説明

トラクタキャビンの防音装置

【課題】トラクタ等の農用作業機の走行車両にあっては、多彩な周波数の騒音がキャビン内に透過しており、有効な騒音低減効果を発揮させるには、それなりの質量をもつ板材を用いて、かつ新たな二次振動源とならないように、補強材で補強する等して、質量効果を持たせる形態では、単に質量増加になり、さほどに有効な騒音低減とはなり難い。
【解決手段】車体に対して防振体を介在させて支持し取付けるキャビンの室内、又は室外構成部材の取付面に、空気の音速とは異なる音速の気体を弾性を有する密封材により密封した形態の遮音マット5を敷設する、又は、この遮音マット5を弾性を有するシール膜で取付面に押圧して敷設するトラクタキャビンの防音装置の構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トラクタキャビンのキャビンルーム内の防音効果を高く維持するための防音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
キャビンを構成する構成部材からキャビンルーム内へ透過するエンジン騒音等を遮断するため間隔部に遮音板を設けることによって、室内騒音を低下させる技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4119049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トラクタ等の農用作業機の走行車両にあっては、多彩な周波数の騒音がキャビン内に透過しており、有効な騒音低減効果を発揮させるには、それなりの質量をもつ板材を用いて、かつ新たな二次振動源とならないように、補強材で補強する等して、質量効果を持たせる形態では、単に質量増加になり、さほどに有効な騒音低減とはなり難い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、車体1に対して防振体2を介在させて支持し取付けるキャビン3の室内、又は室外構成部材の騒音侵入面に、空気の音速とは異なる音速の気体を弾性を有する密封材により密封した形態の遮音マット5を敷設する、又は、この遮音マット5を弾性を有するシール膜4で騒音侵入面に押圧して敷設することを特徴とするトラクタキャビンの防音装置の構成とする。
【0006】
この遮音マット5を敷設した側面に騒音が当ると、この遮音マット5内の密封気体Aによって所定の周波数の音波が吸収減衰されて、キャビン3の室内への浸入が阻止されたり、室内での騒音伝播を低減する。従って、この遮音マット5内に封入する気体Aとしては、トラクタ作業機の用途や、仕様等に応じて、騒音周波数を吸収減衰するために有効な音速を有する気体特性として、安定した使用を可能な気体として、例えば、ヘリュウムや、二酸化炭素等を使用することができる。
【0007】
前記空気Eを密封する遮音マット5Eの伝播音速を標準として、これにより高速の音速を有する気体Aとしては、ヘリュウム(音速97m/sec)が不活性で安定している。単に空気を封入したものに比較して、特にスネルの法則により侵入騒音の遮音マット5面に対する侵入角θをもって斜めから入射してくる音波の屈折率が大きくなり、より小さい角度で侵入しても全反射することになる。又、空気Eよりも低速の音速を有する気体Bとしては、不活性で安定したものとして2酸化炭素(高速は260m/sec)を使用し、この空気Eよりも音速の遅い気体Bを封入することで、遮蔽音手段のもつ共振周波数が低くなり、通常空気Eでは効果の薄い周波数域であっても、共振による侵入音減衰、低減作用を行わせて騒音低減効果を発揮する。
【0008】
又、前記遮音マット5を敷設する構成は、接着剤で添付するのではなく、キャビンを構成する部材に対して押圧固定させるように、圧着部材で構成部材面に押圧して、この圧着部材をキャビン構成部材の端部に締結する。しかも、この形態では、キャビン構成部材が曲面形状であっても遮音を適する気体厚さにして、空気Eと異なる気体A、又はBを封入した遮音マット5を変形させて、所望の気体を封入して効果的な騒音低減を達成することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記遮音マット5は、音速を異にする複数の気体A、B、又は空気Eを密封した遮音マット5A、5B、又は5Eを重合した形態とする。
