説明

ニッケルの浸出方法

【課題】 使用済みニッケル水素電池から、高い浸出率でかつ効率的にニッケルを浸出させることができ、また廃液処理に際して中和剤の使用量を効果的に低減させることができるニッケルの浸出方法を提供する。
【解決手段】 使用済みニッケル水素電池の正極材から、発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離する分離工程S1と、分離した発泡ニッケル板を硫酸溶液に投入して溶解し、ニッケルの浸出スラリーを得る第1の浸出工程S2と、第1の浸出工程S2にて得られた浸出スラリーに活物質粉末を投入して溶解し、ニッケル浸出液と浸出残渣とを得る第2の浸出工程S3と、第2の浸出工程S3にて得られたニッケル浸出液と浸出残渣とを固液分離する固液分離工程S4とを有し、固液分離工程S4にて分離された浸出残渣を、第1の浸出工程S1における硫酸溶液に投入し繰り返し浸出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルの浸出方法に関し、より詳しくは、使用済みニッケル水素電池からのニッケルの浸出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮が高まっており、従来のガソリン車から二次電池で走行するハイブリッド車や電気自動車への移行が急速に進んでいる。これまでに生産されてきたハイブリッド車の二次電池の多くにはニッケル水素電池が使用されている。
【0003】
ニッケル水素電池は、充放電できる回数に制限があり、次第に充電容量が低下し、最終的に使用済みニッケル水素電池となる。また、ニッケル水素電池を製造する工場では、電池に仕上げられる前の工程内不良品も発生する。
【0004】
このため、ハイブリッド車の普及が続くことに伴い、使用済みニッケル水素電池や工程内不良品(以下まとめて単に「ニッケル水素電池」と称する)が大量に発生すると予測されている。
【0005】
ところで、ニッケル水素電池にはニッケルが多く使用されている。ニッケルは希少な資源であり、使用済みのニッケル水素電池からニッケルのような有価金属を回収して有効活用することが重要となる。
【0006】
このニッケル水素電池から有価金属であるニッケルを回収しリサイクルする技術として、乾式法と湿式法が知られている。乾式法は、例えばニッケル水素電池を炉で溶融し、ニッケルと鉄の合金メタルとスラグとに分離する方法である。乾式法は、大量のニッケル水素電池を処理するのに適している。しかしながら、乾式法だけでは鉄のような不純物を完全に分離することが容易でなく、得られたメタルはステンレス原料等のニッケル水素電池以外の用途に用いるしかなかった。
【0007】
一方、湿式法は、例えば特許文献1に示すように、硫酸や塩酸のような鉱酸を添加して浸出し、得られた浸出液を、溶媒抽出法、沈澱法、電解法等の湿式処理を行ってニッケルを回収するものである。湿式法による回収物の形態は、乾式法と比較して限定されることが少なく、硫酸塩、塩化物、金属等の用途に応じた形態にて回収できるメリットがある。
【0008】
この湿式法を用いて処理する場合には、ニッケル水素電池を部材ごとに分別して処理することが一般的である。特許文献1に開示された方法では、電池を還元焙焼した後、鉄が主な成分である負極基板とニッケルが主な成分である正極基板と活物質粉末とに分け、負極基板を鉄の原料として処理し、一方で正極基板と活物質粉末とをニッケルの原料として処理する。
【0009】
ここで、還元焙焼された正極基板と活物質粉末からニッケルを回収する場合、鉱酸で浸出する方法を用いる。このとき、特に、正極基板を構成する発泡ニッケル板は、ほぼ100%の組成がニッケルであり、電池のサイズに合わせた形状を取ることから、浸出し難い場合も多い。一方で、活物質粉末は、ニッケル品位が50%程度であり、比較的容易に酸に溶解できる。
【0010】
浸出し難い発泡ニッケル板の浸出を効率よく完全に行うには、浸出時間を長くする、鉱酸の酸濃度を高くする、酸化力の強い酸化剤を添加する等の方法がある。
【0011】
しかしながら、浸出時間を長くした場合、単位時間あたりの処理量が減少するので生産効率が著しく低下する。また、鉱酸の酸濃度を高くした場合、ニッケルを回収した後の浸出液等を廃水処理する際に、残留する鉱酸を中和するための中和剤の使用量が増加し処理コストの増加を招いてしまう。また、酸化力の強い酸化剤を添加する方法では、酸化剤のコストが増加する等の課題がある。
【0012】
