説明

ド ア

【課題】 長期に亘って反りやねじれが発生しにくく、しかも優れた防火性能を有する木質系のドアを提供する
【解決手段】 表面化粧材5と芯材8との間に炭素繊維を配列敷設、一体化する。また、炭素繊維を、熱硬化性樹脂をマトリックスとする硬化シート6とする。更に、硬化シートを、多孔質シート、樹脂含浸炭素繊維シート、多孔質シートの3層構造にする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は住宅等で、特に雨水や日光のあたる使用環境の厳しい玄関ドアに関し、長期に亘って反りやねじれが発生しにくく、しかも防火性能に優れた木質系ドアに関する。
【0002】
【従来の技術】住宅の顔とも言われる玄関ドアには、デザインばかりでなく、断熱や防火などの機能化が図られてきた。木材は、加工のし易さ、暖かみ、高い断熱性能と厚さに応じた防火性能などの機能を有する材料であり、玄関ドア等に広く使用されてきた。しかしながら、木材は水分や熱の影響により、反りやねじれ等の狂いが起こり、これを使用した玄関ドアでは隙間風や光が漏れるなどの不具合が発生し、住宅の断熱性能が充分に維持されない場合がある。これらの不具合を解消するために、框組構造としたり、その框を集成化したり、部材の段階で塗装を施して水分の影響を抑えるような方策が採られてきた。にもかかわらず、依然として反りやねじれを抑え切るのは困難であった。
【0003】そこで、ドアの表面材と芯材の間に剛性のある金属シート、例えばアルミニウムシートなど、を表裏に敷設して反りやねじれを抑える複合仕様が検討され商品化されている。しかしながら、可燃性材料である木材あるいは木質材料とアルミニウムなどの金属材料とを複合することは、反りやねじれを抑える効果はあるものの、加工が困難となるばかりでなく、廃棄の際にも分離が難しく、廃棄物の増加にも繋がり環境上好ましいとは言い難い。また、アルミニウムシートを使用したドアでは、火災時に表面材の燃焼ばかりでなく、アルミニウムが溶融して表裏のバランスが崩れ、反りの発生とそれに伴う火炎の貫通、そして非火災側への燃焼を引き起こす恐れがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記のような問題に鑑み、木材加工と同様な加工と廃棄処理が容易で、使用環境の厳しい玄関にあっても、長期に亘って反りやねじれが発生しにくく、しかも優れた防火性能を有する木質系のドアを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために、本発明は次の構成からなる。本発明のドアは、芯材と表面化粧材との間に炭素繊維を配列敷設し、一体化することにより前記の課題を解決した。
【0006】本発明者らは、特願平8−93566,同8−93567,同10−224143号にて木材補強用として炭素繊維を有する材料の開示を行ったが、この材料が前記の課題を解決できることを見いだし、開示に至ったものである。詳しくは、該炭素繊維に一方向配向シートまたはロービング等の線状材を用い、熱硬化性樹脂をマトリックスとした硬化シートとし、更に、芯材や表面化粧材との接着性を向上させるために、多孔質シート、樹脂含浸炭素繊維シート、多孔質シートの3層構成とし、これらを加熱加圧成型してなる硬化シートを用いることを特徴とする。
【0007】本発明に用いる炭素繊維は特に限定されないが、ポリアクリロニトリル系繊維から得られる窒素含有量が0.1〜15重量%、引っ張り強度が2500〜7000MPa、弾性率が150〜700GPaである炭素繊維が好ましく、特に窒素含有量3〜10重量%を有する3500MPa以上の引張強度と200〜350GPaの弾性率を有する直径5〜9ミクロンの炭素繊維がマトリックス樹脂との密着性も良く好ましい。更に、炭素繊維表面の酸素/炭素のモル比が0.1/1〜0.3/1であるものが好ましく、この内でも特にモル比が0.15/1〜0.25/1となるようにすると密着性を一層高くできる。
【0008】炭素繊維の繊維直径は5〜9ミクロン、構成本数は1,000〜300,000本からなる繊維束(ストランド)を所望分だけ集束し、または、シート状に拡幅して使用することが望ましいが、特にこれに限定されない。
【0009】炭素繊維の形態は、一方向配向シートまたはロービング等の線状材が、本発明の目的とする反りの抑制を達成するため好ましいが、織物、不織布のような多方向シートであってもよい。
【0010】本発明に用いる炭素繊維用マトリックス樹脂は、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、フェノール−レゾルシノール共縮合樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂で、耐熱性や耐火性の面からフェノール樹脂、レゾルシノール樹脂あるいはフェノール−レゾルシノール共縮合樹脂が好ましい。
