説明

ナフチルアルキルアミンによるα−(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体の分割

本発明は、R1がアルキルまたはハロアルキルであり、かつXがハライドである式(I)のエナンチオマー濃縮された(enantiomerically enriched)α-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物を、そのエナンチオマーの混合物から生成するための方法および化合物を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、α-(フェノキシ)フェニル酢酸をそのエナンチオマーの混合物から分離するためのエナンチオ選択的分割方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年9月23日出願の米国特許出願第60/720,114号について;および2006年9月20日出願のRESOLUTION OF ALPHA-(PHENOXY) PHENYLACETIC ACID DERIVATIVES WITH NAPHTHYL-ALKYLAMINESと題した米国特許出願(出願番号未定)(代理人整理番号016325-020610US)(その内容は参照により本明細書に組み入れられる)の恩典を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ハロフェナートなどのα-(フェノキシ)フェニル酢酸のエステルおよびアミド誘導体はキラル化合物であり、II型糖尿病および高脂血症のような血液脂質沈着に関連する疾患を含む様々な生理学的疾患の改善に役立つ(例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第10/656,567号(特許文献1)および米国特許第6,262,118号(特許文献2)を参照のこと)。α-(フェノキシ)フェニル酢酸には、単一のキラル中心がカルボニル炭素原子に対してαの位置の炭素原子に存在し、したがって2つのエナンチオマーの形が存在する。
【0004】
チトクロームP450 2C9は、特定の薬物代謝に重要な役割を果たすことが知られている酵素である。チトクロームP450酵素の阻害によって起こる薬物代謝の変化が患者に対して重大な悪影響を引き起こす高い可能性を有していることは、当業者に公知である。例えばハロフェン酸のようなラセミ体のα-(フェノキシ)フェニル酢酸がチトクロームP450 2C9を阻害することも、また公知である(例えば、米国特許出願第10/656,567号(特許文献1)および米国特許第6,262,118号(特許文献2)を参照のこと)。したがってハロフェン酸またはその誘導体などのラセミ体のα-(フェノキシ)フェニル酢酸の投与により、この酵素によって代謝される抗凝血剤、抗炎症剤およびその他の薬剤を含む他の薬物との様々な薬物相互作用問題が引き起こされる可能性がある。ハロフェン酸の(-)-エナンチオマーは、チトクロームP450 2C9を阻害する能力が(+)-エナンチオマーに比べて約20倍弱いことが発見された(同文献)。したがって、実質的に(+)-エナンチオマーを含まないハロフェン酸の(-)-エナンチオマーまたはその誘導体を投与することが、薬物相互作用の可能性を減少させるために望ましい。
【0005】
したがって、例えば(-)-ハロフェン酸のような、α-(フェノキシ)フェニル酢酸の所望のエナンチオマーを濃縮した生成物を生産するための効率的な方法が必要である。
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第10/656,567号
【特許文献2】米国特許第6,262,118号
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明の一つの局面は、式

(式中、
R1はアルキルまたはハロアルキルであり、かつ
Xはハライドである)
のα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物を、第1および第2エナンチオマーを含むα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の混合物からエナンチオマー濃縮された(enantiomerically enriched)形で生成するための方法を提供する。
【0008】
本発明の方法には以下の工程が含まれる:
(a) 式(I)の化合物の第1エナンチオマーおよび第2エナンチオマーの混合物を、該第1エナンチオマーの固体ナフチルアルキルアンモニウム塩が形成され、かつ混合物中の遊離第1エナンチオマー量対遊離第2エナンチオマー量の比が減少するのに十分な条件下で、エナンチオマー濃縮されたナフチルアルキルアミンと接触させる工程;ならびに
(b) 混合物から第1エナンチオマーのナフチルアルキルアンモニウム塩を分離する工程;
(c) ナフチルアルキルアンモニウム塩中の第1エナンチオマーからナフチルアルキルアミンを分離して、エナンチオマー濃縮された式(I)の化合物を生成する工程。
【0009】
一つの特定の態様では、本発明の方法には、(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸をエナンチオマー濃縮された形で生成する工程が含まれる。本態様では、方法には以下の工程が含まれる:
(a) 4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸の第1および第2エナンチオマーの混合物を、(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンと接触させて、アンモニウム塩を形成させる工程;および
(b) (+)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸が濃縮された溶液からアンモニウム塩を分離する工程;
(c) アンモニウム塩中の(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸から(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンを分離して、エナンチオマー濃縮された(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸を生成する工程。
【0010】
別の態様では、式(IV)、(V)、および(VI)

(式中、
R2はアルキルであり;かつ
R3およびR4はそれぞれ独立して水素もしくはアルキルであるか、またはR3もしくはR4の一つはアミン保護基である)
の化合物が提供される。
【0011】
本発明の一つの局面は、式(VII)

の化合物をエナンチオ選択的に生成するための方法を提供する。
【0012】
本発明の方法には以下の工程が含まれる:
(a) 式(I)

(式中、
R1はアルキルまたはハロアルキルであり、かつ
Xはハライドである)
の化合物の第1エナンチオマーおよび第2エナンチオマーの混合物を、該第1エナンチオマーの固体ナフチルアルキルアンモニウム塩が形成され、かつ混合物中の遊離第1エナンチオマー量対遊離第2エナンチオマー量の比が減少するのに十分な条件下で、エナンチオマー濃縮されたナフチルアルキルアミンと接触させる工程;および
(b) 混合物から第1エナンチオマーのナフチルアルキルアンモニウム塩を分離する工程;
(c) ナフチルアルキルアンモニウム塩中の第1エナンチオマーからナフチルアルキルアミンを分離して、エナンチオマー濃縮された式(I)の化合物を生成する工程;
(d) 式(I)のエナンチオマー濃縮された化合物をカルボン酸活性化試薬と接触させる工程;ならびに
(e) 工程(d)の生成物を、式
(R5O)WM
(式中、
R5はヘテロアルキルであり;
Mは水素または金属であり;かつ
下付き文字wはMの酸化状態である)
の化合物と接触させて、式(VII)の化合物を生成する工程。
【0013】
一つの特定の態様では、本発明の方法は、式(VIII)

