説明

ドラム式洗濯機

【課題】減衰力の可変の要求に対応できて有効であり、可変減衰力サスペンションの故障時にも効果的な減衰力を得ることができる。
【解決手段】本実施形態のドラム式洗濯機は、筐体内に配置され横軸周りに回転可能なドラムを収容する水槽と、この水槽を前記筐体の底部に防振支持する複数のサスペンションとを備え、前記複数のサスペンションは、筒状のシリンダ、該シリンダ内に組み込まれた軸受、前記水槽の振動に応じて相対的に往復動するように前記軸受に挿通されたシャフト、前記シリンダ内に固定され前記シャフトにその往復動に抵抗する減衰力を作用させる摩擦部材を有する固定減衰力サスペンションで構成され、前記固定減衰力サスペンションのうちの少なくとも1つは、オンオフ制御されてオン時に前記シャフトに減衰A力を作用させる減衰力発生手段が更に付加された可変減衰力サスペンションとして構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水槽を防振支持するドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドラム式洗濯機では、内部に回転可能なドラムを備えた水槽は、筐体の底部に複数のサスペンションにより弾性的に支持され、該サスペンションは洗濯物を収容したドラムの回転に伴い生ずる振動を減衰する、いわゆるダンパ機能を発揮するようにしている。このサスペンションとしては、前記水槽の底部に連結されたシリンダと、このシリンダの内部に支持固定された軸受と、この軸受に相対的に直線往復動可能に支持されて前記筐体の底部に固定されたシャフトと、このシャフトの外周に嵌合されてそのシャフトが相対的に往復動することによる当該シャフトとの摩擦力により前記水槽の振幅を減衰させる筒状の摩擦部材とを備える構成が一般的である。
【0003】
ところが、このような構成のサスペンションでは、減衰力は、摩擦部材の摩擦力により得るので固定的(固定減衰力サスペンション)であり、ドラムが低速度で回転される洗い、すすぎ時の小さな振動を減衰させる小さな減衰力を必要とする場合と、ドラムが高速度で回転される脱水時の大きな振動を減衰させる大きな減衰力を必要とする場合とが生ずるドラム式洗濯機には、効果的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−122467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、複数の固定減衰力サスペンションのうちの少なくとも1つを、オン時に減衰力を発生する減衰力発生手段が更に付加された可変減衰力サスペンションとして構成することにより、減衰力の可変の要求に対応できて有効であり、しかも、可変減衰力サスペンションの故障時にも効果的な減衰力を得ることができるドラム式洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態のドラム式洗濯機は、筐体と、この筐体内に配置され横軸周りに回転可能なドラムを収容する水槽と、この水槽を前記筐体の底部に防振支持する複数のサスペンションとを備え、前記複数のサスペンションは、筒状のシリンダ、該シリンダ内に組み込まれた軸受、前記水槽の振動に応じて相対的に往復動するように前記軸受に挿通されたシャフト、前記シリンダ内に固定され前記シャフトにその往復動に抵抗する摩擦力を作用させる摩擦部材を有する固定減衰力サスペンションで構成され、前記固定減衰力サスペンションのうちの少なくとも1つは、オンオフ制御されてオン時に前記シャフトに減衰力を作用させる減衰力発生手段が更に付加された可変減衰力サスペンションとして構成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】一実施形態を示すドラム式洗濯機の内部構造体の正面図
【図2】一部を破断したドラム式洗濯機全体の縦断側面図
【図3】固定減衰力サスペンション単体の拡大縦断面図
【図4】固定減衰力サスペンションの要部の拡大縦断面図
【図5】可変減衰力サスペンション単体の拡大縦断面図
【図6】可変減衰力サスペンションの要部の拡大縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(一実施形態)
