説明

データ転送装置、マルチキャストシステム、およびプログラム

【課題】マルチキャストルータのマルチキャスト受信端末側インタフェースでマルチキャスト経路制御プロトコルメッセージの送受信を行わない場合に、マルチキャスト経路制御プロトコルがマルチキャスト経路を作成する時の起点になるルータを正しく制御することができないため。
【解決手段】マルチキャスト受信端末管理プロトコルメッセージの送受信により、マルチキャスト経路制御プロトコルがマルチキャスト経路を作成する時の起点になるルータを決定し、さらに送信端末側ネットワークの状態によりこの起点になるルータを切り替える。
【効果】送信端末側ネットワークに異常が起きた場合に冗長化ネットワークに経路切替可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチキャストネットワークに関し、特にマルチキャスト中継経路を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチキャストは、一回のデータ送信で複数の端末がそのデータを受信することができる技術である。(以下、このマルチキャストデータを送信する端末をマルチキャスト送信端末、受信する端末をマルチキャスト受信端末、中継するルータをマルチキャストルータと呼ぶ。)その経路制御にはマルチキャスト受信端末−マルチキャストルータ間とマルチキャストルータ−マルチキャストルータ間とで異なる二つのプロトコルが用いられる。マルチキャスト受信端末−マルチキャストルータ間では、マルチキャストルータに隣接するマルチキャスト受信端末の管理を行うため、IPv4ではIGMP、IPv6ではMLDというプロトコルが用いられ(以下、IGMPとMLDとのどちらにも共通の事項を説明する場合は、まとめてIGMP/MLDと呼ぶ。)、マルチキャストルータ−マルチキャストルータ間では、マルチキャストネットワーク内の経路制御を行うため、PIMというプロトコルが用いられる。IGMP/MLDには、Querier(以下、QRYとする。)と呼ばれる代表ルータが各リンクに存在する。QRYは、自身が属するリンク内にマルチキャスト受信端末があるかないかを問い合わせるためのIGMP/MLDの制御メッセージを送信する。同一リンクに複数のマルチキャストルータが存在する場合には、これらのマルチキャストルータがIGMP/MLDの制御メッセージを交換することにより各リンクに一つのQRYが決定される。PIMには、Designated Router(DR)と呼ばれる代表ルータが各リンクに存在する。PIMのマルチキャスト経路制御は、IGMP/MLDによるマルチキャストデータ受信要求を受信したマルチキャストルータのうちDRであるものを起点として行われる。同一リンクに複数のマルチキャストルータが存在する場合には、これらのマルチキャストルータがPIMの制御メッセージを交換することにより各リンクに一つのDRが決定される。
【0003】
通常、マルチキャストルータでは、マルチキャストネットワークのトポロジーの変化、つまりネットワーク内におけるルータや端末などの間の接続関係の変化に対応するため、各インタフェースでIGMP/MLDとPIMの両方のプロトコルを動作させる。しかし、IGMP/MLDの影響範囲はマルチキャスト受信端末から隣接マルチキャストルータまでであるが、PIMの影響範囲はマルチキャストネットワーク全体であり、また悪意を持ったユーザの端末またはサーバなどがこのマルチキャストネットワークに隣接して接続されている場合、PIMによるマルチキャストネットワーク制御を容易に混乱させることが可能であるため、セキュリティ上の観点からPIMの扱いには注意が必要である。
【0004】
このセキュリティ上の問題を回避する従来技術には、大きく分けて二通りある。
一つ目の方法は、IGMP/MLD proxyと呼ばれる技術である(非特許文献1参照)。IGMP/MLD proxyでは、IGMP/MLD proxyルータをマルチキャスト受信端末−マルチキャストルータ間に導入することにより、マルチキャストルータとマルチキャスト受信端末間でPIMとしての接続を分断できる。つまり、IGMP/MLD proxyがマルチキャスト受信端末からのIGMP/MLDによるマルチキャストデータ受信要求を集約してマルチキャストルータに伝達することで、PIMのプロトコルでのやり取りはマルチキャストルータ−IGMP/MLD proxyルータ間でのみ行い、マルチキャスト受信端末はPIMのプロトコルでのやり取りは行わなくて済む。従って、上記のセキュリティの問題を回避できる。
二つ目の方法は、passive PIM(非特許文献2参照)としてIETF MBONED WGで議論されている技術である。passive PIMでは、マルチキャストルータのマルチキャスト受信端末と隣接するインタフェースで、PIMの制御メッセージの送受信を停止することにより、マルチキャストルータとマルチキャスト受信端末のPIMとしての接続を分断し上記の問題を回避する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IGMP/MLD−based Multicast Forwarding ("IGMP/MLD Proxying"): draft−ietf−magma−igmp−proxy−06.txt
