲内に調整する必要があるが、このバックラッシュの調整には、金属製の板材よりなるシムが用いられる。すなわち、デフケースにサイドギヤ及びピニオンを組み込んだ後のサイドギヤ及びピニオン間のバックラッシュを見ながら、バックラッシュを許容範囲内とするシムの厚みを決定し、そのシムを対応する座面に載置してバックラッシュの調整が行われている。
【0007】
しかしながら、この場合においても、ピニオン用座面は球面凹状をなしていることから、シムもその座面形状に沿って球面状に加工する必要がある。従って、シムの加工コストが高くなるばかりか、球面状をなすシムではバックラッシュの調整が難しかった。そのため、従来よりサイドギヤ用座面に載置する平面状シムのみでバックラッシュの調整を行っており、バックラッシュの調整が十分であるとは言えなかった。
【特許文献1】特開2004−90181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第1の目的は、加工性を向上することができるデファレンシャルケース及びそのケースを有するデファレンシャル組立体を提供し、またこれらの製造方法を提供することである。又、第2の目的は、第1の目的に加え、サイドギヤとピニオンとの間のバックラッシュの調整を容易且つ確実に行うことを可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、効果等を示しつつ説明する。
【0010】
手段1.デファレンシャルギヤを構成する一対のサイドギヤ及び一対のピニオンを収容支持するためのものであり、前記サイドギヤの荷重を受けるサイドギヤ用座面を平面状に、前記ピニオンの荷重を受けるピニオン用座面を球面凹状にそれぞれ設定したデファレンシャルケース(デフケース)であって、ケース内壁面に平面状の配置面を設けると共に、前記球面凹状のピニオン用座面と該座面の背面側に前記配置面に対し装着可能な平面状の装着面とを有する球面スペーサを設けた。
【0011】
手段1によれば、球面スペーサは、球面凹状のピニオン用座面と該座面の背面側に平面状の装着面とを有し、その装着面を以て、ケース内壁面に設けた平面状の配置面に対して直接若しくは後述の手段3に記載されているような平シム等を介在させて装着される。ところで、デフケースは鋳造されるのが一般的であり、そのケース内壁面に各座面を形成する場合、面精度を向上させるために切削加工を鋳造後に実施する必要がある。しかしながら、手段1では球面凹状をなすピニオン用座面を球面スペーサに形成し、該球面スペーサをデフケースと別体としたので、デフケースにおいては、サイドギヤ用座面と球面スペーサ装着用の配置面とを平面切削加工のみを行えばよくなり、球面加工より格段に加工が容易となって、該ケースの加工性は向上する。また、球面スペーサをデフケースと別体としたので、デフケース内で球面加工する煩雑さを解消できる他、高精度な球面加工が難しく加工時間を要する切削加工に代えて、焼結や鋼板プレス、樹脂成形等の成形加工により形成可能となる。つまり、成形加工は、切削加工よりも高精度な加工が容易で加工時間を短縮できるので、球面スペーサをデフケースと別体とするその意義は大きい。
【0012】
手段2.上記手段1において、前記ケース内壁面の配置面を、前記ピニオンを支持したときの前記ピニオンの軸線と直交する平面状に形成した。
【0013】
手段2によれば、ケース内壁面の配置面がピニオンの軸線と直交する平面状に形成されるので、軸線を基準として配置面をより容易に形成でき、しかもその配置面に装着する球面スペーサの形成も容易となる。
【0014】
手段3.上記手段1又は2において、前記ケース内壁面の配置面と前記球面スペーサの装着面との間において、前記サイドギヤ及び前記ピニオンのバックラッシュの調整を行うための平シムを介在させた。
【0015】
手段3によれば、ケース内壁面の配置面と球面スペーサの装着面との間に、バックラッシュの調整を行う平シムが介在される。つまり、ピニオン側においても球面状シムを用いることなく平シムを用いてバックラッシュの調整を行うことができるので、バックラッシュの調整が容易である。しかもサイドギヤ側と協働したバックラッシュの調整を行うことが可能となり、より確実なバックラッシュの調整が可能となる。
【0016】
手段4.上記手段1〜3のいずれかにおいて、前記ケース内壁面の配置面は、前記球面スペーサを収容支持する収容凹部の底面である。
【0017】
手段4によれば、球面スペーサを収容支持する収容凹部の底面に対し、球面スペーサが直接若しくは平シム等を介在して装着される。つまり、球面スペーサが収容凹部にて収容支持されるので、その球面スペーサの位置決めや装着性が容易となる。
