説明

ナノカプセル化薬物をそのために設計された医療装置を通して送り、身体のpHを用いてヒト動脈内でナノカプセル化薬物を放出させることによる遮断されたヒト動脈における血流再開

体腔に関連する医学的状態を処置するための挿入可能な薬物送達医療装置が開示される。挿入可能な薬物送達医療装置は、2種類以上の平均径を有する2種類以上のナノ担体でコーティングされた外面を含む。この2種類以上のナノ担体のうち、あるナノ担体は、体腔の2以上の層のうち1以上の層を透過するのに適した平均径を有する。ナノ担体は封入材によって取り囲まれた薬物を含む。封入材は生物学的薬剤、血液賦形剤およびリン脂質の1以上を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、体腔の標的部位に薬物を投与するための医療装置に関する。より具体的には、本発明は、血管の種々の層を経て1種類以上の薬物を有効に送達することを目的とした、1種類以上の薬物のナノ担体でコーティングされた挿入可能な薬物送達医療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮経管冠動脈形成術などの介入心臓学的手順において、遮断された動脈に適切な血流を再開するためにステントおよびその他の医療装置が用いられる。しかしながら、既存の介入心臓学的手順およびこれらの手順に用いられる心臓用医療装置は再狭窄のような現象と関連する。血管形成術またはステント留置の後に起こる再狭窄の症例を減らすためには、薬物溶出性ステント(Drug Eluting Stents)(DES)が用いられる場合が多い。現行のDESは、ポリマーの助けで薬物が付加されている。これらのポリマーはDESが移植される部位に炎症を誘発する場合がある。ある特定の症例では、DESによって誘発される炎症は、DESにポリマーが存在するために、ベアメタルステントによって引き起こされる炎症よりも深刻な場合がある。そして、ポリマーによって誘発される炎症は、身体の生理学的免疫応答のために、血栓形成をもたらす場合がある。このようにして形成された血栓は急性血栓症または亜急性血栓症となり得る。血栓はさらに悪化して、動脈遮断を生じる場合もある。さらに、非分解性ポリマーを伴うDESは、遅発性炎症反応に関連し、それにより、遅発性の血栓形成が起こる。従って、DESへの薬物付加に用いるポリマーは再狭窄をもたらすおそれがある。
【0003】
ステントへの薬物付加のためのポリマーの使用に関連する炎症を回避するには、ポリマーを用いずにステント表面に薬物を付加すればよい。しかしながら、ポリマーを用いずにステント表面に薬物を付加する方法で、当技術分野で知られているものは、ステント表面の改質に基づくものである。
【0004】
さらに、ステント内面に1種類以上の薬物およびポリマーが存在すると、ベアメタルステントに比べて治癒の遅延または治癒不全が起こる。治癒遅延または治癒不全患者には、一般に、長期抗血小板(例えば、Clopidrogel)療法が奨励されるが、この抗血小板療法には副作用も伴うので、長期間は奨励されない。
【0005】
さらに、DESにコーティングされる薬物ならびにポリマーの粒径は、標的部位の組織の孔よりも大きい。従って、実質量の薬物が吸収されずに残る。吸収されない薬物は血流に洗い流されてしまい、副作用を起こすこともある。例えば、現在用いられているDESは100マイクログラムを超える薬物が付加されるが、そのうち動脈組織に透過する薬物は12ナノグラム〜25ナノグラムに過ぎない。残りの薬物は、DESの内面から血流に洗い流されるか、経時的に放出される。
【0006】
さらに、現在用いられているDESは、限局性再狭窄および断端部再狭窄のような現象にも関連する。限局性再狭窄の主な理由の1つは、ある病変部分はDESによる薬物供給が十分であり、ある病変部分(DESに覆われていない領域)はDESによる薬物供給が不十分であるか、または全くないということである。薬物が十分に供給されている病変部分は、薬物の供給が不十分であるか、または全くない病変部分に比べ、依然として再狭窄を受けにくい可能性がある。
【0007】
現行のDESでは、薬物は金属表面にコーティングされる。病変部に到達する薬物の量は、一般に、金属/動脈比に相当する。現行のDESの金属/動脈比は一般に10%〜20%の範囲である。従って、薬物が供給されるのは病変部の10%〜20%に過ぎない。一方、残りの80%〜90%の病変部には薬物供給が不十分であるか、または全くない。さらに、DESの表面にコーティングされた薬物の粒径が大きいために、動脈組織への薬物の最適な拡散が達成されない。動脈組織への薬物の拡散はさらに薬物の特性にも依存する。例えば、シロリムス溶出ステントは、シロリムスに伴う溶解度が低いために、動脈組織へのシロリムスの拡散が不十分である。従って、シロリムス溶出ステントは、完全再狭窄の71%という高い限局性再狭窄を示し得る。これに対し、パクリタキセル溶出ステントは、完全再狭窄の56%という高い限局性再狭窄を示し得る。さらに、現行のDESを用いて患者に投与される薬物の大部分は疎水性であり、身体組織に対する親和性が低い。結果として、所望の治療効果を達成するためには、多量の薬物をDESに付加する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、当技術分野には、限局性再狭窄、断端部再狭窄、完全再狭窄、急性血栓形成、亜急性血栓形成、遅発性血栓形成、病変部の治癒遅延および病変部の治癒不全の症例の軽減に関連する、改良された挿入可能な薬物送達医療装置の必要性がある。さらに、当技術分野では、DES留置後に病変部の治癒遅延および/または病変部の治癒不全を有する患者に、そうでなければ奨励される抗血小板療法の期間を短縮させ得る、改良された挿入可能な薬物送達医療装置も必要とされる。さらにまた、当技術分野では、薬物の高いバイオアベイラビリティ、高い生体適合性を提供し、最適な薬物付加で血管病変の最大部分に薬物を送達する、改良された薬物放出医療装置も必要とされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1に従ってMalvern ZS90によって測定されたダイズリン脂質のナノ粒子の粒度分布を示す図である。
【図2】実施例1に従ってMalvern ZS90によって測定されたナノ担体の粒度分布を示す図である。
【図3】実施例2に従った標準溶液のクロマトグラムを示す図である。
【図4】実施例2に従ったサンプル溶液標準溶液(the sample solution the standard solution)のクロマトグラムを示す図である。
【図5】実施例3に従ったナノ担体の水溶液のクロマトグラムを示す図である。
【図6】実施例4に従って1日目〜39日目の間の、コーティングされたステント系からのシロリムス放出率%を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明に従う実施形態を詳細に記載する前に、これらの実施形態が主として体腔に関連する医学的状態を処置するための医療装置の構成要素の組合せにあることを認識するべきである。従って、これらの構成要素は、本明細書の利益を有する技術分野の熟練者に容易に明らかになる詳細な開示を不明確にしないために、本発明の実施形態を理解するのに適切な特定の詳細のみを含めて記載されている。
【0011】
本明細書において、「含む(comprises, comprising)」または他のいずれの変形形態も非排除的な包含を網羅することを意図し、従って、列挙の要素を含むプロセス、方法、物品または装置はこれらの要素しか含まないのではなく、明確に列挙されていない、またはこのようなプロセス、方法、物品または装置に固有の他の要素を含み得る。「を含む(comprises ...a)」の後に続く要素は、それ以上の制約なく、その要素を含むプロセス、方法、物品または装置に同一のさらなる要素が存在することを排除するものではない。
【0012】
さらに、本発明に従う実施形態を詳細に記載する前に、本発明を記載するために本明細書に用いられる科学用語および技術用語は全て、当業者に理解されているものと同じ意味を有することを認識するべきである。
【0013】
さらにまた、本発明に従う実施形態を詳細に記載する前に、挿入可能な薬物送達医療装置が、体腔内の標的部位に薬物を送達するために体腔内に挿入または移植することができる医療装置であり得ることを認識するべきである。この挿入可能な薬物送達医療装置は、例えば、ステント、バルーン、バルーンに取り付けられたステント(プレクリンプステント)およびバルーンカテーテルの1つであり得る。この挿入可能な薬物送達医療装置は、本発明の範囲から逸脱することなく、標的部位に薬物のナノ担体を送達することができる、経皮経管血管形成術を実施するために用いられる他の任意の医療装置であってもよい。