【非特許文献2】PIM−SM Multicast Routing Security Issues and Enhancements: draft−ietf−mboned−mroutesec−04.txt
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ネットワークを実際に運用する際には、信頼性を高めるため冗長な経路を持つトポロジーが構成される場合が多い。経路の冗長化により信頼性が高まるのは、ある経路に障害が起きた場合に別の経路に切替えることが可能になるためである。IGMP/MLD proxyルータをマルチキャスト受信端末−マルチキャストルータ間に導入しているネットワーク構成でマルチキャスト受信端末−マルチキャストルータ間を冗長化する場合、冗長化されているIGMP/MLD proxy全てがマルチキャスト受信端末からのマルチキャストデータ受信要求をマルチキャストルータに伝達すると、マルチキャスト受信端末−マルチキャストルータ間に複数のマルチキャスト中継経路が作成され、マルチキャスト受信端末にマルチキャストデータが重複して送信されてしまう。そこで、QRYであるIGMP/MLD proxyルータだけがマルチキャスト受信端末からのマルチキャストデータ受信要求をマルチキャストルータに伝達することに定められている。ここで、QRYであるIGMP/MLD proxyルータ−マルチキャストルータ間に障害が起きた場合を考える。この場合、マルチキャスト中継経路が冗長経路に切り替わることが望ましいが、QRYはリンク内でのIGMP/MLD制御メッセージの交換でのみ決定されるため、QRYは冗長化されている他のIGMP/MLD proxyルータに切り替わらず、マルチキャスト中継経路は冗長経路に切り替わらない。以上が本発明が解決しようとする課題1である。
【0007】
マルチキャスト受信端末に隣接するマルチキャストルータが冗長化されておりマルチキャストルータのマルチキャスト受信端末と隣接するインタフェースがpassive PIMとして動作する場合、マルチキャスト受信端末−マルチキャストルータ間のリンクではPIMの制御メッセージの送受信が行われないため全てのマルチキャストルータがDRとして動作する。そのため、複数のマルチキャスト中継経路が作成され、マルチキャスト受信端末にマルチキャストデータが重複して送信されてしまう。ただし、passive PIMインタフェースにおいても、マルチキャスト受信端末の管理を行うためIGMP/MLDが用いられ、QRYは各リンクに一つ決定される。以上が本発明が解決しようとする課題2である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題1を解決するための手段として、本発明では、冗長化されたIGMP/MLD proxyルータ−マルチキャストルータ間のマルチキャスト中継経路のうちの一つに障害が起きている場合、障害が起きている中継経路側のIGMP/MLD proxyルータのQRY機能を無効化し、IGMP/MLD制御メッセージの送信を停止する。または、当該IGMP/MLD proxyルータのQRY候補としての優先度を他のIGMP/MLD proxyルータより下げる。これにより、QRYは冗長化されている他のIGMP/MLD proxyルータに切り替わるため、マルチキャスト中継経路が障害が起きていない冗長経路に切り替わり、課題1が解決される。
【0009】
課題2を解決するための手段として、本発明では、passive PIMインタフェースでQRYであるものだけがDRになるとする。このようにすると、DRはリンクに一つに決まる。さらに、passive PIMインタフェースでQRYであるものだけがDRになるとすると、DRはリンクに一つに決まるが、この場合課題1と同様の問題が生じる。そこで、冗長化されたpassive PIMマルチキャストルータ−マルチキャストルータ間の中継経路の一つに障害が起きている場合には、障害が起きている中継経路側のpassive PIMマルチキャストルータのQRY機能を無効化し、IGMP/MLD制御メッセージの送信を停止する。または、当該passive PIMマルチキャストルータのQRY候補としての優先度を他のpassive PIM マルチキャストルータよりも下げる。以上により、DRがリンクに一つに決定されるためマルチキャストデータの重複送信は行われず、また経路障害発生時にQRYとともにDRが冗長化されている他のpassive PIMマルチキャストルータに切り替わるためマルチキャスト中継経路が冗長経路に切り替わり、課題2が解決される。
【0010】
