説明

ナノ粒子組成物及びその合成方法

【要約書】
【課題】本発明は、ナノ粒子組成物及びナノ粒子製剤を含む、治療効果のある改良ナノコンポジット微構造組成物に関する。
【解決手段】好適な実施形態は、キャリア・マトリックスに分散された治療薬のナノ粒子を有するナノ粒子組成物を含む。本発明はまた、固体メカノケミカル合成を使用した前記組成物及び製剤の調製方法に関する。更に、本発明は、前記組成物を使用して製造した治療用製造物、及び前記組成物を使用した治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア・マトリックス中に分散した治療効果のあるナノ粒子を有するナノ粒子組成物及び他のナノ粒子製剤等、治療効果のある改良ナノコンポジット微構造組成物に関する。本発明はまた、固体メカノケミカル合成による前記組成物及び製剤の調製方法に関する。更に、本発明は前記組成物を使用して製造した医薬品及び前記組成物を使用した治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療用組成物、特に難水溶性の作用薬を含む化合物の開発時に直面する重大な問題は、生体利用効率の低さである。作用薬の生体利用効率は、経口投与、静脈投与等の全身投与後に、体内の標的組織で作用薬が利用される度合いである。剤形、作用薬の溶解性及び溶解速度等、多くの要因が生体利用効率に影響を及ぼし得る。
【0003】
水に対する溶解が悪く且つ遅い作用薬は、血液循環系に吸収される前に消化管から排除され易い。更に、難溶性の作用薬は、作用薬粒子が毛細血管の血流をブロックする危険性があるため、静脈投与には好ましくなく、更には危険でもある。
【0004】
粒子状薬剤の溶解速度は、表面積が増えるほど、つまり粒子サイズが小さくなるほど上昇することが知られている。したがって、微粉状薬剤の製造方法が研究されており、医薬組成物中の薬剤粒子のサイズ及びサイズ範囲を制御する努力がなされている。例えば、粒子サイズを小さくして薬剤吸収性に影響を及ぼすために、乾式ミリング法が使用されている。しかし、従来の乾式ミリング法では、限界粉末度は一般的に約100ミクロン(100000nm)の範囲であり、このポイントでは原料がミリングチャンバー上で固形化してしまい、これ以上粒子サイズを小さくできなくなる。或いは、湿式粉砕を使用して粒子サイズの低減を図ってもよいが、凝集により下限粒子サイズは約10ミクロン(10000nm)に制限されてしまう。湿式粉砕プロセスは雑菌が混入する傾向があるため、医薬分野では湿式粉砕法に対する先入観がある。他のミリング法として、商業用空気ジェットミリングでは、平均サイズが低くは約1ミクロンから約50ミクロン(1000〜50000nm)の範囲である粒子が得られている。
【0005】
現在、難溶性の薬剤の配合方法は幾つかあり、一つの方法としては、作用薬を可溶性の塩として調製する。該方法が使用できない場合、代替の(通常は物理的な)方法を使用して薬剤の溶解性を改善する。代替の方法では、通常、作用薬の物理的及び/又は化学的性質を変化させる物理条件に作用薬を曝し、溶解性を改善する。これら方法としては、ミクロイオン化、結晶又は多形構造の改変、油性溶液の開発、助剤、表面安定化剤若しくは錯化剤、ミクロエマルジョン、超臨界流体の使用、及び固体分散液若しくは固溶液の製造等の加工技術が挙げられる。これら工法を2種以上組み合わせて、特定の医薬化合物の配合を改善してよい。
【0006】
これら上記医薬組成物の調製方法は複雑である傾向がある。一例として、乳化重合法が直面する主な技術的困難は、製造プロセス終盤における(望ましくない強さの毒性を有する可能性がある)未反応モノマー、重合開始剤等の異物の除去である。
【0007】
粒子サイズを小さくする他の方法は、医薬品のマイクロカプセルを形成する方法であり、微粉化、重合、共分散等の方法が挙げられるが、少なくとも、ミリングで得られる粒子等と同等の十分小さい粒子が得られないこと、助剤及び/又は除去が困難である毒性モノマー等の異物が存在すること等、不利な点が多いため、製造コストが高くなる。
【0008】
過去10年間、ミリング法及び粉砕法等により薬剤を超微粉体にして、薬剤の溶解性を改善する科学的研究が鋭意に行われてきた。これら手法を使用して全体の表面積を増加させ且つ平均粒子サイズを小さくすることによって、粒子状固体の溶解速度を速くすることが可能である。
【0009】
薬剤に対するメカノケミカル合成(MCS)法の適用可能性に関する研究もあるが、これら研究は、粒子サイズを小さくして溶解性を改善することではなく、溶媒の必要性を減らし且つ収量を改善させるための代替の製造方法を提供することに焦点を当てている。
【0010】
原料の化学物質からナノ粒子を創製するMCS法と粒子サイズ縮小法との間には明確な区別があることに注意を払うことが重要であり、下記「発明を実施するための最良形態」で詳しく説明する。
【0011】
ナノ粒子組成物の製造方法は、早くから特許文献1に記載されている。ナノ粒子組成物の製造方法は、特許文献2〜8にも記載されており、参照することにより本願に援用する。しかし、これら特許文献ではナノ粒子組成物のMCSによる製造方法は教示されておらず、記載されている手法はサイズ縮小法である。更に、これら手法では本発明の粒子の粒子サイズ範囲内に入る平均粒子サイズであるナノ粒子組成物は得られず、また、本発明の幾つかの実施形態の特徴であるキャリア・マトリックスの教示もない。
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,145,684号明細書
【特許文献2】米国特許第5,534,270号明細書
【特許文献3】米国特許第5,510,118号明細書
【特許文献4】米国特許第5,470,583号明細書
【特許文献5】米国特許第5,591,456号明細書
【特許文献6】米国特許第6,428,814号明細書
【特許文献7】米国特許第6,811,767号明細書
【特許文献8】米国特許第6,908,626号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明は、少なくとも従来技術の幾つかの問題を改善する治療効果のある改良ナノコンポジット微構造組成物及びナノ粒子製剤、並びにその調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、固体化学反応を使用して、治療効果のあるナノ粒子をキャリア・マトリックス内でメカノケミカル的に合成することによって改良ナノコンポジット微構造組成物が製造可能であるという、驚くべき意外な発見に基づく。メカノケミカル的な手法によって治療効果のあるナノ粒子をメカノケミカル的に合成することによって、出願人はまた、組成物中の得られたナノ粒子サイズを制御することができた。その結果、改良ナノコンポジット微構造組成物は、未処理、又は従来の作用薬と比較して向上した薬物の生体利用効率等、幾つかの利点を有することが期待される。
【0015】
したがって、本発明は、固体化学反応を使用してメカノケミカル的に調製した、キャリア・マトリックスに分散された治療効果のあるナノ粒子を有する改良ナノコンポジット微構造組成物に関する。好ましくは、この配合物は、動物への送達に好適な固溶体又は固体分散体である。
【0016】
また、本発明は、改良ナノコンポジット微構造組成物の調製方法であって、メカノケミカル合成条件下で前駆体化合物と共反応物質を接触させて、該前駆体化合物と該共反応物質との間に固体化学反応を発生させることで、キャリア・マトリックスに分散した治療効果のあるナノ粒子を生成する工程を含む改良ナノコンポジット微構造組成物の調製方法を対象とする。本方法によって製造されたキャリア・マトリックスは無毒であることが好ましく、或いは治療効果のあるナノ粒子から単離可能でなければならない。
【0017】
本発明はまた、医薬品の製造に本発明の組成物を使用することに関する。そのような医薬品は、組成物を単独で有してもよく、或いはより好ましくは、該組成物は1種以上の薬学的に許容可能なキャリア、並びに任意の所望の賦形剤若しくは薬学的に許容可能な組成物の調製に通常使用される他の同様の物質と組み合わされてもよい。
【0018】
更に本発明は、治療薬を必要としている動物に対して、本発明の方法で製造した組成物を治療効果量投与する工程を含む、動物の治療方法を対象とする。
【0019】
本発明の一態様は、(i)メカノケミカル合成条件下で前駆体化合物を共反応物質と接触させ、該前駆体化合物と該共反応物質との間の固体化学反応により、キャリア・マトリックスに分散された治療効果のあるナノ粒子を生成する工程を含む、精製されたナノ粒子治療薬の調製方法を対象とする。
【0020】
本発明の他の態様において、前記方法は、(ii)キャリア・マトリックスを所望量除去して、治療効果のあるナノ粒子を放出させる工程を更に含む。
キャリア・マトリックスを所望量除去して、治療効果のあるナノ粒子を放出させる前記工程は、選択的溶解、洗浄、昇華等の手段によって実施可能である。
【0021】
本発明はまた、前記方法による製造物、並びに、ヒト等の動物の治療に好適な医薬品及び治療効果のある組成物の調製への該製造物の使用にも及ぶ。本発明は、精製されたナノ粒子治療薬を有する医薬品及び薬学的に許容可能な組成物の調製方法を含む。
【0022】
したがって、一態様において、本発明は、治療薬のナノ粒子を有するナノ粒子組成物の製造方法であって、キャリア・マトリックスに分散された治療薬のナノ粒子を有するナノ粒子組成物を製造するのに十分な反応時間で、前駆体化合物と共反応物質の混合物をミリング媒体を使用したミリング装置内でメカノケミカル合成する工程を含む、ナノ粒子組成物の製造方法である。前記ナノ粒子の平均サイズは、200nm未満、100nm未満、75nm未満、50nm未満、又は40nm未満である。更に、該ナノ粒子の少なくとも50%、或いは75%が、上記特定の平均サイズの範囲内になるサイズ分布となり得る。反応時間は反応物質の性質によって変わるが、5分間〜2時間、5分間〜1時間、5分間〜45分間、5分間〜30分間、及び10分間〜20分間の範囲となり得る。ミリング媒体の直径は1〜20mm、2〜15mm、又は3〜10mmであり得る。
【0023】
本発明の他の態様において、前記前駆体化合物は、生物製剤、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、ヌクレオチド、核酸、及びそのアナログから選択可能である。更に、前記前駆体化合物は、抗肥満薬、中枢神経系興奮剤、カロテノイド、コルチコステロイド、エステラーゼ阻害剤、抗菌薬、腫瘍治療薬、抗嘔吐薬、鎮痛薬、心臓血管作動薬、NSAID及びCOX−2阻害剤等の抗炎症薬、駆虫薬、不整脈治療薬、抗生物質(ペニシリン等)、抗凝固剤、抗うつ薬、抗糖尿病薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬、抗高血圧薬、抗ムスカリン様作用薬、抗マイコバクリア薬、抗新生物薬、免疫抑制剤、抗甲状腺薬、抗ウィルス薬、抗不安薬、鎮痛剤(睡眠薬、神経安定薬)、収れん薬、α−アドレナリン受容体遮断薬、β−アドレナリン受容体遮断薬、血液製剤及び代用血液、強心薬、造影剤、コルチコステロイド、咳止め剤(排痰薬、粘液溶解薬)、診断薬、診断造影剤、利尿薬、ドパミン作動薬(抗パーキンソン病薬)、止血剤、免疫薬、脂質制御薬、筋弛緩剤、副交感神経興奮薬、副甲状腺カルシトニン、ビスフォスフォネート、プロスタグランジン、放射性医薬品、性ホルモン(ステロイド等)、抗アレルギー薬、刺激薬、食欲抑制薬、交感神経興奮薬、甲状腺薬、血管拡張薬、キサンチン等の様々なクラスの薬剤から選択可能である。他の態様において、前記前駆体化合物は、ハロペリドール、塩酸DLイソプロテレノール、テルフェナジン、塩酸プロプラノロール、塩酸デシプラミン、サルメテロール、クエン酸シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、フェナム酸、ピロキシカム、ナプロキセン、ボルタレン(ジクロフェナク)、ロフェコキシブ、イブプロフェン、オンダンステトロン、スマトリプタン、ナラトリプタン、酒石酸エルゴタミン+カフェイン、メチルセルジド、及びオランザピンから選択可能である。
【0024】
本発明の他の態様において、前記方法は、前記キャリア・マトリックスの少なくとも一部を除去する追加の工程を含み得り、残留した前記ナノ粒子の平均粒子サイズは200nm未満である。キャリア・マトリックスは任意の部分を除去してよく、キャリア・マトリックスの25%、50%、75%、又は実質的に全部を除去してよいが、これらに限定されない。
【0025】
他の態様において、本発明は、前記方法のいずれかによって製造されたナノ粒子組成物を対象とする。本発明はまた、少なくともナノ粒子組成物と、薬学的に許容可能なキャリアとを有する医薬組成物を対象とする。治療効果量の製造されたナノ粒子組成物と、薬学的に許容可能なキャリアとを本発明の方法に従って組み合わせることによって、医薬品を製造することも可能である。
【0026】
他の態様において、本発明は、キャリア・マトリックスに分散された、平均サイズが200nm未満、100nm未満、75nm未満、50nm未満、及び40nm未満から選択される治療薬のナノ粒子を対象とする。該ナノ粒子の少なくとも50%、或いは75%が、上記特定の平均サイズの範囲内になるナノ粒子サイズ分布となり得る。
【0027】
一態様において、本発明は、キャリア・マトリックスがNaCO、NaHCO、NHCl、及びNaClから選択されるか、或いはそれらの好適な組み合わせであるナノ粒子組成物を含む。本発明の他の態様において、前駆体化合物は、ジクロフェナク、ナプロキセン、オランザピン、及びシルデナフィルから選択される。
【0028】
