説明

トルクコンバータ装置

【課題】コンパクトに構成されたトルクコンバータ装置、特に、軸方向に短縮されたトルクコンバータ装置を提供すること。
【解決手段】インペラクラッチ3は、トルクコンバータ2のトーラス要素(2a,2b,2c)の径方向外側に配置されている。特に、インペラクラッチの軸長Aは、トルクコンバータ2のトーラス要素(2a,2b,2c)の軸長Bより短くされている。すなわち、インペラクラッチ3は、トーラス要素(2a,2b,2c)の軸長内に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータ装置に関し、特に、インペラクラッチ及び/又はロックアップクラッチを有するトルクコンバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[インペラクラッチの配置]
特許文献1〜3には、エンジン側出力部材とトルクコンバータのポンプインペラとの間を係合及び切り離し自在なインペラクラッチを有し、インペラクラッチが、トルクコンバータのトーラス要素の軸長外かつ径方向内に配置されたトルクコンバータ装置が開示されている。なお、トルクコンバータのトーラス要素は、ポンプインペラ、タービンライナ及びステータホイールから構成されるものである。また、特許文献1及び2において、インペラクラッチは、トルクコンバータのトーラス要素に対して、変速機側に配置され、特許文献3において、インペラクラッチは、トルクコンバータのトーラス要素に対して、エンジン側に配置されている。
【0003】
[インペラクラッチとポンプシェルの結合]
特許文献1〜3には、エンジン側出力部材とトルクコンバータのポンプインペラとの間を係合及び切り離し自在なインペラクラッチを有するトルクコンバータ装置が開示されている。特許文献1〜3において、インペラクラッチと、ポンプインペラの外郭を形成するポンプシェルは、インペラクラッチやポンプシェルの構成部材ではなく、別の部材によって結合されている。
【0004】
[インペラクラッチとリアカバーの結合]
特許文献1〜3には、エンジン側出力部材とトルクコンバータのポンプインペラとの間を係合及び切り離し自在なインペラクラッチを有するトルクコンバータ装置が開示されている。特許文献1〜3において、インペラクラッチと、エンジントルクが入力されるリアカバーは、インペラクラッチやリアカバーの構成部材ではなく、別の部材によって結合されている。
【0005】
[インペラクラッチの油圧室]
特許文献2には、エンジン側出力部材とトルクコンバータのポンプインペラとの間を係合及び切り離し自在なインペラクラッチを有するトルクコンバータ装置が開示されている。特許文献2のインペラクラッチは、クラッチ係合圧油が、トルクコンバータのほぼ外径まで充満されることにより、作動する。
【0006】
[インペラクラッチとロックアップクラッチの構成部材]
特許文献1〜3には、エンジン側出力部材とトルクコンバータのポンプインペラとの間を係合及び切り離し自在なインペラクラッチと、エンジン側出力部材とトルクコンバータ装置の出力軸との間を係合及び切り離し自在なロックアップクラッチと、を有するトルクコンバータ装置が開示されている。特許文献1〜3において、インペラクラッチと、ロックアップクラッチは、互いに異なる部材から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−35535号公報
【特許文献2】特開2004−301327号公報
【特許文献3】特開2008−138877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
[インペラクラッチの配置]
特許文献1〜3のように、インペラクラッチとトルクコンバータのトーラス要素を軸方向に並列配置すると、トルクコンバータ装置が軸方向に肥大化するため、トルクコンバータ装置の製造コストが増大し、又、車両の仕様によっては、トルクコンバータ装置の車両への搭載が困難となる場合がある。
【0009】
[インペラクラッチとポンプシェルの結合]
特許文献1〜3のように、インペラクラッチとポンプシェルを、インペラクラッチやポンプシェルの構成部材ではなく、別の部材によって結合すると、部品点数が多くなると共に、この別の部材をインペラクラッチとポンプシェルの両方に結合する製造工程が増加するという問題がある。
【0010】
[インペラクラッチとリアカバーの結合]
特許文献1〜3のように、インペラクラッチとリアカバーを、インペラクラッチやリアカバーの構成部材ではなく、別の部材によって結合すると、部品点数が多くなると共に、この別の部材をインペラクラッチとリアカバーの両方に結合する製造工程が増加するという問題がある。
