ナノファイバーの製造方法
【課題】一旦紡糸させた繊維、特に熱溶融せず、また有機溶媒にも溶解しないパラ系アラミドポリマーからなる繊維等にも適用できる、ナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】パラ系アラミド繊維からなる短繊維、織布や不織布などの繊維集合体に、キャビテーションエネルギーを付与することにより、該繊維の少なくとも一部をナノファイバー化させることを特徴とする、ナノファイバーの製造方法である。前記のナノファイバー製造方法により、ナノファイバーを含むナノファイバー繊維集合体が製造される。
【解決手段】パラ系アラミド繊維からなる短繊維、織布や不織布などの繊維集合体に、キャビテーションエネルギーを付与することにより、該繊維の少なくとも一部をナノファイバー化させることを特徴とする、ナノファイバーの製造方法である。前記のナノファイバー製造方法により、ナノファイバーを含むナノファイバー繊維集合体が製造される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバーの製造方法に関し、詳細には、一旦紡糸させた繊維からなる繊維集合体の少なくとも一部を、溶融処理することなくナノファイバー化させることが可能な、ナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単繊維直径がナノオーダーである有機繊維よりなるナノファイバーは、ナノ構造による特異な機能発現が期待されることから、近年注目されている。例えば、ナノファイバーは通常の繊維と比較して比表面積が非常に大きいことから、従来の繊維が有するポリマー固有の性質のほかに、優れた吸着特性や接着特性、ナノオーダーでの空孔制御や高度な分子組織化に由来する機能、あるいは優れた生体適合性といった新機能が発現する。そのため、これらの機能を活用することで、従来にない新素材の開発が期待できる。
【0003】
例えば、ナノファイバーは、再生医療用材料、ウェアラブルエレクトロニクスセンサー、バイオ・ケミカルハザード防御フィルター、複合材料、耐熱絶縁材料、軽量車両用高性能アクチュエーター、人工筋肉、安全防災用材料、対細菌・化学物質用衣料、内装材、電池セパレータ、スポーツ衣料、高性能フィルター、燃料電池用キャパシター、二次電池用電極材料、ハードディスク用研磨布、ワイピングクロス、防音材などへの応用が期待されている。
【0004】
ナノファイバーを製造する方法としては、(A)海島型複合繊維から海成分を除去し、島成分よりなるナノサイズのフィブリルを得る方法、(B)エレクトロスピニング法、または(C)エレクトロブロー法のように電界場中で紡糸することで発生するクーロン力によりナノサイズまで延伸する方法、が知られている。
【0005】
(A)海島型複合繊維からナノファイバーを得る方法として、例えば、海成分が5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した改質ポリエステル、島成分がポリエステルである海島型複合繊維を用いて編地を得た後、苛性ソーダ水溶液で海成分である改質ポリエステルを溶解除去することで、直径が10〜1000nmで繊維長が1mm程度のナノファイバーを得る方法(特許文献1)、あるいは、特許文献1で得られるナノファイバー化した編地を高圧水で噴射処理することにより、ナノファイバーがばらけた状態で存在するナノファイバーを含む編地を得る方法(特許文献2)が開示されている。
【0006】
(B)エレクトロスピニング法によるナノファイバーの製造法は、電界場中での紡糸により生成したナノファイバーをコレクターと呼ばれる装置上に堆積させることで直接ウェブを形成できるという利点があるが、製造速度が遅いという問題点があり、工業的規模の紡糸法としては採用されて来なかった。しかし、最近になって、エレクトロスピニング法は、種々の高分子の溶融物や溶液に適用ができ、径が数ナノメートルの繊維からなるウェブの製造も可能であることが報告されたことから、再び注目を浴び、1998年ごろから日本、米国およびドイツを中心にあらたな技術開発が始まった(「ナノファイバーテクノロジーを用いた高度産業発掘戦略」、宮本達也監修、(株)シーエムシー出版、発行日2004年2月)。
【0007】
エレクトロスピニング法によるウェブの製造は、以下の原理による。すなわち、高分子溶液を極細ノズルから押し出す際に高電圧を印加することで、高分子溶液の表面に電荷が誘発され蓄積される。蓄積された電荷はお互いに反発し合うので、この反発力が溶液の表面張力に打ち克った時点で、荷電した溶液がジェットとして噴射される。噴射されたジェットは、その体積に比べて表面積が大きいので、溶媒が効率良く蒸発する。溶媒の蒸発により溶液の体積が減少することで電荷密度が更に高まり、反発力がより増大し、更に細いジェットへと分裂して行くことで、ナノサイズの単繊維径からなるフィラメントが生成する。このフィラメントを、集合体として、コレクターと呼ばれる捕集装置上に捕集することでウェブが形成される。
【0008】
エレクトロスピニング法によりナノファイバーからなるウェブを製造する方法として、例えば、特許文献3には、揮発性の高い溶媒を用い高分子溶液を加温することで吐出量を増加させ、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンあるいはポリイミドの微細繊維よりなる高分子ウェブを効率よく製造する方法が開示されている。また、特許文献4、特許文献5には、塩化リチウムを添加したN,N−ジメチルホルムアミドを溶媒とするポリメタフェニレンイソフタルアミドの溶液を用いて、単繊維径が30〜500nmのナノファイバーからなる不織布を得る方法が開示されている。
【0009】
(C)エレクトロブローン法では、エレクトロスピニング法と同様、高分子溶液を極細ノズルから押し出す際に高電圧を印加するが、その際に、高分子溶液の押し出しノズルの周囲から圧縮ガスを同時に噴射することにより、ナノファイバーからなるウェブを得る方法が開示されている。特許文献6では、ポリエチレンオキシドの水溶液を用いて空気を噴射する方法により、繊維径が100〜700nmのナノファイバーからなるウェブを得ている。また特許文献7では、ポリアクリロニトリルのN,N−ジメチルホルムアミド溶液またはポリフッ化ビニリデンのアセトン溶液を用いて、窒素またはアルゴンガスを噴射し、平均直径が1000nm未満のナノファイバーよりなるウェブを得ている。
【0010】
しかしながら、上記の方法はいずれもナノファイバー生産用の特殊装置を必要とし、また、対象繊維が熱溶融する繊維、あるいは有機溶媒に溶解する繊維に限られ、多種多様な繊維種のナノファイバーを得ることはできない。例えば、パラ系アラミド繊維のように熱溶融せず有機溶媒にも溶解しない繊維では、ナノオーダーの繊維径を有するナノファイバーを糸から製造する方法は、今のところ知られていない。特許文献8には、製織または製編したパラ系アラミド繊維布帛に、ノズル噴射圧5〜30MPa程度の高圧流体処理を施し、繊維をマイクロフィラメント化したものを、多層積層体に用いることにより、突き刺し抵抗性かつ耐切創性に優れ、ごわごわ感がなく作業性に優れた防護衣料を提供できることが開示されているが、ナノファイバーは得られていない。
【0011】
特許文献8の方法ではナノファイバーが得られない原因としては、ノズル噴射圧5〜30MPaの高圧流体処理では、極表層にマイクロフィラメント化層が形成された段階で、このマイクロフィラメント化層により高圧流体が減衰するため、流体が処理布から溢れるように流れて、繊維の内部まで入り込めないため、表面を構成する繊維の大部分がナノファイバーになるまで処理が進行しないものと推定される。
【0012】
一方、パラ系アラミドポリマーは熱溶融せず、また、実質的な溶媒は濃硫酸のみであるため、該ポリマーを濃硫酸に溶解した溶液を液晶紡糸することで繊維が製造される。しかしながら、パラ系アラミドポリマーからの微細直径のナノファイバーを製造する方法としては、前記の、海島型複合繊維からのナノファイバーの製造方法では、使用されるポリマーは熱溶融することが必要であるため、熱溶融しないパラ系アラミドポリマーには適用できない。また、エロクトロスピニングあるいはエレクトロブローンによるナノファイバーの製造法では、使用されるポリマーは、揮発性溶媒に溶解することが必要である。しかし、パラ系アラミドポリマーの実質的溶媒である濃硫酸は極めて沸点が高く、しかも分解して亜硫酸ガスを発生するため、安全性や装置上の問題等があり、好ましい方法ではない。
【0013】
また、特許文献9および特許文献10には、アラミドパルプを製造する技術が開示されている。しかし、重合時の剪断力によりゲル状の樹脂を微細化するこれらの方法では、掛けられる剪断力に限界があり、ナノオーダーまで微細化することはできない。また、該方法は、重合工程または紡糸工程と連動して行われる必要があるため、アラミド糸屑などのリサイクル糸には不適であった。
【0014】
さらに、特許文献11には、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどを溶融処理して高配向半結晶ポリマーフィルムを作製し、該ポリマーフィルムを延伸して表面にマイクロボイド(微視的な空隙)を形成し、該マイクロボイドに十分な流体エネルギーを与えることにより、平均有効直径が20ミクロン未満、好ましくは0.01〜10ミクロンで、アスペクト比が1.5〜20:1の、溶融処理されたマイクロファイバーが得られることが開示されている。しかし、この方法は、ポリマーを溶融処理して得られるフィルムを延伸し、表面にマイクロボイド組織を形成する工程が必須であるため、熱溶融しないパラ系アラミドポリマーには適用できない。また、得られたマイクロファイバーの繊維長は、最長でも400μmであるため、加工性にも劣る。
【0015】
非特許文献1のフィブリル[fibril]の項には、以下の記載がある。“繊維(ガラス繊維や金属繊維などを除く)の直径方向に衝撃力を加えると、繊維の長さ方向に平行に亀裂が生じる。繊維に亀裂が発生して、より細かな繊維に分裂する現象をフィブリル化といい、分裂した繊維をフィブリル(小繊維)という。フィブリルは、各繊維材料に固有のもっとも細い繊維であるミクロフィブリルが集合して形成されると考えられている。液晶ポリマーからなる高強度繊維は、フィブリル化しやすい。”しかし、非特許文献1は、繊維がフィブリル化することを開示してはいるが、生成したフィブリルの繊維径などに関する記載はなく、ナノファイバーを製造する具体的な技術を開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−107160号公報
【特許文献2】特開2007−291567号公報
【特許文献3】特開2002−249966号公報
【特許文献4】特開2008−013872号公報
【特許文献5】特開2008−013873号公報
【特許文献6】特表2008−525669号公報
【特許文献7】特表2008−519169号公報
【特許文献8】特開2007−321262号公報
【特許文献9】米国特許第4,511,623号明細書
【特許文献10】米国特許第4,876,040号明細書
