説明

トリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法

【課題】保存安定性の優れるトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】トリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法は、トリクロサンを溶解させたアルカリ性水溶液の第1液及び酸の第2液をそれぞれ流動させて、それらが混在状態になるように接触させる液接触ステップと、液接触ステップで混在状態になった第1液及び第2液を混合用細孔22に流通させて混合することによりトリクロサンのナノ粒子分散液を得る液混合ステップと、を備える。第1液及び/又は第2液に、総含有量がトリクロサンに対する質量比で0.1〜0.5となるようにポリビニルピロリドンを溶解含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロサン(5-chloro-2-[2,4-dichlorophenoxyl]phenol)は、フェノール系抗菌剤の一種であって、優れた抗菌剤として知られ、多くのスキンケア製品、家庭用品に配合されている。このトリクロサンは常温固体で水難溶解性であるため、その一般的な利用形態は、界面活性剤を使用して可溶化させて用いる場合、或いは、油性成分や有機溶媒に溶解させて用いる場合がほとんどである。しかしながら、多くの界面活性剤は、製品中でトリクロサンの抗菌・殺菌性を低下させることが知られている。また、油性成分や有機溶媒の使用は製品の配合処方に制約を与えることになる。
【0003】
例えば、特許文献1には、トリクロサン等のフェノール性殺菌剤とポリビニルピロリドン類からなる水不溶性の殺菌性複合体を含む殺菌性コーティング組成物を用いて、空調設備の生体膜成長を抑制した例が開示されている。この組成物は液状物であるが、対象の表面上で溶媒を揮発させることでフィルムを形成させ、得られるフィルム内に殺菌性複合体を均一に分配させて用いる。しかしながら、有機溶剤を多量に使用する点で、安全性の観点からスキンケア製品や家庭用品に適用することはできない。
【0004】
ところで、特許文献2には、分子量1000以下の有機化合物をそれに対する溶解度が相対的に高い第1溶媒に溶解させた溶液を含む第1液と、溶解度が相対的に低い第2溶媒を含む第2液とを、それぞれ流動させて、それらが混在状態になるように接触させ、次いで混合用細孔に流通させて層流混合させることにより上記有機化合物の微粒子が分散析出した混合溶液を得る方法が開示されている。
【特許文献1】特表2007−533781号公報
【特許文献2】特開2007−8924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この特許文献2に開示された方法によれば、水難溶性の有機化合物を、微粒子分散させた水性分散液の状態で利用することが可能である。
【0006】
しかしながら、トリクロサンを微粒子分散させた際、分散安定性を高めるために粒子径を数100nmまで小さくしていくと、粒子が物理化学的に不安定化して分散液中で結晶成長が促進されやすくなり、経時保存後に沈殿が生じるなどの問題が生じる。
【0007】
本発明は、保存安定性の優れるトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明者らは鋭意検討の結果、汎用の分散安定剤であるポリビニルピロリドンをトリクロサンに対して特定の範囲の量含有させ、混合用細孔に流通させることによりトリクロサンのナノ粒子分散液を製造すれば、従来に得られなかったような保存安定性の優れるトリクロサンのナノ粒子分散液が得られることを見出した。
【0009】
すなわち上記目的を達成する本発明のトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法は、
トリクロサンを溶解させたアルカリ性水溶液の第1液及び酸の第2液をそれぞれ流動させて、それらが混在状態になるように接触させる液接触ステップと、
上記液接触ステップで混在状態になった上記第1液及び上記第2液を混合用細孔に流通させて混合することによりトリクロサンのナノ粒子分散液を得る液混合ステップと、
を備え、
上記第1液及び/又は上記第2液に、総含有量がトリクロサン含有量に対する質量比で0.1〜0.5となるようにポリビニルピロリドンを溶解含有させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法は、従来の技術を更に改良したものであり、これによれば、簡便な方法により従来では得られなかったような保存安定性の優れるトリクロサンのナノ粒子分散液を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本実施形態に係るトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法について説明する。
【0012】
(液混合システムA)
まず、トリクロサンのナノ粒子分散液の製造に用いる液混合システムAについて説明する。
【0013】
図1は、その液混合システムAを示す。
【0014】
この液混合システムAは、2種の液の混合に用いられるものであり、一対の液流入部101及び単一の液流出部102を有するマイクロミキサー100と液供給系等の付帯部とで構成されている。
【0015】
マイクロミキサー100の一方の液流入部101には、第1液を貯蔵する第1貯槽31aから延びた第1供給管32aが接続されている。第1供給管32aには、第1液を流通させる第1ポンプ33a、第1液の流量を検知する第1流量計34a及び第1液の夾雑物を除去する第1フィルタ35aが上流側から順に介設されており、第1流量計34aと第1フィルタ35aとの間の部分に第1液の圧力を検知する第1圧力計36aが取り付けられている。第1ポンプ33a、第1流量計34a及び第1圧力計36aのそれぞれは、流量コントローラ37に電気的に接続されている。
