説明

トラクタの動力伝達装置

【課題】 カウンタ軸上の主変速機構の従動ギヤの配列を軸方向に短くして、主変速機構を軸方向にコンパクトに構成できるようにする。
【解決手段】 カウンタ軸38上の主変速機構9の従動ギヤ39b〜42bを前方から後方へ高速側から低速側に順次配置し、カウンタ軸38上の最高速従動ギヤ42bの前側に副変速機構10用の副低速駆動ギヤ46を設け、かつ次高速従動ギヤ41bを副変速機構10用の副高速駆動ギヤとする。副変速機構10用の副低速従動ギヤ48と副高速従動ギヤ49とを、出力軸47上に配置して副低速駆動ギヤ46と次高速従動ギヤ41bとにそれぞれ噛合し、かつ最高速従動ギヤ42bと副低速駆動ギヤ46と次高速従動ギヤ41bとに前後方向でオーバラップさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主変速機構及び副変速機構を有するトラクタの動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタの動力伝達装置の従来技術においては、特許文献1に開示されているように、前後進切換機構から前後進動力が伝達される入力軸とカウンタ軸との間に多段変速の主変速機構を配置し、カウンタ軸と後輪動力を伝達する出力軸との間に高低変速する副変速機構を配置し、カウンタ軸上の主変速機構の従動ギヤを前方から後方へ高速側から低速側に順次配置し、カウンタ軸上の第2速従動ギヤと第3速従動ギヤとの間に副変速機構用の副低速駆動ギヤを設け、かつ第3速従動ギヤ(次高速従動ギヤ)を副変速機構用の副高速駆動ギヤとしている。
【0003】
前記副変速機構用の副低速駆動ギヤと副高速駆動ギヤ(次高速従動ギヤ)とにそれぞれ噛合する出力軸上の副低速従動ギヤと副高速従動ギヤとは、出力軸に択一的に結合するためのクラッチ手段を必要とし、両従動ギヤ間にはクラッチ手段を配置するための軸方向間隔が必要になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−307955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術では、副低速従動ギヤと副高速従動ギヤとの間のクラッチ手段配置間隔に対応するために、副低速駆動ギヤと副高速駆動ギヤ(次高速従動ギヤ)との配置間隔を長く採らなくてはならなく、その間に配置できるギヤはなく、主変速機構の軸方向長さが長くなり、コンパクトに構成することが困難になっている。
本発明は、このような従来技術の問題点を解決できるようにしたトラクタの動力伝達装置を提供することを目的とする。
【0006】
本発明は、カウンタ軸上の主変速機構の最高速従動ギヤの前側に副変速機構用の副低速駆動ギヤを設けることにより、主変速機構を軸方向にコンパクトに構成できるようにしたトラクタの動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における課題解決のための具体的手段は、次の通りである。
第1に、推進軸6と後進伝動軸29との間に推進軸6の動力を前後進に変速する前後進切換機構8を配置し、この前後進切換機構8から前後進動力が伝達される入力軸37とカウンタ軸38との間に多段変速の主変速機構9を配置し、カウンタ軸38と後輪動力を伝達する出力軸47との間に高低変速する副変速機構10を配置したトラクタの動力伝達装置であって、
前記カウンタ軸38上の主変速機構9の従動ギヤ39b〜42bを前方から後方へ高速側から低速側に順次配置し、カウンタ軸38上の最高速従動ギヤ42bの前側に副変速機構10用の副低速駆動ギヤ46を設け、かつ次高速従動ギヤ41bを副変速機構10用の副高速駆動ギヤとしており、
副変速機構10用の副低速従動ギヤ48と副高速従動ギヤ49とを、出力軸47上に配置して副低速駆動ギヤ46と次高速従動ギヤ41bとにそれぞれ噛合し、かつ最高速従動ギヤ42bと副低速駆動ギヤ46と次高速従動ギヤ41bとに前後方向でオーバラップさせていることを特徴とする。
【0008】
第2に、前記出力軸47の動力を前輪動力取出手段52を介して前輪動力を取り出す前輪動力取出軸55を出力軸47の下方に配置しており、
前記前輪動力取出手段52は、出力軸47上で副変速機構10の副低速従動ギヤ48の前側で隣接配置された前輪動力取出ギヤ53と、前輪動力取出軸55の後端に支持された伝動ギヤ54とであり、前記出力軸47は前輪動力取出ギヤ53の前側でミッションケー