【特許文献11】特表2002−536558号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】平成14(2002)年3月25日発行、「繊維の百科事典」(丸善発行、宮田清蔵編集委員長)、フィブリル[fibril]の項目
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、一旦紡糸させた繊維、特に熱溶融せず、また有機溶媒にも溶解しないパラ系アラミドポリマーからなる繊維等にも適用できる、ナノファイバーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、高配向した繊維集合体にキャビテーションエネルギーを付与することにより、ポリマーを熱溶融することなく、また溶媒を用いることなく、繊維がフィブリル化し、ナノファイバーが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)繊維集合体にキャビテーションエネルギーを与えることにより、該繊維集合体を構成する繊維の少なくとも一部をナノファイバー化させることを特徴とする、ナノファイバーの製造方法。
(2)キャビテーションエネルギーを、液体に浸漬あるいは液体を含浸しながら繊維集合体に超音波を適用することにより与える、上記(1)に記載のナノファイバーの製造方法。
(3)キャビテーションエネルギーを高圧水流処理により与える、上記(1)に記載のナノファイバーの製造方法。
(4)繊維集合体を構成する繊維が高配向繊維である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
(5)繊維集合体を構成する繊維を融点未満またはガラス転移温度未満で予め熱プレスし、その後、該繊維集合体にキャビテーションエネルギーを与える、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
(6)高配向繊維が、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、メタ系アラミド繊維またはポリビニルアルコール系繊維である、上記(4)に記載のナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリマーを熱溶融することなく、また溶媒を用いることなく、ナノファイバー化していない繊維集合体からナノファイバーを得ることができる。織布や不織布などから得られるナノファイバーは、繊維径が非常に細く、かつ、製造されるナノファイバー繊維集合体は加工性に優れている。そのため、本発明で得られるナノファイバー繊維集合体を用いることにより、ナノレベルで異物を濾過できる不織布や、ウイルスなど微細な異物を除去でき通気性に優れる手術用手袋等の繊維製品を得ることができる。
【0022】
また、本発明の方法は、紡糸後の繊維を原料とする方法であり、アラミド糸屑などのリサイクル糸にも適用できるため、実用的価値が非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図2】実施例1で用いた織布の超音波処理前の表面SEM写真である。
【図3】実施例2で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図4】実施例3で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図5】実施例4で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図6】実施例5で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図7】実施例6で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図8】実施例7で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図9】実施例8で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図10】実施例9で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図11】実施例10で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図12】実施例11で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図13】実施例12で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図14】比較例1の超音波処理後の繊維集合体の表面SEM写真である。
【図15】比較例2の超音波処理後の繊維集合体の表面SEM写真である。
【図16】実施例13で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図17】比較例3のサンドブラスト処理後の繊維集合体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のナノファイバーの製造方法において、「繊維集合体」とは、繊維が集合したものを言い、織布(織物)、不織布、コード、撚糸、撚紐、編物、フィラメント糸、あるいは短繊維の集合体が挙げられる。ここで、「短繊維の集合体」とは、フィラメント糸のカットファイバー、ステープル、パルプなどフィラメント糸ではない繊維状物質を言う。使用する短繊維は、使用済みの製品からリサイクルしたものでもよい。繊維集合体としては、前記のフィラメント糸および/または短繊維を用いて製造した、織布(織物)、不織布、撚糸、コード、撚糸、撚紐、編物などが用いられる。これらの繊維集合体のうち、フィブリル化が容易である点からは、短繊維の集合体、織布、不織布、コード、撚糸または撚紐が好ましい。
【0025】
また、本発明で言う「ナノファイバー繊維集合体」とは、上記の繊維集合体を構成する繊維の少なくとも一部がフィブリル化し、フィブリルの直径が1000nm未満のナノファイバーとなっている繊維集合体を言う。
一方、厚み方向すべてがナノファイバーであると、防護衣料等に使用した場合、十分な強度が発揮できない場合が生じる。ナノファイバー層の厚みは使用目的により任意に調整が可能である。
【0026】
本発明のナノファイバーの製造方法では、繊維を用いて公知の方法により製造された、織布、不織布、コード、撚糸、撚紐、編物、フィラメント糸、または、短繊維の集合体などを原料として用いる。織布の織成方法(織り方)としては、例えば、平織、綾織、からみ織、朱子織、三軸織、横縞織、斜文織などが挙げられるが、特に限定されるものではない。不織布としては、例えば、ニードルパンチ不織布、ウォータージェットパンチ不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布などが挙げられるが、特に限定されるものではない。編物の編成方法(編み方)も特に限定されるものではない。これらの織布や編物などを形成する繊維は、フィラメント糸、スパン糸、紡績糸のいずれでもよい。
【0027】
原料として、海島型複合繊維を用いて製造した、織布や不織布、コード、撚糸、撚紐、編物などを用いることもできる。例えば、海成分が5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した改質ポリエステルで、島成分がポリエステルである海島型複合繊維等が挙げられる。
【0028】
次いで、上記の繊維集合体に対し、キャビテーションエネルギーを与えることにより、繊維を長さ方向にフィブリル化させて、ナノファイバーを製造する。繊維集合体として、織布、不織布、コード、撚糸、撚紐、編物などの繊維製品およびフィラメント糸を用いた場合は、繊維集合体の少なくとも一部がナノファイバー化されたナノファイバー繊維集合体となる。また、繊維集合体として、短繊維の集合体を用いた場合は、繊維製品やフィラメント糸を用いた場合よりもナノファイバー繊維集合体に占めるナノファイバーの比率が増加する。
【0029】
キャビテーションエネルギーを与える方法としては、繊維集合体を媒体となる液体(一般には水が用いられる)に浸漬しながら、繊維集合体に超音波を適用することにより、キャビテーションエネルギーを与える方法がある。超音波エネルギーを与える場合、媒体中で、繊維集合体を、超音波発振器から発生する電気エネルギーを機械振動エネルギーに変換するホーンの近くに配置し、超音波に曝す方法がある。超音波の振動方向は、繊維集合体に対して垂直方向となる縦振動が好ましい。繊維集合体とホーンの距離は、約1mm未満とし、ホーンから1/4の波長距離に配置することが好ましいが、繊維集合体をホーンに接触配置すれば良い。
【0030】
キャビテーションの強度、キャビテーション媒体中に曝す時間は、繊維集合体における繊維の種類やナノファイバー化の程度に応じて調整するのが良い。キャビテーションの強度が高くなればなるほど、ナノファイバーの生成速度が速くなり、より細い、アスペクト比が大きいナノファイバーが生成され易くなる。超音波振動周波数は、通常10〜500kHz、好ましくは10〜100kHz、更に好ましくは10〜40kHzである。
【0031】
媒体の温度は特に限定されるものではなく、10〜100℃とするのが好ましい。処理時間は、繊維集合体における繊維の種類、集合体の形態、繊度(太さ)によって異なる。処理時間は1秒〜60分、好ましくは5秒〜10分、更に好ましくは10秒〜2分である。
【0032】
繊維集合体に液体が含浸されている状態であれば、超音波によるキャビテーション処理は大気中でも構わない。大気中で繊維集合体を超音波処理すると霧吹きの様に液体が放出されてしまうので、数秒程度超音波処理した後、液体を繊維集合体に含浸させることを繰り返すか、常時液体を繊維集合体に垂れ流しながら、繊維集合体に超音波処理を行う方法が好ましい。この場合、特に超音波の振動方向は繊維集合体に対して垂直方向となる縦振動が好ましい。
【0033】
超音波以外にキャビテーションエネルギーを与える方法として、繊維集合体を高圧水流処理する方法が挙げられる。即ち、繊維集合体に対して、ノズルから高圧水流を噴射し、噴射によりキャビテーションを発生させて、繊維をフィブリル化させる方法である。ノズルから噴射する時の水の最大処理圧力は、35MPa以上とすることが好ましく、35MPa未満では十分なキャビテーションエネルギーが発生しないため、ナノファイバー化が進まなくなる。ここで言う最大処理圧力とは、例えば高圧水流処理装置に設置された複数本のノズル中、最も低い水圧を意味する。最大処理圧力の上限は、装置構成上から限界があるため、最大処理圧力は35〜412MPa、好ましくは35〜200MPa、特に好ましくは60〜200MPaである。最大処理圧力が200MPaを超えると、キャビテーションエネルギーが大きくなることによって、繊維集合体における繊維の種類によっては、フィブリル化したナノファイバーの脱落が増える恐れがある。
【0034】