前記のようにキャビン3の室内側面、又は室外側面に敷設する遮音マット5内には音速伝播の異なる気体Aを密封した遮音マット5Aと、気体Bを密封した遮音マット5B、又は、空気Eを密封した遮音マット5Eを、二種、又は三種重合接着して敷設し、又は、これら重合部の外周部を弾性を有したシール膜4を圧着させて被覆するような形態としてキャビン側面に一体的に敷設する。
【0010】
前記のように空気Eと相異なる音速の気体Aとして、表面側の遮音マット5Aに前記高速の音速を有するヘリウムを封入することで、侵入角θをもって斜めから入射してくる音波の侵入屈折率が大きくなり、より小さい角度で侵入しても全反射することになる。しかしながら、音速の速い気体に侵入した高周波数域の騒音に対しては騒音低減効果はないので、内層側の遮音マット5Bに空気より音速の遅い気体Bを封入しておくことで、高周波数域の騒音を遮音することができる。即ち、空気Eより低音速の気体Bを封入することで、遮蔽手段の持共振周波数が低くなり、空気Eでは効果の薄い周波数域でも、共振による侵入遮蔽、低減作用を行わせることができ騒音低減効果を発揮できる。
【0011】
又、反対に表面側の遮音マット5Bに空気Eより低音速の気体Bを封入することで、単に空気Eを封入したものに比較して、まず中高周波数域の騒音に対して侵入音減衰の低減作用、騒音低減効果を発揮する。しかし、音速の遅い気体に侵入した低周波数域の騒音に対しては騒音低減効果はないので、内層側の遮音マット5Aに、高音速の気体Aを封入することで、上記の通り全反射効果により遮蔽効果をあげることができる。
【0012】
前記のように気体A、Bを、空気Eの音速とは異なる音速を有するものとして設定したが、いずれかの気体A、又はBに代えて、空気Eを封入した遮音マット5Eを使用して、二層間の音速の差異を持たすことで同様な効果をあげることができる。空気Eを封入した遮音マット5Eを使用する形態では、気体A、又はBを封入した遮音マット5A、又は5Bとを組み合わせて二重形態にすると遮音効果を高くすることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記遮音マット5は、ダッシュボード6のエンジンルーム7側前側面に、又はキャビンフロア8の下側面に敷設する。
前記トラクタ車体1に防振体2を介して支持されるキャビン3は、比較的簡易な制振形態であって低速走行車両としてもキャビン3ルーム内の騒音は、エンジンルーム7からの空気振動伝播による騒音も大きく、特にダッシュボード6部での遮音性向上のために、前記のような気体層を密封した遮音マット5を比較的薄くして、狭い遮音空間に介在させることによって、騒音低減効果を高く維持する。 しかも、気体封入の遮音マット5のエンジンルーム7側面に吸音材9や、断勢材10などを設けることによって、このエンジンルーム7側からキャビン3ルーム内側へ進入する進入音波だけではなく、反射音波の吸音作用により一層の遮音効果を高めることができる。
【0014】
又、ダッシュボード6を設けるダッシュ部には、操作ワイヤーヤ、ハーネス等のキャビン3ルーム内への引込孔を形成することが多いが、前記弾性体からなる遮音マット5を気体を封入した状態で環状にする等の変形して、外周部からシール膜4で押圧して所望の厚さに圧着させることができ、引込部の密封を簡単、容易に行うことができる。
【0015】