【0014】
ステントは、例えば、血管内ステント、末梢血管ステント、尿道ステント、前立腺ステント、ステントグラフト、永久移植ステント、一時的移植ステント、ならびに、限定されるものではないが、1以上の金属、合金、生分解性ポリマーおよび非分解性ポリマー、SS316L、L605コバルト−クロム合金、およびニッケル−チタン合金、ならびに薬物のナノ担体でコーティングされ得る任意のステントの1以上から製造されたステントの1つであり得る。さらに、このステントは、限定されるものではないが、生分解性ポリマー、生体適合性ポリマー、生体腐食性ポリマーおよび非分解性ポリマーのうち1以上でコーティングされたいずれのステントであってもよい。
【0015】
バルーンは、経皮経管血管形成術において適切な膨張手段を用いて膨張させることができ、かつ、体腔内の標的部位に2種類以上のナノ担体を送達するために薬物のナノ担体でコーティングすることができる、エラストマー材料から製造されたいずれのバルーンであってもよい。このバルーンは、例えば、血管形成術バルーンおよび介入心血管術に用いられる他の任意のバルーンの1つであり得る。
【0016】
このプレクリンプステントは、ステントがバルーンに取り付けられた際に、プレクリンプステントが薬物のナノ担体でコーティングされ得るような、バルーンに取り付けられたステントであり得る。プレクリンプステントはさらに、バルーン、バルーンに取り付けられたステント、シャフトおよびハイポチューブのうち2以上を含み得る。
【0017】
さらに、挿入可能な薬物送達医療装置は、例えば、脊椎インプラント、経皮インプラント、経皮薬物送達装置、歯科用インプラント、任意の外科用インプラント、およびヒト身体の特定の部位に1種類以上の薬物を送達するためにヒト身体に挿入することができる医療装置の1つであり得る。
【0018】
以下、薬物のナノ担体は、1種類以上のナノ担体、第一のナノ担体セット、第二のナノ担体セット、第三のナノ担体セットおよび2種類以上のナノ担体とも呼ぶ場合があることを認識するべきである。
【0019】
概して、種々の実施形態に従って、体腔に関連する医学的状態を処置するための挿入可能な薬物送達医療装置が開示される。医学的状態は、再狭窄、体腔遮断、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞および体腔内のプラーク蓄積の1つであり得る。体腔は例えば、血管、尿道、食道、尿管および胆管であり得る。
【0020】
挿入可能な薬物送達医療装置は、2種類以上のナノ担体でコーティングされた外面を含む。この挿入可能な薬物送達医療装置の外面は、挿入可能な薬物送達医療装置が標的部位に位置した際に膨張または拡張されると、体腔内の標的部位と直接接触するようになる。2種類以上のナノ担体のうち、あるナノ担体は、封入材によって取り囲まれた薬物を含む。薬物は封入材によって取り囲まれているので、これらのナノ担体の表面は薬物を含まない。封入材は、生物学的薬剤、血液賦形剤およびリン脂質の1つまたは複数を含む。これら2種類以上のナノ担体は2種類以上の平均径を有する。これら2種類以上のナノ担体のナノ担体は、体腔の2以上の層のうち1以上の層を透過するのに適した平均径を有する。挿入可能な薬物送達医療装置が体腔内の標的部位に近接するようになった際に、その外面から2種類以上のナノ担体が放出される。従って、これら2種類以上のナノ担体のナノ担体は、その平均径に基づいて、体腔の2以上の層のうち1以上の層を透過する。このようにして、体腔の2以上の層のうち1以上の層を経るナノ担体の粒度依存的透過が達成される。
【0021】
一実施形態において、挿入可能な薬物送達医療装置は、血管に関連する医学的状態を処置するために用いられる。血管は、例えば、冠動脈、末梢動脈、頚動脈、腎動脈、回腸動脈(illiac artery)、膝窩動脈および静脈の1つであり得る。血管は、その組織の2以上の層を含む。この組織の2以上の層とは、内膜層、中膜層および外膜層を含む。内膜層は、血管を通る血流と直接接触する血管組織の最内層を含む。中膜層は、内膜層の直下にある血管組織の層である。そして、外膜層は、中膜層の直下にある血管組織の層である。
【0022】
挿入可能な薬物送達医療装置の外面は、2種類以上のナノ担体でコーティングされている。例示的実施形態において、プレクリンプステントが挿入可能な薬物送達医療装置として用いられる場合、プレクリンプステントの外側面の1以上の部分およびプレクリンプステントから露出されるバルーンの1以上の部分といった外面が2種類以上のナノ担体でコーティングされる。種々の実施形態によれば、挿入可能な薬物送達医療装置の外面だけが2種類以上のナノ担体でコーティングされる。
【0023】
一方、挿入可能な薬物送達医療装置の内面は、これら2種類以上のナノ担体を実質的に含まない。従って、例示的実施形態において、挿入可能な薬物送達医療装置がステントである場合、ステントの外側面だけが2種類以上のナノ担体でコーティングされる。一方、ステントの管腔面は、これら2種類以上のナノ担体を実質的に含まない。このような外面の選択的コーティングは、治癒遅延の症例を最小限にする可能性がある。
【0024】
従って、この薬物送達医療装置が血管に近接するようになると、2種類以上のナノ担体のうち、あるナノ担体が、そのナノ担体に関連する平均径に基づいて、内膜層、中膜層および外膜層のうち1以上を透過し得る。ナノ担体は、内膜層に存在する組織間細孔、中膜層に関連する栄養血管および外膜層に関連する栄養血管のうち1以上を通過することによって、内膜層、中膜層および外膜層のうち1以上を透過する。内膜層に存在する組織間細孔、中膜層に関連する栄養血管および外膜層に関連する栄養血管は、異なる内径を持っている。従って、これら2種類以上のナノ担体のナノ担体の、内膜層、中膜層および外膜層のうち1以上への透過は、そのナノ担体に関連する平均径に依存する。
【0025】
薬物送達医療装置の外面にコーティングされた2種類以上のナノ担体は、2種類以上の平均径を有する。これら2種類以上の平均径は1nm〜5000nmの範囲であり得る。
【0026】
一実施形態において、薬物送達医療装置は、第一のナノ担体セット、第二のナノ担体セット、および第三のナノ担体セットでコーティングすることができる。第一のナノ担体セットは、内膜層に存在する組織間細孔を経て内膜層を透過するのに適した第一の平均径を有する。第二のナノ担体セットは、中膜層に関連する栄養血管および内膜層に存在する組織間細孔を経て中膜層を透過するのに適した第二の平均径を有する。第三のナノ担体セットは、内膜層に存在する組織間細孔、中膜層に関連する栄養血管および外膜層に関連する栄養血管を経て外膜層を透過するのに好適な第三の径を有する。
【0027】
一実施形態において、第一の平均径は800nm〜1500nmの範囲であり得、第二の平均径は300nm〜800nmの範囲であり得、第三の平均径は10nm〜300nmの範囲であり得る。別の実施形態では、第一の平均径は1000nmであり、第二の平均径は700nmであり、第三の平均径は200nmである。第一の平均径、第二の平均径および第三の平均径は、本発明の範囲から逸脱することなく、特定の治療的必要性を満たすために変更可能である。
【0028】
薬物送達医療装置にコーティングされた2種類以上のナノ担体は、10%〜60%の第一のナノ担体セット、20%〜60%の第二のナノ担体セットおよび30%〜80%の第三のナノ担体セットを含み得る。あるいは、2種類以上のナノ担体は、約15%〜90%の第一のナノ担体セット、10%〜85%の第二のナノ担体セットおよび5%〜85%の第三のナノ担体セットを含むようにコーティングすることができる。
【0029】
従って、薬物送達医療装置が血管内の標的部位に近接するようになった際、第一のナノ担体セット、第二のナノ担体セットおよび第三のナノ担体セットのうち1以上に相当する2種類以上のナノ担体が挿入可能な薬物送達医療装置の外面から放出される。その後、このようにして放出された2種類以上のナノ担体は、2種類以上のナノ担体に関連する個々の平均径に基づいて、血管の1以上の層を透過する。このようにして、2種類以上のナノ担体の粒度依存的透過が達成される。
【0030】
2種類以上のナノ担体の粒度依存的透過に加え、ナノ担体が薬物送達医療装置の外面から放出される速度も、ナノ担体の平均径の助けで制御される。
【0031】
平均径が小さいナノ担体は、薬物送達医療装置によって迅速に放出される。従って、標的部位に近接するようになった際に第三のナノ担体セットが外面から放出されるのに必要な時間は、第二のナノ担体セットおよび第一のナノ担体セットが外面から放出されるのに必要な時間よりも短い。よって、第三のナノ担体セットは、外面からの迅速な放出を示す。一方、第二のナノ担体セットおよび第三のナノ担体セットは、第三のナノ担体セットの放出速度に比べて、外面からより緩慢な放出速度を示す。
