説明

デンドリマー固体酸、高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池

【課題】高分子電解質膜にイオン伝導性を付与でき、高分子電解質膜から離脱しにくいデンドリマー固体酸と、上記のデンドリマー固体酸を含む高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】表面にイオン伝導性の末端基を有するデンドリマー固体酸と、イオン伝導性の末端基をイオン伝導に必要となる最小限にとどめスウェリングを抑制し、デンドリマー固体酸を均一に分布させることによって、イオン伝導度を補完した高分子電解質膜が提供される。本発明の高分子電解質膜は、イオン伝導性の末端基の数を最小化してスウェリングを抑制した高分子マトリックスを使用することによって、メタノールクロスオーバーを最小化し、表面にイオン伝導性の末端基を有し、体積が大きく、流出しにくいデンドリマー固体酸を均一に分布させイオン伝導度を顕著に向上させることによって、無加湿条件でも優秀なイオン伝導度を持続的に表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンドリマー固体酸、高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池に係り、特にイオン伝導度を顕著に向上させるデンドリマー固体酸、およびメタノールクロスオーバーを最小化しつつイオン伝導度を極大化させ、優秀なイオン伝導度を持続的に示す高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、メタノール、エタノール、天然ガスのような炭化水素系の物質内に含有されている水素と酸素の化学エネルギーを、直接電気エネルギーに転換する電気化学装置である。燃料電池のエネルギー転換工程は、非常に効率的かつ環境にやさしいため、ここ数十年間にわたって注目されており、多様な種類の燃料電池が試みられた。
【0003】
燃料電池は、用いられる電解質の種類によって、リン酸型燃料電池(Phosphoric Acid Fuel Cell:PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(Molten Carbonate Fuel Cell:MCFC)、固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)、高分子電解質型燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane FuelCell:PEMFC)及びアルカリ型燃料電池(Alkaline Fuel Cell:AFC)などに分類される。それぞれの燃料電池は、根本的に同じ原理により作動するが、用いられる燃料の種類、運転温度、触媒、電解質などが異なる。そのうち、PEMFCは、小規模の据置型の発電装備だけでなく、輸送システムにも最も有望なものとして知られている。これは、PEMFCの有する低温作動、高出力密度、迅速な始動及び出力要求の変化に対する機敏な応答のような長所に起因する。
【0004】
PEMFCの核心部は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)である。MEAは、通常、高分子電解質膜と、その両面に付着されてそれぞれカソード及びアノードの役割を行う二つの電極とで構成される。
【0005】
高分子電解質膜は、酸化剤と還元剤との直接接触を防止する隔離膜の役割、及び二つの電極を電気的に絶縁する役割だけでなく、プロトン伝導体の役割も行う。したがって、優秀な高分子電解質膜は、(1)高いプロトン伝導度、(2)高い電気絶縁性、(3)低い反応物透過性、(4)燃料電池の運転条件で優秀な熱的、化学的、機械的安定性、及び(5)低い価格などの条件を備えねばならない。
【0006】
上記のような条件を満足するために、多様な高分子電解質膜が開発され、ナフィオン膜のような高フッ化ポリスルホン酸膜は、優秀な耐久性及び性能により現在標準的な地位を占めている。しかし、ナフィオン膜は、よく作動するために十分に加湿せねばならず、水分の損失を防止するために80℃以下で使われねばならず、酸素(O)により主鎖の炭素−炭素結合が攻撃されて燃料電池の作動条件で安定していないという短所がある。
【0007】
また、DMFCの場合、メタノール水溶液が燃料としてアノードに供給されるが、未反応のメタノール水溶液のうち一部は、高分子電解質膜に浸透する。高分子電解質膜に浸透したメタノール水溶液は、電解質膜にスウェリング現象を起こしつつ拡散して、カソード触媒層まで伝達される。かかる現象を“メタノールクロスオーバー”というが、水素イオンと酸素との電気化学的還元が進められるカソードにおいてメタノールの直接酸化を起こすので、カソードの電位を低減させ、その結果、電池の性能を深刻に低下させる。
【0008】
かかる問題は、メタノールだけでなく、他の極性有機燃料を含む液体燃料を使用する燃料電池に共通する問題である。
【0009】
かかる理由により、メタノール、エタノールのような極性有機液体燃料のクロスオーバーを遮断するための努力が活発に進められており、無機物を利用したナノ複合素材を利用して物理的に遮断する方法など色々な方法が試みられている。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,648,186号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、高分子電解質膜にイオン伝導性を付与でき、高分子電解質膜から離脱しにくい、新規かつ改良されたデンドリマー固体酸と、上記のデンドリマー固体酸を含み、加湿せずとも優秀なイオン伝導度を示し、メタノールクロスオーバーが非常に少ない、新規かつ改良された高分子電解質膜を提供するところにある。
【0012】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、上記の高分子電解質膜を備える膜電極接合体および燃料電池を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によれば、下記化学式1で表される、デンドリマー固体酸が提供される。
【0014】
【化1】

