説明

ナノ粒子の乾式分散方法、並びに階層構造およびコーティングの製造

本発明は、合成または天然ナノ粒子およびナノ複合材料の分散方法、並びにセラミック、コーティング、高分子、建設、塗料、触媒、製薬および一般的な粉末状物質などの種々の分野におけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成または天然ナノ粒子およびナノ複合材料の分散方法、並びに、いくつかの分野、特に、セラミック、コーティング、高分子、建設、塗料、触媒、製薬および一般的な粉末状物質の分野におけるそれらの適用に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子は、種々の工業分野で利用が劇的に増加している。とどまるところを知らない近年の利用増加は、酸性または非酸性で、有機または無機の構造を有し、合成または抽出によって得られる、種々のナノ粒子の入手可能性の増大に基づいている。ナノ粒子は、通常、ナノ粒子状であるか否かを問わず、他の化合物と併用され、主としていわゆるナノ合成物の前駆体となる。ここでいうナノ合成物とは、それに含まれる成分のうち1つが少なくとも1つの寸法において100nm未満のナノスケールサイズを有する複合型材料のことである。ナノスケール範囲に一寸法を有する材料の形態は、とりわけ、球状、層状、または繊維状であればよい。一般に、材料基質中に分散するナノ粒子を添加することによって、ナノ複合材料の特性が顕著に向上し、その性質によっては、電気的特徴、磁気的特徴、光学的特徴、触媒的特徴などの種々の特徴を含み得る。ナノ粒子は、比表面積が大きいため、凝集し、その結果、それ自体の有効性を劇的に減少させ、分散状態に対するそれ自体の特性を改質する。したがって、凝集度は、ナノ粒子の有効性を最大限にするために避けるべき要因となる。ナノ粒子の分散を実現するために用いられる種々の処理の多くは、除去時に再凝集を発生させる溶媒の存在下で行われる、いわゆる湿式処理法に基づいている。多くの場合、用いられる溶媒は、環境に優しくない。標準処理は、機械的、磁気的、または超音波的手段を用いることによって非凝集化溶媒においてナノ粒子を希釈することからなる。この種の処理の代表例としては、ナノ粒子を液状媒質において当該ナノ粒子よりもサイズが200〜1000大きい他の粒子とともに振動させることで、これらの粒子を除去した後で低公害を取り入れながら凝集体の形成を防ぐことが挙げられる[JP2005087972]。
【0003】
より普通の方法は、化粧品、医薬品、食品などにおける適用での分散に好適な形でナノ粒子の水性懸濁液に両親媒性分子のような界面活性剤を添加することからなる[EP1293248、WO2006106521、WO2008013785]。
【0004】
溶媒を用いずに最近使用され始めた他の種類の方法は、いわゆる乾式処理法である。これら処理法の例としては、a)シラン処理のような種々の添加物で、ナノ粒子の表面を改質するための二酸化炭素とともに超臨界流体技術を用いることによって、非凝集性ナノ粒子を得るシリカナノ粒子[Li L., Urushihara Y., Matsui J., J. Chem Eng Jap. (2007) 40, 11, 993−998]、b)速度50ms−1を超える剪断ローターを用いることによって生成された、より大きい有機粒子上に被着する100nmを超えるサブミクロンの粒子[WO2007112805]、c)剪断応力の効果によって実現される、ポリマーマトリクスとなる有機粒子による無機粒子の被覆、および、d)短期集中熱サイクルを用いてマトリクスとなる高分子粒子の融合をもたらして製造される、2つ以上の化合物の同様の被覆[US2004018109]、のような効果的な非凝集が挙げられる。
【0005】
乾式分散に用いられる種々の処理法に共通する一態様としては、高エネルギー処理法を用いて粒子非凝集を実現することがある。
【0006】
分散ナノ粒子の適用の一分野としては、特定の基板上に薄膜または厚膜の形でコーティングを形成することがある。これらの処理法では、ナノ粒子の分散に、溶媒と表面改質剤とを使用することが求められる。高分子やワックスのような有機成分と無機ナノ粒子分散とを使用することで、静電界または磁界を印加することによって、木材や繊維、プラスチック、紙、皮革、ガラス、セラミック、金属のような基板上に柱状構造のコーティングを形成することができる[WO2006084413]。懸濁液におけるタルク、炭酸カルシウム、シリカ粘土、およびプラスチックに基づいたナノ粒子の使用により、セルロースまたは無機材料基板上に防護コーティングを形成することができる[WO2004074574]。電荷によって、さらには真空乾燥処理によって、表面を改質されたナノ粒子は、反対の電荷を帯びた基板上に被着してナノ粒子懸濁液とコーティングを形成する液状媒質中で、懸濁液が調製できることを意味する[JP2007016317]。
