説明

ニーディングディスクセグメント及び2軸押出機

【課題】 従来の中立ニーディングディスクセグメントより高い混練度を得ることができる新たなニーディングディスクセグメントを提供する。
【解決手段】本発明のニーディングディスクセグメント1は、材料を下流側に送りながら混練する混練スクリュ3に設けられた2条のニーディングディスクを複数組み合わせてなり、上流側に位置する第1ニーディングディスクD1と、第1ニーディングディスクD1の下流側に連続して設けられると共に第1ニーディングディスクD1に対して鋭角の位相差δを有するように取り付けられた第2ニーディングディスクD2とからなる組ディスクを混練スクリュ3の軸方向に連続して有し、連続する2組の組ディスクにおけるそれぞれの第1ニーディングディスクD1は180°の位相差を有していることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニーディングディスクセグメント及びこのニーディングディスクセグメントを備えた混練スクリュを有する2軸押出機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、2軸押出機においては、バレル内に母材となる高分子樹脂のペレットや粉体状の添加物を供給し、バレル内に挿通された一対の混練スクリュによってを両者を混練しながら下流側へ送ることで、プラスチックコンパウンド等の複合樹脂材料が製造されている。混練スクリュは、中心に設けられるスプライン軸と、このスプライン軸により貫通状に固定される複数のセグメントとを備えている。混練スクリュを構成するセグメントには複数の種類が知られており、混練スクリュではこれらのセグメントが軸方向に組み合わされて用途や材料に適合した混練が可能となっている。
【0003】
上述したセグメントの中でも、特に混練に適したセグメントは混練セグメントと呼ばれる。混練セグメントとしてはロータセグメントやニーディングディスクセグメントなどが知られており、特に高い混練度を要求される場合には混練能力の高いニーディングディスクセグメントが用いられる。
ニーディングディスクセグメントは、混練スクリュの軸方向と垂直な断面が略楕円形状に形成された板状のニーディングディスクを軸方向に複数連続して並べて構成されている。ニーディングディスクセグメントでは、混練スクリュの回転に伴ってニーディングディスクが回転し、ニーディングディスクとバレル内壁との間に材料が導かれて材料が混練される。
【0004】
ニーディングディスクセグメントには、ニーディングディスクの取り付け方(スプライン軸に対する取り付け角度)により2種類のセグメントが知られている。ひとつは混練スクリュの逆回転方向に30°〜60°の所定ピッチで位相差をあけて複数のニーディングディスクが連続して取り付けられた送りニーディングディスクセグメントであり、もうひとつは90°ピッチの位相差でニーディングディスクが連続して取り付けられた中立ニーディングディスクセグメントである。
送りニーディングディスクセグメントはニーディングディスクが軸方向にねじれた配置で並んでいるため材料に対する送り能力を有しているが、中立ニーディングディスクセグメントは材料に対する送り能力が殆どない。それゆえ、中立ニーディングディスクセグメントでは材料が混練部にとどまって混練が十分に行われやすく、送りニーディングディスクセグメントに比べて混練度を高めることができる。
【0005】
上述のような中立ニーディングディスクセグメントとしては、例えば特許文献1に示すようなものが知られている。特許文献1の中立ニーディングディスクセグメントは、混練スクリュの軸方向の中途部に配備されるものであり、軸方向に連続する5枚のニーディングディスクより構成されている。これら5枚のニーディングディスクは隣り合うもの同士が混練スクリュの軸中心に対して90°で交差するように配備されており、高い混練能力を発揮できるようになっている。
【特許文献1】特開2003−245534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年は混練される材料の種類が多くなり、押出機には従来よりも高い混練能力が求められている。
特許文献1の中立ニーディングディスクセグメントも上述のように高い混練能力を備えているが、これらの中立ニーディングディスクセグメントを用いて得られる混練度でも近年要求されている混練度に対しては十分ではない。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、従来の中立ニーディングディスクセグメントより高い混練度を得ることができる新たなニーディングディスクセグメント及び2軸押出機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明のニーディングディスクセグメントは、材料を下流側に送りながら混練する混練スクリュに設けられた2条のニーディングディスクを複数組み合わせてなるニーディングディスクセグメントであって、