以下、一実施形態につき、図面を参照して説明する。
まず、図2に示すドラム式洗濯機(以下、単に洗濯機という)は、乾燥機能付の洗濯機で、その全体構成の概要につき説明する。外殻を形成する箱状の筐体1の前面部(図示右側)には、そのほぼ中央部に洗濯物出入口1aが形成され、該洗濯物出入口1aを開閉する扉2が設けられている。また、筐体1の前面部の上部には、操作パネル3が設けられており、その裏側に洗濯運転制御用の制御装置4が設けられている。
【0009】
筐体1の内部には、水槽5が配設されている。この水槽5は、軸方向を前後とする横軸円筒状をなし、筐体1の底部たる底板1b上に長手方向を上下方向とした複数のサスペンションとしての固定減衰力サスペンション6および可変減衰力サスペンション7(これらの詳細は後述する)によって前上がりの傾斜状態に弾性支持されている。
【0010】
水槽5の背面部には、モータ8が取付けられている。このモータ8は、例えば直流のブラシレスモータからなるもので、アウターロータ形であり、そのロータ8aの中心部に取付けられた図示しない回転軸が、軸受ブラケット9を介して水槽5の内部に挿通され、後述するドラム10の背面部の中央部に連結されている。
【0011】
前記ドラム10は、水槽5内部に配設されて洗濯物を収容するとともに回転可能な洗濯槽として機能し、ドラム10を内包した水槽5と同様に軸方向を前後となす横軸円筒状をなすもので、前記した如くモータ8の回転軸と連結されて水槽5と同軸状の前上がりの傾斜状態に支持されている。その結果、ドラム10はモータ8によりダイレクトに駆動されて横軸周りに回転し、該モータ8はドラム10を回転させるドラム駆動装置として機能する。
【0012】
また、ドラム10の周側部(胴部)には、通水および通風可能な小孔11が全域にわたって多数形成されており、これに対し水槽5はほぼ無孔状をなして貯水可能な構成とされている。これら、ドラム10および水槽5は、ともに前面部に開口部12、13を有しており、そのうちの水槽5の開口部13と前記洗濯物出入口1aとの間に、環状のベローズ14が装着されている。これにより、洗濯物出入口1aは、ベローズ14、水槽5の開口部13およびドラム10の開口部12を介して、ドラム10の内部に連なる形態となっている。なお、貯水可能な水槽5の最低部位には、途中に排水弁15を介して排水管16が接続され、機外に排水可能とされている。
【0013】
ここで、前記した乾燥機能の構成について説明すると、この水槽5の背面側から上方および前方にわたって、乾燥ユニット17が設けられている。この乾燥ユニット17は、送風装置19、加熱装置20および図示しない除湿手段等を備えた循環ダクト18から構成され、乾燥運転時に水槽5内から排出された空気中の水分を除湿し、次いで加熱して、いわゆる乾燥風を生成し水槽5内に戻す(供給する)ことを繰り返す循環を行ない、回転駆動されたドラム10内の洗濯物を乾燥させるようになっている。
【0014】
次に、前記した固定減衰力サスペンション6の具体構成につき、図1、図3および図4を参照して説明する。固定減衰力サスペンション6は、その概略構成として図1に示したように、前記筐体1と水槽5との間に上下方向に連結して設けられている。具体的には、固定減衰力サスペンション6は、図3、図4に示すように、筒状をなすシリンダ21を有する。シリンダ21の一端部21aは、図1に示すように、水槽5の取付板22に図示しない防振材を介してナットで固定されており、水槽5とともに上下方向に振動するようになっている。一方、シリンダ21の他端部21bにおいて、その外周にはシリンダ側ばね受け部23が設けられるとともに、前記他端部21bの内部には、軸受24、25が、互いが軸方向へ離間するように配置固定されている。この軸受24、25は、例えば焼結含油メタル(いわゆる軸受合金)とメタル圧入用金属(いわゆる裏金)とから構成されるものである。軸受24、25の間には、筒状をなすケース26、27が前記両軸受24、25に挟まれるように、且つシリンダ21の内周面に嵌合されるようにそれぞれ配設されている。ケース26、27の内周面には、後述する摩擦部材28と嵌合するための嵌合面29と、同じく後述するシャフト31と協働して潤滑剤たるグリースを保持するための油溜部30がそれぞれ形成されている。
