説明

データ記録システム

【課題】車両システム開発やソフトウェア開発にて作成されたデータが記録されるデータ記録システムにおいて、複数の設計者が同時に編集作業を実施できるようにする
【解決手段】車両開発システム1において、車両システム開発における適合工程にて作成されたデータが記録されるデータベース10aとしては、車両制御の概要を表す適合データ表(仕様データ)が記録される記録領域と、適合データ表における予め設定された複数の項目の各項目に対応する詳細設定を表す設計情報(詳細設定データ)が記録される記録領域と、を備えている。従って、このような車両開発システム1によれば、適合データ表および設計情報を別々に記録することができるので、各データを別々の装置を用いて作成する場合であっても、各装置で編集作業を同時に実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両システム開発やソフトウェア開発において、作成されたデータが記録されるデータ記録システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両システム開発における作業工程には、エンジンや車両毎の特性に応じて車両制御に用いるデータの値を調整する工程である適合工程がある。この適合工程においては、一般的に、制御仕様の概要を設計する概要設計者と、この概要に基づいて詳細設定を設計する詳細設計者とを含む複数の設計者で、作業を分担することにより、作業の効率化が図られている。
【0003】
そして、この適合工程の作業効率をさらに高めるために、複数の設計者が作成したデータを共通したデータ形式で記録するようにしたデータ記録システムが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3873647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記データ記録システムでは、複数の設計者が共通のデータを順に編集することを前提としているので、詳細設定の設計中に制御仕様を変更するような場合に、複数の設計者が同時に編集作業を実施すると、ある設計者による編集後に他の設計者がデータを上書きしてしまう虞がある。この場合には、ある設計者が編集した内容がデータに反映されないことになる。このため、上記データ記録システムでは、詳細設定の設計中に制御仕様を変更するような場合に、一旦、詳細設定の設計を中断しなければならず、同時に複数の設計者によって編集作業を実施することが困難であった。
【0005】
このような問題は、複数の設計者によって編集作業が実施される車両システム開発以外のソフトウェア開発においても起こり得る。
そこで、このような問題点を鑑み、車両システム開発やソフトウェア開発にて作成されたデータが記録されるデータ記録システムにおいて、複数の設計者が同時に編集作業を実施できるようにすることを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために成された請求項1に記載のデータ記録システムにおいて、車両システム開発における適合工程またはソフトウェア開発にて作成されたデータが記録される作成データ記録手段としては、車両制御の概要を表す仕様データが記録される第1記録手段と、仕様データにおける予め設定された複数の項目の各項目に対応する詳細設定を表す詳細設定データが記録される第2記録手段と、を備えている。
【0007】
このようなデータ記録システムによれば、仕様データおよび詳細設定データを別々に記録することができるので、各データを別々の装置を用いて作成する場合であっても、各装置で編集作業を同時に実施することができる。
【0008】
なお、本発明でいう適合工程とは、エンジンや車両毎の特性に応じて車両制御に用いるデータの値を調整する工程を表す。また、本発明における第1記録手段および第2記録手段は、物理的に別々の記録手段として構成されていてもよいし、1つの記録手段として構成され、異なる記録領域にデータが記録される構成にされていてもよい。
【0009】
ところで、請求項1に記載のデータ記録システムにおいては、請求項2に記載のように、仕様データにおける項目の何れかが削除されると、詳細設定データにおけるこの削除された項目に対応する詳細設定を削除する削除手段を備えていてもよい。
【0010】
このようなデータ記録システムによれば、仕様データにおける項目を削除する変更が実施されると、この変更を詳細設定データに自動的に反映(同期)させることができる。
さらに、請求項2に記載のデータ記録システムにおいては、請求項3に記載のように、削除手段により削除されたデータのログをログ記録手段に記録するログ格納手段を備えていてもよい。
【0011】
このようなデータ記録システムによれば、ログ記録手段に記録されたログを確認すれば、削除手段により削除されたデータを確認することができる。