【0011】
[インペラクラッチの油圧室]
特許文献2のように、クラッチ係合圧油がトルクコンバータのほぼ外径まで充満されなければ作動しない、インペラクラッチは、クラッチ係合及び切り離しに要する時間が長いという問題がある。
【0012】
[インペラクラッチとロックアップクラッチの構成部材]
特許文献1〜3のように、インペラクラッチとロックアップクラッチが、互いに異なる部材から構成されていると、部品種類数が多くなるという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、コンパクトに構成されたトルクコンバータ装置、特に、軸方向に短縮されたトルクコンバータ装置を提供することである。また別に、本発明の目的は、部品点数又は部品種類が削減されたトルクコンバータ装置、或いは、クラッチ係合及び切り離し時間のバラツキが低減されたインペラクラッチを備えたトルクコンバータ装置、或いは、クラッチ係合室をシールするシール部材の破損が防止されたインペラクラッチを備えたトルクコンバータ装置、或いは、クラッチ係合及び切り離し時間が短縮されるインペラクラッチを備えたトルクコンバータ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[インペラクラッチの配置]
本発明は、第1の視点において、トルクコンバータと、エンジンと前記トルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記インペラクラッチは、前記トルクコンバータのトーラス要素の径方向外側に配置される、トルクコンバータ装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
[インペラクラッチの配置]
本発明において、前記インペラクラッチが、前記トルクコンバータのトーラス要素の径方向外側に配置されたトルクコンバータ装置は、装置全体の軸長が短縮され、車両搭載上有利となり、又製造コストも低減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例に係るトルクコンバータ装置の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の別の実施例に係るトルクコンバータ装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[インペラクラッチの配置]
本発明の好ましい実施の形態において、前記インペラクラッチは、前記トーラス要素の軸長内に配置される。この形態によれば、装置全体の軸長が短縮され、車両搭載上有利となり、又製造コストも低減される。
【0018】
[インペラクラッチとポンプシェルの結合]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、トルクコンバータと、エンジンとトルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、前記トルクコンバータの前記入力要素の外郭を形成して該入力要素と一体回転するポンプシェルと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記ポンプシェルの一部分が、前記インペラクラッチが備える他方の摩擦係合要素を支持するインナーハブとなる。このように、前記ポンプシェルの一部分が、前記インペラクラッチが備える摩擦係合要素を支持するインナーハブとなるトルクコンバータ装置は、部品点数が削減されると共に、インペラクラッチとポンプシェル間を結合するための工程数が減少される。
【0019】
[インペラクラッチとカバーの結合]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、トルクコンバータと、エンジンとトルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、前記トルクコンバータ及び前記インペラクラッチを覆うと共に前記エンジンからのトルクが入力されるカバーと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記カバーの一部分が、前記インペラクラッチが備える一方の摩擦係合要素を支持するアウターハブとなる。このように、前記カバーの一部分が、前記インペラクラッチが備える摩擦係合要素を支持するアウターハブとなるトルクコンバータ装置は、部品点数が削減されると共に、インペラクラッチとリアカバー間を結合するための工程数が減少される。
【0020】
