説明

トンネル掘削機

【課題】止水性能を向上させたトンネル掘削機を提供する。
【解決手段】矩形断面を有する前胴2と、矩形断面を有する後胴3と、これら前胴2と後胴3とを中折れ可能に連結すると共に、前胴2と後胴3との間に止水シール4を設けた中折れ部5とを備えたトンネル掘削機1において、中折れ部5を円筒形または複合円筒形にしたものである。また、中折れ部5は、前胴2の後端部に設けられて内周面が球面状に形成された凹部10と、後胴3の前端部に設けられ、凹部10の内周面の形状に合わせて外周面が形成されると共に、凹部10に係合する凸部11と、これら凹部10と凸部11との間に止水シール4を設けるようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矩形断面の前胴と矩形断面の後胴を中折れ可能に連結したトンネル掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
都市部などの地下トンネルを掘進する技術であるシールド工法や推進工法では、円形断面が主流であるが、近時、電力や地下鉄、共同溝、下水道などのあらゆる分野において、矩形断面などの異形断面トンネルが利用されている。
【0003】
図3(a)、図3(b)、図4に示すように、矩形断面のトンネルを掘削するトンネル掘削機31は、矩形断面の前胴32と矩形断面の後胴33とを、止水シール34を有する中折れ部35で中折れ可能に連結したものである。前胴32の前部には、円形のメインカッター36と、そのメインカッター36を囲むように小径のコーナーカッター37とが設けられる。中折れ部35の内側には、方向制御機構として中折れ装置(中折れジャッキ)38が設けられる。
【0004】
このような矩形断面のトンネルを掘削する従来のトンネル掘削機において、方向制御機構として中折れ装置を装備する場合、中折れ部も横断面を矩形(例えば、図3(b)参照)とし、縦断面をストレート(例えば、図3(a)参照)またはテーパ形状としていた。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0006】
【特許文献1】特開2004−250889号公報
【特許文献2】特許第2996620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、トンネル掘削機31では、中折れ部35の中折れ角度を1〜2°を超えて大きくすると、中折れ部35のコーナー部35cにおける止水シール34の形状が複雑になるとともに、中折れ時のシール締め代の変化が大きくなる。このため、トンネル掘削機31では、中折れ部35のコーナー部35cで止水シール34の追従が困難となり、中折れ部35の止水性能が低下する。
【0008】
そこで、本発明の目的は、止水性能を向上させたトンネル掘削機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために創案された本発明は、矩形断面を有する前胴と、矩形断面を有する後胴と、これら前胴と後胴とを中折れ可能に連結すると共に、前胴と後胴との間に止水シールを設けた中折れ部とを備えたトンネル掘削機において、上記中折れ部を円筒形または複合円筒形にしたトンネル掘削機である。
【0010】
上記中折れ部は、上記前胴の後端部に設けられて内周面が球面状に形成された凹部と、上記後胴の前端部に設けられ、上記凹部の内周面の形状に合わせて外周面が形成されると共に、上記凹部に係合する凸部と、これら凹部と凸部との間に設けられた止水シールとからなるとよい。
【0011】
上記前胴の後端と、上記後胴の前端との少なくとも一方に、上記前胴と上記後胴との間に浸入した土砂を除去するための除去流体を噴出する噴出口を設けるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、矩形断面のトンネルを掘削するトンネル掘削機においても、通常の円形断面のトンネルを掘削するトンネル掘削機と同等の中折れシール性能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。図1(a)は、本発明の好適な実施形態を示すトンネル掘削機の縦断面図、図1(b)はその1B−1B線断面図である。図2は、図1(a)を2A方向から見た正面図である。
【0014】
図1(a)、図1(b)、図2に示すように、本実施形態に係るトンネル掘削機1は、元押しタイプのトンネル掘削機であり、矩形断面を有する筒状の前胴2と、その前胴2とほぼ同じ形状の矩形断面を有する筒状の後胴3と、これら前胴2と後胴3とを中折れ可能に連結すると共に、前胴2と後胴3との間に止水シール4を設けた中折れ部5とを備え、その中折れ部5の全体を円筒形にしたものである。
【0015】
前胴2は、角筒2aと、角筒2aの前部に設けられて角筒2a内を前後に仕切る隔壁2bと、角筒2aの後端に設けられる前蓋2cとからなる。後胴3は、角筒3aと、角筒3aの前端に設けられる後蓋3cとからなる。
【0016】
前胴2の前部の中心には、回転駆動により切羽を切削して地山を掘削するための円形のメインカッター6が隔壁2bを介して設けられる。前胴2の前端部の四隅には、メインカッター6を囲むように矩形断面のトンネルの隅角部を掘削する小径のコーナーカッター7が隔壁2bを介してそれぞれ設けられる。
【0017】
後胴3の後端部には、発進用立抗に設置した元押しジャッキで押される矩形断面を有する筒状のセグメントリング8に当接し、掘削方向への推力を得るためのセグメント当接部9が設けられる。セグメントリング8は、トンネル掘削機1の掘進に応じて発進用立抗の抗口で順次挿入される。本実施形態では、鋼製のセグメントリング8を用いた。
【0018】
中折れ部5は、前胴2の後端部に設けられて内周面が球面状に形成された凹部10と、後胴3の前端部に設けられ、凹部10の内周面の形状に合わせて外周面が形成されると共に、凹部10に係合する凸部11と、これら凹部10と凸部11との間に設けられた止水シール(中折れシール)4とからなる。
【0019】