噴射液の噴射処理は、孔径0.05〜2.0mmの噴射孔を、孔間隔0.3〜10mmで一列あるいは複数列に多数配列した装置であって、上記の噴射圧力で高圧水流を噴射させることが可能な装置を用い、公知の方法に従って行えば良い。噴射孔と繊維集合体との距離は、10mm〜150mm程度とするのが好ましい。噴射孔と繊維集合体との距離が10mm未満では水流のキャビテーションが発生しにくくなり、150mmを超えると発生したキャビテーションエネルギーが繊維集合体に到達する前に減衰し、ナノナイバー化が進まなくなるからである。
【0035】
いずれのキャビテーション処理においても、繊維集合体を構成する繊維を、該繊維の融点以下またはガラス転移温度以下で予め熱プレスすることは、配向を低下させずに平滑化または結晶サイズを大きくすることができ、繊維のキャビテーションエネルギー吸収性を高めフィブリル化し易くできるので、好ましい前処理である。
【0036】
本発明で用いる繊維としては、パラ系アラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製「ケブラー(登録商標)」、テイジン・アラミド社製「トワロン」);コポリパラフェニレン−3,4−ジフェニールエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製「テクノーラ(登録商標)」)等)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(東洋紡績社製「ザイロン」等)、セルロース系繊維(レンチング社製「リヨセル」等)などの非熱可塑性繊維、全芳香族ポリエステル繊維(クラレ社製「ベクトラン」等)、ポリケトン繊維(旭化成社製「サイバロン」等)、超高分子量ポリエチレン繊維(東洋紡績社製「ダイニーマ」、ハネゥエル社製「スペクトラ」等)、メタ系アラミド繊維(ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」、帝人テクノプロダクツ社製「コーネックス」))、ポリビニルアルコール系繊維(クラレ社製「クラロン」)などが挙げられ、これらの繊維は高配向繊維であるため好ましい繊維である。前記のポリケトン繊維としては、繰り返し単位の95質量%以上が1−オキソトリメチレンにより構成されるポリケトン(PK)繊維、ポリエーテルケトン(PEK)繊維、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維などでもよい。これらの繊維を用いて繊維集合体を作製する場合は、これらの繊維を2種以上併用することもできる。
【0037】
上記の繊維の中でも、耐切創性及び耐熱耐アルカリ性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましく、パラ系アラミド繊維の中でもフィブリル化しやすいポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が、特に好ましい。
【0038】
ナノファイバー化処理する前の繊維集合体を構成する繊維の単糸繊度は、特に限定されるものではないが、0.1〜10dtexであることが好ましく、より好ましくは0.2〜10dtex、特に好ましくは0.4〜5dtexである。0.1dtex未満もしくは10dtexを超える場合は、製糸効率が低いため経済性に劣る。
【0039】
繊維は、JIS L 1013(1999)に基づいて測定される引張強度が10cN/dtex以上の高強度繊維であることが好ましく、より好ましくは15cN/dtex以上である。なお、繊維が高強度であるほど配向度が高くなる傾向があるため、ナノファイバーを製造し易くなる。また、上記の繊維は、高強度かつ高弾性率の繊維であることがより好ましく、該弾性率は、JIS L 1013(1999)に基づいて測定される引張弾性率が400cN/dtex程度以上であることが望ましい。
【0040】
本発明で製造されるナノファイバーは、高配向繊維集合体にキャビテーションエネルギーが与えられることで、高配向した繊維がその長さ方向にフィブリル化して形成されるので、エレクトロスピニング法では得られ難い、高配向のナノファイバーとなる。
【0041】
繊維集合体としてフィラメント糸を用いた場合は、短繊維の集合体を用いた場合に比べて、繊維長の長いナノファイバーが形成される傾向はあるが、キャビテーションエネルギーによって繊維が長さ方向にフィブリル化すると同時に切断され易くなるため、10cmを超える繊維長のナノファイバーを得ることは困難である。一般的に、不織布として利用できる繊維の繊維長が0.1mm以上であることを考慮すると、高配向繊維のカットファイバーや、短繊維の集合体を原料に用いても、不織布を形成するのに十分な長さのナノファイバーが得られる。
【0042】
また、ナノファイバー化処理する前の繊維集合体として織布、不織布はナノファイバー化処理により直接繊維構造体が作成できるので好ましい形態である。防護衣料等の強度が必要な用途には織布が好ましく、フィルター等には不織布が好ましい場合がある。また、ナノファイバー化処理する前の繊維集合体として、コードはナノファイバーを表面層に有する繊維集合体またはナノファイバーで起毛された繊維構造体が作成できるので、タイヤまたはゴム補強用途に好ましい。更に、ナノファイバー化処理する前の繊維集合体として撚糸はナノファイバーを連続不離一体構造を有する繊維集合体が作成でき、これを加工して織布または不織布の形態に利用できるので、熱可塑性樹脂含浸されたFRP用途に好ましい場合がある。
【0043】
キャビテーションエネルギーは、小さな気泡や空洞が急速に形成され、激しく崩壊するときに気泡や空洞から放出されるエネルギーである。本発明において、キャビテーションエネルギーを繊維集合体に与えることで、繊維集合体を構成する繊維がフィブリル化する作用は、ジルコニウムなどの無機粒子による衝撃力や、パルプの叩解や擂り潰しとは異なる作用によりもたらされる。気泡や空洞が崩壊するときに放出されるエネルギーによって繊維軸方向の結合は切断されずに、繊維軸に垂直な方向の結合のみが切断され、その結果、繊維が長さ方向に分裂してフィブリル化するものと推定される。
【0044】
パラ系アラミド繊維などの高配向繊維から形成される繊維集合体においては、繊維軸方向にアラミド分子鎖が強く配向しており、繊維軸に垂直な方向は分子間力や水素結合等の弱い結合力で結合していると推定される。そのため、上記のキャビテーションエネルギーの作用により、繊維の長さ方向の分裂が、より繊維の内部まで進行し、ナノオーダーのレベルまでフィブリル化するものと考えられる。
【0045】
本発明の製造方法によれば、フィブリルの直径(平均繊維径)が20nm以上、1000nm未満のナノファイバーが得られ、その平均繊維長は0.1mm以上、10cm以下である。ナノファイバーは、繊維集合体の少なくとも一部に形成されているので、本発明の製造方法によれば、ナノファイバー繊維集合体が製造される。得られるフィブリルの平均繊維径が20nm以上であるため、取扱い操作性および製造効率がよい。一般に、ウイルスの大きさは20〜970nm、細菌の大きさは1〜5μmであるので、20nm以上あれば通気性と衛生性を両立できる。一方、フィブリルの平均繊維径が1000nm以上になると、不織布にした場合、ナノレベルの濾過が難しくなりウイルスなど微細な異物を除去できなくなる恐れがある。
【0046】
本発明において、ナノファイバー繊維構造体は、ナノファイバーの単繊維の平均繊維径が、好ましくは60nm以上、1000nm未満であり、特に好ましくは60nm以上、950nm以下である。単繊維の平均繊維径が20nm未満の場合は、取扱い操作性が悪く、製造効率も低下する。一般に、ウイルスの大きさは20〜970nm、細菌の大きさは1〜5μmであるので、20nm以上あれば通気性と衛生性を両立できる。一方、単繊維の平均繊維径が1000nm以上になると、不織布にした場合、ナノレベルの濾過が難しくなりウイルスなど微細な異物を除去できなくなる恐れがある。
【0047】
また、本発明のナノファイバー繊維構造体は、ナノファイバーの平均繊維長が0.1mm以上である。キャビテーション処理条件を弱くして繰り返し処理することにより、繊維長の大きいナノファイバーが作製できる傾向にある。用途としては、繊維長の大きいナノファイバーの方が好ましい場合が多いが、取扱い作業の観点から、上限は10cmである。平均繊維長は0.7mm以上、10cm以下であることが好ましく、特に好ましくは1mm以上、5cm以下である。
【0048】
このようにして得られたナノファイバー繊維集合体は、繊維径が非常に細いナノファイバーを少なくとも一部に含んでいるため、ナノレベルで微細な異物を除去でき、通気性に優れている。さらに、高強度高弾性繊維を用いたナノファイバー繊維集合体は高強度であり、特に、非熱可塑性の高強度高弾性繊維は強度、弾性率および耐熱性に優れているため、得られるナノファイバー繊維集合体は高強度、高弾性率、高耐熱性である。
【0049】
なお、上記の方法で製造されたナノファイバー繊維集合体には、さらに、常法の染色加工、撥水加工、親水加工等の各種機能を付与する後処理加工を施してもよい。
【0050】
本発明の製造方法で得られるナノファイバー繊維集合体は、これらの機能を活用して、バイオ・ケミカルハザード防御フィルターや超高精密濾過材等の高性能フィルター、対細菌・化学物質用衣料や防風性・防水性に優れたスポーツ衣料等の衣料材料、ワイピングクロス、ハードディスク研磨布、医療用創傷包帯や組織培養支持体、人工筋肉等の再生医療用材料、燃料電池・二次電池のセパレータや電解質膜、センサー等のウェアラブルエレクトロニクス材料、複合材料、耐熱絶縁材料、軽量車両用材料、高性能アクチュエーター、安全防災用材料、内装材、防音材等の繊維製品として好適に用いることができる。
【0051】
本発明の製造方法で得られるナノファイバー繊維集合体に、微細切断や分散等の加工をした物は、フィルム添加剤、有機・無機ガラス、樹脂や塗料の充填材としても好適に用いることができる。
【0052】
また、本発明の製造方法で得られるナノファイバー繊維集合体は、短繊維の集合体、織布、不織布、撚紐などを原料として製造されうるが、不織布を用いて製造されたナノファイバー繊維集合体(以下、「ナノファイバー繊維不織布」という)は、上記のナノフィブリル化処理によって繊維の交絡状態が乱されている。したがって、このようなナノファイバー繊維不織布を、公知の不織布製造方法で再度処理することもできる。
【実施例】
【0053】
以下に、好ましい実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
[測定方法]
(1)平均繊維径
走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて30〜1000倍に拡大して撮影した写真を用いて、無作為に選出した10箇所のフィブリル化した繊維の直径を実測し、平均値(d)を算出した。
(2)平均繊維長
走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて30〜1000倍に拡大して撮影した写真を用いて、表層に位置するフィブリル化した繊維の長さを実測し、平均値(L)を算出した。
【0055】
(3)ポリマーの固有粘度(I.V.)