[クラッチピストンの回り止め]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、エンジンとトルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、前記トルクコンバータの前記入力要素の外郭を形成して該入力要素と一体回転するポンプシェルと、前記トルクコンバータ及び前記インペラクラッチを覆うと共に前記エンジンからのトルクが入力されるカバーと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記インペラクラッチは、前記トルクコンバータの前記ポンプシェルの外面と、前記トルクコンバータ装置の前記カバーの内面との間でストロークするクラッチピストンを備え、前記カバーは、前記クラッチピストンと回転方向に関して係合する回り止め部を備える。このように、前記カバーが、前記クラッチピストンと回転方向に関して係合する回り止め部を備えるトルクコンバータ装置は、クラッチピストンとカバーが一体回転するため、カバーとクラッチピストンによって囲まれたクラッチ係合室をシールするシール部材の破損が防止される。
【0021】
[クラッチピストンの初期ストローク位置]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、エンジンとトルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、前記トルクコンバータの前記入力要素の外郭を形成して該入力要素と一体回転するポンプシェルと、前記トルクコンバータ及び前記インペラクラッチを覆うと共に前記エンジンからのトルクが入力されるカバーと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記インペラクラッチは、前記ポンプシェルの外面と前記カバーの内面との間でストロークするクラッチピストンを備え、前記クラッチピストンは、前記カバーの内面に当接して、該クラッチピストンの初期ストローク位置を定めるカバー当接部を備える。このようなトルクコンバータ装置は、インペラクラッチの開放時、クラッチピストンのストローク初期位置が一定となるため、インペラクラッチのクラッチ係合及び切り離し時間のバラツキが低減される。
【0022】
[インペラクラッチのクラッチピストンのシール]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、前記クラッチピストンと、前記カバー及び/又は前記カバーと一体回転し前記クラッチピストンが摺動するカバーハブとの間に装填された一又は複数のシール部材を有する。このようなシール部材によって、クラッチ係合室が区画され、そのシール性が向上されると共に、クラッチ係合室の容積が削減され、クラッチ係合及び切り離しに要する時間が短縮される。
【0023】
[インペラクラッチの油圧室]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、エンジンとトルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、前記トルクコンバータの前記入力要素の外郭を形成して該入力要素と一体回転するポンプシェルと、前記トルクコンバータ及び前記インペラクラッチを覆うと共に前記エンジンからのトルクが入力されるカバーと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記インペラクラッチは、前記ポンプシェルの外面と前記カバーの内面との間でストロークするクラッチピストンと、前記クラッチピストンと前記カバーの内面との間に形成され、該クラッチピストンをストロークさせるクラッチ係合圧が供給される空間と、を備え、前記空間において、前記クラッチピストンと前記カバーの内面との間にシール部材が装填され、前記シール部材の径方向内側の空間がクラッチ油圧室となる。このようなトルクコンバータ装置は、クラッチ係合圧油がクラッチ油圧室に充満するのに要する時間が短いため、クラッチ係合及び切り離しに要する時間が短縮され燃費が向上されると共に、クラッチ油圧室のシール性が高い。
【0024】