【0032】
ひと度、2種類以上のナノ担体が放出され、血管の1以上の層を透過すると、その2種類以上のナノ担体から外膜層、中膜層および内膜層のうち1以上に薬物が放出される。この薬物は封入材が溶解した際に放出される。このようにして、標的部位における薬物の組織内放出が達成される。さらに、外膜層に透過した1種類以上のナノ担体は、外膜層に長時間留まり得る。言い換えれば、外膜層は薬物のリザーバーとして働くことができ、そこから薬物が長時間にわたってゆっくり放出される。
【0033】
さらに、薬物は外膜層、中膜層および内膜層のうち1以上を経て長時間にわたって拡散し得る。このような場合、外膜層、中膜層および内膜層のうち1以上を経て拡散される薬物は、長時間、薬物の組織内拡散をもたらし得る。従って、薬物の組織内放出と薬物の組織内拡散のために、標的部位における病変部の最大部分に薬物が供給される。従って、限局性再狭窄の起こり得る機会が従来のDESに比べて少ない。
【0034】
さらにまた、長時間の薬物の組織内放出と薬物の組織内拡散のために、標的部位における病変部の治癒遅延および治癒不全の症例が、従来のDESに比べて最小となる。
【0035】
結果として、病変部の治癒遅延および/または治癒不全を有する患者に行われていた抗血小板療法も最小限となり得る。
【0036】
さらに、封入材が生物学的薬剤、血液賦形剤およびリン脂質のうち1以上を含むことから、これら2種類以上のナノ担体は標的部位の組織に対して親和性を示す。このような親和性は、2種類以上のナノ担体を挿入可能な薬物送達医療装置の外面から標的部位へと経時的に効率的に移行することを助ける。結果として、実質的に、第一のナノ担体セット、第二のナノ担体セットおよび第三のナノ担体セットのそれぞれが外面から経時的に放出される。その後、挿入可能な薬物送達医療装置の外面は、経時的に、2種類以上のナノ担体を実質的に含まないようになる。挿入可能な薬物送達装置がステントである場合の例示的実施形態では、ステントは、標的部位にステントが留置された後7〜45日以内に、2種類以上のナノ担体を実質的に含まないようになる。別の例示的実施形態では、ステントは、ステント留置から約30日以内に2種類以上のナノ担体を実質的に含まないようになる。
【0037】
さらにまた、封入材もナノ担体の表面に遊離の薬剤が存在しないように維持する。これは、挿入可能な薬物送達医療装置の表面に薬物が直接接触しないようにする助けとなる。さらに、薬物は、ナノ担体が血管の1以上の層に透過し、封入材が溶解した際にのみ標的部位の組織と接触するようになる。従って、標的部位の組織および挿入可能な薬物送達医療装置の表面への薬物の直接的曝露は避けられる。
【0038】
薬物は薬物のナノ結晶を含み得る。薬物のナノ結晶は、1nm〜5000nmの範囲の平均径を持ち得る。さらに、薬物のナノ結晶は、2以上の異なる平均径を持ち得る。あるいは、薬物は、ナノサイズ粒子、ナノスフェア、リポソーム、ナノカプセル、デンドリマー、およびナノ寸法を有する薬物の他のいずれかの類似形態のうち1以上であり得る。薬物は、抗増殖薬、抗炎症薬、抗新生物薬、抗凝固薬、抗フィブリン薬、抗血栓薬、抗有糸分裂薬、抗生物質、抗アレルギー薬および抗酸化薬、抗増殖薬、エストロゲン、プロテアーゼ阻害剤、抗体、免疫抑制薬、細胞増殖抑制薬、細胞傷害薬、カルシウムチャネル遮断薬、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、栄養補助剤、ビタミン、抗血小板凝集薬および遺伝子操作上皮細胞のうち1以上であり得るが、これらに限定されない。
【0039】
薬物は、シロリムス、パクリタキセル、タクロリムス、クロベタゾール、デキサメタゾン、ゲニステイン、ヘパリン、17β−エストラジオール、ラパマイシン、エベロリムス、エチルラパマイシン、ゾタロリムス、ABT−578、バイオリムスA9、ドセタキセル、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、塩酸ドキソルビシン、マイトマイシンおよびその類似体、ミオマイシン(miomycine)、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン、プロスタサイクリン類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa、組換えヒルジン、ビバリルジン、ニフェジピン、コルヒチン、ロバスタチン、ニトロプルシド、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン、酸化窒素または酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼミメティック、エストラジオール、アスピリン、アンギオペプチン、カプトプリル、シラザプリル、リシノプリル、ペルミロラストカリウム、α−インターフェロン、生物活性RGD、ならびにそれらの任意の塩または類似体のうち1以上であり得るが、これらに限定されない。
【0040】
薬物は、封入材によって取り囲まれている。封入材は、生物学的薬剤、血液賦形剤およびリン脂質のうち1以上であり得る。あるいは、封入材は、1以上の生物学的薬剤、1以上の血液賦形剤、1以上のリン脂質および1以上の賦形剤のうち1以上であり得る。生物学的薬剤は、生物学的薬剤のナノ粒子を含み得る。生物学的薬剤のナノ粒子は、1nm〜5000nmの範囲の平均径を持ち得る。さらに、生物学的薬剤のナノ粒子は、2種類以上の異なる平均径を持ち得る。あるいは、生物学的薬剤は、ナノサイズ粒子、ナノスフェア、リポソーム、ナノカプセル、デンドリマー、およびナノ寸法を有する生物学的薬剤の他のいずれかの類似形態のうち1以上を含み得る。
【0041】
生物学的薬剤は、限定されるものではないが、薬物担体、賦形剤、血液成分、血液由来の賦形剤、天然リン脂質、固体脂質ナノ粒子、動物生体から得られるリン脂質、合成によるリン脂質、類脂質、ビタミンおよび糖分子のうち1以上であり得る。生物学的薬剤は、例えば、限定されるものではないが、ステロイド、ビタミン、エストラジオール、エステル化脂肪酸、非エステル化脂肪酸、グルコース、イノシトール、L−乳酸塩、リポタンパク質、炭水化物、リン酸三カルシウム、沈殿リン酸カルシウム、三塩基性リン酸カルシウム、ヒト・卵およびダイズの少なくとも1つに由来する物質、ホスフォリポン80H、ホスフォリポン90H、Lipoinds S75、Lipoids E80、Intralipid 20、Lipoid EPC、Lipoid E75、卵由来脂質、ダイズ由来脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、およびホスファチジルエタノールアミンであり得る。
【0042】
リン脂質は、リン脂質のナノ粒子を含み得る。リン脂質のナノ粒子は、1nm〜5000nmの範囲の平均径を持ち得る。さらに、リン脂質のナノ粒子は、2種類以上の異なる平均径を持ち得る。あるいは、リン脂質は、ナノサイズ粒子、ナノスフェア、リポソーム、ナノカプセル、デンドリマー、およびナノ寸法を有するリン脂質の他のいずれかの類似形態のうち1以上を含み得る。リン脂質は、限定されるものではないが、卵由来脂質、ダイズ由来脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、カルジオリピンおよびホスファチジルエタノールアミンのうち1以上を含み得る。
【0043】
血液賦形剤は、血液賦形剤のナノ粒子を含み得る。血液賦形剤のナノ粒子は、1nm〜5000nmの範囲の平均径を持ち得る。さらに、血液賦形剤のナノ粒子は、2種類以上の異なる平均径を持ち得る。あるいは、血液賦形剤は、ナノサイズ粒子、ナノスフェア、リポソーム、ナノカプセル、デンドリマー、およびナノ寸法を有する血液賦形剤の他のいずれかの類似形態のうち1以上を含み得る。血液賦形剤は、限定されるものではないが、ステロイド、ビタミン、エストラジオール、エステル化脂肪酸、非エステル化脂肪酸、グルコース、イノシトール、L−乳酸塩、脂質、リポタンパク質、リン脂質、炭水化物、リン酸三カルシウム、沈殿リン酸カルシウムおよび三塩基性リン酸カルシウムのうち1以上であり得る。
【0044】
血液賦形剤および生物学的薬剤は、pH7.4未満で可溶性である。従って、これら2種類以上のナノ担体が標的部位の組織に接触した場合、生物学的薬剤および血液賦形剤は血液に溶解するようになる。生物学的薬剤および血液賦形剤が溶解すると、標的部位において2種類以上のナノ担体から薬物が放出される。このようにして、2種類以上のナノ担体からの薬物のpH依存性放出が達成される。
【0045】
