トランスバーサルSAWフィルタ
【課題】 トランスバーサルSAWフィルタの帯域幅を拡大すると共に減衰傾度を急峻にする手段を得る。
【解決手段】 トランスバーサルSAWフィルタのIDT電極の少なくとも1つを電極間引き法を用いてメインローブ、第1サイドローブ及び第2サイドローブで形成し、メインローブの基本区間数をL、メインローブを置換する逆方向SPUDTの区間数をN1とするとき、0.08L<N1<0.6Lの範囲内に選ぶ。
【解決手段】 トランスバーサルSAWフィルタのIDT電極の少なくとも1つを電極間引き法を用いてメインローブ、第1サイドローブ及び第2サイドローブで形成し、メインローブの基本区間数をL、メインローブを置換する逆方向SPUDTの区間数をN1とするとき、0.08L<N1<0.6Lの範囲内に選ぶ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はトランスバーサルSAWフィルタに関し、特に帯域幅を拡大すると共に減衰傾度を急峻にしたトランスバーサルSAWフィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、SAWデバイスは通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから特に携帯電話等に多く用いられている。上記SAWデバイスの一つにトランスバーサルSAWフィルタがあり、図16は正規型電極を用いた例を示す概略図構成図であって、圧電基板11の主面上に表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極12と、所定の間隔を空けてIDT電極13を配置して構成する。IDT電極12、13はそれぞれ互いに間挿し合う複数の電極指を有する一対のくし形電極から構成し、IDT電極12の一方のくし形電極は入力端子IN_1に接続すると共に、他方のくし形電極は入力端子IN_2に接続する。さらに、IDT電極13の一方のくし形電極は出力端子OUT_1に接続すると共に、他方のくし形電極は出力端子OUT_2に接続する。
【0003】正規型IDT電極のトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性は、周知のように通過帯域幅B=0.88/N(Nは電極指対数)であり、その中心周波数を頂点とする丸みを帯びた特性となる。また、サイドローブの抑圧レベルは26dBとなる。正規型IDT電極特有の丸みのある通過域特性をより平坦にする手法として、IDT電極12、13のいずれかに重み付けする方法があり、表面波の励振強度が伝搬方向の位置の関数となるように重み付けを行う手法である。重み付け法は大別して、IDT電極の交差長Wを変化させて重み付けをする方法(アポダイズ法)と、交差長Wは一定とし励振強度を変えることによる重み付け法の2つの手法がある。アポダイズ法の特徴は比較的容易に正確な重み付けができるが、交差長Wの小さな部分で回折損が大きくなり、挿入損失が劣化するという欠点がある。一方、励振強度を変える手法の1つに電極間引き法があり、アポダイズ法の長所、短所と逆の関係になる。
【0004】ここで、IDT電極の重み付け法であるアポダイズ法と電極間引き法について簡単に説明する。アポダイズ法は、フィルタの伝送特性をフーリエ逆変換したときフーリエ係数からIDT電極の交差長を決める重み付け方法であり、メインローブ、第1サイドローブ、第2サイドローブ、・・等から構成される。最近では、さらに設計精度を向上させたRemez Exchangeアルゴリズムを用いて設計するようになり、ここでは第2サイドローブまでで打ち切る手法を取る。図18(a)は上記手法に基づき交差長に包絡線状の重み付けを施したIDT電極の概略構成図である。
【0005】一方、電極間引き法は、上記の手法で設計されたIDT電極のメインローブの交差長の最長のものを基準化し、周知の手順によって電極指の在るなしを決定するものであって、図18(b)は同図(a)と等価な特性を間引き電極により形成したものである。同図(a)において包絡線の値が大きな位置では同図(b)における電極指の配列が密になり、同図(a)において包絡線の値が小さな位置では同図(b)における電極指の配列が粗になっている。しかし実際のIDT電極構成においては例えば、電極指が在る位置には励振可能なIDT電極を配設し、電極指が無い位置には、励振作用のない電極を配設することになる。
【0006】ここで励振可能なIDT電極と励振作用のないIDT電極について、数例を挙げて説明すると、図1717(a)に示したIDT電極基本区間は3/8λ幅の電極指と、2つの1/8λ幅の電極指とから構成された一方向性トランスデューサ(EWC-SPUDT)であり、図中矢印方向(順方向)への反射作用を有する。尚、λは1波長に相当し、基本区間とは1波長分のIDT電極構成のことである。同図(b)に示す電極構成の基本区間は励振作用はあるが、一方向反射は有しない。同図(c)に示す構成の基本区間電極は励振作用はないが、図の矢印方向への反射作用を有する。同図(d)は1/8λの電極が同じ極性の電極にのみ接続された構造であり、励振、反射の作用とも有しない。同図(e)の構成の基本区間電極は(a)の電極と対称であり、励振作用と図中矢印方向(逆方向)への一方向性を有する。また、同図(f)に示す構成の 基本区間電極は励振作用は有しないが、矢印方向への一方向性(逆方向)の反射作用を有する。図17(a)、(c)の電極構成を順方向SPUDT、同図(e)、(f)の電極構成を逆方向SPUDTと称することにする。
【0007】以下、図18(b)を上記基本区間を用いて構成したものについて説明する。尚、図18(a)のIDT電極は中心に対して対称であるので、中心より左半分のみを説明すれば十分である。図18(b)に示すIDT電極のメインローブには図17の基本区間a、b、c、dが配置され、それぞれ12、27、2、32個の基本区間から構成されている。更に、第1サイドローブは図17の基本区間b、dがそれぞれ13、57個配置し、第2サイドローブは基本区間b、dがそれそれ2、1個から構成されている。図18(b)と正規型IDT電極126対からなるトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性は図19に示すような濾波特性となり、Aは通過帯域の拡大図(右端の縦軸)、Bはフィルタ全体の伝送特性である。
