説明

トンネル拡張用掘削装置

【課題】掘削機の掘削反力を確実に支持し、トンネル内を安定して推進させる。
【解決手段】掘削機1が搭載された移動架台2と、内筒ビーム54により連結されるとともに移動架台2の前後に配置された前方出退部52と後方出退部53を有する可動フレーム51と、移動架台2に設けられ押圧フレーム62cを内壁TSに押し付けて移動架台2を固定する主グリッパ装置62と、前方出退部52および後方出退部53に設けられ押圧フレーム72cを内壁TSに押し付けて可動フレーム51を固定する補助グリッパ装置72と、主グリッパ装置62と補助グリッパ装置72により移動架台2と可動フレーム51とを交互に内壁TSに固定し、推進ジャッキ55aにより可動フレーム51を出退させて移動架台2を推進する推進装置55とを具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体にトンネル内から外周側の地山を拡張掘削する掘削機を搭載したトンネル拡張用掘削装置に関するもので、特に大口径の道路分岐、合流部などのトンネル施工部を形成する際に、トンネル施工部の外周部に沿って所定間隔ごとに複数のルーフシールドトンネルを掘削し、隣接するルーフシールドトンネルを連結してトンネル施工部を切羽防護するトンネル工法において、ルーフシールドトンネル内から拡張掘削するのに適したものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル内から地山を拡張掘削する掘削装置として、たとえば特許文献1には、トンネル内面に突っ張り状態でリーミング装置を固定するグリッパ装置を設けたものが開示されている。
【特許文献1】特開平8−114083(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特開2006−70530において、道路分岐、合流部など大口径のトンネル施工部を掘削する場合、トンネル施工部の外周部に所定間隔ごとにルーフシールドトンネルを拡張掘削し、ルーフシールドトンネル内から隣接するルーフシールドトンネルの間の地山を掘削し、これら掘削部に連結構造物(ルーフシールド先受け工)を設置し、トンネル施工部を切羽防護するトンネル工法が提案されている。
【0004】
このトンネル工法を実施する場合、ルーフシールドトンネルに沿って掘削機をトンネル軸心方向に移動させつつ、隣接するルーフシールドトンネルに向かって1つのトンネルから対称の2方向に拡張掘削を行う。この掘削作業では、掘削機を搭載した移動体を、掘削方向に対応する一定の姿勢でトンネルの内壁に固定し、大きい掘削反力を支持する必要がある。
【0005】
ところで、特許文献1では、トンネル前方の地山を掘削しているため、90°ごとの対称方向に4個のグリッパ装置を前後2組に配置して、リーミング装置をトンネル内に固定している。しかし、上記トンネル工法のように、トンネル内からトンネル外周側の地山を拡張掘削する場合、掘削方向近傍のトンネル内壁は、掘削により強度が低下するため、大きい掘削反力を支持することができない。
【0006】
また特許文献1では、リーミング装置は成立姿勢で掘削を行うもので、前進するためのレールをトンネル内に敷設し、リーミング装置にレールに案内される複数の走行車輪を設けている。しかし、上記トンネル工法のように、トンネルごとに掘削方向が異なる場合には、掘削機および移動体の姿勢が変更されるため、レールと走行車輪による走行装置では、設定された姿勢を保持しつつ掘削機および移動体をトンネル内で移動させるのが困難になるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決して、大きい掘削反力を確実に支持でき、かつ掘削機および移動体の適正姿勢を保持しつつ安定して推進することができるトンネル拡張用掘削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