説明

ドーナツ状基板の鏡面加工装置及びその方法

【課題】ドーナツ状基板の内周糸面と外周糸面の少なくともいずれか一方を凹凸無く均一に鏡面加工することができるドーナツ状基板の鏡面加工装置及びその方法を提供すること。
【解決手段】ドーナツ状基板1と加熱ヘッド15、25との間に相対的回転運動を与えるとともに、円孔の内周糸面1aとドーナツ状基板1の外周糸面1bの少なくとも何れか一方に、加熱ヘッド15、25を介して熱を与え、円孔の内周糸面1aとドーナツ状基板1の外周糸面1bの少なくとも何れか一方に溶融層を形成し鏡面加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中央部に円孔を有するドーナツ状基板が少なくとも構成されており、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくともいずれか一方を鏡面加工するドーナツ状基板の鏡面加工装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記憶装置の一つであるハードディスクドライブは、パソコンに加え、HDD&DVDレコーダやデジタルオーディオプレーヤへの搭載など使用機器が広がっており、今後も小型化が進み、更なる市場拡大が見込まれている。
【0003】
ハードディスクは、中央部に円孔を有する薄いドーナツ状の円板(以下、ドーナツ状基板と呼ぶ)表面に磁性体を塗布し、この磁性体にデータを記憶させるものである。このドーナツ状基板の材料は、従来は主にアルミニウムであるが、剛性、耐久性、記憶容量等の性能を向上させるため、近年、化学強化ガラスや結晶性ガラスからなるドーナツ状基板が用いられている。
【0004】
特に、最近大量に生産される携帯音楽プレーヤーやノート型パソコンなどに搭載される小型ハードディスクドライブは、アルミニウム製では回転時のぶれが激しく誤作動を起こしやすいため、プラチナなどの磁性体で覆い、安定性が高いガラス基板が多用されている。
【0005】
上述したドーナツ状基板は、ハードディスクのアクセスタイムを短くするため、数万RPMの高速回転で使用される。そのため、ドーナツ状基板の表裏両面を高精度に加工し高い動バランスを実現する必要がある。また、ドーナツ状基板のエッジ部(内周糸面及び外周糸面)も、表裏両面と同程度の精度と高品質の鏡面に仕上げる必要がある。
【0006】
ドーナツ状基板の内周糸面と外周糸面の少なくともいずれか一方を鏡面加工する鏡面加工装置の一つとして、酸素水素炎等のバーナー火炎を熱源として用いて、内周糸面若しくは外周糸面をいわゆるファイヤーポリッシュする装置が実施されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−100025号公報(第3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1にあっては、酸素水素炎等のバーナー火炎を用いており、このようなバーナー火炎を熱源として用いて加熱する場合、内周糸面若しくは外周糸面の周方向に沿って安定的に当接若しくは近接することが困難であるため、熱の伝達が分散して不均一となり、鏡面加工の仕上がり品質に難があった。
【0009】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、ドーナツ状基板の内周糸面と外周糸面の少なくともいずれか一方を凹凸無く均一に鏡面加工することができるドーナツ状基板の鏡面加工装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置は、中央部に円孔を有するドーナツ状基板の該円孔の内周糸面と、前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に、近接若しくは当接して配設されている加熱ヘッドを有しており、
前記ドーナツ状基板と前記加熱ヘッドとの間に相対的回転運動を与えるとともに、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に、前記加熱ヘッドを介して熱を与え、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に溶融層を形成し鏡面加工することを特徴としている。
この特徴によれば、加熱ヘッドを介して与えられた熱が、ドーナツ状基板と加熱ヘッドとの間の相対的回転運動により分散し、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に均一に伝達されるため、円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に凹凸無く溶融層を形成し均一に鏡面加工することができる。
