説明

ニトリルゴム

【課題】ニトリルゴムを提供する。
【解決手段】改良された鉄ベースの酸化還元系の使用によって、より一様なモノマー分布および長鎖分岐のより低い分率を特色とする、それ故に非常に良好な加工時の特性と同時に向上した流動特性で区別される、特殊な新規の、任意選択により水素化されていてもよいニトリルゴムを製造することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の、任意選択により水素化されていてもよいニトリルゴムの製造方法に、これらの任意選択により水素化されていてもよいニトリルゴムそれ自体に、およびそれらを含む加硫可能な混合物に、ならびにまたこれらの混合物からの加硫物の製造方法に、および生じる加硫物に関する。
【背景技術】
【0002】
省略形で「NBR」とも言われる、ニトリルゴムは、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および任意選択により場合によっては1種以上の他の共重合可能なモノマーのコポリマーまたはターポリマーであるゴムである。省略形で「HNBR」とも言われる、水素化ニトリルゴムは、ニトリルゴムを水素化することによって製造される。これに対応して、HNBRでは、共重合したジエン単位のC=C二重結合は、完全にまたは部分的に水素化されている。共重合したジエン単位の水素化度は、典型的には50%〜100%の範囲にある。
【0003】
かかるニトリルゴムの製造方法は公知である−例えば、(非特許文献1)を参照されたい。ニトリルゴムへの重合は典型的には乳化重合として実施され、アゾ開始剤、過硫酸塩、有機過酸化物または酸化還元系によってフリーラジカルで開始することができる。上の参考文献は、例えば、酸化剤としての有機過酸化物、ヒドロペルオキシドまたは過硫酸塩と亜ジチオン酸ナトリウムまたはRongalit(ホルムアルデヒド−スルホキシル酸ナトリウム)などの還元剤との混合物の形態での、主に使用される開始剤系としての酸化還元系を記載している。好ましくはエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、イソフタル酸、リン酸三ナトリウムまたは二リン酸四カリウムなどの好適な錯化剤を添加して、金属塩が助触媒として任意選択によりこの場合に使用される場合もある。開始剤系がゴムの特性に影響を及ぼすかどうか、そうだとしたら、どの程度まで影響を及ぼすかは、研究の主題ではなく、全く考慮されていない。
【0004】
Zeon Corporationの(特許文献1)、(特許文献2)および(特許文献3)はそれぞれ、不飽和ニトリルおよび共役ジエンをベースとするニトリルゴムを記載している。ニトリルゴム全てに共通する特徴は、それらが10重量%〜60重量%の不飽和ニトリルおよび15〜150のまたは、(特許文献1)によれば、15〜65範囲のムーニー(Mooney)粘度を有し、全てが、モノマー単位の100モル当たり少なくとも0.03モルの特有のC12〜C16アルキルチオ基を含有することである。ニトリルゴムはそれぞれ、分子量調整剤として対応して構成されるC12〜C16アルキルチオールであって、連鎖移動剤として機能し、それ故にポリマー鎖中へ末端基として組み込まれるアルキルチオールの存在下に製造される。記載した上記特許出願では、重合は、明記されていない有機過酸化物、酸化還元開始剤、アゾ化合物または過硫酸塩によって開始される。開始剤系がゴムの特性に及ぼす可能性があるいかなる影響も考慮されていない。
【0005】
Goodrich Companyの(特許文献4)には、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、オスミウム、白金などをベースとするメンデレーエフ(Mendeleev)周期表のVIII族からの少量の水溶性金属塩を使用する、ポリ−1,3−ブタジエン、および1,3−ブタジエンと、例えば、アクリロニトリルなどの他の共重合可能なモノマーとのコポリマーを製造する目的のための重合が記載されている。鉄の、コバルトのおよびニッケルの塩が好ましい塩として明記されている。列挙されているかかる塩の典型的な例は、それらが水溶性であるという条件で、一般に、鉄、コバルト、ニッケルおよび他のVIII族金属の塩化物、硝酸塩、ヨウ化物、臭化物、硫酸塩、亜硫酸塩、亜硝酸塩およびチオシアン酸塩である。より多くの酸化状態で存在することができる金属に関しては、それらは酸化形でおよび還元形での両方で、例えば、硫酸鉄(II)または硫酸鉄(III)として使用されてもよいと、一般に言われている。これらの金属塩が使用されるとき、他の共通の開始剤および促進剤が存在するか存在しないかにかかわらず、2、3時間で重合速度のかなりの増加が観察されると言われ、さらに、重合は20〜30℃の低い温度で実施できると言われ、改善された特性、より具体的には改善された破断点伸びおよび引張強度を有するポリマーをもたらすと言われている。実施例では、NBRは、硫酸アンモニウム鉄、塩化コバルトまたは硫酸ニッケルの存在下に、過酸化水素を使用して重合されている。しかしながら、NBR加硫物の特性の研究は全くない。
【0006】
Dow Chemical Companyの(特許文献5)は、ゴムまたは安定なラテックスを形成するための共役ジオレフィンとメチルイソプロペニルケトンとのまたはメチルイソプロペニルケトンおよび別のビニリデンモノマー(例えばアクリロニトリル)の混合物との乳化重合を記載している。これに関連して、ゲル化と、それ故に、製造されるラテックス中のプレ凝固ポリマーの生成とを防ぐためにメチルイソプロペニルケトンモノマーの使用が必要であることが特に強調されている。重合は酸化還元系の存在下に実施される。ホルムアルデヒド−スルホキシル酸ナトリウムが還元剤として、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドが酸化剤として使用される。加えて、酸化還元活性な鉄が、塩化鉄(III)または硫酸鉄(II)の形態で添加される。製造されるラテックスまたはゴムの特性への鉄ベースの酸化還元開始剤系のいかなる影響も解説されていない。
【0007】
Dow Chemical Companyの(特許文献6)は、α−またはβ−コニデンドロール(conidendrol)(ナフト(2,3−c)フラン−1(3H)−オン)の存在下でのゴムの乳化重合を記載している。α−またはβ−コニデンドロールは、第1に重合の速度を高めるために、第2に重合後にその抗酸化作用を得るために重合に添加される。使用されるモノマーは、ブタジエンおよび/またはモノオレフィン系物質の異性体である。酸化還元系のために、実施例および説明によれば、金属塩としての塩化鉄(III)および硫酸鉄(II)がこの乳化重合に添加される。この酸化還元系の成分がゴムの特性にどんな影響を及ぼすかに関しては研究が全くない。
【0008】
(特許文献7)もまた、1,3−ブタジエンと、例えば、アクリロニトリルなどの、1種以上のビニルモノマーとの重合のための塩化鉄(III)または硫酸鉄(II)を含む酸化還元系の使用を開示している。
【0009】
NBRおよびHNBRは両方とも、特殊エラストマーの分野で確固たる地位を何年もの間占めてきた。それらは、優れた耐油性、良好な耐熱性、傑出した耐オゾン性および耐化学薬品性の形態での、優れた特性のプロフィルを有し、後者はNBRの場合よりHNBRの場合にさらにより顕著である。さらに、それらは、非常に良好な機械的特性および性能特性を有する。こういう訳で、それらは多種多様な用途分野で幅広い使用を見いだし、例えば、自動車部門でのシール、ホース、ベルトおよび減衰エレメントの製造に、ならびにまたオイル抽出部門での固定子、坑井シールおよびバルブシール用に、そしてまた電気産業でのならびに機械工学および船舶工学での多数の部品用に用いられている。多数の異なる種類が商業的に入手可能であり、用途の分野に応じて、異なるモノマー、分子量および多分散性ならびにまた機械的および物理的特性を特色とする。標準グレードに加えて、特有のターモノマーを含有するかまたは特定の機能付与を有する特殊グレードが特にますます需要がある。良好なおよび容易な加工特性、特に非常に良好な流動性を有する、かつ、それらの加硫物が良好な機械的特性のプロフィルを示すグレードに対する需要もある。改善された流動性を有するグレードは、例えば、ニトリルゴムにかなりより低いムーニー粘度、それ故により低い平均分子量を与えられるようにする、追加のメタセシスプロセス工程を用いることによって今まで製造可能である。これは追加のプロセス工程であるので、それは、経済的観点から、および、それらの特性のプロフィルの観点から無制限に有益であるとは見られず、得られるニトリルゴムグレードは、必要条件の全ては満たしてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第A−0 692 496号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第A−0 779 301号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第A−0 779 300号明細書
【特許文献4】米国特許第2,451,180号明細書
【特許文献5】米国特許第2,897,167号明細書
【特許文献6】米国特許第2,968,645号明細書
【特許文献7】米国特許第2,716,107号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、VCH Verlagsgesellschaft、Weinheim、1993年、255−261ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それ故、良好なおよび容易な加工特性、特に流動性を有する、かつ、その加硫物が非常に良好な機械的特性のプロフィルを示すニトリルゴムの合成を可能にする方法を提供することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、特殊な酸化還元系を乳化重合のための開始剤として使用するニトリルゴムの新規製造方法によって達成される。
【0014】
本発明は、それ故、乳化重合が、
(i)酸化剤として少なくとも1種のペルオキソ化合物と、
(ii)少なくとも1種の還元剤と、
(iii)塩化Fe(II)と
を含む酸化還元系を使用して実施されることを特徴とする、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および任意選択により場合によっては1種以上の他の共重合可能なモノマーの乳化重合によるニトリルゴムの製造方法を提供する。
【0015】
本発明の方法はまた、水素化反応をその後に行うことによって、水素化ニトリルゴムを製造するために利用することができる。この水素化反応はまた、分子量低減のためのメタセシス反応に先行されてもよい。
【0016】
本発明は、加えて、
(i)酸化剤として少なくとも1種のペルオキソ化合物と、
(ii)少なくとも1種の還元剤と、
(iii)塩化Fe(II)と
