説明

トロイダル型無段変速機のトラニオンおよびその加工方法

【課題】高精度な加工機を用いることなく安価に、パワーローラ・トラニオンアセンブリ間での軸間偏心量のばらつきを小さく抑えることができるトロイダル型無段変速機のトラニオン加工方法および該方法によって形成されるトラニオンを提供する。
【解決手段】このトラニオン加工方法は、所定の素材からトラニオンを切削する切削工程と、偏心軸16の両端面にそれぞれ、偏心軸16の軸心O”上に位置して第1のセンタ穴102を形成する偏心軸センタ穴形成工程と、枢軸14の両端面にそれぞれ、枢軸14の軸心O’上に位置して第2のセンタ穴105を形成する枢軸センタ穴形成工程と、第1のセンタ穴102を支点として偏心軸16を両側から支持した状態で、偏心軸16を研削加工する偏心軸研削工程と、第2のセンタ穴105を支点として枢軸14を両側から支持した状態で、枢軸14を研削加工する枢軸研削工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機のトラニオンおよびその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図7および図8に示すように構成されている(図7に2つのキャビティ221,222が示される)。図7に示すように、ケーシング50の内側には入力軸(中心軸)1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図8参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図7中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図7の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図8は、図7のA−A線に沿う断面図である。図8に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図8においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、パワーローラ11を支持する支持板部16の長手方向(図8の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸(軸部)23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、ラジアルニードル軸受99を介して各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図8の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図8の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図8で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図8の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図8の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面(トラクション面)11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
ところで、このような従来のトラニオン15によってパワーローラ11を支持する支持構造に対し、例えば特許文献1には、支持板部16を部分円筒形状とし、パワーローラ11はこの円筒状の部分に対応する凹部を有するものとした支持構造のクランク軸型のトラニオンが開示されている。このようなクランク軸型のトラニオンでは、変速時の同期不良や耐久性の低下を防止するために、図9に示すように、トラニオン15の傾転軸である枢軸14の中心軸O’とパワーローラ11の接触点(パワーローラ11とディスク2,3との接触点)Pとの間の距離(高さ)Lが複数あるパワーローラ・トラニオンアセンブリ間で互いにあまり異ならないようにすること、すなわち、複数あるパワーローラ・トラニオンアセンブリ間での距離Lの差を可能な限り小さく抑えることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−25821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
複数あるパワーローラ・トラニオンアセンブリ間での距離Lの差を可能な限り小さく抑えるためには、少なくともトラニオン15それ自体において、枢軸14と、該枢軸14に対して偏心する偏心軸である支持板部16と(図10で斜線で示す部位)を高精度に研削加工して、図10に示すように、枢軸14の中心軸O’と支持板部16の中心軸O”との間の距離、すなわち、偏心量Xのばらつきを、複数あるパワーローラ・トラニオンアセンブリ間で可能な限り小さく抑える必要がある。
【0019】
このような偏心量Xの管理は、一般に、クランク軸型のトラニオン15では、偏心軸研削盤などの専用の高精度加工機を用いることで可能となるが、その場合、設備が高価になる等、コスト上の問題が発生する。