【0015】
ここで、上記Xは、コアであって、下記化学式2〜化学式17のいずれか一つであり、上記aは、上記Xに結合しうる作用基の数によって決定される、1〜6の整数であり、上記nは、分枝単位の世代を表し、かつ、2〜6の整数であり、(i)世代であるEと結合する(i+1)世代であるEi+1の数は、Eに存在する結合可能な部位の数と同一であり、上記E〜上記En−1は、下記化学式18〜化学式22の有機基であり、上記Eは、H,−OH,−COOH,−SOHまたは−OPO(OH)のいずれか一つである。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
【化8】

【0023】
【化9】

【0024】
【化10】

【0025】
【化11】

(前記化学式11において、p,qは、それぞれ独立的に1〜9の整数である)
【0026】
【化12】

【0027】
【化13】

【0028】
【化14】

【0029】
【化15】

【0030】
【化16】

【0031】
【化17】

【0032】
【化18】

【0033】
【化19】

【0034】
【化20】

【0035】
【化21】

【0036】
【化22】

【0037】
上記のデンドリマー固体酸は、下記化学式23〜化学式26の中から選択される化合物であってもよい。
【0038】
【化23】

【0039】
【化24】

【0040】
【化25】

【0041】
【化26】

【0042】
上記課題を解決するために、本発明の第2の観点によれば、側鎖の末端に−SOH,−COOH,−OHまたは−OPO(OH)のうち一つ以上の置換基を有する少なくとも1つの高分子マトリックスと、上記のデンドリマー固体酸と、を含み、上記高分子マトリックス内に、上記デンドリマー固体酸が均一に分布することを特徴とする高分子電解質膜が提供される。
【0043】
上記の高分子マトリックスは、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホンまたはポリエーテルエーテルケトンのうち一つ以上であってもよい。
【0044】
上記の高分子マトリックスは、下記化学式27の高分子樹脂であってもよい。ここで、下記化学式27において、Mは、下記化学式28の反復単位であり、Nは、下記化学式29の反復単位であり、m及びnは、それぞれ独立的に30〜5000であり、m:nの比率は、2:8〜8:2である。
【0045】
【化27】

【0046】
【化28】

(前記化学式28で、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Zは、2価の芳香族または脂肪族有機基である)
【0047】
【化29】

(前記化学式29で、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Z’は、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、j及びkは、それぞれ独立的に1〜6の整数であり、Rは、−OH,−SOH,−COOH,−OPO(OH)のうち一つである)
【0048】
上記課題を解決するために、本発明の第3の観点によれば、触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、カソードとアノードとの間に配設される電解質膜と、を備える膜電極接合体であって、上記の電解質膜は、上記高分子電解質膜であることを特徴とする膜電極接合体が提供される。
【0049】
上記課題を解決するために、本発明の第4の観点によれば、触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、カソードとアノードとの間に配設される電解質膜と、を備える燃料電池であって、上記の電解質膜は、上記高分子電解質膜であることを特徴とする燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0050】
本発明の高分子電解質膜は、イオン伝導性の末端基の数を最小化し、スウェリングを抑制した高分子マトリックスを使用することによって、メタノールクロスオーバーを最小化するとともに、表面にイオン伝導性の末端基を有し、体積が大きく、流出しにくいデンドリマー固体酸の巨大分子を均一に分布させ、イオン伝導度を顕著に向上させることによって、無加湿条件でも優秀なイオン伝導度を持続的に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0052】
本発明の第1の実施形態では、下記化学式1で表されるデンドリマー固体酸を提供する。
【0053】
【化30】

