説明

トリアリールアミン誘導体、電子写真感光体、及び画像形成装置

【課題】感度特性に優れる電子写真感光体、及び、接触帯電方式の帯電部を備える画像形成装置における転写メモリーの発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体を与える正孔輸送剤を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いる。


〔一般式(1)中、Arはアリール基、又は共役二重結合を有する複素環基であり、Arはアリール基であり、Ar、及びArは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、及びフェノキシ基からなる群より選択される1以上の基により置換されていてもよい。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアリールアミン誘導体、前述のトリアリールアミンを正孔輸送剤として用いる電子写真感光体、及び前述の電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置に備えられる電子写真感光体としては、セレン、アモルファスシリコン等の無機材料からなる感光層を備える無機感光体と、主に、バインダー樹脂、電荷発生剤、電荷輸送剤等の有機材料からなる感光層を備える有機感光体とがある。そして、これらの感光体のなかでは、無機感光体と比較して製造が容易であり、感光層の材料を幅広い材料から選択でき、設計の自由度が高いことから有機感光体が幅広く使用されている。
【0003】
かかる有機感光体の電荷輸送剤として、電子輸送剤と正孔輸送剤とが使用されており、正孔輸送剤については、電荷輸送能に優れることから、種々のトリアリールアミン誘導体の使用が提案されている。そして、正孔輸送剤として好適なトリアリールアミン誘導体の具体例としては、下記の化合物(HTM−A、及びHTM−B)が挙げられる(例えば、特許文献1)。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−289877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のトリアリールアミン誘導体(HTM−A、及びHTM−B)は、感光層を構成するバインダー樹脂との組み合わせによっては良好な感度特性を得にくい場合がある。このため、特許文献1に開示されるトリアリールアミン誘導体よりも、さらに感度特性に優れる電子写真感光体を与える正孔輸送剤が求められている。
【0007】
また、接触帯電方式の帯電部を備える画像形成装置において、正帯電単層型電子写真感光体を使用する場合、転写メモリーが非常に発生しやすく、転写メモリーの発生にともないゴースト等の画像不良が発生しやすい。このため、接触帯電方式の帯電部と、正帯電単層型電子写真感光体からなる像担持体とを備える画像形成装置における、転写メモリーの発生の抑制が強く求められている。以下、転写メモリーについて説明する。
【0008】
まず、有機感光体としては、電荷発生剤及び電荷輸送剤を同一層に含む感光層を備える単層型有機感光体が知られている。かかる単層型有機感光体は、導電性基体上に電荷発生剤を含有する電荷発生層と電荷輸送剤を含有する電荷輸送層とを積層した積層型有機感光体と比較して、構造が簡単で製造が容易であるとともに、皮膜欠陥の発生を抑制できることが知られている。
【0009】
このような電子写真感光体を用いる画像形成装置において、以下の1)〜5)の工程を含む画像形成プロセスが実施されている。
1)電子写真感光体の表面を帯電させる工程
2)帯電された電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する工程
3)静電潜像を現像バイアス電圧が印加された状態でトナー現像する工程
4)形成されたトナー像を反転現像方式により被転写体に転写する工程
5)被転写体に転写されたトナー像を加熱定着する工程
【0010】
このような画像形成プロセスにおいては、電子写真感光体を回転させて使用するため、前周回において露光された部分の電位(明電位)が残留して、次の周における帯電工程を経ても、かかる部分においては所望する帯電電位(暗電位)を得ることができない現象(転写メモリー)が見られた。そして、転写メモリーのある部分と無い部分とでは画像濃度が変わってしまい、良好な画像を得難い問題がある。
【0011】
また、単層型電子写真感光体には正帯電型と負帯電型とがあり、電子写真感光体の帯電方式としては接触帯電方式と非接触帯電方式とがあるが、電子写真感光体の表面を帯電させる際に、電子写真感光体の寿命やオフィス環境に悪影響を与えるオゾン等の酸化性ガスをほとんど発生しないことから、接触帯電方式と正帯電単層型電子写真感光体とを組み合わせて使用することが好ましい。
【0012】
しかし、接触帯電方式では、放電領域が狭いため、非接触帯電方式よりも帯電能力に乏しい。このため、電子写真感光体の表面の電位が安定しにくく転写メモリーが発生しやすい問題がある。
【0013】
このように、接触帯電方式の帯電部を備える画像形成装置において、正帯電単層型電子写真感光体を使用する場合、非常に転写メモリーが発生しやすいが、特許文献1に開示されるトリアリールアミン誘導体を正孔輸送剤として用いても、転写メモリーの発生を抑制しにくい。
【0014】
本発明は、感度特性に優れる電子写真感光体、及び、接触帯電方式の帯電部を備える画像形成装置における転写メモリーの発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体を与える正孔輸送剤を提供することを目的とする。また、本発明は、前述の正孔輸送剤を感光層に含む電子写真感光体を提供することを目的とする。さらに、本発明は、前述の電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、下記一般式(1)で表される化合物により上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0016】
(1) 下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体。
【化2】

〔一般式(1)中、Arはアリール基、又は共役二重結合を有する複素環基であり、Arはアリール基であり、Ar、及びArは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、及びフェノキシ基からなる群より選択される1以上の基により置換されていてもよい。〕
【0017】
(2) 導電性基体上に感光層が形成された電子写真感光体であって、
前記感光層は、
1)少なくとも電荷発生剤を含有する電荷発生層、少なくとも電荷輸送剤とバインダー樹脂とを含有する電荷輸送層が順次積層された積層型感光層、又は、
2)少なくとも電荷発生剤、電荷輸送剤、及びバインダー樹脂を含有する単層型感光層であり、
前記電荷輸送剤が、正孔輸送剤として(1)記載のトリアリールアミン誘導体を含有する電子写真感光体。
【0018】
(3) 像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための帯電部と、
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と、を備え、前記像担持体が(2)記載の電子写真感光体である画像形成装置。
【0019】
(4) 前記像担持体が単層型感光層を備える正帯電電子写真感光体であり、前記帯電部が接触帯電方式である、(3)記載の画像形成装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、感度特性に優れる電子写真感光体、及び、接触帯電方式の帯電部を備える画像形成装置における転写メモリーの発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体を与える正孔輸送剤を提供できる。また、本発明によれば、前述の正孔輸送剤を感光層に含む、感度特性に優れる電子写真感光体、及び接触帯電方式の帯電部を備える画像形成装置における転写メモリーの発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体を提供できる。さらに、本発明は、前述の電子写真感光体を像担持体として備える感度特性に優れる画像形成装置と、前述の正帯電単層型電子写真感光体と、接触帯電方式の帯電部とを組み合わせて備える、転写メモリーの発生を抑制できる画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】積層型感光体の構成を示す図である。
【図2】単層型感光体の構成を示す図である。
【図3】本発明の画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】トリアリールアミン誘導体(HTM−1)のH−NMR(300MHz)のチャートを示す図である。
【図5】トリアリールアミン誘導体(HTM−2)のH−NMR(300MHz)のチャートを示す図である。
【図6】トリアリールアミン誘導体(HTM−3)のH−NMR(300MHz)のチャートを示す図である。
【図7】トリアリールアミン誘導体(HTM−4)のH−NMR(300MHz)のチャートを示す図である。
【図8】トリアリールアミン誘導体(HTM−7)のH−NMR(300MHz)のチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0023】
[第1実施形態]
第1実施形態は、電子写真感光体において正孔輸送剤として好適に使用されるトリアリールアミン誘導体に関する。以下、トリアリールアミン誘導体、及びトリアリールアミン誘導体の製造方法について順に説明する。
【0024】
〔トリアリールアミン誘導体〕
第1実施形態にかかるトリアリールアミン誘導体は、以下の一般式(1)で表される化合物である。
【0025】
【化3】