【0016】
マイクロミキサー100の他方の液流入部101には、第2液を貯蔵する第2貯槽31bから延びた第2供給管32bが接続されている。第2供給管32bには、第2液を流通させる第2ポンプ33b、第2液の流量を検知する第2流量計34b及び第2液の夾雑物を除去する第2フィルタ35bが上流側から順に介設されており、第2流量計34bと第2フィルタ35bとの間の部分に第2液の圧力を検知する第2圧力計36bが取り付けられている。第2ポンプ33b、第2流量計34b及び第2圧力計36bのそれぞれは、流量コントローラ37に電気的に接続されている。
【0017】
流量コントローラ37は、第1液の設定流量及び設定圧力の入力が可能に構成されていると共に演算素子が組み込まれており、第1液の設定流量情報、第1流量計34aで検知された流量情報及び第1圧力計36aで検知された圧力情報に基づいて第1ポンプ33aを運転制御する。同様に、流量コントローラ37は、第2液の設定流量及び設定圧力の入力も可能に構成されており、第2液の設定流量情報、第2流量計34bで検知された流量情報及び第2圧力計36bで検知された圧力情報に基づいて第2ポンプ33bを運転制御する。
【0018】
マイクロミキサー100の液流出部102からは混合液回収管38が延びて回収槽39に接続されている。
【0019】
マイクロミキサー100は、図2に示すように、液接触部21とそれに連続して設けられた混合用細孔22とを有する。液接触部21は、液流入部101から供給された第1液及び第2液を、それぞれ流動させた状態で且つそれらが混在状態になるように接触させる。混合用細孔22は、混在状態になった第1液及び第2液を流通させて混合する。混合用細孔22は、空間のマイクロ化効果により第1液及び第2液を混合するものであるので非常に小さく、混合性を考慮すると、孔径Dが0.1〜1.0mm、或いは、孔面積Sが0.01〜1.0mm2であるのが好ましい。ここで、孔径Dが0.1mm以上、或いは、孔面積Sが0.01mm以上であると、圧力損失を小さくできる。かかる観点から、孔径Dについては、0.2mm以上、孔面積Sについては0.04mm以上であるのがより好ましい。一方、孔径Dが1.0mm以下、或いは、孔面積Sが1.0mm以下で、混合性が優れている。かかる観点から、孔径Dについては、0.8mm以下、孔面積Sについては0.64mm以下であるのがより好ましく、0.6mm以下、孔面積Sについては0.36mm以下であるのがさらに好ましい。なお、孔径Dは、混合用細孔22の横断面外郭を内包する最小円の直径である。
【0020】
上記のように小さい混合用細孔22では、その孔長さLの孔径Dに対する比が40以下であることが好ましい。孔長さLの孔径Dに対する比が40以下であれば、混合用細孔22内での乱流の発達が抑えられ、そのため均一な混合を行うことができる。L/Dが小さい方が圧力損失が小さく、送液系の負担も小さくなることを考慮すると、L/D≦40であることが好ましく、L/D≦20であることがより好ましく、L/D≦10であることがさらに好ましい。一方、耐圧強度の観点から、孔長さLは孔径Dの1/2以上、つまり、L/D≧0.5であることがより好ましく、L/D≧1とするのがさらに好ましい。
【0021】
混合用細孔22は、その横断面外郭形状が特に限定されるものでなく、例えば、円形、半円形、楕円形、半楕円形、正方形、長方形、台形、平行四辺形、星形、不定形等である。また、混合用細孔22は、長さ方向に沿って均一に形成されていても、長さ方向に沿って不均一に形成されていてもいずれでもよい。
【0022】
マイクロミキサー100は、第1液及び第2液の合流形態として、対向型、直角型、Y字型、並行型、二重管型等、特に限定されるものではなく、また、管によって構成されたものであっても、溝が形成された基板の積層構造により内部に液流路が構成されたものであってもいずれでもよい。
【0023】
なお、一般の空間マイクロ化による混合促進効果については、非特許文献(V.Hessel, et al. Chemical Engineering Science 60 (2005) 2479-2501)に記載されている。
【0024】
以下に、3種類のマイクロミキサー100の具体的構成について説明する。
【0025】
<第1の構成>
図3は、第1の構成のマイクロミキサー100を示す。
【0026】
このマイクロミキサー100は、両端部がそれぞれ液流入部101とされた直線管部分110と、その直線管部分110の中央部分から分岐して直交方向に延び管端が液流出部102とされた分岐管部分120とからなるT字管により構成されている。T字管によるこのようなマイクロミキサー100は、装置構成が簡易であり、分解洗浄によるメンテナンスも容易である。
【0027】
直線管部分110は、中央部分の流路が狭くなっており、その中央部分のうち、一方の液流入部101側が第1液流路11aに、また、他方の液流入部101側が第2液流路11bにそれぞれ構成されている。分岐管部分120には、管軸に沿って延びて直線管部分110内に連通した混合用細孔22が形成されている。そして、直線管部分110の中央部、つまり、分岐管部分120への分岐部の管内が混合用細孔22に連続する液接触部21に構成されている。第1液流路11a及び第2液流路11bのそれぞれは、流路断面積、つまり、孔面積が混合用細孔22と同一乃至同程度であり、また、圧損を小さく抑えることができるように流路長さ、つまり、孔長さも混合用細孔22と同一乃至同程度であることが好ましい。
【0028】