I.V.(dl/g)=ln(ηrel)/c
(式中、cはポリマー溶液の濃度(溶媒100mL中0.5gのポリマー)であり、ηrel(相対粘度)は、毛細管粘度計を用いて30℃で測定した時にポリマー溶液が示す流れ時間とその溶媒が示す流れ時間との間の比率である。)
溶媒としては、濃硫酸(96%H2SO4)を用いて測定した。
【0056】
(実施例1)
総繊度が1110dtex、単繊維繊度1.7dtex、フィラメント本数が670本のポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))フィラメント糸を用い、平織織布T713を作製した。「ケブラー」は、引張強度20.3cN/dtex、引張弾性率490cN/dtexのものを用いた。ブランソン超音波プラスチックアッセンブリシステムBranson 2000Xウェルダ(日本エマソン(株)ブランソン事業本部)に、ブースター20KHzおよびホーン11820DAを装着し、用意した平織織布(目付278g/m2)を水中でホーン先端に接触させながら30秒間超音波を発振させた。超音波の振動方向は、繊維集合体である平織織布T713の布面に対して垂直方向となる縦振動とした。処理強度は2500W、振幅は約50μm、振動は20KHzの縦振動でホーン先端よりキャビテーションが観察された。
【0057】
超音波処理後の織布(ナノファイバー繊維集合体)表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、図1に示した。
【0058】
比較のために、平織織布について、超音波処理前の織布表面のSEM写真を、図2に示した
【0059】
図1から、本発明のナノファイバー繊維集合体は、処理前の織布に比べて、繊維が非常に細かくフィブリル化しており、表面を構成する繊維の大部分がナノファイバーであることがわかる。得られたナノファイバー集合体は、白色性および風合いにも優れるものであった。
【0060】
(実施例2)
カット長51mm、繊度1.7dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))ステープルを、ローラーカードを通してウェブに形成し、クロスレーヤで積層してウェブとし、このウェブを100本/cm2の密度でニードルパンチを施して目付280g/m2の不織布を作製した。これを処理対象にした以外は、実施例1と同様に処理を行った。SEM写真を、図3に示した。
【0061】
(実施例3)
カット長51mm、単繊維繊度1.7dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))ステープルを紡績し、総繊度が1110dtexの紡績糸ツイルを作成し、この紡績糸を用い平織織布T102を作製した。この織布を用いた以外は、実施例1と同様に処理を行った。SEM写真を図4に示した。
【0062】
(実施例4)
実施例1で用いた織布T713を用意した。ブランソン超音波プラスチックアッセンブリシステムBranson 2000Xウェルダ(日本エマソン(株)ブランソン事業本部)にブースター15KHzおよびホーン13904DAを装着し、用意した平織織布(目付278g/m2)に水を含ませて空気中でホーン先端に接触させながら1秒間超音波を発振させた。超音波により水が霧状に放出され若干乾燥状態になったので、再度水を含ませて空気中でホーン先端に接触させながら1秒間超音波を発振させた。この間欠超音波処理を合計30回繰り返した。超音波の振動方向は全て平織織布に対して垂直方向となる縦振動とした。振幅は約50μm、振動は15KHzの縦振動でホーン先端よりキャビテーションが観察された。SEM写真を図5に示した。
【0063】
(実施例5)
実施例2で用いた不織布を用意し、該不織布を用いた以外は、実施例4と同様に処理を行った。SEM写真を図6に示した。
【0064】
(実施例6)
実施例2で用いた不織布を用意した。ブランソン超音波プラスチックアッセンブリシステムBranson 2000Xウェルダ(日本エマソン(株)ブランソン事業本部)にブースター40KHzおよびホーンJT577DA(チタンホーン)を装着し、用意した不織布を水中でホーン先端に接触させながら30秒間超音波を発振させた。振幅は約40μm、振動は40KHzの縦振動でホーン先端よりキャビテーションが観察された。SEM写真を図7に示した。
【0065】
(実施例7)
総繊度1670dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))を10cmで35回転撚ったフィラメント2本組からなるコードを用いた以外は、実施例1と同様に処理を行った。
ブランソン超音波プラスチックアッセンブリシステムBranson 2000Xウェルダ(日本エマソン(株)ブランソン事業本部)に、ブースター20KHzおよびホーン11820DAを装着し、用意したコードを水中でホーン先端に接触させながら30秒間超音波を発振させた。処理強度は2500W、振幅は約50μm、振動は20KHzの縦振動でホーン先端よりキャビテーションが観察された。SEM写真を図8に示した。
【0066】
図1〜図8から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維集合体である、織布、不織布及びコードに超音波処理することにより、表面の大部分がナノフィブリル化したナノファイバー繊維集合体が得られることがわかる。得られたナノファイバー繊維集合体は、通気性にも優れるものであった。
【0067】
上記の実施例1〜3、7で製造したナノファイバー繊維集合体における、フィブリル化した繊維の性状を表1にまとめて示した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果から、原料となる高強度高弾性繊維の処理条件を変更することにより、ナノファイバーの平均繊維径が20nm以上1000nm未満、平均繊維長が0.1mm以上10cm以下である、新規なパラ系アラミドナノファイバーが得られることがわかる。得られたナノファイバーの固有粘度(すなわち、ナノファイバー処理後のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度)は表1に示すように5.6であった。ナノファイバー化処理前のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度が5.7であることから、ナノファイバー化処理による固有粘度低下率は2%であり、ポリパラフェニレンテレフタルアミドは劣化していないことがわかる。
【0070】
(実施例8)
総繊度1670dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(テイジン・アラミド(株)製「トワロン」(登録商標))を用い撚糸(30cm当たり35回転)を作製した。この撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図9に示した。
【0071】
(実施例9)
総繊度1670dtexの共重合ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製「テクノーラ」(登録商標))を用い撚糸(30cm当たり35回転)を作製した。この撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図10に示した。
【0072】
(実施例10)
総繊度1670dtexのポリベンゾオキサゾール繊維(東洋紡績(株)製「ザイロン」(登録商標))撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図11に示した。
【0073】
(実施例11)
総繊度1670dtexのポリケトン繊維(旭化成(株)製「サイバロン」(登録商標))撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図12に示した。
【0074】
(実施例12)
総繊度1670dtexの液晶性芳香族ポリエステル繊維((株)クラレ製「ベクトラン」(登録商標))撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図13に示した。
【0075】
(比較例1)
市販のポリエチレン繊維(東洋紡績(株)製「ツヌーガ」(登録商標))を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図14に示した。
【0076】
(比較例2)
市販のナイロン66繊維ポリエチレンテレフタレート繊維を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図15に示した。
【0077】
図9〜図13からわかるとおり、高配向繊維集合体である撚糸に超音波処理することにより、表面の大部分がナノフィブリル化したナノファイバー繊維集合体が得られている。これに対し、図14〜図15からわかるとおり、高配向していない繊維集合体に超音波処理しても、ナノファイバー繊維集合体は得られなかった。
【0078】
(実施例13)
実施例1で用いた織布T713を用意した。超高圧水流装置インテグレイテッド・フライング・ブリッジ((株)フロージャパン製)を用いて、用意した平織織布(目付278g/m2)を高圧水流処理した。水流ノズルと織布との距離は30mmとし、噴射空気圧は100MPaとした。超高圧水流装置の仕様は以下の通りである。
【0079】
・超高圧ウオータージェットポンプ:20XWD
最大吐出圧力:60,000psi(412MPa、4,200kg/cm2)
最大吐出流量:7.6Ltr/min
・搬動装置:KUKA製 KR30HA 6軸ロボット
可搬重量:60kg
繰返精度:±0.20mm
・ノズルハウジング回転機構:R-3000
・ウオータージェットノズル:ダイヤモンドファンジェット
【0080】
高圧水流処理理後の織布(ナノファイバー繊維集合体)表面のSEM写真を、図16に示した。
【0081】
図16から、本発明のナノファイバー繊維集合体は、処理前の織布に比べて、繊維が非常に細かくフィブリル化しており、表面を構成する繊維の大部分がナノファイバーであることがわかる。得られたナノファイバー集合体は、白色性および風合いにも優れるものであった。
【0082】
(実施例14)
実施例2で用いた不織布を用意した。水流ノズルと織布の距離を120mm、噴射空気圧を100MPaとした以外は、実施例13と同様に処理を行った。
【0083】
(比較例3)
実施例2で用いた不織布を用意した。水流ノズルと織布の距離を30mm、噴射空気圧を25MPaとした以外は、実施例13と同様に処理を行った。
【0084】
(比較例4)
実施例1で用いた織布T713を用意した。この平織織布の表面を、ジルコニウム粒子((株)不二製作所製)で1分間サンドブラスト処理した。処理後の織布表面のSEM写真を、図17に示した。ジルコニウムは硬く重量のある無機粒子であり、対象物に与える衝撃性は高いが、図17から、繊維はナノファイバー化していないことがわかる。
【0085】
上記の実施例13〜14及び比較例3で製造したナノファイバー繊維集合体における、フィブリル化した繊維の性状を表2にまとめて示した。
【0086】
【表2】
【0087】