【0008】トランスバーサルSAWフィルタを例えば図17示した6種類の基本区間を用いて設計するに際し、現在のところ完全な設計アルゴリズムは確立されていない。例えば、励振用IDT電極の基本区間の種類とその区間数を経験値から選択し、シミュレーションにより確認しながら所望の伝送特性が得られるまで、カットアンドトライを繰り返していた。
【0009】一方、上記とは別の手法によってトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性を改善したものがいくつか提案されている。例えば米国特許5,703,427号にはDART(Distributed Acoustic Reflection Transducer)電極を用いたトランスバーサルSAWフィルタが開示されている。DART電極とは一方向の励振可能なIDT電極であって、この発明によるトランスバーサルSAWフィルタは、図20に示すように1個のIDT電極の中に反射方向の互いに異なるIDT電極指を3つのグループに分けて配置したもので、順方向+R(前記米国特許では図中左方向を順方向となっている)に反射方向を持つDART型IDTの基本区間を50λ、逆方向−R(図中右方向)に反射方向を持つDART型IDTの基本区間を40λ、更に順方向のDART型IDT基本区間を20λ配置したIDT電極を用いて、トランスバーサルSAWフィルタを構成した例とその伝送特性が開示されている。このフィルタはこれまでに報告されている電極間引き法を用いたフィルタに比べ挿入損失が7.4dBから6.5dBに減少すること、群遅延時間が200nsから100nsに半減すること、第2のサイドローブの減衰が大きくなること、さらに通過帯域が広がることを特徴とするものである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のアポダイズ法あるいは電極間引き法を用いたトランスバーサルSAWフィルタにおいては、CDMA方式のような新しいディジタル携帯電話のIFフィルタに用いるには帯域幅が不足し、減衰傾度が不充分であるという問題があった。また、上記の米国特許発明においては順方向反射のIDT基本区間(順方向SPUDT)と逆方向反射のIDT基本区間(逆方向SPUDT)をどのように配置すれば、通過帯域幅が広くなるかが明らかにされておらず、実施例に示された+R=50λ、−R=40λ、+R=20λ以外の条件にてフィルタを構成するためには、カットアンドトライを繰り返すしかなく、実質的にはこの手法により広帯域なフィルタを実現することはできないという問題があった。本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、通過帯域幅を最大にすると共に減衰傾度を急峻にしたトランスバーサルSAWフィルタを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明に係るトランスバーサルSAWフィルタの請求項1記載の発明は、圧電基板の主面上に表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極を配置して構成するトランスバーサルSAWフィルタにおいて、前記IDT電極の少なくとも1つに電極間引き法を用いてメインローブ、第1サイドローブ及び第2サイドローブの重みづけを施すと共に前記メインローブの基本区間数をLとし、該メインローブを置換する逆方向SPUDTの区間数をN1とするとき、0.08L<N1<0.6Lとしたことを特徴とするトランスバーサルSAWフィルタである。請求項2記載の発明は、前記第1サイドローブに配置する順方向SPUDTの区間数N2としたとき、0<N2<N1としたことを特徴とする請求項1記載のトランスバーサルSAWフィルタである。請求項3記載の発明は、第2サイドローブを逆方向SPUDTで置換したことを特徴とする請求項1または2記載のトランスバーサルSAWフィルタである。
【0012】
【発明の実施の形態】以下本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。図1(a)は本発明に係るトランスバーサルSAWフィルタの電極構成を示す平面図であって、圧電基板1の主面上に表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極2と所定の間隔を空けてIDT電極3を配置する。IDT電極12の一方のくし形電極は入力端子IN_1に接続すると共に、他方のくし形電極は入力端子IN_2に接続する。さらに、IDT電極3の一方のくし形電極は出力端子OUT_1に接続すると共に、他方のくし形電極は出力端子OUT_2に接続する。IDT電極2はトランスバーサルSAWフィルタの所望の周波数特性を得るべく、メインローブ、第1サイドローブ、第2サイドローブの重みづけを電極間引き法を用いて施したものである。また、図1(a)ではIDT電極3に126対からなる正規型IDTを用いている。図1(b)は本発明に係るIDT電極2の詳細な構成例を示したもので、中心に対して対称であるので左半分のみを示す。同図(a)の図中左端から順番に位置を示す番号を付け、その位置に配置するIDT電極の基本区間(IDTパターン)の種類と区間数を示した図である。IDTパターンのa〜fは図17(a)〜(f)に示したパターンに対応する。ここで70〜28までがメインローブ、27から3までが第1サイドローブ、2〜1までが第2サイドローブであって、メインローブの区間数73に対して逆方向SPUDTであるパターン(f)の区間数35と、第1サイドローブに区間数23の順方向SPUDTと、第2サイドローブに区間数3の逆方向SPUDTを配置している。このように構成したことによって図14に示すような帯域幅1.23MHz以上と広帯域で減衰量の急峻なフィルタを実現することができる。後述するように種々のシミュレーション、実験によりメインローブの区間数をLとし、メインローブに含まれる逆方向SPUDTの区間数をN1とするとき、0.08L<N1<0.6Lの範囲とすると広帯域且つ、減衰特性の急峻なフィルタを実現することが判った。