又、キャビンフロア8の下側面に遮音マット5を敷設する形態では、油圧、伝動機構等で発生する騒音対応はもちろんのこと、キャビンフロア8からの進入するエンジンの振動音波を反射させることによって、キャビン3ルームの騒音を低減することができる。又、遮音マット5の形状は矩形状、又は円形状形態等を問わず、その必要とするスペースや形状等に応じた形態、厚さ等に設定することができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明は、遮音マット5が弾性を有した密封材から形成されていて、この内部に空気の音速とは異なる音速の気体を封入したものであるから、キャビン3の内、外側からの騒音が侵入しようとしても、音波の進入屈折率を大きくして全反射効果により、この遮音マット5によって効果的に吸収されて、キャビン3ルーム内の防音性を高く維持することができる。特に、遮音マット5には空気とは異なる音速の気体を封入して、音波周波数の異なる騒音に対して侵入音波の減衰、低減作用を有効に維持することができる。又、この遮音マット5を敷設する構成として、弾性を有するシール膜4によって押圧しキャビン3の取付面に対して圧着させるものであるから、これによって前記音波侵入減衰、低減作用を有効に発揮させることができ、遮音マット5の敷設を簡単、容易に行うことができる。
【0017】
しかも、キャビン3の内側面や、外側面は、平面形態だけでなく、煩雑な凹凸曲面形態であることが多く、激しい振動等を常に受けるものであるが、薄層の遮音マット5の弾性変形によって、キャビン3構成部材面に対する押圧固定が行われ易く、外観形態を簡潔化して騒音低減の効果を発揮することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、音速を異にする複数枚の遮音マット5を重合させてキャビン3の構成部材面に敷設するものであるから、周波数域の異なる騒音を幅広く吸収して低減することができ、薄い形態の音マット5を重合させた状態にして、外側からシール膜4で押圧して、キャビン3の構成部材面に敷設することによって構成を簡潔化することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、トラクタキャビン3のキャビンルーム51にあっては、騒音伝播侵入を受け易いエンジンルーム7との間を仕切るダッシュボード6部と、油圧、伝動機構等を配置して騒音の発生し易いキャビンフロア8と等があるが、これらの箇所は主にキャビンルーム7の外側から騒音が伝播侵入するため、このダッシュボード6では、エンジンルーム7側の前側面に遮音マット5を敷設し、又、キャビンフロア8では、下側面に遮音マット5を敷設して、これら外部からの騒音波の侵入を受けて騒音の反射促進効果や減衰効果を発揮させて、キャビンルーム内部への騒音伝播侵入を有効に軽減することができる。又、これらエンジンルーム7側からの振動騒音の周波数と、キャビンフロア8下面側からの騒音の周波数とでは、相異することが多いが、前記のようにこれらの振動騒音を受ける箇所に応じて、音速を異にする気体を封入の複数枚の遮音マット5を組合せ重合させて敷設することにより、騒音低減効果を維持させることができ、これらのダッシュボード6や、キャビンフロア8等の厚さや形態の制限を受け易い箇所において、薄く、軽量の遮音マット5の敷設により簡潔で、安価に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】トラクタキャビンの側面図。
【図2】そのキャビンを取付支持するダンパ部の側断面図。
【図3】そのキャビンフロア部の平面図。
【図4】そのダッシュボードの斜視図。
【図5】一枚の遮音マット(イ)、二枚の遮音マット(ロ)をキャビンフロアの下側面に敷設した取付例を示す側断面図。
【図6】一枚の遮音マット(イ)、二枚の遮音マット(ロ)をダッシュボードの前側面に敷設した取付例を示す平断面図。
【図7】一枚の遮音マット(イ)、二枚の遮音マット(ロ)をダッシュボードの前側面に敷設して、この前側に吸音材と断熱材を設けた取付例を示す平断面図。
【図8】キャビンフロアの下側面に遮音マットを敷設した取付例を示す側断面図。
【図9】粉粒体吸音機構を取付けたキャビンフロアの平面図(イ)と、この一部の側断面図(ロ)。
【図10】その粉粒体吸音機構の形態例(イ)、(ロ)を示す側断面図。