表2の結果から、原料となる高強度高弾性繊維の処理条件を変更することにより、ナノファイバーの平均繊維径が20nm以上1000nm未満、平均繊維長が0.1mm以上10cm以下である、新規なパラ系アラミドナノファイバーが得られていることがわかる。得られたナノファイバーの固有粘度(すなわち、ナノファイバー処理後のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度)は表2に示すように5.4であった。ナノファイバー化処理前のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度が5.7であることから、ナノファイバー化処理による固有粘度低下率は5%であり、ポリパラフェニレンテレフタルアミドは劣化していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により製造されるナノファイバー繊維集合体は、不織布あるいは織布などの形態で、バイオ・ケミカルハザード防御フィルター等の高性能フィルター、複合材料、耐熱絶縁材料、軽量車両用材料、安全防災用材料、対細菌・化学物質用衣料、内装材、電池セパレータ、スポーツ衣料、高効率燃料電池用、二次電池用電極材料超高性能キャパシター、ハードディスク用研磨布、ワイピングクロス、防音材など各種繊維製品に幅広く利用できる。特に、消防隊員、警察官、医者、プラントエンジニア等が着用する防護服に好ましく利用できる。
【0089】
本発明により製造されるナノファイバー繊維集合体は、フィルム、樹脂、ガラス、塗料などの添加材として幅広く利用できる。特に、フィルム、樹脂、ガラスの強化材として好適である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバーの製造方法に関し、詳細には、一旦紡糸させた繊維からなる繊維集合体の少なくとも一部を、溶融処理することなくナノファイバー化させることが可能な、ナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単繊維直径がナノオーダーである有機繊維よりなるナノファイバーは、ナノ構造による特異な機能発現が期待されることから、近年注目されている。例えば、ナノファイバーは通常の繊維と比較して比表面積が非常に大きいことから、従来の繊維が有するポリマー固有の性質のほかに、優れた吸着特性や接着特性、ナノオーダーでの空孔制御や高度な分子組織化に由来する機能、あるいは優れた生体適合性といった新機能が発現する。そのため、これらの機能を活用することで、従来にない新素材の開発が期待できる。
【0003】
例えば、ナノファイバーは、再生医療用材料、ウェアラブルエレクトロニクスセンサー、バイオ・ケミカルハザード防御フィルター、複合材料、耐熱絶縁材料、軽量車両用高性能アクチュエーター、人工筋肉、安全防災用材料、対細菌・化学物質用衣料、内装材、電池セパレータ、スポーツ衣料、高性能フィルター、燃料電池用キャパシター、二次電池用電極材料、ハードディスク用研磨布、ワイピングクロス、防音材などへの応用が期待されている。
【0004】
ナノファイバーを製造する方法としては、(A)海島型複合繊維から海成分を除去し、島成分よりなるナノサイズのフィブリルを得る方法、(B)エレクトロスピニング法、または(C)エレクトロブロー法のように電界場中で紡糸することで発生するクーロン力によりナノサイズまで延伸する方法、が知られている。
【0005】
(A)海島型複合繊維からナノファイバーを得る方法として、例えば、海成分が5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した改質ポリエステル、島成分がポリエステルである海島型複合繊維を用いて編地を得た後、苛性ソーダ水溶液で海成分である改質ポリエステルを溶解除去することで、直径が10〜1000nmで繊維長が1mm程度のナノファイバーを得る方法(特許文献1)、あるいは、特許文献1で得られるナノファイバー化した編地を高圧水で噴射処理することにより、ナノファイバーがばらけた状態で存在するナノファイバーを含む編地を得る方法(特許文献2)が開示されている。
【0006】
(B)エレクトロスピニング法によるナノファイバーの製造法は、電界場中での紡糸により生成したナノファイバーをコレクターと呼ばれる装置上に堆積させることで直接ウェブを形成できるという利点があるが、製造速度が遅いという問題点があり、工業的規模の紡糸法としては採用されて来なかった。しかし、最近になって、エレクトロスピニング法は、種々の高分子の溶融物や溶液に適用ができ、径が数ナノメートルの繊維からなるウェブの製造も可能であることが報告されたことから、再び注目を浴び、1998年ごろから日本、米国およびドイツを中心にあらたな技術開発が始まった(「ナノファイバーテクノロジーを用いた高度産業発掘戦略」、宮本達也監修、(株)シーエムシー出版、発行日2004年2月)。
【0007】
エレクトロスピニング法によるウェブの製造は、以下の原理による。すなわち、高分子溶液を極細ノズルから押し出す際に高電圧を印加することで、高分子溶液の表面に電荷が誘発され蓄積される。蓄積された電荷はお互いに反発し合うので、この反発力が溶液の表面張力に打ち克った時点で、荷電した溶液がジェットとして噴射される。噴射されたジェットは、その体積に比べて表面積が大きいので、溶媒が効率良く蒸発する。溶媒の蒸発により溶液の体積が減少することで電荷密度が更に高まり、反発力がより増大し、更に細いジェットへと分裂して行くことで、ナノサイズの単繊維径からなるフィラメントが生成する。このフィラメントを、集合体として、コレクターと呼ばれる捕集装置上に捕集することでウェブが形成される。
【0008】
エレクトロスピニング法によりナノファイバーからなるウェブを製造する方法として、例えば、特許文献3には、揮発性の高い溶媒を用い高分子溶液を加温することで吐出量を増加させ、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンあるいはポリイミドの微細繊維よりなる高分子ウェブを効率よく製造する方法が開示されている。また、特許文献4、特許文献5には、塩化リチウムを添加したN,N−ジメチルホルムアミドを溶媒とするポリメタフェニレンイソフタルアミドの溶液を用いて、単繊維径が30〜500nmのナノファイバーからなる不織布を得る方法が開示されている。
【0009】
(C)エレクトロブローン法では、エレクトロスピニング法と同様、高分子溶液を極細ノズルから押し出す際に高電圧を印加するが、その際に、高分子溶液の押し出しノズルの周囲から圧縮ガスを同時に噴射することにより、ナノファイバーからなるウェブを得る方法が開示されている。特許文献6では、ポリエチレンオキシドの水溶液を用いて空気を噴射する方法により、繊維径が100〜700nmのナノファイバーからなるウェブを得ている。また特許文献7では、ポリアクリロニトリルのN,N−ジメチルホルムアミド溶液またはポリフッ化ビニリデンのアセトン溶液を用いて、窒素またはアルゴンガスを噴射し、平均直径が1000nm未満のナノファイバーよりなるウェブを得ている。
【0010】
しかしながら、上記の方法はいずれもナノファイバー生産用の特殊装置を必要とし、また、対象繊維が熱溶融する繊維、あるいは有機溶媒に溶解する繊維に限られ、多種多様な繊維種のナノファイバーを得ることはできない。例えば、パラ系アラミド繊維のように熱溶融せず有機溶媒にも溶解しない繊維では、ナノオーダーの繊維径を有するナノファイバーを糸から製造する方法は、今のところ知られていない。特許文献8には、製織または製編したパラ系アラミド繊維布帛に、ノズル噴射圧5〜30MPa程度の高圧流体処理を施し、繊維をマイクロフィラメント化したものを、多層積層体に用いることにより、突き刺し抵抗性かつ耐切創性に優れ、ごわごわ感がなく作業性に優れた防護衣料を提供できることが開示されているが、ナノファイバーは得られていない。
【0011】
特許文献8の方法ではナノファイバーが得られない原因としては、ノズル噴射圧5〜30MPaの高圧流体処理では、極表層にマイクロフィラメント化層が形成された段階で、このマイクロフィラメント化層により高圧流体が減衰するため、流体が処理布から溢れるように流れて、繊維の内部まで入り込めないため、表面を構成する繊維の大部分がナノファイバーになるまで処理が進行しないものと推定される。
【0012】
一方、パラ系アラミドポリマーは熱溶融せず、また、実質的な溶媒は濃硫酸のみであるため、該ポリマーを濃硫酸に溶解した溶液を液晶紡糸することで繊維が製造される。しかしながら、パラ系アラミドポリマーからの微細直径のナノファイバーを製造する方法としては、前記の、海島型複合繊維からのナノファイバーの製造方法では、使用されるポリマーは熱溶融することが必要であるため、熱溶融しないパラ系アラミドポリマーには適用できない。また、エロクトロスピニングあるいはエレクトロブローンによるナノファイバーの製造法では、使用されるポリマーは、揮発性溶媒に溶解することが必要である。しかし、パラ系アラミドポリマーの実質的溶媒である濃硫酸は極めて沸点が高く、しかも分解して亜硫酸ガスを発生するため、安全性や装置上の問題等があり、好ましい方法ではない。
【0013】
また、特許文献9および特許文献10には、アラミドパルプを製造する技術が開示されている。しかし、重合時の剪断力によりゲル状の樹脂を微細化するこれらの方法では、掛けられる剪断力に限界があり、ナノオーダーまで微細化することはできない。また、該方法は、重合工程または紡糸工程と連動して行われる必要があるため、アラミド糸屑などのリサイクル糸には不適であった。
【0014】
さらに、特許文献11には、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどを溶融処理して高配向半結晶ポリマーフィルムを作製し、該ポリマーフィルムを延伸して表面にマイクロボイド(微視的な空隙)を形成し、該マイクロボイドに十分な流体エネルギーを与えることにより、平均有効直径が20ミクロン未満、好ましくは0.01〜10ミクロンで、アスペクト比が1.5〜20:1の、溶融処理されたマイクロファイバーが得られることが開示されている。しかし、この方法は、ポリマーを溶融処理して得られるフィルムを延伸し、表面にマイクロボイド組織を形成する工程が必須であるため、熱溶融しないパラ系アラミドポリマーには適用できない。また、得られたマイクロファイバーの繊維長は、最長でも400μmであるため、加工性にも劣る。
【0015】
非特許文献1のフィブリル[fibril]の項には、以下の記載がある。“繊維(ガラス繊維や金属繊維などを除く)の直径方向に衝撃力を加えると、繊維の長さ方向に平行に亀裂が生じる。繊維に亀裂が発生して、より細かな繊維に分裂する現象をフィブリル化といい、分裂した繊維をフィブリル(小繊維)という。フィブリルは、各繊維材料に固有のもっとも細い繊維であるミクロフィブリルが集合して形成されると考えられている。液晶ポリマーからなる高強度繊維は、フィブリル化しやすい。”しかし、非特許文献1は、繊維がフィブリル化することを開示してはいるが、生成したフィブリルの繊維径などに関する記載はなく、ナノファイバーを製造する具体的な技術を開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−107160号公報
【特許文献2】特開2007−291567号公報
【特許文献3】特開2002−249966号公報