〔一般式(1)中、Arはアリール基、又は共役二重結合を有する複素環基であり、Arはアリール基であり、Ar、及びArは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、及びフェノキシ基からなる群より選択される1以上の基により置換されていてもよい。〕
【0026】
一般式(1)においてAr、及びArがアリール基である場合、アリール基は、フェニル基、又は2〜3個のベンゼン環が縮合されるか単結合により連結されて形成される基が好ましい。アリール基に含まれるベンゼン環の数は、1〜3であり、1又は2が好ましい。Ar、及びArがアリール基である場合の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)において、Arが「共役二重結合を有する複素環基」である場合、かかる複素環基は、1以上のN、S、Oを含む5員又は6員の単環であるか、かかる単環同士、又はかかる単環とベンゼン環とが縮合した複素環基であって、Arが結合する窒素原子と結合している環が共役二重結合を有する。Arが縮合環である複素環基である場合、縮合環を構成する単環のうち、Arが結合する窒素原子と結合している単環が共役二重結合を有していればよい。複素環基が縮合環である場合は、環数3までのものとする。
【0028】
Arが共役二重結合を有する複素環基である場合に複素環基を構成する好適な複素環の例としては、チオフェン、フラン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアゾール、テトラゾール、インドール、1H−インダゾール、プリン、4H−キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、ベンゾフラン、1,3−ベンゾジオキソール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズイミダゾロン、及びフタルイミドが挙げられる。
【0029】
Ar、及びArは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、及びフェノキシ基からなる群より選択される1以上の基により置換されていてもよい。炭素原子数1〜6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基等が挙げられる。また、炭素原子数1〜6のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、iso−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、iso−ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0030】
また、Ar、及びArが、Ar、及びAr上の隣接位に置換基を有する場合、複数の置換基は互いに結合して縮合環を形成してもよい。隣接する置換基が縮合環を形成する場合、縮合環は5員環、又は6員環であるのが好ましい。
【0031】
一般式(1)において、Arは同一であってもよく、異なっていてもよい。トリアリールアミン誘導体の製造工程を簡略化でき、低コストでトリアリールアミンを製造可能であることから、一般式(1)で表される化合物は、Arとして同一の基を有するのが好ましい。
【0032】
一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体のうち、好適な化合物の具体例としては、以下のHTM−1〜HTM−7が挙げられる。
【0033】
【化4】

【0034】
【化5】

【0035】
〔トリアリールアミン誘導体の製造方法〕
一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の製造方法は、特に限定されない。一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の好適な製造方法としては、例えば、以下に説明する工程(a)〜工程(c)を含む方法が挙げられる。
【0036】
(工程(a))
工程(a)は、一般式(2)で表される化合物と亜リン酸トリエチルとを反応させて、一般式(3)で表される化合物を製造する工程であって、下記反応式で表される。なお、一般式(2)で表される化合物において、Arは一般式(1)で表される化合物と同様であり、Xはハロゲン原子である。Xとしては、亜リン酸トリエチルとの反応性の点で、塩素、又は臭素が好ましい。
【0037】
【化6】

【0038】
工程(a)の反応における、一般式(2)で表される化合物に対する亜リン酸トリエチルの使用量は、工程(a)の反応が良好に進行する限り特に限定されない。典型的には、亜リン酸トリエチルの使用量は、一般式(2)で表される化合物に対して等モル〜2.5倍モルが好ましい。亜リン酸トリエチルの使用量が過少であると、一般式(3)で表される化合物に、未反応の一般式(2)で表される化合物が混入しやすく、精製の負荷が増大する。亜リン酸トリエチルの使用量が過多であると、一般式(3)で表される化合物の製造コストが増大する。
【0039】
工程(a)における反応温度は、工程(a)の反応が良好に進行する限り特に限定されないが、160〜200℃が好ましい。また、工程(a)の反応は、典型的には2〜6時間で行われる。
【0040】
(工程(b))
工程(b)は、工程(a)で得られた一般式(3)で表される化合物と、一般式(4)で表される3−(4−ハロフェニル)アクリルアルデヒドとを反応させて、一般式(5)で表される化合物を製造する工程であって、下記反応式で表される。なお、一般式(4)において、Xはハロゲン原子であり、Xとしては、後述する工程(c)における反応性の点で、塩素、又は臭素が好ましい。
【0041】
【化7】

【0042】
工程(b)の反応における、一般式(3)で表される化合物に対する一般式(4)で表される化合物の使用量は、工程(b)の反応が良好に進行する限り特に限定されない。典型的には、一般式(4)で表される化合物の使用量は、一般式(3)で表される化合物に対して、等モル〜2.5倍モルが好ましい。
【0043】
工程(b)における反応温度は、工程(b)の反応が良好に進行する限り特に限定されないが、−20〜30℃が好ましい。また、工程(b)の反応は、典型的には5〜30時間で行われる。
【0044】
工程(b)の反応は塩基の存在下に行われる。工程(b)において使用される好適な塩基としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;n−ブチルリチウム等のアルキルリチウムが挙げられる。これらの塩基は、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0045】
工程(b)における塩基の使用量は、一般式(4)で表される化合物に対して1倍〜1.5倍モルが好ましい。塩基の使用量が過少であれば、工程(b)の反応の反応性が著しく低下する場合がある。塩基の使用量が過多であれば、工程(b)の反応の制御が困難となる場合がある。
【0046】
工程(b)において使用する溶媒は、工程(b)の反応に不活性であれば特に限定されない。好適な溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0047】
(工程(c))
工程(c)は、一般式(6)で表されるアミン1モルと、一般式(5)で表される化合物(2)モルとを反応させて、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を製造する工程であって、下記反応式で表される。なお、一般式(6)において、Arは一般式(1)で表される化合物と同様である。
【0048】
【化8】

