ドライエッチング方法およびドライエッチング装置
【課題】設備コストを低減しつつ、良好なエッチング特性を得ることができるドライエッチング方法およびドライエッチング装置を提供する。
【解決手段】本実施形態のドライエッチング方法は、水素を含む第1の反応ガスとフッ素を含む第2の反応ガスとを加熱体110に接触させることで、水素ラジカルとフッ素ラジカルとをそれぞれ生成し、前記水素ラジカルおよび前記フッ素ラジカルと、前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスとを反応させることでエッチングガスを生成し、前記エッチングガスによって基板上のシリコン酸化物層をエッチングする。これにより、マイクロ波を用いた従来のラジカル源と比較して、ラジカルの生成に必要な設備および電力を低コストに抑えることができる。
【解決手段】本実施形態のドライエッチング方法は、水素を含む第1の反応ガスとフッ素を含む第2の反応ガスとを加熱体110に接触させることで、水素ラジカルとフッ素ラジカルとをそれぞれ生成し、前記水素ラジカルおよび前記フッ素ラジカルと、前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスとを反応させることでエッチングガスを生成し、前記エッチングガスによって基板上のシリコン酸化物層をエッチングする。これにより、マイクロ波を用いた従来のラジカル源と比較して、ラジカルの生成に必要な設備および電力を低コストに抑えることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコン酸化物層のエッチングに用いられるドライエッチング方法およびドライエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜の除去方法として、マイクロ波プラズマを用いたドライエッチング方法が知られている。例えば下記特許文献1には、H2ガスとN2ガスとの混合ガスをマイクロ波の照射により活性化し、上記混合ガスにNF3ガスを混合して真空チャンバへ導入し、真空チャンバ内の基板表面に形成された熱酸化膜(SiO2膜)をエッチングする方法が記載されている。この方法では、活性化された水素原子(Hラジカル)とNF3ガスとを反応させることで生成されたエッチングガスによって、SiO2を揮発性の高い物質に変えてエッチングを進行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−66662号公報(段落[0037]、図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のエッチング方法では、Hラジカルの生成に高価なマイクロ波電源等が必要であるため、設備コストの増加が避けられない。また、従来のエッチング方法では、良好なエッチング特性を得るために、Hラジカルを大量に生成してHラジカルとNF3ガスとの反応確率を高める必要があり、これが原因で電力コストの上昇を招いていた。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、設備コストを低減しつつ、良好なエッチング特性を得ることができるドライエッチング方法およびドライエッチング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るドライエッチング方法は、水素を含む第1の反応ガスとフッ素を含む第2の反応ガスとを加熱体に接触させることで、水素ラジカルとフッ素ラジカルとをそれぞれ生成する工程を含む。
上記水素ラジカルおよび上記フッ素ラジカルと、上記第1の反応ガスおよび上記第2の反応ガスとを反応させることでエッチングガスが生成される。
上記エッチングガスによって基板上のシリコン酸化物層がエッチングされる。
【0007】
本発明の一形態に係るドライエッチング装置は、生成室と、処理室とを具備する。
上記生成室は、通電により加熱されることが可能な加熱体を有し、上記加熱体との接触による分解反応を経てエッチングガスを生成する。
上記処理室は、エッチング対象を支持する支持部を有し、上記生成室で生成された上記エッチングガスが内部に導入される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置の概略構成図である。
【図2】上記ドライエッチング装置に用いられる加熱体の構成例を示す斜視図である。
【図3】上記ドライエッチング装置に用いられる加熱体の他の構成例を示す要部の斜視図である。
【図4】上記ドライエッチング装置に用いられる加熱体のさらに他の構成例を示す斜視図である。
【図5】マイクロ波を用いたドライエッチング装置の概略構成図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、加熱体の温度とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図7】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、加熱体の表面積とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図8】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、処理圧力とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図9】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、キャリアガスの流量とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図10】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、反応ガスの流量とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図11】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、キャリアガスおよび反応ガスのトータル流量とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法は、水素を含む第1の反応ガスとフッ素を含む第2の反応ガスとを加熱体に接触させることで、水素ラジカルとフッ素ラジカルとをそれぞれ生成する工程を含む。
上記水素ラジカルおよび上記フッ素ラジカルと、上記第1の反応ガスおよび上記第2の反応ガスとを反応させることでエッチングガスが生成される。
上記エッチングガスによって基板上のシリコン酸化物層がエッチングされる。
【0010】