例示的実施形態では、挿入可能な薬物送達医療装置は冠動脈ステントである。冠動脈ステントは、例えば、クロムコバルトL−605ステントである。冠動脈ステントは、2種類以上のナノ担体でコーティングされた外側(外)面を含む。2種類以上のナノ担体は、約1200nmの平均径を有する第一のナノ担体セット、約700nmの平均径を有する第二のナノ担体セットおよび約200nmの平均径を有する第三のナノ担体セットを含む。ステントが標的部位に近接するようになった際、そのステントの外側面から2種類以上のナノ担体が放出される。その後、第一のナノ担体セットは、内膜層に存在する組織間細孔を経て内膜層を透過する。第二のナノ担体セットは、中膜層に関連する栄養血管および内膜層に存在する組織間細孔を経て中膜層を透過する。第三のナノ担体セットは、外膜層に関連する栄養血管、中膜層に関連する栄養血管および内膜層に存在する組織間細孔を経て外膜層を透過する。
【0046】
別の例示的実施形態では、挿入可能な薬物送達医療装置はバルーンである。バルーンは、例えば、超薄血管形成術バルーンである。バルーンは、2種類以上のナノ担体でコーティングされた外面を含む。2種類以上のナノ担体は、約1200nmの平均径を有する第一のナノ担体セット、約700nmの平均径を有する第二のナノ担体セットおよび約200nmの平均径を有する第三のナノ担体セットを含む。バルーンが標的部位に近接した際、そのステントの外側面から2種類以上のナノ担体が放出される。その後、第一のナノ担体セットは、内膜層に存在する組織間細孔を経て内膜層を透過する。第二のナノ担体セットは、中膜層に関連する栄養血管および内膜層に存在する組織間細孔を経て中膜層を透過する。第三のナノ担体セットは、外膜層に関連する栄養血管、中膜層に関連する栄養血管および内膜層に存在する組織間細孔を経て外膜層を透過する。バルーンが折りたたみ構成または非折りたたみ構成である場合、バルーンを2種類以上のナノ担体でコーティングすることができる。
【0047】
さらに別の例示的実施形態では、挿入可能な薬物送達医療装置はプレクリンプステント(バルーンに取り付けられたステント)である。例えば、プレクリンプステントは、超薄血管形成術バルーンに取り付けられたクロムコバルトL−605ステントである。プレクリンプステントは、2種類以上のナノ担体でコーティングされる。プレクリンプステントにコーティングされた2種類以上のナノ担体のナノ担体は、ダイズリン脂質およびリン酸三カルシウムの1以上のナノ粒子で封入されたシロリムスのナノ結晶を含む。2種類以上のナノ担体は、1200nmの平均径を有する第一のナノ担体セット、700nmの平均径を有する第二のナノ担体セットおよび200nmの平均径を有する第三のナノ担体セットを含む。
【0048】
ステントがバルーンに取り付けられている場合、プレクリンプステントの外面が、2種類以上のナノ担体でコーティングされる。ステントに覆われていないバルーンの1以上の部分(ステント(sent)の1以上のストラットから露出したバルーンの1以上の部分)も、ステントの外面とともに2種類以上のナノ担体でコーティングされる。ステントの管腔面はバルーンに覆われているので、ステントの外側面だけが2種類以上のナノ担体でコーティングされる。プレクリンプステントが標的部位に近接した際に、バルーンが膨張される。バルーンの膨張はステントの拡張を引き起こす。冠動脈の標的部位におけるこのバルーンの膨張とステントの拡張に応じて、2種類以上のナノ担体がプレコートステントから放出される。バルーンの1以上の部分にコーティングされた2種類以上のナノ担体は、バルーンからの1種類以上のナノ担体のバースト放出をもたらす。一方、ステントの外側面にコーティングされた2種類以上のナノ担体は、ステントの外側面からの2種類以上のナノ担体の制御放出をもたらす。
【0049】
さらに、プレクリンプステントの外面は、ステントの遠位限界および近位限界の1以上を超えて長手方向に延長するバルーンの部分を含み得る。このような場合、ステントの遠位限界およびステントの近位限界の1以上を超えて長手方向に少なくとも0.05mm延長する部分も、2種類以上のナノ担体でコーティングしてよい。ステントの遠位限界または/およびステント近位限界を超えて長手方向に少なくとも0.05mm延長する部分を2種類以上のナノ担体でコーティングすると、ステントの遠位限界および/または近位限界を超える部分に存在する病変部にも薬物送達がもたらされる。従って、被験体にステントを留置した後の断端部再狭窄の起こり得る機会が最小となり得る。
【0050】
さらに別の例示的実施形態では、プレクリンプステント(バルーンに取り付けられたステント)が2種類以上のナノ担体の2以上の層でコーティングされる。バルーンおよびステントにコーティングされた2以上の層のうちの外層は、第三のナノ担体セットを含む。一方、バルーンおよびステントにコーティングされた2以上の層のうちの内層は、第一のナノ担体セットおよび第二のナノ担体セットのうち1以上を含む。第三のナノ担体セットはバルーンの外層に存在し、プレクリンプステントが標的部位に近接するようになった際に、ステントは第三のナノ担体セットのバースト放出をもたらす。一方、内層に存在する第二のナノ担体セットおよび第一のナノ担体セットのうち1以上は、プレクリンプステントからの第二のナノ担体セットおよび第一のナノ担体セットのうち1以上の制御放出をもたらす。
【0051】
一実施形態において、挿入可能な薬物送達医療装置は、2種類以上のナノ担体の2以上の層でコーティングされた外面を含む。2以上の層のうちの外層に存在する2種類以上のナノ担体は、第一の薬物セットを含む。一方、2以上の層のうちの内層に存在する2種類以上のナノ担体は、第二の薬物セットを含む。第二の薬物セットは、第一の薬物セットに存在する1種類以上の薬物とは異なる1種類以上の薬物を含み得る。第一の薬物セットは、例えば、限定されるものではないが、抗炎症薬および抗血栓薬のうち1以上を含み得る。外層に存在する第一の薬物セットはバースト放出をもたらす。従って、第一の薬物セットは、挿入可能な薬物送達医療装置によって引き起こされ得る炎症または傷害を制御するために標的部位に送達されるものであり得る。一方、第二の薬物セットは、例えば、限定されるものではないが、抗増殖薬を含み得る。内層に存在する第二の薬物セットは、外層が放出された後に放出される。従って、第二の薬物セットは、炎症細胞周期の増殖期を制御するために長時間にわたって送達され得る。
【0052】
第一の薬物セットおよび第二の薬物セットのうち1以上は、本発明の範囲から逸脱することなく、限定されるものではないが、抗新生物薬、抗凝固薬、抗フィブリン薬、抗血栓薬、抗有糸分裂薬、抗生物質、抗アレルギー薬および抗酸化薬、エストロゲン、プロテアーゼ阻害剤、抗体、免疫抑制薬、細胞増殖抑制薬、細胞傷害薬、カルシウムチャネル遮断薬、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、栄養補助剤、ビタミン、抗血小板凝集薬および遺伝子操作上皮細胞のうち1以上から選択され得る。
【0053】
別の実施形態では、挿入可能な薬物送達医療装置は、2種類以上のナノ担体の3層でコーティングされる。この2種類以上のナノ担体の3層の最内層は、治癒促進薬を含む。この3層の中間層は抗増殖薬を含み、この3層の最外層は抗炎症薬および抗血栓薬のうち1以上を含む。この最外層は、2種類以上のナノ担体のバースト放出をもたらす。従って、抗炎症薬および抗血栓薬のうち1以上を含む最外層は、炎症に対処することができる。抗増殖薬を含む中間層は、最外層の2種類以上のナノ担体が放出された後に、その2種類以上のナノ担体を放出する。従って、この中間層は、標的部位における炎症細胞周期の増殖期に対処することができる。一方、最内層は、中間層の2種類以上のナノ担体が放出された後に、その2種類以上のナノ担体を放出する。従って、治癒促進薬を含む最内層は、標的部位における細胞外マトリックスの形成を促進し、それにより、炎症細胞周期の再分化期に対処する助けとなり得る。従って、挿入可能な薬物送達医療装置は、標的部位における炎症細胞周期の様々な段階に対処するように設計することができる。
【0054】
概して、種々の実施形態に従って、本発明はまた、体腔に関連する医学的状態を処置する方法も開示する。医学的状態は、再狭窄、体腔遮断、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞および体腔内のプラーク蓄積の1つであり得る。体腔は、例えば、血管、尿道、食道、尿管および胆管であり得る。一実施形態において、本方法は、2種類以上のナノ担体でコーティングされた外面を有する挿入可能な薬物送達医療装置を使用することにより、血管の標的部位に2種類以上のナノ担体を送達することを含む。
【0055】