[インペラクラッチの油圧室]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、エンジンとトルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、前記トルクコンバータの前記入力要素の外郭を形成して該入力要素と一体回転するポンプシェルと、前記トルクコンバータ及び前記インペラクラッチを覆うと共に前記エンジンからのトルクが入力されるカバーと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記インペラクラッチは、前記ポンプシェルの外面と前記カバーの内面との間でストロークするクラッチピストンと、前記クラッチピストンと前記カバーの内面との間に形成され、該クラッチピストンをストロークさせるクラッチ係合圧が供給されるクラッチ油圧室と、を備え、前記トルクコンバータの外径に対する前記インペラクラッチの前記クラッチ油圧室の外径の比が、2/5〜4/5の範囲である。このように、前記トルクコンバータの外径に対する前記インペラクラッチの前記クラッチ油圧室の外径の比は、2/5〜4/5の範囲とすることが、クラッチ動作を迅速化し、又、十分な摩擦係合圧を得る上で好ましい。
【0025】
[インペラクラッチとロックアップクラッチの構成部材]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、エンジンとトルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、前記エンジンと前記トルクコンバータの出力軸間の動力伝達を断接自在であるロックアップクラッチと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチのクラッチピストンが、互いに対称に配置され、前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチのクラッチピストン、さらに好ましくは周辺部品が、共通化される。このように、前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチの構成部材、好ましくは、クラッチピストン、摩擦係合要素などを共通化することにより、部品種類数が削減される。また、前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチを、前記トルクコンバータのトーラス要素の径方向外側において、前記径方向に関して同位置に且つ軸方向に隣接して配置することにより、構成部材の共通化、かくして、部品種類数の削減が達成容易となる。
【0026】
[インペラクラッチとロックアップクラッチの構成部材]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、エンジンとトルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、前記エンジンと前記トルクコンバータの出力軸間の動力伝達を断接自在であるロックアップクラッチと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチの摩擦係合要素が、共通化されるトルクコンバータ装置を提供する。このように、前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチの摩擦係合要素を共通化することにより、部品種類数が削減される。
【0027】
[インペラクラッチとロックアップクラッチの構成部材]
本発明の好ましい実施の形態に係るトルクコンバータ装置は、エンジンとトルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、前記エンジンと前記トルクコンバータの出力軸間の動力伝達を断接自在であるロックアップクラッチと、を有するトルクコンバータ装置であって、前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチは、前記トルクコンバータのトーラス要素の径方向外側において、前記径方向に関して同位置に且つ軸方向に隣接して配置される。このように、前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチを配置することにより、構成部材の共通化、かくして、部品種類数の削減が達成容易となる。
【実施例1】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の一実施例を説明する。図1は、本発明の一実施例に係るトルクコンバータ装置の構造を示す断面図である。
【0029】
[トルクコンバータ装置の基本構成]
本発明の一実施例に係るトルクコンバータ装置20は、エンジン1とトルクコンバータ2のポンプインペラ(入力要素)2a間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチ3と、エンジン1とトルクコンバータ2の出力軸14間の動力伝達を断接自在であるロックアップクラッチ4と、トルクコンバータ2のポンプインペラ2aの外郭を形成してポンプインペラ2aと一体回転するポンプシェル2dと、トルクコンバータ2及びインペラクラッチ3を覆うと共にエンジン1からのトルクが入力されるカバー(9a,9b)と、を有している。