【特許文献4】特開2008−013872号公報
【特許文献5】特開2008−013873号公報
【特許文献6】特表2008−525669号公報
【特許文献7】特表2008−519169号公報
【特許文献8】特開2007−321262号公報
【特許文献9】米国特許第4,511,623号明細書
【特許文献10】米国特許第4,876,040号明細書
【特許文献11】特表2002−536558号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】平成14(2002)年3月25日発行、「繊維の百科事典」(丸善発行、宮田清蔵編集委員長)、フィブリル[fibril]の項目
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、一旦紡糸させた繊維、特に熱溶融せず、また有機溶媒にも溶解しないパラ系アラミドポリマーからなる繊維等にも適用できる、ナノファイバーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、高配向した繊維集合体にキャビテーションエネルギーを付与することにより、ポリマーを熱溶融することなく、また溶媒を用いることなく、繊維がフィブリル化し、ナノファイバーが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)繊維集合体にキャビテーションエネルギーを与えることにより、該繊維集合体を構成する繊維の少なくとも一部をナノファイバー化させることを特徴とする、ナノファイバーの製造方法。
(2)キャビテーションエネルギーを、液体に浸漬あるいは液体を含浸しながら繊維集合体に超音波を適用することにより与える、上記(1)に記載のナノファイバーの製造方法。
(3)キャビテーションエネルギーを高圧水流処理により与える、上記(1)に記載のナノファイバーの製造方法。
(4)繊維集合体を構成する繊維が高配向繊維である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
(5)繊維集合体を構成する繊維を融点未満またはガラス転移温度未満で予め熱プレスし、その後、該繊維集合体にキャビテーションエネルギーを与える、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
(6)高配向繊維が、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、メタ系アラミド繊維またはポリビニルアルコール系繊維である、上記(4)に記載のナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリマーを熱溶融することなく、また溶媒を用いることなく、ナノファイバー化していない繊維集合体からナノファイバーを得ることができる。織布や不織布などから得られるナノファイバーは、繊維径が非常に細く、かつ、製造されるナノファイバー繊維集合体は加工性に優れている。そのため、本発明で得られるナノファイバー繊維集合体を用いることにより、ナノレベルで異物を濾過できる不織布や、ウイルスなど微細な異物を除去でき通気性に優れる手術用手袋等の繊維製品を得ることができる。
【0022】
また、本発明の方法は、紡糸後の繊維を原料とする方法であり、アラミド糸屑などのリサイクル糸にも適用できるため、実用的価値が非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図2】実施例1で用いた織布の超音波処理前の表面SEM写真である。
【図3】実施例2で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図4】実施例3で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図5】実施例4で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図6】実施例5で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図7】実施例6で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図8】実施例7で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図9】実施例8で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図10】実施例9で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図11】実施例10で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図12】実施例11で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図13】実施例12で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図14】比較例1の超音波処理後の繊維集合体の表面SEM写真である。
【図15】比較例2の超音波処理後の繊維集合体の表面SEM写真である。
【図16】実施例13で製造したナノファイバー繊維集合体の表面SEM写真である。
【図17】比較例3のサンドブラスト処理後の繊維集合体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のナノファイバーの製造方法において、「繊維集合体」とは、繊維が集合したものを言い、織布(織物)、不織布、コード、撚糸、撚紐、編物、フィラメント糸、あるいは短繊維の集合体が挙げられる。ここで、「短繊維の集合体」とは、フィラメント糸のカットファイバー、ステープル、パルプなどフィラメント糸ではない繊維状物質を言う。使用する短繊維は、使用済みの製品からリサイクルしたものでもよい。繊維集合体としては、前記のフィラメント糸および/または短繊維を用いて製造した、織布(織物)、不織布、撚糸、コード、撚糸、撚紐、編物などが用いられる。これらの繊維集合体のうち、フィブリル化が容易である点からは、短繊維の集合体、織布、不織布、コード、撚糸または撚紐が好ましい。
【0025】
また、本発明で言う「ナノファイバー繊維集合体」とは、上記の繊維集合体を構成する繊維の少なくとも一部がフィブリル化し、フィブリルの直径が1000nm未満のナノファイバーとなっている繊維集合体を言う。
一方、厚み方向すべてがナノファイバーであると、防護衣料等に使用した場合、十分な強度が発揮できない場合が生じる。ナノファイバー層の厚みは使用目的により任意に調整が可能である。
【0026】
本発明のナノファイバーの製造方法では、繊維を用いて公知の方法により製造された、織布、不織布、コード、撚糸、撚紐、編物、フィラメント糸、または、短繊維の集合体などを原料として用いる。織布の織成方法(織り方)としては、例えば、平織、綾織、からみ織、朱子織、三軸織、横縞織、斜文織などが挙げられるが、特に限定されるものではない。不織布としては、例えば、ニードルパンチ不織布、ウォータージェットパンチ不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布などが挙げられるが、特に限定されるものではない。編物の編成方法(編み方)も特に限定されるものではない。これらの織布や編物などを形成する繊維は、フィラメント糸、スパン糸、紡績糸のいずれでもよい。
【0027】
原料として、海島型複合繊維を用いて製造した、織布や不織布、コード、撚糸、撚紐、編物などを用いることもできる。例えば、海成分が5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した改質ポリエステルで、島成分がポリエステルである海島型複合繊維等が挙げられる。
【0028】
次いで、上記の繊維集合体に対し、キャビテーションエネルギーを与えることにより、繊維を長さ方向にフィブリル化させて、ナノファイバーを製造する。繊維集合体として、織布、不織布、コード、撚糸、撚紐、編物などの繊維製品およびフィラメント糸を用いた場合は、繊維集合体の少なくとも一部がナノファイバー化されたナノファイバー繊維集合体となる。また、繊維集合体として、短繊維の集合体を用いた場合は、繊維製品やフィラメント糸を用いた場合よりもナノファイバー繊維集合体に占めるナノファイバーの比率が増加する。
【0029】
キャビテーションエネルギーを与える方法としては、繊維集合体を媒体となる液体(一般には水が用いられる)に浸漬しながら、繊維集合体に超音波を適用することにより、キャビテーションエネルギーを与える方法がある。超音波エネルギーを与える場合、媒体中で、繊維集合体を、超音波発振器から発生する電気エネルギーを機械振動エネルギーに変換するホーンの近くに配置し、超音波に曝す方法がある。超音波の振動方向は、繊維集合体に対して垂直方向となる縦振動が好ましい。繊維集合体とホーンの距離は、約1mm未満とし、ホーンから1/4の波長距離に配置することが好ましいが、繊維集合体をホーンに接触配置すれば良い。
【0030】
キャビテーションの強度、キャビテーション媒体中に曝す時間は、繊維集合体における繊維の種類やナノファイバー化の程度に応じて調整するのが良い。キャビテーションの強度が高くなればなるほど、ナノファイバーの生成速度が速くなり、より細い、アスペクト比が大きいナノファイバーが生成され易くなる。超音波振動周波数は、通常10〜500kHz、好ましくは10〜100kHz、更に好ましくは10〜40kHzである。
【0031】
媒体の温度は特に限定されるものではなく、10〜100℃とするのが好ましい。処理時間は、繊維集合体における繊維の種類、集合体の形態、繊度(太さ)によって異なる。処理時間は1秒〜60分、好ましくは5秒〜10分、更に好ましくは10秒〜2分である。
【0032】
繊維集合体に液体が含浸されている状態であれば、超音波によるキャビテーション処理は大気中でも構わない。大気中で繊維集合体を超音波処理すると霧吹きの様に液体が放出されてしまうので、数秒程度超音波処理した後、液体を繊維集合体に含浸させることを繰り返すか、常時液体を繊維集合体に垂れ流しながら、繊維集合体に超音波処理を行う方法が好ましい。この場合、特に超音波の振動方向は繊維集合体に対して垂直方向となる縦振動が好ましい。
【0033】
超音波以外にキャビテーションエネルギーを与える方法として、繊維集合体を高圧水流処理する方法が挙げられる。即ち、繊維集合体に対して、ノズルから高圧水流を噴射し、噴射によりキャビテーションを発生させて、繊維をフィブリル化させる方法である。ノズルから噴射する時の水の最大処理圧力は、35MPa以上とすることが好ましく、35MPa未満では十分なキャビテーションエネルギーが発生しないため、ナノファイバー化が進まなくなる。ここで言う最大処理圧力とは、例えば高圧水流処理装置に設置された複数本のノズル中、最も低い水圧を意味する。最大処理圧力の上限は、装置構成上から限界があるため、最大処理圧力は35〜412MPa、好ましくは35〜200MPa、特に好ましくは60〜200MPaである。最大処理圧力が200MPaを超えると、キャビテーションエネルギーが大きくなることによって、繊維集合体における繊維の種類によっては、フィブリル化したナノファイバーの脱落が増える恐れがある。