【0020】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、高精度な加工機を用いることなく安価に、パワーローラ・トラニオンアセンブリ間での軸間偏心量のばらつきを小さく抑えることができるトロイダル型無段変速機のトラニオン加工方法および該方法によって形成されるトラニオンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、本発明は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し且つ前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンとを備えて成り、前記トラニオンが前記枢軸に対して偏心する偏心軸を有するトロイダル型無段変速機の前記トラニオンの加工方法であって、所定の素材からトラニオンを切削する切削工程と、前記偏心軸の両端面にそれぞれ、偏心軸の軸心上に位置して第1のセンタ穴を形成する偏心軸センタ穴形成工程と、前記枢軸の両端面にそれぞれ、枢軸の軸心上に位置して第2のセンタ穴を形成する枢軸センタ穴形成工程と、前記第1のセンタ穴を支点として前記偏心軸を両側から支持した状態で、前記偏心軸を研削加工する偏心軸研削工程と、前記第2のセンタ穴を支点として前記枢軸を両側から支持した状態で、前記枢軸を研削加工する枢軸研削工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、枢軸および偏心軸に対してそれぞれセンタ穴形成工程を施し、それによって形成されたセンタ穴(第1のセンタ穴および第2のセンタ穴)を支点(基準)として研削加工を行なうため、高精度な加工機を用いることなく安価に、パワーローラ・トラニオンアセンブリ間での軸間偏心量(枢軸の軸心と偏心軸の軸心との間の距離)のばらつきを小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る加工方法の偏心軸研削工程を示し、(a)は研削砥石によってトラニオンのポケット部の一方側を研削している状態を示す概略側面図、(b)は研削砥石によってトラニオンのポケット部の他方側を研削している状態を示す概略側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る加工方法の枢軸研削工程を示し、(a)は研削砥石によってトラニオンの一方の枢軸を研削している状態を示す概略側面図、(b)は研削砥石によってトラニオンの他方の枢軸から駆動ロッドへとわたって研削している状態を示す概略側面図である。
【図3】切削工程に際して第1および第2のセンタ穴をワンチャックによって同時に加工する状態を示す概略図である。
【図4】(a)は本発明の第2の実施形態に係る加工方法の硬化処理工程の概略側面図、(b)は本発明の第2の実施形態に係る加工方法の硬化処理工程によって生じる熱処理変形を説明するための概略側面図である。
【図5】(a)は本発明の第3の実施形態に係る加工方法の偏心軸研削工程において研削砥石によってトラニオンのポケット部の一方側を研削している状態を示す概略側面図、(b)は同実施形態に係る加工方法の偏心軸研削工程において研削砥石によってトラニオンのポケット部の他方側を研削している状態を示す概略側面図、(c)は偏心軸研削工程によってトラニオンの応力が開放される状態を説明するための概略側面図、(d)および(e)は同実施形態に係る加工方法の枢軸センタ穴形成工程を示す概略側面図、(f)は同実施形態に係る加工方法の枢軸研削工程において研削砥石によってトラニオンの一方の枢軸を研削している状態を示す概略側面図、(g)は研削砥石によってトラニオンの他方の枢軸から駆動ロッドへとわたって研削している状態を示す概略側面図である。
【図6】(a)は切削工程時に、枢軸の両端に仮軸部を形成して、仮軸部に仮センサ穴を形成する工程を示す本発明の第4の実施形態に係る加工方法を説明するための概略側面図、(b)は同実施形態に係る加工方法の枢軸切削加工において切削工具によってトラニオンの一方の枢軸を切削している状態を示す概略側面図、(c)は切削工具によってトラニオンの他方の枢軸から駆動ロッドへとわたって切削している状態を示す概略側面図、(d)および(e)は仮軸部を除去した後に行なわれる枢軸センタ穴形成工程を示す概略側面図である。
【図7】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図8】図7のA−A線に沿う断面図である。
【図9】(a)はクランク軸型のパワーローラ・トラニオンアセンブリの概略側面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【図10】(a)は図9のパワーローラ・トラニオンアセンブリのトラニオン単体の概略側面図、(b)は(a)のトラニオンの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の特徴は、パワーローラ・トラニオンアセンブリ間での軸間偏心量のばらつきを小さく抑えることができるトラニオンの加工方法にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図7および図8と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0025】
