説明

トロイダル型無段変速機

【課題】トラニオンの左右の最大許容傾転角度が等しくない場合であってもストッパ部材およびこれに当接する当接部を1種類用意するだけで傾転角度規制構造を実現できるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機は、複数のトラニオンの傾転角度を機械的に規制するための傾転角度規制手段を備える。該傾転角度規制手段は、トラニオン15とともに傾転することなくトラニオン15の傾転を規制するための、全てのトラニオン15に共通の1つのストッパ部材71A(傾転角度を規制する2つの当接面71a’,71b’を有する)を備える。各トラニオン15にはそれぞれ、トラニオン15とともに傾転するとともに、ストッパ部材71Aに当接してトラニオン15の傾転を停止させるための、全てのトラニオン15に共通する同一の形状を有する当接部76が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図7および図8に示すように構成されている(図7に2つのキャビティ221,222が示される)。図7に示すように、ケーシング50の内側には入力軸(中心軸)1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図8参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図7中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図7の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図8は、図7のA−A線に沿う断面図である。図8に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図8においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、パワーローラ11を支持する支持板部16の長手方向(図8の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸(軸部)23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、ラジアルニードル軸受99を介して各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図8の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図7の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図8で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図8の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図8の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面(トラクション面)11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
ところで、上記構成のトロイダル型無段変速機において、トラニオン15,15の傾転角度すなわちトラニオン15,15に支持されたパワーローラ11,11の傾転角度が所定範囲を越えると、パワーローラ11,11の入力側および出力側ディスク2,3との接触部分(接触楕円)の一部が入力側ディスク2もしくは出力側ディスク3の内側面からはみ出した状態となる。この場合に、前記接触部分における面圧が高くなり、パワーローラ11,11や入力側および出力側ディスク2,3の耐久性が低下する。
【0017】
そこで、トラニオン15,15の傾転角度の範囲は、トラニオンの左右への傾転角度が大きくなった際に、トラニオン15,15に接触するストッパ部材により規制されている。また、ストッパ部材は一般にヨーク23A,23Bに形成されるか、取り付けられ、トラニオン15,15には、所定の傾転角度になるとストッパ部材に当接する当接面が形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0018】
特許文献1に開示されるそのようなストッパ部材および当接面を含む傾転角度規制構造の一例が、図9に示されている。図示のように、ヨーク23Aをケーシング50(図7参照)側に支持する支持ポスト64のヨーク23Aよりも僅かに上側(外側)でヨーク23Aの係止孔19(図8参照)に揺動自在に嵌合する球面部分の上にストッパ部材71が設けられている。ストッパ部材71は、支持ポスト64とは別体に設けられたもので、概略矩形板状に形成されている。また、ストッパ部材71は、その長手方向の長さが、1つのキャビティ221(222)に配置される一対のトラニオン15,15の枢軸14,14の外周間の距離より僅かに短い長さとされ、長手方向に直交する幅が支持ポスト64の球面部の直径より僅かに短いものとなっている。