また、請求項2または請求項3の何れかに記載のデータ記録システムにおいては、請求項4に記載のように、削除手段が削除するデータを退避記録手段に記録する退避格納手段を備えていてもよい。
【0012】
このようなデータ記録システムによれば、削除された詳細設定データの内容が退避記録手段に記録されるので、詳細設定データの内容を削除前の状態に回復したい場合に、容易に回復させることができる。
【0013】
さらに、請求項1〜請求項4の何れかに記載のデータ記録システムにおいて、第2記録手段には、請求項5に記載のように、詳細設定データが仕様データに含まれる特定の構成要素毎に複数のデータに分割して記録されてもよい。
【0014】
このようなデータ記録システムによれば、複数の詳細設定データが記録されるので、詳細設定データを分割されたデータ毎に別々の装置を用いて同時に編集することができる。
また、詳細設定データを仕様データに含まれる特定の構成要素毎に分割しているので、詳細設定データを編集する際において不要なデータが表示されることを防止することができる。よって、特定のデータを検索する際の手間を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明にかかる実施の形態を図面と共に説明する。
図1は、本実施形態の車両開発システム1の構成を示す図である。車両開発システム1は、車両開発の適合工程において利用されるシステムであって、図1に示すように、ネットワーク50にそれぞれ接続されたデータベース用コンピュータ10と、制御仕様開発用コンピュータ20と、ソフトウェア開発用コンピュータ30と、を備えている。なお、本明細書(特許請求の範囲を含む)でいう適合工程とは、車両システム開発における、エンジンや車両毎の特性に応じて車両制御に用いるデータの値を調整する工程を表す。
【0016】
また、図1のシステム1においては、制御仕様開発用コンピュータ20およびソフトウェア開発用コンピュータ30を1つだけ図示しているが、それぞれ複数個のコンピュータ20,30が備えられていてもよい。
【0017】
制御仕様開発用コンピュータ20は、車両メーカの制御仕様開発者用のコンピュータであり、ソフトウェア開発用コンピュータ30は、ECU(車両用電子制御装置)のメーカ(以下ECUサプライヤと称する)におけるソフトウェア開発者用のコンピュータである。
【0018】
データベース用コンピュータ10は、ECUサプライヤ側に設置されたサーバ機能を備えるコンピュータであり、データベース10a(本発明でいう作成データ記録手段、第1記録手段、第2記録手段)を備えている。そして、データベース用コンピュータ10は、ネットワーク50を介して入力した情報をデータベース10aへ記録させる機能を備えている。
【0019】
データベース用コンピュータ10、制御仕様開発用コンピュータ20、およびソフトウェア開発用コンピュータ30は、それぞれ一般的なパーソナルコンピュータであり、CPU、ROM、RAM、I/O等を備え、I/Oにはハードディスク、ディスプレイ、キーボード、マウス、各種入出力装置等が接続されている。また、それぞれのコンピュータにはOSや各種のアプリケーションソフトがインストールされている。
【0020】
例えば、制御仕様開発用コンピュータ20には、後述する適合データ表を作成するための作成ツール(例えば、表計算ソフト)がインストールされている。また、ソフトウェア開発用コンピュータ30には、テキストエディタ、Cコンパイラ、アセンブラ、リンカ等の開発ツール(開発用ソフト)がインストールされている。
【0021】
また、制御仕様開発用コンピュータ20には、エンジンや車両の状態をシミュレーションするためのシミュレーションソフトや実際のエンジンや車両を制御してその状態を取得して適合を行う専用装置を制御するためのソフト等の適合ツールもインストールされている。
【0022】
ここで、データベース用コンピュータ10のデータベース10aに記録されるデータの詳細について、図2および図3を用いて説明する。図2はデータベース10aに記録されるデータの詳細を各ツールとの関係と共に説明する説明図、図3はデータベース10aに記録された適合データ表、および設計情報の詳細を示す説明図である。
【0023】
図2に示すように、データベース用コンピュータ10のデータベース10aには、適合データ表、個別の設計情報、制御プログラム、削除ログ等のデータが記録される。
適合データ表(本発明でいう仕様データ)は、車両メーカの制御仕様開発者が制御仕様開発用コンピュータ20の作成ツールを用いることによって作成されるデータであって、車両制御における制御仕様の概略を表すデータである。
【0024】
具体的には図3(上欄)に示すように、適合データ表は、例えば、CANフレーム(バス構成、ECU配置、CANフレームの型等のネットワークの概略)を記述したデータであって、複数の項目(ID)のそれぞれに対して、設計内容を入力することができる表形式のデータとして構成されている。