【0015】
筐体1の底板1bが有する取付板39(図1参照)には、前記シリンダ21とともに固定減衰力サスペンション6を構成するシャフト31の一端部31aが、不動状態に且つ前記シリンダ21と軸方向へ一致するように、図示しない防振材を介してナットで固定されている。シャフト31の他端部31bは、図3、図4に示すように、前記軸受24、25を介してシリンダ21内へ挿通され、その先端部付近で且つ前記一対のケース26、27の間に位置する箇所には、前記シャフト31の外周(外周面)32と摺動可能な、前述した摩擦部材28が嵌合されている。この摩擦部材28は、弾性体としての例えばゴム部材からなり、全体としては筒状に構成されている。摩擦部材28において、その軸方向両側の外周部には、傾斜面をなす当接面33が形成されており、この当接面33は、前記ケース26、27に形成された嵌合面29と当接することにより嵌合されるようになっている。
【0016】
摩擦部材28においてシャフト31と摺動する箇所、つまりは内周(内周面)34には摩耗防止用のグリースが塗布されるとともに、前述したケース26、27に形成された油溜部30(シャフト31と協働して区画している。)にもグリースが一定量だけ貯留されている。そして、シリンダ21内の下端部には、軸受25の下方に位置して摩擦部材35が固定されている。この摩擦部材35は、例えばゴム部材により短円筒状に形成され、その内周側のリップ35aがシャフト31の外周面32に圧接して、シャフト31に摩擦力を作用させる機能を有するとともに、シャフト31との隙間を封鎖するシール性能をも発揮するように構成されている。これにより、摩擦部材35には、グリースが塗布された状態になるとともに、内部にグリースを貯留することにもなる。
【0017】
シャフト31の前記一端部31a付近の外周には、図3に示すように、シャフト側ばね受け部36が、前記シリンダ側ばね受け部23と軸方向に対向するように設けられている。そして、このシャフト側ばね受け部36と、前記シリンダ21のシリンダ側ばね受け部23との間で且つシリンダ21とシャフト31との外周には、コイルばね37が伸縮自在に配設されている。そして、シャフト31の先端部には、抜け止め用のワッシャ38が嵌め込まれている。
【0018】
更に、前記した可変減衰力サスペンション7の具体構成につき、図1、図5および図6を参照して説明する。可変減衰力サスペンション7は、その概略構成として図1に示したように、前記筐体1と水槽5との間に上下方向に連結して設けられている。具体的には、可変減衰力サスペンション7は、図5および図6に示すように、筐体1の底板1bが有する取付板40(図1および図2参照)に取付けられた円筒状のシリンダ41と、該シリンダ41内を往復動可能たる上下動可能に挿通され、その一端部たる上端部42aが前記水槽5が有する取付板43(図1および図2参照)に取付けられたシャフト42と、シリンダ41から外部たる上方に突出して延びるシャフト42周りに装着されたコイルばね44とを備えた構成にされている。
【0019】
この可変減衰力サスペンション7が、筐体1内に組み込まれるときには、特には図5の縦断面図に示すように、シリンダ41の下端部41aに該シリンダ41の下部開口端を閉塞するようにシリンダ連結部45が被着されていて、この連結部45が図1および図2に示す底板1bの取付板40にゴムなどの弾性座板46を介してナット47で締結されることにより、該シリンダ41が底板1bの取付板40に取付け固定されている。なお、シリンダ41は、鉄製で、詳細は後述するが該シリンダ41とともにダンパ機構50を構成する磁場発生装置60などを備えている。
【0020】
シャフト42は、鉄製の磁性体で形成されている。そして、上記上端部42aが図1、図2に示す水槽5の取付板43に弾性座板48を介してナット48aで締結されることにより、該シャフト42が水槽5の振動に追従して一体的に上下方向等に応動するように連結された構成になっている。
【0021】