【0034】
噴射液の噴射処理は、孔径0.05〜2.0mmの噴射孔を、孔間隔0.3〜10mmで一列あるいは複数列に多数配列した装置であって、上記の噴射圧力で高圧水流を噴射させることが可能な装置を用い、公知の方法に従って行えば良い。噴射孔と繊維集合体との距離は、10mm〜150mm程度とするのが好ましい。噴射孔と繊維集合体との距離が10mm未満では水流のキャビテーションが発生しにくくなり、150mmを超えると発生したキャビテーションエネルギーが繊維集合体に到達する前に減衰し、ナノナイバー化が進まなくなるからである。
【0035】
いずれのキャビテーション処理においても、繊維集合体を構成する繊維を、該繊維の融点以下またはガラス転移温度以下で予め熱プレスすることは、配向を低下させずに平滑化または結晶サイズを大きくすることができ、繊維のキャビテーションエネルギー吸収性を高めフィブリル化し易くできるので、好ましい前処理である。
【0036】
本発明で用いる繊維としては、パラ系アラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製「ケブラー(登録商標)」、テイジン・アラミド社製「トワロン」);コポリパラフェニレン−3,4−ジフェニールエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製「テクノーラ(登録商標)」)等)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(東洋紡績社製「ザイロン」等)、セルロース系繊維(レンチング社製「リヨセル」等)などの非熱可塑性繊維、全芳香族ポリエステル繊維(クラレ社製「ベクトラン」等)、ポリケトン繊維(旭化成社製「サイバロン」等)、超高分子量ポリエチレン繊維(東洋紡績社製「ダイニーマ」、ハネゥエル社製「スペクトラ」等)、メタ系アラミド繊維(ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」、帝人テクノプロダクツ社製「コーネックス」))、ポリビニルアルコール系繊維(クラレ社製「クラロン」)などが挙げられ、これらの繊維は高配向繊維であるため好ましい繊維である。前記のポリケトン繊維としては、繰り返し単位の95質量%以上が1−オキソトリメチレンにより構成されるポリケトン(PK)繊維、ポリエーテルケトン(PEK)繊維、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維などでもよい。これらの繊維を用いて繊維集合体を作製する場合は、これらの繊維を2種以上併用することもできる。
【0037】
上記の繊維の中でも、耐切創性及び耐熱耐アルカリ性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましく、パラ系アラミド繊維の中でもフィブリル化しやすいポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が、特に好ましい。
【0038】
ナノファイバー化処理する前の繊維集合体を構成する繊維の単糸繊度は、特に限定されるものではないが、0.1〜10dtexであることが好ましく、より好ましくは0.2〜10dtex、特に好ましくは0.4〜5dtexである。0.1dtex未満もしくは10dtexを超える場合は、製糸効率が低いため経済性に劣る。
【0039】
繊維は、JIS L 1013(1999)に基づいて測定される引張強度が10cN/dtex以上の高強度繊維であることが好ましく、より好ましくは15cN/dtex以上である。なお、繊維が高強度であるほど配向度が高くなる傾向があるため、ナノファイバーを製造し易くなる。また、上記の繊維は、高強度かつ高弾性率の繊維であることがより好ましく、該弾性率は、JIS L 1013(1999)に基づいて測定される引張弾性率が400cN/dtex程度以上であることが望ましい。
【0040】
本発明で製造されるナノファイバーは、高配向繊維集合体にキャビテーションエネルギーが与えられることで、高配向した繊維がその長さ方向にフィブリル化して形成されるので、エレクトロスピニング法では得られ難い、高配向のナノファイバーとなる。
【0041】
繊維集合体としてフィラメント糸を用いた場合は、短繊維の集合体を用いた場合に比べて、繊維長の長いナノファイバーが形成される傾向はあるが、キャビテーションエネルギーによって繊維が長さ方向にフィブリル化すると同時に切断され易くなるため、10cmを超える繊維長のナノファイバーを得ることは困難である。一般的に、不織布として利用できる繊維の繊維長が0.1mm以上であることを考慮すると、高配向繊維のカットファイバーや、短繊維の集合体を原料に用いても、不織布を形成するのに十分な長さのナノファイバーが得られる。
【0042】
また、ナノファイバー化処理する前の繊維集合体として織布、不織布はナノファイバー化処理により直接繊維構造体が作成できるので好ましい形態である。防護衣料等の強度が必要な用途には織布が好ましく、フィルター等には不織布が好ましい場合がある。また、ナノファイバー化処理する前の繊維集合体として、コードはナノファイバーを表面層に有する繊維集合体またはナノファイバーで起毛された繊維構造体が作成できるので、タイヤまたはゴム補強用途に好ましい。更に、ナノファイバー化処理する前の繊維集合体として撚糸はナノファイバーを連続不離一体構造を有する繊維集合体が作成でき、これを加工して織布または不織布の形態に利用できるので、熱可塑性樹脂含浸されたFRP用途に好ましい場合がある。
【0043】
キャビテーションエネルギーは、小さな気泡や空洞が急速に形成され、激しく崩壊するときに気泡や空洞から放出されるエネルギーである。本発明において、キャビテーションエネルギーを繊維集合体に与えることで、繊維集合体を構成する繊維がフィブリル化する作用は、ジルコニウムなどの無機粒子による衝撃力や、パルプの叩解や擂り潰しとは異なる作用によりもたらされる。気泡や空洞が崩壊するときに放出されるエネルギーによって繊維軸方向の結合は切断されずに、繊維軸に垂直な方向の結合のみが切断され、その結果、繊維が長さ方向に分裂してフィブリル化するものと推定される。
【0044】
パラ系アラミド繊維などの高配向繊維から形成される繊維集合体においては、繊維軸方向にアラミド分子鎖が強く配向しており、繊維軸に垂直な方向は分子間力や水素結合等の弱い結合力で結合していると推定される。そのため、上記のキャビテーションエネルギーの作用により、繊維の長さ方向の分裂が、より繊維の内部まで進行し、ナノオーダーのレベルまでフィブリル化するものと考えられる。
【0045】
本発明の製造方法によれば、フィブリルの直径(平均繊維径)が20nm以上、1000nm未満のナノファイバーが得られ、その平均繊維長は0.1mm以上、10cm以下である。ナノファイバーは、繊維集合体の少なくとも一部に形成されているので、本発明の製造方法によれば、ナノファイバー繊維集合体が製造される。得られるフィブリルの平均繊維径が20nm以上であるため、取扱い操作性および製造効率がよい。一般に、ウイルスの大きさは20〜970nm、細菌の大きさは1〜5μmであるので、20nm以上あれば通気性と衛生性を両立できる。一方、フィブリルの平均繊維径が1000nm以上になると、不織布にした場合、ナノレベルの濾過が難しくなりウイルスなど微細な異物を除去できなくなる恐れがある。
【0046】
本発明において、ナノファイバー繊維構造体は、ナノファイバーの単繊維の平均繊維径が、好ましくは60nm以上、1000nm未満であり、特に好ましくは60nm以上、950nm以下である。単繊維の平均繊維径が20nm未満の場合は、取扱い操作性が悪く、製造効率も低下する。一般に、ウイルスの大きさは20〜970nm、細菌の大きさは1〜5μmであるので、20nm以上あれば通気性と衛生性を両立できる。一方、単繊維の平均繊維径が1000nm以上になると、不織布にした場合、ナノレベルの濾過が難しくなりウイルスなど微細な異物を除去できなくなる恐れがある。
【0047】
また、本発明のナノファイバー繊維構造体は、ナノファイバーの平均繊維長が0.1mm以上である。キャビテーション処理条件を弱くして繰り返し処理することにより、繊維長の大きいナノファイバーが作製できる傾向にある。用途としては、繊維長の大きいナノファイバーの方が好ましい場合が多いが、取扱い作業の観点から、上限は10cmである。平均繊維長は0.7mm以上、10cm以下であることが好ましく、特に好ましくは1mm以上、5cm以下である。
【0048】
このようにして得られたナノファイバー繊維集合体は、繊維径が非常に細いナノファイバーを少なくとも一部に含んでいるため、ナノレベルで微細な異物を除去でき、通気性に優れている。さらに、高強度高弾性繊維を用いたナノファイバー繊維集合体は高強度であり、特に、非熱可塑性の高強度高弾性繊維は強度、弾性率および耐熱性に優れているため、得られるナノファイバー繊維集合体は高強度、高弾性率、高耐熱性である。
【0049】
なお、上記の方法で製造されたナノファイバー繊維集合体には、さらに、常法の染色加工、撥水加工、親水加工等の各種機能を付与する後処理加工を施してもよい。
【0050】
本発明の製造方法で得られるナノファイバー繊維集合体は、これらの機能を活用して、バイオ・ケミカルハザード防御フィルターや超高精密濾過材等の高性能フィルター、対細菌・化学物質用衣料や防風性・防水性に優れたスポーツ衣料等の衣料材料、ワイピングクロス、ハードディスク研磨布、医療用創傷包帯や組織培養支持体、人工筋肉等の再生医療用材料、燃料電池・二次電池のセパレータや電解質膜、センサー等のウェアラブルエレクトロニクス材料、複合材料、耐熱絶縁材料、軽量車両用材料、高性能アクチュエーター、安全防災用材料、内装材、防音材等の繊維製品として好適に用いることができる。
【0051】
本発明の製造方法で得られるナノファイバー繊維集合体に、微細切断や分散等の加工をした物は、フィルム添加剤、有機・無機ガラス、樹脂や塗料の充填材としても好適に用いることができる。
【0052】
また、本発明の製造方法で得られるナノファイバー繊維集合体は、短繊維の集合体、織布、不織布、撚紐などを原料として製造されうるが、不織布を用いて製造されたナノファイバー繊維集合体(以下、「ナノファイバー繊維不織布」という)は、上記のナノフィブリル化処理によって繊維の交絡状態が乱されている。したがって、このようなナノファイバー繊維不織布を、公知の不織布製造方法で再度処理することもできる。
【実施例】
【0053】
以下に、好ましい実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
[測定方法]
(1)平均繊維径
走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて30〜1000倍に拡大して撮影した写真を用いて、無作為に選出した10箇所のフィブリル化した繊維の直径を実測し、平均値(d)を算出した。
(2)平均繊維長
走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて30〜1000倍に拡大して撮影した写真を用いて、表層に位置するフィブリル化した繊維の長さを実測し、平均値(L)を算出した。
【0055】
(3)ポリマーの固有粘度(I.V.)