【0049】
工程(c)の反応における、一般式(5)で表される化合物に対する一般式(6)で表される化合物の使用量は、工程(c)の反応が良好に進行する限り特に限定されない。典型的には、一般式(5)で表される化合物の使用量は、一般式(6)で表される化合物に対して、2倍モル〜5倍モルが好ましい。
【0050】
工程(c)における反応温度は、工程(c)の反応が良好に進行する限り特に限定されないが、80〜140℃が好ましい。また、工程(c)の反応は、典型的には2〜10時間で行われる。
【0051】
工程(c)の反応は、パラジウム触媒と塩基との存在下に行うのが好ましい。かかる場合、反応液中で発生するハロゲン化水素がすみやかに中和されるために触媒活性が向上し、パラジウム触媒により工程(c)の反応の活性化エネルギーを良好に低下させることができる。このため、パラジウム触媒と塩基とを使用することにより、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を特に良好な収率で得ることができる。
【0052】
触媒として好適に使用できるパラジウム化合物の具体例としては、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物及びヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物等の四価パラジウム化合物;塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセテート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)及びジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)等の二価のパラジウム化合物;トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等のパラジウム化合物が挙げられる。パラジウム触媒は、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0053】
パラジウム触媒の使用量は、工程(c)の反応が良好に進行する限り特に限定されないが、一般式(6)のアミン1モルに対して0.00025〜20モルが好ましく、0.0005〜10モルがより好ましい。
【0054】
工程(c)の反応において使用される塩基は、反応が良好に進行する限り特に限定されず、無機塩基、及び有機塩基の何れも使用できる。工程(c)の反応において好適に使用される塩基の具体例としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、及びカリウム−tert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコシドが挙げられる。アルカリ金属アルコキシドの中では、ナトリウム−tert−ブトキシドが特に好ましい。また、リン酸三カリウム及びフッ化セシウム等の無機塩基も好適に使用できる。
【0055】
工程(c)の反応における塩基の使用量は、パラジウム触媒の使用量にもよるが、例えば、一般式(6)のアミン1モルに対して、パラジウム化合物0.005モルを加えた場合であれば、0.995〜5モルが好ましく、1〜5モルがより好ましい。
【0056】
工程(c)において使用する溶媒は、工程(c)の反応に不活性であれば特に限定されない。好適な溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0057】
なお、Arが2種類の異なる基であって、非対称型である一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体は、工程(c)における、一般式(6)のアミンと、一般式(5)で表される化合物との反応を2段階に分けて行うことにより製造できる。具体的には、1段階目で、一般式(6)のアミンと、一般式(5)で表される化合物との反応によりジアリールアミン誘導体を製造し、次いで、2段階目で、1段階目で得られたジアリールアミン誘導体と、1段階目とは異なる一般式(5)で表される化合物とを反応させることにより、非対称型のトリアリールアミン誘導体を製造できる。
【0058】
第1実施形態にかかるトリアリールアミン誘導体を、電子写真感光体における正孔輸送剤として使用することにより、感度特性に優れる電子写真感光体が得られる。また、正帯電単層型電子写真感光体である担持体と、像担持体の表面を帯電させる接触帯電方式の帯電部とを組み合わせて備える画像形成装置では、転写メモリーによる画像不良が発生しやすい。しかし、かかる画像形成装置において、像担持体である正帯電単層型電子写真感光体の感光層に含まれる正孔輸送剤として第1実施形態にかかるトリアリールアミン誘導体を用いる場合、転写メモリーの発生を抑制でき、これにより画像不良の発生を抑制できる。
【0059】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1実施形態にかかるトリアリールアミン誘導体を正孔輸送剤として感光層に含む電子写真感光体(以下、単に感光体とも記す)に関する。
【0060】
具体的には、第2実施形態は、導電性基体上に感光層が形成された電子写真感光体であって、感光層は、
1)少なくとも電荷発生剤を含有する電荷発生層、少なくとも電荷輸送剤とバインダー樹脂とを含有する電荷輸送層が順次積層された積層型感光層、又は、
2)少なくとも電荷発生剤、電荷輸送剤、及びバインダー樹脂を含有する単層型感光層であり、
電荷輸送剤が、正孔輸送剤として第1実施形態のトリアリールアミン誘導体を含有する電子写真感光体に関する。つまり、第2実施形態にかかる電子写真感光体の構造は特に限定されず、積層型電子写真感光体であっても、単層型電子写真感光体であってもよい。
【0061】
なお、本出願の明細書及び特許請求の範囲において、積層型感光体の電荷輸送層、又は単層型積層体の感光層に含まれる樹脂を「バインダー樹脂」と呼ぶ。また、積層型感光体の電荷発生層が樹脂を含む場合に、電荷発生層に含まれる樹脂を「ベース樹脂」と呼ぶ。以下、第2実施形態にかかる電子写真感光体について、積層型電子写真感光体、及び単層型電子写真感光体の順に説明する。
【0062】
〔積層型電子写真感光体〕
図1(a)に示すように、電子写真感光体において積層型感光体10は、導電性基体11上に蒸着又は塗布等の手段によって、電荷発生剤を含有する電荷発生層12を形成し、次いで電荷発生層12上に、電荷輸送剤と特定のバインダー樹脂とを含む塗布液を塗布した後に乾燥させて電荷輸送層13を形成することにより作成できる。
【0063】
積層型の電子写真感光体は、電荷輸送剤の種類を適宜選択することにより、正負何れの帯電方式にも適用可能である。
【0064】
また、図1(b)に示すように、感光層を形成する前に、導電性基体11上に、下引き層14を予め形成しておくことも好ましい。下引き層14を設けることにより、導電性基体11側の電荷の感光層への注入を防ぐとともに、感光層の導電性基体11上への結着を強固にし、導電性基体11の表面上の欠陥を被覆して平滑化することができるためである。
【0065】
以下、積層型感光体に関して、導電性基体、感光層、及び感光層の作成方法について順に説明する。
【0066】
(導電性基体)
導電性基体は、電子写真感光体の導電性基体として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、導電性を有する材料で少なくとも表面部が構成されるもの等が挙げられる。すなわち、具体的には、例えば、導電性を有する材料からなるものであってもよいし、プラスチック材料等の表面を、導電性を有する材料で被覆したものであってもよい。また、導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等が挙げられる。また、導電性を有する材料としては、導電性を有する材料を1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて、例えば、合金等として用いてもよい。また、導電性基体としては、上記の中でも、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることが好ましい。そうすることによって、より好適な画像を形成することができる感光体を提供することができる。このことは、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることによると考えられる。
【0067】
導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて適宜選択することができ、例えば、シート状、ドラム状等の基体が好適に使用できる。