【0019】
ストッパ部材71は、その両端がそれぞれ1つのキャビティ221(222)に配置される一対のトロイダルの枢軸14,14に近接した位置に配置されている。また、ストッパ部材71の両端面71a,71aは、入力軸1の軸方向に沿ったものとなっている。そして、このストッパ部材71の端面71a,71aが、トラニオン15(枢軸14)と一体で回転する当接部材76のV形状の当接面76a,76bとそれぞれ当接することにより、トラニオン15の左右への傾転角度θを規制するようになっている。すなわち、同期する各トラニオン15が中立位置(変速比1:1/トラニオン15の傾転角が0°のとき)から減速側に傾転角度θ1だけ傾転すると、第1の当接面76aがストッパ部材71の端面71aに当接してそれ以上の傾転が規制され、一方、同期する各トラニオン15が中立位置(変速比1:1/トラニオン15の傾転角が0°のとき)から増速側に傾転角度θ2だけ傾転すると、第2の当接面76bがストッパ部材71の端面71aに当接してそれ以上の傾転が規制されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2008−111488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
特許文献1の傾転角度規制構造では、図9に示すように、左右の最大許容傾転角度θが等しければ(すなわち、θ1=θ2であれば)、当接面76a,76bの形状が同一である同じ当接部材76を全てのトラニオン15において共通に使用することができる。また、この場合、ストッパ部材71も図9に示すような同一の矩形状のものを共通に使用できる。つまり、ストッパ部材71および当接部材76を1種類用意するだけで傾転角度規制構造を実現でき、全体のコストを節約できる。しかしながら、傾転構造によっては、図10に示すように左右の最大許容傾転角度が等しくない場合(すなわち、θ1≠θ2となる場合)も生じ得る。その場合には、変速時の回転方向から考えると傾転角度の設定が図10に示されるようになり、結果として、全てのトラニオン15に対応付けられるストッパ部材71および当接部材76を少なくとも2種類用意しなければならなくなる。そのため、管理費等が嵩み、コストが高くなる。
【0022】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたものであり、トラニオンの左右の最大許容傾転角度が等しくない場合であってもストッパ部材およびこれに当接する当接部を1種類用意するだけで傾転角度規制構造を実現できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記目的を達成するために、本発明は、いの内側面同士を対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これらの両ディスク間に挟持される複数のパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し且つ前記パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、これらのトラニオンの傾転角度を機械的に規制するための傾転角度規制手段とを備えるトロイダル型無段変速機であって、前記傾転角度規制手段は、前記トラニオンとともに傾転することなく前記トラニオンの傾転を規制するための、全てのトラニオンに共通の1つのストッパ部材を備え、前記各トラニオンにはそれぞれ、前記トラニオンとともに傾転するとともに、前記ストッパ部材に当接して前記トラニオンの傾転を停止させるための、全てのトラニオンに共通する同一の形状を有する当接部が設けられ、前記各トラニオンの当接部に対応付けられる前記ストッパ部材のそれぞれの対応部位には、同期する各トラニオンが減速側の最大許容傾転角度まで傾転するときに対応するトラニオンの当接部と当接する第1の当接面と、同期する各トラニオンが増速側の最大許容傾転角度まで傾転するときに対応するトラニオンの当接部と当接する第2の当接面とがそれぞれ設けられることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、従来のように各トラニオンの当接部(当接部材)の形態によってトラニオンの傾転角度を規制するのではなく、全てのトラニオンに共通の1つのストッパ部材側の形態によってトラニオンの傾転角度を規制するようになっているため、トラニオンの左右の最大許容傾転角度が等しくない場合であってもストッパ部材およびこれに当接する当接部を1種類用意するだけで傾転角度規制構造を実現できる。したがって、コストの低減を図ることができる。
【0025】
なお、上記構成では、各トラニオンの当接部がトラニオンの枢軸の端面に設けられてもよく、その場合、当接部は、枢軸の端面の中心線のうちストッパ部材を横切る中心線に対して対称な形状を成していればよい。また、ストッパ部材は、位置を固定されて設けられているとともに、ヨークを揺動自在に支持する支持ポストを固定している連結板であってもよい。ここで、ヨークは、各トラニオンの各枢軸を揺動自在および軸方向に変位自在に支持する部材である。
