説明

トナー定着部材

【課題】連続通紙時におけるトナー定着画像において、極めて高画質なトナー画像を安定して得る。
【解決手段】少なくとも一方の部材を加圧することによりニップを形成し、トナーをこのニップ内で基材の内面から加熱加圧せしめて記録媒体上に多色定着画像を得るトナー定着装置に用いられるトナー定着部材であって、トナー定着部材は、少なくとも基材上に設けられたシリコーンゴムを含有する弾性層と、フッ素樹脂を含有する表層とを有し、該表層の厚みd1が10μm≦d1≦50μm、該弾性層の25℃での熱拡散率aが0.1mm2/sec≦a≦2.0mm2/sec、JIS−A硬度が1°〜30°、且つ厚みd2がd2≦1000μmであることを特徴とするトナー定着部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録材(記録媒体)に複数色のトナー像の重ね合わせによるカラー画像を形成担持させ、その被記録材を定着手段により加熱および加圧して前記カラー画像を被記録材に定着する、電子写真方式のコピー機やプリンターのトナー定着に用いられるトナー定着部材、及びトナー定着部材を備えたトナー定着装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、カラープリントが普及するにつれ、写真画像および一般のビジネス文書もカラーで出力する機会がふえており、フルカラー定着装置は複写機やレーザービームプリンター、さらには個人向けのパーソナルプリンターにも適用されている。そのため、より高画質化、高速、高信頼性が求められている。高画質化の要求の一つに紙上の定着画像の適切な光沢感があげられる。電子写真プロセスのトナー定着においては、シリコーンゴムといった柔軟な弾性材料からなる弾性層上に、直接または間接的にトナー離型の良好なフッ素樹脂の表層を形成した定着部材が様々なバリエーションで用いられている。例えば、弾性層のシリコーンゴムに、弾性効果をより発揮させるために低硬度のゴムを用いることや、フッ素樹脂を薄くする事で弾性層の機能を効果的に発揮させる、といった工夫がなされている。
【0003】
また、トナーを被記録材に連続して定着させる際に、弾性層のシリコーンゴムの熱物性においても、連続通紙時においても安定して良質なトナー定着画像を得るための工夫がなされている。これらのような定着部材の構成は連続通紙時においてどちらも定着後のトナー画像の画質に大きく影響している。そこで、連続通紙時において定着画像の適切な光沢感を安定して得るためには、表層と弾性層の厚み、および弾性層の熱拡散率と硬度を合わせて考慮し、これらの最適条件を導くことが重要である。
【0004】
これに対して、従来の定着装置では、フッ素樹脂表層の厚みと、弾性層の熱伝導率および、ニップにかかる圧力との関係から、OHPの高画質化のための最適条件が導かれている(特許文献1参照)。この発明の実施例では、定着部材の基材にポリイミドを用いる方法が示されている。また、表面層と内部層の熱伝導率と熱容量との関係から、高画質化のための最適条件が導かれているものもある(特許文献2参照)。この発明では定着部材の加熱方式が外部加熱系を対象としている。
【特許文献1】特開平09−244450号公報
【特許文献2】特開2000−112268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2記載の定着部材では、高画質化に大きく影響する特性値(層の厚み、熱拡散率、硬度)の制御といった観点からの検討がなされておらず、いまだ十分な高画質化が図られているとはいえなかった。また、これらの定着部材では特定の材料を使用することによるコスト高や、物性値の制御が困難な場合があった。本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、金属からなる基材と、弾性効果を目的としたシリコーンゴムの弾性層、フッ素樹脂の表層が形成されたトナー定着部材において、表層厚みをd1[μm]としたとき10≦d1≦50の厚み範囲であり、かつ弾性層JIS−A硬度が1°〜30°でありかつ、熱拡散率aを0.1≦a≦2.0[mm2/sec]、弾性層厚みd2[μm]をd2≦1000の範囲で用いることにより、定着後のトナー画像において、連続通紙時においても適切な光沢感を安定して発現しうる高画質なトナー定着画像が得られることを主たる目的とした発明である。さらに、弾性層であるシリコーンゴムの種類は、精度よく加工することを考慮して付加型シリコーンゴムを用いている。