【図11】キャビンルーム内のフェンダ部の正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面に基づいて、車体1の後部のリフトアーム26の上下動によって昇降される昇降リンク機構28の後端に、ロータリ耕耘装置25等の作業機を装着して作業することができるが、このトラクタ車体1にはキャビン3を搭載する。この車体1は、前部にエンジン10を連結するクラッチハウジングや、この後側にミッションケース11を一体的に連結して構成され、このミッションケース11の後端部には左右両側方へ張出すリヤアクスルハウジングを有して、この車軸57の両端に後輪32を軸装する。又、クラッチハウジングの前方にはフロントブラケットを設けて、上側に前記エンジン10を搭載し、下部にフロントアクスルハウジング、及びこの両端の車軸に前輪31を軸装して、ダッシュボード6上のステアリングハンドル30によって操向操作することができる。このエンジン10は、上側をボンネット9で覆われ、前側をフロントマスクで覆う。
【0022】
このような車体1に対してキャビン3を搭載する。このキャビン3は、前記後輪32の前上部はフェンダ22を有し、左右のフェンダ22間にバケット状のシートフロア24を形成し、このシートフロア24上に運転シート12を搭載している。このシートフロア24の前端とダッシュボード6の下端部との間には、運転者が乗降するステップフロア23を形成する。又、左右前後の四隅部にフロントピラー13、リヤピラー14を有し、これらの各ピラー13、14の上端部間には囲桁状のルーフフレーム15に連結し、又、下端部は、前記フェンダ22や、ステップフロア23、及びシートフロア24の後端面等に沿って形成されるキャビンフレーム17に連結して、キャビンフレームの主体を構成する。前記ルーフフレーム15の上側にはルーフボード16を設け、左右のフロントピラー13間にはフロントガラス18を設け、左右のリヤピラー14間にリヤガラス21を設け、左右両側の各フロントピラー13、リヤピラー14間には、このリヤピラー14をドアピラーとして開閉回動するドアガラス20を設けて、キャビン3内から外周の視界を良好にしている。
【0023】
このようなキャビン3は、前記フロントピラー13や、リヤピラー14等の下端部の四隅部位置にキャビンブラケット34を設けて、このキャビンブラケット34を前記車体1側の支持ブラケット33に取付けて支持させる。この四隅部のキャビンブラケット34の取付形態(図2)は、防振ゴムからなる弾性防振体2を有した取付ブラケット35と、これら弾性体2及び取付ブラケット35の中心部に形成する取付ボルト37の挿通しうるボルトカラー等を有し、この弾性体2及び取付ブラケット35を、車体1側の支持ブラケット33と、キャビン3側のキャビンブラケット34との間に介在させて、支持するように取付ける。このキャビンブラケット34と、弾性体2等の中心部のカラーと、この下端部に重合する座金との間にわたって取付ボルト37を挿通して、ナット38で締付ける。又、前記取付ブラケット35は取付ボルトで支持ブラケット33に対して取付ける。
【0024】
前記のようにして車体1に対して着脱するキャビン3は、前記フェンダ22や、シートフロア24、運転シート12、及びステップフロア23等の底部構成部分を、このキャビンフレームを構成するフロントピラー13や、リヤピラー14等と一体的に構成する形態としている。
【0025】
ここにおいて、この防音装置は、車体1に対して防振体2を介在させて支持し取付けるキャビン3の室内、又は室外構成部材の騒音侵入を受けやすい箇所の騒音侵入面に、空気の音速とは異なる音速の気体を弾性を有する密封材により密封した形態の遮音マット5を敷設する、又は、この遮音マット5を弾性を有するシール膜4で騒音侵入面に押圧して敷設する形態とする。
【0026】
この遮音マット5を敷設した側面に騒音が当ると、この遮音マット5内の密封気体Aによって所定の周波数の音波が吸収減衰されて、キャビン3の室内への浸入が阻止されたり、室内での騒音伝播が低減される。従って、この遮音マット5内に封入する気体としては、トラクタ作業機の用途や、仕様等に応じて、騒音周波数を吸収減衰するために有効な音速を有する気体特性として、安定した使用を可能な気体A、Bとして、例えば、ヘリュウムや、二酸化炭素等を使用することができる。