前記ニーディングディスクセグメントは、上流側に位置する第1ニーディングディスクと、当該第1ニーディングディスクの下流側に連続して設けられると共に前記第1ニーディングディスクに対して鋭角の位相差δを有するように取り付けられた第2ニーディングディスクとからなる組ディスクを、前記混練スクリュの軸方向に連続して複数有し、
前記連続する複数の組ディスクにおけるそれぞれの第1ニーディングディスクは180°の位相差を有していることを特徴とするものである。
【0008】
本発明者らは、中立ニーディングディスクセグメントを軸垂直方向に沿った断面で見るとニーディングディスク間には大きな隙間があり、混練時に材料が次にくるニーディングディスクによって十分に混練されないまま下流側に移動しやすい(抜け落ちやすい)ため、混練度を十分に高くするには材料が移動するまでに集中的に混練する必要があるのではないかと考えた。そして、上述した隙間を近づけるようにニーディングディスクを配備することで混練度が向上することを知見して、本発明を完成するに至ったのである。
それゆえ、上述したように第1ニーディングディスクに対して鋭角の位相差δを有する第2ニーディングディスクを第1ニーディングディスク間の隙間を補間するように設けた組ディスクを混練スクリュの軸方向に連続して設けることによって、隙間からの材料の抜け落ちを抑制して集中的に混練することで従来の中立ニーディングディスクセグメントより高い混練度を得ることができる。
【0009】
なお、上述したニーディングディスクセグメントは、連続する複数の組ディスクにおけるそれぞれの第1ニーディングディスクが180°の位相差を有するという特徴、言い替えれば、前記連続する複数の組ディスクにおける下流側の組ディスクの第1ニーディングディスクが上流側の組ディスクの第2ニーディングディスクに対して(180−δ)°の位相差を有する特徴を備えている。それゆえ、ニーディングディスクが等しい位相差で(均等な隙間で)連続して並ぶことがなく、且つ材料に対する送り能力が殆ど生じない。そのため、これらのニーディングディスクセグメントでは材料が混練部にとどまり且つ集中的に混練され易くなり、混練が十分に行われて混練度を飛躍的に向上させることができる。
【0010】
また、前記位相差は30〜68°とされているのが好ましく、これによって材料が滞留し易く、その抜け落ちを確実に防止して混練度を高めることが可能となる。
さらに、上述したニーディングディスクセグメントを有する混練スクリュが同方向噛合型で2軸備えられている2軸押出機では、高い混練度を得ることが容易となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のニーディングディスクセグメントにより、従来の中立ニーディングディスクセグメントより高い混練度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のニーディングディスクセグメント1の第1実施形態を図面に基づき説明する。
<第1実施形態>
図1の模式図に示されるように、第1実施形態のニーディングディスクセグメント1は同方向噛合型の2軸押出機2(以降では、単に押出機2ということがある。)の混練スクリュ3に設けられている。2軸押出機2は、空洞状のバレル4とこのバレル4の内部を軸方向に沿って挿通するように設けられた混練スクリュ3とを備えている。それゆえ押出機2では、バレル4内に材料を供給して混練スクリュ3を回転させることで、バレル4内の材料が混練され下流側に送られる。
【0013】
なお、以降の説明において、図1の紙面の左側を押出機2を説明する際の上流側とし、紙面の右側を下流側とする。また、図1の紙面の左右方向を押出機2を説明する際の軸方向とする。さらに、軸方向に対して垂直な方向を押出機2を説明する際の軸垂直方向という。
バレル4は、軸方向に沿って長い筒状に形成されており、その内部は断面めがね形状の空洞となっている。バレル4は、軸方向の上流側に材料供給口5を有している。この材料供給口5は、バレル4の内外を貫通するように形成されており、材料をバレル4の内部に供給可能となっている。また、バレル4には電気ヒーターや加熱した油を用いた加熱装置(図示略)が備えられており、材料供給口5から供給された材料を溶融状態または半溶融状態に加熱可能となっている。
【0014】
なお、本実施形態では、材料供給口5に材料と添加剤などを供給できるホッパ6及び混練された材料から揮発するガスをバレル4外に排出する開口部8が設けられたものを例示する。
混練スクリュ3はめがね形状とされたバレル4の空洞内部を挿通するように左右一対設けられている。一対の混練スクリュ3、3のそれぞれは、軸方向に長いスプライン軸(図示略)と、このスプライン軸により貫通状(串刺し状)に固定される複数のセグメントとで構成されている。
