説明

デュアルクラッチ式自動変速機

【課題】2つの回転数センサの一方が故障した場合に、正常な他方の回転数センサの出力を利用して、故障したセンサ側の入力軸の回転数を算出できるようにしたデュアルクラッチ式自動変速機を提供する。
【解決手段】第1入力軸回転数センサ91および第2入力軸回転数センサ92の異常を検出する異常検出部S100、S102と、異常検出部によって第1入力軸回転数センサおよび第2入力軸回転数センサのいずれか一方の異常が検出されると、車両の停止中にシフト機構を制御して奇数変速段の1つと偶数変速段の1つを同時に成立させ、車両の走行中は変速段の切替えを行わずに奇数変速段の1つと偶数変速段の1つのみで走行するように制御する変速制御装置23と、奇数変速段の1つと偶数変速段の1つが同時に成立された状態で、異常検出された入力軸回転数センサに対応する側の第1入力軸あるいは第2入力軸の回転数を、正常な入力軸回転数センサの検出出力に基づいて算出する回転数算出部S110とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの入力軸回転数センサの一方が故障等した場合に、正常な回転数センサを用いて、故障したセンサ側の入力軸の回転数を算出できるようにしたデュアルクラッチ式自動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用変速機の一種に、2つのクラッチをもつデュアルクラッチと、これらクラッチに接続された2つの入力軸と、一方の入力軸に伝達された回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および他方の入力軸に伝達された回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構とを備えたデュアルクラッチ式自動変速機がある。かかる自動変速機は、2つのクラッチで係合切替を操作することによりトルクが途切れないようにして変速操作を行えるという利点がある。この種のデュアルクラッチ式自動変速機として、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−196745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、デュアルクラッチ式自動変速機においては、2つの入力軸の回転数を検出する2つの回転数センサが設けられ、変速時にエンジンの回転数が入力軸の回転数と等しくなると、一方のクラッチが係合制御されるようになっている。このため、入力軸の回転数を検出する回転数センサの1つでも故障すると、変速制御が行えなくなり、走行ができなくなる。
【0005】
本発明は上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、2つの回転数センサの一方が故障等した場合に、正常な他方の回転数センサの検出出力を利用して、故障したセンサ側の入力軸の回転数を算出できるようにしたデュアルクラッチ式自動変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、同心に配置された第1入力軸および第2入力軸と、原動機の回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチと前記回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、前記第1入力軸の回転数を検出する第1入力軸回転数センサ、および前記第2入力軸の回転数を検出する第2入力軸回転数センサと、前記第1入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および前記第2入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構と、前記第1入力軸回転数センサおよび前記第2入力軸回転数センサの異常を検出する異常検出部と、前記異常検出部によって前記第1入力軸回転数センサおよび前記第2入力軸回転数センサのいずれか一方の異常が検出されると、車両の停止中に前記シフト機構を制御して前記奇数変速段の1つと前記偶数変速段の1つを同時に成立させ、車両の走行中は変速段の切替えを行わずに前記奇数変速段の1つと前記偶数変速段の1つのみで走行するように制御する変速制御装置と、前記変速制御装置によって前記奇数変速段の1つと前記偶数変速段の1つが同時に成立された状態で、異常検出された前記入力軸回転数センサに対応する側の前記第1入力軸あるいは前記第2入力軸の回転数を、正常な前記入力軸回転数センサの検出出力に基づいて算出する回転数算出部とを備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記入力軸回転数センサの異常検出時に同時に成立される前記奇数変速段は1速段であり、前記偶数変速段は2速段であることである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記第1入力軸回転数センサは、前記第1入力軸上に設けられた駆動ギヤの回転を検出し、前記第2入力軸回転数センサは、前記第2入力軸上に設けられた駆動ギヤの回転を検出