【0013】本発明に至った経緯を順を追って説明する。また、本発明に係るシミュレーションは電極間引き法を用いて行ったものであるが、内容を分かりやすくするため等価なアポダイズ法の包絡線を対比しながら説明する。始めに図18(b)に示した電極間引き法によるIDT電極を従来の手法により逆方向SPUDTを含まない基本区間を用いて構成する。次に、図中左端(第2サイドローブ)より順に基本区間数4個毎に図17(e)の逆方向SPUDTで置換し、その伝送特性をシミュレーションより求めた。図2は置換した位置とその時の伝送特性の5dB帯域幅と、33dB帯域幅の帯域増加率B5、B33を示したものであり、置換する前のIDT電極構成で得られた5dB帯域幅と、33dB帯域幅を基準値として、置換後の値と基準値との差を基準値で除したものである。また、位置は図18(b)の左端を0としている。なお、図2には重み付けの曲線α(図18(a)の包絡線)も合わせて示している。図2のB5から明らかなように、メインローブと第2サイドローブにおいては逆方向SPUDTで置換することにより5dB帯域幅が増加するが、第1サイドローブでは逆に帯域幅が狭まることが分かる。更に図18(b)のIDT電極構成において、電極の左端から順に逆方向SPUDTの基本区間20個で置換していき、そのときのトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性を計算した。5dB、33dBにおける帯域幅増加率B5、B33を示したものが図3である。図2と同様に第2サイドローブの電極指を置換した場合と、メインローブの電極指を置換した場合にB5が増大することが分かる。また、B33は比較的帯域幅の変化が少ないことが理解できる。逆方向SPUDTの基本区間4個で置換した場合は、5dB帯域幅増加率B5が最大で2%程度であったのに対し、基本区間20個で置換した場合は、最大でほぼ8%に達することが分かった。
【0014】以上の結果を踏まえて、メインローブ、第1サイドローブ、第2サイドローブに分けて、更に詳細に検討する。上述の結果から最も広帯域化に寄与するのはメインローブと推測されるので、まずメインローブについて検討する。図18(b)に示す電極構成のメインローブの図中左端から所定の区間数を逆方向SPUDTで置換した場合、置換する基本区間数とトランスバーサルSAWフィルタの5dB、33dB帯域幅増加率B5、B33をシミュレーションで求めた。図4はその結果を示す図で、5dB帯域幅増加率B5は、置換した基本区間数にほぼ比例して増加するが、B33は一旦減少して区間数30をピークとして増加することが分かった。図5は、図18(b)の電極構成でメインローブの図中左端から中央方向に向かって30区間を、逆方向SPUDTで置換した場合の伝送特性であって、Aは通過帯域の拡大図で右の縦軸に減衰量を示し、Bは全体の減衰特性であり、左の縦軸に示してある。同図から明らかなように帯域幅が広く、急峻な減衰特性が得られるものの通過帯域のほぼ中央に約2dB程度の大きなリップルが生じる。図4のPは置換基本区間数に対するリップルの大きさを示したものであって置換した区間数が増えるほどリップルも増大することがわかる。そこで、このリップルを抑圧すべく今度は第1サイドローブに注目した。図6は、逆方向SPUDTを30区間だけ置換したIDT電極において、第1サイドローブの図中右端から所定の区間数を順方向SPUDTで置換した場合、基本区間数の増加とリップルP、5dB、33dB帯域幅増加率B5、B33との関係を示した図である。
【0015】図5から明らかなように、メインローブの電極指を30区間の逆方向SPUDTで置換したIDT電極ではリップルPが約2dBあり、そのピーク(極大値)の間隔は約660kHzであった。これに対し第1サイドローブの右端から置換する順方向SPUDTの基本区間を順次増加すると前記リップルの間に新たなリップルが発生し、そのピーク間隔は250kHz〜300kHzとなった。この通過帯域中央に発生した新たなリップルが前記外側に生じたリップルの凹みを補正し、通過帯域を平坦化するように作用することが分かった。例えば、第1サイドローブの右端より20区間を順方向SPUDTで置換した場合には伝送特性が図7のようになり、リップルはほぼ0.2dBと大幅に小さくすることができた。このとき順方向SPUDTによるリップル間隔は約240kHzであり、前記逆方向SPUDTによるリップル間隔約660kHzの内側にあり、この2つのリップルが互いに打ち消すように重なりあい、結果としてフィルタのリップルが小さくなるように作用する。即ち、リップルPの極大値の間隔は210kHz、240kHz、210kHzとなり、ほぼ等間隔に極大点が配値されるようになる。図6から明らかなように、第1サイドローブで置換する順方向SPUDTの基本区間数を増加すると、除々にリップルが減少し、基本区間が20個となったところで極小となり、さらに増加させるとフィルタのリップルは増大していくことが確認された。
【0016】さらに、メインローブの左端から中央に連続して配置する逆方向SPUDTの基本区間数と、第1サイドローブの右端から左端にかけて配置する順方向SPUDTの基本区間数とを種々組み合わせて、トランスバーサルSAWフィルタの伝送特性をシミュレーションより求めた。図8はその結果の一部をまとめたものであって、縦軸には第1サイドローブで置換する順方向SPUDTの区間数と5dB帯域幅増加率(%)を併記し、右端の縦軸にはリップル(dB)を表示している。この図に示すように、フィルタのリップルを小さく維持するには、第1サイドローブにおける順方向SPUDTの基本区間数N2は、メインローブに配置する逆方向SPUDTの基本区間数N1の60%〜70%とすべきであることが確かめられた。図9はメインローブにおいてメインローブ全体の基本区間数Lに対する逆方向SPUDTにて置換した基本区間数N1の割合とそのときのフィルタのリップルとの関係を示した図である。この図から明らかなように、メインローブに配設する逆方向SPUDTの基本区間数が多くなると、これによって発生するリップルの凹みが、第1サイドローブに配置する順方向SPUDTにより生ずる内側のリップルによって補正することがでないほど大きなものとなる。例えばメインローブ全体の基本区間数73のうち逆方向SPUDTの基本区間数を40とした場合、これにより生じるリップルの凹みを補正するために必要となる第1サイドローブの順方向SPUDTの基本区間数は26区間となるが、図9に示すようにリップルの補正限界を越えるためリップルを小さくすることができない。よって、リップルを1dBより低く抑えるためには上記の割合を60%以下とすべきであり、望ましくは45%以下に設定すべきであろう。
【0017】次に、図18(b)のIDT電極の第2サイドローブから第1サイドローブにわたって電極指を逆方向SPUDTで置換した場合を考える。図11は前記第2サイドローブの図中左端より逆方向SPUDTで置換する基本区間数を増加させたとき、リップルP、帯域幅増加率B5、B33の関係を示した図である。同図より通過帯域幅は最大で1%程度であるが増加することも確かめられた。また、図12は置換する逆方向SPUDTの基本区間数とこの逆方向SPUDTで生じるリップルのピークの周波数間隔との関係を示す図である。この図より第2サイドローブから第1サイドローブにかけて逆方向SPUDTを配置することにより、リップルのピーク間隔が300kHz〜400kHzの範囲で生ずることが分かった。第2サイドローブから第1サイドローブにかけて電極指を逆方向SPUDTで置換することにより生じたリップルは、メインローブの電極指を逆方向SPUDTで置換の際に生じるリップルの凹みを補正するために用いることが可能である。