このマイクロミキサー100は、第1液及び第2液の液接触部21に向かうそれぞれの流動方向と混合用細孔22の延びる方向とが相互に異なる構成となっている。このように、第1液及び第2液の液接触部21に向かうそれぞれの流動方向と混合用細孔22の延びる方向とが相互に異なると、図4に示すように、第1液及び第2液の液接触部21に向かうそれぞれの流動方向のいずれか一方が混合用細孔22の延びる方向と同じである構成に比べて、高い混合性能を得ることができる。
【0029】
なお、図3に示したものは、直線管部分110の中央部分の流路が狭くなった構成であるが、特にこれに限定されるものではなく、図5に示すように、そのような部分がなく、一方の液流入部101から他方の液流入部101まで一様な流路を有する構成であってもよい。
【0030】
また、図3に示したものは、分岐管部分120に混合用細孔22が形成された構成であるが、特にこれに限定されるものではなく、分岐管部分に連続して混合用細孔が形成された部材を別途接続した構成であってもよい。
【0031】
<第2の構成>
図6は、第2の構成のマイクロミキサー100を示す。なお、第1の構成と同一名称の部分は第1の構成と同一符号で示す。
【0032】
このマイクロミキサー100は、基板積層型のものであって、各々、基板面内を延びる第1液流路11a及び第2液流路11b、並びに、基板面に対して角度を有する方向に延びる混合用細孔22がそれぞれ内部に形成されている。第1液流路11a及び第2液流路11bは、一端同士が結合して開くように延びて略V字状の軌跡を形成しており、前者の他端が一方の液流入部101に、また、後者の他端が他方の液流入部101にそれぞれ構成されている。混合用細孔22は、一端が第1液流路11a及び第2液流路11bの結合部に繋がっており、他端が液流出部102に構成されている。そして、この第1液流路11a及び第2液流路11b、並びに、混合用細孔22の結合部が液接触部21に構成されている。
【0033】
このマイクロミキサー100もまた、第1の構成のものと同様に、第1液及び第2液の液接触部21に向かうそれぞれの流動方向と混合用細孔22の延びる方向とが相互に異なる構成となっている。
【0034】
なお、図6に示したものは、第1液流路11a及び第2液流路11bがそれぞれ単一のものであるが、特にこれに限定されるものではなく、図7に示すように、第1液流路11a及び第2液流路11bがそれぞれ複数ある構成であってもよい。
【0035】
また、このように液流路が3以上ある構成の場合、第1液及び第2液とは異なる第3液をいずれかの液流路に流通させることも可能である。
【0036】
<第3の構成>
図8(a)〜(c)は、第3の構成のマイクロミキサー100を示す。なお、第1の構成と同一名称の部分は第1の構成と同一符号で示す。
【0037】
このマイクロミキサー100は、配管経路に設けられた液流通管10とその液流出側に連続して設けられた液混合部20とを備えている。
【0038】
液流通管10は、大径管12とそれに導入されて挿通された1本の小径管13とにより二重管構造に構成されている。これにより、液流通管10は、小径管13の内側の第1液流路11aと大径管12の内側で且つ小径管13の外側の部分の第2液流路11bとの2つの液流路が管内部に相互に並行に延びて長さ方向に沿って構成されている。そして、小径管の管端が一方の液流入部101に構成され、液流通管10の外部に露出した大径管12の管端が他方の液流入部101に構成されている。二重管構造の液流通管10を有するこのようなマイクロミキサー100は、装置構成が簡易であり、分解洗浄によるメンテナンスも容易である。
【0039】
液混合部20は、液流通管10の液流出端に連続して内部領域を形成している。この内部領域は、液流通管10から流出した第1液及び第2液が接触する液接触部21に構成されている。液混合部20には、液接触部21に連続して設けられた混合用細孔22が穿孔されている。混合用細孔22は、第1液流路11a及び第2液流路11bの延びる方向と同一方向に延びるように形成されている。そして、混合用細孔22に連続して設けられた回収管接続部が液流出部102に構成されている。
【0040】
このマイクロミキサー100は、第1の構成のものや第2の構成のものとは異なり、第1液及び第2液の液接触部21に向かうそれぞれの流動方向、並びに、混合用細孔22の延びる方向がいずれも同じ構成となっている。
【0041】
ところで、流体流通管10から流出して液接触部21で接触した第1液及び第2液は、最終的には混合用細孔22により混合される。このとき、より高速な混合性能を得るためには、液接触部21でのそれらの混在状態が、各液の微小なセグメントで構成されていればよい。従って、第1液流路11aの数がより多いことが好ましく、図8(a)及び(b)に示すように、小径管13が1本である場合よりも、図9(a)及び(b)に示すように小径管13が複数本である場合の方が、より高速な混合特性を得ることができる。
【0042】
また、このように液流路が3以上ある構成の場合、第1液及び第2液とは異なる第3液をいずれかの液流路に流通させることも可能である。
【0043】
なお、この第3の構成において、小径管13の内側を第2液流路及び大径管12の内側で且つ小径管13の外側の部分を第1液流路として使用することもできる。
【0044】
(トリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法)
次に、この液混合システムAを用いたトリクロサンのナノ粒子分散液を製造する方法について説明する。
【0045】
<第1液及び第2液>
第1液は、トリクロサンを溶解させたアルカリ性水溶液である。
【0046】
アルカリ性水溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の水溶液であって、さらにトリクロサンを溶解させたものである。
