説明

トランスミッションの軸内潤滑構造

【課題】回転自在なシャフトの外周側でシャフトの軸方向に分散して配置された複数の潤滑必要箇所に対し、簡素な構成でもって、十分な潤滑油を分配することができる、トランスミッションの軸内潤滑構造を提供する。
【解決手段】シャフト7の先端側から奥側に向かって延在して、複数の潤滑必要箇所に潤滑油をそれぞれ供給するための複数の傾斜油路3,4を有し、複数の傾斜油路3,4は、シャフト7の内部に取り付けられてシャフト7と一体回転する樹脂部材1の内部に形成され、潤滑油取入口3a,4aは、シャフト7の軸方向に関してはシャフト7の先端側に集中して配置され、シャフト7の周方向に関しては分散して配置され、樹脂部材1の小径側から大径側に向かって斜めに延在し、潤滑油排出口3b,4bは、潤滑油取入口3a,4aよりも大径側に配置されて、シャフト7に形成された径方向油路9a,9bにそれぞれ連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッションの軸内潤滑構造に関し、特に、潤滑油を、少なくとも回転するシャフトの内部を通じて、シャフトの外周側でシャフトの軸方向に分散して配置された複数の潤滑必要箇所に供給する、トランスミッションの軸内潤滑構造に関し、中でも、マニュアルトランスミッションの軸内潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の一般的なトランスミッションの軸内潤滑構造を示す説明図である。図4(A)は、図3に示した軸内潤滑構造の問題点を示す説明図であり、図4(B)は、図4(A)のA−A断面図である。
【0003】
図3を参照すると、トランスミッション11において、回転自在なシャフト12の外周側には、シャフト12の軸方向に分散して、潤滑必要箇所である、ニードルベアリング15、ギヤ16及びシンクロ機構17が配置されている。
【0004】
図3、図4(A)及び(B)を参照すると、従来の一般的なトランスミッション11の軸内潤滑構造は、シャフト12内に形成された軸方向油路13と、シャフト12内に軸方向に分散して形成され、内周側が軸方向油路13に対して開口すると共に外周側が所定の潤滑必要箇所の直下で開口する複数の径方向油路14a,14b,14c,14d,14eを有している。径方向油路14a,14b,14c,14d,14eの潤滑油取入口は、シャフト12の軸方向に離間している。
【0005】
この従来の一般的な軸内潤滑構造によれば、潤滑油が、中空なシャフト12の先端側の開口12aからシャフト12の内部に流入し、さらに、複数の径方向油路14a,14b,14c,14d,14eを通じて、複数の潤滑必要箇所にそれぞれ潤滑油が供給される。
【0006】
また、特許文献1に開示されたトランスミッションの軸内潤滑構造によれば、シャフト内に、複数の隔壁によって周方向に隔離された複数の軸方向油路が設けられている。複数の軸方向油路の一側はいずれも、シャフト内の先端側で開口し、複数の軸方向油路は、シャフト内を軸方向に平行に真直ぐ延在し、複数の軸方向油路の他側は、複数の径方向油路に連通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−150558号公報(図1及び明細書の段落0024参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
再度、図3、図4(A)及び(B)を参照すると、従来の一般的なトランスミッションの軸内潤滑構造によれば、シャフト12の軸方向奥側(下流側)の潤滑必要箇所に対する潤滑油の供給油量が減少するという問題がある。すなわち、シャフト12の軸方向先端側に位置する径方向油路14aに供給される潤滑油の油量に比べて、シャフト12の軸方向奥側に位置する径方向油路14b等に供給される潤滑油の油量が減少するという問題がある。その理由は、シャフト12の先端側の開口12aから軸方向油路13に流入した潤滑油は、軸方向油路13内で、シャフト12の回転に伴って発生する内部遠心油圧などの抵抗を受けながら、軸方向油路13の奥側に流れていくからである。
【0009】
そこで、径方向油路の孔径や個数を調整する手段が提案されているが、この手段によっても、上記問題は解決されていない。また、上記問題を解決するため、オイルポンプ等によって強制潤滑を行う手段が提案されているが、オイルポンプの設置によって、トランスミッションの効率の悪化が避けられず、又、トランスミッションの製造コストが増大するという別の問題が生じる。