【0027】
前記空気Eを密封する遮音マット5Eの伝播音速を標準として、これにより高速の音速を有する気体Aとしては、ヘリュウム(音速97m/sec)が不活性で安定している。単に空気を封入したものに比較して、特にスネルの法則により侵入騒音の遮音マット5面に対する侵入角θをもって斜めから入射してくる音波の屈折率が大きくなり、より小さい角度で侵入しても全反射することになる。又、空気Eよりも低速の音速を有する気体Bとしては、不活性で安定したものとして2酸化炭素(高速は260m/sec)を使用し、この空気Eよりも音速の遅い気体Bを封入することで、遮蔽音手段のもつ共振周波数が低くなり、通常空気Eでは効果の薄い周波数域であっても、共振による侵入音減衰、低減作用を行わせて騒音低減効果を発揮する。
【0028】
又、前記遮音マット5を敷設する構成は、キャビンを構成する部材に対して押圧固定させるように、圧着部材で構成部材面に押圧して、この圧着部材をキャビン構成部材の端部に締結する。しかも、この形態では、キャビン構成部材が曲面形状であっても遮音を適する気体厚さにして、空気Eと異なる気体A、又はBを封入した遮音マット5を変形させて、所望の気体を封入して効果的な騒音低減を達成することができる。
【0029】
又、前記遮音マット5は、音速を異にする複数の気体A、B、又は空気Eを密封した遮音マット5A、5B、又は5Eを重合した形態とする。
前記のようにキャビン3の室内側面、又は室外側面に敷設する遮音マット5内には音速伝播の異なる気体Aを密封した遮音マット5Aと、気体Bを密封した遮音マット5B、又は、空気Eを密封した遮音マット5Eを、二種、又は三種重合接着して敷設し、又は、これら重合部の外周部を、樹脂材や接着剤等からなる弾性を有したシール膜4を圧着させて被覆する形態としてキャビン側面に一体的に敷設する。
【0030】
前記のように空気Eと相異なる音速の気体Aとして、表面側の遮音マット5Aに前記高速の音速を有するヘリウムを封入することで、侵入角θをもって斜めから入射してくる音波の侵入屈折率が大きくなり、より小さい角度で侵入しても全反射することになる。しかしながら、音速の速い気体に侵入した高周波数域の騒音に対しては騒音低減効果はないので、内層側の遮音マット5Bに空気より音速の遅い気体Bを封入しておくことで、高周波数域の騒音を遮音することができる。即ち、空気Eより低音速の気体Bを封入することで、遮蔽手段の持共振周波数が低くなり、空気Eでは効果の薄い周波数域でも、共振による侵入遮蔽、低減作用を行わせることができ騒音低減効果を発揮できる。
【0031】
又、反対に表面側の遮音マット5Bに空気Eより低音速の気体Bを封入することで、単に空気Eを封入したものに比較して、まず中高周波数域の騒音に対して侵入音減衰の低減作用、騒音低減効果を発揮する。しかし、音速の遅い気体に侵入した低周波数域の騒音に対しては騒音低減効果はないので、内層側の遮音マット5Aに、高音速の気体Aを封入することで、上記の通り全反射効果により遮蔽効果をあげることができる。
【0032】
前記のように気体A、Bを、空気Eの音速とは異なる音速を有するものとして設定したが、いずれかの気体A、又はBに代えて、空気Eを封入した遮音マット5Eを使用して、二層間の音速の差異を持たすことで同様な効果をあげることができる。空気Eを封入した遮音マット5Eを使用する形態では、気体A、又はBを封入した遮音マット5A、又は5Bとを組み合わせて二重形態にすると遮音効果を高くすることができる。
【0033】
更には、前記遮音マット5は、ダッシュボード6のエンジンルーム7側の前側面に、又はキャビンフロア8の下側面に敷設する。
前記トラクタ車体1に防振体2を介して支持されるキャビン3は、比較的簡易な制振形態であって低速走行車両としてもキャビン3ルーム内の騒音は、エンジンルーム7からの空気振動伝播による騒音も大きく、特にダッシュボード6部での遮音性向上のために、前記のような気体層を密封した遮音マット5を比較的薄くして、狭い遮音空間に介在させることによって、騒音低減効果を高く維持する。 しかも、気体封入の遮音マット5のエンジンルーム7側面に吸音材9や、断勢材10などを設けることによって、このエンジンルーム7側からキャビン3ルーム内側へ進入する進入音波だけではなく、反射音波の吸音作用により一層の遮音効果を高めることができる。