、トンネル内からトンネル外周側の地山を掘削するトンネル拡張用掘削装置であって、掘削機が搭載された移動体と、移動体の前部および後部にそれぞれ配置された前方出退部および後方出退部と、これら前方出退部および後方出退部を互いに連結する連結材とを有し、移動体から前後方向に出退自在に設けられた可動フレームと、移動体の前後でトンネル軸心の対称位置に配置された押圧駆動装置と、当該押圧駆動装置によりトンネルの内壁に押し付けられる押圧フレームと有する主グリッパ装置と、可動フレームの前方出退部および後方出退部でトンネル軸心の対称位置に配置された押圧駆動装置と、当該押圧駆動装置によりトンネルの内壁に押し付けられる押圧フレームとを有する補助グリッパ装置と、主グリッパ装置と補助グリッパ装置とにより移動体と可動フレームとを交互にトンネルの内壁に固定するとともに、可動フレームを出退させて移動体をトンネル軸心方向に推進させる推進装置とを具備したものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、トンネル内からトンネル外周側の地山を掘削するトンネル拡張用掘削装置であって、掘削機が搭載された移動体と、移動体の前部または後部にトンネル軸心方向に出退自在に配置されてトンネルの内壁に係合、離脱自在な係止装置を有する可動フレームと、前記可動フレームを出退駆動して移動体をトンネル軸心方向に移動させる推進装置と、トンネル軸心の対称位置にそれぞれ配置されて移動体よりトンネルの軸心方向に長い複数のそり部材と、移動体に配置された押圧駆動装置により、前記対称位置の一方のそり部材をトンネルの内壁に押し付けて移動体をトンネルの内壁に固定可能なグリッパ装置とを具備したものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、移動体の主グリッパ装置と、可動フレームの補助グリッパ装置とにより、トンネルの内壁の対称面をそれぞれ4箇所ずつ押圧して移動体を保持するので、トンネル内から対称の2方向に拡張掘削を行う場合であっても、掘削方向と直交する2方向の内壁で、大きい掘削反力と掘削振動とを支持させることができる。また推進装置では、トンネルの内壁に固定解放可能な主グリッパ装置を有する移動架台と、トンネルの内壁に固定解放可能な補助グリッパ装置を有する可動フレームとを、接近離間移動させることにより、トンネル拡張用掘削装置をあらゆる姿勢で安定して推進させることができる。なお、前進時に内壁の内面を摺動する部材がないので、移動をスムーズに行え、大型で大重量のトンネル拡張用掘削装置に好適となる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、掘削機を搭載した移動体を、トンネル軸心の対称位置に配置された複数のそり部材を介してトンネルの内壁に沿って案内するとともに、グリッパ装置によりそり部材をトンネルの内壁に押し付けて移動体を固定するように構成したので、掘削反力と掘削振動とを複数のそり部材を介してトンネルの内壁の広範囲に伝達して分散させ支持させることができ、大きい掘削反力や掘削振動に効果的に対応することができる。また構造が簡単で、前進に要する時間も短縮できる。さらに、同一のトンネル内から対称の2方向に拡張掘削を行う場合であっても、掘削方向と直交交差する方向の内壁で大きい掘削反力を確実に支持させることができる。さらにまた、推進装置により、係止装置を有する可動フレームを出退させて、あらゆる姿勢の移動体を安定して推進することができ、内壁の内面が滑らかでない場合であっても、複数のそり部材により移動体を円滑に摺動して前進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[実施の形態1]
トンネル拡張用掘削装置の実施の形態1を図1〜図8を参照して説明する。
【0013】
(全体構造)
