説明

ニッケル−リン複合めっき液とその液を使用した複合めっき方法およびその方法を使用した複合めっき部品

【課題】複合めっきにより耐摩耗性にすぐれた機械部品等を製造すること。
【解決手段】めっき液中にリン粒子(あるいはリン化合物)をめっき液中に混入しためっき液を作り、そのめっき液を使用して複合めっき法によりニッケルーリン複合めっき膜を作製することにより、ニッケルーリン複合めっき膜中のリン含有量を増やすことができる。この複合めっき膜により、耐摩耗性にすぐれた機械部品等を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル−リン複合めっきの更なる高機能化を目的として、当該めっきに好適な複合めっき液とその液を使用した複合めっき方法およびその方法を使用した複合めっき部品に関するものであり、この複合めっきにより耐摩耗性にすぐれた機械部品等を製造することができる。
【背景技術】
【0002】
従来より、ニッケルーリン合金めっきは熱処理後の硬さがビッカース硬度で900程度に達する等、様々な特性を持つめっきであり、ギヤ等の機械摺動部品の耐摩耗性を向上させる目的で、使用されている。
しかし、公知の方法によって作製したニッケルーリン合金めっき膜は、機械摺動部品の耐摩耗性が十分でなく、当該業界では更なるめっき膜の耐摩耗性等の向上が求められている。
上記公知のニッケル−リン複合めっきは、現在、特許文献1にも示すような電気めっき法や、これとは別の無電解めっき法により作製されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−245693号公報
【0004】
現在行なわれている無電解めっき法によるニッケル−リン合金めっきでは、ニッケルめっき液中に水溶性のリン化合物を混入溶解させたものである。このようなタイプのめっき液組成からはめっき液およびめっき条件等によりその含有量は異なるものの、めっき合金中のリン含有量はせいぜい25原子パーセント程度であり、それ以上のリンを含むニッケルーリン合金の作製は困難であり、更なる耐摩耗性等の特性向上が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、ニッケルーリン複合めっき中のリン含有量を増やすためのめっき液について種々の研究を進めてきたが、めっき膜中に難溶性のりん微粒子(粒子径が数μm程度以下)を取り込むことができる新しい工法の開発に成功した。
本工法は、めっき液中に微小なリン粒子(あるいはリン化合物:粒子径が数μm以下)をめっき液中に混入しためっき液(懸濁めっき液)を作り、そのめっき液を使用して複合めっき法によりニッケルーリン複合めっき膜を作製することにより、ニッケルーリン合金めっき中のリン含有量を増やすことができる。なお、複合めっきとはめっき浴中に難燃性のリン、およびリン化合物微粒子を懸濁させた状態でめっきを行い、金属膜中に難溶性の微粒子を取り込んだ複合膜を作製するめっき法である。
本発明によるニッケルーリン複合めっき膜は、複合めっき層中にリンおよびリン化合物微粒子を物理的に取り込んだ状態となっているが、熱処理することにより、ニッケルーリン系化合物を生成させることにより硬度等の機械的物性値を向上させ、機械部品の耐摩耗めっき等に利用する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が採用した技術解決手段は、
ニッケルめっき液にリンあるいはリン化合物粒子を添加したニッケルーリン複合めっき液である。
また、前記リンあるいはリン化合物粒子の粒子の径は5ミクロン以下であることを特徴とするニッケルーリン複合めっき液である。
また、ニッケルめっき液に少なくとも5ミクロン以下のリンあるいはリン化合物粒子を、添加したニッケルーリン複合めっき液中に基材をいれ、電解めっきあるいは無電解めっきによりめっきすることを特徴とするニッケルーリン複合めっき方法である。
また、前記の方法によって作製したニッケル−リン複合めっき膜である。
また、前記によるニッケル−リン複合めっき膜を熱処理したことを特徴とするニッケル−リン複合めっき膜である。
また、前記のめっき方法によりニッケル−リン複合めっき膜で皮膜した機械部品である。
また、前記によるニッケル−リン複合めっき膜を熱処理したことを特徴とする機械部品である。
また、前記に記載の機械部品の材料は銅、黄銅、ステンレス、アルミ、チタンなどの金属はたは導電性樹脂の何れかであることを特徴とする機械部品である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、 a:本工法によるニッケルーリン複合めっき法により、ニッケル中にリン粒子が分散した構造の複合めっき層を形成することができる。
b:本工法によるニッケルーリン複合膜は、ニッケルーリンめっき層中にリンおよびリン化合物微粒子を物理的に取り込んだ状態となっており、熱処理することにより、ニッケルーリン系化合物を生成させることができ、この結果硬度等の機械的物性値を向上させ、機械部品の耐摩耗性を向上することができる。
c:本めっき液を使用しためっき法は、電解めっき、無電解めっきのいずれにも適用できるが、電解めっき法を使用することで無電解めっき法と比べて成膜速度の向上を図ることができ、さらにめっき製品の製造コストも減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、
ニッケルーリン合金めっきの更なる高機能化を目的として、複合めっき法によりニッケルーリン合金めっき膜を作製することを特徴としている。本発明によれば、従来のめっき法では不可能であった、リンの含有限界であった25原子%以上のリンを含有するニッケルーリン複合めっき膜を作製することが可能であり、さらに熱処理等を施すことにより、合金化を促進させ、膜の物性・特性を変化させることもできる。まためっき浴中へ添加剤を加えることにより膜の表面形態を平滑にすることもできる。