するようになっていることである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、第1入力軸回転数センサおよび第2入力軸回転数センサの異常を検出する異常検出部と、第1入力軸回転数センサおよび第2入力軸回転数センサのいずれか一方の異常が検出されると、車両の停止中にシフト機構を制御して奇数変速段の1つと偶数変速段の1つを同時に成立させ、車両の走行中は変速段の切替えを行わずに奇数変速段の1つと偶数変速段の1つのみで走行するように制御する変速制御装置と、奇数変速段の1つと偶数変速段の1つが同時に成立された状態で、異常検出された入力軸回転数センサに対応する側の第1入力軸あるいは第2入力軸の回転数を、正常な入力軸回転数センサの検出出力に基づいて算出する回転数算出部とを備えている。
【0010】
この構成により、入力軸回転数センサの異常発生によって、第1および第2入力軸の一方の回転数の検出ができなくなった場合でも、正常な入力軸回転数センサの検出出力を用いて、異常となった入力軸回転数センサに対応する側の入力軸の回転数を算出することができるので、入力軸回転数センサの故障等によって、変速、走行ができなくなる事態を回避することができる。
しかも、車両の停止中にシフト機構を制御して奇数変速段の1つと偶数変速段の1つを同時に成立させ、車両の走行中は変速段の切替えを行わずに奇数変速段の1つと偶数変速段の1つのみで走行するように制御するようにしたので、いずれかの入力軸回転数センサが故障していても、変速シフトを支障なく行えるとともに、同時に成立させた奇数変速段の1つと偶数変速段の1つによって車両を走行させることが可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、入力軸回転数センサの異常検出時に同時に成立される奇数変速段は1速段であり、偶数変速段は2速段であるので、入力軸回転数センサの異常発生にも係らず、車両を安全な場所まで的確に退避走行させることができる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、第1入力軸回転数センサは、第1入力軸上に設けられた駆動ギヤの回転を検出し、第2入力軸回転数センサは、第2入力軸上に設けられた駆動ギヤの回転を検出するようになっているので、それら駆動ギヤに噛合う従動ギヤとのギヤ比に基づいて、入力軸の回転数を簡単に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機を搭載した車両を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態を示すデュアルクラッチ式自動変速機の全体構造を示すスケルトン図である。
【図3】変速時のタイムチャートを示す図である。
【図4】変速制御のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機を、図面に基づいて説明する。図1は、デュアルクラッチ式自動変速機10を適用可能な車両の一部の構成を示したブロック図である。図1に示す車両はFF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両であり、原動機の一例であるガソリンの燃焼によって駆動されるエンジン11と、デュアルクラッチ式自動変速機10と、差動装置(ディファレンシャル)13と、エンジン11の作動を制御するECU(Engine Control Unit)14と、駆動軸15a、15bと、駆動輪16a、16b(前輪)および図示しない従動輪(後輪)を備えている。
【0015】
デュアルクラッチ式自動変速機10は、エンジン11と差動装置13の間の動力伝達経路上に配設されている。デュアルクラッチ20は、図2に示すように、エンジン11から出力される回転駆動トルクを、第1入力軸31に伝達する第1クラッチ21と、第2入力軸32に伝達する第2クラッチ22を有している。
【0016】
エンジン11の回転数Neを検出するために、エンジン11の出力軸(クランクシャフト)に近接してエンジン回転数センサ90が設けられている。また、第1入力軸31の回転数N1を検出する第1入力軸回転数センサ91、および第2入力軸32の回転数N2を検出する第2入力軸回転数センサ92が設けられている。さらに、駆動輪16a、16bの回転速度を検出する車輪速センサ93、94と、アクセルペダルの操作量としてのアクセル開度を検出するアクセル開度センサ95が設けられている。車輪速センサ93、94で検出された駆動輪16a、16bの回転速度に基づいて、車速(車両速度)Vが検出される。
【0017】
また、デュアルクラッチ式自動変速機10は、複数のギヤ段の切替え(変速シフト)と、第1クラッチ21および第2クラッチ22の切替えを制御する変速制御装置23を有している。以下においては、変速制御装置23をTCU(Transmission Control Unit)と称することにする。
【0018】