スMの支持壁Mbに支持されていることを特徴とする。
【0009】
第3に、フライホイールハウジングFに連結された前ミッションケースMFの内部に第1・第2支持壁Ma・Mbを設けて、フライホイールハウジングF内と連通する第1室20と、中間部の第2室21と、後部の第3室22とをそれぞれ形成しており、
前記前後進切換機構8を第2室21に配置し、主変速機構9、副変速機構10及び出力軸47を第3室22に配置し、前輪動力取出軸55を第1・第2支持壁Ma・Mbに支持しており、
前記第2支持壁Mbを、前後進切換機構8、主変速機構9、副変速機構10及び出力軸47を支持する上部壁部Mb1と、前輪動力取出軸55を支持する下部壁部Mb2とに上下分離するとともに、下部壁部Mb2を前記副低速従動ギヤ48の下方に配置し、上部壁部Mb1と下部壁部Mb2との間に上下方向及び前後方向に開放した開口57を形成し、この開口57に前記前輪動力取出手段52を配置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カウンタ軸上の主変速機構の従動ギヤの配列を軸方向に短くして、主変速機構を軸方向にコンパクトに構成できる。
即ち、請求項1に係る発明は、副変速機構10用の副低速駆動ギヤ46をカウンタ軸38上の主変速機構9の最高速従動ギヤ42bの前側に設け、主変速機構9の次高速従動ギヤ41bを副変速機構10用の副高速駆動ギヤとし、副低速従動ギヤ48と副高速従動ギヤ49とを、最高速従動ギヤ42bと副低速駆動ギヤ46と次高速従動ギヤ41bとに前後方向でオーバラップさせているので、カウンタ軸38上のギヤ配列を軸方向に短くでき、よって主変速機構9を軸方向にコンパクトに構成できる。
【0011】
請求項2に係る発明は、大径の前輪動力取出ギヤ53を同じく大径の副低速従動ギヤ48と隣接配置できるとともに、前輪動力取出ギヤ53の前後両側で出力軸47を支持して前輪動力取出ギヤ53を両持ち支持構造とすることができる。
請求項3に係る発明は、前記前輪動力取出手段52を上下方向及び前後方向に開放した開口57内に配置させることができ、前輪動力取出手段52の配置が最適にできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す前ミッションケース内の断面図である。
【図2】同全体断面図である。
【図3】副変速機構及び前輪動力取出機構の断面図である。
【図4】ポンプ動力取出手段の拡大断面図である。
【図5】前ミッションケース及び後軸支持ホルダの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1、2において、1は前後4輪駆動型のトラクタの動力伝達装置であり、エンジンEの後端側に連結されたフライホイールハウジングFの後端側にミッションケースMが連結されており、このミッションケースMは前後ミッションケースMF、MRを有し、それらの内部にトランスミッションTが収納されている。前記エンジンE、フライホイールハウジングF、ミッションケースM等によってトラクタの車体が構成されている。
【0014】
前記トランスミッションTは、エンジンEからの動力をフライホイール4及び緩衝機構5を介して推進軸6に伝達し、この推進軸6から4輪の前後駆動輪に伝達する走行駆動系と、推進軸6からPTO軸7に伝達するPTO駆動系とを有する。
このトランスミッションTの走行駆動系は、推進軸6の動力を正転で取り出す態様と逆転で取り出す態様とに変換する油圧切換式の前後進切換機構(シャトル装置)8と、前後進切換後の動力を4段変速する手動切換式の主変速機構9と、この主変速機構9で変速された動力を高低変速する手動切換式の副変速機構10と、高低切換後の動力を後輪(駆動輪)へ伝達する後輪デフ機構11と、前記副変速機構10による高低切換後の動力を前輪(駆動輪)へ伝達する前輪駆動系の前輪動力取出機構12とを備えている。
【0015】
トランスミッションTのPTO駆動系は、前記推進軸6の後部にPTO駆動軸16が同軸心状に直結され、このPTO駆動軸16の後方に同軸心状に設けられたPTO伝動軸1
7と、PTO駆動軸16からPTO伝動軸17に動力を断接自在に伝達するPTOクラッチ18と、PTO伝動軸17からの動力を減速してPTO軸7に伝達する減速機構19とを備えている。
【0016】