他の態様において、本発明は、キャリア・マトリックスに分散された治療薬のナノ粒子を有するナノ粒子組成物であって、キャリア・マトリックスに分散された治療薬のナノ粒子を有するナノ粒子組成物を製造するのに十分な反応時間で、前駆体化合物と共反応物質の混合物をミリング媒体を使用したミリング装置内でメカノケミカル合成する工程を含む方法によって製造されたナノ粒子組成物を対象とする。本発明のナノ粒子組成物はまた、キャリア・マトリックスの少なくとも一部を除去する追加の工程を含む方法により製造可能である。ナノ粒子サイズ、MCS時間、前駆体化合物、及びキャリア・マトリックスの上記選択肢は、これらナノ粒子組成物にも適用可能である。
【0029】
本発明の他の態様及び利点は、下記記載を検討すれば当業者に明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
<概論>
当業者ならば、本明細書に記載の発明は、明細書に具体的に記載のしたもの以外のように変更、変形され得ることを理解するであろう。本発明は、そのような変更、変形の全てを含むものであることを理解されたい。本発明はまた、明細書で参照又は記載された全ての工程、特徴、組成物、及び化合物を単独又は集合的に含み、且つ、該工程又は特徴の任意及び全ての組み合わせ、若しくは任意の2種以上を含む。
【0031】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態に限定されず、本実施形態は例示することのみを目的としている。機能的に均等な生成物、組成物、及び方法は、明らかに本明細書に記載の本発明の範囲内である。
【0032】
本明細書に記載の発明は、サイズ、濃度等の一つ以上の数値の範囲を含み得る。数値範囲は、範囲を画定する数値と、該範囲の境界を画定する値に直接隣接する数値と同じ若しくは実質的に同じ結果をもたらす、該範囲に隣接する数字とを含んで、範囲内の数値全てを含むものと理解される。
【0033】
本明細書に引用する全ての出版物(特許、特許出願、雑誌記事、ラボマニュアル、本、他の書類等)の開示全体を、参照により本明細書に援用する。引用文献が、従来技術となり、本発明が属する分野の当業者の一般的な共通知識の一部であることを認めるものではない。
【0034】
本明細書中で「導かれた(derived)」及び「から導かれた(derived from)」とは、あるソースから、必ずしも直接ではないが、特定の整数が得られる可能性があることを示すと解釈される。
【0035】
本明細書全体を通して、「有する(comprise)」という語、又は「有する(comprises)」及び「有している(comprising)」等の変形は、文脈からそうではない限り、記載した整数又は整数群を含み、他の整数又は整数群は除外しないことを暗に示すものと理解される。
【0036】
本明細書全体を通して、「有する(comprise)」という語、又は「有する(comprises)」及び「有している(comprising)」等の変形は、文脈からそうではない限り、記載した整数又は整数群を含み、他の整数又は整数群は除外しないことを暗に示すものと理解される。また、本開示、特に特許請求の範囲及び/又は明細書の段落において、「有する(comprise)」、「有した(comprised)」、「有している(comprising)」等の語は、米国特許法に帰する意味し得り、例えば、「含む(includes)」、「含んだ(included)」、「含んでいる(including)」等を意味し得り、また、「から実質的になる(consisting essentially of)」、「から実質的になる(consists essentially of)」等の語は、米国特許法に帰する意味し得り、例えば、それらの語は、明示的に記載されていない構成要素は含むが、従来技術には無いか発明の基本的若しくは新規な特徴に影響を及ぼす構成要素は除くということに注意されたい。
【0037】
本明細書において「ナノコンポジット微細構造」は、平均粒子サイズが1000nm未満であるナノ粒子を少なくとも有するナノ粒子組成物を含む。本明細書のナノコンポジット微細構造はまた、「ナノ粒子治療薬」等を含む。キャリア・マトリックス中に分散された薬剤ナノ粒子は、キャリア・マトリックスが部分的又は実質的に全て除去された実施形態同様、ナノコンポジット微細構造中に含まれる。
【0038】
「従来の作用薬又は薬剤」とは、作用薬又は可溶化した作用薬若しくは薬剤の非ナノ粒子組成物を言う。非ナノ粒子作用薬の効果的平均粒子サイズは約2ミクロン超過であり、これは、薬剤粒子の少なくとも50%は粒子サイズが約2ミクロン超過であることを意味する。(本明細書で定義したナノ粒子薬剤の効果的平均粒子サイズは約1000nm未満である)。
【0039】
薬剤の用量に対して本明細書で使用する「治療効果量」は、治療を必要とする多数の被験者に薬剤を投与した時に特定の薬理学的応答が得られる用量を意味する。ある場合、ある被験者に投与した「治療効果量」は、当業者が「治療効果量」と考えても、本明細書に記載の疾病の治療に効果的でないことがあることを強調しておく。また、薬剤の用量は、ある場合において、経口用量として、又は血液中で測定したときの薬剤の量を参照して計ることを理解されたい。
【0040】
本明細書で使用される選択された用語の他の定義が本発明の詳細な説明中に見出されることがあるが、全体的に適用される。特に定義されていない限り、本明細書で使用する他の全ての科学・技術用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解する意味と同じ意味を有する。
【0041】
<メカノケミカル合成>
「メカノケミカル合成(MCS)」とは、例えば、反応混合物をミリング媒体存在下で攪拌して機械的エネルギーを該反応混合物に伝えることによって、物質又は物質混合物中の化学反応、結晶構造変換、又は相変化を活性化、開始、又は促進するために機械的エネルギーを使用することを言い、「メカノケミカルアクティベーション」、「メカノケミカルプロセッシング」、「反応性ミリング」、及び関連工法が挙げられるが、これらに限定されない。反応混合物は閉じた容器又はチャンバーに投入する。本明細書中において「攪拌(agitating, agitation)」とは、並進運動(横移動振とう等)、回転(スピン等)、及び反転(上下反転等)等の基本的な動的動作の少なくとも1種、又はこれらの2種以上の任意の組み合わせを反応混合物に対して印加することを意味する。好ましくは、反応混合物に対して3種全ての動作を印加する。このような攪拌は、外部からの反応混合物とミリング媒体の混和(stir)を行って、或いは行わないで達成可能である。
【0042】
本発明のMCSプロセスにおいて、結晶状、粉体状等の反応物質の混合物を容器又はチャンバー内でミリング媒体と好適な配合割合で混ぜ、所定の攪拌力で所定の時間、機械的に攪拌する(即ち上記混和を伴う、或いは伴わない攪拌を行う)。通常、ミリング媒体への動作の付与は、ミリング装置を使用して、様々な並進動作、回転動作、反転動作、又はその組み合わせを容器又はその内容物に印加する外部攪拌、終端にブレード、プロペラ、羽根車、又はパドルを有する回転シャフトによる内部攪拌、又は両方の攪拌によって行われる。本明細書に記載の方法によって機械的に作動可能なプロセスとしては、酸化還元反応、イオン交換反応、置換反応等の固体反応等の化学反応の開始;結晶格子中の転位の発生;多形相変換の開始;準安定相の形成;結晶子サイズの微調整;遊離酸又は遊離塩基からの塩の形成;塩からの遊離酸又は遊離塩基の形成等が挙げられる。このようなプロセスは、液体及び溶媒を無添加のノミナル室温条件(nominally ambient conditions)で促進可能である。
【0043】
メカノケミカルプロセッシングの様々な態様の詳細な説明は、“The Fundamentals of Mechanochemical Processing”, Journal of Metals, vol.50, 1998, pp 61-65” (P. G. McCormick and F. H. Froes)、及び“Mechanochemistry of Materials”, Cambridge Internet. Science Publ., 1998 (E. M. Gutman)、並びにこれらに引用された文献に記載されている。
【0044】
本発明の方法において、所定量のミリング媒体、好ましくは化学的に不活性であり硬質なミリング媒体を、機械的活性化の前に、少なくとも前駆体組成物(通常は医薬品の形態)と共反応物質とを含む実質的に乾燥した反応混合物に加える。反応混合物を、例えば、ミリング装置内で、反応混合物を大気温度で(即ち外部から加熱せずに)ミリング媒体存在下で攪拌して機械的活性化処理する。本明細書中において「化学的に不活性な」ミリング媒体とは、ミリング媒体が反応混合物の如何なる成分とも化学的に反応しないことを意味する。
【0045】
通常、硬質ミリング媒体は粒子状の形態であり、種々の平坦・規則正しい形状、平面又は曲面を有し、且つ鋭い又は隆起したエッジが無いことが好ましい。例えば、好適なミリング媒体は、形状が楕円、卵型、球状、又は直円柱状である粒子形態であり得る。好ましくは、ミリング媒体は、ビーズ、ボール、球体、ロッド、直円柱、ドラム、又はラジアスエンド直円柱(即ち、円柱の半径と同じ半径である半球形ベースを有する直円柱)の形態である。前駆体組成物及び共反応物質の性質に応じて、ミリング媒体の効果的平均粒径(即ち「粒子サイズ」)は、約0.1〜30mm、より好ましくは約1〜15mm、更に好ましくは約3〜10mmの間であることが望まれる。本明細書において「効果的平均粒径」を、1つの粒子が通過可能な最小の円形穴の平均直径と定義する。例えば、球形粒子の効果的平均粒径は平均粒子径に対応し、楕円形粒子の効果的平均粒径は最長の短軸の平均長さに対応する。
【0046】
硬質ミリング媒体は、セラミック、ガラス、又はポリマー組成物等の様々な材料を粒子状に含むことが有利である。好適な金属製ミリング媒体は通常球形であり、良好な硬度(即ちRHC60〜70)、円形度、高耐磨耗性、狭い粒度分布を有し、例えば、52100型クロム鋼、316型若しくは440C型ステンレス、又は1065型炭素硬鋼からなるボールが挙げられる。
【0047】
好ましいセラミック材料は、例えば、望ましくはミリング中に欠けたり破損しないような十分な硬度及び耐破壊性を有し、且つ密度が十分に高い様々なセラミックから選択可能である。ミリング媒体の好適な密度は約1〜15g/cmである。好ましいセラミック材料としては、ステアタイト、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、ジルコニア−シリカ、イットリア安定化型酸化ジルコニウム、マグネシア安定化型酸化ジルコニウム、窒化シリコン、炭化シリコン、コバルト安定化型炭化タングステン等、及びその混合物が挙げられる。
【0048】
好ましいガラス製ミリング媒体は球形(ビーズ等)であり、粒度分布は狭く、耐久性があり、例えば、鉛無添加ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスが挙げられる。高分子ミリング媒体は、好ましくは、略球形であり、ミリング中に欠けたり破損しないような十分な硬度、耐破壊性、及び生成物との接触による摩滅を最小限にする耐摩耗性を有し、且つ金属、溶剤、残留モノマー等の不純物が残らない、様々なポリマー樹脂から選択可能である。好ましいポリマー樹脂としては、例えば、ジビニルベンゼンと架橋させたポリスチレン等の架橋ポリスチレン、スチレンコポリマー、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、塩化ビニルポリマー及びコポリマー、ポリウレタン、ポリアミド、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。メカノケミカル合成ではなく高分子ミリング媒体を使用した材料の微粉化は、例えば、米国特許第5,478,705号明細書、米国特許第5,500,331号明細書に開示されている。ポリマー樹脂の一般的な密度は約0.8〜3.0g/cmである。高密度ポリマー樹脂が好ましい。或いは、ミリング媒体は、ポリマー樹脂を付着させた高密度コア粒子を有する複合粒子でもよい。該コア粒子は、ガラス、アルミナ、ジルコニアシリカ、酸化ジルコニウム、ステンレス等、ミリング媒体として有用であることが知られている材料から選択可能である。好ましいコア材料の密度は約2.5g/cm超過である。
【0049】
本発明の一形態において、ミリング媒体は強磁性材料から形成されているため、ミリング媒体の摩耗によって生じる異物の磁気分離技術による除去が促進される。機械的活性化中、ミリング媒体は、ミリング媒体の回転、横運動、反転又は攪拌中にミリング媒体とミリング装置の相互作用によって発生した機械的エネルギーの反応物質の粉体への直接伝達を、大きな熱を加えずに、促進する。ミリング媒体に付与された動作によってせん断力が印加され、ミリング媒体粒子と反応物質粉体の粒子が強烈に多数回激突、即ち衝突する。ミリング媒体から反応物質粒子への機械的エネルギーの移動効率は、ミリング装置の種類、発生する力の大きさ、プロセスの運動学的側面、ミリング媒体のサイズ、密度、形状、及び組成、反応混合物とミリング媒体の重量比、活性化時間、反応物質及び生成物両方の物理的性質、活性中の雰囲気等の様々な処理パラメータによって影響される。メカノケミカル活性を支配する一般的な物理的・化学的原理は完全には理解されておらず、普通は特定の反応物質及び生成物に依存する。
【0050】