上記ドライエッチング方法によれば、反応ガスのラジカルを加熱体との接触による分解反応あるいは加熱体による触媒反応によって生成するようにしているため、マイクロ波を用いた従来のラジカル源と比較して、ラジカルの生成に必要な設備および電力を低コストに抑えることができる。
【0011】
シリコン酸化物層は、例えばシリコン基板の表面に形成された自然酸化膜は勿論、シリコン基板上に形成された絶縁膜としてのシリコン酸化膜(熱酸化膜、CVD膜)などが含まれる。これら酸化膜のエッチングは、基板全面に対して施されてもよいし、パターンマスクによって区画された領域にのみ選択的に施されてもよい。
【0012】
上記第1および第2の反応ガスの種類は特に限定されず、例えば、上記第1の反応ガスにはNH3ガスを、上記第2の反応ガスにはNF3ガスをそれぞれ用いることができる。
これにより、NHxFy(x、yは自然数)で表されるエッチングガスを生成することができる。このエッチングガスは、シリコン酸化物を揮発性のより高い物質に変える作用を有するが、シリコンに及ぼす影響は無視できるほど小さいため、シリコン基板上のシリコン酸化物層を高いエッチング選択比でもってエッチングすることができる。
【0013】
上記加熱体には、例えば、タングステン、モリブデン、タンタル、ニッケル等で形成された金属線が用いられる。これにより、比較的低電力での通電によって加熱体を所定の高温度に加熱することができる。
【0014】
上記シリコン酸化物層のエッチングは、上記エッチングガスを上記シリコン酸化物層に接触させる工程と、上記基板を加熱することで上記シリコン酸化物層を除去する工程とを有してもよい。
基板の加熱工程を追加することで、エッチングガスと接触したシリコン酸化物層を効率よく除去することができる。基板の加熱は、処理室において実施されてもよいし、処理室に隣接して配置された加熱室内において実施されてもよい。
【0015】
本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置は、生成室と、処理室とを具備する。
上記生成室は、通電により加熱されることが可能な加熱体を有し、上記加熱体との接触による分解反応を経てエッチングガスを生成する。
上記処理室は、エッチング対象を支持する支持部を有し、上記生成室で生成された上記エッチングガスが内部に導入される。
【0016】
上記ドライエッチング装置によれば、マイクロ波を用いた従来のラジカル源と比較して、ラジカルの生成に必要な設備および電力を低コストに抑えることができる。
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
[ドライエッチング装置]
図1は、本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置を示す概略構成図である。本実施形態のドライエッチング装置10は、生成室Aを形成する第1の真空チャンバ11と、処理室Bを形成する第2の真空チャンバ12とを有する。本実施形態では、ドライエッチング装置10を用いてシリコン基板上のシリコン酸化物(SiO2)層をドライエッチングする方法について説明する。
【0019】
生成室Aは、図示しない真空ポンプに接続され、所定の圧力に排気されることが可能である。生成室Aでは、反応ガスのラジカルが生成されるとともに、当該ラジカルを用いてエッチングガスが生成される。
【0020】
第1の真空チャンバ11には、生成室Aへ各種反応ガスを導入するためのガス導入ライン13が接続されている。上記反応ガスとしては、水素を含む第1の反応ガスと、フッ素を含む第2の反応ガスとが用いられる。本実施形態では、上記第1の反応ガスとしてNH3ガスが用いられ、第2の反応ガスとしてNF3ガスが用いられる。さらに、キャリアガスとしてN2ガスが用いられる。第1の反応ガス(NH3)と第2の反応ガス(NF3)、そしてキャリアガス(N2ガス)は、ガス導入ライン13を介して生成室Aへ同時に供給される。
【0021】
図1は、第1の反応ガスと第2の反応ガスとキャリアガスとの混合ガスがガス導入ライン13を介して生成室Aに導入される例を説明するが、これに限られない。すなわち、上記第1、第2の反応ガスおよびキャリアガスは、それぞれ異なるガス導入ラインを介して生成室Aに導入されてもよい。
【0022】
生成室Aには、加熱体110が設置されている。加熱体110は、生成室Aにおいて所定の高温度に加熱される。生成室Aに導入された各反応ガスは、高温に加熱された加熱体110との接触反応あるいは当該加熱体110の有する触媒反応により分解しあるいは励起される。これにより、水素ラジカル(H*)およびフッ素ラジカル(F*)がそれぞれ生成される。
【0023】
水素ラジカルおよびフッ素ラジカルは、反応ガス(NH3、NF3)と反応し、生成室Aにおいてエッチングガス(NH4F)を生成する。ラジカルおよびエッチングガスの生成は以下の式で表される。
(NH3の分解)
NH3→NH2+H
H*+NF3→NH4F …(1)
(NF3の分解)
NF3→NF2+F
F*+NH3→NH4F …(2)
【0024】
加熱体110は、通電によるジュール熱で所定温度に加熱される。加熱温度は特に限定されず、加熱体110を構成する材料の融点より低い温度で適宜の温度が設定される。加熱体110は、第1の給電端子191と第2の給電端子192との間に架け渡される。各給電端子191,192は、第1の真空チャンバ11を気密に貫通し、図示しない加熱用電源にそれぞれ接続される。上記加熱用電源は、直流電源でもよいし、交流電源でもよい。
【0025】
加熱体110には、タングステンやモリブデン、タンタル、ニッケル等の金属線あるいはこれらの炭化物、窒化物等の金属化合物が用いられる。加熱体110の設置数は単数でもよいし、複数でもよい。加熱体110が複数設置されることにより、加熱体110と反応ガスとの接触確率が高められ、エッチングガスを効率よく生成することができる。
【0026】
加熱体110は、生成室Aを横切るように設置され、典型的には、直線状、コイル状等の形態を有する。これに代えて、図2に示すように、金属線を螺旋状に形成することで加熱体111を構成してもよい。
【0027】
さらに、加熱体の表面積を大きく形成することによっても、上述と同様な効果を得ることができる。すなわち、加熱体は、ワイヤおよびフィラメントのような線状に限られず、板状に形成されてもよい。図3および図4は、多段に折り曲げて構成された板状の加熱体112、113をそれぞれ示す。この場合、生成室Aにおける反応ガスの流れを妨げないように加熱体を設置することが好ましい。例えば、板の幅方向が反応ガス(NH3、NF3)の導入方向と平行となるように加熱体112、113が設置される。板状加熱体の形状、幅、厚みは特に限定されず、加熱体の加熱温度、必要電力等に応じて適宜決定される。
【0028】
生成室Aは、上述のようにして、加熱体110との接触による反応ガスの分解反応を経てエッチングガスを生成する。生成されたエッチングガスは、通路14を介して処理室Bの内部へ導入される。