【0047】
アルカリ性水溶液におけるトリクロサンの濃度は、分散安定性や抗菌性能の観点から20〜10000mg/Lであることが好ましく、50〜5000mg/Lであることがより好ましい。
【0048】
アルカリ性水溶液は、pHが9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
【0049】
なお、アルカリ性水溶液には、その他にトリクロサンの抗菌性に大きな影響を及ぼさない程度に界面活性剤や有機溶剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリルメチルタウリン塩等のアニオン性のものが挙げられる。有機溶剤としては、例えば、水混和性のエタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0050】
第2液は、酸、すなわち酸性の水性液である。
【0051】
酸は、無機酸であってもよく、また、有機酸であってもよい。具体的には、無機酸としては、塩酸(希塩酸)、硫酸(希硫酸)、リン酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸等が挙げられる。
【0052】
酸のpHは1〜6であることが好ましく、2〜5であることがより好ましい。
【0053】
酸は、酸性の緩衝液であってもよい。かかる酸性の緩衝液としては、例えば、Bis−Tris(Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane)水溶液、HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)水溶液、リン酸2水素ナトリウム水溶液、クエン酸・リン酸水素二ナトリウム水溶液等が挙げられる。
【0054】
酸には、アルカリ性水溶液の場合と同様、トリクロサンの抗菌性に大きな影響を及ぼさない程度に界面活性剤や有機溶剤が含まれていてもよい。
【0055】
第1液及び/又は第2液、従って、第1液及び第2液のうちいずれか一方、又は、第1液及び第2液の両方にポリビニルピロリドン(PVP)を溶解含有させる。
【0056】
ポリビニルピロリドンは、得られるトリクロサンのナノ粒子分散液の粒径分布の均一性向上及び粘度の増加抑制の観点から、重量平均分子量が6000〜3000000であることが好ましく、30000〜2000000であることがより好ましい。ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、粘度の測定値からFikentscherの公式に基づいて計算されたK-値によって決定される。
【0057】
ポリビニルピロリドンは、総含有量がトリクロサン含有量に対する質量比で0.1〜0.5となるように第1液及び/又は第2液に溶解含有させる。つまり、単位時間に流動する第1液に含まれるトリクロサンの量に対し、単位時間に流動する第1液及び第2液に含まれるポリビニルピロリドンの量が、質量比で0.1〜0.5である。なお、ポリビニルピロリドンの総含有量は、第1液及び第2液のうちいずれか一方のみにポリビニルピロリドンが含まれる場合には、単位時間に流動する当該液に含まれるポリビニルピロリドンの含有量を意味し、第1液及び第2液の両方にポリビニルピロリドンが含まれる場合には、単位時間に流動する両液に含まれるポリビニルピロリドンを合わせた含有量を意味する。
【0058】
この質量比は、得られるトリクロサンのナノ粒子の粒径を小さくする観点及び得られるトリクロサンのナノ粒子分散液の保存安定性を高める観点から、質量比で0.2〜0.45とすることが好ましく、0.25〜0.4とすることがより好ましい。
【0059】
<トリクロサンのナノ粒子分散液の製造>
液混合システムAを稼働させると、第1ポンプ33aは、第1液を、第1貯槽31aから第1供給管32aを介し、第1流量計34a及び第1フィルタ35aを順に経由させてマイクロミキサー100の一方の液流入部101に継続的に供給する。第1流量計34aは、検知した第1液の流量情報を流量コントローラ37に送る。また、第1圧力計36aは、検知した第1圧力計36aの圧力情報を流量コントローラ37に送る。
【0060】
第2ポンプ33bは、第2液を、第2貯槽31bから第2供給管32bを介し、第2流量計34b及び第2フィルタ35bを順に経由させてマイクロミキサー100の一方の液流入部101に継続的に供給する。第2流量計34bは、検知した第2液の流量情報を流量コントローラ37に送る。また、第2圧力計36bは、検知した第2圧力計36bの圧力情報を流量コントローラ37に送る。
【0061】
続いて、流量コントローラ37は、第1液の設定流量情報及び設定圧力情報、並びに、第1流量計34aで検知された流量情報及び第1圧力計36aで検知された圧力情報に基づいて、第1液の設定流量及び設定圧力がそれぞれ維持されるように第1ポンプ33aを運転制御する。それと共に、流量コントローラ37は、第2液の設定流量情報及び設定圧力情報、並びに、第2流量計34bで検知された流量情報及び第2圧力計36bで検知された圧力情報に基づいて、第2液の設定流量及び設定圧力がそれぞれ維持されるように第2ポンプ33bを運転制御する。マイクロミキサー100では、第1液及び第2液が混在状態、つまり、各液の小さいセグメントが混在した状態になるように接触し(液接触ステップ)、それが混合用細孔22を流通し、混合用細孔22において、それが混合用細孔22への縮流及び混合用細孔22内及び/又は混合用細孔22出口での剪断により引き延ばされて微細なセグメントとなり、分子拡散による混合速度が一気に増大して混合が瞬時に完結し、トリクロサンのナノ粒子が分散析出した分散液が得られる(液混合ステップ)。
【0062】