本発明の機械的活性プロセスは、反応物質混合物の粒子に繰り返して、又は連続的に機械的圧縮力及びせん断応力を印加可能なミリング装置によって最も有利に達成される。好適なミリング装置は、前駆体化合物と共反応物質との間のエネルギー交換を促進する任意のリアクター又は容器であり、小さいミリング媒体を入れた、高エネルギーボールミル、サンドミル、ビーズミル、パールミル、バスケットミル、プラネタリミル、振動ボールミル、多軸型シェーカー/ミキサー、攪拌ボールミル、水平型小媒体用ミル、マルチリング粉砕ミル等の当該技術分野で公知のものから選択可能であるが、これらには限定されない。ミリング装置は1つ以上の回転シャフトを具備可能である。好適な攪拌速度及び合計活性化時間は、ミリング装置及びミリング媒体のサイズ及び種類、反応混合物とミリング媒体の重量比、反応物質と生成物の物理的・化学的性質、及び経験に基づいて最適化される他のパラメータに応じて調節する。
【0051】
固体メカノケミカル反応は、サンプルを機械処理して分子固体中に化学プロセスを誘導する反応である。機械的ミリング又はグリンディングは、固体のそのような機械的活性化を達成するための通常の手法である。更に好ましくは、これはボールミル中の機械的ミリングによって達成される。明細書全体を通して、機械的活性化はボールミル中で行われているものとする。この種のミルの例としては、アトライターミル、転頭ミル、タワーミル、プラネタリーミル、振動ミル、重力依存型ボールミルが挙げられる。機械的活性化はボールミリング以外の手段によっても達成可能であることが理解されよう。例えば、機械的活性化は、ジェットミル、ロッドミル、ローラーミル、又はクラッシャーミルによっても達成可能である。
【0052】
通常は鋼製又はセラミック製ボールである粉砕媒体を、機械的エネルギーの印加によって供給材料に対して連続動作した状態に維持し、ボール−フィード−ボール間の衝突、及びボール−フィード−ライナー間の衝突中に該供給材料に付与されたエネルギーが固体の機械的活性化に十分になった時に、機械的活性化がボールミル中で発生する。
【0053】
ミリング工程中の粒子サイズは、使用したミリング方法、ミリングボールのサイズ、及びミリング時間と関係する。特に重要なものは、ボールと粉体の衝突に関わる衝突エネルギーである。重要な衝突エネルギーの決定要因としては、ボールと粉体の質量比、及びボールサイズが挙げられる。ミリング中の衝突エネルギーが高すぎると化学反応が不安定になり、生成物相の溶解及び蒸発、粒子サイズの増大、生成物の形態変化が起こる。燃焼の発生に必要な衝突エネルギーは、反応に伴うエンタルピー変化、並びに他の要因と関係している。
【0054】
反応物質は、下記ナノコンポジット微構造組成物C+Dを形成するのに必要且つ、ミル及びミリング媒体から生じ得る全ての異物を最小限とする最小時間、ミリングするのが好ましい。この時間は反応物質によって大幅に変化するが、5分〜数時間の範囲である。しかし、無機化合物用の当該技術分野で知られているMCSプロセスとは違い、本発明者らは、驚くべきことに、ナノ粒子の形成には通常約15分のミリング時間で十分であることを見出した。MCSミリング時間が2時間を越えると、ナノ粒子配合物が分解したり、不要な異物の量が増える可能性がある。場合によっては、生成物を更に熱処理して、反応を確実に終了させる必要がある。分離した、バラバラのナノ粒子のキャリア・マトリックス中での形成を促進するため、これらナノ粒子の体積分率に注意しなけらばならない。例えば、ナノ粒子の体積分率は、球形粒子の三次元ランダム分散体の理論的パーコレーション閾値である約15%未満であることが望ましいかもしれない。
【0055】
<ナノコンポジット微構造体(ナノ粒子組成物)>
本発明は、上記固体化学反応によって機械化学的に調製した、治療効果のあるナノ粒子を有する改良ナノコンポジット微構造組成物を提供する。一形態において、本発明は、上記固体化学反応によって機械化学的に調製した、キャリア・マトリックスに分散した治療効果のあるナノ粒子を有する改良ナノコンポジット微構造組成物を提供する。メカノケミカル反応中の固体化学を利用してナノコンポジット微構造組成物を生成することにより、出願人は、キャリア・マトリックス内の治療効果のあるナノ粒子の濃度及び分布、並びに該ナノ粒子のサイズ、場合によっては多形構造を制御することができる。
【0056】
本発明のナノコンポジット微構造組成物は、代わりに生成される物質と比べて有益な薬物動態学的性質を有し得る。粒子サイズが小さいと、組成物の表面積が大きい結果、少なくとも一部分において溶解速度が増加する。本製造方法にはまた、化合物中に異なる多形構造を誘発する可能性があり、該化合物もまた、溶解性に有利に影響する可能性がある。生体利用効率及び用量比例性を改善、摂食/非摂食間の変動及び被験者間変動を低減、また、吸収速度を上げるために粒子サイズ又は多形構造を変えることが報告されている。
【0057】
キャリア・マトリックスを選択的に実質的に除去して、治療効果のあるナノ粒子を残した場合、粒子の凝集が起こることがあり、大きい粒子が形成する。前記プロセスの独特な性質によって、これら新しい凝集粒子は、例えば、新しい多形構造又はナノ構造プロセスによって独特な物理性質を有し得る。上述したように、独特な多形構造及び/又はナノ構造プロセスによって、改善された生体利用効率等の治療上有益な性質が得られ得る。したがって、本発明の幾つかの実施形態では、本発明の組成物は、実質的に治療効果のあるナノ粒子のみを有する。他の実施形態、特にはキャリア・マトリックスが無いため前記プロセスで形成されたナノ粒子が凝集して溶解速度の改善に悪影響がある場合、好適な組成物は、キャリア・マトリックスの少なくとも一部分に保持される。
【0058】
微構造組成物中のナノ粒子は、約0.1重量%〜約99.0重量%の濃度で存在する。好ましくは、微構造組成物中の治療効果のあるナノ粒子の濃度は、約5重量%〜約80重量%であり、10重量%〜約50重量%であることが極めて好ましい。キャリア・マトリックスの任意の部分の除去前(所望の場合)の未洗浄微構造組成物に対して、前記濃度は、望ましくは約10重量%〜15重量%、15重量%〜20重量%、20重量%〜25重量%、25重量%〜30重量%、30重量%〜35重量%、35重量%〜40重量%、40重量%〜45重量%、又は45重量%〜50重量%であることが望ましい。マトリックスの一部分又は全部を除去した場合、組成物中のナノ粒子の相対濃度は、除去したマトリックス量によっては、非常に高くなり得る。例えば、全てのマトリックスを除去した場合、製剤中のナノ粒子濃度はおよそ100重量%になり得る。
【0059】
キャリア・マトリックス内のナノ粒子分散は、微構造体中の薬剤の重量%濃度に依存する。微構造体中のナノ粒子は、該重量%濃度に依存して、少なくともその0.1%がキャリア・マトリックスによって分離された場合に「分散」する。好ましくは、微構造体中の10%を越えるナノ粒子が、キャリア・マトリックスによって互いに分離される。より好ましくは、微構造体中のナノ粒子の少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、98%、又は99%がキャリア・マトリックスによって互いに空間的に分離される。
【0060】
微構造組成物中の治療効果のあるナノ粒子のサイズは、好ましくは約1nm〜約200nm、より好ましくは約5nm〜約100nm、更に好ましくは約5nm〜約50nm、より更に好ましくは約10nm〜約40nmである。本発明の極めて好適な実施形態において、ナノ粒子のサイズは約20nm〜30nmである。これらのサイズは、完全に分散又は部分的に凝集したナノ粒子のものである。例えば、20nmの粒子が2つ凝集した場合、生じるものは約40nmのサイズのナノ粒子であり、まだ本発明のナノ粒子と考えられる。或いは、治療効果のあるナノ粒子の平均サイズは、好ましくは200nm未満、より好ましくは100nm未満、更に好ましくは75nm未満、より更に好ましくは50nm未満、より更に好ましくは40nm未満であり、該平均サイズは、上述したように完全に分散又は部分的に凝集したナノ粒子のものである。
【0061】
本発明に従って製造したナノコンポジット微構造組成物に含有する治療効果のあるナノ粒子は1種に限定されず、2種以上の治療効果のあるナノ粒子が組成物中に存在してもよい。2種以上のナノ粒子を存在させる場合、形成するナノコンポジット微構造組成物は、単一の固体メカノケミカル反応で調製しても、或いはより好ましくは複数の該反応を別々に行い、その反応生成物を一つにして単一のナノコンポジット微構造組成物を形成することで調整してもよい。
【0062】
他の実施形態において、本発明のナノ粒子組成物は、他の治療薬と、或いは同じ薬剤と、組み合わせて治療薬としてもよい。後述する実施形態では、異なる放出特性(ナノ粒子薬剤からの早期放出、大平均粒径ナノ粒子薬剤若しくは非ナノ粒子薬剤からの除放)を提供する治療薬剤形が達成可能である。
【0063】
本発明の一実施形態において、ナノコンポジット微構造組成物は、好ましくは固溶体又は固体分散体である。固溶体は、存在している異なる成分の数に関係なく、1つの相のみから成る。固溶体は、連続型、非連続型、置換型、侵入型、又は不定形型に分類可能である。典型的な固溶体は、溶質分子が結晶格子中の溶媒分子と置換可能、或いは溶媒分子間の隙間に嵌着可能である結晶構造を有する。侵入型結晶固溶体は、溶解した分子が結晶格子中の溶媒分子間のスペースを占領したときに生じる。不定形型固溶体は、溶質分子が不定形溶媒中に分子的にだが、不規則に分散することに生じる。
【0064】
本発明によれば、固溶体又は固溶分散体は、キャリア・マトリックス中に分布した治療効果のあるナノ粒子を有することが好ましい。固溶体又は固溶分散体は、治療効果が無く、且つ/又は無毒性の安定化剤を有することがより好ましい。薬効ナノ粒子をキャリア・マトリックスに保持した状態で、経口投与用又は直腸投与用等、固形の剤形に配合可能である場合、キャリア・マトリックスが固体状態安定化剤として効果的に機能するため、分散体を更に安定化する必要なほとんど、若しくは全く無い。しかし、ナノ粒子を液状(又はガス状)の懸濁液として利用する場合、キャリア・マトリックスを実質的に除去したら、完全に除去するために、或いは少なくとも粒子の凝集を最小限にするために、ナノ粒子を更に安定化する必要がある可能性がある。
【0065】
<改良ナノコンポジット微構造組成物の調製方法>
本発明は、改良ナノコンポジット微構造組成物の調製方法を含み、該方法は、メカノケミカル合成条件下で前駆体化合物を共反応物質と接触させて、該前駆体化合物と該共反応物質との間に固体化学反応を発生させ、キャリア・マトリックス中に分散した治療効果のあるナノ粒子を生成する工程を含む。この方法により製造されたキャリア・マトリックスは、無毒であることが好ましくは、或いは治療効果のあるナノ粒子から単離及び/又は実質的に除去可能でなくてはならない。
【0066】
改良ナノコンポジット微構造組成物は、下記一般反応式により形成されるのが好ましい。
(式1)
A + B → C + D
式中、Aは前駆体化合物、Bは共反応物質、Cはキャリア・マトリックス、Dはキャリア・マトリックス中に分散された、所望の本発明の治療効果のあるナノ粒子であり、本発明の改良ナノコンポジット微構造組成物が得られる。
【0067】
本発明の一形態において、改良ナノコンポジット微構造組成物は下記一般反応式によって形成される。
(式2)
A + B + E → C + D
式中、Eは希釈剤、表面安定化剤等の1種以上の促進剤、経口投与用のタブレットの一部を形成し得る他の物質、下記「薬剤及び医薬組成物」の項に列挙した作用薬及び媒体等、他の特定の薬物送達に必要なその他の物質、又はその組み合わせであり、したがって、キャリア・マトリックスCは1種以上の促進剤を有し得る。
【0068】
本発明の一形態において、共反応物質Bは、前駆化合物Aよりも化学量論的に多く使用され、キャリア・マトリックスCは、未反応共反応物質Bを有する。
【0069】
本発明の一形態において、キャリア・マトリックスCは、未反応共反応物質Bと1種以上の促進剤Eの組み合わせを有する。
【0070】
キャリア・マトリックスCは、前駆体化合物Aと共反応物質Bの反応から生じた1種以上の副生成物を有しても良い。したがって、キャリア・マトリックスCは、1種以上の未反応共反応物質B、1種以上の促進剤E、前駆体化合物Aと共反応物質Bの1種以上の副生成物、の1種以上を有してよい。
【0071】
キャリア・マトリックスCは、前駆体化合物A及び/又は共反応物質Bと促進剤Eの1種以上の副生成物を有してよい。
【0072】
したがって、キャリア・マトリックスCは、未反応共反応剤B、1種以上の促進剤E、前駆体化合物Aと共反応物質Bの1種以上の副生成物、及び/又は前駆体化合物A及び/又は共反応物質Bと促進剤Eの1種以上の副生成物、の1種以上を有してよい。
【0073】
全ての副生成物は無毒であり、且つ/又は、必要に応じて改良ナノコンポジット微構造組成物C+Dから容易に実質的に単離可能であることが好ましい、当業者ならば、前記反応には多くの形態が他に存在し得ることを理解するであろう。例えば、2種以上の副生成物が生成されてもよい。
【0074】
1.前駆体化合物A
本発明で好適に使用される前駆体化合物としては、固体メカノケミカル反応で共反応物質と反応して治療薬を生成可能な全ての化合物が挙げられ、該治療薬は、作用薬と、不活性キャリア・マトリックス、ガス、高揮発性液体、溶解度の違い等により容易に単離可能とする化学的性質を有する物質等の、容易に実質的に除去可能な副生成物の一部分を形成し得る反応副産物とを生成する化学反応を起こし、且つナノ粒子として存在可能なものである。尚、前記副生成物は、キャリアの構成成分を提供し得るが、必ずしもしなくともよい(例えば、CO又はHOは、ガスとして容易に除去される副生成物である)。前駆体化合物は、通常、粒径を小さくする等の当業者が性質を改善したい医薬品化合物であり。前駆体化合物は、通常、従来の作用薬又は薬剤であるが、本発明の方法は、元の従来品と比べて既に粒子サイズを小さくした薬剤配合物に対して用いてもよい。所望の前駆体化合物が、80°Cを超えることもある、冷却前のメカノケミカル処理の通常温度に耐えることが出来ることが好都合である。したがって、融点が約80°C以上の化合物が好適である。低融点の前駆体化合物に対しては、反応容器を冷却することで、低融点化合物の処理を可能とする。例えば、簡易な水冷ミルで温度を50°C未満に保持でき、或いは冷却水を用いてミリング温度を低下させることが可能である。当業者ならば、反応ミルを任意の温度度、例えば−190°C〜500°Cの間で動作するように設計可能であることが理解されよう。ある反応においては、ミリング温度を前駆体化合物及び/又は共反応物質の融点よりも大幅に小さい温度に制御するのが有利であり得る。