【0011】
本発明の請求項2に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置は、請求項1に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置であって、前記円孔の中心軸が重力方向に対して略直交する方向を向くように、前記ドーナツ状基板が配設されていることを特徴としている。
この特徴によれば、加熱ヘッドを介して与えられた熱が、ドーナツ状基板の幅方向に均一に伝達されるため、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方の、円孔の中心軸を含む断面視形状がシンメトリー形状となり品質が安定する。
【0012】
本発明の請求項3に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置は、請求項2に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置であって、前記ドーナツ状基板が、前記円孔の中心軸周りに回転運動していることを特徴としている。
この特徴によれば、加熱ヘッドを介して与えられた熱が、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方の表面のみに伝達され、効率的な鏡面加工が可能となる。
【0013】
本発明の請求項4に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置は、請求項1ないし3のいずれかに記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置であって、前記加熱ヘッドにおける加熱領域として構成されているヘッド面が、断面視凹状面に形成されており、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方が前記凹状面に形成されている前記ヘッド面に没入するように、近接若しくは当接して配設されていることを特徴としている。
この特徴によれば、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方の糸面全体が被覆されるように加熱されて鏡面加工できる。
【0014】
本発明の請求項5に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置は、請求項4に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置であって、前記断面視凹状面に形成されている前記加熱ヘッドのヘッド面が、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に、当接して配設されていることを特徴としている。
この特徴によれば、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方が、凹状面に形成されているヘッド面と当接して加熱されるため、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方を、予め所望の形状に形成した凹状面に倣った形状に形成できる。
【0015】
本発明の請求項6に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置は、請求項5に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置であって、前記加熱ヘッドが、前記断面視凹状面に形成されているヘッド面を有し高周波振動する振動体から構成されており、前記加熱ヘッドのヘッド面と前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方との前記振動体の高周波振動による摺接により、熱が発せられていることを特徴としている。
この特徴によれば、振動体の高周波振動により、ヘッド面の断面視凹状面に形成されている形状が、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に効果的に転写できる。
【0016】
