説明

ナノ粒子薄膜の製造方法、ナノ粒子薄膜及びそれを用いた電子デバイス

【課題】緻密で広範囲で均一であると共に、クラックや剥離の発生しにくいナノ粒子薄膜の製造方法、ナノ粒子薄膜、及びそれを用いた電子デバイスを提供する。
【解決手段】ナノ粒子15を分散媒中に分散させ、ナノ粒子分散液11を調製する工程Aと、導電性の基材12の表面を、分散液11中におけるナノ粒子15の表面電荷と逆の電荷を有する高分子電解質の被膜14で被覆する工程Bと、高分子電解質の被膜14で被覆された基材12及び対電極13を分散液11中に浸漬し、電気泳動堆積法により高分子電解質の被膜14で被覆された基材12上にナノ粒子15を堆積させる工程Cとを有することを特徴とするナノ粒子薄膜の形成方法、この方法により製造されたナノ粒子薄膜10、及びこれを用いた電子デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子薄膜の製造方法、ナノ粒子薄膜及びそれを用いた電子デバイスに関し、より具体的には緻密で広範囲で均一であると共に、クラックや剥離の発生しにくいナノ粒子薄膜の製造方法、ナノ粒子薄膜、及びそれを用いた電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子情報機器の小型化及び通信速度の高速化に伴い、プリント配線基板上への高密度実装及び信号の高速化に起因するノイズ対策の必要性が増大している。これらの課題への対応策として、基板上に実装する部品点数の削減及び配線長の短縮化等の効果が期待される、コンデンサ等の基板への内蔵化が検討されている。電子情報機器の小型化に対応可能な基板内蔵型の薄膜コンデンサを実現するためには、高い誘電率を有し、緻密で欠陥の少ない膜厚1μm以下の薄膜が形成可能で、かつ常圧下200℃以下の低温で形成可能である誘電体薄膜が必要である。
【0003】
高い誘電率を有するセラミックス材料としてチタン酸バリウムが広く用いられている。現在量産されているプリント基板内蔵型コンデンサ用誘電体フィルムは、粒径1μm程度のチタン酸バリウム微粒子と有機高分子バインダとから構成されているが、膜厚が50μm程度と大きく、容量密度が小さいため、基板内蔵型コンデンサ用誘電体薄膜にはさらなる高容量化が求められている。そのためには、膜厚を10μm以下、更には1μm以下と限りなく薄くするすると共に、緻密かつ均一な厚さの薄膜を形成する必要がある。
【0004】
厚さがnmオーダーのセラミックス等の薄膜を形成するための手段として、電気泳動堆積法(EPD法、電着法)が知られている。電気泳動堆積法とは、膜材料の微粒子の分散液中に基材及び対電極を浸漬し、電圧を印加することにより、分散液中で帯電分散した微粒子を、微粒子の帯電電荷の極性と反対の極性となる基材方向へ移動させ、膜材料の微粒子を基材上に堆積させ、薄膜を形成する方法である。電気泳動堆積法は、膜の厚さ、組成及び構造の制御を容易に行うことができるという利点を有している。そのため、数nm〜数百nmの粒子径を有するナノ粒子を用いることで、コンデンサ、色素増感型太陽電池、燃料電池等の電子デバイスに用いられるナノメートルレベルでの膜厚及び構造制御が必要な機能性薄膜の形成が電気泳動堆積法により可能になることが期待される。
【0005】
しかしながら、粒子径50nm以下の一次分散したナノ粒子を用いる場合、ナノ粒子の堆積物が不安定となる場合が多いため、電気泳動堆積法により広範囲にわたり均一な薄膜を形成することは困難である。また、従来の電気泳動堆積法による薄膜形成には、乾燥時に薄膜が著しく収縮するためにクラックや剥離が発生しやすいという大きな問題がある。
【0006】
かかる課題を解決するために、これまでに種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1では、非導電性の非極性溶媒中で、トリオクチルホスフィン(TOP)等のリガンドでキャッピングされたCdSe等の半導体ナノ粒子を電気泳動堆積法で堆積させ、導電性薄膜を形成させる方法が提案されている。
特許文献2、特許文献3、特許文献4、及び非特許文献1ではナノ粒子薄膜の強度を向上させるために、ナノ粒子の分散液に樹脂を混合して、電気泳動堆積法によりナノ粒子を堆積させる方法が提案されている。
特許文献5では、強粉砕して得られる20〜80nmの部分的に凝集した粒子を用いて、数百Vの高電圧を印加する電気泳動堆積法により厚さ数mmの膜を作製する方法が提案されている。
特許文献6及び7では、乾燥時の膜の収縮に伴うクラックの発生を抑制するために、厚さ数nm、サイズ1μm程度の扁平な粒子を用いて電気泳動堆積法により薄膜を形成する方法が提案されている。
【特許文献1】特表2006−501370号公報
【特許文献2】特開2001−15883号公報
【特許文献3】特開2004−35917号公報
【特許文献4】特開2002−356653号公報
【特許文献5】特開2000−345395号公報
【特許文献6】特開2008−69443号公報
【特許文献7】特開2006−265571号公報
【非特許文献1】Dong−Wan Kim他著、“Direct Assembly of BaTiO3−Poly(methyl methacrylate) Nanocomposite Films”、Macromolecular Rapid Communications、WILEY−VCH Verlag GmbH & Co. KGaA(ドイツ)、第27巻、第21号(2006年11月)、p.1821−1825
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、クラックのない均一な薄膜の形成が可能な範囲が数百μm四方と狭く、電子デバイスの製造に適用するには不十分である。
特許文献2、特許文献3、特許文献4及び非特許文献1記載の方法では、分散液への樹脂の添加に起因する、ナノ粒子薄膜の機能の低下や、分散液中でのナノ粒子の凝集等の問題が生じるおそれがある。