を含む酸化還元系を使用する少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および任意選択により場合によっては1種以上の他の共重合可能なモノマーの乳化重合、および水素化ニトリルゴムの場合にはその後の水素化によって得られる、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および任意選択により場合によっては1種以上の他の共重合可能なモノマーに由来する繰り返し単位を有する、任意選択により水素化されていてもよいニトリルゴムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
意外にも、簡単な工程ルートによって、特殊な新規ニトリルゴムおよび完全にまたは部分的に水素化された新規ニトリルゴムを提供することが本発明の方法によって可能である。これらの新規ゴムは、長鎖分岐の非常に低いレベルおよび非常に低いゲル含有率のためにそれらの公知の相当品よりも予想外に優れている。従ってそれらは高い流動性を有し、その結果として、非常に容易に加工することができる。さらに、他の酸化還元系を使用して得られたニトリルゴムと比べて、任意選択により水素化されていてもよいニトリルゴムは、様々なモノマーがポリマー鎖に沿って著しくより一様な分布を有する。この予想外の効果は、下に概説されるように、(Gordon Taylor関係式によって導き出される)ガラス転移温度の幅によって測定することができる。このように、ニトリルゴムを製造するのに使用される、共役ジエン、とりわけ1,3−ブタジエン、およびα,β−不飽和ニトリル、とりわけアクリロニトリルが非常に異なる反応性を有するという基本的な問題に対して、それは今まで、製造された生成物の量が十分な化学的一様性を有するポリマー分子を含むこと、つまり様々なモノマーがポリマー鎖に沿った一様な分布を有することを確実にするために重合の過程で対応する計量供給体制を用いてようやく可能であったが、初めての解決策となった。
【0018】
これに加えて、任意選択により場合によっては水素化されていてもよいニトリルゴムから製造された加硫物は、一貫して非常に良好な特性のプロフィルを有する。
【0019】
前述の先行技術の刊行物において、特有の酸化還元開始剤系の選択または組成によってフリーラジカル乳化重合の場合にニトリルゴムの特性に影響を及ぼすことが可能であるかどうか、そうだとしたら、どのような形態で可能であるかに関して、開示または情報は全くない。文献では、実験例で、専ら硫酸鉄(II)が絶えず使用されている(米国特許第2,897,167号明細書および同第2,716,107号明細書を参照されたい)ので、アニオンとしての硫酸塩と比べた塩化物の影響は、特に、完全に意外であった。
【0020】
〔ニトリルゴム〕
本発明のニトリルゴムは、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および任意選択により場合によっては1種以上の他の共重合可能なモノマーの繰り返し単位を有する。
【0021】
共役ジエンは任意の種類のものであってもよい。(C〜C)共役ジエンを使用することが好ましい。1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、1,2−ブタジエン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン、またはそれらの混合物が特に好ましい。1,3−ブタジエンおよびイソプレンまたはそれらの混合物が特に好ましい。1,3−ブタジエンがとりわけ好ましい。
【0022】
α,β−不飽和ニトリルとして、任意の公知のα,β−不飽和ニトリルを使用することが可能であり、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、1−クロロアクリロニトリル、エタクリロニトリル、2−シアノアクリレート、またはそれらの混合物などの(C〜C)α,β−不飽和ニトリルが好ましい。アクリロニトリルが特に好ましい。
【0023】
特に好ましい一つのニトリルゴムは、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンとのコポリマーである。
【0024】
少なくとも1種の共役ジエンにおよび少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルに由来する繰り返し単位に加えて、本発明の任意選択により水素化されていてもよいニトリルゴムはまた、その上、1種以上の他の共重合可能なモノマーに由来する繰り返し単位を含んでもよい。
【0025】
このために好適なモノマーの例には、カルボキシル含有の、共重合可能なターモノマー、好ましくはα,β−不飽和モノカルボン酸、それらのエステルまたはアミド、α,β−不飽和ジカルボン酸、それらのモノエステルまたはジエステル、および相当する酸無水物またはアミドが挙げられる。
【0026】
α,β−不飽和モノカルボン酸として、好ましくはアクリル酸およびメタクリル酸を使用することが可能である。
【0027】
α,β−不飽和モノカルボン酸のエステル、好ましくはそれらのアルキルエステルおよびアルコキシアルキルエステルを用いることもまた可能である。α,β−不飽和モノカルボン酸のアルキルエステル、とりわけC〜C18アルキルエステルが好ましい。アクリル酸のおよびメタクリル酸のアルキルエステル、とりわけC〜C18アルキルエステル、より具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、およびラウリル(メタ)アクリレートが特に好ましい。n−ブチルアクリレートが特に使用される。α,β−不飽和モノカルボン酸のアルコキシアルキルエステル、より好ましくはアクリル酸のまたはメタクリル酸のアルコキシアルキルエステル、とりわけアクリル酸のまたはメタクリル酸のC〜C12アルコキシアルキルエステル、非常に好ましくはメトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートおよびメトキシエチル(メタ)アクリレートもまた好ましい。メトキシエチルアクリレートが特に使用される。上述のものなどの、アルキルエステルと、例えば、上述のものの形態での、例えば、アルコキシアルキルエステルとの混合物を用いることもまた可能である。シアノアルキル基のC原子数が2〜12であるシアノアルキルアクリレートおよびシアノアルキルメタクリレート、好ましくはα−シアノエチルアクリレート、β−シアノエチルアクリレート、およびシアノブチルメタクリレートもまた用いることができる。ヒドロキシアルキル基のC原子数が1〜12であるヒドロキシルアルキルアクリレートおよびヒドロキシアルキルメタクリレート、好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートもまた使用されてもよい。フッ素置換ベンジル基含有アクリレートまたはメタクリレート、好ましくはフルオロベンジル(メタ)アクリレートを用いることもまた可能である。フルオロアルキル基を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはトリフルオロエチルアクリレートおよびテトラフルオロプロピルメタクリレートもまた使用されてもよい。その上、ジメチルアミノメチルアクリレートおよびジエチルアミノエチルアクリレートなどのアミノ含有の、α,β−不飽和カルボン酸エステルが使用可能である。
【0028】
使用されるα,β−不飽和モノカルボン酸の他のエステルは、さらに、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシメチル)アクリルアミドおよびウレタン(メタ)アクリレートである。
【0029】
他の共重合可能なモノマーとして、さらに、α,β−不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、およびメサコン酸を使用することが可能である。
【0030】
さらに、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物、好ましくは、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、および無水メサコン酸が使用されてもよい。
【0031】
さらに、α,β−不飽和ジカルボン酸のモノエステルまたはジエステルが使用されてもよい。これらは、例えば、アルキル、好ましくはC〜C10アルキル、より具体的にはエチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第三ブチル、n−ペンチル、またはn−ヘキシル、アルコキシアルキル、好ましくはC〜C12アルコキシアルキル、より好ましくはC〜Cアルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、好ましくはC〜C12ヒドロキシアルキル、より好ましくはC〜Cヒドロキシアルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜C12シクロアルキル、より好ましくはC〜C12シクロアルキル、アルキルシクロアルキル、好ましくはC〜C12アルキルシクロアルキル、より好ましくはC〜C10アルキルシクロアルキル、アリール、好ましくはC〜C14アリールのモノエステルまたはジエステルであり、ジエステルの場合にはいずれの場合にもまた混合エステルであってもよい。
【0032】
α,β−不飽和ジカルボン酸モノエステルの例には以下のものが含まれる。
・ マレイン酸モノアルキルエステル、好ましくはモノメチルマレエート、モノエチルマレエート、モノプロピルマレエート、およびモノ−n−ブチルマレエート;
・ マレイン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはモノシクロペンチルマレエート、モノシクロヘキシルマレエート、およびモノシクロヘプチルマレエート;
・ マレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはモノメチルシクロペンチルマレエートおよびモノエチルシクロヘキシルマレエート;
・ マレイン酸モノアリールエステル、好ましくはモノフェニルマレエート;
・ マレイン酸モノベンジルエステル、好ましくはモノベンジルマレエート;
・ フマル酸モノアルキルエステル、好ましくはモノメチルフマレート、モノエチルフマレート、モノプロピルフマレート、およびモノ−n−ブチルフマレート;
・ フマル酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはモノシクロペンチルフマレート、モノシクロヘキシルフマレート、およびモノシクロヘプチルフマレート;
・ フマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはモノメチルシクロペンチルフマレートおよびモノエチルシクロヘキシルフマレート;
・ フマル酸モノアリールエステル、好ましくはモノフェニルフマレート;
・ フマル酸モノベンジルエステル、好ましくはモノベンジルフマレート;
・ シトラコン酸モノアルキルエステル、好ましくはモノメチルシトラコネート、モノエチルシトラコネート、モノプロピルシトラコネート、およびモノ−n−ブチルシトラコネート;
・ シトラコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはモノシクロペンチルシトラコネート、モノシクロヘキシルシトラコネート、およびモノシクロヘプチルシトラコネート;
・ シトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはモノメチルシクロペンチルシトラコネート、およびモノエチルシクロヘキシルシトラコネート;
・ シトラコン酸モノアリールエステル、好ましくはモノフェニルシトラコネート;
・ シトラコン酸モノベンジルエステル、好ましくはモノベンジルシトラコネート;
・ イタコン酸モノアルキルエステル、好ましくはモノメチルイタコネート、モノエチルイタコネート、モノプロピルイタコネート、およびモノ−n−ブチルイタコネート;
・ イタコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはモノシクロペンチルイタコネート、モノシクロヘキシルイタコネート、およびモノシクロヘプチルイタコネート;
・ イタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはモノメチルシクロペンチルイタコネートおよびモノエチルシクロヘキシルイタコネート;
・ イタコン酸モノアリールエステル、好ましくはモノフェニルイタコネート;
・ イタコン酸モノベンジルエステル、好ましくはモノベンジルイタコネート;
・ メサコン酸モノアルキルエステル、好ましくはメサコン酸モノエチルエステル。
【0033】
α,β−不飽和ジカルボン酸ジエステルとして、上述のモノエステル基をベースとする類似のジエステルを使用することが可能であり、エステル基はまた化学的に異なる基であってもよい。
【0034】
他の可能なモノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、およびビニルピリジンなどのビニル芳香族化合物、ならびにまた4−シアノシクロヘキセン(4−CCN)および4−ビニルシクロヘキセン(VCH)などの、非共役ジエン、およびアルキン、とりわけ1−または2−ブチンである。
【0035】
さらなる共重合可能なモノマーとして、1分子当たり2個以上のオレフィン系二重結合を含有するフリーラジカル重合可能な化合物を使用することもさらに可能である。2倍以上不飽和であるこの種の化合物の例は、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ブタン−1,4−ジオールジアクリレート、プロパン−1,2−ジオールジアクリレート、ブタン−1,3−ジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールエタンジアクリレート、トリメチロールエタンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、グリセリルジ−およびトリ−アクリレート、ペンタエリスリチルジ−、トリ−およびテトラ−アクリレートもしくは−メタクリレート、ジペンタエリスリチルテトラ−、ペンタ−およびヘキサ−アクリレートもしくは−メタクリレートまたは−イタコネート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールヘキサメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンの、ポリエチレングリコールのまたは末端ヒドロキシル基を有するオリゴエステルもしくはオリゴウレタンのジアクリレートまたはジメタクリレートなどの、ポリオールのジ不飽和またはポリ不飽和アクリレート、メタクリレートまたはイタコネートである。使用することができる他のポリ不飽和モノマーには、メチレンビスアクリルアミド、ヘキサメチレン−1,6−ビスアクリルアミド、ジエチレントリアミントリスメタクリルアミド、ビス(メタクリルアミドプロポキシ)エタンまたは2−アクリルアミドエチルアクリレートなどのアクリルアミドが含まれる。ポリ不飽和ビニルおよびアリル化合物の例は、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジビニルエーテル、ジアリルフタレート、アリルメタクリレート、ジアリルマレエート、トリアリルイソシアヌレート、またはトリアリルホスフェートである。
【0036】
本発明の任意選択により水素化されていてもよいニトリルゴム中の共役ジエンとα,β−不飽和ニトリルとの割合は、広範囲内で変わってもよい。共役ジエンの割合または合計は典型的には、ポリマー全体を基準として、重量で、20%〜95%の範囲に、好ましくは40%〜90%の範囲に、より好ましくは50%〜85%の範囲にある。α,β−不飽和ニトリルの割合または合計は典型的には、ポリマー全体を基準として、重量で、5%〜80%、好ましくは10%〜60%、より好ましくは15%〜50%である。モノマーの割合は、いずれの場合にも合計して100%になる。
【0037】
追加モノマーは、ポリマー全体を基準として、重量で、0%〜40%、好ましくは0.1%〜40%、より好ましくは1%〜30%の量で存在してもよい。この場合には、共役ジエンのおよびα,β−不飽和ニトリルの相当する割合は、モノマーの全ての割合がいずれの場合にも合計して100重量%になる状態で、これらの追加モノマーの割合で置き換えられる。1種以上のターモノマーの存在下で、モノマーの全ての割合がいずれの場合にも合計して100重量%にならなければならないという必要条件付きで、共役ジエンの割合または合計が、ポリマー全体を基準として、重量で、40%〜90%の範囲に、好ましくは50%〜85%の範囲にあり、α,β−不飽和ニトリルの割合または合計が、ポリマー全体を基準として、重量で、9.9%〜59.9%、好ましくは14%〜50%であり、そしてターモノマーの割合または合計が、ポリマー全体を基準として、重量で、0.1%〜30%の範囲に、好ましくは1%〜20%の範囲にあることが適切であると分かった。
【0038】
(メタ)アクリル酸のエステルが追加のターモノマーとして使用される場合、それらは通常、ポリマー全体を基準として、1重量%〜25重量%の量で使用される。
【0039】
α,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸のエステルが追加のターモノマーとして使用される場合、それらは通常、ポリマー全体を基準として、10重量%未満の量で使用される。
【0040】
アクリロニトリル含有率の測定のための窒素含有率は、DIN 53 625に従ってケルダール(Kjeldahl)法によって本発明のニトリルゴムで測定される。極性コモノマーの存在のおかげで、本ニトリルゴムは通常、20℃でメチルエチルケトンに85重量%以上可溶性である。
【0041】
アクリロニトリル、1,3−ブタジエン、および任意選択により場合によっては1種以上の他の共重合可能なモノマーの繰り返し単位を有する本発明のニトリルゴムが好ましい。アクリロニトリル、1,3−ブタジエン、および1種以上のα,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸、それらのエステルまたはアミドの繰り返し単位、より具体的にはα,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルの、非常に好ましくはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートまたはラウリル(メタ)アクリレートの繰り返し単位を有するニトリルゴムがまた好ましい。
【0042】
完全にまたは部分的にまた水素化されていてもよい、本発明のニトリルゴムは、10〜160の、好ましくは15〜150ムーニー単位の、より好ましくは20〜150ムーニー単位の、特に25〜145ムーニー単位のムーニー粘度(ML1+4(100℃)))を有する。ムーニー粘度(ML1+4(100℃))についての値の測定は、いずれの場合にも100℃でDIN 53523/3またはASTM D 1646に従って剪断ディスク粘度計を用いて行われる。
【0043】
使用されるニトリルゴムはさらに、2.0〜6.0の範囲の、好ましくは2.0〜5.0の範囲の多分散性PDI=M/M(ここで、Mは重量平均分子量、Mは数平均分子量である)を有する。
【0044】
完全にまたは部分的に水素化されていてもよい、本発明のニトリルゴムのガラス転移温度は、−70℃〜+10℃の範囲に、好ましくは−60℃〜0℃の範囲にある。ガラス転移温度の、ならびにまた、ガラス転移のオンセット(開始)点およびオフセット(終了)点と呼ばれるような点の測定は、ASTM E 1356−03に従ってかまたはDIN 11357−2に従って示差走査熱量測定法(DSC)によって行われる。
【0045】
測定されたオンセット点およびオフセット点に基づいて、Gordon−Taylor関係式
=1.4564[ACN]−77.147
を使用してオンセット点についておよびオフセット点についてACN含有率([ACN])を計算し、これらの値からACN分布についての差(ΔACN)を形成することが可能である:
ΔACN=ACN(オフセット)−ACN(オンセット)
この差ΔACNは、一様性の尺度を表す。
【0046】
MDRでの加硫プロフィルおよびその関連分析データは、ASTM D5289−95に従ってMonsanto MDR 2000レオメーターで測定される。
【0047】
MSR(ムーニー応力緩和(Mooney Stress Relaxation))はいずれの場合にも、100℃でISO 289−4:2003(E)に従って剪断ディスク粘度計を用いて測定される。
【0048】
〔本発明のニトリルゴムの製造〕
本ニトリルゴムは乳化重合によって製造される。使用される酸化還元系が本質的に重要である。この系は、乳化重合を開始させるために、フリーラジカルへ分解する酸化剤(i)を含む。
【0049】
使用される酸化剤(i)は、ペルオキソ化合物、言い換えれば−O−O−単位を有する化合物である。ペルオキソ化合物には、過酸化水素、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ二リン酸塩、ヒドロペルオキシド、過酸、過酸エステル、過酸無水物、および2つの有機ラジカルを有する過酸化物が含まれる。ペルオキソ二硫酸のおよびペルオキソ二リン酸の塩として、ナトリウム、カリウム、およびアンモニウム塩を使用することが可能である。好適なヒドロペルオキシドは、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、およびp−メンタンヒドロペルオキシドである。2つの有機ラジカルを有する好適な過酸化物は、ジベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、過安息香酸t−ブチル、および過酢酸t−ブチルである。
【0050】
p−メンタンヒドロペルオキシドまたはピナンヒドロペルオキシドを使用することが好ましい。
【0051】
使用することができる還元剤(ii)には、例えば、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、ベンズアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、還元糖、アスコルビン酸、スルフェナート、スルフィナート、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、二亜硫酸塩、糖類、尿素、チオ尿素、キサントゲン酸塩、チオキサントゲン酸塩、ヒドラジニウム塩、アニリン、ジメチルアニリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンなどのアミンおよびアミン誘導体が含まれ、ホルムアルデヒド−スルホキシル酸ナトリウムが好ましい。