課題1を解決するための手段と同様の仕組みは、IGMP/MLDとPIMを同時に動作させるマルチキャストルータにおいても効果的である。冗長構成の場合、マルチキャスト経路制御の起点となるDRはPIMの制御メッセージの交換により各リンクに一つ決定されるが、DR側のマルチキャストルータ−マルチキャスト送信端末間の経路に障害が起きている場合においても通常DRは変更されず、マルチキャストルータ−マルチキャスト受信端末間のリンクを介して冗長化されたデータ転送装置にPIMの制御メッセージが送信され、この冗長化されたデータ転送装置を通るようなマルチキャスト中継経路が作成されてしまう。この場合、もしDRの切替えが起こっていれば必要のないPIMの制御メッセージが上記リンクに流れてしまう。そこで、マルチキャストルータよりもマルチキャスト送信端末側の経路に障害が起きている場合において、DR機能を無効化しPIMの制御メッセージの送信を停止すると、あるいはDR候補としての優先度を下げると、障害が起こっていない冗長構成側のマルチキャストルータがDRに切り替わり、障害が起こっている中継経路のマルチキャストルータ−マルチキャスト受信端末間のリンクにPIMの制御メッセージが送信されることなく効率的にマルチキャスト中継経路が作成される。さらに、マルチキャスト送信端末に隣接するマルチキャストルータがRendezvous Point(RP)と呼ばれるコアルータにマルチキャストデータをカプセル化したPIMの制御メッセージを送信する場合においても、上記手段を適用することで、同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セキュリティ上の観点からPIMを動作させないIGMP/MLD proxyルータを用いて構成され冗長化されたマルチキャスト中継経路において、ある中継経路に障害が起きている場合でも、IGMP/MLDのQRY機能を無効化しQRY制御メッセージの送信を停止することにより、あるいはQRY候補としての優先度を下げることにより、中継経路を切り替えることができ、これによりマルチキャストパケットをマルチキャスト受信端末まで送信することが可能となる。更に、IGMP/MLD proxyと同様にセキュリティ上の観点からPIMの動作を制限するpassive PIMインタフェースを用いて構成され冗長化されたマルチキャスト中継経路においても、QRYであるものだけがDRになるとすることにより、マルチキャスト受信端末が重複してマルチキャストパケットを受信するのを回避することが可能となる。
【0012】
また、このpassive PIMを用いて冗長化されたマルチキャスト中継経路に障害が起きている場合でも、IGMP/MLDのQRY機能を無効化しQRY制御メッセージの送信を停止することにより、あるいはQRY候補としての優先度を下げることにより中継経路を切り替えることができ、これによりマルチキャストパケットをマルチキャスト受信端末まで中継することが可能となる。
【0013】
また、PIMを用いて冗長化されたマルチキャスト中継経路に障害が起きている場合でも、PIMのDR機能を無効化しDR制御メッセージの送信を停止することにより、あるいはDR候補としての優先度を下げることにより、中継経路を切り替えることができ、これによりマルチキャストパケットをマルチキャスト受信端末まで効率的に中継することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ネットワーク図。
【図2】装置構成図。
【図3】実施例1のシーケンス図。
【図4】実施例1の処理フロー図。
【図5】実施例2のシーケンス図。
【図6】実施例2の処理フロー図。
【図7】実施例3のシーケンス図。
【図8】実施例3の処理フロー図。
【図9】実施例4のシーケンス図。
【図10】実施例4の処理フロー図。
【実施例1】
【0015】
IGMP/MLD proxyルータに関する本発明の実施例を説明する。ネットワーク構成は、図1の模式図において、マルチキャスト端末11がマルチキャストデータの送信元となるマルチキャスト送信端末、マルチキャスト端末12がマルチキャストデータを受信するマルチキャスト受信端末、マルチキャスト中継装置21がマルチキャストデータを中継するマルチキャストルータ、マルチキャスト中継装置22および23がマルチキャスト受信端末12からのIGMP/MLDによるマルチキャストデータ受信要求をマルチキャストルータ21に中継するIGMP/MLD proxyルータであるとする。
【0016】
図3のシーケンス図および図4の処理フロー図は本発明の動作を示す図である。IGMP/MLD proxyルータ22および23は図1のリンク34上のIGMP/MLDのQRYを決定するための制御メッセージをリンク34上で互いに送受信しあい、QRY制御メッセージの送信元アドレスの大小によりQRYとしての優先度の高低が判定される。その結果IGMP/MLD proxyルータ22がリンク34上のQRYとして選定されたとする。マルチキャスト受信端末12からリンク34に送信されるIGMP/MLDによるマルチキャストデータ送信要求は、このデータ送信要求を受信するIGMP/MLD proxyルータ22、23のうちQRYであるIGMP/MLD proxyルータ22によりマルチキャストルータ21に伝達される。以上によりマルチキャストルータ21からIGMP/MLD proxyルータ22を経由するマルチキャスト受信端末12までのマルチキャスト中継経路が作成され、マルチキャスト送信端末11から送信されるマルチキャストデータがマルチキャスト受信端末12に送信される。