特許文献5記載の方法では、各種デバイスにおいて必要とされる機能を有する薄膜の形成が困難である。
また、特許文献6及び特許文献7記載の方法には、扁平な粒子の合成が困難であること、適用範囲が特定の材料に限定されること、微細なパターンの形成が困難であること等の問題がある。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、緻密で広範囲で均一であると共に、クラックや剥離の発生しにくいナノ粒子薄膜の製造方法、ナノ粒子薄膜、及びそれを用いた電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、ナノ粒子を分散媒中に分散させ、ナノ粒子分散液を調製する工程Aと、導電性の基材の表面を、前記分散液中における前記ナノ粒子の表面電荷と逆の電荷を有する高分子電解質の被膜で被覆する工程Bと、前記被覆された基材及び対電極を前記分散液中に浸漬し、電気泳動堆積法により前記被覆された基材上に前記ナノ粒子を堆積させる工程Cとを有することを特徴とするナノ粒子薄膜の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
なお、本発明において「表面電荷」とは、分散液中においてナノ粒子の表面電位により形成される電気二重層の滑り面における電荷をいう。
【0010】
ナノ粒子を堆積させる導電性の基材の表面に、分散液中におけるナノ粒子の表面電荷と逆の電荷を有する高分子電解質の被膜を形成することにより、基材の近傍におけるナノ粒子の表面電荷の中和に伴い、単分散状態を保つために必要な高い表面電荷が急速に減少する。そのため、泳動状態から堆積状態への移行が円滑に進行し、広範囲にわたり均一で、クラックや剥離の殆どないナノ粒子薄膜を形成できる。また、基材と対電極との間に印加する電圧のみならず、被膜の厚さを調節することによってもナノ粒子薄膜の膜厚を容易に制御することができる。
【0011】
本発明の第1の態様において、前記高分子電解質の数平均重合度が15以上300以下であることが好ましい。
高分子電解質が上記の範囲内の数平均重合度を有する比較的低分子量のものであれば、ナノ粒子薄膜の製膜時に高分子電解質がナノ粒子間を拡散して薄膜の表面付近まで到達できる。そのため、高分子電解質がナノ粒子薄膜内でバインダとしての機能を果たすことができ、クラックや剥離の発生を抑制できる。
【0012】
本発明の第1の態様において、前記ナノ粒子の直径が3nm以上100nm以下であることが好ましい。
ナノ粒子の直径を上記範囲内にすることにより、充填率の高い緻密なナノ粒子薄膜を形成できる。
【0013】
本発明の第1の態様において、前記ナノ粒子が、セラミックスナノ粒子であってもよい。この場合において、前記セラミックスナノ粒子が、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム及びチタン酸マグネシウムより選択される1又は複数を含むチタン酸アルカリ土類金属塩の結晶性ナノ粒子であることが好ましい。
また、この場合において、前記高分子電解質がポリアクリル酸であることが好ましい。
ナノ粒子として、チタン酸アルカリ土類金属塩の結晶性ナノ粒子を用いることにより、高い誘電率を有し、薄膜コンデンサ等に好適に用いることが可能なナノ粒子薄膜を製造できる。また、チタン酸アルカリ土類金属塩の結晶性ナノ粒子は、分散液中において正の表面電荷を有するため、ポリアニオンであるポリアクリル酸を高分子電解質として用いることにより、ナノ粒子の堆積効率を向上させると共に、クラックや剥離の発生を抑制できる。
【0014】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係るナノ粒子薄膜の製造方法を用いて製造されたことを特徴とするナノ粒子薄膜を提供することにより上記課題を解決するものである。
本発明の第1の態様に係るナノ粒子薄膜の製造方法を用いて製造されるナノ粒子薄膜は、広範囲にわたり均一で、クラックや剥離が殆どない。そのため、高い機能性を有すると共に歩留りにおいても優れている。
【0015】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係るナノ粒子薄膜を有することを特徴とする電子デバイスを提供することにより上記課題を解決するものである。
【0016】
本発明の第4の態様は、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム及びチタン酸マグネシウムより選択される1又は複数を含むチタン酸アルカリ土類金属塩の結晶性ナノ粒子をナノ粒子として用い、好ましくはポリアクリル酸を高分子電解質として用いる本発明の第1の態様に係るナノ粒子薄膜の製造方法により製造されたナノ粒子薄膜を誘電体層として有することを特徴とするコンデンサを提供することにより上記課題を解決するものである。
高い誘電率を有するチタン酸アルカリ土類金属塩の結晶性ナノ粒子を原料として、緻密で広範囲にわたり均一なナノ粒子薄膜を誘電体膜として用いているため、小型で高い性能を有し、基板への内蔵にも容易に適用可能なコンデンサを得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、緻密で広範囲で均一であると共に、クラックや剥離が発生しにくく、膜厚や膜構造の制御が容易で、かつ歩留りや再現性においても優れたナノ粒子薄膜の製造方法及びナノ粒子薄膜が提供される。また、本発明に係るナノ粒子薄膜の製造方法は、多くのナノ粒子に対して適用可能である。さらに、本発明に係るナノ粒子薄膜は、クラックや剥離がないため、耐久性及び信頼性に優れており、膜厚や膜構造を制御することにより、所望の機能を容易に発現させることが可能である。そのため、広範な電子デバイスの製造に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るナノ粒子薄膜の製造方法に用いられる電気泳動堆積法の説明図である。