【0018】
手段5.上記手段1〜4のいずれかに記載のデフケースと、前記ケースに組み込まれるサイドギヤと、球面スペーサのピニオン用座面に対応して球面凸状をなす摺接面を有しており、前記サイドギヤとの噛合状態で該ピニオン用座面にその摺接面が対向する位置まで前記サイドギヤの回転中心で周回させて前記ケース内に組み込まれるピニオンと、を備えたデファレンシャル組立体である。
【0019】
手段5によれば、このようにサイドギヤ及びピニオンが組み込まれるデファレンシャル組立体のデフケースの加工性向上を図ることが可能となる。特に、手段3に記載したようなデフケースとすれば、バックラッシュの調整も容易且つ確実となる。
【0020】
手段6.上記手段1〜4のいずれかに記載のデフケースの製造方法であって、前記デフケースを鋳造する鋳造工程と、前記鋳造工程を経た前記デフケースに対し、サイドギヤ用座面及び球面スペーサ装着用の配置面の平面精度を向上させるための平面切削加工を実施する平面加工工程と、前記平面加工工程を経て形成された前記配置面に対し、球面スペーサを装着するスペーサ装着工程と、を備えた。
【0021】
手段6によれば、デフケースは先ず鋳造により形成され、その鋳造後、該デフケースに対し、サイドギヤ用座面及び球面スペーサ装着用の配置面の平面精度を向上させるための平面切削加工が実施され、その後、その配置面に対して球面スペーサが装着される。つまり、サイドギヤ用座面と球面スペーサ装着用の配置面とを平面切削加工のみを行えばよくなり、球面加工より格段に加工が容易となる。因みに、球面スペーサはピニオンの軸線に沿って対向するケース内壁面に配置されるので、球面スペーサ装着用の配置面も該軸線に沿って対向して設けられる。そのため、例えば各配置面をそれぞれ平面加工するための加工刃を両側に設けた切削工具を対向する配置面間に配置し、該切削工具を軸線方向に移動させて各配置面に押し付けて回転させて各加工刃により各配置面の平面加工を実施するようにすれば、各配置面を容易に形成できる。
【0022】
手段7.上記手段5に記載のデファレンシャル組立体の製造方法であって、前記デフケースを鋳造する鋳造工程と、前記鋳造工程を経た前記デフケースに対し、サイドギヤ用座面及び球面スペーサ装着用の配置面の平面精度を向上させるための平面切削加工を実施する平面加工工程と、前記平面加工工程を経て形成された前記配置面に対し、球面スペーサを装着するスペーサ装着工程と、前記平面加工工程を経た前記デフケースに対し、サイドギヤの組み込み、及び、該サイドギヤとの噛合状態で球面スペーサのピニオン用座面に対向する位置まで該サイドギヤの回転中心で周回させて該ケース内にピニオンを組み込むギヤ組込工程と、を備えた。
【0023】
手段7によれば、このようにサイドギヤ及びピニオンが組み込まれるデファレンシャル組立体のデフケースは、上記手段6と同様に製造され、上記手段6と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。
【0025】
図1は、デファレンシャル装置(図示略)の一構成部分であるデファレンシャル組立体1を示し、図2は図1の一部拡大図である。デファレンシャル組立体1は、デフケース(デファレンシャルケース)2内に、デファレンシャルギヤを構成すべくそれぞれ対をなすサイドギヤ3及びピニオン4を組み込んで構成される。デフケース2には、図3に示すように、サイドギヤ3及びピニオン4を収容するための収容室10が形成されている。
【0026】
デフケース2には、軸線L1で同軸となる一対の円筒部11がそれぞれ外側に延出形成されている。各円筒部11の内側には、左右の駆動輪を駆動する各アクスルシャフト(共に図示略)を挿入するための挿入孔12がそれぞれ形成され、前記収容室10と連通している。各挿入孔12は、軸線L1で同軸となるように設けられている。各挿入孔12の基端部(収容室10側端部)には、該挿入孔12と同軸をなし該挿入孔12よりも若干径の大きい断面円形状の支持凹部13がそれぞれ形成されている。各支持凹部13には各サイドギヤ3の支持筒部23が嵌挿され、各サイドギヤ3は回転可能に支持される。
【0027】
ケース内壁面2aにおける各支持凹部13の周縁部には、サイドギヤ3の荷重を受けるサイドギヤ用座面14がそれぞれ形成されている。各サイドギヤ用座面14は、前記軸線L1に対して直交する平面で形成される。各サイドギヤ用座面14は、互いに対向するように設けられている。
【0028】