【0068】
(感光層)
積層型感光体は、導電性基体上に形成された、少なくとも電荷発生剤を含む電荷発生層、及び少なくとも電荷輸送剤とバインダー樹脂とを含む電荷輸送層から構成され、電荷発生層はベース樹脂を含んでいてもよい。以下、バインダー樹脂、電荷輸送剤、電荷発生剤、ベース樹脂について順に説明する。
【0069】
<バインダー樹脂>
電荷輸送層において用いるバインダー樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から積層型感光体の電荷輸送層において使用されているバインダー樹脂から適宜選択して用いることができる。好適なバインダー樹脂の具体例としては、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールZC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、及びウレタン−アクリレート樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
<電荷輸送剤>
電荷輸送剤としては、一般的に、正孔輸送剤と電子輸送剤とが挙げられる。第2実施形態にかかる電子写真感光体が積層型である場合、電荷輸送層は、正孔輸送剤として、第1実施形態にかかるトリアリールアミン誘導体である、一般式(1)で表される化合物を含有する。
【0071】
電荷輸送層は、本発明の目的を阻害しない範囲で、一般式(1)で表される化合物の他に、従来から電子写真感光体において電荷輸送剤として使用される種々の化合物を含んでいてもよい。一般式(1)で表される化合物とともに使用できる正孔輸送剤としては、例えば、ベンジジン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、一般式(1)で表される化合物の他のトリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等が挙げられる。
【0072】
電子輸送剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から電子写真感光体の感光層において使用されている電子輸送剤から適宜選択して用いることができる。好適な電子輸送剤の具体例としては、ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、アゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、及びジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。これらの中では、キノン誘導体がより好ましい。
【0073】
<電荷発生剤>
電荷発生剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から電子写真感光体の感光層において使用されている電荷発生剤から適宜選択して用いることができる。好適な電荷発生剤の具体例としては、X型無金属フタロシアニン(X−HPc)、Y型オキソチタニルフタロシアニン(Y−TiOPc)、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、及びキナクリドン系顔料等が挙げられる。
【0074】
また、電荷発生剤は、所望の領域に吸収波長を有するように、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、前述の各電荷発生剤のうち、特に半導体レーザー等の光源を使用したレーザービームプリンターやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、無金属フタロシアニンやオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。なお、上記フタロシアニン系顔料の結晶形については特に限定されず、種々のものが使用される。また、ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、ペリレン顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0075】
<ベース樹脂>
電荷発生層を導電性基体上に、電荷発生剤を含む溶液を塗布して形成する場合、電荷発生剤とともにベース樹脂が使用される。本発明において電荷発生層に用いるベース樹脂は、電荷輸送層において使用されるバインダー樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
しかしながら、積層感光体は一般的に電荷発生層、電荷輸送層の順に塗工されるため、電荷輸送層の塗工において、電荷発生層がその塗工溶剤に溶解しないようなベース樹脂が選択される。
【0076】
(感光層の作成方法)
積層型感光体における感光層は、導電性基体上、又は、導電性基体上に形成された下引き層の上に、電荷発生層及び電荷輸送層を順次積層して形成される。
【0077】
積層型感光体における電荷発生層の膜厚は0.1〜5μmが好ましく、0.1〜3μmがより好ましい。また、電荷輸送層の膜厚は2〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。
【0078】
電荷発生層における電荷発生剤の含有量は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。電荷発生層と塗布液の塗布により形成する場合、電荷発生剤の量は、ベース樹脂100質量部に対して10〜500質量部が好ましく、30〜300質量部であるのがより好ましい。
【0079】
電荷輸送層における電荷輸送剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。電荷輸送層における電荷輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して65質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、10〜50質量部が特に好ましい。電荷輸送剤の量をかかる範囲とすることにより、耐摩耗性に優れた積層型感光体を得やすい。
【0080】
電荷輸送層には、一般式(1)で表される化合物を正孔輸送剤として含む電荷輸送剤が含まれる。電荷輸送層における一般式(1)で表される化合物の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、20〜150質量部が好ましく、40〜100質量部がより好ましい。一般式(1)で表される化合物の含有量をかかる範囲の値とすることで、感度特性に優れる積層型感光体を形成しやすい。
【0081】
電荷発生層の形成方法としては、電荷発生剤の真空蒸着、又は少なくとも電荷発生剤、ベース樹脂、及び溶剤を含む塗布液の塗布が挙げられる。電荷発生層の形成方法としては、高価な蒸着装置が不要であり、製膜操作が容易であることから、少なくとも電荷発生剤、ベース樹脂、及び溶剤を含む塗布液の塗布が好ましい。また、電荷輸送層の形成方法としては、少なくとも、電荷輸送剤、バインダー樹脂、及び溶剤を含む塗布液の塗布が挙げられる。
【0082】
感光層形成用の塗布液の調製に用いる溶媒としては、感光層形成用塗布液に従来用いられている種々の有機溶剤が使用可能である。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;N,N−ジメチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性有機溶媒が挙げられる。
【0083】
電荷発生層用又は電荷輸送層用の塗布液には、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、従来公知の種々の添加剤を配合することができる。塗布液に配合する好適な添加剤としては、例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー等が挙げられる。また、電荷輸送剤や電荷発生剤の分散性、感光層表面の平滑性をよくするために界面活性剤、レベリング剤等を使用してもよい。
【0084】
電荷発生層用又は電荷輸送層用の塗布液の塗布方法は特に限定されないが、例えば、スピンコーター、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、ディップコーター、ドクターブレード等を用いる方法が挙げられる。
【0085】
上記の方法により、塗布液を塗布して形成された皮膜は、高温乾燥機や減圧乾燥機等を用いて乾燥することにより溶媒を除去され電荷発生層及び電荷輸送層とされる。乾燥温度としては40〜150℃が好ましい。かかる温度範囲で、皮膜を乾燥することにより、溶媒の除去が速やかに進行し、均一な厚さの電荷発生層及び電荷輸送層を効率よく形成できるためである。乾燥温度が高すぎる場合、感光層に含まれる成分が熱分解する場合があり好ましくない。
