説明

トリポード型等速自在継手

【課題】トリポード部材の脚軸に外嵌されるローラ・アセンブリのリングが脚軸と相対回転しにくいため、リングの外径軌道面の同じ場所がボールと接触して摩耗が進行し継手寿命が低下するのを防止する。
【解決手段】トルク負荷時に脚軸22の外径断面とリング32の内周面とを2点以上で接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はトリポード型等速自在継手に関する。
一般に、等速自在継手は駆動側と従動側の2軸を連結して2軸間に角度があっても等速で回転力を伝達することのできるユニバーサルジョイントの一種である。等速自在継手は固定式と摺動式があり、摺動式のものは継手のプランジングによって2軸間の相対的軸方向変位を可能にする。摺動式の一種にトリポード型があり、このトリポード型は半径方向に突出した3本の脚軸を備えたトリポード部材を一方の軸に結合する。また、軸方向に延びる3つのトラック溝を備えた中空円筒状の外方継手部材を他方の軸に結合する。そして外方継手部材のトラック溝内にトリポード部材の脚軸を係合させてトルクの伝達を行う。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には最も基本的なトリポード型等速自在継手が示される。トリポード型等速自在継手は、外側継手部材とトリポード部材とからなり、連結すべき二軸の一方が外側継手部材と接続され、他方がトリポード部材と接続される。外側継手部材は有底筒状で、内周に軸方向に延びる三本のトラック溝を有する。各トラック溝の円周方向で向かい合った側壁に円筒状のローラ案内面が形成される。トリポード部材は半径方向に突出した三本の脚軸を有し、各脚軸にニードルローラとリングが担持される。このリングが外側継手部材のトラック溝内に収容される。
【0003】
脚軸の外周面は、リングが脚軸に沿ってスライド可能なように、長軸が継手の軸線に直交する楕円形状又は円であり、縦断面では脚軸の軸線と平行なストレート形状である。脚軸に外嵌したリングは、内周面が円筒状であり、外周は球面の一部すなわち部分球面である。リングと脚軸間には複数のニードルローラが組み込まれる。
また、トリポード型等速自在継手には、図7に示すような型式もある。すなわち、外側継手部材とトリポード部材とからなり、連結すべき二軸の一方が外側継手部材と接続され、他方がトリポード部材と接続される。外側継手部材10は有底筒状で、内周に軸方向に延びる三本のトラック溝12を有する。各トラック溝12の円周方向で向かい合った側壁に円筒状のローラ案内面14が形成される。トリポード部材20は半径方向に突出した三本の脚軸22を有し、各脚軸22にローラ・アセンブリ(32,34,36)が担持される。このローラ・アセンブリが外側継手部材10のトラック溝12内に収容される。
【0004】
脚軸22の外周面は、脚軸22がローラ・アセンブリ(32,34,36)に対し図7紙面に垂直方向に揺動可能なように、長軸が継手の軸線に直交する楕円形状であり、縦断面では脚軸の軸線と平行なストレート形状である。
ローラ・アセンブリはリング32とローラ34とボール36を含んでいる。脚軸22に外嵌したリング32は、内周面の縦断面が凸円弧形状となった円環状で、外周に二段の内側軌道面33a,33bを備える。ローラ34はここでは二分割構造で、軸線に垂直な面で接した一対のローラ部分34a,34bで構成される。各ローラ部分34a,34bの外周面は、軸線から半径方向に離れた位置にある点を曲率中心とする球面の一部すなわち部分球面である。各ローラ部分34a,34bは内周に二段の外側軌道面35a,35bを備える。リング32とローラ34とは複数のボール36を介してユニット化され、相対回転可能なローラ・アセンブリを構成する。すなわち、リング32の外周の内側軌道面33a,33bと、ローラ34の内周の外側軌道面35a,35bとの間に複列のボール36a,36bが転動自在に介在する。ボール36は、できるだけ多くのボールを入れた、保持器のない、いわゆる総玉状態で組み込まれる。
【0005】
ローラ34の外周面と接する外側継手部材10のローラ案内面14は、ローラ34の外周面と適合する断面形状を有する。ここではローラ案内面14の断面形状はゴシック・アーチ形状であって、これにより、ローラ34とローラ案内面14とがアンギュラ・コンタクトをなす。図示は省略したが、球面状のローラ外周面に対してローラ案内面14の断面形状をテーパ形状としても両者のアンギュラ・コンタクトが実現する。このようにローラ34とローラ案内面14とがアンギュラ・コンタクトをなす構成を採用することによって、ローラ34が振れにくくなるため姿勢が安定する。なお、アンギュラ・コンタクトを採用しない場合には、たとえば、ローラ案内面14を軸線が外側継手部材10の軸線と平行な円筒面の一部で構成し、その断面形状をローラ34の外周面の母線に対応する円弧とすることもできる。