【0054】
ここで、上記Xは、コアであって、上記化学式2〜化学式17のいずれか一つであり、上記aは、上記Xに結合しうる作用基の数によって決定される、1〜6の整数であり、上記nは、分枝単位の世代を表し、かつ、2〜6の整数であり、(i)世代であるEと結合する(i+1)世代であるEi+1の数は、Eに存在する結合可能な部位の数と同一であり、上記E〜上記En−1は、上記化学式18〜化学式22の有機基であり、上記Eは、H,−OH,−COOH,−SOHまたは−OPO(OH)のいずれか一つである。
【0055】
デンドリマーとは、枝状の巨大単分子を意味する用語であって、対称的であり、平面または3次元的によく整列された巨大単分子を称し、形態的には、円錐形のものと球形のものとに大別される。分子量の非常に大きい巨大分子という点で、それらは高分子と類似しているが、線形の高分子とは異なり、環状に対称をなし、分子量分布のない単分子からなるため、一般的なポリマーとは相違点がある。
【0056】
デンドリマーは、単分子の特性を有しつつも、ポリマーの様々な物性を共に有するため、応用が多様であるという長所がある。
【0057】
また、デンドリマーは、合成される方法によって収斂する方法と発散する方法とで構造を完成させるが、デンドリマー構造の中間部分は、外部と完全に遮断されるか、またはほとんど孤立しているため、多様な金属イオンや独特な作用基を保護でき、デンドリマーの表面は、3次元的に広い表面積を有するため、それらの表面に化学的に作用基を導入して目的によって多様に利用することが可能である。
【0058】
本実施形態に係るデンドリマー固体酸は、サイズが非常に大きいため、高分子マトリックスの間に分布させる場合、スウェリングによる流出がほとんどなく、末端に付着した−OH,−COOH,−SOH,−OPO(OH)のような酸性作用基が高いイオン伝導度を付与するため、高分子電解質膜にイオン伝導度を付与する手段として利用できる。本実施形態に係るデンドリマー固体酸は、特に下記化学式23〜化学式26の化合物であることが望ましい。
【0059】
【化31】

【0060】
【化32】

【0061】
【化33】

【0062】
【化34】

【0063】
以下では、本実施形態に係るデンドリマー固体酸のうち、代表的なものの製造過程を通じて、本実施形態をさらに詳細に説明する。下記の製造方法は、本実施形態に係るデンドリマー固体酸のうち代表的なものの製造過程を表したものだけであり、この製造過程にのみ限定されるものではない。
まず、下記反応式1のように世代の反復単位を合成する。
【0064】
【化35】

【0065】
次いで、上記のように合成された世代の反復単位を利用して、2世代を有する反復単位を、下記の反応式2のように合成する。
【0066】
【化36】

【0067】
続いて、上記のように製造した2世代を有する反復単位を、下記の反応式3のようにコア物質と反応させて、固体酸前駆体を製造できる。
【0068】
【化37】