の化合物をエナンチオ選択的に生成する工程を含み、本方法には以下の工程が含まれる:
(a) 4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸の第1および第2エナンチオマーの混合物を(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンと接触させて、アンモニウム塩を形成させる工程;および
(b) (+)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸が濃縮された溶液からアンモニウム塩を分離する工程;
(c) アンモニウム塩中の(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸から(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンを分離して、エナンチオマー濃縮された(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸を生成する工程;
(d) エナンチオマー濃縮された(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸を、チオニルハライド、無水物およびチオエステル生成試薬からなる群より選択されるカルボン酸活性化試薬と接触させる工程;ならびに
(e) 工程(d)の生成物をHOCH2CH2NHAcと接触させて、式(VIII)の化合物を生成する工程。
【0014】
詳細な説明
I. 定義
「アルキル」とは、1〜10個の炭素原子の、好ましくは1〜6個の炭素原子の、より好ましくは1〜4個の炭素原子の直鎖状または分岐した脂肪族炭化水素鎖基を指す。例示的なアルキル基にはメチル、エチル、n-プロピル、2-プロピル、tert-ブチル、ペンチルなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0015】
「ナフチル」とは、一価の10個の炭素環原子の二環から成る芳香族炭化水素部分を指す。特に別の記述または表示をしない限り、ナフチル基を1つまたは複数の置換基、好ましくは1個、2個または3個の置換基、より好ましくは、アルキル、ハロアルキル、ニトロおよびハロから選択される1個または2個の置換基で置換することができる。より具体的には、ナフチルという用語は、1-ナフチル、および2-ナフチルなどを含むが、それらに限定されるわけではなく、その各々は上に述べた1つまたは複数の置換基で置換されてもよい。
【0016】
「キラル」または「キラル中心」とは、4つの異なる置換基を有する炭素原子を指す。しかしながら、キラリティの最終判断基準は鏡像が重ね合わせられないことである。
【0017】
「CPTA」および「ハロフェン酸」という用語は、本明細書において交換して用いることができ、(4-クロロフェニル)(3-トリフルオロメチルフェノキシ)酢酸を指す。
【0018】
「エナンチオマー混合物」とは、ラセミ混合物を含むエナンチオマーの混合物を有するキラル化合物を意味する。好ましくは、エナンチオマー混合物とは、実質的に等しい量の各エナンチオマーを有するキラル化合物を指す。より好ましくは、エナンチオマー混合物は各エナンチオマーが当量存在するラセミ混合物を指す。
【0019】
「エナンチオマー濃縮された」とは、1つのエナンチオマーがそれを分離工程に付す前よりも多量に存在する組成物を指す。
【0020】
「エナンチオマー過剰率」または「%ee」とは、第1エナンチオマーと第2エナンチオマーの間の差異の量を指す。エナンチオマー過剰率は、式:%ee = (第1エナンチオマーの%)-(第2エナンチオマーの%)と定義される。したがって、組成物が98%の第1エナンチオマーおよび2%の第2エナンチオマーを含む場合、第1エナンチオマーのエナンチオマー過剰率は98%-2%すなわち96%である。
【0021】
用語「ハライド」および「ハロ」は本明細書中で交換して用いることができ、F、Cl、BrおよびI、ならびに-CNおよび-SCNなどの偽ハロゲン化物を含むハロゲンを指す。
【0022】
「ハロアルキル」とは、1つまたは複数の水素原子がトリフルオロメチルなどのペルハロアルキルを含むハロゲンで置換されている、本明細書で定義のアルキル基を指す。
【0023】
「ハロフェナート」とは、2-アセトアミドエチル4-クロロフェニル-(3-トリフルオロメチル-フェノキシ)アセタート(すなわち、4-クロロ-α-(3-(トリフルオロメチル)フェノキシ)ベンゼン酢酸、2-(アセチルアミノ)エチルエステル、または(4-クロロフェニル)(3-トリフルオロメチルフェノキシ)酢酸、2-(アセチルアミノ)エチルエステル)を指す。
【0024】
「ヘテロアルキル」とは、1または複数のヘテロ原子、または1または複数のヘテロ原子を含む置換基を含む、分岐したまたは分岐のない非環状の飽和アルキル部分を意味し、ここでヘテロ原子とはO、NまたはSである。典型的なヘテロ原子を含む置換基には、=O、-ORa、-C(=O)Ra、-NRaRb、-N(Ra)C(=O)Rb、-C(=O)NRaRb および-S(O)nRa(ここでnは0〜2までの整数である)が含まれる。各RaおよびRbは独立に水素、アルキル、ハロアルキル、アリールまたはアラルキルである。ヘテロアルキルの代表的な例には、例えば、N-アセチル2-アミノエチル(すなわち、-CH2CH2NHC(=O)CH3)が挙げられる。
【0025】
「脱離基」は、従来合成有機化学においてそれに関連する意味、すなわち、求核基によって置き換えられることのできる原子または基の意味を有し、ハロ(クロロ、ブロモおよびヨードなど)、アルカンスルホニルオキシ、アレーンスルホニルオキシ、アルキルカルボニルオキシ(例えば、アセトキシ)、アリールカルボニルオキシ、メシルオキシ、トシルオキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシ、アリールオキシ(例えば、2,4-ジニトロフェノキシ)、メトキシ、N,O-ジメチルヒドロキシルアミノなどを含む。
【0026】
用語「金属」には、第I、II族金属、および遷移金属、ならびにBおよびSiなどの主族金属が、含まれる。
【0027】
「光学純度」とは、組成物中に存在する特定のエナンチオマーの量を指す。例えば、ある組成物が98%の第1エナンチオマーおよび2%の第2エナンチオマーを含む場合、第1エナンチオマーの光学純度は98%である。
【0028】
もし別の記述がなければ、用語「フェニル」とは、置換されていてもよいフェニル基を指す。適切なフェニル置換基は「アリール」の定義に記述されたものと同一である。同様に、用語「フェノキシ」とは、式-OAraの部分を指し、Araは本明細書で定義されるフェニル基である。したがって、用語「α-(フェノキシ)フェニル酢酸」とは、置換されていてもよいフェニルおよび置換されていてもよいフェノキシ部分(残基)によって2位が置換された酢酸を指す。
【0029】
「保護基」とは、分子中の反応性基に結合された時その反応性を遮蔽、減少、または阻止する部分を指す。保護基の例は、T. W. Greene and P. G. M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd edition, John Wiley & Sons, New York, 1999, および、 Harrison and Harrison et al., Compendium of Synthetic Organic Methods, Vols.1-8 (John Wiley and Sons, 1971-1996)に見出され、それらの全体が参照により本明細書組み入れられる。代表的なヒドロキシ保護基には、アシル基、ベンジルおよびトリチルエーテル、テトラヒドロピラニルエーテル、トリアルキルシリルエーテルおよびアリルエーテルが含まれる。代表的なアミノ保護基には、ホルミル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンジル、ベンジルオキシカルボニル(CBZ)、tert-ブトキシカルボニル(Boc)、トリメチルシリル(TMS)、2-トリメチルシリル-エタンスルホニル(SES)、トリチルおよび置換されたトリチル基、アリルオキシカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)、ニトロ-ベラトリルオキシカルボニル(NVOC)などが含まれる。
【0030】
用語「速度」とは、塩の生成に言及している場合は、速度論的および/または熱力学的速度を指す。
【0031】
本明細書において用いられる用語「処理する」、「接触させる」、または「反応させる」とは、指示されたおよび/または所望の生成物を産生するために適切な条件下で、2つ以上の反応物を加えることまたは混合することを指す。指示されたおよび/または所望の生成物を産生する反応は、必ずしも最初に加えられた2つの反応物の組み合わせから直接得られなくてもよく、すなわち、混合物中で1または複数の中間生成物が生成され、それが最終的には指示されたおよび/または所望の生成物の生成をもたらしてもよいことを認識するべきである。
【0032】
本明細書において用いられる用語「上に定義されたもの」および「本明細書において定義されたもの」には、変数に言及する場合には、もしあれば変数の好ましい、より好ましい、および最も好ましい定義は勿論、変数の広い定義を参照により組み入れる。
【0033】
多くの有機化合物は光学活性型で存在する、すなわちそれらは平面偏光の面を回転させる能力を有している。光学活性化合物について記述する際には、接頭辞RおよびSを用いて分子のキラル中心に関する分子の絶対立体配置を表示する。接頭辞「d」および「l」あるいは(+)および(-)を、化合物による平面偏光の回転の符号を指定するために採用し、(-)または(l)は化合物が「左旋性」であることを意味し、また(+)または(d)は化合物が「右旋性」であることを意味する。エナンチオマーの絶対立体化学の命名法と回転の命名法との間には相関が無い。与えられた化学構造に対して、「立体異性体」と呼ばれるこれらの化合物は、それらが互いの鏡像である以外は同一である。特定の立体異性体は「エナンチオマー」と呼ぶこともできる。またそのような異性体の混合物をしばしば、「エナンチオマー」混合物または「ラセミ」混合物と呼ぶ。例えば、Streitwiesser, A. & Heathcock, C.H., INTRODUCTION TO ORGANIC CHEMISTRY, 2nd Edition, Chapter 7 (MacMillan Publishing Co., U.S.A. 1981) を参照のこと。
【0034】
用語「その(+)-立体異性体を実質的に含まない」と「その(+)-エナンチオマーを実質的に含まない」とは、本明細書において交換して用いることができ、組成物が(+)-異性体と比較して実質的に(-)-異性体をより大きな割合で含んでいることを意味する。好ましい実施態様において、用語「その(+)立体異性体を実質的に含まない」とは、組成物が重量で少なくとも90%の(-)-異性体および重量で10%以下の(+)-異性体であることを意味する。より好ましい実施態様において、用語「その(+)-立体異性体を実質的に含まない」とは、組成物が重量で少なくとも99%の(-)-異性体を含み、重量で1%以下の(+)-異性体を含むことを意味する。最も好ましい実施態様においては、用語「その(+)-立体異性体を実質的に含まない」とは、組成物が重量で99%を越える(-)-異性体を含むことを意味する。これらの百分率は、組成物中の異性体の総量に基づく。
【0035】
用語「核生成温度」とは、溶解度が、例えば a) 冷却、b) 溶液の濃縮、または c) 逆溶媒の添加、によって低下させられる場合に、核が最初に溶液から形成される温度である。
【0036】
用語「飽和点」とは、所与の温度で、最大量の物質が溶液によって溶解される点である。それは平衡状態である。
【0037】
用語「過飽和点」とは、所与の温度で、溶液中の物質の量がその溶解度を超える点である。それは平衡状態ではない。
【0038】
用語「飽和温度」とは、純物質の二つまたはそれ以上の相が平衡で一緒に存在することが可能な状態である。第2の相が実際に存在する必要はない。別の相が平衡で存在できる温度である限り、相は飽和していると考えられる。
【0039】
II. 序論
キラル合成は近年大きな進歩をしているが、ラセミ体の分割が、光学活性化合物すなわちキラル化合物の調製のための工業的方法において、いまだに一般的に好まれる方法である。通常は、キラル化合物をラセミ体の形で合成し、最終生産物を分割してエナンチオマー濃縮された化合物を産生する。
【0040】
最終生産物を分割するこの方法が、薬学的活性のあるキラル化合物の大規模調製に特に役立つ。キラル化合物のエナンチオマーは正確に同じ化学結合を持つが、エナンチオマー中の原子の空間的配向が異なる。したがって、キラル薬剤の1つのエナンチオマーがもう一方のエナンチオマーより望ましい活性を発揮し、副作用は著しく少ないことがしばしば起こる。光学活性薬剤のキラリティーとその副作用のそのような関係は以前から知られているが、いまだに多くのキラル薬剤はラセミ体の形で投与されている。
【0041】
ジアステレオマーの結晶化が工業的な規模において広く用いられる。ジアステレオマーの結晶化による分割の理論的な1回全工程を通しての収率は50パーセントである。しかし通常は、十分な光学純度を有する組成物を産生するためには2回以上の再結晶工程が必要である。
【0042】
本発明は、例えばハロフェン酸のようなα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物のエナンチオマー混合物、好ましくはラセミ混合物をエナンチオマー濃縮する方法を提供する。好ましくは、本発明の方法は、α-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の(-)-エナンチオマーの固体の酸塩基塩を提供する。このようにして、(-)-エナンチオマーを溶液から容易に分離することができる。
【0043】
エナンチオマー濃縮したα-(フェノキシ)フェニル酢酸のカルボン酸基を、次にカルボン酸活性化基によって活性化し、活性化されたα-(フェノキシ)フェニル酢酸を生成することができ、これを、アルコール、アミン、チオール、また他の求核性の化合物と反応させて、それぞれエナンチオマー濃縮したα-(フェノキシ)フェニル酢酸エステル、アミド、チオエステルまたは他の誘導体を産生することができる。したがって、本発明の方法を用いて生成されたエナンチオマー濃縮したα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物は、米国特許出願第10/656,567号および米国特許第6,262,118号に開示されたようなα-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体を産生するために有用である。特に、本発明の方法は、(-)-ハロフェナートを産生するために役立つ。
【0044】
III. エナンチオ選択的結晶化
上述したように、大部分のエナンチオ選択的結晶化方法においては、十分な光学純度を有する組成物を生成するためには、2回以上の再結晶化工程が必要である。しかしながら、本発明者らは、本明細書において開示する一定の条件下において、単一の結晶化工程により十分な光学純度のα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物を生成することができることを見出した。したがってある局面において、本発明の方法は、α-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の混合物をキラルナフチルアルキルアミンを用いてエナンチオマー濃縮することができるという、本発明者らによる驚くべきかつ予期しない発見に基づいている。特に本発明の方法は、光学純度が少なくとも約95%、好ましくは少なくとも約96%、より好ましくは少なくとも約97%、そして最も好ましくは少なくとも約97.5%の、α-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の所望のエナンチオマーを提供する。
【0045】
ある実施態様において、本発明の方法は、式(I)