図1〜図4に示すように、本発明に係るトンネル拡張用掘削装置は、掘削機1を搭載した移動体である移動架台2と、移動架台2をトンネルTの内壁TSに固定する複数の主グリッパ装置62と、移動架台2の前部の前方出退部52および後部の後方出退部53を有する可動フレーム51と、前方出退部52および後方出退部53に設けられて可動フレーム51を内壁TSに固定する複数の補助グリッパ装置72と、可動フレーム51を前後方向に出退して移動架台2をトンネル軸心O方向に沿って前後進させる自走式の推進装置55とを具備している。
【0014】
トンネルTの内壁TSは、複数のセグメントSが周方向およびトンネル軸心O方向に組み立てられた覆工体により形成されている。各セグメントSは、円弧状の外周プレートSaと、外周プレートSaの周方向に沿う2辺の内面にそれぞれ取り付けられた一対のフランジプレートSdと、外周プレートSaのトンネル軸心O方向に沿う2辺の内面にそれぞれ取り付けられた一対の連結プレートScと、外周プレートSaの内面でフランジプレートSd間にトンネル軸心O方向に沿って取り付けられた複数のリブプレートSbとで構成されている。そして複数のセグメントSが周方向に連結されてセグメントリングが形成され、セグメントリングがフランジプレートSdを介してトンネル軸心O方向に連結されて内壁TSが組み立てられている。
【0015】
(移動架台)
移動架台2は、所定間隔をあけて配置された左右一対で上下二組の前後ビーム11と、これら4本の前後ビーム11の両端部をそれぞれ連結する縦連結ビーム12と、横連結ビーム13とで縦長の直方体枠形に形成され、下部の前後ビーム11および横連結ビーム13間の底部に掘削機1が搭載されている。
【0016】
(掘削機)
掘削機1は、たとえばトンネルTの前方に向かって左方向の地山を掘削するように設置されている。この掘削機1は、図5,図6に示すように、移動架台2の底部に前後ビーム11に沿って左右両側に敷設された一対の縦行レール21に、縦行ローラ23aを介して縦行ベースフレーム23が移動自在に支持されており、複数の縦行ジャッキ22により縦行ベースフレーム23がトンネル軸心O方向に所定範囲で往復移動される。この縦行ベースフレーム23上に、左側上位から右側下位に傾斜する前後一対の傾斜スライドレール24が敷設され、この傾斜スライドレール24にスライドローラ26aを介してスライドベース26が移動自在に支持されており、スライドベース26はスライドジャッキ25により左右方向に所定範囲で出退移動される。
【0017】
このスライドベース26上には、出退揺動フレーム27の固定端部が、スライドベース26にトンネル軸心Oに平行な軸心周りに揺動自在に支持され、この出退揺動フレーム27の遊端部に、周方向揺動フレーム28がトンネル軸心Oに平行な軸心周りに揺動自在に支持されている。そして、スライドベース26の右側部と出退揺動フレーム27の中間部の間に、出退揺動フレーム27を固定端部を中心に左右方向に揺動して周方向揺動フレーム28を出退させる出退揺動ジャッキ29が連結されている。またスライドベース26の左側部と周方向揺動フレーム28の間に、周方向揺動フレーム28を上下方向に揺動させる周方向揺動ジャッキ30が連結されている。
【0018】
ここで、スライドベース26における出退揺動フレーム27と周方向揺動ジャッキ30との連結部間の距離と、周方向揺動フレーム28における出退揺動フレーム27と周方向揺動ジャッキ30との連結部間の距離とが等しく設定されており、周方向揺動ジャッキ30の長さを出退揺動フレーム27に等しくすることにより、平行リンクを形成することができる。したがって、平行リンクを形成した状態で、出退揺動ジャッキ29を伸縮駆動することにより、周方向揺動フレーム28を一定姿勢で左右方向に平行移動(出退)させることができる。
【0019】