【0069】
上記のように製造した固体酸前駆体を、硫酸及び発煙硫酸と反応させて、化学式24のようなデンドリマー固体酸を製造できる。世代数をさらに増加させる場合には、上記の反応式2に示した過程を反復して行うことによって、達成することが可能である。
【0070】
また、末端に−COOH,−OHまたは−OPO(OH)のような作用基を導入しようとする場合には、−SOHの導入のようにデンドリマーの製造後に酸作用基を導入する方法は困難であり、1世代のデンドリマーの合成時に−COOH,−OHまたは−OPO(OH)の作用基がアルキル基で保護された構造、すなわち−COOR,−ORまたは−OPO(OR)構造を有するハロゲン化ベンジル化合物で出発して、最終のデンドリマーを製造した後、アルキル基を脱離させる方法で製造される。ここで、Rは、例えば炭素数1〜5の1価のアルキル基である。
【0071】
以下では、本実施形態に係る高分子電解質膜を詳細に説明する。
本実施形態は、側鎖の末端に−SOH,−COOH,−OHまたは−OPO(OH)のうち一つ以上を有する高分子マトリックスと、上記の高分子マトリックス内に上記デンドリマー固体酸とが均一に分布する高分子電解質膜を提供する。
【0072】
上記の高分子マトリックスは、例えば、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホンまたはポリエーテルエーテルケトンのような、高分子物質である。
【0073】
上記のような高分子マトリックスのあちこちに、本実施形態に係るデンドリマー固体酸が均一に分布することによって、本実施形態に係る高分子電解質膜は、イオン伝導度を有する。すなわち、高分子マトリックスの側鎖の末端に導入された酸性作用基と、デンドリマー固体酸の表面に存在する酸性作用基とが共に作用して、高いイオン伝導度を付与する。
【0074】
また、従来では、高分子電解質膜に使用するための高分子に、例えばスルホン基のようなイオン伝導性の末端基を多量に付着させてスウェリングの原因となったが、本実施形態に係る高分子マトリックスは、イオン伝導性の末端基に関して、イオン伝導に必要な最少量のみを導入することによって、水分によるスウェリングを最小化できる。
【0075】
特に、上記の高分子マトリックスは、例えば下記化学式27の高分子樹脂であってもよい。
【0076】
【化38】

【0077】
ここで、上記のMは、下記化学式28の反復単位であり、Nは、下記化学式29の反復単位であり、m及びnは、それぞれ独立的に30〜5000であり、m:nの比率は、2:8〜8:2である。
【0078】
【化39】

【0079】
ここで、上記化学式28において、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Zは、2価の芳香族または脂肪族有機基である。
【0080】
【化39】

【0081】
また、上記化学式29において、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Z’は、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、j及びkは、それぞれ独立的に1〜6の整数であり、Rは、−OH,−SOH,−COOH,−OPO(OH)のうちの一つである。
【0082】
上記のm:nの比率は、例えば2:8〜8:2であることが望ましく、3:7〜7:3であることがさらに望ましく、4:6〜6:4であることが特に望ましい。もし、上記のm:nの比率が2:8〜8:2を外れて、mが2より小さければ、水によるスウェリング及びメタノールクロスオーバーが増加し、mが8より大きければ、水素イオン伝導度が低すぎて固体酸の添加によっても適正なレベルの水素イオン伝導度を確保し難い。
【0083】
上記化学式27の高分子樹脂の反復単位M及びNは、例えば下記化学式30及び化学式31で表示される構造を有してもよい。
【0084】
【化40】

【0085】
【化41】

【0086】
ここで、上記の化学式31において、R、j、kは、上記化学式29で定義されたものと同一である。
【0087】
上記の化学式27の高分子マトリックスの製造方法は、特別に限定されないが、下記の反応式4のように製造することが可能である。
【0088】
【化42】