【0030】
[ロックアップダンパ]
さらに、トルクコンバータ装置20は、ロックアップクラッチ4と出力軸14間に接続されて、ロックアップクラッチ4の係合時、エンジントルクの変動等を吸収するロックアップダンパ5を有している。ロックアップダンパ5及びトルクコンバータ2は、出力軸14にスプライン嵌合されたタービンハブ17に、連結されている。
【0031】
[トルクコンバータ]
トルクコンバータ2は、入力要素であるポンプインペラ2aと、出力要素であるタービンライナ2bと、ポンプインペラ2aとタービンライナ2b間で流体を介して伝達されるトルクを増倍するステータホイール2cと、を有している。
【0032】
[カバー]
カバー(9a,9b)は、不図示のエンジン側出力部材(ドライブプレート)に結合されるフロントカバー9aと、フロントカバー9aと一体化されるリアカバー9bから構成されている。
【0033】
[インペラクラッチ]
インペラクラッチ3は、リアカバー9bと一体回転してエンジントルクが入力される一方の摩擦係合要素3aと、ポンプインペラ2aと一体回転すると共に一方の摩擦係合要素3aと係合自在な他方の摩擦係合要素3bと、独立油路6aを通じて供給されるクラッチ係合圧を受けてストロークすることにより一方の摩擦係合要素3aを他方の摩擦係合要素3bに向って押圧自在なクラッチピストン3cと、独立油路6aを通じてクラッチ係合圧が供給及び排出自在なクラッチ油圧室3dと、リアカバー9bに係止され、クラッチピストン3cとの間で一方及び他方の摩擦係合要素3a,3bを挟持するフランジ3eと、を有している。インペラクラッチ3を切断状態とすることにより、エンジン1が、トルクコンバータ2、さらに、不図示の変速機から遮断され、エンジン1の始動が容易となる。また、車両の発進時には、インペラクラッチ3が係合状態とされ、トルクコンバータ装置20は、変速機を駆動する。
【0034】
[ロックアップクラッチ]
ロックアップクラッチ4は、トルクコンバータ装置20の内径側ないし径方向中間部に配置されている。ロックアップクラッチ4は、フロントカバー9aの内壁と一体化されたアウターハブ4f側に保持された一方の摩擦係合要素4aと、ロックアップダンパ5の入力側と一体回転するインナーハブ4gに連結されると共に一方の摩擦係合要素4aと係合自在な他方の摩擦係合要素4bと、独立油路6bを通じて供給されるクラッチ係合圧を受けてストロークすることにより一方の摩擦係合要素4aと他方の摩擦係合要素4bを係合自在なクラッチピストン4cと、独立油路6bを通じてクラッチ係合圧が供給及び排出自在なクラッチ油圧室4dと、アウターハブ4fに係止され、クラッチピストン4cとの間で一方及び他方の摩擦係合要素4a,4bを挟持するフランジ4eと、を有している。
【0035】
[油路]
インペラクラッチ3の独立油路6aは、リアカバー9bの内径側に結合されたリアカバーハブ10内に径方向に沿って形成されている。独立油路6aには、リアカバーハブ10内周面とスリーブ13外周面の間を通じて、クラッチ係合圧油が供給される。ロックアップクラッチ4の独立油路6bは、フロントカバー9aの内面と、ロックアップクラッチピストンハブ18の間に形成され、出力軸14の中空油路14aにからクラッチ係合圧油が供給される。T/C内圧供給油路6cは、ステータホイール2cとポンプインペラ2aの内径側に結合されたインペラハブ11の間に形成されている。T/C内圧供給油路6cには、スリーブ13内周面と、ワンウェイクラッチ15を介してステータホイール2cを支持するステータホイールシャフト16外周面の間に形成されている。T/C内圧排出油路6dは、タービンライナ2bの内径側に結合されたタービンハブ17の間に形成されている。トルクコンバータ2の内圧は、T/C内圧排出油路6dから、ステータホイールシャフト16内周面と出力軸14外周面の間を通じて、排出される。また、インペラハブ11は、ベアリング12を介して、リアカバーハブ10に回転自在に支持されている。
【0036】
[インペラクラッチの配置]
インペラクラッチ3は、トルクコンバータ2のトーラス要素(2a,2b,2c)の径方向外側に配置されている。特に、インペラクラッチの軸長Aは、トルクコンバータ2のトーラス要素(2a,2b,2c)の軸長Bより短くされている。すなわち、インペラクラッチ3は、トーラス要素(2a,2b,2c)の軸長内に配置されている。これによって、トルクコンバータ装置20全体の軸長が短縮され、車両搭載上有利となっている。
【0037】
[インペラクラッチとポンプシェルの結合]
