説明

ニッケルクロム合金触媒およびその製造方法

【課題】低コストで長時間にわたり触媒機能が持続できるニッケルクロム合金触媒およびその製造方法を提供する。
【解決手段】組織中に、ニッケルおよびクロムを含有する微粒子が分散しているニッケルクロム合金触媒とする。また、組織にニッケルクロム酸化物(NiCr)を有するニッケルクロム合金触媒とすることもできる。さらに、微粒子には70mass%以上95mass%以下のニッケルを含有するニッケルクロム合金触媒とすることもできる。製造方法については、水蒸気および炭化水素系ガスの雰囲気下において、ニッケルクロム合金触媒を活性化処理温度まで加熱処理するニッケルクロム合金触媒の製造方法とする。また、加熱処理前に酸化処理および還元処理を行うこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンガス等の炭化水素系ガスより水素を取り出すニッケルクロム合金触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出量削減を目的として化石燃料に替わる多種多様なクリーンエネルギーが開発されている。中でも、水素を燃料源とする燃料電池は天然ガスから水素を取り出して(発生させて)水のみを排出するという点で注目を集めている。燃料電池の主な用途は自動車用や家庭用であり、特に家庭用燃料電池の普及は年々少しずつ広がっている。
【0003】
しかし、燃料電池に内蔵されており、炭化水素系ガスから水素を取り出す役割を果たす触媒には白金またはルテニウムが主に使用されていることから、比較的高価な金属材料を使用するので燃料電池価格の高騰にむすびついているという問題があった。そのため、従来からの白金やルテニウムと同等以上の転化率(炭化水素系ガスから水素が生成される割合)を有して、かつ比較的安価な触媒材料が求められてきた。
【0004】
そこで、特許文献1では安価な触媒材料としてニッケル基合金の一種であるニッケルアルミニウム(NiAl)合金触媒が開示されている。このニッケルアルミニウム合金触媒は、金属間化合物であるNiAlの組織中にニッケル(Ni)微粒子を分散させることが提案されている。この触媒は、メタノールまたは炭化水素系ガスと水蒸気との反応により水素を生成する触媒である。
【0005】
また、特許文献2では他のニッケル基合金として、燃料電池の触媒担持用炭素材料等の用途で使用されるニッケルクロム(NiCr)合金触媒が開示されている。このニッケルクロム合金触媒は、表面上に優れた電気的特性および化学的特性を有するカーボンナノチューブを生成させることを特徴とするものである。この表面組織(金属酸化物層)にはニッケル酸化物(NiO)とクロム酸化物(Cr)とが形成されており、触媒作用を有するニッケル(Ni)微粒子を分散することが提案されている。
【0006】
さらに、これらの触媒の製造方法については、特許文献1では触媒となるニッケルアルミニウム合金を酸化処理および還元処理する方法が開示されている。この酸化処理によりニッケルアルミニウム合金表面において触媒前駆体であるNiAlをニッケル酸化物およびアルミニウム酸化物とする。また、酸化処理に引続いて行う還元処理により、ニッケル酸化物をニッケル微粒子とする。このニッケル微粒子が主に触媒機能を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−75799号
【特許文献2】特開2007−262509号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されたニッケルアルミニウム合金触媒は組織中に金属間化合物であるNiAlを析出させておく必要がある。そのため、ニッケルアルミニウム合金触媒は製造時において前加工や熱処理などの特殊処理を必要とするので、製造の際にはコスト増および製造工数増になるという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載のニッケルクロム合金では表面上に形成するカーボンナノチューブは組織中のニッケル(Ni)微粒子を起点として成長する。そのため、触媒機能を主に担うニッケル微粒子と組織との密着性が弱い場合には、ニッケル微粒子が組織から容易に離脱して、時間と共に触媒機能が低下するという問題があった。
【0010】
さらに、これらの触媒の製造方法については特許文献1に開示された方法、すなわち触媒の製造工程において酸化処理および還元処理で製造する場合には、前述した微粒子が組織中に現れる割合が少ない、若しくは微粒子が局所に偏在しているので長時間にわたって触媒機能が持続しないという問題があった。