このため、還元焙焼された発泡ニッケル板及び活物質粉末から、高い収率でかつ効率よくニッケルを回収することができ、また廃水処理に用いる中和剤の使用量を抑制することができるニッケルの浸出方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−126779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、使用済みニッケル水素電池から、高い浸出率でかつ効率的にニッケルを浸出させることができ、また廃液処理に際して中和剤の使用量を効果的に低減させることができるニッケルの浸出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を見出した。すなわち、正極材を構成する発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離し、難溶性の発泡ニッケル板を先に浸出し、次いで溶解性が良好な活物質粉末を浸出する。そしてさらに、得られた浸出残渣を発泡ニッケル板の浸出処理に繰り返し用いる。これにより、ニッケルを高い浸出率で効率的に浸出させることができるとともに、浸出処理後の浸出液中に含まれる遊離酸の濃度を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明に係るニッケルの浸出方法は、使用済みニッケル水素電池の正極材から、発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離する分離工程と、上記分離工程にて分離した発泡ニッケル板を硫酸溶液に投入して溶解し、ニッケルの浸出スラリーを得る第1の浸出工程と、上記第1の浸出工程にて得られた浸出スラリーに上記活物質粉末を投入して溶解し、ニッケル浸出液と浸出残渣とを得る第2の浸出工程と、上記第2の浸出工程にて得られたニッケル浸出液と浸出残渣とを固液分離する固液分離工程とを有し、上記固液分離工程にて分離された上記浸出残渣を、上記第1の浸出工程における上記硫酸溶液に投入し繰り返し浸出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、使用済みニッケル水素電池の正極材から、高い浸出率でかつ効率よくニッケルを浸出させることができる。また、本発明によれば、浸出液中に残留する遊離酸の濃度を効果的に低下させることができるので、ニッケル回収後の浸出液の廃液処理に際して、中和剤等の使用量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態に係るニッケルの浸出方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るニッケルの浸出方法の具体的な実施形態(以下、本実施の形態という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて適宜変更することができる。
【0020】
本実施の形態に係るニッケルの浸出方法は、使用済みニッケル水素電池の正極材を構成する発泡ニッケル板及び活物質粉末からニッケルを浸出させる方法であり、図1に示すような各工程を有する。
【0021】
すなわち、本実施の形態に係るニッケルの浸出方法は、使用済みニッケル水素電池の正極材から、発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離する分離工程S1と、分離工程S1にて分離した発泡ニッケル板を硫酸溶液に投入して溶解し、ニッケルの浸出スラリーを得る第1の浸出工程S2と、第1の浸出工程S2にて得られた浸出スラリーに分離工程S1にて分離した活物質粉末を投入して溶解し、ニッケル浸出液と浸出残渣とを得る第2の浸出工程S3と、第2の浸出工程S3にて得られたニッケル浸出液と浸出残渣とを固液分離する固液分離工程S4とを有する。そして、このニッケル浸出方法では、固液分離工程S4にて分離された浸出残渣を、第1の浸出工程S2における硫酸溶液に投入し繰り返し浸出することを特徴とする。
【0022】
このようなニッケルの浸出方法によれば、使用済みニッケル水素電池の発泡ニッケル板及び活物質粉末から、高い浸出率でかつ効率的にニッケルを浸出させることができ、高い回収率でニッケルを回収することを可能にする。また、このニッケルの浸出方法によれば、得られるニッケル浸出液中に含まれる遊離硫酸濃度を低下させることでき、廃液処理に用いる中和剤の使用量等を効果的に低減させることができる。以下、各工程について順に説明する。
【0023】
なお、この浸出方法に係る処理に先立ち、必要に応じて、使用済みニッケル水素電池を失活化させる処理を施すことができる。
【0024】