なお、前記コイルばね44は、図5、図6に示すように、下端部がダンパ機構50を構成するシリンダ41の外側上端部に支持され、一方コイルばね44の上端部はシャフト42の上端部42aに装着された円板状のばね受け座49に受け止められ、弾発力が蓄積した状態に装着されている。つまり、シャフト42をシリンダ41から上方たる外部に引き出すように付勢した状態に張設され、当然ながら該シャフト42は所定以上、上方に突出しない位置に保持される構成、つまりシャフト42の抜け止め手段(詳細は後述する)が施されている。
【0022】
ここで、前記ダンパ機構50の具体構成について、同じく図5、図6を参照して述べる。このダンパ機構50は、前記シリンダ41と、該シリンダ41の筒状内部に上下位置に離間して組み込まれた軸受部材51、52と、前記水槽5の振動に応じて往復動(この一実施形態では上下動)し前記軸受部材51、52間に挿通されて一端部たる上端部42aがシリンダ41外に延出された前記シャフト42と、該シャフト42周りに隙間を形成するように前記シリンダ41内に配設された前記磁場発生装置60と、該磁場発生装置60の隙間の両外側端部(上下端部)を封鎖して中空環状の収容部53(図6参照)を形成するように組み込まれた摩擦部材54、55および56と、前記収容部53に充填され前記磁場発生装置60を介して磁界が印加されたとき粘性が変化する磁気粘性流体57(詳細は後述する)とを具備して構成されている。
【0023】
上記構成のうち、シリンダ41内の所定位置に保持される前記シャフト42の抜け止め手段につき図5に基づき具体的に述べると、まず、シャフト42側にあっては、該シャフト43の下端部42bに環状の係止リング58が被着され、一方シリンダ41側には、その上下方向のほぼ中間部に中空筒状をなす前記軸受部材52が組み込まれている。この軸受部材52は、アルミニウム製の非磁性体からなる軸受ケース52aと、この内部に嵌合固定されシャフト42を軸方向でもある上下方向へ往復動可能に摺動支持する環状の軸受52bとから構成され、該軸受52bは例えば非磁性体である銅系の焼結含油軸受から構成されている。この軸受部材52の下面側に、挿通されたシャフト42の下端部42bの前記係止リング58が位置することで、シャフト42の一方向たる上方への移動は係止リング58が軸受部材52の下面に当接することで衝止される。
【0024】
このように、下部側における軸受部材52は、シャフト42の上方への抜け移動を規制する手段としても有用とするとともに、軸受52bを保持し、更にはその上面側に装着された摩擦部材56を保持するのに有効としている。摩擦部材56は、例えばゴム部材により短円筒状に形成され、リップ56aを備えた構成である(図5および図6参照)。そして、摩擦部材56は、グリースが塗布されているとともに内部に貯留され、その内周側のリップ56aがシャフト42の外周面に圧接して、シャフト42に摩擦力を作用させる機能を有するとともに、シャフト42との隙間を封鎖するシール性能をも発揮するように構成されている。
【0025】
上記した下側の軸受部材52および摩擦部材56に対し、シリンダ41の開口端側の離間した位置に、実質的に同一材料でほぼ同一形状の前記軸受部材51および摩擦部材54、55が対向した状態に組み込み固定されている。すなわち、軸受部材51は、軸受ケース51aと軸受51bとから構成されている。また、上部側の摩擦部材54、55は、例えばゴム部材により短円筒状に形成され、リップ54a、55aを備えた構成である(図5および図6参照)。そして、摩擦部材54、55は、グリースが塗布されているとともに内部に貯留され、その内周側のリップ54a、55aがシャフト42の外周面に圧接して、シャフト42に摩擦力を作用させる機能を有するとともに、シャフト42との隙間を封鎖するシール性能をも発揮するように構成されている。すなわち、この軸受部材51および摩擦部材54、55は、この一実施形態では、図1に示すように、可変減衰力サスペンション7として組み込まれた状態では、上部側に位置し、つまり上記軸受部材51および摩擦部材54、55は、下部側の軸受部材52および摩擦部材56とは対向配置された状態にある。
【0026】