ポンプシェル2dの一部分、すなわち、ポンプシェル2dの外径側端部2eは延長されて、インペラクラッチ3が備える他方の摩擦係合要素3bを支持するインナーハブ2eとなっている。他方の摩擦係合要素3bは、ポンプシェル2dの外径側端部2eにスプライン嵌合して、両者は一体回転する。インペラクラッチ3の係合時、インペラクラッチ3から、ポンプシェル2dの外径側端部2eを介して、ポンプインペラ2aにエンジントルクが伝達される。このように、ポンプシェル2dの一部分(2e)が、インペラクラッチ3の他方の摩擦係合要素3bを支持するインナーハブとなっていることにより、トルクコンバータ装置20の部品点数が削減されると共に、インペラクラッチ3とポンプシェル2d間を結合するための工程数が減少される。
【0038】
[インペラクラッチとリアカバーの結合]
リアカバー9bの一部分、すなわち、リアカバー9bの外径側内面に形成されたスプラインが、インペラクラッチ3が備える一方の摩擦係合要素3aを支持するアウターハブ9cとなっている。このように、リアカバー9bの一部分(9c)が、インペラクラッチ3の一方の摩擦係合要素3bを支持するアウターハブ(スプライン)9cとなっていることにより、トルクコンバータ装置20の部品点数が削減されると共に、インペラクラッチ3とリアカバー9b間を結合するための工程数が減少される。
【0039】
[クラッチピストンの回り止め]
リアカバー9bに形成されたアウターハブ(スプライン、回り止め)9cは、スプライン形状を有し、クラッチピストン3cの外径端部と回転方向に関して係合ないしスプライン嵌合することにより、クラッチピストンの回り止め部として機能する。かくして、クラッチピストン3cとリアカバー9bは一体回転するため、リアカバー9bとクラッチピストン3cによって囲まれたクラッチ油圧室3dをシールする、後述するシール部材(外径側シール7a及び内径側シール8a)と、リアカバー9bないしクラッチピストン3cとの摺動が可及的に抑制されるため、シール部材の破損が防止される。
【0040】
[クラッチピストンの初期ストローク位置]
インペラクラッチ3は、トルクコンバータ2のポンプシェル2dの外面と、トルクコンバータ装置20のリアカバー9bの内面との間でストロークするクラッチピストン3cを備えている。さらに、クラッチピストン3cは、リアカバー9bの内面に当接して、クラッチピストン3cの初期ストローク位置を定めるカバー当接部3fを備えている。トルクコンバータ装置20は、インペラクラッチ3の開放時、クラッチピストン3cのストローク初期位置が一定となるため、インペラクラッチ3のクラッチ係合及び切り離し時間のバラツキが低減される。
【0041】
[インペラクラッチの油圧室、インペラクラッチのクラッチピストンのシール]
インペラクラッチ3のクラッチピストン3cとリアカバー9bの内面との間に形成され、クラッチ係合圧が供給される空間において、クラッチピストン3cとリアカバー9bの内面との間に外径側シール7aが装填され、外径側シール7aの径方向内側の空間がクラッチ油圧室3dとなっている。また、クラッチピストン3cの内径側端部と、リアカバーハブ10との間には、クラッチ油圧室3dの内径側をシールする内径側シール8aが装填されている。外径側シール7aは、リアカバー9bの径方向内面に当接して軸方向に延在する径方向外面と、クラッチピストン3cの径方向外面に当接する径方向内面と、を有し、クラッチピストン3cのストロークに対応している。
【0042】
外径側シール7aは、クラッチ油圧室3dの容積が小さくなるよう、前記空間の径方向中間部に配置されている。特に、外径側シール7aの径方向位置は、トルクコンバータ2の外径Cに対するインペラクラッチ3のクラッチ油圧室3dの外径Dの比が、2/5〜4/5の範囲となるよう、設定される。これによって、十分に摩擦係合圧が保障されると共に、インペラクラッチ3の係合及び切り離しに要する時間が短縮される。
【実施例2】
【0043】
[インペラクラッチとロックアップクラッチの構成部材]
図2は、本発明の別の実施例に係るトルクコンバータ装置21の構造を示す断面図である。なお、図1に示したトルクコンバータ装置20と、図2に示すトルクコンバータ装置21が共通する点については、適宜、前記実施例1の記載を参照するものとし、本実施例2においては、主として、前記実施例との相違点について説明する。
【0044】
図2を参照すると、本発明の別の実施例に係るトルクコンバータ装置21は、エンジン1とトルクコンバータ2のポンプインペラ(入力要素)2a間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチ3と、エンジン1とトルクコンバータ2の出力軸14間の動力伝達を断接自在であるロックアップクラッチ4と、を有している。なお、インペラクラッチ3と、ロックアップクラッチ4は、多板クラッチタイプである。