【0029】
通路14は、第1の真空チャンバ11と第2の真空チャンバ12とを相互に気密に接続する管状部材で形成される。生成室Aと処理室Bとは、通路14を介して相互に連通している。
【0030】
処理室Bは、図示しない真空ポンプに接続され、所定の圧力に排気されることが可能である。処理室Bには、エッチング対象であるシリコン酸化物層が表面に形成された基板Wを支持するステージ120(支持部)が設置されている。ステージ120は、基板Wを保持するチャック機構を有してもよい。チャック機構は特に限定されず、静電チャック機構、メカニカルチャック機構などが採用される。
【0031】
基板Wは、例えばシリコン基板で形成され、表面にシリコン酸化物層が形成されている。本実施形態のドライエッチング装置10は、生成室Aで生成されたエッチングガス(NH4F)を処理室Bに導入し、ステージ120上の基板Wの表面に接触させる。これにより、基板W上のシリコン酸化物層は、より揮発性の高い物質である珪弗化アンモニウムに変えられる。
【0032】
エッチングガス(NH4F)とシリコン酸化物層との反応は、以下の式で表される。
SiO2+NH4F → (NH4)2SiF6↑+H2O …(3)
【0033】
本実施形態のドライエッチング装置10は、第3の真空チャンバ15をさらに備える。第3の真空チャンバ15は、ゲートバルブ16を介して、第2の真空チャンバ12に接続されている。第3の真空チャンバ15は、加熱室Cを形成し、基板Wを所定温度に加熱するためのヒータ150が内蔵されている。第3の真空チャンバ15は、図示しない真空ポンプに接続され、内部が所定の圧力に排気されることが可能である。
【0034】
加熱室Cは、ゲートバルブ16を介して、処理室Bのステージ120を基板Wとともに収容可能である。すなわち、ドライエッチング装置10は、処理室Bと加熱室Cとの間にわたってステージ120を搬送するための搬送機構を備えていてもよい。あるいは、加熱室Cに別途、ステージ120が設置されてもよい。この場合、ドライエッチング装置10は、ゲートバルブ16を介して基板Wのみを両室間で搬送可能な基板搬送ロボットを有する。
【0035】
[ドライエッチング装置の動作]
次に、ドライエッチング装置10の動作とともに、本実施形態のドライエッチング方法について説明する。
【0036】
まず、処理室Bのステージ120上に、基板Wが設置される。基板Wの表面には、エッチング対象であるシリコン酸化物層が形成されている。シリコン酸化物層は、例えばシリコン基板の表面に形成された自然酸化膜は勿論、シリコン基板上に形成された絶縁膜としてのシリコン酸化膜(熱酸化膜、CVD膜)などが含まれる。これら酸化膜のエッチングは、基板全面に対して施されてもよいし、パターンマスクによって区画された領域にのみ選択的に施されてもよい。
【0037】
次に、生成室Aおよび処理室Bが、図示しない真空ポンプによってそれぞれ所定の圧力に真空排気される。本実施形態では、生成室Aおよび処理室Bがそれぞれ同一の圧力に排気される。
【0038】
そして、加熱体110として設置された金属線が所定温度に加熱される。本実施形態では、加熱体110として直径0.5mm、長さ300mmのタングステン線を用い、これに給電端子191,192を介して191Wの電力を印加することで1783℃に加熱した。
【0039】
続いて、ガス導入ライン13を介して、第1の反応ガス(NH3)、第2の反応ガス(NF3)およびキャリアガス(N2)が生成室Aへ同時に供給される。本実施形態では、第1の反応ガス(NH3)の流量は120sccm、第2の反応ガス(NF3)の流量は150sccm、キャリアガス(N2)の流量は1000sccmとされ、生成室Aおよび処理室Bが約380Paに調圧される。
【0040】
生成室Aに導入された各反応ガスは、高温に加熱された加熱体110との接触により分解あるいは励起される。これにより、生成室Aにおいて水素ラジカル(H*)とフッ素ラジカル(F*)とがそれぞれ生成される。生成された水素ラジカル(H*)は第2の反応ガス(NF3)と反応し、(1)式で示した反応を経ることで、エッチングガス(NH4F)が生成される。一方、生成されたフッ素ラジカル(F*)は第1の反応ガス(NH3)と反応し、(2)式で示した反応を経ることで、エッチングガス(NH4F)が生成される。
【0041】
上記のように生成室Aにおいて生成されたエッチングガス(NH4F)は、通路14を介して処理室Bに導入される。処理室Bに導入されたエッチングガスは、ステージ120上の基板Wの表面に形成されたシリコン酸化物層と接触し、(3)式で示した反応を進行させることで、上記シリコン酸化物層をより揮発性の高い物質(珪弗化アンモニウム)に変える。
【0042】
次に、生成室Aへの反応ガスの供給を停止し、ゲートバルブ16を開放して、基板Wを処理室Bから、所定の圧力に排気された加熱室Cへ搬送する。基板Wの搬送は、ステージ120と一体的であってもよいし、基板W単独であってもよい。加熱室Cへ基板Wが搬送された後、ゲートバルブ16を閉じ、ヒータ150を作動させて基板Wを所定温度に加熱する。加熱温度および処理時間は特に限定されず、例えば100℃、1.5分間とされる。これにより、エッチングガスとの接触により化学変化したシリコン酸化物層(珪弗化アンモニウム)の揮発が促進され、基板Wから除去される。
【0043】
以上のようにして、基板Wのエッチング処理が完了する。なお、処理室Bにおいてシリコン酸化物層のエッチングを進行させることができる場合は、その後の加熱処理を省略してもよい。また、処理室Bのステージ120にヒータ等の加熱源を内蔵させることによって、基板Wの加熱処理を処理室Bの内部で実行してもよい。この場合、加熱室Cを別途設置する必要がなくなる。またこの場合、エッチングガスによる基板Wの処理の際に基板Wを加熱することで、シリコン酸化物層のエッチング反応の促進を図ることができる。
【0044】
以上のように本実施形態によれば、反応ガスのラジカルを加熱体110との接触による分解あるいは励起によって生成するようにしているため、マイクロ波を用いた従来のラジカル源と比較して、ラジカルの生成に必要な設備および電力を低コストに抑えることができる。
【0045】
ここで、マイクロ波を用いたドライエッチング装置の概略構成を図5に示す。このドライエッチング装置50は、処理室Dを形成する真空チャンバ51の上部に、反応室52と、反応室52に導波管53を介して接続されるマイクロ波源等を有する。反応室52に導入されたN2ガスとH2ガスの混合ガスはマイクロ波によって励起され、これにより水素ラジカル(H*)が生成される。生成された水素ラジカルは、反応室52と連通する処理室Dへ供給される。一方、処理室Dの上部には、反応室52からダウンフローされる水素ラジカルへ向けてNF3ガスを導入するガスヘッド54が設置されている。ガスヘッド54から吐出されたNF3ガスは、水素ラジカルと反応しエッチングガス(NHxFy)を生成させる。生成されたエッチングガスは、処理室Dのステージ55上に設置された基板Wと接触し、基板Wの表面に形成されたシリコン酸化物層をエッチングする。