【0018】以上の検討結果を総合すると、図13は図18(b)の電極構成のメインローブ左端から35区間を逆方向SPUDTに、第1サイドローブの右端から23区間を順方向SPUDTにそれぞれ置換した場合の伝送特性である。図14は上記に加え第2サイドローブの左端から3区間を逆方向SPUDTで置換した場合の伝送特性である。リップルがより平坦になっていることが分かる。
【0019】図14で示したシミュレーション結果を実験的に確かめるため、トランスバーサルSAWフィルタの試作を行った。図15は試作したフィルタの特性を示すものであって、同図(a)は通過帯域特性Aと群遅延時間τが、同図(b)には減衰特性を含む伝送特性が示されており、その中心周波数は111.85MHz、5dB帯域幅は1.23MHz、33dB帯域幅は1.8MHz以下、リップル0.2dB、挿入損失12.5dB、群遅延時間は0.6μsであった。同図から明らかなように試作したものにおいても、広帯域且つ急峻な減衰特性を有し、通過域のリップルの少ない平坦な特性が実現できることを確認した。
【0020】以上の説明では入力側のIDT電極に電極間引き法を用い、出力側のIDT電極に正規型を用いて、入力側のIDT電極に対して図17に示す種々の基本区間で置換した場合の諸特性について説明したが、本発明はこれのみに限定することなく出力側IDT電極に電極間引き法を用い、SPUDT電極等の一方向性電極で置換してもよい。
【0021】
【発明の効果】本発明は、以上説明したように構成したので、トランスバーサルSAWフィルタの通過帯域幅(5dB)を拡大すると共に減衰帯域幅(33dB)をほぼ維持する結果、減衰傾度を大幅に急峻にすることが可能となり、ディジタル携帯電話等で要求されている性能を実現可能としたという優れた効果を奏す。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)本発明に係るトランスバーサルSAWフィルタの電極構成を示す平面図、(b)IDT電極の詳細な構成を説明する図である。
【図2】入力側IDT電極を逆方向SPUDT4区間で置換するとき、その位置と5dB、33dB帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図3】入力側IDT電極を逆方向SPUDT20区間で置換するとき、その位置と5dB、33dB帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図4】入力側IDT電極を逆方向SPUDTで置換するとき、その置換区間数とリップルP、帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図5】入力側IDT電極を逆方向SPUDT30区間で置換した場合の伝送特性である。
【図6】第1サイドローブに順方向SPUDTで置換した場合、置換区間数とリップルP、帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図7】メインローブを逆方向SPUDT、第1サイドローブを順方向SPUDTで置換した場合の伝送特性を示す図である。
【図8】メインローブを逆方向SPUDT、第1サイドローブを順方向SPUDTで置換した場合、それぞれの区間数とリップルP、帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図9】メインローブで置換する逆方向SPUDTの基本区間数に対するメインローブの基本区間数の割合とリップルの関係を示す図である。
【図10】メインローブを逆方向SPUDT40区間、第1サイドローブを順方向SPUDT26区間で置換した場合の伝送特性である。
【図11】第2サイドローブを逆方向SPUDTで置換した場合のリップルP、帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図12】第2サイドローブを逆方向SPUDTで置換した場合、そお区間数と生ずるリップルのピーク間隔との関連を示す図である。
【図13】メインローブを逆方向SPUDT35区間、第1サイドローブを順方向SPUDT23区間で置換した場合の伝送特性である。
【図14】図13の諸定数に加え、第2サイドローブを逆方向SPUDT3区間で置換したときの伝送特性である。
【図15】試作したトランスバーサルSAWフィルタの(a)通過域特性、群遅延時間特性と、(b)は減衰特性である。
【図16】従来のトランスバーサルSAWフィルタの構成を示す平面図である。
【図17】(a)から(f)はIDT電極の基本区間(1λ)の構成を示す平面図である。
【図18】(a)アポダイズ法と(b)電極間引き法を説明する図である。
【図19】従来のトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性を示す図である。
【図20】米国特許5,703,427号の図10の構成を示す図である。
【符号の説明】
1・・ 圧電基板
2、3・・IDT電極
IN_1、IN_2・・入力端子
OUT_1、OUT_2・・出力端子
n・・IDTパターンが配置される位置
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はトランスバーサルSAWフィルタに関し、特に帯域幅を拡大すると共に減衰傾度を急峻にしたトランスバーサルSAWフィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、SAWデバイスは通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから特に携帯電話等に多く用いられている。上記SAWデバイスの一つにトランスバーサルSAWフィルタがあり、図16は正規型電極を用いた例を示す概略図構成図であって、圧電基板11の主面上に表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極12と、所定の間隔を空けてIDT電極13を配置して構成する。IDT電極12、13はそれぞれ互いに間挿し合う複数の電極指を有する一対のくし形電極から構成し、IDT電極12の一方のくし形電極は入力端子IN_1に接続すると共に、他方のくし形電極は入力端子IN_2に接続する。さらに、IDT電極13の一方のくし形電極は出力端子OUT_1に接続すると共に、他方のくし形電極は出力端子OUT_2に接続する。