そして周方向揺動フレーム28上に設置された出退ガイド筒31に、ヘッド出退ジャッキ32により出退される出退ビーム33がスライド自在に嵌合されている。さらに出退ビーム33の先端部に、カッタ回転駆動装置36により出退方向の軸心周りに回転駆動される掘削ヘッド35が設けられ、また掘削ヘッド35を出退方向およびトンネル軸心Oに直交する軸心周りに所定範囲で揺動させるヘッド揺動ジャッキ34が設けられている。
【0020】
したがって、スライドジャッキ25や出退揺動ジャッキ29、ヘッド出退ジャッキ32により、掘削ヘッド35を出退するとともに、縦行ジャッキ22や周方向揺動ジャッキ30、ヘッド揺動ジャッキ34により、掘削ヘッド35を移動および揺動して、隣接するトンネルTに接近する図8に示す掘削部を掘削することができる。
【0021】
(可動フレーム)
図1〜図4に示すように、可動フレーム51は、移動架台2の前部および後部に配置された前方出退部52および後方出退部53と、各前後ビーム11内にそれぞれスライド自在に嵌合されて前方出退部52と後方出退部53とを連結する内筒ビーム(連結材)54とを具備している。前方出退部52および後方出退部53は、上下の内筒ビーム54の両端部を連結する左右一対の横架ビーム52b,53bと、横架ビーム52b,53bを連結する前後一対の縦架ビーム52a,53aとで縦長の矩形枠状に形成されている。そして、各前後ビーム11の側部に、内筒ビーム54を出退駆動する推進ジャッキ55aが前方出退部52と前後ビーム11の所定位置との間に連結されて配置され、これら4本の推進ジャッキ55により可動フレーム51を前後方向に移動させることができる。
【0022】
また前方出退部52の縦架ビーム52aの上部にカッタ駆動用ポンプユニット14が設けられ、下部にジャッキ駆動用油圧ユニット15が設けられている。さらに縦架ビーム52aの中間部に、トンネル軸心Oと平行な軸心周りに正立姿勢に変更可能なフランジリングを有する姿勢調整装置16を介して、制御盤17およびオイルタンク18が設けられている。
【0023】
(主グリッパ装置)
移動架台2で各縦連結ビーム12の外側に主グリッパビーム材61がそれぞれ取り付けられ、これら主グリッパビーム材61は、外端部がそれぞれ開口された2本の有底円筒体61aを連結材61bにより連結して構成されている。前記各円筒体61aには、内装されたグリッパ用ジャッキ(押圧駆動装置)62aにより内筒部62bがそれぞれ開口部から出退自在に嵌合され、左右の主グリッパビーム材61の内筒部62b間にトンネル軸心O方向のピン62dを介して円弧状の押圧フレーム62cが取り付けられ、主グリッパ装置62が構成されている。したがって、主グリッパ装置62によれば、各グリッパ用ジャッキ62aをそれぞれ進展し内筒部62bを介して押圧フレーム62cをトンネルTの内壁TSに押し付けて、移動架台2をトンネルT内に固定することができる。
【0024】
(補助グリッパ装置)
可動フレーム51で縦架ビーム52a,53aの外側に補助グリッパビーム材71がそれぞれ取り付けられ、これら補助グリッパビーム材71は、外端部がそれぞれ開口された2本の円筒体71aを連結材71bで連結して構成されている。前記各円筒体71aには、内装されたグリッパ用ジャッキ(押圧駆動装置)72aにより内筒部72bがそれぞれ開口部から出退自在に嵌合され、左右の内筒部72b間にトンネル軸心O方向のピン72dを介して円弧状の押圧フレーム72cがそれぞれ取り付けられて補助グリッパ装置72が構成されている。したがって、補助グリッパ装置72によれば、各グリッパ用ジャッキ(押圧駆動装置)72aをそれぞれ進展し内筒部72bを介して押圧フレーム72cをトンネルTの内壁TSに押し付けて、可動フレーム51をトンネルT内に固定することができる。
【0025】
(推進装置)