【0086】
なお、下引き層は、樹脂と、酸化亜鉛や酸化チタン等の無機微粒子と、溶媒とから塗布液を調製し、これを導電性基体上に塗布した後に乾燥して形成することができる。
【0087】
〔単層型電子写真感光体〕
第2実施形態にかかる電子写真感光体は、正負何れの帯電方式においても使用できること、感光層が単一の層であることから感光体の製造が容易であること、層間の界面が少なく光学的特性に優れること等から、単層型感光体とすることも好ましい。
【0088】
図2(a)に示すように、電子写真感光体において単層型感光体20は、導電性基体11上に単一の感光層21を設けたものである。単層型感光体における感光層は、例えば、電荷輸送剤と、電荷発生剤と、バインダー樹脂と、必要に応じてレベリング剤等とを適当な溶媒に溶解又は分散させて得た塗布液を、導電性基体11上に塗布した後に乾燥することにより形成できる。
【0089】
また、図2(b)に示すように、導電性基体11上に、下引き層14を介して感光層21を形成することも好ましい。
【0090】
以下、単層型感光体に関して、導電性基体、感光層、及び感光層の作成方法について順に説明する。
【0091】
(導電性基体)
本発明において単層型感光体に用いる導電性基体は、前述の積層型感光体に用いる導電性基体と同様の材料からなる基体を使用できる。また、導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて適宜選択することができ、例えば、シート状、ドラム状等の基体が好適に使用できる。
【0092】
(感光層)
単層型感光体における感光層を構成する主たる材料としては、バインダー樹脂、電荷輸送剤、及び電荷発生剤が挙げられる。バインダー樹脂は、積層型感光体の電荷輸送層に含まれるバインダー樹脂と同様の樹脂を用いる。また、電荷輸送剤及び電荷発生剤は、積層型感光体と同様の材料を使用する。
【0093】
(感光層の作成方法)
単層型感光体の感光層は、電荷輸送剤、電荷発生剤、バインダー樹脂、及び溶媒から塗布液を調製し、積層型感光体における電荷発生層、及び電荷輸送層の形成方法と同様の方法により形成することができる。
【0094】
単層型感光体の感光層における、電子輸送剤の使用量は、バインダー樹脂100質量部に対して55質量部以下が好ましく、5〜55質量部がより好ましく、10〜55質量部が特に好ましい。また、感光層中に正孔輸送剤として含まれる一般式(1)で表される化合物の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、20〜150質量部が好ましく、40〜100質量部がより好ましい。一般式(1)で表される化合物の含有量をかかる範囲の値とすることで、感度特性に優れる単層型感光体を形成しやすい。なお、電荷輸送剤の量は電荷輸送層における正孔輸送剤と電子輸送剤の量の合計量である。
【0095】
単層型感光体の感光層における、電荷発生剤の使用量は、バインダー樹脂100質量部に対して0.01〜30質量部が好ましく、0.1〜20質量部がより好ましく、0.4〜10質量部が特に好ましい。電荷発生剤の使用量をかかる範囲とする場合、感光体の耐摩耗性を低下させることなく、電気特性に優れる感光体を製造できる。
【0096】
単層型感光体の感光層の厚さは、感光層として好適な機能を有する限り特に限定されない。具体的には、感光層の厚さは、5〜100μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。
【0097】
以上、説明した、第2実施形態にかかる電子写真感光体は、感光層中に正孔輸送剤として一般式(1)で表される化合物を含有するため、感度特性に優れたものである。また、正帯電単層型電子写真感光体である担持体と、像担持体の表面を帯電させる接触帯電方式の帯電部とを組み合わせて備える画像形成装置では、転写メモリーによる画像不良が発生しやすい。しかし、かかる画像形成装置において、像担持体として第2実施形態の電子写真感光体を正帯電単層型電子写真感光体として使用する場合、電子写真感光体の感光層中に正孔輸送剤として一般式(1)で表される化合物を含有するため、転写メモリーの発生を抑制でき、これにより画像不良の発生を抑制できる。
【0098】
[第3実施形態]
第3実施形態は、像担持体と、像担持体の表面を帯電するための帯電部と、帯電された像担持体の表面を露光して像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、トナー像を像担持体から被転写体へ転写するための転写部とを備え、像担持体として第2実施形態にかかる電子写真感光体を用いる画像形成装置に関する。
【0099】
第3実施形態にかかる画像形成装置において、帯電部、露光部、現像部、及び転写部等の像担持体の他の構成要素は、従来の画像形成装置において使用されるものから適宜選択することができる。第3実施形態にかかる画像形成装置は、正孔輸送剤として一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を含有する、第2実施形態にかかる電子写真感光体を像担持体として備えるため、感度特性に優れる。
【0100】
以下、第3実施形態にかかる画像形成装置の代表例として、像担持体と、像担持体の表面を帯電するための接触帯電方式の帯電部と、帯電された像担持体の表面を露光して像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、トナー像を像担持体から被転写体へ転写するための転写部とを備え、像担持体として、第2実施形態にかかる電子写真感光体として正帯電単層型電子写真感光体を備える画像形成装置について説明する。
【0101】
以下説明する画像形成装置は、正帯電単層型電子写真感光体である像担持体と、接触帯電方式の帯電部とを組み合わせて備えるため、電子写真感光体の寿命やオフィス環境に悪影響を与えるオゾン等の酸化性ガスの発生を抑制できる。
【0102】
第3実施形態にかかる画像形成装置としては、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が好ましい。より具体的には、例えば、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が挙げられる。ここでは、タンデム方式のカラー画像形成装置について説明する。
【0103】
なお、以下説明する正帯電単層型電子写真感光体を備えた画像形成装置は、各表面上にそれぞれ異なった各色のトナーによるトナー像を形成させるために、所定方向に並設された、複数の像担持体と、各像担持体に対向して配置され、表面にトナーを担持して搬送し、搬送されたトナーを、各像担持体の表面にそれぞれ供給する、現像ローラーを備えた複数の現像部とを備え、第2実施形態にかかる電子写真感光体として正帯電単層型電子写真感光体を像担持体として用いる。
【0104】
図3は、正帯電単層型電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。ここでは、画像形成装置としては、カラープリンター1を例に挙げて説明する。
【0105】
このカラープリンター1は、図3に示すように、箱型の機器本体1aを有している。この機器本体1a内には、用紙Pを給紙する給紙部2と、この給紙部2から給紙された用紙Pを搬送しながら当該用紙Pに画像データ等に基づくトナー像を転写する画像形成部3と、この画像形成部3で用紙P上に転写された未定着トナー像を用紙Pに定着する定着処理を施す定着部4とが設けられている。さらに、機器本体1aの上面には、定着部4で定着処理の施された用紙Pが排紙される排紙部5が設けられている。
【0106】
給紙部2は、給紙カセット121、ピックアップローラー122、給紙ローラー123,124,125、及びレジストローラー126を備えている。給紙カセット121は、機器本体1aから挿脱可能に設けられ、各サイズの用紙Pを貯留する。ピックアップローラー122は、給紙カセット121の図3に示す左上方位置に設けられ、給紙カセット121に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。給紙ローラー123,124,125は、ピックアップローラー122によって取り出された用紙Pを用紙搬送路に送り出す。レジストローラー126は、給紙ローラー123,124,125によって用紙搬送路に送り出された用紙Pを一時待機させた後、所定のタイミングで画像形成部3に供給する。
【0107】