図1〜図3は、本発明の第1の実施形態に係るトロイダル型無段変速機のトラニオン15の加工法を示している。
なお、前述したように、トラニオン15は、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸(傾転軸)14,14を中心として揺動するものであり、枢軸14に対して偏心してパワーローラ11を支持するする偏心軸としての支持板部16の長手方向の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。また、一方側の枢軸14は駆動ロッド(トラニオン軸)29を有している。
【0026】
まず、本実施形態に係る加工方法では、所定の素材からトラニオン15を切削する、すなわち、仕上げ加工(研削加工)前の状態のトラニオン15を切削加工により成形する切削工程が行なわれる。この切削工程に際しては、図3に示すように、偏心軸センタ穴形成工程および枢軸センタ穴形成工程もそれぞれ行なわれる。具体的には、工具120を用いて、偏心軸である支持板部16の両端面(各端面に対する加工が(a)および(b)にそれぞれ示されている)にそれぞれ、支持板部16の軸心O”上に位置して第1のセンタ穴102を形成する(偏心軸センタ穴形成工程)とともに、枢軸14の両端面(各端面に対する加工が(a)および(b)にそれぞれ示されている・・・一方の端面は枢軸14から延びる駆動ロッド29の端面に対応する)にそれぞれ、枢軸14の軸心O’上に位置して第2のセンタ穴105を形成する(枢軸センタ穴形成工程)。この場合、両端の2つの第1のセンタ穴102および両端の2つの第2のセンタ穴105が全て1つのチャッキング治具130を用いて同時加工される。具体的には、切削加工によりセンタ穴102、105を除いてほぼ加工済の工作物について、旋回位置決めを行なうインデックステーブル(図示せず)上のチャッキング治具(Vブロック)130で工作物(トラニオン15の形成素材のポケット部Pに対応する部位)を把持し(斜面に支持板部16の円筒部を当てて、図示しないクランプで固定する)、ワンチャックで4か所のセンタ穴102,102,105,105を工具120を用いて加工する。この場合、センタ穴4か所の相対位置精度が加工機(およびインデックステーブル)の位置出し精度によって十分に保証される。その後、必要に応じて、例えば切削工具を用いて未加工の細部の切削加工を行なう(切削工程)。なお、切削加工に先立ち、鍛造加工等の塑性加工を行うようにしてもよい。
【0027】
続いて、図1および図2に示すように、研削砥石100,110で材料を除去することにより、所望の形状および 精度に加工する研削工程を行なう。具体的には、まず、図1に示すように、第1のセンタ穴102を支点P1,P2として支持板部16(偏心軸)を両側から支持した状態で、支持板部16を研削加工する(偏心軸研削工程)。例えば、支持板部16の軸心O”を中心に工作物を回転させながら研削砥石100をポケット部Pに押し当てて研削加工を行なう。この場合、研削砥石100の作動軸がトラニオン素材である工作物の軸心O”に対して傾いているアンギュラ研削盤により円筒面と側面とを同時加工できる。研削砥石100の直径は研削幅よりも十分に大きく、研削部位による周速差は問題とならない。なお、図1の(a)は研削砥石100によってトラニオン15のポケット部Pの一方側を研削している状態を示し、図1の(b)は研削砥石100によってトラニオン15のポケット部Pの他方側を研削している状態を示している。
【0028】
その後、図2に示すように、第2のセンタ穴105を支点P3,P4として枢軸14を両側から支持した状態で、枢軸14を研削加工する(枢軸研削工程)。例えば、枢軸14の軸心O’を中心に工作物を回転させながら研削砥石110を枢軸および駆動ロッド29の外面に押し当てて研削加工を行なう。なお、図2の(a)は研削砥石110によってトラニオン15の一方の枢軸14を研削している状態を示し、図2の(b)は研削砥石110によってトラニオン15の他方の枢軸14から駆動ロッド29へとわたって研削している状態を示している。
【0029】
以上のように、本実施形態に係る加工方法によれば、枢軸14および支持板部(偏心軸)16に対してそれぞれセンタ穴形成工程を施し、それによって形成されたセンタ穴(第1のセンタ穴102および第2のセンタ穴105)を支点(基準)として研削加工を行なうため、高精度な加工機(特殊な研削盤)を用いることなく安価に(汎用的な円筒研削盤やアンギュラ研削盤を用いて)、パワーローラ・トラニオンアセンブリ間での軸間偏心量のばらつきを小さく抑えることができる。なお、本実施形態では、研削加工に際して、センタ穴102,105が除去されてもよく、あるいは、そのまま残されてもよい。
【0030】
図4は、本発明の第2の実施形態を示している。
本実施形態に係る加工方法では、切削工程に際して偏心軸センタ穴形成工程および枢軸センタ穴形成工程が行なわれず、切削工程後に枢軸14および支持板部(偏心軸)16に対して行なわれる表面硬化処理(硬化処理工程)を経た後においてのみ偏心軸センタ穴形成工程および枢軸センタ穴形成工程が行なわれる。