【0015】
混練スクリュ3を構成するセグメントには様々な種類のものがあり、混練スクリュ3では複数種のセグメントをパターンを変えて組み合わすことで材料を送る送り部10や材料を混練する混練部11が軸方向の所定の範囲に亘って形成される。
図1に示されるように、本実施形態の混練スクリュ3においては、上流側から下流側にかけて、供給された材料を溶融しながら下流側に送る送り部10と、送り部10から送られてきた材料を混練する混練部11と、混練部11で混練された材料を下流側に送り出す押出部12とが設けられている。
【0016】
送り部10は軸方向に配備された複数のスクリュセグメント13で構成されている。スクリュセグメント13は、軸方向に螺旋状に捩れたスクリュフライト(図示略)を備えており、材料を上流側から下流側に送っている。
押出部12も、送り部10同様に螺旋状に捩れたスクリュフライトを備えたスクリュセグメント13を軸方向に複数有している。押出部12のスクリュセグメント13は、セグメント長が下流に位置するスクリュセグメント13ほど小さくなるように形成されており、下流側に行くほど材料の移動速度を低くして材料を加圧できるようになっている。
【0017】
混練部11は、複数のロータセグメント15とニーディングディスクセグメント1とで構成されている。なお、本実施形態では、混練部が6個のロータセグメント15と1個のニーディングディスクセグメント1とで構成されたものを例示する。
ロータセグメント15は、軸方向に螺旋状に捩れた混練用フライトを複数(本実施形態では2条)有しており、この混練用フライトで材料を剪断しながら下流側に押し出せるようになっている。このロータセグメント15の下流側にはニーディングディスクセグメント1が設けられている。
【0018】
図2は本実施形態のニーディングディスクセグメント1に対して、これを構成するニーディングディスク16〜20のそれぞれを示した図である。図2(a)はニーディングディスクセグメント1を混練スクリュ3の軸垂直方向から見た正面図であり、図2(b)は各ニーディングディスクを混練スクリュ3の上流側から見た断面図である。なお、図2(b)の[A]〜[E]はニーディングディスク16〜20の断面である。
図2(a)に示されるように、ニーディングディスクセグメント1は上流側のロータセグメント15と下流側のスクリュセグメント13の間に配備されている。
【0019】
図2(b)に示されるように、ニーディングディスク16〜20は、いずれも軸垂直方向の断面が略楕円形状に形成された板部材であり、この板部材の中央側にはスプライン軸を挿通可能な挿通孔21が形成されている。ニーディングディスク16〜20は、挿通孔21の内周面に複数の歯が形成されており、スプライン軸と係合して一体に回転できるようになっている。また、ニーディングディスクの頂部のうち回転中心から最も離れたディスクの両端部にはそれぞれチップ部22が形成されており、これらのチップ部22、22がバレル4の内周面をかすめるように回転することでバレル4に付着した材料を残さず掻き取って混練できるようになっている。
【0020】
ニーディングディスクセグメント1を構成する5枚のニーディングディスク16〜20は、スプライン軸に対する取り付け角度により2種類に分けられる。一つは上流側に配備される第1ニーディングディスクD1であり、もう一つは第1ニーディングディスクD1に対して混練スクリュ3の回転方向とは逆方向に鋭角の位相差δを有すると共に第1ニーディングディスクD1の下流側に取り付けられている第2ニーディングディスクD2である。すなわち、本実施形態では、ニーディングディスク16、18、20が第1ニーディングディスクD1であり、ニーディングディスク17、19が第2ニーディングディスクD2となっている。
【0021】
これらの第1ニーディングディスクD1と第2ニーディングディスクD2とは互いに軸方向に交互に配備されており、第1ニーディングディスクD1と第2ニーディングディスクD2とで一組の組ディスクを構成している。本実施形態では、ニーディングディスクセグメント1は軸方向に連続して配備された2組の組ディスク25、26とこれらの下流側に1枚だけ設けられる第1ニーディングディスクD1とで構成されている。すなわち、上流側の組ディスク25が2枚一組のニーディングディスク16、17により、また上流側の組ディスク26が2枚一組のニーディングディスク18、19により構成されている。
【0022】