また、これら各サイドギヤ用座面14には、組み付け時において、サイドギヤ3及びピニオン4のバックラッシュの調整を行うための平板円環状の平シム5がそれぞれ載置され、サイドギヤ3との間に介在される。因みに、バックラッシュの調整は、平シム5自身の厚みを変更して行われ、調整不要時には平シム5を使用しない。
【0029】
また、デフケース2には、前記軸線L1と直交する方向において互いに対向する壁部に断面円形状の挿通孔15がそれぞれ貫通形成されている。各挿通孔15は、前記軸線L1と直交する軸線L2で同軸となるように設けられている。各挿通孔15には、そのいずれか一方から円柱状のピニオンシャフト6が挿入され、該ピニオンシャフト6の各端部が支持される。デフケース2の壁部には、軸線L2と直交する方向(前記軸線L1と平行な方向)に延びる断面円形状のピン装着孔16が貫通形成されており、ピン装着孔16は、一方の挿通孔15と連通している。ピン装着孔16は、ピニオンシャフト6を固定するための固定ピン7が圧入される。
【0030】
ケース内壁面2aにおける各挿通孔15の周縁部には、各球面スペーサ8を収容支持するための断面円形状の収容凹部17がそれぞれ形成されている。各収容凹部17の底面(配置面)17aは、軸線L2に対して直交する平面で形成される。
【0031】
各収容凹部17には、球面スペーサ8及び平シム9(バックラッシュの調整により必要な時)が収容される。各球面スペーサ8は円環状をなしており、その中央部には軸線L2方向に貫通し該軸線L2と同軸をなす貫通孔8aが形成されている。各貫通孔8aは、ピニオンシャフト6が挿通される孔である。各球面スペーサ8は、軸線L2方向一側がピニオン4の荷重を受けるピニオン用座面8bとなっており、該座面8bは、ピニオン4に設けられる球面凸状の摺接面27と摺接(当接)すべく球面凹状に形成されている。これらピニオン用座面8b及びピニオン4の摺接面27は、軸線L2上に中心を有する球面状をなしている。各球面スペーサ8の軸線L2方向他側には、該軸線L2に対して直交する平面となる装着面8cが形成されている。
【0032】
このような球面スペーサ8は、焼結や鋼板プレスにて形成される他、樹脂成形により形成しても良い。球面スペーサ8をデフケース2と別体としたことで、デフケース2内で球面加工する煩雑さを解消できる他、高精度な球面加工が難しく加工時間を要する切削加工に代えて、焼結や鋼板プレス、樹脂成形というように成形加工により形成可能となる。つまり、成形加工は、切削加工よりも高精度な加工が容易で加工時間を短縮できるので、球面スペーサ8をデフケース2と別体とするその意義は大きい。
【0033】
これら各球面スペーサ8の装着面8cと前記収容凹部17の底面17aとの間には、組み付け時において、サイドギヤ3及びピニオン4のバックラッシュの調整を行うための平板円環状の平シム9がそれぞれ介在される。因みに、バックラッシュの調整は、上記と同様に、平シム9自身の厚みを変更して行われ、調整不要時には平シム9を使用しない。
【0034】
また、デフケース2には、図3に示すように、前記両軸線L1,L2と直交する方向において互いに対向する壁部に、サイドギヤ3及びピニオン4を収容室10内に挿入可能な大きさのギヤ挿入窓18(図3では奥側の1つのみ図示)がそれぞれ貫通形成されている。
【0035】
また、デフケース2の外周部には、一方の円筒部11寄りに前記軸線L1と同軸に設けられるフランジ部19が延出形成されている。フランジ部19は、図示しないリングギヤを固定するために設けられる。因みに、このリングギヤは、エンジンの回転駆動力により回転するドライブピニオンと噛合し、該ドライブピニオンの回転に伴って回転し、デフケース2を回転させる。
【0036】
このような構成をなすデフケース2は鋳造により形成されており、この鋳造の際、上記した収容凹部17及びサイドギヤ用座面14も形成される。しかしながら、鋳造により形成される収容凹部17の底面17a及びサイドギヤ用座面14は平面精度が低いため、鋳造工程後において、収容凹部17の底面17a及びサイドギヤ用座面14を平面切削加工する平面加工工程が実施され、収容凹部17の底面17a及びサイドギヤ用座面14は精度の高い平面状に形成される。なお、以下に、収容凹部17の底面17aの平面加工を代表して説明する。
【0037】
図3の2点鎖線にて示すように、切削工具31と一対の工具駆動軸32とを用いて実施される。切削工具31は、各収容凹部17の底面17aを平面加工するための加工刃31aが両側に設けられ、工具駆動軸32は、切削工具31の支持及び該切削工具31を回転駆動する。そして、平面加工するにあたり、先ず、切削工具31がギヤ挿入窓18から挿入されると共に、各挿通孔15からそれぞれ工具駆動軸32が挿入され、各駆動軸32の先端で切削工具31を挟持する。