【0007】
一般的な観点から、これまでナノ粒子の分散に用いられてきた処理法は、ナノ粒子の表面特性を変えて凝集を防ぐことに基づいている。粒子間で発生する主な力は、(同じ材料の粒子間で発生する場合は)凝集型、または、(異なる材料の間または基板との間で発生する場合は)付着型のものである。この種の粒子間相互作用に寄与する主な力は、静電気力やファン・デル・ワールス力である[Feng, J. Q., and Hays, D. A. Powder Technology (2003) 135−136, 65−75]。静電気力は、ある粒子の表面における正味の電荷に関し、絶縁材料の粒子に対してより高くなる。凝集粒子またはナノ粒子については、電荷は、凝集体の表面粒子上に蓄積した電荷に対応する。逆に、凝集体において粒子を結合する力は、ファン・デル・ワールス力である。ファン・デル・ワールス力は、材料に固有の異なる偏光処理による分子間相互作用に起源を発する。したがって、ファン・デル・ワールス力は、二粒子間距離が10−9m未満の場合、顕著となる。
【0008】
本発明に関する実験は、ZnOおよびCoのサブミクロン粒子のうち、それぞれ室温で反磁性および常磁性反応を呈する材料において、当該室温で強磁性界面を生じさせる物理化学的現象の研究に端を発する[Martin−Gonzalez, M. S., Fernandez, J.F., Rubio−Marcos, F., Lorite, I., Costa−Kramer, J. L., Quesada, A., Banares, M. A., Fierro, J. L. G., Journal of Applied Physics (2008), 103, 083905]。粒子間の分散は、水媒体中のアトリションミル処理法によって行われ、二種類の粒子間相互作用は、X線光電子分光法およびラマン分光法によって測定された。相互作用は、コバルト粒子の表面還元からなり、粒子間の電気化学反応の存在を示唆した。そのような粒子の凝集体は、反対の帯電の蓄積を示す。よって、これらの分子間の引力は、この現象の発端となり得る。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、ナノ粒子を種々の形態(円形、平面、糸状)および性質(有機、無機、高分子など)の他の粒子または基板に乾式分散させる低剪断法を提案し、これにより、粒子がより大きい粒子に点在した新種の材料の製造を可能にし、種々の基板上にコーティングを形成することさえも実現する。この処理法は、その過程において溶媒を使用しないことが特徴である。すなわち、高い剪断速度を必要としないのが乾式処理法である。
【0010】
本発明の乾性媒質におけるナノ粒子の分散は、異なる性質の粒子間または粒子と基板との間で発生する付着力によって同じ種類の粒子を結合する凝集力を改変することに基づいている。本発明の実施の形態は、2つの材料の混合物であって、そのうち一方の材料がナノスケールまたは少なくとも1つの寸法において100nm未満の混合物の適切な手段による均質化を必要とする。分散されるナノ結晶材料の特性と支持粒子または基板の特性とに応じて、また、使用する力の性質によって、任意の数のナノ粒子に対して効果的な分散が実現される。最適なナノ粒子の分散率を超えると、これらナノ粒子とともに、支持粒子と混合したナノ粒子クラスタも得られる。こうして得られた生成物は、ナノ構造材料またはナノ合成物の製造のための前駆体として用いられ、それらの処理は、基質となる材料上におけるナノ粒子の分散の一部である。後続の熱処理により、ナノ粒子とそれらを効果的に固定する支持体または基板との部分反応、もしくは支持粒子または基板に埋め込まれたコーティングからなる新規化合物が可能になる。
【0011】
したがって、本発明の一態様は、1つまたは複数の種類のナノ粒子であって、そのうち少なくとも一つの種類のナノ粒子は、少なくとも1つの寸法においてサイズが100nm未満のナノ粒子を、他の支持粒子または基板において分散させる方法に関する。この方法は、乾性媒質において、他の粒子または基板とともに、上記ナノ粒子を攪拌する工程を備える。
【0012】
本明細書中の記載および請求の範囲の全体を通じて、「備える」や「含む」という語およびその変化形は、他の技術的特徴や化合物、工程を排除するものではない。当業者にとって、本発明の他の目的、利点、および特徴は、一方では本明細書中の記載から、他方では発明の実施から明らかになるであろう。
【0013】