【0052】
酸化剤(i)の量は典型的には、モノマーの100重量部当たり0.001〜1重量部である。還元剤(ii)のモル量は、使用される酸化剤(i)のモル量を基準として、1〜1000モル%の範囲にある。還元剤(ii)のモル量は、使用される酸化剤(i)のモル量を基準として、好ましくは2%〜100%の範囲にある。
【0053】
使用される塩化鉄(II)は、好ましくはFeCl*4HOである。
【0054】
本発明の方法に添加されてもよいさらに可能な添加剤は、例えば、リン酸三ナトリウムなどの、錯化剤および塩である。考えられる錯化剤の例には、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA)、ケイ酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムが挙げられ、それらのうちでEDTAが好ましい。この場合に錯化剤のモル量は、使用される塩化鉄(II)の量に基づき、それに少なくとも等モルであるように通常選択される。
【0055】
好ましい一実施形態では、本発明の方法は、p−メンタンヒドロペルオキシドまたはピナンヒドロペルオキシドを過酸化物として、ホルムアルデヒド−スルホキシル酸ナトリウムを還元剤として、および塩化Fe(II)(FeCl*4HO)を含む酸化還元系を使用して実施される。特に好ましい一実施形態では、本発明の方法は、この特有の酸化還元系を使用して、およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウムの追加存在下に実施される。
【0056】
重合を実施するために、酸化還元系の個々の、2つ以上の、または全ての成分が重合の開始時にかまたは重合中に計量供給される。計量供給添加が重合の開始時に行われる場合、酸化還元系の成分は、水、モノマーおよび乳化剤を含む初期装入反応混合物中と一緒にまたは個別にのどちらかで計量供給される。プレミックス溶液の形態で還元剤と塩化Fe(II)とを添加することが適切であると分かったが、酸化剤は別に添加される。
【0057】
乳化剤として、アニオン性乳化剤の水溶性塩あるいは中性乳化剤を使用することが可能である。アニオン性乳化剤を使用することが好ましい。
【0058】
アニオン性乳化剤として、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パルストリン酸、ラボピマル酸(lavopimaric acid)を含む樹脂酸混合物の二量化、不均化、水和、および変性によって得られる変性樹脂酸を使用することが可能である。特に好ましい一つの変性樹脂酸は、不均化樹脂酸である(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第6版、第31巻、345−355ページ)。
【0059】
アニオン性乳化剤として、脂肪酸を使用することもまた可能である。これらは、1分子当たり6〜22個のC原子を含有する。それらは、完全に飽和であってもあるいは分子中に1個以上の二重結合を有してもよい。脂肪酸の例は、カプロン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸である。カルボン酸は典型的には、例えば、ヒマシ油、綿実油、落花生油、アマニ油、ココナッツ油、パーム核油、オリーブ油、菜種油、大豆油、魚油、および牛脂などの起源特有の油または脂肪をベースとしている(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第6版、第13巻、75−108ページ)。好ましいカルボン酸は、ココナッツ脂肪酸におよび牛脂に由来し、部分的にまたは完全に水素化されている。
【0060】
変性樹脂酸または脂肪酸をベースとするこの種のカルボン酸は、水溶性のリチウム、ナトリウム、カリウム、およびアンモニウム塩の形態で使用される。Na塩およびK塩が好ましい。
【0061】
アニオン性乳化剤は、さらに、有機基に結合しているスルホン酸塩、硫酸塩およびリン酸塩である。好適な有機基には、脂肪族基、芳香族基、アルキル化芳香族化合物、縮合芳香族化合物、およびメチレン−架橋芳香族化合物が含まれ、メチレン架橋および縮合芳香族化合物がさらにアルキル化されていることが可能である。アルキル鎖の長さは6〜25個のC原子である。芳香族化合物に結合したアルキル鎖の長さは、3〜12個のC原子である。
【0062】
硫酸塩、スルホン酸塩、およびリン酸塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウム塩の形態で同様にうまく使用される。ナトリウム、カリウム、およびアンモニウム塩が好ましい。
【0063】
かかるスルホン酸塩、硫酸塩、およびリン酸塩の例は、ラウリル硫酸Na、アルキルスルホン酸Na、アルキルアリールスルホン酸Na、メチレン架橋アリールスルホン酸のNa塩、アルキル化ナフタレンスルホン酸のNa塩、およびオリゴマー化度が2〜10である、またオリゴマー化することができるメチレン架橋ナフタレンスルホン酸のNa塩である。典型的にはアルキル化ナフタレンスルホン酸ならびにメチレン架橋(および任意選択によりアルキル化されていてもよい)ナフタレンスルホン酸は、分子中に2個以上のスルホン酸基(2〜3個のスルホン酸基)をまた含有してもよい、異性体混合物の形態で存在する。ラウリル硫酸Na、12〜18個のC原子のアルキルスルホン酸Na混合物,アルキルアリールスルホン酸Na、ジイソブチレンナフタレンスルホン酸Na、メチレン架橋ポリナフタレンスルホン酸塩混合物、およびメチレン架橋アリールスルホン酸塩混合物が特に好ましい。
【0064】
中性乳化剤は、エチレンオキシドとおよびプロピレンオキシドと、十分に酸性の水素を有する化合物との付加生成物に由来する。これらには、例えば、フェノール、アルキル化フェノール、およびアルキル化アミンが含まれる。エポキシドの平均重合度は2〜20である。中性乳化剤の例は、8、10、および12個のエチレンオキシド単位を有するエトキシル化ノニルフェノールである。中性乳化剤は通常単独で使用されず、代わりにアニオン性乳化剤と組み合わせて使用される。
【0065】
不均化アビエチン酸のおよび部分水素化された牛脂脂肪酸、およびそれらの混合物のNaおよびK塩、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸Na、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ならびにまたアルキル化およびメチレン架橋ナフタレンスルホン酸が好ましい。
【0066】
乳化剤は、モノマー混合物の100重量部を基準として、0.2〜15重量部、好ましくは0.5〜12.5重量部、より好ましくは1.0〜10重量部の量で使用される。
【0067】
重合の終わりでの生成物が、ある種の不安定性のために早過ぎる自己凝固の傾向を有するラテックスである場合、記した乳化剤がラテックスのポスト安定化のためにまた使用されてもよい。これは、スチームでの処理による未反応モノマー除去の前に、そしてまたラテックス貯蔵の前に特に賢明である可能性がある。
【0068】
乳化重合は、分子量調整剤の存在下に実施されてもよい。このために、例えば、C12メルカプタン(例えば、第三ドデシルメルカプタンの形態での、文献では「TDDM」とも言われる)が、個別にまたは混合物としてのどちらかで、またはC16メルカプタンが、個別にまたは混合物としてのどちらかで利用される。この種の分子量調整剤は、例えば、Phillipsから商業的に入手可能である。2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオール、2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオール、2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオール、および2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオールを含むC12メルカプタンの混合物の使用が適切であると分かった。それは、モノマー混合物の100重量部当たり、0.05〜3重量部の、好ましくは0.1〜1.5重量部の量で使用することができる。かかるメルカプタン化合物またはメルカプタン混合物の計量供給は、重合の開始時にまたは重合中に分割してのどちらかで行われ、重合中の調整剤混合物の全成分のおよび個々の成分の分割添加が好ましい。上に言及した特有の混合物が使用される場合、ニトリルゴムは、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオ、2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオ、2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオおよび/または2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオ末端基を含有する。
【0069】
重合時間は4時間〜15時間の範囲にあり、モノマー混合物のアクリロニトリル含有率におよび重合温度に左右される。重合温度は、0〜30℃の範囲に、好ましくは5〜25℃の範囲にある。50%〜95%の範囲の、好ましくは70%〜90%の範囲の転化率に達したとき、重合は典型的には停止される。このために停止剤が反応混合物に添加される。例えばジメチルジチオカルバメート、亜硝酸Na、ジメチルジチオカルバメートと亜硝酸Naとの混合物、ヒドロラジンおよびヒドロキシルアミン、ならびにまた、硫酸ヒドラジニウムおよび硫酸ヒドロキシルアンモニウムなどの、それらに由来する塩、ジエチルヒドロキシルアミン、ジイソプロピルヒドロキシルアミン、ヒドロキノンの水溶性塩、亜ジチオン酸ナトリウム、フェニル−α−ナフチルアミン、および第三ブチルピロカテコールなどの芳香族フェノール、またはフェノチアジンが好適である。
【0070】
乳化重合に使用される水の量は、モノマー混合物の100重量部当たり100〜900重量部の範囲に、好ましくは120〜500重量部の範囲に、特に好ましくは150〜400重量部の範囲にある。
【0071】
乳化重合では、pH調整の目的でおよびpH緩衝の目的で、かつ、重合の間ずっと粘度を下げるために水相に酸または塩基を添加することもまた可能である。このために、KOH、NaOH、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、LiCl、NaCl、およびKClの形態の、一価金属の塩を使用することが一般的である。水酸化ナトリウムおよびカリウム、炭酸水素ナトリウムならびに塩化リチウム、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。これらの電解質の量は、モノマー混合物の100重量部当たり、0〜1重量部、好ましくは0〜0.5重量部の範囲にある。
【0072】