【0011】
そこで、本発明においては前述した問題点に鑑みて、低コストで長時間にわたり触媒機能を持続できる水素生成用ニッケルクロム合金触媒およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、かかる課題を解決するために従来の触媒材料であったニッケルアルミニウム合金やニッケルクロム合金などに代表されるニッケル基合金について鋭意研究した結果、ニッケルクロム合金において、その組織中にニッケルおよびクロムを含有する微粒子が分散していることが触媒材料として有効であることを知得した。
【0013】
この知得により、本発明においては組織中にニッケルおよびクロムを含有する微粒子が分散しているニッケルクロム合金触媒とした。これによって本発明に係るニッケルクロム合金触媒は、その微粒子と組織との親和性が高くなり、ニッケルおよびクロムを含有する微粒子は組織中で化学的に安定する構造となる。その結果、特許文献2に記載されているカーボンナノチューブ等の炭素(C)の析出を抑制できる。
【0014】
また、請求項2に係る発明は、組織はニッケルクロム酸化物(NiCr)を有する組織であるニッケルクロム合金触媒とした。さらに、請求項3に係る発明は、ニッケルクロム合金触媒の組織中に分散している微粒子は70mass%以上95mass%以下のニッケルを含有する微粒子であるニッケルクロム合金触媒とした。
【0015】
本発明に係るニッケルクロム合金触媒の製造方法については、請求項4に係る発明を水蒸気および炭化水素系ガスの雰囲気下において、ニッケルクロム合金触媒を活性化処理温度まで加熱処理するニッケルクロム合金触媒の製造方法とした。これにより、ニッケルクロム合金触媒の組織中に前述した微粒子が現れる割合が増加する。また、請求項5に係る発明を加熱処理前に酸化処理および還元処理を行うニッケルクロム合金触媒の製造方法とした。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明においては、組織中に、ニッケルおよびクロムを含有する微粒子が分散しているニッケルクロム合金触媒とした。これにより微粒子と組織との親和性が高くなり、ニッケルおよびクロムを含有する微粒子は組織中で化学的に安定する構造となる。その結果、微粒子が組織から抜け落ちにくく(離脱しにくく)、長時間にわたり触媒機能を十分に発揮できるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係るニッケルクロム合金触媒の製造方法については、蒸気および炭化水素系ガスの雰囲気下において、ニッケルクロム合金触媒を活性化処理温度まで加熱処理するニッケルクロム合金触媒の製造方法とする。これにより、組織中に前述の微粒子が現れる割合が増加するので、触媒機能が向上するという効果を奏する。その上、前述した特許文献1に記載されているニッケルアルミニウム合金触媒のように、前加工や特殊な熱処理も不要であるため低コストにて製造できるという効果も有する。
【0018】
さらに、本発明に係るニッケルクロム合金触媒は、NiAl、NiAl、NiAlなどの金属間化合物を含有するニッケルアルミニウム合金触媒に比べて延性や展性に優れているので、箔状への圧延加工の他に、線材への加工も容易に行うことができる。したがって、加工した線材を編みこむことで織物状の触媒として生産できる他に、線材と線材間との目開きを自在に調節することで様々なメッシュサイズの網目状の触媒も生産できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例で用いた触媒処理システムの概略図である。
【図2】実施例1における触媒反応試験終了後の触媒Aの表面組織(倍率:10000倍)である。
【図3】実施例1における触媒反応試験終了後の触媒Bの表面組織(倍率:10000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。本発明に係るニッケルクロム合金触媒は、組織(表面組織)中にニッケルおよびクロムを含有する微粒子が分散しているニッケルクロム合金触媒とした。本発明者は、ニッケルおよびクロムを含有する微粒子が組織中で化学的に安定する理由として以下のように考える。
【0021】
すなわち、組織中にニッケルのみから成る微粒子が分散している場合には、微粒子と組織とでは異種金属同士であることから、その境界部分は化学的また電気的に不安定である。そのため、触媒として使用する際の高温雰囲気やメタンガス等の炭化水素ガス雰囲気に晒されると、微粒子が組織から容易に脱落し、触媒機能を果たせなくなる。