【0031】
具体的には、センタ穴形成を伴わない切削工程が行なわれた後、図4の(a)に示すように枢軸14および支持板部(偏心軸)16に対して表面硬化処理A,Bが施される。枢軸14の外周面に対する表面硬化処理Aは、主に、軸受の転動疲労強度の向上を図るために行なわれるものであり、一方、支持板部(偏心軸)16の外面に対する表面硬化処理は、主に、耐摩耗性の向上を図るために行なわれるものである。このような表面硬化処理の際には熱処理変形が生じ得る。したがって、表面硬化処理前に第1の実施形態のようにセンタ穴102,105を加工してしまうと、少なからず、図4の(b)に示されるような変形(矢印参照)の影響で、センタ穴102,105間の偏心量に変化が生じてしまう。このような不都合を回避するために、本実施形態では、表面硬化処理後にセンサ穴形成工程を行なうようにしている。表面硬化処理工程後に行なわれる偏心軸センタ穴形成工程および枢軸センタ穴形成工程は,第1の実施形態(図3参照)と同じである。また、その後に更に行なわれる偏心軸研削工程および枢軸研削工程も,第1の実施形態(図1,2参照)と同じである。
【0032】
以上のように、本実施形態では、表面硬化処理(硬化処理工程)を経た後においてのみ偏心軸センタ穴形成工程および枢軸センタ穴形成工程が行なわれるため、熱処理変形の影響を受けずに、センタ穴4か所の相対位置精度を高精度に保ったまま、研削加工を精密に行なうことができる。
【0033】
図5は、本発明の第3の実施形態を示している。
本実施形態に係る加工方法では、切削工程に際して偏心軸センタ穴形成工程は行うが、枢軸センタ穴形成工程は行なわれず、切削工程後に枢軸14および支持板部(偏心軸)16に対して行なわれる表面硬化処理(硬化処理工程)を経た後に、枢軸センタ穴形成工程が行なわれる。すなわち、硬化処理工程後に偏心軸研削工程が行なわれ、その後に、偏心軸を基準に枢軸センタ穴形成工程が行なわれた後、枢軸研削工程が行なわれるようになっている。
【0034】
具体的には、枢軸センタ穴形成を伴わない切削工程が行なわれた後、枢軸14および支持板部(偏心軸)16に対して表面硬化処理が施され、その後、図5の(a),(b)に示すように、第1のセンタ穴102を支点P1,P2として支持板部16(偏心軸)を両側から支持した状態で、支持板部16を研削加工する(偏心軸研削工程)。例えば、支持板部16の軸心O”を中心に工作物を回転させながら研削砥石100をポケット部Pに押し当てて研削加工を行なう。なお、図5の(a)は研削砥石100によってトラニオン15のポケット部Pの一方側を研削している状態を示し、図5の(b)は研削砥石100によってトラニオン15のポケット部Pの他方側を研削している状態を示している。
なお、第3の実施形態において、工数削減ができることから上記の手順が好ましいが、偏心軸センタ穴形成工程を表面硬化処理の直後に行うようにしてもよい。
【0035】
この支持板部(偏心軸)16の研削時には、図5の(c)に示すように、熱処理で発生した内部応力が開放されることにより変形(矢印参照)が若干発生する。そのため、偏心軸研削前にセンタ穴105を加工してしまうと、少なからず、図5の(c)に示されるような変形の影響で、センタ穴間の偏心量に変化が生じてしまう。このような不都合を回避するために、本実施形態では、偏心軸研削後に支持板部(偏心軸)16を基準に枢軸センタ穴形成工程が行なわれ、その後、枢軸研削工程が行なわれる。
【0036】
具体的には、偏心軸研削後、図5の(d),(e)に示すように研削した支持板部(偏心軸)16を基準として、枢軸14上のセンタ穴105を2か所加工する。すなわち、工具120を用いて、枢軸14の両端面(各端面に対する加工が(d)および(e)にそれぞれ示されている)にそれぞれ、枢軸14の軸心O’上に位置して第2のセンタ穴105を形成する(枢軸センタ穴形成工程)。精度が保証されたVブロック130の斜面に仕上げ加工された支持板部(偏心軸)16の円筒面が固定されるため、支持板部(偏心軸)16との偏心量も高精度が保証される。
【0037】
その後、そのセンタ面を基準として枢軸14の研削を実施する(図5の(f),(g))。すなわち、第2のセンタ穴105を支点P3,P4として枢軸14を両側から支持した状態で、枢軸14を研削加工する(枢軸研削工程)。例えば、枢軸14の軸心O’を中心に工作物を回転させながら研削砥石110を枢軸および駆動ロッド29の外面に押し当てて研削加工を行なう。なお、図5の(f)は研削砥石110によってトラニオン15の一方の枢軸14を研削している状態を示し、図5の(g)は研削砥石110によってトラニオン15の他方の枢軸14から駆動ロッド29へとわたって研削している状態を示している。
【0038】
以上のように、本実施形態では、第1および第2の実施形態と比べて、表面処理時・研削加工時の変形の影響を受けないため、パワーローラ・トラニオンアセンブリ間での軸間偏心量のばらつきを更に小さく抑えることができる。
【0039】
図6は、本発明の第4の実施形態を示している。