本明細書中の記載を補足し、本発明の特徴のさらなる理解の助けとなるために、その詳細な説明に基づき、図面一式を本明細書の不可欠な部分として添付する、これらの図面は、例示を目的としており、本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】Al支持粒子上に分散するCoナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図である。
【図2】ZnO支持粒子上に分散するCoナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図である。
【図3】(a)はAl支持粒子上に分散するNiOナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図であり、(b)はポリアミド支持粒子上に分散するSiOナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図であり、(c)はポリアミド支持粒子上に分散する直径50nm未満の海泡石型繊維状粘土の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図である。
【図4】平均サイズが6μmのAl支持粒子上に分散するCoナノ粒子の割合に基づいた紫外反射曲線を示し、第一相ではナノ粒子の効果的な分散に関する紫外反射の急激な減少による低いナノ粒子含有量を特徴とし、第二相ではナノ粒子クラスタが分散ナノ粒子と共存する高いナノ粒子含有量を特徴とする混合物において、非線形性が観察される図である。
【図5】凝集Coナノ粒子のスペクトルと、平均サイズが6μmのアルミナ支持粒子上に分散するCoナノ粒子1重量%からなる階層構造のスペクトルとの比較を示し、(a)は吸収スペクトルを示す図であり、(b)は消散係数スペクトルを示す図であり、両スペクトルが、階層構造に対して、2.5〜3eVの範囲において、新たなエネルギー準位を示す図である。
【図6】(a)は平均サイズが6μmのアルミナ支持粒子上に分散するCoナノ粒子の割合に応じたCoのラマンスペクトルの最高ピークにおけるラマンシフトのばらつきを示す図であり、(b)は凝集Coナノ粒子の最高ピークと、平均サイズが6μmのアルミナ支持粒子上に分散するCoナノ粒子1重量%からなる階層構造の最高ピークとに対応するラマンスペクトルを示す図である。
【図7】焼結して鏡状に研磨したAl基板上に分散するCoナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図である。
【図8】(a)は単結晶Si基板上に分散するNiOナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図であり、(b)は結晶グラッセ支持陶磁器を形成するガラス状基板上に分散するCoナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図であり、(c)は水素化獣脂トリメチル型のプロトン化した第4級アミンである3MTHによって機能化され、単結晶Si基板上に分散する直径が50nm未満の海泡石型繊維状粘土の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図であり、(d)はポリプロピレン基板上に分散する直径50nm未満の海泡石型繊維状粘土の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図であり、(e)はコバール合金基板上に分散するCoナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図である。
【図9】ナノ粒子の分散層の乾式研削処理後にCoナノ粒子で充填した、焼結して鏡状に研磨したAl基板の欠陥を示す電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示す図である。
【図10】高分子基板上に糸状に分散する海泡石ナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡検査による顕微鏡写真を示し、(a)は0.2mmのガラス繊維を示す図であり、(b)は3mmのガラス繊維を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