【0075】
本発明で使用する前駆体化合物は、例えば、生物製剤、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、ヌクレオチド、核酸、及びそのアナログ等の医薬品とすることが可能である。前駆体化合物は、抗肥満薬、中枢神経系興奮剤、カロテノイド、コルチコステロイド、エステラーゼ阻害剤、抗菌薬、腫瘍治療薬、抗嘔吐薬、鎮痛薬、心臓血管作動薬、NSAID及びCOX−2阻害剤等の抗炎症薬、駆虫薬、不整脈治療薬、抗生物質(ペニシリン等)、抗凝固剤、抗うつ薬、抗糖尿病薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬、抗高血圧薬、抗ムスカリン様作用薬、抗マイコバクリア薬、抗新生物薬、免疫抑制剤、抗甲状腺薬、抗ウィルス薬、抗不安薬、鎮痛剤(睡眠薬、神経安定薬)、収れん薬、α−アドレナリン受容体遮断薬、β−アドレナリン受容体遮断薬、血液製剤及び代用血液、強心薬、造影剤、コルチコステロイド、咳止め剤(排痰薬、粘液溶解薬)、診断薬、診断造影剤、利尿薬、ドパミン作動薬(抗パーキンソン病薬)、止血剤、免疫薬、脂質制御薬、筋弛緩剤、副交感神経興奮薬、副甲状腺カルシトニン、ビスフォスフォネート、プロスタグランジン、放射性医薬品、性ホルモン(ステロイド等)、抗アレルギー薬、刺激薬、食欲抑制薬、交感神経興奮薬、甲状腺薬、血管拡張薬、キサンチン等の広く知られたクラスの薬剤から選択可能であるが、これらに限定されない。
【0076】
上記薬剤のクラス、及び各クラス内の薬剤のリストは“Martindale's The Extra Pharmacopoeia, 31st Edition (The Pharmaceutical Press, London, 1996)”に記載され、参照することにより本願に援用する。他の薬剤の情報源は“Physicians Desk Reference (60th Ed., pub. 2005)”であり、当業者に良く知られている。これら薬剤は市販のものを用いるか、且つ/又は当技術分野でしられた手法により調製可能である。
【0077】
本発明の方法にとって好適な薬剤の網羅的なリストは、本明細書にとって煩わしいほど長くなってしまうが、上記包括的な薬物類リストを参照すれば、当業者は、本発明の方法が適用可能な事実上全ての薬物を選択することが出来るであろう。本発明の方法は全体的に適用可能であるが、前駆体化合物の更に具体的な例としては、ハロペリドール(ドーパミンアンタゴニスト)、塩酸DLイソプロテレノール(β−アドレナリンアゴニスト)、テルフェナジン(H1アンタゴニスト)、塩酸プロプラノロール(β−アドレナリンアンタゴニスト)、塩酸デシプラミン(抗うつ薬)、サルメテロール(β2−選択的アドレナリンアゴニスト)、クエン酸シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル等が挙げられるが、これらに限定されない。マイナー鎮痛剤(シクロオキシゲナーゼ阻害剤)、フェナム酸、ピロキシカム、Cox−2阻害剤、ナプロキセン等の薬剤は、ナノ粒子組成物で調製することの恩恵を受け得る。更に、ナノ製剤中に配合されると、皮膚吸収されるという利点がある薬剤もある。このような薬剤としては、ボルタレン(ジクロフェナク)、ロフェコキシブ、イブプロフェン等が挙げられる。
【0078】
他の前駆体化合物を使用して偏頭痛及び他の精神病治療用のナノ粒子微構造体を調製することが可能であり、それらとしては、5−ヒドロキシトリプタミン受容体アンタゴニスト(オンダンステトロン、スマトリプタン、ナラトリプタン等)、酒石酸エルゴタミン+カフェイン、メチルセルジド等が挙げられる。
【0079】
2.共反応物質(B)
本発明に好適な共反応物質は、反応で使用する前駆体化合物に対する適用性、及び該前駆体物質の性質に主に基づいて選択する。例えば、前駆体化合物が塩基の場合、適切な共反応物質は薬学的に許容可能な酸であり得る。前駆体化合物が酸の場合、適切な共反応物質は薬学的に許容可能な塩基であり得る。前駆体化合物が塩である場合、適切な共反応物質は酸又は塩基であり得る。この点に関して、共反応物質は下記検討事項に基づいて選択する。
(1)ナノスケールの微構造体の処理中の形成を促進する機械的性質
処理中に粒子を確実に破壊してナノコンポジット微構造体をミリング中に形成させるには、固体状態の前駆体化合物は低硬度(通常はMohs硬度7未満)であることが望ましい。
(2)低研削性
生成物粉体の粉砕ボール(即ちミリング媒体)とミル容器による汚染を最小限にするために、低研削性であることが望ましい。間接的な研削性の指標は、ミリングに基づいた異物の量を測定することで得られる。
(3)熱特性
前駆体化合物は、熱分解される確率を減らすために比較的低温で治療薬に変換されなければならない。実際の温度は、選んだ前駆体化合物の性質に依存する。
(4)凝集性
ミリング中、特には少量の水の存在下では、共反応物質の凝集性は小さくなければならない。ミリング中の凝集性を定量するのは困難である。ミリング中の共反応物質のミリング媒体及びミル容器への「固化」量を観察することによって、主観的な尺度を得ることが出来る。
(5)ナノ粒子組成物との未反応性
共反応物質は、プロセスの全ての段階でナノ粒子組成物(C+D)内のナノ粒子Dと反応しないことが好ましい。
(6)溶解特性
共反応物質の少なくとも一部を除去することが望ましい場合、該共反応物質は、その送達又は選択的除去を促進するために、生体液及び/又は水、アルコール等の一般的な溶媒に対して溶解性が高いことが好ましい。更に、共反応物質は、生体液及び/又は水、アルコール等の一般的な溶媒に対して少なくとも10mg/mlまで可溶であることが好ましい。
【0080】
一実施形態において、共反応物質は、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、又はコハク酸;フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸等(これらに限定されない)、塩基性薬剤との塩形成に薬学的に許容可能な結晶性有機酸;或いは、アンモニア又は揮発性アミンを反応中ガスとして除去する場合、塩化アンモニウム、塩酸メチルアミン、臭化アンモニウム等(これらに限定されない)、塩基性薬剤と塩形成するための薬学的に許容可能な強無機酸を有するアンモニウム塩(又は揮発性アミンの塩);或いは、反応中に薬学的に許容可能な二価の強無機酸(硫酸等)をプロトン供与体として使用する場合、単ナトリウム、カリウム、又はリチウム塩が使用可能である;結晶性水酸化物、炭酸水素塩、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、バリウム等(これらに限定されない)の薬学的に許容可能なアルカリ金属の炭酸水素塩の群から選ばれる無機又は有機化合物である。
【0081】
特定の前駆体/共反応物質の組み合わせを含む本発明の幾つかの実施形態では、共反応物質は、得られるキャリア・マトリックスが、得られる生成物の少なくとも50体積%、好ましくは少なくとも60体積%、より好ましくは少なくとも70体積%、更に好ましくは少なくとも80体積%を占める量で存在する。これは、凝集を防ぐために望ましい。特定の前駆体/共反応物質の組み合わせを含む本発明の幾つかの実施形態では、体積の小さいキャリア・マトリックスでも凝集を防止し、ある場合では、キャリア・マトリックスは完全に実質的に除去可能であり、ナノ粒子は安定している。しかし、キャリア・マトリックスの体積が小さい分画で凝集が起こる実施形態では、全生成物の少なくとも80%の体積のキャリアCが上記化学量論的反応から得られない場合、所望のナノ粒子を得るためにMCSミリングの開始時に過剰量の共反応物質、又は1種以上の促進剤Eを導入する必要がある可能性がある。
【0082】
共反応物質は、無毒性のキャリアを生成すること及び/又はキャリアを実質的に除去して実質的にナノ粒子状の薬剤だけを残留させることが出来ることに基づいて選択され、そのバラツキは個人の化学知識によってのみ制限される。
【0083】
本発明を説明するために、本発明の方法に使用する前駆体化合物と共反応物質との好ましい組み合わせを数例、下記表に提示する。本明細書の開示により、代わりの組み合わせを選択するのに必要な全ての情報を提示されているので、本発明はこれらの組み合わせに限定されない。
【0084】
【表1】

【0085】
3.副生成物
前駆体化合物Aと共反応物質Bの組み合わせ及び/又は促進剤Eによるが、副生成物は、存在する場合、塩酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、二酸化炭素、水蒸気、及び除去が容易なその他ガスを含み得る。副生成物の少なくとも一部を除去することが望ましい場合、該副生成物は、その送達又は選択的除去を促進するために、生体液及び/又は水、アルコール等の一般的な溶媒に対して溶解性が高く、且つ昇華温度はナノ粒子の融点よりも低いことが好ましい。更に、副生成物は、生体液及び/又は水、アルコール等の一般的な溶媒に対して少なくとも10mg/mlまで可溶であることが好ましい。
【0086】
4.促成剤E
改良ナノコンポジット微構造組成物(C+D)内における、所望の治療効果のあるナノ粒子Dの凝集を防ぐことが望ましい場合、希釈剤、表面安定化剤、又はそれらの組み合わせ等の促進剤が使用可能である。
【0087】
促進剤は、存在する場合、CTAB、塩化セチルピリジニウム、ゼラチン、カゼイン、リン脂質、デキストラン、グリセロール、アラビアゴム、コレステロール、トラガカント、ステアリン酸、ステアリン酸のエステル及び塩、ステアリン酸カルシウム、グリセロールモノステアレート、セトステアリルアルコール、セトマクロゴル乳化ワックス、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、ステアリン酸ポリオキシエチレン、コロイド状二酸化シリコン、フォスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、非結晶セルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレンオキシド及びホルムアルデヒドを有する4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールポリマー、ポロキサマー、ポロキサミン、帯電リン脂質、ジミリストイルフォスファチジルグリセロール、スルホコハク酸ジオクチル、スルホコハク酸ナトリウムのジアルキルエステル、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホン酸アルキルアリールポリエーテル、ステアリン酸スクロースとジステアリン酸スクロースの混合物、−(−PEO)−(−PBO−) −(−PEO−)−の構造を有する3ブロックコポリマー、p−イソノニルフェノキシポリ−(グリシドール)、デカノイル−N−メチルグルカミド、n−デシルβ−D−グルコピラノシド、n−デシルβ−D−マルトピラノシド、n−ドデシルβ−D−グルコピラノシド、n−ドデシルβ−D−マルトシド、ヘプタノイル−N−メチルグルカミド、n−ヘプチル−β−D−グルコピラノシド、n−ヘプチルβ−D−チオグルコシド、n−ヘキシルβ−D−グルコピラノシド、ノナノイル−N−メチルグルカミド、n−ノイルβ−D−グルコピラノシド、オクタノイル−N−メチルグルカミド、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、オクチルβ−D−チオグルコピラノシオド、リゾチーム、PEG−リン脂質、PEG−コレステロール、PEG−ビタミンA、PEG−ビタミンE、酢酸ビニルとビニルピロリドンのランダムコポリマー、及び/又は上記の任意の混合物等の表面安定化剤を含み得る。促進剤はまた、ポリマー、バイオポリマー、ポリサッカライド、セルロース誘導体、アルギン酸塩、非ポリマー化合物、及びリン脂質からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオン性表面安定化剤を含み得る。