【0010】
また、特許文献1の軸内潤滑構造によれば、複数の軸方向油路同士が完全に隔離されていないため、複数の軸方向油路間で潤滑油の漏出が発生し、潤滑油が十分に流れない軸方向油路が生じ、この結果、潤滑不足となる潤滑必要箇所が発生するおそれがある。さらに、シャフトに複数の軸方向及び径方向油路を形成するため、油路の総延長が長くなって油路を形成するための加工量が多くなり、又潤滑油が受ける抵抗の積算量が多くなるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、トランスミッションにおいて、回転自在なシャフトの外周側で該シャフトの軸方向に分散して配置された複数の潤滑必要箇所に対し、簡素な構成でもって、十分な潤滑油を効率的に分配することができる、トランスミッションの軸内潤滑構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1の視点において、回転自在なシャフトの外周側で該シャフトの軸方向に分散して配置された複数の潤滑必要箇所にそれぞれ、潤滑油を供給するトランスミッションの軸内潤滑構造であって、前記シャフトの先端側から奥側に向かって延在して、前記複数の潤滑必要箇所に潤滑油をそれぞれ供給するための複数の傾斜油路を有し、前記複数の傾斜油路は、前記シャフトの内部及び/又は該シャフトと一体回転する部材の内部に形成され、前記複数の傾斜油路の潤滑油取入口は、前記シャフトの前記軸方向に関しては該シャフトの前記先端側に集中して配置され、該シャフトの周方向に関しては分散して配置され、前記複数の傾斜油路は、前記シャフト又は前記部材の小径側から大径側に向かって斜めに延在し、前記複数の傾斜油路の潤滑油排出口は、前記潤滑油取入口よりも前記大径側に配置される、ことを特徴とするトランスミッションの軸内潤滑構造を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シャフトの先端側からシャフトの奥側に向かって流入しようとする潤滑油は、シャフトの先端側にいずれも配置されている複数の潤滑油取入口から、複数の傾斜油路にそれぞれ十分な油量をもって取り込まれ、シャフトの軸方向に対して斜めに延在する、これら複数の傾斜油路を通じて、シャフトの外周側で軸方向に分散して配置されている複数の潤滑必要箇所に十分な油量をもって供給される。
【0014】
本発明の効果を以下に例示する。
(1)複数の傾斜油路の潤滑油取入口はいずれも、シャフトの先端側に配置されていることにより、シャフトの軸内遠心油圧の影響を受けることなく、複数の傾斜油路の全てに潤滑油が十分に供給される。
(2)複数の傾斜油路はそれぞれ、シャフト又はシャフトに取り付けられる部材の内部に形成されているため、複数の傾斜油路間における潤滑油の漏出が防止されている。
(3)複数の傾斜油路は、シャフト又はシャフトに取り付けられる部材の小径側から大径側に向かって斜めに延在することにより、シャフトの回転に伴う遠心力を受けて、複数の傾斜油路の奥側まで潤滑油が送り込まれていく。
(4)複数の傾斜油路が斜めに延在することにより、油路の総延長を短縮して油路を形成するための加工量が減少され、又潤滑構造が簡素化される。
(5)潤滑油取入口の油穴径、及び/又は、傾斜油路が延在する角度を調整することにより、複数の傾斜油路間における潤滑油の配分比、すなわち、複数の潤滑必要箇所に対する潤滑油の配分比を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(A)は、本発明の一実施例に係るトランスミッションの軸内潤滑構造に組み込まれる樹脂部材の部品図であり、図1(B)は、図1(A)のB−B断面図である。
【図2】図1(A)及び図1(B)に示した樹脂部材が組み込まれた軸内潤滑構造の全体を示す説明図である。
【図3】従来の一般的なトランスミッションの軸内潤滑構造を示す説明図である。