【0089】
以下では、上記の高分子電解質膜を備えるMEAに関して、詳細に説明する。
本実施形態では、触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、カソードとアノードとの間に配設される電解質膜と、を備えるMEAにおいて、上記の電解質膜は、本実施形態に係る高分子電解質膜を含むことを特徴とするMEAを提供する。
【0090】
触媒層及び拡散層を備えるカソード及びアノードは、燃料電池分野で周知のものであってもよい。また、上記電解質膜は、本実施形態に係る高分子電解質膜を含む。本実施形態に係る高分子電解質膜は、単独に電解質膜として使われてもよく、イオン伝導性を有する他の膜と結合して使われてもよい。
【0091】
以下では、上記の高分子電解質膜を備える燃料電池に関して、詳細に説明する。
本実施形態では、触媒層及び拡散層を備えるカソードと、触媒層及び拡散層を備えるアノードと、カソードとアノードとの間に配設される電解質膜と、を備える燃料電池において、上記の電解質膜は、本実施形態に係る高分子電解質膜を含むことを特徴とする燃料電池を提供する。
【0092】
触媒層及び拡散層を備えるカソード及びアノードは、燃料電池分野で周知のものであってもよい。また、上記の電解質膜は、本実施形態に係る高分子電解質膜を含む。本実施形態に係る高分子電解質膜は、単独に電解質膜として使われてもよく、イオン伝導性を有する他の膜と結合して使われてもよい。
【0093】
かかる燃料電池の製造は、各種の文献に開示されている通常的な方法を利用できるので、本明細書では、それについての詳細な説明を省略する。
【0094】
本実施形態に係る高分子電解質膜は、イオン伝導性の末端基の数を最小化してスウェリングを抑制した高分子マトリックスを使用することによって、メタノールクロスオーバーを最小化し、表面にイオン伝導性の末端基を有し、体積が大きく、流出しにくいデンドリマー固体酸の巨大分子を均一に分布させることでイオン伝導度を顕著に向上させ、無加湿条件でも優秀なイオン伝導度を持続的に表す効果がある。
【実施例】
【0095】
以下、具体的な実施例及び比較例により、本発明の構成及び効果をさらに詳細に説明するが、それらの実施例は、単に本発明をさらに明確に理解するためのものだけであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0096】
(実施例1:化学式23の化合物の製造)
攪拌器が備えられた3口反応フラスコに、窒素雰囲気下で、アセトンに、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)−メタンを0.01モル、上記反応式2によって製造した反復単位を0.033モル、KCOを0.033モル、18−クラウン−6を9mmol、溶かした後、60℃で16時間反応させた。
【0097】
反応終了後、蒸発器でアセトンを除去し、再びエチルアセテートに溶解させた。次いで、NaOH水溶液で未反応のヒドロキシ化合物を分液ロートで抽出して除去し、生成物が溶解されているエチルアセテート溶液は、MgSOを利用して水分を除去した後に蒸発させて溶媒を除去した。
【0098】
次いで、生成物は、トルエンを利用してカラム精製し、下記化学式32の固体酸前駆体を得た。上記の固体酸前駆体の構造は、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)分析を通じて、図1に示したように確認した。
【0099】
【化43】

【0100】
上記のように製造した化学式32のデンドリマー固体酸前駆体の5gを、硫酸15mLに完全に溶解させた後、発煙硫酸(SO60%)5mLを添加し、80℃で12時間反応させた後にエーテルで沈殿を形成させた。沈殿物を濾過した後、水に溶解させて透析メンブレンに入れて精製して、化学式23の化合物を製造した。上記の化学式23の化合物が生成されたことを、FT−IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)分析を通じて確認した(図2参照)。
【0101】
(実施例2:化学式24の化合物の製造)
1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)−メタンの代わりに、(4−ヒドロキシフェニル)−(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)メタノンを使用する点を除いては、上記の実施例1と同様に製造過程を行って、化学式24の化合物を製造した。
【0102】
(実施例3:化学式25の化合物の製造)
1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)−メタンの代わりに、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンを使用する点を除いては、上記の実施例1と同様に製造過程を行って、化学式25の化合物を製造した。
【0103】
(実施例4:化学式26の化合物の製造)
1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)−メタンの代わりに、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)−エタンを使用する点を除いては、上記の実施例1と同様に製造過程を行って、化学式26の化合物を製造した。
【0104】
(実施例5)
m:nの比率が5:5である化学式27の高分子マトリックスの100質量部と、化学式23のデンドリマー固体酸の10質量部とをN−メチルピロリドン(NMP)に完全に溶解させた後にキャスティングして、高分子電解質膜を製造した。
【0105】
上記のように製造した高分子電解質膜と固体酸を含まない高分子膜とに対して、それぞれイオン伝導度とメタノールクロスオーバーとを測定した。なお、イオン伝導度であるメタノール透過度は、拡散セルを用いて室温で測定した。また、メタノールクロスオーバーは、二つのセルの間に膜を入れ、この膜を透過する一定の濃度のメタノールと水の量とを、ガスクロマトグラフィ分析を用いて分析した。その結果を下記の表1に示した。
【0106】
【表1】