【0017】
次に、IGMP/MLD proxyルータ22の送信側ネットワークにおいて異常が生じた場合を考える。異常としては、図1のリンク32での回線障害、マルチキャストルータ21−IGMP/MLD proxyルータ22間のユニキャスト経路制御処理の障害、マルチキャスト経路制御処理の障害等が考えられ、IGMP/MLD proxyルータ22においてそれぞれ電気的な異常、ユニキャスト経路制御動作の異常、マルチキャスト経路制御動作の異常等として検知できる。IGMP/MLD proxyルータ22は、送信側ネットワークにおける異常を検知した場合、IGMP Version3およびMLD Version2のようにQRY終了通知を送信することが可能である場合には図1のリンク34にQRY終了通知を送信し、不可能である場合にはQRY制御メッセージを送信せずに、非QRY状態へと移行する。あるいは、QRY候補としての優先度を下がったことを示す情報を含んだQRY制御メッセージを送信してもよい。IGMP/MLD proxyルータ23は、IGMP/MLD proxyルータ22からのQRY終了通知を受信することにより、あるいはQRY制御のタイムアウト処理により、あるいはQRY候補としての優先度が下がったことを示す情報を受信することにより、IGMP/MLD proxyルータ22がQRYではなくなったことを検知しQRY状態への移行を行い、マルチキャスト受信端末12からのマルチキャストデータ送信要求をマルチキャストルータ21に伝達する。以上により、冗長構成のIGMP/MLD proxyを用いた中継経路において障害が起こった場合にでも、マルチキャストルータ21からマルチキャスト受信端末12までのマルチキャスト中継経路が、IGMP/MLD proxyルータ23を経由するマルチキャスト中継経路に切り替えられ、マルチキャスト送信端末11から送信されるマルチキャストデータがマルチキャスト受信端末12に送信される。
【0018】
本実施例のIGMP/MLD proxyルータのハードウェア構成を図2を用いて説明する。本実施例のIGMP/MLD proxyルータは、IGMP/MLDプロトコル処理を行うための制御処理部121、パケットの送受信処理を行うためのパケット中継部123、および制御処理部121とパケット中継部123とを接続するためのバックプレーン122等により構成される。制御処理部121は、少なくとも、経路制御プログラム141、経路表142、およびオペレーティングシステム(OS)143を格納する制御処理用メモリ132と、経路制御プログラム141やOS143を実行する制御処理用プロセッサ131とから構成される。パケット中継部123は、少なくとも経路表161を格納するパケット中継処理用メモリ152と、パケット中継処理を実行するパケット中継処理用プロセッサ151と、複数のインタフェース(I/F)171、172、173、...とから構成される。
【0019】
図4に示す処理を実行するIGMP/MLD proxyルータプログラムは、経路制御プログラム141の一つとして制御処理用メモリ132に格納される。I/F171、172、173、...で受信したIGMP/MLDパケットはバックプレーン122を経由して制御処理部121に送信され、IGMP/MLD proxyルータプログラムにより図4に示す処理が行われる。IGMP/MLD proxyルータプログラムは必要に応じて、制御処理部121内の経路表142に対しマルチキャスト経路の作成、削除処理を行う。制御処理部121内の経路表142上のマルチキャスト経路情報は、パケット中継部123にも中継され、経路表161に記憶される。I/F171、172、173、...で受信したマルチキャストパケットは経路表161上のマルチキャスト経路情報に従い、パケット中継処理用プロセッサ151により中継処理が行われる。
【実施例2】
【0020】
passive PIMマルチキャストルータに対する本発明の実施例を説明する。ネットワーク構成は、図1の模式図において、マルチキャスト端末11がマルチキャストデータの送信元となるマルチキャスト送信端末、マルチキャスト端末12がマルチキャストデータを受信するマルチキャスト受信端末、マルチキャスト中継装置21がマルチキャストデータを中継するマルチキャストルータ、マルチキャスト中継装置22および23がマルチキャスト受信端末12からのIGMP/MLDによるマルチキャストデータ受信要求を受信しPIMによるマルチキャストデータ受信要求をマルチキャストルータ21に送信するpassive PIMマルチキャストルータであるとする。
【0021】