組ディスク25は、第1ニーディングディスクD1と第2ニーディングディスクD2との位相差が混練スクリュ3の逆回転方向に鋭角なδ°となっており、好ましくはこの位相差δは30〜68°(本実施形態では30°)の範囲の値とされている。組ディスク25を位相差δが30〜68°の範囲の値となる第1ニーディングディスクD1と第2ニーディングディスクD2とで構成することにより、組ディスク25を回転させた際には第1ニーディングディスクD1と滞留させつつ集中的に混練する第2ニーディングディスクD2とで材料を捉えることができ、材料を滞留させつつ集中的に混練することで高い混練度を実現することが可能となる。
【0023】
組ディスク25は、上流側の組ディスク25の第2ニーディングディスクD2と下流側の組ディスク26の第1ニーディングディスクD1との位相差が混練スクリュ3の逆回転方向に(180−δ)°(本実施形態では150°)となっている。言い替えれば、軸方向に隣接した組ディスク25、26間での第1ニーディングディスクD1同士の位相差及び第2ニーディングディスクD2同士の位相差はいずれも180°となり、見かけ上では位相差を有さない構成となっている。また、組ディスクを回転させた際には第1ニーディングディスクD1の後に第2ニーディングディスクD2で材料を確実に捉えることができる。それゆえ、第1ニーディングディスクD1と第2ニーディングディスクD2との位相差δを30〜68°と小さくしても、材料に対して送り機能が生じることが殆どなく、材料を混練部11に止めて混練を十分に行うことができ、高い混練度を実現することが可能となる。
【0024】
組ディスク25は、混練部11に少なくとも複数(2組以上)設けられるのが好ましい。組ディスク25を少なくとも複数設けることで、材料をより確実に混練することが可能となり、高い混練度を実現することが可能となるからである。
なお、図4および図5から分かるように、特に滞留時間を伸ばしたい場合や分配混合性を高めたい場合には、位相差δを30°以上80°未満に設定すれば良く、また図6から分かるように、特に分散混合を高めたい場合には位相差δを10°以上68°未満に設定すればよい。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例を用いて本発明を説明する。
図3に示すように、実施例及び比較例は、ニーディングディスクセグメント1における第1ニーディングディスクD1と第2ニーディングディスクD2との位相差δが混練度に与える影響をコンピュータシミュレーションにより計算したものである。
シミュレーションに用いたニーディングディスクセグメント1は、軸方向に沿って軸径20mmのスプライン軸を備えており、このスプライン軸には上流側から5mmの助走長をあけて5枚のニーディングディスク16〜20が連続して設けられている。これら5枚のニーディングディスク16〜20の配置は、上流側から第1ニーディングディスクD1、第2ニーディングディスクD2、第1ニーディングディスクD1、第2ニーディングディスクD2、第1ニーディングディスクD1となっており、各ディスクはスプライン軸の軸心回りに混練スクリュ3の逆回転方向に向かって位相差をそれぞれ備えている。この位相差は、図2に示すように、上流側に隣接するニーディングディスクを基準としてδ°、(180−δ)°、δ°、(180−δ)°となっている。
【0026】
また、上述したニーディングディスクセグメント1を用いた混練条件は表1に示すように設定した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の実験条件に従って、以下に示す評価指標を計算し評価を行った。
なお、評価指標を計算する際には、材料が溶融状態で非ニュートン流体と扱えるため、式(1)に示すカロー(Carreau)モデル(出典:Pierre J.Carreau、Daniel C.R.De Kee、Raj P.Chhabra著、「Rheology of Polymeric Systems」、Hanser Pulisher出版、1997年、39頁)を用いて各状態での材料の粘度η(mPa・sec)を計算した。
【0029】
【数1】

【0030】
ここで、η0はせん断速度がゼロのときの粘度であり、本実施例においては8100mPa・secで与えられる。η∞はせん断速度が無限大のときの粘度であり、本実施例においては1mPa・secで与えられる。さらに、λは通常であれば0.6〜1とされる時定数であり、本実施例ではλ=1としている。nは、べき乗則の定数であり、本実施例ではn=0.385で与えられる。
混練度は、粒子追跡法により評価した。粒子追跡法は、材料(樹脂)の流れにのって移動する材料粒子の受けたひずみ速度、応力などの履歴によって、混練度を評価する方法である。また、混合には分散混合と分配混合がある。本実施例では、分散混合はエネルギにより、また分配混合は対数伸びにより評価した。
【0031】
評価指標及び評価結果を以下の(1)〜(3)に示す。
(1)滞留時間
ニーディングディスクセグメント1の上流側断面にランダムに1000個の材料粒子を配置し、すべての材料粒子について、流動解析による速度にのってニーディングディスクセグメント1を通過し終わるまでの時間(滞留時間)を計算により求め、その平均値を平均滞留時間とした。