【0003】正規型IDT電極のトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性は、周知のように通過帯域幅B=0.88/N(Nは電極指対数)であり、その中心周波数を頂点とする丸みを帯びた特性となる。また、サイドローブの抑圧レベルは26dBとなる。正規型IDT電極特有の丸みのある通過域特性をより平坦にする手法として、IDT電極12、13のいずれかに重み付けする方法があり、表面波の励振強度が伝搬方向の位置の関数となるように重み付けを行う手法である。重み付け法は大別して、IDT電極の交差長Wを変化させて重み付けをする方法(アポダイズ法)と、交差長Wは一定とし励振強度を変えることによる重み付け法の2つの手法がある。アポダイズ法の特徴は比較的容易に正確な重み付けができるが、交差長Wの小さな部分で回折損が大きくなり、挿入損失が劣化するという欠点がある。一方、励振強度を変える手法の1つに電極間引き法があり、アポダイズ法の長所、短所と逆の関係になる。
【0004】ここで、IDT電極の重み付け法であるアポダイズ法と電極間引き法について簡単に説明する。アポダイズ法は、フィルタの伝送特性をフーリエ逆変換したときフーリエ係数からIDT電極の交差長を決める重み付け方法であり、メインローブ、第1サイドローブ、第2サイドローブ、・・等から構成される。最近では、さらに設計精度を向上させたRemez Exchangeアルゴリズムを用いて設計するようになり、ここでは第2サイドローブまでで打ち切る手法を取る。図18(a)は上記手法に基づき交差長に包絡線状の重み付けを施したIDT電極の概略構成図である。
【0005】一方、電極間引き法は、上記の手法で設計されたIDT電極のメインローブの交差長の最長のものを基準化し、周知の手順によって電極指の在るなしを決定するものであって、図18(b)は同図(a)と等価な特性を間引き電極により形成したものである。同図(a)において包絡線の値が大きな位置では同図(b)における電極指の配列が密になり、同図(a)において包絡線の値が小さな位置では同図(b)における電極指の配列が粗になっている。しかし実際のIDT電極構成においては例えば、電極指が在る位置には励振可能なIDT電極を配設し、電極指が無い位置には、励振作用のない電極を配設することになる。
【0006】ここで励振可能なIDT電極と励振作用のないIDT電極について、数例を挙げて説明すると、図1717(a)に示したIDT電極基本区間は3/8λ幅の電極指と、2つの1/8λ幅の電極指とから構成された一方向性トランスデューサ(EWC-SPUDT)であり、図中矢印方向(順方向)への反射作用を有する。尚、λは1波長に相当し、基本区間とは1波長分のIDT電極構成のことである。同図(b)に示す電極構成の基本区間は励振作用はあるが、一方向反射は有しない。同図(c)に示す構成の基本区間電極は励振作用はないが、図の矢印方向への反射作用を有する。同図(d)は1/8λの電極が同じ極性の電極にのみ接続された構造であり、励振、反射の作用とも有しない。同図(e)の構成の基本区間電極は(a)の電極と対称であり、励振作用と図中矢印方向(逆方向)への一方向性を有する。また、同図(f)に示す構成の 基本区間電極は励振作用は有しないが、矢印方向への一方向性(逆方向)の反射作用を有する。図17(a)、(c)の電極構成を順方向SPUDT、同図(e)、(f)の電極構成を逆方向SPUDTと称することにする。
【0007】以下、図18(b)を上記基本区間を用いて構成したものについて説明する。尚、図18(a)のIDT電極は中心に対して対称であるので、中心より左半分のみを説明すれば十分である。図18(b)に示すIDT電極のメインローブには図17の基本区間a、b、c、dが配置され、それぞれ12、27、2、32個の基本区間から構成されている。更に、第1サイドローブは図17の基本区間b、dがそれぞれ13、57個配置し、第2サイドローブは基本区間b、dがそれそれ2、1個から構成されている。図18(b)と正規型IDT電極126対からなるトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性は図19に示すような濾波特性となり、Aは通過帯域の拡大図(右端の縦軸)、Bはフィルタ全体の伝送特性である。
【0008】トランスバーサルSAWフィルタを例えば図17示した6種類の基本区間を用いて設計するに際し、現在のところ完全な設計アルゴリズムは確立されていない。例えば、励振用IDT電極の基本区間の種類とその区間数を経験値から選択し、シミュレーションにより確認しながら所望の伝送特性が得られるまで、カットアンドトライを繰り返していた。
【0009】一方、上記とは別の手法によってトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性を改善したものがいくつか提案されている。例えば米国特許5,703,427号にはDART(Distributed Acoustic Reflection Transducer)電極を用いたトランスバーサルSAWフィルタが開示されている。DART電極とは一方向の励振可能なIDT電極であって、この発明によるトランスバーサルSAWフィルタは、図20に示すように1個のIDT電極の中に反射方向の互いに異なるIDT電極指を3つのグループに分けて配置したもので、順方向+R(前記米国特許では図中左方向を順方向となっている)に反射方向を持つDART型IDTの基本区間を50λ、逆方向−R(図中右方向)に反射方向を持つDART型IDTの基本区間を40λ、更に順方向のDART型IDT基本区間を20λ配置したIDT電極を用いて、トランスバーサルSAWフィルタを構成した例とその伝送特性が開示されている。このフィルタはこれまでに報告されている電極間引き法を用いたフィルタに比べ挿入損失が7.4dBから6.5dBに減少すること、群遅延時間が200nsから100nsに半減すること、第2のサイドローブの減衰が大きくなること、さらに通過帯域が広がることを特徴とするものである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のアポダイズ法あるいは電極間引き法を用いたトランスバーサルSAWフィルタにおいては、CDMA方式のような新しいディジタル携帯電話のIFフィルタに用いるには帯域幅が不足し、減衰傾度が不充分であるという問題があった。