促進剤はまた、陽イオン性脂質、塩化ベンズアルコニウム、スルホニウム化合物、ホスホニウム化合物、四級アンモニウム化合物、臭化ベンジル−ジ(2−クロロエチル)エチルアンモニウム、塩化ココナッツトリメチルアンモニウム、臭化ココナッツトリメチルアンモニウム、塩化ココナッツメチルジヒドロキシエチルアンモニウム、臭化ココナッツメチルジヒドロキシエチルアンモニウム、塩化デシルトリエチルアンモニウム、塩化デシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化臭化デシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化C12〜15ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化臭化C12〜15ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化ココナッツジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、臭化ココナッツジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、硫酸メチルミリスチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、臭化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ラウリルジメチル(エテノキシ)アンモニウム、塩化N-アルキル(C12〜18)ジメチルベンジルアンモニウム、塩化N−アルキル(C14〜18)ジメチルベンジルアンモニウム、N−テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム一水和物、塩化ジメチルジデシルアンモニウム、塩化N−アルキル及び(C12〜14)ジメチル1−ナフチルメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウムハロゲン化物、アルキル−トリメチルアンモニウム塩、ジアルキル−ジメチルアンモニウム塩、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、エトキシ化アルキルアミドアルキルジアルキルアンモニウム塩、エトキシ化トリアルキルアンモニウム塩、塩化ジアルキルベンゼンジアルキルアンモニウム、塩化N−ジデシルジメチルアンモニウム、塩化N−テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム一水和物、塩化N−アルキル(C12〜14)ジメチル1−ナフチルメチルアンモニウム、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ジアルキルベンゼンアルキルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルベンジルメチルアンモニウム、臭化アルキルベンジルジメチルアンモニウム、臭化C12トリメチルアンモニウム、臭化C15トリメチルアンモニウム、臭化C17トリメチルアンモニウム、塩化ドデシルベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ポリ−ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)、塩化ジメチルアンモニウム、アルキルジメチルアンモニウムハロゲン化物、塩化トリセチルメチルアンモニウム、臭化デシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリエチルアンモニウム、臭化テトラデシルメチルアンモニウム、塩化メチルトリオクチルアンモニウム、POLYQUAT 10(TM)、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩素エステル、塩化ベンズアルコニウム、塩化ステアルコニウム化合物、臭化セチルピリジニウム、塩化セチルピリジニウム、四級化ポリオキシエチルアルキルアミンのハロゲン化塩、MIRAPOL(TM)、ALKAQUAT(TM)、アルキルピリジニウム塩、アミン、アミン塩、アミン酸化物、イミドアゾリニウム塩、プロトン化四級アクリルアミド、メチル化四級ポリマー、陽イオン性グアール、臭化ポリメチルメタクリレートトリメチルアンモニウム、硫酸ジメチルポリビニルピロリドン−2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ポリ(臭化2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウム)(S1001)、ポリ(N−ビニルピロリドン/2−ジメチルアミノエチルメタクリレート)硫酸ジメチル四級化合物(S1002)、及びポリ(塩化2−メチルアクリロキシアミドプロピルトリメチルアンモニウム)(S1004)からなる群から選択される少なくとも1種の表面安定化剤を含み得る。
【0088】
促進剤は、存在する場合、結着剤、充填剤、滑剤、甘味剤、香料添加剤、保存剤、バッファー、湿潤剤、分解剤、発泡剤等、及び/又はそれらの組み合わせ等の希釈剤を含み得るが、これらに限定されない。
【0089】
本発明の一形態において、希釈剤は、下記「薬剤及び医薬組成物」の項に記載の作用薬及び媒体の1種以上の形態で添加される。
【0090】
5.改良ナノ粒子組成物C+D
本発明の方法により直接製造された改良ナノ粒子組成物は、キャリア・マトリックスに分散した薬剤(活性薬)のナノ粒子を有する(該キャリア・マトリックスの少なくとも一部を除去することも場合によってはある)。薬剤ナノ粒子の平均粒径は、直径で200nm未満、好ましくは100nm未満、より好ましくは75nm未満、更に好ましくは50nm未満、またある場合は30nmである。ナノ粒子のサイズは、少なくとも50%が平均範囲内のサイズとなり、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、更に好ましくは少なくとも75%が平均範囲内のサイズとなるように分布していることが好ましい。
【0091】
キャリア・マトリックスに分散されたナノ粒子は、表面積が大きく粒子サイズが小さいため、従来の薬剤と比べて有利であり、高溶解速度、高吸収性、高生体利用効率等の利点が付与され得る。
【0092】
6.生成物Dと前駆体化合物Aの峻別
改良ナノコンポジット微構造組成物が一旦所望どおり形成されたら、前駆体化合物Aから生成物Dを峻別する必要があり得る。AとDは、融点、溶解度、又はサイズ等の測定可能な物性の変化に基づいて当業者に知られた手法で峻別可能であることが理想的である。生成物から前駆体化合物を峻別するための他の分析手法としては、示差走査熱量測定法(DSC)、X線回折法、赤外線分光法(IRS)等が挙げられる。
【0093】
ナノコンポジット微構造組成物の粒子サイズは、当業者に知られた方法で測定可能である。そのような方法としては、例えば、ディスク遠心法、静的光散乱法、動的光散乱法、沈降場流動分画法が挙げられる。
【0094】
薬剤及び医薬組成物
本発明はまた、本発明のナノコンポジット微構造組成物を使用して製造した薬剤及び医薬組成物を提供する。そのような組成物は、組成物単独(C+Dの形態、又はキャリア・マトリックスの一部分又は全てを除去した形態)で含んでもよく、或いは、より好ましくは、1種以上の薬学的に許容可能なキャリア、並びに薬学的に許容可能な組成物の調製に一般的に使用される他の作用薬と併用してもよい。
【0095】
本明細書において「薬学的に許容可能なキャリア」は、生理学的に相溶可能な任意及び全ての、溶剤、分散媒体、コーティング、抗菌・抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤等を含む。該キャリアは、非経口投与、静脈投与、腹腔内投与、筋肉内投与、舌下投与、経皮投与、又は経口投与に好適であることが好ましい。薬学的に許容可能なキャリアとしては、注射可能な滅菌溶液若しくは分散液を即時調製するための、滅菌水溶液若しくは分散液、滅菌粉体が挙げられる。医薬組成物の製造にそのような媒体及び作用薬を使用することは、当該技術分野において周知である。従来の媒体及び作用薬がナノ粒子製剤と相溶しない場合を除いて、本発明に関わる医薬組成物の製造にそれらを使用することが考えられる。
【0096】
本発明に関わる医薬組成物は、下記例の1種以上を含んでも良い。即ち、
(1)作用薬表面に付着可能であるが該作用薬自身との化学反応には関わらず且つ反応を起こさない、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン−ポリビニルアクリレートコポリマー、セルロース誘導体、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、尿素、糖類、ポリオール及びそのポリマー、乳化剤、糖ゴム、スターチ、有機酸及びその塩、ビニルピロリドン、酢酸ビニル等の高分子表面安定化剤、及び/又は
(2)種々のセルロース、架橋ポリビニルピロリドン、微晶性セルロース等の結着剤、及び/又は
(3)ラクトース一水和物、無水ラクトース、種々のスターチ等の充填剤、及び/又は
(4)コロイド状二酸化シリコン、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、シリカゲル等、圧縮する粉体の流動性に作用を及ぼす作用物質等の滑剤、及び/又は
(5)スクロース、キシリトール、サッカリンナトリウム、チクロ、アスパルテーム、アクスルフェイム(accusulfame)K等、任意の天然又は人工の甘味剤、及び/又は
(6)香料添加剤、及び/又は
(7)ソルビン酸カリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸及びその塩、ブチルパラベン等の他のパラヒドロキシ安息香酸エステル、エチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール、フェノール等のフェノール化合物、塩化ベンズアルコニウム等の四級化合物等の保存剤、及び/又は
(8)バッファー、及び/又は
(9)微晶性セルロース、ラクトース、リン酸水素カルシウム、サッカライド、及び/又はそれらの任意の混合物等の、薬学的に許容可能な不活性フィラー等の希釈剤、及び/又は
(10)コーンスターチ、ポテトスターチ、メイズスターチ、改変スターチ、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、その混合物等の湿潤剤、及び/又は
(11)分解剤、及び/又は
(12)有機酸(クエン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、アルギン酸、無水物及び酸塩化物等)、炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸グリシンナトリウム、炭酸L−リジン、炭酸アルギニン等)、又は重炭酸塩(重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等)等の発泡剤カップル等の発泡剤、及び/又は
(13)他の薬学的に許容可能な賦形剤、を含んでよい。
【0097】
動物、特はヒトへの使用に好適な医薬組成物は、通常、製造環境及び保存環境下で無菌且つ安定していなければならない。ナノ粒子を有する医薬組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、又は高薬剤濃度とするのに好適な他の秩序だった構造に製剤化可能である。本発明の医薬組成物中の治療薬の実際の量は、該作用薬の性質、並びにナノ粒子形態で該作用薬を調製・投与することの利点(高溶解性、更に速い溶解速度、ナノ粒子薬剤の高表面積等)により上昇し得る有効性によって変化し得る。したがって、本明細書中において「治療効果量」とは、動物内で治療的応答を引き起こすために必要なナノコンポジット微構造組成物の量を言う。このような使用に対する効果的な量は、所望の治療効果、投与経路、治療薬の効能、所望の治療期間、治療対象の疾病のステージ及び重症度、患者の体重及び全体的な健康状態、及び処方する医師の判断に依存する。
【0098】
ナノ粒子配合物を有する医薬組成物の投与形態
本発明の医薬組成物は、経口投与、直腸投与、肺投与、膣内投与、局所投与(粉体、軟膏、又はドロップ)、経皮投与等の任意の薬学的に許容可能な方法で、或いは口腔又は鼻腔スプレーとして、ヒト及び動物に投与可能である。
【0099】
経口投与用の固体剤形としては、カプセル、タブレット、ピル、粉体、ペレット、顆粒等が挙げられる。カプセル、タブレット、及びピルの場合、緩衝剤を含有させても良い。また、上記に列挙したもの等の任意の賦形剤を、通常、ナノ粒子配合物の10〜95%、より好ましくは25〜75%の濃度で配合することにより、薬学的に許容可能な無毒の経口用組成物が形成される。
【0100】
本発明の医薬組成物は、許容可能なキャリア、好ましくは水性キャリアに懸濁させたナノコンポジット微構造組成物の溶液として非経口投与してもよい。水、緩衝水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等、様々な水性キャリアが使用可能である。これら組成物は、従来周知の滅菌法によって、或いはフィルター滅菌によって滅菌可能である。得られた水溶液はそのままの状態でパッケージ、或いは凍結乾燥可能であり、凍結乾燥製剤は投与前に滅菌溶液と混合する。
【0101】
エアロゾル投与の場合、本発明の医薬組成物は表面安定化剤及び噴射剤と共に供給されることが好ましい。表面安定化剤は、もちろん、無毒でなければならず、且つ噴射剤に可溶であることが好ましい。このような作用物質の代表例としては、カプロン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリック酸、オレイン酸等の炭素数6〜22の脂肪酸と脂肪族ポリアルコール若しくはその環状無水物とのエステル又は部分エステルである。混合又は天然のグリセリド等の混合エステルを使用してもよい。表面安定化剤は、組成物の0.1〜20重量%、好ましくは0.25〜5重量%を占め得る。通常、噴射剤の方が組成物中に多く存在する。必要に応じて、例えば、鼻腔内投与用のレシチンと同様、キャリアを含有させることも可能である。
【0102】
本発明の医薬組成物はまた、リポソームを介して投与されてもよく、リポソームは、作用薬をリンパ組織等の特定の組織に標的させたり、細胞に選択的に標的させる働きをする。リポソームとしては、エマルジョン、発泡体、ミセル、不溶性単層、液晶、リン脂質分散体、ラメラ層等が挙げられる。これら製剤においてナノコンポジット微構造組成物はリポソームの一部として、単独で或いは他の治療組成物若しくは免疫原組成物に結合する分子と共に配合されている。