失活化方法としては、特に限定されないが、例えば不活性雰囲気下に焙焼処理して使用済みニッケル水素電池を失活化させる。焙焼処理としては、使用済みニッケル水素電池を炉内に入れ、不活性雰囲気下に500〜600℃の温度で焙焼する方法が用いられる。焙焼時の雰囲気としては、ニッケル等の有価金属が酸化されるのを抑制するため、コークス等の還元剤を添加して還元雰囲気下に行うことができるが、燃焼後のプラスチックは還元剤としても作用するので、不活性雰囲気下に焙焼処理すれば、還元雰囲気が形成され、コストを節約することができる。また、失活化方法として、例えば使用済みニッケル水素電池を塩化ナトリウム溶液に浸漬し残留電荷を放電して失活化させるようにしてもよい。
【0025】
(分離工程)
分離工程S1では、使用済みニッケル水素電池の正極材から、ニッケルを含有する部材である発泡ニッケル板(正極基板)と活物質粉末とを分離する。この分離工程S1では、発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離することで、後述する第1の浸出工程S2及び第2の浸出工程S3において、発泡ニッケル板及び活物質粉末の酸に対するそれぞれの溶解性の違いを利用した2段階の浸出に供するようにする。
【0026】
ここで、使用済みニッケル水素電池の正極材を構成しニッケルが主な成分である部材として、発泡ニッケル板と活物質粉末がある。発泡ニッケル板は、例えば発泡ウレタンにカーボンを塗布した後にニッケル電気メッキを施して焼成することにより製造されるものであり、例えば住友電気工業製のセルメット(商品名)が挙げられる。この発泡ニッケル板は、ほぼ100%の組成がニッケルであり、また所定の大きさの塊状であって電池サイズに合わせた様々な形状をとること等から、硫酸等の酸に溶解し難くニッケルを十分に浸出できない場合が多い。一方で、活物質粉末は、ニッケル品位が50%程度であり、微細な粉末形状であるため、比較的容易に酸に溶解し浸出効率も高い。
【0027】
浸出に用いる硫酸溶液とニッケルとの関係において、ニッケルの硫酸溶液に対する溶解度は、遊離(フリー)硫酸の濃度が高くなるほど低くなるという性質を有する。従来のように、遊離硫酸の濃度が高い状態の硫酸溶液(初期硫酸溶液)に、上述のように酸に対する溶解性が異なる発泡ニッケル板及び活物質粉末を混合して投入し同時に溶解させようとした場合、反応活性が高く酸に溶解し易い活物質粉末が先に溶解するようになる。一方で、発泡ニッケル板も、徐々に硫酸溶液に溶解していくが、硫酸溶液中には活物質粉末が先に溶解されているために、発泡ニッケル板から溶解させることができるニッケル量は少なくなり、十分に発泡ニッケル板を溶解させることができない。したがって、発泡ニッケル板を十分にかつ効率的に溶解させて高い浸出率でニッケルを浸出させるためには、強い酸条件のもとで、活物質粉末とは別に溶解させることが必要となる。
【0028】
そこで、本実施の形態に係るニッケルの浸出方法では、まず分離工程S1において、発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離し、後に続く浸出処理に際して、発泡ニッケル板を単独で硫酸溶液に溶解させるようにする。
【0029】
これにより、酸に対して溶解し難い発泡ニッケル板を、活物質粉末の影響を受けることなく、強い酸条件下で硫酸溶液に溶解させることができ、高い浸出率でニッケルを浸出させることが可能となる。詳しくは後述する。
【0030】
なお、この分離工程S1では、発泡ニッケル板と活物質粉末とを完全に分離できれば好ましいが、上述した溶解度の観点から、概ね70%程度の割合で活物質粉末を発泡ニッケル板から分離できれば、活物質粉末の影響を最小限にして、発泡ニッケル板のニッケルを硫酸溶液に効果的に溶解させることができ、ニッケルの浸出率を向上させることができる。
【0031】
分離方法としては、特に限定されるものではなく、例えば振動や破砕等の機械的な方法により、使用済みニッケル水素電池の正極材から発泡ニッケル板と活物質粉末とを取り出し、次いで篩を用いて篩分けることによって発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離する。
【0032】
篩分けに際して用いる篩の目開きについては、特に限定されるものではなく、後工程での処理のし易さ等を考慮して適宜選定すればよい。ただし、目開きが細かい篩を用いて微細な粉砕物を得る方が、以降の反応を早く進めることができるが、過度に微細な粉砕物にするために要するコストが増加する。また、微細な粉砕物とした場合には、その粉砕物が飛散してロスとなり、また作業環境を良好に保つための環集コストが増加する。さらに、自然発火する可能性が高まるおそれがある。