【0025】
図3に示す例においては、適合データ表は、CANネットワークの概略構成を設計するために利用されるため、設計内容としては、データの種類を表すフレーム名、CAN通信におけるIDであるCAN−ID、データの送信元のECUを表す送信ECU、およびデータの送信先のECUを表す受信ECU等の各種情報が入力される。
【0026】
また、設計情報(本発明でいう詳細設定データ)は、ECUサプライヤのソフトウェア開発者がソフトウェア開発用コンピュータ30の開発ツールを用いることによって作成されるデータであって、適合データ表を構成する特定構成要素毎(ここではECU毎。図3に示す例では、「送信ECU」または「受信ECU」の欄に記述されたE01、E02、E03…毎)に、各特定構成要素における詳細設定(適合定数)が書き込まれるデータである。なお、この設計情報は、特定構成要素毎に、別々のデータとして保存される。
【0027】
具体的には、適合データ表に記述されたE01における設計情報は、例えば図3(下欄)に示すように、適合データ表と同様に、複数の項目(ID)のそれぞれに対して、設計内容を入力することができる表形式のデータとして構成されている。また、設計情報においては、設計情報の各項目のそれぞれに対して、適合データ表の対応する項目(ID)を示す片方向のリンクが記述される。
【0028】
なお、図3(下欄)に示す例においては、設計情報の項目の欄に記述されたIDと、リンクの欄に記述されたIDとが一致しているが、これらは一致していなくてもよい。また、設計情報における設計内容としては、例えば、CAN通信の際の初期値、フェイル値、データ受信時のユーザ(アプリケーション)に対する通知の有無、等が記述される。
【0029】
制御プログラムは、適合データ表および設計情報等の各種データに基づいて、ソフトウェア開発用コンピュータ30によって作成される。また、削除ログは、詳細については後述するが、簡単に述べると設計情報を削除したときの記録を表すデータである。
【0030】
ここで、本実施形態の車両開発システム1においては、データベース10aに記録されたデータ毎に、これらのデータを編集(作成、削除、および更新)することができるユーザを限定している。具体的には、適合データ表については、制御仕様開発用コンピュータ20によってのみ編集を許可し、設計情報、制御プログラム、および削除ログについては、ソフトウェア開発用コンピュータ30によってのみ編集を許可している。
【0031】
なお、ソフトウェア開発用コンピュータ30が複数設けられている場合には、設計情報毎に編集できるソフトウェア開発用コンピュータ30を設定するようにしてもよい。また、制御仕様開発用コンピュータ20やソフトウェア開発用コンピュータ30を操作する開発者毎に編集できるデータを制限してもよい。
【0032】
このように開発者やコンピュータ20,30等のユーザ毎に編集できるデータを制限しているのは、あるユーザがあるデータを編集している際に、他のユーザが同じデータを編集してしまうことによって、編集後のデータが他のユーザによって勝手に上書きされてしまうことを防止するためである。つまり、1つのデータを多数のユーザが編集していた従来の構成においては、各ユーザが同時に各データの編集を実施することが困難であったのに対して、本実施形態の車両開発システム1においては、ユーザ毎にデータが設けられており、ユーザ毎に編集可能なデータが設定されているので、各ユーザが同時に各データの編集を実施することができるのである。
【0033】
次に図4を参照して、車両開発システム1を構成する各コンピュータの処理について説明する。図4は、車両開発システム1を用いた適合工程における処理フローである。
適合工程における処理フローにおいて、車両メーカの制御仕様開発者は、制御仕様開発用コンピュータ20の作成ツールを用いて、制御仕様の概略を表す適合データ表を作成する処理を実施する(S100)。なお、S100において、制御仕様開発者が既に作成された適合データ表を修正する場合には、データベース10aから適合データ表を取得して、編集するようにすればよい。
【0034】
そして、制御仕様開発者が適合データ表の入力を完了すると、制御仕様開発用コンピュータ20は、制御仕様開発者の保存指令に応じて、その適合データ表を保存する。この際、制御仕様開発用コンピュータ20は、保存したこのファイルをネットワーク50を介してデータベース用コンピュータ10へ送信する。
【0035】
すると、データベース用コンピュータ10は、制御仕様開発用コンピュータ20からこのファイルを受信して、データベース10aに格納することになる。
続いて、ソフトウェア開発者によって、設計情報中に適合定数を書き込む処理が実施される(S110)。この処理が実施されると、制御プログラムがデータベース10aに格納され、適合工程における処理が終了することになる。
【0036】
ここで、このS110の処理の詳細について、以下に説明する。