【0103】
<治療上の使用>
本発明はまた、動物の治療方法であって、本発明の方法で製造したナノコンポジット微構造組成物を有する組成物を前記動物に対して治療効果量投与する工程を含む治療方法を対象とする。
【0104】
本発明の改良ナノコンポジット微構造組成物の主な治療対象としては、痛みの軽減、抗炎症、偏頭痛、喘息等、作用薬を高生体利用効率で投与する必要がある疾病が挙げられる。
【0105】
痛みの軽減は、作用薬に高生体利用効率が要求される主な領域の一つである。シクロオキシゲナーゼ阻害剤(アスピリン関連薬)等のマイナー鎮痛薬は、本発明のナノコンポジット微構造組成物として調製可能である。
【0106】
本発明の改良ナノコンポジット微構造組成物は、眼疾患の治療にも使用してよい。つまり、該組成物は、生理食塩水の水性懸濁液、即ちゲルとして眼投与用に製剤化してもよい。また、該組成物は、神経系に迅速に浸透させるために経鼻投与用に粉体として調製してもよい。
【0107】
心臓血管疾患の治療にも、本発明のナノコンポジット微構造組成物として調製した作用薬が有効であり得る。例えば、狭心症の治療に使用される作用薬がある。特にモルシドミンは良好な生体利用効率が得られうる。
【0108】
本発明のナノコンポジット微構造組成物の他の治療対象としては、脱毛、性機能障害の治療、乾癬の皮膚治療等が挙げられる。
【0109】
<精製ナノ粒子治療薬>
本発明の他の実施形態は、(i)メカノケミカル合成条件下で前駆体化合物を共反応物質と接触させて該前駆体化合物と該共反応物質との間に固体化学反応を発生させ、キャリア・マトリックスに分散した治療効果のあるナノ粒子を生成する工程と、(ii)該キャリア・マトリックスの少なくとも一部分を除去して、該治療効果のあるナノ粒子を放出させる工程とを含む、精製ナノ粒子治療薬の調製方法に関する。
【0110】
キャリア・マトリックスの少なくとも一部分を除去して、治療効果のあるナノ粒子を放出させる前記工程は、キャリア・マトリックスを溶解又は昇華して治療効果のあるナノ粒子を放出させる工程を含んでも良い。キャリア・マトリックスを溶解する工程は、治療効果のあるナノ粒子と反応せずにキャリア・マトリックスを選択的に除去する溶媒に工程(i)の生成物を添加する工程を含み得る。極めて好適な実施形態において、キャリア・マトリックスを溶媒で洗浄することによって除去し、次いで水洗いする。適切な溶媒は、酸性、アルカリ性、若しくは中性の水溶液、又は任意の好適な有機溶媒であり得る。これは、薬剤は不溶だがマトリックスは可溶、或いは分画遠心で薬剤とマトリックスとを分離可能な任意の溶媒でよい。例えば、キャリア・マトリックスが塩化ナトリウムからなる場合、好適な溶媒は水等の任意の水性媒体である。キャリア・マトリックスを除去することによって、実質的に精製された治療効果のあるナノ粒子が残る。或いは、キャリアをナノ粒子から昇華させることも可能である。
【0111】
ある場合(例えば下記実施例2参照)、キャリア・マトリックスを除去して得たナノ粒子組成物を表面安定化剤で安定させる必要がある可能性がある。表面安定化剤の例としては上述のものが挙げられるが、場合によっては、好ましい安定化剤はCTABである。当業者ならば、幅広い種類の他の表面安定化剤がそのような安定化に好適であることを理解しよう。
【0112】
キャリア・マトリックスの除去法及び表面安定化では、ナノ粒子組成物が化学的に転換することがある。例えば、下記実施例Dでは、炭酸ナトリウムキャリア・マトリックス中で安定化されたナノ粒子組成物ジクロフェナク塩はジクロフェナク酸のナノ粒子組成物に転換する。ナノ粒子は残るため、所望のナノ粒子製剤が従来の前駆体出発物質を含むものである場合、この転換は有用となる。
【0113】
更に精製する必要がある場合、従来の精製方法で、異物から治療効果のあるナノ粒子を単離することが可能である。適切な精製方法は、要求される精製の性質に依存する。当業者はそのような方法に精通しており、本発明のナノ粒子製剤に適用することを容易に理解するであろう。
【0114】
本発明はまた、前記方法による生成物と、動物の治療に好適な医薬品及び医薬組成物を調製するためのその使用を含む。したがって、本発明は、精製されたナノ粒子治療薬を有する薬品及び薬学的に許容可能な組成物の調整方法を含む。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、実施例の記載は上記記載を限定するものではなく、本発明の方法及び組成物を説明するためのものである。
【0116】
(実施例A)
過剰量の硫酸水素ナトリウムとのジクロフェナクナトリウムのメカノケミカル処理
過剰量の硫酸水素ナトリウムとのジクロフェナクナトリウム塩のメカノケミカル処理によってジクロフェナク酸の超微細粒子(1000nm未満)を製造した。この実施例では、硫酸水素ナトリウム試薬は化学反応物質と希釈剤の両方として作用する。
【0117】
ジクロフェナクナトリウム1.00g、硫酸ナトリウム9.00gからなる反応物質混合物を、粉砕用媒体として20個の9.5mmステンレス製ボールを備えたSpex8000ミキサー/ミルで6時間ミリングして、ジクロフェナク酸超微粒子、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウムからなるナノ結晶性粉体を形成した。
【0118】
希塩酸で洗浄して無機塩を除去してジクロフェナク酸の超微粒子を回収し、次いで脱イオン水で洗浄した。洗浄した粉体を50°Cで数時間、空気中で乾燥した。
【0119】
最終ジクロフェナク酸粉体の5点BET分析を行ったところ、比表面積は8.9m/gであり、約450nmの平均粒子サイズに対応する値であった。
【0120】
(実施例B)
硫酸ナトリウム存在下での硫酸水素ナトリウムとのジクロフェナクナトリウムのメカノケミカル処理
硫酸ナトリウム存在下での硫酸水素ナトリウムとのジクロフェナクナトリウムのメカノケミカル処理によってジクロフェナク酸の超微細粒子を製造した。この実施例では、硫酸ナトリウム試薬は不活性な希釈剤のみとして作用する。
【0121】
ジクロフェナクナトリウム1.07g、硫酸水素ナトリウム0.44g、硫酸ナトリウム8.49gからなる反応物質混合物を、粉砕用媒体として20個の9.5mmステンレス製ボールを備えたSpex8000ミキサー/ミルで6時間ミリングして、ジクロフェナク酸超微粒子、硫酸ナトリウムからなるナノ結晶性粉体を形成した。
【0122】
希塩酸で洗浄して硫酸ナトリウムを除去してジクロフェナク酸の超微粒子を回収し、次いで脱イオン水で洗浄した。洗浄した粉体を50°Cで数時間、空気中で乾燥した。
【0123】
最終ジクロフェナク酸粉体の5点BET分析を行ったところ、比表面積は5.8m/gであり、約640nmの平均粒子サイズに対応する値であった。
【0124】
(実施例C)
ジクロフェナク酸と過剰量炭酸塩のメカノケミカル処理
過剰量の炭酸塩とのジクロフェナクナトリウムのメカノケミカル処理によって炭酸ナトリウムマトリックスに分散したジクロフェナクナトリウム超微細粒子を製造した。
【0125】
ジクロフェナク酸1.50g、炭酸ナトリウム8.50gからなる反応物質混合物を、粉砕用媒体として20個の9.5mmステンレス製ボールを備えたSpex8000ミキサー/ミルで6時間ミリングして、炭酸ナトリウムマトリックスに分散したジクロフェナクナトリウム超微粒子からなるナノ結晶性粉体を形成した。
【0126】
<結果>
示差走査熱量測定法(DSC)、及びX線回折法(XRD)によって反応生成物を分析した。DSCにおいて、ナトリウム塩のジクロフェナクと、酸のジクロフェナクでは加熱中の挙動は異なった。ナトリウム塩は、275°C付近の分解反応が起こるまで変化が無かったのに対し、酸では、140°C付近から始まった二つの熱イベントと、昇華による連続的な質量放出が見られた。酸及び塩形態のXRDパターンは、文献に詳しく記載されている。
【0127】
図1は、沈殿ジクロフェナク(a)と、6時間ミリング処理した、ジクロフェナクナトリウム及び硫酸水素ナトリウムの化学量論混合物(b)のXRD変化を示す。ミリング処理した粉体のパターンには、硫酸ナトリウムとジクロフェナク酸の反応から得られると思われる生成物に対応する回折ピークが含まれており、反応の進行が確認された。ミリング反応の短く、幅広のピークは、粒子サイズが減少し、且つアモルファス化が誘発されていることを示している。
【0128】
図2は、沈殿ジクロフェナク酸と、ミリング処理したジクロフェナクナトリウム(2.90g)+硫酸水素ナトリウム(1.18g)のTG-DSC変化を示す。図示するように、これら2つのサンプルの熱挙動は異なっていたが、ミリング反応においてジクロフェナク酸の典型的な熱分解プロファイルが明らかに見られるため、反応の進行が確認された。これら差異は、拡散バリアとして作用することによってジクロフェナク酸の分解を遅延させ得る硫酸ナトリウムの存在に起因している可能性がある。
【0129】
(実施例D)
NaCOに分散させたジクロフェナクナトリウム塩のナノ粒子組成物
NaCOを有するキャリア・マトリックスに分散させたジクロフェナクナトリウム塩のナノ粒子組成物を以下のように調製した。
前駆体化合物として、構造式
【化1】

の従来のジクロフェナク酸粉体0.441gを、ミリング装置(70cmのステンレス製ボールミル容器)に過剰量(4.3g)の共反応物質NaCOと共に投入し、含有量がそれぞれ9重量%、91重量%(15体積%、85体積%に相当)である反応混合物を合計2cm得た。10gの10mmクロム鋼ボール(10個)のミリング媒体を容器に入れた。MCS後に得られた組成物は、NaCOとNaHCOのキャリア・マトリックス(NaCO:87.4重量%、81.1体積%、NaHCO:2.6重量%、2.9体積%)に分散された下記構造式のジクロフェナクナトリウム塩のナノ粒子(10.0重量%、16体積%)を有していた。
【化2】

【0130】
(利便性上ヘキサンに分散させた)得られたナノ粒子組成物を透過型電子顕微鏡検査(TEM)すると、図3に示すように、200nm未満(30〜50nmオーダー)のナノ粒子が観察された。
【0131】
ミリング時間の影響を調べるために、初期反応物質(即ちMCS処理時間0分)についてIR分析を行い、5分、15分、90分についても行った。90分のミリング時間で最も反応度が高く、ジクロフェナクの塩が形成されたが、約90%を超えるナノ粒子ジクロフェナク塩は15分以内に形成された。
【0132】
2種の別々のMCS反応において、それぞれ10mm、2mmのサイズのスチール製ボールをミリング媒体として用いた。IRスペクトル分析の結果、2mmサイズのボールでは固形化度大きかったため、この反応物質の組み合わせの場合は10mmサイズのスチール製ボールのほうが2mmサイズのボールに比べ良好なパフォーマンスを示したことが判った。このIR分析は、極微量のジクロフェナク酸の存在を示すほど十分な感度であった。キャリア・マトリックスに分散させたジクロフェナク酸及び塩の混合物に対して、該マトリックス中のジクロフェナク酸の量を15重量%に保持して実験を行った。混合物中のジクロフェナク酸及び塩の量を種々変えてIR分析を行ったところ、ジクロフェナク酸の量はわずか1.5重量%であることが判った。
【0133】
ナノ粒子組成物の融点をDSC分析したところ、得られた組成物は融点275〜285°Cのジクロフェナクナトリウム塩であることが確認された。5分のMCSでも同様であった。
【0134】
ナノ粒子組成物からのマトリックス除去効果と、該ナノ粒子組成物がジクロフェナクナトリウム塩として残留するか或いはジクロフェナク酸に変化するかを調べるために、以下の洗浄工程を行った。MCS処理後のサンプル5mgを、1mlの0.5MHCl及び1mlの1m MCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)と遠心チューブ中で混合した(COの発生に注意し、チューブの蓋を開ける際には安全メガネを装着して作業した)。サンプルを2分間ボルテックスして、次いで5分間超音波処理し、更に1分間ボルテックスした。次に、遠心(3000g、3分)、上清除去、0.01MのHCl及び1mMのCTABの添加、ボルテックス及び超音波処理(30秒づつ)による再分散、を4回繰り返した。
【0135】
表面安定化剤CTABで安定化された、得られたナノ粒子組成物は、ナノ粒子サイズが100〜200nmオーダーであるジクロフェナク酸形態の薬剤に戻ったことが判った。XRD分析、融点分析、及びIRスペクトル分析それぞれによって、ナノ粒子組成物がジクロフェナクナトリウムではなくジクロフェナク酸を有していることが確認された。
【0136】
(実施例E)
NHClに分散させたジクロフェナク酸のナノ粒子組成物
NHClを有するキャリア・マトリックスに分散させたジクロフェナク酸のナノ粒子組成物は以下のように調製した。
前駆体化合物として、構造式
【化3】

の従来のジクロフェナクナトリウム塩粉体0.43gを、
ミリング装置(70cmのステンレス製ボールミル容器)に過剰量(2.6g)の共反応物質NHClと共に投入し、含有量がそれぞれ13.7重量%、86.3重量%(15体積%、85体積%に相当)である反応混合物を合計2cm得た。10gの10mmクロム鋼ボール(10個)のミリング媒体を容器に入れた。圧縮空気(100kcpa)をミリング容器内に流入して冷却を行った。MCS後に得られた組成物は、たった15分後で、NHClとNaClのキャリア・マトリックス(NHCl:84.7重量%、84.8体積%、NaCl:2.5重量%、1.8体積%)に分散された下記構造式のジクロフェナクナトリウムのナノ粒子(12.9重量%、13.4体積%)を有しており、アンモニアガスが副生成物として生成した。
【化4】

【0137】