【0026】
また、ストッパ部材は、シリンダボディに設けられていてもよい。ここで、シリンダボディは、トラニオンを枢軸の軸方向に変位させる油圧駆動装置の油圧室を形成する部材である。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、トラニオンの左右の最大許容傾転角度が等しくない場合であってもストッパ部材およびこれに当接する当接部を1種類用意するだけで傾転角度規制構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る傾転角度規制構造の模式図である。
【図2】トラニオンの当接部の形状の一例を示す平面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る傾転角度規制構造の模式図である。
【図4】(a)は本発明の第3の実施形態に係る傾転角度規制構造の位置を示すためのトロイダル型無段変速機を示す断面図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る傾転角度規制構造におけるトラニオンの当接部材(当接部)を示す図であって(a)は底面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図であり、(c)は斜視図である。
【図6】第3の実施形態のストッパ部材を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は(a)のC−C線に沿う断面図であり、(c)は斜視図である。
【図7】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図8】図7のA−A線に沿う断面図である。
【図9】(a)は従来のトロイダル型無段変速機における傾転角度規制構造部位(トラニオンの左右の最大許容傾転角度が等しい場合)の平面図、(b)は(a)のZ部の拡大図である。
【図10】(a)は従来のトロイダル型無段変速機における傾転角度規制構造部位(トラニオンの左右の最大許容傾転角度が等しくない場合)の平面図、(b)は(a)の要部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の特徴は、トラニオンの傾転角度規制構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図7〜図10と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0030】
図1は、本発明の第1の実施形態を示している。
本実施形態のトロイダル型無段変速機は、トラニオン15の傾転角度を機械的に規制するための傾転角度規制手段を備えており、該傾転角度規制手段は、トラニオン15とともに傾転することなくトラニオン15の傾転を規制するための、全てのトラニオン15に共通の1つのストッパ部材71Aを備えている。このストッパ部材71Aは、ヨーク23Aをケーシング50(図7参照)側に支持する支持ポスト64のヨーク23Aよりも僅かに上側(外側)でヨーク23Aの係止孔19(図8参照)に揺動自在に嵌合する球面部分の上に支持ポスト64とは別体に設けられており、平板体として形成されている。ストッパ部材71Aは、ケーシング50内に、このケーシング50に対して位置を固定されて設けられている。
【0031】
各トラニオン15にはそれぞれ、トラニオン15(枢軸14)とともに傾転するとともに、ストッパ部材71Aに当接してトラニオン15の傾転を停止させるための、全てのトラニオン15に共通する同一の形状を有する当接部76(本実施形態では、直線状の平坦面76aを有する凸状の半円体)が設けられている。本実施形態において、当接部76は、トラニオン15の枢軸14の端面に設けられている。
【0032】
また、本実施形態において、各トラニオン15の当接部76に対応付けられるストッパ部材71Aのそれぞれの対応部位100には、同期する各トラニオン15が中立位置(変速比が1:1/トラニオン15の傾転角が0°のとき)から減速側の最大許容傾転角度θ1まで傾転するときに対応するトラニオン15の当接部76(平坦面76a)と当接する第1の当接面71a’と、同期する各トラニオン15が中立位置から増速側の最大許容傾転角度θ2まで傾転するときに対応するトラニオン15の当接部76(平坦面76a)と当接する第2の当接面71b’とがそれぞれ設けられる。この場合、当接面71a’,71b’同士の境界部(移行部)に当たる頂部79は、枢軸14の中心O’上に位置される。また、本実施形態において、ストッパ部材71Aは、対応部位100の形状を含めて、ストッパ部材71Aの中心線O”に対して対称な形状を成している。
【0033】