また、上記の米国特許発明においては順方向反射のIDT基本区間(順方向SPUDT)と逆方向反射のIDT基本区間(逆方向SPUDT)をどのように配置すれば、通過帯域幅が広くなるかが明らかにされておらず、実施例に示された+R=50λ、−R=40λ、+R=20λ以外の条件にてフィルタを構成するためには、カットアンドトライを繰り返すしかなく、実質的にはこの手法により広帯域なフィルタを実現することはできないという問題があった。本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、通過帯域幅を最大にすると共に減衰傾度を急峻にしたトランスバーサルSAWフィルタを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明に係るトランスバーサルSAWフィルタの請求項1記載の発明は、圧電基板の主面上に表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極を配置して構成するトランスバーサルSAWフィルタにおいて、前記IDT電極の少なくとも1つに電極間引き法を用いてメインローブ、第1サイドローブ及び第2サイドローブの重みづけを施すと共に前記メインローブの基本区間数をLとし、該メインローブを置換する逆方向SPUDTの区間数をN1とするとき、0.08L<N1<0.6Lとしたことを特徴とするトランスバーサルSAWフィルタである。請求項2記載の発明は、前記第1サイドローブに配置する順方向SPUDTの区間数N2としたとき、0<N2<N1としたことを特徴とする請求項1記載のトランスバーサルSAWフィルタである。請求項3記載の発明は、第2サイドローブを逆方向SPUDTで置換したことを特徴とする請求項1または2記載のトランスバーサルSAWフィルタである。
【0012】
【発明の実施の形態】以下本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。図1(a)は本発明に係るトランスバーサルSAWフィルタの電極構成を示す平面図であって、圧電基板1の主面上に表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極2と所定の間隔を空けてIDT電極3を配置する。IDT電極12の一方のくし形電極は入力端子IN_1に接続すると共に、他方のくし形電極は入力端子IN_2に接続する。さらに、IDT電極3の一方のくし形電極は出力端子OUT_1に接続すると共に、他方のくし形電極は出力端子OUT_2に接続する。IDT電極2はトランスバーサルSAWフィルタの所望の周波数特性を得るべく、メインローブ、第1サイドローブ、第2サイドローブの重みづけを電極間引き法を用いて施したものである。また、図1(a)ではIDT電極3に126対からなる正規型IDTを用いている。図1(b)は本発明に係るIDT電極2の詳細な構成例を示したもので、中心に対して対称であるので左半分のみを示す。同図(a)の図中左端から順番に位置を示す番号を付け、その位置に配置するIDT電極の基本区間(IDTパターン)の種類と区間数を示した図である。IDTパターンのa〜fは図17(a)〜(f)に示したパターンに対応する。ここで70〜28までがメインローブ、27から3までが第1サイドローブ、2〜1までが第2サイドローブであって、メインローブの区間数73に対して逆方向SPUDTであるパターン(f)の区間数35と、第1サイドローブに区間数23の順方向SPUDTと、第2サイドローブに区間数3の逆方向SPUDTを配置している。このように構成したことによって図14に示すような帯域幅1.23MHz以上と広帯域で減衰量の急峻なフィルタを実現することができる。後述するように種々のシミュレーション、実験によりメインローブの区間数をLとし、メインローブに含まれる逆方向SPUDTの区間数をN1とするとき、0.08L<N1<0.6Lの範囲とすると広帯域且つ、減衰特性の急峻なフィルタを実現することが判った。
【0013】本発明に至った経緯を順を追って説明する。また、本発明に係るシミュレーションは電極間引き法を用いて行ったものであるが、内容を分かりやすくするため等価なアポダイズ法の包絡線を対比しながら説明する。始めに図18(b)に示した電極間引き法によるIDT電極を従来の手法により逆方向SPUDTを含まない基本区間を用いて構成する。次に、図中左端(第2サイドローブ)より順に基本区間数4個毎に図17(e)の逆方向SPUDTで置換し、その伝送特性をシミュレーションより求めた。図2は置換した位置とその時の伝送特性の5dB帯域幅と、33dB帯域幅の帯域増加率B5、B33を示したものであり、置換する前のIDT電極構成で得られた5dB帯域幅と、33dB帯域幅を基準値として、置換後の値と基準値との差を基準値で除したものである。また、位置は図18(b)の左端を0としている。なお、図2には重み付けの曲線α(図18(a)の包絡線)も合わせて示している。図2のB5から明らかなように、メインローブと第2サイドローブにおいては逆方向SPUDTで置換することにより5dB帯域幅が増加するが、第1サイドローブでは逆に帯域幅が狭まることが分かる。更に図18(b)のIDT電極構成において、電極の左端から順に逆方向SPUDTの基本区間20個で置換していき、そのときのトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性を計算した。5dB、33dBにおける帯域幅増加率B5、B33を示したものが図3である。図2と同様に第2サイドローブの電極指を置換した場合と、メインローブの電極指を置換した場合にB5が増大することが分かる。また、B33は比較的帯域幅の変化が少ないことが理解できる。逆方向SPUDTの基本区間4個で置換した場合は、5dB帯域幅増加率B5が最大で2%程度であったのに対し、基本区間20個で置換した場合は、最大でほぼ8%に達することが分かった。