ナノ粒子組成物の融点をDSC分析したところ、得られた組成物は融点156〜165°Cのジクロフェナク酸であり、ジクロフェナクナトリウム(融点275〜285°C)は全く存在しないことが確認された。
【0138】
ナノ粒子組成物からのマトリックス除去効果と、該ナノ粒子組成物がジクロフェナク酸として残るかを調べるために、以下のようにナノ粒子組成物の洗浄を行ってキャリア・マトリックスを除去した。MCS処理後のサンプル5mgを、1mlの0.5MHCl及び1mlの1m MCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)と遠心チューブ中で混合した(COの発生に注意し、チューブの蓋を開ける際には安全メガネを装着して作業した)。サンプルを2分間ボルテックスして、次いで5分間超音波処理し、更に1分間ボルテックスした。次に、遠心(3000g、3分)、上清除去、0.01MのHCl及び1mMのCTABの添加、ボルテックス及び超音波処理(30秒づつ)による再分散、を4回繰り返した。
【0139】
表面安定化剤CTABで安定化された、得られたナノ粒子組成物は、XRD、FTIR、及びDSCによって、ナノ粒子サイズが200nm未満であり、大部分が30〜50nmオーダーであるジクロフェナク酸形態の薬剤を有していることが判った。また、表面安定化剤CTABで安定化された洗浄ナノ粒子組成物のTEMにより、短軸が約30nm、長軸が約150nmの棒状の非球体粒子と、球体粒子とが存在することが示された(図4参照)。これら非球体粒子がこのような外観を有していることは、個々のナノ粒子が線状に凝集したためであると考えられる。
【0140】
(実施例F)
NaCOに分散させたナプロキセンナトリウム塩のナノ粒子組成物
NaCOを有するキャリア・マトリックスに分散させたナプロキセンナトリウム塩のナノ粒子組成物を以下のように調製した。
前駆体化合物として、構造式
【化5】


の従来のナプロキセン酸粉体0.6014gを、ミリング装置(70cmのステンレス製ボールミル容器)に過剰量(3.401g)の共反応物質NaCOと共に投入し、含有量がそれぞれ15重量%、85重量%(27.4体積%、72.6体積%に相当)である反応混合物を合計1.85cm得た。10gの10mmスチール製ボール(10個)のミリング媒体を容器に入れた。圧縮空気流(100kcpa)を用いて冷却を行った。MCS後に得られた組成物は、NaCOとNaHCOのキャリア・マトリックス(NaCO:68.2重量%、81.1体積%、NaHCO:5.0重量%、5.5体積%)に分散された下記構造式のナプロキセンナトリウム塩のナノ粒子(16.5重量%、26.3体積%)を有していた。
【化6】

【0141】
得られたナノ粒子組成物の走査型電子顕微鏡検査(SEM)すると、100nmオーダーのナノ結晶構造とナノ粒子が観察された。
【0142】
評価したミリング時間は60分、150分、240分であった。2つの別々のMCS処理において、それぞれ10mmと2mmのスチール製ボールをミリング媒体として用いた。このナノ粒子組成物のIRスペクトル分析により、2mmサイズのスチール製ボールのほうが10mmサイズのボールに比べ良好なパフォーマンスを示したことが判った。
【0143】
2mmサイズのスチール製ボールを用いて60分のMCS時間で製造したナノ粒子組成物の融点を分析すると、得られたナノ粒子組成物は、融点が150〜160°Cのナプロキセン酸ではなく、融点が250〜260°Cのナプロキセンナトリウム塩であることが確認された。150分、240分の他の二つのMCS時間についても評価したところ、薬剤がある程度劣化していた。10mmサイズのボールで製造したナノ粒子組成物はナプロキセン酸及び塩の融点を示さず、これは、薬剤が60分処理の早い時点においても劣化していたことを示唆している。
【0144】
(実施例G)
NHClに分散させたナプロキセン酸のナノ粒子組成物
NHClを有するキャリア・マトリックスに分散させたナプロキセン酸のナノ粒子組成物を以下のように調製した。
前駆体化合物として、構造式
【化7】

の従来のナプロキセンナトリウム塩粉体0.4158gを、ミリング装置(70cmのステンレス製ボールミル容器)に過剰量(2.5959g)の共反応物質NaClと共に投入し、含有量がそれぞれ13.8重量%、86.2重量%(15体積%、85体積%に相当)である反応混合物を合計2cm得た。10gの10mmスチール製ボール(10個)のミリング媒体を容器に入れた。圧縮空気流(100kcpa)を用いて冷却を行った。MCS後に得られた組成物は、NaClとNaClのキャリア・マトリックス(NaCl:84重量%、82体積%、NaCl:3.3重量%、2.0体積%)に分散された下記構造式のナプロキセン酸のナノ粒子(12.7重量%、16体積%)を有しており、副生成物としてアンモニアガスが生成した。
【化8】

【0145】
(利便性上ヘキサンに分散させた)得られたナノ粒子組成物を透過型電子顕微鏡検査(TEM)すると、図5に示すように、30〜50nmオーダーのナノ粒子が観察された。
【0146】
ミリング時間の影響を調べるために、60分、150分、240分のミリング時間のナノ粒子配合物に対してDSC及びIR分析を行った。更に、5分、10分、15分、30分、60分、90分のミリング時間の生成物に対して、DSC融点分析を行った。
【0147】
ナノ粒子組成物の融点をDSC分析することにより、得られた組成物は様々な程度のナプロキセン酸を有しており、MCS時間が長くなるほど劣化が見られ、90分以下では融点は150〜160°Cであることが確認された。しかし、30分より長くなると、不純物発生の兆候(粉体の黒色化、融点の低下等)が見られた。
【0148】
FTIR分析により、60分、150分、240分(この評価でテストした唯一の時間)のMCS時間で製造したナノ粒子組成物中にナプロキセン酸が存在することが確認されたが、ナプロキセン酸とマトリックスのシグナルが解析画面中で近接しているため、酸形態と塩形態のものの相対的比率を求める定量分析はできなかった。
【0149】
ナノ粒子組成物からのマトリックス除去効果と、該ナノ粒子組成物がナプロキセン酸として残るかを調べるために、以下のようにナノ粒子組成物の洗浄を行ってキャリア・マトリックスを除去した。MCS処理後のサンプル5mgを、1mlの0.5MHCl及び1mlの1m MCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)と遠心チューブ中で混合した(COの発生に注意し、チューブの蓋を開ける際には安全メガネを装着して作業した)。サンプルを2分間ボルテックスして、次いで5分間超音波処理し、更に1分間ボルテックスした。次に、遠心(3000g、3分)、上清除去、0.01MのHCl及び1mMのCTABの添加、ボルテックス及び超音波処理(30秒づつ)による再分散、を2回繰り返した。
【0150】
表面安定化剤CTABで安定化された、得られたナノ粒子組成物は、融点分析によって、50nmオーダーのナノ粒子を有するナプロキセン酸形態の薬剤を有していることが判った。また、表面安定化剤CTABで安定化された洗浄ナノ粒子組成物のTEMにより、短軸が約50nm、長軸が約150nmの非球体粒子と、球体粒子とが存在することが示された(図4参照)。これら非球体粒子がこのような外観を有していることは、個々のナノ粒子が線状に凝集したためであると考えられる。洗浄後の組成物のXRD分析により、ナプロキセン酸の単相結晶性生成物が存在することが判った。
【0151】
また、真空度0.05〜0.01mmHg、温度約135〜140°Cである昇華装置による昇華によって、ナノ粒子組成物の60mgサンプルに対してキャリア・マトリックス処理を行った。昇華処理はうまくいったが、サンプルが静電気的に帯電したため、除去処理と後の分析が困難であった。
【0152】
(実施例H)
NHClに分散された塩酸オランザピンのナノ粒子組成物
NHClを有するキャリア・マトリックスに分散された塩酸オランザピンのナノ粒子組成物を以下のように調製した。
前駆体化合物として、従来のオランザピン粉体(フリーベース)0.386gを、ミリング装置(70cmの硬化ステンレス製ボールミル容器)に過剰量(2.596g)の共反応物質NHClと共に投入し、含有量がそれぞれ13重量%、87重量%(15体積%、85体積%に相当)である反応混合物を合計2cm得た。10gの10mmスチール製ボール(10個)のミリング媒体を容器に入れた。圧縮空気流(100kcpa)を用いて冷却を行った。MCS時間は、0分、5分、30分、60分を評価した。MCS後に得られた組成物は、NHClのキャリア・マトリックス(NHCl:85重量%、83体積%)に分散された塩酸オランザピンのナノ粒子(14.3重量%、17体積%)を有しており、副生成物としてアンモニアガスが生成した。
【0153】
MCSにより製造されたナノ粒子組成物の融点をDSC分析することにより、得られた組成物が、5分という早い時間においてさえも、様々な程度の塩酸オランザピンを有していることが確認された。15分以降までに、塩酸オランザピンが存在していることを示す特徴的なスパイクが約210〜220°C付近に現れた。
【0154】
(実施例I)
クエン酸マトリックスに分散させたシルデナフィルクエン酸塩のナノ粒子組成物
クエン酸を有するキャリア・マトリックスに分散されたシルデナフィルのナノ粒子組成物を以下のように調製した。
まず、従来のクエン酸シルデナフィル2gを重炭酸ナトリウム存在下でCHCl(DCM)で抽出して、シルデナフィル遊離塩基1.35g及びクエン酸ナトリウムを得た。以下のように、本発明のMCS反応に前駆体化合物としてこのシルデナフィル遊離塩基を使用した。
下記構造式のシルデナフィル遊離塩基
【化1】

と、共反応物質であるクエン酸の混合物(それぞれ、15体積%、85体積%)2cmを、ミリング装置(70cmの硬化ステンレス製ボールミル容器)に投入した。10gの10mmスチール製ボール(10個)のミリング媒体を容器に入れた。MCS処理後に得られた組成物は、クエン酸のキャリア・マトリックスに分散されたクエン酸シルデナフィルのナノ粒子を有し得る。ミリング時間は0分、5分、15分、30分、60分、90分とした。
【0155】
分解クエン酸の融点によって、期待される融点のスパイクがぼやけてしまうので、ナノ粒子組成物の融点のDSC分析は困難であることが判った。
【0156】
材料・医薬分野の当業者ならば、本発明の基本的なコンセプトから逸脱せずに、上記プロセスに対して多くの強化・変形が加えられることが可能であることを理解するであろう。例えば、前駆体としての治療効果のある化合物は、予め加熱してから処理してもよい。このような強化・変形の全てが、本発明の範囲内であると考えられ、その性質は上記記載及び添付の特許請求の範囲から決定される。更に、上記実施例は例示することのみを目的としており、本発明のプロセス及び組成物の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】図1は、(a)沈殿ジクロフェナク酸のXRD変化(上ライン)と、ミリング処理6時間後の(b)ジクロフェナクナトリウム及び硫酸水素ナトリウムの化学量論混合物のXRD変化(下ライン)を示す図である。
【図2】図2は、沈殿ジクロフェナク酸のTG−DSC変化(上ライン)と、ミリング処理6時間後のジクロフェナクナトリウム(2.90g)+硫酸水素ナトリウム(1.18g)のTG-DSC変化(下ライン)を示す図である。
【図3】図3は、炭酸ナトリウムと重炭酸ナトリウムを有するキャリア・マトリックスに分散されたジクロフェナクナトリウム塩を有する、MCSによって製造されたナノ粒子組成物の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、塩化アンモニウムを有するキャリア・マトリックスに分散されたジクロフェナク酸を有する、MCSによって製造されたナノ粒子組成物の透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、塩化アンモニウムを有するキャリア・マトリックスに分散されたナプロキセン酸を有する、MCSによって製造されたナノ粒子組成物の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療薬のナノ粒子を有するナノ粒子組成物の製造方法であって、
キャリア・マトリックスに分散された治療薬のナノ粒子を有するナノ粒子組成物を製造するのに十分な反応時間で、前駆体化合物と共反応物質の混合物をミリング媒体を使用したミリング装置内でメカノケミカル合成する工程を含むことを特徴とするナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子の平均サイズが200nm未満である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子の平均サイズが100nm未満である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子の平均サイズが75nm未満である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子の平均サイズが50nm未満である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子の平均サイズが40nm未満である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも50%の前記ナノ粒子の粒子サイズが、前記平均サイズの範囲内である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