【0011】これらのフェノールあるいはレゾルシノール系樹脂は、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、クロロフェノールのようなフェノール性水酸基を1個有するフェノール類あるいはオリゴマーおよびレゾルシノール、ハイドロキノン、カテコールなどフェノール性水酸基を2個以上有するフェノール類と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、トリオキサンなどのアルデヒド類とをフェノール類/アルデヒド類=2/1〜1/3、好ましくは5/4〜2/5のモル比で、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ触媒の存在下でメチロール化して得られるフェノール類−ホルムアルデヒド類初期縮合樹脂が使用でき、この初期縮合樹脂を該炭素繊維に含浸、塗布あるいは浸漬、乾燥してマトリックス樹脂として用いる。
【0012】硬化剤はホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール、トリオキサンなどフェノール系樹脂、レゾルシノール系樹脂などの硬化剤として用いられている公知のもののうち、当該樹脂と混合しペースト状あるいは液状になるものが好ましく、硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸などの有機酸を用いることもできる。
【0013】本発明に用いられる多孔質シートは、スギ、ヒノキ、ナラなどの木材をスライスして得られる薄板、パルプ、ガラス繊維、炭素繊維、合成繊維などからなる不織布、紙、織物等があげられ、これらに前記のフェノール類−ホルムアルデヒド類初期縮合樹脂を塗布、含浸あるいは浸漬、乾燥して得られた樹脂複合多孔質シートが使用できるが、引張強度や接着強度を低下させない樹脂複合多孔質シートが適している。
【0014】当該硬化シートは、前記フェノール類−ホルムアルデヒド類初期縮合樹脂をマトリックスとしたシート状の炭素繊維をホットプレス等を用いて加熱加圧してなるほか、前記の樹脂複合多孔質シートとの3層構成にして加熱加圧し一体品となすと、取扱が容易となるばかりか、芯材あるいは表面材と多孔質シートとを貼り合わせる接着剤の密着性が炭素繊維単独の硬化シートより向上し、好ましい。
【0015】以下本発明に関して実施例に従い詳細に説明する。
【0016】実施例1図1は本発明の実施例で、高さ2200mm、幅900mm、厚さ45mmのドアの正面図、図2はその縦框部分の断面図である。該縦框2は幅120mm、厚さ35mmの集成材からなる芯材8と厚さ4mmの木質単板からなる表面化粧材5との間に、繊維特性が炭素繊維直径7ミクロン、繊維本数12000本、引張弾性率2360GPa、目付300g/m2炭素繊維ロービングにモル比4/5のフェノール−ホルムアルデヒド初期縮合樹脂を樹脂量55重量%で含浸乾燥させたプリプレグと目付50g/m2のパルプ紙に前記のフェノール−ホルムアルデヒド初期縮合樹脂を樹脂量40重量%で含浸乾燥させたフェノール樹脂含浸紙で挟み込み、温度140℃、圧力0.8MPa、時間5分の加熱加圧条件にて一体成型した厚さ0.6mmの炭素繊維硬化シート6をレゾルシノール系接着剤にて接着し配列敷設した構造からなる。該縦框2は鏡板3などの他の部材と組み付けられた後、表面にはアクリルウレタン樹脂系塗料が塗工されて仕上げられている。
【0017】実施例2図3は本発明の別の実施例で、高さ2200mm、幅900mm、厚さ45mmのドアの正面図、図4はその断面図である。該ドアは広葉樹からなるLVLにて縦框2等を芯組し、間にキリ集成材を埋設した厚さ35mmの芯材8と厚さ4mmの木質単板からなる表面化粧材5との間に前記の炭素繊維硬化シート6をレゾルシノール系接着剤にて接着し配列敷設した構造からなり、表面には飾り部材4が取り付けられた後、アクリルウレタン樹脂系塗料が塗工されて仕上げられている。
【0018】前記の炭素繊維硬化シート6は、高引張強度と高弾性率を有する炭素繊維の特性を活かしてドアの反りを抑制するものであるが、場合によってはこれを複数枚積層接着して用いることもできる。その接着剤は、前記のレゾールシノール系接着剤の他、フェノール系接着剤、水性ビニルウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤等が使用できるが、常温硬化可能で、耐熱性、耐火性に優れるレゾルシノール系接着剤が適している。
【0019】芯材8には集成材の他、パーチクルボード、MDF、ハニカム材、合成樹脂系発泡体、ケイ酸カルシウム、ALC、ロックウール等が適時選定して使用できる。
【0020】表面化粧材5となる単板には、ナラ、オーク、メープル等の各種木材から板状に加工された単板や集成単板、あるいはMDFや合板等の表面に直接印刷あるいは転写して樹脂塗工した木質化粧単板等が使用できる。
【0021】実施例3図5は本発明の別の実施例で、高さ2200mm、幅900mm、厚さ45mmのドアの正面図、図6はその縦框部分の断面図である。該縦框2は幅120mm、厚さ32mmの集成材からなる芯材と厚さ4mmの木質単板からなる表面化粧材5との間に、前記の炭素繊維硬化シート6をレゾルシノール系接着剤にて4枚積層接着した後、更にレゾルシノール系接着剤にて接着し配列敷設した構造からなり、鏡板3などの他の部材と組み付けられた後、表面にはアクリルウレタン樹脂系塗料が塗工されて仕上げられている。
