説明

ナノ結晶性球形酸化物セラミックス、その合成方法及び使用

本発明は、ナノ結晶性球形酸化物セラミックス、その合成方法及び使用に関する。油中水型エマルジョン(W/O)の爆発によって得られるこれらの酸化物は、球状形態及びナノ結晶性を有することに加えて、一連の補足的特徴、すなわち、40μm未満の粒子寸法、二峰性粒径分布、高純度、解凝集及び安定した結晶段階を示す。この一連の特徴のため、これらの粉末は、塗工プロセス、ニア・ネット・シェイプ・プロセス等の幾つかの用途に特に適し、セラミックス産業に利用すれば、それらは、機械抵抗が非常に高く高密度で多孔質のセラミック体をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイテクセラミックス分野に適する、ナノ結晶性球形酸化物セラミックス粉末を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広い範囲で新たなそして有望な用途を有するハイテクセラミックス分野の急速な進歩は、種々の成形及び焼結方法ばかりでなく、新たな機能性を有する粉末を得るための方法及び技術も生じさせた。
【0003】
一般に、文献は、高性能セラミック体を生産するための粉末に理想的な性質が、次の一連の要件(それらの粒子の形態、粒子寸法、粒径分布、純度、凝集状態、結晶相、結晶子寸法及び内部構造)に従うであろう事実に言及している。
【0004】
1.形態−粒子の球形度は粉末の充填度と関係しており、これは粒子が球形であるとき非常に高く、目的物の優れた排液能力とより高い最終寸法精度とより良好な機械抵抗とをもたらす。
【0005】
2.粒径:0.1〜10マイクロメートル−小さい寸法を有する粒子ほど、良好な反応性、許容温度及び少ない焼結時間を示し、方法の収益性が迅速に高められる。
【0006】
3.粒径分布タイプ−二峰性分布は、粒子の充填度を向上させ、これは、言い換えると、より高い圧粉密度値ということになり、従って、高密度化段階にとって有益である。
【0007】
4.純度−高純度は、小さな汚染率がその機械的性質、電気的性質、光学的性質及び磁性に強い影響を及ぼし得るので、セラミック粉末における基本要件である。
【0008】
5.凝集状態−凝集した粉末は、内部気孔を増し、これを焼結段階中に除去することは極めて難しい。
【0009】
6.結晶相−粉末結晶相が安定でないと、相転移に起因して焼結プロセス中に体積変動が生じ、従って、最終目的物に欠陥を生じさせることがある。
【0010】
7.結晶子サイズ−結晶子寸法は、その機械的性質、光学的性質、電気的性質及び磁性に強く影響する。結晶のサイズが小さいほど、目的物の機械抵抗は高いであろう。
【0011】
8.粒子内部構造−粒子の内部気孔を焼結プロセス中に除去することは非常に難しく、そのため最終目的物がより低い密度及び機械的性質を示すこととなる。
【0012】
球形度−粒子球状形態は、セラミック粉末のかなり重要な要件であり、これは、厖大な一連の理由に起因する:
−目的物の成形プロセス中に、それが高い充填密度(実際の粒子密度の60%)の実現を可能にする;
−粒子の非常に規則正しい形状のため、それらの粉末は優れた排液性能を示し、これは、ニア・ネット・プロセス、すなわち、射出成形(CIM−セラミック射出成形)及びスリップ注型において、それらの使用に非常に重要である;
−粒子の(その形態に起因する)規則正しい形状は、焼結プロセス中の規則正しい粒子の成長を可能にし、これは、多次元での均一な収縮をもたらし、こうしたことが、金型構想に及び最終目的物において達成される許容度に影響を及ぼす。
−一方、球形粒子から出発すると、焼結プロセス後、同様に球形の気孔を得ることができ、それらによってより高い機械抵抗を有する最終セラミック体が得られる。
【0013】
主な酸化物の融点が2000℃を超えるという事実のため、そのような球形度が融点より高い温度での合成を暗示するならば、高密度球形粒子は、概して、少数の方法(表1)によって入手できる。
【0014】
表1−球形酸化物の合成方法
【表1】

【0015】
容易にかつ高い価格効率で2000℃より高い温度に達することができるため、本発明において開示する方法は、球状形態を有する高密度粉末を高いエネルギー効率で得ることができ、従って、最新技術に関して言及した方法の問題点を克服することができる。