【0006】
従来のスライド式トリポード型等速自在継手には、転動体に図示例のようにボールを使用したものの他に、総ころタイプの針状ころを使用したものがある。針状ころは、回転中のころのスキュー等により、転動体面にエッジロードなど偏荷重が作用しやすい。さらには内部のすきまや精度の関係によって接触状態が安定せず、球面ローラが傾いたりしてもエッジロードが作用する。また、構造上球面ローラの端部と脚軸や針状ころ抜止め用の止め輪との間で相対滑りも発生する。
【0007】
なお、非特許文献1のローラ・アセンブリでは、ローラを支持するためニードル軸受や滑り軸受が使用される。
【特許文献1】特開2000−227124
【特許文献2】特開2001−295855
【特許文献3】特開2000−257643
【特許文献4】特開2000−346088
【特許文献5】特開2002−323060
【非特許文献1】Universal Joint and Driveshaft Design Manual Section 3.2.6“Tripot Universal Joint (End Motion Type)"
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
トリポード部材の3本の脚軸の外径は円柱状をなし、この脚軸にローラ・アセンブリの玉軸受の内輪となるリングが外嵌され、ローラが脚軸周りにのみ回転自在とされる。脚軸とリング内径との接触によって発生する摩擦は、玉軸受軌道面の摩擦に比べると非常に大きい。この摩擦のため、リングは脚軸の周りを自由に相対回転することができない。したがって、リングの軌道面は、等速自在継手のトルク作用により、常に同じ場所に転動体からの力が作用し、特にトルクが大きい条件下では、リングの軌道面の磨耗が促進され、寿命が低下する。特に図8、図9および図10に示されるような、脚軸断面の場合は、リング外径面の軌道面が激しく磨耗し、寿命が低下することが実験により分かっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トルク伝達時に当接する脚軸とリング内径部の接触箇所を、従来の1点から複数点に増やしたことを特徴とする。なお、脚軸とリングとの嵌め合いはすきま嵌めとし、リングが脚軸回りを回転可能とする。複数の接触点は、脚軸の輪郭における4つ以上の凸状円弧または凸状曲線で作られる。これら凸状円弧または凸状曲線がリング内径に当接して接触点となる。脚軸の具体的外径形状は、例えば4つまたは5つの円を部分的に重ねつつ円周方向に一つずつ配置した形状や、2つの楕円を互いの長軸を平行にして完全に離間させるかあるいは一部を重ね合わせた形状とする。
【0010】
このような断面形状を持つ脚軸に対して、ローラ・アセンブリの軸受内輪を構成するリングを外嵌すると、等速自在継手の駆動力伝達時にリングの内径に対する脚軸の複数(少なくとも2点)の接触点に作用するの摩擦力の合力によって、リングの回転方向にモーメントが作用し、脚軸とリングとの相対回転が促進される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は前述のように、脚軸の外径輪郭を継手の軸線と直角な外径中心線に関して非対称にすると共に、前記脚軸の外径断面と前記リングの内周面とが2点以上で接触し、本継手に回転トルクが作用する時、これらの接点に作用する摩擦力の合力(ベクトル和)によって回転モーメントが発生する。この回転モーメントによって脚軸に対してリングが相対回転し、リングの外径軌道面の磨耗の問題が緩和され、等速自在継手の寿命が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、ローラ・アセンブリに単列の深溝玉軸受を使用した本発明に係るトリポード型等速自在継手の断面である。本発明はこのような単列深溝玉軸受だけでなく、これに代えて、アンギュラ接触単列玉軸受、複列深溝玉軸受、DB(背面合わせ)型複列アンギュラ玉軸受、ニードル軸受を使用したものでもよい。