ECU14は、TCU23からの各種情報、およびエンジン回転数センサ90からのエンジン回転数Neデータと、アクセル開度センサ95からのアクセル開度データとを取得する。そしてECU14は、これらの情報に基づきアクセル開度を制御したり、インジェクタ(図示しない)の燃料噴射量を制御してエンジン回転数Neを制御する。TCU23はECU14と接続され、CAN通信によってECU14と相互に情報を交換しながら、後述するクラッチアクチュエータ25、26および変速アクチュエータ27を制御し、デュアルクラッチ式自動変速機10の変速制御を行う。
【0019】
デュアルクラッチ20の第1および第2クラッチ21,22は、乾式摩擦クラッチからなっている。第1クラッチ21は、モータを駆動源とする第1のクラッチアクチュエータ25によって係合制御され、第2クラッチ22は、モータを駆動源とする第2のクラッチアクチュエータ26によって係合制御される。第1および第2のクラッチアクチュエータ25、26は、クラッチアクチュエータ25、26の作動量(ストローク量)を検出するストロークセンサ25a、26aを有している。第1および第2クラッチ21,22のクラッチトルクは、第1および第2クラッチアクチュエータ25,26の作動量に応じて制御される。第1および第2クラッチ21、22は、クラッチアクチュエータ25、26の作動量が0で切断状態となるクラッチであり、作動量が増加するにしたがって半接続状態となってクラッチトルクが増加し、作動量の最大値でクラッチトルクが最大となる特性を有している。なお、第1および第2クラッチ21,22は、常時はともに切断状態に保持される。
【0020】
デュアルクラッチ式自動変速機10は、図2に示すように、前進7速、後進1速のギヤトレーンを備えている。デュアルクラッチ式自動変速機10は、デュアルクラッチ20と、第1入力軸31および第2入力軸32と、第1副軸35および第2副軸36を備えている。第1入力軸31は棒状とされ、第2入力軸32は筒状とされて、同軸的に回転可能に配置されている。第1入力軸31の図中左側はデュアルクラッチ20の第1クラッチ21に連結され、第2入力軸32の図中左側はデュアルクラッチ20の第2クラッチ22に連結されている。第1入力軸31と第2入力軸32は、独立してトルクが伝達され、異なる回転数で回転可能となっている。第1副軸35は、第1入力軸31および第2入力軸32と並行して、図中下側に配置され、第2副軸36は、第1入力軸31および第2入力軸32と並行して、図中上側に配置されている。
【0021】
第1入力軸31には、複数の奇数変速段駆動ギヤである1速駆動ギヤ51、3速駆動ギヤ53、5速駆動ギヤ55および7速駆動ギヤ57が直接形成または別体で固定して設けられている。第2入力軸32には、複数の偶数変速段駆動ギヤである2速駆動ギヤ52、4−6速駆動ギヤ54が直接形成または別体で固定して設けられている。
【0022】
第1副軸35には、1速、3速、4速従動ギヤ61、63、64がそれぞれ遊転可能に設けられ、1速従動ギヤ61は1速駆動ギヤ51に、3速従動ギヤ63は3速駆動ギヤ53に、4速従動ギヤ64は4−6速駆動ギヤ54に、それぞれ噛合されている。
【0023】
第2副軸36には、2速、5速、6速、7速従動ギヤ62、65、66、67がそれぞれ遊転可能に設けられ、2速従動ギヤ62は2速駆動ギヤ52に、5速従動ギヤ65は5速駆動ギヤ55に、6速従動ギヤ66は4−6速駆動ギヤ54に、7速従動ギヤ67は7速駆動ギヤ57に、それぞれ噛合されている。
【0024】
また、第1副軸35には、後進ギヤ70が遊転可能に設けられ、後進ギヤ70は、2速従動ギヤ62の小径ギヤ62bに常時噛合されている。
【0025】
第1副軸35および第2副軸36上には、シンクロメッシュ機能を有する第1、第2、第3、第4ギヤシフトクラッチ71〜74が設けられ、これらギヤシフトクラッチ71〜74は、TCU23によって制御される変速アクチュエータ27によって選択的に作動される。
【0026】
第1ギヤシフトクラッチ71は、第1副軸35上に設けられ、1速従動ギヤ61のシンクロギヤ部と3速従動ギヤ63のシンクロギヤ部との間に設けられている。第1ギヤシフトクラッチ71のスリーブが軸方向にスライドすることにより、1速従動ギヤ61および3速従動ギヤ63の一方と第1副軸35とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらの従動ギヤ61、63とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0027】
第2ギヤシフトクラッチ72は、第1副軸35上に設けられ、4速従動ギヤ64のシンクロギヤ部と後進ギヤ70のシンクロギヤ部との間に設けられている。第2ギヤシフトクラッチ72のスリーブが軸方向にスライドすることにより、4速従動ギヤ64および後進ギヤ70の一方と第1副軸35とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらのギヤ64、70とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0028】
第3ギヤシフトクラッチ73は、第2副軸36上に設けられ、7速従動ギヤ67のシンクロギヤ部と5速従動ギヤ65のシンクロギヤ部との間に設けられている。第3ギヤシフトクラッチ73のスリーブが軸方向にスライドすることにより、7速従動ギヤ67および5速従動ギヤ65の一方と第2副軸36とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらの従動ギヤ65、67とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0029】