【0019】
図1を参照して、本発明の一実施の形態に係るナノ粒子薄膜10の製造方法について説明する。ナノ粒子薄膜10の製造方法は、ナノ粒子を分散媒中に分散させ、ナノ粒子分散液11を調製する工程Aと、導電性の基材12の表面を、分散液11中におけるナノ粒子15の表面電荷(図1では、一例として正の表面電荷を有するナノ粒子15について図示している)と逆の電荷を有する高分子電解質の被膜14で被覆する工程Bと、高分子電解質の被膜14で被覆された基材12及び対電極13を分散液11中に浸漬し、電気泳動堆積法により高分子電解質の被膜14で被覆された基材12上にナノ粒子15を堆積させ、ナノ粒子薄膜10を形成する工程Cとを有する。
【0020】
以下、各工程についてより具体的に説明する。
工程Aでは、ナノ粒子を分散媒中に分散させ、ナノ粒子分散液11を調製する。ナノ粒子15の構成物質については、電気泳動堆積法により薄膜を形成することができるものであれば特に制限はなく、具体例としては、顔料、ポリイミド等の合成樹脂、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸金属塩等の無機酸化物、CdSe等の半導体、金(Au)等の金属が挙げられる。
【0021】
ナノ粒子15の平均一次粒子径は、3〜100nmであり、好ましくは10〜50nmであり、例えば、20nm程度である。ナノ粒子15の平均一次粒子径が100nmを上回ると、1μm以下の厚みのナノ粒子薄膜10を形成した際に充填率が低下するため、ナノ粒子薄膜10の機能が低下するおそれがあり、3nmを下回ると、ナノ粒子15の表面エネルギーが増大するため、ナノ粒子15の一次粒子が分散液11中に安定に分散した状態を保持することが困難となる。
【0022】
ナノ粒子15の作製は、任意の公知の方法を用いて行うことができ、ナノ粒子の構成物質及び粒径等に応じて好適な方法を適宜選択することができる。ナノ粒子15の作製は、バルク固体の強粉砕(ブレークダウン法)及び原子・分子レベルの原料からの合成(ビルドアップ法)のいずれの方法で行ってもよいが、粒径及び粒径分布の制御がより容易なビルドアップ法を用いることがより好ましい。ビルドアップ法の具体例としては、化学気相成長(CVD)法、静電噴霧−CVD(ES−CVD)法等の気相合成法、逆ミセル等のナノ反応場を用いた粒子合成法、ゾル−ゲル法等の液相合成法が挙げられる。
【0023】
このようにして得られたナノ粒子15を用いたナノ粒子分散液11の調製は、任意の公知の方法及び分散媒を用いて行うことができ、ナノ粒子15の構成物質及び粒径、後述する工程Bにおける電気泳動の際に印加する電圧、乾燥速度等のパラメータに応じて、好適な方法、分散媒の種類及び量(分散液中におけるナノ粒子15の濃度)等を適宜選択することができる。また、必要に応じて、ナノ粒子15に対して表面処理を行ってもよい。例えば、金属酸化物、半導体及び金属のナノ粒子を有機溶媒中に分散させる場合には、ナノ粒子薄膜10の機能を損なわない限りにおいて、チオール、アルコキシシラン、ホスフィン等の表面結合基を有するアルキル誘導体を用いて表面を疎水化してもよい。
【0024】
以下、ナノ粒子分散液11の一例として、チタン酸アルカリ土類金属塩の一例であるチタン酸バリウムの結晶ナノ粒子の分散液の調製について説明する。
【0025】
まず、ゾル−ゲル法によりチタン酸バリウムのナノ粒子を調製する。この工程は、バリウムアルコキシドとチタンアルコキシドとをBa/Ti比が1.00を超えないように反応溶媒に溶解し前駆体溶液を調製する工程と、前駆体溶液に加水後、150℃以下の温度で粒成長が終わるまでエージングし、結晶性チタン酸バリウムのナノ粒子を形成させる工程とを含んでいる。
【0026】
以下、チタン酸バリウムのナノ粒子分散液の製造方法について説明する。
まず、バリウムアルコキシドとチタンアルコキシドとをBa/Ti比が1.00を超えないように反応溶媒に溶解し前駆体溶液を調製する。
【0027】
使用することができるバリウムアルコキシドは、一般式Ba(ORで表される化合物であり、ここで、Rは、n=1〜10の−C2n+1、−CH(CH、−COCH、−COC、−CHOCH、−CHOC及び−COCOCから選ばれた1種又は2種以上の基を表す。バリウムアルコキシドの具体例としては、バリウムエトキシド(R=C)、バリウムイソプロポキシド(R=CH(CH)等が挙げられる。また、はじめからアルコキシドである必要はなく、金属バリウム、塩化バリウム、酸化バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム等を反応溶媒に溶解した後アルコキシドに転化してもよい。
【0028】
使用することができるチタンアルコキシドは、一般式Ti(ORで表される化合物であり、ここで、Rは、n=1〜10の−C2n+1、−CH(CH、−COCH、−COC、−CHOCH、−CHOC及び−COCOCから選ばれた1種又は2種以上の基を表す。チタンアルコキシドの具体例としては、チタンエトキシド(R=C)、チタンイソプロポキシド(R=CH(CH)等が挙げられる。また、はじめからアルコキシドである必要はなく、金属チタン、塩化チタン、シュウ酸チタン、水酸化チタン等を反応溶媒に溶解した後アルコキシドに転化してもよい。
【0029】
前駆体溶液に加えるバリウムアルコキシドのチタンアルコキシドに対するモル比は、1.00以下である。このように前駆体溶液に加えるBa/Ti比が1.00を超えると粒子表面に炭酸バリウムが析出する。また、Ba/Ti比が0.90となった場合でも化学量論の結晶性チタン酸バリウムのナノ粒子15が得られる。これは、粒子サイズがナノサイズ化したことにより、粒子重量あたりの表面積(比表面積)が著しく増大し、粒子最表面はTiリッチになるが、結晶構造としてはチタン酸バリウムになる。しかしながら1.00よりも小さくなるとナノ粒子15同士が凝集するため、Ba/Ti比は好ましくは0.95〜1.00がよく、更には0.99〜1.00がよい。