【0033】
(第1の浸出工程)
第1の浸出工程S2では、分離工程S1にて分離した発泡ニッケル板を硫酸溶液に投入して溶解させ、発泡ニッケル板に含有されるニッケルを浸出して浸出スラリーを得る。この第1の浸出工程S2では、1段階目の浸出処理として、所望とする濃度に設定された初期硫酸溶液で、活物質粉末からのニッケル浸出に先んじて、分離した発泡ニッケル板のみからニッケルを浸出させ、その浸出スラリーを得るようにする。
【0034】
これにより、第1の浸出工程S2では、上述のように酸に対して溶解し難い発泡ニッケル板を、活物質粉末の溶解による影響を受けることなく、しかも遊離硫酸濃度の高い強い酸条件下で溶解させることができるので、効果的にニッケルを溶解させることができ、ニッケルの浸出率を向上させることができる。
【0035】
浸出に用いる硫酸溶液は、特に限定されるものではないが、遊離硫酸濃度として250〜350g/Lである溶液を用いることが好ましく、遊離硫酸濃度として300〜340g/Lである溶液を用いることがより好ましい。なお、第1の浸出工程S2で用いる硫酸溶液の濃度は、後述する第2の浸出工程S3を含めた浸出処理における初期硫酸濃度となる。
【0036】
上述のように、遊離硫酸濃度が高いほどニッケルの溶解度は下がる。そのため、初期硫酸濃度が高過ぎる場合には、発泡ニッケル板から浸出されるニッケル量が減少する可能性があり、また硫酸濃度を上げるために液量を減らす必要が生じる。一方で、初期硫酸濃度が低過ぎる場合には、溶解し難い発泡ニッケル板を十分に溶解させることができず浸出率が低下する。そしてそれにより、後述する固液分離工程S4で得られる浸出残渣が増え、第1の浸出工程S2への繰り返される量が増加し、槽内に溜まった固形物が溢れてしまう可能性がある。これらのことから、初期硫酸濃度としては、250〜350g/Lとすることが好ましい。また、より好ましくは300〜340g/Lとすることにより、液量の調整を最小限にして効率的な浸出処理を行うことができる。
【0037】
また、発泡ニッケル板は、スラリー濃度として例えば75g/L程度となるように硫酸溶液に投入することが好ましい。このスラリー濃度は、いわゆる仕込むニッケル量となり、生産性を考慮するとスラリー濃度を高くすることが処理効率上好ましいが、ニッケルの硫酸溶液に対する溶解度の関係から適宜設定することが好ましい。なお、スラリー濃度が高過ぎると、浸出に際しての攪拌が不十分となり、効果的に浸出することができない可能性がある。
【0038】
第1の浸出工程S2における溶液の温度としては、例えば25〜100℃とすることが好ましく、75〜95℃とすることがより好ましい。温度が25℃未満の場合には、反応速度が遅くなり、効率的にニッケルを浸出させることができない。一方で、温度が100℃より高い場合には、昇温させるためのエネルギーを要し、また液相が沸騰して反応制御が困難となる。これらのことから、温度としては、25〜100℃とすることが好ましい。また、より好ましくは75〜95℃とすることにより、温度反応速度やエネルギー効率等の観点から、効率的にかつ効果的にニッケルを浸出させることができる。
【0039】
また、pHとしては、例えば0〜3.0に調整することが好ましく、1.5程度に調整することがより好ましい。pHが0未満では、ニッケルの浸出はそれほど進行せず、得られた浸出液からニッケルを回収した後に中和等によって廃液を処理するのに必要なアルカリ等の使用量や処理コストが増加する。一方で、pHが3.0より高いと、ニッケルの浸出が不十分となる可能性がある。これらのことから、pHは0〜3.0とすることが好ましい。また、より好ましくはpH1.5程度に調整することにより、反応速度や浸出率等の観点から効率的にかつ効果的にニッケルを浸出させることができる。
【0040】
浸出方法としては、特に限定されるものではないが、反応時間を短縮するために攪拌しながら行うことが好ましい。また、発泡ニッケル板を投入した硫酸溶液に対して、空気や酸素ガスの吹き込み、又は過酸化水素等の酸化剤の添加を行うことが好ましい。これにより、ニッケルを効率よく浸出させことができ、ニッケルの浸出率を高めることができる。
【0041】
(第2の浸出工程)
第2の浸出工程S3では、第1の浸出工程S2にて得られた浸出スラリーに、分離工程S1にて分離した活物質粉末を投入して溶解させ、ニッケル浸出液と浸出残渣とを得る。この第2の浸出工程S3では、2段階目の浸出処理として、得られた浸出スラリーに分離した活物質粉末を添加することで、発泡ニッケル板の浸出に用いられずに浸出スラリー中に残留した遊離硫酸により、活物質粉末からニッケルを浸出させる。