ソフトウェア開発者によって、設計情報中に適合定数を書き込む処理を実施する際には、設計情報が適合データ表に基づいて作成される必要があることから、これに先だってデータベース10aから各種データを取得する必要がある。このとき、ソフトウェア開発用コンピュータ30では、設計情報と適合データ表との整合性を取る処理が実施される。
【0037】
この際の処理について図5を用いて説明する。図5は、ソフトウェア開発用コンピュータ30が実施する取得処理を示すフローチャートである。
この取得処理は、例えば、適合データ表に含まれる特定構成要素(特定のECU)を指定したデータ取出指示がソフトウェア開発用コンピュータ30へ入力されると開始される処理であって、まず、適合データ表および指定された特定構成要素に関する設計情報をデータベース10aから取得する(S200)。
【0038】
具体的には、ソフトウェア開発用コンピュータ30は、適合データ表および特定構成要素(例えば、特定のECUであるE01)に関する設計情報をデータベース用コンピュータ10へ要求する。すると、データベース用コンピュータ10は、この要求に応じてデータベース10aからそのデータ(例えば、適合データ表、およびE01に関する設計情報)を抽出し、ソフトウェア開発用コンピュータ30へ送信する。
【0039】
そして、ソフトウェア開発用コンピュータ30は、適合データ表および特定構成要素に関する設計情報を受信して、自己のハードディスクにこれらのデータを保存する。
なお、データベース用コンピュータ10が適合データ表をソフトウェア開発用コンピュータ30へ送信する際には、データベース10aに記録された指定された適合データ表を削除することはしない。つまり、適合データ表のコピーがソフトウェア開発用コンピュータ30に送信される。
【0040】
また、特定構成要素に関する設計情報がデータベース10aに存在しない場合には、データベース用コンピュータ10は、適合データ表のみをソフトウェア開発用コンピュータ30へ送信する。
【0041】
続いて、取得した設計情報に含まれる項目のうち、1つ目の項目を選択する(S210)。なお、データベース用コンピュータ10から設計情報を取得できなかった場合には、直ちに後述するS270の処理に移行するようにしてもよい。
【0042】
次に、現在選択している設計情報中のリンク項目が取得した適合データ表に含まれる項目として存在するか否かを判定する(S220)。この処理について、図3を用いて説明すると、例えば、設計情報における項目として「0x01」を選択中であれば、リンクの欄に記述されている「0x01」が、適合データ表の項目として存在するか否かを判定することになる。なお、この場合には、項目「0x01」が適合データ表の項目として存在するので、肯定判定される。
【0043】
また、同様に、設計情報における項目として「0x03」を選択中であれば、リンクの欄に記述されている「0x03」が、適合データ表の項目として存在しないので、否定判定される。
【0044】
図5に戻り、現在選択している設計情報中の項目が適合データ表中の項目(本発明でいう削除された項目に対応する詳細設定)として存在していれば(S220:YES)、後述するS250の処理に移行する。
【0045】
また、適合データ表中の項目に現在選択している設計情報中のリンク項目が存在していなければ(S220:NO)、このリンク項目が記述された項目を不要な項目として設計情報から削除する(S230:本発明でいう削除手段)。
【0046】
そして、この削除した項目に関するデータを復元できるように、このデータのバックアップデータをソフトウェア開発用コンピュータ30のハードディスク(本発明でいう退避記録手段)に記録するとともに、ログ(削除したデータ(ID)、削除時刻、バックアップデータの保存アドレス等)をデータベース10a(本発明でいうログ記録手段、退避記録手段))に記録する(S240:本発明でいうログ格納手段、退避格納手段)。なお、バックアップデータやログについては、ソフトウェア開発用コンピュータ30のハードディスク、およびデータベース10a等、任意の記録領域に記録されていればよい。
【0047】
ここで、S230の処理を具体的に説明すると、選択中の項目が図3に示す設計情報の項目「0x03」のように、リンクが切れている項目(リンクの欄に記述された項目が適合データ表中の項目として存在しない項目)である場合に、この項目全体を設計情報の項目から削除するのである。
【0048】
続いて、設計情報に含まれる項目の全てを選択したか否かを判定する(S250)。何れかの項目を選択していなければ(S250:NO)、選択していた項目の次の項目を選択し(S260)、S220の処理に戻る。
【0049】