【0030】
前駆体溶液におけるバリウムアルコキシド及びチタンアルコキシドの濃度には特に制限は無いが、作業効率上0.5mol/L以上である方が好ましく、1mol/L以上であることがより好ましい。0.5mol/L未満であるとチタン酸バリウムのナノ粒子15の生成に時間がかかり、作業効率上不利となる。
【0031】
前駆体溶液の調製に使用する溶媒としては、バリウムアルコキシド及びチタンアルコキシドを上記の濃度で溶解することができる任意の溶媒を使用することができるが、使用するバリウムアルコキシド及びチタンアルコキシドの種類及び濃度並びに工程Bにおいて使用する分散媒の種類等に応じて適宜選択して用いることができるが、具体例としては、アルコール系(例えば、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロパノール等)
、ケトン系(メチルエチルケトン、アセチルアセトン(ペンタン−2,4−ジオン)、アセトン等)等、及びこれらのうち任意の2種類以上を任意の割合で混合した混合溶媒等の有機溶媒が挙げられる。
【0032】
次いで、このようにして調製した前駆体溶液に前駆体溶液に加水後、150℃以下の温度で粒成長が終わるまでエージングし、結晶性チタン酸バリウムのナノ粒子15を形成させる。
前駆体溶液に加水すると、バリウムアルコキシド及びチタンアルコキシドの加水分解及び重縮合反応が進行し、チタン酸バリウムの結晶性ゲルが生成する。
【0033】
加水分解のために使用される水は、大気中の水分又は加湿した反応雰囲気に含まれる水蒸気という形で前駆体溶液に添加してもよいが、添加量を制御するために、一定量の液体の水の形で添加してもよく、水を水溶性の溶媒に溶解した溶液として添加してもよい。必要に応じて、無機酸、有機酸、水酸化物、有機アミン類等の酸又はアルカリの水溶液として添加してもよい。ただし、前駆体溶液中の電解質が高くなりすぎると、生成するナノ粒子15の表面に形成される電気二重層が中和される結果、後述するエージングの際にナノ粒子15の凝集が起こりやすくなるため、酸及び塩基の添加量を不必要に多くしないことが好ましい。
【0034】
水の添加方法は特に制限されないが、前駆体溶液中の水の濃度分布が均一になるように、前駆体溶液を撹拌しながら添加するのが好ましい。水の濃度分布が不均一になると、加水分解及び重縮合反応が局所的に進行するため、得られるナノ粒子15の粒径が不均一になり易くなると共に、一次粒子の凝集が起こりやすくなるおそれもある。
【0035】
水の添加量は、前駆体溶液中の金属アルコキシドのモル数に対して1〜80倍であることが好ましい。添加量が前駆体溶液中のバリウムアルコキシド及びチタンアルコキシドのモル数に対して1倍を下回ると加水分解及び重縮合反応が進行しにくくなる。また、80倍を超えてもエージング条件を最適化すれば結晶化するが、加水分解及び重縮合反応速度が大きくなりすぎたり、局所的に進行することにより得られるナノ粒子15の粒径が不均一になり易くなったりすると共に、一次粒子の凝集が起こりやすくなるおそれがある。
【0036】
溶液の安定性の観点等から、前駆体溶液に公知のキレート剤を添加してもよく、或いは予めキレートが配位している金属アルコキシドを用いてもよい。キレートとしては、例えば、アセチルアセトネート(ペンタンジオネート)、エチルアセトネート(ヘキサンジオネート)、プロピルアセトアセトネート(ヘプタンジオネート)、テトラメチルヘプタンジオ
ネート、ベンゾインアセトネート等が挙げられる。
【0037】
加水を行う温度は、加水分解及び重縮合反応により、チタン酸バリウムの結晶核の生成及びナノ粒子15の成長が空間的に均一に進行するように、前駆体溶液の濃度、水の添加量及び使用する反応溶媒等に応じて適宜決定される。例えば、高濃度の前駆体溶液を使用する場合等において、室温では加水分解及び重縮合反応が迅速に進行しすぎる場合には、前駆体溶液を冷却した状態で加水を行うことが好ましい。冷却温度は、例えば、−50℃〜10℃である。冷却温度があまり低いと、添加した水が凍結するおそれがある。
【0038】
加水後エージングを行うことにより、生成したゲル中でアルコールや水等の脱離が起こり、酸素を介したチタンとバリウムの結合が形成されることで、結晶性を有するチタン酸バリウムのナノ粒子15が生成する。エージング温度が高いほど前記のチタン酸バリウムナノ粒子の形成が速くなるが、150℃以上では、アルコールあるいは水等の蒸発速度が著しく速くなるため、チタン酸バリウムのナノ粒子15が生成する前にゲルが乾固する問題がある。よって、エージング温度は150℃以下が好ましく、更には100℃以下とすることが好ましい。
【0039】
その後、上記のようにして得られたチタン酸バリウムのナノ粒子15を、完全に乾燥させずに反応溶媒で湿潤した状態で分散媒中に分散させ、チタン酸バリウムのナノ粒子分散液11を調製する。
【0040】
分散媒は、好ましくはナノ粒子15の表面に吸着された物質との溶解度パラメータの差の絶対値が0〜2(cal・cm−31/2である溶媒であり、反応溶媒と同一の溶媒であっても異なる溶媒であってもよい。分散媒の沸点が100℃以下の場合には、湿潤状態のまま分散媒で繰り返し洗浄することにより含水率を低減できる。分散媒が100℃以上の場合には、湿潤状態のまま分散媒を加えてエバポレーションすることにより含水率を低減できる。また、任意の2種類以上の溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒であってもよい。使用される分散媒の量は、チタン酸バリウムのナノ粒子15の濃度が1重量%以上となるよう、すなわち、チタン酸バリウムのナノ粒子1重量部に対し100重量部以下となる任意の量であり、分散安定性が確保されるよう、ナノ粒子15の平均粒径、使用される分散媒の種類、及び使用目的等に応じて適宜調節される。