ただし、上部側の軸受部材51の軸受ケース51aは、図5に示すように、中央上面に円筒状の台部51cを一体に突設している点で下部側の軸受部材52の軸受ケース52aと異なる。この台部51cは、冠状のキャップ59がシリンダ41の上端部41bに被着された組立完成した状態でも、該キャップ59から上方に突出する高さを有している。なお、キャップ59は、上部側の軸受部材51および摩擦部材54をシリンダ41内の上端部に組み込み、例えば軸受ケース51aをかしめにより嵌合固定した後、シリンダ41の開口側上端部の外側に圧入により嵌合固定されている。
【0027】
そして、このキャップ59上面と突出した台座51cの外周囲に、前記コイルばね44の下端部が下方向に圧接保持され、つまり該コイルばね44は、前記ばね受け座49との間で伸縮可能な圧縮状態に保持される。このようにしてシャフト42は、軸受手段を構成する上下部の軸受部材51、52の各軸受51b、52bに摺動可能に軸支され、および摩擦部材54、55に水密に摺接し、以て、往復動可能に設けられる。
【0028】
ここで、上記した上下部の軸受部材51、52の間に組み込まれた磁場発生装置60の具体構成につき図5、図6を参照して述べる。この磁場発生装置60を構成するところのコイルユニット61、62が、シリンダ41内に軸方向たる上下方向に2段配置される。すなわち、コイルユニット61、62は、具体的には実質的に同一構成の上下部に配置されたボビン61a、62aに、それぞれコイル61b、62bが巻装されて構成され、そのうちの上段側のコイユニット61の上部側に上部のヨーク63および下部側に中間部のヨーク64が配置されている。下段側のコイルユニット62は、中間部のヨーク64を共用し、下部側には下部のヨーク65が配置されている。なお、前記コイル61bとコイル62bとは直列に接続されるとともに、円筒状のヨーク63、64、65の中空部は、シャフト42の外周面との間に狭小の隙間を有し、前記ボビン61a、62aにて形成された隙間と連通して上下方向に延びる円筒状の隙間が形成される。
【0029】
このように構成のコイルユニット61、62は、その上下部および中間部にヨーク63、64、65をそれぞれ配置した状態で、例えば熱可塑性樹脂(ナイロン、PBT、PET、PP等)により樹脂モールド(図中、樹脂モールド部66で示す)して一体化構成とされ、以て、この一実施形態における磁場発生装置60を構成している。従って、この磁場発生装置60が形成する隙間の上下端部を、それぞれ摩擦部材54、55、56により封鎖することで、円筒状の収容部53が形成され、該収容部53内に磁気粘性流体57が充填され封入される。なお、直列接続されたコイル61b、62bから引出された2本のリード線67は、上部のヨーク63側の部位から外部に引き出され、図示しない駆動回路を介して制御装置4(図2参照)に接続され、磁場発生装置60のコイル61b、62bへのオンオフによる通断電制御を行ない、振動減衰のダンパ制御を可能としている。
【0030】
ここで、磁気粘性流体57につき述べると、これは作用する磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化する、例えばポリアルファオレフィンオイルを主体とするベースオイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものからなり、磁界が印加されると強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇する特性を有するものである。
【0031】
上記構成において、上下部のコイル61b、62bへの通電に伴い各コイル61b、62bの周りに磁界が流れ破線矢印で示すように磁気回路D1、D2を生ずる。例えば、上段側のコイル61b側に生ずる磁気回路D1は、シャフト42→収容部53(隙間)→上部のヨーク63→シリンダ41→中間部のヨーク64→収容部53(隙間)→シャフト42に至る経路にて形成される。
【0032】