本方法はさらに、挿入可能な薬物送達医療装置を血管の標的部位に配置することを含む。その後、挿入可能な薬物送達医療装置が拡張または膨張される。挿入可能な薬物送達医療装置の拡張または膨張に応じて、挿入可能な薬物送達医療装置の外面が標的部位と接触するようになり、その外面から2種類以上のナノ担体が放出される。このようにして放出された2種類以上のナノ担体は、その後、2種類以上のナノ担体に関連する個々の平均径に従って、血管の2以上の層のうち1以上を透過する。
【0056】
2種類以上のナノ担体の、あるナノ担体は、封入材によって取り囲まれた薬物を含む。この封入材は、生物学的薬剤、血液賦形剤およびリン脂質のうち1以上を含む。種々の実施形態によれば、この薬物は、その薬物のナノ結晶を含み得る。一方、生物学的薬剤、リン脂質および血液賦形剤はそれぞれ、その生物学的薬剤、リン脂質および血液賦形剤のナノ粒子を含み得る。薬物のナノ結晶、生物学的薬剤のナノ粒子、リン脂質のナノ粒子および血液賦形剤のナノ粒子は、従来の方法によって得ることができる。あるいは、薬物のナノ結晶、生物学的薬剤のナノ粒子、リン脂質のナノ粒子および血液賦形剤のナノ粒子は、市販のものを使用してもよい。例えば、薬物のナノ結晶、生物学的薬剤のナノ粒子、リン脂質のナノ粒子および血液賦形剤のナノ粒子のうち1以上は、限定されるものではないが、高圧ホモジナイゼーション、噴霧乾燥、高速ホモジナイゼーション、ボールミル摩砕、粉砕(pulverization)、ゾル−ゲル法、水熱法、噴霧熱分解法などのうち1以上を使用することによって得ることができる。
【0057】
ナノ担体は、当技術分野で公知の方法を使用することで、薬物のナノ結晶を、生物学的薬剤、リン脂質および血液賦形剤のうち1以上のナノ粒子によって封入することにより得られる。このようにして得られたナノ担体は、1nm〜5000nmの範囲の平均径を持ち得る。
【0058】
一実施形態において、1200nmの平均径を有する第一の薬物ナノ結晶セット、700nmの平均径を有する第二の薬物ナノ結晶セット、および200nmの平均径を有する第三の薬物ナノ結晶セットは、当技術分野で公知の1以上の方法を用いて得られる。さらに、1200nmの平均径を有する第一の生物学的薬剤ナノ粒子セット、700nmの平均径を有する第二の生物学的薬剤ナノ粒子セット、および200nmの平均径を有する第三の生物学的薬剤ナノ粒子セットは、当技術分野で公知の1以上の方法を用いて得られる。
【0059】
その後、適した溶媒を用いて、第一の薬物ナノ結晶セットの溶液、第二の薬物ナノ結晶セットの溶液および第三の薬物ナノ結晶セットの溶液を得る。同様に、適した溶媒を用いて、第一の生物学的薬剤ナノ粒子セットの溶液、第二の生物学的薬剤ナノ粒子セットの溶液および第三の生物学的薬剤ナノ粒子セットの溶液を得る。
【0060】
次に、第一の薬物ナノ結晶セットの溶液および第一の生物学的薬剤ナノ粒子セットの溶液に封入処理を施し、第一の平均径を有する第一のナノ担体セットを得る。同様に、第二の薬物ナノ結晶セットの溶液および第二の生物学的薬剤ナノ粒子セットの溶液に封入処理を施し、第二の平均径を有する第二のナノ担体セットを得る。一方、第三の薬物ナノ結晶セットの溶液および第三の生物学的薬剤ナノ粒子セットの溶液に封入処理を施し、第三の平均径を有する第三のナノ担体セットを得る。
【0061】
このようにして得られた第一のナノ担体セット、第二のナノ担体セットおよび第三のナノ担体セットを、次に、当技術分野で公知の方法を用いて、挿入可能な薬物送達医療装置の外面に1以上の層としてコーティングする。
【0062】
例示的実施形態では、第一のナノ担体セットの溶液、第二のナノ担体セットの溶液および第三のナノ担体セットは、適した溶媒を用いて得ることができる。その後、第一のナノ担体セットの溶液、第二のナノ担体セットの溶液および第三のナノ担体セットの溶液を、当技術分野で公知のコーティング機を用いて、挿入可能な薬物送達医療装置の外面にコーティングすることができる。
【0063】
コーティング機は回転マンドレルを備えていてもよい。挿入可能な薬物送達医療装置をこの回転マンドレルに取り付け、回転マンドレルとともに回転させることができる。挿入可能な薬物送達医療装置の外面を噴霧ノズルに向ければよい。その後、第一のナノ担体セットの溶液、第二のナノ担体セットの溶液および第三のナノ担体セットの溶液のうち1以上をこの外面に噴霧し、第一のナノ担体セット、第二のナノ担体セットおよび第三のナノ担体セットのうち1以上でコーティングされた挿入可能な薬物送達医療装置を得ることができる。
【0064】
コーティング機は、第一のナノ担体セットの溶液、第二のナノ担体セットの溶液および第三のナノ担体セットの溶液を貯蔵するための1以上のリザーバーを備えていてもよい。例えば、第一のナノ担体セットの溶液、第二のナノ担体セットの溶液および第三のナノ担体セットの溶液は、3つの異なるリザーバーに貯蔵されてもよい。あるいは、第一のナノ担体セットの溶液、第二のナノ担体セットの溶液および第三のナノ担体セットの溶液は、単一のリザーバー内に混合物として貯蔵されてもよい。これら1以上のリザーバーは、第一のナノ担体セットの溶液、第二のナノ担体セットの溶液および第三のナノ担体セットの溶液のうち1以上を噴霧ノズルに供給することができる。この噴霧ノズルを用いて、第一のナノ担体セットの溶液、第二のナノ担体セットの溶液および第三のナノ担体セットの溶液を、挿入可能な薬物送達医療装置の表面に噴霧すればよい。
【0065】
別の実施形態では、挿入可能な薬物送達医療装置の外面に2種類以上のナノ担体が2層としてコーティングされる。挿入可能な薬物送達医療装置を、その外面に例えば第三のナノ担体セットの溶液を噴霧することにより準備する。次いで、この挿入可能な薬物送達医療装置を乾燥させてもよい。その後、第二のナノ担体セットの溶液および第一のナノ担体セットの溶液のうち1以上をその外面に噴霧すればよい。次いで、この挿入可能な薬物送達医療装置を乾燥させてもよい。このようにして、2種類以上のナノ担体の2層を備えた挿入可能な薬物送達医療装置を得ることができる。
【0066】
その後、2種類以上のナノ担体でコーティングされた挿入可能な薬物送達医療装置を、カテーテルアセンブリを用いて血管に挿入する。カテーテルアセンブリは、ガイドワイヤー、カテーテル、バルーン、バルーンに取り付けられたステント、およびバルーンを膨張させるための膨張機構を含み得る。ガイドワイヤーを血管内に、標的部位を少し超えるまで前進させる。次に、カテーテルの遠位端にステントとバルーンを取り付けたカテーテルを、バルーンに取り付けられたステントが標的部位に配置されるように、ガイドワイヤーに沿って前進させる。バルーンに取り付けられたステントが血管の標的部位に到達したところで、膨張機構を用いてバルーンを膨張させる。バルーンが膨張すると、バルーンに取り付けられたステントも拡張し、ステントの外面およびステントから露出したバルーンの一部が標的部位の血管壁と接触するようになる。バルーンが標的部位と接触するようになった際、そのバルーンにコーティングされている2種類以上のナノ担体がバルーンから放出され、標的部位に送達されるようになる。その後、バルーンを収縮させ、血管から引き抜くと、標的部位にステントが残る。標的部位のステントは、長時間にわたって血管の標的部位で2種類以上のナノ担体を放出することができる。このようにして放出された2種類以上のナノ担体は、関連するそれらの個々の平均径に従って、血管の2以上の層のうち1以上を透過する。
【0067】
例として、医療装置はバルーンに取り付けられたステントを含み得る。バルーンに取り付けられたステントを噴霧ノズルに向け、2種類以上のナノ担体の溶液を噴霧すればよい。従って、ステントに覆われていないバルーンの1以上の部分(ステントのストラットから露出したバルーンの1以上の部分)も2種類以上のナノ担体でコーティングされる。2種類以上のナノ担体でコーティングされたバルーンの1以上の部分は、挿入可能な薬物送達医療装置から標的部位への、2種類以上のナノ担体の急速放出をもたらす。一方、ステントに外面にコーティングされた2種類以上のナノ担体は、挿入可能な薬物送達医療装置の外面から標的部位への、2種類以上のナノ担体の遅延放出をもたらす。
【0068】
実施例1:
ダイズリン脂質はLioid GMBHから入手した(バッチ番号:776114−1/906)。シロリムスはFujan Chemicals, Chinaから、99.5%を超える純度のものを入手した。用いた水、他の溶媒および試薬はHPLCグレードのものであった。Amazonia Croco(登録商標)(超薄血管形成術バルーンに取り付けたクロムコバルト冠動脈用L−605ステントシステム、以下、「ステントシステム」)は、Minvasys, Paris, Franceから入手した。
【0069】