第4ギヤシフトクラッチ74は、第2副軸36上に設けられ、6速従動ギヤ66のシンクロギヤ部と2速従動ギヤ62のシンクロギヤ部との間に設けられている。第4ギヤシフトクラッチ74のスリーブが軸方向にスライドすることにより、6速従動ギヤ66および2速従動ギヤ62の一方と第2副軸36とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらの従動ギヤ62、66とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0030】
上記した第1および第3ギヤシフトクラッチ71、73により、第1入力軸31に伝達された回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構を構成し、第2および第4ギヤシフトクラッチ72、74により、第2入力軸32に伝達された回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構を構成している。
【0031】
第1副軸35および第2副軸36には、それぞれ最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ59が固定され、これら最終減速駆動ギヤ58、59は、差動装置13(図1参照)に連結された軸33上の減速従動ギヤ80に常時噛合されている。これにより、最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ59を介して駆動輪16a、16bが駆動される。
【0032】
図2に示すように、第1入力軸回転数センサ91は、第1入力軸31と一体回転する3速駆動ギヤ53に近接して配設され、3速駆動ギヤ53の回転数を検出するようになっている。第2入力軸回転数センサ92は、第2入力軸32と一体回転する4−6速駆動ギヤ54に近接して配設され、4−6速駆動ギヤ54の回転数を検出するようになっている。
【0033】
第1および第2入力軸回転数センサ91、92によって検出された第1および第2入力軸31、32の回転数は、TCU23によって常時モニタリングされているとともに、断線や短絡等によって第1および第2入力軸回転数センサ91、92の出力信号が異常状態となると、後述する異常検出部によってセンサ異常が検出されるようになっている。
【0034】
図3は、変速時におけるデュアルクラッチ式自動変速機10の動作を模式的に示すタイムチャートである。図3のタイムチャートは、例えば、第1クラッチ21を介して、車両が3速の変速段で走行している状態において、3速から2速にダウン変速する例で示しており、横軸は時間を表わしている。
【0035】
すなわち、3速から2速へのダウン変速時には、TCU23より変速アクチュエータ27に出力される変速制御指令に基づいて、第4ギヤシフトクラッチ74のスリーブが図2の左方に移動され、2速従動ギヤ62が第2副軸36に連結されるシフト操作が実施される。この状態においては、駆動輪16a、16bからの動力によって、2速変速段側の第2クラッチ22が、駆動輪16a、16bの回転数に応じた回転数で回転駆動される。
【0036】
この状態で、3速から2速への変速開始指令が発せられると、3速の変速段側に対応する第1クラッチ21が、クラッチアクチュエータ25によって制御され、クラッチトルクが低減されて半クラッチ状態に制御される。これは変速中においても、エンジントルクを駆動輪16a、16bに伝達し、駆動力を維持するためである。
【0037】
第2クラッチ22のクラッチトルクの低減により、エンジン11の回転数が上昇される。すなわち、エンジントルクTeとクラッチトルクTcとの関係は、式「Te−Tc=Ie・ΔNe」(ただし、Ieは、エンジン11のイナーシャトルク、ΔNeは、エンジン回転数を微分したエンジン回転数変化速度)で表わされるので、クラッチトルクの低減によってエンジン回転数Neが変化される。
【0038】
このような結果、エンジン回転数センサ90によって検出されるエンジン11の回転数Neが、第2入力軸回転数センサ92によって検出される第2入力軸32の回転数N2に等しくなると、2速変速段側の第2のクラッチ22が係合制御されるとともに、半クラッチ状態にある3速変速段側の第1クラッチ21が完全に切断される。
【0039】
次に、第1および第2入力軸回転数センサ91、92の故障時の変速制御装置23の制御プログラムを、図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0040】
ステップS100においては、第1入力軸回転数センサ91が故障したか否かが判断され、ステップS102においては、第2入力軸回転数センサ92が故障したか否かが判断される。ステップS100、S102の判別結果がいずれもNOの場合には、ステップS104に移行し、図3のタイムチャートで示すような通常の変速制御が実施される。
【0041】