【0042】
このように、第2の浸出工程S3では、反応活性が高く酸に溶け易い活物質粉末の性質を利用した処理を行っている。つまり、活物質粉末は、容易に酸に溶解することから、初期硫酸濃度よりも遊離硫酸濃度が低下した溶液でも、その溶液中に残留した遊離硫酸によって効果的にニッケルを浸出させることができる。
【0043】
そして、このような処理によれば、得られた浸出液を廃液処理する際に用いる中和剤の使用量を低減させることができる。すなわち、従来、発泡ニッケル板及び活物質粉末のそれぞれに対して硫酸溶液を用意し、それぞれ別々に浸出処理する方法も行われてきたが、その場合、浸出後の各浸出液中には浸出に供されなかった遊離硫酸が多量に残り、その残留した遊離硫酸を多量の中和剤で廃液処理する必要があった。これに対し、本実施の形態に係るニッケルの浸出方法によれば、発泡ニッケル板を浸出した後の浸出スラリーに活物質粉末を添加し、スラリー中に残留した遊離硫酸でその活物質粉末を浸出させているので、遊離硫酸を効果的に利用でき、得られた浸出液中の廃液処理対象となる遊離硫酸の濃度を減少させることができる。これにより、その廃液処理に用いる中和剤の使用量を効果的に低減させることが可能となる。
【0044】
また、遊離硫酸濃度の高い初期硫酸溶液に活物質粉末を投入して浸出させた場合、活物質粉末は微細な粉末状でその反応活性が高いことから、溶液の噴出しを招くおそれもあり、効率的な処理に支障が生じる可能性がある。本実施の形態に係るニッケルの浸出方法によれば、第1の浸出工程S2を経て得られた、遊離硫酸濃度の低下した浸出スラリーに活物質粉末を添加して浸出させるようにしているので、硫酸溶液の噴出し等を防止し、安全性高く、効率的な処理が可能となる。
【0045】
この第2の浸出工程S3では、スラリー濃度として例えば100g/L程度となるように活物質粉末を浸出スラリーに添加する。このスラリー濃度は、添加する活物質粉末のみの濃度である。このとき、スラリー濃度が高過ぎる場合には、適宜水を加えて希釈すればよい。なお、第2の浸出工程S3においても、スラリー濃度が高い方が処理効率が高まり生産性を向上させることができるが、スラリー濃度が高過ぎると浸出に際しての攪拌が不十分となり、効果的に浸出することができない可能性がある。したがって、ニッケルの硫酸溶液に対する溶解度の関係から適宜調整することが好ましい。
【0046】
上述のように、第2の浸出工程S3では、第1の浸出工程S2で得られた浸出スラリー中の遊離硫酸により活物質粉末を溶解させてニッケルを浸出する。したがって、この活物質粉末の浸出に伴って、浸出スラリー中の遊離硫酸が消費されていく。この遊離硫酸の消費は、スラリー中のpHを測定することによってpH変化として検知することができる。スラリーのpHが上がり過ぎると、ニッケルの浸出率が低下するため、pH変化の検知結果に基づいて必要に応じて硫酸溶液を添加し、pHを0〜3.0の範囲に調整することが好ましく、より好ましくはpH1.5程度の水準に調整する。
【0047】
なお、第2の浸出工程S3における液温としては、第1の浸出工程S2と同様に、例えば25〜100℃とすることが好ましく、75〜85℃とすることがより好ましい。また、浸出方法についても、反応効率を高める観点から攪拌することが好ましく、また空気や酸素ガスの吹き込みや過酸化水素等の酸化剤の添加を行うことが好ましい。
【0048】
(固液分離工程)
固液分離工程S4では、第2の浸出工程S3にて得られたニッケル浸出液と浸出残渣とを固液分離し、ニッケル浸出液と浸出残渣とを得る。つまり、この固液分離工程S4では、発泡ニッケル板及び活物質粉末の、2段階の浸出処理を行って得られたスラリーを固液分離して、ニッケル浸出液と浸出しなかったニッケルを含む浸出残渣とを得る。
【0049】
固液分離工程S4で行われる固液分離方法としては、特に限定されず、例えば一般的な濾紙とヌッチェ等による方法を用いることができるが、浸出されずに残留した残留分はより微細となって活性化されており、発火等の可能性もあるため真空乾燥機を用いることが好ましい。
【0050】
固液分離工程S4にて分離されたニッケル浸出液は、系外でさらに精製処理等を施して不純物が除去され、硫酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル化合物の原料に供することができる。
【0051】