(式中、R1はアルキルまたはハロアルキルであり、Xはハライドである)
のα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の混合物、好ましくはラセミ混合物のエナンチオマー濃縮を提供する。工程は、キラルナフチルアルキルアミンを用いて、α-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の固体のエナンチオマー濃縮された酸塩基塩を形成する工程を含む。
【0046】
特に本発明の方法は、式

(式中、R1はアルキルまたはハロアルキルであり、Xはハライドである)
のα-(フェノキシ)フェニル酢酸、例えばハロフェン酸(この場合R1はCF3であり、かつXはClである)の分割を目標とする。
【0047】
ある特定の実施態様では、本発明の方法は、Xがクロロである式Iまたは好ましくは式IXのα-(フェノキシ)フェニル酢酸の分割を目標とする。
【0048】
さらに別の実施態様では、本発明の方法は、R1がハロアルキル、好ましくはトリフルオロメチルである、式Iまたは好ましくは式IXのα-(フェノキシ)フェニル酢酸の分割を目標とする。
【0049】
一つの特定の態様では、本発明の方法は、4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸の分割を目標とする。さらに別の態様では、本発明の方法は、4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸の(-)-エナンチオマーの分割を目標とする。
【0050】
一つの特定の態様では、α-(フェノキシ)フェニル酢酸を、キラルのナフチルアルキルアミンを用いて結晶化する。種々様々のキラルナフチルアルキルアミンを、下に実施例の部で開示するものを含めて、用いることができる。好ましくは、用いられるキラルナフチルアルキルアミンは、α-(フェノキシ)フェニル酢酸の(-)-エナンチオマーの固体の酸塩基塩をもたらす。このような方法により、(-)-エナンチオマーが、例えば濾過により容易に溶液から分離される。ある特定の態様では、キラルナフチルアルキルアミンは、式