ステップS100あるいはステップS102において、いずれかの入力軸回転数センサ91、92の故障が判別されると、ステップS106に移行し、異常警告が発せられ、ドライバに対し、入力軸回転数センサ91、92の故障による異常状態が発生したことが警告される。次いで、ステップS108において、車両が停止したか否かが判断される。なお、異常状態の発生は、入力軸回転数センサ91、92自体の故障の他、信号線の断線あるいは短絡等を含む。
【0042】
ステップS108で、車両が停止したことが判別されると、第1ギヤシフトクラッチ71のスリーブが図2の右方に移動され、同時に、第4ギヤシフトクラッチ74のスリーブが図2の左方に移動される。これにより、1速と2速が同時に成立され、駆動輪16a、16bに連結された第1副軸35および第2副軸36が、第1入力軸31および第2入力軸32を介して、共に切断状態にある第1クラッチ21および第2クラッチ22に同時に連結される。この場合、車両の停車状態において変速シフトが行われるので、いずれかの入力軸回転数センサ91、92が故障していても、変速シフトを支障なく行える。
【0043】
この状態においては、車両は1速か2速での走行しかできなく、アクセルペダルの操作によるアクセル開度に応じて、第1クラッチ21もしくは第2クラッチ22が係合制御され、車両は1速もしくは2速で走行される。
【0044】
この場合、例えば、第1入力軸31の回転数を検出する第1入力軸回転数センサ91が故障していると仮定すると、第1入力軸31の回転数を直接検出することができなくなる。しかしながら、1速と2速が同時に成立されていることにより、例えば、第2クラッチ22の係合により、第2入力軸32の回転が、2速駆動ギヤ52、2速従動ギヤ62および第2副軸36を介して駆動輪16a、16b側に伝達され、車両が2速で走行される。この場合、駆動輪16a、16b側からの回転によって、第1副軸35、1速従動ギヤ61および1速駆動ギヤ51を介して第1入力軸31が回転される。
【0045】
このとき、第1入力軸回転数センサ91の故障によって検出できなくなった第1入力軸31の回転数N1と、第2入力軸回転数センサ92によって検出される第2入力軸32の回転数N2との関係は、1速駆動ギヤ51の歯数をZ1、1速従動ギヤ61の歯数をZ2、2速駆動ギヤ52の歯数をZ3、2速従動ギヤ62の歯数をZ4とすると、
「N1:N2=Z2/Z1:Z4/Z3」となり、これより、第1入力軸31の回転数N1および第2入力軸32の回転数N2は、下記(1)、(2)式より求められる。
(1)「N1=(N2*Z2/Z1)/(Z4/Z3)」
(2)「N2=(N1*Z4/Z3)/(Z2/Z1)」
【0046】
このことから、第1入力軸回転数センサ91が故障した場合には、ステップS110において、第2入力軸回転数センサ92によって検出される第2入力軸32の回転数N2に、1速変速ギヤと2速変速ギヤのギヤ比を演算することにより、第1入力軸31の回転数N1が算出される。勿論、第2入力軸回転数センサ92が故障した場合には、第1入力軸回転数センサ91によって検出される第1入力軸31の回転数N1に基づいて、第2入力軸32の回転数N2を算出できる。
【0047】
次いで、ステップS112において、退避走行が指令され、車両は1速もしくは2速を用いて、安全な場所まで退避走行される。すなわち、第1クラッチ21が係合されて、車両が1速の変速段で走行している状態から、2速の変速段の走行に切り替えられる場合には、1速変速段側の第1クラッチ21のクラッチトルクを減少させて、エンジン11の回転数を上昇させ、エンジン回転数センサ90によって検出されたエンジン11の回転数Neが、正常な第2入力軸回転数センサ92によって検出された第2入力軸32の回転数N2に等しくなると、2速変速段側の第2のクラッチ22が係合制御されるとともに、第1クラッチ21が切断制御される。
【0048】
逆に、1速の状態から2速に切り替えられる場合には、2速変速段側の第2クラッチ22のクラッチトルクを減少させて、エンジン11の回転数を上昇させ、エンジン回転数センサ90によって検出されたエンジン11の回転数Neが、正常な第2入力軸回転数センサ92によって検出された第2入力軸32の回転数N2に基づいて算出された第1入力軸31の回転数N1に等しくなると、第1のクラッチ21が係合制御されるとともに、第2クラッチ22が切断制御される。
【0049】
上記したステップS100、S102により、第1入力軸回転数センサ91および第2入力軸回転数センサ92の異常を検出する異常検出部を構成し、上記したステップS110により、異常検出された入力軸回転数センサに対応する側の入力軸の回転数を、正常な入力軸回転数センサの検出出力に基づいて算出する回転数算出部を構成している。
【0050】
これにより、第1および第2の入力軸31、32の回転数を検出するいずれか一方の入力軸回転数センサが故障した場合でも、車両の停止中に第1ギヤシフトクラッチ71および第4ギヤシフトクラッチ74を制御して、1速変速段と2速変速段を同時に成立させることにより、正常な入力軸回転数センサによって検出された回転数を用いて、入力軸回転数センサが故障した側の入力軸の回転数を算出できる。