【0007】
また、本発明は、基材として熱容量の大きい金属を用い、さらに弾性層であるシリコーンゴムの熱拡散率を0.4≦a≦1.0[mm2/sec]の範囲とし、かつ厚みをd2[μm]としたとき100≦d2≦500と層厚みを薄くすることで、熱容量の観点から熱応答性が良くなり、優れた熱的な特性と柔軟性を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、ふっ素樹脂表層の厚みをd1[μm]としたとき20≦d1≦40の厚み範囲で用いることにより、柔軟性と機械的強度をバランスよく提供することを目的とする。
【0009】
本出願に係る第1の発明は、本発明の主たる目的に必要最小限なものであり、金属からなる基材と、弾性効果を目的としたシリコーンゴムの弾性層、フッ素樹脂の表層が形成されたトナー定着部材において、表層のフッ素樹脂の厚み(d1)、弾性層の厚み(d2)、弾性層の熱拡散率(a)、弾性層のJIS−A硬度の範囲を規定することにより、連続通紙時におけるトナー定着画像において、極めて高画質なトナー画像を安定して得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本願発明は、以下の構成を有することを特徴とする。すなわち、本発明は、少なくとも基材上に設けられたシリコーンゴムを含有する弾性層と、該弾性層上に設けられたフッ素樹脂を含有する表層とを有するトナー定着部材であって、
該表層の厚みd1が10μm≦d1≦50μm、
該弾性層の25℃での熱拡散率aが0.1mm2/sec≦a≦2.0mm2/sec、JIS−A硬度が1°〜30°、且つ厚みd2がd2≦1000μm
であることを特徴とするトナー定着部材に関する。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明によれば、電子写真装置に用いるトナー定着装置において、基材である金属ローラまたはフィルム上に、熱拡散率の範囲が0.1≦a≦2.0(mm2/sec)、JIS−A硬度が1〜30°であり、かつ厚み範囲がd2≦1000(μm)の弾性層を設け、表層に厚み範囲が10≦d1≦50(μm)の離型層を設けたトナー定着部材を用い、加熱加圧手段により被記録材をニップで定着部材に押圧することで連続通紙時において、良好な光沢感を低下させることなく発現しうる高画質なカラー定着画像を安定して得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施した形態の例を図1に、部材断面の概略として示した。11は表層のフッ素樹脂であり、12は弾性層としてのシリコーンゴム、13は金属製の基材である。
【0013】
本発明のトナー定着部材は、ローラやベルト等、公知の形態において実施可能であり、加熱加圧用の部材としても適用可能である。少なくとも最外層(表層)はフッ素樹脂であり、弾性層はシリコーンゴムから成るトナー定着部材であり、これらの層は公知の材料を使用することが出来る。また、これらの層の間に別の層を設けることもできる。例えば、最外層と弾性層の間には、接着を目的としたプライマー層や、フッ素ゴム及び/またはフッ素樹脂の混合/単一層を中間層として設けても良い。また、弾性層は、金属又は耐熱性樹脂の基材上に形成して用いることが出来る。
【0014】
フッ素樹脂の種類は、公知である種類の材料を用いることができるが、特に限定されない。一般によく知られる、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の単一種、または複合種の材料を用いることが好ましい。
【0015】