重合は、撹拌タンクカスケードでバッチ式で、または連続的でのどちらかで実施することができる。
【0073】
意図が化学的にとりわけ一様な生成物を製造することであるならば、組成が共沸ブタジエン/アクリロニトリル比の外側にある場合、さらなるアクリロニトリルおよび/またはブタジエンが計量供給される。10%〜34%のアクリロニトリル含有率を有するNBRグレードの場合に、および40重量%〜50重量%のアクリロニトリルを有するグレードの場合にも、かかるさらなる添加が好ましい(W.Hofmann、Rubber Chem.Technol.36(1963)、1ページ)。さらなる添加は、(例えば、DD 154 702に明記されているように)好ましくは、コンピュータプログラムに基づいてコンピュータ制御下に行われる。しかしながら、既に記載したように、本発明の方法の利点は、特有の酸化還元系が高度の化学的一様性を有するポリマーを既に産み出し得ることであるから、このさらなる添加は必要ではない。
【0074】
未反応モノマーおよび揮発性成分を除去するために、反応停止されたラテックスは、水蒸気蒸留にかけられる。ここで、100℃未満の温度の場合には圧力が下げられる状態で、70℃〜150℃の範囲の温度が用いられる。揮発性成分の除去の前に、ラテックスは、乳化剤でポスト安定化(後安定化)することができる。このために、前述の乳化剤を、ニトリルゴムの100重量部を基準として、0.1〜2.5重量%、好ましくは0.5重量%〜2.0重量%の量で使用することが有利である。
【0075】
ラテックスの凝集前または凝集中に、1種以上の酸化防止剤がラテックスに添加されてもよい。フェノール系、アミン系、および他の酸化防止剤もまた、この目的のために好適である。
【0076】
好適なフェノール系酸化防止剤は、アルキル化フェノール、スチレン化フェノール、2,6−ジ−第三ブチルフェノール、2,6−ジ−第三ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−ジ−第三ブチル−4−エチルフェノールなどの立体障害のあるフェノール、エステル基を含有する立体障害のあるフェノール、チオエーテルを含有する立体障害のあるフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)(BPH)、および立体障害のあるチオビスフェノールである。
【0077】
ゴムの変色が重要でない場合、アミン系酸化防止剤が同様にうまく使用され、例は、ジアリール−p−フェニレンジアミン(DTPD)の混合物、オクチル化ジフェニルアミン(ODPA)、フェニル−α−ナフチルアミン(PAN)、フェニル−β−ナフチルアミン(PBN)、好ましくはフェニレンジアミンをベースとするものである。フェニレンジアミンの例は、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−1,4−ジメチルペンチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(7PPD)、N,N’−ビス−1,4−(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン(77PD)などである。
【0078】
他の酸化防止剤には、トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどのホスフェート、重合した2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(TMQ)、2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)、メチル−2−メルカプトベンズイミダゾール(MMBI)、亜鉛メチルメルカプトベンズイミダゾール(ZMMBI)が含まれる。ホスファイトは一般に、フェノール系酸化防止剤と組み合わせて使用される。TMQ、MBI、およびMMBIが特に、過酸化物で加硫されるNBRグレードのために使用される。
【0079】
凝集のために、ラテックスは、塩基、好ましくはアンモニアもしくは水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム、または酸、好ましくは硫酸もしくは酢酸の添加によって、当業者に公知であるpHに調整される。
【0080】
本方法の一実施形態では、凝集は、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムおよびリチウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩を使用して実施される。使用されるこれらの塩のアニオンは通常、一価または二価アニオンである。ハロゲン化物、より好ましくは塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸水素塩、炭酸塩、ギ酸塩、および酢酸塩が好ましい。
【0081】
好適な例には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム(カリウムミョウバン)、硫酸ナトリウムアルミニウム(ナトリウムミョウバン)、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、およびギ酸カルシウムが挙げられる。
【0082】
水溶性カルシウム塩がラテックスの凝集のために使用される場合、塩化カルシウムが好ましい。
【0083】
アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、およびリチウム塩からなる群から選択される1種以上の塩の溶液の濃度は、3重量%〜30重量%である。塩溶液を調製するために、Caイオンを含有する水を使用することが好ましい。
【0084】
アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、およびリチウム塩からなる群から選択される塩のラテックス凝集のために必要とされる総量は、ニトリルゴムの100重量部を基準として、0.5重量%〜200重量%、好ましくは0.8重量%〜80重量%、より好ましくは1重量%〜50重量%の塩である。
【0085】
凝集において、上に定義された群から選択される少なくとも1種の塩だけでなく、沈澱助剤を使用することが可能である。好適な沈澱助剤の例には、水溶性ポリマーが挙げられる。これらは、非イオン性、アニオン性またはカチオン性である。
【0086】
非イオン性ポリマー沈澱助剤の例は、ヒドロキシアルキルセルロースまたはメチルセルロースなどの変性セルロースならびにまたエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドと酸性水素を含有する化合物との付加体である。酸性水素を含有する化合物の例は次の通りである:脂肪酸、ソルビトールなどの糖類、モノ−およびジ−脂肪酸グリセリド、フェノール、アルキル化フェノール、(アルキル)フェノール/ホルムアルデヒド縮合物など。エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドとこれらの化合物との付加生成物は、ランダムおよびブロック様の構成を有することができる。これらの生成物のうちで、温度が上昇するにつれて溶解度が低下するものが好ましい。特徴的な曇り点(曇り温度)は、0〜100℃範囲に、より特定的には20〜70℃の範囲にある。
【0087】
アニオン性ポリマー沈澱助剤の例は、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸などのホモポリマーおよびコポリマーである。ポリアクリル酸のNa塩が好ましい。
【0088】
カチオン性ポリマー沈澱助剤は、典型的にはポリアミンを、ならびにまた(メタ)アクリアミドのホモポリマーおよびコポリマーをベースとする。ポリメタクリルアミドおよびポリアミン、とりわけエピクロロヒドリンおよびジメチルアミンをベースとするものが好ましい。ポリマー沈澱助剤の量は、ニトリルゴムの100重量部当たり、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜2.5重量部である。
【0089】
他の沈澱助剤の使用もまた考えられる。しかしながら、追加の沈澱助剤の不存在下に、特にC〜Cアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、植物ベースのタンパク性物もしくは、例えば、デンプンなどの、多糖類の、または水溶性ポリアミン化合物の不存在下に本発明の方法を実施して所望の成功を収めることが容易に可能であることは指摘されるべきである。
【0090】
凝集のために使用されるラテックスは有利には、1重量%〜40重量%の範囲の、好ましくは5重量%〜35重量%の範囲の、より好ましくは15重量%〜30重量%の範囲の固形分濃度を有する。
【0091】
ラテックス凝集は、10〜100℃の温度範囲で、好ましくは20〜90℃の温度で実施される。ラテックス凝集は、連続的にかまたはバッチ式に行われてもよく、連続操作が好ましい。
【0092】
代わりの一実施形態では、未反応モノマーが従来法で分離されたラテックスはまた、ポリマーの沈澱を引き起こすために、6以下のpH範囲の酸で処理することができる。処理は好ましくは4以下のpH、より好ましくは2で実施される。
【0093】
ポリマーの沈澱は、20〜110℃、好ましくは50〜98℃、より好ましくは65〜85℃の温度で実施される。沈澱のために、選択されたpH範囲が設定されることを可能にする全ての鉱酸および有機酸を使用することが可能である。鉱酸がpH設定のために好ましくは使用される。
【0094】
沈澱のために、沈澱剤または沈澱助剤を加えることがさらに可能である。追加の沈澱剤として、例えば、当業者に公知である、無機酸のアルカリ金属塩、およびそれらの混合物が使用される。考えられるアルカリ金属塩には、特に次の酸のナトリウム塩およびカリウム塩が含まれる:塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸およびリン酸。塩酸および硫酸のナトリウムおよびカリウム塩が好ましい。塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムが特に好ましい。沈澱剤は、ラテックス分散液の固形分を基準として、0.05重量%〜10重量%、好ましくは0.5重量%〜8重量%、より好ましくは1重量%〜5重量%の量で加えられる。上に既にリストされた沈澱助剤もまたここで使用することができる。
【0095】
得られたポリマー懸濁液は、水性アルカリ金属水酸化物溶液の添加によってpHは11以上に調整される。好ましくは、pHは11.5以上に調整される。使用される水性アルカリ金属水酸化物溶液は、10%〜50%のアルカリ金属水酸化物含有率を有する、水中の、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、好ましくは水酸化ナトリウムの溶液である。凝固ポリマーのアルカリ性処理は、好ましくは60〜100℃で、より好ましくは65〜95℃で実施される。アルカリ性処理後に、ポリマーは、当業者には慣行的な方法で懸濁液から分離される。ラテックス凝集のこの変形も同様に、連続的にかまたはバッチ式にうまく行うことができ、連続操作が好ましい。
【0096】