図5のシーケンス図および図6の処理フロー図は本発明の動作を示す図である。passive PIMマルチキャストルータ22および23は図1のリンク34上のIGMP/MLDのQRYを決定するための制御メッセージをリンク34上で互いに送受信しあい、QRY制御メッセージの送信元アドレスの大小によりQRYとしての優先度の高低が判定される。その結果、passive PIMマルチキャストルータ22がリンク34上のQRYとして選定されたとする。passive PIMインタフェースではIGMP/MLDのQRYであるものだけがPIMのDRになるとする。従って、passive PIMマルチキャストルータ22がリンク34上のDRとして選定される。これによって、冗長構成でpassive PIMを用いる場合でも、DRになるマルチキャストルータが一つに決定され、マルチキャスト受信端末に重複したデータが送信されることを回避できる。マルチキャスト受信端末12からリンク34に送信されるIGMP/MLDによるマルチキャストデータ送信要求は、このデータ送信要求を受信するpassive PIMマルチキャストルータ22、23のうちDRであり、かつQRYでもあるpassive PIMマルチキャストルータ22によりマルチキャストルータ21に伝達される。以上によりマルチキャストルータ21からpassive PIMマルチキャストルータ22を経由するマルチキャスト受信端末12までのマルチキャスト中継経路が重複して作成されず、マルチキャスト送信端末11から送信されるマルチキャストデータがマルチキャスト受信端末12に重複して送信されることを回避できる。
【0022】
次に、上記のDRであり、かつQRYであるpassive PIMマルチキャストルータ22の送信側ネットワークにおいて異常が生じた場合を考える。異常としては、図1のリンク32での回線障害、マルチキャストルータ21−passive PIMマルチキャストルータ22間のユニキャスト経路制御処理の障害、マルチキャスト経路制御処理の障害等が考えられ、passive PIMマルチキャストルータ22においてそれぞれ電気的な異常、ユニキャスト経路制御動作の異常、マルチキャスト経路制御動作の異常等として検知できる。passive PIMマルチキャストルータ22は、送信側ネットワークにおける異常を検知した場合、IGMP Version3およびMLD Version2のようにQRY終了通知を送信することが可能である場合には図1のリンク34にQRY終了通知を送信、不可能である場合にはQRY制御メッセージを送信せずに、非QRYかつ非DRの状態へと移行する。あるいは、QRY候補としての優先度を下がったことを示す情報を含んだQRY制御メッセージを送信してもよい。passive PIMマルチキャストルータ23は、passive PIMマルチキャストルータ22からのQRY終了通知を受信することにより、あるいはQRY制御のタイムアウト処理により、あるいはQRY候補としての優先度が下がったことを示す情報を受信することにより、passive PIMマルチキャストルータ22がQRYではなくなったことを検知しQRY状態かつDR状態への移行を行い、マルチキャスト受信端末12からのマルチキャストデータ送信要求をマルチキャストルータ21に伝達する。以上により、冗長構成のpassive PIMを用いた中継経路において障害が起こった場合でも、マルチキャストルータ21からマルチキャスト受信端末12までのマルチキャスト中継経路が、passive PIMマルチキャストルータ23を経由するマルチキャスト中継経路に切り替えられ、マルチキャスト送信端末11から送信されるマルチキャストデータがマルチキャスト受信端末12に送信される。
【0023】
本実施例のpassive PIMマルチキャストルータのハードウェア構成を図2を用いて説明する。本実施例のpassive PIMマルチキャストルータは、IGMP/MLDおよびPIMプロトコル処理を行うための制御処理部121、パケットの送受信処理を行うためのパケット中継部123、および制御処理部121とパケット中継部123とを接続するためのバックプレーン122等により構成される。制御処理部121は、少なくとも、経路制御プログラム141、経路表142、およびオペレーティングシステム(OS)143を格納する制御処理用メモリ132と、経路制御プログラム141やOS143を実行する制御処理用プロセッサ131とから構成される。パケット中継部123は、少なくとも経路表161を格納するパケット中継処理用メモリ152、パケット中継処理を実行するパケット中継処理用プロセッサ151、および複数のインタフェース(I/F)171、172、173、...から構成される。
【0024】