このとき、第1液及び第2液のそれぞれの流量設定は、均一性の高い混合性能を得る観点から第1液の第2液に対する体積比が5/95〜95/5、好ましくは10/90〜90/10となるようにするのがよい。また、第1液及び第2液の流量設定は、第1液及び第2液を合わせた混合用細孔22への流量が0.1〜1000mL/minで流通するようにするのがよいが、後述する様に、混合用細孔22内の線速度が特定の値以上になる条件で運転することがより好ましい。
【0063】
第1液及び第2液のそれぞれの圧力設定は、送液の圧力が0.01〜3MPaとなるようにすればよい。
【0064】
混合前の第1液及び第2液のそれぞれの温度調整は、第1液及び第2液の凝固点から沸点までの温度にされていればよいが、熱効率やトリクロサンの融点を考慮して、1〜50℃とすることが好ましく、5〜40℃とすることがより好ましい。
【0065】
そして、最後に、トリクロサンのナノ粒子が分散析出した分散液は、混合液回収管38を介して回収槽39に回収される。
【0066】
以上のようなトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法によれば、簡便な方法により従来では得られなかったような平均粒径が500nm以下(条件によっては300nm以下、或いは、100nm以下)で、且つ保存安定性の優れるトリクロサンのナノ粒子分散液を製造することができる。ここで、平均粒径は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定可能な微粒子の平均粒径である。
【0067】
また、このトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法においては、後に実施例で明確にするが、混合用細孔22に流通させる液の孔内線流速の3乗を混合用細孔22の孔径で除した値を操作することにより、マイクロミキサー100の種類やサイズに依らず、トリクロサンのナノ粒子の平均粒径を制御することができる。具体的には、混合用細孔22に流通させる液の孔内線流速の3乗を混合用細孔22の孔径で除した値が1000(m/s)以上となるように設定すれば、十分な混合性能が得られ、好ましくは10000(m/s)以上、更に好ましくは100000(m/s)以上となるように設定すれば、平均粒径が100nm以下のトリクロサンのナノ粒子分散液を製造することができる。
【実施例】
【0068】
[試験評価1]
(ナノ粒子分散液)
以下の実施例1〜9及び比較例1〜5のトリクロサンのナノ粒子分散液を調製した。
【0069】
<実施例1>
100mLメスフラスコに、1M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液(キシダ化学)6mL、トリクロサン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)80mg、及びポリビニルピロリドン(ISP:PVP−K30,重量平均分子量:60000)10mgを入れ、そこにさらに水を加えて100mLとし、そのトリクロサン及びポリビニルピロリドンを溶解させたアルカリ性水溶液を第1液とした。第1液における水酸化ナトリウム、トリクロサン、及びポリビニルピロリドンの濃度は、それぞれ60mM、800mg/L、及び100mg/Lである。リン酸2水素ナトリウム(和光純薬)を濃度が100mMとなるように水に溶解させた水溶液を第2液とした。第1液及び第2液をそれぞれ20℃に調温した。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.125である。
【0070】
図3に示す第1の構成のマイクロミキサー100を用い、第1液及び第2液を、混合体積比が前者/後者=1/1で且つ総流量が6ml/minとなるようにそれぞれシリンジポンプで送液し、それらを混合用細孔22に流通させ、これによりトリクロサンのナノ粒子分散液を調製した。得られたトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例1とした。なお、マイクロミキサー100の混合用細孔22は、円筒孔であって、孔径が0.15mm、及び孔長さが1.0mmであった。
【0071】
<実施例2>
第1液のポリビニルピロリドンの含有量を16mgとしたことを除いて実施例1と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例2とした。第1液におけるポリビニルピロリドンの濃度は160mg/Lである。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.2である。
【0072】
<実施例3>
第1液のポリビニルピロリドンの含有量を28mgとしたことを除いて実施例1と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例3とした。第1液におけるポリビニルピロリドンの濃度は280mg/Lである。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.35である。
【0073】
<実施例4>
第1液のポリビニルピロリドンの含有量を40mgとしたことを除いて実施例1と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例4とした。第1液におけるポリビニルピロリドンの濃度は400mg/Lである。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.5である。
【0074】
<実施例5>