凝集後に、ニトリルゴムは、典型的には粉末と言われるものの形態で存在する。凝集NBRの洗浄はそれ故粉末洗浄とも言われる。この洗浄のためには脱イオン水または非脱イオン水のどちらかを使用することが可能である。洗浄は、15〜90℃の範囲の温度で、好ましくは20〜80℃の範囲の温度で実施される。洗浄水の量は、ニトリルゴムの100重量部当たり0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部である。より好ましくはゴム粉末は、ゴム粉末が個々の洗浄段階間に部分的に脱水される状態で、多段洗浄にかけられる。個々の洗浄段階間の粉末の残存含水率は、5重量%〜50重量%の範囲に、好ましくは7重量%〜25重量%の範囲にある。洗浄段階の数は典型的には1〜7、好ましくは1〜3である。洗浄は、バッチ式にかまたは連続的に実施される。多段階の連続プロセスを使用することが好ましく、節水するために向流洗浄が好ましい。洗浄の終了後に、ニトリルゴム粉末を脱水することが適切であると分かった。
【0097】
本発明は、さらに、完全にまたは部分的に水素化されていてもよい本発明の少なくとも1種のニトリルゴムと、少なくとも1種の架橋剤とを含む加硫可能な混合物を提供する。任意選択により場合によっては1種以上の他の添加剤もまた存在してもよい。
【0098】
これらの加硫可能な混合物は、本発明の少なくとも1種の任意選択により場合によっては水素化されていてもよいニトリルゴムと少なくとも1種の架橋剤とを混合することによって製造される。任意選択により、加えて、1種以上の他の添加剤がこの混合物に混ぜ込まれてもよい。
【0099】
好適な架橋剤には、例えば、ビス(2,4−ジクロロベンジル)ペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(4−クロロベンゾイル)ペルオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、過安息香酸第三ブチル、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブテン、吉草酸4,4−ジ−第三ブチルペルオキシノニル、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(第三ブチルペルオキシ)ヘキサン、第三ブチルクミルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ−第三ブチルペルオキシド、および2,5−ジメチル−2,5−ジ(第三ブチルペルオキシ)ヘキサ−3−インなどの過酸化物架橋剤が含まれる。
【0100】
これらの過酸化物架橋剤に加えて、架橋収率を高めるのを助けるために用いることができる他の添加物を同様にうまく使用することが有利であり得る:かかる添加物の好適な例には、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメリット酸トリアリル、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、Znジアクリレート、Znジメタクリレート、1,2−ポリブタジエン、またはN,N’−m−フェニレンジマレイミドが挙げられる。
【0101】
架橋剤の総量は典型的には、ニトリルゴムを基準として、1〜20phrの範囲に、好ましくは1.5〜15phrの範囲に、より好ましくは2〜10phrの範囲にある。
【0102】
架橋剤として元素状、可溶性もしくは不溶性形態の硫黄、または硫黄供与体を使用することもまた可能である。
【0103】
好適な硫黄供与体には、例えば、ジモルホリルジスルフィド(DTDM)、2−モルホリノ−ジチオベンゾチアゾール(MBSS)、カプロラクタムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、およびテトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)が含まれる。
【0104】
本発明のニトリルゴムの硫黄加硫の場合にも同様に、架橋収率を高めるのを助けるために用いることができる他の添加剤を使用することも可能である。しかしながら、原則として、架橋はまた、硫黄または硫黄供与体だけで行われてもよい。
【0105】
逆に、本発明のニトリルゴムの架橋はまた、上述の添加剤の存在のみによって、言い換えれば元素状硫黄または硫黄供与体の添加なしに、起こり得る。
【0106】
架橋収率を高めるのを助けるために用いることができる好適な添加剤の例には、ジチオカルバメート、チウラム、チアゾール類、スルフェンアミド、キサントゲン酸塩、二環式または多環式アミン、グアニジン誘導体、ジチオホスフェート、カプロラクタム類、およびチオ尿素誘導体が挙げられる。
【0107】
使用することができるジチオカルバメートには、例えば、次のものが含まれる:ジメチルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDBC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDMC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZEPC)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(Z5MC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケルおよびジイソノニルジチオカルバミン酸亜鉛。
【0108】
使用することができるチウラムには、例えば、次のものが含まれる:テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジメチルジフェニルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドおよびテトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)。
【0109】
使用することができるチアゾール類には、例えば、次のものが含まれる:2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、亜鉛メルカプトベンゾチアゾール(ZMBT)および銅2−メルカプトベンゾチアゾール。
【0110】
使用することができるスルフェンアミド誘導体には、例えば、次のものが含まれる:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N−第三ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(DCBS)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(MBS)、N−オキシジエチレンチオカルバミル−N−第三ブチルスルフェンアミドおよびオキシジエチレンチオカルバミル−N−オキシエチレンスルフェンアミド。
【0111】
使用することができるキサントゲン酸塩には、例えば、次のものが含まれる:ジブチルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルジブチルキサントゲン酸亜鉛およびジブチルキサントゲン酸亜鉛。
【0112】
使用することができる二環式または多環式アミンには、例えば、次のものが含まれる:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デセン−5(TBD)および7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デセン−5。
【0113】
使用することができるグアニジン誘導体には、例えば、次のものが含まれる:ジフェニルグアニジン(DPG)、ジ−o−トリルグアニジン(DOTG)およびo−トリルビグアニド(OTBG)。
【0114】
使用することができるジチオホスフェートには、例えば、次のものが含まれる:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキルラジカルの鎖長C〜C16)、ジアルキルジチオリン酸銅(アルキルラジカルの鎖長C〜C16)およびジチオホスホリルポリスルフィド。
【0115】
カプロラクタムとして、例えば、ジチオビスカプロラクタムを使用することが可能である。
【0116】
チオ尿素誘導体として、例えば、N,N’−ジフェニルチオ尿素(DPTU)、ジエチルチオ尿素(DETU)、およびエチレンチオ尿素(ETU)を使用することが可能である。
【0117】
例えば、次のものが添加剤として同様に好適である:亜鉛ジアミンジイソシアネート、ヘキサメチレンテトラミン、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、および環状ジスルファン。
【0118】
ヒドロキシル含有ニトリルゴムの場合に、さらなる架橋法として、ジイソシアネート架橋を用いることが可能であり、その場合には、使用されるジイソシアネートは、モノマーまたはポリマー型であってもよく、少なくとも2個のイソシアネート基をさらに含んでもよい。ジイソシアネートとして、個別にまたは混合物として、例えば、次のものを使用することが可能である:トルエン−2,4−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,2−エタンジイソシアネート、1,3−プロパンジイソシアネート、1,4−ブタンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートウレチジオン、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートビウレット、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートイソシアヌレート、およびイソホロンジイソシアネート。
【0119】
カルボキシル含有ニトリルゴムの場合に、さらなる架橋法として、ポリアミン架橋法を用いることが可能であり、その場合には、使用されるポリアミンは少なくとも2個のアミノ基を含有するか、またはそれらは加硫中にその場で(in situ)形成される。使用することができるポリアミンには、例えば、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、ヘキサメチレンジアミン−シンナムアルデヒド付加体もしくはヘキサメチレンジアミンジベンゾエート塩が含まれ、または2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、もしくは4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)などの芳香族ポリアミンが使用される。イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、またはセバシン酸ジヒドラジドなどの、少なくとも2個のヒドラジド単位を含有する試薬が同様に好適である。
【0120】