(式中、
R2はアルキルであり;
R3およびR4はそれぞれ独立して水素もしくはアルキルであるか、またはR3もしくはR4の一つはアミン保護基である)
を有する。
【0051】
一つの特定の態様では、R2は、メチルである。
【0052】
別の態様では、R3およびR4は、水素である。
【0053】
さらに別の態様では、ナフチルアルキルアミンは、式

を有する。
【0054】
一つの態様では、キラルナフチルアルキルアミンは、1-(2-ナフチル)エチルアミンであり、また別の態様では、キラルナフチルアルキルアミンは、(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンである。
【0055】
さらにまた、上述の好ましい基の組合せは、他の好ましい態様を形成することであろう。例えば、一つの特に好ましいキラル塩基は、上記の式IV(式中、R2はメチルであり、かつR3およびR4は水素である)のナフチルアルキルアミンであり;および特に好ましいα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物は上記の式II(式中、R1はトリフルオロメチルであり、Xはクロロである)の化合物である。このように種々様々の好ましいキラル塩基およびα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物が、本発明中に包含される。
【0056】
本発明者らは、キラルナフチルアルキルアミンのα-(フェノキシ)フェニル酢酸の結晶化における使用が、式(I)のα-(フェノキシ)フェニル酢酸のエナンチオマー濃縮の光学純度、単離の容易さおよび収量、ならびに安定性に大きな効果を有することを見出した。例えば、式

(式中、R2、R3、およびR4は本明細書に定義されたものである)
のキラルナフチルアルキルアミンが、式(I)のα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の結晶化で用いられるときには、他のキラル塩基より、特別により高いpH(例えば約12またはそれ以上)で、より高い回収総収率が、より安定的な高い%eeで得られる。キラルナフチルアルキルアミンを、典型的には非キラル塩基と共に、合計で約1当量の塩基を用いるようにして用いる。キラルナフチルアルキルアミンを、典型的には0.5モル当量より少ない量で、好ましくは約0.48モル当量またはそれより少なく、より好ましくは約0.47モル当量またはそれより少なく、あるいは最も好ましくは約0.45モル当量またはそれより少なく用いる。キラルナフチルアルキルアミン自体は、高度にエナンチオマー濃縮されたα-(フェノキシ)フェニル酢酸誘導体を生成するためには、十分なエナンチオマー純度でなければならないことを認識するべきである。キラル塩基と共に用いられる塩基の例には、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物;リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、水酸化ナトリウム等のアルコキシドなど;水素化リチウム、水素化カリウム、水素化ナトリウム等の水素化物などが非限定的に含まれる。
【0057】
結晶化を、典型的には、α-(フェノキシ)フェニル酢酸の二つのエナンチオマーとキラルナフチルアルキルアミンとの間で形成される塩に、異なる溶解度を与える溶媒中で実施する。このようにして、ジアステレオマー塩の一つが、溶液から優先的に沈殿する。適切な結晶化溶媒には、水(H2O)およびアルコールなどのプロトン性溶媒、ならびにエーテルなどの非プロトン性溶媒が含まれる。アルコール溶媒の例には、エタノール等が非限定的に含まれる。エーテル溶媒の例には、t-ブチルメチルエーテル(MTBE)が非限定的に含まれる。一つの特定の態様では、α-(フェノキシ)フェニル酢酸は、アルコール溶媒とエーテル溶媒などの溶媒の組合せを用いて結晶化される。特に好ましい結晶化溶媒の組合せは、水とMTBEである。
【0058】
エナンチオマー濃縮されたα-(フェノキシ)フェニル酢酸の収率はまた、とりわけ用いる結晶化溶媒の量に依存する。例えば、大量の結晶化溶媒を用いる場合、混合物が稀薄になりすぎ、固体の形成が減少する。用いる結晶化溶媒の量が少なすぎる場合は、溶液が望まれないジアステレオマー塩で過飽和することになり、望ましくないジアステレオマー塩の結晶化をもたらす可能性があり、そのために所望のエナンチオマーの光学純度が減少する。したがって、結晶化溶媒としてMTBE/H2Oを用いる場合、用いる結晶化溶媒の量は、1グラムのα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物当り、好ましくは約2グラム〜約6グラム、より好ましくは約3グラム〜約5グラム、さらにより好ましくは約3.5グラム〜約4.5グラム、そして最も好ましくは約4グラムである。
【0059】
ある実施態様では、結晶化工程は、両方のエナンチオマーの核形成温度より高い温度へ結晶化溶液混合物を加熱して、両方のエナンチオマーを実質的にすべて溶解する工程を含む。例えば、結晶化溶液を約60℃から溶液の沸点までの範囲の温度に、好ましくは約70℃から約80℃までの範囲の温度に加熱する。より好ましくは、結晶化溶液を約75℃に加熱する。溶液は、キラルナフチルアルキルアミンを加える前および/または後に加熱してもよい。加熱は固形物が実質的に完全に溶解するまで行い、それは通常約0.5〜約16時間、好ましくは約1〜約8時間の間である。
【0060】
その後結晶化溶液を、第1ジアステレオマー塩の、例えば、α-(フェノキシ)フェニル酢酸の(-)-エナンチオマー塩の核形成温度近くまたはそれ未満になるまで、しかし好ましくは第2ジアステレオマー塩の、例えばα-(フェノキシ)フェニル酢酸の(+)-エナンチオマー塩の核形成温度より高い温度まで冷却する。これによって、第1エナンチオマーとキラルナフチルアルキルアミンの固体酸塩基塩の形成が可能になる。どのような理論にも拘束されずに、キラルナフチルアルキルアミンを使用することにより、一方のエナンチオマーの酸塩基塩の形成が、他方のエナンチオマーの酸塩基塩の形成より著しく速い速度で起こることになると信じられている。この速度は、2つのエナンチオマー間の速度論的および/または熱力学的速度差による可能性がある。典型的な化合物の場合と同じく、本発明のα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物の溶解度プロフィールは、高い温度でより高い溶解度を有している。したがって、第2ジアステレオマー塩の核形成温度のちょうど上まで結晶化溶液を冷却することにより、固体の第1ジアステレオマー塩の回収率がより高くなる。
【0061】
スラリーが形成された後、さらに結晶化溶液を溶液の温度が第2ジアステレオマー塩の飽和点の近くまたは上になるまで、冷やすことができる。これが、第1エナンチオマーのジアステレオマーの固体酸塩基塩の形成を増加させると共に、第2エナンチオマーからのジアステレオマー固体酸塩基塩の形成を防ぐ。
【0062】
結晶化溶液の冷却速度が、形成される固体酸塩基塩の光学純度に影響する可能性がある。例えば、結晶化溶液を速く冷却しすぎる場合には、望ましいエナンチオマーの固体酸塩基塩の格子内に望ましくないエナンチオマーがトラップされる可能性がある。しかしながら、遅すぎる冷却速度は生産時間とコストを増加させる。したがって、光学純度の損失を最小限にするが、しかし経済的に十分な速度で結晶化溶液を冷却するべきである。通常、結晶化溶液冷却速度は約0.05℃/分〜約1℃/分、好ましくは約0.1℃/分〜約0.7℃/分、およびより好ましくは約0.25℃/分〜約0.4℃である。その後結晶化溶液は、第2のすなわち望ましくないエナンチオマーの固体酸塩基塩の飽和点より高く維持される。通常、結晶化溶液をこの温度で、約1〜約72時間、好ましくは約1〜約48時間、より好ましくは約1〜約30時間維持する。
【0063】
予想通りに、少量のキラルナフチルアルキルアミンを用いることにより、第1エナンチオマーの固体酸塩基塩の選択的な形成が可能になる。しかしその結果、収率が相応して小さくなる。理論上、ラセミ混合物からの所望のエナンチオマーの収率は、50%である。したがって、0.5モル当量のキラルナフチルアルキルアミンを用いる場合、理論的収率は全α-(フェノキシ)フェニル酢酸の50%(あるいは所望のエナンチオマーの100%)である。経済的に望ましいためには、本発明の方法は所望のエナンチオマーの少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、そして最も好ましくは少なくとも約75%の収率を提供する。100%の選択性を仮定すると、これらの収率は約0.25、0.30、0.35および0.375モル当量のキラルナフチルアルキルアミンを加えることに相当し、それらは結晶化溶液に加える必要のあるキラルナフチルアルキルアミンの最少量を表す。
【0064】
第2エナンチオマーがキラルナフチルアルキルアミンと固体酸塩基塩を形成する傾向が、従来の結晶化工程の変動の主な原因の1つであると信じられている。したがって第2のすなわち望ましくないエナンチオマーの過飽和点を測定することにより、第2エナンチオマーの固体酸塩基形成の予測不可能性を最小限にするか防止することができる。当業者は、例えば溶解度実験により過飽和点を容易に決定することができる。
【0065】
本発明の方法をラセミ混合物中に存在する(-)-エナンチオマーの濃縮に関して議論しているが、本発明の方法はまた(+)-エナンチオマーの濃縮にも適用可能であることに注意するべきである。本発明の方法は、基本的に(-)-エナンチオマーが濃縮された固体の沈殿、および(+)-エナンチオマーが濃縮されたろ過液すなわち母液を提供する。沈殿した塩からの所望の(-)-エナンチオマーの遊離およびキラルナフチルアルキルアミンの回収を、例えば従来からこの性質の塩を加水分解することが知られている薄い鉱酸もしくは他の任意の無機酸または有機酸により塩を酸性化することにより、容易に遂行することができる。この手法は望まない副産物としてろ過液を残しているので、ろ過液をさらに酸または好ましくは塩基で処理して、(+)-エナンチオマーが濃縮されたろ過液をラセミ混合物に変換することができる。例えば、(+)-エナンチオマーを、水酸化ナトリウム水溶液を用いてラセミ体化することができる。次にこのラセミ混合物を再使用、すなわちリサイクルすることができる。さらに、キラルナフチルアルキルアミンもまた上記の変換工程から回収してリサイクルすることができる。したがって本発明の方法は容易にリサイクル型の方法となる。
【0066】
IV. ラセミ体α-(フェノキシ)フェニル酢酸の合成
式Iのα-(フェノキシ)フェニル酢酸のラセミ混合物を生成する1つの方法を以下のスキームIに示す。