少なくとも75%の前記ナノ粒子の粒子サイズが、前記平均サイズの範囲内である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反応時間が5分間〜2時間である請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記反応時間が5分間〜1時間である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記反応時間が5分間〜45分間である請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記反応時間が5分間〜30分間である請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記反応時間が10分間〜20分間である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ミリング媒体がスチール製ボールを有する請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記スチール製ボールの直径が1〜20mmである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記スチール製ボールの直径が2〜15mmである請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記スチール製ボールの直径が3〜10mmである請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記前駆体化合物が生物製剤、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、ヌクレオチド、核酸、及びそのアナログからなる群から選択される請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記前駆体化合物が、抗肥満薬、中枢神経系興奮剤、カロテノイド、コルチコステロイド、エステラーゼ阻害剤、抗菌薬、腫瘍治療薬、抗嘔吐薬、鎮痛薬、心臓血管作動薬、NSAID及びCOX−2阻害剤等の抗炎症薬、駆虫薬、不整脈治療薬、抗生物質(ペニシリン等)、抗凝固剤、抗うつ薬、抗糖尿病薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬、抗高血圧薬、抗ムスカリン様作用薬、抗マイコバクリア薬、抗新生物薬、免疫抑制剤、抗甲状腺薬、抗ウィルス薬、抗不安薬、鎮痛剤(睡眠薬、神経安定薬)、収れん薬、α−アドレナリン受容体遮断薬、β−アドレナリン受容体遮断薬、血液製剤及び代用血液、強心薬、造影剤、コルチコステロイド、咳止め剤(排痰薬、粘液溶解薬)、診断薬、診断造影剤、利尿薬、ドパミン作動薬(抗パーキンソン病薬)、止血剤、免疫薬、脂質制御薬、筋弛緩剤、副交感神経興奮薬、副甲状腺カルシトニン、ビスフォスフォネート、プロスタグランジン、放射性医薬品、性ホルモン(ステロイド等)、抗アレルギー薬、刺激薬、食欲抑制薬、交感神経興奮薬、甲状腺薬、血管拡張薬、及びキサンチンからなる群から選択される請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記前駆体化合物が、ハロペリドール、DLイソプロテレノール塩酸塩、テルフェナジン、塩酸プロプラノロール、塩酸デシプラミン、サルメテロール、クエン酸シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、フェナム酸、ピロキシカム、ナプロキセン、ボルタレン(ジクロフェナク)、ロフェコキシブ、イブプロフェン、オンダンステトロン、スマトリプタン、ナラトリプタン、酒石酸エルゴタミン+カフェイン、メチルセルジド、及びオランザピンからなる群から選択される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記キャリア・マトリックスの少なくとも一部を除去する工程を更に含み、前記ナノ粒子の平均粒子サイズが200nm未満である請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記キャリア・マトリックスの少なくとも25%を除去する請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記キャリア・マトリックスの少なくとも50%を除去する請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記キャリア・マトリックスの少なくとも75%を除去する請求項23に記載の方法。
【請求項25】
実質的に全ての前記キャリア・マトリックスを除去する請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とするナノ粒子組成物。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれかに記載のナノ粒子組成物と、薬学的に許容可能なキャリアとを有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項28】
医薬品の製造方法であって、
請求項1〜25のいずれかに記載の方法と、
該方法によって製造された治療効果量のナノ粒子組成物を、薬学的に許容可能なキャリアと混合する工程と、を含むことを特徴とする医薬品の製造方法。
【請求項29】
キャリア・マトリックスに分散された、平均サイズが200nm未満である治療薬のナノ粒子を有することを特徴とするナノ粒子組成物。
【請求項30】
前記ナノ粒子の平均サイズが100nm未満である請求項29に記載のナノ粒子組成物。
【請求項31】
前記ナノ粒子の平均サイズが75nm未満である請求項29に記載のナノ粒子組成物。
【請求項32】
前記ナノ粒子の平均サイズが50nm未満である請求項29に記載のナノ粒子組成物。
【請求項33】
前記ナノ粒子の平均サイズが40nm未満である請求項29に記載のナノ粒子組成物。
【請求項34】
少なくとも50%の前記ナノ粒子の粒子サイズが、前記平均サイズの範囲内である請求項29〜33のいずれかに記載のナノ粒子組成物。
【請求項35】
少なくとも75%の前記ナノ粒子の粒子サイズが、前記平均サイズの範囲内である請求項29〜33のいずれかに記載のナノ粒子組成物。
【請求項36】
キャリア・マトリックスに分散されたジクロフェナクのナノ粒子を有するナノ粒子組成物であって、該ナノ粒子の平均サイズが200nm未満であることを特徴とするナノ粒子組成物。
【請求項37】
前記平均サイズが100nm未満である請求項36に記載のナノ粒子組成物。
【請求項38】
前記平均サイズが75nm未満である請求項36に記載のナノ粒子組成物。
【請求項39】
前記平均サイズが50nm未満である請求項36に記載のナノ粒子組成物。
【請求項40】
前記平均サイズが30nm未満である請求項36に記載のナノ粒子組成物。
【請求項41】
前記キャリア・マトリックスが、NaCO、NaHCO、NHCl、及びNaClからなる群から選ばれる少なくとも1種を有する請求項36に記載のナノ粒子組成物。
【請求項42】
前記キャリア・マトリックスが、NaCOを単独で、或いはNaHCOと共に有しており、前記ジクロフェナクのナノ粒子がジクロフェナクナトリウム塩の形態で存在する請求項41に記載のナノ粒子組成物。
【請求項43】
前記キャリア・マトリックスが、NHClを単独で、或いはNaClと共に有しており、前記ジクロフェナクのナノ粒子がジクロフェナク酸の形態で存在する請求項41に記載のナノ粒子組成物。
【請求項44】
キャリア・マトリックスに分散されたナプロキセンのナノ粒子を有するナノ粒子組成物であって、該ナノ粒子の平均サイズが200nm未満であることを特徴とするナノ粒子組成物。
【請求項45】
前記平均サイズが100nm未満である請求項44に記載のナノ粒子組成物。
【請求項46】
前記平均サイズが75nm未満である請求項44に記載のナノ粒子組成物。
【請求項47】
前記平均サイズが50nm未満である請求項44に記載のナノ粒子組成物。
【請求項48】
前記平均サイズが30nm未満である請求項44に記載のナノ粒子組成物。
【請求項49】
前記キャリア・マトリックスが、NaCO、NaHCO、NHCl、及びNaClからなる群から選ばれる少なくとも1種を有する請求項44に記載のナノ粒子組成物。
【請求項50】
前記キャリア・マトリックスが、NaCOを単独で、或いはNaHCOと共に有しており、前記ナプロキセンのナノ粒子がナプロキセンナトリウム塩の形態で存在する請求項49に記載のナノ粒子組成物。
【請求項51】
前記キャリア・マトリックスが、NHClを単独で、或いはNaClと共に有しており、前記ナプロキセンのナノ粒子がナプロキセン酸の形態で存在する請求項49に記載のナノ粒子組成物。
【請求項52】
キャリア・マトリックスに分散されたオランザピンのナノ粒子を有するナノ粒子組成物であって、該ナノ粒子の平均サイズが200nm未満であることを特徴とするナノ粒子組成物。
【請求項53】
前記平均サイズが100nm未満である請求項52に記載のナノ粒子組成物。
【請求項54】
前記平均サイズが75nm未満である請求項52に記載のナノ粒子組成物。
【請求項55】
前記平均サイズが50nm未満である請求項52に記載のナノ粒子組成物。
【請求項56】
前記平均サイズが30nm未満である請求項52に記載のナノ粒子組成物。
【請求項57】
前記キャリア・マトリックスがNHClを有する請求項52に記載のナノ粒子組成物。
【請求項58】
前記オランザピンのナノ粒子が、塩酸オランザピンの形態で存在する請求項57に記載のナノ粒子組成物。
【請求項59】
キャリア・マトリックスに分散されたシルデナフィルのナノ粒子を有するナノ粒子組成物であって、該ナノ粒子の平均サイズが200nm未満であることを特徴とするナノ粒子組成物。
【請求項60】
前記平均サイズが100nm未満である請求項59に記載のナノ粒子組成物。
【請求項61】
前記平均サイズが75nm未満である請求項59に記載のナノ粒子組成物。
【請求項62】
前記平均サイズが50nm未満である請求項59に記載のナノ粒子組成物。
【請求項63】
前記平均サイズが30nm未満である請求項59に記載のナノ粒子組成物。
【請求項64】
前記キャリア・マトリックスがクエン酸を有する請求項59に記載のナノ粒子組成物。
【請求項65】
前記シルデナフィルのナノ粒子がシルデナフィル塩基の形態で存在する請求項59に記載のナノ粒子組成物。
【請求項66】
キャリア・マトリックスに分散された治療薬のナノ粒子を有するナノ粒子組成物であって、ナノ粒子組成物を製造するのに十分な反応時間で、前駆体化合物と共反応物質の混合物をミリング媒体を使用したミリング装置内でメカノケミカル合成する工程を含む方法によって製造されたことを特徴とするナノ粒子組成物。
【請求項67】
前記ナノ粒子の平均サイズが200nm未満である請求項66に記載のナノ粒子組成物。
【請求項68】
前記ナノ粒子の平均サイズが100nm未満である請求項66に記載のナノ粒子組成物。
【請求項69】
前記ナノ粒子の平均サイズが75nm未満である請求項66に記載のナノ粒子組成物。
【請求項70】
前記ナノ粒子の平均サイズが50nm未満である請求項66に記載のナノ粒子組成物。
【請求項71】
前記ナノ粒子の平均サイズが40nm未満である請求項66に記載のナノ粒子組成物。
【請求項72】
少なくとも50%の前記ナノ粒子の粒子サイズが、前記平均サイズの範囲内である請求項67〜71のいずれかに記載のナノ粒子組成物。
【請求項73】
少なくとも75%の前記ナノ粒子の粒子サイズが、前記平均サイズの範囲内である請求項67〜71に記載のナノ粒子組成物。
【請求項74】
治療薬のナノ粒子を有するナノ粒子組成物であって、ナノ粒子組成物を製造するのに十分な反応時間で、前駆体化合物と共反応物質の混合物をミリング媒体を使用したミリング装置内でメカノケミカル合成する工程と、キャリア・マトリックスの少なくとも一部を除去する工程と、を含む方法によって製造されたことを特徴とするナノ粒子組成物。
【請求項75】
前記ナノ粒子の平均サイズが200nm未満である請求項74に記載のナノ粒子組成物。
【請求項76】
前記ナノ粒子の平均サイズが100nm未満である請求項74に記載のナノ粒子組成物。
【請求項77】
前記ナノ粒子の平均サイズが75nm未満である請求項74に記載のナノ粒子組成物。
【請求項78】
前記ナノ粒子の平均サイズが50nm未満である請求項74に記載のナノ粒子組成物。
【請求項79】
前記ナノ粒子の平均サイズが40nm未満である請求項74に記載のナノ粒子組成物。
【請求項80】
少なくとも50%の前記ナノ粒子の粒子サイズが、前記平均サイズの範囲内である請求項75〜79のいずれかに記載のナノ粒子組成物。
【請求項81】
少なくとも75%の前記ナノ粒子の粒子サイズが、前記平均サイズの範囲内である請求項75〜79に記載のナノ粒子組成物。
【請求項82】
治療を必要としているヒトの治療方法であって、請求項29〜81のいずれかに記載のナノ粒子組成物、医薬組成物、及び医薬品からなる群から選択される1種を治療効果量投与する工程を含むことを特徴とするヒトの治療方法。


【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2008−526689(P2008−526689A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548645(P2007−548645)
【出願日】平成17年12月30日(2005.12.30)
【国際出願番号】PCT/AU2005/001977
【国際公開番号】WO2006/069419
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(507220925)イシューティカ ピーティーワイ リミテッド (10)
【Fターム(参考)】