前記添加剤および架橋剤は、個別にあるいは混合物でのどちらかで使用することができる。次の物質をニトリルゴムの架橋のために使用することが好ましい:硫黄、2−メルカプトベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジモルホリルジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、およびジチオビスカプロラクタム。
【0121】
架橋剤および上述の添加剤はいずれの場合にも、約0.05〜15phr、好ましくは0.1〜12phr、より特定的には0.5〜10phrの量で使用されてもよい。
【0122】
本発明の硫黄架橋の場合には、架橋剤および上述の添加剤に加えて、例として酸化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化鉛、酸化マグネシウム、飽和もしくは不飽和有機脂肪酸およびそれらの亜鉛塩、ポリアルコール、アミノアルコール、例えば、トリエタノールアミン、ならびにまたアミン、例えば、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘキシルエチルアミン、およびポリエーテルアミンである、さらなる有機および/または無機物質を同様にうまく使用することがまた賢明である可能性がある。
【0123】
これらだけでなく初期加硫阻害剤を使用することもまた可能である。これらには、シクロヘキシルチオフタルイミド(CTP)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)、無水フタル酸(PTA)、およびジフェニルニトロサミンが含まれる。シクロヘキシルチオフタルイミド(CTP)が好ましい。
【0124】
架橋剤の添加は別として、本発明のニトリルゴムはまた、さらなる慣用のゴム添加剤と混合されてもよい。
【0125】
これらには、例えば、充填剤、充填剤活性化剤、オゾン保護剤、酸化防止剤、加工助剤、エキステンダー油、可塑剤、強化材および離型剤などの、当業者に公知である典型的な物質が含まれる。
【0126】
使用することができる充填剤には、例えば、カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土、タルク、カオリン、ベントナイト、カーボンナノチューブ、Teflon(後者は好ましくは粉末形態にある)、またはシリケートが含まれる。
【0127】
好適な充填剤活性化剤には、特に、例えば、ビニルトリメチルオキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソオクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、または(オクタデシル)メチルジメトキシシランなどの、有機シランが含まれる。さらなる充填剤活性化剤は、例えば、トリエタノールアミンおよび74〜10,000g/モルの分子量を有するエチレングリコールである。充填剤活性化剤の量は、ニトリルゴムの100phrを基準として、典型的には0〜10phrである。
【0128】
酸化防止剤として、ラテックスの凝集に関連して本明細書に既に記載されたものを加硫可能な混合物に添加することが可能である。これらの防止剤は、ニトリルゴムの100phr当たり、約0〜5phr、好ましくは0.5〜3phrの量で典型的には使用される。
【0129】
離型剤として、例えば、飽和または部分不飽和脂肪酸およびオレイン酸ならびにそれらの誘導体(脂肪酸エステル、脂肪酸塩、脂肪アルコール、脂肪酸アミド)が、そしてまた、例えば、低分子質量シリコーン化合物をベースとする製品、フルオロポリマーをベースとする製品、およびフェノール樹脂をベースとする製品などの、金型表面に適用することができる製品がまた考えられる。
【0130】
混合物の成分として離型剤は、ニトリルゴムの100phrを基準として、約0〜10phr、好ましくは0.5〜5phrの量で使用される。
【0131】
コード、織布、脂肪族および芳香族ポリアミドの繊維(Nylon(登録商標)、Aramid(登録商標))、ポリエステルおよび天然繊維製品による強化と同様に、米国特許第4,826,721号明細書の教示に従ったガラスの強化剤(繊維)での強化もまた可能である。
【0132】
本発明は、さらに、上記の加硫可能な混合物が、好ましくは温度の上昇によるかまたは光化学的活性化による架橋にかけられることを特徴とし、完全にまたは部分的に水素化されていてもよい少なくとも1種のニトリルゴムをベースとする加硫物の製造方法を提供する。特に好ましくは、これは成形プロセスの一環として、より具体的には射出成形プロセスを用いて行われる。
【0133】
本発明は同様に、好ましくは成形品である、そしてより具体的には前述の射出成形プロセスで製造される、このプロセスで得られる加硫物を提供する。
【0134】
このプロセスによって、例としてシール、キャップ、ホース、または膜である多様な成形品を製造することが可能である。完全にまたは部分的に水素化されていてもよい、本発明のニトリルゴムは、O−リングシール、フラットシール、波形シーリングリング、シーリングスリーブ、シールリングキャップ、ダスト保護キャップ、プラグシール、断熱ホース(PVCの添加ありおよびなしの)、オイルクーラーホース、空気取り入れホース、サーボ制御ホース、またはポンプ隔膜の製造のためにより特に好適である。
【0135】
本発明のニトリルゴムをベースとする成形品の直接製造の代わりに、本発明のニトリルゴムの製造に(i)メタセシス反応、またはii)メタセシス反応およびその後の水素化、または(iii)水素化のみ、が続くこともまた可能である。これらのメタセシスおよび水素化反応は、それぞれ、両方とも当業者に十分に知られており、文献に記載されている。
【0136】
メタセシスは、例えば、国際公開第A−02/100941号パンフレットおよび国際公開第A−02/100905号パンフレットから公知であり、分子量低減のために使用することができる。
【0137】
水素化は、均一または不均一水素化触媒を使用して実施することができる。さらに、水素化をその場で、すなわち、適切な場合、メタセシス分解が行われた同じ反応容器で、分解したニトリルゴムの単離の必要性が全くなしに実施することが可能である。水素化触媒が単に反応容器に加えられる。
【0138】
用いられる触媒は、典型的にはロジウム、ルテニウムまたはチタンをベースとするが、白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルトもしくは銅を金属として、あるいは、好ましくは、金属化合物の形態でのどちらかでまた使用することができる(例えば、米国特許第3,700,637号明細書、独国特許出願公開第A−25 39 132号明細書、欧州特許出願公開第A−0 134 023号明細書、独国特許出願公開第A−35 41 689号明細書、独国特許出願公開第A−35 40 918号明細書、欧州特許出願公開第A−0 298 386号明細書、独国特許出願公開第A−35 29 252号明細書、独国特許出願公開第A−34 33 392号明細書、米国特許第4,464,515号明細書および米国特許第4,503,196号明細書を参照されたい)。
【0139】
均一相での水素のための好適な触媒および溶媒は、以下に記載され、そしてまた独国特許出願公開第A−25 39 132号明細書からおよび欧州特許出願公開第A−0 471 250号明細書によって公知である。
【0140】
選択的水素化は、例えば、ロジウム−またはルテニウム−含有触媒の存在下に達成することができる。例えば、一般式
(RB)MX
(式中、Mはルテニウムまたはロジウムであり、Rはそれぞれ同じかまたは異なり、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、C〜C15アリール基またはC〜C15アラルキル基である。Bはリン、ヒ素、硫黄またはスルホキシド基S=Oであり、Xは水素またはアニオン、好ましくはハロゲン、より好ましくは塩素もしくは臭素であり、lは2、3または4であり、mは2または3であり、nは1、2または3、好ましくは1または3である)の触媒を使用することができる。好ましい触媒は、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリド、およびトリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)クロリド、ならびにまた式((CP)RhHのテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウムヒドリド、そしてトリフェニルホスフィンの幾つかまたは全てがトリシクロヘキシルホスフィンで置き換えられた相当する化合物である。触媒は少量で使用することができる。ポリマーの重量を基準として、0.01〜1重量%の範囲の、好ましくは0.03〜0.5重量%の範囲の、より好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲の量が好適である。
【0141】
典型的には、触媒を、式RB(ここで、R、mおよびBは触媒について上に述べられた定義を有する)の配位子である助触媒と一緒に使用することが賢明である。好ましくは、mは3であり、Bはリンであり、R基は同じでもまたは異なってもよい。問題の助触媒は好ましくは、トリアルキル、トリシクロアルキル、トリアリール、トリアラルキル、ジアリール−モノアルキル、ジアリール−モノシクロアルキル、ジアルキル−モノアリール、ジアルキル−モノシクロアルキル、ジシクロアルキル−モノアルキルまたはジシクロアルキル−モノアリール基を有する。
【0142】
助触媒の例は、例えば、米国特許第4,631,315号明細書に見いだされる。好ましい助触媒はトリフェニルホスフィンである。助触媒は、水素化されるべきニトリルゴムの重量を基準として、好ましくは0.3〜5重量%の範囲の、好ましくは0.5〜4重量%の範囲の量で使用される。好ましくは、さらに、ロジウム含有触媒対助触媒の重量比は1:3〜1:55の範囲に、より好ましくは1:5〜1:45の範囲にある。水素化されるべきニトリルゴムの100重量部を基準として、好適には0.1〜33重量部の助触媒、好ましくは0.5〜20重量部、非常に好ましくは1〜5重量部、特に、水素化されるべきニトリルゴムの100重量部当たり2重量部超かつ5重量部未満の助触媒が使用される。
【0143】
この水素化の実際の実施は、米国特許第6,683,136号明細書から当業者に十分に知られている。それは典型的には、水素化されるべきニトリルゴムを、トルエンまたはモノクロロベンゼンなどの溶媒中、100〜150℃の範囲の温度でおよび50〜150バールの範囲の圧力で2〜10時間水素の作用にかけることによって成し遂げられる。
【0144】
本発明の目的のための水素化ニトリルゴムは、完全にまたは部分的に水素化されたニトリルゴムであると理解され、水素化は、対応して、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%の程度までの、初期ニトリルゴム中に存在する二重結合の完全なまたは部分的な反応であると理解される。
【0145】
不均一触媒は、使用されるとき、典型的には、パラジウムをベースとする担持触媒であり、これは例えば、チャコール、シリカ、炭酸カルシウム、または硫酸バリウム上に担持されている。
【0146】