【0067】
このようにして、フェニル酢酸1の、例えば酸塩化物などの活性化カルボン酸誘導体への変換と、それに続くα-臭素化により、α-ブロモフェニルアセチルクロリド(示さず)を得た。次に酸塩化物をエステル2に変換し、式中Rは、通常はアルキルである。酸塩化物をエステル2に変換するために用いられるアルコールROHは、次の反応で溶媒として用いられるアルコールと同じアルコールであることが好ましい。このようにして、異なる溶媒型の数を最小限にする。さらに、次の反応で同じROHを溶媒として用いることにより、例えばトランスエステル化などによるの副産物の形成量が最小限になる。例えばイソプロピルエステル2は、すなわちRがイソプロピルである場合は、次の反応がイソプロパノール溶媒中で都合よく行なわれるため、特に有利である。水酸化物(例えば水酸化カリウム)などの塩基の存在下におけるエステル2のフェノール化合物3による置換反応によって、α-(フェノキシ)フェニル酢酸エステル4を得た。α-(フェノキシ)フェニル酢酸エステル4の加水分解が、α-(フェノキシ)フェニル酢酸Iを生じた。
【0068】
このようにして、ヘプタンからの結晶化に続いて、(4-クロロフェニル)-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)-酢酸、すなわちCPTAを、中間に単離のない5つの工程で、収率約85%で調製することができる。
【0069】
V. エナンチオマー濃縮されたα-(フェノキシ)フェニル酢酸の有用性
エナンチオマー濃縮されたα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物は、米国特許出願第10/656,567号および米国特許第6,262,118号に開示されたα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物を含む様々な薬学的に活性な化合物を調製する際に有用な中間物である。したがって、本発明の別の局面は、式(VII)

(式中、R1はアルキルまたはハロアルキルであり、Xはハライドであり、かつR5はヘテロアルキルである)
のα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物を、式Iのα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物のラセミ混合物からエナンチオ選択的に生成する方法を提供する。好ましくは、化合物は、式(VIII)