【0038】
次に、工具駆動軸32が軸線L2方向一方に移動されて切削工具31の一方の加工刃31aが一方の収容凹部17の底面17aに押し付けられる。次に、工具駆動軸32が回転駆動され、それに伴って切削工具31が回転し、一方の収容凹部17の底面17aが平面加工される。その後、工具駆動軸32が軸線L2方向他方に移動されて切削工具31の他方の加工刃31aを他方の収容凹部17の底面17aに押し付け、工具駆動軸32と共に切削工具31を回転させて、他方の収容凹部17の底面17aが平面加工される。これにより、各収容凹部17の底面17aを容易に形成できる。なお、図示しないが、サイドギヤ用座面14も、上記と同様な加工装置を用いて平面加工が実施される。
【0039】
このような平面加工は、周知なように球面加工と比べても、高い精度を確保しつつ加工が容易であることから、収容凹部17の底面17a及びサイドギヤ用座面14として、高精度の平面形状を容易に形成でき、これによりデフケース2の加工性は向上する。なお、上記は収容凹部17の底面17aの平面加工を行うようにしているが、収容凹部17そのものを形成するようにしても良い。
【0040】
このようなデフケース2に対し、サイドギヤ3及びピニオン4は、それぞれ傘歯車で構成されている。各サイドギヤ3の中央部には、前記軸線L1方向に貫通し該軸線L1と同軸をなす連結孔21が形成されている。各連結孔21は、左右の各駆動輪を駆動する各アクスルシャフトの基端部が嵌挿され連結される。また、各サイドギヤ3には、傘状をなす歯部22とは軸線L1方向の反対側に、軸線L1と同軸をなす円筒状の支持筒部23が突出形成されている。この支持筒部23は、デフケース2の支持凹部13内に嵌挿され、サイドギヤ3をデフケース2に対して回転可能に支持するためのものである。更に、支持筒部23の周縁部には、デフケース2のサイドギヤ用座面14に載置される平シム5と摺接(平シム5を使用しない場合は、直接サイドギヤ用座面14と摺接)するための平面状の摺接面24が形成されている。そして、これら各サイドギヤ3は、互いに歯部22側をデフケース2の内側に向け支持筒部23を外側に向けて、該支持筒部23を支持凹部13に挿入した状態で該デフケース2に配置される。この場合、各サイドギヤ3の摺接面24は、平シム5(若しくはサイドギヤ用座面14)と当接している。
【0041】
各ピニオン4の中央部には、前記軸線L2方向に貫通し該軸線L2と同軸をなす支持孔25が形成されている。各支持孔25は、各ピニオン4を回転可能に支持するためのピニオンシャフト6が挿通される孔である。各ピニオン4の傘状をなす歯部26とは軸線L2方向の反対側に、球面スペーサ8に設けられるピニオン用座面8bと摺接するための球面凸状の摺接面27が形成されている。そして、これら各ピニオン4は、互いに歯部26側をデフケース2の内側に向け摺接面27を外側に向けて、更にその歯部26をサイドギヤ3の歯部22と噛合させた状態で配置され、ピニオンシャフト6に挿通される。
【0042】
ピニオンシャフト6は、デフケース2の挿通孔15及び球面スペーサ8の貫通孔8aに挿通されると共に各ピニオン4の支持孔25に挿通され、各ピニオン4を回転可能に支持する。ピニオンシャフト6は、その一端に軸線L2と直交方向に貫通形成される固定孔6aが形成されており、この固定孔6aと前記デフケース2のピン装着孔16とに跨って固定ピン7を圧入させることで、デフケース2に固定される。
【0043】
このように構成されるデファレンシャル組立体1は、次の手順で組み立てられる。先ず、図4に示すように、デフケース2の一方若しくは両方のギヤ挿入窓18から各サイドギヤ3が挿入され、各支持筒部23が支持凹部13内にそれぞれ挿入されて、各サイドギヤ3が配置される。このとき、各サイドギヤ3の摺接面24とサイドギヤ用座面14との間には、好適な厚みに設定した平シム5が介在される。なお、平シム5の厚みは、例えばサイドギヤ3及びピニオン4を仮組み付けすること等により、予め決定されている。なお、サイドギヤ3を上下に並べてデファレンシャルの組み立てを行う場合、上側に配置するサイドギヤ3は図示しない支持手段により支持される。
【0044】