【図4】(A)は、図3に示した軸内潤滑構造の問題点を示す説明図であり、(B)は、(A)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態において、前記複数の傾斜油路は、前記シャフトの前記軸方向からみて、放射状に配置されている。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態において、前記複数の傾斜油路は、前記潤滑油取入口及び前記潤滑油排出口以外、閉鎖されている。この形態によれば、潤滑油が傾斜油路を流れている途中、潤滑油が傾斜油路から漏れることが防止され、複数の傾斜油路間における潤滑油の配分比の設定が可能となる。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態において、前記シャフトの内部に取り付けられて該シャフトと一体回転する樹脂部材に形成される。樹脂製の部材は加工容易であるため、斜めに延在する複数の傾斜油路の形成が容易となる。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態によれば、前記潤滑油取入口の油穴径、及び/又は、前記傾斜油路の傾斜角度に応じて、前記複数の傾斜油路間における潤滑油の配分比が設定される。傾斜角度としては、シャフト又はシャフトと一体回転する部材の軸方向に対して、傾斜油路が延在する角度を採用することができる。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態において、複数の傾斜油路は、シャフト、シャフトと一体回転する部材、或いは、シャフトと部材の両方にまたがって形成される。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態において、シャフトと一体回転する部材は、好ましくは、中空なシャフトの内部に取り付けられ、部材の外周面上に形成された爪ないし回り止めを介して、部材内部に形成された複数の傾斜油路のシャフトに対する位置決めがなされる。
【実施例】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の一実施例を説明する。
【0023】
図1(A)は、本発明の一実施例に係るトランスミッションの軸内潤滑構造に組み込まれる樹脂部材の部品図であり、図1(B)は、図1(A)のB−B断面図である。図2は、図1(A)及び図1(B)に示した樹脂部材が組み込まれた軸内潤滑構造の全体を示す説明図である。
【0024】
本実施例において、図1(A)に示す樹脂部材1は、図2に示すシャフト7の中空部8に一体回転するよう装填され、図3に示したようなトランスミッション11に適用されて、図2に示す軸内潤滑構造10の構成部品となる。
【0025】
図1(A)及び図1(B)並びに図2を参照すると、本発明の一実施例に係るトランスミッションが有するシャフト7に装填される樹脂部材1は、シャフト7の先端側(潤滑油流入側)から奥側に向かって延在して、複数の潤滑必要箇所(例えば、図3のニードルベアリング15、ギヤ16及びシンクロ機構17参照)に潤滑油をそれぞれ供給するための複数の傾斜油路3,4,5,6を有している。
【0026】
複数の傾斜油路3,4,5,6は、シャフト7と一体回転する樹脂部材1の内部に形成されている。複数の傾斜油路3,4,5,6の潤滑油取入口3a,4a,5a,6aは、シャフト7の軸方向に関してはシャフト7の先端側に集中して配置され、シャフト7の周方向に関しては分散して配置されている。複数の傾斜油路3,4,5,6は、樹脂部材1の小径側から大径側に向かって斜めに延在している。複数の傾斜油路3,4,5,6の潤滑油排出口3b,4b,5b,6bは、対応する潤滑油取入口3a,4a,5a,6aよりも樹脂部材1の大径側に配置され、樹脂部材1の外周面で開口している。
【0027】
複数の傾斜油路3,4,5,6は、シャフト7の軸方向からみて、放射状に配置されている。
【0028】
このような樹脂部材1が、シャフト7の中空部8に装填されると、複数の傾斜油路3,4,5,6は、潤滑油排出口3b,4b,5b,6bを通じて、シャフト7に形成された径方向油路9a,9b,9c,9d(但し、9c,9dは不図示)にそれぞれ連通する。なお、樹脂部材1の外周面には、シャフト7の内周面側と係合する回り止め9が形成されている。回り止め9によって、樹脂部材1側の複数の傾斜油路3,4,5,6と、シャフト7側の径方向油路9a,9b,9c,9dとの位置決めがなされる。
【0029】