粒子間の相互作用の力は、静電気力やファン・デル・ワールス力のように付着型および凝集型のものである。粒子中の静電気力は、当該粒子上の正味荷電または過剰荷電によるものである。粒子は、他の材料との接触や外部電場におけるコロナイオンまたは誘導など種々の方法で荷電を得ることができる。これらは、誘電体または不良導体で見られる力である。同じ性質の帯電を呈する粒子または粒子クラスタは、互いに反発し合う傾向がある一方、異なる電荷の粒子は引力を有する。帯電した誘電体粒子は、抵抗が高い場合、金属に付着し[Bailey A. G., Powder Technology (1984), 37, 71−85]、それによって表面が全体的に有機化合物で改質され、乾性塗料として適用される。帯電は、外的条件に大きく左右され、特に、水分の存在下では、上記電荷の存在が減少する。
【0016】
ファン・デル・ワールス力は、異なる偏光メカニズムによる分子間相互作用に起源を発する。原子と分子との偏光は、すべての材料に固有のものであり、外的条件にそれほど左右されない。これら分子間相互作用は、短距離相互作用であるため、ファン・デル・ワールス力の大きさは、表面の微視的構造に対して特に敏感である。ナノスケール範囲に少なくとも一寸法を有するナノ粒子または粒子について、表面は、関与するすべての原子の重要な部分であるため、表面上の偏光現象は顕著となる。したがって、2つのナノ粒子を結合するファン・デル・ワールス力は、対称的である一方、2つの異なるナノ粒子の間、ナノ粒子とサブミクロンもしくはミクロン粒子との間、またはナノ粒子と基板との間のファン・デル・ワールス力は、対称的でない。これらの原理を用いて、本発明は、少なくとも1つの寸法がナノスケール範囲、すなわち、100nm未満のナノ粒子または粒子の効果的な分散を実現する。
【0017】
したがって、本発明の一態様は、同じまたは異なる形態および/または性質のナノ粒子であって、そのうち少なくとも1つの種類のナノ粒子は、少なくとも1つの寸法においてサイズが100nm未満であること特徴とするナノ粒子を分散させる方法に関する。サイズは、75nm未満であることが好ましく、1〜50nmであることがより好ましい。分散は、他の粒子上または基板上で行われ、それらを乾性媒質において振とうすることを含む。ナノ粒子は、支持粒子に対して5重量%未満の割合で添加して分散することが好ましく、支持粒子に対して3重量%未満の割合で分散のために添加されることがより好ましく、支持粒子に対して0.03〜2重量%の割合で分散のために添加されることがさらに好ましい。基板を用いる場合は、上記ナノ粒子の分散は、基板上のナノ粒子コーティングの厚さによって特徴付けられ、このコーティングは、100nm未満であることが好ましく、50nm未満であることがより好ましい。
【0018】
分散されるナノ粒子は、少なくとも1つの寸法がナノスケール、特に、100nm未満であるという基本的特徴がある限り、球状以外にも、層状、繊維状などの種々の形態を有してもよい。
【0019】
好ましい実施の形態において、上記ナノ粒子または支持粒子は、金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、アルミナなどの無機材料、熱安定もしくは熱融解の高分子または樹脂などの有機材料、および金属製材料からなる群より選択される。上記ナノ粒子は、海泡石などの1つまたは複数のケイ酸塩、もしくは1つまたは複数の金属酸化物であることがより好ましい。上記金属酸化物は、アルミニウム、コバルト、銅、錫、ニッケル、シリコン、チタニウム、または亜鉛の酸化物からなる群より選択されることが好ましい。一例としては、Al、Co、CuO、NiO、SiO、SnO、TiO、ZnOなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
上記のように、これらのナノ粒子は、単独で分散してもよいし、同じまたは異なる性質およびサイズの他の粒子と組み合わせて分散してもよい。これらの組み合わせのキーとなる特徴は、そのうち少なくとも1つの種類のナノ粒子は、少なくとも1つの寸法においてサイズが100nm未満であることである。
【0021】
支持粒子については、ナノ範囲よりも上位であり(大きく)、上記ナノ粒子またはそれらの組み合わせを分散する働きをする粒子として定義される。これらは、アルミニウム、ニッケル、シリコン、または亜鉛の酸化物であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。Al、NiO、またはZnOであることがより好ましい(図2参照)。
【0022】
ナノ粒子と支持粒子とを混合する処理は、例えば、ターブラー型低速攪拌ミキサーにおいて行われるが、これに限定されるものではない。分散対象となる粒子とナノ粒子とをミキサーに部分的に充填し、異なる使用粉体材料のクラスタ間の均質化衝突を促進する。粒子とナノ粒子とは、事前に一晩、60℃のオーブンで乾燥させるが、この処理は乾燥工程がなくても等しく効果的であり、また、ナノ粒子間における焼結ネックの形成を伴わない温度(例えば、限定されないが400℃で2時間)での熱処理後も等しく効果的である。低速形態においても発生する粒子とナノ粒子クラスタとの間の衝突は、そのようなクラスタの崩壊をもたらし、その結果、ナノ粒子が支持粒子の表面上に分散し、ナノ粒子が支持粒子の外面上に支持された階層構造を有する新種の材料を生じさせる(例えば、図1参照)。