脱イオン水(10ml)に、ダイズリン脂質(20mg w/w)、次いでTween 80(5mg)を加え、ダイズリン脂質水溶液を得た。このダイズリン脂質水溶液(10ml)を氷冷水浴中、20〜25分間、15000〜20000rpmで高速ホモジナイゼーションにかけ、溶液A1を得た。このようにして得られた溶液A1は、ダイズリン脂質のナノ粒子を含んでいた。次に、溶液A1に対し、Malvern ZS90(Malvern, UK)粒径検出器を用いて粒径検出分析を行った。図1は、Malvern ZS90により検出されたダイズリン脂質ナノ粒子の粒度分布を示す。ダイズリン脂質ナノ粒子の平均径は、475.79nmであることが分かった。
【0070】
シロリムス(20mg w/w)を10mlの脱イオン水に加え、シロリムス水溶液を得た。このシロリムス水溶液(10ml)を、氷冷水浴中、150〜200分間、15000〜20000rpmで高速ホモジナイゼーションにかけ、溶液A2を得た。このようにして得られた溶液A2は、シロリムスのナノ結晶を含んでいた。次に、溶液A2に対し、Malvern ZS90(Malvern, UK)粒径検出器を用いて粒径検出分析を行った。
【0071】
溶液A1を溶液A2に徐々に加え(滴下)、20分間、15000〜20000rpmで高速ホモジナイゼーションにかけ、20mlの溶液A3を得た。溶液A3を再び10分間ホモジナイズした。次に、溶液A3をマグネチックスターラー(2MLHホットプレートヒーター付きスターラー、Accumax, INDIA)で20分間攪拌した。このようにして得られた溶液A3はナノ担体を含んでいた(ダイズリン脂質ナノ粒子によって取り囲まれたシロリムスナノ結晶)。その後、溶液A3に対し、Malvern ZS90(Malvern, UK)粒径検出器を用いて粒径検出分析を行った。図2は、Malvern ZS90によって検出されたナノ担体の粒度分布を示す。平均粒径は410nmであることが分かった。
【0072】
さらに溶液A3(ナノ担体水溶液)に対し、ジクロロメタンによる抽出を行った。溶液A3(20ml)を100ml分液漏斗に移した。この100ml分液漏斗に50mlのジクロロメタンを加えた。得られた混合物を15分間振盪した後、静置した。その後、この100ml分液漏斗に2層、すなわち、水層とジクロロメタン層が見られた。ジクロロメタン層を水層から分離した。このジクロロメタン層、すなわち、ナノ担体溶液を、バッチ番号を付けた琥珀色の小メスフラスコで保存した。その後、このナノ担体溶液をステントシステムのコーティングに用いた。
【0073】
ナノ担体溶液(5ml)をコーティング機のリザーバーに供給した。ステントシステムをコーティング機の回転マンドレルに取り付けた。ステントシステムをコーティング機の噴霧ノズルに向けた。マンドレルを回転させることにより、ステントシステムを5〜40rpmで回転させると同時に、ナノ担体溶液を0.5〜4.0psiの不活性ガス圧および2振動でステントシステムに噴霧した。このようにして、ナノ担体でコーティングされたステントシステム(以下、「コーティング済みステントシステム」)を得た。ステントシステムを取り外し、コーティング面が平滑か、また、異物粒子がないか、高解像度顕微鏡下で確認した。次に、コーティング済みステントシステムに対し、以下の実施例2で説明するようなさらなる分析を行った。
【0074】
実施例2:
ステントシステムの薬物含量の検出:
コーティング済みステントシステムに付加されたシロリムスの量を、HPLC分析を用いて算出した。HPLC作動パラメーターは次のように選択した:流速は1.2ml/分(±0.01)に設定し、λ最大値は278nm(±1nm)に設定し、カラム温度は60℃(±2℃)に設定し、検出器の感度は0.02AUFSに設定し、分析時間は最大20分に設定した。
【0075】
UV−VIS検出器[SPD−10AVP(SHIMADZU, JAPAN)]およびRheodyneインテグレーター[Analytical Technologies, Analytical 2010]を取り付けたHPLCシステム[LC−10ATVPポンプ(SHIMADZU, JAPAN)]をHPLC分析に用いた。カラム−C18[RP18 長さ4.6mm×250mm、粒径5μm]に、加熱のためカラムオーブン[PCI]を取り付けた。サンプル注入には、25μlハミルトン・マイクロシリンジを用いた。粒状物質を避けるため、分析前にサンプルをミリポアPTFE0.45ミクロンシリンジフィルターで濾過した。較正済みクラスAグレードメスフラスコを用いた。遮光のため、琥珀色のガラス製品を用いた。分析に用いたRenchem溶媒および試薬は全てHPLCグレードのものであった。シロリムスは、Fujan Chemicals, Chinaから、99.5%を超える純度で入手し、そのまま用いた。
【0076】
移動相は、濃度比45:40:15のアセトニトリル:メタノール:水を含んだ。次いで、移動相を超音波洗浄機で10分間脱気した。
【0077】
シロリムス(0.5mg)を清浄な10mlの標準メスフラスコ(SMF)に入れた。次に、このSMFの目印まで移動相を満たし、5〜10分間振盪した。その後、SMFを10分間、超音波洗浄機内で維持して脱気した。その後、この溶液を0.45ミクロンシリンジフィルターで濾過し、「標準濃度」50μg/mlの標準溶液を得た。
【0078】
マイクロシリンジを用い、20μLの標準溶液をHPLCインジェクターに注入し、標準溶液のクロマトグラムを得た。図3は、標準溶液のクロマトグラムを示す。次に、この標準溶液のピーク面積(「標準面積」)を計算した。標準溶液の保持時間は3.732分であることが分かり、標準溶液のピークに相当する「標準面積」は3196.970mV秒であることが分かった。
【0079】
ステントシステムに付加された薬物含量を定量するため、メタノール(10ml)を入れた10mlSMFにコーティング済みステントシステム(sent system)を挿入することにより、サンプル溶液を作製した。次に、このSMFを10分間超音波槽で維持し、コーティング済みステントシステムに存在するシロリムスをメタノールに完全に溶解させた。このようにしてサンプル溶液を得た。
【0080】
マイクロシリンジを用い、20μLのサンプル溶液をHPLCインジェクターに注入し、サンプル溶液のクロマトグラムを得た。図4は、サンプル溶液のクロマトグラムを示す。次に、サンプル溶液のピーク面積(「サンプル面積」)を計算した。サンプル溶液の保持時間は3.470分であることが分かり、サンプル溶液のピークに相当する「サンプル面積」は683.235mV秒であることが分かった。
【0081】
次に、コーティング済みステントシステムに存在するシロリムスの量を、下式:
薬物の量=(サンプル面積/標準面積)(標準濃度/サンプル濃度)
を用いて計算した。
よって、薬物の量=(683.235/3196.970)(50/(1/10))=106.82μg。
従って、コーティング済みステントシステムに付加された薬物は106.85μgであることが分かった。
【0082】
実施例3:
封入効率(EE):
1mlのナノ担体水溶液(実施例1)を10mlのSMFに入れた。容量を10mlに調整した。20μLのナノ担体水溶液をHPLCインジェクターに注入し、ナノ担体水溶液のクロマトグラムを得た。図5は、ナノ担体水溶液のクロマトグラムを示す。ナノ担体水溶液の保持時間は4.308分であることが分かり、ナノ担体水溶液のピークに相当する「ナノ担体水溶液の面積」は280.555であることが分かった。遊離薬物の量は下式:
遊離薬物の量=(ナノ担体水溶液の面積/標準面積)(標準濃度/ナノ担体水溶液濃度)
を用いて計算した。
【0083】
よって、遊離薬物(シロリムス)の量=(280.555/3196.970)(50/(1/10))=43.52。従って、ナノ担体水溶液1ml中の遊離薬物の量は43.87μgであることが分かった。よって、20ml中に存在する遊離薬物の量は877.4μgとなる。
【0084】
次に、%封入効率%を下式:
%EE=(最初の薬物重量(mg)−遊離薬物量(mg))100/(最初の薬物重量(mg))
を用いて計算した。
%EE=(20−0.8774)100/20=95.61%
よって、封入効率%は95.61%であることが分かった。
【0085】
実施例4:
コーティング済みステントシステムからのシロリムスの放出を、pH6.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いることで、in vitroにおいて調べた。PBS溶液は、1.79gのオルトリン酸水素二ナトリウム、1.36gのオルトリン酸水素カリウムおよび7.02gの塩化ナトリウムを1000mlのHPLCグレード水に溶かすことによって調製した。この溶液を10分間超音波洗浄機内で維持して溶解させた。
【0086】
3本の各1.5ml円筒バイアルに新たに調製したPBSを満たした。この3本のバイアルに15秒、60秒および1日目と表示を付けた。15秒のバイアル、60秒のバイアルおよび1日目のバイアルを、60分間37℃(±1℃)のインキュベーターで維持した。