図6に示す処理を実行するpassive PIMマルチキャストルータプログラムは、経路制御プログラム141の一つとして制御処理用メモリ132に格納される。I/F171、172、173、...で受信したIGMP/MLDパケットはバックプレーン122を経由して制御処理部121に送信され、passive PIMマルチキャストルータプログラムにより図6に示す処理が行われる。passive PIMマルチキャストルータプログラムは必要に応じて、制御処理部121内の経路表142に対しマルチキャスト経路の作成、削除処理を行う。制御処理部121内の経路表142上のマルチキャスト経路情報は、パケット中継部123に中継され、経路表161に記憶される。I/F171、172、173、...で受信したマルチキャストパケットは経路表161上のマルチキャスト経路情報に従い、パケット中継処理用プロセッサ151により中継処理が行われる。
【実施例3】
【0025】
マルチキャストルータに対する本発明の別の実施例を説明する。ネットワーク構成は、図1の模式図において、マルチキャスト端末11がマルチキャストデータの送信元となるマルチキャスト送信端末、マルチキャスト端末12がマルチキャストデータを受信するマルチキャスト受信端末、マルチキャスト中継装置21がマルチキャストデータを中継するマルチキャストルータ、マルチキャストルータ22および23がマルチキャスト受信端末12からのIGMP/MLDによるマルチキャストデータ受信要求を受信しPIMによるマルチキャストデータ受信要求をマルチキャストルータ21に送信するマルチキャストルータであるとする。
【0026】
図7のシーケンス図および図8の処理フロー図は本発明の動作を示す図である。マルチキャストルータ22および23は図1のリンク34上のPIMのDRを決定するための制御メッセージをリンク34上で互いに送受信しあい、DR制御メッセージの送信元アドレスの大小によりDRとしての優先度の高低が判定される。その結果、マルチキャストルータ22がリンク34上のDRとして選定されたとする。マルチキャスト受信端末12からリンク34に送信されるIGMP/MLDによるマルチキャストデータ送信要求は、このデータ送信要求を受信するマルチキャストルータ22、23のうちDRであるマルチキャストルータ22によりマルチキャストルータ21に伝達される。以上によりマルチキャストルータ21からマルチキャストルータ22を経由するマルチキャスト受信端末12までのマルチキャスト中継経路が作成され、マルチキャスト送信端末11から送信されるマルチキャストデータがマルチキャスト受信端末12に送信される。
【0027】
次に、マルチキャストルータ22の送信側ネットワークにおいて異常が生じた場合を考える。異常としては、図1のリンク32での回線障害、マルチキャストルータ21−マルチキャストルータ22間のユニキャスト経路制御処理の障害、マルチキャスト経路制御処理の障害等が考えられ、マルチキャストルータ22においてそれぞれ電気的な異常、ユニキャスト経路制御動作の異常、マルチキャスト経路制御動作の異常等として検知できる。マルチキャストルータ22は、送信側ネットワークにおける異常を検知した場合、図1のリンク34にDR終了通知を送信し、非DRの状態へと移行する。あるいは、DR候補としての優先度を下がったことを示す情報を含んだDR制御メッセージを送信してもよい。マルチキャストルータ23は、マルチキャストルータ22からのDR終了通知を受信することにより、あるいはDR候補としての優先度が下がったことを示す情報を受信することにより、マルチキャストルータ22がDRではなくなったことを検知しDR状態への移行を行い、マルチキャスト受信端末12からのマルチキャストデータ送信要求をマルチキャストルータ21に伝達する。以上により、冗長構成のPIMを用いた中継経路において障害が起こった場合でも、マルチキャストルータ21からマルチキャスト受信端末12までのマルチキャスト中継経路が、マルチキャストルータ23を経由するマルチキャスト中継経路に切り替えられ、マルチキャスト送信端末11から送信されるマルチキャストデータがマルチキャスト受信端末12に送信される。
【0028】
本実施例のマルチキャストルータのハードウェア構成を図2を用いて説明する。本実施例のマルチキャストルータは、IGMP/MLDおよびPIMプロトコル処理を行うための制御処理部121、パケットの送受信処理を行うためのパケット中継部123、および制御処理部121とパケット中継部123を接続するためのバックプレーン122等により構成される。制御処理部121は、少なくとも、経路制御プログラム141、経路表142、およびオペレーティングシステム(OS)143を格納する制御処理用メモリ132と、経路制御プログラム141やOS143を実行する制御処理用プロセッサ131とから構成される。パケット中継部123は、少なくとも経路表161を格納するパケット中継処理用メモリ152、パケット中継処理を実行するパケット中継処理用プロセッサ151、および複数のインタフェース(I/F)171、172、173、...から構成される。
【0029】