本発明によるニッケルーリン複合膜は、ニッケルーリンめっき層中にリンおよびリン化合物微粒子を物理的に取り込んだ状態となっているが、熱処理することにより、ニッケルーリン系化合物を生成させることにより硬度等の機械的物性値を向上させ、機械部品の耐摩耗めっき等に利用する。
【実施例】
【0009】
以下、図面を参照して本発明に係る実施例を説明する。
図1、図2は本発明による電解めっき法によるめっき膜生成の説明図、図3はめっき層の断面図である。
図1、図2において、1はニッケルめっき液を入れる容器、2はニッケルめっき液、3は同めっき液中にいれる陽極電極、4は陰極電極を兼ねたメッキ基材、5は攪拌翼、6は電源である。なお、図1は電極を垂直にしたもの、図2は基材側となる電極を容器の底に寝かせて配置したものである。
ニッケルめっき液中には、リンあるいはリン化合物の2〜3μm以下の微小な粒子を、懸濁してある。
めっき基材としては、銅、黄銅、ステンレス、アルミ、チタン等の金属等の材料の他に導電性合成樹脂等を使用する。
上記のような状態で通電すると、図3に示すように公知の原理により基材4上にりん粒子が混入したメッキ膜7が生成される。この時の生成されためっき膜中には従来のめっき膜内のりん粒子に比較して濃度の濃い状態でりん粒子が混入している(たとえば、リン含有量が13原子%以上)。こうしてめっき膜が生成された基材を、従来と同様の手法で熱処理することで、従来には得ることができなかった、高い耐久性を有するニッケル−リン複合めっき膜を得ることができた。
【0010】
(実施例1)
めっき液として、基本浴(1MNiSO4 ・6H2 O+0.2MNiCl2 ・6H2 O+0.5MH3 BO3 )に赤リン粒子(粒サイズ:2−3μm以下)を10g/L添加した浴(浴1)を調製した。電析試験として、電流規制法によりめっき液温度25°C、通電量60C/cm2 の条件にて銅板またはステンレス板上にめっき層を作製し、電極配置は垂直配置とした。作製しためっき層の成分分析をICP法にて分析したところ、リン含有量13.2原子%のニッケルーリン複合膜が、得られた。
【0011】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明では、従来のめっき法において、リンの含有限界であった25原子パーセント以上のリンを含有するニッケルーリン複合めっき膜を作製することが可能であり、熱処理等を施すことにより、合金化を促進させ、膜の物性・特性を変化させることもできる。
上記例ではニッケル−リン複合めっきを中心に説明したが、リンの代わりにリン化合物(たとえば、Ni3 P等)を使用することもできる。
まためっき基材としては、銅、黄銅、ステンレス、アルミニウム、チタンなどの金属等の他に導電性合成樹脂等を材料とした機械部品(ギヤ、ロッド等)を対象とする。
さらにめっき浴槽中の基材は垂直、横、斜め等種々の状態で配置することができる。
まためっき浴中へ添加剤を加えることにより膜の表面形態を平滑にすることもできる。
また機械部品とは広義の意味であり、広くめっきされた部品を含むこととする。
また本発明はその精神また主要な特徴から逸脱することなく、他の色々な形で実施することができる。そのため前述の実施例は単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。更に特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明に係るニッケル−リン複合めっき液とその液を使用しためっき方法は、機械部品、摺動部品表面への硬質層の形成方法としての利用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るニッケル−リン複合めっきの構成図である。
【図2】同ニッケル−リン複合めっきの他の例の構成図である。
【図3】同ニッケル−リン複合めっきによるめっき層の断面図である。
【符号の説明】
【0014】
1 ニッケルめっき液を入れる容器
2 ニッケルめっき液
3 同めっき液中にいれる陽極電極
4 陰極電極を兼ねためっき基材
5 攪拌翼
6 電源
7 めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルめっき液にリンあるいはリン化合物粒子を添加したニッケルーリン複合めっき液。
【請求項2】
前記リンあるいはリン化合物粒子の粒子の径は5ミクロン以下であることを特徴とする請求項1に記載のニッケルーリン複合めっき液。
【請求項3】
ニッケルめっき液に少なくとも5ミクロン以下のリンあるいはリン化合物粒子を、添加したニッケルーリン複合めっき液中に基材をいれ、電解めっきあるいは無電解めっきによりめっきすることを特徴とするニッケルーリン複合めっき方法。
【請求項4】
前記請求項3の方法によって作製したニッケル−リン複合めっき膜。
【請求項5】
前記請求項4によるニッケル−リン複合めっき膜を熱処理したことを特徴とするニッケル−リン複合めっき膜。
【請求項6】
前記請求項3に記載のめっき方法によりニッケル−リン複合めっき膜で皮膜した機械部品。
【請求項7】
前記請求項6によるニッケル−リン複合めっき膜を熱処理したことを特徴とする機械部品。
【請求項8】
前記請求項6または請求項7に記載の機械部品の材料は銅、黄銅、ステンレス、アルミ、チタン等の金属または導電性樹脂の何れかであることを特徴とする機械部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−77462(P2007−77462A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268201(P2005−268201)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(302018307)
【Fターム(参考)】