【0022】実施例4図7は本発明の別の実施例で、高さ2200mm、幅900mm、厚さ45mmのドアの正面図、図8はその断面図である。該ドアは広葉樹からなるLVLにて縦框2等に芯組し、間にキリ集成材を埋設した厚さ32mmの芯材8と厚さ4mmの木質単板からなる表面化粧材5との間に前記の炭素繊維硬化シート6をレゾルシノール系接着剤にて4枚積層接着した後、更にレゾルシノール系接着剤にて接着し配列敷設した構造からなり、表面には飾り部材4が取り付けられた後、アクリルウレタン樹脂系塗料が塗工されて仕上げられている。
【0023】比較例1実施例1において、縦框の芯材を厚さ37mmの集成材とし、その表裏に厚さ4mmの木質表面材をレゾルシノール系接着剤にて接着し、ドアの縦框とした。
【0024】比較例2実施例2において、炭素繊維硬化シートの代わりに厚さ0.6mmのアルミニウム板を水性ビニルウレタン系接着剤にて接着し、ドアとした。
【0025】性能評価反り試験:得られたドアを、無風状態で赤外線照射ランプ12個をランプ表面から1mの距離にて3時間照射、1時間放熱し、このサイクルを6回繰り返した後のドアの反り(高さ方向の矢高さ)を測定した。このときドアの表面は約80℃であった。
耐火試験:JIS A 1304の加熱曲線に沿ってドアを加熱し、火炎が非加熱側に燃え抜けるまでの時間を測定した。
【0026】結果を表に示す。
【表1】


【0027】炭素繊維を敷設配列したドアは、反りの発生が抑えられるばかりでなく、高い耐火性能を有した。反りの度合いは、炭素繊維の量に依存するが、耐火性能には差がなく、その構成はコストと性能から適宜選択される。また、アルミニウム板を使用したドアは、反りの発生は抑えられるものの、耐火試験では、加熱側のアルミニウム板が溶融し、芯材の加熱収縮、非加熱側のアルミニウム板の熱伝導による膨張があり、反りの発生が認められた。実施例1、3と比較例1とで耐火性能に差がないのは、鏡板部に炭素繊維が敷設配列されていないためである。
【0028】
【発明の効果】本発明になるドアは、太陽などからの片側からの熱に対して木質材料が乾燥収縮しようとする応力が、芯材と表面材との間に敷設配列された高引張弾性率を有する炭素繊維により緩和され、反りの発生の少ない構造となる。また、炭素繊維は1500℃以上の高温で焼かれた炭化物であり、かような炭化物は高い熱拡散率を有して熱を裏面に伝えにくい性質を持つとともに、炭化物は火災に対して火炎を遮断する。そのため、防火戸のように800〜900℃にもなる加熱に対しても高い耐火性能を有し、火炎を遮断する効果が高い。
【0029】また、芯材に湿度や温度の影響を受け、反りの発生しやすい集成材を用いても、熱硬化生樹脂をマトリックスとした炭素繊維シートは、かような影響を遮断することができる。そして、反りが抑えられるために表面材の割れ、剥離、塗膜のヒビ等の不具合が抑えられる。
【0030】本発明のドアは、環境の厳しい玄関用として長期に亘り使用可能であり、光が漏れる、隙間風が入る、ドアの開閉が困難となるなどの反りの発生に帰因する不具合や外観が損なわれるなどの問題が抑えられる。更に、炭素繊維は木材と同じように切削加工が可能でるとともに、廃棄の際にも可燃物として分別廃棄する必要がないため、環境に優しい構成のドアとなる。加えて、炭素繊維は高い導電性を有するため、直交配列あるいはランダム配列することにより電磁波遮蔽の効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1のドア正面図を示す。
【図2】 図1中の線A−Aに沿う部分断面図を示す。
【図3】 実施例2のドア正面図を示す。
【図4】 図3中の線A−Aに沿う部分断面図を示す。
【図5】 実施例3のドア正面図を示す。
【図6】 図5中の線A−Aに沿う部分断面図を示す
【図7】 実施例4のドア正面図を示す。
【図8】 図7中の線A−Aに沿う部分断面図を示す。
【図9】 実施例に用いた炭素繊維硬化シートの断面模式図を示す
【図10】 実施例に用いた炭素繊維硬化シートの断面模式図を示す。
【符号の説明】
1 ドア
2 縦框
3 鏡板
4 飾り部材
5 表面化粧材
6 炭素繊維硬化シート
7 炭素繊維
8 芯材
9 樹脂硬化含浸紙
10 マトリックス樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面化粧材と芯材との間に炭素繊維が配列敷設、一体化されていることを特徴とするドア。
【請求項2】 該炭素繊維が、一方向配向シートまたはロービング等の線状材であることを特徴とする請求項1記載のドア。
【請求項3】 該炭素繊維が、熱硬化性樹脂をマトリックスとする硬化シートであることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載のドア。
【請求項4】 該硬化シートが、多孔質シート、樹脂含浸炭素繊維シート、多孔質シートの3層構成からなり、これらを加熱加圧成型してなることを特徴とする請求項3記載のドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2001−227251(P2001−227251A)
【公開日】平成13年8月24日(2001.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−39203(P2000−39203)
【出願日】平成12年2月17日(2000.2.17)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】