【0022】
ところが、本発明に係るニッケルクロム合金触媒は、分散している微粒子にはニッケルおよびクロムを含有しているため、微粒子は主に外周部において組織中のクロム酸化物(Cr)と親和性を高めると同時に、組織中のニッケル酸化物(NiO)とも親和性を高めている。そのため、微粒子中のクロムおよびニッケルが周囲の組織との関係で接着効果を発揮するので、組織全体として化学的に安定した構造となっている。
【0023】
したがって、本発明に係るニッケルクロム合金触媒は、高温雰囲気や炭化水素系ガス雰囲気であっても微粒子が組織と強固に結びついており、触媒機能を長時間にわたり充分に発揮できると考える。
【0024】
また、本発明に係るニッケルクロム合金触媒の製造方法については、水蒸気および炭化水素系ガスの雰囲気下において、ニッケルクロム合金触媒を活性化処理温度まで加熱処理するニッケルクロム合金触媒の製造方法とした。特に、加熱処理を水蒸気およびメタンやエタンなどの炭化水素系ガスの雰囲気下にて行うことで、前処理にて酸化処理や還元処理が行われていない場合であっても、加熱処理中に酸化反応および還元反応が同時に進行すると考えられる。
【0025】
ここで、本願における活性化処理温度とは、メタンやエタンなどの活性化ガスによりニッケルクロム合金触媒を活性化処理する際の温度をいう。加熱処理については以下に説明する。
【0026】
加熱処理は、ニッケルクロム合金触媒を封入した大気雰囲気下または減圧雰囲気下の容器または炉内を常温から加熱することで行う。前処理として還元処理を行っている場合には、還元処理が一旦終了してからニッケルクロム合金触媒を封入した容器や炉内を再加熱することで行うこともできる。また、還元処理にてニッケルクロム合金触媒を封入した容器や炉内を加熱している状態であれば、昇温(加熱)または降温(冷却)することで還元処理から連続して行うこともできる。
【0027】
活性化処理温度は、ニッケルクロム合金触媒の反応温度よりも高い温度で行うことが好ましい。反応温度とは触媒反応が進行する温度をいう。特に、本願においては水蒸気とメタンガスとの反応によって水素を発生させるためにニッケルクロム合金触媒が触媒として機能を発揮する特定の温度をいう。例えば、本発明に係るニッケルクロム合金触媒の反応温度、すなわち触媒反応を進行させる温度が700℃の場合には720℃や760℃など700℃を超える温度で予め加熱処理を行う。また、反応温度が900℃の場合には910℃や950℃など900℃を超える温度で予め加熱処理を行う。
【0028】
すなわち、本発明における活性化処理温度はニッケルクロム合金触媒による触媒反応を進行させる温度(反応温度)によって定まる温度である。加熱時間は、本発明に係るニッケルクロム合金触媒全体が加熱温度に充分に到達する時間であることが好ましい。
【0029】
なお、本発明に係るニッケルクロム合金触媒について組織にはニッケルクロム酸化物(NiCr)の他に、クロム酸化物(Cr)、ニッケル酸化物(NiO)や製造工程において微量の不可避的な不純物なども含まれるものとする。また、本発明に係るニッケルクロム合金触媒を改質器内に設置して使用する場合には、上述した反応温度を作動温度、運転温度および使用温度等と呼ぶこともできる。
【実施例1】
【0030】
ニッケルクロム合金触媒のミクロ組織によるメタン転化率への影響を確認するために触媒反応試験を行った。その結果について表1および図1を用いて説明する。表1は触媒反応試験におけるニッケル基合金(ニッケルクロム合金およびニッケルクロム鉄合金)のメタン転化率(単位:%)の経時変化を示す。また、図1は本実施例で用いた触媒処理システムの概略図を示す。
【0031】
ここで、メタン転化率とは触媒反応中に供給したメタン量に対する水素発生に寄与したメタン量の割合をいう。具体的には、図1に示すガスクロマトグラフ4およびフローメータ8により測定されたCO量(mL/min)、CO量(mL/min)およびCH量(mL/min)を用いて、
メタン転化率(%)=(CO量+CO量)/(CO量+CO量+CH量)×
100
の式に基づいて算出した。
【0032】
また、本試験に用いた試料は本発明に係るニッケルクロム合金(組成は重量%で、ニッケル80%、クロム20%)および比較材としてのニッケルクロム鉄合金(インコネル(登録商標)600、組成は重量%でニッケル76%、クロム16%、鉄8%)とした。ニッケルクロム合金およびニッケルクロム鉄合金は共に塊状のニッケルクロム合金およびニッケルクロム鉄合金を幅5mm、長さ200mm、厚さ0.03mmの箔状に圧延加工した後、渦巻き形状にしたものを触媒(試料)として使用した。