本発明の請求項7に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置は、請求項6に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置であって、前記加熱ヘッドの振動体が、前記ドーナツ状基板の周方向に沿って高周波振動することを特徴としている。
この特徴によれば、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方と、断面視凹状面に形成されているヘッド面との当接状態が維持されたまま加熱できる。
【0017】
本発明の請求項8に記載のドーナツ状基板の鏡面加工方法は、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方を研磨加工して、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に微細な凹凸条を形成した後に、前記加熱ヘッドを介して熱を与え、前記凹凸条の凸部を溶融して前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に溶融層を形成し鏡面加工することを特徴としている。
この特徴によれば、円孔の内周糸面とドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方を研磨加工して、加熱ヘッドを介して熱を与え仕上げとして鏡面加工することで、研磨加工により形成された凹凸条の凸部を効率的に溶融して溶融層を形成し鏡面加工することができるため、鏡面加工の加工時間を短縮でき、過熱によるドーナツ状基板の損傷を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例を図面に基づいて説明すると、先ず図1は、内面砥石及び外面砥石がドーナツ状基板を研磨加工する状況を示す断面図である。図2は、加熱ヘッドがドーナツ状基板を鏡面加工する状況を示す断面図である。図3は、図2の点線囲い部の拡大斜視図である。図4(a)は、研磨工程後の外周糸面の状況を示す拡大断面図であり、(b)は、鏡面加工後の外周糸面の状況を示す拡大断面図である。図5は、本発明の第1変形例における加熱ヘッドを示す斜視図である。図6は、本発明の第2変形例における加熱ヘッドを示す斜視図である。図7(a)は、本発明の第3変形例における外周糸面の加熱ヘッドを示す斜視図であり、(b)は、内周糸面の加熱ヘッドを示す斜視図である。
【0020】
図1及び図2に示されるように、本実施例のドーナツ状基板鏡面加工装置は、略水平方向に形成されている第1回転軸Cを中心として中央部に円孔を有するドーナツ状基板1を回転駆動する基板駆動装置6と、内周糸面1aに近接して配設されている加熱ヘッド15と、外周糸面1bに近接して配設されている加熱ヘッド25とから構成される。また、図示しない砥石駆動装置により第2回転軸Dを中心として回転する内面砥石10と、同様に第3回転軸Eを中心として回転する外面砥石20とが設けられ、本実施例における第1回転軸Cと第2回転軸Dと第3回転軸Eとは、夫々互いに平行に配設されている。
【0021】
基板駆動装置6は、本発明の固定手段を構成する内空部7aを有する環状に形成されドーナツ状基板1を吸着させる真空吸着ヘッド7と、真空吸着ヘッド7と一体的に接続される回転台4とが、モータ軸Mを中心として回転する駆動モータ3により回転駆動される。また真空吸着ヘッド7及び回転台4は、該回転駆動とは独立して固定的に配設されるベース台2と接続されている。
【0022】
ドーナツ状基板1の固定手段の構成について説明すると、ドーナツ状基板1を載置したヘッド面7bにおいて負圧を発生させるための図示しない負圧発生装置と、ヘッド面7bにおけるエアを排気する排気孔8とを有し、この構成により、ドーナツ状基板1をヘッド面7bに載置して、負圧発生装置によりヘッド面7b上のエアを排気孔8を介して外部に排出することで、ドーナツ状基板1を真空吸着ヘッド7に吸着し固定することができ、精度よく回転駆動することができるようになっている。
【0023】
尚、ドーナツ状基板1の固定手段は、ドーナツ状基板1を所定の位置に固定するものであれば、必ずしも本実施例に限られるものではなく、例えばいわゆるワックス固定によるものでも構わない。
【0024】
また図2に示されるように、加熱ヘッド15及び加熱ヘッド25は、ドーナツ状基板1の内周糸面1a及び外周糸面1bに近接して配設されて鏡面加工する鏡面加工位置と、ドーナツ状基板1から内面砥石10及び外面砥石20を離脱させてドーナツ状基板1の交換を可能にする図示しない非加工位置との間を移動可能に構成されている。
【0025】