【0034】
又、ダッシュボード6を設けるダッシュ部には、操作ワイヤーヤ、ハーネス等のキャビン3ルーム内への引込孔等の間隙部を形成することが多いが、前記弾性体からなる遮音マット5を気体を封入した状態で環状にする等の変形して、外周部からシール膜4で押圧して所望の厚さに圧着させることができ、引込部の密封を簡単、容易に行うことができる。
【0035】
又、キャビンフロア8の下側面に遮音マット5を敷設する形態では、油圧、伝動機構等で発生する騒音対応はもちろんのこと、キャビンフロア8からの進入するエンジンの振動音波を反射させることによって、キャビン3ルームの騒音を低減することができる。又、遮音マット5の形状は矩形状、又は円形状形態等を問わず、その必要とするスペースや形状等に応じた形態、厚さ等に設定することができる。
【0036】
前記キャビン3のフロア8部は、ステップフロア23、シートフロア24、この左右両側部のフェンダ22、及び前側中央部のダッシュボード6等を一体的に構成しているが、このステップフロア23の前部下側と、フェンダ22の後端下側との四箇所において、車体11から突出の支持ブラケット33に、防振体2を介在させて、キャビンフレーム側から突出のキャビンブラケット34を支持させている。この支持部は、支持ブラケット33に嵌合支持する受座35と、キャビンブラケット34の受座36との間に、ゴム材等からなる防振体2を介在させて、これら取付ブラケット35、受座36、及び防振体2との間にわたって、上下方向のボルト37を挿通してナット38止めし、揺動域を制限する形態としている。前記ドアガラス20の開閉されるドア口の外側下側にはステップ39を設けている。
【0037】
図5、図6に基づいて、遮音マット5を一層形態とした場合(イ)と、二層形態とした場合(ロ)を示す。前記音速を異にした気体A、及び気体Bを密封、封入した遮音マット5A、又は5Aと5Bを構成部材50に重合させて、キャビン3の構成部材50の表面に敷設したもので、この構成部材50がキャビンフロア8である場合(図5)は、この上側がキャビンルーム51側であり、この下側面の走行床面側52側に、前記遮音マット5A、5Bを敷設する。気体Aは、例えば、ヘリウム(音速=970m/sec)とし、気体Bは、二酸化炭素(音速=260m/sec)として、合成樹脂、又はゴム材等からなる密封材に封入して、遮音マット5A、5Bを成形する。又、空気Eを封入した遮音マット5Eを同様形態に構成することもできる。これら各遮音マット5A、5Bの重合部が一体的に成形された形態であるときは、遮音マット5B、又は5Aの上面を、キャビンフロア8の下面に接着剤53によって接着させる。この下層側の遮音マット5Aの下面には、所定の入射角度θに侵入騒音Fが作用するが、このときの音波の侵入屈折率が大きくなり、より小さい角度で侵入しても全反射するになる。
【0038】
又、前記遮音マット5をダッシュボード6に敷設する場合(図6)は、このダッシュボード6のエンジンルーム7の側の面に敷設する。この場合、遮音マット5Bの後面をダッシュボード6に接着しないで、ビニールシートの如きシール膜4を遮音マト5A、5Bの重合部全体を被覆するようにして押圧させて、このシール膜4の周縁部49を、ダッシュボード6の裏面に溶着等により一体的に接着させて、重合状態の遮音マット5A、5Bを敷設保持させる。又、このような遮音マット5の敷設形態で、前記のように遮音マット5Aと5Bを一体的に成形したり、遮音マット5Bのダッシュボード6に対する接着面を図5のように接着剤53で接着させる形態とすることも可能である。この場合は、シール膜4で表面が気密状に被覆されるため、遮音シート5の表面が破損し難くする。
【0039】