最外層(表層)であるフッ素樹脂の厚みd1は、10μm以上50μm以下の必要がある。これは、トナー定着後の画質を考慮して、期待する画質を得るため、目的とする柔軟性を損なわない程度の薄さを求めるものである。厚みは機械的強度を考慮すると10μm以上30μm以下であることがより好ましい。d1がこれらの範囲内であることによってトナー離型性に優れたトナー定着部材を得ることができると共に、より優れた光沢感を有する画像を得ることができる。
【0016】
弾性層であるシリコーンゴムの種類は、架橋反応の形態として特に限定されないが、弾性層のシリコーンゴムの厚みが薄いため、精度よく加工することを考慮すると、付加型シリコーンゴムが好適に用いられる。
【0017】
また、シリコーンゴムは官能基の種類が様々に知られているが、それら公知の種類の官能基を有したシリコーンゴムを用いても構わない。特に、メチル基のみを有したジメチルシリコーンゴムや、フェニル基を有したメチルフェニルシリコーンゴム/フェニルシリコーンゴムがトナー定着部材用に良く知られ、好んで用いられる。
【0018】
シリコーンゴムには耐熱や伝熱や補強や増量等を目的として、無機系の粉末状の充填剤が配合されており、この充填剤の配合により良好な熱応答性が得られるものである。また、これらの無機系充填剤を用いることにより弾性層としての弾性効果を期待しうる硬度を得ることができる。無機系充填剤は公知のものを用いることが出来る。例えば、結晶性シリカ、煙霧状シリカ、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナなどを例示できる。好ましくは、これらの無機充填剤を、シリコーンゴム100質量部に対して、0.1質量部〜100質量部配合してなるものを用いる。この他、シリコーンゴムには各種特性の調整のために配合剤を加えても良い。
【0019】
弾性層の熱拡散率aは0.1〜2.0(mm2/sec)の範囲の必要がある。より好ましくは、熱拡散率aは0.4〜1.0(mm2/sec)の範囲であることが好ましい。
このような熱拡散率は、前記の無機系充填材の種類、配合量を調整することによって、変更可能である。また、シリコーンゴムは高熱伝導グレードのシリコーンゴムとして市販品等を手に入れることができ、シリコーンゴムの種類によって熱拡散率を調節することも可能である。このとき、ゴム硬度もある程度所望の範囲のものが入手可能である。
【0020】
なお、熱拡散率aは式(1)によって求めることができる。
式(1):a=κ/(Cp×ρ)×106
ここで、a:熱拡散率(mm2/sec)、κ:熱伝導率(W/m・K)、Cp:比熱(J/kg・K)、ρ:密度(kg/m3)を表す。
【0021】
式(1)の中の比熱Cpについては、JIS K 7123に記載の方法に従い、重さが約10mgになるように切り出した弾性層シリコーンゴムの試料を用いて、示差走査熱量測定装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製 RDC 220)にて、窒素雰囲気下において室温から400℃まで10℃/minの速度で昇温する条件で測定することによって、比熱Cpが得られる。
【0022】
また、弾性層であるシリコーンゴムのJIS−A硬度は1〜30°の必要がある。これは、トナー定着後の画質を考慮して期待する画質を得るため、目的とする柔軟性を損なわない程度の軟らかさを求めるものである。弾性層のJIS−A硬度はシリコーンゴムの耐久性を考慮すると、5〜30°であることが好ましい。なお、JIS−A硬度は実施例に記載のように、25℃において厚み6mmのシートを作成し、これをJIS K 6301に準じて測定した。このようなJIS−A硬度は、シリコーンゴムへの無機系充填材の配合や、シリコーンゴムの架橋形態・架橋密度を調整することによって変更可能であり、このようなシリコーンゴムは、市販品等を材料メーカーより入手することができる。
【0023】
弾性層であるシリコーンゴムの厚みd2は、1000μm以下の必要がある。d2は100μm以上が好ましく、これは、弾性層として弾性効果を期待しうる厚みを求めるものである。さらに、特に制限はされないが、本発明の目的である表層厚みとニップ圧力との関係がより効果的に発揮されるとして、弾性層の厚みd2は500μm以下が好ましい。d2は更に200〜400μmがより好ましい。d2がこれらの範囲内であることによって、柔軟性・耐久性及び被記録媒体へのトナー定着性に優れたものとすることができる。