前記前ミッションケースMFは前後に間隔をおいて第1支持壁Maと第2支持壁Mbとを有し、第1支持壁Maはフライホイール4及び緩衝機構5を収納したフライホイールハウジングF内と連通する第1室20と、前後進切換機構8が収納された第2室21とを区画しており、第2支持壁Mbは主変速機構9及び副変速機構10を収納した第3室22を前記第2室21と区画している。
【0017】
前記後ミッションケースMRは前後に間隔をおいて第3支持壁Mcと第4支持壁Mdとを有し、第3支持壁McはPTOクラッチ18を収納しかつ第3室22内と連通する第4室23とその後方の第5室24とを区画しており、第4支持壁Mdは第5室24と後輪デフ機構11を収納した第6室25とを区画している。
また、第1支持壁Maには中央に大きい開口Ma1が形成されていて、この開口Ma1を塞ぐように前軸支持ホルダ27がボルト等の固定具を介して取り付けられ、第3室22と第4室23との間にはそれらを前後に仕切るように後軸支持ホルダ28がボルト等の固定具を介して取り付けられている。この後軸支持ホルダ28は前ミッションケースMFの内周面に形成された突起に受持されかつボルト固定されている。
【0018】
前記推進軸6は、その前端が緩衝機構5と連結され、前部が前軸支持ホルダ27に支持され、後部が第2支持壁Mbに回転自在に支持されている。推進軸6と平行に後進伝動軸29が配置されており、この後進伝動軸29も推進軸6と同様に前後部が前軸支持ホルダ27と第2支持壁Mbとに回転自在に支持され、推進軸6と後進伝動軸29との間に油圧切換式の前後進切換機構8が配置されている。
【0019】
油圧切換式前後進切換機構8は、推進軸6上に設けられた前進油圧クラッチ30と、この前進油圧クラッチ30の後側において推進軸6上に相対回転自在に支持された前進出力ギヤ31と、後進油圧クラッチ32と、この後進油圧クラッチ32の前側において推進軸6上に相対回転自在に支持された後進出力ギヤ33と、後進伝動軸29の前部に一体回転自在に設けられた後進第1伝動ギヤ34と、後進伝動軸29の後部に一体回転自在に設けられた後進第2伝動ギヤ35とを備えている。
【0020】
前進出力ギヤ31と後進第2伝動ギヤ35とはともに、主変速機構9に動力を入力する入力ギヤ36に噛合しており、後進第1伝動ギヤ34は後進出力ギヤ33に噛合している。
前記前後進切換機構8は、前進油圧クラッチ30を作動することにより、推進軸6の正転動力を入力ギヤ36に伝達し、後進油圧クラッチ32を作動することにより、後進出力ギヤ33、後進第1伝動ギヤ34、後進伝動軸29及び後進第2伝動ギヤ35を介して推進軸6の正転動力を逆転して入力ギヤ36に伝達する。
【0021】
この前後進切換機構8は、前進油圧クラッチ30と後進油圧クラッチ32の両方を切ることにより、エンジンEから走行駆動系に伝達される動力を断接できるので、走行系メイン油圧クラッチの役目もしている。
図1〜5において、手動切換式の主変速機構9は、前記入力ギヤ36を有して前後進切換機構8から動力が入力される入力軸37と、この入力軸37と平行なカウンタ軸38との間に設けられている。カウンタ軸38は筒軸で前記PTO駆動軸16に外嵌しており、このカウンタ軸38と入力軸37とはともに、前部が第2支持壁Mbに、後部が後軸支持ホルダ28にそれぞれ回転自在に支持されている。
【0022】
入力軸37は前部が第2支持壁Mbから前方へ突出され、その突出前部に入力ギヤ36が装着され、第2支持壁Mbと後軸支持ホルダ28との間に、後方から順に主変速の第1速から第4速の駆動ギヤ39a〜42aが遊嵌されている。
前記第1速駆動ギヤ39aと第2速駆動ギヤ40aとは第1クラッチ手段43によって択一的に入力軸37と一体回転され、第3速駆動ギヤ41aと第4速駆動ギヤ42aとは第2クラッチ手段44によって択一的に入力軸37と一体回転される。
【0023】
カウンタ軸38には第1速から第4速の従動ギヤ39b〜42bが一体回転自在に設け
られ、各従動ギヤ39b〜42bは前記入力軸37上の第1速から第4速の駆動ギヤ39a〜42aとそれぞれ噛合している。
カウンタ軸38上の第1〜4速従動ギヤ39b〜42bは、前方から後方へ高速側から低速側に順次配置され、従って、後側から前方に行くに従ってギヤ径が次第に小さくなっており、最前端の第4速従動ギヤ42bは最小径である。
【0024】