更に、砥石駆動装置は、後述のように内面砥石10を第2回転軸Dの軸方向に移動可能に構成されており、同様に外面砥石20を第3回転軸Eの軸方向に移動可能に構成されている。
【0026】
次に、ドーナツ状基板1の鏡面加工に関する工程について説明する。
【0027】
先ず、図1に示されるように、ドーナツ状基板1を基板駆動装置6により第1回転軸C周りに回転させながら、内周糸面1a及び外周糸面1bを夫々内面砥石10及び外面砥石20により、研磨加工する。
【0028】
この研磨加工は、内面砥石10若しくは外面砥石20の近傍に、図示しない研磨液供給ノズルを配設し、該ノズルから研磨箇所に向けて研磨液を供給することで研磨加工を更に円滑に行うようにしてもよい。
【0029】
図4(a)に示されるように、この研磨加工した後の外周糸面1bには、ドーナツ状基板1の周方向に沿って微細な凹部1dと凸部1cとからなる凹凸条が形成されている。
【0030】
次に、図2に示されるように、内面砥石10及び外面砥石20を図示しない移動装置により非研磨加工位置に移動した後に、加熱ヘッド15、25をドーナツ状基板1の内周糸面1a及び外周糸面1bに当接するように固定的に配設する。
【0031】
ここで図3に示されるように、外周糸面1bに近接して配設される加熱ヘッド25のヘッド面26の形状について説明すると、ヘッド面26は、後述する振動体27の上面に形成されているものであって、予めドーナツ状基板1の表裏面に対して略直交する直交面26aと、この直交面26aの両側部において直交面26aに対し所定角度のテーパ角度傾斜するテーパ面26b、26bと、からなる断面視凹状面形状に形成されている。
【0032】
上述した直交面26aとテーパ面26b、26bとからなる断面視凹状面形状のヘッド面26は、外周糸面1bを鏡面加工し、面取りした後の所望の鏡面加工面と略同一に形成されており、外周糸面1bが、断面視凹状面形状のヘッド面26に没入するように、当接して配設されている。このようにすることで、外周糸面1bの糸面全体が被覆されるように加熱されて鏡面加工できる。
【0033】
このように外周糸面1bが、断面視凹状面形状に形成されている加熱ヘッド25のヘッド面26と当接して加熱されるため、外周糸面1bを、予め所望の形状に形成した凹状面に倣った形状に形成できる。
【0034】
また、特に図示しないが、内周糸面1aに近接して配設される加熱ヘッド15のヘッド面も加熱ヘッド25のヘッド面26と同様の構成を有しており、加熱ヘッド15の該ヘッド面を内周糸面1aに一度当接させるのみで、鏡面加工面の面取り加工が可能となる。
【0035】
尚、加熱ヘッドのヘッド面の形状は、必ずしも上述した直交面とテーパ面とからなる形状に限定されるものではなく、加熱ヘッドのヘッド面の形状は、例えば上述した直交面のみからなる形状であってもよい。
【0036】
本実施例の加熱ヘッド15(及び加熱ヘッド25)の加熱原理について説明すると、加熱ヘッド15(及び加熱ヘッド25)は、超音波振動する振動体から構成されており、この振動体の超音波振動による加熱ヘッド15(及び加熱ヘッド25)と内周糸面1a(及び外周糸面1b)との摺接により発生する摩擦熱により、内周糸面1a(及び外周糸面1b)を鏡面加工するものである。
【0037】
ここで、上述した超音波は、現在工業分野で広範囲に渡って使用されており、一般に言われている意味とは別に、「音波とは、弾性によって発生する波動であって、超音波とは人間の耳で聞くことを目的としない音波のことである」と定義されている。
【0038】
即ち、超音波とは人間には感じることのできない高周波数領域であり、このような高周波を用いて加工を行えば、非常に静かで且つ効率的な加工が可能であることは周知の通りである。この超音波を用いた加工の一つとして、後述するように内周糸面1a若しくは外周糸面1bの鏡面加工が挙げられる。
【0039】
超音波による鏡面加工の原理について説明すると、電気エネルギを高周波数の機械的振動エネルギに変換し、また同時に加熱ヘッド15、25と対象物である内周糸面1a若しくは外周糸面1bとを摺接させることで互いの当接面に摩擦熱を発生させ、内周糸面1a若しくは外周糸面1bにおける当接面を鏡面加工するものである。
【0040】
更に詳細に説明すると、まず50/60Hzの電気的信号を発振器(ジェネレータ)により上述した超音波に相当する高周波領域(例えば20kHz程度)の電気的信号に増幅する。次に、該発振器で増幅された高周波数領域の電気的信号は、振動子(コンバータ)へ伝達され、機械的振動エネルギに変換される。
【0041】