前記のように、防振体2によって支持された簡易制振方式の比較的低速走行車両のキャビンルーム51内の騒音は、このエンジンルーム7のエンジン10からの空気伝播騒音も大きく影響しているため、このダッシュボード6部での遮音性向上によって、騒音低減の効果を大きく受ける。しかも、この遮音マット5は比較的薄い厚さに形成して、異なる音速の気体A、Bを封入した形態として、狭い遮音空間であっても騒音低減効果を高く維持するものであるから、軽量でコンパクトな構成として、作業機性能を落さないで、キャビンルーム51の快適な操作環境を維持することができる。
【0040】
前記のように遮音マット5をダッシュボード6の前側に敷設する場合に、この遮音マット5の前面側(エンジンルーム51側)に、吸音材54、及び断勢材55などを重合させて設けることも可能である。遮断音マット5や、吸音材54、断熱材55等は、各単一枚毎重合させてもよく、図7(イ)のように、遮音マット5を一枚として、吸音材54と断熱材55を各一枚毎重合させたり、又、図7(ロ)のように、音速の異なる気体A、Bを封入した二枚重ねの遮音マット5A、5Bの前側面に吸音材54、及び断熱材55を重合させて設けることもできる。このように遮音マット5のエンジンルーム7側に吸音材54を設けることによって、侵入音波だけでなく、反射音波の吸音作用により騒音低減効果を高めることができる。又、これと同時に断熱材55を設けることによって、エンジンルーム51からの高熱を遮断して、この遮音マット5による遮音性能を安定させて、騒音低減を維持することができる。
【0041】
前記キャビンフロア8の底下面に遮音マット5を敷設する場合は、図8のようにステップフロア23やシートフロア24の下側に適宜広さに敷設する。これらの箇所は、クラッチハウジングや、ミッションケース11、後輪軸57ハウジング及び油圧ケース56等が接近して配置されるため、これら油圧伝導機構等から発生する騒音はもとより、前方のエンジンルーム7からのエンジン10振動音波等が伝播されているが、これらの騒音や、振動音波等が上側の遮音マット5によって反射されて、キャビンルーム51内への侵入を防止される。
【0042】
次に、主として図9、図10に基づいて、粉粒体共鳴吸音機構60を、運転者足下の適当な位置に略左右対称に設置して、キャビンフロア8から侵入してくる振動、騒音エネルギを主として低周波域エネルギに対し、樹脂材で形成した箱形状のケース62内の閉空間部内の粉粒体Gの振動エネルギに置換することによって、キャビン3の運転シート12に侵入してくる騒音の特に低周波域を低減することができる。
【0043】
図示の粉粒体吸音機構60は、キャビンフロア8底部で左、右位置に二分割して配置したが、これに限定されるものではない。又、樹脂材で空気Eとともに粉粒体Gを封入するので、運転者の足元に「ふあふあ」感を受ける場合があるが、粉粒体吸音機構60とゴム製フロアマット61の間に、遮音材63としての剛板製、或は樹脂製、又は合成製の薄板材を設置することで、前記「ふあふあ」感の解消とともに、粉粒体吸音機構60から漏出してくる騒音を軽減する。粉粒体吸音機構60内へ侵入する騒音は、音波振動であり、そのエネルギにより封入している多数箇の粉粒体Gが振動し、互に摩擦によりエネルギを消費することにより騒音が減衰する。又、各キャビンフロア8と遮音材63との間に介在して配置される粉粒体吸音機構60の横側間隔部には吸音材54を敷設している。
【0044】
前記ケース62を、図10の(イ)、(ロ)のように小さく仕切った小室に形成して、マット形態に広く連接させることにより、粉粒体吸音機構60を構成するともできる。各小室に形成された密閉室内に空気Eや、粉粒体Gを収容する。前記車両が走行しても、封入された粉粒体Gは個室化しているため、大きく偏ることなく、騒音低減効果が安定する。又、広いケース62に小室65を形成する隔壁(仕切壁)66を形成しておき、各小室に粉粒体Gを収容して閉鎖する形態とすることもできる。
【0045】
又、この図例(ロ)では、各小室65の底部67を、半球面状に、又は車両進行方向に沿って円弧状曲面に形成して、車両が走行、或は急停止しても、粉粒体Gが大きく偏らないようにして、キャビンフロア8等からの振動、騒音エネルギを吸収し易くするものである。