【0024】
ニップ滞留時間については400msecまでとする。ニップ滞留時間とは、一方の部材を加圧することにより形成されたニップを、トナーが転写された記録媒体が通過するのにかかる時間のことである。
【0025】
通常、ニップ滞留時間は数十〜数百msecまで設計可能であるが、高速定着を考えると50〜100msecの範囲が好ましい。今回は、本発明の効果をより実用的に確認するために400msecまでを評価の対象とした。
【0026】
図2は本発明のトナー定着部材を備えたトナー定着装置の概略を表したものである。本発明のトナー定着装置では、定着ローラ21と加圧ローラ22とがそれぞれ2a及び2b方向に回転し、この回転時にローラ21と22のニップを未定着トナーTaを担持した被記録材Pが通過する。この際、トナーTaを被記録材P上に加熱定着させるものである。また、定着ローラ21と加圧ローラ22にはヒーター23が内蔵されローラを加熱できるようになっている。
【実施例】
【0027】
(光沢感の評価方法)
本発明を実施し効果を確認するための定着部材を作製し、図2に示すような定着装置に組み込んで、表層PFAの表面にジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製、商品名、KF−96SS)を微量塗布しながら未定着のトナー画像を連続して通紙し、通紙初期と後半でのトナー定着画像の画質を評価した。
【0028】
トナー画像の作成には、カラーレーザーコピア800(CLC800)用のシアントナー(キヤノン社製)を用いた。トナー画像は、定着装置の手前で用紙を取り出せるようにしておき、未定着のトナー画像を得た。用紙には、キャストコート紙(品番:0611A008 キヤノン販売株式会社)を用いた。グロスの評価には、単位面積あたりのトナーのり量(mg/cm2)が1.0である未定着のベタ画像を用意した。
【0029】
画像の評価は、本発明の目的である極めて高画質なトナー画像を感度良く判定するため、官能的評価にて行った。まず画像の光沢感については、評価に普遍性を与えるために、標準の見本画像を作製し、評価の基準を合わせた。すなわち、グロス値がそれぞれ50、60、70(株式会社 堀場製作所 IG−320 入射角60°使用にて)となるような3つの見本画像を作製した。これは、平滑面であるアルミシート上にシアントナーを単位面積あたりのトナーのり量(mg/cm2)が1.0になるように載せ、様々な条件で熱プレスすることにより作製した。この3つの見本画像を数人の被験者に見せ、「光沢感が十分である」と認識してもらった上で、本発明を実施したベタ画像について、「◎=適切な光沢感である」、「○=光沢感がある」、「△=光沢感が少ない」、「×=光沢感がない」の4水準で評価してもらった。この方法で、通紙初期の画像と通紙50枚目の定着画像それぞれについて評価してもらった。なお、このような官能的評価のグロス値は大体、70以上が◎、50〜70が○、50より低くなるに従って△、×、となっていた。
【0030】
[実施例1]
まず、弾性層のシリコーンゴムとして、付加反応型の2液混合タイプの液状シリコーンゴム原料A(品番:DY35−4039A/B 東レダウコーニングシリコーン社製)を用意した。熱硬化後のゴム物性は、熱拡散率が2mm2/secであった。また、このシリコーンゴムの6mmシートの25℃におけるJIS−A硬度を測定したところ、30°であった。
【0031】
次に画像評価のための定着部材を用意した。まず基材として、外径がφ60mmのアルミ製ローラ芯金を用意した。この基材の表面にシリコーン用プライマー(DY39−051、東レダウコーニングシリコーン株式会社)を薄塗りして、200℃の温風オーブンにて1時間の加熱処理を行った。冷却後にローラ芯金上に、上記シリコーンゴム原料Aを1000μmの厚みで塗工し、150℃の温風オーブンにて30分の加熱処理をした。次に、厚みが10μmのPFAシートを用意した。このPFAシートに、内面を脱ふっ素処理した後にシリコーン用プライマー(DY39−051、東レダウコーニングシリコーン株式会社)を薄塗りして、200℃の温風オーブンにて1時間の加熱処理を行った後、未加硫のシリコーンゴム(弾性層と同じ種類:液状シリコーンゴム原料A)を塗布した。