推進装置55は、移動架台2および可動フレーム51と、主グリッパ装置62および補助グリッパ装置72と、移動架台2に対して可動フレーム51を出退駆動する推進ジャッキ55aとで構成されている。すなわち、主グリッパ装置62により移動架台2を内壁TSに固定するとともに補助グリッパ装置72を内壁TSから解放した状態で、推進ジャッキ55aを進展して可動フレーム51を前進させる。そして補助グリッパ装置72により可動フレーム51を内壁TSに固定するとともに主グリッパ装置72により移動架台2を内壁TSから解放した状態で、推進ジャッキ55aを収縮して移動架台2を前進させることができる。これを繰り返すことにより、トンネルT内でトンネル拡張用掘削装置をトンネル軸心O方向に前進させることができる。
【0026】
(掘削動作)
上記構成の拡張用掘削装置によるトンネル工法を説明する。
まず、図7に示すように、トンネル施工部Aで、主トンネルa1と分岐トンネルa2の一方から小口径のシールド掘進機を発進させて、複数のトンネルTをトンネル施工部Aを囲むように並列掘削し、トンネルT内に内壁TSを形成する。さらに内壁TS内に、隣接するトンネルTと対向する位置に補強梁Bを設置する。
【0027】
拡張用掘削装置をトンネルT内の掘削位置に配置し、主グリッパ装置62と補助グリッパ装置72の押圧フレーム62c,72cをそれぞれ内壁TSに押し付けて、移動架台2および可動フレーム51を内壁TSに固定する。そして掘削するトンネルT側の地山を薬剤処理するとともに、内壁TSの一部のセグメントSを取り外して掘削開口部を形成する。
【0028】
このトンネル工法では、内壁TSの略対称方向の2箇所に掘削開口部を形成して2方向で掘削するため、掘削開口部に対向する内壁TSで掘削反力を支持することができない。このため、掘削方向と略直角で交差する2方向の内壁TSで掘削反力を支持させる必要があり、2つのグリッパ装置62,72により前後4個で上下2組の押圧フレーム62c,72cをそれぞれ内壁TSに押し付けることで、掘削反力および掘削振動を内壁TSの広い面積に伝達して、十分に大きな支持力を得て移動架台2を内壁TSに固定している。
【0029】
掘削機1では、周方向揺動ジャッキ30の長さを出退揺動フレーム27と同一として平行リンクを形成し、掘削ヘッド35を回転駆動して出退揺動ジャッキ29を伸展させ、掘削ヘッド35を内壁TSの掘削開口部から突出させて地山を拡張掘削する。そして周方向揺動ジャッキ28を伸縮して掘削ヘッド35を揺動させ、掘削部を周方向に拡張し、さらに縦行ジャッキ22、スライドジャッキ25、ヘッド出退ジャッキ32およびヘッド揺動ジャッキ34を伸縮して掘削ヘッド35を移動させて掘削部を拡張する。
【0030】
掘削が終了すると、掘削ヘッド35を後退させ、主グリッパ装置62を解放して移動架台2を内壁TSから離脱させる。そして、推進ジャッキ55aを収縮し、補助グリッパ装置72により内壁TSに固定された可動フレーム5に対して、移動架台2を次の掘削位置に前進させる。ついで主グリッパ装置62により移動架台2を内壁TSに固定した後、推進ジャッキ55aを進展させて可動フレーム51を前進させる。
【0031】
このようにして掘削部が図8に示すように拡張されると、隣接するトンネルTから同様に掘削し、隣接するトンネルT間を掘削部で連通して、この掘削部に補剛フレームMを組み立て、さらに鉄筋コンクリートCを打設してルーフシールド先受工(連結構造体)Rを構築する。
【0032】
(実施の形態1の効果)
上記実施の形態1によれば、移動架台2の上下の対称位置にそれぞれに設けられた主グリッパ装置62と、可動フレーム51の前方出退部52と後方出退部53とに対称位置にそれぞれに設けられた補助グリッパ装置72とにより、掘削方向と略直角で交差するトンネルTの内壁TS2箇所を、前後方向に4箇所ずつそれぞれ押圧して移動架台2を固定することができるので、掘削機1による大きい掘削反力と掘削振動とを効果的に支持することができる。
【0033】
また推進装置55では、主グリッパ装置61によりトンネルTに固定、解放可能な移動架台2と、補助グリッパ装置72によりトンネルTに固定、解放可能な可動フレーム51とを推進ジャッキ55aにより出退させることにより、掘削機1および移動架台2の姿勢に関係なくトンネル拡張用掘削装置を安定して前進させることができ、また前進時に内壁TSの内面を摺動する部材がないので、移動をスムーズに行え、大型で大重量の掘削機1に好適となる。