【0046】
マイクロ波を用いたドライエッチング装置50においては、例えば1000W超級のマイクロ波電源等の複雑かつ高価な機器が必要であるため、設備コストの増加が避けられず、さらにメンテナンスコストや電力コストを含むランニングコストが大きな負担となる。これに対して本実施形態のドライエッチング装置10においては、単純な抵抗加熱ヒータとその電源設備があれば十分であるため、設備コストは勿論、ランニングコストも抑制できる。電力コストだけで比較しても、マイクロ波を用いたドライエッチング装置の約1/5に省電力化することができる。
【0047】
また、マイクロ波を用いたドライエッチング装置50においては、マイクロ波の発生に必要な電力に対してラジカルの生成効率が低い。これに対して、本実施形態のドライエッチング装置50においては、加熱体110の加熱エネルギーに対するラジカルの生成効率が高く、したがってエネルギー使用効率を高くすることができる。
【0048】
さらに、マイクロ波を用いたドライエッチング装置50においては、マイクロ波で励起された粒子の中には必要以上に大きなエネルギーを持つものが存在し、エッチング対象物以外の物質(例えば、シリコン酸化物層の下地であるシリコン基板、処理室を構成する付属部品など)をも浸食するという不都合があった。これに対して本実施形態によれば、加熱体110との接触によって反応ガスを励起するため、粒子のもつエネルギーはマイクロ波によって励起された粒子のエネルギーに比べて低く、かつエネルギーを均一化させることができる。したがって、エッチング対象物質のみをエッチングでき、他の物質への影響を低減できるという利点がある。その結果、エッチング選択比が向上し、良好なエッチング特性を得ることができる。
【0049】
そして、上述した本実施形態のドライエッチング方法においては、マイクロ波を用いたドライエッチング方法と同等以上のエッチングレートを得ることができる。すなわち、上述の処理圧力、ガス流量により、1.5分間の処理時間でシリコン酸化物層を約21nmエッチングできることが確認されている。また、このときのシリコン基板に対するシリコン酸化物層のエッチング選択比は、28.8であった。
【0050】
本実施形態のドライエッチング方法において、エッチングレートは、加熱体110の温度および加熱体110の表面積によって変化する。図6は加熱体の温度とエッチングレートとの関係を示す一実験結果を示し、図7は加熱体(730℃)の表面積とエッチングレートとの関係を示している。ここでは、加熱体110として、長さ500mm、幅6mm、厚み0.1mmの多段に折り曲げたニッケル板材を用いた。なお、図6および図7に示した実験では、N2、NH3およびNF3の流量はそれぞれ1000sccm、120sccmおよび150sccmとし、処理圧力は380Paとした。
【0051】
図6および図7に示すように、加熱体の温度が高いほど、また、加熱体の表面積が大きいほど、高いエッチングレートを得られることが確認された。つまり、加熱体の温度が高いほど反応ガスの分解あるいは励起効率が高められ、また、加熱体の表面積が大きいほど反応ガスとの接触確率が高められるため、エッチングガスの生成効率が向上し、エッチングレートを高めることができる。また、加熱体にニッケルを使用することにより、反応ガス(NF3)との反応による劣化を抑制することができる。これにより、加熱体の耐久性を向上させることができる。
【0052】
次に、本実施形態のドライエッチング方法におけるエッチングレートの圧力依存およびガス流量依存を確認した実験結果を図8〜図11に示す。図8は処理圧力とエッチングレートとの関係を示し、図9はキャリアガス(N2)流量とエッチングレートとの関係を示す。図10は反応ガス(NH3)流量とエッチングレートとの関係を示し、図11はガス(N2+NH3+NF3)のトータル流量とエッチングレートとの関係を示す。ここでは、加熱体に長さ500mm、幅6mm、厚み0.1mmの多段に折り曲げたニッケル板材を用いた。また、加熱体の温度は730℃とした。
【0053】
図8〜図11に示すように、本実施形態のドライエッチング方法において、エッチングレートは、処理圧力およびガス流量の影響をほとんど受けないことがわかる。したがって、反応ガスの使用量を低減しても所定のエッチングレートを維持できるため、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変更が可能である。
【0055】
例えば以上の実施形態では、水素を含む第1の反応ガスとしてNH3ガスを使用したが、これに代えて、水素(H2)、炭化水素等を用いてもよい。同様に、フッ素を含む第2の反応ガスとして、例えばSF6等を用いてもよい。
【0056】
また、以上の実施形態では、加熱体110を収容する生成室Aと、基板Wをエッチング処理する処理室Bとを分離したが、処理室内に加熱体を設置してもよい。この場合、エッチングガスの生成と基板のエッチングを同時に行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
10…ドライエッチング装置
11…第1の真空チャンバ
12…第2の真空チャンバ
15…第3の真空チャンバ
110…加熱体
120…ステージ
A…生成室
B…処理室
C…加熱室
W…基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコン酸化物層のエッチングに用いられるドライエッチング方法およびドライエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜の除去方法として、マイクロ波プラズマを用いたドライエッチング方法が知られている。例えば下記特許文献1には、H2ガスとN2ガスとの混合ガスをマイクロ波の照射により活性化し、上記混合ガスにNF3ガスを混合して真空チャンバへ導入し、真空チャンバ内の基板表面に形成された熱酸化膜(SiO2膜)をエッチングする方法が記載されている。この方法では、活性化された水素原子(Hラジカル)とNF3ガスとを反応させることで生成されたエッチングガスによって、SiO2を揮発性の高い物質に変えてエッチングを進行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−66662号公報(段落[0037]、図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のエッチング方法では、Hラジカルの生成に高価なマイクロ波電源等が必要であるため、設備コストの増加が避けられない。また、従来のエッチング方法では、良好なエッチング特性を得るために、Hラジカルを大量に生成してHラジカルとNF3ガスとの反応確率を高める必要があり、これが原因で電力コストの上昇を招いていた。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、設備コストを低減しつつ、良好なエッチング特性を得ることができるドライエッチング方法およびドライエッチング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るドライエッチング方法は、水素を含む第1の反応ガスとフッ素を含む第2の反応ガスとを加熱体に接触させることで、水素ラジカルとフッ素ラジカルとをそれぞれ生成する工程を含む。