【0107】
上記の表1に示すように、本実施形態に係るデンドリマー固体酸を添加することによって、メタノールクロスオーバーが若干増加したが、イオン伝導度は、メタノールクロスオーバーが増加した比率に比べてはるかに増加した。したがって、本実施形態に係る固体酸を利用すれば、メタノールクロスオーバーの側面で大きく犧牲にされずに、イオン伝導度の顕著な向上をもたらす。
【0108】
(実施例6)および(実施例7)
化学式23のデンドリマー固体酸をそれぞれ5質量部または15質量部を使用した点を除いては、実施例5で用いられた方法と同じ方法で高分子電解質膜を製造した。上記のように製造した高分子電解質膜に対して、製造してから1日が経過した後、イオン伝導度及びメタノールクロスオーバーを測定した。その結果を下記の表2に示した。
【0109】
【表2】

【0110】
上記の表2に示すように、デンドリマー固体酸の含量が多くなるほど、イオン伝導度が向上するということが分かり、メタノールクロスオーバーは増加する傾向であるが、次第に鈍化するということが分かる。
【0111】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、高分子電解質膜関連の技術分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明の実施例に係るデンドリマー固体酸前駆体の構造を確認するためのNMR分析結果を示すグラフ図である。
【図2】本発明の実施例に係るデンドリマー固体酸の構造を確認するためのFT−IR分析結果を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される、デンドリマー固体酸。

【化1】

ここで、前記Xは、コアであって、下記化学式2〜化学式17のいずれか一つであり、
前記aは、前記Xに結合しうる作用基の数によって決定される、1〜6の整数であり、
前記nは、分枝単位の世代を表し、かつ、2〜6の整数であり、
(i)世代であるEと結合する(i+1)世代であるEi+1の数は、Eに存在する結合可能な部位の数と同一であり、
前記E〜前記En−1は、下記化学式18〜化学式22の有機基であり、
前記Eは、H,−OH,−COOH,−SOHまたは−OPO(OH)のいずれか一つである。

【化2】


【化3】


【化4】


【化5】

【化6】


【化7】


【化8】


【化9】


【化10】


【化11】

(前記化学式11において、p,qは、それぞれ独立的に1〜9の整数である)

【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


【化17】


【化18】


【化19】


【化20】


【化21】


【化22】

【請求項2】
前記デンドリマー固体酸は、下記化学式23〜化学式26の中から選択される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のデンドリマー固体酸。

【化23】



【化24】



【化25】



【化26】

【請求項3】
側鎖の末端に−SOH,−COOH,−OHまたは−OPO(OH)のうち一つ以上の置換基を有する少なくとも1つの高分子マトリックスと、
請求項1に記載のデンドリマー固体酸と、
を含み、
前記高分子マトリックス内に、前記デンドリマー固体酸が均一に分布することを特徴とする、高分子電解質膜。
【請求項4】
前記高分子マトリックスは、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホンまたはポリエーテルエーテルケトンのうち一つ以上であることを特徴とする、請求項3に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記高分子マトリックスは、下記化学式27の高分子樹脂であることを特徴とする、請求項3に記載の高分子電解質膜。
ここで、下記化学式27において、Mは、下記化学式28の反復単位であり、Nは、下記化学式29の反復単位であり、m及びnは、それぞれ独立的に30〜5000であり、m:nの比率は、2:8〜8:2である。

【化27】


【化28】

前記化学式28において、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Zは、2価の芳香族または脂肪族有機基である。

【化29】

前記化学式29において、Yは、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、Z’は、4価の芳香族または脂肪族有機基であり、j及びkは、それぞれ独立的に1〜6の整数であり、Rは、−OH,−SOH,−COOH,−OPO(OH)のうち一つである。
【請求項6】
触媒層及び拡散層を備えるカソードと、
触媒層及び拡散層を備えるアノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配設される電解質膜と、
を備える膜電極接合体であって、
前記電解質膜は、請求項3〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜であることを特徴とする、膜電極接合体。
【請求項7】
触媒層及び拡散層を備えるカソードと、
触媒層及び拡散層を備えるアノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配設される電解質膜と、
を備える燃料電池であって、
前記電解質膜は、請求項3〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜であることを特徴とする、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−109653(P2007−109653A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276998(P2006−276998)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】