【0016】
結晶子寸法
最終セラミック体中の結晶(粒子)のサイズが、機械的性質、光学的性質、電気的性質及び磁性すべてを最終的に決めることとなる。この最終寸法は、その粉末中の結晶子の初期サイズにばかりでなく、焼結サイクル中に発生することとなる成長にも依存する。
【0017】
大部分の公知の方法では、酸化物粉末は、熱処理段階(焼成)による、それぞれの金属の水酸化物の転化から得られる。例えば、バイエル法では、無水アルミナ粒子を回転焼成炉の中で酸化アルミニウムに転化させる。高温でのゆっくりとした熱処理が結晶子の明白な成長をもたらし、その結果、0.5マイクロメートル未満の結晶を得ることは難しい。
【0018】
本発明で開示される方法では、高い冷却速度のため、セラミック粉末結晶は、ナノメトリックな寸法のものであり、言い換えると、100ナノメートル未満のものである。
【0019】
従って、本発明の方法によって得られる酸化物セラミックス粉末は、2つの極めて重要な特徴:球形度及びナノ結晶性を高いエネルギー効率と結び付ける。
【0020】
球形度及びナノ結晶性の特徴に加えて、本方法は、前に述べた他の特徴、すなわち、40マイクロメートル未満の粒径、二峰性粒径分布、高純度、完全に脱凝集した及び高密度な構造の粒子の獲得も可能にする。
【0021】
本発明で激賞されるような油中水型エマルジョン(W/O)の爆発から出発する高温及び高圧でのナノ結晶性酸化物セラミックスの球形粉末の合成は、高い機械抵抗を有する高密度で多孔質のセラミック体の獲得を可能にする。
【0022】
さらに、前記粉末の優れた排液能力のため、それらは、ニア・ネット・プロセス、すなわち、射出成形、スリップ注型及び被覆プロセスに特に適する。
【0023】
爆発は、有意に速い断熱反応であり、それは、同時に高温(約3000℃)及び高圧(50Kbar)で発生することを特徴とする。そうであるため、化学元素の特徴に従って、厖大な範囲の金属が気相において酸素と反応し、残りの金属は液相で反応すると考えられている。従って、その反応において、形成される生成物(酸化物セラミックス)は液相である瞬間があり、後に初めて固相に戻る。
【0024】
酸化物合成は、爆発プロセスによって行われ、費用効果の高い方法で高温が達成されれば、優れた可能性を有する代替プロセスによっても行われる。すべての生成物(酸化物セラミック)が液相で合成されるという事実が、球形粉末の獲得に通じる。反応中に達する高圧が、より高密度な結晶相の形成を強化する。
【0025】
爆発によって合成された粉末は、この合成プロセス中における高圧と高温という同時に起きる組み合わせに起因して、通常のものとは異なる機械的性質、光学的性質、磁性、熱的性質及び電気的性質を、依然として示す。
【0026】
特別な性質を有する材料の合成における爆発プロセスの使用は、一連の特許書類及び出版物において言及されている。すなわち、特許文献1には、異なる基質でのセラミック塗料の生産のための循環プロセスが記載されている。極めて希薄な粒度分布の金属懸濁液を含む気体混合物中で爆発を行う。本発明の方法は、液相又は固相でのW/Oエマルジョンの使用で際立っており、これは、酸化物合成条件のより良好な制御を可能にする。
【0027】
特許文献2は、酸化剤を伴う混合粒状アルミニウムの爆発の循環プロセスからの、アルミニウム微粉の生産のための工業プロセスを開示している。本発明は、幾つかのタイプの金属プリカーサ(例えば、これらに限定されないが:金属、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩)が組み込まれていること、及び合成される酸化物の最終的な性質、すなわち球形度及びナノ結晶性を制御することで際立っている。
【0028】
非特許文献1は、高炭素含量の爆発からのナノメトリックダイヤモンド粉末の獲得を開示している。本発明は、球形度及びナノ結晶性の特徴を有する酸化物の生産のためのW/O高金属含量エマルジョン又はそれらの塩の使用で際立っている。
【0029】
非特許文献2は、酸素を有するチャンバ内で、非常に薄い板の中のアルミニウムを加速し、酸化させ、そのようにしてナノメトリックアルミナを生成するための爆発からのエネルギーの使用を開示している。本発明では、金属の酸化は、主として爆発によって行うが、この文献では、アルミナの反応を行い、その後、ガスチャンバの中で、結晶転移相を有する(不安定な)アルミナをそのようにして得る。