前記第1クラッチ手段43と第2クラッチ手段44とはシンクロメッシュ式になっていて、1本の変速レバーによって択一的に手動操作され、主変速機構9を中立状態から第1速ないし第4速のいずれかに変速操作できる。
カウンタ軸38の最小径の第4速従動ギヤ42b(最高速従動ギヤ)の前方部分には、副変速機構10用の低速駆動ギヤ46が形成され、副変速機構10用の高速駆動ギヤは前記第3速従動ギヤ41b(次高速従動ギヤ)が兼務している。
【0025】
副変速機構10はカウンタ軸38とこれに平行に配置された出力軸47との間に設けられており、出力軸47上に、低速駆動ギヤ46と噛合する低速従動ギヤ48と、第3速従動ギヤ41bと噛合する高速従動ギヤ49とが遊嵌され、低速従動ギヤ48と高速従動ギヤ49とは第3クラッチ手段50によって択一的に出力軸47と一体回転可能に結合される。
【0026】
前記第3速従動ギヤ41b及び第4速従動ギヤ42bは、主変速機構9の他の従動ギヤ39b、40bと比べて径が小さいので、低速従動ギヤ48及び高速従動ギヤ49はこれらの従動ギヤ41b、42bと軸方向にオーバラップして配置することが可能になっている。
即ち、低速従動ギヤ48及び高速従動ギヤ49の前後位置及び前後長さは、低速駆動ギヤ46、第3速従動ギヤ41b及び第4速従動ギヤ42bの前後位置及び前後長さと略同一になっており、第4速従動ギヤ42bが最小径であるので、出力軸47上に第3クラッチ手段50を配置しても干渉しないようになっている。逆に、低速駆動ギヤ46と第3速従動ギヤ41bとの間に、第3クラッチ手段50に対応して第4速従動ギヤ42bを配置することができる。
【0027】
低速駆動ギヤ46を第4速従動ギヤ42bの前側に設けることにより、大径の低速従動ギヤ48を他の従動ギヤ39b、40bと干渉することなく、また周囲に無駄なスペースを作ることなく配置することが可能になっている。
前記出力軸47は第2支持壁Mbと後軸支持ホルダ28とに支持され、後端がベベルピニオン51と連結され、後輪デフ機構11に後輪動力を伝達する。
【0028】
また、出力軸47の前端には低速従動ギヤ48の前側に隣接して前輪動力取出ギヤ53が装着され、この前輪動力取出ギヤ53は下方の伝動ギヤ54と噛合し、前輪動力取出手段52を構成している。
前記前輪動力取出手段52は、出力軸47の前部と前輪動力取出軸55の後部との間に設けられており、前記伝動ギヤ54は前輪動力取出軸55に遊嵌され、前輪駆動クラッチ手段56によって遊転と結合とが選択され、結合されることにより、出力軸47の動力は、前輪動力取出ギヤ53、伝動ギヤ54及び前輪動力取出軸55を介して、前輪動力として前輪デフ機構へ伝達される。
【0029】
前輪動力取出軸55は前後中途部が第1支持壁Maに貫通支持し、伝動ギヤ54を支持している後端が伝動ギヤ54の後側で第2支持壁Mbに支持し、それぞれ回転自在に支持されている。
図1、5において、前記出力軸47は入力軸37及びカウンタ軸38に対して平行状に配置され、かつそれらと三角配置されている。推進軸6及びPTO駆動軸16はエンジンEのクランク軸と同心であり、それらと前輪動力取出軸55とは、ミッションケースMの左右方向中央に位置し、出力軸47は左右一方(右側)に僅かにずれ、入力軸37はさらに大きく左右一方(右側)にずれて配置されている。
【0030】
前記第2支持壁Mbは上下壁部Mb1、Mb2に上下分離形成されており、上部壁部Mb1は推進軸6及び後進伝動軸29の後端と、出力軸47、カウンタ軸38及び入力軸37の前端とを支持しており、下部壁部Mb2は前輪動力取出軸55を支持している。
上部壁部Mb1と下部壁部Mb2とは、それらの間に前輪動力取出ギヤ53及び伝動ギヤ54を配置するために前後に分離しており、従って、上部壁部Mb1と下部壁部Mb2との間には上下方向及び前後方向に開放した開口57が形成されている。
【0031】
この開口57は下部壁部Mb2が上部壁部Mb1の直下に位置する場合よりも前後に離れている分だけ大面積になっている。
ミッションケースM内は、第1室20以外は、第2室21から第6室25までオイルバスになっていて、トランスミッションTのための油及び油圧アクチュエータのためのミッション油が貯められている。
【0032】
前記下部壁部Mb2、第3支持壁Mc、第4支持壁Md等はミッションケースMの底部との間にそれぞれ通路58が形成され、第2室21から第6室25までのミッション油の流通路になっている。