この等速自在継手の脚軸22の外径輪郭は、脚軸22に外嵌するリング32の円筒状内径面に図示上4点以上で当接する形状とされる。図2〜図4に、脚軸22の外径輪郭の代表的な3つの実施形態を示す。図2〜図4では脚軸22の外径がリング32の内径に4点ないし5点で当接した状態を示すが、実際は脚軸22の外径がリング32の内径にすきま嵌めされるのであり、従って回転トルクの負荷時、図2〜図4で脚軸22の外径はリング32の内径に2点ないし3点で当接することになる。図2では脚軸22の外径に4つ(偶数個)の円弧R1,R2,R3,R4を形成する。4つの円弧の半径は、R1とR3が等しく、R2とR4が等しい。各円弧R1,R2,R3,R4の中心は、中心軸をX軸、Y軸とした場合、各象限内に一つずつ存在する。
【0013】
脚軸22の外径輪郭は、図2に示すように、トリポード型等速自在継手の軸線と直交する中心線(図2のX軸)に関して上下対称である。これに対して、トリポード型等速自在継手の軸線と平行な中心線(Y軸)に関する脚軸22の外径輪郭は、左右非対称である。
【0014】
すなわち、等速自在継手を機能の面から考えると、外側継手部材10(トラニオン軸)とトリポードに接続される駆動軸で形成される平面(図2〜4で脚軸22の中心を通る水平な中心線つまりX軸)に関しては、トルク伝達(駆動・被駆動)の関係より上下対称であることが望ましい。上下対称形であると、図2でθ1=θ3、θ2=θ4、R1=R3、R2=R4である。しかし、外側継手部材10(トラニオン軸)を含み、トリポードに接続される駆動軸に垂直な平面方向(図2〜4で脚軸22の中心を通る垂直な中心線つまりY軸)に関しては、対称である必要はない。
【0015】
図3では脚軸22の外径に5つ(奇数個)の円弧R1,R2,R3,R4,R5を形成する。各円弧R1,R2,R3,R4の中心は、各象限内に一つずつ存在する。円弧R5の中心はX軸上にある。このような円弧の奇数個配置でも、図3から1つの円弧R5を省略した図2とトルク伝達作用ではまったく同じである。円弧R5はトルク伝達方向と平行な接線を有する関係で、この円弧R5の接触部にはトルクが作用しないためである。脚軸22の外径輪郭のXに関する対称形、Y軸に関する非対称形は、図2の場合と同様である。
【0016】
図4では脚軸22の外径に4つの角部を形成する。4つの角部は鋭角でも鈍角でもなく、一部を破線で示す楕円の長軸端近傍の凸状曲線で構成される。各角部は各象限内に一つずつ分かれて存在する。なお、長径a1の楕円の短径は「b1」で示す。長径a2の楕円の短径は「b2」で示す。脚軸22の外径輪郭のXに関する対称形、Y軸に関する非対称形は、図2の場合と同様である。
【0017】
なお、脚軸22の断面形は図5のようにリング32との接触に関与しない部分は直線37とすることができる。曲線は加工工程が複雑なため、直線化により加工コストを低減するためである。なお、接触に関係ない部分は潤滑剤の溜まり部としての機能を有するため、リング32との間で十分なすきまを確保することが望ましい。
【0018】
以上、脚軸外径輪郭の3つの実施形態について説明したが、本発明の重要なポイントは、動力学的な観点から摩擦を取り扱ったことにある。等速ジョイントがトルクを伝達しながら回転すると、脚軸22とリング32は2箇所で線接触する。この嵌め合いがすきま嵌めであるとき接触部は移動し、この移動によって接触部には摩擦力が作用する。2箇所の線接触の接触力は、伝達トルクおよび等速自在継手の角度(作動角)によって変動する。この変動により、各接触点での摩擦力も変動する。これらの変動する摩擦力の合力によって生じる回転モーメントによって、脚軸22とリング32との間で相対回転が起きる。
【0019】
図8、図9および図10のような脚軸22の形状でも前述の回転モーメントは発生するが、この形状は1点での線接触であり、モーメントの大きさは非常に小さく、リングを積極的に回転させるまでには至らないと考えられる。実際に行った実験でも、リングの外径軌道面に対するボールの接触部のほとんどで移動が確認できず、したがって軸受軌道面が磨耗することを確認した。一方、図2のように接触部を2箇所に増やして行なった実験では、脚軸22とリング32との相対回転が確認され、軸受軌道面での磨耗も見られなかった。以上の現象は解析でも確認しており、脚軸22とリング32との接触部を複数に増やすと、脚軸22とリング32との相対回転が促進されることが確認されている。
【0020】