【0045】
ロックアップクラッチ4のクラッチピストン4cとフロントカバー9aの内面との間に形成され、クラッチ係合圧が供給される空間において、クラッチピストン4cとフロントカバー9aの内面との間に外径側シール7bが装填され、外径側シール7bの径方向内側の空間がクラッチ油圧室4dとなっている。また、ロックアップクラッチ4は、クラッチピストン4cの内径側端部と、出力軸14と一体回転するよう係合されると共に、クラッチピストン4cが軸方向にストローク自在に回転方向に係合されたロックアップクラッチピストンハブ18を有している。クラッチピストン4cの内周面と、ロックアップクラッチピストンハブ18の外周面の間には、クラッチ油圧室4dの内径側をシールする内径側シール8bが装填されている。
【0046】
インペラクラッチ3とロックアップクラッチ4は、トルクコンバータ2のトーラス要素(2a,2b,2c)の径方向外側において、径方向に関して同位置に且つ軸方向に隣接して配置されている。これによって、インペラクラッチ3とロックアップクラッチ4のクラッチピストン3c,4cは、互いに対称に配置され、クラッチピストン3c,4cは、共通部品化されている。さらに、インペラクラッチ3とロックアップクラッチ4のその他の構成部材同士(クラッチピストン3c,4cの周辺部品)、すなわち、一方の摩擦係合要素3a,4a同士、他方の摩擦係合要素3b,4b同士、フランジ3e,4e同士、外径側シール7a,7b同士、内径側シール8a,8b同士も、対称な位置に配置されているため、それぞれ共通部品化されている。
【0047】
また、一方の摩擦係合要素3a,4a、及び/又は、他方の摩擦係合要素3b,4bが、摩擦ライニングとプレートから構成されている場合は、摩擦ライニングとプレートも共通部品化される。
【0048】
かくして、インペラクラッチ3とロックアップクラッチ4において、部品種類数の削減が達成され、生産設備や製造工程の共通化ができ、トルクコンバータ装置21の生産コストが低減される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によるトルクコンバータ装置は、特に、インペラクラッチないしロックアップクラッチを備えたトルクコンバータ装置に利用され、さらに、このようなトルクコンバータ装置を搭載する車両に利用される。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン(E/G)
2 トルクコンバータ(T/C)
2a ポンプインペラ
2b タービンライナ
2c ステータホイール
2d ポンプシェル
2e 外径側端部、インナーハブ
3 インペラクラッチ
3a 一方の摩擦係合要素
3b 他方の摩擦係合要素
3c クラッチピストン
3d クラッチ油圧室
3e フランジ
3f カバー当接部
4 ロックアップクラッチ
4a 一方の摩擦係合要素
4b 他方の摩擦係合要素
4c クラッチピストン
4d クラッチ油圧室
4e フランジ
4f スプライン、アウターハブ
4g インナーハブ
5 ロックアップダンパ
6a 独立油路(インペラクラッチ係合油路)
6b 独立油路(ロックアップクラッチ係合油路)
6c T/C内圧供給油路(潤滑油供給油路)
6d T/C内圧排出油路(潤滑油排出油路)
7a,7b 外径側シール(シール部材)
8a,8b 内径側シール(シール部材)
9a フロントカバー
9b リアカバー
(9a,9b) カバー
9c アウターハブ、スプライン、回り止め
10 リアカバーハブ
11 インペラハブ
12 ベアリング
13 スリーブ
14 出力軸
14a 中空油路
15 ワンウェイクラッチ
16 ステータホイールシャフト
17 タービンハブ
18 ロックアップクラッチピストンハブ
20,21 トルクコンバータ装置
A インペラクラッチの軸長
B トルクコンバータのトーラス要素の軸長B
C トルクコンバータの外径
D インペラクラッチのクラッチ油圧室の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータと、エンジンと前記トルクコンバータの入力要素間の動力伝達を断接自在であるインペラクラッチと、を有するトルクコンバータ装置であって、
前記インペラクラッチは、前記トルクコンバータのトーラス要素の径方向外側に配置される、ことを特徴とするトルクコンバータ装置。
【請求項2】
前記インペラクラッチは、前記トーラス要素の軸長内に配置される、ことを特徴とする請求項1記載のトルクコンバータ装置。
【請求項3】