を有し、より好ましくは、化合物は、(-)-ハロフェナートである。方法には、上記の態様中に記載した、式Iのα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物のラセミ混合物を分割する工程、およびエナンチオマー濃縮された式(I)の化合物をカルボン酸活性化試薬と接触させる工程が含まれる。適当なカルボン酸活性化試薬には、チオニルハライド(例えばチオニルクロリド)、無水物、チオエステル生成試薬、および当業者に公知の他のカルボン酸活性化試薬が含まれる。
【0070】
次に活性化されたα-(フェノキシ)フェニル酢酸を、式(R5-O)WMの化合物(式中、R5は上に定義された通りであり、Mは水素または金属、例えばNa、K、Li、Ca、Mg、Cs等であり、下付き文字wはMの酸化状態である)と反応させて、エナンチオマー濃縮された式Iのα-(フェノキシ)フェニル酢酸化合物を生成する。好ましくは、式(R5-O)WMの化合物は、N-アセチル2-アミノエチル(即ち、式-CH2CH2NHC(=O)CH3または-CH2CH2NHAcの部分)などのN-アセチルエタノールアミン誘導体である。本発明者らは、活性化された酸と式(R5-O)WMの化合物との間の反応を、いかなる有意なラセミ化もなしに行なうことができることを発見した。
【0071】
本発明の追加の目的、長所、および新規な特徴が、以下の本発明の実施例の検討によって、当業者に明白になるであろう。それらの実施例は制限を意図するものではない。
【0072】
実施例
試薬および実験装置
特に指定のない限り、試薬および溶媒は、Aldrich ChemicalまたはFisher Scientificから購入した。またN-アセチルエタノールアミンをLancaster Synthesisから得た。ラセミ体のCPTA、即ちハロフェン酸を、米国特許出願第10/656,567号および米国特許第6,262,118号に開示された製法により調製した。(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンをLancasterから得た。
【0073】
操作は陽圧窒素雰囲気下で行った。再循環加熱および冷却システムに付属したCamileプロセス制御コンピュータを用いて、覆った直壁底部排水管ガラス反応器のジャケット温度を調節した。特に指定のない限り、溶媒をBuchi回転蒸発装置を用い、15〜25 Torr、浴槽温度40℃以下で除去した。固体試料を真空オーブン中40℃、15〜25 Torrで乾燥させた。Cenco HYVAC真空ポンプを、真空蒸留用に1 Torr未満の真空を供給するために用いた。水位を、カールフィッシャー解析によりMetrohm 756KF電量計およびHYDRANAL Coulomat AG試薬を用いて測定した。融点を、Mettler Toledo FP62融点測定装置を用いて測定した。pHを、較正されたOrion Model 290A pHメーターを用いて測定した。プロトンおよび13CのNMRスペクトルを、Bruker Avance 300MHzスペクトロメーターで記録した。
【0074】
キラルHPLC解析を、λ=240nmで、移動相に溶解した10μLの試料を(R,R)WHELK-O 1.5μm 250×4.6 mm カラム(Regis Technologies)に注入し、95/5/0.4(v/v/v)のヘキサン/2-プロパノール/酢酸の1.0mL/分の流速で溶出して実施した。CPTA/(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンジアステレオマー塩の固体試料については、固体を塩酸水溶液に加えて、CPTAをメチレンクロリド中へ抽出し;メチレンクロリド層から溶媒を除去した後に、残留物を解析のために移動相に溶解した。
【0075】
アキラルHPLC解析を、λ=220nmで、移動相に溶解した5μLの試料をPhenomenex LUNA 5μm C18(2) 250×4.6mmカラムに注入して、25℃で実施した。1.5mL/分の流量で、水66vol%/アセトニトリル34vol%/トリフルオロ酢酸0.1vol%でスタートし、直線的に増加させて20分で水26vol%/アセトニトリル74vol%/トリフルオロ酢酸0.1vol%とする勾配を用いた。
【0076】
ハロフェナートなどのエステルの酸性溶液の解析には、アセトニトリルを注入用溶媒として用いた。測定に際しては、CPTAおよびハロフェナートの生成物濃度を、HPLC分析により、外部標準法およびアキラル解析手法を用いて2.5mg/mL未満の試料濃度で評価した。
【0077】
実施例1
本実施例は、キラルナフチルアルキルアミン塩基と共に、様々なキラルフェニルアルキルアミン塩基を用いる、エタノール中のキラル分割スクリーニングの代表的結果を示す。
【0078】
以前のCPTAの分割は、米国特許出願第10/656,567号および米国特許第6,262,118号に報告されており、そこではキラルアルキルアミン塩基が用いられた。CPTAの調製も、そこに報告されている。
【0079】
本実施例は、固体のエナンチオマー濃縮された(-)-異性体を得るために、キラルナフチルアミン塩基と共に、種々様々なキラルフェニルアルキルアミン塩基を用い、CPTAのラセミ混合物を分割した結果を比較する。本発明の方法は、固体のエナンチオマー濃縮された(-)-CPTAが、容易に、より高いエナンチオマー純度で溶液から単離されることを可能にする。
【0080】
ラセミ体CPTAを、ラセミ体ハロフェナートの水酸化カリウム加水分解によって、調製した。キラル塩基スクリーニングについては、キラル塩基と水酸化ナトリウムとの等モル混合物を、ガラスバイアル瓶中の水中の2当量のCPTAと混合して、溶液を100℃に加熱し、すべての固体が溶解するまでEtOHを加え、静置した。周囲温度に冷却した後に、濾過により結晶塩の沈殿を単離し、固相および母液の両方をキラルHPLCによって解析し、両流のエナンチオマー組成を決定した。スクリーニングの結果を表1に示す。
【0081】
(表1)CPTA分割のための水/EtOH中のキラル塩基スクリーニングの結果

【0082】
実施例2
本実施例は、(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンによりラセミ体CPTAを分割した結果を示す。
【0083】
一般的な結晶化の手続きとしては、150mLのジャケット付き底部排水フラスコに、室温で、80mLの水およびMTBE(1:1)中のCPTA 20g(60mmol)およびKOH 2.10gを仕込んだ。この溶液に、(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミン4.66g(27.3mmol)を、遊離塩基として加えた。混合物は、塩基が溶解するにつれて透明になり、それを加熱還流し、次に室温に冷却して、スラリーを得た。核生成を誘起するための種入れは必要でなかった。固体を濾過により回収し、水60mLおよびMTBE 50mLで洗浄して、真空下で乾燥させ、CPTA塩13.3g(物質収支で収率44%、理論収率88%)を得た(計算された収率は、(-)-CPTAおよび(+)-CPTAの結晶および母液組成を知ることにより、加えたラセミ体CPTAからの強制的物質収支により導出される)。キラルHPLC解析により、2.0および98.0面積%の(+)および(-)-CPTAが、それぞれ固相中に見出された。
【0084】
結晶化には、単離が(+)-塩の飽和温度の近くで、好ましくはすぐ上で、行われることが、望ましい。CPTA 1g当たり4gの溶媒と、0.45当量の(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンを加えたとき、室温での単離は、(+)-塩の飽和レベルに極めて近い(または準安定領域内にある)ように見える。このCPTA 1g当たり約0.45当量の(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンおよび約4gの水/MTBEの添加は、高純度の(-)-塩(>98.0%)生成物を与え、それは、それ以上の再結晶なしで用いることができる。
【0085】
実施例3
本実施例は、(-)-CPTAを(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンから分離する方法を示す。
【0086】
(-)-CPTAを(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンから分離するために、ジアステレオマー塩を1,2-ジクロロエタンと混合し、塩酸水溶液を加えて、水相を約2より低いpHとする。固体が完全に溶解した後に、(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンの塩酸塩を含む水相を分離する。有機相の水洗浄の後、残留水を除去するために蒸留により1,2-ジクロロエタンの大部分が除去される。合わせた水相のpHは0.9であった。有機相のHPLC分析により、理論値の99.8%の(-)-CPTAが1,2-ジクロロエタン溶液として見出された。完全な溶剤除去によって、油状物を得た。
【0087】
実施例4