【0023】
1つの支持粒子上に分散することができるナノ粒子の割合は、その限界値が両材料の性質、表面特性、形態、サイズに依存する。上記処理法によって生じる混合物は、ナノ粒子の範囲または割合に対する効果的な分散に特徴付けられる。図4によると、分散ナノ粒子とともに上記範囲に対して、非分散ナノ粒子クラスタの一部が得られることが分かる。上記処理法は、使用する材料の性質に応じて、また、紫外線領域における相互作用を示すことによって特徴付けられ、これは、誘起双極子によるロンドン力のような、粒子とナノ粒子との間で起こる偏光処理の特徴である(例えば、図5参照)。同様に、ナノ粒子を分散させる際に結晶格子振動を加減することによって特徴付けられる(図6参照)。
【0024】
分散方法は、2つ以上の種類のナノ粒子にも拡大適用することができ、数種類のナノ粒子を同時に結合させたり、例えば、小さい粒子をより大きな粒子上に分散させてからこの集まりを支持粒子上に分散させるというように、より複雑な階層構造を形成したりすることができる。いずれにせよ、異なるナノ粒子の分散は、使用する材料の性質、表面特性、形態、サイズによって制限される。
【0025】
分散の具体的事例としては、支持粒子を基板に置き換える事例がある。したがって、他の好ましい実施の形態では、上記ナノ粒子またはそれらの組み合わせは、支持粒子ではなく基板に分散される。この方法で使用する基板は、セラミック材料、ガラス材料、高分子材料、金属材料、複合またはハイブリッド材料の中から選択される。アルミナ、単結晶シリコン、釉がけ(グラッセ)、ポリアミド、ポリプロピレン、コバールのような合金、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0026】
具体的事例では、上記支持粒子または基板は、種々の形態(円形、平面、糸状)および性質(有機、無機、高分子など)を有してもよい。
【0027】
分散は、基板を配置するミキサー内で起こる。シェイカーミキサーの攪拌工程の後、ナノ粒子が基板表面に被着する。使用するナノ粒子は、支持基板上の分散で述べたものと種類が同様である。被着した過剰のナノ粒子を空気圧で除去すると、通常厚さ100nm未満の、基板の表面上に分散するナノ粒子の層が1つまたは複数形成される(図7参照)。
【0028】
したがって、好ましい実施の形態では、基板上に分散する過剰のナノ粒子を空気圧で除去する。
【0029】
上記のように、基板として用いる材料の種類は、支持粒子と同じく異なる性質のものであってもよい。いくつかの例を図8に示す。金属基板の場合、被着する誘電体ナノ粒子の層は、厚さが大きく、基板がそのような材料に及ぼす引力のため、厚さが100nmを超えることもある。種々の技術によって意図的に発生もしくは生成させた欠陥や細孔を有する基板を使用する場合、乾式軟質研磨除去により、そのような欠陥がナノ粒子で埋められると同時に、分散したナノ粒子が除去される(例えば、図9参照)。
【0030】
この方法における攪拌は、支持粒子の場合および基板の場合とも、シェイカーミキサーで行われる。シェイカーミキサーは、直径2mmのアルミナ球などのセラミック球を入れて使用することができ、これにより処理が促進される。ターブラー型シェイカーミキサーは、ブランド名に関わらず、V型ミキサー、ドラムミキサー、自由投下型ミキサー、コンクリートミキサー、アイリッヒ集中ミキサー、および挙げられたものと同様の特徴を有するミキサーなど、他のタイプのミキサーに置き換えることができる。
【0031】
好ましい実施の形態において、上記方法により得られた分散物に熱処理を施す。
【0032】
中でも、本発明の一態様は、上記方法によって得られる支持粒子または基板上におけるナノ粒子の分散物、並びに分散物に熱処理を施すと得られる階層構造を有するナノ構造に関する。
【0033】