図4は、位相差δを10°〜90°の範囲で変化させた場合のそれぞれについて滞留時間を求めたものである。
【0032】
図4より、位相差δ=30°〜70°では滞留時間が位相差δ=90°の中立ニーディングディスクセグメントより長くなっており、材料が混練部11にとどまりやすくなっていることが分かる。一方、位相差δ=10°〜20°又は位相差δ=80°では、滞留時間が位相差δ=90°の中立ニーディングディスクセグメントと同等か短くなっており、材料が混練部11から短時間で下流側に流れていることが分かる。
さらに、中立ニーディングディスクセグメントとの対比を明確に行うべく、δ=90°の場合の滞留時間を用いて正規化した値(除した値)を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2においては、滞留時間が1.0より大きい場合は、従来の中立ニーディングディスクセグメントより材料が滞留しやすくなっていると判断され、混練度が高くなると判断される。一方、滞留時間が1.0より小さい場合は、従来の中立ニーディングディスクセグメントより材料が下流側に流れやすくなっていると判断され、混練度が低くなると判断される。
それゆえ、表2の結果に鑑みれば、位相差δを30°〜70°としたニーディングディスクセグメント1を用いることで、混練度の評価指標の一つである滞留時間を従来の中立ニーディングディスクセグメントより長くでき、混練度を向上させることができると判断される。
(2)対数伸び
伸び率は、文献(出典:J. M. Ottino著、「The Kinematics of Mixing: Stretching, Chaos, and Transport」、Cambridge University Press出版、1989年)に記載された定義を参考にして、ニーディングディスクセグメント1の上流側断面にランダムに仮想的な線要素を1000個配置し、すべての線要素(材料粒子)について流動解析による速度にのって、ニーディングディスクセグメント1を通過し終わるまでの線要素の伸び率を計算により求め、その対数の平均値を平均対数伸び率とした。
【0035】
図5は、位相差δを10°〜90°の範囲で変化させた場合のそれぞれについて対数伸びを求めたものである。
図5より、位相差δ=30°〜80°では対数伸びが位相差δ=90°の従来の中立ニーディングディスクセグメントより大きくなっており、混練時に材料が大きく伸びた(変位した)ことが分かる。一方、位相差δ=10°〜20°では、対数伸びが位相差δ=90°の従来の中立ニーディングディスクセグメントより小さくなっており、混練時に材料があまり伸びなかった(変位しなかった)ことが分かる。
【0036】
さらに、従来の中立ニーディングディスクセグメントとの対比を明確に行うべく、δ=90°の場合の対数伸びを用いて正規化した値(除した値)を表2に示す。
表2においては、対数伸びが1.0より大きい場合は、従来の中立ニーディングディスクセグメントを用いた場合より材料の変形量(変位量)が多いと判断され、混練度が高くなると判断される。一方、対数伸びが1.0より小さい場合は、従来の中立ニーディングディスクセグメントを用いた場合より材料の変形量(変位量)が小さいと判断され、混練度が低くなると判断される。
【0037】
それゆえ、表2の結果に鑑みれば、位相差δを30°〜80°としたニーディングディスクセグメント1を用いることで、混練時に材料に大きく変位させて混練度を従来の中立ニーディングディスクセグメントより高めることができると判断される。
(3)エネルギ
ニーディングディスクセグメント1の上流側断面にランダムに1000個の材料粒子を配置し、すべての材料粒子について、流動解析による速度にのってニーディングディスクセグメント1を通過し終わるまでのひずみ速度と応力の積の時間積分値を計算により求めてエネルギとした。
【0038】
図6は、位相差δを10°〜90°の範囲で変化させた場合のそれぞれについてエネルギを求めたものである。
図6より、位相差δ=10°〜68°ではエネルギが位相差δ=90°の従来の中立ニーディングディスクセグメントより高くなっており、混練時に材料に大きなエネルギが加わったことが分かる。一方、位相差δ=80°では、対数伸びが位相差δ=90°の従来の中立ニーディングディスクセグメントより小さくなっており、混練時に材料にあまりエネルギが加わらなかったことが分かる。
【0039】
さらに、従来の中立ニーディングディスクセグメントとの対比を明確に行うべく、δ=90°の場合のエネルギを用いて正規化した値(除した値)を表2に示す。