また、全ての項目を選択していれば(S250:YES)、設計情報に含まれるべき項目(適合データ表の項目のうち、当該設計情報に関するECUが所定の欄(ここでは送信ECUおよび受信ECUの欄)に記述されている項目)の全てが、適合データ表の項目と対応して不足することなく存在するか否かを判定する(S270)。具体的には、設計情報そのものが存在しないことや、適合データ表における項目が追加されたことを、適合データ表の所定の欄を順に検索することによって確認する。
【0050】
含まれるべき項目の全てが不足することなく存在していれば(S270:YES)、このまま取得処理を終了する。また、含まれるべき項目の何れかが不足していれば(S270:NO)、不足する項目についての適合定数を入力するための欄を設計情報に追加して(S280)、その後、取得処理を終了する。
【0051】
このような取得処理が終了すると、ソフトウェア開発者は、編集するデータが適合データ表とは異なる設計情報であるにもかかわらず、適合データ表が修正(項目の一部が追加や削除)されたことによる整合性を確認する作業を実施することなく、直ちに設計情報に適合係数の入力作業を実施することができる。なお、設計情報が取得処理によって自動的に修正された内容を確認するためには、S240の処理の際に記録されたログを確認すればよい。
【0052】
このような取得処理により取得された設計情報に対して、ソフトウェア開発者が、開発ツールを用いて適合定数の入力・修正等の編集を実施し、この編集後(修正後)の設計情報を保存する保存指令をソフトウェア開発用コンピュータ30に入力すると、ソフトウェア開発用コンピュータ30は、保存指令に応じて、その設計情報を自己のハードディスクに保存する。この際、ソフトウェア開発用コンピュータ30は、保存したこのファイルをネットワーク50を介してデータベース用コンピュータ10へ送信する。
【0053】
すると、データベース用コンピュータ10は、ソフトウェア開発用コンピュータ30からこのファイルを受信して、データベース10aに格納する。
その後、ソフトウェア開発者は、設計情報に開発するプログラムのソースコードに挿入して、コンパイル・リンク等を行ってECUの制御プログラムを生成する処理を実施する。この際に生成された制御用プログラムは、データベース用コンピュータ10へ送信され、記録されることになる。なお、この制御用プログラムは、ECUに組み込まれ、次工程の適合データの調整(図示は省略)に利用されることになる。
【0054】
以上のように詳述した車両開発システム1において、車両システム開発における適合工程にて作成されたデータが記録されるデータベース10aとしては、車両制御の概要を表す適合データ表(仕様データ)が記録される記録領域と、適合データ表における予め設定された複数の項目の各項目に対応する詳細設定を表す設計情報(詳細設定データ)が記録される記録領域と、を備えている。
【0055】
従って、このような車両開発システム1によれば、適合データ表および設計情報を別々に記録することができるので、各データを別々の装置を用いて作成する場合であっても、各装置で編集作業を同時に実施することができる。
【0056】
また、この車両開発システム1によれば、設計情報は、適合データ表の項目に対応しているので、適合データ表が変更されたときに、その変更内容を容易に設計情報に反映させることができる。
【0057】
さらに、この車両開発システム1によれば、適合データ表と設計情報とを分割して記録するので、適合データ表の設計者が設計情報を誤って変更したり、設計情報の設計者が適合データ表を誤って変更したりすることを防止することができる。
【0058】
また、ソフトウェア開発用コンピュータ30は、取得処理にて、適合データ表における項目の何れかが削除されると、設計情報におけるこの削除された項目に対応する詳細設定を削除する。
【0059】
従って、このような車両開発システム1によれば、適合データ表における項目を削除する変更が実施されると、この変更を設計情報に自動的に反映(同期)させることができる。つまり、従来構成のシステムにおいては、適合データ表における修正内容を設計情報に反映させる作業については、設計情報の設計者の設計者が実施する必要があったが、この作業を簡単なアルゴリズムを用いた処理で代用することができる。
【0060】
さらに、ソフトウェア開発用コンピュータ30は、削除するデータおよび削除するデータのログをソフトウェア開発用コンピュータ30のハードディスクまたはデータベース10aに記録する。
【0061】
従って、このような車両開発システム1によれば、ソフトウェア開発用コンピュータ30のハードディスクまたはデータベース10aに記録されたログを確認すれば、取得処理により削除されたデータを確認することができる。また、削除された設計情報の内容も記録されるので、設計情報の内容を削除前の状態に回復したい場合に、容易に回復させることができる。
【0062】
さらに、データベース10aには、設計情報が適合データ表の所定の欄(送信ECU、および受信ECUの欄)に含まれるECU毎に、複数に分割されて記録される。