前記トルクコンバータの前記入力要素の外郭を形成して該入力要素と一体回転するポンプシェルを有し、
前記ポンプシェルの一部分が、前記インペラクラッチが備える他方の摩擦係合要素を支持するインナーハブとなる、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のトルクコンバータ装置。
【請求項4】
前記トルクコンバータ及び前記インペラクラッチを覆うと共に前記エンジンからのトルクが入力されるカバーを有し、
前記カバーの一部分が、前記インペラクラッチが備える一方の摩擦係合要素を支持するアウターハブとなる、ことを特徴とする請求項1乃至3のいづれか一項記載のトルクコンバータ装置。
【請求項5】
前記トルクコンバータの前記入力要素の外郭を形成して該入力要素と一体回転するポンプシェルと、前記トルクコンバータ及び前記インペラクラッチを覆うと共に前記エンジンからのトルクが入力されるカバーと、を有し、
前記インペラクラッチは、前記ポンプシェルの外面と前記カバーの内面との間でストロークするクラッチピストンを備え、
前記カバーは、前記クラッチピストンと回転方向に関して係合する回り止め部を備える、ことを特徴とする請求項1乃至4のいづれか一項記載のトルクコンバータ装置。
【請求項6】
前記クラッチピストンは、前記カバーの内面に当接して、該クラッチピストンの初期ストローク位置を定めるカバー当接部を備える、ことを特徴とする請求項5記載のトルクコンバータ装置。
【請求項7】
前記クラッチピストンと、前記カバー及び/又は前記カバーと一体回転し前記クラッチピストンが摺動するカバーハブとの間に装填された一又は複数のシール部材を有することを特徴とする請求項5又は6記載のトルクコンバータ装置。
【請求項8】
前記トルクコンバータの前記入力要素の外郭を形成して該入力要素と一体回転するポンプシェルと、前記トルクコンバータ及び前記インペラクラッチを覆うと共に前記エンジンからのトルクが入力されるカバーと、を有し、
前記インペラクラッチは、前記ポンプシェルの外面と前記カバーの内面との間でストロークするクラッチピストンと、
前記クラッチピストンと前記カバーの内面との間に形成され、該クラッチピストンをストロークさせるクラッチ係合圧が供給される空間と、を備え、
前記空間において、前記クラッチピストンと前記カバーの内面との間にシール部材が装填され、前記シール部材の径方向内側の空間がクラッチ油圧室となる、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいづれか一項記載のトルクコンバータ装置。
【請求項9】
前記トルクコンバータの前記入力要素の外郭を形成して該入力要素と一体回転するポンプシェルを有し、
前記インペラクラッチは、前記ポンプシェルの外面と前記カバーの内面との間でストロークするクラッチピストンと、前記クラッチピストンと前記カバーの内面との間に形成され、該クラッチピストンをストロークさせるクラッチ係合圧が供給されるクラッチ油圧室と、を備え、
前記トルクコンバータの外径に対する前記インペラクラッチの前記クラッチ油圧室の外径の比が、2/5〜4/5の範囲である、ことを特徴とする請求項8記載のトルクコンバータ装置。
【請求項10】
前記エンジンと前記トルクコンバータの出力軸間の動力伝達を断接自在であるロックアップクラッチと、を有し、
前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチのクラッチピストンが、互いに対称に配置され、前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチのクラッチピストンが、共通化される、ことを特徴とする請求項1乃至9のいづれか一項記載のトルクコンバータ装置。
【請求項11】
前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチの摩擦係合要素が、共通化される、ことを特徴とする請求項10記載のトルクコンバータ装置。
【請求項12】
前記インペラクラッチと前記ロックアップクラッチは、前記トルクコンバータのトーラス要素の径方向外側において、前記径方向に関して同位置に且つ軸方向に隣接して配置される、ことを特徴とする請求項10又は11記載のトルクコンバータ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−106557(P2011−106557A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261704(P2009−261704)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】