[実施の形態2]
トンネル拡張用掘削装置の実施の形態2を図9〜図14を参照して説明する。なお、実施の形態1と同一部材には、同一符号を付して説明を省略する。
【0034】
(全体構造)
図9〜図12に示すように、本発明に係るトンネル拡張用掘削装置は、掘削機1を搭載した移動体である移動架台2と、移動架台2をトンネルTの内壁TSに固定する複数のグリッパ装置3と、移動架台2をトンネルTの内壁TS上に摺動自在に支持するとともに、グリッパ装置3を介して移動架台2をトンネルTの内壁TSに固定するそり部材6D,6Uと、移動架台2の前部(または後部でもよい)に配置されてトンネルTの内壁TSに着脱自在な係止装置7を有する可動フレーム5と、可動フレーム5を出退して移動架台2をトンネル軸心O方向に沿って前後進させる自走式の推進装置4とを具備している。
【0035】
(移動架台)
移動架台2は、左右一対で前後二組の縦連結ビーム12と、左右の縦連結ビーム12を互いに連結する上下一対で前後二組の横連結ビーム13と、前後の横連結ビーム13の両端部を互いに連結する左右一対で上下二組の前後ビーム11とで枠形構造体に形成され、下部の前後ビーム11および横連結ビーム13間の底部に掘削機1が搭載されている。
【0036】
(グリッパ装置)
移動架台2で4本の縦連結ビーム12の上部外側には、それぞれ移動架台2をトンネルTの内壁TSに固定、解放自在なグリッパ装置3が設けられている。これらグリッパ装置3は、図9に示すように、左右の縦連結ビーム12に連結された横梁ビーム3fに縦連結ビーム13に沿って取り付けられた外筒部3aと、この外筒部3a内に出退自在に嵌合された内筒部3cと、外筒部3a内に設けられて内筒部3cを出退駆動するグリッパ用ジャッキ3bとを具備し、左右のグリッパ装置3で内筒部3cにピンを介して内壁TSに沿う円弧状の押圧フレーム3eが連結され、そして前後の押圧フレーム3eにわたって3本の押圧側のそり部材6Uが取り付けられている。
【0037】
(そり部材)
そり部材6D,6Uは、移動架台2の底部に配置されて移動架台2を内壁TSに沿って摺動自在に支持する3本の固定側のそり部材6Dと、前述したように、グリッパ装置3により内壁TSに押し付けられて移動架台2を内壁TSに固定する3本の押圧側のそり部材6Uとからなり、固定側のそり部材6Dは、移動架台2の底部で前後の横連結ビーム13にそれぞれ取り付けられた円弧フレーム6bに、周方向に一定間隔をあけて取り付けられている。図9に示すように、これらそり部材6D,6Uは、それぞれ同一長さLsに形成されて、移動架台2の長さLaより長く形成され、両端部外面に先端ほど内側に傾斜する傾斜ガイド面6aがそれぞれ形成されている。
【0038】
(推進装置)
推進装置4は、図9,図12に示すように、移動架台2からトンネル軸心Oに沿って前方に出退自在な可動フレーム5と、可動フレーム5の先端部に設けられてトンネルTの内壁TSに係脱自在な係止装置7とを有し、係止装置7がトンネルTの内壁TSに係止された状態で、グリッパ装置3を解放し、可動フレーム5を出退駆動して固定側のそり部材6Dを内壁TSに沿って摺動させ、移動架台2をトンネル軸心O方向に前進または後進させることができる。
【0039】
すなわち、可動フレーム5は、移動架台2の4本の前後ビーム11内からそれぞれ前方に出退自在に嵌合された内筒ビーム5aと、左右の内筒ビーム5aの先端部間に連結された上下一対の横架ビーム5bと、横架ビーム5bを連結する左右一対の縦架ビーム5cとを具備し、各前後ビーム11内に、内筒ビーム5aをそれぞれ出退駆動する推進ジャッキ8が配置されている。また係止装置7は、各縦架ビーム5cの上端部および下端部にそれぞれ設けられており、図13に示すように、縦架ビーム5c内に出退自在に嵌合された出退筒7aと、これら出退筒7aをそれぞれ出退駆動する係止用ジャッキ7bと、出退筒7aの先端部に設けられて内壁TSのフランジプレートSdの前後に係合可能な前後一対の係止爪7cとで構成されている。したがって、係止用ジャッキ7bにより出退筒7aを介して係止爪7cを突出して、フランジプレートSdに係合させることにより、可動フレーム5を内壁TSに係止することができる。