本実施形態に係る加工方法では、切削工程時に、図6(a)に示すように枢軸14の両端(一端は枢軸14から延びる駆動ロッド29の端面に対応する)に仮軸部150を形成して、仮軸部150に仮センタ穴105’を形成する。その後、図6の(b),(c)に示すように、チャック130Aでクランプした状態で、仮センタ穴105’を支点P3’,P4’として、枢軸14をチャック130Aと支点P3’,P4’とで両側から支持しつつ切削工具170を用いて切削加工を行なう。その後、仮軸部150を枢軸14から除去して、図6の(d),(e)に示すように、偏心軸センタ穴形成工程または枢軸センタ穴形成工程を行なう。
これら偏心軸センタ穴形成工程、枢軸センタ穴形成工程を行う時期は、前記各実施形態のいずれでもよい。
【0040】
一般に、既に素材加工時(切削工程時)に使用されたセンタ穴に対して第2および第3の実施形態のようにセンタ加工(センタ穴102,105の加工)を施すと、既に空いているセンタ面に工具が倣って工具が撓んでしまい、十分な偏心量精度を出すことが困難になるが、本実施形態のように、切削加工時に仮軸部を形成して、切削工程時のセンタ穴と研削工程時のセンタ穴との形成領域を個別に確保すれば、十分な偏心量精度を出すことができる。この方法では、仮軸部が除去されたフラットな面にセンタ穴102,105を加工できるため、十分な位置精度を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機のトラニオンの加工に適用できる。
【符号の説明】
【0042】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
16 支持板部(偏心軸)
102 第1のセンタ穴
105 第2のセンタ穴
105’ 仮センタ穴
130,130A チャッキング治具
150 仮軸部
O’ 枢軸の軸心
O” 偏心軸の軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し且つ前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンとを備えて成り、前記トラニオンが前記枢軸に対して偏心する偏心軸を有するトロイダル型無段変速機の前記トラニオンの加工方法であって、
所定の素材からトラニオンを切削する切削工程と、
前記偏心軸の両端面にそれぞれ、偏心軸の軸心上に位置して第1のセンタ穴を形成する偏心軸センタ穴形成工程と、
前記枢軸の両端面にそれぞれ、枢軸の軸心上に位置して第2のセンタ穴を形成する枢軸センタ穴形成工程と、
前記第1のセンタ穴を支点として前記偏心軸を両側から支持した状態で、前記偏心軸を研削加工する偏心軸研削工程と、
前記第2のセンタ穴を支点として前記枢軸を両側から支持した状態で、前記枢軸を研削加工する枢軸研削工程と、
を含むことを特徴とする加工方法。
【請求項2】
前記切削工程に際して前記偏心軸センタ穴形成工程および前記枢軸センタ穴形成工程が行なわれることを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記切削工程後に前記枢軸および前記偏心軸を表面硬化処理する硬化処理工程を更に含み、該硬化処理工程後に前記偏心軸センタ穴形成工程および前記枢軸センタ穴形成工程が行なわれることを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項4】
両端の2つの第1のセンタ穴および両端の2つの第2のセンタ穴が全て1つのチャッキング治具を用いて同時加工されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の加工方法。
【請求項5】
前記切削工程後に前記枢軸および前記偏心軸を表面硬化処理する硬化処理工程を更に含み、該硬化処理工程後に前記偏心軸センタ穴形成工程および前記偏心軸研削工程が行なわれ、その後に、前記偏心軸を基準に前記枢軸センタ穴形成工程が行なわれた後、前記枢軸研削工程が行なわれることを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項6】
前記切削工程時に、前記枢軸の両端に仮軸部を形成して、該仮軸部に仮センタ穴を形成するとともに、該仮センタ穴を支点として前記枢軸を両側から支持した状態で切削加工を行ない、その後の偏心軸センタ穴形成工程または枢軸センタ穴形成工程に際して前記仮軸部を前記枢軸から除去することを特徴とする請求項3または請求項5に記載の加工方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の加工方法によって形成されるトロイダル型無段変速機のトラニオン。
【請求項8】
前記第1のセンタ穴および前記第2のセンタ穴を有することを特徴とする請求項7に記載のトロイダル型無段変速機のトラニオン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−35075(P2013−35075A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170302(P2011−170302)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】