このように変換された機械的振動エネルギによって高周波に振動する振動体を構成する加熱ヘッド15、25と内周糸面1a若しくは外周糸面1bとの摺接により、摩擦熱が発生し、内周糸面1a若しくは外周糸面1bの鏡面加工が可能となる。
【0042】
このようにすることで、振動体27の高周波振動により、ヘッド面26の断面視凹状面に形成されている形状が、内周糸面1a若しくは外周糸面1bに効果的に転写できる。
【0043】
更に、加熱ヘッド25の振動体27が、ドーナツ状基板1の周方向に高周波振動しており、このようにすることで、内周糸面1a若しくは外周糸面1bと、断面視凹状面に形成されているヘッド面との当接状態が維持されたまま加熱できる。
【0044】
内周糸面1a若しくは外周糸面1bの鏡面加工の仕上がり品質を決定する要素には、主として加熱する温度、熱の均一性、加熱時間が挙げられる。本実施例においては、以下に示すように加熱する温度、熱の均一性、加熱時間を夫々管理できることで、内周糸面1a若しくは外周糸面1bの鏡面加工の仕上がり品質を向上できる。
【0045】
高周波に振動する振動体からなる加熱ヘッド15、25と内周糸面1a若しくは外周糸面1bとの摺接により発生する摩擦熱で鏡面加工することにより、上述した熱の温度は、振動体の振動数を制御することで温度管理が可能となる。
【0046】
また、上述のように、ドーナツ状基板1が、回転手段により回転軸C周りに周方向に回転し、ドーナツ状基板1と加熱ヘッド15、25とが相対的に回転運動するとともに、加熱ヘッド15、25を介して熱を与え、内周糸面1a及び外周糸面1bに溶融層1eを形成し鏡面加工しており、このようにすることで、加熱ヘッド15、25を介して与えられた熱が、ドーナツ状基板1と加熱ヘッド15、25との相対的回転運動により分散し、ドーナツ状基板1の内周糸面1a及び外周糸面1bに均一に伝達されるため、内周糸面1a及び外周糸面1bに凹凸無く溶融層1eを形成し均一に鏡面加工することができる。
【0047】
特に、図4(a)に示されるように、研磨加工後に外周糸面に形成されている凹凸条の凸部1dが、鏡面加工において加熱ヘッド25を介した熱を与えられることで凹部1c側に溶融して均され、図4(b)に示されるように、溶融層1eを形成し均一な鏡面加工が可能となる。
【0048】
更に、ドーナツ状基板1が、上述した真空吸着ヘッド7及び図示しない負圧発生装置により円孔の中心軸である回転軸Cが重力方向に対して略直交する方向を向くように配設され、加熱ヘッド15、25が、内周糸面1a及び外周糸面1bの一部に当接して配設されており、このようにすることで、加熱ヘッド15、25を介して与えられた熱が、ドーナツ状基板1の幅方向に均一に伝達されるため、内周糸面1a及び外周糸面1bの回転軸Cを含む断面視形状(図4(b)参照)が、ドーナツ状基板1の中心線Fを対称線とするシンメトリー形状となり品質が安定する。
【0049】
尚、図4(a)及び(b)に示されるように、上述した研磨加工及び鏡面加工により、外周糸面1bが、ドーナツ状基板1の表裏面と略直交するガードル部1b’と、C面取り部1b’’とからなる形状に形成されており、内周糸面1aについても、特に図示しないが、同様にガードル部と、C面取り部とからなる形状に形成されているが、本発明における外周糸面若しくは内周糸面の形状は、必ずしも上述した形状に限られず、例えば、外周糸面若しくは内周糸面の形状は、ドーナツ状基板1の表裏面と略直交するガードル部のみからなる形状であってもよいし、ガードル部とC面取り部とが、曲線で連続する断面視U字形状であってもよい。
【0050】
また、上述のように、ドーナツ状基板1が、円孔の中心軸である回転軸C周りに回転運動しており、このようにすることで、加熱ヘッド15、25を介して与えられた熱が、内周糸面1a及び外周糸面1bの表面のみに伝達され、効率的な鏡面加工が可能となる。
【0051】
また、上述した回転手段によるドーナツ状基板1の回転軸回りの回転速度を制御して、固定的に配設した加熱ヘッド15、25のヘッド面に近接した内周糸面1a及び外周糸面1bを、ヘッド面に対して通過させる速度を調整することで、内周糸面1a及び外周糸面1bの加熱時間を管理することができる。
【0052】
上述したように、円孔の内周糸面1a若しくは外周糸面1bを研磨加工して、この研磨加工の後に、加熱ヘッド15、25を介して熱を与え仕上げとして鏡面加工することで、研磨加工により形成された凹凸条の凸部1dを効率的に溶融して、溶融層1eを形成し鏡面加工することができるため、鏡面加工の加工時間を短縮でき、過熱によるドーナツ状基板1の損傷を防止できる。
【0053】