このように液状シリコーンゴム原料Aを塗布したPFAシートを、前述の液状シリコーンゴム原料Aを塗布して加熱処理したローラに、互いの液状シリコーンゴム原料Aが接するように巻きつけて、PFAがしわにならないように円周方向の両端を狭持し、200℃にて4時間加熱処理して弾性層と表層を加硫接着させ、円周方向の両端部を切断した。その結果、図1に示すように、弾性層12のシリコーンゴム厚みが1000μmで、表層11のPFA厚みが10μmの定着部材を得た。
【0032】
以上のようにして得られた定着部材を図2に示すような定着装置に組み込み、上下ローラの中空部位にあるハロゲンヒータ23と、ローラ表面の温度検知センサー(不図示)により表面温度を150℃に制御して、PFA表面にA4用紙一枚あたり1〜10mgのシリコーンオイルを塗布しながら、未定着のべタ画像を10000枚連続して通紙した。ニップ圧力は上ローラ21と下ローラ22をバネ加圧することにより2.0×104Paに制御し、ニップ滞留時間は200msecになるように上下ローラの回転速度を調整して実験を行った。通常、ニップ滞留時間は数十〜数百msecまで設計可能であるが、高速定着を考えると50〜100msecの範囲が好ましい。今回は、本発明の効果をより実用的に確認するために200msecでの評価を対象とした。
【0033】
通紙初期と10000枚通紙後それぞれの光沢感(グロス)について、表1に結果を示す。連続通紙時においても適切な光沢感を低下させることなく発現するトナー定着画像を得ることができた。また、表1に実施例1〜12および比較例1〜4の実施内容と評価結果をまとめて示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例2]
実施例1の定着装置において、弾性層のシリコーンゴムの膜厚を1000μmから300μmに変えた以外は同様の手法により評価実験を行った。その結果、初期グロス・10000枚通紙後のグロス、いずれも良好な結果を得ることができた。
【0036】
以下、実施例3〜12、比較例3、4では弾性層の材料の種類及び組成を変えることで、上記実施例1、2とは熱拡散率及びJIS−A硬度が異なる定着部材を作成した。
【0037】
[実施例3]
実施例1の定着装置において、弾性層のシリコーンゴムの熱拡散率aを2mm2/secから0.1mm2/secに変えた以外は同様の手法により評価実験を行ったところ、良好な結果を得ることができた。
【0038】
[実施例4]
実施例3の定着装置において、弾性層のシリコーンゴムのJIS−A硬度を30°から1°に変えた以外は同様の手法により評価実験を行ったところ、良好な結果を得ることができた。
【0039】
10000枚通紙後のグロスで若干低下が見られた。これはゴムの硬度が小さくなったためにゴムの耐久性が劣り、その結果がグロスに反映されたものと考えられる。ただしこれは、実用に耐えうるレベルのものである。
【0040】
[実施例5]〜[実施例8]
いずれも良好な結果を得た。
【0041】
[実施例9]
実施例7の定着装置において、表層のPFAの膜厚d1を10μmから50μmに変えた以外は同様の手法により評価実験を行ったところ、初期グロス、10000枚通紙後のグロスともにやや劣る結果となった。これは表層PFAの膜厚が厚いために部材としての熱伝導の妨げとなり、その結果がグロスに反映されたものと考えられる。ただしこれは、実用に耐えうるレベルのものである。
【0042】
[実施例10]
実施例9の定着装置において、弾性層のシリコーンゴムの膜厚d2を1000μmから300μmに変えた以外は同様の手法により評価実験を行ったところ、良好な結果を得た。
【0043】
[実施例11]〜[実施例12]
いずれも良好な結果を得た。
【0044】
[比較例1]
実施例1の定着装置において、表層のPFAの膜厚d1を10μmから500μmに変えた以外は同様の手法により評価実験を行ったが、満足な結果が得られなかった。これは、表層の膜厚が厚すぎたため、熱伝導の妨げになったためと推測される。