第1液にポリビニルピロリドンを溶解させず、且つ第2液にポリビニルピロリドンを濃度が400mg/Lとなるように溶解させたことを除いて実施例1と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例5とした。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.5である。
【0075】
<実施例6>
第1液のトリクロサンの含有量を160mg、及びポリビニルピロリドンの含有量を56mgとしたことを除いて実施例1と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例6とした。第1液におけるトリクロサン及びポリビニルピロリドンの濃度は、それぞれ1600mg/L及び560mg/Lである。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.35である。
【0076】
<実施例7>
第1液のトリクロサンの含有量を320mg、及びポリビニルピロリドンの含有量を112mgとしたことを除いて実施例1と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例7とした。第1液におけるトリクロサン及びポリビニルピロリドンの濃度は、それぞれ3200mg/L及び1120mg/Lである。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.35である。
【0077】
<実施例8>
100mLメスフラスコに、1M水酸化ナトリウム水溶液12mL、トリクロサン160mg、及びポリビニルピロリドン56mgを入れ、そこにさらに水を加えて100mLとし、そのトリクロサン及びポリビニルピロリドンを溶解させた水溶液を第1液とした。第1液における水酸化ナトリウム、トリクロサン、及びポリビニルピロリドンの濃度は、それぞれ120mM、1600mg/L、及び560mg/Lである。リン酸2水素ナトリウム(和光純薬)を濃度が67mMとなるように水に溶解させた水溶液を第2液とした。第1液及び第2液をそれぞれ20℃に調温した。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.35である。
【0078】
実施例1で用いたマイクロミキサー100を用い、第1液及び第2液を、混合体積比が前者/後者=1/3で且つ総流量が6ml/minとなるようにそれぞれシリンジポンプで送液し、それらを混合用細孔22に流通させ、これによりトリクロサンのナノ粒子分散液を調製した。得られたトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例8とした。
【0079】
<実施例9>
100mLメスフラスコに、1M水酸化ナトリウム水溶液4mL、トリクロサン53.3mg、及びポリビニルピロリドン18.7mgを入れ、そこにさらに水を加えて100mLとし、そのトリクロサン及びポリビニルピロリドンを溶解させた水溶液を第1液とした。第1液における水酸化ナトリウム、トリクロサン、及びポリビニルピロリドンの濃度は、それぞれ40mM、533mg/L、及び187mg/Lである。リン酸2水素ナトリウム(和光純薬)を濃度が200mMとなるように水に溶解させた水溶液を第2液とした。第1液及び第2液をそれぞれ20℃に調温した。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.35である。
【0080】
実施例1で用いたマイクロミキサー100を用い、第1液及び第2液を、混合体積比が前者/後者=3/1で且つ総流量が6ml/minとなるようにそれぞれシリンジポンプで送液し、それらを混合用細孔22に流通させ、これによりトリクロサンのナノ粒子分散液を調製した。得られたトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例9とした。
【0081】
<比較例1>
第1液にポリビニルピロリドンを溶解させなかったことを除いて実施例1と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を比較例1とした。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0である。
【0082】
<比較例2>
第1液のポリビニルピロリドンの含有量を200mgとしたことを除いて実施例1と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を比較例2とした。第1液におけるポリビニルピロリドンの濃度は2000mg/Lである。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は2.5である。
【0083】
<比較例3>
100mLメスフラスコに、1M水酸化ナトリウム水溶液10mL、トリクロサン50mg、及びポリビニルピロリドン6.3mgを入れ、そこにさらに水を加えて100mLとし、そのトリクロサン及びポリビニルピロリドンを溶解させた水溶液を第1液とした。第1液における水酸化ナトリウム、トリクロサン、及びポリビニルピロリドンの濃度は、それぞれ100mM、500mg/L、及び63mg/Lである。リン酸(和光純薬)を濃度が250mMとなるように水で希釈した水溶液を第2液とした。第1液及び第2液をそれぞれ20℃に調温した。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.125である。
【0084】
50ml試験管に第1液20mLを入れてタッチミキサーで攪拌しながら、そこに第2液5mLを一括投入し、これによりトリクロサンのナノ粒子分散液を調製した。得られたトリクロサンのナノ粒子分散液を比較例3とした。
【0085】
<比較例4>