本実施形態では、凹部10の内周面に止水シール4を設け、凹部10に係合するように凸部11を差し込んだ。凸部11の外周面は、止水シール4の当たり面であり、直線形状を含まない形状に形成される。本実施形態では、凸部11の外周面を周方向に沿って円形に形成した。凸部11は、断面形状でいえば、縦断面がR形状(円弧状)に形成され、横断面が円形に形成される。
【0020】
中折れ部5の内側には、方向制御機構として、前胴2と後胴3とを連結すると共に、伸縮によって前胴2を任意の方向に屈曲させる中折れ装置(中折れジャッキ)12が、周方向に間隔を隔てて複数個設けられる。
【0021】
前胴2の後端となる前蓋2cの四隅部には、前胴2と後胴3との間に浸入した土砂を除去するための除去流体を噴出する噴出口13がそれぞれ設けられる。前胴2内には、除去流体を圧送して各噴出口13に供給するための除去流体供給手段が設けられる。除去流体としては、掘削後の土砂の流動性をさらに高める滑剤や、圧縮空気などがある。
【0022】
本実施形態の作用を説明する。
【0023】
トンネル掘削機1は、元押しジャッキで最後方のセグメントリング8の後端面を押すことで、後胴3のセグメント当接部9が最前方のセグメントリング8の前端面で押され、前方へ掘進していく。トンネル掘削機1では、中折れ装置12の伸縮によって前胴2を屈曲させることで、掘進方向を従来の上下左右方向のみだけでなく、斜め方向も含む任意の方向に変える。
【0024】
トンネル掘削機1は、中折れ部5の全体を円筒形にしており、掘進方向を変えたとき、中折れ部5も矩形断面の前胴2と同じ方向に屈曲するが、中折れ部5に急なコーナー部(角部)が形成されない。このため、トンネル掘削機1では、掘進方向がどの方向に変わっても、中折れ時のシール締め代の変化が一定であり、矩形断面を有する前胴2に設けた止水シール4に対し、矩形断面を有する後胴3がよく追従する。すなわち、トンネル掘削機1では、止水シール4の追従性がよくなる。
【0025】
これにより、トンネル掘削機1によれば、中折れ部5の止水性能が向上するため、矩形断面のトンネルを掘削するトンネル掘削機においても、通常の円形断面のトンネルを掘削するトンネル掘削機と同等の中折れシール性能が得られる。
【0026】
また、トンネル掘削機1は、内周面が球面状に形成された凹部10と、その凹部10の内周面の形状に合わせて外周面が形成されると共に、凹部10に係合する凸部11と、これら凹部10と凸部11間に設けられた止水シール4とで、中折れ部5を構成している。
【0027】
このため、トンネル掘削機1では、中折れ部5の止水性能を維持しつつ、凹部10に凸部11が係合して中折れ部5が滑らかに動き、中折れ部5の中折れ角度を大きくすることができる。
【0028】
さらに、トンネル掘削機1は、前胴2の後端となる前蓋2cに設けた噴出口13から除去流体を後方に向けて噴出することで、主に前胴2の屈曲動作時、前胴2と後胴3との間に浸入した土砂を除去でき、通常の直線掘進や曲線掘進のみならず、掘進方向が頻繁に変わる場合でも、常に滑らかな掘削作業が行える。
【0029】
上記実施形態では、中折れ部5の全体を円筒形にした例で説明したが、中折れ部の全体を、径が異なる円筒片を複数個組み合わせた複合円筒形にしても、上述と同様の作用、効果が得られる。この複合円筒形には、楕円筒形や、両側が半円筒形でその間が板状など、円筒以外で中折れ部に急な角部が形成されない形状が含まれる。
【0030】
また、上記実施形態では、前胴2の後端部に凹部10を設け、その凹部10に係合する凸部11を後胴3の前端部に設けたが、逆に、後胴の前端部に凹部を設け、その凹部に係合する凸部を前胴の後端部に設けてもよい。
【0031】
さらに、上記実施形態では、前胴2の後端面に噴出口13を設けたが、これに加え、さらに後胴3の前端となる後蓋3cの四隅部に噴出口をそれぞれ設けてもよいし、後胴3側のみに噴出口を設けてもよい。
【0032】
上記実施形態では、元押しタイプのトンネル掘削機を説明したが、本実施形態に係るトンネル掘削機1を、例えば、カッターで掘削した坑道内にセグメントを組み立ててトンネルを構築するセグメント組立装置と、トンネルの既設のセグメントの先端に反力を負担させて推進させるシールドジャッキ(推進用ジャッキ)とを備える矩形シールド掘進機にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1(a)は、本発明の好適な実施形態を示すトンネル掘削機の縦断面図、図1(b)はその1B−1B線断面図である。
【図2】図1(a)を2A方向から見た正面図である。
【図3】図3(a)は、従来のトンネル掘削機の縦断面図、図3(b)はその3B−3B線断面図である。
【図4】図3(a)を4A方向から見た正面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 トンネル掘削機
2 前胴
3 後胴
4 止水シール
5 中折れ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形断面を有する前胴と、矩形断面を有する後胴と、これら前胴と後胴とを中折れ可能に連結すると共に、前胴と後胴との間に止水シールを設けた中折れ部とを備えたトンネル掘削機において、上記中折れ部を円筒形または複合円筒形にしたことを特徴とするトンネル掘削機。
【請求項2】
上記中折れ部は、上記前胴の後端部に設けられて内周面が球面状に形成された凹部と、上記後胴の前端部に設けられ、上記凹部の内周面の形状に合わせて外周面が形成されると共に、上記凹部に係合する凸部と、これら凹部と凸部との間に設けられた止水シールとからなる請求項1記載のトンネル掘削機。
【請求項3】
上記前胴の後端と、上記後胴の前端との少なくとも一方に、上記前胴と上記後胴との間に浸入した土砂を除去するための除去流体を噴出する噴出口を設けた請求項1または2記載のトンネル掘削機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−116732(P2010−116732A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291078(P2008−291078)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】