【0088】
本実施例は、いかなる有意なラセミ化もない、エナンチオマー濃縮された(-)-ハロフェナートを調製するための方法を示す。
【0089】
米国特許出願第10/656,567号および米国特許第6,262,118号に報告されているように、CPTAを5工程で調製した。分割により、>98%光学的に純粋な(-)-CPTAジアステレオマー塩を平均44%の収率(最大50%)で得た。分割剤を除去した後、(-)-CPTAを1,2-ジクロロエタン中で還流してチオニルクロリドと反応させ、対応する酸塩化物を生成した。反応の進行をHPLC解析によってモニターできる。少量の蒸留物を除去して、過剰のチオニルクロリドを除いた。混合物を冷却し、大過剰の真空蒸留したN-アセチルエタノールアミンを加えた。周囲温度で攪拌し、(-)-ハロフェナートを得た。反応混合物のエステル化を、反応混合物を炭酸カリウム水溶液に加えることによりクエンチした。6:1のヘプタン:2-プロパノールへ溶媒を交換し、そこから結晶化することによって(-)-ハロフェナートを単離した。第1の収穫の単離収率は、47〜59%の範囲であり、平均55%であった。この単離収率は、この工程の75〜80%の反応収率を表す。第2の収穫はより高い通算収率をもたらした;しかしながら、第2の収穫は製品品質がより劣っていた。単離したハロフェナートおよび母液中のハロフェナートおよびCPTAとして見出された、加えたCPTAのモルアカウンタビリティーは90〜99%の範囲であった。
【0090】
水酸化ナトリウム水溶液で母液残留物を加水分解して、最終生産物母液から(-)-CPTAを回収し、プロセスを再循環させることができる。分割剤は、pH調整により約90%の回収率で水から単離された。水酸化ナトリウム水溶液を用いる(+)-CPTAの回収およびラセミ化により、約90%が回収された。全体として、4-クロロフェニル酢酸からの初回通過の収率は、21〜23%であった。8工程のプロセス全体で、3種の有機溶媒、および3回の固体単離工程を用いた。
【0091】
実施例5
本実施例は、(-)-ハロフェナートを生成するための別の方法を示す。
【0092】
磁気撹拌機付き500mL丸底フラスコに、(-)-CPTA/(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンジアステレオマー塩(98%ee)35.5g(65.4mmol)、1,2-ジクロロエタン89.0g、および水35.5mLを仕込む。該スラリーに、37%塩酸6.7g(68mmol)を加え、混合物を周囲温度で撹拌して、二つの透明な相を得た。下部の有機相を取り出し、水7.0gで洗浄する。有機相を蒸発させ、次に1,2-ジクロロエタン55.6gに溶解し、加熱マントル中の磁気撹拌機付き250mL丸底フラスコに入れ、還流/蒸留ヘッドを取り付ける。溶液に、チオニルクロリド7.5mL(100mmol)を加え、溶液を2時間加熱還流する。加熱を続けて、留出液を集める。溶液を周囲温度に冷却し、次に氷浴で寒冷して、蒸留したN-アセチルエタノールアミン25.85g(251mmol)(KF分析で1176および1288ppmの水)を加える。溶液を、氷浴で寒冷した水36g中の炭酸カリウム9.90g(71.6mmol)に、撹拌ながら徐々に加える。反応混合物を、1,2-ジクロロエタン5mLで濯ぐ。下部有機相を取り出し、水37mLで洗浄する。溶液を蒸発させて、残留物を得る。残留物をヘプタン54gで処理し、溶媒を除去して残留物を得る。残留物にヘプタン76gを加え、溶媒を除去して残留物を得る。残留物を2-プロパノール28mLに40℃で溶解し、次に追加の2-プロパノール28mLおよびヘプタン334mLで希釈する。周囲温度に冷却してスラリーを得、それを氷浴で寒冷すると粘稠になる。2時間撹拌した後に、真空濾過により固体を単離し、ヘプタン29gで濯ぎ、乾燥させて、(-)-ハロフェナートを得る。
【0093】
実施例6
本実施例は、(+)-CPTAを回収して再循環させる方法を示す。
【0094】
(+)-CPTAを回収しラセミ化するために、実施例4からの溶媒を除去し、1,2-ジクロロエタンと交換した。pH約2未満の水で洗浄して、後に続く回収のために(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンを除去した。水酸化ナトリウム水溶液を加え、水溶液を加熱還流した。1,2-ジクロロエタンを、塩基溶液の添加に先立つ蒸留、または塩基溶液の添加に続く相分離によって除去した。1.4モル当量の水酸化ナトリウムと水溶液を4時間加熱した後に、ヘプタンから89%の収率のラセミ体CPTAを単離した。結晶化した中間物としてCPTAを単離することにより、分割工程に対してより一貫した品質の供給が可能になった。
【0095】
実施例7
本実施例は、(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンを回収する方法を示す。
【0096】
(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンは、ジアステレオマー塩から(-)-CPTAを分離した酸性相中に、および分割母液からのCPTA回収の酸性洗浄工程から得られた酸性相中に見出される。水酸化ナトリウム水溶液で約12を越えるpHへ塩基性化することにより、良好な回収がもたらされる。
【0097】
実施例8
本実施例は、ハロフェナートからのラセミ体CPTAの調製および分割を示す。
【0098】
オーバーヘッドスターラー付きの1L丸底フラスコに、129.75g(0.312mol)のラセミ体ハロフェナート、325gの水および32.6g(0.408mol)の50%水酸化ナトリウム水溶液を入れた。スラリーを60℃に1時間加熱して溶液とし、次に冷却した。温度40℃で、328.5gの1,2-ジクロロエタンおよび44g(0.45mol)の37%塩酸を加え、二相混合物を29℃に冷却した。水相のpHは0.85であった。有機相を分離し水250mLで洗浄し、次に蒸発させ118.2gの残留物を得た。2-プロパノール(149g)を加えて蒸発させ、131.2gの残留物とした。加えたハロフェナートの量に基づいて理論上103.2gのラセミ体CPTAを含む残留物を、1L底部排液管反応器に、33.10g(0.1556mol)の(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンおよび400gの2-プロパノールと共に入れた。混合物を67℃に温めて、軽いスラリーを生成させ、次に0.075℃/分で1℃まで冷却した。混合物を-7℃に冷やし、固体を真空ろ過によって単離し、60mLの2-プロパノールで洗浄した。92.74gのウエットケーキを再び1L反応器に477gの2-プロパノールと共に加え、混合物を75℃に加熱して溶液とした。溶液を0.5℃/分で5℃に冷却し、結晶化した固体を真空ろ過によって単離し、60mLの2-プロパノールですすぎ、乾燥させて、51.81g(0.0956mol、収率31%)の(-)-CPTA-(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンジアステレオマー塩を得た。
【0099】
本明細書に記述された実施例と実施態様はただ説明目的のみのためであり、またそれらを考慮に入れた様々な修正または変更は当業者に示唆されており、本出願の精神と範囲および添付の請求項の範囲内に含まれることとなると理解される。本明細書に引用されたすべての出版物、特許および特許出願は、参照によりその全体をあらゆる目的のために本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R1がアルキルまたはハロアルキルであり、かつ
Xがハライドである、式(I)