上記水素ラジカルおよび上記フッ素ラジカルと、上記第1の反応ガスおよび上記第2の反応ガスとを反応させることでエッチングガスが生成される。
上記エッチングガスによって基板上のシリコン酸化物層がエッチングされる。
【0007】
本発明の一形態に係るドライエッチング装置は、生成室と、処理室とを具備する。
上記生成室は、通電により加熱されることが可能な加熱体を有し、上記加熱体との接触による分解反応を経てエッチングガスを生成する。
上記処理室は、エッチング対象を支持する支持部を有し、上記生成室で生成された上記エッチングガスが内部に導入される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置の概略構成図である。
【図2】上記ドライエッチング装置に用いられる加熱体の構成例を示す斜視図である。
【図3】上記ドライエッチング装置に用いられる加熱体の他の構成例を示す要部の斜視図である。
【図4】上記ドライエッチング装置に用いられる加熱体のさらに他の構成例を示す斜視図である。
【図5】マイクロ波を用いたドライエッチング装置の概略構成図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、加熱体の温度とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図7】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、加熱体の表面積とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図8】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、処理圧力とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図9】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、キャリアガスの流量とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図10】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、反応ガスの流量とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【図11】本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法における、キャリアガスおよび反応ガスのトータル流量とエッチングレートとの関係を示す一実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係るドライエッチング方法は、水素を含む第1の反応ガスとフッ素を含む第2の反応ガスとを加熱体に接触させることで、水素ラジカルとフッ素ラジカルとをそれぞれ生成する工程を含む。
上記水素ラジカルおよび上記フッ素ラジカルと、上記第1の反応ガスおよび上記第2の反応ガスとを反応させることでエッチングガスが生成される。
上記エッチングガスによって基板上のシリコン酸化物層がエッチングされる。
【0010】
上記ドライエッチング方法によれば、反応ガスのラジカルを加熱体との接触による分解反応あるいは加熱体による触媒反応によって生成するようにしているため、マイクロ波を用いた従来のラジカル源と比較して、ラジカルの生成に必要な設備および電力を低コストに抑えることができる。
【0011】
シリコン酸化物層は、例えばシリコン基板の表面に形成された自然酸化膜は勿論、シリコン基板上に形成された絶縁膜としてのシリコン酸化膜(熱酸化膜、CVD膜)などが含まれる。これら酸化膜のエッチングは、基板全面に対して施されてもよいし、パターンマスクによって区画された領域にのみ選択的に施されてもよい。
【0012】
上記第1および第2の反応ガスの種類は特に限定されず、例えば、上記第1の反応ガスにはNH3ガスを、上記第2の反応ガスにはNF3ガスをそれぞれ用いることができる。
これにより、NHxFy(x、yは自然数)で表されるエッチングガスを生成することができる。このエッチングガスは、シリコン酸化物を揮発性のより高い物質に変える作用を有するが、シリコンに及ぼす影響は無視できるほど小さいため、シリコン基板上のシリコン酸化物層を高いエッチング選択比でもってエッチングすることができる。
【0013】
上記加熱体には、例えば、タングステン、モリブデン、タンタル、ニッケル等で形成された金属線が用いられる。これにより、比較的低電力での通電によって加熱体を所定の高温度に加熱することができる。
【0014】
上記シリコン酸化物層のエッチングは、上記エッチングガスを上記シリコン酸化物層に接触させる工程と、上記基板を加熱することで上記シリコン酸化物層を除去する工程とを有してもよい。
基板の加熱工程を追加することで、エッチングガスと接触したシリコン酸化物層を効率よく除去することができる。基板の加熱は、処理室において実施されてもよいし、処理室に隣接して配置された加熱室内において実施されてもよい。
【0015】
本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置は、生成室と、処理室とを具備する。
上記生成室は、通電により加熱されることが可能な加熱体を有し、上記加熱体との接触による分解反応を経てエッチングガスを生成する。
上記処理室は、エッチング対象を支持する支持部を有し、上記生成室で生成された上記エッチングガスが内部に導入される。
【0016】
上記ドライエッチング装置によれば、マイクロ波を用いた従来のラジカル源と比較して、ラジカルの生成に必要な設備および電力を低コストに抑えることができる。
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
[ドライエッチング装置]