本発明は、深溝玉軸受を適用したトリポード型等速ジョイントのトリポード部材の脚軸22とリング32内径との接触点の数を特徴としているが、外側継手部材10のローラ案内面14とローラ外周面との接触形状は、図6(A)〜(D)に示されるようなものに適用可能である。すなわち、図6(A)は部分球面状のローラ34の外周面と外側継手部材のローラ案内面14とをサーキュラコンタクトさせたもの、(B)は部分球面状のローラ34の外周面と外側継手部材10のローラ案内面14とをアンギュラコンタクトさせたもの、(C)は部分球面状のローラ34の外周面と外側継手部材10のローラ案内面14とをサーキュラコンタクトさせたもの、(D)は部分球面状のローラ34の外周面と外側継手部材10のローラ案内面14とをアンギュラコンタクトさせたものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ローラ・アセンブリに深溝玉軸受を用いたトリポード型等速自在継手の断面図。
【図2】本発明の第1実施形態に係るトリポード型等速自在継手のローラ・アセンブリの断面図。
【図3】本発明の第2実施形態に係るトリポード型等速自在継手のローラ・アセンブリの断面図。
【図4】本発明の第3実施形態に係るトリポード型等速自在継手のローラ・アセンブリの断面図。
【図5】脚軸の外径輪郭の変形例を示す断面図。
【図6】ローラとローラ案内面との当接部位を示す断面図であって、(A)は部分球面状のローラの外周面と外側継手部材のローラ案内面とをサーキュラコンタクトさせた部分断面図、(B)は部分球面状のローラの外周面と外側継手部材のローラ案内面とをアンギュラコンタクトさせた部分断面図、(C)は部分球面状のローラの外周面と外側継手部材のローラ案内面とをサーキュラコンタクトさせた部分断面図、(D)は部分球面状のローラの外周面と外側継手部材のローラ案内面とをアンギュラコンタクトさせた部分断面図。
【図7】従来のトリポード型等速自在継手の断面図。
【図8】1つの円を外径輪郭とした脚軸を有するローラ・アセンブリの断面図。
【図9】2つの円を重合させた形状を外径輪郭とした脚軸を有するローラ・アセンブリの断面図。
【図10】1つの楕円を外径輪郭とした脚軸を有するローラ・アセンブリの断面図。
【符号の説明】
【0022】
10 外側継手部材
12 トラック溝
14 ローラ案内面
20 トリポード部材
22 脚軸
32 リング
34 ローラ
36 ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に向き合って配置された円筒状のローラ案内面を有する三つのトラック溝が形成された外側継手部材と、半径方向に突出した三つの脚軸を備えたトリポード部材と、前記トラック溝に挿入されたローラと、前記脚軸に外嵌して前記ローラを回転自在に支持するリングとを備え、前記ローラが前記ローラ案内面に沿って外側継手部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手において、前記脚軸の外径輪郭を継手の軸線と直角な外径中心線に関して非対称にすると共に、トルク負荷時に前記脚軸の外径断面と前記リングの内周面とを2点以上で接触させたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記脚軸の外径断面の各接点を含む曲線を円弧としたことを特徴とする請求項1記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記脚軸の外径断面の各接点を含む曲線を、楕円の一部で構成したことを特徴とする請求項1記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
前記ローラの内周に形成した外側軌道面と、前記リングの外周に形成した内側軌道面との間に、複数のボールを深溝玉軸受またはアンギュラ玉軸受を構成するように介在させたことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
前記ローラの内周に形成した外側軌道面と、前記リングの外周に形成した内側軌道面との間に、複数のころをニードル軸受を構成するように介在させたことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項6】
前記ローラの外周面とローラ案内面とを、サーキュラ・コンタクトまたはアンギュラ・コンタクトさせたことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のトリポード型等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−9863(P2006−9863A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185101(P2004−185101)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】