【0030】
爆発は、さらに一連の文献において、相変態法として、またはさらに、衝撃波後に行われるセラミック粉末の圧密/高密度化法(この場合、100%高密度化が達成され、そのプロセスの速度に依存して、粒子の成長が最小になる)として、言及されている。この場合は爆発が従来の焼結プロセスの代替法であり、本発明では爆発がセラミック粉末の合成のための方法であることを指摘しなければならない。
【0031】
特許文献3は、外筒(3)の中の内筒(1)に添加される粉末画分(2)を開示しており、これら2本の筒の間の空間に爆発性材料(4)が充填され、それを爆発させて、例えばそれらの粉末画分を圧縮する。金属、セラミック又はポリマー粉末画分の圧密による動的衝撃又は圧縮のための方法は、該画分又は特定の混合比でのそれらの組み合わせの添加、及びその後の第一の縦筒(内筒)への移送を含む。その後、後者を、より大きな直径及び高さを有する第二の縦筒(外筒)の基礎の上に配置し、それら2本の筒の間の空間に爆発性材料を充填した後、第二の筒の上端の中央にわたって雷管(9)を加える。その爆発性材料の爆発が衝撃波を生じさせ、それが粉末画分を通過する。爆発物の量及びタイプは、それらの粉末画分の高衝撃圧縮を生じさせるように選択される。本発明は、酸化物セラミックスのための合成方法として爆発を用いることで際立っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】米国特許第5855827号
【特許文献2】欧州特許第1577265号
【特許文献3】オランダ特許第1014199号
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】Fenglei H.,Yi T.,Shourong Y.,「Synthesis Mechanism and Technology of ultrafine diamond from detonation」−「Physics of the Solid State」,MAIK Nauka/Interperiodica ISSN 1063−7834(Form)1090−6460(Online)Vol.46,no.4,April 2004,p.616−619
【非特許文献2】Chiganova,G.A.,「Detonation synthesis of ultrafine alumina」−「Inorganic Materials」,MAIK Nauka/Interperiodica ISSN 0020−1685(Form)1608−3172(Online)Vol.41 no.5,May 2005,p.468−475
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明は、油中水型エマルジョン(W/O)の爆発による酸化物セラミックスの合成方法からなり、該酸化物セラミックスは、球状形態を有すること及びナノ結晶性(100ナノメートル未満の結晶子寸法)を提示することを特徴とし、さらに、以下の一連の特徴を兼ね備えている:
a)40マイクロメートル未満の粒径、
b)二峰性粒径分布;
c)高純度−99.5%より高い;
d)異なる結晶相;
e)脱凝集した粒子。
【0035】
既に述べた一連の特徴に加えて、爆発プロセスによって生み出される有意に高い温度及び圧力での合着メカニズムから粒子が形成されるという事実が、個別に粉末に、及び粉末が補強剤として組み込まれているときにはセラミック体又はマトリックスに、極めて高い機械抵抗をもたらす。
【0036】
本発明のナノ結晶性酸化物セラミックス粉末の合成方法は、エマルジョンの爆発と、その後の関連酸化物セラミックスの爆発反応生成物としての合成から本質的に成る。
【0037】
本発明の前記基礎エマルジョンは、界面活性剤作用のもとで密接に連結された2つの相:
a)内相(硝酸アンモニウムに基づき、水性で高酸素含量);
b)外相(有機化合物に基づく)
からなる、爆発性エマルジョン製造に広く用いられている、(W/O)型のものである。
【0038】