の化合物をエナンチオマー濃縮された(enantiomerically enriched)形で生成するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 式(I)の化合物の第1エナンチオマーおよび第2エナンチオマーの混合物を、該第1エナンチオマーの固体ナフチルアルキルアンモニウム塩が形成され、かつ混合物中の遊離第1エナンチオマー量対遊離第2エナンチオマー量の比が減少するのに十分な条件下で、エナンチオマー濃縮されたナフチルアルキルアミンと接触させる工程;ならびに
(b) 混合物から第1エナンチオマーのナフチルアルキルアンモニウム塩を分離する工程;
(c) ナフチルアルキルアンモニウム塩中の第1エナンチオマーからナフチルアルキルアミンを分離して、エナンチオマー濃縮された式(I)の化合物を生成する工程。
【請求項2】
工程(a)が、混合物を、最大約0.5モル当量のエナンチオマー濃縮されたナフチルアルキルアミンと接触させる工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(a)が、混合物を、最大約1.0モル当量のエナンチオマー濃縮されたナフチルアルキルアミンと非キラル塩基との組合せと接触させる工程を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
工程(a)が、溶液中少なくとも約1:20〜の遊離第1エナンチオマー量対遊離第2エナンチオマー量の比を生成するのに十分な条件下で、式(I)の化合物の第1エナンチオマーと第2エナンチオマーとの混合物を、エナンチオマー濃縮されたナフチルアルキルアミンと接触させる工程を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
工程(a)が以下の工程を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法:
(i) 溶媒中の混合物を、第1エナンチオマーの核形成温度より上の温度に加熱する工程;および
(ii) 溶液温度を第1エナンチオマーの核形成温度近くまたはそれ未満の温度に低下させて、第1エナンチオマーのナフチルアルキルアンモニウム塩を生成する工程。
【請求項6】
工程(a)が以下の工程を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法:
(i) 溶媒中の混合物を、約60℃〜約80℃の範囲の温度に加熱する工程;および
(ii) 溶液温度を約60℃未満〜の範囲の温度に低下させて、第1エナンチオマーのナフチルアルキルアンモニウム塩を生成する工程。
【請求項7】
工程(a)が、式(I)の化合物1g当たり最大約4gの溶媒中で実施される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
溶媒が、水、エタノール、t-ブチルメチルエーテル、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、請求項5または7記載の方法。
【請求項9】
溶媒が、水とt-ブチルメチルエーテルとの混合物である、請求項5または7記載の方法。
【請求項10】
工程(b)が、式(I)の化合物の第2エナンチオマーのナフチルアルキルアンモニウム塩の飽和点/温度近くまたはそれ未満で実施される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
工程(b)が、約60〜約100の範囲の温度で実施される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
工程(c)が、ナフチルアルキルアミンを回収する工程をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
工程(a)で用いられるエナンチオマー濃縮されたナフチルアルキルアミンが、工程(c)からの回収されたナフチルアルキルアミンを含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
工程(b)が、第2エナンチオマーを塩基と接触させることにより、分離された溶液中の第2エナンチオマーの少なくとも一部をラセミ化する工程を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
工程(a)で用いられる式(I)の化合物の混合物が、ラセミ化された式(I)の化合物を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
式(I)の化合物が、4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
第1エナンチオマーが(-)-配置を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
ナフチルアルキルアミンが式(II)を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法:

式中、
R2はアルキルであり;かつ
R3およびR4のそれぞれは独立して水素もしくはアルキルであるか、またはR3もしくはR4の一つはアミン保護基である。
【請求項19】
ナフチルアルキルアミンが、1-(2-ナフチル)エチルアミンである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
ナフチルアルキルアミンが、(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸をエナンチオマー濃縮された形で生成するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸の第1および第2エナンチオマーの混合物を(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンと接触させて、アンモニウム塩を形成させる工程;ならびに
(b) (+)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸が濃縮された溶液からアンモニウム塩を分離する工程;
(c) アンモニウム塩中の(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸から(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンを分離して、エナンチオマー濃縮された(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸を生成する工程。
【請求項22】
工程(a)が、混合物を、最大約0.5モル当量の(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンと接触させる工程を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
工程(a)が、混合物を、最大約1.0モル当量の(S)-(-)-1-(2-ナフチル)-エチルアミンと非キラル塩基との組み合わせと接触させる工程を含む、請求項21または22記載の方法。
【請求項24】
工程(a)が、溶液中少なくとも約1:20〜の遊離(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸量対遊離(+)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸量の比を生成するのに十分な条件下で、4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸のエナンチオマーの混合物を(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンと接触させる工程を含む、請求項21〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
工程(a)が以下の工程を含む、請求項21〜24のいずれか一項記載の方法:
(i) 溶媒中の混合物を、第1エナンチオマーの核形成温度より上の温度に加熱する工程;および
(ii) 溶液温度を(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸の核形成温度近くまたはそれ未満の温度に低下させて、(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸のアンモニウム塩を生成する工程。
【請求項26】
工程(a)が、(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸1g当たり最大約4gの溶媒中で実施される、請求項21〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
溶媒が、水、エタノール、t-ブチルメチルエーテル、およびそれらの組み合せからなる群より選択されるメンバーである、請求項24または26記載の方法。
【請求項28】
溶媒が、水とt-ブチルメチルエーテルとの混合物である、請求項24または26記載の方法。
【請求項29】
工程(b)が、(+)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸のアンモニウム塩の飽和点/温度近くまたはそれ未満で実施される、請求項21〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
工程(c)が、(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンを回収する工程をさらに含む、請求項21〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
(+)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸を塩基と接触させることにより、工程(b)の分離された溶液からの(+)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸の少なくとも一部をラセミ化する工程をさらに含む、請求項21〜30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
工程(a)で用いられる式(I)の化合物の混合物が、ラセミ化された(+)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
式(III)の化合物:

式中、
R2はアルキルであり;かつ
R3およびR4はそれぞれ独立して水素もしくはアルキルであるか、またはR3もしくはR4の一つはアミン保護基である。
【請求項34】
式(IV)を有する、請求項33記載の化合物:


【請求項35】
式(V)を有する、請求項33記載の化合物:


【請求項36】
式(VI)を有する、請求項33記載の化合物:


【請求項37】
式(VII)

の化合物をエナンチオ選択的に生成するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) R1がアルキルまたはハロアルキルであり、かつ
Xがハライドである、式(I)

の化合物の第1エナンチオマーおよび第2エナンチオマーの混合物を、該第1エナンチオマーの固体ナフチルアルキルアンモニウム塩が形成され、かつ混合物中の遊離第1エナンチオマー量対遊離第2エナンチオマー量の比が減少するのに十分な条件下で、エナンチオマー濃縮されたナフチルアルキルアミンと接触させる工程;ならびに
(b) 混合物から第1エナンチオマーのナフチルアルキルアンモニウム塩を分離する工程;
(c) ナフチルアルキルアンモニウム塩中の第1エナンチオマーからナフチルアルキルアミンを分離して、エナンチオマー濃縮された式(I)の化合物を生成する工程;
(d) エナンチオマー濃縮された式(I)の化合物をカルボン酸活性化試薬と接触させる工程;ならびに
(e) R5がヘテロアルキルであり、
Mが水素、またはNa、K、Li、Ca、Mg、およびCsからなる群より選択される金属であり、かつ
下付文字wがMの酸化状態である、式
(R5O)WM
の化合物と工程(d)の生成物を接触させて、式(VII)の化合物を生成する工程。
【請求項38】
カルボン酸活性化試薬が、チオニルハライド、無水物、およびチオエステル生成試薬からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
R1がトリフルオロメチルであり、Xがクロロであり、かつ(R5O)WMがHOCH2CH2NHAcである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
式(VIII)

の化合物をエナンチオ選択的に生成するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) 4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸の第1および第2エナンチオマーの混合物を(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンと接触させて、アンモニウム塩を形成させる工程;ならびに
(b) (+)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸が濃縮された溶液から、アンモニウム塩を分離する工程;
(c) アンモニウム塩中の(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸から(S)-(-)-1-(2-ナフチル)エチルアミンを分離して、エナンチオマー濃縮された(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸を生成する工程;
(d) エナンチオマー濃縮された(-)-4-クロロ-α-(3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル酢酸を、チオニルハライド、無水物、およびチオエステル生成試薬からなる群より選択されるカルボン酸活性化試薬と接触させる工程;ならびに
(e) 工程(d)の生成物をHOCH2CH2NHAcと接触させて、式(VIII)の化合物を生成する工程。
【請求項41】
式(VIII)の化合物が(-)-ハロフェナートである、請求項40記載の方法。

【公表番号】特表2009−509958(P2009−509958A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532419(P2008−532419)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/036993
【国際公開番号】WO2007/038277
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(504214280)メタボレックス インコーポレーティッド (21)
【Fターム(参考)】