尚、加熱ヘッド15、25による加熱温度を約800℃程度で内周糸面1a及び外周糸面1bを加熱することで、鏡面加工の仕上がり品質の向上が認められるが、諸条件によっては内周糸面1a若しくは外周糸面1bの表面に気泡が発生する場合があり、このような場合には、加熱温度を800℃以上とし、併せてドーナツ状基板1の回転速度を上げることにより、内周糸面1a若しくは外周糸面1bが高速で加熱ヘッド15、25を通過することで、気泡の発生を抑止することが可能となる。
【0054】
特に、ドーナツ状基板1の回転速度を上げることにより、内周糸面1a及び外周糸面1b表面の加熱された温度が、分散して均一化されるため、鏡面加工の仕上がり品質が向上することになる。
【0055】
上述したように、加熱ヘッド15、25の加熱温度は、振動体の振動速度により制御可能であり、また内周糸面1a及び外周糸面1bの加熱速度は、ドーナツ状基板1の回転軸回りの回転速度により制御可能である。
【0056】
一方、例えばバーナー炎等の火炎による加熱の場合、ドーナツ状基板1の回転速度により、ドーナツ状基板1の回転する周方向に火炎が揺らいでしまい、内周糸面1a若しくは外周糸面1bを安定的に加熱できない場合があり、上述した振動体からなる加熱ヘッド15、25により内周糸面1a若しくは外周糸面1bを加熱する方が、上記気泡の発生を防止する加熱条件を設定し易いといえる。
【0057】
更に、上述した鏡面加工における内周糸面1a若しくは外周糸面1bの表面に気泡が発生することを防止するために、この鏡面加工装置を真空室若しくは減圧室に配置して該真空室若しくは減圧室内において鏡面加工を実施することが考えられる。
【0058】
このようにすることで、鏡面加工における加熱により内周糸面1a若しくは外周糸面1bの表面に発生する気泡の原因となる微少の空気が、内周糸面1a若しくは外周糸面1bの表面に残置せずに真空室若しくは減圧室内における気圧の低いドーナツ状基板1外部に排出されるため、内周糸面1a若しくは外周糸面1bの表面に気泡が発生することを防止して、鏡面加工の仕上がり品質が更に向上する。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0060】
例えば、上記実施例では、加熱ヘッド15、25が超音波振動する振動体から構成されており、加熱ヘッド15、25と内周糸面1a若しくは外周糸面1bとの摺接により摩擦熱が発せられているが、所定の熱が発せられるものであれば、加熱の方法は本実施例に限られず、例えば、加熱ヘッドのヘッド面からバーナー炎等の火炎により熱が発せられるものであってもよいし、若しくは本発明の第1変形例として図5に示されるように、加熱ヘッド28のヘッド面29に電熱線30が配設されており、この電熱線30に通電して熱が発せられるものであってもよい。また加熱ヘッドは、上述した加熱の方法に応じて、内周糸面1a若しくは外周糸面1bと近接して配設されるものでもよいし、当接して配設されるものであってもよい。
【0061】
尚、加熱ヘッド28のヘッド面29の形状は、上述した加熱ヘッド25におけるヘッド面26の形状と同様に、予めドーナツ状基板1の表裏面に対して略直交する直交面26aと、この直交面26aの両側部において直交面26aに対し所定角度のテーパ角度傾斜するテーパ面26b、26bと、からなる断面視凹状面形状に形成されている。
【0062】
また、上記した加熱の方法において、本発明の第2変形例として図6に示されるように、金属等の導電体38の周方向に沿って略一周巻回されたコイル部37が配設されている加熱ヘッド35が、内周糸面1a若しくは外周糸面1bに近接若しくは当接して配設されており、このコイル部37に図示しない高周波電源によって通電させることで導電体38の表面に高密度の渦電流を発生させ、この渦電流によるジュール熱で導電体38のヘッド面36を加熱する、いわゆる周知の高周波誘導加熱の原理により、ヘッド面36から熱が発せられるものであってもよい。
【0063】
尚、導電体38のヘッド面36の形状は、上述した加熱ヘッド25におけるヘッド面26の形状と同様に、予めドーナツ状基板1の表裏面に対して略直交する直交面26aと、この直交面26aの両側部において直交面26aに対し所定角度のテーパ角度傾斜するテーパ面26b、26bと、からなる断面視凹状面形状に形成されている。
【0064】
更に、上記した高周波誘導加熱の原理による加熱の方法において、本発明の第3変形例として図7(a)に示されるように、ドーナツ状基板1の外周糸面1bの周方向に沿って、リング状に配設された金属等の導電体43と、導電体43の外周に沿ってリング状に配設されたコイル部42と、からなる加熱ヘッド40が、ドーナツ状基板1の外周糸面1bに近接若しくは当接して配設されており、このコイル部42に図示しない高周波電源によって通電させることで導電体43の表面に高密度の渦電流を発生させ、この渦電流によるジュール熱で導電体43のヘッド面41を加熱して、ヘッド面41から熱が発せられるものであってもよい。