一方で、分離された浸出残渣は、主成分がニッケルであり、未だ浸出されていないニッケルが含有されている。そこで、本実施の形態に係るニッケルの浸出方法では、固液分離により分離された浸出残渣を、上述した第1の浸出工程S2に繰り返し用いるようにする。すなわち、第1の浸出工程S2において、新たな発泡ニッケル板とともに、固液分離された浸出残渣を硫酸溶液に投入して溶解させ、繰り返し浸出処理を施す。
【0052】
このように、固液分離工程S4にて固液分離された浸出残渣を第1の浸出工程S2に繰り返すことによって、第2の浸出工程S3で浸出不足があったとしても、その浸出残渣も含めて再び浸出処理が行われるため、残渣に含まれるニッケルがロスとなることがなく、安定して効率よくニッケル水素電池からニッケルを浸出させることができる。
【0053】
そして、このように浸出残渣を第1の浸出工程S2に繰り返し用い、第1の浸出工程S2及び第2の浸出工程S3を行うことにより、系内に残留する浸出残渣は最終的には一定値になり、繰返し回数を増やすことによって投入した原料に対する浸出残渣の比率は小さくなっていく。これにより、発泡ニッケル板及び活物質粉末に含まれていたニッケルを実質的に完全に浸出させることができ、高い浸出率でニッケルを浸出させることができる。
【0054】
また、固液分離された浸出残渣を第1の浸出工程S2に繰り返し用いることで、第2の浸出工程S3で得られる浸出液中の遊離硫酸の濃度を最低限まで低減させることができる。つまり、浸出残渣を第1の浸出工程S2における硫酸溶液に投入し繰り返し浸出することにより、2回目以降の浸出処理においては、新たな発泡ニッケル板及び活物質粉末とともに、繰り返し投入された浸出残渣がスラリー中に存在するようになるので、これらの浸出のために用いられる遊離硫酸が増え、結果として得られる浸出液中の遊離硫酸濃度を減少させることができる。したがって、これにより、浸出液からニッケル等の有価物を回収した後の廃液処理において、より一層にその廃液処理に用いる中和剤の使用量及び処理コストを低減させることができる。
【0055】
なお、この固液分離工程S4で得られた浸出液を、さらに、新たな発泡ニッケル板の切断片を入れた槽やカラムなどの容器に通液させて、容器に入れられた発泡ニッケル板と接触させるようにしてもよい。このように、回収した浸出液を、発泡ニッケル板に接触させることによって、浸出液中に含まれる遊離硫酸濃度をさらに低下させることができ、より一層に中和剤の使用量を低減させることができる。
【0056】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るニッケルの浸出方法は、使用済みニッケル水素電池の正極材から発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離し、まず発泡ニッケル板を所定濃度に硫酸溶液に投入して浸出させ(第1の浸出工程S2)、次いで得られた浸出スラリーに対して活物質粉末を投入し残存した遊離硫酸によって活物質粉末を浸出させるようにしている(第2の浸出工程S3)。このように、発泡ニッケル板と活物質粉末の酸に対する溶解性の違いを利用し、溶解し難い発泡ニッケル板を強い酸条件で浸出させた後に、比較低容易に溶解する活物質粉末を浸出スラリーに残った遊離硫酸で浸出する。
【0057】
この浸出方法によれば、効果的にかつ効率的にニッケルを含有する各部材を溶解させることができ、ニッケルの浸出率を向上させることができるとともに、活物質粉末を浸出させた後に得られるニッケル浸出液中の遊離硫酸濃度を効果的に低下させることができる。これにより、ニッケル回収後の浸出液の廃液処理に際して、中和剤等の処理剤の使用量及び処理コストを効果的に低減させることができる。
【0058】
そしてまた、本実施の形態に係るニッケルの浸出方法では、活物質粉末の浸出処理後に固液分離して得られた浸出残渣を、新たな発泡ニッケル板とともに第1の浸出工程S2における硫酸溶液に投入して溶解させ、再び浸出処理を繰り返すようにしている。このように、得られた浸出残渣を繰り返し溶解して浸出させることによって、原料に対する浸出残渣の比率が小さくなり、発泡ニッケル板及び活物質粉末に含まれていたニッケルを実質的に完全に浸出できる。したがって、使用済みニッケル水素電池から高い浸出率でニッケルを浸出させることができ、そしてそのニッケル浸出液からニッケルを回収することで、高い回収率でニッケルの回収することができる。
【0059】
また、浸出残渣を繰り返し浸出させることにより、浸出に利用される遊離硫酸の割合も増えることから、ニッケル回収後の浸出液中に含まれる遊離硫酸濃度をより一層に低下させることができ、中和剤の使用量及び廃液処理コストの低減効果をさらに高めることができる。
【実施例】