【0041】
分散媒の溶解度パラメータは、Hildebrandの溶解度パラメータ(δ)とも呼ばれる値であり、下式で定義される。
【0042】
【数1】

【0043】
なお、式中、ΔHは分散媒の蒸発熱、Rは理想気体の気体定数、Tは温度、Vはモル体積をそれぞれ表す。
【0044】
分散媒の溶解度パラメータと反応溶媒との溶解度パラメータの差の絶対値が0〜2(cal・cm−31/2とすることにより、分散媒中でもナノ粒子15が十分に溶媒和された状態を確保することができるため、ナノ粒子15の分散安定性を向上させつつ、その凝集を抑制することができる。
【0045】
ナノ粒子15の分散媒中への分散は、任意の公知の方法を用いて行うことができる。ナノ粒子15がスラリー状となっている場合や、分散が困難である場合には、機械的粉砕、或いは超音波照射を行いながら分散媒中に分散させる。
このようにして得られるチタン酸バリウムのナノ粒子分散液(以下、単に「分散液」と呼称することもある。)11には、必要に応じて、ナノ粒子15の分散安定性を向上させるための界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、カチオン性、アニオン性、及びノニオン性の任意の界面活性剤を使用することができるが、カチオン性界面活性剤の場合、ナノ粒子15表面の電気二重層を中和し、ゼータ電位を低下させることによる分散安定性の低下を防ぐために、添加量を多くしすぎないよう注意が必要である。
【0046】
ナノ粒子分散液11の電気伝導度を調整するために、分散液11へ無機物あるいは有機物の電解質を加えてもよい。電解質としては、無機物あるいは有機物の酸、塩基、及び塩から任意の電解質を選択することができる。分散液11の電気伝導度が著しく小さい場合(<1μS/cm)は、分散液へ均一な電界を加えることが困難となり、分散液11の電気伝導度が著しく大きい場合(>100μS/cm)は、基材12上で電気分解による気泡が発生しナノ粒子薄膜10中にピンホールが形成される問題が発生することが予想される。加えて、分散液のpHが小さく(pH<5)なるとナノ粒子15が溶解する問題があるため、電解質の添加量は適切に調整する必要がある。
(以上工程A)
【0047】
工程Bでは、導電性の基材12の表面を、分散液11中におけるナノ粒子15の表面電荷と逆の電荷を有する高分子電解質14の被膜で被覆する。基材12の材質に特に制限はなく、導電性を有する任意のものを用いることができる。基材12の例としては、銅、金、銀、アルミニウム等の金属、ケイ素、ゲルマニウム等の半導体、ITO(酸化インジウムスズ)等の金属酸化物、ポリアセチレン、グラファイト、カーボンナノチューブ等の有機導電体等が挙げられる。これらはバルク材料であってもよいが、金属箔、キャストフィルム等の薄膜状であってもよい。また、基材12の形状及び大きさについても特に制限はなく、板状、円筒状、球状等の任意の形状を取ることができると共に、パターンを形成していてもよい。
【0048】
基材12の表面に高分子電解質の被膜14を形成するのに用いる高分子電解質として、分散液11中におけるナノ粒子15の表面電荷と反対の電荷を有する任意の高分子を用いることができる。すなわち、図1に示したようにナノ粒子15が正の表面電荷を有する場合には任意のポリアニオンを、ナノ粒子15が負の表面電荷を有する場合には任意のポリカチオンを、それぞれ用いることができる。ナノ粒子15が正の表面電荷を有する場合において好ましい高分子電解質としてはカルボキシル基、スルホ基、ヒドロキシル基、チオール基、エノール等の官能基を有する高分子が挙げられ、具体例として、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸が挙げられる。
【0049】
高分子電解質の数平均重合度は、15〜300、好ましくは15〜100、より好ましくは20〜50、更に好ましくは20〜30である。高分子電解質の数平均重合度が15を下回ると、基材12の表面に高分子電解質の被膜14を形成することが困難となることに加えてナノ粒子15の表面電荷の中和やバインダとしての機能が不十分となり、300を上回るとナノ粒子薄膜10中で十分に拡散することができなくなるため、いずれの場合にも均一でクラック及び剥離のないナノ粒子薄膜10を形成することが困難になる。
なお、数平均重合度は、GPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)法、浸透圧法、光散乱法等の任意の方法を用いて測定することができる。
【0050】
高分子電解質の被膜14の厚さに応じて、形成されるナノ粒子薄膜10の膜厚及びナノ粒子の充填率を制御することができる。そのため、高分子電解質の被膜14の厚さは、所望のナノ粒子薄膜10の膜厚に応じて適宜決定することが好ましい。
基材12の表面を高分子電解質の被膜14で被覆する方法としては、ディップコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング等の任意の公知の方法を適宜選択することができる。
(以上工程B)
【0051】
工程Cでは、工程Bで作製した高分子電解質の被膜14で被覆された基材12及び対電極13を、工程Aで調製した分散液11中に浸漬し、電気泳動堆積法により、高分子電解質の被膜14で被覆された基材12上にナノ粒子15を堆積させ、直流電源16を介して直流電圧を印加することによりナノ粒子薄膜10を形成する。図1に示したように、ナノ粒子15が正の表面電荷を有し、直流電源16を用いる場合、基材12を陰極、対電極13を陽極とする。ナノ粒子15は、分散液11中で基材12(陰極)に向かって(図1中矢印で示す方向)泳動し、高分子電解質の被膜14上の負電荷により表面電荷が中和され、均一に堆積し、ナノ粒子薄膜10を形成する。
【0052】