【0040】
(掘削動作)
拡張用掘削装置をトンネルT内の掘削位置に配置すると、グリッパ装置3のグリッパ用ジャッキ3bをそれぞれ進展して押圧側のそり部材6Uを内壁TSに押し付け、押圧側のそり部材6Uと固定側のそり部材6Dとにより、移動架台2を内壁TSに固定する。そして掘削するトンネルT側の地山を薬剤処理するとともに、内壁TSの一部のセグメントSを取り外して掘削開口部を形成する。
【0041】
このトンネル工法では、内壁TSに形成する掘削開口部を略対称位置に、別の掘削作業により掘削開口部(反対側を掘削するための)を形成するため、掘削方向に相対する内壁TSで掘削反力を支持することができない。このため、掘削方向と略直角で交差する方向の内壁TSで掘削反力を支持させる必要があり、グリッパ装置3により押圧側のそり部材6Uを内壁TSに押し付け、押圧側および固定側のそり部材6U,6Dにより、掘削反力および掘削振動を内壁TSの広い面積に分散して伝達し、十分に大きな支持力で移動架台2を内壁TSに固定することができる。
【0042】
図14に示すように、掘削が終了すると、掘削ヘッド35を後退させ、グリッパ用ジャッキ3bにより押圧側のそり部材6Uを後退させてグリッパ装置3を解放する。そして、推進ジャッキ8を収縮し、係止装置7により内壁TSに係止された可動フレーム5に対して、移動架台2を次の掘削位置に前進させる。係止装置7を内壁TSから離脱させた後、推進ジャッキ8を進展させて可動フレーム5を前進させる。さらに係止装置7を内壁TSに係合させる。
【0043】
(実施の形態2の効果)
上記実施の形態1によれば、掘削機1を搭載した移動架台2に、複数のそり部材6D,6Uを対称位置に設けてトンネルTの内壁TSに沿って摺動自在させるとともに、グリッパ装置3により押圧側のそり部材6UをトンネルTの内壁TSに押し付けて移動架台2をトンネルT内に固定するように構成したので、掘削反力と掘削振動とを内壁TSの広い範囲に伝達して分散させることができ、大きい掘削反力と掘削振動とを効果的に支持することができる。また構造が簡単で、前進時に要する時間も短縮することができる。
【0044】
また、トンネルTから対称の2方向に拡張掘削を行う場合であっても、掘削方向と直角に交差する2方向の内壁TSの広い面積に、複数のそり部材6D,6Uを押し付けることで、掘削機1の大きい掘削反力を確実に支持することができる。さらに、推進装置4により係止装置7を有する可動フレーム5を出退させて、掘削機1および移動架台2の姿勢に関係なく移動架台2を安定して推進させることができ、内壁TSの内面が滑らかでない場合でも円滑に摺動して前進させることができる。
【0045】
なお、上記実施の形態1では、移動架台2の前部に可動フレーム5を配置したが、移動架台2の後部に可動フレーム5を配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るトンネル拡張用掘削装置の実施の形態1を示す側面部分断面図である。
【図2】トンネル拡張用掘削装置の概略構造を示す斜視図である。
【図3】トンネル拡張用掘削装置の背面図である。
【図4】トンネル拡張用掘削装置の正面図である。
【図5】掘削機を示す側面図である。
【図6】掘削機を示す正面図である。
【図7】トンネルの拡張掘削部の説明図で、(a)は全体横断面図、(b)は(a)に示すC部拡大図である。
【図8】トンネルの拡張掘削状態を示し、(a)は図7(a)に示すD部の掘削状態を示す拡大図、(b)は図7(a)に示すE部の掘削状態を示す拡大図である。