図8に示す処理を実行するマルチキャストルータプログラムは、経路制御プログラム141の一つとして制御処理用メモリ132に格納される。I/F171、172、173、...で受信したIGMP/MLDパケットはバックプレーン122を経由して制御処理部121に送信され、マルチキャストルータプログラムにより図8に示す処理が行われる。マルチキャストルータプログラムは必要に応じて、制御処理部121内の経路表142に対しマルチキャスト経路の作成、削除処理を行う。制御処理部121内の経路表142上のマルチキャスト経路情報は、パケット中継部123に中継され、経路表161に記憶される。I/F171、172、173、...で受信したマルチキャストパケットは経路表161上のマルチキャスト経路情報に従い、パケット中継処理用プロセッサ151により中継処理が行われる。
【実施例4】
【0030】
マルチキャスト送信端末に隣接するマルチキャストルータに関する本発明の実施例を説明する。ネットワーク構成は、図1の模式図において、マルチキャスト端末12がマルチキャストデータの送信元となるマルチキャスト送信端末、マルチキャスト端末11がマルチキャストデータを受信するマルチキャスト受信端末、マルチキャスト中継装置21がRendezvous Point(RP)と呼ばれるマルチキャストルータ、マルチキャスト中継装置22および23がマルチキャスト送信端末12からのマルチキャストデータを受信しマルチキャストデータをカプセル化したPIMの制御メッセージをRPであるマルチキャストルータ21に送信するマルチキャストルータであるとする。
【0031】
図9のシーケンス図および図10の処理フロー図は本発明の動作を示す図である。マルチキャストルータ22および23は図1のリンク34上のPIMのDRを決定するための制御メッセージをリンク34上で互いに送受信しあい、DR制御メッセージの送信元アドレスの大小によりDRとしての優先度の高低が判定される。その結果、マルチキャストルータ22がリンク34上のDRとして選定されたとする。マルチキャスト送信端末12からリンク34に送信されるマルチキャストデータは、これを受信するマルチキャストルータ22、23のうちDRであるマルチキャストルータ22によりマルチキャストデータをカプセル化したPIMの制御メッセージとしてRPであるマルチキャストルータ21に伝達される。以上によりマルチキャスト送信端末12からマルチキャストルータ22を経由するRPであるマルチキャストルータ21までのマルチキャスト中継経路が作成され、マルチキャスト送信端末12から送信されるマルチキャストデータがRPであるマルチキャストルータ21に送信される。
【0032】
次に、マルチキャストルータ22のRP側ネットワークにおいて異常が生じた場合を考える。異常としては、図1のリンク32での回線障害、マルチキャストルータ22−RPであるマルチキャストルータ21間のユニキャスト経路制御処理の障害、マルチキャスト経路制御処理の障害等が考えられ、マルチキャストルータ22においてそれぞれ電気的な異常、ユニキャスト経路制御動作の異常、マルチキャスト経路制御動作の異常等として検知できる。マルチキャストルータ22は、送信側ネットワークにおける異常を検知した場合、図1のリンク34にDR終了通知を送信し、非DRの状態へと移行する。あるいは、DR候補としての優先度を下がったことを示す情報を含んだDR制御メッセージを送信してもよい。マルチキャストルータ23は、マルチキャストルータ22からのDR終了通知を受信することにより、あるいはDR候補としての優先度が下がったことを示す情報を受信することにより、マルチキャストルータ22がDRではなくなったことを検知しDR状態への移行を行い、マルチキャスト送信端末12から送信されるマルチキャストデータをカプセル化したPIMの制御メッセージをRPであるマルチキャストルータ21に伝達する。以上により、RPを用いた冗長構成の中継経路において障害が起こった場合でも、マルチキャスト送信端末12からRPであるマルチキャストルータ21までのマルチキャスト中継経路が
、マルチキャストルータ23を経由するマルチキャスト中継経路に切り替えられ、マルチキャスト送信端末12から送信されるマルチキャストデータがRPであるマルチキャストルータ21に送信される。
【0033】
本実施例のマルチキャストルータのハードウェア構成を図2を用いて説明する。本実施例のマルチキャストルータは、PIMプロトコル処理を行うための制御処理部121、パケットの送受信処理を行うためのパケット中継部123、および制御処理部121とパケット中継部123とを接続するためのバックプレーン122等により構成される。制御処理部121は、少なくとも、経路制御プログラム141、経路表142、およびオペレーティングシステム(OS)143を格納する制御処理用メモリ132と、経路制御プログラム141やOS143を実行する制御処理用プロセッサ131とから構成される。パケット中継部123は、少なくとも経路表161を格納するパケット中継処理用メモリ152、パケット中継処理を実行するパケット中継処理用プロセッサ151、および複数のインタフェース(I/F)171、172、173、...から構成される。
【0034】