【0087】
次に、コーティング済みステントシステム(sent system)を15秒のバイアルに浸し、15秒間上下に動かした。その後、そのコーティング済みステントシステムを60秒のバイアルに移し、その中で膨張させた。膨張したステントをこの60秒のバイアル内で60秒間維持した後、この60秒のバイアルから取り出した。その後、そのコーティング済みステントシステム(sent system)を1日目のバイアルに入れ、24時間インキュベーター内に置いた。
【0088】
15秒のバイアル、60秒のバイアルおよび1日目のバイアルからのPBS溶液を異なる分液漏斗に移した。3つの分液漏斗全てに等量のメタノール(5ml)を加えた後、ジクロロメタン(10ml)を加えた。これら3本の分液漏斗を全て、10分間振盪した後、静置した。その後、メタノール、ジクロロメタンおよびシロリムスを含有する有機相を分離し、HPLC分析を行った。同様に、コーティング済みステントアセンブリを2日〜39日間、コーティング済みステントアセンブリ(stent assembly)をインキュベーション下、相応の表示のバイアル中で維持することによって分析を行った。各バイアル中に存在するシロリムスの量を測定し、1日〜39日間のシロリムスのin vitro放出率%を計算した。図6は、1日〜39日間のコーティング済みステントシステムからのシロリムス放出率%を示す。15秒のバイアルは、血管形成術中の一時的薬物損失を示した。60秒のバイアルは1日目におけるバースト放出を示し、一方、2日目のバイアル〜39日目のバイアルは、コーティング済みステントアセンブリからのシロリムスのプログラムされた放出を示した。39日目の終わりまでにコーティング済みステントアセンブリから約80%のシロリムスが放出されるという結果が得られた。
【0089】
実施例5:
4匹の動物を選択した。この4匹の各個体に3つのステントを移植した。これら3つのステントには、ステントシステム(2つ)とシロリムス不含ステントシステム1つが含まれた。移植および追跡調査のQCA結果を分析し、移植前、移植後および追跡調査28日目のステント付きセグメントの平均管腔径を求めた。QCA結果を用い、ステント/動脈比、初期獲得径(acute gain)、リコイル率%および遠隔期径損失(late loss)を計算した。シロリムス不含ステントシステム(BMS)の場合の遠隔期径損失は一般に約1mm〜1.5mmであった。一方、ステントシステムの場合の遠隔期径損失は0.45mm(±0.23mm)であることが分かった。ステントシステムに関連する死亡は報告されなかった。さらに、ステントシステムに関連する血栓症または再狭窄もこれらの4個体のいずれについても報告されなかった。従って、これらのステントシステムはシロリムス不含ステントシステムまたはBMSに比べて効果的かつ安全であると結論づけられた。同じ研究において、28日目の試験では、平均新生内膜厚がDESでは約150(±15)ミクロンであり、賦形剤がコーティングされたステントでは185(±50)ミクロンであることが示された。定量分析によれば、シロリムスがコーティングされた全てのステントにおいて新生内膜厚の完全な治癒が示された。
【0090】
本発明の種々の実施形態は、血管の種々の層を経て1種類以上の薬物を有効に送達することを目的とした、異なる大きさに調整された1種類以上の薬物のナノ担体でコーティングされた挿入可能な薬物送達医療装置を提供する。本発明はまた、1種類以上の薬物の高いバイオアベイラビリティおよび生体適合性を示し、その結果、挿入可能な薬物送達医療装置への1種類以上の薬物の付加量が少なくなる、挿入可能な薬物送達医療装置を提供する。本発明に従う挿入可能な薬物送達医療装置は、そうでなければ現行のDESに関連する断端部再狭窄、限局性再狭窄、完全再狭窄、亜急性血栓形成、遅発性血栓形成、病変部の治癒遅延および病変部の治癒不全の症例の軽減に関連する。
【0091】
当業者であれば、上記で認識される有利な点および本明細書に記載される他の有利な点が単に例であり、本発明の種々の実施形態の有利な点の全てを示すものではないことが理解できるであろう。
【0092】
以上の明細書では、本発明の特定の実施形態を記載した。しかしながら、以下の特許請求の範囲に示されるような本発明の範囲から逸脱することなく、種々の改変および変更が行えることが当業者には理解されるであろう。よって、本明細書および図面は限定ではなく例示とみなされるべきであり、このような改変は全て本発明の範囲に含まれるものとする。利点、有利な点、問題の解決策、および任意の利点、有利な点、または解決策を生じさせ得る、もしくはより明白にする要素は、任意のまたは全ての請求項の重要な、または必要な、または不可欠な特徴または要素と解釈されるべきではない。本発明は、本願の係属中に行われた補正および発行された特許請求の範囲のあらゆる均等物を含む添付の特許請求の範囲によってのみ定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層を含む体腔に関連する医学的状態を処置するための挿入可能な薬物送達医療装置であって、該挿入可能な薬物送達医療装置が複数の平均径を有する複数のナノ担体でコーティングされた外面を含み、該複数のナノ担体のうち、あるナノ担体が封入材によって取り囲まれた薬物を含み、該封入材が生物学的薬剤、血液賦形剤およびリン脂質のうち少なくとも1つを含み、該ナノ担体が該複数の層のうち少なくとも1つの層を透過するのに適した平均径を有し、かつ、該ナノ担体の表面が該薬物を含まない、挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項2】
挿入可能な薬物送達医療装置が該体腔内の標的部位に近接するようになった際に、前記複数のナノ担体が該外面から放出され、該複数のナノ担体のうち少なくとも1種類のナノ担体が、前記複数の層のうち少なくとも1つの層を透過する、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項3】
複数の平均径が1nm〜5000nmの間の範囲である、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項4】
体腔の複数の層が内膜層、中膜層および外膜層を含む、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項5】
生物学的薬剤およびリン脂質のうち少なくとも1つが、薬物の安定化および標的部位に対する親和性からなる群から選択される少なくとも1つの効果を有する、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項6】
複数のナノ担体が体腔の内膜層を透過するのに適した第一の平均径を有する第一のナノ担体セットと、体腔の中膜層を透過するのに適した第二の平均径を有する第二のナノ担体セットと、体腔の外膜層を透過するのに適した第三の平均径を有する第三のナノ担体セットをさらに含み、
該第一のナノ担体セットは、挿入可能な薬物送達医療装置が体腔内の標的部位に近接するようになった際に内膜層に透過し、
該第二のナノ担体セットは、挿入可能な薬物送達医療装置が体腔内の標的部位に近接するようになった際に、内膜層を経て、また中膜層に関連する栄養血管を経て、中膜層および内膜層に透過し、
該第三のナノ担体セットは、挿入可能な薬物送達医療装置が体腔内の標的部位に近接するようになった際に、内膜層を経て、また中膜層に関連する栄養血管を経て、また外膜層に関連する栄養血管を経て、外膜層、内膜層および中膜層に透過し、該第三のナノ担体セットのうち少なくとも1種類のナノ担体が外膜層に蓄積され、薬物が第三のナノ担体セットから経時的に放出される、
請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項7】
第一の平均径が約800nm〜約1500nmの範囲であり、第二の平均径が約300nm〜約800nmの範囲であり、第三の平均径が約10nm〜約300nmの範囲である、請求項6に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項8】
ステント、バルーン、バルーンに取り付けられたステントおよびバルーンカテーテルの1つである、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項9】
挿入可能な薬物送達医療装置がバルーンに取り付けられたステントであり、ステントの近位端を超えて延長するバルーンの少なくとも一部およびステントの遠位端を超えて延長する該バルーンの少なくとも一部が複数のナノ担体でコーティングされている、請求項8に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項10】