一方、下段側におけるコイル62b側の磁気回路D2は、シャフト42→収容部53(隙間)→下部のヨーク65→シリンダ41→中間部のヨーク64→収容部53(隙間)→シャフト42に至る経路にて形成される。以て、脱水運転時など水槽5の振動に対してシャフト42と磁気粘性流体57の粘性による摩擦作用により、振動減衰作用を発揮するダンパ効果が期待できる。従って、磁場発生装置60は、磁気粘性流体57とともにオンオフ制御されてオン時にシャフト42に摩擦力を作用させることによる減衰力を発生する減衰力発生手段を構成する。
【0033】
ところで、ドラム10は、図1に示すように、洗濯運転の脱水時には一方向たる矢印A方向に高速度で回転される。これにより、水槽5の底部は、ドラム10が下降回転する側(内部に収容された洗濯物が下降する側)と、ドラム10が上昇回転する側(収容された洗濯物が上昇する側)とに区分される。そして、この一実施形態においては、図1に示すように、可変減衰力サスペンション7は、水槽5の底部におけるドラム10が下降回転する側(図1の右側)と底板1bの右側部位との間に配設され、固定減衰力サスペンション6は、水槽5の底部におけるドラム10が上昇回転する側(図1の左側))と底板1bの左側部位との間に配設されている。
【0034】
次に、上記構成の洗濯機の作用について述べる。
この一実施形態の横軸周りのドラム10を備えた洗濯機では、制御装置4の制御により、洗い、すすぎ、脱水および乾燥の各運転(行程)において、ドラム10はそれぞれ適正な回転速度にて駆動制御されることで、洗濯運転が自動的に実行される。
【0035】
例えば、洗い、すすぎ、乾燥の行程においては、ドラム10はモータ8により低速度(例えば50〜60rpm)で交互に正逆回転駆動され、ドラム10の回転伴い水槽5が上下方向を主体に振動する。この回転ドラム10の低速回転による水槽5の上下振動は比較的小さく、この振動に応動して、固定減衰力サスペンション6では、水槽5に連結されたシリンダ21がコイルばね37を伸縮させながら上下動し、可変減衰力サスペンション7では、水槽5に連結されたシャフト41がコイルばね44を伸縮させながら上下動する。
【0036】
このとき、固定減衰力サスペンション6においては、コイルばね37による振動低減作用に加え、摩擦部材28および35がシャフト31に対して摩擦抵抗(摩擦力)で減衰力を常時作用させ、水槽5の振幅を減衰させる。また、可変減衰力サスペンション7においては、コイルばね44による振動低減作用に加え、摩擦部材54、55および56がシャフト42に対して摩擦抵抗(摩擦力)で減衰力を常時作用させるとともに、シャフト42と3個のヨーク63、64、65および2個のボビン61b、62bとの間に充填された磁気粘性流体57が、その粘性による摩擦抵抗(ダンパ力)で減衰力を作用させ、水槽5の振幅を減衰させる。このとき、可変減衰力サスペンション7のコイル61b、62bは、断電(オフ)された状態になっている。
【0037】
この場合、この一実施形態においては、固定減衰力サスペンション6における摩擦部材28および35のシャフト31に対しての摩擦抵抗(摩擦力)よる減衰力は、可変減衰力サスペンション7における摩擦部材54、55および56のシャフト42に対しての摩擦抵抗(摩擦力)による減衰力とほぼ同一の値になるように設定されている。なお、コイル61b、62bの断電時においては、磁気粘性流体57の粘性は比較的低く、その粘性による摩擦抵抗(ダンパ力)での減衰力は、摩擦部材54、55、56による減衰力よりも極めて小である。従って、洗い、すすぎ、乾燥の行程における固定減衰力サスペンション6および可変減衰力サスペンション6の減衰力は、ほぼ等しくなる。
【0038】
さて、脱水の行程においては、ドラム10はモータ8により高速度(例えば1300rpm)で一方向(図1で矢印A方向)に回転駆動をされる。ドラム10が高速度で回転される脱水の行程時に水槽5に発生する振動は、ドラム10が低速度で回転される洗い、すすぎ、乾燥の行程時に水槽5に発生する振動よりも大きく、特に、固定減衰力サスペンション6が配置されたドラム10の上昇回転側の振動よりも可変減衰力サスペンション7が配置されたドラム10の下降回転側の振動の方が大きい。
【0039】