【0033】
本試験に用いた本発明に係るニッケルクロム合金を触媒Aとし、比較材であるニッケルクロム鉄合金(インコネル(登録商標)600)を触媒Bとする。また、本試験は酸化処理および還元処理による前処理を行った後、ガス量の測定を行った。本試験における各処理の手順について以下に説明する。
【0034】
最初に酸化処理の手順から説明する。図1に示すように試料1の上下方向に厚さ約10mmの石英ウール10を内径8mmの石英管2内に装填する。その後、毎分30mLの割合で図示しない窒素ボンベより蒸発器9を通して窒素ガスを石英管2内へ供給しながら、石英管2の外周面をアルミニウムブロック炉3に内蔵した電熱ヒータにより毎分15℃の昇温速度で600℃になるまで加熱した。石英管2内に水素が残留していないことをガスクロマトグラフ4により確認した後、毎分20μLの純水を純水収容部5よりポンプ6を経由して蒸発器9にて気化した水蒸気を石英管2内へ60分間追加供給した。その後に水蒸気の供給を止めた。
【0035】
次に、還元処理の手順を説明する。上述の酸化処理にて水蒸気の供給を止めた後、窒素ガスの供給を毎分5mLの割合まで減らした状態で、図示しない水素ガスボンベより蒸発器9を通して新たに水素ガスを毎分30mLの割合で石英管2内へ60分間供給し続けた。その後、水素ガスの供給を止めて石英管2内に残留した水素がないことをガスクロマトグラフ4により確認した。本処理中の石英管2の温度は終始600℃で保持した。
【0036】
触媒反応により発生する種々のガスの測定方法は、還元処理にて石英管2の温度が600℃になっているので、石英管2の温度を800℃まで昇温しながら窒素ガスを毎分30mL、メタンガスを毎分25mL、水蒸気を毎分25mL(純水量として20μL)の各割合で石英管2内へ供給し続ける。石英管2の温度が800℃に達して、30分間保持した後に石英管2から排出されるCO(一酸化炭素)、CO(二酸化炭素)、CH(メタン)などの全てのガス量の測定をコールドトラップ7に通した後にフローメータ8を用いて測定を開始した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1は上述したように触媒AおよびBにおいて全てのガス量の測定開始から20分〜1200分(20時間)経過時までのメタン転化率(%)の変化を示すものである。本発明に係る触媒Aの場合は、表1に示すように測定開始から20分経過後はメタン転化率が23.4%であり、その後120分(2時間)経過後では15.0%であり、20分経過時の場合のメタン転化率の3分の2まで低下した。しかし、測定開始から1200分(20時間)経過後でもメタン転化率は12.4%であり、120分経過時以降のメタン転化率の低下はわずか2.6%に留まった。
【0039】
これに対して、比較材である触媒Bは表1に示すように20分経過時のメタン転化率は6.5%であり、すでに触媒Aのメタン転化率に比べて4分の1の値であった。その後、測定開始から120分経過時は4.2%であり、840分経過時には触媒BからCOおよびCOが発生しなくなった。したがって最終的にはメタン転化率は0になった。それ以降、メタン転化率が変化することはなかった。
【0040】
ここで、触媒AおよびBのミクロ組織と触媒機能との関連性について考察する。本試験を終了した触媒AおよびBを常温まで冷却された石英管から取り出して、これらの表面組織を電子顕微鏡により観察した(倍率:10000倍)。その結果を図2および図3に示す。本発明に係る触媒Aの表面組織は、図2に示すように主にクロム酸化物(Cr)から成る組織中に最大粒径が1μm未満の微粒子が多数分散している組織であった。また、この微粒子はEPMA(電子線マイクロアナライザ)により分析した結果、ニッケルおよびクロムを含有している構造であった。さらに、微粒子を構成する元素をいくつか詳細に分析した結果、ニッケルが70mass%以上95mass%以下、クロムが5mass%以上12mass%以下の範囲にあることが判明した。
【0041】
これに対して、比較材である触媒Bの表面組織は、図3に示すように主にクロム酸化物(Cr)から成る組織中に最大粒径が2μm未満の微粒子および鉄を固溶したニッケルのみから成る粒径10μm以上の凝集物が存在していた。触媒Bにおける凝集物が時間と共に粒成長するかもしくは消滅すると、触媒Aのような組織中に微粒子が多数分散している場合に比べて、触媒B表面全体に占める凝集物の表面積の割合が減少するので、結果として触媒機能が時間と共に低下したと考えられる。