【0065】
同様に、図7(b)に示されるように、ドーナツ状基板1の内周糸面1aの周方向に沿って、配設された柱状の金属等の導電体48と、導電体48の外周に沿ってリング状に配設されたコイル部47と、からなる加熱ヘッド45が、ドーナツ状基板1の内周糸面1aに近接若しくは当接して配設されており、このコイル部47に図示しない高周波電源によって通電させることで導電体48の表面に高密度の渦電流を発生させ、この渦電流によるジュール熱で導電体48のヘッド面46を加熱して、ヘッド面46から熱が発せられるものであってもよい。
【0066】
また、上記実施例では、ドーナツ状基板1の外周糸面1bにおいて、ガードル部1b’及びC面取り部1b’’のいずれも、熱を与える鏡面加工の対象箇所としていたが、鏡面加工の対象箇所は必ずしも本実施例に限られず、例えば、ガードル部1b’のみを上記鏡面加工の対象箇所としてもよい。
【0067】
また、上記実施例では、ドーナツ状基板の内周糸面1a及び外周糸面1bの何れも加熱ヘッド15、25が近接して配設され鏡面加工されているが、本実施例に限らず、加熱ヘッド15が内周糸面1aのみに近接若しくは当接して配設され、内周糸面1aのみを鏡面加工するものであってもよいし、加熱ヘッド25が外周糸面1bのみに近接若しくは当接して配設され、外周糸面1bのみを鏡面加工するものであってもよい。
【0068】
また、上記実施例では、ドーナツ状基板1は固定手段により略鉛直方向に配設され、加熱ヘッド15、25が、該略鉛直下方に面する内周糸面1a若しくは外周糸面1bの一部に近接して配設されているが、ドーナツ状基板1が配設される配設方向は上記実施例に限られず、例えばドーナツ状基板は、固定手段により略水平方向に配設されており、加熱ヘッド15、25が、外側方に面する内周糸面若しくは外周糸面の所定箇所に近接若しくは当接して配設されていてもよい。
【0069】
また、上記実施例では、加熱ヘッド15、25は内周糸面1a若しくは外周糸面1bの一部に近接して固定的に配設され、ドーナツ状基板1は回転軸C周りに周方向に回転運動しているが、ドーナツ状基板1と加熱ヘッドとが相対的に回転運動するとともに上述した鏡面加工するものであれば、必ずしも上記実施例に限られず、例えばドーナツ状基板1が固定的に配設されており、加熱ヘッドが内周糸面1a若しくは外周糸面1bに近接若しくは当接した状態で、内周糸面1a若しくは外周糸面1bの周方向に回転運動してもよいし、内周糸面1a若しくは外周糸面1bに近接若しくは当接した状態で配設された加熱ヘッドとドーナツ状基板1とが、互いに相反する周方向に夫々回転運動するものであってもよい。
【0070】
また、上記実施例では、ドーナツ状基板1の内周糸面1a及び外周糸面1bを内面砥石10及び外面砥石20により研磨加工した後に、加熱ヘッド15、25より発せられる熱を用いて鏡面加工しているが、必ずしも鏡面加工の前段に研磨加工を実施する必要はなく、例えば上述した研磨加工を実施せずに、加熱ヘッドより発せられる熱を用いた鏡面加工のみを実施するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】内面砥石及び外面砥石がドーナツ状基板を研磨加工する状況を示す断面図である。
【図2】加熱ヘッドがドーナツ状基板を鏡面加工する状況を示す断面図である。
【図3】図2の点線囲い部の拡大斜視図である。
【図4】(a)は、研磨工程後の外周糸面の状況を示す拡大断面図であり、(b)は、鏡面加工後の外周糸面の状況を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の第1変形例における加熱ヘッドを示す斜視図である。
【図6】本発明の第2変形例における加熱ヘッドを示す斜視図である。
【図7】(a)は、本発明の第3変形例における外周糸面の加熱ヘッドを示す斜視図であり、(b)は、内周糸面の加熱ヘッドを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0072】
1 ドーナツ状基板
1a 内周糸面
1b 外周糸面
1b’ ガードル部
1b’’ C面取り部
1c 凹部(凹凸条)
1d 凸部(凹凸条)
1e 溶融層
2 ベース台
3 駆動モータ
4 回転台
6 基板駆動装置
7 真空吸着ヘッド
7a 内空部
7b ヘッド面
8 排気孔