図1は、本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置を示す概略構成図である。本実施形態のドライエッチング装置10は、生成室Aを形成する第1の真空チャンバ11と、処理室Bを形成する第2の真空チャンバ12とを有する。本実施形態では、ドライエッチング装置10を用いてシリコン基板上のシリコン酸化物(SiO2)層をドライエッチングする方法について説明する。
【0019】
生成室Aは、図示しない真空ポンプに接続され、所定の圧力に排気されることが可能である。生成室Aでは、反応ガスのラジカルが生成されるとともに、当該ラジカルを用いてエッチングガスが生成される。
【0020】
第1の真空チャンバ11には、生成室Aへ各種反応ガスを導入するためのガス導入ライン13が接続されている。上記反応ガスとしては、水素を含む第1の反応ガスと、フッ素を含む第2の反応ガスとが用いられる。本実施形態では、上記第1の反応ガスとしてNH3ガスが用いられ、第2の反応ガスとしてNF3ガスが用いられる。さらに、キャリアガスとしてN2ガスが用いられる。第1の反応ガス(NH3)と第2の反応ガス(NF3)、そしてキャリアガス(N2ガス)は、ガス導入ライン13を介して生成室Aへ同時に供給される。
【0021】
図1は、第1の反応ガスと第2の反応ガスとキャリアガスとの混合ガスがガス導入ライン13を介して生成室Aに導入される例を説明するが、これに限られない。すなわち、上記第1、第2の反応ガスおよびキャリアガスは、それぞれ異なるガス導入ラインを介して生成室Aに導入されてもよい。
【0022】
生成室Aには、加熱体110が設置されている。加熱体110は、生成室Aにおいて所定の高温度に加熱される。生成室Aに導入された各反応ガスは、高温に加熱された加熱体110との接触反応あるいは当該加熱体110の有する触媒反応により分解しあるいは励起される。これにより、水素ラジカル(H*)およびフッ素ラジカル(F*)がそれぞれ生成される。
【0023】
水素ラジカルおよびフッ素ラジカルは、反応ガス(NH3、NF3)と反応し、生成室Aにおいてエッチングガス(NH4F)を生成する。ラジカルおよびエッチングガスの生成は以下の式で表される。
(NH3の分解)
NH3→NH2+H
H*+NF3→NH4F …(1)
(NF3の分解)
NF3→NF2+F
F*+NH3→NH4F …(2)
【0024】
加熱体110は、通電によるジュール熱で所定温度に加熱される。加熱温度は特に限定されず、加熱体110を構成する材料の融点より低い温度で適宜の温度が設定される。加熱体110は、第1の給電端子191と第2の給電端子192との間に架け渡される。各給電端子191,192は、第1の真空チャンバ11を気密に貫通し、図示しない加熱用電源にそれぞれ接続される。上記加熱用電源は、直流電源でもよいし、交流電源でもよい。
【0025】
加熱体110には、タングステンやモリブデン、タンタル、ニッケル等の金属線あるいはこれらの炭化物、窒化物等の金属化合物が用いられる。加熱体110の設置数は単数でもよいし、複数でもよい。加熱体110が複数設置されることにより、加熱体110と反応ガスとの接触確率が高められ、エッチングガスを効率よく生成することができる。
【0026】
加熱体110は、生成室Aを横切るように設置され、典型的には、直線状、コイル状等の形態を有する。これに代えて、図2に示すように、金属線を螺旋状に形成することで加熱体111を構成してもよい。
【0027】
さらに、加熱体の表面積を大きく形成することによっても、上述と同様な効果を得ることができる。すなわち、加熱体は、ワイヤおよびフィラメントのような線状に限られず、板状に形成されてもよい。図3および図4は、多段に折り曲げて構成された板状の加熱体112、113をそれぞれ示す。この場合、生成室Aにおける反応ガスの流れを妨げないように加熱体を設置することが好ましい。例えば、板の幅方向が反応ガス(NH3、NF3)の導入方向と平行となるように加熱体112、113が設置される。板状加熱体の形状、幅、厚みは特に限定されず、加熱体の加熱温度、必要電力等に応じて適宜決定される。
【0028】
生成室Aは、上述のようにして、加熱体110との接触による反応ガスの分解反応を経てエッチングガスを生成する。生成されたエッチングガスは、通路14を介して処理室Bの内部へ導入される。
【0029】
通路14は、第1の真空チャンバ11と第2の真空チャンバ12とを相互に気密に接続する管状部材で形成される。生成室Aと処理室Bとは、通路14を介して相互に連通している。
【0030】
処理室Bは、図示しない真空ポンプに接続され、所定の圧力に排気されることが可能である。処理室Bには、エッチング対象であるシリコン酸化物層が表面に形成された基板Wを支持するステージ120(支持部)が設置されている。ステージ120は、基板Wを保持するチャック機構を有してもよい。チャック機構は特に限定されず、静電チャック機構、メカニカルチャック機構などが採用される。
【0031】
基板Wは、例えばシリコン基板で形成され、表面にシリコン酸化物層が形成されている。本実施形態のドライエッチング装置10は、生成室Aで生成されたエッチングガス(NH4F)を処理室Bに導入し、ステージ120上の基板Wの表面に接触させる。これにより、基板W上のシリコン酸化物層は、より揮発性の高い物質である珪弗化アンモニウムに変えられる。
【0032】
エッチングガス(NH4F)とシリコン酸化物層との反応は、以下の式で表される。
SiO2+NH4F → (NH4)2SiF6↑+H2O …(3)
【0033】
本実施形態のドライエッチング装置10は、第3の真空チャンバ15をさらに備える。第3の真空チャンバ15は、ゲートバルブ16を介して、第2の真空チャンバ12に接続されている。第3の真空チャンバ15は、加熱室Cを形成し、基板Wを所定温度に加熱するためのヒータ150が内蔵されている。第3の真空チャンバ15は、図示しない真空ポンプに接続され、内部が所定の圧力に排気されることが可能である。
【0034】
加熱室Cは、ゲートバルブ16を介して、処理室Bのステージ120を基板Wとともに収容可能である。すなわち、ドライエッチング装置10は、処理室Bと加熱室Cとの間にわたってステージ120を搬送するための搬送機構を備えていてもよい。あるいは、加熱室Cに別途、ステージ120が設置されてもよい。この場合、ドライエッチング装置10は、ゲートバルブ16を介して基板Wのみを両室間で搬送可能な基板搬送ロボットを有する。
【0035】
[ドライエッチング装置の動作]
次に、ドライエッチング装置10の動作とともに、本実施形態のドライエッチング方法について説明する。
【0036】
まず、処理室Bのステージ120上に、基板Wが設置される。基板Wの表面には、エッチング対象であるシリコン酸化物層が形成されている。シリコン酸化物層は、例えばシリコン基板の表面に形成された自然酸化膜は勿論、シリコン基板上に形成された絶縁膜としてのシリコン酸化膜(熱酸化膜、CVD膜)などが含まれる。これら酸化膜のエッチングは、基板全面に対して施されてもよいし、パターンマスクによって区画された領域にのみ選択的に施されてもよい。