この脱水の行程では、例えば運転開始当初からコイルユニット61および62のコイル61bおよび62bに通電(オン)されるようになっている。コイル61bおよび62bが通電されると、特にヨーク63、64、65を介して磁気粘性流体57に磁界が与えられ、磁気粘性流体57の粘度が高まる。これにより、磁気粘性流体57の摩擦抵抗(摩擦力)が大きくなるように増加する。かくして、シャフト42に対する摩擦抵抗が、前述の場合(コイル61bおよび62bの断電時の場合)よりさらに増加することにより、減衰力が大きくなる。従って、水槽5の振動を充分に減衰できる。
【0040】
このような一実施形態によれば、固定減衰力サスペンション6は、摩擦部材28および35の摩擦力により減衰力を得、可変減衰力サスペンション7は、摩擦部材54、55、56の摩擦力により減衰力を得、しかも、その減衰力はほぼ同一の値に設定されているので、固定減衰力サスペンション6および可変減衰力サスペンション7は、同一の基本構成を有することになり、従って、可変減衰力サスペンション7は、固定減衰力サスペンション6に磁場発生装置60および磁気粘性流体57を備えた減衰力発生手段を付加した構成になっている。
【0041】
これにより、固定減衰力サスペンション6および可変減衰力サスペンション7は、全体として減衰力が可変な構成になり、洗い、すすぎ、乾燥の行程では小さな減衰力で済み、脱水の行程では大きな減衰力を必要とする洗濯機に対応できて有効である。特に、水槽5の底部における脱水の行程時にドラム10の下降回転側に可変減衰力サスペンション7が配置され、ドラム10の上昇回転側に固定減衰力サスペンション6が配置されているので、脱水の行程時に左右大きさの異なる振動を発生する水槽5(ドラム10)を備えた洗濯機に効果的である。
【0042】
更に、固定減衰力サスペンション6および可変減衰力サスペンション7は、摩擦部材の摩擦力により減衰力を発生させるという同一の基本構成を有するので、例えば、磁場発装置60のコイル61b、62bが断線したり、或いは、磁気粘性流体57が漏出したりなどの故障により、磁気粘性流体57が大きな減衰力を発生しなくなった場合でも、可変減衰力サスペンション7は固定減衰力サスペンション6とほぼ等しい減衰力を発生することができ、水槽5の振動を減衰させるのに有効である。
【0043】
(他の実施形態)
上記した一実施形態では、固定減衰力サスペンション6における摩擦部材28および35のシャフト31に対しての摩擦抵抗(摩擦力)よる減衰力が、可変減衰力サスペンション7における摩擦部材54、55および56のシャフト42に対しての摩擦抵抗(摩擦力)による減衰力とほぼ同一の値になるように設定するようにしたが、代わりに、固定減衰力サスペンション6の減衰力が可変減衰力サスペンション7におけるコイル61b、62bの断電(オフ)の減衰力とほぼ同一の値になるように設定してもよい。
【0044】
上記した一実施形態では、水槽5の左、右の両端部に1つの固定減衰力サスペンション6と1つの可変減衰力サスペンション7を配置するようにしたが、例えば、水槽5の中央部にも同様の固定減衰力サスペンション或いは可変減衰力サスペンションを配置するようにしてもよく、要は、複数のサスペンションのうちの少なくとも1つは可変減衰力サスペンションに、残りを固定減衰力サスペンションにすればよい。
【0045】
また、固定減衰力サスペンション6および可変減衰力サスペンション7の上下の配置を逆にしてもよい。
更には、磁場発生装置60では、2つコイル61b、62bを設けるようにしたが、磁場を発生するコイルは1段構成或いは3段構成以上とすることも可能である。
【0046】
可変減衰力サスペンション7に、減衰力発生手段として磁場発生装置60および磁気粘性流体57を設けるようにしたが、代わりに、オンオフ制御されてオン時にシャフト41に上下往復動を拘束する磁気吸引力(直流制動力)を減衰力として作用させる電磁石装置を設けるようにしてもよい。
【0047】
本実施形態によれば、筐体内に配置され横軸周りに回転可能なドラムを収容する水槽と、この水槽を前記筐体の底部に防振支持する複数のサスペンションとを備えたドラム式洗濯機において、前記複数のサスペンションは、筒状のシリンダ、該シリンダ内に組み込まれた軸受、前記水槽の振動に応じて相対的に往復動するように前記軸受に挿通されたシャフト、前記シリンダ内に固定され前記シャフトにその往復動に抵抗する摩擦力を作用させる摩擦部材を有する固定減衰力サスペンションで構成され、前記固定減衰力サスペンションのうちの少なくとも1つは、オンオフ制御されてオン時に前記シャフトに減衰力を作用させる減衰力発生手段が更に付加された可変減衰力サスペンションとして構成されていることを特徴とする。この構成により、減衰力の可変の要求に対応できて有効であり、しかも、可変減衰力サスペンションの故障時にも効果的な減衰力を得ることができる。