I.V.(dl/g)=ln(ηrel)/c
(式中、cはポリマー溶液の濃度(溶媒100mL中0.5gのポリマー)であり、ηrel(相対粘度)は、毛細管粘度計を用いて30℃で測定した時にポリマー溶液が示す流れ時間とその溶媒が示す流れ時間との間の比率である。)
溶媒としては、濃硫酸(96%H2SO4)を用いて測定した。
【0056】
(実施例1)
総繊度が1110dtex、単繊維繊度1.7dtex、フィラメント本数が670本のポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))フィラメント糸を用い、平織織布T713を作製した。「ケブラー」は、引張強度20.3cN/dtex、引張弾性率490cN/dtexのものを用いた。ブランソン超音波プラスチックアッセンブリシステムBranson 2000Xウェルダ(日本エマソン(株)ブランソン事業本部)に、ブースター20KHzおよびホーン11820DAを装着し、用意した平織織布(目付278g/m2)を水中でホーン先端に接触させながら30秒間超音波を発振させた。超音波の振動方向は、繊維集合体である平織織布T713の布面に対して垂直方向となる縦振動とした。処理強度は2500W、振幅は約50μm、振動は20KHzの縦振動でホーン先端よりキャビテーションが観察された。
【0057】
超音波処理後の織布(ナノファイバー繊維集合体)表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、図1に示した。
【0058】
比較のために、平織織布について、超音波処理前の織布表面のSEM写真を、図2に示した
【0059】
図1から、本発明のナノファイバー繊維集合体は、処理前の織布に比べて、繊維が非常に細かくフィブリル化しており、表面を構成する繊維の大部分がナノファイバーであることがわかる。得られたナノファイバー集合体は、白色性および風合いにも優れるものであった。
【0060】
(実施例2)
カット長51mm、繊度1.7dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))ステープルを、ローラーカードを通してウェブに形成し、クロスレーヤで積層してウェブとし、このウェブを100本/cm2の密度でニードルパンチを施して目付280g/m2の不織布を作製した。これを処理対象にした以外は、実施例1と同様に処理を行った。SEM写真を、図3に示した。
【0061】
(実施例3)
カット長51mm、単繊維繊度1.7dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))ステープルを紡績し、総繊度が1110dtexの紡績糸ツイルを作成し、この紡績糸を用い平織織布T102を作製した。この織布を用いた以外は、実施例1と同様に処理を行った。SEM写真を図4に示した。
【0062】
(実施例4)
実施例1で用いた織布T713を用意した。ブランソン超音波プラスチックアッセンブリシステムBranson 2000Xウェルダ(日本エマソン(株)ブランソン事業本部)にブースター15KHzおよびホーン13904DAを装着し、用意した平織織布(目付278g/m2)に水を含ませて空気中でホーン先端に接触させながら1秒間超音波を発振させた。超音波により水が霧状に放出され若干乾燥状態になったので、再度水を含ませて空気中でホーン先端に接触させながら1秒間超音波を発振させた。この間欠超音波処理を合計30回繰り返した。超音波の振動方向は全て平織織布に対して垂直方向となる縦振動とした。振幅は約50μm、振動は15KHzの縦振動でホーン先端よりキャビテーションが観察された。SEM写真を図5に示した。
【0063】
(実施例5)
実施例2で用いた不織布を用意し、該不織布を用いた以外は、実施例4と同様に処理を行った。SEM写真を図6に示した。
【0064】
(実施例6)
実施例2で用いた不織布を用意した。ブランソン超音波プラスチックアッセンブリシステムBranson 2000Xウェルダ(日本エマソン(株)ブランソン事業本部)にブースター40KHzおよびホーンJT577DA(チタンホーン)を装着し、用意した不織布を水中でホーン先端に接触させながら30秒間超音波を発振させた。振幅は約40μm、振動は40KHzの縦振動でホーン先端よりキャビテーションが観察された。SEM写真を図7に示した。
【0065】
(実施例7)
総繊度1670dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))を10cmで35回転撚ったフィラメント2本組からなるコードを用いた以外は、実施例1と同様に処理を行った。
ブランソン超音波プラスチックアッセンブリシステムBranson 2000Xウェルダ(日本エマソン(株)ブランソン事業本部)に、ブースター20KHzおよびホーン11820DAを装着し、用意したコードを水中でホーン先端に接触させながら30秒間超音波を発振させた。処理強度は2500W、振幅は約50μm、振動は20KHzの縦振動でホーン先端よりキャビテーションが観察された。SEM写真を図8に示した。
【0066】
図1〜図8から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維集合体である、織布、不織布及びコードに超音波処理することにより、表面の大部分がナノフィブリル化したナノファイバー繊維集合体が得られることがわかる。得られたナノファイバー繊維集合体は、通気性にも優れるものであった。
【0067】
上記の実施例1〜3、7で製造したナノファイバー繊維集合体における、フィブリル化した繊維の性状を表1にまとめて示した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果から、原料となる高強度高弾性繊維の処理条件を変更することにより、ナノファイバーの平均繊維径が20nm以上1000nm未満、平均繊維長が0.1mm以上10cm以下である、新規なパラ系アラミドナノファイバーが得られることがわかる。得られたナノファイバーの固有粘度(すなわち、ナノファイバー処理後のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度)は表1に示すように5.6であった。ナノファイバー化処理前のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度が5.7であることから、ナノファイバー化処理による固有粘度低下率は2%であり、ポリパラフェニレンテレフタルアミドは劣化していないことがわかる。
【0070】
(実施例8)
総繊度1670dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(テイジン・アラミド(株)製「トワロン」(登録商標))を用い撚糸(30cm当たり35回転)を作製した。この撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図9に示した。
【0071】
(実施例9)
総繊度1670dtexの共重合ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製「テクノーラ」(登録商標))を用い撚糸(30cm当たり35回転)を作製した。この撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図10に示した。
【0072】
(実施例10)
総繊度1670dtexのポリベンゾオキサゾール繊維(東洋紡績(株)製「ザイロン」(登録商標))撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図11に示した。
【0073】
(実施例11)
総繊度1670dtexのポリケトン繊維(旭化成(株)製「サイバロン」(登録商標))撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図12に示した。
【0074】
(実施例12)
総繊度1670dtexの液晶性芳香族ポリエステル繊維((株)クラレ製「ベクトラン」(登録商標))撚糸を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図13に示した。
【0075】
(比較例1)
市販のポリエチレン繊維(東洋紡績(株)製「ツヌーガ」(登録商標))を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図14に示した。
【0076】
(比較例2)
市販のナイロン66繊維ポリエチレンテレフタレート繊維を用いた以外は、実施例7と同様に処理を行った。SEM写真を図15に示した。
【0077】
図9〜図13からわかるとおり、高配向繊維集合体である撚糸に超音波処理することにより、表面の大部分がナノフィブリル化したナノファイバー繊維集合体が得られている。これに対し、図14〜図15からわかるとおり、高配向していない繊維集合体に超音波処理しても、ナノファイバー繊維集合体は得られなかった。
【0078】
(実施例13)
実施例1で用いた織布T713を用意した。超高圧水流装置インテグレイテッド・フライング・ブリッジ((株)フロージャパン製)を用いて、用意した平織織布(目付278g/m2)を高圧水流処理した。水流ノズルと織布との距離は30mmとし、噴射空気圧は100MPaとした。超高圧水流装置の仕様は以下の通りである。
【0079】
・超高圧ウオータージェットポンプ:20XWD
最大吐出圧力:60,000psi(412MPa、4,200kg/cm2)
最大吐出流量:7.6Ltr/min
・搬動装置:KUKA製 KR30HA 6軸ロボット
可搬重量:60kg
繰返精度:±0.20mm
・ノズルハウジング回転機構:R-3000
・ウオータージェットノズル:ダイヤモンドファンジェット
【0080】
高圧水流処理理後の織布(ナノファイバー繊維集合体)表面のSEM写真を、図16に示した。
【0081】
図16から、本発明のナノファイバー繊維集合体は、処理前の織布に比べて、繊維が非常に細かくフィブリル化しており、表面を構成する繊維の大部分がナノファイバーであることがわかる。得られたナノファイバー集合体は、白色性および風合いにも優れるものであった。
【0082】
(実施例14)
実施例2で用いた不織布を用意した。水流ノズルと織布の距離を120mm、噴射空気圧を100MPaとした以外は、実施例13と同様に処理を行った。
【0083】
(比較例3)
実施例2で用いた不織布を用意した。水流ノズルと織布の距離を30mm、噴射空気圧を25MPaとした以外は、実施例13と同様に処理を行った。
【0084】
(比較例4)
実施例1で用いた織布T713を用意した。この平織織布の表面を、ジルコニウム粒子((株)不二製作所製)で1分間サンドブラスト処理した。処理後の織布表面のSEM写真を、図17に示した。ジルコニウムは硬く重量のある無機粒子であり、対象物に与える衝撃性は高いが、図17から、繊維はナノファイバー化していないことがわかる。
【0085】
上記の実施例13〜14及び比較例3で製造したナノファイバー繊維集合体における、フィブリル化した繊維の性状を表2にまとめて示した。
【0086】
【表2】
【0087】
表2の結果から、原料となる高強度高弾性繊維の処理条件を変更することにより、ナノファイバーの平均繊維径が20nm以上1000nm未満、平均繊維長が0.1mm以上10cm以下である、新規なパラ系アラミドナノファイバーが得られていることがわかる。得られたナノファイバーの固有粘度(すなわち、ナノファイバー処理後のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度)は表2に示すように5.4であった。ナノファイバー化処理前のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度が5.7であることから、ナノファイバー化処理による固有粘度低下率は5%であり、ポリパラフェニレンテレフタルアミドは劣化していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により製造されるナノファイバー繊維集合体は、不織布あるいは織布などの形態で、バイオ・ケミカルハザード防御フィルター等の高性能フィルター、複合材料、耐熱絶縁材料、軽量車両用材料、安全防災用材料、対細菌・化学物質用衣料、内装材、電池セパレータ、スポーツ衣料、高効率燃料電池用、二次電池用電極材料超高性能キャパシター、ハードディスク用研磨布、ワイピングクロス、防音材など各種繊維製品に幅広く利用できる。特に、消防隊員、警察官、医者、プラントエンジニア等が着用する防護服に好ましく利用できる。
【0089】
本発明により製造されるナノファイバー繊維集合体は、フィルム、樹脂、ガラス、塗料などの添加材として幅広く利用できる。特に、フィルム、樹脂、ガラスの強化材として好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体にキャビテーションエネルギーを与えることにより、該繊維集合体を構成する繊維の少なくとも一部をナノファイバー化させることを特徴とする、ナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
キャビテーションエネルギーを、液体に浸漬あるいは液体を含浸しながら繊維集合体に超音波を適用することにより与える、請求項1に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
キャビテーションエネルギーを高圧水流処理により与える、請求項1に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
繊維集合体を構成する繊維が、高配向繊維である、請求項1〜3のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
繊維集合体を構成する繊維を融点未満またはガラス転移温度未満で予め熱プレスし、その後、該繊維集合体にキャビテーションエネルギーを与える、請求項1〜4のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
高配向繊維が、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、メタ系アラミド繊維またはポリビニルアルコール系繊維である、請求項4に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項1】
繊維集合体にキャビテーションエネルギーを与えることにより、該繊維集合体を構成する繊維の少なくとも一部をナノファイバー化させることを特徴とする、ナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
キャビテーションエネルギーを、液体に浸漬あるいは液体を含浸しながら繊維集合体に超音波を適用することにより与える、請求項1に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
キャビテーションエネルギーを高圧水流処理により与える、請求項1に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
繊維集合体を構成する繊維が、高配向繊維である、請求項1〜3のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
繊維集合体を構成する繊維を融点未満またはガラス転移温度未満で予め熱プレスし、その後、該繊維集合体にキャビテーションエネルギーを与える、請求項1〜4のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
高配向繊維が、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、メタ系アラミド繊維またはポリビニルアルコール系繊維である、請求項4に記載のナノファイバーの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−222717(P2010−222717A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68995(P2009−68995)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
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