この方法についての本質的な態様の1つは、異なる形態及び幾何形状、すなわち、細かい粉末、顆粒、薄膜、混合及び均質化方形を有するその組成での金属、例えばAl、Ti、Si、Mg等の前記基礎エマルジョンへの組み込みである。例えば爆発温度を調節するために、金属塩、例えば、これらに限定されないが、対応する金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩、例えば硝酸マグネシウム、塩化チタン及び硫酸ジルコニウムを酸化剤相に溶解することによって、本エマルジョン組成をさらに補完することができる。
【0039】
前記エマルジョン爆発プロセス中に、それぞれの酸化物が、金属元素(M)と酸素(O)との反応から形成される。
【0040】
本件に関する絶対的同意が存在しないにもかかわらず、前記酸化物の形成のメカニズムは、以下の動態に一般に従って総体的発熱反応によって起こることが認められる:
1−M(s)−> M(l)
2−M(l)−> M(g)
3−M(g)+O(g)−> MO(g)
4−MO(g)−> MO(l)
5−MO(l)−> MO(s)
(これらの式中、(s)は固体状態を表し、(g)は気体状態を表し、及び(l)は液体状態を表す)。
【0041】
段階(1〜5)は、爆発反応から3つの異なる相で発生する:
a)段階1及び2−Van Newman Peakと呼ばれる相において発生し、これは、衝撃波によって生み出される最大圧縮に対応し、金属の加熱及びその結果として生ずる固相から液相への変態(段階1)そしてその後、気相への変態(段階2)を引き起こす。
b)段階3−反応ゾーンと呼ばれる相において発生し、これは、理想的な爆発の場合、C,J(Chapman,Jouguet)点より前にあり、C,J(Chapman,Jouguet)点で終わる衝撃波の通過を維持するゾーンに対応する。
c)段階4及び5−テイラー(Taylor)ゾーンと呼ばれる相において発生し、これは、反応の結果として生ずる気体の断熱膨張に対応する。
【0042】
前記油中水型エマルジョン(W/O)は、3つの理由のため、爆発による粉末合成プロセスに特に適する:
1.酸化剤相と燃料相の間の均一性のグレードが高いため、爆発中の完全な化学反応を確約するために必要な構造である。
2.異なる金属プリカーサを添加する(酸化剤溶液に可溶化する、燃料相に組み込む)ことができ、従って、合成される粉末の純度及び他の性質の厳密な制御を可能にするという点で、高い融通性を呈する。
3.その組成の高い含水量のため、安定な爆発性エマルジョンであり、非常に安全であり、衝撃及び摩擦に対して強い。
【0043】
一般に、前記エマルジョン組成は、発熱性全反応エンタルピーを保証しなければならず、そうでなければ、爆発反応は、安定した再現性のある方法で発生しないであろう。
【0044】
前記エマルジョン組成への金属の組み込みは、金属酸化反応の発熱特性に起因して、大きなエネルギー放出及び高い最終温度を生じさせる結果となる。一方、前記エマルジョン組成への吸熱性要素、例えば、水、金属塩(例えば、これらに限定されないが、硝酸塩、硫酸塩)の組み込みは、爆発熱及び気体の最終温度の低減を意味する。
【0045】
球状形態の粒子を得るために最も重要な要因は、反応温度である。爆発による球形粒子の獲得には、反応ゾーンにおける、すなわち、C,J(Chapman,Jouguet)点における温度がその酸化物の融点より高いこと、その結果、これらが相図(P、T)において液体状態のままであることができ、従って、合着プロセスによって球形を得ることができることが求められる。
【0046】
表2は、30%金属を含む酸化剤マトリックスの組成についてのシミュレーションによって算出したC,J点における温度、及び1気圧に対するそれぞれの酸化物の融解温度を示す。しかし、この融解温度は、圧力に伴って(クラペイロン(Clapeyron)比に従って)上昇する一方、粒径の縮小、すなわち50ナノメートルを下回る縮小に伴って実質的に低下することに留意されたい。
【0047】
表2−30%金属を含む酸化剤マトリックスの組成についてのシミュレーションによって算出したC,J点における温度、及び1気圧に対するそれぞれの酸化物の融解温度。
【表2】

【0048】
殆どの場合、30%金属を含む反応温度は、それぞれの酸化物の融解温度より明らかに高いことが観察される。
【0049】