【0048】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
図面中、1は筐体、1bは底板(底部)、5は水槽、6は固定減衰力サスペンション(サスペンション)、7は可変減衰力サスペンション(サスペンション)、10はドラム、21はシリンダ、24および25は軸受、28は摩擦部材、31はシャフト、35は摩擦部材、37はコイルばね、41はシリンダ、42はシャフト、44はコイルばね、51および52は軸受部材、51bおよび52bは軸受、54ないし56は摩擦部材、57は磁気粘性流体(減衰力発生手段)、60は磁場発生装置(減衰力発生手段)、61および62はコイルユニット、61bおよび62bはコイル、63ないし65はヨークを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
この筐体内に配置され横軸周りに回転可能なドラムを収容する水槽と、
この水槽を前記筐体の底部に防振支持する複数のサスペンションとを備えたドラム式洗濯機において、
前記複数のサスペンションは、筒状のシリンダ、該シリンダ内に組み込まれた軸受、前記水槽の振動に応じて相対的に往復動するように前記軸受に挿通されたシャフト、前記シリンダ内に固定され前記シャフトにその往復動に抵抗する摩擦力を作用させる摩擦部材を有する固定減衰力サスペンションで構成され、
前記固定減衰力サスペンションのうちの少なくとも1つは、オンオフ制御されてオン時に前記シャフトに減衰力を作用させる減衰力発生手段が更に付加された可変減衰力サスペンションとして構成されていることを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
複数のサスペンションは、1つの固定減衰力サスペンションと1つの可変減衰力サスペンションとからなり、
前記可変減衰力サスペンションは、脱水時に一方向に回転されるドラムの下降回転側に配置され、固定減衰力サスペンションは、該ドラムの上昇回転側に配置されていることを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
固定減衰力サスペンションおよび可変減衰力サスペンションの摩擦部材は、ゴム部材にグリースを塗布して構成されていることを特徴とする請求項1または2記載のドラム式洗濯機。
【請求項4】
可変減衰力サスペンションの減衰力発生手段は、オンオフにより通断電制御され通電により磁気を発生するコイルと、このコイルの磁気の作用によりシャフトの減衰力を増加する磁気粘性流体とを備えて構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のドラム式洗濯機。
【請求項5】
固定減衰力サスペンションの摩擦部材の減衰力および可変減衰力サスペンションの摩擦部材の減衰力は、ほぼ同一の値に設定されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載のドラム式洗濯機。
【請求項6】
固定減衰力サスペンションの減衰力は、可変減衰力サスペンションにおける減衰力発生手段のオフ時の減衰力とほぼ同一の値に設定されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のドラム式洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−111261(P2013−111261A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260195(P2011−260195)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】