また、給紙部2は、機器本体1aの図3に示す左側面に取り付けられる不図示の手差しトレイとピックアップローラー127とをさらに備えている。このピックアップローラー127は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。ピックアップローラー127によって取り出された用紙Pは、給紙ローラー123,125によって用紙搬送路に送り出され、レジストローラー126によって、所定のタイミングで画像形成部3に供給される。
【0108】
画像形成部3は、画像形成ユニット7と、この画像形成ユニット7によってその表面(接触面)にコンピューター等から電送された画像データに基づくトナー像が1次転写される中間転写ベルト31と、この中間転写ベルト31上のトナー像を給紙カセット121から送り込まれた用紙Pに2次転写させるための2次転写ローラー32とを備えている。
【0109】
画像形成ユニット7は、上流側(図3では右側)から下流側に向けて順次配設されたブラック用ユニット7Kと、イエロー用ユニット7Yと、シアン用ユニット7Cと、マゼンタ用ユニット7Mとを備えている。各ユニット7K,7Y,7C及び7Mは、それぞれの中央位置に像担持体としての正帯電単層型電子写真感光体37(以下、感光体37)が矢符(時計回り)方向に回転可能に配置されている。そして、各感光体37の周囲には、帯電部39、露光部38、現像部71、及び不図示のクリーニング部と、必要に応じて不図示の除電部とが、回転方向上流側から順に各々配置されている。なお、感光体37としては、第2の実施形態にかかる電子写真感光体として正帯電単層型電子写真感光体を用いる。
【0110】
帯電部39は、矢符方向に回転されている感光体37の周面を均一に帯電させる。帯電部39の具体例としては、帯電ローラー及び帯電ブラシ等が感光体37に接触したまま、感光体37の周面(表面)を帯電させる、接触方式の帯電ローラー及び帯電ブラシ等を備えた帯電部が挙げられ、帯電ローラーを備えた帯電部が好ましく用いられる。
【0111】
接触方式の帯電ローラーを備えた帯電部は、帯電ローラーが感光体37と接触したまま、感光体37の周面(表面)を帯電させる。このような帯電ローラーとしては、例えば、感光体37と接触したまま、感光体37の回転に従属して回転するもの等が挙げられる。また、帯電ローラーとしては、例えば、少なくとも表面部が樹脂で構成されたローラー等が挙げられる。より具体的には、例えば、回転可能に軸支された芯金と、芯金上に形成された樹脂層と、芯金に電圧を印加する電圧印加部とを備えたもの等が挙げられる。このような帯電ローラーを備えた帯電部は、電圧印加部によって、芯金に電圧を印加することによって、樹脂層を介して接触する感光体37の表面を帯電させることができる。
【0112】
電圧印加部により帯電ローラーに印加される電圧は特に制限されないが、直流電圧のみであることが好ましい。帯電ローラーにより積層型電子写真感光体に印加する直流電圧は、100〜2000Vが好ましく、1200〜1800Vがより好ましく、1400〜1600Vが特に好ましい。交流電圧や直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を帯電ローラーに印加する場合より、帯電ローラーに直流電圧のみを印加する場合のほうが、好適な画像を形成することができる。
【0113】
画像形成装置が帯電ローラーを備える直流電圧を印加する帯電部と、像担持体として正帯電単層型電子写真感光体とを備える場合、特に転写メモリーが発生しやすい傾向があったが、第2実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を像担持体として用いる場合、転写メモリーが抑制され画像不良の発生を抑制することができる。
【0114】
また、帯電ローラーの樹脂層を構成する樹脂は、感光体37の周面を良好に帯電させることができれば特に限定されない。樹脂層に用いる樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン変性樹脂等が挙げられる。また、樹脂層には、無機充填材を含有させていてもよい。
【0115】
露光部38は、いわゆるレーザー走査ユニットであり、帯電部39によって均一に帯電された感光体37の周面に、上位装置であるパーソナルコンピューター(PC)から入力された画像データに基づくレーザー光を照射し、感光体37上に画像データに基づく静電潜像を形成する。現像部71は、静電潜像が形成された感光体37の周面にトナーを供給することで、画像データに基づくトナー像を形成させる。そして、このトナー像が中間転写ベルト31に1次転写される。クリーニング部は、中間転写ベルト31へのトナー像の1次転写が終了した後、感光体37の周面に残留しているトナーを清掃する。除電部は、1次転写が終了した後、感光体37の周面を除電する。クリーニング部及び除電部によって清浄化処理された感光体37の周面は、新たな帯電処理のために帯電部へ向かい、新たな帯電処理が行われる。
【0116】
中間転写ベルト31は、無端状のベルト状回転体であって、表面(接触面)側が各感光体37の周面にそれぞれ当接するように駆動ローラー33、従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36等の複数のローラーに架け渡されている。また、中間転写ベルト31は、各感光体37と対向配置された1次転写ローラー36によって感光体37に押圧された状態で、複数のローラーによって回転するように構成されている。駆動ローラー33は、ステッピングモーター等の駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト31を回転させるための駆動力を与える。従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36は、回転自在に設けられ、駆動ローラー33による中間転写ベルト31の回転に伴って従動回転する。これらのローラー34,35,36は、駆動ローラー33の主動回転に応じて中間転写ベルト31を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト31を支持する。
【0117】
1次転写ローラー36は、1次転写バイアス(トナーの帯電極性とは逆極性)を中間転写ベルト31に印加する。そうすることによって、各感光体37上に形成されたトナー像は、各感光体37と1次転写ローラー36との間で、駆動ローラー33の駆動により矢符(反時計回り)方向に周回する中間転写ベルト31に重ね塗り状態で順次転写(1次転写)される。この後、所望により、除電光により各感光体37の表面を除電するための除電部(図示せず)による除電が行われた後に、各感光体37はさらに回転され、次のプロセスに移行する。
【0118】
2次転写ローラー32は、トナー像と逆極性の2次転写バイアスを用紙Pに印加する。そうすることによって、中間転写ベルト31上に1次転写されたトナー像は、2次転写ローラー32とバックアップローラー35との間で用紙Pに転写され、これによって、用紙Pにカラーの転写画像(未定着トナー像)が転写される。
【0119】
定着部4は、画像形成部3で用紙Pに転写された転写画像に定着処理を施すものであり、通電発熱体により加熱される加熱ローラー41と、この加熱ローラー41に対向配置され、周面が加熱ローラー41の周面に押圧当接される加圧ローラー42とを備えている。
【0120】
そして、画像形成部3で2次転写ローラー32により用紙Pに転写された転写画像は、当該用紙Pが加熱ローラー41と加圧ローラー42との間を通過する際の加熱による定着処理で用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部5へ排紙されるようになっている。また、本実施形態のカラープリンター1では、定着部4と排紙部5との間の適所に搬送ローラー6が配設されている。
【0121】
排紙部5は、カラープリンター1の機器本体1aの頂部が凹没されることによって形成され、この凹没した凹部の底部に排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ51が形成されている。
【0122】
カラープリンター1は、以上のような画像形成動作によって、用紙P上に画像形成を行う。そして、上記のようなタンデム方式の画像形成装置では、像担持体として、第2実施形態にかかる電子写真感光体が備えられているので、帯電方式が接触帯電方式であり、像担持体が正帯電単層型電子写真感光体である転写メモリーが生じやすい条件であっても、転写メモリーが生じ難いため、好適な画像を形成することができる画像形成装置が得られる。
【実施例】
【0123】
実施例、及び比較例において、正孔輸送剤(HTM)として、以下のHTM−1〜HTM−9を使用した。また、電子輸送剤(ETM)として、以下のETM−1、及びETM−2を使用した。
【0124】
<正孔輸送剤>
【化9】