【0060】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0061】
〔実施例1〕
(分離工程)
使用済みニッケル水素電池を塩化ナトリウム溶液に浸漬し残留電荷を放電して失活させ、次いで塩化ナトリウム溶液から取り出したニッケル水素電池をカッターで切断して解体して正極材を取り出した。
【0062】
続いて、ペンチとタガネを使った手作業で正極材を広げ、正極材を構成する発泡ニッケル板(正極基板)と活物質粉末とを分離した。具体的には、発泡ニッケル板をワイヤーブラシで擦り、発泡ニッケル板の表面に塗布された活物質粉末を擦り落とし、次いで、目開き1mmの篩を用いて篩分けて分離した。発泡ニッケル板の大部分は篩上に分配し、活物質粉末の大部分は篩下となった。なお、後で分析したところ、塗布された活物質粉末のうち、約70%が活物質粉末として分離でき、残りの30%は発泡ニッケル板上に残留した。
【0063】
(第1の浸出工程)
次に、310g/lの遊離硫酸濃度に調整した硫酸溶液363ml中に、分離工程で分離した発泡ニッケル板25gを添加した。そして、液温を80℃に加温し、エアーを吹き込みながら4時間保持して攪拌しつつ混合し、発泡ニッケル板を溶解してニッケルを浸出させた。
【0064】
(第2の浸出工程)
続いて、第1の浸出工程で得られたスラリー(浸出スラリー)に純水を添加して液量を500mlに調整し、次いで分離工程で分離した活物質粉末50gを添加した。そして、液温を80℃に加温し、攪拌ペラによる攪拌を4時間保持して混合し、活物質粉末を溶解してニッケルを浸出させた。なお、活物質粉末を浸出している間は、pHを測定し、pH値が1.5を越えないように適宜硫酸溶液を添加してpHを維持した。
【0065】
(固液分離工程)
第2の浸出工程を経て得られたスラリー状の浸出液を真空濾過装置(DTC-21型小型真空ポンプ、株式会社アルバック製)を用いてニッケル浸出液と浸出残渣とに固液分離し、分離した浸出残渣を回収した。
【0066】
回収した浸出残渣は、別の新たな発泡ニッケル板を第1の浸出工程で処理する際に、硫酸溶液を入れた反応容器にその新たな発泡ニッケル板と共に添加し、上記と同様の条件で第1の浸出工程及び第2の浸出工程を経て浸出処理した。すなわち、得られた浸出残渣を第1の浸出工程に繰り返し、再び浸出させた。
【0067】
実施例1では、固液分離して得られた浸出残渣を第1の浸出工程における硫酸溶液に繰り返し投入するようにし、上述した一連の浸出処理を10回繰り返し行った。
【0068】
そして、10回の浸出処理の終了後、最後に残った浸出残渣と得られた浸出液を回収し、供試した使用済みニッケル水素電池の正極材に含有されたニッケルが浸出液に分配した割合を浸出率として算出した。表1に、発泡ニッケル板及び活物質粉末の10回の原料積算値、最終的に得られた残渣量、及び算出したニッケル浸出率を示す。
【0069】
なお、最終的に得られたニッケル浸出液のpHは1.5で、液量は5Lであり、このニッケル浸出液中のフリー硫酸濃度は、58g/Lであった。
【0070】
【表1】

【0071】
〔比較例1〕
実施例1と同様に、使用済みニッケル水素電池から取り出した発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離し、ニッケルの浸出処理を行った。
【0072】
比較例1では、310g/Lの遊離硫酸濃度に調整した硫酸溶液363ml中に発泡ニッケル板25gを添加し、80℃に加温してエアバブリングによる攪拌混合を4時間継続して、発泡ニッケル板を溶解してニッケルを浸出させた。また、同時に、pH1.5(58g/Lの遊離硫酸濃度)に調整した新たな硫酸溶液500ml中に活物質粉末50gを添加し、液温を80℃に加温して、攪拌ペラによる攪拌混合を4時間継続して、活物質粉末を溶解してニッケルを浸出させた。なお、活物質粉末を浸出している間は、pHが1.5を越えないように適宜硫酸を添加してpHを一定に維持した。
【0073】
このように、比較例1では、実施例1のように発泡ニッケル板からニッケルを浸出させて得られた浸出スラリーに活物質粉末を添加して溶解させず、分離した発泡ニッケル板及び活物質粉末をそれぞれ別々の硫酸溶液を用いて溶解させ、それぞれ別々に単独でのニッケル浸出処理を行った。
【0074】
次に、発泡ニッケル板及び活物質粉末のそれぞれ別々の浸出処理を経て得られたスラリー状の浸出液を、それぞれ真空濾過装置(DTC-21型小型真空ポンプ、株式会社アルバック製)を用いて浸出液と浸出残渣とに固液分離した。
【0075】