前記エマルジョン組成により、C,J点における温度及びその結果として粒子の最終形状を制御することができる。合着メカニズムにより粒子成長が発生する、熱ガスの極めて急速な膨張は、爆発が高いエネルギー効率を生じさせる断熱プロセス(すなわち、外部との熱交換がない)であると考えられることは、特に述べる価値がある。
【0050】
結晶子サイズは、基本的にはテイラーゾーン(ガス膨脹)において規定され、酸化物粒子の冷却速度が高いほど、粒子は小さくなるであろう。最終的な結晶子のサイズが、酸化物粉末又はそれが組み込まれているセラミック体の機械抵抗に最も大きく影響する特徴であることは、特に述べる価値がある。
【0051】
この見地から、爆発による粉末合成プロセスは、冷却速度が非常に速く、その結果、ナノメトリックな結晶を得ることができるので理想的である。それらの粉末を焼結温度より高い温度で合成するので、焼結サイクル中の結晶子成長速度はより小さい。これらの2つのモチーフの組み合わせが、最終セラミック体中の数十ナノメートルを有する非常に小さな結晶の獲得をもたらし、その結果、多孔質セラミック体と高密度セラミック体の両方における高い機械抵抗値の存在につながる。
【0052】
粒子の最終寸法は、基本的には、C,J点での反応温度とその酸化物の融解温度との差に比例する合着時間に依存し(融解温度が達成されると、粒子が凝固し、その成長が終わると考えられる)、これは、反応温度を調節することによって最終的な粒径を制御することができることを意味する。
【0053】
円筒等のエマルジョンの幾何形状の一定のタイプについては、ラジアル(radial)膨張プロセス中に周辺粒子がより少ない衝突数を有し、あまり成長しないことが確認された。そうであるため、最初の円筒の厚みが小さいほど、比率(面積/体積)が大きく、その結果、得られる分布が狭く、均一になるであろう。
【0054】
結晶子サイズ等の相は、ガス膨張ゾーンにおいて規定され、温度を長期間にわたって高く維持すると最も安定な相が得られる。温度に加えて、爆発中に達する高圧は、より高密度な結晶相の形成に好適である傾向があることに留意されたい。このプロセスにおける相図が3つの変量:圧力、温度及び組成を考慮していることを指摘すべきである。しかし、通常の化学プロセスが同時に存在する高い圧力と温度を正常に変化させないとすれば、圧力の影響を伴う相図は、今日、未だ知られていない。
【0055】
形成される唯一の固体生成物が酸化物それ自体であり、残りが気体であれば、その酸化物に関して得られる純度グレードは、主として、エマルジョン組成の中に存在する原料中の最初の不純物に依存する。
【0056】
要件の1つが酸化物の疎水性であるので、それが適用される手段(液体、懸濁液、マトリックス等)と混合可能である一連の用途がある。これらの場合、そのような特徴を得るために、通常、事前に被覆を施す必要がある。
【0057】
爆発中に、そのより大きな反応性のため、金属は、酸素に対する競争に勝って、第一の化合物として酸化物を形成する。そうであるため、エマルジョン中の酸素バランスを制御することにより、炭素カバーの形成を予測することができる。言い換えると、初期組成が、金属との化学量論的反応のための必要酸素を主として含む場合、その組成中に存在する炭素の全百分率は、酸素と化合する可能性を有さず、それ故、形成される酸化物のカバーとして存在することとなる。
【0058】
より高い又は最低の被覆グレードは、初期組成の総合酸素バランスの主な課題である。
【0059】
従って、爆発性エマルジョンは、上述したような水、硝酸塩及び外相に関する組成を含むことに加えて、合成される粉末に関する疎水性被覆の獲得を可能にするために0g/kgと400g/kgの間の負の酸素バランスをさらに含有すべきであり、これは、2〜30%の高炭化水素含量の外相を含めることによって確保される。
【0060】
本発明に記載する粉末合成方法は、費用効果が高いという理由で公知の方法より際立っており、爆発が(外部との熱交換が免れた)断熱反応であると、高いエネルギー効率の方法である。一方、従来の化学工業プロセスでは、形成される酸化物の機械的性質、光学的性質、磁性、熱的性質及び電気的性質に対して影響を及ぼす、高圧と高温とを同時に組み合わせることが難しい。
【0061】