また、車両の走行中は変速段の切替えを行わずに1速変速段か2速変速段で走行するように制御することにより、車両を駐車させても問題のない安全な場所まで、退避走行させることが可能となり、従来のように、回転数センサの故障により、変速ができなくなって車両の走行ができなくなる事態を回避することができる。
【0051】
この場合、車両を発進させることを考慮すれば、1速と2速に限定することが適切であるが、必ずしも、これに限らず、例えば、2速と3速に限定させてもよい。
【0052】
上記した実施の形態によれば、第1および第2入力軸31、32の回転数を検出する第1および第2入力軸回転数センサ91、92のいずれか一方が故障して場合に、異常となった側の入力軸回転数センサによって検出される第1入力軸あるいは第2入力軸の回転を、正常な入力軸回転数センサの出力に基づいて算出するようにしたので、入力軸回転数の検出ができなくなることによる変速、走行ができなくなる事態を回避することができる。
【0053】
なお、上記した実施の形態においては、FFタイプの車両に好適なデュアルクラッチ式自動変速機10を例にして説明したが、FR(フロントエンジンリヤドライブ)タイプの車両に適用する場合には、例えば、特開2011−144872号公報に記載されているように、変速段ギヤ(5速ギヤ)を第1入力軸に直結したり、あるいはギヤシフト機構の一部を第1または第2入力軸上に配置してもよい。
【0054】
また、上記した実施の形態においては、第1および第2副軸35、36側に従動ギヤを遊転可能に設けた例について述べたが、第1および第2入力軸31、32側に設けたギヤを遊転可能としたデュアルクラッチ式自動変速機にも適用できるものである。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機は、第1および第2クラッチに連結された第1および第2入力軸の回転数を検出する回転数センサを備えたものに用いるのに適している。
【符号の説明】
【0057】
10…デュアルクラッチ式自動変速機、11…原動機(エンジン)、20…デュアルクラッチ、21…第1クラッチ、22…第2クラッチ、23…変速制御装置、25、26…クラッチアクチュエータ、31…第1入力軸、32…第2出力軸、51、53、55、57…奇数変速段駆動ギヤ、52、54…偶数変速段駆動ギヤ、61、63、65、67…奇数変速段従動ギヤ、62、64、66…偶数変速段従動ギヤ、71、73…第1シフト機構、72、74…第2シフト機構、90…エンジン回転数センサ、91…第1入力軸回転数センサ、92…第2入力軸回転数センサ、S100、S102…異常検出部、S110…回転数算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心に配置された第1入力軸および第2入力軸と、
原動機の回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチと前記回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、
前記第1入力軸の回転数を検出する第1入力軸回転数センサ、および前記第2入力軸の回転数を検出する第2入力軸回転数センサと、
前記第1入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および前記第2入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構と、
前記第1入力軸回転数センサおよび前記第2入力軸回転数センサの異常を検出する異常検出部と、
前記異常検出部によって前記第1入力軸回転数センサおよび前記第2入力軸回転数センサのいずれか一方の異常が検出されると、車両の停止中に前記シフト機構を制御して前記奇数変速段の1つと前記偶数変速段の1つを同時に成立させ、車両の走行中は変速段の切替えを行わずに前記奇数変速段の1つと前記偶数変速段の1つのみで走行するように制御する変速制御装置と、
前記変速制御装置によって前記奇数変速段の1つと前記偶数変速段の1つが同時に成立された状態で、異常検出された前記入力軸回転数センサに対応する側の前記第1入力軸あるいは前記第2入力軸の回転数を、正常な前記入力軸回転数センサの検出出力に基づいて算出する回転数算出部と、
を備えるデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項2】
請求項1において、前記入力軸回転数センサの異常検出時に同時に成立される前記奇数変速段は1速段であり、前記偶数変速段は2速段であるデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記第1入力軸回転数センサは、前記第1入力軸上に設けられた駆動ギヤの回転を検出し、前記第2入力軸回転数センサは、前記第2入力軸上に設けられた駆動ギヤの回転を検出するようになっているデュアルクラッチ式自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−79702(P2013−79702A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220906(P2011−220906)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】