次に、図5に示すように、各ピニオン4よりも先に各球面スペーサ8がギヤ挿入窓18から挿入され、各球面スペーサ8の装着面8cが収容凹部17の底面17a側を向くように収容凹部17内にそれぞれ収容支持される。このとき、各球面スペーサ8の装着面8cと収容凹部17の底面17aとの間には、好適な厚みに設定した平シム9が介在される。なお、平シム9の厚みは、上記と同様にして予め決定されている。そして、各球面スペーサ8の装着後、各ピニオン4が各ギヤ挿入窓18から挿入され、各サイドギヤ3と噛合される。なお、図5では奥側のギヤ挿入窓18から挿入した一方のピニオン4のみ図示している。
【0045】
次に、この噛合状態のまま各ピニオン4がサイドギヤ3の回転中心(軸線L1)で周回(この場合、サイドギヤ3はピニオン4の周回に伴って回転)されて、図6に示すように、各ピニオン4の摺接面27がそれぞれ各球面スペーサ8のピニオン用座面8bと対向して当接するよう各ピニオン4が配置される。
【0046】
そして、上記のように配置された各ピニオン4には、図1に示すようにピニオンシャフト6が挿通され、デフケース2のピン装着孔16及び該シャフト6の固定孔6aに固定ピン7が圧入されて、ピニオンシャフト6がデフケース2に固定される。このようにしてデファレンシャル組立体1が組み立てられ、デファレンシャル装置の組み立てに用いられる。
【0047】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0048】
本実施の形態では、球面凹状のピニオン用座面8bと該座面8bの背面側に平面状の装着面8cとを有した球面スペーサ8を設け、該球面スペーサ8をその装着面8cを以て、デフケース2のケース内壁面2aに設けた収容凹部17の平面状の底面17aに対して直接若しくは平シム9を介在させて装着する構成とした。これにより、デフケース2においては、サイドギヤ用座面14と球面スペーサ8装着用の収容凹部17の底面17aとを平面切削加工のみを行えばよくなり、球面加工より格段に加工が容易となって、該ケース2の加工性は向上する。また、球面スペーサ8をデフケース2と別体としたので、デフケース2内で球面加工する煩雑さを解消できる他、高精度な球面加工が難しく加工時間を要する切削加工に代えて、焼結や鋼板プレス、樹脂成形等の成形加工により形成可能となる。つまり、成形加工は、切削加工よりも高精度な加工が容易で加工時間を短縮できるので、球面スペーサ8をデフケース2と別体とするその意義は大きい。
【0049】
本実施の形態では、収容凹部17の底面17aを軸線L2と直交する平面状に形成したので、軸線L2を基準として底面17a(収容凹部17)をより容易に形成することができ、しかもその底面17aに装着する球面スペーサ8の形成も容易とすることができる。
【0050】
本実施の形態では、収容凹部17の底面17aと球面スペーサ8の装着面8cとの間に、バックラッシュの調整を行う平シム9を介在させている。つまり、ピニオン4側においても球面状シムを用いることなく平シム9を用いてバックラッシュの調整を行うことができるので、バックラッシュの調整が容易である。しかもサイドギヤ側と協働したバックラッシュの調整を行うことが可能となり、より確実なバックラッシュの調整を行うことができる。
【0051】
本実施の形態では、球面スペーサ8を収容凹部17にて収容支持させているので、その球面スペーサ8の位置決めや装着性が容易である。
【0052】
なお、本発明は上記実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施しても良い。
【0053】
上記実施の形態では、球面スペーサ8を配置する底面17aを軸線L2と直交する平面としたが、軸線L2と直交する平面でなくても良い。
【0054】
上記実施の形態では、収容凹部17の底面17aと球面スペーサ8の装着面8cとの間に平シム9を介在させたが、平シム9を介在しない構成としても良い。つまり、ピニオン4側でバックラッシュの調整を行わないようにしても良い。また、球面スペーサ8のピニオン用座面8bに球面状のシムを載置してバックラッシュの調整を行っても良い。
【0055】
上記実施の形態では、球面スペーサ8を収容凹部17に収容支持するようにしたが、球面スペーサ8を凹部に収容する構成でなくても良い。例えば、突起と穴とを相互間で設け、これらの凹凸嵌合により球面スペーサ8を支持するようにしても良い。
【0056】
上記実施の形態では、サイドギヤ3の装着後に球面スペーサ8及び平シム9を装着し、その後、ピニオン4を組み込む手順としたが、先に球面スペーサ8及び平シム9を装着してからサイドギヤ3を装着し、その後、ピニオン4を組み込むようにしても良い。
【0057】