図10に示す処理を実行するマルチキャストルータプログラムは、経路制御プログラム141の一つとして制御処理用メモリ132に格納される。I/F171、172、173、...で受信したマルチキャストデータパケットはバックプレーン122を経由して制御処理部121に送信され、マルチキャストルータプログラムにより図10に示す処理が行われる。マルチキャストルータプログラムは必要に応じて、制御処理部121内の経路表142に対しマルチキャスト経路の作成、削除処理を行う。制御処理部121内の経路表142上のマルチキャスト経路情報は、パケット中継部123に中継され、経路表161に記憶される。I/F171、172、173、...で受信したマルチキャストパケットは経路表161上のマルチキャスト経路情報に従い、パケット中継処理用プロセッサ151により中継処理が行われる。
【符号の説明】
【0035】
11、12:マルチキャスト端末21−23:マルチキャスト中継装置31−34:回線111:装置121:制御処理部122:バックプレーン123:パケット中継部131:制御処理用プロセッサ132:制御処理用メモリ141:制御処理プログラム142:制御処理部内の経路表143:OS151:パケット中継処理用プロセッサ152:パケット中継処理用メモリ153:パケット中継部内の経路表171−173:インタフェース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチキャストデータ受信端末に接続されたマルチキャストデータを転送可能なデータ転送装置であって、
該データ転送装置は、他のデータ転送装置と接続され、該他のデータ転送装置と冗長構成を形成しており、
前記冗長構成を形成する、データ転送装置及び他のデータ転送装置は、
第1の制御プロトコルによって決定されるマルチキャストデータ転送経路で上記マルチキャストデータを転送し、
上記第1の制御プロトコルの制御メッセージを、前記マルチキャストデータ受信端末側には送信せず、
前記第1の制御プロトコルによりマルチキャストデータ転送経路を構築する際に起点となる代表データ転送装置を、前記第2の制御プロトコルの制御メッセージを各データ転送装置間で互いに交換することにより決定することを特徴とするデータ転送装置。
【請求項2】
請求項1に記載のデータ転送装置であって、
前記第2の制御プロトコルの制御メッセージによって、同一リンク上で冗長構成を形成する、データ転送装置及び他のデータ転送装置の代表転送装置と決定された場合には、前記第1の制御プロトコルによりマルチキャストデータ転送経路を構築する際に起点となる代表データ転送装置となることを特徴とするデータ転送装置。
【請求項3】
前記第1の制御プロトコルは、マルチキャスト経路制御プロトコルであることを特徴とする代表データ転送装置。
【請求項4】
前記第2の制御プロトコルは、マルチキャスト端末管理プロトコルであることを特徴とするデータ転送装置。
【請求項5】
請求項1に記載のデータ転送装置であって、
上記マルチキャストデータを送信する端末と該データ転送装置との間のネットワークにおいて異常が発生した場合に、前記第2の制御プロトコルにより上記代表データ転送装置機能を停止することを示すマルチキャスト端末管理プロトコルの制御メッセージ、または上記代表データ転送装置になる優先度を下げることを示す前記第2の制御プロトコルの制御メッセージを前記冗長構成を形成している他のデータ転送装置に送信し、さらに、前記マルチキャスト経路の起点となるデータ転送装置を該データ転送装置から前記新たに代表データ転送装置となった他のデータ転送装置に変更することを特徴とするデータ転送装置。
【請求項6】
請求項1記載のデータ転送装置であって、
前記代表データ転送装置の機能を停止させる際には、前記第2の制御プロトコルの制御メッセージの送信を停止すること、または、前記第2の制御プロトコルの特定の制御メッセージを送信することを特徴とするデータ転送装置。
【請求項7】
請求項1記載のデータ転送装置であって、
上記マルチキャストデータを送信する端末からのマルチキャストデータを受信する該データ転送装置のインタフェースの電気的な異常、該インタフェースのユニキャスト経路制御処理の異常、または該インタフェースのマルチキャスト経路制御処理の異常のうち少なくともいずれか一つにより、該インタフェースに接続されたネットワークにおいて異常が発生したことを検知することを特徴とするデータ転送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−88127(P2010−88127A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281117(P2009−281117)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【分割の表示】特願2005−28373(P2005−28373)の分割
【原出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】