爆発によって合成される粉末は、他の方法で同時に得ることが通常は極めて難しい性質の組合せという特別な特徴を有する。球状形態は、本質的には費用効果の理由で、少数の方法でしか入手できない粉末の特徴の1つであり、他の場合は、中空球体が得られ、これらは、殆どの用途にとって望ましくない。公知の方法では、通常は高温で行われる熱処理に粉末を付すことによって安定な結晶相が得られ、そのより大きな欠点は、結晶子サイズの増加である。
【0062】
W/Oエマルジョンの爆発によって得られる粉末は、それらをニア・ネット・シェイプ・プロセスのために、すなわち、射出成形、スリップ注型及び被覆において特に適するものにする一連の特性を示す。
【0063】
これらの酸化物は、同時に高い温度及び圧力で自然に合成され、従って、セラミックス産業に利用すれば、機械抵抗が極めて高い高密度で多孔質のセラミクス体の獲得が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0064】
一般に、油中水型エマルジョン(W/O)の爆発から酸化物セラミックスを得るための本プロセスは、2段階で行う:
1.W/Oエマルジョンの獲得−以下の段階に従ってエマルジョンを生成する:
1.1−酸化剤溶液の調製:所望の組成に従った、硝酸アンモニウム及び金属プリカーサの水への溶解。これらの金属プリカーサは、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等から選択することができる。水の量は、3〜50%、硝酸アンモニウム及び金属プリカーサの量は、2〜90%にすべきである。
1.2−燃料混合物の調製:5〜50%のそれぞれの界面活性剤での、50〜95%の炭化水素の均質化。
1.3−乳化:安定なエマルジョンが得られる70〜110℃の温度間隔での乳化剤中の酸化剤相(70〜98%の値)と燃料相(2〜30%)の均質化。
1.4−増感剤の添加:2つの必須要素、すなわち段階3において得たエマルジョンと安定した爆発を達成するために必要な増感剤とからなる均質混合物(増感エマルジョン)の形成。
1.5−所望の百分率での金属の添加。この添加及びそれぞれの均質化は、攪拌しながらタンクの中で行う。
【0065】
2−エマルジョンの充填−段階1〜5で形成されたエマルジョンを、その後、適切な充填装置に柱体幾何形状で充填する。
【0066】
3−W/Oエマルジョンの爆発−エマルジョンカートリッジを爆発チャンバ内に置き、そしてその後、形成された酸化物を回収するまでに電気雷管によって作動させる。
【0067】
4−酸化物粉末の回収−その後、それぞれの爆発チャンバに連結されている保管場所に粉末を回収する。
【0068】
回収した後、上述したプロセスに従って得た粉末を特性解析のために幾つかのタイプの分析に付す:
a)X線回折−X線回折によって、材料、その結晶相及び結晶子サイズを同定することができる。結晶子寸法の値は、シェラー(Scherrer)の式によって及びX線回折図における最も強いピークから半値幅法を用いて決定する。
b)粒径分布−粒径分布は、粉末、水及び1mLの分散剤(これは、分析しようとするその粉末と化学的に混合可能である)からなる懸濁液から出発して、粒度分析用測定装置において決定される。得られたグラフによって、それぞれの粉末の分布タイプ(一峰性、二峰性又は多峰性)を決定する。
c)−粉末形態の決定−小量の粉末を格子炭素支持体の上に置き、そしてまたそれを、使用する走査型電子顕微鏡−SEMの適切な支持体に接着し、最後にその粉末を炭素のカーボンナノメトリック層で覆う。連続的に、その粉末の形態、表面組織並びに凝集状態をSEMで観察する。この分析が主として定性的であることを述べておかなければならない。
【0069】
表3−実施例1及び2における条件に従って得られた粉末の特性
【表3】

【実施例1】
【0070】
以下の反応体/量を含む均一混合物を調製した:
・マトリックス(油:5%;NHNO:85%;HO:10%):139.5g;
・球形アルミニウム(150<粒子直径<500μm):60g;
・増感剤:0.5g;
・混合物爆発速度:4700m/秒。
【0071】
その爆発性混合物を円筒幾何形状のカートリッジに入れ、電気雷管によって作動させた。このアルミニウムと酸素の反応から得られたアルミナは、本質的にアルミナアルファであり、球状形態を示し、及び二峰性粒径分布を有する(表3)。