以上説明した本発明の一実施例に係るトランスミッションの軸内潤滑構造の機能を説明する。引き続き、図1(A)及び図1(B)並びに図2を参照すると、シャフト7の中空部8の先端側から奥側に向かって流入しようとする潤滑油は、シャフト7の先端側ないし樹脂部材1の軸方向入口2付近にいずれも配置されている複数の潤滑油取入口3a,4a,5a,6aから、複数の傾斜油路3,4,5,6にそれぞれ十分な油量をもって取り込まれる。それぞれ取り込まれた潤滑油は、複数の傾斜油路3,4,5,6内を、遠心力を受けながら、樹脂部材1の軸方向先端側から同奥側に向かって且つ小径側(内周側)から大径側(外周側)に向かって流れ、潤滑油排出口3b,4b,5b,6bから、シャフト7に形成された径方向油路9a,9b,9c,9dに流入し、さらに、シャフト7の外周側で軸方向に分散して配置されている複数の潤滑必要箇所に十分な油量をもって供給される。
【0030】
複数の傾斜油路3,4,5,6の潤滑油取入口3a,4a,5a,6aは、軸方向に同一位置にあるため、径方向油路9a,9b,9c,9dから複数の潤滑必要箇所にそれぞれ供給される潤滑油の油量を、均等に設定することができる。また、複数の傾斜油路3,4,5,6ないし潤滑油取入口3a,4a,5a,6aの油穴径、及び/又は、複数の傾斜油路3,4,5,6が延在する角度を調整することにより、複数の傾斜油路3,4,5,6間における潤滑油の配分比、すなわち、複数の潤滑必要箇所に対する潤滑油の配分比を容易に調整することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、潤滑油を、少なくとも回転するシャフトの内部を通じて、シャフトの外周側でシャフトの軸方向に分散して配置された複数の潤滑必要箇所に供給する、トランスミッションの潤滑に利用され、例えば、マニュアルトランスミッションの潤滑に利用される。
【符号の説明】
【0032】
1 樹脂部材
2 樹脂部材の軸方向入口
3,4,5,6 複数の傾斜油路(斜めに延在する複数の傾斜油路)
3a,4a,5a,6a 潤滑油取入口
3b,4b,5b,6b 潤滑油排出口
7 シャフト
8 シャフトの中空部
9 回り止め
9a,9b,9c,9d 複数の径方向油路(但し、9c,9dは不図示)
10 トランスミッションの軸内潤滑構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在なシャフトの外周側で該シャフトの軸方向に分散して配置された複数の潤滑必要箇所にそれぞれ、潤滑油を供給するトランスミッションの軸内潤滑構造であって、
前記シャフトの先端側から奥側に向かって延在して、前記複数の潤滑必要箇所に潤滑油をそれぞれ供給するための複数の傾斜油路を有し、
前記複数の傾斜油路は、前記シャフトの内部及び/又は該シャフトと一体回転する部材の内部に形成され、
前記複数の傾斜油路の潤滑油取入口は、前記シャフトの前記軸方向に関しては該シャフトの前記先端側に集中して配置され、該シャフトの周方向に関しては分散して配置され、
前記複数の傾斜油路は、前記シャフト又は前記部材の小径側から大径側に向かって斜めに延在し、
前記複数の傾斜油路の潤滑油排出口は、前記潤滑油取入口よりも前記大径側に配置される、
ことを特徴とするトランスミッションの軸内潤滑構造。
【請求項2】
前記複数の傾斜油路は、前記シャフトの前記軸方向からみて、放射状に配置されていることを特徴とする請求項1記載のトランスミッションの軸内潤滑構造。
【請求項3】
前記複数の傾斜油路は、前記潤滑油取入口及び前記潤滑油排出口以外、閉鎖されている、ことを特徴とするトランスミッションの軸内潤滑構造。
【請求項4】
前記複数の傾斜油路は、前記シャフトの内部に取り付けられて該シャフトと一体回転する樹脂部材に形成される、ことを特徴とする請求項1記載のトランスミッションの軸内潤滑構造。
【請求項5】
前記潤滑油取入口の油穴径、及び/又は、前記傾斜油路の傾斜角度に応じて、前記複数の傾斜油路間における潤滑油の配分比が設定される、ことを特徴とする請求項1記載のトランスミッションの軸内潤滑構造。
【請求項6】
前記シャフトと一体回転する部材は、該シャフトの内部に取り付けられ、該部材の外周面上に形成された爪ないし回り止めを介して、該部材の内部に形成された複数の傾斜油路のシャフトに対する位置決めがなされる、ことを特徴とする請求項1記載のトランスミッションの軸内潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−52649(P2012−52649A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198094(P2010−198094)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】