従って、このような車両開発システム1によれば、複数の設計情報が記録されるので、設計情報をデータ毎に別々の装置を用いて同時に編集することができる。
【0063】
また、設計情報を適合データ表に含まれるECU毎に分割しているので、設計情報を編集する際において不要なデータが表示されることを防止することができる。よって、特定のデータを検索する際の手間を軽減することができる。
【0064】
なお、本発明の実施の形態は、上記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
例えば、上記実施形態においては、物理的に1つの記録装置として構成されたデータベース10aに、別々のデータである適合データ表および設計情報を記録するようにしたが、適合データ表および設計情報は、物理的に別々の記録装置として構成されたデータベースに記録するようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態においては、特許請求の範囲に記載の発明を、車両開発における適合工程に採用したが、車両開発に限らず、複数の装置によって実施されるソフトウェア開発に適用してもよい。この場合には、アーキテクチャ作成用コンピュータ(制御仕様開発用コンピュータ20に対応)、ソフトウェア開発用コンピュータ30、およびデータベース用コンピュータ10の間で、図6に示すようなデータを取り扱えばよい。図6はデータベース10aに記録された適合データ表、および設計情報の詳細を示す説明図である。
【0066】
ソフトウェア開発における適合データ表においては、図6(上欄)に示すように、車両開発おける設計内容の送信ECU、受信ECUの欄に換えて、送信コンポーネント、受信コンポーネントの欄を設ければよい。
【0067】
そして、送信コンポーネント、受信コンポーネントの欄に記述されたコンポーネント毎に設計情報を設け、この設計情報には、設計情報の項目毎に、適合データ表の項目に対応するリンクを記述しておく。
【0068】
このようにしておけば、前述の取得処理をソフトウェア開発にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施形態の車両開発システムの構成を示す図である。
【図2】データベースに記録されるデータの詳細を各ツールとの関係と共に説明する説明図である。
【図3】実施形態におけるデータベースに記録された適合データ表、および設計情報の詳細を示す説明図である。
【図4】車両開発システムを用いた適合工程における処理フローである。
【図5】取得処理を示すフローチャートである。
【図6】変形例におけるデータベースに記録された適合データ表、および設計情報の詳細を示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1…車両開発システム、10…データベース用コンピュータ、10a…データベース、20…制御仕様開発用コンピュータ、30…ソフトウェア開発用コンピュータ、50…ネットワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両システム開発における適合工程またはソフトウェア開発において、作成されたデータが記録される作成データ記録手段を備えたデータ記録システムであって、
前記作成データ記録手段は、
車両制御やソフトウェアの概要を表す仕様データが記録される第1記録手段と、
前記仕様データにおける予め設定された複数の項目の各項目に対応する詳細設定を表す詳細設定データが記録される第2記録手段と、
を備えたことを特徴とするデータ記録システム。
【請求項2】
前記仕様データにおける項目の何れかが削除されると、前記詳細設定データにおける該削除された項目に対応する詳細設定を削除する削除手段を備えたこと
を特徴とする請求項1に記載のデータ記録システム。
【請求項3】
前記削除手段により削除されたデータのログをログ記録手段に記録するログ格納手段を備えたこと
を特徴とする請求項2に記載のデータ記録システム。
【請求項4】
前記削除手段が削除するデータを退避記録手段に記録する退避格納手段を備えたこと
を特徴とする請求項2または請求項3の何れかに記載のデータ記録システム。
【請求項5】
前記第2記録手段には、前記詳細設定データが前記仕様データに含まれる特定の構成要素毎に複数のデータに分割して記録されること
を特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載のデータ記録システム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−242748(P2008−242748A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81689(P2007−81689)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】