基材12及び対電極13の間に印加する電位により、ナノ粒子薄膜10の形成速度及び充填率を制御することができるため、所望のナノ粒子薄膜10の膜厚や特性、及び分散媒の耐電圧等に応じて、印加電圧を適宜調節する。また、ナノ粒子薄膜10の膜厚は、電位の印加時間(堆積時間)によっても制御できるため、所望のナノ粒子薄膜10の膜厚及び印加電圧に応じて、印加時間を適宜調節する。
【0053】
なお、直流電源16の代わりに交流電源を用いてもよく、この場合において、対電極13にも高分子電解質の被膜14で被覆された基材12を用い、双方の電極(=基材)上にナノ粒子薄膜10を形成することもできる。
電気泳動堆積法により作製したナノ粒子薄膜10は、作製後、必要に応じて乾燥および焼成を行う。本発明により作製したナノ粒子薄膜10は、乾燥のみでも機能性膜として十分な特性を有するが、焼成を行うことにより更に機能の向上を図ることができる。
ナノ粒子薄膜10の堆積を繰り返し行うことで積層膜の作製も可能である。更に、繰り返しの成膜中にナノ粒子の種類を変更することで、交互積層膜や組成傾斜膜の作製も可能である。
【0054】
次に、ナノ粒子薄膜10を有する電子デバイスについて説明する。本発明が適用される電子デバイスとしては、本実施の形態に係るナノ粒子薄膜10を機能性膜として使用可能な任意の電子デバイスが挙げられ、具体例としては、コンデンサ、光増感型太陽電池等の光デバイス、各種センサ類、集積回路、プリント配線等が挙げられ、それぞれの目的に応じて、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム及びチタン酸マグネシウムより選択される1又は複数を含むチタン酸アルカリ土類金属塩(コンデンサの誘電体膜)、シリカ等の絶縁体(集積回路のパッシベーション膜や層間絶縁膜等)、銅等の金属(プリント配線等)、CdS等の半導体(光センサ)等の材料からなるナノ粒子15を適宜用いることができる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ナノ粒子の平均一次粒子径(結晶子径)は、X線回折(Panalytical製X’Pert PRO)を用いて測定した(110)面回折ピークの半価幅から、シェラーの式により算出した。ナノ粒子分散液のナノ粒子の平均二次粒子径(分散粒径)は、Malvern製Zetasizer NANO−ZSを用いた動的光散乱(DLS)法によって測定した。
【0056】
(1)チタン酸バリウムの結晶性ナノ粒子分散液の調製
乾燥窒素雰囲気中において、等モルのバリウムジエトキシド((Ba(OC、高純度化学研究所製)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti(O、高純度化学研究所製)を、メタノールとエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)の混合溶媒に溶解し、1.0mol/Lのチタン酸バリウムの前駆体溶液を調製した。前駆体溶液を−50℃まで冷却した後、撹拌しながら水/メタノール混合溶液(体積比1:1)を滴下し加水分解を行った。混合溶液の滴下量は、水の添加量が前駆体溶液中のTiに対して30モル倍となるようにした。加水分解後、80℃で4時間のエージングを行い、チタン酸バリウムの結晶性ナノ粒子のゲルを得た。調製したチタン酸バリウムの結晶性ナノ粒子の平均一次粒子径の測定結果は、約16nmであった。得られたゲルをEGMME中に投入して、超音波によるチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の解砕および分散を行い、約2.4重量%のチタン酸バリウムの結晶性ナノ粒子分散液を調製した。分散液中のチタン酸バリウムの結晶性ナノ粒子の分散粒径(DLS径)及びゼータ電位は、それぞれ、20nm及び+70mVであった。
【0057】
(2)ポリマーの被膜による基材の表面の被覆
基材(陰極)として用いるPt/Ti/SiO/Si基板のPt面に、数平均分子量1800(数平均重合度25)、5000(数平均重合度70)、25000(数平均重合度350)、250000(数平均重合度3500)のポリアクリル酸及び負電荷を有しないポリマーであるポリメタクリル酸メチル(数平均分子量15000、数平均重合度150)のEGMME溶液をスピンコーティングし、所定の厚さのポリマーの被膜で被覆した。
【0058】
(3)チタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の形成及び評価
基材(陰極)及び対電極(陽極)として、それぞれ、上記(2)記載の方法によりポリマー被膜で被覆したPt/Ti/SiO/Si基板及び未処理のPt/Ti/SiO/Si基板のPt面を用い、図1に示した装置を用いて、電気泳動堆積法によるチタン酸バリウムの結晶性ナノ粒子の堆積を行った。基板間距離10mm、堆積面積が15×15mmとなるように電極をチタン酸バリウムの結晶性ナノ粒子の分散液に挿入し、30秒経過後、直流電圧(10〜50V)を30〜300秒間印加することで、電気泳動堆積法によるチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の形成を行った。各実施例及び比較例における、用いたポリマーの種類及び分子量、ポリマー被膜の厚さ、印加電圧及び電圧印加時間は、下記の表1に示すとおりである。
【0059】
【表1】

【0060】
得られた薄膜を減圧下で乾燥させた後、チタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の重量を測定しチタン酸バリウムのナノ粒子の堆積量を算出した。SEM(日本電子製、JSM−840F)によりチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の表面および破断面の観察を行った。グロー放電発光分析装置(GD−OES、堀場製作所製、JY−5000RF)によりチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜中の各元素のデプスプロファイルを得た。チタン酸バリウムのナノ粒子薄膜表面付近におけるポリマーの存在を調べるために、全反射顕微赤外分光測定(ATR−IR、サーモフィッシャー製、Nicolet Centaurus)を行った。