本発明のニトリルゴムのメタセシスおよび/または水素化反応後に得られる非水素化または水素化ニトリルゴムは、本発明のニトリルゴムについてと同じ方法で加硫可能な組成物中へ組み込むことができ、加硫物およびかかる加硫物をベースとする成形品を製造するために使用することができる。
【実施例】
【0147】
I.ニトリルゴムA、B、C、D、EおよびFの製造
(本発明の実施例および比較例)
下の実施例シリーズに使用されるニトリルゴムA〜Fは、原料の全てがモノマー混合物の100重量部当たりの重量部で報告されている、表1に明記される処方および重合条件に従って製造した。
【0148】
【表1】

【0149】
ニトリルゴムは、攪拌機付きの5リットルのオートクレーブでバッチ式にて製造した。オートクレーブバッチのために、1.25kgのモノマー混合物および2.1kgの総量の水、ならびにまた、Fe(II)に対して等モル量の、EDTAをいずれの場合にも使用した。水の量のうち、1.9kgをEdenor HtiCTおよび水酸化ナトリウムと一緒に初期のオートクレーブ装入物に含め、窒素の流れでフラッシュした。その後、前記の安定化剤なしのモノマーと表1に示される量のt−DDM分子量調整剤とを添加し、反応器を閉じた。反応器の内容物が恒温になった後に、本発明による又は本発明によらない鉄(II)塩の水溶液(プレミックス溶液の形態での)およびパラ−メンタンヒドロペルオキシド(Trigonox NT50)の添加によって重合を開始させた。
【0150】
上記のプレミックス溶液は、400gの水への0.986gのFe(II)SO*7HOまたは0.845gのFe(II)Cl*4HO、および2.0gのRongalit Cを含有した。鉄化合物からの結晶水を計算すると、両プレミックス溶液のために使用された量はいずれの場合にも400gの水を基準として0.539gである。
【0151】
重合の経過は、転化率の重量測定によって監視した。表1に示される転化率に達したとき、ジエチルヒドロキシルアミンの水溶液の添加によって重合を停止させた。未反応モノマーおよび他の揮発性成分を水蒸気蒸留によって除去した。
【0152】
NBRラテックスのそれぞれを凝集させる前に、それをVulkanox(登録商標)BKFの50%分散液(NBR固形分を基準にして、0.3重量%のVulkanox(登録商標)BKF)と混ぜ合わせた。これに、凝集、生じた粉末の洗浄および乾燥が続いた。
【0153】
乾燥したNBRゴムは、ムーニー粘度、それらのMSR、ACN含有率、ガラス転移温度、ならびにそのオンセット点およびオフセット点で、ならびにまたGordon−Taylor関係式
=1.4564[ACN]−77.147
によって計算されるACN分布の差(ΔACN)(ΔACN=ACN(オフセット)−ACN(オンセット))で特徴づけられた。
【0154】
得られた固体ゴムの特性は次の通りであった(表2):
【0155】
【表2】

【0156】
表3は、本発明の方法で、特有の酸化還元系の使用によってニトリルゴムが得られ、それは本発明に従って使用されるものとは硫酸Fe(II)を使用することのみが異なる酸化還元系を用いて得られたニトリルゴムとは明確に異なることを明確に示している。この新規のニトリルゴムは、ポリマーでのより低いΔACN値から明確に明らかである、著しくより一様なモノマー分布を有する。本発明のニトリルゴムの顕著により高いMSR値は、さらに、本発明のニトリルゴムが著しくより低いレベルの長鎖分岐を有することを実証している。
【0157】
II.ニトリルゴムターポリマーGおよびHの製造
(本発明の実施例および比較例)
下の実施例シリーズに使用されるニトリルゴムGおよびHは、原料の全てがモノマー混合物の100重量部当たりの重量部で報告されている、表3に明記される基本処方に従って製造した。表3はまた、それぞれの重合条件を示す。
【0158】
【表3】

【0159】
得られた固体ゴムは、実施例シリーズA〜Fについて明記されたように測定された、表4に報告される特性を有する。
【0160】
【表4】

【0161】
表5はここで、特殊な塩化Fe(II)ベースの酸化還元系で得られたニトリルターポリマーがより一様なモノマー分布(ポリマーでのより低いΔACN値から明白な)ならびにまたより低いレベルの長鎖分岐(より高いMSR値から明らかな)を明確に有することを示す。比較例Gについては、2つのガラス転移温度が測定された:このことから、本発明とは異なるFe(II)(SO)の使用が一様なコポリマーをもたらさず、むしろそれらはモノマー分布の観点から非常に大きく異なるポリマーの形成をもたらすため、2つのTg値が測定されたと結論される。
【0162】
III.ニトリルゴムEおよびFの加硫物の製造
(本発明の実施例および比較例)
下に記載される方法に従って、加硫物V1およびV2を、ニトリルゴムEおよびFから製造した。混合物の成分は、ゴムの100部を基準としており、表5に報告される。
【0163】
【表5】

【0164】
混合物をBanburyミキサーで製造した。これは、表5に明記されるゴムおよび補助剤の全てを、120℃以下の最高温度で計4分間混合することによって行った。このために、ゴムをミキサーへ導入し、さらなる補助剤の全てを1分後に添加し、さらに2分後に反転を実施した。計4分後にゴムを混合物から排出した。得られた加硫物は、表6および7に報告される特性を有していた。
【0165】
MDRでの加硫プロフィルおよび関連分析データを、ASTM D5289−95に従ってMonsanto MDR 2000レオメーターで測定した。
【0166】
【表6】

【0167】
ポリマーFのより低い程度の分岐に対応して、最大トルクは、比較ポリマーEの加硫物と比べてわずかにより低いが、非常に良好なレベルでもある。
【0168】
本発明のポリマーFは、重要な加工変数を表す、著しく改善された流動特性で区別される。これは、相当するRheovulkameter測定値によって示すことができる。Rheovulkameterは、ゴム混合物の加工挙動(射出成形)を試験するのに一般に役立つ。
【0169】
V1およびV2について、表5に明記される組成の正確に秤量した混合物サンプルを、それぞれ、リザーバーへ導入し、ノズルを通して、加熱された試験金型中へピストンを用いて注入した。表7は、Rheovulkameter測定のパラメーターおよび結果を示す。
【0170】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化重合が、
(i)酸化剤として少なくとも1種のペルオキソ化合物と、
(ii)少なくとも1種の還元剤と、
(iii)塩化Fe(II)と
を含む酸化還元系を使用して実施されることを特徴とする、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および任意選択により場合によっては1種以上の他の共重合可能なモノマーの乳化重合によるニトリルゴムの製造方法。
【請求項2】
酸化剤(i)として過酸化水素、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ二リン酸塩、ヒドロペルオキシド、過酸、過酸エステル、過酸無水物または2つの有機部分を有する過酸化物が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化剤(i)としてペルオキソ二硫酸またはペルオキソ二リン酸のナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、過安息香酸t−ブチル、または過酢酸t−ブチルが使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
還元剤(ii)としてホルムアルデヒド−スルホキシル酸ナトリウム、ベンズアルデヒド−スルホキシル酸ナトリウム、還元糖、アスコルビン酸、スルフェナート、スルフィナート、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、二亜硫酸塩、糖類、尿素、チオ尿素、キサントゲン酸塩、チオキサントゲン酸塩、ヒドラジニウム塩、アミンおよびアミン誘導体、好ましくはアニリン、ジメチルアニリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、またはトリエタノールアミンが使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記乳化重合がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウム、またはリン酸三ナトリウムの存在下に実施される請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記乳化重合において、酸化剤(i)としてピナンヒドロペルオキシドまたはp−メンタンヒドロペルオキシドが、還元剤(ii)としてホルムアルデヒド−スルホキシル酸ナトリウムおよびFeCl*4HOの形態の塩化Fe(II)が使用され、さらにEDTAが使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記乳化重合に、(i)分子量低減のためのメタセシス反応、または(ii)分子量低減のためのメタセシス反応およびその後の水素化、または(iii)水素化のみ、が続く、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(i)酸化剤として少なくとも1種のペルオキソ化合物と、
(ii)少なくとも1種の還元剤と、
(iii)塩化Fe(II)と
を含む酸化還元系を使用する、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および任意選択により場合によっては1種以上の他の共重合可能なモノマーの乳化重合によって得られる、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、および任意選択により場合によっては1種以上の他の共重合可能なモノマーに由来する繰り返し単位を有するニトリルゴム。
【請求項9】
請求項8に記載のニトリルゴムから、それをさらにメタセシス反応にかけることによって得られるニトリルゴム。
【請求項10】
請求項8に記載のニトリルゴムから、それを水素化反応にかけることによって得られる水素化ニトリルゴム。
【請求項11】
請求項8に記載のニトリルゴムから、それをメタセシス反応およびその後の水素化にかけることによって得られる水素化ニトリルゴム。
【請求項12】
請求項8もしくは9に記載のニトリルゴムまたは請求項10もしくは11に記載の水素化ニトリルゴムと、少なくとも1種の架橋剤とを含む加硫可能な混合物。
【請求項13】
少なくとも1種の充填剤をさらに含む、請求項12に記載の加硫可能な混合物。
【請求項14】
請求項12に記載の加硫可能な混合物が、好ましくは温度の上昇による又は光化学的活性化による架橋にかけられることを特徴とする加硫物の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法によって得られる加硫物。

【公開番号】特開2011−99100(P2011−99100A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−246038(P2010−246038)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】