このように、本実施形態では、従来のように各トラニオン15の当接部(当接部材)76の形態によってトラニオン15の傾転角度を規制するのではなく、全てのトラニオン15に共通の1つのストッパ部材71A側の形態によってトラニオン15の傾転角度を規制するようになっているため、トラニオン15の左右の最大許容傾転角度が等しくない場合(θ1≠θ2)であってもストッパ部材71Aおよびこれに当接する当接部76を1種類用意するだけで傾転角度規制構造を実現できる。したがって、コストの低減を図ることができる。
【0034】
なお、上記構成において、各トラニオン15の当接部76は、枢軸14の端面の中心線のうちストッパ部材71Aを横切る中心線Oに対して対称な形状を成していれば、図1に示すような凸状の半円体でなくてもよく、例えば図2の(a)および(b)に示されるような形状であってもよい(したがって、平坦面76aの形状も、ストッパ部材71Aの当接面の形態に応じて変化されてもよく、枢軸14の径方向に延びている必要はない)。基本的に当接部76は、鏡像対称(平面上の線対称)となっていればよく、中立位置のトラニオン15の枢軸14の端面の中心線Oに、当接部76の線対称となる線分を合わせて枢軸14に当接部76を設ければよい。
また、ストッパ部材71Aは、図1に示すような形態を成している必要はなく、連結板で構成してもよい。ここで、連結板(アッパープレート)とは、ケーシング50にこのケーシング50に対して位置を固定されて設けられているとともに、ヨーク23Aを揺動自在に支持する上側(一方の側)の支持ポスト64を固定している部材を言う。なお、支持ポスト64は、支持ポスト68と別体ではなく、支持ポスト64と支持ポスト68とが支柱の両端部に一体的に設けられたものでも良い。
【0035】
図3は、本発明の第2の実施形態を示している。
図示のように、本実施形態の傾転角度規制手段は、ストッパ部材71Aの当接面71a’,71b’同士の境界部(移行部)の形態が第1の実施形態と異なる。すなわち、当接面71a’,71b’同士の移行部80は、枢軸14の中心O’から所定の距離を隔てて位置される平坦部として形成される。このように、対応部位100の形状は、規定の傾転角度θ1,θ2(当接面71a’,71b’)が確保されてさえいれば、どのような形状であってもよい。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0036】
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。
図4(a)、(b)は、図9および図10に示されるタイプのトロイダル型無段変速機の断面図であり、球面ポスト64と球面ポスト68とが上下に一体に支柱状に接続され、この支柱部分の中央を入力軸1が貫通するようになっている。
【0037】
第1の実施形態および第2の実施形態では、図4(a)において、トラニオン15の上側の枢軸14の上端面側に当接部76が設けられ、例えば、上側のヨーク23Aより上に設けられた連結板としてのストッパ部材71Aに当接するようになっている。それに対して、第3の実施形態では、図5(a)(b)(c)に示す当接部材77が図4に示すトラニオン15の下側の枢軸14の下端面側に設けられている。
【0038】
図5に示すように、第3の実施形態のトロイダル型無段変速機の当接部(当接部材77)は、円板状で中央部に略円柱状の孔77aが形成されている。孔77aの内周面には、対向する二か所に平面部77b、77bが形成され、かつ、互いに平行にされている。
【0039】
なお、トラニオン15の下側の枢軸14の端面の中央部からは、下方に向かって駆動ロッド29が延出している。駆動ロッド29の枢軸14との接合部分となる基端部には、当接部材77の孔77aと略同形状の嵌合部(図示略)が形成され、この嵌合部が当接部材77の孔77aに嵌合することにより、トラニオン15の枢軸に対して回転不可に当接部材77が取り付けられ、トラニオン15と当接部材77とが一体に回転可能に接合されている。すなわち、当接部材77の孔77aの互いに対向する平面部77b,77bが枢軸14の端面の嵌合部に嵌合して回り止めとして機能する。
【0040】
当接部材77は、その下面側に半円弧状の凹部(切欠部)77cが形成されている。半円弧状の凹部77cの円弧の中心は、円板状の当接部材77の中心と一致している。また、凹部77cの外周は当接部材77の外周と一致しており、当接部材77は、凹部77c側で厚さが薄くなった形状となっている。また、凹部77cの内周側は、孔77aより外側となっている。当接部材77の下面のこの凹部77c以外の部分が凹部77cの底面より下側に突出した状態の凸部77dとなる。凸部77dは、孔77aの周囲に形成される当接部材77の半径より小さい半径の円状部分と、この円状部分の半分と重なるとともに、当接部材77の下面の半分となる半円部分とからなっている。
【0041】
凹部77cと凸部77dとの間が段差(段差面77e)となっており、この段差の形状は、円板状の当接部材77の直径方向に沿った平面の中央部から円弧面77fが半円状に突出した形状となっている。
この円弧面77fの両端部にそれぞれ矩形状の平坦面77g,77hが設けられ、これら二つの平坦面77g,77hは、一つの平面上に配置されている。