上記実施の形態では、一対のサイドギヤ3及び一対のピニオン4にてデファレンシャルギヤを構成したが、デファレンシャルギヤの構成はこれに限定されるものではなく、例えばピニオンの数を増加させた構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施の形態におけるデファレンシャル組立体を示す断面図である。
【図2】図1の一部拡大断面図である。
【図3】デファレンシャルケースを示す断面図である。
【図4】デファレンシャル組立体の組み立て手順を説明するための断面図である。
【図5】デファレンシャル組立体の組み立て手順を説明するための断面図である。
【図6】デファレンシャル組立体の組み立て手順を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0059】
2…デファレンシャルケース(デフケース)、2a…ケース内壁面、3…サイドギヤ、4…ピニオン、8…球面スペーサ、8b…ピニオン用座面、8c…装着面、9…平シム、14…サイドギヤ用座面、17…収容凹部、17a…底面(配置面)、L2…軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デファレンシャルギヤを構成する一対のサイドギヤ及び一対のピニオンを収容支持するためのものであり、前記サイドギヤの荷重を受けるサイドギヤ用座面を平面状に、前記ピニオンの荷重を受けるピニオン用座面を球面凹状にそれぞれ設定したデファレンシャルケースであって、
ケース内壁面に平面状の配置面を設けると共に、
前記球面凹状のピニオン用座面と該座面の背面側に前記配置面に対し装着可能な平面状の装着面とを有する球面スペーサを設けたことを特徴とするデファレンシャルケース。
【請求項2】
前記ケース内壁面の配置面を、前記ピニオンを支持したときの前記ピニオンの軸線と直交する平面状に形成したことを特徴とする請求項1に記載のデファレンシャルケース。
【請求項3】
前記ケース内壁面の配置面と前記球面スペーサの装着面との間において、前記サイドギヤ及び前記ピニオンのバックラッシュの調整を行うための平シムを介在させたことを特徴とする請求項1又は2に記載のデファレンシャルケース。
【請求項4】
前記ケース内壁面の配置面は、前記球面スペーサを収容支持する収容凹部の底面であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のデファレンシャルケース。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のデファレンシャルケースと、
前記ケースに組み込まれるサイドギヤと、
球面スペーサのピニオン用座面に対応して球面凸状をなす摺接面を有しており、前記サイドギヤとの噛合状態で該ピニオン用座面にその摺接面が対向する位置まで前記サイドギヤの回転中心で周回させて前記ケース内に組み込まれるピニオンと、
を備えたことを特徴とするデファレンシャル組立体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のデファレンシャルケースの製造方法であって、
前記デファレンシャルケースを鋳造する鋳造工程と、
前記鋳造工程を経た前記デファレンシャルケースに対し、サイドギヤ用座面及び球面スペーサ装着用の配置面の平面精度を向上させるための平面切削加工を実施する平面加工工程と、
前記平面加工工程を経て形成された前記配置面に対し、球面スペーサを装着するスペーサ装着工程と、
を備えたことを特徴とするデファレンシャルケースの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のデファレンシャル組立体の製造方法であって、
前記デファレンシャルケースを鋳造する鋳造工程と、
前記鋳造工程を経た前記デファレンシャルケースに対し、サイドギヤ用座面及び球面スペーサ装着用の配置面の平面精度を向上させるための平面切削加工を実施する平面加工工程と、
前記平面加工工程を経て形成された前記配置面に対し、球面スペーサを装着するスペーサ装着工程と、
前記平面加工工程を経た前記デファレンシャルケースに対し、サイドギヤの組み込み、及び、該サイドギヤとの噛合状態で球面スペーサのピニオン用座面に対向する位置まで該サイドギヤの回転中心で周回させて該ケース内にピニオンを組み込むギヤ組込工程と、
を備えたことを特徴とするデファレンシャル組立体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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