表2においては、エネルギが1.0より大きい場合は、従来の中立ニーディングディスクセグメントを用いた場合より材料に多大なエネルギが加わったものと判断され、混練度が高くなると判断される。一方、エネルギが1.0より小さい場合は、従来の中立ニーディングディスクセグメントを用いた場合より材料に加わったエネルギが小さいと判断され、混練度が低くなると判断される。
【0040】
それゆえ、表2の結果に鑑みれば、位相差δを68°以下としたニーディングディスクセグメント1を用いることで、混練時に材料に大きなエネルギを与えて混練度を中立ニーディングディスクセグメントより高めることができると判断される。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態は2軸完全噛合型の押出機2のものであった。しかし、本発明のニーディングディスクセグメント1は単軸または3軸以上の押出機2や完全噛合型でない2軸押出機2、あるいは連続混練機にも用いることができる。
【0041】
なお、組ディスクを連続して設けるにあたり、組ディスク同士の間に送り機能を有さないセグメントやスペーサをさらに設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1実施形態のニーディングディスクセグメントを有する押出機の正面図である。
【図2】(a)はニーディングディスクセグメントの拡大正面図である。(b)はニーディングディスクセグメントを構成するニーディングディスクの断面図である。
【図3】(a)は位相差が30°、(b)は位相差が60°のニーディングディスクセグメントの斜視図である。また、(c)は中立ニーディングディスクセグメントの斜視図である。
【図4】位相差δに対する滞留時間の変化を示す図である。
【図5】位相差δに対する対数伸びの変化を示す図である。
【図6】位相差δに対するエネルギの変化を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ニーディングディスクセグメント
2 押出機
3 混練スクリュ
4 バレル
5 材料供給口
6 ホッパ
8 開口部
10 送り部
11 混練部
12 押出部
13 スクリュセグメント
15 ロータセグメント
16〜20 ニーディングディスク
21 挿通孔
22 チップ部
D1 第1ニーディングディスク
D2 第2ニーディングディスク
25 組ディスク(上流側)
26 組ディスク(下流側)
δ 位相差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を下流側に送りながら混練する混練スクリュに設けられた2条のニーディングディスクを複数組み合わせてなるニーディングディスクセグメントであって、
前記ニーディングディスクセグメントは、上流側に位置する第1ニーディングディスクと、当該第1ニーディングディスクの下流側に連続して設けられると共に前記第1ニーディングディスクに対して鋭角の位相差δを有するように取り付けられた第2ニーディングディスクとからなる組ディスクを、前記混練スクリュの軸方向に連続して複数有し、
前記連続する複数の組ディスクにおけるそれぞれの第1ニーディングディスクは180°の位相差を有していることを特徴とするニーディングディスクセグメント。
【請求項2】
材料を下流側に送りながら混練する混練スクリュに設けられた2条のニーディングディスクを複数組み合わせてなるニーディングディスクセグメントであって、
前記ニーディングディスクセグメントは、上流側に位置する第1ニーディングディスクと、当該第1ニーディングディスクの下流側に連続して設けられると共に前記第1ニーディングディスクに対して鋭角の位相差δを有するように取り付けられた第2ニーディングディスクとからなる組ディスクを、前記混練スクリュの軸方向に連続して複数有し、
前記連続する複数の組ディスクにおける下流側の組ディスクの第1ニーディングディスクが上流側の組ディスクの第2ニーディングディスクに対して(180−δ)°の位相差を有していることを特徴とするニーディングディスクセグメント。
【請求項3】
前記位相差δが30〜68°とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のニーディングディスクセグメント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のニーディングディスクセグメントを有する混練スクリュが同方向噛合型で2軸備えられていることを特徴とする2軸押出機。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−196303(P2009−196303A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42896(P2008−42896)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】