【0072】
その結晶子サイズは、約60ナノメートルである(この値は、シェラーの式によって、及びX線回折図において決定した高さから半値幅法を用いて計算した)。
【実施例2】
【0073】
酸化チタン粉末を得るために、以下の反応体/量を含む均一混合物を調製した:
・マトリックス(油:5%;NHNO:80%;HO:15%):159.5g;
・粒状チタン(100<粒子直径<800μm):40g;
・増感剤:0.5g;
・混合物爆発速度:4800m/秒。
【0074】
その爆発性混合物を筒形幾何形状のカートリッジに入れ、電気雷管によって作動させた。この爆発プロセスによって合成したチタニアは、主としてルチル形結晶相を示し、球状形態を示し、及び二峰性粒径分布を有する(表3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末ナノ結晶性球形酸化物セラミックスの合成方法であって、金属を含む油中水型エマルジョン(W/O)を、エマルジョン組成の制御によって酸化物の融点より高いC,J(Chapman,Jouguet)点での温度で爆発させることによって行うことを特徴とする酸化物セラミックスの合成方法。
【請求項2】
請求項1記載の酸化物セラミックスの合成方法であって、金属を含む油中水型エマルジョン(W/O)が、その組成物に溶解した金属塩をさらに含有することを特徴とする酸化物セラミックスの合成方法。
【請求項3】
請求項2記載の酸化物セラミックスの合成方法であって、エマルジョン中の金属及び溶解した金属塩が、次の要素:アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、硝酸亜鉛、硝酸ニッケル、硝酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、炭酸銅、塩化チタン、酢酸マンガンから選択される(しかし、これらに限定されない)ことを特徴とする酸化物セラミックスの合成方法。
【請求項4】
請求項1記載の酸化物セラミックの合成方法であって、爆発性エマルジョンが3〜50%の含水量を含むことを特徴とする酸化物セラミックの合成方法。
【請求項5】
請求項1記載の酸化物セラミックスの合成方法であって、爆発性エマルジョンが0〜400g/kgの負の酸素バランスを有することを特徴とする酸化物セラミックスの合成方法。
【請求項6】
請求項1記載の酸化物セラミックスの合成方法であって、エマルジョンが純度99.5%の硝酸塩溶液に基づき、その外相が前記組成の2〜30%であることを特徴とする酸化物セラミックスの合成方法。
【請求項7】
a)二峰性粒径分布;
b)純度99.5%;
c)脱凝集した粒子;
d)安定した結晶段階;
e)40μm未満の粒子寸法
を含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法で得られる粉末ナノ結晶性球形酸化物セラミックス。
【請求項8】
請求項7記載のナノ結晶性球形酸化物セラミックスの使用であって、
ニア・ネット・シェイプ・プロセス、好ましくは、射出成形、スリップ注型及び塗工に利用されることを特徴とするナノ結晶性球形酸化物セラミックスの使用。
【請求項9】
請求項8記載のナノ結晶性球形酸化物セラミックスの使用であって、セラミック体における利用又は補強剤マトリックスとしての利用を目的とすることを特徴とするナノ結晶性球形酸化物セラミックスの使用。

【公表番号】特表2010−540384(P2010−540384A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526411(P2010−526411)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【国際出願番号】PCT/IB2008/053932
【国際公開番号】WO2009/040770
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(510083119)セーウーエフィ−コンパニア ウニアン ファブリル エスィジェーペーエスィ,ソシエダッド アノニマ (1)
【氏名又は名称原語表記】CUF−COMPANHIA UNIAO FABRIL, SGPS, S.A.
【Fターム(参考)】