上記処理法によると、支持粒子または基板上にナノ粒子が効果的に分散される。上記処理法によって特徴付けられるこれらの構造は、種々の分野において幅広く応用することができる。したがって、本発明の最後の態様は、支持粒子または基板上におけるナノ粒子の分散またはナノ構造を種々の用途で使用することに関する。種々の用途は、支持粒子が最終化合物基質を形成する、または少なくともそのような基質の構成要素を形成する用途からなる。材料を形成する過程で基質にナノ粒子を添加し、得られた高い分散度によって、最終ナノ合成物におけるナノ粒子の分散が促進される。ナノ粒子の割合が効果的な分散限界を超える混合物においては、既存の凝集ナノ粒子が、分散ナノ粒子とともに、ナノ合成物に添加される。後者の場合、混合物の流動性により、困難なナノ粒子の取り扱い、用量調整、処理が容易になる。他の種類の用途としては、界面での部分反応によるナノ粒子の固定、もしくは支持粒子または基板上でのナノスケールコーティングの形成をもたらす後続の熱処理を通して生成物を得ることである。必要とされる熱処理は、対応する平衡相図によって決定され、ナノ粒子の高い表面反応によって動態的に作動される。よって、これらの処理法は、他の技術では不可能な材料や複雑な技術を必要とする材料を得るのに役立つ。得られる生成物としては、支持粒子または基板の外側に分散され、異なる化学的性質の界面によって、または、支持粒子または基板に埋め込まれたコーティングからなる新規化合物の形成によって固定されたナノ粒子からなる階層構造が挙げられ、このコーティングはナノタイプであることを特徴とする。こうして得られたこれらの材料は、複合およびナノ複合材料を形成する新しい方法に用いられる。
【0034】
したがって、得られた分散は、セラミックス、コーティング、高分子、建設、塗料、触媒、製薬、および粉末状物質全般などの種々の産業分野に使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
〔実施例1:Al支持粒子上に分散するCoナノ粒子を得る方法〕
平均粒径が6μm以下のAl粒子5gと、平均粒径が50μm未満のCo粒子0.05gとを用いた。これら2つのセラミック粉体を密閉管状ナイロン容器に入れた。ターブラー型シェイカーミキサーの容積は60cmで、利用可能容積の1/4を占めた。容器を30rpmで5分間攪拌した。容器を空にし、得られた混合物には、図1に示すように、Al支持粒子上に効果的に分散したCoナノ粒子が見られた。ナノ粒子の比率を0.03重量%から5重量%に変えることによって、図4の反射率曲線に基づいて効果的な分散が得られた。混合物におけるナノ粒子の重量比率をより高くすると、分散ナノ粒子とともに非分散凝集体が得られた。
【0037】
〔実施例2:糸状ガラス繊維の基板上に分散する海泡石ナノ粒子を得る方法〕
平均長さが3mmで直径が10μmのガラス繊維5gと、平均長さが1.5μmで平均直径が40nmの海泡石繊維状粒子5重量%とを用いた。これら2つの材料を密閉管状ナイロン容器に入れた。ターブラー型シェイカーミキサーの容積は60cmであった。容器を60rpmで10分間攪拌した。容器を空にし、得られた混合物には、図10に示すように、ガラス繊維糸上における海泡石ナノ粒子の効果的な分散が見られた。
【0038】
〔実施例3:自然酸化物層を有する単結晶Si基板上に分散するNiOナノ粒子を得る方法〕
表面積が2cmの平面単結晶Si基板をターブラー型シェイカーミキサーで用いた密閉容器の蓋の内部に接着テープで固定した。20nmより小さいNiOナノ粒子1gを容器に導入した。混合物を42rpmで3分間攪拌した。基板を取り出し、表面に被着した過剰ナノ粒子を4バールの圧縮空気銃を用いて除去した。分散NiOナノ粒子の層の厚さは、偏光解析法で測定したところ、30nmであった。
【0039】
〔実施例4:ポリアミド粒子上に繊維径が50nm未満の海泡石型繊維粘土の分散を得る方法〕
サイズが200μm以下で形態が不規則なポリアミド粒子1000gと、平均長さが1.5μmで平均直径が40nmの海泡石30gとを用いた。両材料を実容積の1/3を占めるアイリッヒ集中ミキサーのステンレスボウルに導入した。ミキサーを30rpmで回転させ、各ブレードをそれぞれ反対方向に40rpmで回転させた。混合処理を10分間行った。得られた生成物は、ポリアミド粒子の表面に分散した海泡石繊維からなるものであった。
【0040】
〔実施例5:Al支持粒子上にコバルトスピネルコーティングを得る方法〕
平均粒径が400nm以下のZnO粒子1gと、平均サイズが50nm未満のCoナノ粒子3gとを用いた。両セラミック粉体を密閉管状ナイロン容器に入れた。ターブラー型シェイカーミキサーの容積は60cmで、利用可能容積の1/3を占めた。容器を30rpmで5分間攪拌した。容器を空にし、得られた混合物0.25gと平均粒径が6μm以下のAl粒子5gを用いた。この新たな混合物を上記の容器に導入し、利用可能容積の1/4を占めた。容器を60rpmで5分間攪拌した。容器を空にし、得られた混合物を99%のアルミナ坩堝に入れ、オーブンで加熱速度5℃/min、1000℃で2時間熱処理し、冷却した。最終生成物は、亜鉛およびコバルトアルミン酸塩に対応するスピネル型結晶構造からなるアルミナ粒子に被覆されていることを特徴とした。CIELAB座標によって測定された色の強さは、市販の色素に対して4−ΔE未満の色調差を示した。この実施例に記載された色素は、市販の色素を得るのに必要なコバルトの20重量%しか使用していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾性媒質においてナノ粒子を攪拌する工程を含む、少なくとも1つの寸法においてサイズが100nm未満のナノ粒子を他の支持粒子または基板において分散させる方法。