【0014】以上の結果を踏まえて、メインローブ、第1サイドローブ、第2サイドローブに分けて、更に詳細に検討する。上述の結果から最も広帯域化に寄与するのはメインローブと推測されるので、まずメインローブについて検討する。図18(b)に示す電極構成のメインローブの図中左端から所定の区間数を逆方向SPUDTで置換した場合、置換する基本区間数とトランスバーサルSAWフィルタの5dB、33dB帯域幅増加率B5、B33をシミュレーションで求めた。図4はその結果を示す図で、5dB帯域幅増加率B5は、置換した基本区間数にほぼ比例して増加するが、B33は一旦減少して区間数30をピークとして増加することが分かった。図5は、図18(b)の電極構成でメインローブの図中左端から中央方向に向かって30区間を、逆方向SPUDTで置換した場合の伝送特性であって、Aは通過帯域の拡大図で右の縦軸に減衰量を示し、Bは全体の減衰特性であり、左の縦軸に示してある。同図から明らかなように帯域幅が広く、急峻な減衰特性が得られるものの通過帯域のほぼ中央に約2dB程度の大きなリップルが生じる。図4のPは置換基本区間数に対するリップルの大きさを示したものであって置換した区間数が増えるほどリップルも増大することがわかる。そこで、このリップルを抑圧すべく今度は第1サイドローブに注目した。図6は、逆方向SPUDTを30区間だけ置換したIDT電極において、第1サイドローブの図中右端から所定の区間数を順方向SPUDTで置換した場合、基本区間数の増加とリップルP、5dB、33dB帯域幅増加率B5、B33との関係を示した図である。
【0015】図5から明らかなように、メインローブの電極指を30区間の逆方向SPUDTで置換したIDT電極ではリップルPが約2dBあり、そのピーク(極大値)の間隔は約660kHzであった。これに対し第1サイドローブの右端から置換する順方向SPUDTの基本区間を順次増加すると前記リップルの間に新たなリップルが発生し、そのピーク間隔は250kHz〜300kHzとなった。この通過帯域中央に発生した新たなリップルが前記外側に生じたリップルの凹みを補正し、通過帯域を平坦化するように作用することが分かった。例えば、第1サイドローブの右端より20区間を順方向SPUDTで置換した場合には伝送特性が図7のようになり、リップルはほぼ0.2dBと大幅に小さくすることができた。このとき順方向SPUDTによるリップル間隔は約240kHzであり、前記逆方向SPUDTによるリップル間隔約660kHzの内側にあり、この2つのリップルが互いに打ち消すように重なりあい、結果としてフィルタのリップルが小さくなるように作用する。即ち、リップルPの極大値の間隔は210kHz、240kHz、210kHzとなり、ほぼ等間隔に極大点が配値されるようになる。図6から明らかなように、第1サイドローブで置換する順方向SPUDTの基本区間数を増加すると、除々にリップルが減少し、基本区間が20個となったところで極小となり、さらに増加させるとフィルタのリップルは増大していくことが確認された。
【0016】さらに、メインローブの左端から中央に連続して配置する逆方向SPUDTの基本区間数と、第1サイドローブの右端から左端にかけて配置する順方向SPUDTの基本区間数とを種々組み合わせて、トランスバーサルSAWフィルタの伝送特性をシミュレーションより求めた。図8はその結果の一部をまとめたものであって、縦軸には第1サイドローブで置換する順方向SPUDTの区間数と5dB帯域幅増加率(%)を併記し、右端の縦軸にはリップル(dB)を表示している。この図に示すように、フィルタのリップルを小さく維持するには、第1サイドローブにおける順方向SPUDTの基本区間数N2は、メインローブに配置する逆方向SPUDTの基本区間数N1の60%〜70%とすべきであることが確かめられた。図9はメインローブにおいてメインローブ全体の基本区間数Lに対する逆方向SPUDTにて置換した基本区間数N1の割合とそのときのフィルタのリップルとの関係を示した図である。この図から明らかなように、メインローブに配設する逆方向SPUDTの基本区間数が多くなると、これによって発生するリップルの凹みが、第1サイドローブに配置する順方向SPUDTにより生ずる内側のリップルによって補正することがでないほど大きなものとなる。例えばメインローブ全体の基本区間数73のうち逆方向SPUDTの基本区間数を40とした場合、これにより生じるリップルの凹みを補正するために必要となる第1サイドローブの順方向SPUDTの基本区間数は26区間となるが、図9に示すようにリップルの補正限界を越えるためリップルを小さくすることができない。よって、リップルを1dBより低く抑えるためには上記の割合を60%以下とすべきであり、望ましくは45%以下に設定すべきであろう。
【0017】次に、図18(b)のIDT電極の第2サイドローブから第1サイドローブにわたって電極指を逆方向SPUDTで置換した場合を考える。図11は前記第2サイドローブの図中左端より逆方向SPUDTで置換する基本区間数を増加させたとき、リップルP、帯域幅増加率B5、B33の関係を示した図である。同図より通過帯域幅は最大で1%程度であるが増加することも確かめられた。また、図12は置換する逆方向SPUDTの基本区間数とこの逆方向SPUDTで生じるリップルのピークの周波数間隔との関係を示す図である。この図より第2サイドローブから第1サイドローブにかけて逆方向SPUDTを配置することにより、リップルのピーク間隔が300kHz〜400kHzの範囲で生ずることが分かった。第2サイドローブから第1サイドローブにかけて電極指を逆方向SPUDTで置換することにより生じたリップルは、メインローブの電極指を逆方向SPUDTで置換の際に生じるリップルの凹みを補正するために用いることが可能である。
【0018】以上の検討結果を総合すると、図13は図18(b)の電極構成のメインローブ左端から35区間を逆方向SPUDTに、第1サイドローブの右端から23区間を順方向SPUDTにそれぞれ置換した場合の伝送特性である。図14は上記に加え第2サイドローブの左端から3区間を逆方向SPUDTで置換した場合の伝送特性である。リップルがより平坦になっていることが分かる。
【0019】図14で示したシミュレーション結果を実験的に確かめるため、トランスバーサルSAWフィルタの試作を行った。図15は試作したフィルタの特性を示すものであって、同図(a)は通過帯域特性Aと群遅延時間τが、同図(b)には減衰特性を含む伝送特性が示されており、その中心周波数は111.85MHz、5dB帯域幅は1.23MHz、33dB帯域幅は1.8MHz以下、リップル0.2dB、挿入損失12.5dB、群遅延時間は0.6μsであった。同図から明らかなように試作したものにおいても、広帯域且つ急峻な減衰特性を有し、通過域のリップルの少ない平坦な特性が実現できることを確認した。
【0020】以上の説明では入力側のIDT電極に電極間引き法を用い、出力側のIDT電極に正規型を用いて、入力側のIDT電極に対して図17に示す種々の基本区間で置換した場合の諸特性について説明したが、本発明はこれのみに限定することなく出力側IDT電極に電極間引き法を用い、SPUDT電極等の一方向性電極で置換してもよい。