これら平坦面77g,77hがそれぞれ後述の第1の当接面72aまたは第2の当接面72bと当接するようになっている。
【0042】
図4(b)に示すように、このトロイダル型無段変速機においては、当接部材77(ワッシャ29a)を貫通して駆動ロッド29が下方に延出した状態となっている。駆動ロッド29には、駆動ピストン33が設けられている。
【0043】
駆動ピストン33には、駆動シリンダ31のシリンダボディにより形成される油圧室内で上下に駆動される略円盤状のピストン本体33aと、ピストン本体33aの中央部を貫通して設けられる円筒状のピストン接続筒部33bとを備えている。ピストン接続筒部33bを駆動ロッド29が貫通している。
【0044】
駆動ロッド29のピスト接続筒部33bの上端側にワッシャ29aが設けられている。このワッシャ29aと、駆動ロッド29先端部のキャップ29bとの間に、ピストン接続筒部33bが枢軸14の軸方向位置を規制された状態に配置されている。
第3実施形態では、このワッシャ29aに代えて当接部材77が配置されており、当接部材77がワッシャ29aとして機能している。
【0045】
この当接部材77の二つの平坦面77g,77hと当接する第1の当接面72aおよび第2の当接面72bを有するストッパ部(対応部位)72は、油圧駆動装置32の油圧室である駆動シリンダ31のシリンダボディの上側を構成する上側シリンダボディ61に設けられている。
【0046】
図4に示すように、上側シリンダボディ61には、駆動ピストン33の駆動ロッド29が貫通しているピストン接続筒部33bが挿通する孔が設けられ、この孔の周囲(符号vで示される部分)の上面が、前記トラニオン15の下側の枢軸14の端面に設けられた上述の当接部材77の下面に対向している。この当接部材77の下面に対向する部分にストッパ部72が設けられることになる。ストッパ部72は、円環状であり、同軸上に配置される外周面と内周面とを備える。なお、上側シリンダボディ61全体をストッパ部材と見なすことができ、各ストッパ部72は、ストッパ部材の第1の当接面72aおよび第2の当接面72bを備える対応部位である。
【0047】
このストッパ部72は、円板状の部材の中央部の円孔72fを形成した形状となっている。このストッパ部72には、その上面に、例えば円の1/4より少し大きい程度の部分に凸部72cが設けられている。この凸部72cは、ストッパ部72が円環状であるため、円環状の形状を半径方向に沿った2つの線分で切断した円弧状の形状となっている。凸部72cと、それ以外の部分との段差に、平坦な段差面72d、72eが二つ設けられている。これら二つの段差面72d、72eの一方が第1の当接面72aになり、他方が第2の当接面72bになる。
【0048】
ここで、当接部材77とストッパ部72とは、略同軸上に配置され、互いの段差面の軸方向位置が略同じ配置とされる。すなわち、互いに同軸上で相対的に回転した場合に、ストッパ部72の第1の当接面72aに当接部材77の一方の平坦面77gが当接可能とされ、かつ、ストッパ部72の第2の当接面72bに当接部材77の他方の当接面77hが当接可能とされている。
【0049】
図5における線分mは、二つの平坦面77g,77hを通る線分であり、図6に示すストッパ部72と図5に示す当接部材77とがトロイダル型無段変速機において、それぞれの位置に配置された場合の線分mを図6に示す。この線分mの左右に平坦面77gと平坦面77hが配置されることになる。
【0050】
したがって、上側シリンダボディ61のストッパ部72(上側シリンダボディ61の上述の孔の周囲部分)には、同期する各トラニオン15が中立位置(変速比1:1/トラニオン15の傾転角が0°のとき)から減速側の最大許容傾転角度θ1まで傾転するときに対応するトラニオン15の当接部77(平坦面77g)と当接する第1の当接面72aと、同期する各トラニオン15が中立位置から増速側の最大許容傾転角度θ2まで傾転するときに対応するトラニオン15の当接部77(平坦面77h)と当接する第2の当接面72bがそれぞれ設けられていることになる。
【0051】
ここで、図6では、θ1=θ2の状態を示したが、円環状のストッパ部72をその中心を軸として角度位置を変更することにより、θ1≠θ2とすることができる。この際に、各ストッパ部72の形状は同じで、配置角度だけ異なる状態になる。すなわち、図6において、線分mに対してストッパ部72の配置角度をθ1を大きくするとともにθ2を小さくする方向に変更したり、θ1を小さくするとともにθ2を大きくする方向に変更したりすることで、θ1≠θ2とすることができる。
【0052】
この場合に、互いに対向する一対のトラニオンに対応するストッパ部72の各当接面72a、72bの配置は、それらストッパ部72間の中央を通る入力軸1と平行な線に対して線対称の配置となる。なお、上側シリンダボディ61が上述の線に対して対称の形状であれば、上側シリンダボディ61の入力軸に沿った中心線に対して対称になるように当接面72a、72bが配置されていることになる。