【図9】本発明に係るトンネル拡張用掘削装置の実施の形態2を示す側面部分断面図である。
【図10】トンネル拡張用掘削装置の概略構造を示す斜視図である。
【図11】トンネル拡張用掘削装置の背面図である。
【図12】トンネル拡張用掘削装置の正面図である。
【図13】可動フレームの係止装置を示す縦断面図である。
【図14】トンネルの拡張掘削状態を示し、(a)は図7(a)に示すD部の掘削状態を示す拡大図、(b)は図7(a)に示すE部の掘削状態を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0047】
T トンネル
O トンネル軸心
TS 内壁
S セグメント
1 掘削機
2 移動架台(移動体)
3 グリッパ装置
4 推進装置
5 可動フレーム
5a 内筒ビーム
5b 横架ビーム
5c 縦架ビーム
6D 押圧側のそり部材
6U 固定側のそり部材
7 係止装置
8 推進ジャッキ
11 前後ビーム
12 縦連結ビーム
13 横連結ビーム
26 スライドベース
27 出退揺動フレーム
28 周方向フレーム
29 出退揺動ジャッキ
30 周方向揺動ジャッキ
31 出退ガイド筒
35 掘削ヘッド
51 可動フレーム
52 前方出退部
53 後方出退部
54 内筒ビーム
55 推進装置
55a 推進ジャッキ
61 主グリッパビーム材
62 主グリッパ装置
62a グリッパ用ジャッキ
62c 押圧フレーム
71 補助グリッパビーム材
71a 円筒体
71b 連結材
72 補助グリッパ装置
72a グリッパ用ジャッキ
72c 押圧フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内からトンネル外周側の地山を掘削するトンネル拡張用掘削装置であって、
掘削機が搭載された移動体と、
移動体の前部および後部にそれぞれ配置された前方出退部および後方出退部と、これら前方出退部および後方出退部を互いに連結する連結材とを有し、移動体から前後方向に出退自在に設けられた可動フレームと、
移動体の前後でトンネル軸心の対称位置に配置された押圧駆動装置と、当該押圧駆動装置によりトンネルの内壁に押し付けられる押圧フレームと有する主グリッパ装置と、
可動フレームの前方出退部および後方出退部でトンネル軸心の対称位置に配置された押圧駆動装置と、当該押圧駆動装置によりトンネルの内壁に押し付けられる押圧フレームとを有する補助グリッパ装置と、
主グリッパ装置と補助グリッパ装置とにより移動体と可動フレームとを交互にトンネルの内壁に固定するとともに、可動フレームを出退させて移動体をトンネル軸心方向に推進させる推進装置とを具備した
ことを特徴とするトンネル拡張用掘削装置。
【請求項2】
トンネル内からトンネル外周側の地山を掘削するトンネル拡張用掘削装置であって、
掘削機が搭載された移動体と、
移動体の前部または後部にトンネル軸心方向に出退自在に配置されてトンネルの内壁に係合、離脱自在な係止装置を有する可動フレームと、
前記可動フレームを出退駆動して移動体をトンネル軸心方向に移動させる推進装置と、
トンネル軸心の対称位置にそれぞれ配置されて移動体よりトンネルの軸心方向に長い複数のそり部材と、
移動体に配置された押圧駆動装置により、前記対称位置の一方のそり部材をトンネルの内壁に押し付けて移動体をトンネルの内壁に固定可能なグリッパ装置とを具備した
ことを特徴とするトンネル拡張用掘削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−121158(P2009−121158A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297382(P2007−297382)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】