【0125】
【化10】

【0126】
【化11】

【0127】
<電子輸送剤>
【化12】

【0128】
〔合成例1〕
(HTM−1の製造)
<工程(a)>
容量200mlのナス型フラスコに、化合物(1−a)20.0g(0.13モル)、及び亜リン酸トリエチル25.0g(0.15モル)を入れ、180℃で5時間反応を行った。冷却後、余剰の亜リン酸トリエチルを減圧下に加熱して留去し、白色の液体として化合物(1−b)29.8gを収率90%で得た。
【0129】
【化13】

【0130】
<工程(b)>
アルゴンガスにより置換された容量500mlの2口フラスコを0℃に冷却した後、同温度を保ちながら、化合物(1−b)20.0g(0.08モル)、乾燥テトラヒドロフラン100ml、及び濃度28質量%のナトリウムメトキシドのメタノール溶液16.7g(0.09モル)を2口フラスコに仕込んだ。同温度で、フラスコ内を30分撹拌した後、化合物(1−c)13.1g(0.08モル)と乾燥テトラヒドロフラン100mlを加え、室温にて撹拌して12時間反応を行った。反応終了後、反応液をイオン交換水300mlに注ぎ、室温で、トルエン100mlにて化合物(1−d)を抽出した。抽出後の有機層(トルエン層)を、イオン交換水100mlにより5回洗浄した。水洗後の有機層を無水硫酸ナトリウムにより乾燥させ、硫酸ナトリウムをろ過した後、有機層を乾固させた。残渣を、トルエン20ml及びメタノール100mlからなる混合溶媒により再結晶して、化合物(1−d)の白色結晶16.8gを収率80%で得た。
【0131】
【化14】

【0132】
<工程(c)>
アルゴンガスにより置換された容量300mlの2口フラスコに、化合物(1−d)12.5g(0.0469モル)、2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル0.082g(0.002モル)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)0.108g(0.0001モル)、ナトリウムtert−ブトキシド4.87g(0.0507モル、化合物(1−e)3.20g(0.0234モル)、及び蒸留されたo−キシレン100mlを加え、120℃にて撹拌して5時間反応を行った。反応液を室温まで冷却した後、反応液を活性白土により処理した。処理後の反応液から溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒、クロロホルム/ヘキサン)により残渣を精製し、HTM−1の黄橙色結晶12.0gを収率86%で得た。得られたトリアリールアミン誘導体のH−NMR(300MHz)のチャートを図4に示す(溶媒:CDCl、基準物質:TMS)。
【0133】
【化15】

【0134】
〔合成例2〕
(HTM−2の製造)
化合物(1−e)をp−tert−ブチルアニリンに変えることの他は、合成例1と同様にしてHTM−2を12.2g得た。工程(c)における収率は86%であった。得られたトリアリールアミン誘導体のH−NMR(300MHz)のチャートを図5に示す(溶媒:CDCl、基準物質:TMS)。
【0135】
〔合成例3〕
(HTM−3の製造)
化合物(1−e)を5−アミノテトラリンに変えることの他は、合成例1と同様にしてHTM−3を11.8g得た。工程(c)における収率は83%であった。得られたトリアリールアミン誘導体のH−NMR(300MHz)のチャートを図6に示す(溶媒:CDCl、基準物質:TMS)。
【0136】
〔合成例4〕
(HTM−4の製造)
化合物(1−e)をo−トルイジンに変えることの他は、合成例1と同様にしてHTM−4を11.7g得た。工程(c)における収率は88%であった。得られたトリアリールアミン誘導体のH−NMR(300MHz)のチャートを図7に示す(溶媒:CDCl、基準物質:TMS)。
【0137】
〔合成例5〕
(HTM−5の製造)
化合物(1−e)を2−アミノビフェニルに変えることの他は、合成例1と同様にしてHTM−5を12.1g得た。工程(c)における収率は82%であった。
【0138】
〔合成例6〕
(HTM−6の製造)
化合物(1−e)を3,4−メチレンジオキシアニリンに変えることの他は、合成例1と同様にしてHTM−6を11.1g得た。工程(c)における収率は80%であった。
【0139】
〔合成例7〕
(HTM−7の製造)
化合物(1−e)を2−エチル−6−メチルアニリンに変えることの他は、合成例1と同様にしてHTM−7を11.5g得た。工程(c)における収率は83%であった。得られたトリアリールアミン誘導体のH−NMR(300MHz)のチャートを図8に示す(溶媒:CDCl、基準物質:TMS)。
【0140】
〔実施例1〜9、及び比較例1〕
<単層型電子写真感光体の感度の評価>
表1に記載の電荷発生剤、正孔輸送剤、及び電子輸送剤を用いて、下記方法に従って単層型電子写真感光体を作成し、単層型電子写真感光体の感度の評価を行った。
【0141】
(塗布液の調製)
電荷発生剤(X型無金属フタロシアニン(X−HPC))5質量部、表1に記載の正孔輸送剤80質量部、表1に記載の電子輸送剤50質量部、及びバインダー樹脂(ポリカーボネート)100質量部と、溶剤(テトラヒドロフラン)800質量部とを、ボールミルに仕込み、50時間混合・分散させて単層型感光体用の塗布液を調製した。なお、実施例10では、X型無金属フタロシアニンに変えてY型チタニルフタロシアニン(Y−TiOPc)を電荷発生剤として用いて塗布液を調製した。
【0142】
(単層型感光体の作成)
得られた塗布液を、ディップコート法により導電性基材(アルミニウム素管)上に塗布した後、塗膜を100℃にて30分間熱風により乾燥させて、膜厚25μmの単層型電子写真感光体を作成した。
【0143】
(感度測定)
ドラム感度試験機(GENTEC社製)を用いて、単層型電子写真感光体の表面電位を+700V(V)に帯電させた状態でハロゲンランプの白色光からバンドパスフィルターを用いて取り出した波長780nmの単色光(半値幅20nm、光強度1.5μJ/m)を感光体表面に1.5秒間照射した。露光開始から0.5秒経過した時点での感光体の表面の残留電位をVとして感光体の感度を測定した。実施例1〜9、及び比較例1の感光体の感度(V)を、表1に記す。
【0144】
【表1】