【0053】
第3の実施形態においても、ストッパ部72を上側シリンダボディ61の製造時に上側シリンダボディ61に一体に形成することにより、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0054】
なお、当接部としての当接部材77をワッシャ29aとして、枢軸14と別部材としたが、ワッシャ29aを必要としない構造の場合に、枢軸14の端面に当接部材77と同形状の平坦面77g,77hを直接形成するようにしてもよいし、ワッシャ29aではない部材として当接部材77を枢軸14と別体に設けてもよい。
【0055】
また、上側シリンダボディ61にストッパ部72が一体に設けられるが、上側シリンダボディが例えばアルミ合金等の比較的柔らかい部材からなり、強度や摩耗等を考慮した場合に、上側シリンダボディ61のストッパ部(対応部位)72に補強用のカバーを取り付ける構造としてもよい。この場合に、一つのカバーにより、4つのストッパ部を全て覆うように構成してもよい。このようにすれば、カバーが別に必要となるが、カバーは一つの部材になる。
【0056】
また、各ストッパ部72毎に、カバーで覆う構成としてもよい。第3の実施の形態において、各ストッパ部72は、同じ形状のものを配置角度を変えて設けた状態となっているので、各ストッパ部72のカバーとして同じ形状のカバーを用いることが可能である。したがって、例えば4つのカバーを用いるものとしても、同じ形状の一種類のカバーを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機に適用できる。
【符号の説明】
【0058】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
61 上側シリンダボディ(ストッパ部材)
71A ストッパ部材
71a’ 第1の当接面
71b’ 第2の当接面
72 ストッパ部材(対応部位)
72a 第1の当接面
72b 第2の当接面
76 当接部
77 当接部材(当接部)
100 対応部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの内側面同士を対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これらの両ディスク間に挟持される複数のパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し且つ前記パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、これらのトラニオンの傾転角度を機械的に規制するための傾転角度規制手段とを備えるトロイダル型無段変速機であって、
前記傾転角度規制手段は、前記トラニオンとともに傾転することなく前記トラニオンの傾転を規制するための、全てのトラニオンに共通の1つのストッパ部材を備え、
前記各トラニオンにはそれぞれ、前記トラニオンとともに傾転するとともに、前記ストッパ部材に当接して前記トラニオンの傾転を停止させるための、全てのトラニオンに共通する同一の形状を有する当接部が設けられ、
前記各トラニオンの当接部に対応付けられる前記ストッパ部材のそれぞれの対応部位には、同期する各トラニオンが減速側の最大許容傾転角度まで傾転するときに対応するトラニオンの当接部と当接する第1の当接面と、同期する各トラニオンが増速側の最大許容傾転角度まで傾転するときに対応するトラニオンの当接部と当接する第2の当接面とがそれぞれ設けられることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記各トラニオンの前記当接部は、前記トラニオンの前記枢軸の端面に設けられるとともに、前記枢軸の端面の中心線のうち前記ストッパ部材を横切る中心線に対して対称な形状を成していることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記各トラニオンの前記各枢軸を揺動自在および軸方向に変位自在に支持するヨークが設けられ、前記ストッパ部材は、位置を固定されて設けられているとともに、前記ヨークを揺動自在に支持する支持ポストを固定している連結板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に変位させる油圧駆動装置が設けられ、前記油圧駆動装置に当該油圧駆動装置の油圧室を形成するシリンダボディが設けられ、
前記ストッパ部材は、前記シリンダボディに設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−92252(P2013−92252A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−220096(P2012−220096)
【出願日】平成24年10月2日(2012.10.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】