【0045】
[比較例2]
実施例1の定着装置において、弾性層のシリコーンゴムの膜厚d2を1000μmから5000μmに変えた以外は同様の手法により評価実験を行ったが、満足な結果が得られなかった。これは、弾性層の膜厚が厚すぎたため、熱伝導の妨げになったためと推測される。
【0046】
[比較例3]
実施例1の定着装置において、弾性層のシリコーンゴムの熱拡散率aを2mm2/secから0.01mm2/secに変えた以外は同様の手法により評価実験を行ったが、満足な結果が得られなかった。これは、弾性層の熱拡散率が不適切なためと推測される。
【0047】
[比較例4]
実施例1の定着装置において、弾性層のシリコーンゴムのJIS−A硬度を30°から90°に変えた以外は同様の手法により評価実験を行ったが、満足な結果が得られなかった。これは、弾性層の硬度が不適切なため、部材表面のトナー画像への追従性が悪くなったためと推測される。
【0048】
以上の実施例および比較例の結果を、通紙初期および通紙10000枚目のグロス評価のいずれかが官能的評価において「◎」または「○」になるような弾性層シリコーンゴムの熱拡散率とJIS−A硬度の範囲は、弾性層シリコーンゴムの熱拡散率をaとしたとき、0.1mm2/sec≦a≦2.0mm2/secであり、かつJIS−A硬度が1〜30°が適切である。よって、本発明を実施した定着装置において、弾性層シリコーンゴムの熱拡散率aとJIS−A硬度との関係が前述のような範囲である時、連続通紙時においても光沢感を低下させることなく安定した高画質定着を達成できることが明らかとなり、本発明の有効性を確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明を実施した形態の例
【図2】ローラ定着装置の一例(本発明の実施例に使用)
【符号の説明】
【0050】
11 表層
12 弾性層
13 基材
21 上ローラ
22 下ローラ
23 ハロゲンヒータ
2a 上ローラ回転方向
2b 下ローラ回転方向
P 被記録材
Ta トナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材上に設けられたシリコーンゴムを含有する弾性層と、該弾性層上に設けられたフッ素樹脂を含有する表層とを有するトナー定着部材であって、
該表層の厚みd1が10μm≦d1≦50μm、
該弾性層の25℃での熱拡散率aが0.1mm2/sec≦a≦2.0mm2/sec、JIS−A硬度が1°〜30°、且つ厚みd2がd2≦1000μm
であることを特徴とするトナー定着部材。
【請求項2】
前記シリコーンゴムとして、付加型シリコーンゴムを用いることを特徴とする請求項1に記載のトナー定着部材。
【請求項3】
前記熱拡散率aが、0.4mm2/sec≦a≦1.0mm2/secであることを特徴とする請求項1又は2に記載のトナー定着部材。
【請求項4】
前記弾性層の厚みd2が、100μm≦d2≦500μmであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のトナー定着部材。
【請求項5】
前記表層の厚みd1が、10μm≦d1≦30μmであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のトナー定着部材。
【請求項6】
トナー定着部材と該トナー定着部材に押し付けられる加圧ローラとでニップを形成し、該ニップに未定着トナー像が形成された記録媒体を通過させ、この通過時に該記録媒体を加熱加圧せしめて該未定着トナー像を記録媒体上に定着させ多色定着画像を得る定着装置であって、
前記トナー定着部材が、請求項1〜5の何れか1項に記載のトナー定着部材であることを特徴とする定着装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−84679(P2006−84679A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268329(P2004−268329)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】