【0042】
以上の結果より、組織中にニッケルおよびクロムを含有する微粒子が分散しているニッケルクロム合金は、組織中に鉄を固溶したニッケルのみから成る凝集物が存在(または偏在)するニッケルクロム鉄合金に比べて、長時間にわたる触媒機能を発揮した。
【実施例2】
【0043】
次に、ニッケルクロム合金触媒の前処理によるメタン転化率への影響を確認するために触媒反応試験を行った。その結果について表2および図1を用いて説明する。表2は、触媒反応試験におけるニッケルクロム合金触媒のメタン転化率(単位:%)の経時変化を示す。
【0044】
メタン転化率は実施例1と同一式に基づいて算出した。また、本試験に用いたニッケルクロム合金触媒は、実施例1と同様に塊状のニッケルクロム合金(組成は重量%で、ニッケル80%、クロム20%)を幅5mm、長さ200mm、厚さ0.03mmの箔状に圧延加工した後、渦巻き形状にしたものを触媒(試料)として使用した。
【0045】
本試験は、本発明の製造方法に係る水蒸気および炭化水素系ガスの雰囲気下で活性化処理温度まで加熱処理したニッケルクロム合金触媒(以下、触媒Cとする)と、従来からの製造方法である酸化処理および還元処理のみを行ったニッケルクロム合金触媒(以下、触媒Dとする)の2種類のニッケルクロム合金触媒を用いた。酸化処理および還元処理の手順や条件、そして触媒反応に伴い排出されるガス量の測定方法については実施例1と同様である。加熱処理の手順について以下に説明する。
【0046】
加熱処理の手順は、図1に示す石英管2内へ窒素ガスを毎分30mLの割合で供給しながら、石英管2の温度が600℃になるまで毎分2.5℃の昇温速度で加熱した。石英管2の温度が600℃以降900℃までの間は、石英管2内へメタンガスを毎分25mLの割合で、水蒸気を毎分25mL(純水量として20μL)の割合で追加供給した。その後、石英管2内の温度が900℃に達して30分間保持したところで本試験の測定を開始した。
【0047】
【表2】

【0048】
表2は上述したように触媒反応試験における測定開始から20分〜1200分(20時間)経過時までの触媒CおよびDのメタン転化率(%)の変化を示すものである。水蒸気およびメタンガスの雰囲気下で活性化処理温度まで加熱処理したニッケルクロム合金触媒(触媒C)は、表2に示すように測定開始から20分経過後はメタン転化率が49.2%であり、その後徐々にメタン転化率が上昇して120分(2時間)経過後には51.0%の最高値を示した。その後、メタン転化率は徐々に低下して900分(15時間)経過時には48.2%になり、1200分(20時間)経過後には46.7%になった。最終的には120分経過時の最高値(51.0%)よりも低下したが、わずか4.3%の低下幅であった。
【0049】
これに対して、酸化処理および還元処理のみ行ったニッケルクロム合金触媒(触媒D)は、表2に示すように20分経過時のメタン転化率は48.7%であり、触媒Cと同程度のメタン転化率であった。その後、メタン転化率は徐々に上昇して240分(4時間)経過時には52.6%の最高値を示した。この最高値も触媒Cの最高値51.0%と同程度であった。240分経過後はメタン転化率が徐々に低下して、最終的には1200分(20時間)経過時のメタン転化率は48.2%となった。これは、240分(4時間)経過時の最高値52.6%に比べて、わずか4.4%低下したに過ぎない。つまり、触媒Cの場合の低下幅である4.3%と同程度であった。
【0050】
以上の結果より、水蒸気および炭化水素系ガスの雰囲気下で活性化処理温度まで加熱処理したニッケルクロム合金触媒は、酸化処理および還元処理のみを行ったニッケルクロム合金触媒と同等のメタン転化率を示した。すなわち、ニッケルクロム合金触媒を水蒸気および炭化水素系ガスの雰囲気下で活性化処理温度まで加熱処理したことにより従来の前処理であった酸化処理および還元処理を行わなくとも同等の触媒機能を発揮できる。したがって、本発明に係るニッケルクロム合金触媒の製造方法は、ニッケルクロム合金触媒の製造工数の削減および製造コストの低減という効果を有する。
【0051】
なお、本実施例では石英管2内の温度が900℃に達した後に本試験の測定を開始したが、900℃での加熱処理後に常温まで冷却して、その後に再び900℃へ加熱して測定を開始した場合でも本実施例と同様の結果が得られることは言うまでもない。また、本実施例では毎分2.5℃の昇温速度で加熱したが、昇温速度の如何に関わらず本実施例と同様の結果が得られることは言うまでもない。さらに、本実施例では炭化水素系ガスとしてメタンガスを用いたが、他にエタンガスやブタンガス等のガスを用いることもできる。