また、上部壁部Mb1は前輪動力取出ギヤ53より前側で出力軸47の前端を支持しているので、出力軸47の低速従動ギヤ48、高速従動ギヤ49及び前輪動力取出ギヤ53を配置している部分の前後部は、上部壁部Mb1と後軸支持ホルダ28とによって両持ち支持されている。
【0033】
下部壁部Mb2は低速従動ギヤ48の下方、前後方向直下に位置し、大径の低速従動ギヤ48の配置を可能にしており、低速従動ギヤ48と前輪動力取出ギヤ53との密接した隣接配置を可能にしている。
さらに、前輪動力取出ギヤ53を出力軸47の前端に配置可能にすることにより、前ミッションケースMF内における伝動ギヤ54の前後位置が可及的に前方となり、前輪動力取出軸55が出力軸47と前後方向にオーバラップする長さが短くなり、前輪動力取出軸55を短くかつ安価に形成できる。
【0034】
図1、5において、前ミッションケースMFの後端は大きく開放されており、その後部近傍の内周面に複数(4箇所)の突起59が設けられ、この突起59に前記後軸支持ホルダ28の外周部が受持されて、ボルト等の締結具で装着されている。
図1、2、4、5において、後軸支持ホルダ28の正面側には、入力軸37を軸受を介して支持する軸受凹部28aと、カウンタ軸38を軸受を介して支持する軸受凹部28bと、出力軸47を軸受を介して支持する軸受凹部28cとが形成され、背面側にはポンプ動力取出手段60が備えられ、内部には潤滑油路28dが形成されている。
【0035】
前ミッションケースMFの後端近傍の側壁外面にはトラクタの油圧機器へ作動油を供給する油圧ポンプ61が装着されており、前記ポンプ動力取出手段60を介してPTO駆動軸16から動力を取り出している。
前記ポンプ動力取出手段60は、PTO駆動軸16に嵌合装着された伝動ベベルギヤ62と、この伝動ベベルギヤ62に噛合している取出ベベルピニオン63とを有し、ピニオン保持部28bと油圧ポンプ61のポンプ軸61aとはカップリング66を介して着脱自在に連結されている。前記取出ベベルピニオン63は軸部とベベルギヤとが一体成形されているが、別個に形成して固着したものでもよい。
【0036】
後軸支持ホルダ28は背面側に、伝動ベベルギヤ62を軸受64を介して支持するギヤ保持部28eと、後方突出していて取出ベベルピニオン63を軸受65を介して支持するピニオン保持部28fとが形成されており、前記ギヤ保持部28eとピニオン保持部28fとは軸線が直交されている。
従って、前記後軸支持ホルダ28は、正面側から軸受凹部28a、28b及び28cが加工され、背面側にギヤ保持部28eが加工され、外側方から潤滑油路28d及びピニオン保持部28fが加工されており、これらは1物体に加工されているので、芯出しが正確にでき、また、伝動ベベルギヤ62と取出ベベルピニオン63との噛み合わせ調整も簡単かつ正確にできる。
【0037】
前記後軸支持ホルダ28のピニオン保持部28bの後端及び油圧ポンプ61の取付部61bの後端は、前ミッションケースMFの後端の後ミッションケースMR合わせ面70より前側に位置させており、前後ミッションケースMF、MRにそれぞれ構造物を組み込んでから合わせる際に、合わせ面70から突出する構造物を少なくして、組立てを容易にし
ている。
【0038】
後軸支持ホルダ28は前ミッションケースMFの後端から挿入して前ミッションケースMF内面の突起59に取り付け、伝動ベベルギヤ62と取出ベベルピニオン63とを組み込んだ後に、油圧ポンプ61を前ミッションケースMFの外方から組み付けることができる。
なお、本発明は前記実施形態における各部材の形状及びそれぞれの前後・左右・上下の位置関係は、図1〜5に示すように構成することが最良である。しかし、前記実施形態に限定されるものではなく、部材、構成を種々変形したり、組み合わせを変更したりすることもできる。
【0039】
例えば、第2室21内の変速機構は油圧切換式前後進切換機構8としているが、手動切換式してもよく、第3室22内の主変速機構9及び副変速機構10は手動切換式であるが、これらはそれぞれ油圧切換式にしてもよい。
また、変速機構として走行動力を高低に変速する高低変速機構や、副変速機構10よりもさらに減速する超減速機構を追加してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 動力取出装置
6 推進軸
8 前後進切換機構
9 主変速機構