第1液のポリビニルピロリドンの含有量を17.5mgとしたことを除いて比較例3と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を比較例4とした。第1液におけるポリビニルピロリドンの濃度は175mg/Lである。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.35である。
【0086】
<比較例5>
第1液のポリビニルピロリドンの含有量を25mgとしたことを除いて比較例3と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を比較例5とした。第1液におけるポリビニルピロリドンの濃度は250mg/Lである。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.5である。
【0087】
(試験評価方法)
実施例1〜9及び比較例1〜5のそれぞれについて、平均粒径の測定と外観評価(調製直後及び調整から室温1日保存後)を行った。粒径測定には、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子社製 型番:ELS−Z2)を用いた。なお、比較例4及び5については、白色の沈殿物を含有していたため、目開き1.2ミクロンのメンブレンフィルター(ザルトリウス)を用いて濾過した濾液を平均粒径測定に供した。
【0088】
(試験評価結果)
表1に、実施例1〜9及び比較例1〜5のそれぞれの平均粒径及び外観評価を示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1によれば、平均粒径は、実施例1が204nm、実施例2が123nm、実施例3が51nm、実施例4が153nm、実施例5が132nm、実施例6が80nm、実施例7が133nm、実施例8が58nm、及び実施例9が55nm、並びに、比較例1が1130nm、比較例2が29nm、比較例3が193nm、比較例4が169nm、及び比較例5が108nmであった。
【0091】
また、外観評価は、実施例1〜9では、調整直後、実施例3、6、8、及び9が透明、実施例1、2、及び7が半透明、実施例4及び5が若干沈殿有りであり、1日保存後、実施例1〜9のいずれも変化は無かった。比較例1〜5では、調整直後、比較例2が透明、比較例1が懸濁、比較例3が若干沈殿有り、比較例4及び5が沈殿有りであり、1日保存後、比較例1〜5のいずれも沈殿有りであった。
【0092】
以上のことから、平均粒径に関しては、実施例1〜9は比較例1〜5よりも同程度あるいは小さく、外観に関しては、比較例1〜5は、調製から1日保存後に顕著に沈殿が生成(比較例4〜5は調製直後から生成)したのに対し、実施例1〜9は、沈殿の生成がほとんどなく、且つ状態変化が見られないことが分かる。
【0093】
[試験評価2]
(ナノ粒子分散液)
以下の実施例10〜17のトリクロサンのナノ粒子分散液を調製した。
【0094】
<実施例10及び11>
第1液及び第2液の合計流量(総流量)を3mL/minとしたことを除いて実施例3と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例10とした。また、第1液及び第2液の合計流量(総流量)を1mL/minとしたことを除いて実施例10と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例11とした。第1液及び第2液合計の孔内線流速(U)の3乗を混合用細孔22の孔径(d)で除した値(U/d)は、実施例3の調製時が1210000m/s、実施例10の調製時が151000m/s、及び実施例11の調製時が5590m/sである。
【0095】
<実施例12〜14>
図3に示す第1の構成であって、円筒孔の混合用細孔22の孔径が0.3mm及び孔長さが0.9mmであるマイクロミキサー100を用い、第1液及び第2液の合計流量(総流量)を48mL/minとしたことを除いて実施例3と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液をそれぞれ実施例12とした。また、第1液及び第2液の合計流量(総流量)を12mL/minとしたことを除いて実施例12と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例13とした。第1液及び第2液の合計流量(総流量)を3mL/minとしたことを除いて実施例12と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例14とした。第1液及び第2液合計の孔内線流速(U)の3乗を混合用細孔22の孔径(d)で除した値(U/d)は、実施例12の調製時が4830000m/s、実施例13の調製時が75500m/s、及び実施例14の調製時が1180m/sである。
【0096】
<実施例15〜17>
100mLメスフラスコに、1M水酸化ナトリウム水溶液2mL、トリクロサン80mg、及びポリビニルピロリドン28mgを入れ、そこにさらに水を加えて100mLとし、そのトリクロサン及びポリビニルピロリドンを溶解させた水溶液を第1液とした。第1液における水酸化ナトリウム、トリクロサン、及びポリビニルピロリドンの濃度は、それぞれ20mM、800mg/L、及び280mg/Lである。HEPES(和光純薬)を濃度が100mMとなるように水に溶解させた水溶液を第2液とした。第1液及び第2液をそれぞれ20℃に調温した。ポリビニルピロリドン/トリクロサンの質量比は0.35である。
【0097】