【請求項2】
上記ナノ粒子は、上記支持粒子に対して5重量%未満の割合で分散のために添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記基板上に分散した過剰のナノ粒子を空気圧で除去して、厚さ100nm未満のナノ粒子コーティングを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記ナノ粒子または上記支持粒子は、無機材料、有機材料、金属材料からなる群より独立して選択される、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記ナノ粒子は、性質が同じでありまたは異なっており、金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、アルミナ、熱安定高分子、熱融解高分子、高分子樹脂、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記ナノ粒子は、性質が同じでありまたは異なっており、海泡石、アルミナ酸化物、コバルト、銅、錫、ニッケル、シリコン、チタニウム、亜鉛、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記支持粒子は、酸化アルミニウムまたは酸化亜鉛である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
上記基板は、セラミック材料、ガラス材料、高分子材料、および金属材料からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記基板は、アルミナ、単結晶シリコン、ポリアミド、ポリプロピレン、およびコバール合金からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記支持粒子または上記基板は、種々の形態をとり得る、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記攪拌は、シェイカーミキサーで行われる、請求項1〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記シェイカーミキサーは、ふるい振とう器、ターブラーミキサー、V型ミキサー、ドラムミキサー、自由投下型ミキサー、コンクリートミキサー、およびアイリッヒ集中ミキサーからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
分散物に熱処理を施す、請求項1〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか1項に記載の方法によって取得可能な、支持粒子または基板上のナノ粒子分散物。
【請求項15】
請求項1〜13の何れか1項に記載の方法によって取得可能な、階層構造を有するナノ構造。
【請求項16】
複合材料、セラミックス、高分子、塗料、セメント、触媒、および薬剤からなる群より選択される材料を調製するための、請求項14に記載の分散物または請求項15に記載のナノ構造の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図8C】
image rotate

【図8D】
image rotate

【図8E】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate


【公表番号】特表2011−530394(P2011−530394A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519200(P2011−519200)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070299
【国際公開番号】WO2010/010220
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(511000083)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
【住所又は居所原語表記】C/Serrano,117,E−28006 Madrid,Spain
【Fターム(参考)】