【0037】
次に、生成室Aおよび処理室Bが、図示しない真空ポンプによってそれぞれ所定の圧力に真空排気される。本実施形態では、生成室Aおよび処理室Bがそれぞれ同一の圧力に排気される。
【0038】
そして、加熱体110として設置された金属線が所定温度に加熱される。本実施形態では、加熱体110として直径0.5mm、長さ300mmのタングステン線を用い、これに給電端子191,192を介して191Wの電力を印加することで1783℃に加熱した。
【0039】
続いて、ガス導入ライン13を介して、第1の反応ガス(NH3)、第2の反応ガス(NF3)およびキャリアガス(N2)が生成室Aへ同時に供給される。本実施形態では、第1の反応ガス(NH3)の流量は120sccm、第2の反応ガス(NF3)の流量は150sccm、キャリアガス(N2)の流量は1000sccmとされ、生成室Aおよび処理室Bが約380Paに調圧される。
【0040】
生成室Aに導入された各反応ガスは、高温に加熱された加熱体110との接触により分解あるいは励起される。これにより、生成室Aにおいて水素ラジカル(H*)とフッ素ラジカル(F*)とがそれぞれ生成される。生成された水素ラジカル(H*)は第2の反応ガス(NF3)と反応し、(1)式で示した反応を経ることで、エッチングガス(NH4F)が生成される。一方、生成されたフッ素ラジカル(F*)は第1の反応ガス(NH3)と反応し、(2)式で示した反応を経ることで、エッチングガス(NH4F)が生成される。
【0041】
上記のように生成室Aにおいて生成されたエッチングガス(NH4F)は、通路14を介して処理室Bに導入される。処理室Bに導入されたエッチングガスは、ステージ120上の基板Wの表面に形成されたシリコン酸化物層と接触し、(3)式で示した反応を進行させることで、上記シリコン酸化物層をより揮発性の高い物質(珪弗化アンモニウム)に変える。
【0042】
次に、生成室Aへの反応ガスの供給を停止し、ゲートバルブ16を開放して、基板Wを処理室Bから、所定の圧力に排気された加熱室Cへ搬送する。基板Wの搬送は、ステージ120と一体的であってもよいし、基板W単独であってもよい。加熱室Cへ基板Wが搬送された後、ゲートバルブ16を閉じ、ヒータ150を作動させて基板Wを所定温度に加熱する。加熱温度および処理時間は特に限定されず、例えば100℃、1.5分間とされる。これにより、エッチングガスとの接触により化学変化したシリコン酸化物層(珪弗化アンモニウム)の揮発が促進され、基板Wから除去される。
【0043】
以上のようにして、基板Wのエッチング処理が完了する。なお、処理室Bにおいてシリコン酸化物層のエッチングを進行させることができる場合は、その後の加熱処理を省略してもよい。また、処理室Bのステージ120にヒータ等の加熱源を内蔵させることによって、基板Wの加熱処理を処理室Bの内部で実行してもよい。この場合、加熱室Cを別途設置する必要がなくなる。またこの場合、エッチングガスによる基板Wの処理の際に基板Wを加熱することで、シリコン酸化物層のエッチング反応の促進を図ることができる。
【0044】
以上のように本実施形態によれば、反応ガスのラジカルを加熱体110との接触による分解あるいは励起によって生成するようにしているため、マイクロ波を用いた従来のラジカル源と比較して、ラジカルの生成に必要な設備および電力を低コストに抑えることができる。
【0045】
ここで、マイクロ波を用いたドライエッチング装置の概略構成を図5に示す。このドライエッチング装置50は、処理室Dを形成する真空チャンバ51の上部に、反応室52と、反応室52に導波管53を介して接続されるマイクロ波源等を有する。反応室52に導入されたN2ガスとH2ガスの混合ガスはマイクロ波によって励起され、これにより水素ラジカル(H*)が生成される。生成された水素ラジカルは、反応室52と連通する処理室Dへ供給される。一方、処理室Dの上部には、反応室52からダウンフローされる水素ラジカルへ向けてNF3ガスを導入するガスヘッド54が設置されている。ガスヘッド54から吐出されたNF3ガスは、水素ラジカルと反応しエッチングガス(NHxFy)を生成させる。生成されたエッチングガスは、処理室Dのステージ55上に設置された基板Wと接触し、基板Wの表面に形成されたシリコン酸化物層をエッチングする。
【0046】
マイクロ波を用いたドライエッチング装置50においては、例えば1000W超級のマイクロ波電源等の複雑かつ高価な機器が必要であるため、設備コストの増加が避けられず、さらにメンテナンスコストや電力コストを含むランニングコストが大きな負担となる。これに対して本実施形態のドライエッチング装置10においては、単純な抵抗加熱ヒータとその電源設備があれば十分であるため、設備コストは勿論、ランニングコストも抑制できる。電力コストだけで比較しても、マイクロ波を用いたドライエッチング装置の約1/5に省電力化することができる。
【0047】
また、マイクロ波を用いたドライエッチング装置50においては、マイクロ波の発生に必要な電力に対してラジカルの生成効率が低い。これに対して、本実施形態のドライエッチング装置50においては、加熱体110の加熱エネルギーに対するラジカルの生成効率が高く、したがってエネルギー使用効率を高くすることができる。
【0048】
さらに、マイクロ波を用いたドライエッチング装置50においては、マイクロ波で励起された粒子の中には必要以上に大きなエネルギーを持つものが存在し、エッチング対象物以外の物質(例えば、シリコン酸化物層の下地であるシリコン基板、処理室を構成する付属部品など)をも浸食するという不都合があった。これに対して本実施形態によれば、加熱体110との接触によって反応ガスを励起するため、粒子のもつエネルギーはマイクロ波によって励起された粒子のエネルギーに比べて低く、かつエネルギーを均一化させることができる。したがって、エッチング対象物質のみをエッチングでき、他の物質への影響を低減できるという利点がある。その結果、エッチング選択比が向上し、良好なエッチング特性を得ることができる。
【0049】
そして、上述した本実施形態のドライエッチング方法においては、マイクロ波を用いたドライエッチング方法と同等以上のエッチングレートを得ることができる。すなわち、上述の処理圧力、ガス流量により、1.5分間の処理時間でシリコン酸化物層を約21nmエッチングできることが確認されている。また、このときのシリコン基板に対するシリコン酸化物層のエッチング選択比は、28.8であった。
【0050】
本実施形態のドライエッチング方法において、エッチングレートは、加熱体110の温度および加熱体110の表面積によって変化する。図6は加熱体の温度とエッチングレートとの関係を示す一実験結果を示し、図7は加熱体(730℃)の表面積とエッチングレートとの関係を示している。ここでは、加熱体110として、長さ500mm、幅6mm、厚み0.1mmの多段に折り曲げたニッケル板材を用いた。なお、図6および図7に示した実験では、N2、NH3およびNF3の流量はそれぞれ1000sccm、120sccmおよび150sccmとし、処理圧力は380Paとした。