10 副変速機構
12 前輪動力取出機構
16 駆動軸
20 第1室
21 第2室
22 第3室
27 前軸支持ホルダ
28 後軸支持ホルダ
29 後進伝動軸
36 入力ギヤ
37 入力軸
38 カウンタ軸
39a 駆動ギヤ
39b 従動ギヤ
41b 次高速従動ギヤ(副高速駆動ギヤ)
42b 最高速従動ギヤ
46 副低速駆動ギヤ
47 出力軸
48 副低速従動ギヤ
49 副高速従動ギヤ
52 前輪動力取出手段
53 前輪動力取出ギヤ
54 伝動ギヤ
55 前輪動力取出軸
56 前輪駆動クラッチ手段
57 開口
F フライホイールハウジング
M ミッションケース
MF 前ミッションケース
MR 後ミッションケース
Ma 第1支持壁
Mb 第2支持壁
Mb1 上部壁部
Mb2 下部壁部
T トランスミッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進軸(6)と後進伝動軸(29)との間に推進軸(6)の動力を前後進に変速する前後進切換機構(8)を配置し、この前後進切換機構(8)から前後進動力が伝達される入力軸(37)とカウンタ軸(38)との間に多段変速の主変速機構(9)を配置し、カウンタ軸(38)と後輪動力を伝達する出力軸(47)との間に高低変速する副変速機構(10)を配置したトラクタの動力伝達装置であって、
前記カウンタ軸(38)上の主変速機構(9)の従動ギヤ(39b〜42b)を前方から後方へ高速側から低速側に順次配置し、カウンタ軸(38)上の最高速従動ギヤ(42b)の前側に副変速機構(10)用の副低速駆動ギヤ(46)を設け、かつ次高速従動ギヤ(41b)を副変速機構(10)用の副高速駆動ギヤとしており、
副変速機構(10)用の副低速従動ギヤ(48)と副高速従動ギヤ(49)とを、出力軸(47)上に配置して副低速駆動ギヤ(46)と次高速従動ギヤ(41b)とにそれぞれ噛合し、かつ最高速従動ギヤ(42b)と副低速駆動ギヤ(46)と次高速従動ギヤ(41b)とに前後方向でオーバラップさせていることを特徴とするトラクタの動力伝達装置。
【請求項2】
前記出力軸(47)の動力を前輪動力取出手段(52)を介して前輪動力を取り出す前輪動力取出軸(55)を出力軸(47)の下方に配置しており、
前記前輪動力取出手段(52)は、出力軸(47)上で副変速機構(10)の副低速従動ギヤ(48)の前側で隣接配置された前輪動力取出ギヤ(53)と、前輪動力取出軸(55)の後端に支持された伝動ギヤ(54)とであり、前記出力軸(47)は前輪動力取出ギヤ(53)の前側でミッションケース(M)の支持壁(Mb)に支持されていることを特徴とする請求項1に記載のトラクタの動力伝達装置。
【請求項3】
フライホイールハウジング(F)に連結された前ミッションケース(MF)の内部に第1・第2支持壁(Ma・Mb)を設けて、フライホイールハウジング(F)内と連通する第1室(20)と、中間部の第2室(21)と、後部の第3室(22)とをそれぞれ形成しており、
前記前後進切換機構(8)を第2室(21)に配置し、主変速機構(9)、副変速機構(10)及び出力軸(47)を第3室(22)に配置し、前輪動力取出軸(55)を第1・第2支持壁(Ma・Mb)に支持しており、
前記第2支持壁(Mb)を、前後進切換機構(8)、主変速機構(9)、副変速機構(10)及び出力軸(47)を支持する上部壁部(Mb1)と、前輪動力取出軸(55)を支持する下部壁部(Mb2)とに上下分離するとともに、下部壁部(Mb2)を前記副低速従動ギヤ(48)の下方に配置し、上部壁部(Mb1)と下部壁部(Mb2)との間に上下方向及び前後方向に開放した開口(57)を形成し、この開口(57)に前記前輪動力取出手段(52)を配置していることを特徴とする請求項2に記載のトラクタの動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−72826(P2012−72826A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217483(P2010−217483)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【特許番号】特許第4809493号(P4809493)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】