【実施例3】
【0052】
次に、ニッケルクロム合金触媒に対する酸化処理および還元処理後の加熱処理による水素生成量およびメタン転化率の影響を確認するために水素生成量測定試験を行った。その結果について表3、表4および図1を用いて説明する。表3は本試験におけるニッケルクロム合金触媒のメタン転化率の経時変化を示し、表4は本試験におけるニッケルクロム合金触媒の水素生成量の経時変化を示す。
【0053】
メタン転化率は実施例1に示す同一式に基づいて算出した。水素生成量については、図1に示すガスクロマトグラフ4およびフローメータ8により測定されたH量(水素量)から算出した。また、本試験に用いたニッケルクロム合金触媒は、実施例1の場合と同様に塊状のニッケルクロム合金(組成は重量%で、ニッケル80%、クロム20%)を幅5mm、長さ200mm、厚さ0.03mmの箔状に圧延加工した後、渦巻き形状にしたものを触媒(試料)として使用した。
【0054】
本試験は、本発明の製造方法に係る酸化処理および還元処理の後に加熱処理を行ったニッケルクロム合金触媒(以下、触媒Eとする)と、従来からの製造方法による酸化処理および還元処理のみ行ったニッケルクロム合金触媒(以下、触媒Fとする)の2種類のニッケルクロム合金触媒を用いた。酸化処理および還元処理の手順や条件については実施例1と同様である。還元処理後の加熱処理の手順について以下に説明する。
【0055】
加熱処理の手順は、還元処理にて図1に示す石英管2内に水素が残留していないことがガスクロマトグラフ4により確認した後、石英管2の温度が活性化処理温度(900℃)になるまで毎分2.5℃の昇温速度で加熱すると同時に、石英管2内への窒素ガスの供給を再び毎分30mLの割合まで増やした。また、純水収容部5からポンプ6を経由して蒸発器9により気化した水蒸気を毎分25mL(純水量として20μL)の割合で、蒸発器9を通してメタンガスを毎分25mLの割合で新たに供給した。石英管2の温度が900℃に達して30分間保持した後、触媒Eを800℃まで冷却して、水素生成量の測定を行うと同時にメタン転化率を算出した。また、本測定では触媒の反応温度を800℃として行った。
【0056】
水素生成量の測定方法は、触媒Eについては、加熱処理にて石英管2の温度が900℃になっているので、石英管2の温度を800℃まで冷却した後に、加熱処理と同様の条件で窒素ガスを毎分30mLの割合で、メタンガスを毎分25mLの割合で、水蒸気を毎分25mL(純水量として20μL)の割合で石英管2内へ供給し続ける。同時に石英管2内で発生する水素ガスの割合をガスクロマトグラフ4により測定した。また、石英管2から排出されるCO(一酸化炭素)、CO(二酸化炭素)、CH(メタン)などの全てのガス量の測定は、排出されるガスをコールドトラップ7に通した後にフローメータ8を用いて測定した。触媒Fについては酸化処理および還元処理を行った後、石英管2を加熱して、その温度が800℃に到達すると、それ以降は触媒Eと同様の方法で測定した。
【0057】
【表3】

【0058】
表3は上述したように触媒EおよびFにおいて水素生成量の測定開始から20分〜1200分(20時間)経過時までのメタン転化率(%)の変化を示すものである。酸化処理および還元処理の後に水蒸気およびメタンガスの雰囲気下にて活性化処理温度(900℃)まで加熱処理を行ったニッケルクロム合金触媒である触媒Eの場合は、表3に示すように測定開始から20分経過後はメタン転化率が26.4%であった。その後、240分(4時間)経過後でも25.1%であり、20分経過時の場合に比べて1.3%程度の低下が見られた。そして、測定開始から1200分(20時間)経過後でもメタン転化率は24.6%であり、20分経過時の場合(26.4%)よりもメタン転化率がわずか1.8%程度低下しただけであった。
【0059】
これに対して、酸化処理および還元処理のみ行ったニッケルクロム合金触媒である触媒Fは表3に示すように20分経過時のメタン転化率は23.4%であり、触媒Eと同程度のメタン転化率であった。しかし、測定開始から40分経過時は21.1%であり、240分経過時には12.6%まで低下して、20分経過時の約半分にまで低下した。その後、1200分経過時までメタン転化率は12.6%から12.4%までわずかに低下して、最終的には触媒Eのメタン転化率の半分程度にまで低下した。