図8に示す第3の構成のマイクロミキサー100を用い、第1液及び第2液を、混合体積比が前者/後者=1/1で且つ総流量が30ml/minとなるようにそれぞれシリンジポンプで送液し、それらを混合用細孔22に流通させ、これによりトリクロサンのナノ粒子分散液を調製した。得られたトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例15とした。マイクロミキサー100の混合用細孔22は、円筒孔であって、孔径が0.3mmで、孔長さが0.8mmであった。また、第1液及び第2液を、混合体積比が前者/後者=1/1で且つ総流量が12ml/minとなるようにそれぞれシリンジポンプで送液したことを除いて実施例15と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例16とした。第1液及び第2液を、混合体積比が前者/後者=1/1で且つ総流量が3ml/minとなるようにそれぞれシリンジポンプで送液したことを除いて実施例15と同様にして得たトリクロサンのナノ粒子分散液を実施例17とした。第1液及び第2液合計の孔内線流速(U)の3乗を混合用細孔22の孔径(d)で除した値(U/d)は、実施例15の調製時が1180000m/s、実施例16の調製時が75500m/s、及び実施例17の調製時が1180m/sである。
【0098】
(試験評価方法)
実施例10〜17のそれぞれについて、平均粒径の測定を行った。粒径測定には、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子社製 型番:ELS−Z2)を用いた。
【0099】
(試験評価結果)
表2に、実施例10〜17のそれぞれの平均粒径を示す。また、表2に、混合用細孔に流通させる液の孔内線流速Uの3乗を混合用細孔の孔径dで除した値(単位:m/s)について計算したものも示した。
【0100】
【表2】

【0101】
表2によれば、平均粒径は、実施例3が51nm、実施例10が94nm、実施例11が123nm、実施例12が61nm、実施例13が103nm、実施例14が144nm、実施例15が83nm、実施例16が114nm、及び実施例17が159nmであった。
【0102】
また、図10は、上記実施例3及び実施例10〜17の結果に基づいて、孔内線流速(U)の3乗を混合用細孔の孔径(d)で除した値(U/d)と平均粒径との関係を示したものである。
【0103】
図10によれば、孔内線流速(U)の3乗を混合用細孔の孔径(d)で除した値(U/d)と平均粒径との間には、マイクロミキサーの種類やサイズによらず相関関係があることが分かる。具体的には、当該値(U/d)が1000(m/s)より大きくなるのに従って平均粒径が小さくなり、当該値(U/d)が100000(m/s)より大きくなると平均粒径は約100nm以下となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、家庭用、医療用、業務用の洗浄剤、防汚剤、消臭防臭剤の他、化粧品、香粧品、衛生品等に添加されて用いられるトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】流体混合システムの構成を示す図である。
【図2】液接触部及び混合用細孔を示す説明図である。
【図3】第1の構成のマイクロミキサーを示す断面図である。
【図4】第1の構成のマイクロミキサーの変形例を示す断面図である。
【図5】第1の構成のマイクロミキサーの他の変形例を示す断面図である。
【図6】第2の構成のマイクロミキサーを示す図である。
【図7】第2の構成のマイクロミキサーの変形例を示す図である。
【図8】第3の構成のマイクロミキサーを示す(a)縦断面図、(b)図8(a)におけるVIIIB-VIIIB横断面図及び(c)図8(a)におけるVIIIC-VIIIC横断面図である。
【図9】第3の構成のマイクロミキサーの変形例を示す(a)縦断面図及び(b)図9(a)におけるIXB-IXB横断面図である。
【図10】孔内線流速(U)の3乗を混合用細孔の孔径(d)で除した値(U/d)と平均粒径との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0106】
22 混合用細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリクロサンを溶解させたアルカリ性水溶液の第1液及び酸の第2液をそれぞれ流動させて、それらが混在状態になるように接触させる液接触ステップと、
上記液接触ステップで混在状態になった上記第1液及び上記第2液を混合用細孔に流通させて混合することによりトリクロサンのナノ粒子分散液を得る液混合ステップと、
を備え、
上記第1液及び/又は上記第2液に、総含有量がトリクロサン含有量に対する質量比で0.1〜0.5となるようにポリビニルピロリドンを溶解含有させるトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
上記液混合ステップにおいて、上記混合用細孔に流通させる上記第1液及び上記第2液合計の孔内線流速を、該孔内線流速の3乗を該混合用細孔の孔径で除した値が1000(m/s)以上となるように設定する請求項1に記載のトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
上記液混合ステップにおいて、得られるナノ粒子分散液に含まれるトリクロサンのナノ粒子の平均粒径が100nm以下である請求項1又は2に記載のトリクロサンのナノ粒子分散液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−22973(P2010−22973A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189615(P2008−189615)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】