そして、比較例1では、発泡ニッケル板及び活物質粉末のそれぞれ別々の浸出処理で得られた浸出残渣は、実施例1とは異なり、再び浸出処理には繰り返さなかった。すなわち、比較例1では、浸出残渣を繰り返し用いて再び浸出させずに、新しい原料(発泡ニッケル板及び活物質粉末)のみで浸出処理を各10回行った。
【0076】
各10回の浸出処理の終了後、得られた各10回分の浸出残渣と浸出液とをそれぞれ回収し、ニッケルの浸出率を算出した。表2に、発泡ニッケル板及び活物質粉末の各10回の原料積算値、最終的に得られた残渣量、及び算出したニッケル浸出率(発泡ニッケル板及び活物質粉末の総浸出率)を示す。また、表2には、別々に浸出処理を行った発泡ニッケル板と活物質粉末との残渣移行率、残渣物量、及び残渣中ニッケル量の詳細も示す。
【0077】
なお、最終的に得られたそれぞれのニッケル浸出液は、発泡ニッケル板の浸出処理により得られた浸出液が、液量3.63Lでフリー硫酸濃度200g/Lのニッケル溶液であり、活物質粉末の浸出処理により得られた浸出液が、液量5LでpH1.5(フリー硫酸濃度58g/L)のニッケル溶液であった。
【0078】
【表2】

【0079】
以上の結果に示されるように、ニッケルを含有する部材の酸に溶解性の違いを利用し、ニッケルの浸出処理を第1の浸出工程と第2の浸出工程との2段に分けて、先ず発泡ニッケル板を浸出させ(第1の浸出工程)、次にその得られた浸出スラリーに活物質粉末を添加して浸出させるようにし(第2の浸出工程)、そして第2の浸出工程で得られた浸出残渣を第1の浸出工程に繰り返し再び浸出に供するようにした実施例1では、100%に近い高い浸出率でニッケルを浸出させることができた。一方で、発泡ニッケル板と活物質粉末を別々の硫酸溶液を用いてそれぞれ浸出させ、またそれぞれ得られた浸出残渣を繰り返して再び浸出させなかった比較例1では、浸出率が92.5%となり、浸出ロスが生じた。
【0080】
また、比較例1に比べて実施例1では、最終的に得られたニッケル浸出液中に含まれていたフリー硫酸濃度を大幅に低下させることができた。これにより、実施例1で得られたニッケル浸出液では、ニッケルを回収した後に廃水処理に際して、添加する消石灰等の中和剤の使用量を効果的に低減でき、経済的な廃水処理が可能となることが分かった。一方で、比較例1では、発泡ニッケル板の浸出処理により得られた浸出液中に200g/Lものフリー硫酸が含まれ、また活物質粉末の浸出処理により得られた浸出液中にも58g/Lのフリー硫酸が含まれており、さらに合計液量も多く、多量の中和剤を使用して廃液処理しなければならないことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みニッケル水素電池の正極材から、発泡ニッケル板と活物質粉末とを分離する分離工程と、
上記分離工程にて分離した発泡ニッケル板を硫酸溶液に投入して溶解し、ニッケルの浸出スラリーを得る第1の浸出工程と、
上記第1の浸出工程にて得られた浸出スラリーに上記活物質粉末を投入して溶解し、ニッケル浸出液と浸出残渣とを得る第2の浸出工程と、
上記第2の浸出工程にて得られたニッケル浸出液と浸出残渣とを固液分離する固液分離工程とを有し、
上記固液分離工程にて分離された上記浸出残渣を、上記第1の浸出工程における上記硫酸溶液に投入し繰り返し浸出することを特徴とするニッケルの浸出方法。
【請求項2】
上記第2の浸出工程では、上記浸出スラリー中に残留する遊離硫酸により上記活物質粉末を浸出することを特徴とする請求項1記載のニッケルの浸出方法。
【請求項3】
上記第1の浸出工程における硫酸溶液は、300〜350g/Lの遊離硫酸を含むことを特徴とする請求項1又は2記載のニッケルの浸出方法。
【請求項4】
上記第1の浸出工程及び上記第2の浸出工程では、浸出液のpHを1.5程度に調整することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のニッケルの浸出方法。
【請求項5】
上記第1の浸出工程及び上記第2の浸出工程では、空気や酸素ガスの吹き込み、又は過酸化水素の添加を行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のニッケルの浸出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−1916(P2013−1916A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131449(P2011−131449)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】