【0060】
【表4】

【0061】
次に、表4は上述したように触媒EおよびFにおいて水素生成量の測定開始から20分〜1200分(20時間)経過時までの水素生成量(mL/min)の変化を示すものである。触媒Eは表4に示すように、測定開始から20分経過後は水素生成量が20.2mL/minであり、その後120分(2時間)経過後でも19.3mL/minであり、20分経過時の水素生成量に対して5%程度の低下が見られた。そして、測定開始から1200分(20時間)経過後も水素生成量は18.7mL/minであり、20分経過時の水素生成量に対して8%程度の低下であった。
【0062】
これに対して、触媒Fは表4に示すように20分経過時の水素生成量は16.9mL/minであり、触媒Eの水素生成量に対してすでに約17%も下回る結果であった。また、40分経過時は14.6mL/minであり、240分経過時には7.4mL/minまで低下して、20分経過時の半分以下にまで低下した。その後、1200分経過時までメタン転化率は7.4mL/minから7.3mL/minまでわずかに低下した。最終的には、触媒Aの水素生成量の約40%に相当する量となった。
【0063】
ここで、触媒EおよびFのミクロ組織と水素生成量およびメタン転化率との関連性について考察する。実施例1の場合と同様に本試験を終了した触媒EおよびFを常温まで冷却した石英管から取り出して、これらの表面組織を電子顕微鏡、EPMA(電子線マイクロアナライザ)、XRD(X線回折機器)により観察、分析した。その結果、触媒Eの表面組織は、クロム酸化物(Cr)およびニッケルクロム酸化物(NiCr)を有する組織中に最大粒径が5μm未満の微粒子が多数分散している組織であった。また、この微粒子はEPMAにより分析した結果、実施例1の場合と同様にニッケルおよびクロムを含有している構造であった。
【0064】
これに対して、触媒Fの表面組織は実施例1の触媒Aと同様に主にクロム酸化物(Cr)から成る組織中に最大粒径が5μm未満の微粒子が分散している組織であった。また、これらの微粒子はニッケルおよびクロムを含有していた。
【0065】
以上の結果より、酸化処理および還元処理の後に水蒸気および炭化水素系ガスの雰囲気下にて活性化処理温度まで加熱処理を行ったニッケルクロム合金触媒、すなわちニッケルクロム酸化物(NiCr)を有する組織(表面組織)中にニッケルおよびクロムを含有する微粒子が分散しているニッケルクロム合金触媒は、酸化処理および還元処理のみを行ったニッケルクロム合金触媒に比べて、メタン転化率および水素生成量共に倍以上の触媒機能を発揮した。
【0066】
なお、本実施例では反応温度が800℃である場合に活性化処理温度を900℃として加熱処理を行い、水素生成量およびメタン転化率測定を行ったが、加熱処理の温度については800℃超の温度であれば、例えば820℃、850℃、880℃などの温度で加熱処理を行っても同様の効果が得られることは言うまでもない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織中に、ニッケルおよびクロムを含有する微粒子が分散していることを特徴とするニッケルクロム合金触媒。
【請求項2】
前記組織は、ニッケルクロム酸化物(NiCr)を有する組織であることを特徴とする請求項1に記載のニッケルクロム合金触媒。
【請求項3】
前記微粒子は、70mass%以上95mass%以下のニッケルを含有する微粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のニッケルクロム合金触媒。
【請求項4】
水蒸気および炭化水素系ガスの雰囲気下において、ニッケルクロム合金触媒を活性化処理温度まで加熱処理することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のニッケルクロム合金触媒の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理の前に酸化処理および還元処理を行うことを特徴とする請求項4に記載のニッケルクロム合金触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−170938(P2012−170938A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38133(P2011−38133)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】