【0061】
実施例5、8、11及び13の結果より得られる基材の表面を被覆するポリアクリル酸の被膜の厚さとチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の膜厚との関係を示すグラフを図2に示す。ポリアクリル酸の被膜の厚さの増大に伴い、チタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の膜厚も増大していることがわかる。この結果より、ポリアクリル酸の被膜の厚さにより得られるチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の膜厚を制御できると考えられる。
【0062】
実施例10〜12、及び比較例5の結果より得られる印加電圧とチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の膜厚との関係を示すグラフを図3に示す。印加電圧の増大に伴い、チタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の膜厚がほぼ直線的に増大していることがわかる。この結果から、印加電圧によりチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の膜厚を制御できると考えられる。また、得られたナノ粒子薄膜の誘電率も印加電圧の増大に伴い増大しており、印加電圧によりナノ粒子薄膜の充填率についても制御できると考えられる。
【0063】
実施例1〜4、6〜9、14〜17、18〜21、及び比較例1〜4の結果より得られる、ポリアクリル酸の数平均分子量とチタン酸バリウムの結晶性ナノ粒子の堆積量との関係を示すグラフを図4に示す。なお、図4の凡例中、「none」は基材がポリマーの被膜で被覆されていないことを示し、ポリアクリル酸を意味する「PAA」の後に付された数は、ポリアクリル酸の数平均分子量を示す。チタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の堆積量は、被膜に含まれるポリアクリル酸の数平均分子量が増加するにつれて減少し、数平均分子量が250000の場合には、ポリマーで被覆されていない場合及び負の電荷を有しないポリメタクリル酸メチルで被覆した場合と概ね同じとなった。
【0064】
図5に示すように、GD−OESから得られたチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜中の炭素の膜厚方向の分布は、数平均分子量5000のポリアクリル酸を用いて作製したナノ粒子薄膜(a)の場合には膜表面から基板界面まで概ね均一であったのに対して、数平均分子量250000のポリアクリル酸を用いて作製したナノ粒子薄膜(b)の場合には、膜と白金(Pt)基板の界面付近に偏在していた。
【0065】
作製したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜のATR−IRスペクトルを図6に示す。数平均分子量5000のポリアクリル酸を用いて作製したナノ粒子薄膜((c)実施例8)の場合には、チタン酸バリウムのナノ粒子薄膜由来の吸収以外にポリアクリル酸に特有の吸収が確認できるのに対して、数平均分子量250000のポリアクリル酸を用いて作製したナノ粒子薄膜((d)実施例20)の場合には、図中に破線で示した位置に現れるポリアクリル酸由来の吸収((a)参照)が観測されず、チタン酸バリウムのナノ粒子薄膜由来の吸収((b)参照)のみが確認された。これらの結果より、低分子のポリアクリル酸は、成膜中にチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の粒子間を拡散して膜表面付近まで到達すると考えられる。ポリアクリル酸が膜表面付近まで到達することで、粒子の堆積効率が改善され、また、膜中でバインダの役割を果たすためにクラックフリーの数ミクロンの膜の作製が可能になると考えられる。一方、数平均分子量250000のポリアクリル酸の様に分子量が大きい場合、ポリアクリル酸の溶解性が低いために基板近傍に留まり、粒子堆積の効率が向上しなかったと予想される。
【0066】
数平均分子量5000のポリアクリル酸の被膜で被覆したPt基板上へ電気泳動堆積法により作製したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の表面および断面のSEM像を図7に示す。調製したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜は、広い範囲でクラックが無く均一な膜厚であり(図7(a)及び(c)参照)、粒子の堆積状態は粗大な凝集粒子の存在は認められず均一な状態であった(図7(b)参照)。
【0067】
数平均分子量5000のポリアクリル酸((a)実施例8)及び数平均分子量15000のポリメタクリル酸メチル((b)比較例3)の被膜で被覆した基材上に作製したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の厚さプロファイルを図8に示す。図8中において、「位置」は、分散液中で液面であった位置からの距離を表す。負電荷を有しない数平均分子量15000のポリメタクリル酸メチルを用いた場合、重力の影響により膜の上部から下部にわたり連続的に膜厚が増加しているのに対して、数平均分子量5000のポリアクリル酸を用いた場合、膜厚にうねりが認められるがcmのオーダーで均一な膜となっていた。ポリアクリル酸の電荷調整効果により、基板上へのチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の堆積が円滑に起こることでチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の濃縮層の形成が抑制され、その結果、重力の影響を受けることなく均一な膜厚が得られたと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施の形態に係るナノ粒子薄膜の製造方法に用いられる電気泳動堆積法の説明図である。