【0051】
図6および図7に示すように、加熱体の温度が高いほど、また、加熱体の表面積が大きいほど、高いエッチングレートを得られることが確認された。つまり、加熱体の温度が高いほど反応ガスの分解あるいは励起効率が高められ、また、加熱体の表面積が大きいほど反応ガスとの接触確率が高められるため、エッチングガスの生成効率が向上し、エッチングレートを高めることができる。また、加熱体にニッケルを使用することにより、反応ガス(NF3)との反応による劣化を抑制することができる。これにより、加熱体の耐久性を向上させることができる。
【0052】
次に、本実施形態のドライエッチング方法におけるエッチングレートの圧力依存およびガス流量依存を確認した実験結果を図8〜図11に示す。図8は処理圧力とエッチングレートとの関係を示し、図9はキャリアガス(N2)流量とエッチングレートとの関係を示す。図10は反応ガス(NH3)流量とエッチングレートとの関係を示し、図11はガス(N2+NH3+NF3)のトータル流量とエッチングレートとの関係を示す。ここでは、加熱体に長さ500mm、幅6mm、厚み0.1mmの多段に折り曲げたニッケル板材を用いた。また、加熱体の温度は730℃とした。
【0053】
図8〜図11に示すように、本実施形態のドライエッチング方法において、エッチングレートは、処理圧力およびガス流量の影響をほとんど受けないことがわかる。したがって、反応ガスの使用量を低減しても所定のエッチングレートを維持できるため、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変更が可能である。
【0055】
例えば以上の実施形態では、水素を含む第1の反応ガスとしてNH3ガスを使用したが、これに代えて、水素(H2)、炭化水素等を用いてもよい。同様に、フッ素を含む第2の反応ガスとして、例えばSF6等を用いてもよい。
【0056】
また、以上の実施形態では、加熱体110を収容する生成室Aと、基板Wをエッチング処理する処理室Bとを分離したが、処理室内に加熱体を設置してもよい。この場合、エッチングガスの生成と基板のエッチングを同時に行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
10…ドライエッチング装置
11…第1の真空チャンバ
12…第2の真空チャンバ
15…第3の真空チャンバ
110…加熱体
120…ステージ
A…生成室
B…処理室
C…加熱室
W…基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む第1の反応ガスとフッ素を含む第2の反応ガスとを加熱体に接触させることで、水素ラジカルとフッ素ラジカルとをそれぞれ生成し、
前記水素ラジカルおよび前記フッ素ラジカルと、前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスとを反応させることでエッチングガスを生成し、
前記エッチングガスによって基板上のシリコン酸化物層をエッチングする
ドライエッチング方法。
【請求項2】
請求項1に記載のドライエッチング方法であって、
前記第1の反応ガスはNH3ガスであり、前記第2の反応ガスはNF3ガスであるドライエッチング方法。
【請求項3】
請求項2に記載のドライエッチング方法であって、
前記加熱体は、金属線であるドライエッチング方法。
【請求項4】
請求項1に記載のドライエッチング方法であって、
前記シリコン酸化物層のエッチングは、
前記エッチングガスを前記シリコン酸化物層に接触させ、
前記基板を加熱することで前記シリコン酸化物層を除去するドライエッチング方法。
【請求項5】
通電により加熱されることが可能な加熱体を有し、前記加熱体との接触による分解反応を経てエッチングガスを生成する生成室と、
エッチング対象を支持する支持部を有し、前記生成室で生成された前記エッチングガスが内部に導入される処理室と
を具備するドライエッチング装置。
【請求項6】
請求項5に記載のドライエッチング装置であって、
前記支持部は、前記エッチング対象を加熱するヒータを有するドライエッチング装置。
【請求項7】
請求項5に記載のドライエッチング装置であって、
前記処理室に隣接して配置され、前記エッチング対象を加熱可能な加熱室をさらに具備するドライエッチング装置。
【請求項1】
水素を含む第1の反応ガスとフッ素を含む第2の反応ガスとを加熱体に接触させることで、水素ラジカルとフッ素ラジカルとをそれぞれ生成し、
前記水素ラジカルおよび前記フッ素ラジカルと、前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスとを反応させることでエッチングガスを生成し、
前記エッチングガスによって基板上のシリコン酸化物層をエッチングする
ドライエッチング方法。
【請求項2】
請求項1に記載のドライエッチング方法であって、
前記第1の反応ガスはNH3ガスであり、前記第2の反応ガスはNF3ガスであるドライエッチング方法。
【請求項3】
請求項2に記載のドライエッチング方法であって、
前記加熱体は、金属線であるドライエッチング方法。
【請求項4】
請求項1に記載のドライエッチング方法であって、
前記シリコン酸化物層のエッチングは、
前記エッチングガスを前記シリコン酸化物層に接触させ、
前記基板を加熱することで前記シリコン酸化物層を除去するドライエッチング方法。
【請求項5】
通電により加熱されることが可能な加熱体を有し、前記加熱体との接触による分解反応を経てエッチングガスを生成する生成室と、
エッチング対象を支持する支持部を有し、前記生成室で生成された前記エッチングガスが内部に導入される処理室と
を具備するドライエッチング装置。
【請求項6】
請求項5に記載のドライエッチング装置であって、
前記支持部は、前記エッチング対象を加熱するヒータを有するドライエッチング装置。
【請求項7】
請求項5に記載のドライエッチング装置であって、
前記処理室に隣接して配置され、前記エッチング対象を加熱可能な加熱室をさらに具備するドライエッチング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【公開番号】特開2012−9738(P2012−9738A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146134(P2010−146134)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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