10 内面砥石
15 加熱ヘッド
20 外面砥石
25 加熱ヘッド
26 ヘッド面
26a 直交面
26b テーパ面
27 振動体
28 加熱ヘッド
29 ヘッド面
30 電熱線
35 加熱ヘッド
36 ヘッド面
37 コイル部
38 導電体
40 加熱ヘッド
41 ヘッド面
42 コイル部
43 導電体
45 加熱ヘッド
46 ヘッド面
47 コイル部
48 導電体
C 回転軸
D 回転軸
E 回転軸
F 中心線
M モータ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に円孔を有するドーナツ状基板の該円孔の内周糸面と、前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に、近接若しくは当接して配設されている加熱ヘッドを有しており、
前記ドーナツ状基板と前記加熱ヘッドとの間に相対的回転運動を与えるとともに、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に、前記加熱ヘッドを介して熱を与え、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に溶融層を形成し鏡面加工することを特徴とするドーナツ状基板の鏡面加工装置。
【請求項2】
前記円孔の中心軸が重力方向に対して略直交する方向を向くように、前記ドーナツ状基板が配設されていることを特徴とする請求項1に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置。
【請求項3】
前記ドーナツ状基板が、前記円孔の中心軸周りに回転運動していることを特徴とする請求項2に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置。
【請求項4】
前記加熱ヘッドにおける加熱領域として構成されているヘッド面が、断面視凹状面に形成されており、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方が前記凹状面に形成されている前記ヘッド面に没入するように、近接若しくは当接して配設されていることを特徴とする請求項1または3のいずれかに記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置。
【請求項5】
前記断面視凹状面に形成されている前記加熱ヘッドのヘッド面が、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に、当接して配設されていることを特徴とする請求項4に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置。
【請求項6】
前記加熱ヘッドが、前記断面視凹状面に形成されているヘッド面を有し高周波振動する振動体から構成されており、前記加熱ヘッドのヘッド面と前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方との前記振動体の高周波振動による摺接により、熱が発せられていることを特徴とする請求項5に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置。
【請求項7】
前記加熱ヘッドの振動体が、前記ドーナツ状基板の周方向に沿って高周波振動することを特徴とする請求項6に記載のドーナツ状基板の鏡面加工装置。
【請求項8】
前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方を研磨加工して、前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に微細な凹凸条を形成した後に、前記加熱ヘッドを介して熱を与え、前記凹凸条の凸部を溶融して前記円孔の内周糸面と前記ドーナツ状基板の外周糸面の少なくとも何れか一方に溶融層を形成し鏡面加工することを特徴とするドーナツ状基板の鏡面加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−197247(P2007−197247A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17232(P2006−17232)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(390001535)旭栄研磨加工株式会社 (9)
【出願人】(592205159)日本電気真空硝子株式会社 (4)
【Fターム(参考)】