【0021】
【発明の効果】本発明は、以上説明したように構成したので、トランスバーサルSAWフィルタの通過帯域幅(5dB)を拡大すると共に減衰帯域幅(33dB)をほぼ維持する結果、減衰傾度を大幅に急峻にすることが可能となり、ディジタル携帯電話等で要求されている性能を実現可能としたという優れた効果を奏す。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)本発明に係るトランスバーサルSAWフィルタの電極構成を示す平面図、(b)IDT電極の詳細な構成を説明する図である。
【図2】入力側IDT電極を逆方向SPUDT4区間で置換するとき、その位置と5dB、33dB帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図3】入力側IDT電極を逆方向SPUDT20区間で置換するとき、その位置と5dB、33dB帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図4】入力側IDT電極を逆方向SPUDTで置換するとき、その置換区間数とリップルP、帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図5】入力側IDT電極を逆方向SPUDT30区間で置換した場合の伝送特性である。
【図6】第1サイドローブに順方向SPUDTで置換した場合、置換区間数とリップルP、帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図7】メインローブを逆方向SPUDT、第1サイドローブを順方向SPUDTで置換した場合の伝送特性を示す図である。
【図8】メインローブを逆方向SPUDT、第1サイドローブを順方向SPUDTで置換した場合、それぞれの区間数とリップルP、帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図9】メインローブで置換する逆方向SPUDTの基本区間数に対するメインローブの基本区間数の割合とリップルの関係を示す図である。
【図10】メインローブを逆方向SPUDT40区間、第1サイドローブを順方向SPUDT26区間で置換した場合の伝送特性である。
【図11】第2サイドローブを逆方向SPUDTで置換した場合のリップルP、帯域幅増加率B5、B33との関連を示す図である。
【図12】第2サイドローブを逆方向SPUDTで置換した場合、そお区間数と生ずるリップルのピーク間隔との関連を示す図である。
【図13】メインローブを逆方向SPUDT35区間、第1サイドローブを順方向SPUDT23区間で置換した場合の伝送特性である。
【図14】図13の諸定数に加え、第2サイドローブを逆方向SPUDT3区間で置換したときの伝送特性である。
【図15】試作したトランスバーサルSAWフィルタの(a)通過域特性、群遅延時間特性と、(b)は減衰特性である。
【図16】従来のトランスバーサルSAWフィルタの構成を示す平面図である。
【図17】(a)から(f)はIDT電極の基本区間(1λ)の構成を示す平面図である。
【図18】(a)アポダイズ法と(b)電極間引き法を説明する図である。
【図19】従来のトランスバーサルSAWフィルタの伝送特性を示す図である。
【図20】米国特許5,703,427号の図10の構成を示す図である。
【符号の説明】
1・・ 圧電基板
2、3・・IDT電極
IN_1、IN_2・・入力端子
OUT_1、OUT_2・・出力端子
n・・IDTパターンが配置される位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電基板の主面上に表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極を配置して構成するトランスバーサルSAWフィルタにおいて、前記IDT電極の少なくとも1つにメインローブ、第1サイドローブ及び第2サイドローブの重みづけを施すと共に前記メインローブの基本区間数をLとし、該メインローブを置換する逆方向SPUDTの区間数をN1とするとき、0.08L<N1<0.6Lとしたことを特徴とするトランスバーサルSAWフィルタ。
【請求項2】 前記第1サイドローブに配置する順方向SPUDTの区間数N2としたとき、0<N2<N1としたことを特徴とする請求項1記載のトランスバーサルSAWフィルタ。
【請求項3】 第2サイドローブを逆方向SPUDTで置換したことを特徴とする請求項1または2記載のトランスバーサルSAWフィルタ。
【請求項1】 圧電基板の主面上に表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極を配置して構成するトランスバーサルSAWフィルタにおいて、前記IDT電極の少なくとも1つにメインローブ、第1サイドローブ及び第2サイドローブの重みづけを施すと共に前記メインローブの基本区間数をLとし、該メインローブを置換する逆方向SPUDTの区間数をN1とするとき、0.08L<N1<0.6Lとしたことを特徴とするトランスバーサルSAWフィルタ。
【請求項2】 前記第1サイドローブに配置する順方向SPUDTの区間数N2としたとき、0<N2<N1としたことを特徴とする請求項1記載のトランスバーサルSAWフィルタ。
【請求項3】 第2サイドローブを逆方向SPUDTで置換したことを特徴とする請求項1または2記載のトランスバーサルSAWフィルタ。
【図1】
【図16】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図15】
【図19】
【図16】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図15】
【図19】
【公開番号】特開2000−77973(P2000−77973A)
【公開日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−244099
【出願日】平成10年8月28日(1998.8.28)
【出願人】(000003104)東洋通信機株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成10年8月28日(1998.8.28)
【出願人】(000003104)東洋通信機株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
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