【0145】
表1によれば、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体であるHTM−1〜HTM−7を正孔輸送剤として用いた単層型電子写真感光体は、従来知られる正孔輸送剤であるHTM−8を用いた単層型電子写真感光体よりも、残留電位(V)が低く感度特性に優れることが分かる。
【0146】
〔実施例10〜16、及び比較例2〕
<積層型電子写真感光体の評価>
表2に記載の電荷発生剤、及び正孔輸送剤を用いて、下記方法に従って積層型電子写真感光体を作成し、積層型電子写真感光体の感度の評価を行った。
【0147】
(下引き層の形成)
アルミナとシリカとにより表面処理された後、湿式分散しながらメチルハイドロジェンポリシロキサンにより表面処理された酸化チタン(SMT−02(試作品)、テイカ株式会社製、数平均一次粒子径10nm)2.8質量部と、共重合ポリアミド樹脂(ダイアミドX4685、ダイセル・デグサ株式会社製)1質量部とを、エタノール10質量部、及びブタノール2質量部とともに、ビーズミルにより5時間分散させて、下引き層用の塗布液を調製した。
【0148】
得られた下引き層用の塗布液を、孔径5μmのフィルターによりろ過した後、アルミニウム製のドラムである導電性支持体上にディップコート法により塗布し、130℃で30分熱処理して、膜厚1.5μmの下引き層を形成した。
【0149】
(積層型感光体の作成)
電荷発生剤(Y型チタニルフタロシアニン顔料)1質量部と、バインダー樹脂(ポリビニルブチラール樹脂、デンカブチラール#6000EP、電気化学株式会社製)1質量部とを、プロピレングリコールモノメチルエーテル40質量部、及びテトラヒドロフラン40質量部とともに、ビーズミルにより2時間分散させて、電荷発生層用の塗布液を調製した。
【0150】
得られた電荷発生層用の塗布液を、孔径3μmのフィルターによりろ過した後、導電性支持体表面の下引き層上にディップコート法により塗布し、50℃で5分間乾燥させて、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0151】
次いで、表2に記載の正孔輸送剤70質量部と、酸化防止剤(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)5質量部と、バインダー樹脂(Z型ポリカーボネート樹脂、TS2050、帝人化成株式会社製)100質量部とを、テトラヒドロフラン700質量部に溶解させて、電荷輸送層用の塗布液を調製した。
【0152】
得られた電荷輸送層用の塗布液を電荷発生層用の塗布液と同様に、導電性支持体表面の電荷発生層上に塗布し、130℃にて30分乾燥させて、膜厚20μmの電荷輸送層を形成して、積層型電子写真感光体を作成した。
【0153】
(感度測定)
ドラム感度試験機(GENTEC社製)を用いて、積層型電子写真感光体の表面電位を−700V(V)に帯電させた状態でハロゲンランプの白色光からバンドパスフィルターを用いて取り出した波長780nmの単色光(半値幅20nm、光強度0.4μJ/m)を感光体表面に1.5秒間照射した。露光開始から0.5秒経過した時点での感光体の表面の残留電位をVとして感光体の感度を測定した。実施例10〜16、及び比較例2の感光体の感度(V)を、表2に記す。
【0154】
【表2】

【0155】
表2によれば、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体であるHTM−1〜HTM−7を正孔輸送剤として用いた積層型電子写真感光体は、従来知られる正孔輸送剤であるHTM−8を用いた積層型電子写真感光体よりも、残留電位(V)の絶対値が小さく感度特性に優れることが分かる。
【0156】
〔実施例17〜23、及び比較例3〕
<正帯電単層型電子写真感光体の転写メモリー電位、及び画像の評価>
表3に記載の電荷発生剤、正孔輸送剤、及び電子輸送剤を用いて、実施例8と同様に正帯電単層型電子写真感光体を作成した。得られた正帯電単層型電子写真感光体を用いて、以下の方法に従い、接触帯電方式の帯電部を備える画像形成装置における、転写メモリー電位、及び画像の評価を行った。
【0157】
(転写メモリー電位、及び画像の評価)
実施例17〜23、及び比較例3で得られた正帯電単層型電子写真感光体を、帯電部を帯電ローラーに換装したプリンター(FS−5300DN、京セラミタ株式会社製)に装着し、転写バイアスをオフした時の白紙部電位と転写バイアスをオンした時の白紙部電位との差を転写メモリーとして評価した。また1時間耐久印刷した後、印刷画像を観察し、画像不良の発生の有無を評価した。画像の評価は、画像不良が見られないものを◎とし、一辺10mmのベタパッチがハーフトーン部にゴーストとして現れる状態を○とし、前述のベタパッチがゴーストとして現れるとともに、一辺3mmのアルファベットがゴーストとして現れその文字がはっきり読める状態を×とした。実施例17〜23、及び比較例3の感光体の転写メモリー及び画像の評価結果を表3に示す。
【0158】
【表3】

【0159】
表3によれば、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体であるHTM−1〜HTM−7を正孔輸送剤として用いた単層型電子写真感光体を用いる場合、接触帯電方式の帯電部を備える転写メモリーが発生しやすい画像形成装置であっても、転写メモリー電位の絶対値を低くすることができ、ゴーストのない良好な画像を得やすいことが分かる。他方、従来知られる正孔輸送剤であるHTM−9を用いた単層型電子写真感光体を用いる場合、接触帯電方式の帯電部を備える転写メモリーが発生しやすい画像形成装置では、転写メモリー電位の絶対値が高くなってしまい、画像形成時のゴーストの発生も抑制できないことが分かる。
【符号の説明】
【0160】
10 積層型感光体
10’ 下引き層を有する積層型感光体
11 導電性基体
12 電荷発生層
13 電荷輸送層
14 下引き層
20 単層型感光体
20’ 下引き層を有する単層型感光体
21 感光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体。
【化1】

〔一般式(1)中、Arはアリール基、又は共役二重結合を有する複素環基であり、Arはアリール基であり、Ar、及びArは、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、及びフェノキシ基からなる群より選択される1以上の基により置換されていてもよい。〕
【請求項2】
導電性基体上に感光層が形成された電子写真感光体であって、
前記感光層は、
1)少なくとも電荷発生剤を含有する電荷発生層、少なくとも電荷輸送剤とバインダー樹脂とを含有する電荷輸送層が順次積層された積層型感光層、又は、
2)少なくとも電荷発生剤、電荷輸送剤、及びバインダー樹脂を含有する単層型感光層であり、
前記電荷輸送剤が、正孔輸送剤として請求項1記載のトリアリールアミン誘導体を含有する電子写真感光体。
【請求項3】
像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための帯電部と、
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と、を備え、前記像担持体が請求項2記載の電子写真感光体である画像形成装置。
【請求項4】
前記像担持体が単層型感光層を備える正帯電電子写真感光体であり、前記帯電部が接触帯電方式である、請求項3記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246281(P2012−246281A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121965(P2011−121965)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】