【0046】
次に、主として図11に基づいて、運転シート12とフェンダ22との間には、キャビンフロア8のシートフロア23部に一体にガイドケース43を構成し、昇降レバー44等の操作レバーの操作を行わせる。この昇降レバー44は、油圧弁等を内装するバルブケース45を有し、このベルブケース45部が、ゴム板等の防振座46を介在させて、フェンダ22の内側面にボルト47締めによって取付けられる。このように昇降レバー44は、キャビン3の構成部材で支持されているが、作業機(耕耘装置27)の昇降操作位置により特定の振動が伝達されることがあり、これに起因してキャビンルーム7内の左、右片側の騒音値が高くなることがあるが、前記のようにキャビンフロア8のフロアマット61部に粉粒体吸音機構60を装着することにより、特定の振動に起因する周波数帯の片側耳元部の騒音を低減することができる。
【0047】
キャビンルーム7内の音圧分布は複雑であり、キャビン3容量によっては、左、右のいずれの吸音機構60の吸音周波数特性を大とするかは、状況によって異なるが、左、右の共鳴吸音機構60の共鳴周波数を変更することによって、運転者の耳元騒音の左、右バランスをとることで、平均的に騒音を低減する。
【0048】
前記図4のようにキャビン3を搭載する車体1の前部に構成するエンジンルーム7には、エンジン10の前側にラジエータ40を配置し、後部右側にマフラー41から連通されるテールパイプ42を配置し、キャビン3の一側のフロントピラー13の前側部に接近させて立設し、運転視界を邪魔し難い形態としている。このようなテールパイプ42の配置形態においては、このテールパイプ42に遠い側の左耳騒音が高くなることがあったが、キャビンフロア8のフロアマット61に左右に粉粒体吸音機構60を設けて、左右の共鳴吸音機構60の共鳴周波数を変更することによって、マフラーテールパイプ42側の防振支持弾性体2側の共鳴吸音機構60の吸音特性を反対側の共鳴吸音機構60よりも低周波数側或は高周波数に設定することによって、右耳騒音特有の周波数騒音を低減することができ、快適な室内とすることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 車体
2 防振体
3 キャビン
4 シール膜
5 遮音マット、
5A ヘリゥム封入の遮音マット
5B 二酸化炭素封入の遮音マット
5C 空気封入の遮音マット
6 ダッシュボード
7 エンジンルーム
8 キャビンフロア
9 ボンネット
10 運転シート
23 ステップフロア
24 シートフロア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体(1)に対して防振体(2)を介在させて支持し取付けるキャビン(3)の室内、又は室外構成の騒音侵入面に、空気の音速とは異なる音速の気体を弾性を有する密封材により密封した形態の遮音マット(5)を敷設する、又は、この遮音マット(5)を弾性を有するシール膜(4)で騒音侵入面に押圧して敷設することを特徴とするトラクタキャビンの防音装置。
【請求項2】
前記遮音マット(5)は、音速を異にする複数の気体(A)、(B)、又は空気(E)を密封した遮音マット(5A)、(5B)、又は(5E)を重合した形態として敷設することを特徴とする請求項1に記載のトラクタキャビンの防音装置。
【請求項3】
前記遮音マット(5)は、ダッシュボード(6)のエンジンルーム(7)側の前側面に、又は、キャビンフロア(8)の下側面に敷設したことを特徴とする請求項1、又は2に記載のトラクタキャビンの防音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−126346(P2012−126346A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281893(P2010−281893)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】