【図2】基材の表面を被覆するポリアクリル酸の被膜の厚さとチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【図3】印加電圧とチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【図4】ポリアクリル酸の数平均分子量とチタン酸バリウムの結晶性ナノ粒子の堆積量との関係を示すグラフである。
【図5】(a)数平均分子量5000のポリアクリル酸及び(b)数平均分子量25000のポリアクリル酸で被覆された基材上に形成したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜における、バリウム、炭素及び白金のデプスプロファイルを示すグラフである。
【図6】(a)ポリアクリル酸(数平均分子量5000)、(b)基材上に直接堆積させたチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜、(c)実施例8で作製したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜、及び(d)実施例20で作製したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の全反射赤外分光(ATR−IR)スペクトルである。
【図7】(a)実施例8で作製したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の表面、(b)未処理の白金基材の表面、及び(c)実施例8で作製したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】(a)実施例8及び(b)比較例3で作製したチタン酸バリウムのナノ粒子薄膜の厚さプロファイルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
10:ナノ粒子薄膜
11:ナノ粒子分散液
12:基材
13:対電極
14:高分子電解質の被膜
15:ナノ粒子
16:直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子を分散媒中に分散させ、ナノ粒子分散液を調製する工程Aと、
導電性の基材の表面を、前記分散液中における前記ナノ粒子の表面電荷と逆の電荷を有する高分子電解質の被膜で被覆する工程Bと、
前記被覆された基材及び対電極を前記分散液中に浸漬し、電気泳動堆積法により前記被覆された基材上に前記ナノ粒子を堆積させる工程Cとを有することを特徴とするナノ粒子薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記高分子電解質の数平均重合度が15以上300以下であることを特徴とする請求項1記載のナノ粒子薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子の直径が3nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項記載のナノ粒子薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子がセラミックスナノ粒子であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のナノ粒子薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックスナノ粒子が、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム及びチタン酸マグネシウムより選択される1又は複数を含むチタン酸アルカリ土類金属塩の結晶性ナノ粒子であることを特徴とする請求項4記載のナノ粒子薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記高分子電解質がポリアクリル酸であることを特徴とする請求項5記載のナノ粒子薄膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載のナノ粒子薄膜の製造方法を用いて製造されたことを特徴とするナノ粒子薄膜。
【請求項8】
請求項7記載のナノ粒子薄膜を有することを特徴とする電子デバイス。
【請求項9】
請求項5及び6のいずれか1項記載のナノ粒子の製造方法により製造されたナノ粒子薄膜を誘電体層として有することを特徴とするコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−126735(P2010−126735A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299596(P2008−299596)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月22日発行の「AMEC−6(The 6th Asian Meeting on Electroceramics、CSJ 第28回 セラミックス研究討論会)」にて発表
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】