ステントおよびバルーンが少なくとも2層の複数のナノ担体でコーティングされ、バルーンおよびステントに相当する少なくとも2層のうちの外層が、第三の平均径を有する少なくとも1種類のナノ担体を含み、これにより、体腔内の標的部位に近接時にバルーンが膨張された際に、第三の平均径を有する少なくとものナノ担体のバースト放出がもたらされる、請求項8に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項11】
ステントに相当する少なくとも2層のうちの外層が第三の平均径を有する少なくとも1種類のナノ担体を含み、ステントに相当する少なくとも2層のうちの内層が第二の平均径を有する少なくとも1種類のナノ担体および第一の平均径を有する少なくとも1種類のナノ担体を含み、ステントおよびバルーンに相当する外層が、ステントの外面からの、第三の平均径を有する少なくとも1種類のナノ担体のバースト放出をもたらし、第二の平均径を有する少なくとも1種類のナノ担体および第一の平均径を有する少なくとも1種類のナノ担体が、体腔内の標的部位に近接するようになった際に経時的に複数の層のうち少なくとも1つの層を透過する、請求項10に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項12】
挿入可能な薬物送達医療装置が少なくとも2層の複数のナノ担体でコーティングされ、その少なくとも2層のうちの外層が、その少なくとも2層のうちの内層に含まれる少なくとも1種類の薬物とは異なる少なくとも1種類の薬物を含む、請求項10に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項13】
第一のナノ担体セット、第二のナノ担体セットおよび第三のナノ担体セットが異なる薬物を含む、請求項3に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項14】
第一のナノ担体セットが抗炎症薬および抗血栓形成薬からなる群から選択される薬物を含み、第二のナノ担体セットが抗増殖薬を含む、請求項3に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項15】
第一のナノ担体セットが抗増殖薬を含み、第二のナノ担体セットが抗血栓薬および抗炎症薬からなる群から選択される薬物を含み、第三のナノ担体セットが治癒促進薬を含む、請求項3に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項16】
薬物が抗増殖薬、抗炎症薬、抗新生物薬、抗凝固薬、抗フィブリン薬、抗血栓薬、抗有糸分裂薬、抗生物質、抗アレルギー薬および抗酸化薬、抗増殖薬、エストロゲン、プロテアーゼ阻害剤、抗体、免疫抑制薬、細胞増殖抑制薬、細胞傷害薬、カルシウムチャネル遮断薬、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、栄養補助剤、ビタミン、抗血小板凝集薬および遺伝子操作上皮細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項17】
薬物がパクリタキセル、シロリムス、タクロリムス、クロベタゾール、デキサメタゾン、ゲニステイン、ヘパリン、17β−エストラジオール、ラパマイシン、エベロリムス、エチルラパマイシン、ゾタロリムス、ABT−578、バイオリムスA9、ドセタキセル、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、塩酸ドキソルビシン、マイトマイシンおよびその類似体、ミオマイシン(miomycine)、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン、プロスタサイクリン類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa、組換えヒルジン、ビバリルジン、ニフェジピン、コルヒチン、ロバスタチン、ニトロプルシド、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン、酸化窒素または酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼミメティック、エストラジオール、アスピリン、アンギオペプチン、カプトプリル、シラザプリル、リシノプリル、ペルミロラストカリウム、α−インターフェロン、ならびに生物活性RGDからなる群から選択される、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項18】
生物学的薬剤が血液由来の賦形剤、リン脂質、類脂質、ステロイド、ビタミン、エストラジオール、エステル化脂肪酸、非エステル化脂肪酸(non estrified fatty acid)、グルコース、イノシトール、L−乳酸塩、リポタンパク質、炭水化物、リン酸三カルシウム、沈殿リン酸カルシウム、三塩基性リン酸カルシウム、ならびにヒト、卵およびダイズ由来の物質からなる群から選択される、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項19】
生物学的薬剤および血液賦形剤のうち少なくとも1つがpH7.4未満の媒体に溶解する、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項20】
医学的状態が再狭窄、体腔遮断、アテローム性動脈硬化症および体腔内のプラーク蓄積のうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載の挿入可能な医療装置。
【請求項21】
体腔内が血管を含む、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項22】
血管が冠動脈、末梢動脈、頚動脈、腸骨動脈、膝窩動脈および静脈からなる群から選択される、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項23】
リン脂質がホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、カルジオリピンおよびホスファチジルエタノールアミンからなる群から選択される、請求項1に記載の挿入可能な薬物送達医療装置。
【請求項24】
複数の層を含む体腔に関連する医学的状態を処置する方法であって、
挿入可能な薬物送達医療装置を体腔内の標的部位に配置すること、ここで、該挿入可能な薬物送達医療装置は複数の平均径を有する複数のナノ担体でコーティングされた外面を含み、該複数のナノ担体のうち、あるナノ担体は封入材によって取り囲まれた薬物を含み、該封入材は生物学的薬剤、血液賦形剤およびリン脂質のうち少なくとも1つを含み、該ナノ担体は該体腔の複数の層のうち少なくとも1つの層を透過するのに適した平均径を有し、かつ、該ナノ担体の表面は該薬物を含まない;および
標的に部位において、該挿入可能な薬物送達医療装置から複数のナノ担体を放出させること
を含む、方法。
【請求項25】
挿入可能な薬物送達医療装置が、ステント、バルーン、バルーンに取り付けられたステントおよびバルーンカテーテルの1つである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
挿入可能な薬物送達医療装置がステントであり、該ステントがバルーンおよびバルーンカテーテルを用いて標的部位に留置される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
複数のナノ担体が、ステントが体腔内の標的部位に留置されてから3〜45日以内にステントから放出される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
医学的状態が再狭窄、体腔遮断、アテローム性動脈硬化症および体腔内のプラーク蓄積からなる群から選択される、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−527942(P2012−527942A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512521(P2012−512521)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/IN2010/000347
【国際公開番号】WO2010/137037
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511286584)エンヴィジョン サイエンティフィック プライベート リミテッド (1)
【Fターム(参考)】